JP2012125199A - 標準細胞試料 - Google Patents

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Abstract

【課題】遺伝子発現量検査等の核酸解析において、核酸を抽出・精製する前処理工程から、核酸増幅反応及び増幅産物の検出工程までの一連の工程において、簡便に製造することができ、長期保存も可能であり、さらに工程精度管理に用いることができる細胞試料の提供。
【解決手段】塩基配列の全部又は一部が既知である標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入されており、かつ、細胞の内部に核酸を保持しつつ発現プロファイルの変動を抑制することができる不活化液体に浸漬させた形質転換細胞である標準細胞試料、前記形質転換細胞内に、前記標準核酸を鋳型として合成されたmRNAは存在しているが、当該標準核酸に由来するタンパク質は発現していない前記標準細胞試料、並びに、前記発現用ベクター中の前記標準核酸を含む領域から転写されたRNAが、リボソーム結合能を欠損している前記の標準細胞試料。
【選択図】なし

Description

本発明は、核酸解析の工程精度管理等に用いることが可能な標準細胞試料に関する。
近年、正常細胞が癌になるまでの多段階発癌機構が存在することが明らかにされている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。具体的には、正常細胞の癌化には、DNA修復遺伝子、癌抑制遺伝子及び癌遺伝子を含む複数の遺伝子異常の蓄積が必要とされている。また、癌遺伝子の活性化や増殖因子の過剰発現は、癌の進展及び悪性化に関与すると考えられている。このように、癌の発生、増殖、転移には、数多くの遺伝子の発現促進又は抑制が関与している。そこで、これらの遺伝子の発現量を測定することにより、遺伝子レベルで癌の存在を推定したり、癌のタイプ分類を行ったりすることが可能となる。
癌の検出や、進行度、分化度、タイプ等による分類を、迅速かつ簡便に行うことができれば、早期に癌を発見することができ、さらに、適切な治療法を選択し、個々の患者に適した治療方針を立てることが可能になる。これにより、不必要な治療を避け、患者の負担を最小限に押さえることができ、かつ医療費の抑制にもつながると考えられる。このためにも、検体中の癌遺伝子等の遺伝子解析を迅速かつ高精度に行うことができる方法の開発が求められている。
一般に、ヒト遺伝子の発現量を解析する場合、組織などからRNAを抽出し、RT(Reverse transcription)−PCR(Polymerase Chain Reaction)により、解析対象である遺伝子由来の核酸の増幅反応を行う。こうした解析は複数の工程を通して行われるため、各工程が適切に行われることで、初めて正確な結果が得られる。このため、各工程の精度管理が重要である。
工程の精度管理は、通常、標準試料を、対象サンプルと同様の工程で処理し、得られる結果が正しい範囲に入っているかを解析することにより行われる。また、複数の工程からなる場合には、全ての工程に対する精度管理を行うことが可能な標準検体を用いることにより、より簡便に精度管理を行うことができる。例えば、遺伝子発現量検査においては、前処理工程である対象となるサンプルからの核酸の抽出・精製工程と、核酸の増幅・検出工程の全工程を保証するために、全工程で常に安定して陽性となる標準試料を用いることが好ましい。
従来の遺伝子発現量検査においては、ヒト由来の臨床サンプル(組織片や血球細胞など)を標準試料として用いていた。臨床サンプルは、個体差等によるサンプル間のばらつきが大きいため、一般的には、一の臨床サンプルを小分けし、劣化を防ぐために凍結させたものを標準試料とし、対象サンプルとともに前処理や増幅、検出工程に使用されていた。しかしながら、遺伝子は組織の部位によって発現量が異なる上に、細胞ごとに発現プロファイル(若しくは発現パターン)は一定ではない。このため、解析対象の標的核酸の種類ごとに、適切な臨床サンプルを標準試料としなければならなかった。また、一の臨床サンプルから小分けにされたサンプルであっても、各サンプルを均一化することは困難であり、このため、標準試料の発現量の測定結果がばらつき、再現性に乏しい、という問題がある。さらに、凍結サンプルであるため、使用前に、融解・混合して液状化させ、試薬を適宜添加して安定化させるという工程が必要であり、すぐに標準試料として検査に使用することができなかった。
臨床サンプルに代えて、人工的に調製したサンプルを、精度管理用の標準試料として用いる方法も開示されている。例えば、核酸や細胞を、高分子ゲル状保持体に保持させた擬似組織サンプルや、核酸や細胞を保持した高分子ゲル状保持体の表面の少なくとも一部を保護体で覆った擬似組織サンプルを、生体からの切除組織を検体として遺伝子解析を行う場合の精度管理用の標準試料として用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
特開2006−136310号公報 特開2008−237109号公報
フィーロン E.R.(Fearon,E.R.)ら、セル(Cell)、1990年、第61巻、第759〜767ページ。 スギムラ T.(Sugimura,T.)、サイエンス(Science)、1992年、第258巻、第603〜607ページ。
特許文献1や2に記載されている擬似組織サンプルは、予め均一に調製された核酸を用いることにより、均一化された標準試料として用いることができる。一方で、細胞を用いた場合には、例え培系統化されたヒト由来細胞であっても、その培養状態(培養操作のバラつき、細胞の分裂回数)によって遺伝子の発現プロファイルは影響を受けるため、発現プロファイルが一定に調整された擬似組織サンプルを調製することは困難である。
また、核酸や細胞は分解・変性されやすい。特に細胞は、時間経過により発現プロファイルが変動してしまう。このため、核酸や細胞を用いた擬似組織サンプルは、安定的に長期間保存することができず、十分な精度管理を行うためには、用時調製する必要がある。
さらに、解析対象とする臨床サンプルが血液等の体液や糞便等のように、しっかりとした結合組織が存在しない場合には、当該擬似組織サンプルを標準試料として用いるためには、まず、擬似組織サンプルを加温して高分子ゲル状保持体や保護体を溶解させ、混合して均一化した後に、検査に適した温度にまで冷却させなくてはならない。その他、製造に手間と時間を要するという問題もある。
本発明は、遺伝子発現量検査等の核酸解析において、核酸を抽出・精製する前処理工程から、核酸増幅反応及び増幅産物の検出工程までの一連の工程において、簡便に製造することができ、長期保存も可能であり、さらに工程精度管理に用いることができる細胞試料を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、核酸増幅工程においてコントロールとして用いることができる核酸が組み込まれた発現用ベクターを導入した後、不活化液体に浸漬させることによって発現プロファイルを固定した形質転換細胞であれば、容易に製造することができ、かつ長期間安定して保存することができる上に、核酸抽出工程から増幅産物の検出工程までの全工程の精度管理を行うこともできることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1) 塩基配列の全部又は一部が既知である標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入されており、かつ
細胞の内部に核酸を保持しつつ発現プロファイルの変動を抑制することができる不活化液体に浸漬させた形質転換細胞であることを特徴とする標準細胞試料、
(2) 前記形質転換細胞内に、前記標準核酸を鋳型として合成されたmRNAは存在しているが、当該標準核酸に由来するタンパク質が生産されていないことを特徴とする前記(1)に記載の標準細胞試料、
(3) 発現誘導物質によって、前記形質転換細胞内において前記標準核酸からmRNAを合成させた後、当該形質転換細胞を不活化液体に浸漬させたことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の標準細胞試料、
(4) 前記発現用ベクター中の前記標準核酸を含む領域から転写されたRNAが、リボソーム結合能を欠損していることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(5) 前記不活化液体が、水溶性有機溶媒、プロテアーゼ阻害剤、キレート剤、及び塩類からなる群より選択される1種以上を有効成分とする溶液であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(6) 前記水溶性有機溶媒が、水溶性アルコール、ケトン類、及びアルデヒド類からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(5)に記載の標準細胞試料、
(7) 前記不活化液体が、水溶性有機溶媒として水溶性アルコール及び/又はケトン類を含み、当該水溶性有機溶媒の濃度が30%以上であることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の標準細胞試料、
(8) 前記水溶性アルコールが、エタノール、プロパノール、及びメタノールからなる群より選ばれる1以上であることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の標準細胞試料、
(9) 前記ケトン類が、アセトン及び/又はメチルエチルケトンであることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(10) 前記不活化液体が、水溶性有機溶媒としてアルデヒド類を含み、当該水溶性有機溶媒の濃度が0.01〜30%であることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の標準細胞試料、
(11) 前記不活化液体が、塩化ナトリウムを、13%(wt/wt)以上からその飽和濃度以下の濃度で含むことを特徴とする前記(5)〜(10)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(12) 前記不活化液体が、硫酸アンモニウムを、30%(wt/wt)以上からその飽和濃度以下の濃度で含むことを特徴とする前記(5)〜(11)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(13) 前記不活化液体が、0.1mM〜1Mのキレート剤を含んでいることを特徴とする前記(5)〜(12)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(14) 不活化液体中に分散している分散液の状態で、−20〜40℃で保存されていることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(15) 前記標準核酸が、ヒト遺伝子由来の核酸であることを特徴とする前記(1)〜(14)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(16) 前記標準核酸が、COXー2(cyclooxygenase−2)遺伝子由来核酸又はc−Myc遺伝子由来核酸であることを特徴とする前記(1)〜(15)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
(17) 前記形質転換細胞が、原核細胞であることを特徴とする前記(1)〜(16)のいずれか一つに記載の標準細胞試料、
を、提供するものである。
本発明の標準細胞試料は、容易に製造することができ、かつ長期間安定して保存することができる。さらに、本発明の標準細胞試料は、細胞試料からの核酸の抽出・精製、抽出された核酸の増幅、及び増幅産物の検出という一連の工程を有する核酸解析において、全工程の精度管理を行うために用いることもできる。
核酸の解析方法の一態様を示したフローチャートである。 核酸の解析方法の別の一態様を示したフローチャートである。 実施例2において、様々な濃度のエタノール溶液に浸漬させた保存した細胞試料から検出されたCOX−2遺伝子発現量を示した図である。 実施例3において、様々な温度で保存した標準細胞試料から検出されたCOX−2遺伝子発現量を示した図である。
<<標準細胞試料及びその製造方法>>
本発明の標準細胞試料は、塩基配列の全部又は一部が既知である標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入されており、かつ細胞の内部に核酸を保持しつつ発現プロファイルの変動を抑制することができる不活化液体に浸漬させた形質転換細胞であることを特徴とする。不活化液体の作用によって、細胞の発現プロファイルが固定されているため、本発明の標準細胞試料は、長期間安定して保存することができる。また、当該技術分野において汎用されている遺伝子組換え技術によって、発現用ベクターへの標準核酸の組み込み及び発現用ベクターの細胞への導入を行った後、得られた形質転換細胞を不活化液体へ浸漬させるという簡便な操作によって、容易に製造することができる。さらに、本発明の標準細胞試料は、発現用ベクターに組み込む標準核酸として、核酸増幅反応のコントロールとして使用可能な核酸を用いることにより、細胞試料からの核酸の抽出・精製、抽出された核酸の増幅、及び増幅産物の検出という一連の工程を有する核酸解析において、全工程の精度管理を行うための標準試料として好適に用いることができる。
なお、本発明及び本願明細書において、「発現プロファイルの変動を抑制する」とは、細胞内の遺伝子発現量の増減を停止させ、一定化させることを意味する。遺伝子発現量は、リアルタイムPCR法等の当該技術分野において公知の手法を適宜用いることにより、測定することができる。例えば、細胞試料中の特定の遺伝子の発現量を測定して得られた測定値が、異なる時点で同様にして得られた測定値とほぼ等しい場合に、当該細胞試料の発現プロファイルの変動は抑制されている、ということができる。
発現用ベクターに組み込まれる標準核酸は、PCR等の核酸増幅反応によって増幅産物を得ることが可能な程度に、塩基配列の全部又は一部が既知であればよく、いずれの核酸を用いてもよい。なお、本発明及び本願明細書において、核酸には、DNAとRNAのいずれも含まれるが、標準核酸はDNAである。本発明においては、標準核酸として、タンパク質をコードする領域を含んでいる核酸であることが好ましく、遺伝子由来の核酸を含んでいる核酸であることがより好ましい。なお、遺伝子由来の核酸とは、生物の遺伝子のゲノムDNAやゲノムRNA、ゲノムDNAやゲノムRNAの全長又は一部分から転写されたRNA、並びに、これらの核酸の全長又は一部分と相補的な塩基配列を有するDNA等が挙げられる。例えば、一の遺伝子のゲノムDNAの全長又はその一部分のみならず、mRNAの全長又は一部分から逆転写反応により合成されたcDNAや、当該cDNAをPCR等により増幅して得られた増幅産物等も遺伝子由来の核酸に含まれる。
遺伝子由来の核酸としては、ヒト遺伝子由来の核酸であることが好ましく、疾患のマーカー遺伝子に由来する核酸であることが特に好ましい。疾患のマーカー遺伝子は、解析対象である生物学的試料中における、当該遺伝子の発現の有無やその発現量の多寡を解析することにより、被験者が当該疾患に罹患しているか否かを判断することが可能な遺伝子を意味する。具体的には、疾患のマーカー遺伝子としては、特定の疾患に罹患している場合に、特異的に発現する遺伝子や、塩基の挿入、欠失、置換、重複、逆位、又はスプライシングバリアント(アイソフォーム)等の変異が生ずる遺伝子等が挙げられる。
疾患のマーカー遺伝子としては、腺腫や癌のマーカー遺伝子や、感染症等のマーカー遺伝子等が挙げられる。腺腫や癌といった疾患では、遺伝子の変異が主な発症原因の1つであると考えられており、遺伝子解析によるマーカー遺伝子の検出が、臨床検査においても行われている。腺腫又は癌のマーカー遺伝子としては、例えば、COX−2(Cyclooxygenase −2)、c−Myc遺伝子、MMP7(matrix metallopeptidase7)、SNAIL等が挙げられる。また、感染症のマーカー遺伝子としては、感染症の原因微生物の遺伝子等が挙げられる。
その他、発現用ベクターに組み込まれる標準核酸としては、ハウスキーピング遺伝子由来の核酸を含んでいる核酸であってもよい。ハウスキーピング遺伝子としては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH:glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)、18S リボソームRNA、28S リボソームRNA、βアクチン、β2ミクログロブリン、ヒポキサンチンホスホリボシル・トランスフェラーゼ1、リボソーム蛋白質ラージP0、ペプチジルプロピル・イソメラーゼA(シクロスポリンA)、チトクロームC、ホスホグリセレート・キナーゼ1、β−グルクロニダーゼ、TATAボックス結合因子、トランスフェリン受容体、HLA−A0201重鎖、リボソームタンパク質L19、αチューブリン、βチューブリン、γチューブリン、ATPシンセターゼ、翻訳伸長因子1ガンマ(EEF1G:eukaryotic translation elongation factor 1 gamma)、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体(SDHA:succinate dehydrogenase complex)、アミノレブリン酸シンターゼ1(ALAS:aminolevulinic acid synthase 1)、ADP−リボシル化因子6(ADP−ribosylation factor 6)、エンドヌクレアーゼG(ENDOG:endonuclease G)、及びペルオキシソーム形成因子(PEX:peroxisomal biogenesis factor)等が挙げられる。
本発明において、標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入される細胞は、大腸菌、枯草菌等の原核細胞(細菌)であってもよく、酵母、糸状菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞であってもよい。本発明においては、製造が容易であり、かつ取り扱い性に優れているため、大腸菌等の細菌であることが好ましい。細菌は、大量培養を簡便に行うことができ、かつ、凍結保存や凍結融解処理に対しても安定である。さらに、導入された発現用ベクターを比較的安定して保持することができる。このため、一度に大量に調製した細菌の培養液を、適当量ずつ分注して凍結保存することによって、同一ロットの標準細胞試料を大量に準備してストックすることが可能となる。その他、ヒト等の哺乳細胞を用いた場合には、臨床検体に近いヒト由来遺伝子発現プロファイルであり、かつ均一で固定化された発現プロファイルを備えた標準細胞試料を製造することもできる。
発現用ベクターとしては、プラスミドベクター、ウィルスベクター、コスミドベクター、BACベクター、λファージベクター等が知られている。標準核酸を組み込む発現用ベクターは、導入する細胞種に応じて、当該技術分野において公知のベクターの中から適宜選択して用いることができる。また、公知のベクターを遺伝子組換え技術等により改変したものであってもよい。本発明においては、製造が容易であり、かつ取り扱い性に優れているため、プラスミドベクターを用いることが好ましい。
発現用ベクターへの標準核酸の組み込みは、公知の遺伝子組換え技術を用いて、常法により行うことができる。また、発現用ベクターの細胞へ導入する方法も、当該技術分野において公知の方法の中から、発現用ベクターの種類や細胞の種類等を考慮して適宜選択して行うことができる。具体的には、プラスミドベクターを細胞に導入する方法としては、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等が挙げられる。また、市販のベクター導入試薬を用いてもよい。また、ウィルスベクターとしては、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノウィルス随伴ベクター等が汎用されているが、これらの場合には、標準核酸が組み込まれたウィルスベクターをパッケージング細胞に導入して得られた組み換えウィルスを細胞に接触させて感染させることにより、ウィルスベクターを細胞に導入することができる。
発現用ベクターとして、特定の発現誘導物質により発現を誘導することによって当該発現用ベクターに組み込まれた遺伝子の転写・翻訳が起こるベクターを用いた場合には、標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入された形質転換細胞は、不活化液体に浸漬させる前に、発現誘導物質に接触等させて発現を誘導させておくことが好ましい。発現誘導により標準核酸からmRNAが合成された状態で発現プロファイルを固定することにより、得られた標準細胞試料を、遺伝子の発現量解析等のように細胞中のmRNAを解析対象とする解析方法のための工程精度管理用の試料として好適に用いることができる。
発現誘導は、発現誘導物質を形質転換細胞の培養液中に添加することにより行うことができる。発現誘導物質の種類や量、並びに発現誘導時間を適宜調整することにより、発現用ベクター中の標準核酸を含む領域から転写されるRNA(標準核酸由来RNA)の量を所望の範囲にコントロールすることや、形質転換細胞間の標準核酸由来RNA量を均一化することができる。すなわち、形質転換細胞における遺伝子の発現プロファイルを調節することが可能になる。これにより、標準細胞試料を核酸解析の工程精度管理のための試料として用いる場合に、解析対象である標的核酸の種類等に応じて、当該標準細胞試料に含まれる標準核酸由来RNAの量を調節することもできる。
本発明においては、形質転換細胞内において、発現用ベクターにより導入された標準核酸から転写・翻訳されたタンパク質が生産されていないことが好ましい。標準核酸由来のタンパク質が、形質転換細胞に対して毒性を示す場合など、標準核酸由来のタンパク質が細胞内に存在していることによって、発現プロファイルが影響を受ける場合がある。毒性の程度は細胞ごとに異なる場合が多いため、形質転換細胞間で発現プロファイルが異なってしまうおそれがある。また、標準核酸由来のタンパク質が細胞内で封入体を形成してしまう場合など、標準核酸由来のタンパク質が細胞内に存在していることによって、細胞から核酸を抽出する際に用いられる抽出用溶液に対する不溶性成分が多くなる場合がある。核酸の抽出効率は、不溶性成分の量により影響を受ける場合があるが、外来タンパク質により増大する不溶性成分の量は細胞ごとに異なる場合が多いため、形質転換細胞間で核酸抽出効率が異なってしまうおそれがある。形質転換細胞内に標準核酸に由来するタンパク質が生産されていない場合には、このようなおそれを回避し、形質転換細胞間の発現プロファイルや核酸抽出効率をより均一化することができる。
発現用ベクターに導入する標準核酸が遺伝子由来核酸等のタンパク質をコードする核酸である場合であっても、例えば、標準核酸由来RNAのリボソーム結合能が顕著に低下するように、好ましくはリボソーム能が欠損されるように、発現用ベクター予め改変しておくことにより、標準核酸由来のタンパク質の発現を抑制することができる。具体的には、発現用ベクター中の標準核酸挿入部位の上流にあるリボソーム結合部位(RBS)を欠損させたり、RBS中にリボソーム結合能を低下又は欠損させるような変異を導入する。原核細胞のRBSとしては、例えば、SD(シャインダルガノ)配列等が挙げられる。また、真核細胞においては、発現用ベクター中の標準核酸挿入部位の上流にあるコザック配列を欠損させたり、コザック配列に翻訳促進能を低下又は欠損させるような変異を導入することによっても、標準核酸由来のタンパク質の発現を抑制することができる。その他、開始コドンを除いたものを標準核酸として発現用ベクターに導入することも好ましい。
標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入された形質転換細胞を、不活化液体に浸漬させることにより、標準細胞試料を製造することができる。不活化液体に浸漬させることにより、形質転換細胞内の核酸やタンパク質の合成や分解反応が停止し、発現プロファイルが固定される。不活化液体により、形質転換細胞が死んで不活性化されるが、核酸が細胞内に保持された状態が維持されるため、発現用ベクター中の標準核酸や、転写により合成された標準核酸由来RNAが、細胞内に安定して保持される。
本発明において用いられる不活化液体は、細胞の内部に核酸を保持しつつ発現プロファイルの変動を抑制する作用効果(以下、不活化効果)を有する溶液である。不活化液体としては、水溶性有機溶媒、プロテアーゼ阻害剤、キレート剤、及び塩類からなる群より選択される1種以上を有効成分とする溶液であることが好ましい。例えば、水溶性有機溶媒又はその希釈液や、高塩濃度の水溶液を不活化液体としてもよい。また、プロテアーゼ阻害剤やキレート剤を単独若しくは組み合わせて、水溶性有機溶媒若しくはその希釈液や高塩濃度の水溶液に溶解させたものを、不活化液体としてもよい。
本発明及び本願明細書において、水溶性有機溶媒とは、水に対する溶解度が高い又は水と任意の割合で混合可能な有機溶媒を意味する。細胞は水分含有量が高いため、水に対する溶解度が高い溶媒や水と任意の割合で混合可能である溶媒である水溶性有機溶媒を不活化液体の有効成分として用いることにより、形質転換細胞と不活化液体とを速やかに混合することができる。
水溶性有機溶媒が不活化効果を有している理由は明らかではないが、水溶性有機溶媒成分が有する脱水作用により、形質転換細胞の細胞活性が顕著に低下するため、及び、水溶性有機溶媒成分が有するタンパク質変性作用により、形質転換細胞中のプロテアーゼ、DNase、RNase等の各種分解酵素の活性が顕著に低下するために得られると推察される。
不活化液体として用いられる水溶性有機溶媒としては、具体的には、アルコール類、ケトン類、又はアルデヒド類であって、直鎖構造を有し、室温付近、例えば15〜40℃において液状である溶媒を意味する。直鎖構造を有する水溶性有機溶媒を有効成分とすることにより、ベンゼン環等の環状構造を有する有機溶媒を有効成分とするよりも、細胞との混合を素早く行うことができる。環状構造を有する有機溶媒は、一般的に水と分離しやすいため、水分含有量の高い細胞と混合しにくく、高い不活化効果を得ることは難しい。なお、細胞と環状構造を有する有機溶媒を混合しやすくするために、予め有機溶媒と水の混合溶液を作製した後、細胞と該混合溶液を混合させることも考えられる。しかしながら、該混合溶液を作製するためには、環状構造を有する有機溶媒と水を激しく混合したり、加温する必要がある場合が多く好ましくない。
本発明において用いられる不活化液体としては、水に対する溶解度が12重量%以上の水溶性有機溶媒であることが好ましく、水に対する溶解度が20重量%以上の水溶性有機溶媒であることがより好ましく、水に対する溶解度が90重量%以上の水溶性有機溶媒であることがさらに好ましく、水と任意の割合で混合可能である水溶性有機溶媒であることが特に好ましい。水と任意の割合で混合可能である水溶性有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、ホルムアルデヒド等がある。
本発明において不活化液体として用いられる水溶性有機溶媒は、上記定義を充足するものであって、不活化効果を奏することができる溶媒であれば特に限定されるものではない。該水溶性有機溶媒として、例えば、アルコール類としては、水溶性アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メルカプトエタノール等があり、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(水に対する溶解度90重量%等があり、アルデヒド類としては、アセトアルデヒド(アセチルアルデヒド)、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、グルタールアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、グリオキサール(glyoxal)等がある。プロパノールは、n−プロパノールであってもよく、2−プロパノールであってもよい。また、ブタノールは、1−ブタノール(水に対する溶解度20重量%)であってもよく、2−ブタノール(水に対する溶解度12.5重量%)であってもよい。本発明において用いられる水溶性有機溶媒としては、水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ホルムアルデヒドであることが好ましい。水に対する溶解度が十分に高いためである。入手容易性、取り扱い性、安全性等の点から、水溶性アルコールであることがより好ましく、エタノール、プロパノール、メタノールであることがさらに好ましい。特にエタノールは、最も安全性が高く、容易に扱うことが可能であるため、特に有用である。
不活化液体中の水溶性有機溶媒の濃度は、不活化効果を奏することができる濃度であれば、特に限定されるものではなく、水溶性有機溶媒の種類等を考慮して、適宜決定することができる。不活化液体中の水溶性有機溶媒濃度が充分に高濃度であることにより、形質転換細胞と不活化液体を混合した場合に、形質転換細胞全体に水溶性有機溶媒成分が迅速に浸透し、上記効果を速やかに奏することができる。
例えば、水溶性アルコールやケトン類を用いる場合には、不活化液体中の水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50〜80%であることがさらに好ましく、60〜70%であることが特に好ましい。水溶性有機溶媒濃度が高い程、水分含量の多い細胞に対しても少量の不活化液体を用いることによって、充分な効果を得ることができる。
また、アセトン、メチルエチルケトンを用いる場合には、不活化液体中の水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。その他、有効成分として、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、グリオキサールを用いる場合には、不活化液体中の水溶性有機溶媒濃度は0.01〜30%であることが好ましく、0.03〜10%であることがより好ましく、3〜5%であることがさらに好ましい。アルデヒド類は、アルコール類やケトン類よりも低濃度においても、不活化効果を奏することができる。
その他、本発明において用いられる不活化液体は、1種類の水溶性有機溶媒のみを含有していてもよく、2種類以上の水溶性有機溶媒の混合溶液であってもよい。例えば、2種類以上のアルコールの混合溶液であってもよく、アルコールと他種類の水溶性有機溶媒との混合溶液であってもよい。不活化効果がより改善されるため、アルコールとアセトンの混合溶液であることも好ましい。
また、本発明においては、不活化液体として、プロテアーゼ阻害剤を有効成分として用いることが好ましい。細胞内外に存在するプロテアーゼにより細胞膜のタンパク質等が分解される結果、細胞膜に生じた孔等から核酸が細胞外へと流出し、この細胞外へ流出した核酸は、細胞外に存在する核酸分解酵素等の働きにより分解されてしまう。不活化液体の有効成分としてプロテアーゼ阻害剤を用いることにより、細胞膜タンパク質の分解を効果的に抑制し、核酸を分解酵素等が比較的少量な細胞内に維持することにより、形質転換細胞の発現プロファイルの変動を抑制することができる。
本発明において、不活化液体の有効成分として用いられるプロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼ(protease、ペプチド結合の加水分解を触媒し得る酵素)の酵素活性を阻害し得るものであれば、特に限定されるものではなく、プロテイナーゼ(proteinase)阻害剤であってもよく、ペプチダーゼ(peptidase)阻害剤であってもよい。また、セリンプロテアーゼを阻害し得るものであってもよく、システインプロテアーゼを阻害し得るものであってもよく、アスパラギン酸プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ)(aspatric protease)を阻害し得るものであってもよく、金属プロテアーゼ(metallo protease)を阻害し得るものであってもよい。
本発明において用いられるプロテアーゼ阻害剤としては、公知のプロテアーゼ阻害剤の中から適宜選択して用いることができる。本発明において用いられるプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、AEBSF、Aprotinin、Bestain、Calpain Inhibitor l、Calpain Inhibitor II、Chymostatin、3,4−Dichloroisocoumain、E−64、Lactacystin、Leupeptin、MG−115、MG−132、PepstatinA、PMSF、Proteasome Inhibitor、TLCK、TPCK、Trypsin Inhibitor等が挙げられる。その他、一般に「プロテアーゼ阻害剤カクテル」と呼ばれる、複数種類のプロテアーゼ阻害剤を組合せたものを使用することもできる。
また、不活化液体中のプロテアーゼ阻害剤の濃度は、形質転換細胞を含む溶液中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、添加されるプロテアーゼ阻害剤の種類や、形質転換細胞を含む溶液と不活化液体との混合比、形質転換細胞を含む溶液と不活化液体とを混合して調製された懸濁液のpHや温度等を考慮して適宜決定することができる。表1に、形質転換細胞を含む溶液と混合して調製された懸濁液中における各プロテアーゼ阻害剤の好ましい濃度を記載する。
Figure 2012125199
本発明において用いられるプロテアーゼ阻害剤としては、上記のようなペプチド系プロテアーゼ阻害剤であってもよく、還元剤であってもよく、タンパク質変性剤であってもよい。なお、本発明において、「ペプチド系プロテアーゼ阻害剤」とは、プロテアーゼと相互作用をすることにより、プロテアーゼ活性を阻害し得るペプチド、又はその修飾体を意味する。
還元剤としては、DTT(ジチオスレイトール)、βメルカプトエタノール等が挙げられる。
プロテアーゼ阻害剤として不活化液体に添加される還元剤の濃度は、形質転換細胞を含む溶液中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、還元剤の種類等を考慮して適宜決定することができる。好ましくは、形質転換細胞を含む溶液と混合して調製された懸濁液中における最終濃度が0.1mM〜1Mとなるように、各還元剤を添加する。
タンパク質変性剤としては、尿素、グアニン、グアニジン塩等が挙げられる。
プロテアーゼ阻害剤として不活化液体に添加されるタンパク質変性剤の濃度は、形質転換細胞を含む溶液中のプロテアーゼを阻害するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、タンパク質変性剤の種類等を考慮して適宜決定することができる。好ましくは、形質転換細胞を含む溶液と混合して調製された懸濁液中における最終濃度が0.1mM〜10Mとなるように、各タンパク質変性剤を添加する。
なお、核酸安定化剤としては、1種類のプロテアーゼ阻害剤のみを用いてもよく、2種類以上のプロテアーゼ阻害剤を用いてもよい。また、AEBSF等のペプチド系のプロテアーゼ阻害剤を複数種類組み合わせて用いてもよく、ペプチド系プロテアーゼ阻害剤と還元剤のように、異なる種類のプロテアーゼ阻害剤を用いてもよい。
また、本発明においては、不活化液の有効成分として、キレート剤を用いることも好ましい。キレート剤により、形質転換細胞内外の核酸分解酵素やタンパク質分解酵素等の酵素活性を抑制することができる。
キレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、O,O’−ビス(2−アミノフェニルエチレングリコール)エチレンジアミン四酢酸(BAPTA)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランスー1,2−ジアミノシクロヘキサンーエチレンジアミン四酢酸(CyDTA)、1,3−ジアミノー2−ヒドロキシブロパンーエチレンジアミン四酢酸(DPTA−OH)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン二プロバン酸塩酸塩(EDDP)、エチレンジアミン二メチレンホスホン酸1水和物(EDDPO)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(EDTA−OH)、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸(EDTPO)、O,O’−ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール四酢酸(EGTA)、N,N−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)、1,6−ヘキサメチレンジアミン四酢酸(HDTA)、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、イミノ二酢酸(IDA)、1,2−ジアミノプロパン四酢酸(Methyl−EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三プロパン酸(NTP)、ニトリロ三メチレンホスホン酸三ナトリウム塩(NTPO)、エチレンジアミン四(2−ピリジルメチル)(TPEN)、及びトリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)等が挙げられる。
有効成分として不活化液体に添加されるキレート剤の濃度は、形質転換細胞を含む溶液中の酵素活性を阻害し、形質転換細胞の発現プロファイルの変動を抑制するために十分な濃度であれば、特に限定されるものではなく、キレート剤の種類等を考慮して適宜決定することができる。好ましくは、形質転換細胞を含む溶液と混合して調製された懸濁液中における最終濃度が0.1mM〜1Mとなるように、各キレート剤を添加する。
さらに、不活化液体としては、高塩濃度溶液を用いてもよい。高塩濃度溶液が不活化液体として機能し得る理由は明らかではないが、塩析により各種分解酵素が析出してしまうため、高濃度の塩成分が有する脱水作用により、哺乳細胞や腸内常在菌等のバクテリアの細胞活性が顕著に低下して経時的な変化が抑制されるため、及び、最適塩濃度から外れたためにプロテアーゼ、DNase、RNase等の各種分解酵素の活性が顕著に低下するためと推察される。
不活化液体に有効成分として含まれる塩としては、生体試料を調製又は解析する際に通常用いられている塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、塩酸塩であってもよく、硫酸塩であってもよく、酢酸塩であってもよい。また、有効成分としては、1種類の塩を用いてもよく、2種類以上の塩を組み合わせて用いてもよい。本発明において用いられる不活化液体としては、有効成分として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、重硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸セシウム、硫酸カドミウム、硫酸セシウム鉄(II)、硫酸クロム(III)、硫酸コバルト(II)、硫酸銅(II)、塩化リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、及び硫酸亜鉛からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。中でも、入手容易性、取り扱い性、安全性等の点から、塩化ナトリウム及び/又は硫酸アンモニウムを含む溶液であることが好ましい。特に塩化ナトリウムは、最も安全性が高く、容易に扱うことが可能であるため、特に有用である。
不活化液体中の有効成分として含まれる塩の濃度(以下、単に「塩濃度」ということがある。)は、不活化液体として機能する濃度であれば特に限定されるものではなく、用いる塩や溶媒の種類等を考慮して、適宜決定することができる。なお、各塩において、塩濃度の上限値は飽和濃度である。一方、下限値は、用いる塩の種類により異なるものの、当業者であれば予め実験的に求めることが可能である。
例えば、下限値は以下のようにして求めることができる。まず、飽和濃度以下の複数の濃度の塩溶液を調製し、これらの塩溶液に所定期間浸漬させた細胞から核酸を回収する。
この回収された核酸量が、塩溶液未処理の細胞から回収された核酸量よりも多くなる場合の最低塩濃度値を、有効成分として含まれる塩の塩濃度の下限値とすることができる。
本発明においては、より高い不活化効果を得るためには、塩の種類に関わらず、不活化液体の塩濃度は、有効成分とする塩の飽和濃度の1/2以上の濃度であることが好ましく、飽和濃度の4/5以上の濃度であることがより好ましく、飽和濃度に近いことがさらに好ましく、実質的に飽和濃度であることが特に好ましい。塩濃度が充分に高濃度であることにより、細胞を高塩濃度の不活化液体に混合した場合、細胞に成分が迅速に浸透し、核酸を速やかに安定化することができる。加えて、塩濃度が高い程、水分含量の多い細胞に対して少量の不活化液体を用いた場合であっても、充分な効果を奏することができる。なお、「飽和濃度の1/2倍以上の濃度の溶液」や「飽和濃度の4/5倍以上の濃度の溶液」は、例えば、常法により調製した飽和溶液を溶媒で適宜希釈することにより調製することができる。
例えば、有効成分として塩化ナトリウムを用いる場合には、不活化液体中の塩濃度は13%(wt/wt)以上であることが好ましく、20%(wt/wt)以上であることがより好ましく、26%(wt/wt)以上であることがさらに好ましく、26%(wt/wt)から飽和濃度までの濃度であることが特に好ましい。硫酸アンモニウムを用いる場合には、塩濃度は20%(wt/wt)以上であることが好ましく、30%(wt/wt)以上であることがより好ましく、30〜46%(wt/wt)であることがさらに好ましい。
本発明において用いられる不活化液体は、有効成分を適当な溶媒で希釈することにより、所望の濃度に調整することができる。有効成分の希釈に用いる溶媒としては、有効成分による効果、すなわち、形質転換細胞の発現プロファイルの変動を抑制する効果を損なわないものであれば、特に限定されるものではない。例えば、水であってもよく、PBS等の緩衝液であってもよい。
本発明において用いられる不活化液体としては、有効成分、特に水溶性有機溶媒を、pHが2〜7.5である緩衝液で希釈した溶液であることが好ましく、pHが2以上の範囲内に維持されるような緩衝作用を有する酸性緩衝液で希釈した溶液であることがより好ましい。当該酸性緩衝液のpHは2〜6.5であることが好ましく、3〜6であることがより好ましく、3.5〜5.5であることがさらに好ましく、4.0〜5.0であることが特に好ましい。形質転換細胞を酸性条件下で保持することにより、形質転換細胞中の核酸の加水分解をより効果的に抑制することができる。
不活化液体の調製の際に有効成分の希釈に用いられる酸性緩衝液としては、有機酸と当該有機酸の共役塩基とを含有するものであって、当該有機酸とその共役塩基とにより緩衝作用を奏するものであることが好ましい。中でも、クエン酸/水酸化ナトリウム緩衝系、乳酸/乳酸ナトリウム緩衝系、及び酢酸/酢酸ナトリウム緩衝系からなる群より選択される緩衝液であることが好ましい。このような緩衝液は、例えば、水や適当な溶媒に、有機酸と当該有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩とを添加することにより、所望のpHに調整することにより調製できる。その他、水や適当な溶媒に有機酸を添加した後に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物を用いてpHを調整してもよい。
その他、有効成分を希釈して不活化液体を調製するために用いられる酸性緩衝液としては、有機酸と鉱酸の双方を含む溶液であって、適当な緩衝作用を有するものであってもよい。例えば、グリシン/HCl緩衝系、カコジル酸Na/HCl緩衝系、又はフタル酸HK/HCl緩衝系等の、酸性側で緩衝作用を有する緩衝系であってもよい。
なお、本発明及び本願明細書において、酸性緩衝液のpHは、ガラス電極法を測定原理としたpHメーター(例えば東亜ディーケーケー社製)を、フタル酸塩標準液と中性リン酸塩標準液によって校正した後に、測定して得られた値である。
本発明において用いられる不活化液体には、不活化効果を損なわない限り、その他にも、例えば、カオトロピック塩、界面活性剤、ポリカチオン等を添加してもよい。
不活化液体にカオトロピック塩や界面活性剤を添加することにより、形質転換細胞の細胞活性や各種分解酵素の酵素活性をより効果的に阻害することができる。不活化液体に添加させ得るカオトロピック塩として、例えば、塩酸グアニジン、グアニジンイソチオシアネート、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びトリクロロ酢酸ナトリウム等がある。不活化液体に添加させる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。該非イオン性界面活性剤として、例えば、Tween80、CHAPS(3−[3−コラミドプロピルジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、Triton X−100、Tween20等がある。カオトロピック塩や界面活性剤の濃度は、不活化効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではなく、形質転換細胞の量や、製造された標準細胞試料の使用方法等を考慮して、適宜決定することができる。
本発明及び本願明細書において、ポリカチオンとは、陽イオン性官能基を含有した繰り返し構造を持つ高分子化合物およびその塩を意味する。陽イオンとしては、例えば、アミノ基等がある。具体的には、下記式(1)に示されるポリリジン等の側鎖に陽イオン性官能基を有するポリペプチドや、ポリアクリルアミド等の陽イオン性官能基を側鎖に含むモノマーを重合して得られるポリマー等が挙げられる。なお、これらのポリペプチドやポリマーは、分子全体として電気的に陽性であればよく、全ての繰り返し単位(アミノ酸やモノマー)の側鎖に陽イオン性官能基を有している必要はないが、全ての繰り返し単位の側鎖に陽イオン性官能基を有していることが好ましい。このようなポリカチオンとして、具体的には、ポリリジンやポリアクリルアミドに加えて、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチルアミン、ポリメタリルアミン、ポリビニルメチルイミダゾール、ポリビニルピリジン、ポリアルギニン、キトサン、1,5−ジメチル−1,5−ジアザウンデカメチレン−ポリメトブロマイド、ポリ(2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート)、ポリジメチルアミノメチルスチレン、ポリトリメチルアンモニウムメチルスチレン、ポリオルニチン、及びポリヒスチジン等が挙げられる。本発明においては、ポリカチオンとして、ポリリジン又はポリアクリルアミドであることが好ましく、ポリリジンであることがより好ましい。なお、不活化液体に添加する場合、1種類のポリカチオンのみを添加してもよく、2種類以上のポリカチオンを添加してもよい。
Figure 2012125199
不活化液体に添加されるポリカチオンの濃度は、不活化効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではなく、ポリカチオンの種類や、形質転換細胞の種類、不活化液体のpH、不活化効果と形質転換細胞を含む溶液との混合比等を考慮して適宜決定することができる。例えば、ポリカチオンとしてポリリジンを添加する場合には、不活化液体のポリリジン濃度は、0.01〜1.0m重量%であることが好ましく、0.0125〜0.8m重量%であることがより好ましく、0.05〜0.4m重量%であることがさらに好ましい。なお、本願明細書中、「m重量%」は「×10−3重量%」を意味する。
形質転換細胞を不活化液体に浸漬させる時間は、不活化効果が奏されるために十分な時間であれば特に限定されるものではなく、不活化液体の組成や形質転換細胞の種類等に応じて適宜決定することができる。本発明においては、1時間以上浸漬させることが好ましく、12時間以上浸漬させることがより好ましく、24時間以上浸漬させることがさらに好ましく、72時間以上浸漬させることが特に好ましい。また、168時間以上浸漬させてもよい。
本発明の標準細胞試料は、不活化液体によって発現プロファイルが固定されているため、凝固させずとも、不活化液体中に分散している分散液の状態で、−20〜40℃で長期間安定して保存することができる。室温保存が可能であるため、取り扱い易い。また、標準細胞試料は分散液の状態で保存することができるため、核酸解析に供する前に溶解処理等の試料準備のための処理が不要であり、作業時間の短縮が可能となる。保存後の標準細胞試料は、不活化液体に浸漬されている状態でそのまま解析対象である細胞試料と同様に核酸解析に供してもよく、不活化液体から分離して適当な緩衝液に分散させた後に、核酸解析に供してもよい。
<<核酸の解析方法>>
上記のようにして製造された標準細胞試料は、細胞試料からの核酸の抽出・精製、抽出された核酸の増幅、及び増幅産物の検出という一連の工程を有する核酸解析の精度管理に好適に用いることができる。本発明の標準細胞試料は、解析対象の細胞試料と同様に一連の工程を実施することが可能であり、全工程の標準試料として用いることができる。具体的には、本発明の標準細胞試料からの核酸抽出効率や抽出された核酸の状態、抽出された核酸からの核酸増幅の有無や増幅効率、増幅産物量等を、各工程が正しく実施されたかどうかの精度指標とすることができる。
本発明及び本願明細書において、標的核酸とは、解析対象である核酸であり、PCR等の核酸増幅反応によって増幅産物を得ることが可能な程度に、塩基配列の全部又は一部が既知であればよく、いずれの核酸を用いてもよい。本発明においては、標的核酸として、タンパク質をコードする領域を含んでいる核酸であることが好ましく、遺伝子由来の核酸を含んでいる核酸であることがより好ましい。遺伝子由来の核酸としては、ヒト遺伝子由来の核酸であることが好ましく、疾患のマーカー遺伝子に由来する核酸であることがより好ましい。疾患のマーカー遺伝子としては、標準核酸として列挙されたものと同様の遺伝子を挙げることができる。その他、SNP等の遺伝子多型を含む遺伝子由来核酸を標的核酸とすることも好ましい。
標的核酸と標準核酸は、全く異なる核酸であってもよく、全長又は一部分の塩基配列が同一である核酸であってもよい。また、標的核酸と標準核酸は、同一の生物種由来の核酸であってもよく、互いに異なる生物種の核酸であってもよい。核酸の解析方法に用いる標準細胞試料としては、標準核酸は、標的核酸と同一の生物種由来の核酸であることが好ましく、さらに標的核酸と同じ塩基配列を有していることがより好ましい。PCR等の核酸増幅反応の反応条件や反応効率は、用いるプライマーの種類により相違する場合が多い。このため、標的核酸と標準核酸が同じ塩基配列を有している場合、この塩基配列が共通する領域をターゲットとして設計したプライマーを用いることにより、解析対象の細胞試料から抽出された核酸に対する核酸増幅反応と標準細胞試料から抽出された核酸に対する核酸増幅反応の反応条件や反応効率を揃えることができ、工程精度管理上より好ましい。
従来、核酸の抽出から核酸増幅反応、その後の増幅産物の検出工程までを、一の標準試料を用いて工程精度管理を行う場合には、標的核酸の種類ごとに適当な臨床サンプルを標準試料として用いる必要があった。例えば、標的核酸が組織特異的に発現している核酸である場合には、当該組織由来の臨床サンプルを標準試料として用いる必要があった。これに対して、本発明では、標準核酸の種類を、標的核酸ごとに適切な核酸にすればよく、標準核酸が導入される細胞は、標的核酸の種類に関わらず共通とすることができる。このため、複数の標的核酸を解析する際に、標準試料の調製をより簡便に行うことができる。
核酸の解析方法に供される解析対象の細胞試料は、生物から採取された試料(生体試料)であってもよく、培養細胞等から調製された試料であってもよい。本発明に供される細胞試料としては、臨床検体等の生体試料であることが好ましい。生体試料が採取される生物は、特に限定されるものではないが、真核生物であることが好ましく、動物であることがより好ましく、哺乳類であることがさらに好ましく、ヒトであることが特に好ましい。該生体試料として、例えば、糞便、尿、血液、骨髄液、リンパ液、喀痰、唾液、精液、胆汁、膵液、腹水、滲出液、羊膜液、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、膀胱洗浄液、口腔粘膜、又は子宮粘膜等が挙げられる。
標的核酸の解析方法は、具体的には、下記の工程(a)〜(d)を有することを特徴とする。
(a)解析対象である細胞試料から、核酸を抽出する工程と、
(b)前記工程(a)において抽出された核酸又は当該核酸を鋳型として合成された核酸を鋳型とした核酸増幅反応によって標的核酸を増幅し、得られた増幅産物を検出する工程と、
(c)塩基配列の全部又は一部が既知である標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入されており、かつ細胞の内部に核酸を保持しつつ発現プロファイルの変動を抑制することができる不活化液体に浸漬させた形質転換細胞からなる標準細胞試料から、核酸を抽出する工程と、
(d)前記工程(c)において抽出された核酸又は当該核酸を鋳型として合成された核酸を鋳型とした核酸増幅反応によって標準核酸を増幅し、得られた増幅産物を検出する工程。
工程(c)及び/又は(d)の結果に基づいて、工程(a)及び/又は(b)の工程精度を管理し、得られた結果の信頼性を評価することができる。
工程(a)及び(c)における細胞試料や標準細胞試料から核酸を抽出する方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野において公知のいずれの方法を用いて行ってもよい。例えば、細胞からのRNAの抽出・精製方法としては、ISOGEN等の酸性フェノールグアニジン−クロロホルム法や、Boom法等が挙げられ、これらの方法を組み合わせて用いることもできる。その他、市販されている精製キット等を利用することもできる。
また、細胞試料からRNAを抽出してRNA溶液を調製した後、工程(b)や(d)へ移行する前に、当該RNA溶液をノーマライズ(予め定められた所定の濃度に調整する)してもよい。ノーマライズする濃度は、後の核酸増幅反応や増幅産物の検出方法等を考慮して、適宜決定することができる
工程(a)及び(c)において抽出された核酸がDNAである場合には、工程(b)及び(d)において、抽出されたDNAを鋳型として核酸増幅反応を行う。工程(a)及び(c)において抽出された核酸がRNAである場合には、工程(b)及び(d)において、抽出されたRNAを直接鋳型として核酸増幅反応を行ってもよく、抽出されたRNAを鋳型として逆転写反応を行い、合成されたcDNAを鋳型として核酸増幅反応を行ってもよい。
工程(b)及び(d)において、工程(a)及び(c)により得られたRNA溶液中のRNAの全量又は一部に対して逆転写反応を行う方法も、通常用いられる逆転写酵素等の試薬を用いて、一般的に行われる反応条件において行うことができる。
工程(b)及び(d)において行う核酸の増幅方法は、一般的にDNAやRNAを鋳型として特定の塩基配列を有する核酸を増幅する方法であれば、特に限定されるものではなく、当該技術分野において公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、PCR、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)であってもよく、NASBA(Nucleic Acid Sequence−Based Amplification)やTRC(Transcription Reverse−transcription Concerted reaction)等であってもよい。
工程(b)及び(d)において、得られた増幅産物を検出する方法としては、一般的にDNAやRNAを検出し得る方法であれば、特に限定されるものではなく、定性的な検出方法であってもよく、定量的な検出方法であってもよい。このような検出方法として、例えば、電気泳動法、ハイブリダイゼーション法、免疫凝集法、ELISA法、吸光度測定法、一分子蛍光分析法、蛍光偏光解析法等がある。試料中に微量に存在する核酸を容易に検出し定量することが可能であるため、定量的核酸増幅法、ELISA法、一分子蛍光分析法や、蛍光偏光解析法を用いて測定することが好ましい。例えば、リアルタイムPCRやリアルタイムNASBA等を行うことにより、核酸増幅反応と増幅産物の検出とを同時に行うことができる。
標的核酸の解析方法において、標準細胞試料を用いて得られる結果は、各操作の精度管理に用いられる。このため、工程(a)と工程(c)、工程(b)と工程(d)は略同一条件で行う。すなわち、工程(c)における核酸の抽出方法は、解析対象の細胞試料に代えて標準細胞試料を用いる以外は、工程(a)と同じ操作を行う。また、工程(d)における核酸の増幅反応及び増幅産物の検出方法も、工程(a)において抽出された核酸に代えて工程(c)において抽出された核酸を用いる以外は、工程(b)と略同一な操作を行う。ここで、略同一条件とは実質的に同一な条件を意味する。例えば、標準核酸と標的核酸の塩基配列が異なる場合には、それぞれの核酸増幅反応の温度等の条件が略同一となるように、核酸増幅に用いるプライマーをそれぞれ設計する。本発明においては、工程(b)における核酸増幅反応と工程(d)における核酸増幅反応とで、使用するプライマーが共通していることが特に好ましい。
工程(a)及び(c)は、それぞれ異なる時間に行ってもよいが、略同一時に行うことが好ましい。同様に、工程(b)及び(d)は、それぞれ異なる時間に行ってもよいが、略同一時に行うことが好ましい。なお、略同一時とは、実質的に同一時であることを意味する。
その他、前記工程(a)及び(b)は、細胞試料と標準細胞試料とを混合した後、得られた混合物から核酸を抽出することにより行うこともできる。この場合、続く工程(b)及び(d)の核酸増幅反応において、標準核酸と標的核酸についてそれぞれ別個のプライマーセットを用いて行ってもよいが、同一のプライマーセットを用いることもできる。例えば、標的核酸中の数塩基を置換して制限酵素部位を作製したものを標準核酸とすることにより、細胞試料と標準細胞試料との混合溶液から抽出された核酸から、1のプライマーセットを用いてPCRを行った場合であっても、得られた産物を制限酵素処理することによって、標的核酸由来の増幅産物と、標準核酸由来の増幅産物を区別して検出することができる。
工程(a)及び(c)において、核酸の抽出操作が的確に行われた場合には、標準細胞試料から、量や質が十分である核酸が抽出される。そこで、標準細胞試料から抽出された核酸の量や質を調べ、これらが予め設定された基準を満たす場合には、抽出工程(工程(a))の精度が保証されていると判断することができる。逆に、標準細胞試料から抽出された核酸の量や質が、予め設定された基準に満たない場合には、工程(a)の精度が保証されておらず、工程(a)により抽出された核酸を用いて行われる工程(b)の結果は信頼性が低いと判断することができる。
なお、本願明細書において、「工程の精度が保証されている」とは、当該工程の操作が適確であり、操作上の不具合等が生じていないことを意味する。逆に、「工程の精度が保証されていない」とは、用いた試薬の劣化、器具や装置の故障、人為的な操作ミス等により、不具合が生じており、当該工程の操作が適切に行われなかったことを意味する。
具体的には、工程(c)において標準細胞試料から抽出された核酸の量、精製度、及び分解度からなる群より選択される1以上を測定する。核酸の量、精製度、又は分解度のいずれか1のみの測定値に基づき工程の精度を保証してもよく、2以上の測定値の結果を組み合わせて工程の精度を保証してもよく、3種すべての測定値の結果に基づいて工程の精度を保証してもよい。
抽出された核酸の量は、核酸溶液中の核酸濃度から算出することができる。核酸溶液中の核酸濃度は、通常用いられている方法により定量することができる。例えば、260nmの紫外線吸収値や、インターカレーター等の2本鎖核酸結合物質を用いて測定される蛍光値等に基づいて、濃度を算出することができる。抽出された核酸の量が、予め設定された閾値よりも小さい場合には、工程(a)の精度が保証されていないと判断し、予め設定された閾値よりも大きい場合には、工程(a)の精度が保証されていると判断する。この場合の判断基準となる閾値は、抽出に用いた標準細胞試料の量、標準細胞試料中の標準核酸の量、核酸の定量方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、当該閾値は、一定量の同一ロット(同時に調製され、小分けにされたもの)の標準細胞試料から複数回同じ条件で核酸を抽出し、それぞれの試行において抽出された核酸の量の測定値から統計学的処理により得られる値により決定することができる。また、当該閾値は、経験的に決定してもよい。
核酸の精製度とは、抽出・精製された核酸A中の不純物(核酸以外の物質)の割合を意味する。核酸の精製度が高いほど、該核酸の質は高い。
核酸の精製度の測定は、一般的に核酸試料の精製度(純度)を測定する場合に用いられる公知の手法の中から、適宜選択して行うことができる。中でも、UVを用いてRNAの吸光度を測定し、260nmにおける吸光度を230nmにおける吸光度で除した値(260/230nm吸光度比)や260nmにおける吸光度を280nmにおける吸光度で除した値(260/280nm吸光度比)を、精製度の指標とすることが好ましい。260/230nm吸光度比から核酸と塩類との濃度比がわかる。一方、260/280nm吸光度比から核酸とタンパク質等との濃度比がわかるため、これらにより核酸の精製度を知ることができる。つまり、260/230nm吸光度比又は260/280nm吸光度比が、予め設定された数値範囲から外れている場合には、工程(a)の精度が保証されていないと判断することができる。これらの吸光度比のいずれかを用いてもよく、両方を用いてもよい。
具体的には、260/230nm吸光度比が1.0未満又は2.5超である場合には、塩類の含有割合が高く、精製度が不十分であり、抽出工程の精度が保証されていないと判断することができる。逆に、260/230nm吸光度比が1.0〜2.5である場合、好ましくは1.7〜2.1である場合には、精製度が十分であり、工程(a)の精度が保証されていると判断することができる。一方、260/280nm吸光度比が1.0未満又は2.5超である場合には、タンパク質の混入等があり、精製度が不十分であると考えられ、工程(a)の精度が保証されていないと判断することができる。逆に、260/280nm吸光度比が1.0〜2.5である場合、好ましくは1.7〜2.1である場合には、精製度が十分であり、工程(a)の精度が保証されていると判断することができる。
本発明において、核酸の分解度とは、抽出・精製された核酸が核酸分解酵素等により分解された割合を意味する。核酸の分解度が低いほど、該核酸の質は高い。
核酸の分解度の測定は、一般的に核酸の分解・断片化を測定する場合に用いられる公知の手法の中から、適宜選択して行うことができる。例えば、核酸の電気泳動によるサイズ分離測定を行うと、それぞれのサイズごとの核酸量がわかるため、核酸の分解度を測定することができる。
標準細胞試料として形質転換された細菌を用い、かつ工程(a)及び(c)においてRNAを抽出した場合には、細菌由来RNA、特に細菌のリボソーマルRNAである23S rRNA・16S rRNAサブユニットを指標とし、RNAの分解度を測定することが有効である。例えば、分解の起こっていないtotalRNAでは、2本のリボソーマルRNA(細菌由来の23S rRNAと16S rRNA)のはっきりとしたバンドが、およそ2:1の割合でみられる。これに対して、分解・断片化が起こっているtotalRNAでは、リボソーマルRNAの各サブユニットのバンドが拡散し、バンドが明瞭でなくなり、低分子サイズでスメア状に検出される。このため、23S rRNA/16S rRNA比が、予め設定された数値範囲から外れている場合には、工程(a)の精度が保証されていないと判断することができる。
具体的には、23SリボソーマルRNAのフラグメント量を16SリボソーマルRNAのフラグメント量で除した値(23S rRNA/16S rRNA比)が1.6〜2.5である場合、好ましくは1.8〜2.0である場合には、分解度が十分に低く、工程(a)の精度が保証されていると判断することができる。逆に、23S rRNA/16S rRNA比が1.6未満又は2.5超である場合には、分解度が高く、工程(a)の精度が保証されていないと判断することができる。
RNAの電気泳動に用いることのできるアジレントテクノロジー社の電気泳動装置「バイオアナライザ」は、分子生物学分野では広く用いられている自動キャピラリーゲル電気泳動装置の1つである(例えば、“A microfluidic system for highspeed reproducible DNA sizing and quantitation”、Electrophoresis、200年、第21巻第1号、第128〜134ページ参照。)。これは、核酸のサイズごとの定量結果が測定終了後に自動表示されるため、リボソーマルRNA比である28S rRNA/18S rRNA比(28SリボソーマルRNAのフラグメント量を18SリボソーマルRNAのフラグメント量で除した値)、23S rRNA/16S rRNA比や、その他のバンドの値がわかり、リボソーマルRNAの分解・断片化の割合から目的RNAの分解度・精製度を推測することができる。この装置のアルゴリズムの1つであるRIN(RNA Integrity Number)値は、核酸の分解度の指標の1つとして一般的に用いられている。このRIN値(範囲:1〜10)を用いた場合、RIN値が高い(=10)と分解度が少なく、RIN値が低い(=1)と分解度が高いといえる。例えば、形質転換された細菌由来のRNAでは、RIN値の範囲は10〜4であれば、分解度が十分に低いと判断することができる。
工程(b)及び(d)において、核酸増幅反応が適確に行われた場合には、標準細胞試料から抽出された核酸から、期待される量や質の核酸増幅産物が検出される。そこで、標準細胞試料から抽出された核酸から得られた増幅産物の量、純度、及び増幅効率を指標として核酸増幅・検出工程(工程(b))の精度管理をすることができる。具体的には、工程(d)において得られた増幅産物の量、純度、及び増幅効率を調べ、これらが予め設定された基準を満たす場合には、工程(b)の精度が保証されていると判断することができる。逆に、標準細胞試料から抽出された核酸から得られた増幅産物の量等が、予め設定された基準に満たない場合には、工程(b)の精度が保証されておらず、工程(b)により得られた結果の信頼性は低いと判断することができる。
工程(a)及び(c)においてRNAを抽出し、工程(b)及び(d)において、逆転写反応後に得られたcDNAを鋳型として核酸増幅反応を行った場合には、工程(d)において検出された増幅産物の量、増幅産物の純度、増幅効率、及び逆転写反応効率からなる群より選択される1以上を指標として、工程(b)の精度管理を行うことができる。
増幅産物の量、純度、増幅効率、及び逆転写反応効率は、逆転写反応後の検出測定値及び増幅産物の検出測定値から算出された標準偏差などの統計学的データを用いることにより、求めることができる。
増幅産物の量や純度は、通常、核酸の量や純度を測定する際に用いられる公知の方法の中から適宜選択して行うことができる。具体的には、抽出された核酸の量や純度の測定と同様にして行うことができる。また、増幅効率は増幅産物を定量的又は半定量的に検出することにより、測定又は算出することができる。核酸増幅反応をリアルタイムPCR等の半定量的な増幅方法を用いて行うことによっても、増幅産物量や増幅効率を測定することができる。さらに、逆転写反応効率は、逆転写反応産物の量、純度等から算出することができる。
判断基準となる閾値は、逆転写反応や核酸増幅反応の鋳型として用いた核酸の量、用いるプライマーの種類や反応条件、逆転写反応産物や増幅産物の検出方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、当該閾値は、標準細胞試料から抽出された同一ロットの一定量の核酸を鋳型として、複数回同じ条件で逆転写反応や核酸増幅反応を行い、それぞれの試行において検出された産物の測定値から統計学的処理により得られる値により決定することができる。また、当該閾値は、経験的に決定してもよい。
図1は、核酸の解析方法の一態様を示したフローチャートである。解析対象である細胞試料と標準細胞試料に対して、同一時、同一条件下で、核酸抽出工程、核酸精製工程、核酸増幅工程、核酸検出工程を実施する。上記各工程を実施した後、検出結果を求め、標準細胞試料由来の核酸解析結果の成否を元に、解析対象である細胞試料の全工程の成否を判定する。さらに、標準細胞試料の検出結果から、統計学的解析により標準偏差を求め、同時に行った複数の標準細胞試料の結果を比較したり(同時再現性)、別の日の解析結果と比較したり(日差再現性)することにより、解析方法の工程精度を総合的に判断することもできる。
図2は、核酸の解析方法の別の一態様を示したフローチャートである。解析対象である細胞試料と標準細胞試料に対して、同一時、同一条件下で、核酸抽出工程、核酸精製工程、核酸増幅工程、核酸検出工程を実施する。各工程の一部のサンプルを分取し、サンプル中の核酸の質量や濃度、純度等を測定したり、これらの測定値から実施効率を求めることにより、各工程の精度を検証することができる。
このような核酸の解析方法は、他の核酸の解析方法と同様に、遺伝子の発現量解析や遺伝子多型解析等の様々な核酸の解析に用いることができる。中でも、遺伝子の発現量解析に好適に用いることができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<標準細胞試料の作製>
ヒトc−Myc遺伝子のORF領域を標準核酸とし、高濃度の塩化ナトリウム溶液を不活化液体として、標準細胞試料を作製した。
まず、発現用ベクター(pET19b、T7プロモーター)のSD配列を欠失させ、タンパク質を発現させないようにしたベクターのインサート領域に、ヒトc−Myc遺伝子のORF領域を挿入した組み換えベクター(c−Myc発現用ベクター)を構築した。このc−Myc発現用ベクターを大腸菌BL21株に導入し、形質転換を行った。得られた形質転換大腸菌を、自動発現培地(Overnight Express Autoinduction System1、メルク社製)中で、37℃で8時間培養・発現誘導を行い、ヒトc−Myc遺伝子のORF領域由来のmRNAを合成させた。発現誘導後、当該形質転換大腸菌を塩化ナトリウム溶液(大腸菌と混合後の最終濃度が50%(wt/wt))に浸漬させ、発現プロファイルを固定化させたものを、標準細胞試料とした。この標準細胞試料は、混合して均一化した後に小分けした後、−20℃で1日間保存した。1日間保存後の標準細胞試料は、塩化ナトリウム溶液中に分散している分散液の状態であった。
<核酸の解析方法>
RNAの抽出・精製、抽出されたRNAを鋳型とした逆転写反応、合成されたcDNAを鋳型とした核酸増幅反応、及び得られた増幅産物の検出を、上記で作製された標準細胞試料60ng/100μlと、大腸癌スクリーニングのために10名から採取された糞便試料に対して、略同一時に略同一条件下で実施した。糞便試料は、ヒトから採取された糞便を塩化ナトリウム溶液(糞便と混合後の最終濃度が50%(wt/wt))に浸漬させ、−20℃で1日間保存したものを用いた。なお、標準細胞試料は、小分けにしたうちの3本に対して、それぞれ独立に試行した。
まず、各検体を1000rpmで5分間遠心分離処理し、液体成分(塩化ナトリウム溶液)をアスピレータで除去し、細胞を含む固形分を回収した。この固形分に、抽出液としてISOGEN(ニッポンジーン社製)を5mlずつ加え、ボルテックスミキサーにて5000rpmで30秒間撹拌し、十分に混合した。得られた混合物を1000rpmで15分間遠心分離処理し、上清4mlを別の新しいチューブに移し、これをRNA抽出液とした。このRNA抽出液に精製液としてクロロホルムを2ml加えて再びボルテックスミキサーにて5000rpmで30秒間撹拌した。その後、さらに1000rpmで15分間遠心分離処理し、水層1mlを別の新たなチューブに移し、これをRNA精製液とした。
各検体のRNA抽出液及びRNA精製液の一部(100μl)を分取し、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製)にて、260nm/280nm吸光度比及び260nm/230nm吸光度比を測定した。この結果、いずれの検体も、260nm/280nm吸光度比においては2.0付近を示し、260nm/230nm吸光度比においては1.8〜1.9を示した。また、260nmの吸光度から、各RNA抽出液及びRNA精製液のRNA濃度を測定し、精製効率を算出した。なお、RNA抽出液の精製効率は、試料中に含まれていたRNA質量に対する、RNA抽出液中に含まれていたRNA質量の割合を意味する。また、RNA精製液の精製効率は、RNA抽出液中に含まれていたRNA質量に対する、RNA精製液中に含まれていたRNA質量の割合を意味する。
この結果、いずれの検体も、RNA濃度が0.4ng/μl以上、精製効率が80%以上であり、十分量のRNAが抽出・精製されていることが確認された。表2に、測定結果から算出された標準細胞試料及び糞便試料のRNA抽出液及びRNA精製液の260nm/280nm吸光度比、260nm/230nm吸光度比、及びRNAの純度を示す。また、表3に、標準細胞試料及び糞便試料のRNA抽出液及びRNA精製液のRNA濃度、RNA質量、精製効率を示す。この結果、標準細胞試料から良好にRNAが抽出・精製されていること、及びいずれの糞便検体からも標準細胞試料と同様に良好にRNAが抽出・精製されていることから、当該工程が適切に行われており、その精度が保証されていることが確認された。そこで、次のステップへ進んだ。
Figure 2012125199
Figure 2012125199
各検体のRNA抽出液及びRNA精製液の一部を分取し、逆転写反応液(タカラバイオ社製、M−MLV)を用いて、逆転写反応を行った。この逆転写反応後、溶液の一部を分取し、PCR増幅液(アプライドバイオシステムズ社製、TaqGold master mix)を用いて、PCR反応を行った。PCRのプライマーは、c−Myc−Aプライマー(配列番号1)及びc−Myc−Bプライマー(配列番号2)を用いた。
なお、小分けにした3本の標準細胞試料からそれぞれ得られた結果を統計学的に処理することにより、同時再現性(N=3)を調べた。また、小分けに保存された3本の標準細胞試料からの核酸抽出からPCR反応までのこの一連の工程を、毎日1回ずつ3日間行い、日差再現性(N=27)を調べた。標準細胞試料由来又は糞便試料由来のRNAを用いた逆転写反応及び核酸増幅反応後の反応液中のDNA平均濃度、標準偏差(SD)、及び変動係数(CV(%))を表4に示す。この結果、同時に独立して行った3回の試行の標準偏差及び変動係数と、実施日の異なる計27回の試行の標準偏差及び変動係数のどちらも値が小さく、ばらつきが小さいことが確認された。これらの結果から、本発明の標準細胞試料は、核酸解析の一連の工程において同時再現性と日差再現性に優れていることが明らかである。
Figure 2012125199
逆転写反応後及びPCR反応後の各反応液の一部をとり、電気泳動装置(アジレント社製、バイオアナライザ2100)を用いて、増幅産物の検出を行った。増幅産物量と未反応のプライマー(残余プライマー)の量から、逆転写反応効率及び増幅効率を算出した。さらに、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製)により、各反応液の260nm/280nm吸光度比、260nm/230nm吸光度比を求め、DNA純度を算出した。
電気泳動の結果、標準細胞試料から抽出されたRNAを用いた場合と糞便試料から抽出されたRNAを用いた場合のいずれも、逆転写反応後の反応液において、16S rRNA及び23S rRNAのバンドが確認され、PCR反応後の反応液においては、ヒトc−Myc遺伝子のORF領域の増幅産物のバンドが確認された。また、逆転写反応後の反応液中の反応産物量と残余プライマー量との和に対する反応産物量の比〔[反応産物]/([反応産物]+[残余プライマー])〕は95.7%であり、逆転写反応の反応効率が95%以上であることが確認された。また、PCR反応後の反応液中の増幅産物量と残余プライマー量との和に対する増幅産物量の比〔[増幅産物]/(増幅産物]+[残余プライマー])〕は97.4%であり、PCR反応の増幅効率も95%以上であることが確認された。さらに、逆転写反応後及びPCR反応後の両反応液のDNA純度も95%以上であった。
標準細胞試料から抽出されたRNAを用いた場合のこれらの結果から、当該工程が適切に行われており、その精度が保証されていることが確認された。
[実施例2]
<標準細胞試料の作製>
ヒトCOX−2遺伝子のORF領域を標準核酸とし、エタノール溶液を不活化液体として、標準細胞試料を作製した。
まず、発現用ベクター(pET19b、T7プロモーター)のSD配列(第409〜413番目の塩基配列AGGAG)を欠失させた、外来タンパク質の発現が不可能であるベクターのインサート領域に、ヒトCOX−2遺伝子のORF領域を挿入した組み換えベクター(COX−2発現用ベクター)を構築した。このCOX−2発現用ベクターを大腸菌BL21株に導入し、形質転換を行った。得られた形質転換大腸菌を、一定時間培養した後、発現誘導物質としてIPTGを加え、37℃で2時間発現誘導を行い、ヒトCOX−2遺伝子のORF領域由来のmRNAを合成させた。発現誘導後、当該形質転換大腸菌を各種濃度のエタノール溶液(大腸菌と混合後の最終濃度が10、20、30、40、50、60、又は70%)に浸漬させて、細胞試料を調製した。これらの細胞試料は、混合して均一化した後に小分けした後、4℃で3時間又は1ヶ月間保存した。
<標準細胞試料を用いた核酸解析>
RNAの抽出・精製、抽出されたRNAを鋳型とした逆転写反応、合成されたcDNAを鋳型とした核酸増幅反応、及び得られた増幅産物の検出を、上記で作製された各細胞試料に対して、それぞれ行った。
まず、小分けにした各細胞試料3本ずつに対して、それぞれフェノール混合物「Trizol」(Invitrogen社製)を添加し、十分に溶解させた後、クロロホルムを添加し、ボルテックスを用いて十分に混合した。得られた混合物に対して、12,000g、4℃で20分間遠心分離を行った。
該遠心分離処理より得た上清(水相)からエタノール沈澱法によりRNAを回収した。具体的には、当該上清に酢酸ナトリウムと100%エタノールを添加して撹拌した後、遠心分離処理を行い、沈澱を得た後、これを洗浄して、風乾させた。これらの沈澱を、DEPC処理をした水に溶解させ、RNA溶液を得た。
一反応系につき回収されたRNA1.0μlを加え、逆転写反応を行い、cDNAを得た。得られたcDNAを鋳型とし、COX−2 Taqmanプローブ(Hs00153133_m1、アプライドバイオシステム社製)を用いて、Taqman PCRを行い、得られた増幅産物を検出した。具体的には、0.2mlの96ウェルPCRプレートに、各cDNAを1μlずつ分取した。その後、各ウェルに8μlの超純水と10μlの核酸増幅試薬「TaqMan GeneExpression Master Mix」(アプライドバイオシステム社製)を添加し、さらに、1μlのプローブをそれぞれ添加して混合し、PCR反応溶液を調製した。該PCRプレートを、ABIリアルタイムPCR装置に設置し、95℃で10分間処理した後、95℃で1分間、56.5℃で1分間、72℃で1分間の熱サイクルを40サイクル行った後、さらに72℃で7分間処理することにより、経時的に蛍光強度を計測しながらPCRを行った。蛍光強度の計測結果を分析し、検出されたCOX−2遺伝子発現量(コピー数)を算出した。算出結果を表5及び図3に示す。
Figure 2012125199
この結果、エタノール溶液と形質転換大腸菌との混合物中のエタノール含有量が10%及び20%の細胞試料を用いた場合には、エタノール含有量が30%から70%の場合よりも発現量が低く、ばらつきも大きかった。さらに、4℃で1ヶ月保存後には3時間保存後のものよりも発現量が明らかに低下していた。これに対して、エタノール含有量が30%から70%の細胞試料を用いた場合には、12000〜13000コピーであり、CV(%)が3%と安定した結果を得ることができた。加えて、4℃で1ヶ月保存後でも、3時間保存後のものとほぼ同等の発現量であった。これらの結果から、形質転換細胞を30%以上のエタノール溶液に浸漬させることにより、当該細胞内の発現プロファイルが固定化されることが明らかである。また、このように不活化液体に浸漬させた標準細胞試料は、長期間保存した場合であっても、当該細胞内に組み込んだヒト由来遺伝子の発現パターンに変化が見られないため、いつでも発現量が安定した標準試料であることが明らかである。
[実施例3]
<標準細胞試料の作製>
ヒトCOX−2遺伝子のORF領域を標準核酸とし、キレート剤を含有する高塩濃度水溶液を不活化液体として、標準細胞試料を作製した。
まず、実施例2において用いたCOX−2発現用ベクターを大腸菌BL21株に導入し、形質転換を行った。得られた形質転換大腸菌を、一定時間培養した後、発現誘導物質としてIPTGを加え、37℃で2時間発現誘導を行い、ヒトCOX−2遺伝子のORF領域由来のmRNAを合成させた。発現誘導後、当該形質転換大腸菌を、EDTA含有硫酸アンモニウム溶液(大腸菌と混合後の分散液が、30mM EDTA、30% 硫酸アンモニウム)に浸漬させて、標準細胞試料を調製した。この標準細胞試料は、混合して均一化した後に小分けした後、−80℃、−20℃、0℃、4℃、20℃、40℃、60℃の7パターンの温度条件で各3本ずつ、3時間、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、及び12ヶ月保存した。
<標準細胞試料を用いた核酸解析>
保存後の各標準細胞試料から、実施例2と同様にしてRNAを回収し、回収されたRNAを鋳型として逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型とし、COX−2 Taqmanプローブ(Hs00153133_m1、アプライドバイオシステム社製)を用いて、Taqman PCRを行った。蛍光強度の計測結果を分析し、検出された増幅産物量(COX−2遺伝子発現量、コピー数)を算出した。算出結果を表6〜8及び図4に示す。
Figure 2012125199
Figure 2012125199
Figure 2012125199
この結果、60℃で保存した場合には、保存期間依存的に急激に発現量が低下した。これに対して、40℃以下で保存した場合には6ヶ月まで発現量に変化はみられなかった。特に、20℃以下で保存した場合には、12ヶ月保存した場合でも発現量に変化はみられなかった。これらの結果から、不活化液体に浸漬させた標準細胞試料は、室温で長期間安定して保存し得ることが明らかである。
本発明の標準細胞試料は、容易に製造でき、保存安定性に優れている上に、細胞試料からの核酸の抽出・精製、抽出された核酸の増幅、及び増幅産物の検出という一連の工程を有する核酸解析の精度管理用の標準試料として好適であるため、核酸解析の分野、特に医療診断のための臨床検査の分野において特に有用である。

Claims (17)

  1. 塩基配列の全部又は一部が既知である標準核酸が組み込まれた発現用ベクターが導入されており、かつ
    細胞の内部に核酸を保持しつつ発現プロファイルの変動を抑制することができる不活化液体に浸漬させた形質転換細胞であることを特徴とする標準細胞試料。
  2. 前記形質転換細胞内に、前記標準核酸を鋳型として合成されたmRNAは存在しているが、当該標準核酸に由来するタンパク質が生産されていないことを特徴とする請求項1に記載の標準細胞試料。
  3. 発現誘導物質によって、前記形質転換細胞内において前記標準核酸からmRNAを合成させた後、当該形質転換細胞を不活化液体に浸漬させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の標準細胞試料。
  4. 前記発現用ベクター中の前記標準核酸を含む領域から転写されたRNAが、リボソーム結合能を欠損していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  5. 前記不活化液体が、水溶性有機溶媒、プロテアーゼ阻害剤、キレート剤、及び塩類からなる群より選択される1種以上を有効成分とする溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  6. 前記水溶性有機溶媒が、水溶性アルコール、ケトン類、及びアルデヒド類からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の標準細胞試料。
  7. 前記不活化液体が、水溶性有機溶媒として水溶性アルコール及び/又はケトン類を含み、当該水溶性有機溶媒の濃度が30%以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の標準細胞試料。
  8. 前記水溶性アルコールが、エタノール、プロパノール、及びメタノールからなる群より選ばれる1以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載の標準細胞試料。
  9. 前記ケトン類が、アセトン及び/又はメチルエチルケトンであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  10. 前記不活化液体が、水溶性有機溶媒としてアルデヒド類を含み、当該水溶性有機溶媒の濃度が0.01〜30%であることを特徴とする請求項5又は6に記載の標準細胞試料。
  11. 前記不活化液体が、塩化ナトリウムを、13%(wt/wt)以上からその飽和濃度以下の濃度で含むことを特徴とする請求項5〜10のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  12. 前記不活化液体が、硫酸アンモニウムを、30%(wt/wt)以上からその飽和濃度以下の濃度で含むことを特徴とする請求項5〜11のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  13. 前記不活化液体が、0.1mM〜1Mのキレート剤を含んでいることを特徴とする請求項5〜12のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  14. 不活化液体中に分散している分散液の状態で、−20〜40℃で保存されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  15. 前記標準核酸が、ヒト遺伝子由来の核酸であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  16. 前記標準核酸が、COXー2(cyclooxygenase−2)遺伝子由来核酸又はc−Myc遺伝子由来核酸であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
  17. 前記形質転換細胞が、原核細胞であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載の標準細胞試料。
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