JP2012149925A - 走行抵抗算出装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】実走行状態の車両に生じる抵抗を簡素な構成で算出可能な走行抵抗算出装置を提供する。
【解決手段】ホイール6分力計11〜14によって計測されたトルクと、ドライブシャフトC1,C2によって計測されたトルクとに基づいて、走行抵抗算出部41が、コーナリング抵抗、タイヤスリップ損失抵抗、タイヤ転がり抵抗、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及びデファレンシャル差動摩擦抵抗を算出し、算出結果に基づいて車両の走行抵抗を算出する。また、走行抵抗算出部41が、車両の空気抵抗を算出し、算出された空気抵抗に基づいて車両の走行抵抗を算出する。
【選択図】図7
【解決手段】ホイール6分力計11〜14によって計測されたトルクと、ドライブシャフトC1,C2によって計測されたトルクとに基づいて、走行抵抗算出部41が、コーナリング抵抗、タイヤスリップ損失抵抗、タイヤ転がり抵抗、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及びデファレンシャル差動摩擦抵抗を算出し、算出結果に基づいて車両の走行抵抗を算出する。また、走行抵抗算出部41が、車両の空気抵抗を算出し、算出された空気抵抗に基づいて車両の走行抵抗を算出する。
【選択図】図7
Description
本発明は、車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出装置に関する。
自動車の走行中に、駆動源(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ハイブリッド、モータ等)で消費されるエネルギーが小さくなるように、駆動系損失やタイヤ転がり抵抗、空気抵抗を低減するための技術開発が行われている。例えば、低転がり抵抗のタイヤを用いると省燃費化が図れるが、一般に背反として、旋回時や加減速時のグリップ性能の低下を招くこととなり、単純に低転がり抵抗のタイヤであれば良いというわけではない。
これまでは、10・15モードに代表されるように、直進状態でのモード燃費や走行抵抗を指標として、自動車の開発が行われていた。しかしながら、実際の自動車の走行状態は、0.1G以上の横G発生頻度が4割以上であるという実験結果があり、実用燃費改善のためには、直進状態だけでなく、横Gが発生する状態についても考慮した上で、燃費や走行抵抗の低減を行う必要がある。
そのためには、自動車の直進状態だけでなく、横Gが発生する状態、即ち、自動車が旋回状態の時に各部で損失される損失エネルギーや抵抗などを正確に計測し、解析する必要がある。
例えば、従来からよく用いられている、平坦路でのNレンジ惰行試験法では、空気抵抗以外は全て転がり抵抗として集約されてしまい、走行抵抗低減目標の割り付け先が、タイヤ単品の転がり抵抗となる。しかしながら、厳密には、上記転がり抵抗には、タイヤ単品の転がり抵抗の他に、初期トーインに起因するサイドスリップ分(旋回時にはコーナリング抵抗分)、ブレーキの引き摺りやハブベアリングの摺動によって生じるブレーキ・ハブベアリング摺動損失分、デファレンシャルに生じるデファレンシャル摩擦損失分等、各部位での損失抵抗分が含まれている。
上記の各損失抵抗のうち、コーナリング抵抗分の見積もり方法として、特許文献1には、操舵角を元に幾何学的関係式を用いる方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示された方法によってコーナリング抵抗分を算出しようとした場合、操舵角がゼロの直進状態であっても、初期トーイン量に起因するサイドスリップ量分を検出することが不可能である。そもそも、ステアリング〜サスペンション系自身には、コンプライアンスが存在するので、タイヤ接地点でのスリップ角は操舵角から一意には決定できず、正確なコーナリング抵抗を抽出することが不可能である。この他にも、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失分及びデファレンシャル摩擦損失分について、直進状態と旋回状態とで同一である保証はない。その最たるものがデファレンシャル摩擦損失分であり、旋回時には内外輪の軌跡が異なるため、デファレンシャルは差動状態となり、自動車が直進状態(非差動状態)と旋回状態とではデファレンシャル摩擦分が異なる。
このように、直進状態及び旋回状態を含む実走行状態の車両の各部に生じる走行抵抗を簡素な構成では計測することができず、実用燃費改善のための開発等を行うことが困難であるといった問題がある。
そこで本発明は、実走行状態の車両に生じる抵抗を簡素な構成で算出可能な走行抵抗算出装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために本発明に係る走行抵抗算出装置は、車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出装置であって、車両のホイールに加わるトルクを計測するホイールトルク計測手段と、車両のドライブシャフトに加わるトルクを計測するドライブシャフトトルク計測手段と、ホイールトルク計測手段によって計測されたトルクと、ドライブシャフトトルク計測手段によって計測されたトルクとに基づいて、車両のコーナリング時に生じるコーナリング抵抗、車両のタイヤのスリップによって生じるタイヤスリップ損失抵抗、車両のタイヤの転がりによって生じるタイヤ転がり抵抗、車両のブレーキの引き摺り及び車両のハブベアリングの摺動によって生じるブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及び車両のデファレンシャルの差動によって生じるデファレンシャル差動摩擦抵抗のうち少なくとも1つ以上を算出し、算出結果に基づいて車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出手段と、を備えたことを特徴とする。
この走行抵抗算出装置では、ホイールトルク計測手段によって計測されたトルクと、ドライブシャフトトルク計測手段によって計測されたトルクとに基づいて、走行抵抗算出手段が、コーナリング抵抗、タイヤスリップ損失抵抗、タイヤ転がり抵抗、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及びデファレンシャル差動摩擦抵抗のうち少なくとも1つ以上を算出し、算出結果に基づいて車両の走行抵抗を算出する。このように、ホイールトルク計測手段及びドライブシャフトトルク計測手段による計測結果に基づいて、実走行状態の車両の各部に生じる走行抵抗を簡素な構成で算出することができる。
また、走行抵抗算出手段は、車両の空気抵抗を更に算出し、算出された空気抵抗に基づいて車両の走行抵抗を算出することが好ましい。この場合には、空気抵抗トルクを考慮した、車両の走行抵抗を算出することができる。
本発明によれば、実走行状態の車両に生じる走行抵抗を簡素な構成で算出することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、本実施形態では、本発明に係る走行抵抗算出装置を、後輪駆動の自動車に適用した場合について説明する。
図1は、本発明に係る走行抵抗算出装置の一実施形態を示すブロック図である。図1に示すように、走行抵抗算出装置1は、ホイール6分力計(ホイールトルク計測手段)11,12,13,14、ドライブシャフトトルク計(ドライブシャフトトルク計測手段)21,22、GPS(Global Positioning System)ロガー30、及び演算処理部40を含んで構成され、後輪駆動の自動車(以下「車両」という)Aに搭載される。なお、図1では、演算処理部40を車両Aの外部の位置に図示したが、実際には、車両の所定位置に設置される。
車両Aには、車両前方に従動輪としての車輪B1,B2が設けられ、車両後方に駆動輪としての車輪B3,B4が設けられている。また、車両Aには、図示しないエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達されるデファレンシャルDが設けられている。デファレンシャルDに伝達された駆動力は、デファレンシャルDからドライブシャフトC1,C2を介してそれぞれ車輪B3,B4に伝達される。
ホイール6分力計11〜14は、車両Aの車輪B1〜B4のホイールにそれぞれ取り付けられ、車輪に作用する直交3軸方向の力と、各軸まわりのモーメントの6分力を計測する。ホイール6分力計11〜14による計測結果は、信号線Lを介して演算処理部40へ出力される。
ドライブシャフトトルク計21,22は、それぞれドライブシャフトC1,C2に取り付けられ、ドライブシャフトに作用するトルク及び回転数を計測する。ドライブシャフトC1,C2による計測結果は、信号線Lを介して演算処理部40へ出力される。
GPSロガー30は、GPSにおける衛星から送信された信号に基づいて、所定のサンプリング時間間隔毎に、GPSロガー30のGPSアンテナ位置での速度と、GPSロガー30の方向を示す方位角とを算出する。GPSロガー30による算出結果は、信号線Lを介して演算処理部40へ出力される。
演算処理部40は、走行抵抗算出部(走行抵抗算出手段)41と、記憶部42とを含んで構成される。走行抵抗算出部41は、ホイール6分力計11〜14、ドライブシャフトトルク計21,22及びGPSロガー30から出力された情報に基づいて、車両Aの走行抵抗を算出する。具体的には走行抵抗算出部41は、車両Aの走行抵抗として、コーナリング時に生じるコーナリング抵抗分、タイヤのスリップによって生じるタイヤスリップ損失分、タイヤの転がりによって生じるタイヤ転がり抵抗分、ブレーキの引き摺り及び車両のハブベアリングの摺動によって生じるブレーキ・ハブベアリング摺動損失分、及びデファレンシャルDの差動によって生じるデファレンシャル差動摩擦損失分の走行抵抗を算出する。更に、走行抵抗算出部41は、車両の空気抵抗分の走行抵抗を算出する。走行抵抗算出部41における各走行抵抗の算出の詳細について、詳しくは後述する。
記憶部42は、走行抵抗算出部41によって算出された走行抵抗を記憶する。記憶部42に記憶された走行抵抗は、要求に応じて外部の装置等に出力され、実燃費の算出や車両開発等に利用される。
次に、走行抵抗算出部41が、ホイール6分力計11〜14及びドライブシャフトC1,C2による計測結果から走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。
まず、走行抵抗算出部41が走行抵抗を算出する処理の基本原理、即ち、エネルギー収支、或いはエネルギー収支の時間変化を表すパワー収支の考え方について説明する。
物理法則から、運動する物体に力が作用すると、その力が成した仕事量だけ物体の力学的エネルギーが変化する。物体が剛体である場合には、力が成した仕事量だけ物体の運動エネルギーが変化する。更に、パワーは、単位時間あたりの仕事、或いはエネルギー変化であるから、下記の式(1)が成り立つ。
運動エネルギー変化=
作用する力のパワー(力×速度、トルク×角速度) …(1)
運動エネルギー変化=
作用する力のパワー(力×速度、トルク×角速度) …(1)
上記を運動方程式から説明する。ここでは、運動方程式を、並進成分と回転成分とに分けて説明する。まず、並進成分についての運動方程式は、下記の式(2)で表される。式(2)の両辺に速度vを掛けると下記の式(3)となり、式(3)を整理すると下記の式(4)となる。
特に、一定の速度(或いは、角速度)で運動している物体は、上記式(4)及び式(7)の左辺の運動エネルギーの変化がゼロとなる。このため、物体に働く「力」とその作用点の「速度」とがわかれば、トータルのパワー収支がゼロであることから、各部位における力のパワーの内訳(入力と損失)が算出できる。これを、車体周りの並進力で書くと、下記の式(8)となる。更に、タイヤ駆動トルクまで展開すると、下記の式(9)となる。このように、任意のレベルでパワー収支について積分又は分解していくことができる。
以上のように、定常状態(運動エネルギー変化がゼロ)を前提とすれば、力と速度、トルクと角速度だけで、パワー収支が決定でき、それ故、各物体の質量や慣性緒元、加速度等の計測が不要となる。そこで本実施形態では、車両Aの速度が一定の状態を、走行抵抗の算出の前提試験条件とする。
次に、走行抵抗算出部41が、実際に走行抵抗を算出する処理の詳細について、空気抵抗分等、走行抵抗毎に説明する。まず、走行抵抗算出部41は、走行抵抗を算出する際の前処理として、GPSロガー30による算出結果から、車両Aの速度、ヨーレート、横G及び車輪B1〜B4の各ホイール位置での速度を算出し、記憶しておく。
具体的な算出方法は、GPSロガー30によって、所定のサンプリング時間間隔Δt毎のGPSアンテナ位置での速度Speedと、方位角Headingが算出されているので、下記の式(A−1)に基づいて車速Vを算出し、下記の式(A−2)及び式(A−3)に基づいてヨーレートΩを算出し、下記の式(A−4)に基づいて横G Ayを算出する。
車輪B1〜B4の各ホイール位置での速度を算出する場合には、GPSロガー30のGPSアンテナ位置を座標原点とした座標系を用いる。図2は、GPSロガーのGPSアンテナ位置を座標原点とした座標系を示す図である。図2に示すように、GPSロガー30のGPSアンテナ位置を座標原点とし、車両Aの前後方向をx軸、左右方向をy軸とする。なお、以下において、車輪B1〜B4を車輪Bi(i=1〜4)としても表す。また、車輪BiのホイールをホイールWHi(i=1〜4)、車輪BiのタイヤをタイヤTRi(i=1〜4)としても表す。
各ホイールWHiの位置での速度Viは、GPSアンテナ位置(座標原点)と各ホイール位置での相対位置ベクトルPi=(Pix,Piy)から、下記の式(A−5)に基づいて算出する。
ここで、βは、図2に示す座標原点における車体スリップ角(x軸と車両Aの進行方向のなす角)である。車体スリップ角βは、横G Ayと車速Vとで決まる値であり、β=β(Ay,V)となる。車体スリップ角β及び横G Ayと、車速Vとの関係は、解析対象となる車両Aの操作安定性試験で事前に求めることができる。図3は、車体スリップ角β及び横G Ayと、車速Vとの関係を示す図である。従って、図3に示すように、予め車体スリップ角β及び横G Ayと、車速Vとの関係を求めておけば、上述の式(A−1)及び式(A−4)を用いて算出した車速Vと横G Ayとから、その時の車体スリップ角βを求めることができる。
ここで、βは、図2に示す座標原点における車体スリップ角(x軸と車両Aの進行方向のなす角)である。車体スリップ角βは、横G Ayと車速Vとで決まる値であり、β=β(Ay,V)となる。車体スリップ角β及び横G Ayと、車速Vとの関係は、解析対象となる車両Aの操作安定性試験で事前に求めることができる。図3は、車体スリップ角β及び横G Ayと、車速Vとの関係を示す図である。従って、図3に示すように、予め車体スリップ角β及び横G Ayと、車速Vとの関係を求めておけば、上述の式(A−1)及び式(A−4)を用いて算出した車速Vと横G Ayとから、その時の車体スリップ角βを求めることができる。
次に、走行抵抗算出部41が空気抵抗分の走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。空気抵抗Rairは、下記の式(B−1)で表される。
但し、ρは空気密度、Cdは空気抵抗係数(風洞試験で得られる)、Aは前面投影面積とする。
但し、ρは空気密度、Cdは空気抵抗係数(風洞試験で得られる)、Aは前面投影面積とする。
走行抵抗算出部41は、式(B−1)を用いて、空気抵抗分の走行抵抗である空気抵抗Rairを算出する。
次に、走行抵抗算出部41がコーナリング抵抗分の走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。図4は、ホイール位置での前後力、横力及び実スリップ角の関係を示す図である。まず、車体周りのパワー収支の関係式(運動エネルギー変化0=車体に働く力のパワー)は、これまでに得られた、車速V、各ホイール位置での速度Vi、空気抵抗Rairを用いて、下記の式(C−1)で表すことができる。
但し、式(C−1)中において既出以外の記号は、図4に示すように、XiはホイールWHi位置の前後力(ホイール6分力計のFx)、YiはホイールWHi位置の横力(ホイール6分力計のFy)、αiはホイールWHi位置の実スリップ角である。なお、実スリップ角αiは車輪の向きと速度ベクトルViの向きとが成す角である
但し、式(C−1)中において既出以外の記号は、図4に示すように、XiはホイールWHi位置の前後力(ホイール6分力計のFx)、YiはホイールWHi位置の横力(ホイール6分力計のFy)、αiはホイールWHi位置の実スリップ角である。なお、実スリップ角αiは車輪の向きと速度ベクトルViの向きとが成す角である
なお、実スリップ角αiは、車両Aの走行状態が通常の領域では、例えば数deg程度の値となる。従って、式(C−1)に示すパワー収支の関係式のうち、cosαiを略1と見なすことができる。
このように、式(C−3)には実スリップ角が現れない。このため、スリップ角の計測を行うことなく、コーナリング抵抗Rcorneringを求めることができる。走行抵抗算出部41は、式(C−3)を用いて、コーナリング抵抗分の走行抵抗であるコーナリング抵抗Rcorneringを算出する。
次に、走行抵抗算出部41がタイヤスリップ損失分の走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。図5は、車輪のホイールにトルクが加わった状態を示す図である。各車輪B1〜B4のホイール(タイヤを含む)の回転軸周りの運動方程式、即ち、各車輪B1〜B4のホイール(タイヤを含む)の回転軸周りのモーメントの釣り合い方程式は、定常状態であるので、下記の式(D−1)によって表すことができる。
但し、図5に示すように、XiはホイールWHiの前後力(ホイール6分力計のFx)、Ti wはホイールWHiの回転トルク(ホイール6分力計のMy)、τi RRはホイールWHiのタイヤTRiの転がり抵抗モーメント、riはホイールWHiのタイヤTRiの負荷半径である。なお、ホイールWHiの前後力Xi及び回転トルクTi wは、ホイール6分力計によって計測される。
但し、図5に示すように、XiはホイールWHiの前後力(ホイール6分力計のFx)、Ti wはホイールWHiの回転トルク(ホイール6分力計のMy)、τi RRはホイールWHiのタイヤTRiの転がり抵抗モーメント、riはホイールWHiのタイヤTRiの負荷半径である。なお、ホイールWHiの前後力Xi及び回転トルクTi wは、ホイール6分力計によって計測される。
そして、上述した、走行抵抗を算出する処理の基本原理に基づいて、式(D−1)に示す運動方程式の両辺に各ホイールWHiの回転角速度ωiを掛けると、下記の式(D−2)に示す各車輪の回転軸周りのパワー収支の式を得る。
式(D−5)のうち未知数は、転がり抵抗モーメントτi RR、タイヤの負荷半径ri、ホイールの回転角速度ωiの3つである。式(D−5)を解くためには、3つの未知数のうち2種類の値を決定する必要がある。
そこで、未知数となっているタイヤの負荷半径riについて検討する。タイヤの負荷半径と、タイヤの接地荷重との関係は、使用するタイヤ毎の既知特性である。図6は、タイヤ負荷半径と接地荷重との関係を示す図である。図6に示すように、タイヤの接地荷重Zが決まれば、タイヤの負荷半径rも分かる。タイヤTRiに加わる接地荷重Ziは、車輪Biに設けられたホイール6分力計11〜14によってそれぞれ計測でき、計測された接地荷重Ziに基づいて、タイヤTRi毎の負荷半径riを求めることができる。
また、未知数となっているホイールの回転角速度ωiについて検討する。現在の車両には、ABS装置が標準で装備されていることから、ABS制御に使用している車輪毎の車輪速の値を回転角速度ωiとして用いることができる。このABS制御に使用している車輪毎の車輪速の値は、ABS装置の制御ユニットから取得することができる。
このように、3つの未知数のうちのタイヤの負荷半径ri及びホイールの回転角速度ωiについて値を決定できるため、上述の式(D−5)に示すパワー収支の式を、転がり抵抗による損失パワー以外の部分を解くことができる。従って、式(D−5)の右辺の第3項を車速Vで割ることにより、タイヤスリップ分の損失によるタイヤスリップ損失抵抗Rslipは、下記の式(D−6)によって表される。
走行抵抗算出部41は、式(D−6)を用いて、タイヤスリップ損失分の走行抵抗であるタイヤスリップ損失抵抗Rslipを算出する。
次に、走行抵抗算出部41がタイヤ転がり抵抗分の走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。上述の式(D−5)の右辺の第2項から、タイヤ転がり抵抗による損失パワーは下記の式(E−1)によって表すことができる。
走行抵抗算出部41は、式(E−2)を用いて、タイヤ転がり抵抗分の走行抵抗である転がり抵抗Rrollingを算出する。
次に、走行抵抗算出部41がブレーキ・ハブベアリング摺動損失分の走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。ここで、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失とは、駆動輪(車輪B3,B4)においては、ブレーキの引き摺り及び車両のハブベアリングの摺動によって生じる損失に加え、ドライブシャフトと車輪のハブとの接続部分で生じるジョイント抵抗による損失を含むものとする。
ドライブシャフトのトルク伝達に関するトルクの釣り合い方程式は、下記の式(F−1)で表すことができる。
但し、Ti wはホイールWHiの回転トルク(ホイール6分力計のMy)、Tiは駆動輪となる車輪Biのドライブシャフトトルク(ドライブシャフトトルク計のTi)、τi Brgはブレーキの引き摺り・ハブベアリングの摺動・ジョイント抵抗によって生じるトルクである。なお、ドライブシャフトトルクTiは、ドライブシャフトC1,C2にそれぞれ取り付けられたドライブシャフトトルク計21,22によって計測される。また、従動輪についてはTi=ゼロである。
但し、Ti wはホイールWHiの回転トルク(ホイール6分力計のMy)、Tiは駆動輪となる車輪Biのドライブシャフトトルク(ドライブシャフトトルク計のTi)、τi Brgはブレーキの引き摺り・ハブベアリングの摺動・ジョイント抵抗によって生じるトルクである。なお、ドライブシャフトトルクTiは、ドライブシャフトC1,C2にそれぞれ取り付けられたドライブシャフトトルク計21,22によって計測される。また、従動輪についてはTi=ゼロである。
そして、上述した、走行抵抗を算出する処理の基本原理に基づいて、式(F−1)に示す釣り合いの方程式の両辺に各ホイールWHiの回転角速度ωiを掛けると、下記の式(F−2)に示す、各ドライブシャフトのトルク伝達に関するパワー収支の式を得る。
走行抵抗算出部41は、式(F−5)を用いて、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失分の走行抵抗であるブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗RBrgを算出する。
次に、走行抵抗算出部41がデファレンシャル差動摩擦損失分の走行抵抗を算出する処理の詳細について説明する。一般に、車両Aの走行時においては、デファレンシャルDに連結されたドライブシャフトC1,C2の回転数は異なる。その理由は、車両Aの旋回時は、内外輪の旋回半径の違いによるいわゆる内外輪差が生じるためであり、また、車両Aの直進時であっても、左右輪の輪重差により上述のようにタイヤ負荷半径が異なるためである。このように、ドライブシャフトC1,C2の回転数が異なる場合には、デファレンシャルDの内部に摩擦等の差動制限トルクが存在すると、左右のドライブシャフトC1,C2のトルクも同一にはならない。このような状況下では、高トルク側のドライブシャフトの回転数は小さく、逆に、低トルク側のドライブシャフトの回転数は大きくなる。
以上より、ドライブシャフトトルク計21,22で計測したドライブシャフトC1,C2のドライブシャフトトルクT及びドライブシャフト回転数ωについて、高トルク側をドライブシャフトトルクTH、及びドライブシャフト回転数ωHとすると、高トルク側ドライブシャフトにおいては、TH=T+ΔT、ωH=ω−Δωの関係式が成立する。反対に、低トルク側をドライブシャフトトルクTL及びドライブシャフト回転数ωLとすると、低トルク側ドライブシャフトにおいては、TL=T−ΔT、ωL=ω+Δωの関係式が成立する。このとき、差動トルクΔTは下記の式(G−1)で表され、差動回転数Δωは下記の式(G−2)で表される。
走行抵抗算出部41は、式(G−8)を用いて、デファレンシャル差動摩擦損失分の走行抵抗であるデファレンシャル差動摩擦抵抗Rdiffを算出する。
走行抵抗算出部41は、上述の式を用いて算出した空気抵抗Rair、コーナリング抵抗Rcornering、タイヤスリップ損失抵抗Rslip、転がり抵抗Rrolling、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗RBrg、及びデファレンシャル差動摩擦抵抗Rdiffを記憶部42へ出力し、これらの値を記憶部42に記憶させる。
次に、走行抵抗算出部41が行う処理の流れについて説明する。図7は、走行抵抗算出部が行う処理の流れを示すフローチャートである。図7に示すように、走行抵抗の算出処理が開始されると、走行抵抗算出部41は、上述のように前処理として、車両Aの速度、ヨーレート、横G及び車輪B1〜B4の各ホイール位置での速度を算出し、記憶する(ステップS101)。
次に、走行抵抗算出部41は、上記式(B−1)を用いて、空気抵抗分の走行抵抗である空気抵抗Rairを算出する(ステップS102)。そして、走行抵抗算出部41は、式(C−3)を用いて、コーナリング抵抗分の走行抵抗であるコーナリング抵抗Rcorneringを算出する(ステップS103)。
次に、走行抵抗算出部41は、式(D−6)を用いて、タイヤスリップ損失分の走行抵抗であるタイヤスリップ損失抵抗Rslipを算出する(ステップS104)。そして、走行抵抗算出部41は、式(E−2)を用いて、タイヤ転がり抵抗分の走行抵抗である転がり抵抗Rrollingを算出する(ステップS105)。
次に、走行抵抗算出部41は、式(F−5)を用いて、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失分の走行抵抗であるブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗RBrgを算出する(ステップS106)。そして、走行抵抗算出部41は、式(G−8)を用いて、デファレンシャル差動摩擦損失分の走行抵抗であるデファレンシャル差動摩擦抵抗Rdiffを算出する(ステップS107)。
次に、走行抵抗算出部41は、後処理として、ステップS102〜S107で算出した各値を記憶部42に記憶させる(ステップS108)。
次に、走行抵抗算出部41は、所定の全ての測定ケースについて、ステップS101〜ステップS108での処理が完了したか否かを判断する(ステップS109)。ここでは、車速(一定)や旋回半径(横G)の組み合わせが異なる複数の測定ケースについて走行抵抗の算出が完了したか否かを判断する。所定の全ての測定ケースについて算出が完了していない場合(ステップS109:NO)、上述のステップS101の処理へ戻る。なお、前処理の実行(ステップS101)において、2回目以降は、1回目の前処理において記憶した値を利用してもよく、再度算出してもよい。所定の全ての測定ケースについて算出が完了した場合(ステップS109:YES)、走行抵抗の算出処理を終了する。
以上、本実施形態では、ホイール6分力計11〜14によって計測されたトルクと、ドライブシャフトC1,C2によって計測されたトルクとに基づいて、走行抵抗算出部41が、コーナリング抵抗、タイヤスリップ損失抵抗、タイヤ転がり抵抗、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及びデファレンシャル差動摩擦抵抗を算出し、算出結果に基づいて車両の走行抵抗を算出する。
このように、ホイール6分力計11〜14及びドライブシャフトC1,C2による計測結果に基づいて、実走行状態(直進状態及び旋回状態の両方を含む状態)の車両Aの各部に生じる走行抵抗を簡素な構成で算出することができる。
また、走行抵抗算出部41が空気抵抗を算出することにより、空気抵抗トルクを考慮した、車両Aの走行抵抗を算出することができる。
以上のようにして各部の走行抵抗を算出することができるため、走行抵抗を低減するための的確な方策を採ることが可能となり、実用燃費改善等の自動車開発を効率的に行うことができる。これにより、従来のモード燃費向上のみならず、実用燃費向上を図ることができ、車両Aのユーザの満足度を向上させることが可能となる。
また、車両Aの走行抵抗を算出するために用いる計測機器がホイール6分力計11〜14,ドライブシャフトC1,C2及びGPSロガー30だけでよく、計測機器分の重量増加や空力特性の変化等を必要最小限に抑制できる。従って、実際の車両Aの走行状態により近い状態で車両の走行抵抗を算出することができる。
本発明に係る走行抵抗算出装置は、実施形態に係る上記走行抵抗算出装置1に限られるものではない。例えば、パワー収支に基づいて走行抵抗を算出する際に、車両Aの速度が一定の状態を、走行抵抗の算出の前提試験条件としたが、加減速状態、即ち非定常状態の場合にも拡張して適用することができる。その場合には、高精度の車体スリップ角計、加速度計及び質量・慣性特性が必要となる。車体スリップ角計等の追加による車両の重量増加等については、車両Aの実走行状態に近づくように補正を行うことで対処できる。
また、GPSロガー30による算出結果を用いて、車両Aの速度、ヨーレート、横G及び車輪B1〜B4の各ホイール位置での速度を算出するものとしたが、車両Aにカーナビゲーション装置が搭載されている場合には、カーナビゲーション装置からこれらの情報を取得したりすることができる。また、GPSロガー30の代わりに、車体スリップ角計やIMU(慣性計測装置)を用いてもよい。VDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)やVSC(Vehicle Stability Control)等の車両運動制御システムを搭載した車両である場合には、これらのECU・CAN(Engine Control Unit・Controller Area Network)情報から、車両Aの速度、車体スリップ角、ヨーレート及び横G等を取得してもよい。
また、コーナリング抵抗を算出する際に、タイヤスリップ角計を用いてコーナリング抵抗を求めてもよい。タイヤスリップ角計の追加に伴う重量増加等は、車両Aの実走行状態に近づくように補正を行うことによって対処できる。
また、走行抵抗算出部41は、走行抵抗として、空気抵抗、コーナリング抵抗、タイヤスリップ損失抵抗、タイヤ転がり抵抗、ブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及びデファレンシャル差動摩擦抵抗の全てを算出するものとしたが、所定のもののみを算出することもできる。
また、上記実施形態では、後輪駆動の車両Aに走行抵抗算出装置1を適用するものとしたが、四輪駆動の車両に走行抵抗算出装置1を適用する場合には、ドライブシャフトトルク計を4つ用意し、各車輪につながる4つのドライブシャフトにそれぞれドライブシャフトトルク計を設けるものとする。
1…走行抵抗算出装置、11〜14…ホイール6分力計(ホイールトルク計測手段)、21,22…ドライブシャフトトルク計(ドライブシャフトトルク計測手段)、41…走行抵抗算出部(走行抵抗算出手段)、A…車両。
Claims (2)
- 車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出装置であって、
前記車両のホイールに加わるトルクを計測するホイールトルク計測手段と、
前記車両のドライブシャフトに加わるトルクを計測するドライブシャフトトルク計測手段と、
前記ホイールトルク計測手段によって計測されたトルクと、前記ドライブシャフトトルク計測手段によって計測されたトルクとに基づいて、前記車両のコーナリング時に生じるコーナリング抵抗、前記車両のタイヤのスリップによって生じるタイヤスリップ損失抵抗、前記車両のタイヤの転がりによって生じるタイヤ転がり抵抗、前記車両のブレーキの引き摺り及び前記車両のハブベアリングの摺動によって生じるブレーキ・ハブベアリング摺動損失抵抗、及び前記車両のデファレンシャルの差動によって生じるデファレンシャル差動摩擦抵抗のうち少なくとも1つ以上を算出し、算出結果に基づいて前記車両の走行抵抗を算出する走行抵抗算出手段と、
を備えたことを特徴とする走行抵抗算出装置。 - 前記走行抵抗算出手段は、前記車両の空気抵抗を更に算出し、算出された前記空気抵抗に基づいて前記車両の走行抵抗を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の走行抵抗算出装置。
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