JP2012214880A - 排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼および排熱回収器 - Google Patents

排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼および排熱回収器 Download PDF

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Abstract

【課題】排ガス凝縮水に対する耐食性を備えた排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】質量%でC:0.03%以下、N:0.05%以下、Si:0.1%を超え1%以下、Mn:0.02%以上1.2%以下、Cr:17%以上23%以下、Al:0.002%以上0.5%以下、Ni、Cu、Moのうち2種または3種をNi:0.25%以上1.5%以下、Cu:0.25%以上1%以下、Mo:0.5%以上2%以下、Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面にCr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるフェライト系ステンレス鋼とする。8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6(式1)、Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5(式2)
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車の排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼および排熱回収器に関する。なかでも、熱交換部がろう付け接合にて組み立てられる排熱回収器に好適なフェライト系ステンレス鋼に関する。
近年、自動車分野においては、環境問題に対する意識の高まりから、排ガス規制がより強化されると共に、炭酸ガス排出抑制に向けた取り組みが進められている。また、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料といった燃料面からの取り組みに加え、より一層の軽量化や、EGR、DPF(Diesel Particulate Filter)、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムといった排ガス処理装置を設置するといった取り組みが実施されている。
そのなかで、ハイブリッド車を主体に排気熱を熱回収する熱交換器、いわゆる排熱回収器を取り付けて燃費向上を図る取り組みもなされている。排熱回収器は、排ガスでエンジン冷却水を加熱してヒータやエンジンの暖機に活用するシステムであり、排気熱再循環システムとも呼ばれる。これにより、ハイブリッド車では、コールドスタートからエンジンストップまでの時間が短縮され、特に冬季において、燃費向上に寄与している。
排熱回収器の熱交換部には、良好な熱効率が要求され熱伝導性が良好であるとともに、排ガスと接するため排ガス凝縮水に対して優れた耐食性が要求される。一方、排熱回収器の外面についても、塩害に対する優れた耐食性が要求される。こうした耐食性は、マフラを主体とした排気系下流部材にも必要であるが、冷却水の漏れという重大な事故につながる可能性のある排熱回収器には、より一層の安全性が求められ、より優れた耐食性が要求される。
従来、マフラを主体とした排気系下流部材のなかで、特に耐食性が求められる部位には、SUS430LX、SUS436J1L、SUS436Lといった、17%以上のCrを含むフェライト系ステンレス鋼が用いられているが、排熱回収器の材料にはこれらと同等以上の耐食性が求められる。
また、熱交換部の構造は複雑なことから、溶接接合により組み立てられる場合もあるが、ろう付け接合により組み立てられる場合もある。ろう付け接合により組み立てられる熱交換部の材料には、良好なろう付け性が必要となる。さらに、排熱回収器は、床下の触媒コンバータ下流に設置されることが多いため入側の排ガスは高温化すると共に、熱交換により排ガスは強制冷却されるため、良好な熱疲労特性も必要となる。
特許文献1には、C:0.020%以下、Si:0.05〜0.70%、Mn:0.05〜0.70%、P:0.045%以下、S:0.005%以下、Ni:0.70%以下、Cr:18.00〜25.50%、Cu:0.70%以下、Mo:2/(Cr−17.00)〜2.50%、N:0.020%以下、Ti:0.50%以下及びNb:0.50%以下の1種または2種以上でかつ(Ti+Nb)≧(7×(C+N)+0.05)であって、残部がFe及び不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼を素材として構成された自動車排熱回収装置が開示されている。特許文献1に記載のフェライト系ステンレス鋼では、18%以上のCrにMoを添加することで、排ガス凝縮水に対する耐食性を確保している。
特許文献2には、C:0.05%以下、Si:0.02〜1.0%、Mn:0.5%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、Cr:20〜25%、Cu:0.3〜1.0%、Ni:0.1〜3.0%、Nb:0.2〜0.6%、N:0.05%以下を含有し、5μm以下のNb炭窒化物が存在し、かつ鋼板の表面粗度Raが0.4μm以下である耐隙間腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。特許文献2に記載のフェライト系ステンレス鋼板では、20%以上のCrに、NiとCuを複合添加して耐隙間腐食性を確保している。
特許文献3には、C:0.015%以下、Si:2.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.045%以下、S:0.010%以下、Cr:16〜25%、Nb:0.05〜0.2%、Ti:0.05〜0.5%、N:0.025%以下、Al:0.02〜1.0%、さらにNi:0.1〜2.0%及びCu:0.1〜1.0%の1種以上をNi+Cuで0.6%以上含むフェライト系ステンレス鋼を素材として構成された自動車排ガス流路部材が開示されている。特許文献3に記載のフェライト系ステンレス鋼では、適量のNiおよびCuをあわせて添加することで、高価なMoを使用することなく、安価でかつ良好な耐食性を実現している。
特許文献4には、Cr:16〜30%、Ni:7〜20%、C:0.08%以下、N:0.15%以下、Mn:0.1〜3%、S:0.008%以下、Si:0.1〜5%を含み、Cr+1.5Si≧21および0.009Ni+0.014Mo+0.005Cu−(0.085Si+0.008Cr+0.003Mn)≦−0.25を満足する高温排熱回収装置のヒートパイプ用ステンレス鋼が開示されている。特許文献4に記載の技術は、排熱と冷却水との間で熱交換する熱交換器ではなく、ヒートパイプという熱伝達手段を用いた排熱回収器に関するものである。特許文献4にはヒートパイプに好適なオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
特開2009−228036号公報 特開2009−7663号公報 特開2007−92163号公報 特開2010−24527号公報
排熱回収器には、17%以上のCrを含有するフェライト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性が要求される。しかしながら、従来の17%以上のCrを含有するフェライト系ステンレス鋼では、ろう付け後の耐食性については考慮されていなかった。このため、既存のフェライト系ステンレス鋼を排熱回収器に適用した場合には、ろう付け部の金属組織変化や鋼表面の酸化の進行によって、ろう付け後の耐食性が十分確保できなかった。
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、特にろう付け接合により組み立てられる熱交換部に好適に用いることができ、排ガス凝縮水に対する優れた耐食性を備えた排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
〔1〕質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Si:0.1%を超え、1%以下、Mn:0.02%以上、1.2%以下、Cr:17%以上、23%以下、 Al:0.002%以上、0.5%以下、Ni、Cu、Moのうち2種または3種を Ni:0.25%以上、1.5%以下、Cu:0.25%以上、1%以下、Mo:0.5%以上、2%以下、Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであることを特徴とする排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti−8(C+N)は0以上である。
〔2〕 質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Si:0.1%を超え、1%以下、Mn:0.02%以上、1.2%以下、Cr:17%以上、23%以下、Al:0.002%以上、0.5%以下、Ni、Cu、Moのうち2種または3種をNi:0.25%以上、1.5%以下、Cu:0.25%以上、1%以下、Mo:0.5%以上、2%以下、Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、Nを含む10−2〜1torrの真空雰囲気もしくはH雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであることを特徴とする排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti−8(C+N)は0以上である。
〔3〕 更に、質量%で、V:0.5%以下、W:1%以下、B:0.005%以下、Zr:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Co:0.2%以下、Mg:0.002%以下、Ca:0.002%以下、REM:0.01%以下のうち何れか1種又は2種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]記載の排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
〔4〕 ろう付け接合により部材が組み立てられてなる熱交換部を備え、前記熱交換部が、質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Si:0.1%を超え、1%以下、Mn:0.02%以上、1.2%以下、Cr:17%以上、23%以下、Al:0.002%以上、0.5%以下、Ni、Cu、Moのうち2種または3種をNi:0.25%以上、1.5%以下、Cu:0.25%以上、1%以下、Mo:0.5%以上、2%以下、Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されたフェライト系ステンレス鋼からなるものであることを特徴とする排熱回収器。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti−8(C+N)は0以上である。
[5] 前記フェライト系ステンレス鋼が、更に、質量%で、V:0.5%以下、W:1%以下、B:0.005%以下、Zr:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Co:0.2%以下、Mg:0.002%以下、Ca:0.002%以下、REM:0.01%以下のうち何れか1種又は2種以上を含有することを特徴とする[4]記載の排熱回収器。
以上のように、本発明によれば、ろう付け接合により組み立てられる熱交換部用としてろう付け後の排ガス凝縮水に対する耐食性を備えた排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼を提供することができる。本発明のフェライト系ステンレス鋼は、排熱回収器部材、特に熱交換部材として好適に用いることが可能である。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
排熱回収器にフェライト系ステンレス鋼を適用する際に考慮すべき重要な腐食損傷は、マフラを主体とした排気系下流部材と同様、孔食、すきま腐食に起因する耐孔あき性である。マフラを主体とした排気系下流部材と同様、排熱回収器においても孔あきによる内部流体の漏れを防止する必要がある。さらに、排熱回収器では、排ガス以外に冷却水の漏れを防止しなければならず、マフラ等に比べ優れた耐孔あき性が必要とされる。また、熱効率向上を目的として熱交換部分を薄肉化するニーズがあり、この点からも優れた耐孔あき性が求められる。
排熱回収器の熱交換部分のうち排ガス側には、排ガス凝縮水に対する耐食性が要求される。燃料の多様化に伴い排ガス凝縮水も多様化しており、耐食性に大きな影響を及ぼす塩化物イオン、硫酸系イオン(SO 2−、SO 2−)が増加したり、pHが中性から弱酸性に変化したりして腐食環境が苛酷になる場合がある。
こうした背景を鑑み、本発明者らは、排ガス凝縮水環境におけるステンレス鋼の耐孔あき性向上について、鋭意検討した。
その結果、孔食、すきま腐食に起因する耐孔あき性を向上させ、優れた耐食性を有するステンレス鋼を得るには、以下の(1)(2)を組み合わせることが必要であることを知見した。
(1)Ni、Cu、Moを含有することが有効であり、これらを2種以上複合して含有させること。
(2)ろう付け時に、表面に形成される皮膜が、Cr、Nb、Si、Al、Tiをカチオン分率の合計{(酸化皮膜に含まれるCrとNbとSiとAlとTiの含有量の合計)/(酸化皮膜に含まれるカチオン元素全ての含有量)×100(%)}で40%以上含む酸化皮膜であること。
ステンレス鋼の孔食、すきま腐食に起因する耐孔あき性を向上させるには、腐食の発生と成長という両方の側面から改善を図るのが効果的である。
まず、腐食の発生抑制に対しては、Crを含有することが有効である。ステンレス鋼にCrを適量含有させることによって表面にCrに富む不働態皮膜を形成する。
さらに、真空中あるいは水素雰囲気中といった酸素分圧の低い環境で行われるろう付け時には、鋼材中に含まれるNb、Si、Alといった元素が不働態皮膜中に濃化し、表面にCr、Si、Nb、Al、Tiに富む酸化皮膜が形成される。本発明者は、ステンレス鋼の表面に形成された酸化皮膜が、これらの元素をカチオン分率の合計で40%以上含有することで、排ガス凝縮水環境での耐孔あき性のうち、特に腐食発生に有効に作用することを知見した。
こうした酸化皮膜を形成するには、鋼材の化学組成として、以下に示す(式2)を満たす必要がある。
Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また、Nb−8(C+N)は0以上である。
なお、ステンレス鋼に含まれるNbおよび/またはTiは、全量が固溶状態として存在するのではなく、一部がC、Nに固定された状態で存在する。そして、ステンレス鋼に含まれるNbおよび/またはTiのうち、C、Nに固定されない固溶状態のNbが、ろう付け時に不働態皮膜中に濃化し、ろう付け後に形成される酸化皮膜における腐食防止作用に寄与する。ステンレス鋼に含まれるNbおよび/またはTiのうち、C、Nに固定されて固溶状態とならないNbおよび/またはTi量は、Nbの原子量93と、Cの原子量12、Nの原子量14との比から、CとNの合計(C+N)量の概ね8倍と考えられる。したがって、腐食の発生を抑制する上記の酸化皮膜を形成するためには、ステンレス鋼に含まれるSiとCrとAlと{Nb+Ti−8(C+N)}の合計の含有量を17.5%以上とする必要がある。また、ステンレス鋼がNbおよび/またはTiを含有しない、または(C+N)量の8倍以上含有しない場合には、SiとCrとAlの合計の含有量を17.5%以上とする必要がある。
一方、ろう付け時に上記の酸化皮膜が形成される熱処理条件としては、Nを含む環境で、1000〜1200℃、10−2〜1torrの真空雰囲気もしくはH雰囲気において、5〜30分間保持するのが好適である。単に10−2torr以下の真空中で熱処理するだけでは、形成された酸化皮膜のCr、Nb、Si、Alのカチオン分率の合計が、上記所望のカチオン分率には到達しない。たとえば10−2torr以下の真空に引いた後、Nを導入して10−2〜1torrとした雰囲気で熱処理することで、上記のカチオン分率の合計で40%以上のCr、Si、Nb、Alが濃化した酸化皮膜を形成することが可能となる。一方、H雰囲気においては、特にNを導入する必要はなく、雰囲気内に残存しているNで所望の組成の酸化皮膜を得ることができる。
この理由については、定かではないが、Nを含む環境で熱処理することにより、ステンレス鋼の表面には(Nb、Ti)の炭窒化物が生成しており、これによりFe酸化物の還元が促進された可能性がある。
熱処理の雰囲気中におけるNの含有量は、0.001〜0.2%が好ましく、0.005〜0.1%がより好ましい。
熱処理条件としては、カチオン分率の合計で40%以上のCr、Si、Nb、Alが濃化した酸化皮膜を形成するために、1050〜1150℃にて5〜30分間保持することがより好ましい。保持時間は、10〜20分間がより好ましい。
なお、酸化皮膜に含まれるCr、Si、Nb、Alのなかでは最もCrが重要であり、カチオン分率で20%以上含有することが好ましい。さらに好ましくはCr、Si、Nb、Ti、Alをカチオン分率の合計で50%以上である。
また、酸化皮膜の膜厚は15nm以下とすることが好ましく、10nm以下がより好ましい。膜厚の増加は単位体積あたりに占めるCr、Si、Nb、Ti、Alといったカチオンの低下につながり、耐食性の低下を招く。Nを含む環境で熱処理することにより生成した(Nb、Ti)の炭窒化物が、膜厚の増加を抑制している可能性がある。
一方、成長抑制効果の観点から本発明者は、Ni、Cu、Moに着目した。ステンレス鋼にNi、Cu、Moのうち2種以上を複合して含有させることで、耐孔あき性が向上される理由については、次のように推定している。
腐食の発生に伴い、食孔内もしくは隙間内には塩化物が濃化し、pHが低下する。こうした環境中で多くの場合、材料は活性溶解するが、Ni、Cu、Moはいずれも活性溶解速度の低減に有効である。また、排熱回収器は湿潤と乾燥とが繰り返される環境で使用されるため、腐食の進行と停止が繰り返される。この場合には、腐食が停止しやすく(再不動態化しやすく)、腐食が再発生しにくい方が耐孔あき性に有効である。腐食の停止のしやすさ(再不動態化)には、溶解反応(アノード反応)と共にカソード反応が影響すると考えられる。カソード反応を促進する効果のあるNi、Cuは、再不動態化促進に寄与すると考えられる。ここで、主としてNiはカソード電流を増加させることで、Cuは電位を貴にする働きで再不動態化促進に寄与していると考えられる。一方、Moには不動態を強化して、腐食の再発生を抑える効果がある。こうしたNi、Cu、Moの異なる効果の複合化によって、ステンレス鋼の耐孔あき性が向上したものと推定される。
本発明は、耐孔あき性に関する上記知見に加え、排熱回収器部材として必要な熱疲労特性、加工性を考慮してなされ、排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を備えた排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼を提供するものであり、その要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの内容である。
以下、排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼の各組成を限定した理由について説明する。なお、以下の説明では、特に断らない限り、各成分の%は、質量%を表すものとする。
(C:0.03%以下)
Cは、耐粒界腐食性、加工性を低下させるため、その含有量を低く抑える必要がある。
このため、Cの含有量を0.03%以下とした。しかしながら、過度に低めることは精練コストを上昇させるため、Cの含有量を0.002%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.002〜0.02%である。
(N:0.05%以下)
Nは、耐孔食性に有用な元素であるが、耐粒界腐食性、加工性を低下させるため、その含有量を低く抑える必要がある。このため、Nの含有量を0.05%以下とした。しかしながら、過度に低めることは精練コストを上昇させるため、Nの含有量を0.002%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.002〜0.02%である。さらに、ろう付け時の結晶粒粗大化抑制の観点から、CとNの合計含有量を0.015%以上((C+N)≧0.015%)とするのが好ましい。
(Si:0.1%超、1%以下)
Siは、ろう付け後にステンレス鋼の表面皮膜に濃化して耐食性向上に寄与するために、0.1%以上含有させることが必要である。また、Siは、脱酸元素として有用である。しかしながら、過剰な添加は加工性を低下させるため、Siの含有量を1%以下とする。より好ましくは0.1%超〜0.5%である。
(Mn:0.02%以上、1.2%以下)
Mnは、脱酸元素として有用な元素であり、少なくとも0.02%以上含有させることが必要である。しかしながら、過剰に含有させると耐食性を劣化させるので、Mnの含有量を1.2%以下とする。より好ましくは、0.05〜1%である。
(Cr:17%以上、23%以下)
Crは、ステンレス鋼の排ガス凝縮水ならびに塩害耐食性を確保する上で基本となる元素であり、少なくとも17%以上含有させることが必要である。Crの含有量を増加させるほど耐食性を向上させることができるが、隙間部の耐孔あき性についてNi、Cu、Moと同等の効果を得ようとすると多量の添加を必要とする。また、過剰な添加は加工性、製造性を低下させるため、Crの含有量を23%以下とした。好ましくは17%以上、20.5%以下である。
(Al:0.002%以上、0.5%以下)
Alは、ろう付け後のステンレス鋼の表面皮膜に濃化して耐食性向上に寄与するためには、0.002%以上含有させることが必要である。また、Alは、脱酸効果等を有するので精練上有用な元素であり、成形性を向上させる効果もある。しかしながら過剰の添加は靭性を劣化させるため、Alの含有量を0.002〜0.5%とした。好ましくは0.003〜0.1%である。
本発明においては、ステンレス鋼が、Ni、Cu、Moのうち何れか2種もしくは3種を含有する必要がある。
(Ni:0.25%以上、1.5%以下)
Niは、Cu、Moと共に耐食性、特に耐孔あき性を向上させる上で、重要な元素である。Cu、Moのいずれかを含有した上で安定した効果が得られるNiの含有量は0.25%以上である。Niの含有量を増加させるほど耐食性を向上させることができるが、多量の添加は、硬質化させ加工性を低下させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、Niの含有量を1.5%以下とした。好ましくは0.25〜1.2%である。より好ましくは0.25〜0.6%である。
(Cu:0.25%以上、1%以下)
Cuは、Ni、Moと共に耐食性、特に耐孔あき性を向上させる上で、重要な元素である。Ni、Moのいずれかを含有した上で安定した効果が得られるCuの含有量は0.25%以上である。Cuの含有量を増加させるほど耐食性を向上させることができるが、多量の添加は、硬質化させ加工性を低下させる。したがって、Cuの含有量を1%以下とした。好ましくは、0.25〜0.8%である。より好ましくは0.25〜0.6%である。
(Mo:0.5%以上、2%以下)
Moは、Ni、Cuと共に耐食性、特に耐孔あき性を向上させる上で、重要な元素である。Ni、Cuのいずれかを含有した上で安定した効果が得られるMoの含有量は0.5%以上である。Moの含有量を増加させるほど耐食性を向上させることができるが、多量の添加は、硬質化させ加工性を低下させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、Moの含有量を2%以下とした。上述したようにMoは、Ni、Cuと異なる作用で耐孔あき性を向上させることからより重要な元素である。そのため、0.7%以上、2%以下含有させることが好ましい。より好ましくは0.9%以上、2%以下である。
8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
なお(式1)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
Nb、Tiは、C、Nを固定し、溶接部の耐粒界腐食性を向上させる上で有用な元素であるため、NbとTiとの合計(Nb+Ti)で、(C+N)量の8倍以上含有させる必要がある。また、ろう付け後にステンレス鋼の表面皮膜に濃化して耐食性向上に寄与するためには、C、Nに固定されない固溶状態のNbおよび/またはTiとして少なくとも0.03%以上含有させる必要がある。したがって、Nb+Tiの下限を8(C+N)+0.03%とした。しかしながら、Nbおよび/またはTiの過剰の添加は、加工性、製造性を低下させるため、Nb+Tiの含有量の上限を0.6%とした。Nb+Tiの含有量は、好ましくは10(C+N)+0.03〜0.6%である。
ここで、Nb、Tiのうち、Tiにはステンレス鋼の表面皮膜に濃化して耐食性向上に寄与する反面、ろう付け性を阻害する作用がある。良好なろう付け性を得るためには、Ti−3Nの値が0.03%以下になるようにTi量を制限するのが好ましい。一方、Nbは高温強度を向上させるので、排熱回収器のように高温の排ガスを冷却して熱疲労特性が要求される部材に有用である。
(V:0.5%以下)
Vは、耐食性を向上させる上で、必要に応じて0.5%以下含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.05%以上である。しかしながら、Vの過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、Vは0.05〜0.5%含有させることが好ましい。
(W:1%以下)
Wは、耐食性を向上させる上で、必要に応じて1%以下含有させることができる。安定した効果が得られるのは0.3%以上である。しかしながら、Wの過剰の添加は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップにつながる。したがって、Wは0.3〜1%含有させることが好ましい。
(B:0.005%以下)
Bは、加工性、特に二次加工性を向上させる上で、必要に応じて0.005%以下含有させることができる。安定した効果を得るには、Bを0.0001%以上含有させることが望ましい。より好ましくは0.0002〜0.0015%である。
(Zr:0.5%以下)
Zrは、耐食性を向上させる上で、必要に応じて0.5%以下含有させることができる。安定した効果が得られるには、Zrを0.05%以上含有させることが好ましい。
(Sn:0.5%以下)
Snは、耐食性を向上させる上で、必要に応じて0.5%以下含有させることができる。安定した効果が得られるには、Snを0.01%以上含有させることが好ましい。
(Co:0.2%以下)
Coは、二次加工性と靭性を向上させる上で、必要に応じて0.2%以下含有させることができる。安定した効果が得られるには、Coを0.02%以上含有させることが好ましい。
(Mg:0.002%以下)
Mgは、脱酸効果等を有するので精練上有用な元素であり、組織を微細化し加工性や靭性の向上にも効果があることから、必要に応じて0.002%以下含有させることができる。安定した効果が得られるには、Mgを0.0002%以上含有させることが好ましい。
(Ca:0.002%以下)
Caは、脱酸効果等を有するので精練上有用な元素であり、必要に応じて0.002%以下含有させることができる。安定した効果が得られるには、Caを0.0002%以上含有させることが好ましい。
(REM:0.01%以下)
REMは、脱酸効果等を有するので精練上有用な元素であり、必要に応じて0.01%以下含有させることができる。安定した効果が得られるには、REMを0.001%以上含有させることが好ましい。
なお、不可避不純物のうち、Pについては、溶接性の観点から0.04%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.035%以下である。また、Sについては、耐食性の観点から0.02%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01%以下である。
本発明のステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼を製造する一般的な工程を行うことにより製造できる。例えば、転炉又は電気炉で上記の化学組成を有する溶鋼とし、AOD炉やVOD炉などで精練して、連続鋳造法又は造塊法で鋼片とした後、熱間圧延−熱延板の焼鈍−酸洗−冷間圧延−仕上げ焼鈍−酸洗の工程を経て製造される。必要に応じて、熱延板の焼鈍を省略してもよいし、冷間圧延−仕上げ焼鈍−酸洗を繰り返し行ってもよい。
次に、本発明の排熱回収器について説明する。本発明の排熱回収器は、ろう付け接合により部材が組み立てられてなる熱交換部を備えたものである。本発明の排熱回収器の熱交換部は、本発明のフェライト系ステンレス鋼の表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されているものからなる。
本発明の排熱回収器の製造方法は、例えば一般的な加工工程を行うことにより、本発明のフェライト系ステンレス鋼からなる部材を形成する工程と、部材をNを含む10−2〜1torrの真空雰囲気もしくはH雰囲気中で熱処理してろう付け接合することにより熱交換部を形成する組み立て工程とを含む。このような組み立て工程を行うことにより、フェライト系ステンレス鋼からなる部材の表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成された熱交換部が得られる。
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
下記表1および表2に示す化学組成を有する溶鋼を30kg真空溶解炉にて溶製して17kg扁平鋼塊を作製後、加熱温度1200℃にて厚さ4.5mmまで熱延して900〜1030℃にて熱延板焼鈍を行った。アルミナショットによりスケールを除去して板厚1mmまで冷延後、950〜1050℃にて仕上焼鈍を行った。こうして得られた素材例1〜17の冷延鋼板を用いて、耐食性を評価すると共に表面皮膜を分析した。
Figure 2012214880
Figure 2012214880
各冷延鋼板より幅25mm、長さ100mmの素材例1〜17の試験片を切り出し、エメリー紙にて全面を#320まで湿式研磨した。次に、ろう付け時の雰囲気を模擬して次に示す条件にて熱処理を行い、表3の実験例1〜17の試験片とした。10−3torrで真空引き後、Nを導入して10−1〜10−2torrに調製した。その後昇温し、1100℃にて10分保持後、炉内で常温まで冷却した。なお、昇温中ならびに1100℃保持中も10−1〜10−2torrに保持した。
また、素材例1の試験片のみ、10−3torrで真空引き後昇温し、1100℃にて10分保持後、炉内で常温まで冷却して、表3の実験例18の試験片とした。
さらに、素材例1〜3については、露点−65℃の100%H中において、1100℃にて10分保持の熱処理を行った。これを表3の実験例19〜21とした。
Figure 2012214880
表3の実験例1〜21の試験片に対して、次のような腐食試験を行った。試薬に塩酸、硫酸、亜硫酸アンモニウムを用いて、100ppmCl+1000ppmSO 2−+1000ppmSO 2−の溶液を調製した後、アンモニア水を用いてpH3.5に調整した。溶液の蒸発、濃縮を防止できる密閉ガラス容器に溶液を入れ、試験片を半浸漬した。これを80℃に保持し、500時間の腐食試験を行った。試験終了後、腐食生成物を除去して、光学顕微鏡の焦点深度法により腐食深さを測定した。最大腐食深さが400μm以下の場合を耐食性良好と評価した。
その結果を表3に示す。
表3の実験例1〜21の腐食試験片の熱処理時に、表面分析用の試料も並行して熱処理を行い、X線光電子分光法(XPS)により、表面の酸化皮膜を分析し、酸化皮膜中のCr、Nb、Si、Al、Tiのカチオン分率(A値)を算出した。XPSはアルバック・ファイ社製で、使用X線源にmono−AlKα線を用い、X線ビーム径約100μm、取り出し角45度の条件で実施した。
表3に示す試験結果から、本発明の範囲内にある実験例1〜12および19〜21の鋼は、A値が40%以上であり、排ガス模擬凝縮水中での耐食性が良好である。
一方、Ni、Cu、Moが1種ずつしか含有されていない比較例である実験例13〜15、Cr含有量とA値が本発明範囲から外れる比較例である実験例17は、排ガス模擬凝縮水中での耐食性が劣る。
ろう付け模擬熱処理後に形成される酸化皮膜中のカチオン分率が本発明範囲を満足しない比較例である実験例No.16は、A値が40%未満であり、耐食性が劣る。
また、N2を導入せずに真空中でのみ熱処理された実験例18は、A値が40%未満であり、排ガス模擬凝縮水中での耐食性に劣っていた。
排ガス凝縮水に対して優れた耐食性を備えた本発明の排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼は、排熱回収器(排気熱再循環システム)用部材、なかでも排熱回収器の熱交換部材に好適である。その他、EGR、マフラ等排ガス凝縮水に曝される排ガス経路部材にも好適である。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.03%以下、
    N:0.05%以下、
    Si:0.1%を超え、1%以下、
    Mn:0.02%以上、1.2%以下、
    Cr:17%以上、23%以下、
    Al:0.002%以上、0.5%以下、
    Ni、Cu、Moのうち2種または3種を
    Ni:0.25%以上、1.5%以下、
    Cu:0.25%以上、1%以下、
    Mo:0.5%以上、2%以下、
    Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、
    以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであることを特徴とする排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
    8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
    Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
    (式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti−8(C+N)は0以上である。
  2. 質量%で、
    C:0.03%以下、
    N:0.05%以下、
    Si:0.1%を超え、1%以下、
    Mn:0.02%以上、1.2%以下、
    Cr:17%以上、23%以下、
    Al:0.002%以上、0.5%以下、
    Ni、Cu、Moのうち2種または3種を
    Ni:0.25%以上、1.5%以下、
    Cu:0.25%以上、1%以下、
    Mo:0.5%以上、2%以下、
    Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、
    以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、Nを含む10−2〜1torrの真空雰囲気もしくはH雰囲気で熱処理することにより、表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されるものであることを特徴とする排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
    8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
    Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
    (式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti−8(C+N)は0以上である。
  3. 更に、質量%で、V:0.5%以下、W:1%以下、B:0.005%以下、Zr:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Co:0.2%以下、Mg:0.002%以下、Ca:0.002%以下、REM:0.01%以下のうち何れか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の排熱回収器用フェライト系ステンレス鋼。
  4. ろう付け接合により部材が組み立てられてなる熱交換部を備え、
    前記熱交換部が、質量%で、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Si:0.1%を超え、1%以下、Mn:0.02%以上、1.2%以下、Cr:17%以上、23%以下、Al:0.002%以上、0.5%以下、Ni、Cu、Moのうち2種または3種をNi:0.25%以上、1.5%以下、Cu:0.25%以上、1%以下、Mo:0.5%以上、2%以下、Nb、Tiのうち1種または2種を含有し、以下に示す(式1)および(式2)を満たし、残部がFe及び不可避不純物からなり、表面に、Cr、Nb、Si、Alをカチオン分率の合計で40%以上含む酸化皮膜が形成されたフェライト系ステンレス鋼からなるものであることを特徴とする排熱回収器。
    8(C+N)+0.03≦Nb+Ti≦0.6・・・(式1)
    Si+Cr+Al+{Nb+Ti−8(C+N)}≧17.5・・・(式2)
    (式1)および(式2)において、元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。また(式2)において、Nb+Ti−8(C+N)は0以上である。
  5. 前記フェライト系ステンレス鋼が、更に、質量%で、V:0.5%以下、W:1%以下、B:0.005%以下、Zr:0.5%以下、Sn:0.5%以下、Co:0.2%以下、Mg:0.002%以下、Ca:0.002%以下、REM:0.01%以下のうち何れか1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項4記載の排熱回収器。
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