JP2012159408A - 脆弱試料の引張特性測定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 従来の引張試験では強度測定が困難な脆弱な材料に広く適用可能な引張特性測定方法および引張特性測定装置を提供する
【解決手段】 液中もしくは液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で、荷重測定装置の試料保持部に固定する工程を含む、脆弱試料の引張特性評価方法、および液中もしくは液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で固定する少なくとも2つの試料保持部を含む、脆弱試料の引張特性評価装置。
【選択図】 なし

Description

本発明は、脆弱試料の引張特性測定方法および引張特性測定装置、ならびに引張特性評価用の脆弱試料を作製するための細胞培養容器およびこれを用いた脆弱試料の作製方法などに関する。
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
このような心臓移植の厳しい状況から、一時期、バチスタ手術などの他の外科治療が試みられるようになり、心臓移植の代替治療として大いに注目されるようになったが、最近ではこれらの手術の限界も次第に明らかにされるようになり、手術法の改良や適応の確立への努力が続けられている。
このような状況から、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の開発が進められている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されて細胞死に至るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
細胞の移植方法としては、細胞の懸濁液を注射器などで直接心筋組織内に注入する手法や、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いて作製したシート状細胞培養物を心臓表面に貼付する手法などが試みられている。シート状細胞培養物を用いる手法は、大量の細胞を広範囲に安全に移植することが可能であり、例えば拡張型心筋症のように心臓全体に病変がある場合の治療に特に有用である。シート状細胞培養物の製造方法も、種々のものが開発されており(特許文献1〜3)、上述の温度応答性培養皿を用いない手法も開発されている(特許文献4)。
このような細胞培養物を臨床応用する場合には、その適用可能性や有効性、安全性などを担保するため、製造方法を最適化する指標の設定や、品質管理の一環としてシート状細胞培養物の強度を測定することが必要である。特許文献1には、かかる強度測定に、材料の一般的な強度尺度である引張特性を指標として利用することができ、そのために引張試験、応力・歪み特性の測定、クリープ特性インデンテーション試験などを用いることができることが記載されているが、実際には培養基材からの脱着の容易性などから定性的・経験的に強度を推定しているのが現状である。
特表2007−528755号公報 特開2010−81829号公報 特開2010−226991号公報 特開2010−226962号公報
シート状の細胞培養物は、ヒトを含む動物へ移植し、治療することを目的としているため、移植可能な強度を有していなければならない。しかしながら、本発明者は、移植用のシート状細胞培養物の研究を進める中で、シート状細胞培養物の中には、脆弱なため、従来用いられる上述のような強度試験による強度測定が困難なものがあることを見出した。したがって、本発明の目的は、従来の強度試験では強度測定が困難な脆弱なシート状細胞培養物、さらには脆弱な材料一般に広く適用可能な引張特性測定方法および引張特性測定装置を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中、培養基材から遊離し、液中または液面にある脆弱なシート状細胞培養物を、該試料の少なくとも一部が液中または液面に存在する状態で荷重測定器の試料保持部に固定し、シート状細胞培養物に引張荷重を負荷することにより、かかるシート状細胞培養物の破損や乾燥を防ぐとともに、その引張特性を正確に測定できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)液中もしくは液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で、荷重測定装置に連結された試料保持部に固定する工程を含む、脆弱試料の引張特性評価方法。
(2)試料の破断荷重が1N未満である、上記(1)に記載の方法。
(3)試料がシート状細胞培養物である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)試料保持部の試料保持面が液中または液面以上に位置する状態で、試料に引張荷重を負荷する工程をさらに含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)試料の固定を、試料の1つの面のみまたは2つの面を試料保持部に固定することにより行う、上記(4)に記載の方法。
(6)液中もしくは液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で固定する少なくとも2つの試料保持部を含む、脆弱試料の引張特性評価装置。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法で引張特性を評価する脆弱試料作製用細胞培養容器であって、刺激応答性材料被覆領域と、その少なくとも一端に配置された取外し可能な細胞接着性基材とを含む、前記細胞培養容器。
(8)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法で引張特性を評価する脆弱試料の作製方法であって、
(i)上記(7)に記載の細胞培養容器に細胞を播種する工程、
(ii)細胞を培地中で所定時間培養してシート状細胞培養物を形成する工程、
(iii)所定の刺激を加えて刺激応答性材料被覆領域からシート状細胞培養物を遊離させる工程、
(iv)少なくとも一端に取外し可能な細胞接着性基材が接着した脆弱試料を得る工程
を含む、前記方法。
本発明の引張特性評価方法および引張特性評価装置により、液外に取出すと自重で破断してしまうような、従来の引張試験に供することのできない脆弱な材料の引張特性を評価することが可能となり、シート状細胞培養物などの製造方法の最適化や品質管理の拡充に資することができる。
また、本発明の細胞培養容器および脆弱試料作製方法により、シート状細胞培養物を本発明の引張特性評価方法に適した形態に作製することができ、引張特性評価の品質を高めることが可能となる。
図1は、試料の1つの面(底面)のみを試料保持部に固定し、試料が液面に位置する状態で試料に引張荷重を負荷する態様を示した図である。 図2は、試料の1つの面(底面)のみを試料保持部に固定し、試料が液面上の空中に位置する状態で試料に引張荷重を負荷する態様を示した図である。 図3は、試料の2つの面(上面および底面)を試料保持部に固定し、試料が液面に位置する状態で試料に引張荷重を負荷する態様を示した図である。 図4は、試料の2つの面(上面および底面)を試料保持部に固定し、試料が液中に位置する状態で試料に引張荷重を負荷する態様を示した図である。 図5は、試料の2つの面(上面および底面)を試料保持部に固定し、試料が液面上の空中に位置する状態で試料に引張荷重を負荷する態様を示した図である。 図6は、試料の1つの面(底面)のみを試料保持部に固定し、2つの試料保持部が液面で互いに接した状態で液面上の試料に引張荷重を負荷する態様を示した図である。 図7は、引張特性評価用のシート状細胞培養物試料を作製するための、短冊形の細胞培養容器の例を示した図である。 図8は、引張特性評価用のシート状細胞培養物試料を作製するための、ダンベル形の細胞培養容器の例を示した図である。 図9は、図8の細胞培養容器で作製した、両端に取外し可能な細胞接着性基材が接着した引張特性評価用のシート状細胞培養物試料の例を示した図である。 図10は、シート状細胞培養物の引張特性を評価する際に使用した器具などを示した写真図である。 図11は、シート状細胞培養物の引張試験の様子を示した写真図である。上図は試料に引張荷重を負荷している状態を、下図は試料が破断した状態をそれぞれ示す。
本発明の一側面は、液中または液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で、荷重測定装置に連結された試料保持部に固定する工程を含む、脆弱試料の引張特性評価方法に関する。
本発明において、脆弱試料とは、液体外で試料のつかみ具への固定がなされる従来の引張試験機(例えば、JIS K 7161等に記載のもの)での引張特性の評価が、その脆弱性のために困難であるか、実質的に不可能である試料を指す。かかる試料としては、例えば、液体外に取出した際に、自重で破断し得る、または亀裂を生じ得る試料や、折れて皺になったり、丸まってしまい、試験機への取付けに支障を来し得る試料、引張特性の各数値が小さく、従来の引張試験機では正確に測定することが困難な試料などが挙げられる。本発明の一態様において、脆弱試料は、引張試験において、例えば、10N(ニュートン)未満、5N未満、2N未満、1N未満、0.5N未満、0.1N未満、0.05N未満の破断荷重を示す。また、従来の引張試験の測定限界は、破断荷重として一般に1N程度であるため、本発明の一態様においては、これを下回る破断荷重を示すものが脆弱試料として好ましい。
本発明における脆弱試料には、シート状細胞培養物や、プラスチック、紙、織布、不織布、金属、高分子、脂質といった種々の材質のフィルム等が含まれる。これらのうち、液中で安定なもの、液中で難分解性のもの、液中で難崩壊性のものなどが好ましい。
本発明における脆弱試料は、シート状、柱状、線状、管状などいずれの形状であってもよいが、固定のしやすさなどの観点からシート状であることが好ましい。したがって、本発明における好ましい脆弱試料としては、限定されずに、シート状細胞培養物や、種々の材質のフィルムなどが挙げられる。脆弱試料は、1枚のみを単層の状態で引張試験に供してもよいし、2枚以上を重ねた積層の状態で引張試験に供してもよい。後者の場合、積層の各層は互いに連結していても、連結していなくてもよく、連結している場合は、重なり合っている部分が全て連結していても、部分的に連結していてもよい。積層状態のシート状細胞培養物は、例えば、単層もしくは多層のシート状細胞培養物上に、別の単層もしくは多層のシート状培養物を重ね、所定の時間培養することにより作製することができる(例えば、実施例5参照)。
本発明における脆弱試料は、幅や直径が全長にわたって一様であってもなくてもよい。試料に引張荷重をかけると、試料を固定している部分に応力が集中する傾向があるため、例えば、試料保持部に固定される試料の両端の幅や直径を、試料の中央部分に比べて大きい形状とすることで、引張試験時に試料固定部分に負荷される応力を軽減することができる。かかる形状としては、例えば、限定されずに、JIS K7127に記載の試験片タイプ1B、4、5などのようなダンベル形状が挙げられる。試料を成形する場合は、端が滑らかでノッチがないようにすることが好ましい。試料の成形は、例えば切断や打抜きなどによって行うことができる(例えば、JIS
K7127、「6.2 試験片の調整」の項を参照)。また、試料が細胞培養物である場合、所望の形状の培養面を有する細胞培養容器で培養することにより、切断や打抜きを行うことなく所望の形状の細胞培養物試料を得ることができる。細胞培養物試料の引張特性測定部分を、培養面の形状以外は、同ロットの他の細胞培養物と同じ培養条件で培養すれば、上記のようにして得た細胞培養物試料を同ロットの細胞培養物を代表する標本として用いることができる。細胞の培養条件や、培養容器は当業者に周知のものを適宜採用することができる。
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
シート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞(例えば、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞)、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、歯根膜細胞、皮膚細胞などが挙げられる。本発明においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞などが好ましい。細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
また、本発明において、シート状細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。シート状細胞培養物は、同一条件で作製された複数のシート状細胞培養物からなるシート状細胞培養物のロットを代表するものであってもよい。この場合、本方法によりかかるシート状細胞培養物に対してなされた引張特性の評価結果を、同培養物が属するロット全体に適用することができる。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。シート状細胞培養物の製造方法は、例えば特許文献1〜4等に記載されている。
本発明において、脆弱試料が存在するまたは形成される液体は、該試料の引張特性に与える影響が少ないもの、好ましくは実質的に影響を与えないものであれば特に限定されず、水、水溶液、非水性溶液、懸濁液、乳液などであってもよい。試料が細胞培養物である場合、液体は、限定されずに、水、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80−7等)などであってもよい。液体は典型的には容器中に存在する。かかる容器は、液体を脆弱試料とともにその内部に保持することができ、脆弱試料の試料保持部への固定操作を少なくとも行うことができるものであれば特に限定されず、任意のものを用いることができる。なお、当該容器を以下でその機能や用途に着目して「測定容器」、「試料保持容器」、「試料固定操作容器」などと呼ぶ場合もある。
本発明において、引張特性は、引張試験により評価できる種々の特性を意味し、例えば、限定されずに、引張強度(強さ)、引張破断(破壊)応力、引張破断(破壊)荷重、引張降伏応力、x%ひずみ時引張応力、引張ひずみ、引張降伏ひずみ、引張破断(破壊)ひずみ、引張強度(強さ)時ひずみ、引張呼びひずみ、引張破壊(破断)時呼びひずみ、引張強度(強さ)時呼びひずみ等が挙げられる。これら各特性の定義は、例えば、JIS K7161、ISO 527-1などの規格に記載され、当業者に周知であるため、ここで詳細には記載しない。本発明の一態様において、評価する引張特性は、引張強さ、引張破断応力および引張破断荷重からなる群から選択される。
本発明における荷重測定装置は、10N未満の低い荷重を測定できるものであれば特に限定されず、任意の市販製品(例えば、フォースゲージ、プッシュプルゲージ、ロードセル、引張試験機、摩擦係数測定機、摩擦角測定機等)を用いても、本発明の方法を行うために特別に作製してもよい。本方法で測定する荷重は極めて小さいため、0Nから測定可能で、分解能が0.01N以下のもの、例えば、限定されずに、分解能が0.01N、0.005N、0.001N、0.0005N、0.0001Nのもの等が好ましい。荷重測定装置は、独立して存在しても、試料保持部と連結されていても、試料保持部と一体化されていてもよい。また、荷重測定装置は、試料に引張荷重を負荷する手段として機能することもできる。この場合、荷重測定装置は、これを引っ張る牽引手段などに連結されていてもよい。
本発明において、試料保持部は引張特性を評価する試料の少なくとも2つの端部を固定し、これに引張荷重を負荷する部材を指す。試料保持部は少なくとも2個存在し、その少なくとも1つは荷重測定装置に連結されている。試料保持部は、所望の引張荷重を負荷しても試料を保持していることができるものであれば特に限定されず、種々の材質および形状のものを用いることができる。したがって、引張荷重を負荷したときに試料と試料保持部との間に作用する固定力、すなわち、試料が試料保持部とは逆方向に移動することを阻止する力が、試料の引張特性の評価に必要な荷重より大きくなるよう、試料保持部を構成しければならない。かかる固定力は、実際に測定するのと同種の試料を試料保持部に固定し、これに、引張特性評価時と同条件で引張荷重を負荷してその荷重を測定することにより適宜決定することができる。かかる固定力の測定に用いる試料は、実際に測定する試料と同じ大きさおよび形状のものであってもよいが、試料保持部に固定する部分の形状および面積は実際に測定する試料と同じだが、それ以外の部分の断面積が実際に測定する試料より大きくなるよう成形したものであってもよい。このようにすることにより、実際の引張特性評価時に負荷する引張荷重より大きな荷重を負荷して固定力を測定することができ、固定力が実際の引張特性評価時に負荷する引張荷重より大きいことを確認することが可能となる。固定力の測定は、上記のような荷重測定装置により行うことができる。
試料保持部の材質としては、限定されずに、例えば、ポリプロピレンなどのプラスチック、メッシュ、ガーゼなどが含まれる。試料保持部の表面は平滑でもよいが、固定力を増大させるために、凹凸、湾曲、溝、突起、試料貫通機構(例えば針など)、細孔、吸盤、吸引孔などの固定力増大構造を設けることもできる。この場合、固定力増大構造と試料との接触面積を大きくしたり、固定力増大構造を試料保持部に偏りなく配置したりすることで、応力集中による試料の損傷を防ぐことができる。
試料保持部は、試料の1つの面のみを固定するものであっても、2つ以上の面を固定するものであってもよい。前者の場合、試料は、その1つの面のみで試料保持部に固定される。この場合、典型的には、試料は、試料保持部の上部に固定される(図1など参照)。また、試料保持部の試料保持面が液面上にある状態で、試料を試料保持面に配置すると、試料を空中に位置する状態とすることができる(図2)。試料保持部が、試料の2つ以上の面を固定するものである場合、試料は、例えば、2部材構造の試料保持部の部材間に固定することができ、これにより、試料保持部は試料の上面および底面の2つの面を固定することになる(図3〜5)。
引張荷重を試料保持部の試料保持面が液面上にある状態で負荷して引張特性を評価する場合、試料保持部を液中に置いたときに試料保持部の試料保持面が液面上に浮上し、かつ試料保持部の底面が測定容器の底面に接触しないように試料保持部を構成すること(例えば、試料保持部全体の単位体積あたりの質量を、液体の単位体積あたりの質量より小さくすることなど)により、液面を下げて試料保持部が測定容器の底面に接触する状態で引張特性を評価する場合に比べ、試料保持部と測定容器底面との摩擦力の影響を排除できるという利点がある。また、液面を下げて試料保持部が測定容器の底面に接触する状態で引張特性を評価する場合は、試料保持部の少なくとも測定容器底面と接する部分を、測定容器底面との摩擦力が低い材料で作製することにより、試料保持部と測定容器底面との摩擦力の影響を低減することができる。
本発明において、脆弱試料の試料保持部への固定は、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料(例えば、試料が細胞培養物であれば、これを形成する細胞など)の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で行われる。こうすることにより、試料を液外に取出すことなく試料保持部に固定できるため、試料に過度の応力を加えることがなくなり、従来の引張試験機では不可能だった脆弱試料の引張特性の評価を行うことが初めて可能となった。なお、本発明において、測定容器の液体に対する位置を表す場合、「液中」または「液面下」は、液面より下の液面とは接しない位置を、「液面」は、液面に接する位置を、「液面上」は、液面とは接しない液面より上の位置を、「液面以下」は、「液中」および「液面」を包含する位置を、「液面以上」は、「液面」および「液面上」を包含する位置を、「空中」は、液体と接しない位置をそれぞれ意味する。
試料の試料保持部への固定は、試料の引張特性の評価に与える影響が少ないか、実質的に影響を与えない、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で実行可能な任意の手法により行うことができる。本発明の方法における、脆弱試料の試料保持部への固定工程においては、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在していればよく、該試料の他の部分または該試料を形成する材料の他の部分が液面上に位置していてもよい。したがって、例えば、液面以下にある試料の端部を液面上に持上げ、これを液面上にある試料保持部の試料保持面に設置することにより試料を固定してもよい。液面上に位置する試料の部分の大きさは、試料が損傷しない範囲であれば特に限定されず、当業者であれば実験や計算などにより適宜決定できる。また、試料の一部または試料を形成する材料の一部は、固定工程開始時(例えば、試料または試料を形成する材料を試料保持部に接触させる時点など)に液面以下に存在すればよく、固定操作中に試料の全部または試料を形成する材料の全部を液面上に移動させてもよい。
本発明の方法の一態様において、固定工程は液面以下、すなわち液中または液面で行われる。この場合、固定工程は、少なくとも試料または試料を形成する材料の試料保持部に固定される部分が液面以下にある状態で開始されればよく、固定工程中に同部分を液面上に移動させてもよい。したがって、例えば、液中または液面に存在する試料の下に配置した試料保持部を試料の底面(下面)に接触させ、そのまま液面以上に引上げたり、試料保持部を試料の下面に接触させた状態で液面を低下させたりすることにより試料を固定することができる。
試料保持部に吸盤や吸引孔などの吸着機構が設けられている態様においては、液中または液面に存在する試料の1面に試料保持部を接触させ、吸着機構により吸着させることで、試料を固定することができる。
試料保持部が互いに対向する2つの部材を含む構造からなる態様においては、液中または液面に存在する試料を、当該2つの部材間に挟むことによって試料を固定してもよい。この場合、試料保持部に、その2つの部材を互いに接近させる機構が設けられていてもよい。かかる機構としては、限定されずに、例えば、磁力によるもの、機械的結合、例えば嵌合、係合、係止などによるもの、部材間をつなぐ弾性構造によるもの、両部材を外側から圧迫する締付け部材によるもの等が挙げられる。試料は、2つの部材で同時に挟んでもよいし、まず一方の部材に設置してから、他方の部材を接触させてもよい。例えば、2つの部材が上下に配置されている場合、まず下側の部材を試料の底面と接触させた後に、上側の部材を試料の上面に被せるようにして試料を固定してもよい。
脆弱試料が接着性細胞の培養物である場合、試料の試料保持部への固定は、細胞培養物形成時に、培養基材の一部として事前に配置した試料保持部に細胞を直接接着させ、培養することによって行うこともできる。したがってこの場合、試料の試料保持部への固定と、試料の形成とが同時に行われることになる。この態様において、試料保持部の少なくとも一部は細胞接着性材料で構成されていることが好ましい。細胞接着性材料としては、接着性細胞が接着し得る任意の既知の材料を用いることができ、かかる材料には、限定されずに、例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、シリコーンなどが含まれる。細胞培養物の培養条件等は、当業者に既知の任意の適切なものを採用することができる。
2つの試料保持部間の距離は、0、すなわち2つの試料保持部が互いに接触している状態(いわゆるゼロスパン引張特性が評価可能)を含む任意の大きさであってよいが、引張荷重の負荷を空中で行う場合は、2つの試料保持部間の試料の自重が、試料の引張特性の評価に与える影響が少ないか、実質的に影響を与えないものであることが好ましい。2つの試料保持部間の距離が過度に大きいと、例えば、試料のひずみ、亀裂、破断などをもたらすおそれがある。一方、2つの試料保持部間の距離が過度に小さいと、ひずみなどの測定を正確に行うことができなくなるおそれがあるため、かかる測定を行う場合は、2つの試料保持部間にある程度の距離を設けることが好ましい。また、2つの試料保持部間の距離が過度に小さい場合、試料保持部を空中に持上げた場合に試料保持部間に液体の表面張力が働くことが考えられるが、表面張力が比較的大きい水の場合でも20℃で約73mN/mと、本発明における脆弱試料の強度と比べて数オーダー小さいため、概ね無視することができる。ただし、より正確な測定が求められる場合には、試料保持部間に表面張力が作用しないよう、2つの試料保持部間にある程度の距離を設けることが好ましい。このために、2つの試料保持部間の距離を3mm以上、4mm以上、5mm以上などとすることができる。また、試料自体の重さによって試料保持部間に試料のたるみが生じることが考えられるような場合、2つの試料保持部間の距離は0、すなわち2つの試料保持部が互いに接触している状態であってよい(図6)。このようにすることにより、試料にたるみが生じるのを防ぐことができ、たるみによる引張強度の誤差を最小限にすることができる。
引張特性の評価は、試料保持部に固定した試料に引張荷重を負荷することにより行う。引張荷重は、試料の両側から負荷しても、いずれか一方の側から負荷してもよい。後者の場合、いずれか一方の試料保持部は、試料が存在する液体を含む試料保持容器などの不動部分に固定してもよい。また、試料を3個以上の試料保持部に固定した態様では、引張荷重を3方向以上から負荷してもよい。引張荷重は、例えば、2つの試料保持部間の距離を一定の速度で増大させることにより負荷することができる。かかる速度としては、限定されずに、例えば、0.1〜500mm/分、1〜200mm/分、2〜100mm/分、5〜50mm/分、10〜30mm/分、より特定的には、1mm/分、2mm/分、5mm/分、10mm/分、20mm/分、50mm/分、100mm/分、200mm/分、500mm/分等が挙げられる。引張荷重の負荷は、手動で行っても、機械的に行ってもよい。
引張荷重は、試料保持部の試料保持面が液中、液面または空中に位置する状態で試料に負荷することができる。試料の1つの面のみを試料保持部に固定した状態で引張荷重を負荷する場合、試料保持部の試料保持面が液面以上に位置する状態で負荷すると、試料と試料保持部との間の液体の量が減り、液面下で引張荷重を負荷する場合よりも固定力を増大させることができ、固定力が専ら試料の自重に由来する場合(吸着機構による吸着力や、細胞の接着力等を固定に利用しない場合)などには特に有利である。
引張特性の評価に、応力−ひずみ曲線などのグラフを利用することができる。引張応力σ(MPa)は、引張荷重F(N)を試料の初期断面積A(mm)で除したもの(σ=F/A)であり、引張ひずみは、試料に付した標線間距離の増加を初期標線間距離で除したものであり、引張呼びひずみは、試料保持部間距離の増加を初期試料保持部間距離で除したものであるため、これらのパラメータを測定することにより、応力−ひずみ曲線を作成することができる。
最も単純な引張特性の評価は、引張破断荷重を指標とするものであり、この場合は、試料が破断した際の引張荷重を測定すれば足りる。
本発明のさらなる側面は、液中または液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で固定する少なくとも2つの試料保持部を含む、脆弱試料の引張特性評価装置に関する。
本発明の引張特性評価装置における脆弱試料および試料保持部については、本発明の引張特性評価方法について上述したとおりである。本発明の引張特性評価装置は、上述の荷重測定装置をさらに備えていてもよい。荷重測定装置は、試料保持部の少なくとも1つと連結されていても、試料保持部の少なくとも1つと一体化されていてもよい。また、本発明の引張特性評価装置は、荷重負荷装置をさらに備えていてもよい。荷重負荷装置は、例えば、2つの試料保持部間の距離を一定の速度で増大させることにより試料に引張荷重を負荷することができるものであってもよい。かかる速度としては、限定されずに、例えば、0.1〜500mm/分、1〜200mm/分、2〜100mm/分、5〜50mm/分、10〜30mm/分、より特定的には、1mm/分、2mm/分、5mm/分、10mm/分、20mm/分、50mm/分、100mm/分、200mm/分、500mm/分等が挙げられる。荷重負荷装置は、荷重測定装置に連結され、荷重測定装置を介して試料に引張荷重を負荷する構成であっても、荷重測定装置を介さずに、試料に直接引張荷重を負荷する構成であってもよい。
本発明の引張特性評価装置は、試料の試料保持部への固定に用いる液体を含む試料固定操作容器をさらに含んでいてもよい。かかる容器は、液体を外部に漏らさず、固定操作を行うことができる任意の容器を含む。引張特性評価装置はまた、試料固定操作容器中の液量を調節する手段、例えばポンプ等や、該容器内もしくは該容器上で試料保持部を移動するためのマニピュレーターなどをさらに含んでもよい。
本発明の引張特性評価装置を、細胞培養用のインキュベーターや、シート状細胞培養物の剥離装置、ならびに解離された細胞の特性を解析する装置、例えば細胞数を測定する細胞計数装置(ベックマン社製コールターカウンターなど)、バイアビリティを測定する生死細胞自動測定装置、純度を測定するフローサイトメーター等と一体化または接続することにより、細胞の培養からシート状の細胞培養物の作製、その品質管理までを自動化することができる。
本発明の別の側面は、上述の方法で引張特性を評価する脆弱試料を作製するための細胞培養容器であって、刺激応答性材料被覆領域と、その辺縁の少なくとも一部に隣接して配置された取外し可能な細胞接着性基材とを含む、細胞培養容器に関する(図7、8)。
品質管理の一環として試料の引張特性を評価する場合、各評価間の比較を可能とするために、引張試験の条件をある程度統一することが好ましい。引張特性の評価において重要なパラメータの1つは引張応力であるが、これは上述のとおり試料の断面積に反比例するものであり、また、測定のエンドポイントとなる試料の破断は、応力集中をもたらし得る試料の形状に影響されることがある。したがって、引張特性を比較可能に評価するために、試料の断面積や形状を統一することは重要である。プラスチックなど、材質が均一な試料であれば、切断や打抜きなどにより、辺縁が滑らかな特定の形状とすることは比較的容易であるが、細胞が互いに結合した細胞培養物などを切断や打抜きなどにより成形した場合、切断線上の細胞が破壊され、試料の辺縁が不整となり、応力集中が生じるおそれがあるほか、破壊細胞から放出される細胞性物質が、他の健全な細胞や細胞間基質に悪影響を及ぼす可能性もある。したがって、細胞培養物の構成細胞を傷害することなく、試料の断面積や形状を統一することが好ましい。本発明者は、細胞培養物を、引張試験用の統一された形状の培養面を有する培養容器で培養することにより、かかる課題を解決し得ることを見出した。
本発明の細胞培養容器には、刺激応答性材料被覆領域が存在する。ここで、「刺激応答性材料」は、刺激、例えば、温度、光、pHなどに応答して物性が変化する材料を指す。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2−211865、特開2003−33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に接着した細胞培養物の剥離を促進することができる。
本発明の細胞培養容器において、刺激応答性材料被覆領域の辺縁の少なくとも一部に隣接して、取外し可能な細胞接着性基材が配置されている。細胞接着性基材は、上述の細胞接着性材料で構成された培養基材を意味する。細胞接着性基材は、細胞培養容器に固定されていないか、固定されていたとしてもそこから脱着可能な状態にある。かかる構成により、本発明の細胞培養容器で細胞培養物を作製すると、細胞培養物の一部が刺激応答性材料被覆領域上に、残りの部分は取外し可能な細胞接着性基材上に接着した状態となる(図8)。その後、適切な刺激を加えて刺激応答性材料の性質を変化させると、刺激応答性材料被覆領域上の細胞培養物の部分は同領域から遊離する一方、細胞培養物の少なくとも一端は、細胞接着性基材に接着したまま細胞培養容器から遊離することになる。こうして、少なくとも一端に細胞接着性基材が接着した細胞培養物(図9)を得ることができ、細胞接着性基材を試料保持部の少なくとも1つとして利用することにより、上述の方法で試料の引張特性を評価することが可能となる。この場合、引張特性の評価は前記細胞培養容器内で行っても、試料を別の測定容器に移して行ってもよい。
細胞接着性基材は、刺激応答性材料被覆領域の辺縁の1つの部分に隣接して配置してもよいし、2つまたは3つ以上の部分に隣接して配置してもよい。細胞接着性基材を刺激応答性材料被覆領域の辺縁の1つの部分に隣接して配置した場合、一端に細胞接着性基材が接着した細胞培養物試料が得られ、例えば、該基材を1つの試料保持部として利用するとともに、これに対向する端部を別の試料保持部に固定することで、上記方法により試料の引張特性を評価することができる。細胞接着性基材を刺激応答性材料被覆領域の辺縁の2つの部分に隣接して配置する場合、当該2つの部分は互いに対向した位置に配置してもよい(図7および8)。かかる構成の培養容器を用いることにより、互いに対向する両端に細胞接着性基材が接着した細胞培養物試料が得られ(図9)、例えば、該基材を2つの試料保持部として利用することで、上記方法により試料の引張特性を評価することができる。両端に細胞接着性基材が接着した細胞培養物試料は、試料保持部にすでに固定された状態にあるため、試料保持部へのさらなる固定工程が不要となり、また、試料保持部との固定力も高いため、簡便かつ高精度に引張特性の評価を行うことができ、有利である。また、細胞接着性基材を刺激応答性材料被覆領域の辺縁の3つ以上の部分に隣接して配置した場合、3つ以上の端部に細胞接着性基材が接着した細胞培養物試料が得られるが、かかる試料は、3方向以上から引張荷重をかけることができるため、引張荷重に対する試料の2次元的な変形を評価するために特に有用である。
本発明の細胞培養容器の底面の形状は所望の試料の形状と同一であってもよいが、異なっていてもよい。後者の場合、細胞培養容器中に所望の試料の形状と同一の底面を画定する型枠を設けることで、所望の形状の試料を作製することができる。かかる型枠は細胞培養容器に接着または一体成型されていても、細胞培養容器から取外し可能であってもよい。したがって、本発明の細胞培養容器の一態様は、細胞培養容器と、該容器内で所望の形状の培養底面を画定する取外し可能な型枠とを含んでいてもよい。所望の試料の形状は特に制限されないが、JIS 7127に記載のような短冊状であっても、ダンベル状であってもよい。ダンベル形状は、固定部分の応力集中を緩和できるという利点がある。また、本発明はかかる取外し可能な型枠自体にも関する。型枠の材質は、細胞培養物が型枠外に侵出しないものであれば特に限定されず、典型的には細胞培養容器と同じものを用いることができる。型枠の形状は、上記の所望の試料の形状の輪郭を全て含んでも、その一部を含んでもよい。後者の場合、型枠に含まれない輪郭の画定は、例えば、細胞培養容器の側壁によって行われる。より具体的には、例えば、円形の底面を有する培養容器の中央に所望の間隔で2枚の長方形の型枠を、両端が培養容器の側壁に接するように設置することで、略短冊状の培養底面を画定することができる。培養容器には、型枠を支持するための構造、例えば、型枠の辺縁を収納する溝や、型枠の対応する構造と係合する構造(例えば、型枠に設けられた突起と、培養容器に設けられたこれを収納する凹部など)、型枠を支持する突起等が備えられていてもよい。
取外し可能な細胞接着性基材の細胞培養面は、刺激応答性材料被覆領域の細胞培養面と同じ水平面にあってもよいし(図7a、8a)、細胞接着性基材が細胞培養容器の底面に被覆された刺激応答性材料上に積層された状態でもよい(図7b、8b)。後者の場合、応力集中の発生を回避するため、細胞接着性基材の刺激応答性材料被覆領域に隣接する辺縁に、細胞接着性基材表面と刺激応答性材料被覆面との間の段差を解消する構造、例えば、傾斜などを設けてもよい(図8b)。また、細胞接着性基材は、荷重測定装置との連結のための構造、例えば、フック取付け用の孔や、突起を有していてもよい。かかる構造は、細胞培養物を培養容器中で移動させるのにも役立つ。細胞は取外し可能な細胞接着性基材の1つの面の全域に接着していてもよいし、その一部に接着し、他の部分には細胞が存在しない状態であってもよい。細胞を取外し可能な細胞接着性基材の一部に接着させるには、例えば、細胞を播種する前に所望の形状の型枠を前記基材上に設置してもよいし、前記基材の一部を細胞非接着性の材料で構成または被覆してもよいし、細胞非接着性基材上の細胞を接着させたい部分を細胞接着性材料で被覆してもよい。このように、試料の少なくとも1つの端部に細胞が存在しない領域を設けることにより、細胞を損傷することなく試料を取扱うことが容易となる。
本発明の別の側面は、本発明の方法で引張特性を評価する脆弱試料の作製方法であって、
(i)上述の細胞培養容器に細胞を播種する工程、
(ii)細胞を培地中で所定時間培養してシート状細胞培養物を形成する工程、
(iii)所定の刺激を加えて刺激応答性材料被覆領域からシート状細胞培養物を遊離させる工程、
(iv)少なくとも一端に取外し可能な細胞接着性基材が接着した脆弱試料を得る工程
を含む、前記方法に関する。
本発明の好ましい態様において、細胞は、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で播種する。「実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。例えば、骨格筋芽細胞の場合、成長因子を含む培養液を用いる従来法では、シート状細胞培養物を形成するために、約6,500個/cmの密度の細胞をプレートに播種していたが(例えば、特許文献1参照)、かかる密度の細胞を、成長因子を含まない培養液で培養してもシート状の細胞培養物を形成することはできない。したがって、本態様における細胞密度は、成長因子を含む培養液を用いる従来法におけるものよりも高いものである。具体的には、例えば、骨格筋芽細胞については、かかる密度は典型的には300,000個/cm以上である。細胞密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、骨格筋芽細胞については、例えば、1,000,000個/cmである。当業者であれば、本発明に適した細胞密度を、実験により適宜決定することができる。培養期間中、細胞は増殖してもしなくてもよいが、増殖するとしても、細胞の性状が変化する程には増殖しない。例えば、骨格筋芽細胞はコンフルエントになると分化を開始するが、本発明においては、骨格筋芽細胞は、細胞培養物を形成する密度で播種される。本発明の好ましい態様において、細胞は計測誤差の範囲を超えて増殖しない。細胞が増殖したか否かは、例えば、播種時の細胞数と、細胞培養物形成後の細胞数とを比較することにより評価することができる。本態様において、細胞培養物形成後の細胞数は、典型的には播種時の細胞数の300%以下、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは125%以下、特に好ましくは100%以下である。
本発明において、細胞の培養は、対象となる細胞がシート状の細胞培養物を形成するのに適した条件で行われる。
培養に用いる細胞培養液(単に「培養液」もしくは「培地」と呼ぶ場合もある)は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本発明の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。
基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
基礎培地に含まれるアミノ酸としては、限定されずに、例えば、L−アルギニン、L−シスチン、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリンなどが、ビタミン類としては、限定されずに、例えば、D−パントテン酸カルシウム、塩化コリン、葉酸、i−イノシトール、ナイアシンアミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ビオチン、リポ酸、ビタミンB12、アデニン、チミジンなどが、そして、電解質としては、限定されずに、例えば、CaCl、KCl、MgSO、NaCl、NaHPO、NaHCO、Fe(NO、FeSO、CuSO、MnSO、NaSiO、(NH)6Mo24、NaVO、NiCl、ZnSOなどがそれぞれ含まれる。基礎培地には、これらの成分のほか、D−グルコースなどの糖類、ピルビン酸ナトリウム、フェノールレッドなどのpH指示薬、プトレシンなどを含んでもよい。
本発明の一態様において、基礎培地に含まれるアミノ酸の濃度は、L−アルギニン:63.2〜84mg/L、L−シスチン:35〜63mg/L、L−グルタミン:4.4〜584mg/L、グリシン:2.3〜30mg/L、L−ヒスチジン:42mg/L、L−イソロイシン:66〜105mg/L、L−ロイシン:105〜131mg/L、L−リジン:146〜182mg/L、L−メチオニン:15〜30mg/L、L−フェニルアラニン:33〜66mg/L、L−セリン:32〜42mg/L、L−トレオニン:12〜95mg/L、L−トリプトファン:4.1〜16mg/L、L−チロシン:18.1〜104mg/L、L−バリン:94〜117mg/Lである。
また、本発明の一態様において、基礎培地に含まれるビタミン剤の濃度は、D−パントテン酸カルシウム:4〜12mg/L、塩化コリン:4〜14mg/L、葉酸:0.6〜4mg/L、i−イノシトール:7.2mg/L、ナイアシンアミド:4〜6.1mg/L、リボフラビン:0.0038〜0.4mg/L、チアミン:3.4〜4mg/L、ピリドキシン:2.1〜4mg/Lである。
細胞培養液は、上記のほか、血清、成長因子、ステロイド剤成分、セレン成分などの1種または2種以上の添加物を含んでもよい。しかし、これらの成分は臨床においてはレシピエントに対するアナフィラキシーショック等の副作用要因となり得ることが否定できない製造工程由来不純物であり、臨床への適用にあたっては排除すべき成分である。したがって、本発明の好ましい態様において、細胞培養液は、これらの添加物の少なくとも1種の有効量を含まない。また、本発明のより好ましい態様において、細胞培養液は、これらの添加物の少なくとも1種を実質的に含まない。さらに、本発明の特に好ましい態様において、細胞培養液は、添加物を実質的に含まない。したがって、細胞培養液は、基礎培地のみを含んでもよい。
本発明の好ましい一態様において、細胞培養液は血清成分を実質的に含まない。血清成分を実質的に含まない細胞培養液のことを、本明細書中で「無血清培地」と呼ぶこともある。血清成分としては、異種血清成分および同種血清成分が挙げられる、ここで「異種血清成分」は、細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清成分を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清成分に該当する。また、「同種血清成分」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清成分を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清成分に該当する。同種血清成分は、自己血清成分、すなわち、レシピエントに由来する血清成分を含む。したがって、「血清成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの血清の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に影響を及ぼさない程度(例えば、細胞培養物中の血清アルブミン含量が50ng未満となる量)であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないことを意味する。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を他家血清または非自己血清と総称することもある。
本発明の一態様において、細胞培養液は有効量の成長因子を含まない。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。また、「有効量の成長因子」とは、細胞の増殖を、成長因子がない場合に比べて、有意に促進する成長因子の量、または、便宜的に、当該技術分野において細胞の増殖を目的として通常添加する量を意味する。細胞増殖促進の有意性は、例えば、当該技術分野で知られた任意の統計学的手法、例えば、t検定などにより適宜評価することができ、また、通常の添加量は当該技術分野の種々の公知文献から知ることができる。具体的には、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの有効量は、例えば0.005μg/mL以上である。
したがって、「有効量の成長因子を含まない」とは、本発明における培養液における成長因子の濃度がかかる有効量未満であることを意味する。例えば、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは0.005μg/mL未満、より好ましくは0.001μg/mL未満である。本発明の好ましい態様においては、培養液における成長因子の濃度は、生体における通常の濃度未満である。かかる態様においては、例えば、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは5.5ng/mL未満、より好ましくは1.3ng/mL未満、さらに好ましくは、0.5ng/mL未満である。さらに好ましい態様において、本発明における培養液は、成長因子を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、培養液中の成長因子の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液に成長因子を積極的に添加しないことを意味する。したがって、この態様においては、培養液は、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度の成長因子を含まない。
本発明の一態様において、細胞培養液は、ステロイド剤成分を実質的に含まない。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物として、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。したがって、「ステロイド剤成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの化合物の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの化合物を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のステロイド剤成分を含まないことを意味する。
本発明の一態様において、細胞培養液は、セレン成分を実質的に含まない。ここで「セレン成分」は、セレン分子、およびセレン含有化合物、特に、生体内でセレン分子を遊離し得るセレン含有化合物、例えば、亜セレン酸などを含む。したがって、「セレン成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの物質の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のセレン成分を含まないことを意味する。具体的には、例えば、ヒトの場合、培養液中のセレン濃度は、ヒト血清中の正常値(例えば、10.6〜17.4μg/dL)に、培地中に含まれるヒト血清の割合を乗じた値よりも低い(すなわち、ヒト血清の含量が10%であれば、セレン濃度は、例えば、1.0〜1.7μg/dL未満である)。
本発明の上記好ましい態様においては、生体に適用する細胞培養物を作製する場合に従来必要であった、成長因子、ステロイド剤成分、異種血清成分などの製造工程由来不純物を、洗浄などにより除去する工程が不要となる。したがって、本発明の方法の一態様は、この製造工程由来不純物を除去する工程を含まない。
ここで、「製造工程由来不純物」とは、典型的には、製造各工程に由来する以下に列挙するものが含まれる。すなわち、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来蛋白質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものなどである(例えば、医薬審発第571号参照)。
細胞の培養は、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的な培養条件としては、37℃、5%COでの培養が挙げられる。本発明における所定の培養期間は、細胞培養物の十分な形成、および、細胞分化防止の観点から、好ましくは48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。
本方法においては、所定の刺激を加えて刺激応答性材料被覆領域からシート状細胞培養物を遊離させる。ここで、所定の刺激とは、刺激応答性材料の物性、例えば、疎水性・親水性などを変化させることができる刺激を意味し、例えば、刺激応答性材料が温度応答性材料であれば、特定の温度変化であり、光応答性材料であれば、特定の波長もしくは強度の光であり、pH応答性材料であれば、特定のpHの変化である。刺激応答性材料の物性変化に必要な具体的な刺激の種類や強度は当業者に既知である。
細胞培養物が刺激応答性材料被覆領域から遊離した後、細胞培養物の少なくとも一端に結合した細胞接着性基材を細胞培養容器から取外すことにより、少なくとも一端に取外し可能な細胞接着性基材が接着した脆弱試料を得ることができる。
以下に、本発明を図面を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 シート状細胞培養物(ヒト、単層)の作製
ヒト骨格筋芽細胞(Lonza製)を、20%のヒト血清を含有するDMEM/F12培地(Invitrogen製)を入れた温度応答性培養皿(UpCell(R)3.5cmディッシュ、セルシード製)に10個/cmの密度で播種し、37℃、5%COで24時間培養し、単層のシートを形成させた後、培養皿の温度を20℃に降下させてシート状細胞培養物を培養皿から剥離した。得られた細胞培養物の寸法は、直径15mm程度、厚さ30〜60μm程度であった。
実施例2 シート状細胞培養物(ヒト、単層)の引張破断荷重の測定
実施例1で作製したシート状細胞培養物を、HBSS(−)(Invitrogen製)を入れたポリスチレンシャーレ(直径90mm、テルモ製)に移し、表面張力を利用して液面に浮かせた(図10)。次に、液面に浮いたシート状細胞培養物の下に、試料保持部を滑り込ませた。試料保持部を構成する部材としては、高さ0.5mm程度、ピッチ1mm程度の凹凸を有するポリプロピレン製のディスポーザブルピンセットチップを利用した。細胞培養物の一方の端部には綿糸(直径100μm程度)を付した前記チップ1個を、これに対向する端部には、前記チップ2個を長手側面が接するようにして並べたものをそれぞれ配置した。その後、シャーレ内の液を一部排出して液面を下げ、液面に浮いた細胞培養物を試料保持部上に載せた(細胞培養物との最大接触幅(引張方向に対して垂直方向の長さ):3mm/チップ、最大接触長(引張方向に対して水平方向の長さ):3mm)。糸の付いていない試料保持部を固定し、糸でゲージ(汎用形デジタルフォースゲージ、FGC−1B、日本電産シンポ製)につながった試料保持部を、ゲージを介して水平方向に引っ張り、試料破断時までの最大荷重(引張破断荷重)を測定したところ、0.01Nであった(図11)。
実施例3 シート状細胞培養物(ブタ、単層)の作製
ブタ骨格筋芽細胞を、特開2007-89442に記載の方法で単離した。すなわち、ミニブタ(日生研(株)より購入)の下肢より骨格筋を採取し、組織輸送液(HBSS(GIBCO製)、1.45mg/mLのグルコース(大塚製薬製)、0.1mg/mLのゲンタマイシン(富士製薬製)、2.5μg/mLのファンギゾン(GIBCO製))に浸漬して、洗浄した。次いで、採取した骨格筋を、酵素溶液(TrypLE
Select(Invitrogen製)、0.5mg/mLのコラゲナーゼA(日本ロシュ製)、50μg/mLのゲンタマイシン(富士製薬製)、0.25μg/mLのファンギゾン(GIBCO製))中で、一辺2mm以下の大きさの断片になるまで細断した。この中から白色組織(結合組織)を取り除いた。得られた組織を細断し、前記酵素溶液中で攪拌し、恒温槽にて、37℃で60分酵素処理した。酵素処理後、細胞が浮遊している酵素処理液を吸引し、得られた酵素処理液を遠心分離して上清を捨て、細胞を回収した。この酵素処理を数回繰り返すことにより、ブタ骨格筋芽細胞を回収した。
得られたブタ骨格筋芽細胞を、20%のウシ胎仔血清(Invitrogen製)、4%のL−グルタミン(Invitrogen製)、0.01μg/mlの上皮成長因子(Invitrogen製)、4μg/mlのリン酸デキサメタゾンナトリウム(シェリング・プラウ製)を含有するMCDB131培地(Invitrogen製)を入れた温度応答性培養皿(UpCell(R)6cmディッシュ、セルシード製)に10個/cmの密度で播種し、37℃、5%COで48時間培養し、シートを形成させた後、培養皿の温度を20℃に降下させてシート状細胞培養物を培養皿から剥離した。得られた細胞培養物の寸法は、直径25mm程度、厚さ30〜60μm程度であった。
実施例4 シート状細胞培養物(ブタ、単層)の引張破断荷重の測定
実施例3で作製したシート状細胞培養物を、HBSS(−)(Invitrogen製)を入れたポリスチレン容器(235mm×85mm、角型シャーレの蓋)に移し、表面張力を利用して液面に浮かせた。次に、液面に浮いたシート状細胞培養物の下に、試料保持部の一部を滑り込ませた。試料保持部を構成する部材としては、実施例1で用いたのと同じピンセットチップを利用した。細胞培養物の一方の端部には、前記チップ2個を長手側面が接するようにして並べたものに綿糸(直径100μm程度)を付したものを、これに対向する端部には、前記チップ2個を長手側面が接するようにして並べたものをそれぞれ配置した。その後、シャーレ内の液を一部排出して液面を下げ、液面に浮いた細胞培養物をチップ上に載せ(細胞培養物との最大接触幅:3.5mm/チップ、最大接触長:10mm)、細胞培養物のチップ上に載った各端部に追加のチップ1個を上から被せて細胞培養物を固定した。こうして、細胞培養物の底面を支持する2個のチップと、細胞培養物の上面を押える1個のチップとからなる試料保持部が形成された。糸の付いていない試料保持部を固定し、糸でゲージ(汎用形デジタルフォースゲージ、FGC−1B、日本電産シンポ製)につながった試料保持部を、ゲージを介して水平方向に引っ張り、試料破断時までの最大荷重を測定したところ、0.02Nであった。
実施例5 シート状細胞培養物(ヒト/ブタ、二層)の作製および引張破断荷重の測定
ヒトまたはブタ骨格筋芽細胞で作製した単層シート状細胞培養物を、CellShifterTM(セルシード製)を用いて別の単層シート状細胞培養物に積層し、二層からなる積層シート状細胞培養物を作製した。まず、ヒトまたはブタ骨格筋芽細胞を、実施例1または3と同様に培養し、培養皿上に単層のシートを形成させた。培地を除去し、CellShifterTMを気泡が入らないようにしてシート状細胞培養物上に重ね、20℃で1時間静置して、シート状培養物を培養皿から遊離させた。次いでシート状細胞培養物が付着したCellShifterTMを端からめくり、シート状細胞培養物を培養皿から回収し、これを、上記と同様に培養皿上に形成させた単層シート状細胞培養物上に、培地を除去した後で重ねた。37℃で約30分静置後、単層シート状細胞培養物同士が互いに接着していることを確認してから積層シート状細胞培養物を培養皿から剥離し、積層シート状細胞培養物からCellShifterTMを取りのぞいた。
こうして得られたシート状細胞培養物を、実施例2(ヒト)または実施例4(ブタ)と同様に試料保持部材に設置し、試料破断時までの最大荷重を測定したところ、それぞれ0.01N(ヒト)または0.02N(ブタ)であった。

Claims (8)

  1. 液中もしくは液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で、荷重測定装置に連結された試料保持部に固定する工程を含む、脆弱試料の引張特性評価方法。
  2. 試料の破断荷重が1N未満である、請求項1に記載の方法。
  3. 試料がシート状細胞培養物である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 試料保持部の試料保持面が液中または液面以上に位置する状態で、試料に引張荷重を負荷する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 試料の固定を、試料の1つの面のみまたは2つの面を試料保持部に固定することにより行う、請求項4に記載の方法。
  6. 液中もしくは液面に存在する脆弱試料または液中もしくは液面で形成される脆弱試料を、該試料の少なくとも一部または該試料を形成する材料の少なくとも一部が液中もしくは液面に存在する状態で固定する少なくとも2つの試料保持部を含む、脆弱試料の引張特性評価装置。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で引張特性を評価する脆弱試料作製用細胞培養容器であって、刺激応答性材料被覆領域と、その少なくとも一端に配置された取外し可能な細胞接着性基材とを含む、前記細胞培養容器。
  8. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で引張特性を評価する脆弱試料の作製方法であって、
    (i)請求項7に記載の細胞培養容器に細胞を播種する工程、
    (ii)細胞を培地中で所定時間培養してシート状細胞培養物を形成する工程、
    (iii)所定の刺激を加えて刺激応答性材料被覆領域からシート状細胞培養物を遊離させる工程、
    (iv)少なくとも一端に取外し可能な細胞接着性基材が接着した脆弱試料を得る工程
    を含む、前記方法。
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