JP2012210199A - 体外発育卵母細胞をレシピエント卵子とするクローン動物個体の作成法 - Google Patents

体外発育卵母細胞をレシピエント卵子とするクローン動物個体の作成法 Download PDF

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Abstract

【課題】単離した発育途上卵母細胞を用いたクローン動物個体の作成方法の提供。
【解決手段】非ヒト哺乳類の発育途上卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を、骨形成因子7(BMP7)を含む培養液での培養に供して卵母細胞の発育を完了させ、次いで体外成熟を誘起し、除核してレシピエント卵子を調製し、これを用いて作成した核移植胚から非ヒト哺乳類のクローン動物個体を作成する方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、クローン動物個体の作成方法に関する。
自然界における生殖では卵子と精子が組み合わさることによって受精卵(胚)が作られるが、クローン技術では核を取り除いた卵子(レシピエント卵子)に任意のドナー細胞核を入れることで「核移植胚」を作出する。核移植胚は受精卵のように活動する潜在能力を有し、一部は雌動物への胚移植によって、産子へと発生することが可能である。
体細胞クローンヒツジの誕生(非特許文献1)以来、クローン動物の作成方法が幅広くかつ詳細に検討されてきた(非特許文献2)。例えば、ドナー細胞の選別方法やレシピエント卵子への移植方法、ドナー細胞に施す処理の内容及び処理を行うタイミング、操作に応じた特殊な培養液の選定などについての検討である(非特許文献2)。それらの知見に基づき、クローン動物関連で開発された技術群は洗練されたシステムへと整えられてきた。
様々な改良が加えられたシステムの中で、ほとんど変化していないのは、レシピエント卵子の供給源(準備方法)である。レシピエント卵子については、それに含まれる因子が核のリプログラミング(初期化)を引き起こすと考えられており、クローン技術の本質として活発に研究が進められている(非特許文献2〜4)。しかし、動物のクローン胚を作成する際にレシピエント卵子の作成に使用されるのは、卵巣内で発育を完了した後の卵母細胞か、又は発育とその後の成熟を完了した卵母細胞に限定されている。クローン技術という繊細な条件設定が必要とされる研究では、本来、その基盤として自然の条件で発育した卵母細胞を使用するのが合理的である。また、クローン技術を適用する際にも、体内発育し成熟した卵子には優れた初期化の能力が期待されることから、それをレシピエント卵子として使用することが望ましい。
しかし、大量に準備することが可能であるドナー細胞に比べると、レシピエント卵子として利用できる卵子数は極めて少なく、数量的な不均衡は甚だしい。それというのも、卵巣では通常、一度に決まった数の卵子のみが最終段階まで発育・成熟し、その数は動物種毎の産子数とほぼ等しいことから、個体から一度に採取できる成熟卵子の数が限られるためである。発育完了後の卵母細胞を体外成熟させる技術の開発も行われてきているが、卵巣内の卵母細胞のほとんどは発育を完了しないため、発育完了後の卵母細胞を採取するにも、多数の卵供与動物が必要になる。このことが、核移植胚の作成効率が限定されている主な要因の一つとなっている。
従って、核移植の技術的な条件が整ってきた現在、クローン動物の作成において有効に利用可能なレシピエント卵子を成熟卵子以外の生物材料から作成することができれば、クローン技術の制約条件が一つ取り除かれることになる。
特許文献1は、発育途上の卵母細胞を体外発育させ、それを体外受精に用いる方法を開示している。しかしこの方法で得られた体外発育卵子の胚盤胞への発生率には、体外受精という自然に近い方法であっても、なお改善の余地があった。さらに、クローン技術に利用する上で必須のレシピエント卵子としての能力(すなわち、移植核に対する初期化能力)を体外発育卵子が有するかどうかは、特許文献1等の先行技術は全く示唆していない。
特許第4122425号明細書
Wilmutら, Nature(UK), 1997年,第385巻,p.810-813 Campbellら,Theriogenology (USA), 2007年, 第68巻,Supplement 1, p.S214-S231 Kikyo及びWolffe, Journal of Cell Science (USA), 2000年,第113巻,p.11-20 Gurdonら, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (USA), 2003年, 第100巻, Supplement 1, p.11819-11822
本発明は、より効率的なクローン動物の作成方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、骨形成因子7(BMP7)が発育途上卵母細胞の発育促進に効果的であること、また成熟誘起の段階で成熟誘起処理と成熟抑制処理を組み合わせて行うことが、成熟時期を同調させる上で特に効果的であり、それにより卵子の成熟率を高め、その結果、体外発育させた卵母細胞からのレシピエント卵子の高効率な作成を可能にすることを見出し、さらにそのように作成したレシピエント卵子を用いて核移植胚から実際に健康な産子を得ることに成功して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
非ヒト哺乳類の発育途上卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を、骨形成因子7(BMP7)を含む培養液での培養に供して卵母細胞の発育を完了させ、次いで体外成熟を誘起し、除核してレシピエント卵子を調製し、これを用いて作成した核移植胚から非ヒト哺乳類のクローン動物個体を作成する方法。
本方法では、発育を完了させた卵母細胞に、成熟誘起処理と核成熟抑制処理を行った後、核成熟を開始させることが好ましい。
この核成熟抑制処理は、好ましい実施形態では、cAMP濃度上昇剤を用いた処理である。核成熟抑制処理は、cAMP濃度上昇剤とCDK1阻害剤とを用いた処理であることがさらに好ましい。ここでcAMP濃度上昇剤はミルリノンであり、CDK1阻害剤はロスコビチンであることが特に好ましい。
本方法の好ましい実施形態では、発育途上卵母細胞は、卵母細胞の最大直径の70〜85%の直径を有する。
本方法の好ましい実施形態では、非ヒト哺乳類はウシである。
本発明を用いれば、レシピエント卵子の供給源を広げることができ、非ヒト哺乳類クローン動物個体をより効率良く作成することができる。
図1は、リコンビナントヒトBMP7を0、0.5、5、又は50 ng/mlの濃度で添加した培養液中でのウシ発育途上卵母細胞の培養1日後と培養14日後の直径±標準誤差を示すグラフである。*は、添加区の平均直径が、対照区(0 ng/ml)における直径よりも有意に大きいことを示す。 図2は、培養6日後(図2A)及び培養14日後(図2B)のウシ卵母細胞と卵丘細胞(顆粒膜細胞)の複合体を示す写真である。図2Cは、図2B中で四角で囲った複合体の拡大写真である。矢印の先端が卵母細胞の位置を示すが、ドーム内部にあるため写真では確認できない。図2A及び図2Bのスケールバーは1 mm、図2Cのスケールバーは100 μmを示す。 図3は、体外発育及び体外成熟後のウシ卵母細胞と卵丘細胞の複合体の形態変化を示す写真である。図3Aは、14日間の体外発育の後、採取されたウシ卵母細胞と卵丘細胞の複合体の写真である。図3Bは、体外成熟後の膨潤化した卵丘細胞と一層の卵丘細胞に包まれた卵母細胞の写真である。図3Cは、卵母細胞周囲の卵丘細胞を取り除き、裸化したところ放出が観察された第一極体の写真である。 図4は、体外発育させたウシ卵母細胞における減数分裂の進行状態を示す。図4Aは、ロスコビチンとミルリノンで成熟が抑制されている卵母細胞における減数分裂のステージを示す。図4Bは、ロスコビチン及びミルリノン処理から解放された後、多くの卵母細胞が10時間で減数分裂の第一分裂中期(MI)へとシフトしたことを示す。図4Cは、さらに10時間の培養により、多くの卵母細胞が第二分裂中期(MII)へと成熟したことを示す。 図5は、16時間の成熟抑制期間を設けた場合と設けなかった場合の体外発育ウシ卵母細胞の成熟率の違いを示す。 図6は、体外発育ウシ卵母細胞由来の核移植胚を用いたクローン牛の作成実験の結果を示す。図6Aは、核移植胚から胚盤胞が形成されたことを示す写真である。スケールバーは100 μmを示す。図6Bは、得られた胚盤胞の一つを受胚牛に移植し、産まれたクローン牛を示す写真である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、クローン動物個体の作成方法に関する。本方法では、クローン胚を作成する際に用いるレシピエント卵子の作成方法に主たる特徴を有する。具体的には、卵巣から取り出した発育途上にある卵母細胞を所定の培養条件下で体外発育させ、さらに成熟させることで得られる卵子の細胞質をレシピエントとして使用する。すなわち本発明では、クローン動物個体の作成において発育途上卵母細胞をレシピエント卵子の新しい供給源とするため、それを可能とする発育途上卵母細胞の一連の培養システムを提供する。この培養システムでは、卵母細胞の発育を促進するとともに、卵子への良好な成熟を促し、その結果クローン動物個体の作成効率の高いレシピエント卵子を作成することができる。
クローン動物個体の作成に用いられるレシピエント卵子は、ドナー核の初期化とよばれる役割を持ち、そのためには卵母細胞・成熟卵子としての質が高いことが重要となる。体外受精のように一般的な技術も卵子の状態が悪ければ失敗に終わるが、クローン技術では、体外受精以上に卵子の能力によってその結果が左右される可能性がある。しかし従来のクローン動物の作成では、体内で発育を完了した卵母細胞が用いられてきたことから、卵子の質の優劣はそれほど問題にされて来ず、まして発育途上卵母細胞については、そもそもレシピエント卵子の候補としては扱われてこなかった。これに対し、本発明のように発育途上卵母細胞を用いたクローン動物個体の作成においては、卵母細胞の体外発育を成功させるだけでなく、そこから作成される成熟卵子としての質を高めることが必要である。本発明では、発育途上卵母細胞を用いて、所定の条件で体外発育及び体外成熟を促すことにより、優良な成熟状態(卵子の質)を有するレシピエント卵子を作成するものである。
「卵母細胞」は、発育期と成熟過程を経て、受精が可能な卵子となる生殖細胞である。全ての卵母細胞は胎児期に形成され、発育期に入る前や発育途上の卵母細胞は、第一減数分裂前期で細胞分裂を停止した状態(卵核胞期)で卵巣内に存在する。卵母細胞は発育期に発育を完了し、次いで卵子に成熟する段階で初めて減数分裂が再開され、染色体の分離が起こる。その後、第二減数分裂中期で、受精の時を待つ。
卵母細胞の発育とは、成熟過程に量的・質的に必要な分子等を準備しながら卵母細胞の体積が著しく増大するプロセスである。卵母細胞の卵子への成熟には、それに先立って卵母細胞の発育が完了していることが必須である。発育完了時に卵母細胞は最大直径を有し、その最大直径は動物種によってほぼ決まっている。その動物種固有の卵母細胞の最大直径は、細胞膜の外側を包む透明帯の厚さを除いて、例えば、マウスなどの小型動物では約75μm、ブタやウシなどの中型・大型動物では120〜130μmであり、これらのサイズと同等又はそれ以上であれば発育を完了していると考えることができる。
本発明において「発育途上にある卵母細胞」又は「発育途上卵母細胞」とは、大きさに関しては動物種固有の卵母細胞の最大直径に達していないもの(例えばその最大直径の95%未満)と定義され、能力に関しては健康であるにもかかわらず、発育が完了していないために、第一減数分裂前期(卵核胞期)で停止したまま減数分裂を再開する能力を有さないもの、又は直ちに減数分裂を再開する潜在能力は有するものの第二減数分裂中期へと進む潜在能力を有さないものと定義される。また、一般に発育途上卵母細胞は、体外受精を施しても、胚発生能力を伴わない。
卵母細胞の「成熟」とは、減数分裂を再開し、第二減数分裂中期へと分裂が進行すること、並びに受精以降の過程が可能となることを指す。
「卵胞」とは、発育期から成熟期に至るまでの卵母細胞を包む構造を指す。卵母細胞の発育とともに卵胞の体積は増大する。卵胞は細胞増殖によって発達する点で、細胞分裂を行わない発育途上卵母細胞とは異なる。卵胞はまず、単層から数層の顆粒膜細胞層が卵母細胞を包み、その外側を基底膜が覆い、さらにその外側を卵胞膜細胞層が取り囲む構造をとる。卵胞の発達期の後半では、著しく増数した顆粒膜細胞の層に出現した間隙が発達して卵胞腔となる。卵胞腔は卵胞液と呼ばれる液体で満たされ、次第に大きくなって最終的には卵胞の体積の大部分を占めるようになる。卵胞腔が形成されると、卵母細胞は数層の顆粒膜細胞に包まれて、卵胞の内壁を構成する顆粒膜細胞層の一点に付着した状態となる。このとき、卵母細胞周囲で層を形成する細胞を特に卵丘細胞と呼び、卵胞の内壁を構成する他の顆粒膜細胞とは区別されている。
本発明では、発達途上卵母細胞を体外発育させるため、非ヒト哺乳類の発育途上卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を所定の条件で体外培養に供する。
本発明の方法では、まず、非ヒト哺乳類から卵巣を採取する。本発明において「非ヒト哺乳類」とは、卵母細胞を有する非ヒト哺乳類の雌性動物であれば限定されるものではないが、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、ラット、又はマウスなどが挙げられる。
採取した卵巣は、例えば生理的濃度のリン酸緩衝液(phosphate buffered saline;PBS)で洗浄した後、卵巣表面から1〜2mm程度の厚さで組織片を切り離して、組織培養液に移すことが好ましい。組織培養液は、ウェイマウス培地(Waymouth's medium)、最少必須培地(Minimum Essential Medium)、M-199培地(Medium 199)などの通常の組織培養に用いられるものを利用可能である。組織培養液は、大気中の気相でそのpHが7前後に安定するようHEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸)などの緩衝剤で緩衝されていることが望ましい。
続いて、培養液中の組織をさらに細切し、卵胞を切り出す。卵胞は、過度の圧迫によって傷つけることのないよう留意して切り出し、卵胞内部に細胞の脱落などの明らかな退行の兆候が認められるものは使用しない。卵胞をサイズで分類しておくと、卵母細胞をサイズで分けるうえで都合が良い(例えば、Hiraoら,Zygote (UK), 1005年,第3巻, p.325-332参照)。卵胞は、新鮮な組織培養液中に移してから複合体を採取することが好ましい。
次に、切り出した卵胞の一箇所に、基底膜内部に達する切れ込みを入れる。この切開した部分から、卵母細胞とその周囲の体細胞(典型的には、卵丘細胞、又は卵丘細胞と顆粒膜細胞)との複合体を採取する。本発明において「卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体」又は「複合体」とは、卵母細胞とその周囲に存在する体細胞から構成される複合組織を指し、例えば、卵母細胞と卵丘細胞との複合体(卵母細胞・卵丘細胞の複合体)、卵母細胞と卵丘細胞及び顆粒膜細胞との複合体(卵母細胞・卵丘細胞・顆粒膜細胞の複合体)などが含まれる。卵母細胞の周囲の体細胞としては、卵丘細胞及び/又は顆粒膜細胞が挙げられるが、これらの細胞のみに限定されるものではなく、他の周囲細胞が混在してもよい。
卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体の採取は、上述した以外にも、卵胞を単離するプロセスを省き、卵巣にカミソリ等で切りこみを入れた後に培養液で洗い流し、培養液中に放出された複合体を直接回収する方法により行ってもよい。また、複合体の採取においては、卵巣内の卵胞から、注射針と注射筒を用いて複合体を吸引する方法も利用できる。また生体内の卵巣から、生体内卵子吸引と称する手法を用いて複合体を吸引する方法も採用することができる。
以上、卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を採取するための物理的な分離方法について述べたが、本発明において複合体の採取方法は、上記の方法に限定されるものではない。
卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を採取した際、卵母細胞の状態を調べることが好ましい。採取時の卵母細胞の直径、卵母細胞の生死及びその健康状態が、その後の培養における重要な情報となる。卵母細胞に異常が認められる場合には、その複合体は使用しない。
卵母細胞の直径(透明帯を含まない部分)の測定方法としては、以下に限定されるものではないが、顕微鏡に接続した測微接眼レンズを用いて直径を測定する方法や、顕微鏡を通して見える画面をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトウェアで測定する方法がある。
本発明の方法では、動物種固有の卵母細胞の最大直径と同等サイズの直径に達していない卵母細胞(すなわち発育途上の卵母細胞)とその周囲の体細胞との複合体を選抜して、体外発育のために培養に供する。この発育途上卵母細胞とその周知の体細胞との複合体は、好ましくは、動物種固有の卵母細胞の最大直径の70〜85%の直径を有する卵母細胞を含む、卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体である。動物種固有の卵母細胞の最大直径の70〜85%の直径は、例えばウシやブタであればおよそ88〜106μm(最大直径:約125μm)、マウスであればおよそ53〜63μm(最大直径:約75μm)となる。本発明において、「卵母細胞の最大直径」とは、動物種固有に定まる卵母細胞の最大直径を意味する。
発育途上にある卵母細胞の直径と卵胞の直径との間には相関があり(例えば、Hiraoら,Zygote (UK), 1995年, 第3巻, p.325-332参照)、直接卵母細胞の直径を測定する前に、卵胞の直径から卵母細胞の直径を推測することもできる。例えば、直径約90〜105μmのウシ発育途上卵母細胞は、直径約0.5〜0.8mm程度の卵胞に存在すると推測される。このような相関は当技術分野で周知であり、相関を利用することによって卵母細胞の直径を容易に推測することができる。
得られた発育途上卵母細胞とその周知の体細胞との複合体は、好ましくは複合体培養用の組織培養液中で培養する。本発明では、骨形成因子7(Bone morphogenetic protein 7;BMP7)を含む組織培養液を、複合体培養用の組織培養液として用いる。複合体培養用の組織培養液の調製には、ウェイマウス培地(Waymouth's medium)、最少必須培地(Minimum Essential Medium)、M-199培地(Medium 199)などの通常の組織培養に用いられる組織培養液を基本となる組織培養液として用いることができ、これにBMP7等を添加して改変して用いる。骨形成因子7は、限定するものではないが、1ng/ml以上、好ましくは3ng/ml〜100ng/mlの濃度で組織培養液に添加することが好ましい。この骨形成因子7(BMP7)が体外培養において発育途上卵母細胞の発育完了までの過程を顕著に促進することができる。骨形成因子7は任意の哺乳動物(例えば、ヒト等の霊長類、マウス、ラット等のげっ歯類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどの家畜哺乳類など)から単離したものであってよく、合成品又は組換え生産品であってもよい。骨形成因子7(BMP7)は市販されており、例えばR & Dシステム社から入手することができる。
複合体培養用の組織培養液は、さらに高濃度の高分子化合物を含んでいてもよい。ここで「高分子化合物」とは、分子量が数万〜数百万の有機物質であり、天然高分子(生体高分子など)及び合成高分子のいずれをも含む。本発明において用いる「高分子化合物」は、特に、水に溶解しやすいこと、細胞毒性が極めて低いこと、培養中に培養液のpH等を不安定にさせる性質を有さないこと、また、その他にも初期の特性が長期間安定して維持されること、などの条件を満たすものが好ましい。例えば本発明において利用可能な高分子化合物としては、合成ポリマー、多糖類系ポリマー、タンパク質、プロテオグリカンなどが挙げられる。例えば合成ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン(PVP;分子量約36万)、ポリビニルアルコール(PVA;分子量約7万〜10万)などが挙げられる。多糖類系ポリマーとしては、デキストラン、ヒドロキシエチル化デンプン、セルロース類の誘導体(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)などが挙げられる。また多糖類系ポリマーとしては、スクロースの合成ポリマーであるフィコール(分子量40万)、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸のグリコサミノグリカンなども挙げられる。タンパク質としては血清アルブミン(分子量約6.9万)などが挙げられる。また、プロテオグリカンとしてはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンなどが挙げられる。
組織培養液に添加する上記高分子化合物の濃度は、組織培養液に対し、約1〜12%(w/v)、好ましくは2〜8%(w/v)、より好ましくは4〜6%(w/v)、最も好ましくは約4%(w/v)である。なお上記高分子化合物は、複合体培養用の組織培養液だけでなく、採取し洗浄した後の卵巣を培養する際の組織培養液や分離した卵胞から複合体を採取する際の組織培養液にも同様に添加することがさらに好ましい。
複合体培養用の組織培養液には、ヒポキサンチンをさらに添加することが好ましい。複合体培養用の組織培養液にはまた、ウシ胎児血清(例えば5%ウシ胎児血清)、ピルビン酸ナトリウム、カナマイシン等の抗生物質、アンドロステンジオン、アスコルビン酸2グリコシド、StemPro nutrient及び/又はMEMビタミンミックス等を添加することも好ましい。
培養は、限定するものではないが、例えば、37℃〜39℃で行うことが好ましい。培養はまた、5% O2・5% CO2・90%N2及び/又は5% CO2・95% 空気の気相条件を用いて行うことが好ましい。例えば、ドーム形成が認められる状態では、卵母細胞の酸欠を防止するため、酸素濃度を高くすることが好ましい。例えば、好ましい例では、培養初期(例えば、3日間)は5% O2・5% CO2・90% N2の気相で培養し、その後の培養期間(例えば11日間)は5% CO2・95% 空気の気相で培養することができる。また培養は、限定するものではないが、高湿度の環境で行うことが好ましい。
培養期間中、2〜4日に一度、組織培養液の一部を新鮮なものに交換することが一般的に行われており、本発明においても適宜新鮮な組織培養液に交換することが好ましい。
複合体培養用の組織培養液中での培養は、採取時に最大直径に達していなかった発育途上卵母細胞が、発育を完了するまで行う。本発明において「発育の完了」は、卵母細胞が成熟過程を開始可能に至った状態をいう。卵母細胞の発育の完了は、卵母細胞の直径が、卵母細胞の最大直径の約95%以上に達したことを基準として判断することができる。例えば、ウシやブタの場合には、卵母細胞の直径が約118μm以上に達した場合、発育は完了していると判断することができる。しかしながら、卵母細胞とその周囲の体細胞の形態が正常であることを確認しつつ、さらに数日間〜1週間程度培養を継続してもよい。
発育完了までの複合体培養用の組織培養液中でのその培養期間は、使用する動物種及び採取した卵母細胞の状態により異なるが、本来、生体内で継続されるはずであった残りの発育期間と同等、又はそれ以上の期間の培養を行うことが好ましい。この培養期間は、一般的にウシやブタでは数日〜4週間であり、例えば10〜20日間とすることができるが、当業者であれば卵母細胞の直径を測定しながら適宜決定することが可能である。
なお本発明では、卵母細胞の発育を単に促進するだけではなく、その周囲の体細胞との複合体の状態で卵母細胞を発育させることができる点で非常に優れている。複合体の状態で体外で発育を完了させることができることは、その後行う卵母細胞の成熟過程において、体細胞を介して行われるホルモンや成長因子による成熟誘起や、成熟培養時の酸化ストレスを代表とする種々のストレスから卵母細胞を保護する体細胞の作用の点で極めて重要である。したがって本発明は、以上の手順により、発育途上卵母細胞について効果的に発育を完了させる方法も提供する。
以上のようにして複合体培養用の組織培養液中での培養において卵母細胞の発育の完了を認めた後、卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を回収し、体外成熟工程に供する。このため、回収した卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を成熟用の培養液に移して培養する。
成熟用の培養液は、ウェイマウス培地(Waymouth's medium)、最少必須培地(Minimum Essential Medium)、M-199培地(Medium 199)などの通常の組織培養に用いられる組織培養液を基本となる組織培養液として用いて調製することができる。基本となる組織培養液には、ウシ胎児血清(例えば5%ウシ胎児血清)、ピルビン酸ナトリウム、カナマイシン等の抗生物質、システイン、myo-イノシトール、アスコルビン酸2グリコシド等を添加することも好ましい。
成熟用の培養液は、成熟を誘起するため、外部から卵丘細胞を介して作用する性腺刺激ホルモン(例えば、卵胞刺激ホルモン(FSH、米国NIDDK)及び/又は黄体刺激ホルモン(LH))、及び上皮成長因子(EGF)を含むことが好ましい。これらの成分を含む培養液で複合体を培養することにより、卵母細胞に対し、成熟誘起処理を施すことができる。性腺刺激ホルモンは、限定するものではないが、各成分について、例えば50〜1000ng/ml、より好ましくは90〜600ng/mlの濃度で添加することができる。EGFは、限定するものではないが、例えば1〜200ng/ml、より好ましくは5〜50ng/mlの濃度で添加することができる。
成熟用の培養液は、卵母細胞内部の調節因子である環状アデノシン三リン酸(cAMP)の濃度を細胞内で上昇させる薬剤(cAMP濃度上昇剤)をさらに含むことが好ましい。cAMP濃度上昇剤は、典型的には、cAMP分解酵素阻害剤であり、例えば、cAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼの選択的阻害剤であるミルリノン、シロスタミドが挙げられる。他のcAMP濃度上昇剤としては、例えば、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)等が挙げられる。cAMP濃度上昇剤は、限定するものではないが、各成分について、例えば10〜1000μM、より好ましくは50〜500μMの濃度で添加することができる。
成熟用の培養液はまた、細胞分裂(細胞周期)を司るタンパク質であるCDK1(CDC2とも称する)の特異的阻害剤(CDK1阻害剤)を含むことも好ましい。CDK1阻害剤も複数種類開発されており、例えば、ブチロラクトンIや(S)-ロスコビチンが挙げられる。CDK1阻害剤は、限定するものではないが、各成分について、例えば0.1〜1000μM、より好ましくは1〜100μMの濃度で添加することができる。
cAMP分解酵素阻害剤等のcAMP濃度上昇剤及び/又はCDK1阻害剤を含む培養液で複合体を培養することにより、卵母細胞に対し、核成熟抑制処理を施すことができる。成熟用の培養液は、cAMP濃度上昇剤(例えば、cAMP分解酵素阻害剤)とCDK1阻害剤をともに含むことがより好ましい。特に好ましい例では、cAMP濃度上昇剤であるミルリノンとCDK1阻害剤であるロスコビチンとを組み合わせて成熟用の培養液に添加することができる。
本発明の方法では、性腺刺激ホルモン及びEGFと、cAMP濃度上昇剤(例えばcAMP分解酵素阻害剤)、又はcAMP濃度上昇剤(例えばcAMP分解酵素阻害剤)及びCDK1阻害剤の組み合わせとを含む成熟用の培養液を用いて複合体を培養することにより、卵母細胞に対し成熟誘起処理と核成熟抑制処理を同時に施すことができる。この成熟誘起処理と核成熟抑制処理を同時に行う培養は、限定するものではないが、例えばウシやブタの卵母細胞の場合には、1〜24時間、好ましくは10〜20時間、さらに好ましくは15〜17時間にわたり行うことが好ましい。このように成熟誘起処理と核成熟抑制処理を行った後、複合体を、cAMP濃度上昇剤(例えばcAMP分解酵素阻害剤)及びCDK1阻害剤を含まない新鮮な成熟用の培養液に移して培養することにより、核成熟を開始させることができる。cAMP濃度上昇剤(例えばcAMP分解酵素阻害剤)及びCDK1阻害剤を含まない新鮮な成熟用の培養液での培養は、限定するものではないが、例えば、15〜24時間、好ましくは18〜22時間にわたり行うことが好ましい。それらの培養を行うインキュベータ内の環境は、限定するものではないが、例えば、37℃〜39℃で行うことが好ましく、気相については例えば5% CO2・95% 空気が好ましい。このように成熟誘起処理に核成熟抑制処理を組み合わせて行うことにより、卵母細胞の成熟化状態をより改善することができる。
卵母細胞の成熟は、核が第二減数分裂中期に至ること(核の成熟)と、細胞質の内容が受精・胚発生に向けてシフトすること(細胞質の成熟)に大きく分けられる。クローン動物個体を作成するための優良なレシピエント卵子として用いるためには、核の成熟だけでなく、細胞質の成熟が誘起されることが必要である。しかし卵母細胞では、核の成熟だけが容易に進行し、細胞質の成熟が遅れる場合が生じうる。本発明の方法では、性腺刺激ホルモン及びEGFによる成熟を強力に誘起することと並行して、cAMP濃度上昇剤(例えばcAMP分解酵素阻害剤)を用いて、好ましくはcAMP濃度上昇剤(例えばcAMP分解酵素阻害剤)とCDK1阻害剤の併用により、核成熟を一定時間抑制することにより、その間に細胞質の成熟を促進し、その結果、核と細胞質の成熟時期を同調させることができる。
本発明の方法では、成熟誘起処理に核成熟抑制処理を組み合わせて行うことにより、第一極体の放出率、すなわち成熟率を、顕著に増加させることができる。成熟誘起処理に核成熟抑制処理を組み合わせて行った場合、核成熟抑制処理を行わない対照と比較して、第一極体の放出率(成熟率)を例えば40〜80%、好ましくは50〜70%も増加させることができる。
したがって本発明は、以上の手順により、発育途上卵母細胞を用いて高効率で成熟した卵母細胞を作成する方法も提供する。
このようにして、成熟させた卵母細胞を含む卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を得ることができる。レシピエント卵子を作成するため、この複合体から卵母細胞を採取することが好ましい。例えば、複合体をヒアルロニダーゼで処理して周囲の体細胞を除去することにより、卵母細胞を分離することができる。複合体から分離した卵母細胞については、成熟の指標である第一極体の放出を確認することが好ましい。
第一極体の放出が確認された卵母細胞については、常法により除核を行うことができる。典型的には、ウシ胎児血清及びサイトカラシンDを含む組織培養液中で、卵母細胞の第一極体に接する部分の細胞質を吸引除去することにより、第一極体の直下付近に存在する卵母細胞の染色体を取り除いて(除核)、レシピエント卵子を作成することができる。
ドナー細胞は、任意の体細胞であってよいが、卵巣由来の卵丘細胞に由来する培養細胞を好適に用いることができる。ドナー細胞は、レシピエント卵子の由来する生物種と同じ生物種の非ヒト哺乳類に由来することが好ましい。ドナー細胞は、トリプシン等を用いて個々の細胞に分離したものを用いることが好ましい。
核移植胚は、常法により作成することができる。例えば、レシピエント卵子の透明帯と卵細胞質の間(囲卵腔)にドナー細胞を挟み込み、電気パルスを与えることでレシピエント卵子とドナー細胞との細胞融合を引き起こすことにより、核移植卵を作成できる。電気パルスの負荷は、細胞融合培地中で行うことが好ましい。レシピエント卵子・ドナー細胞に適切な電気パルスを与えるとほとんどの細胞は1時間以内に融合する。
細胞融合させた卵を、組織培養液中でさらに培養し、胚盤胞まで成長させる。このため、組織培養液中でカルシウムイオノフォア処理(例えば、5分間)を施して卵の活性化を誘起し、さらにシクロヘキシミド及びサイトカラシンDを含む培養液で卵を培養(例えば、5時間の培養)することにより卵の活性化をより確実なものとすることができる。活性化処理した卵(核移植卵)は、卵培養液中で、例えば、37℃〜39℃で培養する。培養の際の気相は、限定するものではないが、例えば5% O2・5% CO2・90%N2が好ましい。培養することにより、核移植卵は、受精卵と同様の細胞分裂を開始する。ウシ由来の核移植卵の場合、活性化処理から5日〜7日後には胚盤胞への発生が認められる。
胚盤胞に成長した核移植胚は、通常は、受胚動物(例えば、受胎ウシ)の子宮に移植する。核移植胚を受胎した動物からは、所定の妊娠期間及び分娩を経て、クローン動物個体の産子を得ることができる。本発明の方法で得られたクローン動物個体の産子は、極めて良好な発育を示した。すなわち本発明のクローン動物個体の作成方法では卵の状態を非常に良好に保つことができることが示された。
以下、実施例により本発明を説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕ウシ発育途上卵母細胞の体外発育
ウシの卵巣をPBSで洗浄した後、表面から1〜2 mmの厚さで組織片を切り離して、4% ポリビニルピロリドン(PVP、平均分子量360,000)及び100 μg/mlピルビン酸ナトリウム(シグマ製)を含むHEPES緩衝MEM(pH7.2、ニッスイ製;組織培養液)に浸漬した。実体顕微鏡下で、手術用刃を用いて直径0.5〜0.8 mmの発育途上卵胞を切り出し、卵胞分離用の新鮮な組織培養液に移した。次いで、卵胞の基底膜内部に達する切れ込みを入れ、開口部の反対側をピンセットで押すことにより、卵母細胞、卵丘細胞及び顆粒膜細胞の複合体を卵胞外へ放出させた。
採取した複合体中にある卵母細胞の直径を測微接眼レンズを用いて測定した。正常な形態の卵母細胞・卵丘細胞の複合体のみを選別し、以下の培養に供した。培養に供した複合体中の卵母細胞の直径は90〜105μm(平均99.6 μm)であり、これらは発育途上卵母細胞である。
卵母細胞・卵丘細胞の複合体の体外発育に用いる培養液の調製には、基本となる組織培養液として、5%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン製)、2 mM ヒポキサンチン、100 μg/ml ピルビン酸ナトリウム、80 μg/ml カナマイシン、20 ng/ml アンドロステンジオン(以上、シグマ製)、50 μg/ml アスコルビン酸2グリコシド(林原製)、0.5% StemPro nutrient及びMEMビタミンミックス(ギブコ製)を添加したM-199培養液(シグマ製)を用いた。4% PVP(平均分子量360,000、シグマ製)をその基本培養液に添加した。実験区では、BMP7(Bone morphogenetic protein 7;骨形成因子7)の効果を調べるためにBMP7(R & Dシステム製)を0、0.5、5又は50 ng/mlの濃度で培養液に添加した。
培養皿として、ファルコン#1007(ベクトンディッキンソン製)の中にメンブレン(商品名ミリセル、ミリポア製)を装着して用いた。あらかじめミリセルの内側及び外側にそれぞれ1 ml及び5 mlの上記培養液を加えて、38.5℃、5% O2・5% CO2・90% N2の条件のインキュベータで平衡させた。卵母細胞・卵丘細胞の複合体を、培養皿のメンブレン上に導入し、インキュベータに移して培養を開始した。培養3日後に38.5℃、5% CO2・95% 空気の条件に整えたインキュベータに培養皿を移動させた。培養期間は合計で14日間とし、3日に一度、培養液の半分を新鮮なものに交換した。卵母細胞・卵丘細胞の複合体中の卵母細胞の培養14日後の直径も、測微接眼レンズを用いて測定した。
培養液へのBMP7の添加の有無が培養中の卵母細胞の直径に及ぼす影響を図1に示す。培養14日後の卵母細胞の平均直径は無添加区の114.7 μmに対し、5 ng/ml BMP7添加区において117.8 μm、50 ng/ml添加区において117.8 μmと有意に高い値を示した(図1)。このことは、BMP7が発育途上卵母細胞の発育促進に寄与したことを示している。この結果をもとに、以降の全ての実験は5 ng/ml BMP7を添加した培養液を用いて行った。
培養の進行に伴う卵母細胞・卵丘細胞の複合体の形態変化を図2に示す。図2のA、Bはそれぞれ培養の6日後、14日後の複合体の形態を示す。個々の複合体は、卵母細胞を顆粒膜細胞が取り囲みながら増殖し、培養14日後には生体内の卵胞構造に類似のドーム構造を形成した(図2C)。このドームを切り開くことにより、卵丘細胞に包まれた状態の卵母細胞を回収することができた。488個の複合体を培養し、培養14日後に生存し卵丘細胞に包まれていた卵母細胞は461個(94.5%)であった。卵母細胞の直径は、培養開始時の平均99.6 μmから培養後は118.8 μmへと増大した。
このように、発育途上卵母細胞を最大直径付近まで体外発育させることに成功した。最大直径付近まで発育させたこの卵母細胞では、成熟を開始する準備が整っていると思われた。
〔実施例2〕ウシ体外発育卵母細胞の体外成熟におけるCDK1阻害薬及びジホスホエステラーゼ阻害薬を併用した成熟時期の同期化及び成熟促進
実施例1において卵母細胞を体外発育させた後、卵母細胞・卵丘細胞の複合体を回収し(図3A)、それらの体外成熟を以下のようにして誘起した。
体外発育させた後に回収した卵母細胞・卵丘細胞の複合体を、成熟用培養液中で培養した。成熟用培養液の基本となる培養液として、5% FBS、100 μg/ml ピルビン酸ナトリウム、80 μg/ml カナマイシン、0.55 mM システイン(シグマ製)、300 μg/ml myo-イノシトール(シグマ製)、200 μM アスコルビン酸2グリコシドを添加したM-199培養液を用いた。成熟を誘起するために、この培養液に、100 ng/ml の卵胞刺激ホルモン(FSH、米国NIDDK)及び500 ng/ml の黄体刺激ホルモン(LH、米国NIDDK)、さらに10 ng/mlのEGF(UBI製)を添加した。それと同時に、卵母細胞集団の成熟を抑制する目的で、培養液に100 μM ミルリノン及び12.5 μM ロスコビチンを添加した。ミルリノンはcAMP分解酵素ジホスホエステラーゼを阻害してcAMP濃度を上昇させる薬剤であり、ロスコビチンはCDK1(CDC2とも呼ぶ)の阻害剤である。培養を行うインキュベータ内の環境は、38.5℃、5% CO2・95% 空気とした。
このようなFSH、LH及びEGFによる卵母細胞の成熟誘起処理と、ミルリノン及びロスコビチンによる成熟抑制処理を同時に行う状態を16時間継続した。その後、ロスコビチンとミルリノンを添加していない培養液(5% FBS、100 μg/ml ピルビン酸ナトリウム、80 μg/ml カナマイシン、0.55 mM システイン(シグマ製)、300 μg/ml myo-イノシトール(シグマ製)、200 μM アスコルビン酸2グリコシド、及び(不可欠な成分ではないが)0.01 μg/ml 細胞透過型アデニル酸シクラーゼを添加した、M-199培養液)に細胞を移して20〜21時間の培養を行い、卵母細胞の成熟を促したところ、卵丘細胞の著しい膨潤化が認められた(図3B)。膨潤化した卵丘細胞によって包まれた卵母細胞を回収し、ヒアルロニダーゼを使って卵丘細胞を卵母細胞から除去した。その結果、一部の卵母細胞において、成熟の指標である第一極体の放出が確認された(図3C)。なお成熟が誘起されたことから、実施例1で実施した体外発育は十分に完了していたことが裏付けられる。
ミルリノン及びロスコビチン処理によって成熟が実際に抑制されていたか否かを調べるために、それらを含む培養液中で16時間培養した後に卵母細胞を固定し、クロマチンを染色して減数分裂のステージを確認した。図4Aで示されている通り、16時間の成熟抑制処理直後には90%以上の卵母細胞は卵核胞期(GV期)に留まっており、成熟が効果的に抑制されていることが明らかであった。一方、培養開始と同時に成熟が誘起される場合には、16時間後にはウシ卵母細胞は少なくとも減数分裂の第一分裂中期に到達しているのが普通である。ロスコビチンとミルリノンを含まない培養液に卵母細胞を移して10時間後に固定、染色したところ、約90%程度の卵母細胞は減数分裂の第一分裂中期へとシフトしていた(図4B)。また、さらにその10時間後では、半数以上の卵母細胞は減数分裂の第二分裂中期へと進んでいた(図4C)。
図4に示す結果から、ロスコビチンとミルリノンを用いた処理によってウシ体外発育卵母細胞の成熟を効果的に抑制出来ること、そしてその後の成熟の開始によって卵母細胞群の成熟を同調させることが可能であることが明らかとなった。
さらに、成熟抑制期間を設けることにより、体外発育後直ちに成熟を開始させた場合に比べて、有意に第一極体の放出率が向上した(図5)。このようにして第一極体を放出させた卵母細胞を、レシピエント卵子の候補とし、除核作業に供した。
〔実施例3〕レシピエント卵子の作成、卵子への核移植、胚の作成及び胚移植
実施例2の操作で体外発育及び体外成熟させた卵母細胞を得たのち、それを20% FBS及びサイトカラシンDを含むHEPES緩衝M-199培養液に移した。マイクロマニュピレータを用いて卵母細胞の第一極体に接する部分の細胞質の一部を第一極体とともに除去し、除去した細胞質小片にDNAが含まれていることをヘキスト染色によって確認した。核DNAの含有が確認できた細胞質小片が由来する卵細胞質を、除核されたものとし、レシピエント卵子として用いた。卵子の除核成功率は約70%であった。
ドナー細胞としては、食肉処理場で採取した黒毛和種の卵巣由来の卵丘細胞を継代培養したものを用いた。使用時までにコンフルエントの状態になるように調整し、使用直前にトリプシンで分散させた。
レシピエント卵子とドナー細胞を20% FBS、ピルビン酸ナトリウム、フィトヘマグルチニン及びサイトカラシンDを含むHEPES緩衝M-199培養液に移し、マイクロマニュピレータを使ってレシピエント卵子の透明帯と卵細胞質の間にドナー細胞1個を挟んだ。次いで、Zimmermann cell fusion液にそれらの卵を移し、LF101融合装置(ネッパジーン社)を使って30 V/mm、10 μ秒の直流パルス1回を与え、MEM中に1時間静置し、融合させた。融合率はおよそ80%〜90%であった。融合が確認できた卵を10%FBSとピルビン酸ナトリウムを含むHEPES緩衝M-199培養液に移した。
続いて、5 μM カルシウムイオノフォアで卵を活性化させた後、シクロヘキシミド、サイトカラシンD及びウシ血清アルブミンを添加したHEPES緩衝M-199に移し、38.5℃、5% O2・5% CO2・90% N2の条件で5時間培養することによって、さらなる活性化処置を施した。
以上の操作で活性化処理を施した卵を受精卵培養液(mSOF培養液)に移し、38.5℃、5% O2・5% CO2・90% N2の気相で、高湿度の条件に整えたインキュベータにおいて培養した。融合した卵のうち83.7%(154/184)が分割し、培養7日後には29.3%(54/184)が胚盤胞へと発生した(図6A)。胚盤胞のステージへと進んだ核移植胚11個(そのうちガラス化・再加温胚3個)を個別に受胚牛に胚移植した結果、新鮮胚を移植したうちの1頭(黒毛和種)が受胎し、278日目に45 kgのメスの仔ウシの分娩が確認された(図6B)。
これは体外発育させた卵母細胞由来のレシピエント卵子から誕生した世界初の哺乳類のクローン個体である。なお、産子が得られた核移植胚に使用したレシピエント卵子は交雑種由来である。発育は極めて良好である。
本発明の方法を用いれば、従来レシピエント卵子の供給源として考慮されなかった発育途上の卵母細胞を用いて優良なレシピエント卵子を作成でき、それを用いて効率良く胚移植胚を作成し、クローン産子を得ることができる。

Claims (7)

  1. 非ヒト哺乳類の発育途上卵母細胞とその周囲の体細胞との複合体を、骨形成因子7(BMP7)を含む培養液での培養に供して卵母細胞の発育を完了させ、次いで体外成熟を誘起し、除核してレシピエント卵子を調製し、これを用いて作成した核移植胚から非ヒト哺乳類のクローン動物個体を作成する方法。
  2. 発育を完了させた卵母細胞に、成熟誘起処理と核成熟抑制処理を行った後、核成熟を開始させる、請求項1に記載の方法。
  3. 核成熟抑制処理が、cAMP濃度上昇剤を用いた処理である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 核成熟抑制処理が、cAMP濃度上昇剤とCDK1阻害剤とを用いた処理である、請求項3に記載の方法。
  5. cAMP濃度上昇剤がミルリノンであり、CDK1阻害剤がロスコビチンである、請求項4に記載の方法。
  6. 発育途上卵母細胞が、卵母細胞の最大直径の70〜85%の直径を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 非ヒト哺乳類がウシである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
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