金融商品、例えば、金融デリバティブの価格決定は、かなりの専門知識技術および経験を要する複雑な技術である。オプションなどの金融商品の売買は、トレーダが通常行う高度な価格決定のプロセスを伴う。
本出願の文脈での「オプション」という用語は、オプションに似た特性を持つ任意の金融商品、例えば、オプションまたはオプションに似た構成要素を含む金融デリバティブとして広い意味で定義する。金融商品のこのカテゴリには、何らかの原資産に関係する、任意の種類のオプションまたはオプションに似た金融商品を含めることができる。本出願で使用するような資産には、有形または無形、金融または非金融を問わず何らかの価値が含まれる。例えば、本明細書で使用しているように、オプションには、個別株式取引に対する単純なバニラオプションから、転換が何らかのキー、例えば、天候などに依存する複合型転換社債までさまざまなものがある。
即時(例えば、2営業日以内)引き渡しに対する資産の価格は、スポット価格と呼ばれる。オプション契約で売られる資産については、行使価格は、オプションが行使される場合に取引が履行される契約価格である。例えば、外国為替(FX)オプションには、ある額の一方の通貨をある額の他方の通貨について売買することが伴う。スポット価格は、オープン市場でのこの2つの通貨の間の現在の為替レートである。行使価格は、オプションが行使される場合の通貨の契約為替レートである。
オプションおよびその他の金融商品の売買を容易にするため、トレーダは特定のオプションについてビッド価格(bid price)とオファー価格(offer price)(アスク価格ともいう)を用意する。ビッド価格は、トレーダがすすんでオプションを買おうとする価格であり、オファー価格は、トレーダがすすんでオプションを売ろうとする価格である。他のトレーダがそのオプションに関心がある場合、第1のトレーダは、売買に第2のトレーダが関心があるかどうかを知らずに、ビット価格とオファー価格の両方の値を付ける。オファー価格はビッド価格よりも高く、したがってオファー価格とビッド価格の差のことをビッド/オファースプレッド(spread)という。
コールオプションは、特定の日に特定の価格(つまり、行使価格)で資産を買うオプションである。プットオプションは、ある日に行使価格で資産を売るオプションである。オプションの満期日前の任意の時点で、オプションの所有者は、その通貨の現在の為替レート(スポット)に応じて、オプションを行使するかしないかを決定することができる。スポット(つまり、現在の市場)価格が行使価格よりも低い場合、所有者はコールオプションを行使しないことを選択し、オプション自体の費用のみを失うようにできる。しかし、行使価格がスポット価格よりも低い場合、所有者は行使価格で通貨を買う権利を行使し、スポット価格と行使価格との差額に等しい利益を得ることができる。
フォワードレート(forward rate)は、オプション契約に基づき為替取引が実施される未来のある日の資産の未来の為替レートである。フォワードレートは、資産の現行相場、市場の現行利子率、予想配当(株式)、持越し費用(商品)、およびオプションの原資産に左右される他のパラメータに基づいて計算される。
アットザマネーフォワードオプション(ATM)は、行使価格が資産のフォワードレートに等しいオプションである。本出願では、アットザマネーフォワードオプションは、一般的に、アットザマネーオプションと呼ばれ、これは、外国為替(FX)およびその他の金融市場における共通の用語である。インザマネーコールオプションは、行使価格が原資産のフォワードレートよりも低いコールオプションであり、インザマネープットオプションは、行使価格が原資産のフォワードレートよりも高いプットオプションである。アウトオブザマネーコールオプションは、行使価格が原資産のフォワードレートよりも高いコールオプションであり、アウトオブザマネープットオプションは、行使価格が原資産のフォワードレートよりも低いプットオプションである。
本出願の範囲では、エキゾチック(exotic)オプションは、標準バニラオプション以外の任意の種類のオプションを指し示す総称名である。いくつかの種類のエキゾチックオプションは広範にわたり、また頻繁に、長い年月の間売買されてきており、今日も売買されているが、それ以外のエキゾチックオプションは以前には使われていたが、今日ではもはや使われなくなくている。現在では、最も一般的なエキゾチックオプションとして、「バリア」オプション、「バイナリ」オプション、「デジタル」オプション、「部分バイナリ」オプション(「ウィンドウ」オプションともいう)、「平均」オプション、および「クオント」オプションがある。いくつかのエキゾチックオプションは、標準(バニラ)オプションの複合バージョンと説明することもできる。例えば、バリアオプションは、一定期間の間に原資産の価格がこれ以降「トリガ」と呼ぶあるレベルに達するかどうかにペイオフが依存するエキゾチックオプションである。オプションの「ペイオフ」は、満期時にオプションの所有者により実現される現金であると定義される。一般に、2種類のバリアオプション、つまりノックアウトオプションおよびノックインオプションがある。ノックアウトオプションは、スポット価格がトリガに達した場合かつそのときに終了するオプションである。ノックインオプションは、原資産の価格がトリガに達した場合にのみ存在するようになる。ノックアウトオプションと行使価格KおよびトリガB、またノックインオプションと行使価格KおよびトリガBとの複合効果は、満期は両方とも同じであり、行使価格Kの対応するバニラオプションと等価であることに注意されたい。したがって、ノックインオプションは、対応するノックアウトおよびバニラオプションを値付けすることにより価格を決定することができる。同様に、ワンタッチオプションは2つのノックインコールオプションと2つのノックインプットオプションに分解し、ダブルワンタッチオプションは2つのダブルノックアウトオプションに分解し、というようにできる。当業では、他にもさまざまな種類のエキゾチックオプションが知られていることは理解されるであろう。
いくつかの種類のオプション、例えば、バニラオプションは、一般に、ヨーロッパ型または米国型のいずれかに分類される。ヨーロッパ型オプションは、満期時にのみ行使できる。米国型オプションは、購入してから満期になるまでの間いつでも行使することができる。例えば、米国型バニラオプションは、上述のバニラオプションタイプのすべての特性を持つ他に、所有者はオプションの満期時までの間いつでもオプションを行使することができるという特性が加わる。当業で知られているように、満期前に米国型オプションを行使する権利では、米国型オプションは対応するヨーロッパ型オプションに比べて高くつく。一般に、本出願では、「バニラ」という用語はヨーロッパスタイルのバニラオプションを指す。ヨーロッパ型バニラオプションは、最も広く通用している取引オプションであり、為替と店頭(OTC)の両方で売買される。かなり一般的でない米国型バニラオプションは、OTCでのみ売買され、値付けが難しい。
米国特許第5,557,517号(「’517号特許」と呼ぶ)では、特定の為替取引をする米国型バニラオプションの値付けをする方法を説明している。本特許では、コールおよびプット米国型バニラオプションの価格決定方法を説明するが、オプションの価格は値付け業者が要求する一定の利益幅または手数料に依存する。’517号特許の方法では、原資産の時価を除き、オプションの価格を左右すると思われるデータを無視するため、この方法を採用すると、重大な誤り、例えば、負のオプション価格になるといった不合理な結果が生じることがある。明らかに、この方法は、実際の市場での米国型バニラオプションの価格決定方法をエミュレートしない。
ブラック−ショールズモデル(1975年に誕生)は、オプションを評価するための広く受け入れられている方法である。このモデルは、確率に基づく理論価値(TV)を計算し、一般にこれをオプション価格を近似する開始点として使用する。このモデルは、当業で知られているように、資産のレートの変化は一般に、ブラウン運動に従うという仮定に基づく。確率過程とも呼ばれる、このようなブラウン運動モデルを使用することで、どのような種類の金融デリバティブであってもその理論価格を、上述のエキゾチックオプションの場合のように解析的に、あるいは数値的に計算することができる。例えば、1977年にBoyleによって導入された、モンテカルロ法などのシミュレーション手法を用いて、複雑な金融デリバティブの理論価格を計算するのがふつうである。このような手法は、使用しているコンピュータが関連するすべての計算を処理できるだけの十分な計算能力を備えているのであれば、オプションの理論価格を計算するのに役立つと思われる。シミュレーション法では、コンピュータは、取引時刻から始まり、オプション満期で終了する、原資産の多くの伝搬経路を計算する。それぞれの経路は、離散的であり、一般に、ブラウン運動確率に従うが、原資産の移動から移動までの時間経過を短縮することにより必要なだけ密に生成することができる。したがって、オプションが経路依存(path−dependant)であれば、それぞれの経路に従い、オプションの条件を満たす経路のみを対象とする。このようなそれぞれの経路の最終結果をまとめて、デリバティブの理論価格を求めるのである。
オリジナルのブラック−ショールズモデルは、バニラオプションの理論価格を計算するように設計されている。しかし、本出願でブラック−ショールズモデルを参照する場合には、エキゾチックオプションを含む、任意の種類のオプションに適用されるような、オプションの理論価格を計算するための当業で知られているモデル、例えば、ブラウン運動モデルの使用を意味することは理解されるであろう。さらに、本出願は一般的なものであり、オプションの理論価格を求める方法に関係しない。これは、解析計算、数値計算、任意の種類のシミュレーション法の使用、または他の利用可能な手法により求めることができる。
例えば、米国特許第6,061,662号(「’662号特許」)では、過去のデータに基づきモンテカルロ法を使用してオプションの理論価格を評価する方法を説明している。’662号特許のシミュレーション方法では、確率的な過去のデータを所定の分布関数とともに使用し、オプションの理論価格を評価する。例えば、’662号特許は、ブラック−ショールズモデルをバニラオプションに適用することにより得られる結果と非常によく似た結果がこの方法により生成されることを示すのに使用されている。残念なことに、過去のデータに基づく方法だけでは、それがたとえ理論的評価を目的とするものであっても金融市場をシミュレートするには十分でない。例えば、オプションを評価するために使用される最も重要なパラメータの1つは、原資産のボラティリティであり、これは原資産のレートがどれだけ変動するかを示す尺度である。金融市場は、多くの場合過去のデータから劇的に逸脱する、原資産のボラティリティに対する予測された、つまり「将来の」値を使用することはよく知られている。市場用語では、将来のボラティリティは、「インプライドボラティリティ」とも呼ばれ、「ヒストリカルボラティリティ」と区別される。例えば、インプライドボラティリティは、戦争の危険などの大きな出来事の前、または金融危機の間および後では、原資産のヒストリカルボラティリティよりもかなり高くなる傾向がある。
当業者には、ブラック−ショールズモデルは、制限された近似であり、得られる結果は実際の市場価格とはかなりかけ離れている可能性があり、したがって、ブラック−ショールズモデルに対してはトレーダ側で補正を加える必要があることは周知のことである。例えば、外国為替(FX)バニラ市場では、ボラティリティ期間内の市場取引およびオプション価格への換算は、ブラックショールズ公式を使用して行われる。実際、トレーダは、ふつう、ブラック−ショールズモデルを使用することを「間違ったモデルで間違ったボラティリティを使用して正しい価格を求めること」と呼んでいる。
価格を調整するために、バニラ市場では、トレーダは異なる行使価格に対し異なるボラティリティを使用する、つまり、トレーダは原資産毎に1つのボラティリティを使用するのではなく、行使価格に応じて与えられた資産に対し異なるボラティリティ値を使用することができるということである。この調整は、ボラティリティ「スマイル」調整と呼ばれている。この分野の「スマイル」という用語の語源は外国為替市場にあり、商品の価格がATM行使価格からはなれてゆくほど商品の予想変動率が高まることから来ている。
「デリバティブの市場価格」というフレーズは、本明細書では、ブラック−ショールズモデルなどのいくつかのベンチマークモデルによって生じる単一の価値と現実の市場で取引される実際のビッド価格およびオファー価格とを区別するために使用している。例えば、いくつかのオプションでは、市場のビッド側はブラック−ショールズモデル価格の2倍、オファー側はブラック−ショールズモデル価格の3倍となる可能性がある。
多くのエキゾチックオプションは、支払いの途絶、したがってトリガ付近のリスクパラメータのうちのいくつかの不連続により特徴付けられる。このような不連続があるため、ブラック−ショールズモデルなどの単純化しすぎたモデルではオプションのリスク管理の困難さを考慮することができない。さらに、一部のエキゾチックオプションのこの奇妙なプロファイルのせいで、リスクファクタのいくつかを再ヘッジすることに関連する取引費用がかなりなものとなる可能性がある。ブラック−ショールズモデルなどの既存のモデルは、このようなリスクファクタを完全に無視している。
オプション価格および補正の計算の際に多くのファクタを考慮する場合がある(本明細書では、「ファクタ」という用語を、対象オプションに関係する定量化可能または計算可能な値として、広い意味で使用している)。注目すべきファクタのいくつかを以下のように定義する。
ボラティリティ(「Vol」)は、資産に対して実現されるリターンの変動の程度を示す尺度である。ボラティリティのレベルの指標は、ボラティリティの履歴、つまり、特定の過去の期間に対する資産の収益の標準偏差により得られる。しかし、市場での売買は、将来の標準偏差の市場予測を反映するボラティリティに基づく。市場予測を反映するボラティリティを、インプライドボラティリティと呼ぶ。ボラティリティを売買するためには、バニラオプションを売買するのがふつうである。例えば、外国為替市場では、多くの頻繁に使用されるオプション日付および通貨のペアに対するATMバニラオプションのインプライドボラティリティは、ユーザがリアルタイムで、例えば、REUTERS、Bloomberg、TELERATE、Cantor Fitzgeraldなどの画面を介して、または直接FXオプションブローカから利用可能である。
ボラティリティスマイルは、上述のように、行使価格に関するインプライドボラティリティの振る舞い、つまり、行使価格の関数としてのインプライドボラティリティに関するものであり、ATM行使価格に対するインプライドボラティリティは市場での与えられたATMボラティリティである。例えば、通貨オプションに関して、行使価格の関数として描画されたインプライドボラティリティのグラフは、笑顔つまりスマイルのように見えるATM行使価格の近傍内の最小値を示す。他の例として、エクイティオプションについては、ボラティリティのグラフは単調変化を示す傾向がある。
ベガは、ボラティリティの変化に対するオプションまたはその他のデリバティブの価格の変化率、つまり、ボラティリティに関するオプション価格の偏導関数である。
コンベクシティは、ボラティリティに関する価格の二階偏導関数である、つまり、ボラティリティに関するベガの導関数であり、dVega/dVolで表される。
デルタは、原資産の価格の変化に対するオプションの価格の変化率、つまり、スポット価格に関するオプション価格の偏導関数である。例えば25のデルタコールオプションは、1単位の原資産でオプションを購入することに対して、0.25単位の原資産を売る場合、基礎オプションのわずかな変化に関して、他のすべてのファクタが変化しないと仮定すると、オプションの価格の全変化と0.25単位の資産は0になる。
行使Kおよびトリガ(またはバリア)Bとすると、インザマネーノックアウト/ノックインエキゾチックオプションの本質的価値(IV)はIV=|B−K|/Bと定義される。インザマネーノックアウト/ノックインオプションは、それぞれ、リバースノックアウト/ノックインオプションとも呼ばれる。コールオプションについては、本質的価値は、行使価格を超える資産価格の超過額とゼロのいずれか大きい方である。つまり、インザマネーノックアウトオプションの本質的価値は、バリアでの対応するバニラの本質的価値であり、トリガの近傍での支払い途絶のレベルを表す。
25Δリスクリバーサル(RR)は、コールオプションのインプライドボラティリティと同じデルタ(反対方向の)を持つプットオプションとの差である。通貨オプション市場のトレーダは、一般に、25デルタRRを使用するが、これは、25デルタコールオプションのインプライドボラティリティと25デルタプットオプションとの差である。そこで、25デルタRRは次のように計算される。
25デルタRR=インプライドVol(25デルタコール)−インプライドVol(25デルタプット)
25デルタリスクリバーサルは、スポット価格に関するベガの勾配により特徴付けられるが、実際には、現行スポットにはコンベクシティはない。したがって、勾配dVega/dspotの価格決定に使用される。
25Δストラングルは、コールおよびプットのインプライドボラティリティの平均であり、通常は同じデルタである。例えば、
25デルタストラングル=0.5(インプライドVol(25デルタコール)+インプライドVol(25デルタプット))
25デルタストラングルは、現行スポットでスポットに関するベガの勾配が実際にないことにより特徴付けられるが、実際には、大きなコンベクシティで特徴付けられる。したがって、これは、コンベクシティの価格決定に使用される。アットザマネーVolは常に知られているため、1単位のストラングルを買い、2単位のATMオプションを売るバタフライの値を付けるのがより一般的である。ストラングルのように、バタフライもボラティリティで値を付ける。例えば、
25デルタバタフライ=0.5(インプライドVol(25デルタコール)+インプライドVol(25デルタプット))−ATM Vol
バタフライに値を付けるのがより一般的であるという理由は、バタフライの戦略では、ほとんどベガがないが、コンベクシティは著しいことである。バタフライおよびストラングルは、常に知られている、ATMボラティリティを通じて関係しているため、入れ替えて使用することができる。25デルタプットおよび25デルタコールは、25デルタRRおよび25デルタストラングルに基づいて決定することができる。
ギアリングは、レバレッジとも呼ばれ、バリアのあるエキゾチックオプションと同じ行使価格を持つ対応するバニラオプションとの差である。バニラオプションは、常に、対応するエキゾチックオプションよりも高いことに注意されたい。
ビッド/オファースプレッドは、金融デリバティブのビッド価格とオファー価格との差である。オプションの場合、ビッド/オファーブレンドは、ボラティリティに関して、またはオプションの価格に関して表される。与えられたオプションのビッド/オファースプレッドは、オプションの特定のパラメータに左右される。一般に、オプションのリスクが管理しにくいほど、そのオプションに対するビッド/オファースプレッドは広くなる。
通常、トレーダは、オプションを買いたいために付ける価格(つまり、ビッド側)とオプションを売りたいために付ける価格(つまり、オファー側)を計算しようとする。今のところ、ビッド/オファー価格を計算する数学的方法または計算方法はなく、したがって、トレーダは、直観、オプションのファクタを変化させて市場価格への影響を調べることを伴う実験、および過去の経験に頼るのがふつうであり、これはトレーダの最も重要なツールであると考えられる。トレーダがふつう頼るファクタにはコンベクシティおよびRRがあり、これはオプションの価格決定方法に対する直観を反映している。トレーダがよく直面するジレンマの1つは、ビッド/オファースプレッドをどれだけの幅にすべきかということである。スプレッドの幅を広げすぎると、オプション市場での競争力が低下し、プロとはいえないものとなり、スプレッドの幅を狭めすぎると、トレーダが損失を被る可能性がある。どのような値を付けるかを決定する際に、トレーダは、ビッド/オファースプレッドが適切であることを確認する必要がある。これは、価格決定プロセスの一部である、つまり、トレーダは、ビッドおよびオファー価格を付けた後、その結果得られるスプレッドが適切かどうかを考察する必要があるということである。スプレッドが適切でない場合、トレーダは、適切なスプレッドを示すために、ビッド価格およびオファー価格のいずれかまたは両方を変更する必要がある。
本発明に関する理解および評価は、本発明の好ましい実施形態の詳細な説明を付属の図面とともに読むとより完全なものとなる。
本発明の好ましい一実施形態を、外国為替(FX)エキゾチックオプションの市場価額(市場価格)を計算するためのモデルとの関連で説明する。しかし、本発明によるモデルは他の金融市場にも適用することができ、また本発明は外国為替オプションまたはエキゾチックオプションに限定されないことも理解されるであろう。当業者であれば、本発明を他のオプション、例えば、ストックオプション、またはその他のオプションに似た金融商品、例えば、フォワードオプション、または商品、または天候オプションなどの非資産型商品に適用することができ、その際に与えられた金融商品に、一意なファクタに合わせて必要に応じて変更を加えることができる。
以下で説明する実施形態では、ビッド/オファー価格は、オプションを補正された理論価値(TV)およびそのオプションのビッド/オファースプレッドから計算される。補正されたTVおよびビッド/オファースプレッドの計算では、導関数(二階までの偏導関数)を市場で容易に利用できるファクタに適用する。例えば、ファクタとしては、ギアリング(トリガが資産率よりの低い場合にトリガを0に設定し、トリガが資産率よりも高い場合にトリガを無限大に設定することによりトリガがキャンセルされる場合)とベガのプロファイルの変化がある。本明細書で提示しているモデルでは、資産確率の評価を試みる代わりに、オプションのリスク管理費用およびオプション売買でトレーダが必要とする報酬を評価することができる。確率的モデルであるブラック−ショールズモデルとは対照的に、本発明のアプローチは、トレーディングブック、例えば、値付け業者が作成するオプションポートフォリオにおけるオプションのリスクを補償するために、オプションの理論価値にどのような補正を加えなければならないかを判別することに基づく。これらのモデルの目標に到達するために選択されたキーファクタは、ビルディングブロックと呼ばれる。
本発明のモデルでは、ブラックショールズモデルでは無視している多くのファクタ、例えば、再ヘッジの取引費用に関係するファクタを考慮する。例えば、本明細書で説明しているモデルでは、エキゾチックオプションのベガの再ヘッジ費用は、オプションのコンベクシティ費用に関して表すことができる。トレーダブックに長いコンベクシティ、例えば、正のコンベクシティを入れると、トレーダは、比較してボラティリティが高い場合にボラティリティを売り(例えば、ATMオプションを売り)、低い場合にボラティリティを買うことにより、ポジションを持たずに、利益を出すことができる。トリガのシフトはオプションがオプションの満期に近づいたときにトリガに近い位置にある確率を表し、そのときに、再ヘッジ費用が最も高くなり、したがってオプションは最もリスクの高い状態になる。
トレーダは通常、ノックアウトイベントではデルタヘッジされているので、ノックアウトオプションの売り手は、例えば、市場が上昇した場合に原資産を買い戻し、市場が下落したときに原資産を売り出すことにより、ストップロス売買でデルタヘッジを取り除く必要がある。インザマネーノックアウトオプションは、オプションの満期日に向かってデルタ不連続が増えることにより特徴付けられる。満期が近づくと、トリガ付近のデルタ再ヘッジ費用が急激に上昇する場合があり、オプションの価格がトリガの付近のリスクを反映する。トリガ補正のシフトは常に正であり、したがって、リスクを表すためにきちんと測定する必要があることに留意されたい。オプションの価格は、ノックアウトされない場合に対応するバニラオプションの価格に収束するため、ギアリングはエキゾチックオプションのタイムディケイのある側面を判定する。通常、オプションの期間が短いほど、タイムディケイに対応するためより多くの再ヘッジが必要になる。
本発明の一実施形態によれば、2つの数量、つまり、調整された中間市場価格とビッド/オファースプレッドを別々に計算する。本実施形態によれば、これら2つの数量を計算するために別々の計算を行う。調整された中間市場価格は、ビッド価格とオファー価格との中間(つまり、平均)として定義される。上述のように、ブラック−ショールズモデルは、理論的中間市場価格または理論価値(TV)と呼ばれる1つの価格を定める。本発明により提示されている調整された中間市場価格は、ブラック−ショールズ価格に対する調整であるとみなすことができる。したがって、本発明の調整された中間市場価格は、補正された理論価値(CTV)とも呼ばれる。モデルの最終出力は、通常、ユーザに送られるが、後述のようにビッドおよびオファー価格であるため、中間市場価格は、単に便宜上本発明のモデルの基準点として使用され、他の任意の基準点、例えば、中間市場価格の何らかの知られている関数に対応する高い価値または低い価値で置き換えることができることは理解されるであろう。計算の基準として中間市場価格を使用することは、単にブラック−ショールズモデルなどのオプションの価格を計算するための既存の理論モデルが通常は、理論的中間市場価値を計算することを目的とするので、好ましい。
ビッド/オファースプレッドは、好ましい実施形態に従って計算され、オプションに伴う再ヘッジ取引費用に関係するリスクを反映する。中間市場価格とビッド/オファースプレッドは両方ともオプションのリスクに関係しているため、ビッド/オファースプレッドの計算で補正に使用されるビルディングブロックは、中間市場価格を計算するために使用されるのと似ている。しかし、これらのビルディングブロックでは、2つの計算において異なる相対的重みを使用する。例えば、場合によっては、条件で、調整された中間市場価格の計算を「取り消す」場合があるが、それと同じ条件で、スプレッドを高くする別々の独立のヘッジ費用としてビッド/オファースプレッドを計算する累積的効果を持つことがある。
好ましい実施形態の概要を読み、図1を参照すると、段階110で、モデルでは、例えばブラック−ショールズモデルに基づき、知られているアルゴリズムの組み合わせを使用するか、スポットがブラウン運動パターンを示すと仮定するモデルを使用して理論価値(TV)を計算する。当業で知られているように、初期TVは、解析的方法を使用するか、または数値計算を使用して、計算することができる。ブラック−ショールズモデルは、原資産がブラウン運動(確率過程)に従うと仮定してデリバティブの価格を決定するための業界の共通ベンチマークとなっているため、実施例で使用される。TVに対する入力は、満期日、オプションのクラス、例えば、ノックアウト、ノックインバイナリ、ヨーロッパ型デジタルなど、行使(適用可能な場合)、バリア、スポット、引き渡しまでのフォワードレート、満期日のボラティリティ、および通貨の金利を含むことができる。段階112で、モデルは、TVに適用する補正および重みの値を計算し、本明細書では補正されたTV(CTV)とも呼ぶ、調整された中間市場価格を生成する。
本実施例では、ビルディングブロックは、コンベクシティ、リスクリバーサル、本質的価値、ギアリング、シフト、およびベガを含む。そこで、対応する補正は、後述のように、コンベクシティ補正、リスクリバーサル補正、本質的価値補正、ギアリング補正、シフト補正、およびベガプロファイル補正を含むことができる。重みは、重みのいくつかが時間に依存する場合に補正のために計算される。段階114では、補正および対応する重みがTVに適用され、補正されたTVが生成される。段階116で、モデルは、ビッド/オファースプレッドの異なるビルディングブロック、例えば、いくつかの基準価額、バニラビッド/オファースプレッド、およびさまざまな計算された補正および一部が時間依存であり、補正されたTVを計算するため使用される重みと異なっていてもよい重みを組み合わせることによりビッド/オファースプレッドを計算する。最後に、段階118で、補正されたTVおよびモデルによって与えられるビッド/オファースプレッドからビッドおよびオファー価格が計算される。好ましい実施形態は、例えば、インザマネーバリアオプションに適用されるように例示されている。適切な変更を加えることで、本発明を当業で知られている他の種類のオプション風の金融デリバティブに適用することができることは理解されるであろう。
図2A〜2Dを順番に参照すると、これは、本発明の一実施形態による外国為替(FX)オプションの調整された中間市場価格およびビッド/オファースプレッド、およびビッド/オファー価格を計算するための方法の概略を例示している。図2Aに示されているように、ブロック12に示されている計算の入力は、対象オプションまたは関連する市場の多くの重要な詳細を含むのが好ましい。オプション詳細には、関連する市場から得られる、本明細書では市況と呼ぶ、情報だけでなく、ユーザ側で指定できる、本明細書ではパラメータと呼ぶ、オプションを定義する詳細が含まれる。市況には、対象オプションを説明する、または関係する市場情報だけでなく、対象オプションに固有でない市場情報も含まれる。市況の例としては、スポット、ボラティリティ、フォワードレート、および金利が
ある。パラメータには、例えば、行使、トリガ価値、および満期日がある。また、パラメータは、オプションのタイプの識別、原資産の識別、例えば、為替対象の通貨、およびオプションを定義する情報も含む。例えば、ウィンドウノックアウトオプションの価格を計算するには、さらにオプション詳細に、トリガがかかる日付とトリガが解除される日付も含めることができる。市況に対する価値、例えば、現行利子率、フォワードレート、およびATMボラティリティは、当業で知られているように、市場に出回っている情報から得ることができる。市場情報は、市場で絶えず売買される資産に基づいており、その価格はさまざまな形式のものが利用できる。例えば、入力は、REUTERS、Bloomberg、Telerateなどの会社から、かつ/またはブローカから直接、例えば電話で、得られる市場データの画面から取り出された情報に基づくことができる。
ブロック14は、価格決定対象のオプションの理論価値(TV)の計算を示している。TVを計算するアルゴリズムは、ブラック−ショールズまたは当業で知られている解析的公式または類似の方法を採用する類似のモデルに基づく。場合によっては、例えば、ダブルノックアウトオプションを計算する際に、その計算に無限数列の総和計算が伴う場合があるが、そのよう無限数列は収束が速いため、一般に、そのような数列の要素の最初の10個の総和を計算するだけで十分である。例えば、ノックアウトオプションに似ているが、2つのバリア(1つは現在のスポットレベルよりも上、もう1つは下)を持つダブルノックアウトオプションでは、無限数列の総和計算が必要であるが、その数列の最初の10個以下の要素の総和を計算するだけで満足のゆく結果が得られる。
引き続き図2Aを参照すると、ブロック16は、それぞれ25デルタコールおよびプットの行使価格およびボラティリティ(「Vol」で表されている)、つまり与えられたボラティリティのデルタが25%である行使価格の計算を示している。25デルタコールおよびプットのインプライドボラティリティは、25デルタRRおよび25デルタバタフライ(ストラングル)から直接導くことができる。ブロック18は、市況から求めることができるこれら2つの値の入力を示していた。上の背景技術の節で述べたように、25デルタRRおよび25デルタストラングル(バタフライ)は、オプション市場における商品であり、これらのに入力に対する指し値は、ATMボラティリティの場合のように、よく知られているオンラインソースから容易に入手することができる。
ブロック20は、25デルタストラングルのコンベクシティ、25デルタリスクリバーサルのスポットに対するベガの勾配、さらにコンベクシティ当たりの価格およびリスクリバーサル当たりの価格を含むベガの導関数の計算を示している。これらの数量を使用して、エキゾチックオプションの対応する導関数を評価することができる。モデルでは、25デルタストラングルのプレミアム(つまり、価格)とATMボラティリティによる25デルタストラングルのプレミアムとを比較することにより、「価格(コンベクシティ)」と表されている、1単位のコンベクシティの価格を計算することができる。25デルタRRに対し支払う価格をATMに関して比較することにより、モデルは、「価格(RR)」で表される1単位のdVega/dSpotの価格を計算することができる。この計算段階では、25デルタに対する関連するすべての値が計算される。次に、事前に設定されている範囲内のデルタの他の値に対する行使価格およびボラティリティ価値を計算することができる。ブロック22は、ブロック20により示されている計算で使用されるTVからのベガの計算を示している。
ブロック24で示されているように、各デルタに対する行使価格およびボラティリティが計算され、また直接計算するか、またはメモリ内に、例えばルックアップテーブルの形で配置し、後の計算で参照するようにもできる。生成されるテーブルは、行使価格とボラティリティとの関係を示しており、与えられた行使価格に対するボラティリティをそのテーブルの中で検索することができる。このルックアップテーブルを生成するアルゴリズムは、ボラティリティスマイル調整とも呼ばれ、後で、ビッドおよびオファー価格の計算を説明してから詳しく説明する。本発明による新規性のあるボラティリティスマイル調整メカニズムは、本明細書で説明しているように、エキゾチックオプションの計算に限られるわけではなく、むしろ、この新規性のあるメカニズムは一般的な応用が可能であり、またバニラオプションの中間市場価格を求めることとは無関係に使用することもできる。
次に図2Bを参照すると、ブロック32に示されているように、特定のオプションに関して補正および重みを計算している。補正は、ブロック38のコンベクシティ補正、ブロック44のリスクリバーサル補正、ブロック40の本質的価値補正、ブロック43のギアリング補正、ブロック42のシフト補正、およびブロック36のベガプロファイル補正のようにそれぞれ表される。当業者は、追加補正は、補正されたTVおよびビッド/オファースプレッドの計算で使用することができ、同様に、本明細書に記載されてる補正のすべてを特定のオプションに対する価値ある結果を出力するのに使用する必要はないことに注意しなければならない。本明細書で説明している実施例で使用される補正は、以下のように定義することができる。
(a)コンベクシティ補正=コンベクシティ*価格(コンベクシティ)
(b)リスクリバーサル補正=(dVega/dSpot)*価格(RR)
(c)本質的価値補正=本質的価値
(d)ギアリング補正=(TV(バニラ)−TV(エキゾチック))*比率
ただし、比率は、例えば、次のように、TV(バニラ)とTV(エキゾチック)との比率に依存する関数である。
V(バニラ)/TV(エキゾチック)<=8.5ならば、比率=sqrt[(TV(バニラ))/TV(エキゾチック)8.5]、また他の場合は、比率=exp(−(TV(バニラ)/TV(エキゾチック)−8.5)/80)。
(e)シフト補正は、バリアがシフトされたときのTVの変化と満期がシフトされたときのTVの変化との関数である。以下の公式を使用することができる。
シフト=abs(TV(バリアBおよび満期tとしてエキゾチック)−TV(バリアB’および満期t’としてエキゾチック))
ただし、|B’−K|/B’=1.05*|B−K|/Bおよびt’=t+1日。
(f)ベガプロファイル補正は、例えば、複数のスポット点におけるスポットの関数としてのエキゾチックオプションのベガの挙動の関数である。ベガプロファイル補正により、ベガの形状がスポットの関数として定量化される。ベガプロファイル補正は3ステップで計算することができ、ベガプロファイルの形状に関して異なる態様、つまり、プロファイル、プロファイル2、およびプロファイル3が得られる。
1.Kをエキゾチックオプションの行使価格としてBをエキゾチックオプションのトリガ(バリア)として使用する。
プロファイル1=スマイル(K)+スマイル(B)*(ベガ(エキゾチック)−ベガ(行使価格をKとするバニラ))/ベガ(行使価格をBとするバニラ)
2.プロファイル2は、エキゾチックオプション、例えば、それぞれ行使価格K、Kmin、およびB、スポット点で、S、Smin、およびBとする3つのバニラオプションのベガを複製することにより求められる。この複製は、数値p、q、およびrを探すことで実行され、これらに対し、以下の式が満たされる(スポット点で、S、Smin、およびバリアB)。
ベガ(スポットXでエキゾチック)=p*ベガ(スポットXで、行使価格Kのバニラ)+q*ベガ(スポットXで、行使価格Kminのバニラ)+r*ベガ(スポットX、行使価格Bのバニラ)
ただし、順番に、X=S、Smin、およびBである。
(ベガ(スポットBでエキゾチック))は、オプションがスポットBで終了するため0に等しいことに注意されたい。
上の式で、ベガ(スポットXで、行使価格Kのバニラ)は、ボラティリティスマイルを通じて行使価格に対応するボラティリティを使用してスポットXでバニラオプションのベガの計算を意味する、つまり、スマイル(K)を求め、次に、TV(行使価格K、ボラティリティVolKのバニラ)=TV(行使価格KおよびATMボラティリティのバニラ)+スマイル(K) となるようなボラティリティVolKを求め、さらに、VolKを使用して、ベガ(行使価格KおよびボラティリティVolKのバニラ)を求める。
数値p、q、およびrは、上の3つの未知数を含む3つの方程式を解くことにより得られる。そこで次のようになる。
プロファイル2=p*スマイル(K)+q*スマイル(Kmin)+r*スマイル(B)
3.プロファイル3=スマイル(Kmin)*比率(ベガ(Smin)/ベガ(Kmin))
プロファイル、プロファイル2、およびプロファイル3を計算した後、以下の公式を適用することができる。
プロファイル3<0ならばプロファイル合計=最小((1−Ptouch)*(0.115*プロファイル1+0.55*プロファイル2)、0)、そうでなければプロファイル合計=0。
ただし、Ptouch(t)は、時刻tより前にトリガにタッチする確率である。
さらに、次のようにしてベガプロファイル補正を求めることができる。
プロファイル3<0ならばベガプロファイル補正=最大(プロファイル合計、プロファイル3)+(1−exp(3II/2*t)*最小(プロファイル合計、プロファイル3)、そうでなければベガプロファイル補正=0。
この実施形態では、ブロック34〜44で示されるそれぞれの補正に対応する、ビルディングブロックがある。補正を計算するために必要なビルディングブロックおよび他の値は、オプションパラメータおよび市況を使用して、図2Aのブロック16〜24で決定された値に基づく。コンベクシティはdVega/dVolと定義される。価格(コンベクシティ)は、バタフライを掛け25デルタストラングルのdVega/dVolで除算した25デルタコールとプットバニラオプションの平均ベガである。リスクリバーサルは、dVega/dSpotと定義される。価格(RR)は、RRを掛け25デルタリスクリバーサルのdVega/dSpotで除算した25デルタコールとプットバニラオプションの平均ベガである。本質的価値は、与えられたトリガ価額と行使価格との距離のことで、トリガ価額で正規化されている。ギアリングは、トリガが与えられたエキゾチックオプションと同じ行使価格を持つ対応するバニラオプションとの価格の差である。TV(エキ
ゾチック)は、ブラック−ショールズモデルにより計算される、オリジナルのエキゾチックオプションの理論価値である。TV(バニラ)は、対応するバニラオプション、つまり、トリガを除き同じパラメータを持つオプションの理論価値である。比率(TV(エキゾチック)/TV(バニラ))は、比率が所定の値、例えば、6〜12の値を超えたときにカットオフが適用されるTV(エキゾチック)とTV(バニラ)との比である。
ギアリング補正は、エキゾチックオプションの理論価値と同じパラメータを持つバニラオプションとの間の差および比に比例する。行使価格のあるエキゾチックオプション毎に、対応するバニラオプションがある。例えば、ノックアウトオプションはトリガまたはバリアを持つ。このエキゾチックオプションに対応するバニラオプションは、同じ満期、スポット価格、行使価格などを持つが、バリアを持たない。ノックアウトバリアを追加するとオプションの有効期間が制限される、例えば、標準型オプションはノックアウトする(つまり、終了する)が、対応するバニラオプションはインザマネーで終わる可能性があるため、エキゾチックオプションは一般に、対応するはバニラオプションよりも安い。ギアリング補正は、バニラオプションのTVとエキゾチックオプションのTVとの比および差に依存する。
シフト補正は、トリガがシフトされたときのTVの変化と満期がシフトされたときのT
Vの変化という2つの値の関数である。シフト補正関数は、例えば、これら2つの値の最大値をとる関数とすることができる。それとは別に、この関数は、これら2つの値の足す関数とすることができる。第1の値は、本質的価値がある割合だけ例えば5%だけ上昇するようにトリガをシフトし、その結果のTVの変化を判別することにより計算することができる。第2の値は、満期を、例えば1日だけシフトし、TVの変化を調べることにより計算することができる。このシフト補正は、理論価値トリガ値および満期の変化に対するオプションの理論価値(TV)の感度を示す尺度である。
ベガプロファイル補正では、スポットに関してベガのプロファイルを特徴付ける必要がある。このような特徴付けでは、例えば、ベガ(Smin)、ベガ(Kmin)、およびスマイル(Kmin)が関わる。ベガ(Smin)は、ベガの最小値を出力する、スポット価格、Sminでのバリアオプションのベガである。つまり、Sminはスポット価格に関するエキゾチックオプションのベガの最小値である。ベガ(Kmin)は、行使価格Kminであるバニラオプションのベガである。スマイル(Kmin)は、スマイル調整、つまり行使価格Kminでのバニラオプションは価格の調整である。Kminは、以下の式を使用して計算できる。
Smin=Kmin*(現在のフォワードレート)/(現在のスポットレート)
したがって、Kminは、現在の金利によるSminのフフォワードレートを生む行使価格である。
オプションのボラティリティは、ブロック30で表されるルックアップテーブルの中で、計算された行使価格、つまり、Kminに対するボラティリティを見つけることにより求められる。当業者であれば、スポット価格に関してベガプロファイルの特徴付けは、さらに、上述のように、例えば場合によっては1つの行使価格(例えば、Kmin)を使用する代わりに、他の適当なパラメータを使用して実行することができ、複数の行使価格を使用してベガプロファイルを近似することができることを理解するであろう。
上述の補正を計算した後、後述のように時間に依存する重みを使用して、直接または何らかの制限とともに、TVに加え、全体的な補正されたTVを出力する。補正の重みは、一般に、それぞれの補正に関わるリスクを反映する。例えば、ギアリング補正などの補正の一部は、オプションの満期に近い強い影響力を持つが、オプションが満期から遠い場合には影響力は非常に小さい。他の補正、例えば、コンベクシティ補正は、満期に近い影響をあまり持たない。したがって、重みは、一般に、特定のリスク対満期までの時間について補正のそれぞれの挙動を調整するように修正が加えられる。
本発明によれば、重み付き補正をTVに加えた動機は、一部、ブラック−ショールズモデルなどのモデルでは満期までの時間が長い場合に極端なスポットレベルに到達してしまう可能性を過小評価するということに発明者が気づいたことにある。実際、極端なノックアウトの生じる確率は、一般に、ブラック−ショールズ公式で予想される以上の高さである。これは、満期までの時間があるレベルを超えるファクタの大半が減少する理由の一部となっている。このタイプの調整は、「ワンタッチ」オプション、つまり、スポットがバリアに触れる場合にそこで買い手がある支払いを受け取るオプションを計算するときに特に役立つと思われる。
インザマネーノックアウトオプションのクラスでは(リバースノックアウトオプションとも呼ぶ)、(a)Caは補正されたTVの時間依存の重みを表し、(b)Cbは補正の時間依存の重みを表す場合に補正されたTVの計算に使用される重みは以下のとおりである。
Ca=0.61*exp(−0.4*t)*(1−Ptouch(t/L))*W*LT
ただし、t>1ならばL=2、t<1/12ならばL=1、それ以外ならばL=1+(t−1/12)*12/11
25デルタバタフライ>=0.5ならばW=(0.5+0.5*(25デルタバタフライ−0.5)/25デルタバタフライ、そうでなければW=1
t<0.25ならばLT=2*sqrt(t)、そうでなければLT=1
Cb=0.6*II*sqrt(t)*exp(−t*II/2)*(1−Ptouch(t/L))
ただし、Lは上で定義したとおりである。
Cc=0
Cd=0.045*最小(1,4.5*exp(−12t)+exp(−1))
t<1ならばCe=0.135*t+0.1125、そうでなければ0.2475
Cf=(0.5+exp(−2*II*t))*(1−exp(−2*II*t))
ただし、Ptouch(t)は、時刻tより前にトリガにタッチする確率であり、年で表される(例えば、1年に対してはt=1)。
ブロック46および50で示されているように、与えられたオプションの補正および重みの計算の後に、すべてのブロックを使用して、補正されたTV(CTV)、つまり、調整された中間市場価格を計算することができる。本発明のビルディングブロックを組み合わせる際に、いくつかの問題点に対処しなければならない。まず第1に、リスクリバーサル補正およびコンベクシティ補正は、スポット範囲の近傍に関係しているという点で局所的であるが、ベガプロファイル補正は大域的補正である、つまり、補正では比較的広いスポット領域でエキゾチックオプションのベガを考慮するということである。スポット範囲のある領域において、プロファイルの数量化された価額の一部はリスクリバーサル補正およびコンベクシティ補正においてすでに考慮されており、またその逆もいえるので、重複を避けるべきである。例えば、プロファイルの価値があるバニラオプションに似ていると判断された場合、ベガプロファイル補正では、そのバニラのスマイル調整を考慮することができ、したがって、リスクリバーサル補正およびコンベクシティ補正を追加すると、使用するスマイル調整メカニズムの観点から、二度数えることになりうる。第2に、リスクリバーサル補正およびコンベクシティ補正は、25デルタRRおよびバタフライでは線形である。これらのファクタにおける線形性を取り除くことに加えて、ベガプロファイル補正に、高階偏導関数を取り込み、線形性を取り除く必要があるが、ただし、リスクリバーサル補正およびコンベクシティ補正と適切に組み合わせている場合である。第3に、場合によっては、ギアリング補正およびシフト補正は、トリガ付近で終了することに関わる数量化されたリスクと重なる可能性がある。これは、特に、これら両方の補正が最大化する傾向がある、スポットの近傍内で発生しうる。
上記の考察を念頭に置き、以下のメカニズム使用してビルディングブロックを組み合わせ、そこでビルディングブロックを1ずつ追加する。このプロセスについては、以下の補正が定義される。
a−コンベクシティ補正
b−リスクリバーサル補正
c−本質的価値補正
d−ギアリング補正
e−シフト補正
f−ベガプロファイル補正
1.リスクリバーサル補正をベガプロファイル補正と組み合わせる:
リスクリバーサル補正>=0かつベガプロファイル補正<=0ならば、補正1=Cb*b+Cf*f
そうでなければ
補正1=exp(−3/2*II*t)*LLT*最大(Cb*b,Cf*f)+最小(Cb*b,Cf*f)
ただし、t<0.25ならば、LLT=4*t、そうでなければLLT=1。
2.補正1をコンベクシティ補正と組み合わせる:
コンベクシティ補正<0かつ補正1<0ならば:
t<=1/12ならば、LowCutOff(t)=8%と設定し、t>1ならばLowCutOff=15%と設定し、そうでなければLowCutOff=8%+7%*(t−1/12)*12/11と設定する。
t<=1/12ならばHighCutOff(t)=18%と設定し、t>1ならばHighCutOff=20%と設定し、そうでなければHighCutOff=18%+2%*(t−1/12)*12/11と設定する。
ConvexityRatio=Ca*a/TV(エキゾチック)と設定する。
ConvexityRatio>LowCutOff(t)ならばProfileFactor=最大(0.5,1−0.5*(ConvexityRatio−LowCutOff(t))/(HighCutOff(t)−LowCutOff(t)))。
コンベクシティ補正<0かつ補正1>0ならばProfileFactor=1。
コンベクシティ補正>0かつ補正1<0ならばProfileFactor=1。
最後に、補正2=ProfileFactor*補正1+a*Ca
4.補正2をシフト補正およびギアリング補正と組み合わせる:
Ce*e=<0.07%ならばFshift=0と設定し、Ce*e>=0.09%ならばFshift=1と設定し、そうでなければFshift=(Ce*e−0.07%)/0.02%と設定する。
Cd*d=<0.07%ならばFgearing=0と設定し、Cd*d>=0.09%ならばFgearing=1と設定し、そうでなければFgearing=(Cd*d−0.07%)/0.02%と設定する。
t=<0.019ならばFcombine(t)=0と設定し、0.019=<t<=1/12ならばFcombine(t)=(t−0.019)/(0.0641)と設定する。
1/12=<t=<0.41ならばFcombine(t)=1と設定し、0.41=<t<=1ならばFcombine(t)=1−(t−0.41)/(0.59)と設定し、そうでなければFcombine(t)=0と設定する。
補正3=補正2+Ce*e+Cd*d−Ptouch*(Ce*e+Cd*d−(0.16%+0.05%*最小(t,1))*Fshift*Fgearing*Fcombine(t)
最後に、補正合計=補正3で、かつ:
CTV=TV+補正合計
ただし、TVは理論価値である。
図2Cを参照すると、ビッド/オファースプレッドは、一部時間依存である、異なる一組の重みとともに同じ一組の補正に基づいて計算することができることが示されている。これらの新しい重みは、基本補正の関数とすることができる。新しく計算した重みを使用して、補正の総和をとると、ビッド−オファースプレッドが得られる。ブロック52は、新しい重みの計算を示しており、ブロック54〜64は、総和を計算するための補正を示しており、ブロック66は、重み付き補正の総和を示しており、ブロック68は、ビッド/オファースプレッドの計算を示している。
エキゾチックオプションのビッド/オファースプレッドは、現在の市況での対応するバニラオプションのビッド/オファースプレッドにも依存する。ベガによるエキゾチックオプションのスプレッドは、一般に、対応するバニラのスプレッドよりも、例えば、約1.5*(エキゾチックのベガ)/(ATMバニラのベガ)倍以上広い。したがって、ATMバニラオプションのビッド/オファースプレッドは、好ましい実施形態のビッド/オファースプレッドの計算における基準価額として使用することができる。しかし、本発明によるビッド/オファースプレッドの計算のための基準価額を定式化する際にバニラビッド/オファースプレッドの他に、またはそれの代わりに他の適当なファクタを使用することができることが理解されよう。残りのファクタは、後述のように補正されたTVを計算するために使用するものと同じであってよく、あるいは上述の原理に基づいて異なるビルディングブロックをビッド/オファースプレッドの計算に使用し、特定のオプションタイプに適合させることができる。補正はビッド/オファースプレッドの計算に適用されるが、ブロック58のコンベクシティ補正、ブロック64のリスクリバーサル補正、ブロック60の本質的価値補正、ブロック54のギアリング補正、ブロック62のシフト補正、ブロック56のベガプロファイル補正(簡単に「ベガ補正」ともいう)などの補正が図2Cに示されている。
ビッド/オファースプレッドは再ヘッジのリスク/取引費用に関係しているため、補正の特性は調整された中間市場価格に使用されるのと似ている。しかし、異なるパラメータの再ヘッジに関わる取引費用は一般に無関係であるため、ビッド/オファースプレッドの計算に異なる補正が絶対値とともに加えられる。例えば、オプションは、価格を下げる正のコンベクシティを持つことができ、また価格を上げる負のリスクユニバーサルは、CTVの全体的な小さな変化を引き起こす。しかし、コンベクシティのヘッジは、リスクリバーサルのヘッジと無関係であるため、これら2つの補正により広いビッド/オファースプレッドが得られる。この点に関して、補正合計の計算に際して上述の「二度数える」考察を考慮しなければならない。補正に適用される重みは、Sa、Sb、Sc、Sd、Se、およびSfでそれぞれ表される。これらの重みは次のように計算される。
Sa=1/1.55
Sb=0.2
Sc=最小(1,(1−TV(エキゾチック)/TV(バニラ))/0.15)
Sd=0.018*exp(−t)
Se=0.45*exp(−1.6t)
Sf=0.2
本発明の一実施形態では、ビッド/オファースプレッドを計算するために、ビルディングブロックを次のように3つのステップで組み合わせることができる。
1.コンベクシティ補正をリスクリバーサル補正とベガプロファイル補正との組み合わせた補正に追加し、補正合計を参照して組み合わせた補正を上述のように計算する。
すると、スプレッド1=Sf*abs(補正1)+Sa*abs(a)+最小(Sc*c,0.1%)となる。
ただし、「abs」は絶対値を表す。リスクリバーサル補正およびベガプロファイル補正が反対の符号を持てば、Sf*abs(補正1)はabs(Sf*Cf*f+Sb*Cb*b)になることに注意されたい。
2.シフト補正およびギアリング補正を組み合わせるために、以下のパラメータを定義する。
e=<0.15%ならばShifTrim=e、そうでなければShiftTrim=0.15%+0.5*(e−01.5%)
Sd*d=<0.08%ならばGearingTrim=Sd*d、そうでなければGearingTrim=0.08%+0.5*(Sd*d−0.08%)。
スプレッド2=スプレッド1+Se*((1−Fcombine(t))*e+Fcombine(t)*ShiftTrim)+Sd*((1−Fcombine(t))*d+Fcombine(t)*GearingTrim/Sd)
3.標準バニラビッド/オファースプレッドを追加する。
最後に、以下が得られる。
ビッド/オファースプレッド=(0.7+0.42*exp(−1.1t))*スプレッド2+VanillaSpread(K)+最大(VegaATM*ATMボラティリティビッド/オファースプレッド−VanillaSpread(K),0)*最小(1,エキゾチックオプションのベガ/VegaATM)
ただし、VanillaSpread(K)は行使価格がエキゾチックオプションと同じであるバニラオプションのビッド/オファースプレッドであり、VegaATMはATMバニラオプションのベガである。
そこで図2Dを参照する。ビッド/オファースプレッドを計算した後、ブロック70に示されているように、それぞれ、ビッド/オファースプレッドの1/2(0.5)を計算で求めた平均価格との間で減算、加算してビッド価格およびオファー価格を計算する。したがって、ブロック72に示されているように、ビッドは調整された中間市場価格(CTV)からスプレッドの半分を差し引いたもので、ブロック74に示されているように、オファーは調整された中間市場価格(CTV)にスプレッドの半分を足したものである。
バニラオプションのスマイル調整の計算とブロック24(図2A)のルックアップテーブルの生成に関して上で説明したように、バニラオプションのボラティリティスマイル調整を計算するアルゴリズムは全般的に適用することが可能であり、これは、バニラオプションのビッド/オファースプレッドを計算するにあたって以下で説明しているとおりである。したがって、本発明は、任意に与えられた行使価格に対してバニラオプションの価格を決定する方法をも含む。ボラティリティスマイル調整は、アットザマネー(ATM)バニラオプションと25デルタコールおよびプットオプションのボラティリティから計算される。ボラティリティスマイルの計算で使用するファクタには、ベガ、dVega/dSpot(つまり、リスクリバーサル)、およびdVega/dVol(つまり、コンベクシティ)が含まれる。ベガは、ボラティリティに関するオプション価額(価格)の偏導関数である。dVega/dSpotは、スポットに関するベガの偏導関数であり、dVega/dVolはボラティリティに関するベガの偏導関数である。
ボラティリティスマイル調整で使用される、市況から導かれる2つの追加ファクタには、25デルタバタフライおよび25デルタリスクリバーサルが含まれ、両方ともボラティリティを測定単位とする。本発明による、ボラティリティスマイルのアルゴリズムの目的に関して、入力は25デルタバタフライおよび25デルタリスクリバーサルとすることが重要であることに注意されたい。入力は、さらに、市場ボラティリティが得られる他の2つの行使価格であるか、またはそれに対して、市場のプレミアム合計が知られている行使価格の2つのペアであってもよい。本発明のモデルでは反復法を適用するので、25デルタバタフライおよび25デルタリスクリバーサルをデータから推論することができる。例えば、通貨オプションなどいくつかの市場では、25デルタバタフライの売買は、コールオプションとプットオプションの両方について同じボラティリティに対応する行使価格で市場で行われる。このような場合、モデルは、反復により「真の」25デルタバタフライを求めることができ、2つの行使価格のプレミアム合計はスマイルと一致する。他の例では、ATMボラティリティおよびエクイティデリバティブの25デルタRRおよびバタフライを、同じ満期日について取引所で売買される3つのオプションの価格から推論することができる。このような汎用性のあることは、本発明のモデルが全般的に適用可能であることの実証例となっている。
上述のように、25デルタバタフライおよび25デルタリスクリバーサルのファクタは、以下のように定義または計算される。
25デルタバタフライ=0.5(インプライドVol(25デルタコール)+インプライドVol(25デルタプット))−ATM Vol
25デルタリスクリバーサル=インプライドVol(25デルタコール)−インプライドVol(25デルタプット)
25デルタオプションのボラティリティは、これら2つのファクタから計算することができる。反復を複数回実行することで、ボラティリティスマイル全体を計算することができ、例えば、行使価格を対応するデルタおよびボラティリティ価額にリンクするルックアップテーブルを構築することができる。したがって、知られている、アットザマネーオプションのボラティリティから始めて、デルタバタフライおよび25デルタリスクリバーサルを使用し、さまざまな異なるデルタ(つまり、ATMだけでなく)のオプションに対するボラティリティを計算することができる。行使価格−ボラティリティ−デルタの各組は一意であり、ルックアップテーブルに入れることができるため、アルゴリズムで後から簡単に参照できる。
したがって、バニラオプションのスマイル調整は、25デルタリスクリバーサル、25デルタストラングル(バタフライ)、ATMボラティリティ、スポット、フォワードレート、および金利の入力から始めて、計算することができる。スマイル調整を計算するアルゴリズムは、以下のステップを含むことができる。
1.与えられたデルタD1について、D1デルタストラングルの行使価格を見つける。D1が所定の値、例えば、30よりも小さければ、RRおよびストラングルから得られる25デルタインプライドボラティリティを使用し、そうでなければ、ATMインプライドボラティリティを使用する。
2.上述のように価格(コンベクシティ)および価格(RR)を25デルタストラングルおよび25デルタRRから計算するとして、D1ストラングルのdVega/dVol*価格(コンベクシティ)およびD1(RR)のdVega/dSpot*価格(RR)の計算を行う。
3.1単位のコンベクシティの価格と1単位の25デルタストラングルの価格を同じにしなければならないとすることにより、ATMボラティリティとともにプレミアムに関してD1ストラングルの目的のプレミアムを計算する。この計算を、dVega/dSpotについて繰り返す。
4.D1行使価格のインプライドボラティリティを調整し、1単位のコンベクシティに対して25デルタバタフライに対してと同じ価格条件を、また1単位のdVega/dSpotに対して25デルタリスクリバーサルに対してと同じ価格条件を満たすようにする。
5.ステップ4のボラティリティを持つデルタD1に対応する新しい行使価格を計算する。
6.ステップ3〜5を順次繰り返して、収束させる。
7.D1行使価格に対するインプライドボラティリティとして得られる最後のボラティ
リティを設定する。
8.他のデルタについてステップ1〜7を繰り返し、行使価格とそのインプライドボラティリティのルックアップテーブルを作成する。
9.ルックアップテーブル内で間に置かれる行使価格について、ルックアップテーブルの値に基づく補間を使用する。与えられた行使価格に対するスマイル調整は、オプションがコールオプションであるかプットオプションであるかに関係しないことに注意されたい。
他の実施形態で、本発明の方法を使用することにより、直接、つまり、ルックアップテーブルに基づかずに、行使価格Kに対するSmileAdjustmentを以下のように計算することができる。
1.与えられた行使価格Kについて、デルタD1を計算する。KおよびK_1がD1デルタストラングルの行使価格であるような行使価格K_1を見つける。D1が所定の値、例えば、30よりも小さければ、RRおよびストラングルから得られる25デルタインプライドボラティリティ、つまり、最大(K,K_1)に対する25デルタコールボラティリティおよび最小(K,K_1)に対する25デルタプットボラティリティを使用する。そうでなければ、両方の行使価格に対してATMインプライドボラティリティを使用する。
2.上述のように価格(コンベクシティ)および価格(RR)を25デルタストラングルおよび25デルタRRから計算するとして、D1ストラングルのdVega/dVol*価格(コンベクシティ)およびD1(RR)のdVega/dSpot*価格(RR)の計算を行う。
3.1単位のコンベクシティの価格と1単位の25デルタストラングルの価格を同じにしなければならないとすることにより、ATMボラティリティとともにプレミアムに関してD1ストラングルの目的のプレミアムを計算する。この計算を、dVega/dSpotについて繰り返す。
4.D1行使価格のインプライドボラティリティを調整し、1単位のコンベクシティに対して25デルタバタフライに対してと同じ価格条件を、また1単位のdVega/dSpotに対して25デルタリスクリバーサルに対してと同じ価格条件を満たすようにする。
5.ステップ4で行使価格Kについて得られたボラティリティを持つ行使価格Kの新しいデルタD2を計算する。KおよびK_2がステップ4のK_1に対するボラティリティを持つD2デルタストラングルの行使価格になるように行使価格K_2を計算する。
6.ステップ3〜5を順次繰り返して、行使価格Kのボラティリティを収束させる。
7.行使価格Kに対するインプライドボラティリティとして得られる最後のボラティリティを設定する。
ビッド/オファースプレッドに対する上記の計算は、バニラオプションに対しビッド/オファースプレッドを計算するための以下のアルゴリズムにより実証されているように、全般的に適用可能である。この計算の入力に、当業で知られているように、ATMボラティリティのビッド/オファースプレッドを含めることができる。市場データ入力には、ビッドおよびオファーATMボラティリティの両方を含めることができる。ビッド/オファースプレッドを計算するアルゴリズムは以下のとおりである。
1.基準点(「bp」)で、つまり、売買する数量の割合の1/100に対応する単位で、ATMオプションのビッド/オファースプレッドを計算する。これは、以下の式を使用して近似することもできる。
SpreadATM=ベガ(ATM)*(ボラティリティのビッド/オファースプレッド)。
2.与えられた行使価格Kに対するスマイル調整済みボラティリティを計算する。行使価格がATM行使価格(ほぼフォワードレートに等しい)よりも高ければコールをとり、行使価格がATM行使価格よりも低ければプットをとることで、デルタ(K)で表される、行使価格Kに対応するデルタを計算する。ちなみに、ATM行使価格は、コールオプションのデルタとプットオプションのデルタの総和が0となる行使価格である。
3.次のように基準点(bp)で行使価格Kのビッドオファースプレッドを計算する。
スプレッド(K)=VegaATM*ATMボラティリティのビッド/オファースプレッド*G(デルタ,TV)
ただし、デルタ(K)>=7%ならばG(デルタ,TV)=1、デルタ(K)=<7%かつ(VanillaTV(K)+最大(スマイル(K),0))>=0.001%ならばG(デルタ,TV)=1−0.645*exp(−15*(VanillaTV(K)+最大(スマイル(K),0)))、デルタ(K)=<7%かつ(VanillaTV(K)+最大(スマイル(K),0))=<0.001%ならばG(デルタ,TV)=0.5*(1−exp(−1300*(VanillaTV(K)+最大(スマイル(K),0)))。
上の指数関数で、TVはパーセンテージ単位で測定される。
4.次のようにビッド価格およびオファー価格を計算する。
ビッド価格(K)=max(価格(K)−0.5*スプレッド(K),min(価格(K),1bp))
オファー価格(K)=ビッド価格(K)+スプレッド(K)
ただし、価格(K)は価格決定されるオプションの基準点(bp)における中間価格を表す。
5.ビッド価格(K)およびオファー価格(K)に対応するボラティリティビッドおよびボラティリティオファーを見つける。これらのボラティリティは、ビッドおよびオファーボラティリティである。
図3を参照すると、そこには、本発明の一実施形態による金融デリバティブの価格を決定するシステムの概略が例示されている。上で詳しく説明したように、システムでは、価格決定すべきオプションの詳細だけでなく、当業で知られているようなソースから得られる市況などのリアルタイムデータ214を含む、ユーザ200から受け取った情報を格納するためのデータベース218を用意している。例えば、市況には、オプションの対象となる原資産(またはその他の価額)に対する現在のスポット価格を含めることができる。ユーザから受け取った情報およびリアルタイムの市況は、アプリケーションサーバ212により処理されるが、このサーバはさまざまなソースから受け取った情報を処理し取り扱うための当業で知られているハードウェアおよび/またはソフトウェアの組み合わせを備える。アプリケーションサーバ212は、当業で知られているように、コントローラに関連付けられるのが好ましく、これによりシステムの異なる部分のオペレーションが制御され同期処理される。アプリケーションサーバ212は、図2A〜2Dを参照し上で説明した方法を実行するビッド/オファープロセッサ216に関連付けられている。ビッド/オファープロセッサは、図2A〜2Dを参照して上で説明したアルゴリズムを実行できる当業で知られているハードウェアおよび/またはソフトウェアの組み合わせを備えることができる。
当業で知られているように、ユーザ200からの情報は、当業で知られているように通信モデムを介して世界的規模の通信ネットワーク202、例えば、インターネットと情報のやり取りをするように適合させたWebブラウザ210で受け取るのが好ましい。ユーザは、当業で知られているように、パーソナルコンピュータ、またはインターネット202との接続を確立するための通信モデムを備える他の適当なユーザインターフェースを使用して、インターネット202を介してWebサーバ210と通信することができる。本発明の他の実施形態では、ユーザ200は、例えば、当業で知られているように、直接電話接続またはセキュアソケットレイヤー(SSL)接続を使用して、Webサーバ202と直接通信することができる。本発明のさらに他の実施形態では、ユーザ200は、例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)を介して、または当業で知られている他のローカル通信ネットワークを介して、アプリケーションサーバ212に直接接続される。
リアルタイムデータ214は、当業で知られているような直接接続手段を使用してアプリケーションサーバ212で直接受け取ることができる。それとは別に、リアルタイムデータは、Webサーバ210を使用して、世界的規模のコンピュータ通信ネットワーク上で利用可能なソースから受け取ることもできる。ユーザによって要求されたオプションのビッド価格およびオファー価格を計算した後、アプリケーションサーバ212は、当業で知られているように、計算で求めたビッド/オファー価格をユーザに提示するのに適した形式で、Webサーバ210を介してユーザ200に伝達することができる。
以下の表1は、図2A〜2Dを参照しながら上で説明したように、本発明の好ましい実施形態の3つの実証応用例をまとめたものである。これらの例は、3つの異なる日付に関して外国為替エキゾチックオプションブローカから得た情報に基づく。日付は、表の売買日業に示されている。ブローカは、満期までの日数を測定する基準となるオプションの満期日を提供する。残りの入力に、オプションの詳細、例えば、行使価格、プットまたはコール、バリアだけでなく、売買に関連する市況、例えば、スポット価格、フォワードレート、ATMボラティリティ、25デルタRR、25デルタバタフライ、現在の金利、エキゾチックオプションのTV、および対応するバニラオプションのTVなどのオプションパラメータが含まれる。表1の実際のビッドおよびオファー価格は、多数の値付け業者(ブローカ)から得たものである。表1の「適正価格」エントリは、異なる値付け業者が提示するビッド/オファー価格の平均を表す。適正市場価格は、オプションの市場価格を表す。最後に、本発明の好ましい実施形態により計算して求めたビッドおよびオファー価格は、表の最下段に示されており、「モデル価格」と表されている。これらの価格は、上述のように、調整された中間市場価格およびビッド/オファースプレッドから生成される。表1から、本発明のモデルは、正しいビッド/オファースプレッド、および計算で求めたオプション例に対する正しい調整された中間市場価格を与えることは明白である。また、表1から、ブラック−ショールズモデルに基づいて計算されたTVからは正しい結果が得られないことも明白である。
表1の実施例1を参照すると、1999年2月12日に売買されたオプションの満期日は1999年6月14日である、つまり売買してから122後である。表1はさらに、上述のように、オプションの詳細をさらに示している。例えば、実施例1のオプションの原資産に対するスポット価格は、114.40であり、このオプションに対するボラティリティは17.35であり、このオプションに対するフォワードレートは−1.86であり、ブラック−ショールズモデルに基づいて計算された理論価値(TV)は0.38であり、対応するバニラオプション価格およびビッド/オファースプレッドはそれぞれ、2.7および0.25である。表1はさらに、異なる6社の値付け業者により与えられる、実施例1のオプションに対するビッドおよびオファー価格も示しており、平均をとることで、それぞれ、0.38および0.64の「適正」ビッドおよびオファー価格を決定できる。表1にさらに示されているように、実施例1のオプションのビッドおよびオファー「モデル」価格はそれぞれ0.38および0.64であり、その価額はそれぞれ、「適正」ビッドおよびオファー価格に等しい。当業者であれば、表1の分析から、実施例1のオプションに対する本発明のモデルから得られる結果は同じオプションの平均適正価格に著しく近い(本質的に同じである)と結論付けるであろう。同様に、当業者であれば、表1の実施例2および実施例3のデータの分析から、実施例2おおよび3のオプションに対し本発明により計算された「モデル価格」は実質的に、これらのオプションの平均「公正価格」と実質的に同じであることを理解するであろう。
金融市場においてデリバティブの価格を決定するために正確なモデルを用意することのメリットは非常に大きいことを理解すべきである。まず第1に、本発明の正確なモデルにより、デリバティブにあまり経験のないユーザでも正確に値付けすることができる。不適正な価格で取引するとかなりの金融損失が発生するため、このメリットだけでも重要である。第2に、正確な価格決定モデルを採用しているため、デリバティブ市場の流動性がより高まることが期待される。デリバティブの正しい価格を決定することができないと、値付け業者に強く依存することになり、ユーザはデリバティブを使用することを控えるようになる。デリバティブの使用が増えると、企業およびその他のヘッジャは自社のキャッシュフローのヘッジをより適切に進められる。第3に、現在のところ、例えば、多くの企業およびファンドが、互いに貸し付け限度額を設定できず、銀行とだけ取引することが要求される。貸し付け限度額を設定する作業は複雑であり、貸し付け限度額を要求する会社に関する大量の情報を必要とする。例えば、多くの中小企業は、貸し付け限度額を確定することができず、したがって、自社のヘッジにデリバティブを使用することができない。市場価格の正確なモデルを用意することにより、2当事者は、相互の貸し付け限度額を設定していない場合でも、マージンベースで互いに取引することができる。例えば、このような当事者は、現行市場価格に関する売り手の現在の損失を含む、取引所で使用されるような、デリバティブの価格に対するマージンを設定できる。したがって、相手当事者の1人がオプションの有効期間中に債務不履行を起こした場合、他方の当事者は、損失なしで別の当事者とデリバティブの巻き戻しを行える。
以下の例は、マージンシステムの例を説明したものである。所定の時刻tで所定のデリバティブの市場価格について本発明のモデルにより計算される価額はP(t)であると仮定する。価格P(t)は、ビッド価格とオファー価格の中間、またはオファー価格、またはビッド価格および/またはオファー価格の他の合意されている関数とすることができる。取引履行時に支払われるプレミアムはP(0)である。名目のマージン金額はMと表される。この例では、時刻tで、デリバティブの売り手は、以下の金額をデリバティブの買い手のために自分の証拠金勘定に入れておく必要がある。
M(t)=max(0,P(t)−P(0))+X
ただし、Xは両サイドがあらかじめ合意し、市場の急激な動きから買い手を守るように設計されている正の金額とすることができる。またXは、時刻Tで、オプションのビッド/オファー価格に比例するものとすることができる。ある時点において、証拠金勘定が0になると、デリバティブの買い手は、売り手との自分のポジションをクローズし、第三者からオプションを買う権利を持つことができる。
その結果、上の例では、市場はより多くのユーザ、例えば、企業、基金、個人投資家、およびその他のデリバティブユーザに開かれ、今日の状況と比較してかなりの金額を貯蓄できる。例えば、このようなユーザは、さまざまな企業とより適正な価格で取引することができ、また貸し付け限度額を確定することに成功している、値付け業者、例えば、銀行または専門ブローカの組織とのみの取引に限定されない。このような展開によりデリバティブの流動性が劇的に高まることは理解されるであろう。
図に示され、本明細書で説明した発明の実施形態は所望の結果を出すことが完全に可能であるが、これらの実施形態は、制限する目的ではなく、例示を目的として図に示され、説明されていることは理解されるであろう。当業者であれば考えられるさまざまな形式および詳細の他のバリエーション、また本発明の精神と範囲内にあるバリエーションについては、特に取りあげない。したがって、本発明は付属の請求項によってのみ制限される。