JP2012095606A - デキストラングルカナーゼ - Google Patents

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Abstract

【課題】α−グルカンやその分解物を分解すると同時にグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を触媒する酵素を提供する。
【解決手段】パエニバチルス属菌由来のデキストラングルカナーゼをコードする遺伝子を大腸菌に導入し、デキストラングルカナーゼを生産。該デキストラングルカナーゼを、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群より選択される基質と接触させ、イソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランから成る群より選択される糖を製造。
【選択図】なし

Description

本発明は、例えばデキストラングルカナーゼ及びデキストラングルカナーゼを使用した糖の製造方法に関する。
サイクロデキストラン(又は「環状イソマルトオリゴ糖」と呼ばれる;以下、「CI」と省略する場合がある)は、グルコースがα-1,6結合で環状に連なった構造のオリゴ糖である。従来においては、先ず、ロイコノストック属菌等の細菌を、ショ糖を炭素源として培養することにより、これらの細菌がデキストランスクラーゼを生産し、この酵素の作用によりデキストラン(α-1,6-Dグルカン)が合成される。次いで、バチルス属菌やパエニバチルス属菌の環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ(又は「サイクロデキストラン合成酵素」と呼ばれる;以下、「CITase」と省略する場合がある)によって、当該デキストランからサイクロデキストランが合成される。
デキストランの原料であるショ糖は、グルコースとフルクトースから成る二糖であり、このうちグルコースのみしかデキストラン合成に利用されない。従って、デキストランの対糖収率が最高50%を超えることはない。
また、デキストランの分子構造はD-グルコースのみから成る高分子多糖類であり、α-1,6-グルコシド結合を主体として、α-1,2-、α-1,3-及びα-1,4-グルコシド結合の分岐を有している。CITaseは、α-1,6-グルコシド結合部分のみよりCIを合成し、分岐部分は残渣として廃棄しなくてはならない。このように、ショ糖からのCIの対糖収率はさらに低くなるのが現状である。
その他のα-グルコシド結合を有する糖質として、現在、デンプン、デキストリン、グルコース2、3分子を主体とするマルトオリゴ糖(グルコースがα-1,4結合したオリゴ糖)やイソマルトオリゴ糖(グルコースがα-1,6結合したオリゴ糖)、及びサイクロデキストリン(グルコースが6〜8分子で環状にα-1,4結合したオリゴ糖)が広く利用されている。しかしながら、長鎖のイソマルトオリゴ糖、パノース以外のイソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン等については普及している生産手段はない。
一方、CIの原料となるデキストランの生産については、非特許文献1及び特許文献1〜3が、デキストリンデキストラナーゼを用いてデンプンからデキストランを製造する方法を開示する。当該方法は、マルトオリゴ糖等のデンプン部分分解物からデキストランを、デキストリンデキストラナーゼを用いて生産する方法である。当該デキストリンデキストラナーゼの至適pHは4.5と低く、当該pHはCITaseが失活する条件である。従って、CIの合成では、先ずデキストリンデキストラナーゼでデキストラン合成反応を行い、次にpHを上げてCITaseを作用させてCI合成反応を行うという二段階反応が望ましい。このように、CI合成において、デキストリンデキストラナーゼは、CITaseと同時に反応させることに適していない。また、デキストリンデキストラナーゼは、高分子のデンプンへの反応性が高くないため、デンプンを部分分解処理して原料とする必要がある。さらに、デキストリンデキストラナーゼが生産するデキストランは高分子となり、イソマルトシルオリゴ糖の生産には適さない。
また、サイクロデキストランの生産については、特許文献4が、デンプン、デンプンの成分又はそれらの部分分解物を含む培地でバチルス又はパエニバチルス属菌を培養し、培養物よりサイクロデキストランを採取する方法を開示する。当該方法は、発酵生産法であるために、生産に時間がかかり、対糖収率も酵素法より劣る。当該特許文献にはバチルス又はパエニバチルス属菌の培養上清を酵素液とする方法も開示しているが、酵素活性は微弱であり、当該培養上清を使用した酵素法は発酵生産法より劣る。従って、現在、酵素を用いてデンプン、デンプンの成分又はそれらの部分分解物からサイクロデキストランを効率よく生産する方法はない。
サイクロデキストランの安全性は確認されており、歯垢を付きにくくする作用(特許文献5)を利用して食品用途に利用されている。しかしながら、食品としては高価なために甘味料に微量に添加する等の用途にしか利用されていない。また、高分子のサイクロデキストランには包接性が知られているが(特許文献6及び7)、純度の高い高分子サイクロデキストランは高価なために包接剤としては実用化には至っていない。
サイクロデキストランの用途を広げるためには、デキストラン以外のデンプン等の安価な原料からサイクロデキストランを酵素生産する技術が望まれている。
特許第3594650号公報 特許第4473402号公報 特開2007-181452号公報 特開2008-167744号公報 特許第3400868号公報 特許第4122208号公報 特許第4395380号公報
E.J. Hehre and D.M. Hamilton, 「Proc. Soc. Exp. Biol. and Med.」, 1949年, 第71巻, pp. 336-339
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、α−グルカンやその分解物を分解すると同時にグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を触媒する酵素及び当該酵素をコードする遺伝子、並びに当該酵素を用いた糖を製造する方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、パエニバチルス属菌の培養上清からこれまで全く知られていないα−グルカンやその分解物を分解すると同時にグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を触媒する酵素(以下、「デキストラングルカナーゼ」又は「DGase」と称する)を見出し、さらに当該酵素を利用して、デンプンその他の各種α-グルカン及びその分解物からイソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランを製造できること、並びにデンプンやその分解物からサイクロデキストランを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下を包含する。
(1)以下の(a)〜(c)のいずれか1つのタンパク質から成るデキストラングルカナーゼ。
(a)配列番号3に示されるアミノ酸配列から成るタンパク質
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1〜40番目のアミノ酸を欠失したアミノ酸配列から成るタンパク質
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を有するタンパク質
(2)(1)記載のデキストラングルカナーゼをコードする遺伝子。
(3)(2)記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
(4)(3)記載の組換えベクターを有する形質転換体。
(5)(1)記載のデキストラングルカナーゼを、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群から選択される基質と接触させる工程を含む、α-グルコシド結合を分解する方法。
(6)(1)記載のデキストラングルカナーゼを、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群より選択される基質と接触させる工程を含む、イソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランから成る群より選択される糖を製造する方法。
(7)(1)記載のデキストラングルカナーゼ及びサイクロデキストラン合成酵素を、デンプン又はその分解物と接触させる工程を含む、サイクロデキストランを製造する方法。
本発明によれば、α−グルカンやその分解物を分解すると同時にグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を触媒する酵素が提供される。また、本発明によれば、当該酵素を用いて、デンプンその他のα−グルカン及びそれらの分解物を加水分解すると同時にα-1,6転移反応並びに不均化反応を行うことで、産業上有用なイソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、長鎖のイソマルトオリゴ糖及びデキストラン並びにサイクロデキストランを低コストで製造することができる。
パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)598K株の培養液のResource Qカラムクロマトグラフィーの図である。 デキストラングルカナーゼによるグルコース及びマルトオリゴ糖反応液の薄層クロマトグラフィーの図である。 デキストラングルカナーゼによるイソマルトオリゴ糖及びパノース反応液の薄層クロマトグラフィーの図である。 デキストラングルカナーゼによるマルトース、イソマルトース、コージビオース及びニゲロース反応液の薄層クロマトグラフィーの図である。 デキストラングルカナーゼによるマルトテトラオース反応液及びその酵素分解物のHPLC分析の図である。 デキストラングルカナーゼによるイソマルトテトラオース反応液及びその酵素分解物のHPLC分析の図である。 デキストラングルカナーゼによるパノース反応液及びその酵素分解物のHPLC分析の図である。 マルトテトラオースを基質としたデキストラングルカナーゼによる反応初期生産物のHPLC分析の図である。 図8に示すマルトテトラオースを基質としたデキストラングルカナーゼによる反応初期生産物ピークA、B及びC並びにマルトトリオース(G3)、マルトテトラオース(G4)及びマルトペンタオース(G5)の13C NMR分析の図である。 デキストラングルカナーゼと環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼによるデンプン及びマルトヘキサオースからの反応生産物のHPLC分析の図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るデキストラングルカナーゼは、以下の(a)〜(c)のいずれか1つのタンパク質である。
(a)配列番号3に示されるアミノ酸配列から成るタンパク質;
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1〜40番目のアミノ酸を欠失したアミノ酸配列から成るタンパク質;
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を有するタンパク質。
上記(a)記載の配列番号3に示されるアミノ酸配列から成るタンパク質は、パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)598K株(FERM P-19604)由来のデキストラングルカナーゼである。また、配列番号2に示される塩基配列は、当該デキストラングルカナーゼをコードする遺伝子である。
ここで、デキストラングルカナーゼとは、α-グルコシド結合分解活性を有し、さらにグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を触媒する酵素を意味する。本発明に係るデキストラングルカナーゼにより分解されるα-グルコシド結合としては、例えばα-1,2結合、α-1,3結合、α-1,4結合及びα-1,6結合が挙げられる。上述のデキストリンデキストラナーゼは、α-1,4グルコシド結合やα-1,6グルコシド結合を分解するが(K. Yamamoto, K. Yoshikawa and S. Okada, 「Biosci. Biotechnol. Biochem.」, 1993年,第57巻, 第1号,pp. 47-50)、α-1,2グルコシド結合やα-1,3グルコシド結合を分解しない点で、本発明に係るデキストラングルカナーゼと異なる。さらに、デキストリンデキストラナーゼはα-1,6グルコシド結合もα-1,4グルコシド結合も形成するが(K. Yamamoto, K. Yoshikawa and S. Okada, 「Biosci. Biotechnol. Biochem.」, 1993年,第57巻, 第1号,pp. 47-50)、本発明に係るデキストラングルカナーゼはα-1,6グルコシド結合を形成するが新しいα-1,4グルコシド結合を形成しない点も、本発明に係るデキストラングルカナーゼはデキストリンデキストラナーゼと異なる。
上記(b)記載のタンパク質は、(a)記載のタンパク質のアミノ酸配列から菌体外分泌シグナルペプチド(又はシグナル配列)(配列番号3に示されるアミノ酸配列の1番目〜40番目のアミノ酸配列から成る)を除いた成熟タンパク質である。
上記(c)記載のタンパク質は、(a)又は(b)記載のタンパク質のアミノ酸配列において、1又は複数(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を有するものである。例えば、(a)又は(b)記載のタンパク質のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端に(His)6タグやGSTタグ等の外来ペプチド又はタンパク質が付加されたものでデキストラングルカナーゼ活性を有するものも本発明に係るデキストラングルカナーゼに含まれる。
また、配列番号3に示されるアミノ酸配列(全長タンパク質)又は当該アミノ酸配列において1番目〜40番目のアミノ酸を除いたアミノ酸配列(成熟タンパク質)に対して、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を示すタンパク質も本発明に係るデキストラングルカナーゼに含まれる。
デキストラングルカナーゼ活性の評価は、例えば本発明に係るデキストラングルカナーゼをα-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン、その分解物等の基質と接触させることで反応させ、得られた反応生成物において、基質からα-グルコシド結合が分解されることにより生成される糖及び/又は基質からα-1,6結合でグルコースを転移伸長した糖を検出することにより行われる。
本発明に係る遺伝子は、上述の本発明に係るデキストラングルカナーゼをコードする遺伝子である(以下、「本発明に係る遺伝子」と称する)。本発明に係る遺伝子としては、例えば、(i)上記(a)記載の全長タンパク質をコードする配列番号2に示される塩基配列における69番目〜3926番目の塩基配列から成る遺伝子;
(ii)上記(b)記載の成熟タンパク質をコードする配列番号2に示される塩基配列における189番目〜3926番目の塩基配列から成る遺伝子;
(iii)上記(i)又は(ii)の塩基配列において、コドンの縮重に基づき塩基が置換された塩基配列から成る上記(a)又は(b)記載の全長タンパク質又は成熟タンパク質をコードする遺伝子;
(iv)上記(i)又は(ii)の塩基配列において、1又は複数(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を示すタンパク質をコードする遺伝子;
(v)上記(i)又は(ii)の塩基配列に対して、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上のヌクレオチド同一性を有する塩基配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を示すタンパク質をコードする遺伝子;
(vi)上記(i)又は(ii)の塩基配列と相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つデキストラングルカナーゼ活性を示すタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃の条件をいう。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
なお、本発明に係る遺伝子は、例えば開始コドン、終止コドン、プロモーター等を適宜含むことができる。
一方、本発明に係る遺伝子又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを宿主に導入し、形質転換することで、本発明に係るデキストラングルカナーゼを発現させることができる。
宿主としては、特に限定されるものではないが、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等の酵母;大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属等に属する細菌;COS細胞等の動物細胞;Sf9等の昆虫細胞;アブラナ科等に属する植物が挙げられる。
先ず、本発明に係る遺伝子を準備する。本発明に係る遺伝子は、例えば、当該遺伝子が由来する生物(例えば、パエニバチルス・エスピー598K株)のゲノムDNA等を鋳型として、該領域の両端の塩基配列に相補的なプライマーを用いたPCRによって容易に得ることができる。
一旦、塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたプローブを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって、本発明に係る遺伝子を得ることができる。さらに、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明に係る遺伝子の変異型であって変異前と同等の機能を有するものを合成することができる。
なお、本発明に係る遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))等を用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
本発明に係る遺伝子を含有する組換えベクターは、適当なベクターに本発明に係る遺伝子を挿入することにより得ることができる。使用するベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド等が挙げられる。また該ベクター自体に複製能がない場合には、宿主の染色体に挿入すること等によって複製可能となるDNA断片であってもよい。
プラスミドとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpET15b等のpET系プラスミド、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript、pGEX-2TK等のpGEX系プラスミド等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13等のYEp系、YCp50等のYCp系等)等が挙げられ、ファージDNAとしては、例えばλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルス等の動物ウイルスやバキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
ベクターに本発明に係る遺伝子を挿入する方法は、例えば精製された本発明に係る遺伝子及びベクターをそれぞれ適当な制限酵素で切断し、連結する方法が採用される。
さらに、本発明に係る遺伝子又は本発明に係る遺伝子を含有する組換えベクター(以下、「本発明に係る組換えベクター等」という)を宿主中に導入することにより形質転換体を作製する。
酵母への本発明に係る組換えベクター等の導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。また、YIp系等のベクターあるいは染色体中の任意の領域と相同なDNA配列を用いた染色体への置換・挿入型の酵母の形質転換法であっても良い。
細菌への本発明に係る組換えベクター等の導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞等が用いられる。動物細胞への本発明に係る組換えベクター等の導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞等が用いられる。昆虫細胞への本発明に係る組換えベクター等の導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
植物を宿主とする場合は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞等が用いられる。植物への本発明に係る組換えベクター等の導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法等が挙げられる。
本発明に係る組換えベクター等が宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、本発明に係る遺伝子に特異的なプライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物をバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光、酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
次いで、得られた形質転換体を生育可能な条件下で培養する。例えば、本発明に係る組換えベクター等で形質転換した大腸菌の培養において、大腸菌が生育し且つ本発明に係るデキストラングルカナーゼが失活しないように、培養温度は、例えば18〜37℃、好ましくは20〜30℃に設定する。また培地のpHは、例えば6〜8、好ましくは6.5〜7.5に設定すればよい。培養時間は、例えば12〜48時間、好ましくは20〜24時間である。
以上のようにして、本発明に係るデキストラングルカナーゼを上述の形質転換体より得ることができる。形質転換体の培養物をそのまま本発明に係るデキストラングルカナーゼとして使用してもよく、あるいは培養物中の形質転換体を破砕し、公知の抽出や精製技術(例えば、遠心分離、透析、クロマトグラフィー等)に供し、抽出、精製したタンパク質を本発明に係るデキストラングルカナーゼとして使用することができる。
一方、本発明に係る方法の第1実施形態は、本発明に係るデキストラングルカナーゼをα-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群より選択される基質と接触させることで、α-グルコシド結合を分解(加水分解)する方法である。本発明に係るデキストラングルカナーゼのα-グルコシド結合分解活性に基づき、基質のα-グルコシド結合を分解し、当該基質からα-グルコシド結合分解産物を得ることができる。ここで、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖としては、例えばコージビオース(グルコースがα-1,2結合したオリゴ糖);ニゲロース(グルコースがα-1,3結合したオリゴ糖);マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース等のマルトオリゴ糖(グルコースがα-1,4結合したオリゴ糖);イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース、イソマルトヘプタオース等のイソマルトオリゴ糖(グルコースがα-1,6結合したオリゴ糖);パノース(グルコースがα-1,4結合とα-1,6結合により連なったオリゴ糖);ニゲロオリゴ糖(分子内にα-1,3グルコシド結合を1個以上もっているオリゴ糖);コージオリゴ糖(分子内にα-1,2グルコシド結合を1個以上もっているオリゴ糖);アルタナンオリゴ糖(α-1,3グルコシド結合とα-1,6グルコシド結合が交互に連なったオリゴ糖)等が挙げられる。α-グルカンとしては、例えばデンプン、デキストラン、プルラン、アルタナン、ムタン、グリコーゲン、ロイテラン等が挙げられる。また、これらの分解物としては、例えばデキストリン、及び上記のα-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルコシド結合を有するメガロ糖(メガロ糖とは、グルコースの重合度が10以上100程度までの糖類をいう)が挙げられる。さらに、基質からα-グルコシド結合分解により得られる分解産物としては、基質に応じて異なるが、例えば上記のデキストリン、及びα-グルコシド結合を有するオリゴ糖やメガロ糖が挙げられる。
本発明に係る方法の第1実施形態においては、本発明に係るデキストラングルカナーゼは、例えば1〜1,000g(好ましくは10〜100g)の基質に対して、0.02〜50ユニット(好ましくは0.5〜5ユニット)添加し、反応させる。反応条件としては、例えば温度25〜55℃(好ましくは35〜50℃)、pH5.0〜9.0(好ましくはpH5.5〜6.5)及び反応時間0.5〜50時間(好ましくは1〜6時間)が挙げられる。なお、本発明に係るデキストラングルカナーゼの酵素単位1ユニットは、例えば、酵素1ユニット=37℃及びpH6の条件下で2%のマルトテトラオースから1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量として規定できる。
本発明に係る方法の第2実施形態は、本発明に係るデキストラングルカナーゼを、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群より選択される基質と接触させることで、α-グルコシド結合分解反応及びグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を行い、イソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランから成る群より選択される糖を製造する方法である。本発明に係るデキストラングルカナーゼのα-グルコシド結合分解活性及びグルコースをα-1,6結合で転移伸長する不均化反応を触媒する活性に基づき、基質に応じてイソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランから成る群より選択される糖を製造することができる。本発明に係る方法の第2実施形態における基質及び反応条件は、上述の本発明に係る方法の第1実施形態に準じたものとすることができる。また、得られるイソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランは、基質に応じて異なるが、得られるイソマルトシルオリゴ糖としては、例えばイソマルトシルマルトース、イソマルトシルマルトトリオース、イソマルトシルマルトテトラオース、イソマルトシルマルトペンタオース、イソマルトシルマルトヘキサオース、イソマルトシルマルトヘプタオース、イソマルトトリオシルマルトース、イソマルトトリオシルマルトトリオース、イソマルトトリオシルマルトテトラオース、イソマルトトリオシルマルトペンタオース、イソマルトトリオシルマルトヘキサオース、イソマルトテトラシルマルトース、イソマルトテトラシルマルトトリオース、イソマルトテトラシルマルトテトラオース、イソマルトテトラシルマルトペンタオース、イソマルトペンタシルマルトース、イソマルトペンタシルマルトトリオース、イソマルトペンタシルマルトテトラオース、イソマルトヘキサシルマルトース、イソマルトヘキサシルマルトトリオース、イソマルトヘプタシルマルトース、イソマルトシルニゲロース、イソマルトトリオシルニゲロース、イソマルトテトラシルニゲロース、イソマルトシルコージビオース、イソマルトトリオシルコージビオース、イソマルトテトラシルコージビオース、イソマルトシルアルタナンオリゴ糖、イソマルトトリオシルアルタナンオリゴ糖、イソマルトテトラシルアルタナンオリゴ糖等が挙げられる。得られるイソマルトシルグルカンとしては、例えばイソマルトシルデキストリン、イソマルトシルムタン、イソマルトシルアルタナン、イソマルトシルグリコーゲン、イソマルトシルロイテラン、イソマルトシルプルラン等が挙げられる。得られるイソマルトオリゴ糖としては、例えばイソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース、イソマルトヘプタオース、イソマルトオクタオース、イソマルトノナオース等が挙げられる。得られるデキストランとしては、例えばデキストラン10、デキストラン20、デキストラン40、デキストラン70、デキストラン100、デキストラン250、デキストラン500、デキストラン1000等が挙げられる。
本発明に係る方法の第3実施形態は、本発明に係るデキストラングルカナーゼ及びサイクロデキストラン合成酵素を、デンプン又はその分解物と接触させることで、サイクロデキストランを製造する方法である。本発明に係るデキストラングルカナーゼの活性により当該デンプン又はその分解物からサイクロデキストラン合成酵素の基質となるα-1,6グルコース鎖を生成し、さらにサイクロデキストラン合成酵素の活性により当該α-1,6グルコース鎖からサイクロデキストランを製造することができる。
使用するサイクロデキストラン合成酵素としては、例えば特開2007-189905号に開示のパエニバチルス・エスピー598K株由来の組換えサイクロデキストラン合成酵素若しくはパエニバチルス・エスピー598K株培養液中の天然のサイクロデキストラン合成酵素、特許第3117328号公報に開示のバチルス・サーキュランスT-3040(FERM BP-4132)株培養液中の天然のサイクロデキストラン合成酵素、特許第3429569号公報に開示のT-3040株由来の組換えサイクロデキストラン合成酵素、特許第3487711号公報に開示のバチルス・サーキュランスU-155株(FERM P-15491)由来の組換えサイクロデキストラン合成酵素等が挙げられる。
また、使用する基質であるデンプンの分解物としては、例えばデキストリン、マルトオリゴ糖(マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース等)、パノース、イソマルトオリゴ糖(イソマルトース、イソマルトトリオース等)等が挙げられる。さらに、得られるサイクロデキストランとしては、例えばグルコース7分子〜17分子がα-1,6結合により環状構造を形成したサイクロデキストラン(CI-7〜CI-17)が挙げられ、特に、グルコース7分子〜12分子のグルコースがα-1,6結合により環状構造を形成したサイクロデキストラン(CI-7〜CI-12)が挙げられる。
本発明に係る方法の第3実施形態においては、本発明に係るデキストラングルカナーゼは、例えば1〜1,000g(好ましくは10〜100g)の基質(デンプン又はその分解物)に対して、0.02〜50ユニット(好ましくは0.5〜5ユニット)添加する。また、サイクロデキストラン合成酵素は、例えば1〜1,000g(好ましくは10〜100g)の基質(デンプン又はその分解物)に対して、0.02〜50ユニット(好ましくは0.5〜5ユニット)添加し、反応させる。反応条件としては、例えば温度25〜50℃(好ましくは35〜45℃)、pH5.0〜9.0(好ましくはpH5.5〜6.5)及び反応時間12〜48時間(好ましくは10〜24時間)が挙げられる。なお、サイクロデキストラン合成酵素の酵素単位1ユニットは、例えば、酵素1ユニット=40℃及びpH5.5の条件下で2%のデキストラン40から1分間に1μmolの環状イソマルトオリゴ糖(CI-7、CI-8及びCI-9の総和)を遊離する酵素量として規定できる。
本発明に係る方法の第3実施形態においては、デンプン又はその分解物に対して、本発明に係るデキストラングルカナーゼとサイクロデキストラン合成酵素を同時に反応させても、又は本発明に係るデキストラングルカナーゼ、サイクロデキストラン合成酵素の順に反応させてもよい。
以上に説明する本発明に係る方法において反応後の反応液は、そのまま糖として使用してもよく、あるいは当該反応液を公知の抽出や精製技術(例えば、遠心分離、透析、クロマトグラフィー等)に供し、抽出、精製することで得られた糖を使用することができる。
以上のように、本発明に係るデキストラングルカナーゼによれば、デンプン、その他のα−グルカン及びそれらの分解物を加水分解すると同時にα-1,6転移反応、さらに不均化反応により、イソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、長鎖のイソマルトオリゴ糖及びデキストランを生産することができる。さらに、本発明に係るデキストラングルカナーゼとサイクロデキストラン合成酵素の双方を作用させることによりデンプン及びその分解物からサイクロデキストランを生産することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕デキストラングルカナーゼ及びデキストラングルカナーゼをコードする遺伝子の単離
パエニバチルス属菌を0.2〜10%のデキストランやデンプン及びこれらα-グルカンの分解物であるデキストリン等を炭素源として培養し、培養液をイオン交換カラムクロマトグラフィー等によって分画し、これにCITaseを加えることによってデンプンからCIを合成する活性を有するタンパク質を得た。
具体的な酵素の調製は、特開2007-189905号公報に記載の方法に準じて行い、パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)598K株(FERM P-19604)を培養し、カラム分画することによって得た。
50mMリン酸二ナトリウム、50mMリン酸一カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.002%塩化カルシウム、0.002%塩化マンガン、0.002%硫酸鉄、0.1%酵母エキス、0.1〜2%のα-グルカン(好ましくは0.5%のデキストラン又はデンプン)及び0.4%塩化アンモニウムから成る50mlの液体培地に、パエニバチルス・エスピー598K株の保存菌株を一白金耳植菌し、30℃で150rpmにおいて4日間振盪培養を行った。
次いで、振盪培養後、遠心分離(10,000×g、20分間、4℃)により上清を回収し、回収した上清を20mM Tris-HCl(pH8.5)に対して一晩透析した。透析後の溶液をResourace Q(1ml)(アマシャム・ファルマシア社製)に供し、A緩衝液(20mM Tris-HCl(pH8.5)、15mM NaCl)及びB緩衝液(20mM Tris-HCl(pH8.5)、1M NaCl)の0〜60%直線濃度勾配によって、流速0.5ml/分で、48分間溶出した。
図1に示すように、CITaseがピーク2に溶出した。さらに、デキストランの代わりにデンプンを加えて反応させるとピーク1にわずかにCIを生産する活性が検出された。ピーク1に、さらにピーク2の中で最もCITase活性の高いフラクションE1を加えてデンプンで反応させるとCIの生産量が高まった。ピーク1は、CITaseと共同でデンプンからCIを合成する酵素であり、これをデキストラングルカナーゼ(DGase)と名付けた。
上述のピーク1を集めて、もう一度同じ条件下でResourace Qカラムクロマトグラフィーを行い、DGaseを精製タンパク質として回収した。DGaseは、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で約130kDaの大きさのタンパク質であった。
上述のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で検出された130kDaのDGaseタンパク質バンドを、PVDF膜に転写し、ペプチドシークエンサーでアミノ末端配列を分析した結果、DGaseのアミノ末端配列が配列番号1に示すアミノ酸配列であることが明らかになった。
特開2007-189905号公報に記載のパエニバチルス・エスピー598K株のゲノムDNAよりDGase遺伝子の一部を含むHindIII断片を抽出し、該DNA塩基配列を解読した。さらに、インバースPCR法でDGase遺伝子の全長を解読した。その結果、配列番号2に示すDGaseタンパク質をコードする遺伝子を含むDNA塩基配列を得た。
配列番号2に示すDNA塩基配列からコードされるタンパク質の推定アミノ酸配列を配列番号3に示す。配列番号1に示すアミノ酸配列と全く同一の配列を、配列番号3に示すアミノ酸配列において41番目〜63番目のアミノ酸配列に見出した。従って、配列番号2に示すDNA塩基配列はDGase遺伝子を含む塩基配列であり、配列番号3に示すアミノ酸配列から成るタンパク質は、パエニバチルス・エスピー598K株の培養液中に見出されるDGaseである。また、DGaseのアミノ末端は配列番号3に示すアミノ酸配列における41番目のAla残基であり、配列番号3に示すアミノ酸配列における40番目のAla残基からN末端側はシグナル配列であった。
〔実施例2〕デキストラングルカナーゼの活性
2-1.組換えデキストラングルカナーゼの生産
配列番号2に示す塩基配列からDGaseのシグナル配列(配列番号3に示すアミノ酸配列における1番目〜40番目のアミノ酸配列)に相当する塩基配列を取り除いたDNA断片を、定法により発現用ベクターに組み込んだ。
具体的には、PCR法で制限酵素Nde I/BamH I切断部位を、DGaseをコードするDNA断片に導入し、同制限酵素で切断した。得られた断片を、発現用ベクターpET15b(Novagen社製)に組み込み、得られたベクターをpDGA598と名付けた。
pDGA598を大腸菌BL21(DE3)中で発現させた。具体的には、pDGA598溶液を大腸菌BL21(DE3)に導入し、得られた形質転換体を、アンピシリン50〜200μg/mlを含むLB平板培地に塗抹し、37℃で9時間〜12時間培養した。
上記平板培地に生育した1コロニーを、アンピシリン50〜200μg/mlを含む10mlのLB液体培地に接種し、37℃で一晩振盪培養した。一晩振盪培養後、培養物を1000mlの同様の培地に接種し、37℃で振盪培養し、600nmの吸光度が0.4〜0.9(望ましくは0.5前後)に達したとき、培養液の入ったフラスコを氷水で冷却し、直ちにイソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド(以下、「IPTG」と略記する場合がある)(ワコー社製)を0.5mMとなるように加え、さらに20℃で22時間培養を続け、タンパク質の生産誘導を行った。
培養終了後、培養物を遠心分離することにより菌体を沈殿として回収した。続いて、回収した菌体を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波によって細胞破砕した。細胞破砕後、遠心分離(15,000×g、20分間、4℃)により上清を回収した。回収した上清を20mM Tris-HCl(pH8.0)に対して一晩透析したものを、粗酵素液とした。以下では、当該酵素液を組換えDGaseとして使用した。
なお、粗酵素液を、実施例1に記載のResourace Qカラムクロマトグラフィーを使用する方法によって精製してもよい。あるいは、得られた組換えDGaseは、アミノ末端に(His)6-タグを有し、例えばニッケルキレートカラム(GEヘルスケア社製HiTrap Chelating HP等)で、吸着バッファーとして50mMリン酸ナトリウム及び0.5M塩化ナトリウム(pH7.0)から成るバッファーを、溶出バッファーとして50mMリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム及び0.5Mイミダゾール(pH8.9)から成るバッファーを用いて精製することができる。
2-2.組換えデキストラングルカナーゼと様々なオリゴ糖との反応
得られた組換えDGaseを、様々なオリゴ糖(オリゴ糖を2%の濃度で含有する50mMトリス-マレイン酸(pH6.0))と40℃で反応させ、薄層クロマトグラフィーで反応生成物を分離した。結果を図2〜4に示す。
図2に示すように、組換えDGaseは、α-1,4結合のグルコースより成るマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースを基質として酵素反応を行い、分解物と分子量の大きな糖産物を生産した。図2における左側から3本のレーンは糖のスタンダードサンプルである。また、図2〜4において、G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、IG2、IG3、IG4、IG5、IG6及びIG7は、順にグルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、イソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース及びイソマルトヘプタオースである。
また、図3に示すように、組換えDGaseは、α-1,6結合のグルコースより成るイソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース、イソマルトヘプタオース、及びα-1,4結合とα-1,6結合のグルコースより成るパノースを基質として酵素反応を行い、分解物と分子量の大きな糖産物を生産した。
さらに、図4に示すように、組換えDGaseは、α-1,2結合のグルコースより成るコージビオースとα-1,3結合のグルコースより成るニゲロースを基質として酵素反応を行い、分解物と分子量の大きな糖産物を生産した。
このように、図2〜4より、組換えDGaseは、α結合したグルコースより成るオリゴ糖を不均化して分解物と、転移高分子産物を生産する酵素であることが分かった。なお、DGaseの至適pHは6.0で、至適温度は50℃であった。さらに、実施例1においてパエニバチルス・エスピー598K株培養液から調製した天然のDGaseも組換えDGaseと同様の活性を有した。
2-3.組換えデキストラングルカナーゼとマルトテトラオースの反応
組換えDGaseを、マルトテトラオース(G4)(2%の濃度で含有する50mMトリス-マレイン酸(pH6.0))と40℃で反応させ、反応液を、高速液体クロマトグラフ(HPLC、島津社製)、蒸発光散乱検出器(ELSD-LT、島津社製)及びAmide-80カラム(4.6×250mm、Tosoh社製)で、アセトニトリル:水=55:45、流速1ml/minで測定した。結果を図5に示す。
図5Aは、グルコース及びマルトオリゴ糖の標準品のHPLC分析の結果を示し、G1、G2、G3、G4、G5、G6及びG7は順にグルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース及びマルトヘプタオースである。
図5Bに示すように、G4にDGaseを加えると、G1、G2、G3と同じ保持時間に溶出するG4よりも低分子のピークとG5、G6、G7と異なる保持時間に溶出するG4よりも高分子のピークが検出された。
また、図5Cに示すように、G4にDGaseを加えた反応液にペニシリウム・エスピー由来デキストラナーゼ(シグマ社製)を作用させてα-1,6グルコシド結合を分解すると、G4よりも後に溶出するピークが小さくなった。このことからG4よりも後に溶出する酵素反応生成物にはα-1,6結合したグルコースが含まれていることが示唆された。
さらに、図5Dに示すように、G4にDGaseを加えた反応液に多分岐デキストラン水解酵素(デキストラン、分岐デキストラン、及びα-グルコシド結合から成る直鎖のオリゴ糖に作用し、グルコースを遊離する酵素;「HBDase」と省略する)(特許第3607789号公報)を作用させると、グルコースよりも後に溶出するピークが小さくなり、特に高分子のピークはほとんど消失した。このことから酵素反応生成物はα-結合したグルコースより構成されることが示唆された。
また、図5Eに示すように、G4にDGaseを加えた反応液にブタ膵臓由来αアミラーゼ(シグマ社製;「PPA」と省略する)を作用させてもピークは消失しなかった。このことからG4を基質とした酵素反応生成物は、α-1,4結合でグルコースが複数連結したマルトオリゴ糖構造ではないことが示唆された。
2-4.組換えデキストラングルカナーゼとイソマルトテトラオースの反応
組換えDGaseを、イソマルトテトラオース(IG4)(2%の濃度で含有する50mMトリス-マレイン酸(pH6.0))と40℃で反応させ、反応液をHPLC(島津社製)、ELSD-LT検出器(島津社製)及びAmide-80カラム(4.6×250mm、Tosoh社製)で、アセトニトリル:水=55:45、流速1ml/minで測定した。結果を図6に示す。
図6Aは、イソマルトオリゴ糖の標準品のHPLC分析の結果を示し、IG2、IG3、IG4、IG5、IG6及びIG7は、順にイソマルトース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、イソマルトペンタオース、イソマルトヘキサオース及びイソマルトヘプタオースである。
図6Bに示すように、IG4にDGaseを加えると、グルコース及びIG2、IG3、IG4、IG5、IG6、IG7と同じ保持時間に溶出するピークとこれよりも高分子のピークが検出された。
また、図6Cに示すように、IG4にDGaseを加えた反応液にデキストラナーゼを作用させてα-1,6グルコシド結合を分解すると、ほとんどグルコースとIG2に分解された。このことから、DGaseはIG4にα-1,6結合でグルコースを転移し、イソマルトオリゴ糖及びα-1,6結合グルコースポリマー(デキストラン)のみ生成することが示唆された。
さらに、図6Dに示すように、IG4にDGaseを加えた反応液にHBDaseを作用させると、IG2は残存しているが大部分がグルコースに分解された。このことから、酵素反応生成物はα-結合したグルコースより構成されることが示唆された。
また、図6Eに示すように、IG4にDGaseを加えた反応液にブタ膵臓由来αアミラーゼ(シグマ社製)を作用させても全く分解しなかった。このことから、酵素反応生成物はα-1,4結合でグルコースが複数連結した構造ではないことが示唆された。
2-5.組換えデキストラングルカナーゼとパノースの反応
組換えDGaseを、パノース(2%の濃度で含有する50mMトリス-マレイン酸(pH6.0))と40℃で反応させ、反応液を、HPLC(島津社製)、ELSD-LT検出器(島津社製)及びAmide-80カラム(4.6×250mm、Tosoh社製)で、アセトニトリル:水=55:45、流速1ml/minで測定した。結果を図7に示す。
図7Aは、パノースの標準品のHPLC分析の結果を示す。
図7Bに示すように、パノースにDGaseを加えると、パノースよりも低分子のピークと高分子のピークが検出された。
また、図7Cに示すように、パノースにDGaseを加えた反応液にデキストラナーゼを作用させてα-1,6グルコシド結合を分解すると、高分子のピークは消失した。このことから高分子の酵素反応生成物はα-1,6グルコシド結合を含むことが示唆された。
さらに、図7Dに示すように、パノースにDGaseを加えた反応液にHBDaseを作用させると、IG2は残存しているが大部分がグルコースに分解された。このことから酵素反応生成物はα-結合したグルコースより構成されることが示唆された。
また、図7Eに示すように、パノースにDGaseを加えた反応液にブタ膵臓由来αアミラーゼ(シグマ社製)を作用させても全く分解しなかった。このことから、酵素反応生成物はα-1,4結合でグルコースが複数連結した構造を持たないことが示唆された。
2-6.組換えデキストラングルカナーゼとマルトテトラオースの反応における反応初期生産物の分析
組換えDGaseを、マルトテトラオース(G4)(2%の濃度で含有する50mMトリス-マレイン酸(pH6.0))と40℃で反応させ、反応初期の反応液を、HPLC(島津社製)、ELSD-LT検出器(島津社製)及びAmide-80カラム(4.6×250mm、Tosoh社製)で、アセトニトリル:水=55:45、流速1ml/minで測定した。結果を図8に示す。なお、組換えDGaseに代えて、実施例1においてパエニバチルス・エスピー598K株培養液から調製した天然のDGaseを使用しても、同様の結果が得られた。
次いで、図8に示すピークA、ピークB及びピークCに溶出するオリゴ糖を分取した。ピークA、ピークB及びピークCの各々に溶出するオリゴ糖を、HPLC(島津社製)及びAmide-80カラム(21.5×300mm、Tosoh社製)で、アセトニトリル:水=55:45、流速5ml/minで分離及び分取し、それぞれ減圧濃縮し、さらに凍結乾燥した。
また、調製したピークA、ピークB及びピークCの各サンプルをFT-MSで質量分析した結果、デガティブイオンモードで、ピークAは503.1607、ピークBは665.2135、ピークCは827.2663となり、それぞれグルコース3分子、4分子、5分子から成る直鎖のオリゴ糖と同一の分子量であることが明らかになった。
さらに、ピークA、ピークB及びピークCの各サンプルを重水に溶解し、Bruker社製AVANCE500で13C NMR分析を行った。基準物質として、3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)を用いた。結果を図9に示す。
図9に示すように、13C NMR分析の結果、ピークAサンプルにおいては、マルトトリオースと同じシグナルを検出した。HPLCの溶出位置及び質量分析結果と13C NMR分析値がマルトトリオースと一致したので、ピークAの化合物は基質として用いたマルトテトラオースよりもグルコースが1個少なくなったマルトトリオースであると推定された。
また、ピークBサンプルにおいては、マルトテトラオースと同じシグナルを検出した。HPLCの溶出位置及び質量分析結果と13C NMR分析値がマルトテトラオースと一致したので、ピークBの化合物は基質として用いたマルトテトラオースであると推定された。
一方、ピークCサンプルにおいては、マルトペンタオースとは異なるシグナルが検出され、特に、マルトペンタオースには検出されない6位の炭素が結合したグルコピラノースの1位の炭素及び6位の炭素を示すシグナルが検出された。よって、ピークCの化合物は、HPLCの溶出位置、質量分析結果及び13C NMR分析結果より、基質のマルトテトラオースよりも1個グルコースが多く、α-1,6結合を有していることが示唆された。すなわち、DGaseは、α-結合したグルコースを分解すると同時に新たにグルコース分岐をα-1,6結合で導入する不均化酵素であると推定できた。
以上の結果から、DGaseは、マルトオリゴ糖やパノースを分解すると同時に、新たにα-1,6結合でグルコースを転移導入し、伸長してイソマルトシルオリゴ糖を生産することができる。また、DGaseは、イソマルトオリゴ糖を分解すると同時に、新たにα-1,6結合でグルコースを転移導入し、伸長してより長鎖のイソマルトオリゴ糖を生産することができる。さらに、基質オリゴ糖としてグルコースの重合度の大きい高分子のものを用いた場合、図2に示すように、マルトテトラオース及びそれ以上の高分子から薄層クロマトグラフィーで原点から動かない高分子のイソマルトシルグルカンを生産することができ、また図3に示すように、イソマルトペンタオース及びそれ以上の高分子から薄層クロマトグラフィーで原点から動かない高分子のデキストランを生産することができる。
〔実施例3〕デキストラングルカナーゼと環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼを用いたサイクロデキストランの合成
本実施例は、実施例2で作製した組換えDGaseとCITaseを用いてデンプンやマルトオリゴ糖からCIを合成することができることを示す。なお、組換えDGaseに代えて、実施例1においてパエニバチルス・エスピー598K株培養液から調製した天然のDGaseを使用することもできる。一方、CITaseとしては、例えば特開2007-189905号に開示のパエニバチルス・エスピー598K株由来の組換えCITase若しくはパエニバチルス・エスピー598K株培養液中の天然のCITase、特許第3117328号公報に開示のバチルス・サーキュランスT-3040(FERM BP-4132)株培養液中の天然のCITase、特許第3429569号公報に開示のT-3040株由来の組換えCITase及び特許第3487711号公報に開示のバチルス・サーキュランスU-155株(FERM P-15491)由来の組換えCITaseが挙げられるが、本実施例では、特許第3429569号に開示のバチルス・サーキュランスT-3040株由来の組換えCITaseを使用した。
実施例2で作製した組換えDGase及びCITaseを、デンプン(松谷化学社製マツノリンM-22)又はマルトヘキサオース(G6)(2%の濃度で含有する50mMトリス-マレイン酸(pH6.0))と、40℃で反応させた。100℃(10分)に供することで反応を止めた後に、反応液を室温まで冷却し、さらにHBDaseを加えて40℃でマルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖及びイソマルトシルオリゴ糖を分解処理した。
得られた反応液を、HPLC(島津社製)、ELSD-LT検出器(島津社製)及びAmide-80カラム(4.6×250mm、Tosoh社製)で、アセトニトリル:水=55:45、流速1ml/minで測定した。結果を図10に示す。
図10Aは、CIスタンダードサンプルのHPLC分析結果を示す。図10において、CI-7、CI-8、CI-9、CI-10、CI-11及びCI-12は、順に7分子、8分子、9分子、10分子、11分子、12分子のグルコースがα-1,6結合でつながった環状オリゴ糖である。
図10B及びDに示すように、CITaseのみではサイクロデキストランの生産はみられなかった。
一方、図10Cに示すように、CITaseとDGaseを同時に加えるとデンプンからサイクロデキストランが生産された。また、図10Eに示すように、CITaseとDGaseを同時に加えるとマルトオリゴ糖G6からサイクロデキストランを生産することができた。
以上の結果は、DGaseによってCITaseの基質となるα-1,6グルコース鎖を、マルトオリゴ糖だけでなくデンプンからも生成することを示唆し、DGaseがデンプンを基質としてイソマルトシルオリゴ糖又はイソマルトシルグルカンを生産できることを示している。

Claims (7)

  1. 以下の(a)〜(c)のいずれか1つのタンパク質から成るデキストラングルカナーゼ。
    (a)配列番号3に示されるアミノ酸配列から成るタンパク質
    (b)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1〜40番目のアミノ酸を欠失したアミノ酸配列から成るタンパク質
    (c)(a)又は(b)のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つデキストラングルカナーゼ活性を有するタンパク質
  2. 請求項1記載のデキストラングルカナーゼをコードする遺伝子。
  3. 請求項2記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  4. 請求項3記載の組換えベクターを有する形質転換体。
  5. 請求項1記載のデキストラングルカナーゼを、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群から選択される基質と接触させる工程を含む、α-グルコシド結合を分解する方法。
  6. 請求項1記載のデキストラングルカナーゼを、α-グルコシド結合を有するオリゴ糖、α-グルカン及びその分解物から成る群より選択される基質と接触させる工程を含む、イソマルトシルオリゴ糖、イソマルトシルグルカン、イソマルトオリゴ糖及びデキストランから成る群より選択される糖を製造する方法。
  7. 請求項1記載のデキストラングルカナーゼ及びサイクロデキストラン合成酵素を、デンプン又はその分解物と接触させる工程を含む、サイクロデキストランを製造する方法。
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