JP2012088241A - Pc鋼材の遅れ破壊特性評価方法 - Google Patents

Pc鋼材の遅れ破壊特性評価方法 Download PDF

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【課題】実際の鋼材の遅れ破壊の評価結果が実態と一致し、簡便かつ迅速に評価可能な、PC鋼材の遅れ破壊特性評価方法を提供する。
【解決手段】試験片を試験溶液に浸漬し、前記試験片に一定の荷重を負荷して破断荷重を測定する遅れ破壊特性評価方法において、前記試験溶液は、Clイオン濃度:0.1〜1.0g/l、SO4イオン濃度:0.5〜10g/l、SCNイオン濃度:0.1〜3g/lを含み、温度が45〜55℃、pHが6.5〜7.2、比液量が5〜30ml/cm2であり、表面にノッチを形成した試験片を試験溶液に浸漬し、試験期間中試験溶液と大気を遮断するとともに前記試験片に一定の荷重を負荷し、予め定めた限界時間まで破断が発生しない耐破断限界荷重を測定し、該耐破断限界荷重と平滑試験片の大気中での破断荷重との比を求めて限界荷重比とすることを特徴とするPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
【選択図】図4

Description

本発明は、各種コンクリート構造物の補強材として使用されるPC鋼材の遅れ破壊特性を評価する方法に関するものである。
コンクリートポールやコンクリート杭に代表されるコンクリート製品には、PC(プレストレストコンクリート)鋼材が補強材として用いられる。PC鋼材には、熱処理によって製造されるJIS G 3137の「細径異形PC鋼棒」、冷間加工によって製造されるJIS G 3538の「PC硬鋼線」がある。細径異形PC鋼棒は、引張強さが1420MPa以上のものが規格化されており、PC硬鋼線では、引張り強さが最大1740MPaまでの高強度材が規格化されている。なお、本発明ではPC鋼棒、PC硬鋼線を総称してPC鋼材と呼ぶ。
このような高強度のPC鋼材に引張り力が作用し、長期間、使用環境に晒された場合、コンクリート中であっても、いわゆる遅れ破壊が発生することがある。PC鋼材の遅れ破壊は、亀裂等からコンクリート内に雨水が浸入してPC鋼材の表面の腐食が進行し、これに伴ってPC鋼材中に水素が浸入し、破断に至る現象である。このようなPC鋼材の遅れ破壊は、設置後数年から数十年を経て発生することがある。
一般に、腐食現象は環境によって大きく変化する。したがって、遅れ破壊特性を正確に評価するためには、実際に使用される環境に、使用状態と同等の応力が負荷された試験体を暴露して、破断の発生の有無を見極めることが望ましい。しかし、暴露試験では、遅れ破壊が発生するまでに、数十年も要することから、促進試験による評価が一般的である。例えば、PC鋼材の遅れ破壊特性は、FIP(国際プレストレストコンクリート協会)の基準による評価方法(以下FIP試験と記す)が採用されている。
FIP試験は、質量%で20%濃度のNH4SCN水溶液を50℃±1℃に加熱し、溶液中にサンプルを浸漬して破断荷重の0.7〜0.8倍の一定荷重を負荷し、破断時間を測定して、耐遅れ破壊特性を評価する方法である。しかし、FIP試験では、鋼材中に浸入する水素量が短時間で数ppmにまで達するような条件を採用しており、破壊が200時間程度で発生する。したがって、FIP試験の腐食環境は非常に厳しく、数十年を経て、鋼材が破断に至るような水素が鋼材中に導入されるような実環境での耐遅れ破壊特性が正確に評価できるかどうか、疑問である。
一方、遅れ破壊発生の原因と考えられている鋼材中の水素量を基準として、鋼材に水素をチャージし、一定荷重を負荷した状態で破断しない水素量を基に遅れ破壊特性を評価する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。しかし、この方法では、鋼材の水素測定を行うための水素分析装置が必要となる。さらに試験中に水素の散逸を防止するために鋼材表面にめっき層を形成する等の処理が必要であり、簡便に遅れ破壊特性を評価するには費用、作業の点で課題がある。
特許文献1には実環境に近い条件でのボルトの遅れ破壊試験方法が示されている。この方法は使用環境と同一の条件で遅れ破壊試験を行うための治具が提案されている。しかし、このように実環境に近い状態で遅れ破壊試験を行う場合、破断時間は4000〜7000時間にも達し、試験結果を得るのに時間がかかり、結果を迅速に得られないという問題がある。
特開2007−199024号公報
CAMPISIJ VOL.7(1994) 1594−1597
従来の遅れ破壊評価方法は、FIP試験のように全く実環境と異なる条件であったり、評価するために専門の装置が必要であったり、評価時間が非常に長くなる等の問題があった。さらに、評価試験方法によって優劣が異なるという結果が得られたり、遅れ破壊の実体と評価結果が一致していないことがあるなど、評価の信頼性が低いという問題があった。そこで、実環境に晒された場合の遅れ破壊特性の評価と同等の結果が得られ、かつ短時間で評価可能な遅れ破壊評価方法の開発が要求されている。
本発明は、このような実情に鑑み、実際の鋼材の遅れ破壊の評価結果が実態と一致し、簡便かつ迅速に評価可能な、PC鋼材の遅れ破壊特性評価方法を提供するものである。
本発明は、PC鋼材への浸入水素量と、試験溶液の成分、pH、温度、比液量の影響および試験片の形状などの破断促進条件と評価基準について詳細に検討を行い、得られた知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)一定の荷重を負荷した試験片を試験溶液に浸漬して遅れ破壊特性を評価するPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記試験溶液は、Clイオン濃度:0.1〜1.0g/l、SO4イオン濃度:0.5〜10g/l、SCNイオン濃度:0.1〜3g/lを含み、温度が45〜55℃、pHが6.5〜7.2であり、表面にノッチを形成した試験片を試験溶液に浸漬し、試験溶液の容量を試験溶液に接触している試験片の表面積で除した比液量を5〜30ml/cm2とし、試験期間中試験溶液と大気を遮断するとともに前記試験片に一定の荷重を負荷し、予め定めた限界時間まで破断が発生しない耐破断限界荷重を測定し、該耐破断限界荷重と平滑試験片の大気中での破断荷重との比を求めて限界荷重比とすることを特徴とするPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
(2)前記試験片のノッチの最大深さが0.2〜0.5mmであることを特徴とする(1)に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
(3)前記予め定めた限界時間を200時間以上とすることを特徴とする(1)又は(2)に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
本発明によれば、実環境に近い条件の浸入水素量を鋼材に導入し、短時間で遅れ破壊特性の評価が可能で、実製品の破断実態と遅れ破壊特性の評価結果が一致し、簡便かつ短時間でPC鋼材の遅れ破壊の評価が可能となり実際のコンクリート製品の破損を予測できるために産業上の貢献が極めて顕著である。
試験溶液のpH別の鋼材への水素浸入特性の関係図 遅れ破壊破断時間とノッチ深さの関係図 限界拡散性水素量と遅れ破壊破断時間の関係 限界拡散性水素量と遅れ破壊限界破断荷重の関係 試験溶液pHの経時変化 本遅れ破壊試験容器の構造例
PC鋼材の遅れ破壊は、コンクリート製品の補強材として使用され、緊張力が作用しているPC鋼材が、一定時間を経た時点で突然破断する現象である。その原因として、コンクリート製品のひび割れ部を通して雨水が浸透し、局部的に鋼材表面に腐食が発生して、PC鋼材に水素が浸入することが挙げられる。時間の経過にともない水素量が増加すると、PC鋼材が脆化し、破断に至ると考えられる。また、PC鋼材の強度が高いほど遅れ破壊感受性は高くなる。
一般に、腐食が原因となる現象については、暴露試験による評価が最も現実的であり、信頼性のある方法である。しかし、暴露試験では、PC鋼材が破断するまでに数十年もかかってしまう。一方、FIP試験に代表される促進試験では、短時間でPC鋼材が破断に至るものの、実環境から侵入する水素量に比べて多量の水素が鋼中に侵入してしまう。
したがって、PC鋼材の遅れ破壊特性を精度よく、かつ効率的に評価するためには、試験片に侵入する水素量が、短時間で、実際に使用される環境から鋼中に侵入する水素量と同等になり、かつ、その後は増加しないことが必要になる。本発明では、PC鋼材に浸入する水素量が、実使用環境から侵入する水素量にほぼ近い値となるように、試験溶液の条件を適正化した。
鋼材に侵入する水素量及び鋼材の腐食に大きく影響する重要な要因は、試験溶液のpHである。pHが低い場合は鋼中への水素侵入量が増加し、pHが高くなると腐食が抑制されて、鋼中への水素の侵入が抑制される。本発明者らは、Clイオン濃度:0.2g/l、SO4イオン濃度:3g/l、SCNイオン濃度:0.8g/lとし、さらにNaOH水溶液で試験溶液のpHを変化させた試験溶液に鋼材を浸漬し、水素浸入量を測定した。その結果の一例を図1に示す。図1に示すように、溶液pHが5程度では100h経過後もさらに鋼材中への水素の浸入が増加し、実環境での水素侵入状況を再現できないことがわかった。一方、pHを8程度まで増加すると、鋼材への水素浸入が著しく減少し、鋼材が遅れ破壊せず、評価不可能となる。なお、実環境での水素侵入量は0.1〜0.4ppm程度である。
以下、耐遅れ破壊評価方法を検討して図2〜5に示す評価結果を得るに際し、試験溶液として、Clイオン濃度:0.2g/l、SO4イオン濃度:3g/l、SCNイオン濃度:0.8g/lとし、さらにNaOH水溶液でpHを6.9に調整した試験溶液を使用して試験を行った。
破断促進するには負荷荷重を増すか、表面に何らかの欠陥を形成する方法が考えられる。本発明者らは、PC鋼材の遅れ破壊が、比較的、マイルドな腐食環境でも発生することから、PC鋼材の表面に何らかの欠陥が発生しており、少量の水素の侵入によってPC鋼材が破断すると考えた。そこで、本発明者らは、実際にコンクリート構造物からPC鋼材を取り出し、その表面を詳細に観察した。その結果、表面に孔食状の欠陥が形成され、破断に至ることが確認された。
そこで、実環境の腐食に近い状態を模擬するため、実際の腐食の影響を再現するように、試験片の表面にノッチを形成し、応力集中により破断を促進することにした。ノッチの深さは、応力状態を変化させ、遅れ破壊が発生する水素量に影響を及ぼす重要な因子である。
機械加工で0.1〜0.6mmの深さのVノッチを試験片に形成し、負荷荷重を変えて遅れ破壊が発生するまでの時間を測定した。なお、Vノッチは引張り荷重に対して直角方向に形成した。破断時間とノッチ深さの関係の一例を図2に示す。図2に示すように、ノッチが深い場合は破断時間が短くなり、試験時間を短縮でき、効率的であるが、0.5mmを超える深いノッチでは短時間破断するために試験条件によらず破断時間の差が小さくなるため遅れ破壊特性の評価を行う上で好ましくない。一方、ノッチ深さが0.2mm未満では破断時間が長くなり、評価に時間がかかるとともに鋼材が遅れ破壊しないケースが発生するので好ましくない。
遅れ破壊特性を評価する基準としては一定荷重下での破断時間と、負荷荷重を変えて破断しない限界の荷重で評価することが考えられるが、より鋼材の遅れ破壊特性を正確に評価可能な基準について検討した。
FIP試験のように、遅れ破壊特性の評価基準を破断時間とする場合は破断時間が鋼材間で大きく異なるために、時間の経過にともなう鋼材中の水素量の変動影響を受けやすくなる。その結果、図3に示すように、ほぼ同じ限界拡散性水素量の鋼材でも破断時間が大きく変化する。この結果、コンクリート製品の破断実体とは必ずしも一致した傾向が得られない。
そこで、本発明では、PC鋼材が水素浸入環境下で破断しない限界の荷重によって遅れ破壊特性を評価することにした。即ち、試験片を試験溶液に浸漬し、一定の荷重を負荷して予め定めた一定時間経過後の破断の有無を見極める。負荷荷重を変化させて試験を繰り返し、遅れ破壊が発生しない限界の荷重を求め、耐破断限界荷重とする。ただし、PC鋼材の高強度化とともに遅れ破壊に対する感受性が高くなる。そこで、本発明では、試験によって求めた耐破断限界荷重を、全く脆化処理を行わない平滑なPC鋼材の破断荷重によって除して正規化し、限界荷重比として評価することにした。限界拡散性水素量の評価については非特許文献1に記載の方法で行った。その結果の一例を図4に示す。本発明の限界荷重比で評価した結果は、限界拡散性水素量を基準として評価した場合の遅れ破壊特性と良く一致し、コンクリート構造物の破損実態に一致する結果となることが確認された。
さらに、本発明者らは、試験溶液の経時変化にも着目した。図5に示すように、試験溶液が大気と接触する場合は、時間の経過に伴って空気中の二酸化炭素を吸収し、100時間を超えると、pHが低下することがわかった。そのため、鋼材に浸入する水素の挙動が変化し、遅れ破壊特性が変動することがある。したがって、試験時間が100時間を超える条件では、遅れ破壊特性を安定して評価するためには、空気中の二酸化炭素が試験溶液に溶解しないように、試験溶液を大気から遮断することが好ましい。
以下、本発明について、詳細に説明する。
Clイオン濃度:
Clイオンは鋼材の腐食促進成分である。Clイオン濃度が、0.1g/l未満では腐食が進行せず、水素の浸入が著しく低下し遅れ破壊が発生しないため破断に至らない。また、1.0g/l超のClイオン濃度を添加しても腐食促進効果が飽和する。したがって、試験溶液のClイオン濃度は、0.1〜1.0g/lとする。
SO4イオン濃度:
SO4イオンも鋼材の腐食促進成分であり、Clと複合添加することで、より実環境に近い状態の腐食環境となる。SO4イオン濃度が0.5g/l未満では鋼材の腐食が進まず水素が鋼中に侵入せず、遅れ破壊が発生しない。一方、SO4イオン濃度が10g/lを超えると、鋼中に侵入する水素量が多くなり、実環境からの乖離が顕著になる。したがって、試験溶液のSO4濃度は0.5〜10g/lとする。
SCNイオン濃度:
SCNイオンは触媒的に作用し、鋼材への水素浸入を促進する。SCNイオンはコンクリート内に浸入した水溶液中から検出されることから、本発明では、実環境を再現するために試験溶液に添加する。SCNイオン濃度が0.1g/l未満では鋼材中への水素侵入が少なく、遅れ破壊が発生しない。一方、SCNイオン濃度が3g/lを超えると、鋼材への水素浸入が著しく増加し、実環境と大きく異なる。したがって、SCNイオン濃度は0.1〜3g/lとする。
試験溶液のpH:
pHは、鋼材に侵入する水素量及び鋼材の腐食に大きく影響する重要な要因である。本発明者らの検討により、pHを7前後に調整した溶液では約50時間で鋼材に浸入する水素量が飽和し、一定の水素量での遅れ破壊挙動を評価できることが明らかになった。pHが6.5未満では鋼材の水素侵入量が増加して、遅れ破壊特性の優劣の精度が低下する。一方、pHが7.2を超えると鋼材への水素侵入量が大きく低下し、鋼材に侵入する水素量が飽和するまでに長時間を要する。したがって、本発明では、試験溶液のpHを6.5〜7.2とする。
試験溶液の温度:
試験溶液温度が低い場合は鋼材への水素浸入が少なくなり、高いと侵入水素量が多くなるとともに試験溶液の蒸発により試験条件が変化する。また、試験溶液温度は、試験片の表面での腐食状況にも影響を及ぼすため、一定の範囲内に制御することが必要である。本発明の試験溶液では、温度が50℃になると、実環境から侵入する水素量に近くなる。また、試験溶液温度が変化すると、評価結果のばらつきが大きくなるため、変動の範囲を10℃以内にすることが必要である。したがって、安定した腐食環境で、一定の速度で試験片に水素を侵入させるため、本発明では、試験溶液の温度範囲を45〜55℃とする。
比液量:
比液量は、試験溶液に浸漬している試験片の単位表面積あたりの試験溶液容量である。試験片及び試験槽の形状、使用する試験溶液の容量から、試験溶液に接触している試験片の表面積を算出し、使用している試験溶液の容量を除することにより、比液量を求めることができる。比液量が30ml/cm2を超えると、長時間、連続的に試験片に水素が侵入するため、遅れ破壊特性の優劣の精度が低下する。一方、比液量が5ml/cm2未満であると、短時間で試験片に水素が侵入しなくなり、鋼材中の水素量も減少し、遅れ破壊破断が発生し難くなる。したがって、短時間で、実環境に近い侵入水素量にするためには、試験溶液の比液量を5〜30ml/cm2とすることが必要である。
試験片のノッチ深さ:
試験片のノッチ深さは、破断を促進させるために応力集中を再現するため、引張り荷重に対して直角方向に形成する。試験片の円周方向の全周に環状ノッチとしても、部分的にノッチを形成してもかまわない。ノッチ深さが0.2mm未満では、破断時間が2000h以上になること、鋼材によっては負荷荷重を高めても破断せず、遅れ破壊の評価が難しくなることがあるので、ノッチ深さの下限を0.2mmとすると好ましい。一方、0.5mmより深いノッチの場合は短時間で破断するものの、荷重比を変えても破断時間の変化が小さくなり、鋼材の遅れ破壊特性の優劣が判断できなくなることがあるため、0.5mmをノッチ深さの上限とすると好ましい。
なお、鋼材間の遅れ破壊の比較は勿論同一ノッチ深さで行うものであるが、ノッチ深さのばらつきは0.05mm以内とすれば試験結果のばらつきは小さくなるため、±0.05mmが深さばらつきとして好ましく、より好ましくは0.02mmである。
遅れ破壊特性の評価基準:
本発明では、遅れ破壊特性の評価基準を破断荷重とする。これは、破断時間による評価の場合、時間の経過にともなって鋼材中の水素量が変動し、コンクリート製品の破断の実体とは必ずしも一致した傾向が得られないためである。本発明では、試験片を試験溶液に浸漬し、一定の荷重を負荷して予め定めた一定時間経過後の破断の有無を見極める。負荷荷重を変化させて試験を繰り返し、遅れ破壊が発生しない限界の荷重を求め、耐破断限界荷重とする。予め定めた一定時間を200時間あるいはそれ以上とすれば、耐破断限界荷重を再現性よく評価することが可能である。この耐破断限界荷重を、予め求めた、ノッチを有しない平滑試験片の大気中での破断荷重で除して、限界荷重比として評価する。平滑試験片は平滑であり、大気中で破断を評価するので、全く脆化処理を行わない試験片に相当する。また平滑試験片はノッチを形成した試験片と同一径とすると好ましい。
大気との遮断の影響:
本発明の試験溶液は、大気に接触すると空気中の二酸化炭素を吸収し、pHが低下する。そのため、遅れ破壊特性を安定して評価するためには、大気と試験溶液を遮断することが好ましい。大気と試験溶液を遮断する方法は特に限定はされないが、試験容器内にアルゴンなどの不活性ガスを充満させる方法、試験溶液の表面をシール材で覆う方法などが挙げられる。例えば、図6に示すように、試験容器の内壁あるいは試験片が貫通可能な形状とし、大気と遮断するために試験溶液表面に浮かせる構造が好ましい。このような構造にすることにより、試験容器の形状を変えることなく、試験片のサイズによる比液量を一定に制御することが可能となるとともに、試験溶液のpHを安定して維持できる。
表1に示す成分の線径8mmの熱間圧延線材を7mmに伸線した後、高周波加熱によりオーステナイト域まで加熱後、水焼入れし、さらに連続して鋼材を350〜650℃に加熱して焼戻し、引張強さを1450MPaに調整した。試験片の試験溶液に接触する部分の中心部の表面には、環状に角度60度のVノッチを形成した。表2に、ノッチの深さを示す。
Figure 2012088241
Figure 2012088241
試験溶液は、ClイオンとしてKCl、SO4イオンとしてK2SO4、SCNイオンとしてNH4SCNを溶解し、その濃度を調整した。薬剤を溶解した直後の試験溶液のpHは4〜5と低いため、NaOH水溶液で試験溶液のpHを調整した。内径が65mm、溶液充てん部長さが200mmであり、図6に示すように、外周部に温水を循環可能な二重構造の反応容器に試験片をセットした。先に一定荷重を負荷した後に試験溶液を充てんし、二重構造容器外周部を循環させる温水の温度によって、試験溶液温度を調整した。
試験片に負荷する荷重を変化させて試験を繰り返し行い、遅れ破壊破断しない限界の負荷荷重比を求めた。ここでは破断しない限界の試験時間を200hとした。
No.1〜20は本発明の試験条件の範囲でPC鋼材の遅れ破壊特性を評価した結果であり、鋼材の遅れ破壊特性は同一鋼種間で大きな差異はなく、安定した限界荷重比が得られた。また、ノッチ深さが0.2〜0.5mmの範囲では鋼種毎の限界荷重比はB鋼が0.85〜0.9、C鋼が0.7、E鋼が0.65〜0.7、D鋼が0.5〜0.65、A鋼が0.4〜0.5で、遅れ破壊特性の序列はB>C〜E>D>Aとなった。一方、水素基準で評価した限界拡散性水素量は表1に示すとおりであり、限界拡散性水素量での評価の序列はB>C〜E>D>Aであった。即ち、本発明による遅れ破壊評価の序列は水素基準で評価した限界拡散性水素量での評価の序列と概略一致し、実環境での破断実態にほぼ一致する傾向である。ノッチ深さが0.2mm未満あるいは0.5mm超でも鋼材の限界荷重比の序列はB>C>Aでほぼノッチ深さの範囲が一定であれば遅れ破壊特性の序列は変わらない。
一方、本発明の範囲外の比較例では同一鋼種の遅れ破壊特性が大きく変化し、鋼種間の差が検出できず、精度良い評価ができていない。
比較例のNo.21はClイオンが多く、腐食が進行し低い荷重比で破断した例である。No.22はClイオンが少なく、遅れ破壊試験での限界荷重比が高くなった例である。No.23はSO4イオンが多く、腐食が進行し、低い荷重比で破断した例である。No.24はSO4イオンが少なく、遅れ破壊試験での限界荷重比が高くなった例である。No.25はSCNイオンが多く、腐食が進行し、低い荷重比で破断した例である。No.26はSCNイオンが少なく、遅れ破壊しなかった例である。
No.27は試験溶液温度が低く、限界荷重比が高くなり、No.28は試験溶液温度が高く、限界荷重比が低くなり、同一鋼種で限界荷重比が大きく変化した例である。No.29は試験溶液のpHが高い場合で、鋼材への水素侵入が少なく、限界荷重比が高くなった例である。一方、No.30はpHが本発明の範囲より低く、鋼中への水素侵入量が多くなり、限界荷重比が低くなった例である。No.31は比液量が多く、鋼材に長時間連続して水素が侵入し、限界荷重比が低くなった例である。No.32は比液量が少なく鋼材に侵入する水素量が少なくなり、荷重比が高くなった例である。
No.33はノッチを形成しない試験片で遅れ破壊試験を実施した例であり、200時間経過しても破断しなかった例である。No.34は大気と試験溶液が接触する構造の試験容器を使用したため、遅れ破壊試験期間中の試験溶液pHが低下し、限界荷重比が低下した例である。
本発明によれば高強度PC鋼材の遅れ破壊評価が迅速かつ簡便に実施可能となり、かつ実体により近い状態での評価が可能となることにより鋼材の遅れ破壊特性をより正確に評価可能である。コンクリート製品の破損を防止可能となることから産業上の利用可能性が極めて高い。

Claims (3)

  1. 一定の荷重を負荷した試験片を試験溶液に浸漬して遅れ破壊特性を評価するPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法において、前記試験溶液は、Clイオン濃度:0.1〜1.0g/l、SO4イオン濃度:0.5〜10g/l、SCNイオン濃度:0.1〜3g/lを含み、温度が45〜55℃、pHが6.5〜7.2であり、表面にノッチを形成した試験片を試験溶液に浸漬し、試験溶液の容量を試験溶液に接触している試験片の表面積で除した比液量を5〜30ml/cm2とし、試験期間中試験溶液と大気を遮断するとともに前記試験片に一定の荷重を負荷し、予め定めた限界時間まで破断が発生しない耐破断限界荷重を測定し、該耐破断限界荷重と平滑試験片の大気中での破断荷重との比を求めて限界荷重比とすることを特徴とするPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
  2. 前記試験片のノッチの最大深さが0.2〜0.5mmであることを特徴とする請求項1記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
  3. 前記予め定めた限界時間を200時間以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のPC鋼材の遅れ破壊特性評価方法。
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