JP2012194024A - 銀メッキ層溶解液及び銀メッキ層溶解方法、並びに銀メッキ層含有元素の定量方法 - Google Patents

銀メッキ層溶解液及び銀メッキ層溶解方法、並びに銀メッキ層含有元素の定量方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 銀メッキ層が形成された金属母材の溶解を抑制して銀メッキ層のみを選択的に溶解し、人体や環境に対する安全性が高く、効率的にかつ高い精度で銀メッキ層に含有する元素の定量分析を行うことができる銀メッキ層溶解液及び銀メッキ層溶解方法、並びに銀メッキ層含有元素の定量方法を提供する。
【解決手段】 銀以外の金属母材の表面に銀メッキ層が形成された被処理物を、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する溶解液に浸漬させる。好ましくは、カルボン酸の含有量を10ml/l以上100ml/l以下とし、過酸化水素の含有量を900ml/l以上990ml/l以下とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、銀メッキ層溶解液及び銀メッキ層溶解方法、並びに銀メッキ層含有元素の定量方法に関する。特に、金属母材の溶解を抑制して母材表面上に形成された銀メッキ層を選択的に溶解することができる銀メッキ層溶解液及びその溶解方法、並びに溶解した銀メッキ層に含まれる元素を定量分析する銀メッキ層含有元素の定量方法に関する。
半導体基材に使用されるリードフレームは、銅合金(Cu−Fe−Pなど)や鉄合金(Fe−42%Niなど)等のように、機械的強度、電気伝導度、熱伝導度、耐食性の優れた母材が使用されている。そして、それらの母材には、半導体素子とのボンディング部の接続抵抗を低下させるためのインナーリード部のほか、中央のダイパッド部に半導体素子を接着するための前処理として銀メッキが施されている。
2006年7月1日に、EU(欧州連合)が特定有害物質規制であるRoHS指令を施行した。その内容は、電気・電子機器への特定有害物質の含有を禁止するもので、規制対象となった物質が、鉛、カドミウム、6価クロム、水銀、PBB(ポリブロモビフェニル)、PBDE(ポリブロモジフェニルエーテル)の6物質である。
このRoHS指令は、機器メーカーだけでなく、部品メーカーや材料メーカー等、エレクトロニクス業界全体に大きな影響を及ぼしている。上述の6物質を含有した製品は、EU内では販売できないため、機器メーカーはここ数年で含有禁止物質の管理を厳格にした。具体的には、部品メーカーや材料メーカー等の取引先の設計工程や製造工程を調査するとともに、メーカーに対して、部品納入時に特定有害物質が含まれていないことを証明する定量的な分析データの提出を求めている。
そのため、リードフレームにおいても、母材のみならず、前処理によって母材表面に形成された銀メッキ層に含まれる特定有害物質をはじめとする不純物含有濃度を、数ppmレベルで正確に把握することが必要となっている。
近年、各種メッキ層の分析には、X線回折装置(XRD)や蛍光X線装置(XRF)等の機器分析手法が適用され、オンライン分析法として広く活用されている。しかしながら、これら機器による定量値の決定には、化学分析での標準化が必要となるほか、数ppmレベルの微量分析は極めて困難である。
化学分析による手法では、通常、メッキ層を溶解した後に、その溶解液を定量する方法が行われている。しかしながら、メッキ層のみを溶解しようとして硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸に分析サンプルを浸漬すると、ほとんどの場合はメッキ層だけでなく母材も一緒に溶解されてしまう。逆に、母材のみを溶解しようとしても、同様の問題が発生する。このため、一般的には、メッキ層の種類に合った薬剤により特殊な溶解液を作製し、メッキ層のみの溶解を試みることが多い。
ところが、銀メッキ層に関しては、機器分析手法や化学分析手法として確立されたものが無く、工業的に、銀メッキ層を剥離処理する方法や銀メッキ層に対する表面処理方法等が提案されているに過ぎない。例えば、リードフレームの銀メッキ層に対する剥離処理方法や表面処理方法としては、特許文献1〜5に示された技術がある。
しかしながら、これら特許文献に記載の技術は、銀メッキ層に含有される元素の定量分析に適用する上で、以下のa)〜d)に示す何れかの問題点を有する。
a)銀メッキ層が形成された母材の溶解抑制効果が不十分であり、大面積を有す母材表面が銀メッキ層とともに、同程度に又はそれ以上に溶解されてしまい、銀メッキ層に含有される物質の正確な分析ができない。
b)また、銀メッキ層を剥離溶解するための溶解液に多種の薬剤が含有されているので、塩濃度が高くなり、溶解後の分析サンプルを誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置や誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)等の分析装置に導入するにあたり、目的元素の測定下限(信頼出来る測定値の下限)の上昇や、干渉(化学干渉、物理干渉、分光干渉及びスペースチャージ効果)が問題となり、正確な分析ができない。特に酷い場合は、溶解液中の成分が分析サンプル導入経路に詰まり、測定自体が不可能となるという問題も生じる。
c)また、銀メッキ層を電解処理により剥離する場合、当然に電解装置が必要となり、効率的な分析ができない。さらに、電解処理が必要な分だけ定量操作が煩雑となり、簡便性が失われる。
d)また、例えば溶解液中にシアン化カリウムを含有させている場合、シアン化カリウムは医薬用外毒物であって毒性がかなり強く、溶解液が酸性側になると青酸ガス(猛毒)を発生することになる。この青酸ガスが体内に取り込まれると細胞内呼吸を阻害する低酸素状態をもたらし各種組織の機能障害を与える可能性があるため、安全性に問題があるほか、取扱いや保管管理に十分な注意を要し、効率的な分析ができない。
特開平03−232980号公報 特開平06−041800号公報 特開平10−140389号公報 特開2000−345400号公報 特開2002−030500号公報
そこで、本発明は、上述した従来の実情を鑑みて提案されたものであり、銀メッキ層が形成された金属母材の溶解を抑制して銀メッキ層のみを選択的に溶解し、人体や環境に対する安全性が高く、効率的にかつ高い精度で銀メッキ層に含有する元素の定量分析を行うことができる銀メッキ層溶解液及び銀メッキ層溶解方法、並びに銀メッキ層含有元素の定量方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する溶解液を用いることによって、銅合金等の金属母材の溶解を抑制し、金属母材の表面にコーティングされた銀メッキ層のみを選択的に溶解することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る銀メッキ層溶解液は、銀以外の金属母材の表面に形成された銀メッキ層を溶解する銀メッキ層溶解液であって、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有することを特徴とする。
また、本発明に係る銀メッキ層溶解方法は、銀以外の金属母材の表面に銀メッキ層が形成された被処理物を、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する溶解液に浸漬させる。
また、本発明に係る銀メッキ層含有元素の定量方法は、銀以外の金属母材の表面に銀メッキ層が形成された被処理物を、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する溶解液に浸漬させる銀メッキ層溶解工程と、上記銀メッキ層溶解工程にて溶解した銀メッキを分析装置に導入し、該銀メッキに含まれる元素濃度を定量する元素濃度定量工程とを有する。
本発明に係る銀メッキ層溶解液によれば、銅合金や鉄合金等の母材を構成する金属の溶解を抑制し、母材の表面にコーティングされた銀メッキ層のみを選択的に溶解することができる。そして、この溶解液を用いて銀メッキ層のみを溶解させることによって、高い精度で銀メッキ層に含有される元素の定量分析を行うことができる。
また、塩濃度が低いため、分析装置に導入する上で検出下限の上昇等を引き起こすことなく、低濃度の元素であっても高い精度で定量分析を行うことができる。さらに、安全性が高い薬剤を使用しているため、人体や環境に対する影響がない。
カルボン酸化合物の含有量(ml/l)を変化させたときの銀メッキ層溶解時間(min)を示すグラフである。 カルボン酸化合物の含有量(ml/l)を変化させたときの母材(銅)溶出量(%)を示すグラフである。 過酸化水素の含有量(ml/l)を変化させたときの銀メッキ層溶解時間(min)を示すグラフである。 過酸化水素の含有量(ml/l)を変化させたときの母材(銅)溶出量(%)を示すグラフである。 カルボン酸化合物と過酸化水素の含有量(ml/l)を変化させたときの銀メッキ層溶解時間(min)を示すグラフである。 カルボン酸化合物と過酸化水素の含有量(ml/l)を変化させたときの母材(銅)溶出量(%)を示すグラフである。
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態に係る銀メッキ層溶解液及び銀メッキ層溶解方法、並びに銀メッキ層含有元素の定量方法は、本発明の要旨を変更しない限りにおいて、適宜変更することができる。
(銀メッキ層溶解液)
本実施の形態に係る銀メッキ層溶解液は、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する。この銀メッキ層溶解液は、銅合金、鉄合金、金合金、ニッケル合金等の銀又は銀合金以外の金属からなる母材の表面上に銀メッキ層が形成された、例えばリードフレーム等の電子部品を被処理物として好適に用いられるものである。
具体的に、銀メッキ層溶解液を構成するカルボン酸化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば酢酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、アミノ酸等が挙げられる。
また、過酸化水素は、上述したカルボン酸化合物の希釈溶媒となり、銀メッキ層溶解液中においては、この過酸化水素が上述したカルボン酸化合物と反応することによって、過カルボン酸(ぺルオキシカルボン酸)を生成させる。
このように、本実施の形態に係る銀メッキ層溶解液は、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有させ、それら化合物を溶液中において反応させることによって過カルボン酸を生成させることを特徴とする。銀メッキ層溶解液は、このようにして生成した過カルボン酸によって、母材を構成する金属の溶出を抑制して、効果的に銀メッキ層のみを溶解させる。
なお、銀メッキ層溶解液には、希釈溶媒として、過酸化水素とともに水を含有させるようにしてもよい。また、この銀メッキ層溶解液は、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有させる代わりに、例えば純品の過カルボン酸を水に添加するようにして構成してもよい。
ここで、銀メッキ層溶解液中におけるカルボン酸化合物と過酸化水素のそれぞれの含有量としては、溶液中において効果的に過カルボン酸を生成させることができれば特に限定されないが、好ましくは、カルボン酸化合物の含有量を10ml/l以上100ml/l以下とし、過酸化水素の含有量を900ml/l以上990ml/l以下とする。カルボン酸化合物及び過酸化水素の含有量を、上述した範囲で含有させることによって、銅合金等の金属母材の表面に形成された銀メッキ層のみを迅速に溶解させることができ、また母材を構成する金属の溶出をより効果的に抑制させることができ、より一層に高い精度で銀メッキ層に含有された元素の定量分析を行うことができる。
以上のように、本実施の形態に係る銀メッキ層溶解液は、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有することを特徴とし、上述したような銅合金等の金属母材の表面上に銀メッキ層が形成された電子部品等の被処理物に対して、この銀メッキ層溶解液を用いることによって、母材を構成する金属の溶出を効果的に抑制しながら、金属母材の表面に形成された銀メッキ層のみを選択的に溶解させることができる。
また、この銀メッキ層溶解液は、比較的安全性の高い化合物のみからなるため、人体や環境に対する影響がなく、安全に使用できるほか、排気設備や排気工程を設ける必要がないため、簡易に銀メッキ層のみを溶解することができる。
さらに、上述のように、この銀メッキ層溶解液を用いることにより、母材を構成する金属の溶出が効果的に抑制できるので、溶解した銀メッキ層を分析装置に導入することにより、銀メッキ層のみに含有する元素を効果的にかつ高い精度で定量分析することができる。しかも、銀メッキ層溶解液中における塩濃度が低いため、分析装置に導入するに際しても、検出下限の上昇や測定不能等を引き起こすことがなく、低濃度の元素であっても高い精度で定量分析を行うことができる。
(銀メッキ層溶解方法及び銀メッキ層含有元素の定量方法)
次に、本実施の形態に係る銀メッキ層溶解液を用いた銀メッキ層溶解方法と、溶解した銀メッキ層に含まれている元素の定量方法について具体的に説明する。
銀メッキ層溶解方法は、上述した銀メッキ層溶解液、すなわち、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する銀メッキ層溶解液を用いて、その銀メッキ層溶解液中に、銅合金、鉄合金、金合金、ニッケル合金等の金属母材の表面上に銀メッキ層が形成された被処理物を浸漬させる。
このとき、被処理物において、銅合金等の金属母材側、すなわち金属母材が露出している箇所を固形樹脂等を用いて被覆することが好ましい。このようにして金属母材が露出した箇所を固形樹脂等で被覆した状態で銀メッキ層溶解液中に浸漬させることによって、金属母材と溶解液との接触を妨げ、より効果的に母材を構成する金属の溶出を抑制させることができ、銀メッキ層のみを迅速に溶解させることができる。
例えば、金属母材の露出箇所を被覆するための固形樹脂としては、耐薬品性を有するものであれば特に限定されないが、酸化プロピレン、酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン等を用いることができる。また、固形樹脂の被覆方法としては、特に限定されず、例えば、固形樹脂を加熱して溶かした状態でヘラ等を用いて露出している金属母材の表面に塗布することによって被覆する方法等を挙げることができる。
被処理物と銀メッキ層溶解液との接触は、銀メッキ層が略全て溶解し母材金属が露出するまで行う。これにより、溶解した銀メッキ層に含まれる元素の定量分析精度をより一層に高めることができる。なお、銀メッキ層が溶解して金属母材が露出することは、目視により十分に確認することが可能である。
また、溶解温度としては、特に限定されず、例えば室温において行うことができる。
このようにして、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する銀メッキ層溶解液に、銅合金等の金属母材の表面に銀メッキ層が形成された被処理物を、より好ましくはその金属母材が露出した箇所を固形樹脂で被覆した状態で浸漬させることによって、その母材を構成する金属の溶出を抑制して、銀メッキ層のみを効果的に溶解させることができる。
そして、この銀メッキ層溶解方法によって溶解させた銀メッキは、銅合金等の金属の溶出が効果的に抑制され、母材に含まれていた元素の混入がほとんどない。そのため、溶解させた銀メッキを分析装置に導入することにより、銀メッキに含有されている元素の分析を高い精度で行うことができる。
ここで、元素の定量分析に際して使用する分析装置としては、その分析目的に応じて適宜選択すればよいが、例えばICP発光分析装置やICP−MS等の分析装置を用いることができる。これらICP発光分析装置やICP−MS等の分析装置を用いることによって、簡便かつ高い精度で、銀メッキ層に含まれていた元素の定量を行うことができる。
定量分析対象としては、銀メッキ層中に含まれる鉛、カドミウム、6価クロム等を挙げることができる。これら元素は、特定有害物質規制の対象となっている環境負荷物質であり、上述した銀メッキ層含有元素の定量方法を用いることによって、数ppmレベルの高い精度で、それら元素の定量分析を行うことができる。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、銀メッキ層溶解処理対象として、金属母材の表面に銀メッキ層が形成された銅合金リードフレームから分析用として切断した銅合金リードフレーム片(母材寸法:7mm×7mm×0.2mm、銀メッキ層厚さ:3.5μm)を使用した。
下記に示す各実施例及び比較例では、所定の銅合金リードフレームの同一箇所から等間隔に切断して得られた銅合金リードフレーム片を使用している。そのため、各銅合金リードフレーム片の重量及び組成に大差はなく、略同一となっている。具体的に、表1に、銅合金リードフレームの同一箇所から等間隔で切断した銅合金リードフレーム片の一例を示す(なお、表1中の各元素含有量は、酸分解−ICP法で求めた。)。この表1からも分かるように、各銅合金リードフレーム片は、その重量及び組成に大きな差はなく、略同一である。各実施例及び比較例では、この表1に示す銅合金リードフレーム片と同様のものを使用したことにより、各銅合金リードフレーム片の重量及び組成は略同一である。
Figure 2012194024
(実施例1)
実施例1では、銀メッキ層溶解液として、カルボン酸化合物である酢酸と過酸化水素と水との混合溶媒を用い、過酸化水素の含有量は500ml/lで固定し、酢酸の含有量を50ml/l以上500ml/l以下の範囲で変化させて、下記表2に示す検体1〜5を用意した。
被処理物としては、表1に一例を示した銅合金リードフレーム片と同様の銅合金リードフレーム片を使用し、金属母材である銅合金が露出した箇所を酸化プロピレン(固形樹脂)で被覆したものと被覆しないものとを、上述した酢酸含有量の異なる各銀メッキ層溶解液につき(各1検体につき)、それぞれ1枚ずつ用意した。
固形樹脂で金属母材を被覆した銅合金リードフレーム片と被覆しない銅合金リードフレーム片とをそれぞれ1枚ずつ上述の銀メッキ層溶解液2mlに浸漬させ、銀メッキ層が目視で完全に消失するまで室温で溶解させて、その完全に溶解するまでの時間を測定した。また、溶解した銀メッキ層を水と硝酸水溶液で希釈した後、ICP発光分析装置(Vista-Pro、バリアン社製)を用いて銅及び銀を定量測定し、母材である銅の溶出量と銀の溶解量を調べた。以下の表2、図1及び図2に、測定結果を示す。なお、表2において、母材(銅)溶出量は、実際の溶出量(mg)とその溶出量の銅合金リードフレーム片重量に対する割合(%)を示す。
Figure 2012194024
測定結果に示されるように、50ml/l以上500ml/l以下の範囲の何れの含有量条件で酢酸を含有させた場合であっても、その酢酸と過酸化水素とを含有した銀メッキ層溶解液を用いることによって、母材である銅の溶出量を2.37mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の2.79%以下)とすることができ、銅の溶出をほとんど抑制することができた。そして特に、酢酸の含有量を100ml/l以下とすることによって、銅の溶出量を0.83mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の0.98%以下)とすることができ、略確実に銅の溶出を抑制することができた。
銀の溶解量は、どの条件においても1.80〜1.90mg(銅合金リードフレーム片の重量の2.1〜2.3%)であり、目視で確認した通り、銀メッキ層は完全に溶解していた。また、銀メッキ層の溶解時間も、約60分以内で溶解させることができ、特に酢酸の含有量を100ml/l以下とした場合においては、約20分以内で溶解させることができた。
また、測定結果から、銀メッキ層溶解液中において、所定量の過酸化水素に対して酢酸含有量の割合が少ないほど、銅の溶出を効果的に抑制させることができ、また銀メッキ層を完全に溶解させるまでの溶解時間も短くなることがわかった。
また、図1及び図2から明らかなように、銅合金からなる母材を固形樹脂で被覆した場合の方が、被覆しない場合よりも、その銅の溶出量を効果的に抑制させることができ、銀メッキ層の溶解時間も短くなることがわかった。
(実施例2)
実施例2では、銀メッキ層溶解液として、カルボン酸化合物である酢酸と過酸化水素と水との混合溶媒を用い、酢酸の含有量は50ml/lで固定し、過酸化水素の含有量を100ml/l以上950ml/l以下の範囲で変化させて、下記表3に示す検体6〜10を用意した。
被処理物としては、実施例1と同様に、金属母材である銅合金が露出した箇所を酸化プロピレン(固形樹脂)で被覆した銅合金リードフレーム片と被覆しない銅合金リードフレーム片とを、上述した過酸化水素含有量の異なる各銀メッキ層溶解液につき(各1検体につき)、それぞれ1枚ずつ用意した。
実施例1と同様に、それぞれの銅合金リードフレーム片1枚ずつを上述の銀メッキ層溶解液2mlに浸漬させ、銀メッキ層が目視で完全に消失するまで室温で溶解させて、その完全に溶解するまでの時間を測定した。また、溶解した銀メッキ層を水と硝酸水溶液で希釈した後、ICP発光分析装置(Vista-Pro、バリアン社製)を用いて銅及び銀を定量測定し、母材である銅の溶出量と銀の溶解量を調べた。以下の表3、図3及び図4に、測定結果を示す。なお、表3において、母材(銅)溶出量は、実際の溶出量(mg)とその溶出量の銅合金リードフレーム片重量に対する割合(%)を示す。
Figure 2012194024
測定結果に示されるように、100ml/l以上950ml/l以下の範囲の何れの含有量条件で過酸化水素を含有させた場合であっても、その酢酸と過酸化水素とを含有した銀メッキ層溶解液を用いることによって、母材である銅の溶出量を1.07mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の1.26%以下)とすることができ、銅の溶出をほとんど抑制することができた。そして特に、酢酸の含有量を900ml/l以上とすることによって、銅の溶出量を0.11mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の0.13%以下)とすることができ、略確実に銅の溶出を抑制することができた。
銀の溶解量は、実施例1と同様の結果となり、目視で確認した通り、銀メッキ層は完全に溶解していた。また、銀メッキ層の溶解時間も、約60分以内で溶解させることができ、特に酢酸の含有量を900ml/l以上とした場合においては、約3分以内で溶解させることができた。
また、測定結果から、銀メッキ層溶解液中において、所定量の酢酸に対して過酸化水素含有量の割合が多いほど、銅の溶出を効果的に抑制させることができ、また銀メッキ層を完全に溶解させるまでの溶解時間も短くなることがわかった。
また、図3及び図4から明らかなように、銅合金からなる母材を固形樹脂で被覆した場合の方が、被覆しない場合よりも、その銅の溶出量を効果的に抑制させることができ、銀メッキ層の溶解時間も短くなることがわかった。
(実施例3)
実施例3では、銀メッキ層溶解液として、カルボン酸化合物である酢酸と過酸化水素との混合溶媒を用い、下記表4に示すように、酢酸の含有量を0ml/l以上200ml/l以下の範囲で変化させるとともに、過酸化水素の含有量を800ml/l以上1000ml/l以下の範囲で変化させて、下記表4に示す検体11〜17を用意した。
被処理物としては、実施例1及び2と同様に、金属母材である銅合金が露出した箇所を酸化プロピレン(固形樹脂)で被覆した銅合金リードフレーム片と被覆しない銅合金リードフレーム片とを、上述した酢酸含有量及び過酸化水素含有量の異なる各銀メッキ層溶解液につき(各1検体につき)、それぞれ1枚ずつ用意した。
実施例1及び2と同様に、それぞれの銅合金リードフレーム片1枚ずつを上述の銀メッキ層溶解液2mlに浸漬させ、銀メッキ層が目視で完全に消失するまで室温で溶解させて、その完全に溶解するまでの時間を測定した。また、溶解した銀メッキ層を水と硝酸水溶液で希釈した後、ICP発光分析装置(Vista-Pro、バリアン社製)を用いて銅及び銀を定量測定し、母材である銅の溶出量と銀の溶解量を調べた。以下の表4、図5及び図6に、測定結果を示す。なお、表4において、母材(銅)溶出量は、実際の溶出量(mg)とその溶出量の銅合金リードフレーム片重量に対する割合(%)を示す。
Figure 2012194024
測定結果に示されるように、酢酸を10ml/l以上200ml/l以下の範囲で含有させ、かつ、過酸化水素を800ml/l以上990ml/lの範囲で含有させた銀メッキ層溶解液を用いることによって、母材である銅の溶出量を1.55mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の1.82%以下)とすることができ、銅の溶出をほとんど抑制することができた。特に、酢酸の含有量を10ml/l以上100ml/l以下とし、過酸化水素の含有量を900ml/l以上990ml/l以下とすることによって、銅の溶出量を0.73mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の0.86%以下)とすることができた。そしてさらに、酢酸の含有量を10ml/l以上50ml/l以下とし、過酸化水素の含有量を950ml/l以上990ml/l以下とすることによって、銅の溶出量を0.10mg以下(銅合金リードフレーム片の重量の0.12%以下)とすることができ、略確実に銅の溶出を抑制することができた。
銀の溶解量は、実施例1及び2と同様の結果となり、目視で確認した通り、銀メッキ層は完全に溶解していた。また、銀メッキ層の溶解時間も、約30分以内で溶解させることができた。
また、図5及び図6から明らかなように、銅合金からなる母材を固形樹脂で被覆した場合の方が、被覆しない場合よりも、その銅の溶出量を効果的に抑制させることができ、銀メッキ層の溶解時間も短くなることがわかった。
一方で、酢酸の含有量が0ml/lとし、過酸化水素の含有量を1000ml/lとした場合、及び、酢酸の含有量が1000ml/lとし、過酸化水素の含有量を0ml/lとした場合では、銀メッキ層は全く溶解せず、また母材の銅も溶解しなかった。このことから、銀メッキ層溶解液中に含有される化合物が、カルボン酸化合物単独、又は過酸化水素単独の場合では、金属母材である銅の溶出を抑制して銀メッキ層のみを効果的に溶解させることができないことがわかった。
(実施例4)
実施例4では、銀メッキ層溶解液によって溶解させた銀の溶解量及び母材を構成する銅の溶出量を測定するとともに、銅合金リードフレーム片に形成された銀メッキ層に含まれる微量元素の定量分析を試みた。
銀メッキ層溶解液としては、上述した実施例3における検体No.12と同様に、カルボン酸化合物である酢酸10ml/l、及び過酸化水素990ml/lとを含有した銀メッキ層溶解液を用意した。
被処理物(サンプル)としては、表1に一例を示した銅合金リードフレームと同様の銅合金リードフレーム片を12枚(サンプル合計量1025mg)使用し、12枚全ての銅合金リードフレーム片に対し、金属母材である銅合金が露出した箇所を酸化プロピレン(固形樹脂)で被覆した。
固形樹脂で金属母材を被覆した銅合金リードフレーム片12枚を、銀メッキ層側が上面となるように100mlガラスビーカーの底に並べ、上述の銀メッキ層溶解液5mlを加えて銅合金リードフレーム片を浸漬させ、銀メッキ層が目視で完全に消失するまで室温で溶解させた。
すると、銀メッキ層は、2〜3分で完全に溶解した。銀メッキ層が全て溶解した銅合金リードフレーム片には、母材である銅のみが残ったので、これを水で洗浄して取り除いた。
次に、溶解した銀メッキ層を約100℃で加熱し、十分に液量を減らした後に、水でスチレン製試験管へ洗い込み、液量を10mlに合わせて密栓し振り混ぜた。これを測定元液とした。そして、その元液を、水及び硝酸水溶液で10倍と100倍に希釈したものを測定サンプル(液性:硝酸1mol/l)とした。
測定は、先ず、上述した測定サンプルを用いて、ICP発光分析装置(Vista-Pro、バリアン社製)により、銀メッキ層溶解液によって溶解した銀の溶解量と銅の溶出量を測定した。表5に、それぞれの測定結果を示す。なお、表5において、銀の溶解量と銅の溶出量は、それぞれ実際の銀の溶解量(mg)及び銅の溶出量(mg)と、その溶解量及び溶出量の12枚の銅合金リードフレーム片総重量に対する割合(%)を示す。
Figure 2012194024
表5に示した結果から明らかなように、銀の溶解量は23.2mgであり、1枚の銅合金リードフレーム片に平均1.85mg含有される銀(銀メッキ)を略完全に溶解させることができた。また、母材である銅の溶出量は0.33mg(銅合金リードフレーム片12枚の総重量の0.1%以下)であり、ほとんど溶出しなかった。
次に、ICP−MS(7500Series、アジレントテクノロジー社製)を使用し、溶解した銀メッキ層中における、特定有害物質である鉛とカドミウムの含有量を測定した。表6に、それら元素の含有量の測定結果を示す。
Figure 2012194024
表6に示した結果から明らかなように、鉛とカドミウムの含有量は、どちらも5ppmの検出下限未満であった。このように、本実施例により、数ppmレベルでの元素濃度の測定が可能であることがわかった。
(比較例1)
比較例1では、被処理物(サンプル)として表1に一例を示した銅合金リードフレーム片と同様の銅合金リードフレーム片を使用し、その銅合金リードフレーム片の母材である銅合金が露出した箇所を酸化プロピレン(固形樹脂)で被覆したものと、銀メッキ層部位を同様の固形樹脂で被覆したものとを、それぞれ1枚ずつ用意した。
比較例1では、これら銅合金リードフレーム片を、5%硝酸水溶液2mlに浸漬し、室温で銀メッキ層のみの溶解を試みた。
その結果、金属母材を固形樹脂で被覆したサンプルは、暫く放置しておくと、瞬時に銀メッキ層が消失したが、その後すぐに母材である銅までも溶出し始めてしまった。また、銀メッキ層部位を固形樹脂で被覆したサンプルでは、母材である銅が2時間程度で完全に溶解した後、瞬時に銀メッキ層が消失した。
なお、銀メッキ層は、瞬時に消失してしまったので、母材である銅が溶出する前に溶解した銀メッキ層のみを取り出すことや、銅が完全に溶解した後に銀メッキ層を取り出すことは困難であった。
このように、比較例1では、母材である銅の溶出を抑制して銀メッキ層のみを溶解させることはできなかった。したがって、銀メッキ層に含有される元素の含有量を測定することは困難となった。
以上のように、本発明に係る銀メッキ層溶解液によれば、銀メッキ層を有する電子材料を分析サンプルとしてこの銀メッキ層溶解液に浸漬することによって、銀メッキ箇所のみを溶解させることができる。そして、溶解した銀メッキ層をICP発光分析装置やICP−MS等の分析装置に導入することで、銀メッキ層中に含まれる特定有害物質規制対象の元素等の含有量を、簡便かつ正確に、しかも数ppmレベルの高い精度で測定することができる。
また、本発明に係る銀メッキ層溶解液を使用することによって、工業的に、銀メッキ層のみを選択的に剥離することや、表面処理や溶解処理等を行うことも可能である。

Claims (10)

  1. 銀以外の金属母材の表面に形成された銀メッキ層を溶解する銀メッキ層溶解液であって、
    カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有することを特徴とする銀メッキ層溶解液。
  2. 上記カルボン酸化合物の含有量が10ml/l以上100ml/l以下であり、上記過酸化水素の含有量が900ml/l以上990ml/l以下であることを特徴とする請求項1記載の銀メッキ層溶解液。
  3. 銀以外の金属母材の表面に形成された銀メッキ層を溶解する銀メッキ層溶解液であって、
    カルボン酸化合物と過酸化水素から生成した過カルボン酸化合物を含有することを特徴とする銀メッキ層溶解液。
  4. 銀以外の金属母材の表面に銀メッキ層が形成された被処理物を、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する溶解液に浸漬させる銀メッキ層溶解方法。
  5. 上記溶解液は、上記カルボン酸化合物の含有量が10ml/l以上100ml/l以下であり、上記過酸化水素の含有量が900ml/l以上990ml/l以下であることを特徴とする請求項4記載の銀メッキ層溶解方法。
  6. 上記被処理物における上記金属母材が露出した箇所を固形樹脂で被覆することを特徴とする請求項4又は5記載の銀メッキ層溶解方法。
  7. 銀以外の金属母材の表面に銀メッキ層が形成された被処理物を、カルボン酸化合物と過酸化水素とを含有する溶解液に浸漬させる銀メッキ層溶解工程と、
    上記銀メッキ層溶解工程にて溶解した銀メッキを分析装置に導入し、該銀メッキに含まれる元素濃度を定量する元素濃度定量工程と
    を有する銀メッキ層含有元素の定量方法。
  8. 上記溶解液は、上記カルボン酸化合物の含有量が10ml/l以上100ml/l以下であり、上記過酸化水素の含有量が900ml/l以上990ml/l以下であることを特徴とする請求項7記載の銀メッキ層含有元素の定量方法。
  9. 上記被処理物における上記金属母材が露出した箇所を固形樹脂で被覆することを特徴とする請求項7又は8記載の銀メッキ層含有元素の定量方法。
  10. 上記分析装置は、誘導結合プラズマ発光分析装置又は誘導結合プラズマ質量分析装置であることを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項記載の銀メッキ層含有元素の定量方法。
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