JP2012080808A - Es細胞における相同組換え効率を改善する方法 - Google Patents

Es細胞における相同組換え効率を改善する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】部位特異的な突然変異体ES細胞の作成効率を向上させる技術を開発する。
【解決手段】本発明は、ES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法を提供する。本発明のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法は、LigaseIVと、Ku80とからなるグループから選択される、少なくとも1種類の非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする、配列特異的遺伝子発現抑制剤をES細胞に導入するステップを含む。本発明は、本発明の方法により相同組換え体ES細胞を得るステップを含む、遺伝子改変動物の作出方法を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、ES細胞における相同組換え効率を改善する方法、具体的には、前記外来DNAを前記ES細胞に導入する前に、非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする配列特異的遺伝子発現抑制剤をES細胞に導入するステップを含む、ES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法と、該方法により相同組換え体ES細胞を得るステップを含む、遺伝子改変動物の作出方法とに関する。
マウスその他の動物の染色体上の特定の遺伝子が改変された遺伝子改変動物を作出するには、ES細胞の遺伝子相同組換え技術と、生殖系列キメラ作成技術とが用いられる(非特許文献1及び2)。
遺伝子相同組換え技術では、所望の遺伝子に部位特異的突然変異を導入するために、目的とする遺伝子の上流側及び下流側の染色体DNAの配列(以下、「相同配列アーム」という。)が抗生物質耐性遺伝子を挟むように連結されたターゲティングベクターが用意されるのが一般的である。前記ターゲティングベクターは、いずれかの相同配列アームの末端で切断された直鎖DNAとして前記ES細胞に導入される。部位特異的突然変異を起こすとき、前記直鎖ターゲティングベクターと、染色体DNAとが、2本の相同配列アームと、対応する染色体DNAの相同配列との間で交差対合して、所望の遺伝子の部位で染色体DNAにインテグレーションされる。この相同配列間での交差対合を伴う組換えは、相同組換えとよばれる。しかし、前記直鎖ターゲティングベクターがES細胞に導入されると、さまざまな染色体上の部位にインテグレーションされる反応も同時に起こる。これは、インテグレーションされる部位に規則性がないことから、ランダム・インテグレーションとよばれる。前記直鎖ターゲティングベクターがES細胞に導入した後で、抗生物質を培地に添加して、前記抗生物質耐性遺伝子を発現するES細胞を選択すると、相同組換えを起こしたES細胞と、ランダム・インテグレーションを起こしたES細胞とが同時に選択される。相同組換えを起こしたES細胞と、ランダム・インテグレーションを起こしたES細胞とは、サザンブロット法又はPCR法で目的の遺伝子領域の染色体DNAの構造を解析することによって区別することができる。
生殖系列キメラ作成技術では、ES細胞が同種の動物の初期胚に移植されると、前記初期胚の細胞とともに胚発生に参加して、ES細胞と前記初期胚の細胞とからなるキメラ動物が作出される。ES細胞は生殖細胞を含む全ての細胞タイプに分化できるので、前記ES細胞由来の生殖細胞を含むキメラ動物が通常動物と交配されると、前記ES細胞由来の染色体が全身の細胞に受け継がれたF動物が作出される。したがって、遺伝子相同組換え技術を用いて得られた部位特異的な突然変異体のES細胞に生殖系列キメラ作成技術が適用されると、部位特異的な突然変異体の動物が作成される。
ES細胞の遺伝子相同組換え技術の課題の1つは、部位特異的な突然変異体ES細胞の作成効率が低いことである。すなわち、抗生物質を培地に添加して、前記抗生物質耐性遺伝子を発現するES細胞を選択したときに、ランダム・インテグレーションを起こしたES細胞が相同組換えを起こしたES細胞より圧倒的に多い。前者が後者の20倍を超えるのが一般的である。相同組換えを起こしたES細胞と、ランダム・インテグレーションを起こしたES細胞とは、サザンブロット法又はPCR法で目的の遺伝子領域の染色体DNAの構造を解析することによって区別することができる。しかし、いずれの方法でも数十個の抗生物質耐性ES細胞のコロニーをピックアップして、各コロニー由来のES細胞を増殖させ、凍結保存するとともに、DNAを抽出して解析しなければならない。この作業は、非常に労働集約的で、かつ、培養及びDNA解析に多額のコストが必要である。また、同時に取り扱わなければならないコロニーの数が増えると、ES細胞を操作するために、全能性を保持するうえで好ましくない条件にES細胞を曝露する機会が増える。これは、同定された部位特異的突然変異体のES細胞からキメラ動物を作出しても、前記突然変異体ES細胞が生殖細胞に分化しないために、所望の突然変異遺伝子を受け継いだF動物個体は生まれない可能性が高まることを意味する。
Nagy, A. ら、"Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual (Third Edition)"、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州、米国(2003) 崎村建司ら、生化学、79:340−349(2007)
したがって、部位特異的な突然変異体ES細胞の作成効率を向上させる技術を開発する必要がある。
本発明は、ES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法を提供する。本発明のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法は、LigaseIVと、Ku80とからなるグループから選択される、少なくとも1種類の非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする、配列特異的遺伝子発現抑制剤をES細胞に導入するステップと、前記配列特異的遺伝子発現抑制剤により前記酵素の遺伝子発現が一過性の抑制状態にある間に、前記ES細胞の染色体DNAと相同なヌクレオチド配列を含む外来DNAを前記ES細胞に導入して、相同組換えによって前記外来DNAを安定的に前記ES細胞の染色体にインテグレーションさせるステップとを含む。
本発明のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法において、前記配列特異的遺伝子発現抑制剤は、前記非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする、siRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸及びDNA/RNAキメラポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1つの核酸化合物の場合がある。
本発明のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法において、前記ES細胞はマウス由来であり、前記配列特異的遺伝子発現抑制剤は、配列番号1に列挙されるアミノ酸配列からなるマウスLig4と、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列からなるマウスXrcc5とからなるグループから選択される少なくとも1種類の非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする場合がある。
本発明のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法において、前記配列特異的遺伝子発現抑制剤は、前記非相同末端結合に関与する酵素の遺伝子を標的とするsiRNAの場合がある。
本発明のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法において、前記siRNAは、配列番号12のGACAAAGAGUGGCACGAAUか、配列番号13のGGACCAACUGGACGUUAUAかに列挙されるヌクレオチド配列からなる場合がある。
本発明は、本発明の方法により相同組換え体ES細胞を得るステップを含む、遺伝子改変動物の作出方法を提供する。
本明細書における、遺伝子の名称と、遺伝子産物(タンパク質)の名称との表記の規則は以下のとおりである。マウスの遺伝子の名称と、該マウスの遺伝子のmRNA、ゲノムDNA、cDNA及び染色体上の遺伝子座の名称とを表すときには、斜字体で、「Lig4」、「Xrcc5」、「Xrcc6」及び「Hprt1」と表記される。なお、日本特許庁の電子出願のテキスト書式では斜字体はサポートされていないので、下線付きの標準体で表記される場合がある。動物種を限定しない遺伝子の名称を表すときには、標準体で、「LigaseIV」、「Ku80」、「Ku70」及び「HPRT」と表記される。遺伝子産物名、すなわち、ある遺伝子由来のタンパク質の名称を表すときには、標準体で、「Lig4」、「Xrcc5」、「Xrcc6」及び「Hprt1」と表記される。
本発明において、ES細胞、すなわち、胚性幹細胞とは、生殖細胞を含む全ての細胞タイプに分化する能力を保持する株化細胞をいう。本発明のES細胞は、全能性があること、すなわち、生殖系列キメラ作成技術で動物個体を作出することができることを条件として、いかなる方法で樹立された細胞であってもかまわない。本発明のES細胞は、哺乳類の胚盤胞期胚の内部細胞塊か、これと相同な初期胚の細胞かを起原として、初期胚を試験管内で着床させて、培養下で増殖した幹細胞を単離してフィーダー細胞等の上で培養して得られる場合が典型的である。しかし、本発明のES細胞は、いわゆるiPS細胞、すなわち、特定の細胞タイプに分化した体細胞に1種類又は2種類以上の細胞分化のリプログラミング因子を導入して、脱分化させて得られる全能性を有する幹細胞であってもかまわない。また、本発明のES細胞は、全能性があることを条件として、既に1種類又は2種類以上の外来遺伝子がインテグレーションされたり、1種類又は2種類以上の遺伝子について部位特異的突然変異が導入された細胞であってもかまわない。さらに、本発明のES細胞は、全能性があることを条件として、いかなる動物種に由来する細胞であってもかまわない。本発明のES細胞は哺乳類の種に由来することが好ましく、マウス、ラット、アカゲザル等の実験動物の種に由来することがより好ましい。本発明のES細胞がマウス由来の場合には、いずれの系統のマウス由来であってもかまわないが、129系統のように生殖細胞への分化が起こりやすい系統を用いることが好ましく、本発明の発明者らによって樹立されたC57BL/6NCrj由来のRENKA株(受託番号:FERM BP−8225)のような生殖細胞への分化が起こりやすい株のES細胞を用いることがより好ましい。
本発明における配列特異的遺伝子発現抑制剤とは、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、該標的とする遺伝子がコードするタンパク質の発現を一過性に抑制するものをいう。本発明における配列特異的遺伝子発現抑制剤には、siRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸及びDNA/RNAキメラポリヌクレオチドを含むが、これらに限定されない。本発明のsiRNAとは、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に相補的な配列を有する21−23塩基対程度の2本鎖RNAであって、該標的とする遺伝子のmRNAの分解を引き起こすことにより標的遺伝子特異的に発現を抑制する、2本鎖RNAをいう。本発明のmiRNAとは、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に相補的な配列を有する1本鎖RNAであって、該標的とする遺伝子のmRNAの分解又は翻訳阻害を引き起こすことにより標的遺伝子特異的に発現を抑制し、長い(数百塩基以上の)転写産物として精製された後、切断、プロセシングを受けて短い(20−25塩基程度の)オリゴリボヌクレオチドとなり機能する、1本鎖RNAをいう。本発明のリボザイムとは、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に相補的な配列を有するRNAであって、該標的とする遺伝子のmRNAを分解する触媒として働くことにより標的遺伝子特異的に発現を抑制するRNAをいう。本発明のアンチセンス核酸とは、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に相補的な配列を有する20塩基程度の1本鎖DNA又はRNAであって、該標的とする遺伝子のmRNAと2本鎖を形成することで分解又は翻訳阻害を引き起こすことにより標的遺伝子特異的に発現を抑制する、1本鎖DNA又はRNAをいう。これらの配列特異的遺伝子発現抑制剤は、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドであって、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとが混在するように重合された、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドの場合がある。前記DNA/RNAキメラポリヌクレオチドは、核酸分子の安定性を高める目的等で使用される。
本発明の外来DNAは、所望の遺伝子に部位特異的突然変異を導入するために、目的とする遺伝子の上流側及び下流側の染色体DNAの配列(以下、「相同配列アーム」という。)が抗生物質耐性遺伝子を挟むように連結されたターゲティングベクターのように、複数の相同配列を含むDNAの場合と、単一の相同配列が非相同配列と連結したDNAの場合とがある。本発明の外来DNAは、相同組換えによって部位特異的突然変異を起こすことを条件として、2本鎖であっても1本鎖であってもよく、メチル基その他で修飾されたヌクレオチドからなるDNAの誘導体であってもよい。
本発明の配列特異的遺伝子発現抑制剤及び外来DNAをES細胞内に導入するための手段は、該ES細胞が全能性を失わないことを条件として、エレクトロポレーション、リポフェクションその他、いかなる公知のトランスフェクション技術を利用するものであってもかまわない。
本発明において、相同組換えとは、細胞内に導入された外来DNAが細胞の染色体DNAにインテグレーションされる際に、前記外来DNAに前記染色体DNAと相同配列が含まれていて、該相同配列部分で前記染色体DNAと前記外来DNAとが組換えを起こす反応をいう。
本発明において、非相同末端結合とは、細胞内に導入された外来DNAが細胞の染色体DNAにランダム・インテグレーションされる際に、前記外来DNAと前記染色体DNAとの配列の相同性に関係なく、染色体DNAがランダムに2本鎖とも切断され、そこに前記外来DNAが連結される反応をいう。非相同末端結合反応には、Ku70及びKu80のヘテロ2量体が2本鎖切断部位に結合し、該ヘテロ2量体が、DNA依存性タンパク質キナーゼ触媒サブユニット(DNA−PKcs)とArtemisタンパク質との複合体を引き寄せて、前記2本鎖切断部位の末端のプロセッシングを行い、Xrcc4、XLF(Cernunnosともよばれる。)及びLigaseIVの複合体が参加することが知られている(Mari,P−O.ら、Proc.Natl.Acad.Sci., USA、103:18597−18602(2006))。しかしながら、Ku70及びKu80の複合体に始まる非相同末端結合反応の経路の抑制は、ニワトリのB細胞リンパ芽腫細胞株DT40ではランダム・インテグレーションの低下をもたらしたが、ヒトプレB白血病細胞株Nalm−6ではランダム・インテグレーションの低下は起こらなかった。また、前記非相同末端結合反応の経路を抑制すると、相同配列アームを有するターゲティングベクターのランダム・インテグレーションが増大することが報告された(Iiizumi、S.ら、Nucleic Acid Res.、36:6333−6342(2008))。そこで従来技術に基づいて、LigaseIV、Ku70及びKu80を含む前記非相同末端結合反応の経路の抑制が、ES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させるかどうか予測することはできない。
本発明において、外来DNAの相同組換え効率とは、ある一定数の細胞に外来DNAを導入するとき、ランダム・インテグレーションで外来DNAがインテグレーションを起こした細胞のコロニーが形成される頻度をFRIとし、相同組換えで外来DNAがインテグレーションを起こした細胞のコロニーが形成される頻度をFHRとするとき、FRIとFHRとの和に対するFHRの割合の百分率として定義される。
マウスHprt1遺伝子の構造と、Hprt1−KOターゲティングベクターとの関係を示す模式図。 Lig4遺伝子を標的とするsiRNAを導入されたES細胞におけるLig4のmRNA量をノザンブロット法で解析した結果のオートラジオグラム(上半分)と、同じサンプルが泳動されたアガロースゲルの臭化エチジウム染色後の蛍光写真(下半分)。 Xrcc5遺伝子を標的とするsiRNAを導入されたES細胞におけるXrcc5遺伝子産物のタンパク質の量をウェスタンブロット法で解析した結果のブロット図。 Xrcc6遺伝子を標的とするsiRNAを導入されたES細胞におけるXrcc6遺伝子産物のタンパク質の量をウェスタンブロット法で解析した結果のブロット図。 G418及び6−TG2重耐性コロニーのサザンブロット法による遺伝子型解析結果を示すオートラジオグラム。 G418及び6−TG2重耐性コロニーのPCR法による遺伝子型解析結果を示す電気泳動ゲル写真。
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
(A)材料と方法
(1)ES細胞の培養
ES細胞として、C57BL/6NCrj由来のRENKA株(受託番号:FERM BP−8225)が全ての実施例で用いられた。ES細胞の培養に用いるフィーダー細胞として、SIM系統マウスの胎仔由来線維芽細胞STO株か、Grin2aノックアウトマウスのホモ変異雄マウスを雌ICRマウスと交配して得られたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)かが用いられた。ES細胞はマイトマイシンC処理されたフィーダー細胞上に播種され、37°C、5%CO中で培養された。
ES細胞培養用の培地として、17.7%のウシ胎仔血清(HyClone、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 )と、88.4μMの非必須アミノ酸(GIBCO)と、884μMのピルビン酸ナトリウム(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と、88.4μMの2−メルカプトエタノール(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)と、884U/mLのLIF(CHEMICON、日本ミリポア株式会社)とが添加された4.5g/Lのグルコースを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)が用いられた。
継代培養や分析のためにES細胞を回収する際には、以下のトリプシン処理が行われた。すなわち、マイトマイシンC処理されたフィーダー細胞上で増殖したES細胞は、6mMのEDTAを含むpH7.3のリン酸緩衝生理食塩水(以下、「EDTA−PBS」という。)でリンスされ、その8分の1の体積の0.25%トリプシン液が添加されて、培養ディッシュから解離された。
(2)Hprt1−KOターゲティングベクターの作成
マウスHprt1遺伝子の第3エクソンを相同組換えによって破壊するためのベクター(以下、「Hprt1−KOターゲティングベクター」という。)は、マウスHprt1遺伝子座の染色体DNAのうち、第3エクソンの5’末端側の4.1kbの染色体DNA(以下、「5’末端側相同配列アーム」という。)と、第3エクソンの3’末端側の7.4kbの染色体DNA(以下、「3’末端側相同配列アーム」という。)とを含む。前記ターゲティングベクターは、さらに、該ターゲティングベクターを染色体のいずれかの場所にインテグレーションした未分化ES細胞クローンを選択(以下、「ポジティブ選択」という。)するためのネオマイシンカセットと、相同組換えによって前記ターゲティングベクターをHprt1遺伝子座の染色体上にインテグレーションした未分化ES細胞クローンを選択(以下、「ネガティブ選択」という。)するためのジフテリア毒素遺伝子発現ユニットとをさらに含む。前記ネオマイシンカセットは、未分化状態のES細胞で構成的に発現するように、ホスホグリセレート・キナーゼ遺伝子座のプロモーター(pgk−pr)によって転写が制御される。前記ジフテリア毒素遺伝子発現ユニット(DT)は、未分化状態のES細胞で構成的に発現するように、未分化テラトカルシノーマで増殖可能な突然変異株ポリオーマウイルス由来のエンハンサーと、チミジンキナーゼ遺伝子の最短プロモーターとを含むMC1プロモーターによって転写が制御される。
本発明のHprt1−KOターゲティングベクターでは、Hprt1遺伝子の第3エクソンが前記ネオマイシンカセットで置換される。したがって、前記5’末端側相同配列アームと、前記ネオマイシンカセットと、前記3’末端側相同配列アームとは、この順に5’から3’の向きに連結される。前記ネオマイシンカセットは、Hprt1遺伝子と同じ向きに転写される。前記第3エクソンの5’末端側相同配列アームのさらに5’末端側には、ベクターDNAを介して、前記ジフテリア毒素遺伝子発現ユニットが連結される。前記ジフテリア毒素遺伝子発現ユニットは、Hprt1遺伝子と反対向きに転写される。本発明のターゲティングベクターは、全長が約18.8kbである。マウスHprt1遺伝子座の染色体DNAは、C57BL/6J系統のマウスゲノムDNAの細菌人工染色体クローン(BAC No.RP23−412J16)に由来し、Cre、FLP等の部位特異的組換え酵素の認識配列であるloxP、frt等を利用するサブクローニング技術を用いて構築された。前記ターゲティングベクターは、制限酵素SalI消化により直鎖化され、フェノール抽出で精製された。その後、前記ターゲティングベクターDNAは、2.5ピコモル(約28μg)ずつ分注されて、20mMのHepesバッファー(pH7.05)、0.2MのNaCl、5mMのKCl、0.7mMのNaHPO及び0.1%のデキストロースからなる生理食塩水(以下、「HBS」という。)100μLに溶解され、エレクトロポレーションに供された。
(3)マウスHprt1遺伝子の構造と、Hprt1−KOターゲティングベクターとの関係
図1は、マウスHprt1遺伝子の構造と、Hprt1−KOターゲティングベクターとの関係を示す模式図である。上は、正常なマウスHprt1遺伝子領域の染色体(Hprt1WT)上のエクソン及び制限酵素切断部位の位置を表す。中央は、Hprt1−KOターゲティングベクターの構造を表す。下は、第3エクソンが前記ネオマイシンカセット(Neo)で置換される部位特異的突然変異が導入された染色体(Hprt1KO)上のエクソン及び制限酵素切断部位の位置を表す。1点破線は、前記ネオマイシンカセットの5’末端側相同配列アーム及び3’末端側相同配列アームと、Hprt1WT及びHprt1KOとの対応関係を示す。ローマ数字のI、II、・・・、IXは、それぞれ、第1、第2、・・・、第9エクソンの位置を表す。B、E及びNは、それぞれ、制限酵素BglI、EcoT22−I及びNcoIの切断部位を表す。ターゲティングベクターは、前記ネオマイシンカセット(Neo)と、その5’末端側及び3’末端側のマウスHprt1遺伝子相同配列アーム(太い実線)と、マウスHprt1遺伝子と相同性がないベクター由来配列(太い破線)と、ジフテリア毒素遺伝子発現ユニット(DT)とを含む。前記ジフテリア毒素遺伝子発現ユニット(DT)は、Hprt1遺伝子とは逆向きに転写されるので、上下逆に表示される。loxP及びfrtは、それぞれ配列特異的組換え酵素Cre及びFLPの認識配列を表し、前記ネオマイシンカセットを挟むようにタンデムに並んで配置される。
図1において、「5’probe」及び「3’probe」は、それぞれ、ターゲティングベクターに挿入されるネオマイシンカセットの5’末端側及び3’末端側の相同配列の外側の染色体上の領域からPCR法で増幅される5’及び3’DNAプローブの位置を表す。5’プローブは、Hprt−5PF(配列番号3)及びHprt−5PR(配列番号4)によって増幅される269塩基対のDNAフラグメントである。3’プローブは、Hprt−3PF(配列番号5)及びHprt−3PR(配列番号6)によって増幅される502塩基対のDNAフラグメントである。図1において、「Neo probe」は、ネオマイシンカセットからPCR法で増幅されるNeoプローブの位置を表す。Neoプローブは、neo−PF(配列番号7)及びneo−PR(配列番号8)によって増幅される628塩基対のDNAフラグメントである。
図1において、Hprt1WT上のHPRT−KO及びHPRT−KO2は、野生型Hprt1遺伝子を検出するためのPCRプライマーの位置を表す。HPRT−KO(配列番号9)及びHPRT−KO2(配列番号10)によって293塩基対のDNA断片が増幅される。Hprt1KO上のHPRT−KO及びpgk−pr2は、部位特異的相同組換えが起こったHprt1遺伝子を検出するためのPCRプライマーの位置を表す。HPRT−KO(配列番号10)及びpgk−pr2(配列番号11)によって408塩基対のDNA断片が増幅される。
(4)siRNAの調製
マウスLig4、Xrcc5及びXrcc6遺伝子の発現を抑制するためのsiRNAは、それぞれ、配列番号12、13及び14に列挙されるヌクレオチド配列からなり、ON−TARGETplus修飾を施された、Thermo Scientific Dharmacon(登録商標)siRNA製品としてサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社によって合成された。陰性対照には、Non−targeting siRNA#2(カタログ番号D−001810−02、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)が用いられた。各siRNAは、添付されたバッファー30μL中に1.5ナノモル(約20μg)ずつ溶解され、エレクトロポレーションに供された。
(5)siRNAのエレクトロポレーション
前記トリプシン処理によって培養ディッシュから解離されたES細胞は、遠心により氷冷されたHBSで1回リンスされた後、氷冷HBS中の細胞の濃度が6.5×10個/mLとなるように懸濁された。前記siRNAのそれぞれが30μL中に1.5ナノモル含まれるバッファーに、前記ES細胞の氷冷HBS懸濁液470μLが混合され、電極間距離が0.4cmのエレクトロポレーションキュベット(カタログ番号165−2088、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)に移され、Gene Pulser Xcell エレクトロポレーションシステム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて、250V、250mF、R=∞(無限大)の条件で、エレクトロポレーション処理が行われた。前記エレクトロポレーション処理後のキュベットは室温で10分間静置され、ES細胞培養用の培地10mLと混合され、マイトマイシンC処理されたMEF細胞が培養された100mm培養ディッシュ(Falcon3003、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に播種された。
(6)ノザンブロット法による標的遺伝子の転写抑制の検証
siRNAのエレクトロポレーションから24、48、72及び96時間経過後に、前記トリプシン処理によってES細胞が回収され、常法に従って全RNAが抽出された。前記ES細胞全RNAは、1レーンあたり10μgずつ18%ホルムアミドを含む1%アガロースゲルに適用され、常法に従って、ノザンブロット法で解析された。プローブには前記siRNAの標的遺伝子のcDNA由来のDNA断片が用いられた。例えば、Lig4の場合には、cDNAの第936−1494番目のヌクレオチド配列からなるプローブDNA断片が、Lig4−NPF(配列番号15)及びLig4−NPR(配列番号16)のプライマーを用いるPCR法により増幅された。得られたプローブDNA断片は、ランダムプライマーによるDNA標識キット(Random Primer DNA Labeling Kit Ver.2、タカラバイオ株式会社)を用いてα−32P−dCTPで標識され、ハイブリダイゼーション反応に供された。ハイブリダイゼーション反応には、50%ホルムアミド、5×SSC、1×Denhardt、100ng/μLサケ精子DNA、20mMリン酸ナトリウムバッファー及び10%硫酸デキストランからなるハイブリダイゼーション溶液が用いられ、42°C、6時間以上行われた。
(7)ウェスタンブロット法による標的遺伝子の翻訳抑制の検証
siRNAのエレクトロポレーションから24、48、72及び96時間経過後に、培養ディッシュに1mLのサンプルバッファー(62.5mM Tris−Cl pH6.8、2% SDS、10% グリセロール、1% 2−メルカプトエタノール)が添加され、100°C、5分間煮沸処理された。各サンプルのタンパク質濃度は、BCA法によって定量された。前記サンプルバッファー中のES細胞タンパク質サンプルは1レーンあたり20μgずつSDS−ポリアクリルアミドゲルに適用され、常法に従って、ウェスタンブロット法で解析された。1次抗体には、前記siRNAの標的遺伝子産物に対する特異抗体が用いられた。例えば、Xrcc5遺伝子産物に対する抗体として、抗Ku80抗体(カタログ番号2753、CSTジャパン株式会社)が用いられた。Xrcc6遺伝子産物に対する抗体として、抗Ku70抗体(カタログ番号611892、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)が用いられた。抗アクチン抗体(MAB1501R、日本ミリポア株式会社)が陰性対照の1次抗体として用いられた。それぞれ2次抗体として、ペルオキシダーゼ標識された抗ウサギIgG抗体又は抗マウスIgG抗体が用いられた。
(8)Hprt1−KOターゲティングベクターのエレクトロポレーション
siRNAのエレクトロポレーションから約48時間経過後に、前記トリプシン処理によって培養ディッシュから解離されたES細胞は、遠心により氷冷されたHBSで1回リンスされた後、氷冷HBS中の細胞の濃度が2×10個/mLとなるように懸濁された。Hprt1−KOターゲティングベクター2.5ピコモル(約28μg)を含む100μLのHBSと、前記ES細胞の氷冷HBS懸濁液400μLとが混合され、電極間距離が0.4cmのエレクトロポレーションキュベットに移され、Gene Pulser Xcell エレクトロポレーションシステム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて、200V、250μF、R=∞(無限大)の条件で、エレクトロポレーション処理が行われた。前記エレクトロポレーション処理後のキュベットは室温で10分間静置され、ES細胞培養用の培地20mLと混合され、マイトマイシンC処理されたSTO細胞が培養された100mm培養ディッシュ2枚に播種された。
(9)Hprt1遺伝子座の相同組換え体ES細胞の選択
ES細胞培養用培地には、前記ターゲティングベクターのエレクトロポレーションから36−48時間後から、175μg/mLのG418が添加された。同時にエレクトロポレーション処理されたES細胞の培養ディッシュ2枚のうち1枚は、175μg/mLのG418が添加されたES細胞培養用培地中で11日間培養された。前記培養ディッシュ2枚のうち残る1枚は、175μg/mLのG418が添加されたES細胞培養用培地中で7日間培養され、引き続いて、175μg/mLのG418と、6μMの6-チオグアニン(6−TG)とが添加されたES細胞培養用培地中で10日間培養された。その後、各培養ディッシュ中のコロニー数が計測された。また、必要に応じてコロニーピックアップが行われた。すなわち、各コロニーの細胞が顕微鏡下でピペットで吸引されて、24ウェルプレートのウェル中のマイトマイシンC処理されたフィーダー細胞上に播種され、各コロニー由来のES細胞が別々に培養された。各コロニー由来のES細胞は、コロニーピックアップの4日後に一部が凍結保存され、残りは、新たな24ウェルプレートのウェル中のマイトマイシンC処理されたフィーダー細胞上に播種され、ES細胞が増殖され、ゲノムDNAが抽出された。
(10)サザンブロット法による相同組換え体ES細胞の同定
本発明の実験に用いられたRENKA株の野生型ES細胞と、前記コロニーピックアップにより得られた、G418及び6−TG2重耐性コロニー由来細胞のB−24クローンとから抽出されたゲノムDNAは、NcoI、EcoT22−I、BglI等の制限酵素で完全消化され、常法に従ってサザンブロット法により解析された。プローブとして、図1に示される5’プローブ、3’プローブ及びNeo プローブが用いられた。5’プローブは、Hprt−5PF(配列番号4)及びHprt−5PR(配列番号5)を用いて細菌人工染色体クローン(BAC No. RP23−412J16)から増幅された。3’プローブは、Hprt−3PF(配列番号6)及びHprt−3PR(配列番号7)を用いて前記細菌人工染色体クローンから増幅された。Neo プローブは、neo−PF(配列番号7)及びneo−PR(配列番号8)を用いて前記細菌人工染色体クローンから増幅された。得られたプローブDNA断片は、ランダムプライマーによるDNA標識キット(Random Primer DNA Labeling Kit Ver.2、タカラバイオ株式会社)を用いてα−32P−dCTPで標識され、ハイブリダイゼーション反応に供された。ハイブリダイゼーション反応には、50%ホルムアミド、5×SSC、1×Denhardt、500ng/μLサケ精子DNA、50mMリン酸ナトリウムバッファー及び1%グリシンからなるハイブリダイゼーション溶液が用いられ、42°C、6時間以上行われた。
(11)PCR法による相同組換え体ES細胞の同定
本発明の実験に用いられたRENKA株の野生型ES細胞と、G418及び6−TG2重耐性コロニー由来細胞のB−24、X5 1−1、X5 1−2、X5 1−3、X5 1−4、X5 2−1及びX5 2−3クローンとから抽出されたゲノムDNAは、HPRT−KO(配列番号9)、HPRT−KO2(配列番号10)及びpgk−pr2(配列番号11)の3本のプライマーと、KOD Dash(カタログ番号:LDP−101、東洋紡績株式会社)とともにPCR反応に供され、PCR反応産物はアガロースゲル電気泳動法によって解析された。
(12)ES細胞由来の遺伝子改変マウスの作製
本発明の発明者らは、本発明のHprt1遺伝子の他にも、100個を超える数の遺伝子についてES細胞での相同組換えを利用する遺伝子改変マウスを作成してきた。いずれの場合も、当該遺伝子座について遺伝子の機能が阻害されるような相同組換えによる突然変異が導入されたES細胞クローンが、サザンブロット法又はPCR法によって同定され、凍結保存された。その後、前記ES細胞はキメラマウス作成の数日前に解凍され、短期間培養された。キメラマウス作成の数時間前に前記トリプシン処理により培養ディッシュから前記ES細胞が回収され、常法に従って、集合キメラ法又は顕微注入法によるCD−1マウス胚のES細胞キメラマウスが作成された。前記キメラマウスは、C57BL/6Nマウスと交配させられ、得られたFマウスは、ゲノムDNAをサザンブロット法又はPCR法で解析され、前記相同組換えによる突然変異が導入された染色体を受け継いだマウス個体が同定された。遺伝子改変マウスの系統は、いずれも、前記相同組換えによる突然変異が導入された染色体を受け継いだ個体の近親交配により維持された。飼育中は常に外観観察で異常個体がスクリーニングされ、当該異常個体の表現型が遺伝するかどうか、交配試験により確認された。
(B)結果
(1)siRNA導入による標的遺伝子発現の抑制
図2の上半分は、Lig4遺伝子を標的とするsiRNAを導入されたES細胞におけるLig4のmRNA量をノザンブロット法で解析した結果のオートラジオグラムである。黒い矢尻記号はLig4の4.7kbバンドの位置を示す。各レーンに適用されたサンプルは、それぞれ、エレクトロポレーションを行わなかったES細胞(Con)の全RNAと、Lig4遺伝子を標的とするsiRNAをエレクトロポレーションされてから、24、48、72及び96時間経過後に回収されたES細胞の全RNAとである。図2の下半分は同じサンプルが泳動されたアガロースゲルの臭化エチジウム染色後の蛍光写真である。黒い矢尻記号は28S及び18SのrRNAバンドの位置を示す。蛍光写真は、どのレーンもほぼ等量の全RNAが適用されたことを示した。そして、オートラジオグラムでは、エレクトロポレーションから24及び48時間経過後ではLig4mRNA量が他より少ないことを示した。そこで、Lig4遺伝子を標的とするsiRNAがエレクトロポレーションされてから24時間及び48時間ではLig4遺伝子の発現抑制が起こることが示された。
図3は、Xrcc5遺伝子を標的とするsiRNAを導入されたES細胞におけるXrcc5遺伝子産物のタンパク質の量をウェスタンブロット法で解析した結果のブロット図である。各レーンに適用されたサンプルは、それぞれ、エレクトロポレーションを行わなかったES細胞(Con)の全タンパク質と、Xrcc5遺伝子を標的とするsiRNAをエレクトロポレーションされてから、24、48、72及び96時間経過後に回収されたES細胞の全タンパク質とである。抗Ku80抗体及び抗アクチン抗体で検出されたバンドを比較すると、アクチンはどのレーンでもほぼ等量存在するのに対し、Xrcc5遺伝子産物の量はエレクトロポレーションから24及び48時間経過後では他より少ないことを示した。そこで、Xrcc5を標的とするsiRNAがエレクトロポレーションされてから24時間及び48時間ではXrcc5遺伝子の発現抑制が起こることが示された。
図4は、Xrcc6遺伝子を標的とするsiRNAを導入されたES細胞におけるXrcc6遺伝子産物のタンパク質の量をウェスタンブロット法で解析した結果のブロット図である。各レーンに適用されたサンプルは、それぞれ、エレクトロポレーションを行わなかったES細胞(Con)の全タンパク質と、Xrcc6遺伝子を標的とするsiRNAをエレクトロポレーションされてから、24、48、72及び96時間経過後に回収されたES細胞の全タンパク質とである。抗Ku70抗体及び抗アクチン抗体で検出されたバンドを比較すると、アクチンはどのレーンでもほぼ等量存在するのに対し、Xrcc6遺伝子産物の量はエレクトロポレーションから24及び48時間経過後では他より少ないことを示した。そこで、Xrcc6を標的とするsiRNAがエレクトロポレーションされてから24時間及び48時間ではXrcc6遺伝子の発現抑制が起こることが示された。
(2)G418及び6−TG2重耐性コロニーの遺伝子型決定
図5は、G418及び6−TG2重耐性コロニーのサザンブロット法による遺伝子型解析結果を示すオートラジオグラムである。左側は、RENKA株の野生型ES細胞(WT)と、G418及び6−TG2重耐性コロニー由来細胞のB−24クローン(KO)とから抽出されたゲノムDNAのNcoI消化産物と、5’probeとで得られたサザンブロット法のオートラジオグラムである。中央は、WT及びKOのゲノムDNAのEcoT22−I消化産物と、3’probeとで得られたサザンブロット法のオートラジオグラムである。右側は、WT及びKOのゲノムDNAのBglI消化産物と、Neo probeとで得られたサザンブロット法のオートラジオグラムである。野生型ES細胞から抽出されたゲノムDNAは、NcoIで消化されるとき、5’probeで23.1kbのバンドが検出され、EcoT22−Iで消化されるとき、3’probeで13.2kbのバンドが検出され、BglIで消化されるとき、Neo pobeではいかなるバンドも検出されなかった。G418及び6−TG2重耐性コロニーのB−24クローン(KO)から抽出されたゲノムDNAは、NcoIで消化されるとき、5’probeで11.2kbのバンドが検出され、EcoT22−Iで消化されるとき、3’probeで14.7kbのバンドが検出され、BglIで消化されるとき、Neo pobeで17.7kbのバンドが検出された。したがって、G418及び6−TG2重耐性コロニーB−24クローンの細胞が設計通りの相同組換え体であることが証明された。
図6は、G418及び6−TG2重耐性コロニーのPCR法による遺伝子型解析結果を示す電気泳動ゲル写真である。左端のレーンには、φX174ファージDNAのHincII消化産物がDNAサイズマーカーとして流された。X5 1−1、X5 1−2、X5 1−3及びX5 1−4と、X5 2−1及びX5 2−3とは、ピックアップされた2重耐性コロニー由来のES細胞クローンのDNAのPCR反応産物である。右端の2本のレーンには、G418及び6−TG2重耐性コロニー由来細胞のB−24クローン(以下、「Hprt1−KO細胞」という。)と、野生型RENKA細胞とのDNAのPCR産物が流された。なお、X5 1−4のレーンと、X5 2−1のレーンとの間にはサンプルは流されなかった。X5 1−1、X5 1−2、X5 1−3、X5 1−4、X5 2−1及びX5 2−3のすべての2重耐性コロニーの細胞のレーンと、陽性対照のHprt1−KO細胞のレーンとでは、HPRT−KO及びpgk−pr2のプライマーの対から増幅された408bpのバンドが検出された。これに対し、陰性対照の野生型RENKA細胞のレーンでは、HPRT−KO及びHPRT−KO2のプライマーの対から増幅された293bpのバンドが検出された。したがって、6個の2重耐性コロニーの細胞がすべて設計通りの相同組換え体であった。この実験以外でも、G418及び6−TG2重耐性コロニーはすべて設計通りの相同組換え体であった(データは示されない。)。
以下では、G418及び6−TG2重耐性コロニーは相同組換え体であり、G418耐性コロニーは、相同組換え体と、ランダムに染色体にインテグレーションされた非相同組換え体との両方からなるとして、G418耐性コロニーの数に対するG418及び6−TG2重耐性コロニーの数の百分率が、相同組換え効率として算出される。
(3)ES細胞における相同組換え効率に対するLig4siRNAの効果
表1は、siRNA処理の48時間後にHprt1−KOターゲティングベクターのエレクトロポレーションを行って得られた薬剤耐性コロニー数と、相同組換え効率とを示す。siRNA非存在下でのエレクトロポレーション(−)、Non−targeting siRNA存在下でのエレクトロポレーション(NT)及びLig4siRNA存在下でのエレクトロポレーション(Lig4)の実験条件ごとに、それぞれ、8回、10回及び6回の実験が繰り返され、100mm培養ディッシュあたりのG418耐性コロニーの数と、G418及び6−TG2重耐性コロニーの数との平均値及び標準誤差が算出された。アステリスクは、Lig4siRNA処理群とNon−targeting siRNA処理群との間でStudentのt検定を行ったところ、p値が0.05未満となり、統計的有意差が認められたことを表す。
(4)ES細胞における相同組換え効率に対するXrcc5siRNAの効果
表2は、siRNA処理の48時間後にHprt1−KOターゲティングベクターのエレクトロポレーションを行って得られた薬剤耐性コロニー数と、相同組換え効率とを示す。Non−targeting siRNA存在下でのエレクトロポレーション(NT)及びXrcc5siRNA存在下でのエレクトロポレーション(Xrcc5)の実験条件ごとにそれぞれ9回の実験が繰り返され、100mm培養ディッシュあたりのG418耐性コロニーの数と、G418及び6−TG2重耐性コロニーの数との平均値及び標準誤差が算出された。アステリスクは、Xrcc5siRNA処理群とNon−targeting siRNA処理群との間でStudentのt検定を行ったところ、p値が0.05未満となり、統計的有意差が認められたことを表す。
(5)ES細胞における相同組換え効率に対するXrcc6siRNAの効果
表3は、siRNA処理の48時間後にHprt1−KOターゲティングベクターのエレクトロポレーションを行って得られた薬剤耐性コロニー数と、相同組換え効率とを示す。Non−targeting siRNA存在下でのエレクトロポレーション(NT)及びXrcc6siRNA存在下でのエレクトロポレーション(Xrcc6)の実験条件ごとにそれぞれ9回の実験が繰り返され、100mm培養ディッシュあたりのG418耐性コロニーの数と、G418及び6−TG2重耐性コロニーの数との平均値及び標準誤差が算出された。Xrcc6siRNA処理群とNon−targeting siRNA処理群との間でStudentのt検定を行ったところ、p値が0.05より大きく、統計的有意差は認められなかった。
図4に示されるとおり、Xrcc6遺伝子はLig4遺伝子及びXrcc5遺伝子と同様にES細胞で発現しており、siRNAにより遺伝子発現が抑制されるにもかかわらず、siRNA導入によるES細胞での非相同組換え抑制を通じて相同組換え効率を向上させる効果が認められなかった。LigaseIV、Ku70及びKu80はいずれも非相同末端結合に関与する酵素として周知であるが、非相同末端結合に関与する酵素の間でsiRNA導入によるES細胞での非相同末端結合の抑制を通じて相同組換え効率を向上させる効果に大きな違いがあることは、従来技術から予測できなかった。さらに、コロニー数に注目すると、G418のみに耐性のコロニーの数は、NTと比較すると、Lig4ではやや減少し、Xrcc5ではやや増加するにすぎない。これに対し、G418及び6−TG2重耐性コロニーの数は、NTと比較すると、Lig4でもXrcc5でも2倍近く増大している。明らかに、Lig4及びXrcc5をエンコードする遺伝子の発現抑制は、非相同末端結合の抑制ではなく、なんらかの形で相同組換えそのものを亢進していると考えられる。したがって、本発明は従来技術から予測できない作用効果を奏するといえる。
(6)相同組換え体ES細胞からの生殖系列伝達キメラマウス作成効率に及ぼすLig4siRNA処理の影響
Lig4siRNA処理を実施しないで作成された相同組換え体ES細胞21クローンのうち、生殖系列伝達キメラマウス作成によりES細胞由来の染色体を受け継いだ遺伝子改変マウス系統の樹立に成功したのは12クローンで、生殖系列伝達キメラマウス作成効率は57.1%であった。これに対し、Lig4siRNA処理を実施したうえで作成された相同組換え体ES細胞35クローンのうち、生殖系列伝達キメラマウス作成によりES細胞由来の染色体を受け継いだ遺伝子改変マウス系統の樹立に成功したのは19クローンで、生殖系列伝達キメラマウス作成効率は54.3%であった。したがって、Lig4siRNA処理は、生殖系列伝達キメラマウス作成効率には影響がないことが示唆された。
(7)相同組換え体ES細胞由来の遺伝子改変マウス系統における突然変異出現に及ぼすLig4siRNA処理の影響
Lig4siRNA処理を実施しないで作成された相同組換え体ES細胞由来の染色体を受け継いだ遺伝子改変マウス系統の数は58あったが、改変が意図された遺伝子の他に明らかな突然変異を起こしたマウスの系統は1つであった。これに対し、Lig4siRNA処理を実施したうえで作成された相同組換え体ES細胞由来の染色体を受け継いだ遺伝子改変マウス系統の数は50だが、改変が意図された遺伝子の他に明らかな突然変異を起こしたマウスの系統はいままでに1つもなかった。そこでLig4siRNA処理は、ES細胞へのターゲティングベクターの導入、相同組換え、耐性コロニーの選択、生殖系列伝達キメラマウス作成及び遺伝子改変マウス系統樹立の過程において、突然変異出現頻度を顕著に増大させるものではないことが示唆される。

Claims (6)

  1. LigaseIVと、Ku80とからなるグループから選択される、少なくとも1種類の非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする、配列特異的遺伝子発現抑制剤をES細胞に導入するステップと、前記配列特異的遺伝子発現抑制剤により前記酵素の遺伝子発現が一過性の抑制状態にある間に、前記ES細胞の染色体DNAと相同なヌクレオチド配列を含む外来DNAを前記ES細胞に導入して、相同組換えによって前記外来DNAを安定的に前記ES細胞の染色体にインテグレーションさせるステップとを含むことを特徴とする、ES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法。
  2. 前記配列特異的遺伝子発現抑制剤は、前記非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とする、siRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸及びDNA/RNAキメラポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1つの核酸化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法。
  3. 前記ES細胞はマウス由来であり、前記配列特異的遺伝子発現抑制剤は、配列番号1に列挙されるアミノ酸配列からなるマウスLig4と、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列からなるマウスXrcc5とからなるグループから選択される少なくとも1種類の非相同末端結合に関与する酵素をエンコードする遺伝子を標的とすることを特徴とする、請求項2に記載のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法。
  4. 前記配列特異的遺伝子発現抑制剤は、前記非相同末端結合に関与する酵素の遺伝子を標的とするsiRNAであることを特徴とする、請求項3に記載のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法。
  5. 前記siRNAは、配列番号12又は13に列挙されるヌクレオチド配列からなることを特徴とする、請求項4に記載のES細胞における外来DNAの相同組換え効率を増大させる方法。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1つに記載の方法により相同組換え体ES細胞を得るステップを含むことを特徴とする、遺伝子改変動物の作出方法。
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