このような各種の従来の技術では、溶融金属の表面に電磁場を作用させる媒体と、その電磁場により影響を受けた溶融金属の変化を検出する媒体とを別個に設ける必要があり、特に検出用の媒体ではごく微少な電気的な変化を検出する必要があった。すなわち、特許文献1,2に記載の流速の計測方法では、微少な誘起電圧を検出するためのセンサが必要であり、また特許文献3に記載の流速の計測方法では、渦電流による微少なレベル信号の処理が必要とされる。その他の従来から用いられている溶融金属表面の流速計測方法であってもこのような事情は同様である。そのため、速度検出器が大型化及び高コスト化し、また微少な変化の検出や処理には種々の誤差が含まれやすく正確な速度計測が困難であった。ここで、鋳型内の溶融金属の流速測定技術では、検出コイルに発生する起電力が、検出コイルと溶融金属との間の距離、すなわち溶融金属の表面からの検出コイルの高さ(溶融金属レベル)の影響を強く受けることから、流速測定器に加えて、レベルセンサが別途設けられていた。このようなレベル測定には、従来から渦電流レベル計が一般的に用いられている。すなわち、このようなレベル計を用いて溶融金属レベルを測定し、その測定値に基づいて流速を補正すれば正確な溶融金属表面の流速を計測できるものと考えられる。しかしながら、鋳型内の溶融金属のレベル計として実用化されているものの精度では、正確な流速の補正ができるほどには高精度ではなく、専用の高精度な流速補正用レベル計を新たに開発するのは工業的には理に適うことではない。したがって、従来の流速測定方法のように、検出された微少な値から得られた流速を、従来のレベル計で補正したとしても、正確な流速を測定できたとは言い難いものであったといえる。
このような事情から、本発明は、溶融金属のレベル変動によっても測定精度が大きく影響を受けることがなく、また専用のレベルセンサを用いなくてもレベル検出とレベルに基づく速度補正を可能とし、装置の小型化も可能な移動速度検出器と、このような移動速度検出器を備えた連続鋳造装置を提供することを目的としており、特に移動速度検出器については、溶融金属のみならず、液体か固体かは問わず移動する導電体一般にも適用可能なものを提供することを目的としている。
すなわち本発明に係る移動速度検出器は、移動する導電体の表面から離間して配置され、一定の周波数の電流で励磁される励磁回路と、この励磁回路において導電体の移動の上流側と下流側の導電体の表面から等距離にある2箇所における電圧波形をそれぞれ検出するとともに、これら2つの電圧波形を比較することによって2つの電圧波形の位相差を検出する位相差検出部と、この位相差検出部で検出した2つの電圧波形の位相差の時間分を積分することによって電圧値に変換する位相差/電圧変換部と、この位相差/電圧変換部で変換した電圧値に基づいて前記導電体の移動速度を求める速度検出部、とを具備していることを特徴とするものである。
本発明で速度検出の対象とされる導電体は、溶融金属、固体金属はもちろんのこと、その他の各種導電体の何れであってもよく、本発明はその導電体の表面における移動速度を検出するものである。励磁回路は、電源制御回路、電源増幅回路、励磁コイル、及び配線材等を含めた電気回路として構成されるものである。導電体が高温となる溶融金属の場合は、熱によって動作不良が生じることを防止するために、熱の影響を受ける溶融金属の表面近傍には励磁コイル(及びその直近の配線材)のみを配置することが好ましいが、非高温の導電体や温度補償等の条件が十分な回路素子(上述した電源制御回路や電源増幅回路)の場合には、励磁回路全体を導電体の表面近傍に配置することは可能である。なお、2つの検出箇所は、導電体の表面から等距離となる位置に設定されることが望ましいが、導電体の表面からの距離が異なる位置に設定されることを妨げるものではない。
ここで、励磁回路に対して導電体の表面が静止している(表面の速度が0である)場合には、電源制御部により同じ電流で励磁された励磁回路によって導電体の表面上に誘導される渦電流による鎖交磁束は、励磁回路上の2つの検出箇所で等しいため、2つの検出箇所で検出される電圧波形間には位相差は生じない。しかしながら、導電体の表面が2つの検出箇所の一方側から他方側へある速度で移動している場合には、2つの検出箇所と導電体の表面の渦電流との間に位置の差が生じ、それぞれのコイルへの鎖交磁束に相違が生じるため、2箇所で検出される電圧波形間に位相差が生じる。この位相差を検出することで、導電体の表面の速度を検出することが可能となるという原理を本発明では利用している。
そこで本発明では、まず位相差検出部おいて、2つの検出箇所の電圧波形をそれぞれ検出し、これら2つの電圧波形を比較して両者の位相差を検出する。そして、位相差/電圧変換部において、検出された2つの電圧波形の位相差の時間分を積分することにより電圧値に変換する。さらに、速度検出部においては、位相差/電圧変換部で変換された電圧値が導電体の移動速度に比例することを利用して、電圧値を導電体の移動速度を示す値を求める。このようにして求められた移動速度値を適宜に処理し出力すれば、導電体の移動速度を知ることができる。
このように、本発明の移動速度検出器は、励磁回路に一定周波数の電流を入力し、検出対象である移動中の導電体からの影響を受けた励磁回路上の2箇所における電圧波形の位相差を検出することによって導電体の移動速度を検出するように構成することができる。したがって、導電体へ電磁場により作用する媒体と、その電磁場によって移動中の導電体に生じる変化を検出する媒体とをそれぞれ別体として設けていた従来技術と比較すれば、本発明では導電体に作用する媒体と検出用の媒体とを別途に設ける必要がないため、小型化に適しコスト面でも格段に有利であり、また従来技術のように導電体の微少な変化を検出しなくても、直接的には励磁回路上の2箇所の電圧波形の変化を検出するだけでよいので、検出誤差を含みにくく正確に速度を検出することができるという利点がある。
このような本発明において、励磁回路は、移動する導電体の表面近傍にその表面から等距離の位置においてこの導電体の移動方向に沿って配置され相互にインピーダンスが等しい主コイル及び従コイルと、主コイル及び従コイルと共通の並列回路を構成するコンデンサ、又は主コイル及び従コイルとそれぞれ個別の並列回路を構成するコンデンサと、主コイル及び従コイルに同一の電流を供給して当該主コイル及び当該従コイルと前記コンデンサとを共通に又は個別に励磁するように交流電源を制御する電源制御部とによって構成することができる。この場合、位相差検出部を、主コイル及び従コイルの入力側と出力側との間の一定振幅の電流による電圧波形をそれぞれ検出するとともに、これら2つの電圧波形を比較することによって両者の位相差を検出するものとする。
主コイルと従コイルには、電気的性質が等価であり、特にインピーダンスが等しいものを用いることとし、導電体の表面から等距離における同一平面上であって導電体の移動方向に沿って配置されるが、これら主コイルと従コイルは、同じ電流が流されることにより、導電体の表面と直交する磁界が発生するように配置される必要がある。主コイルと従コイルを直列に接続する場合には、両コイルと並列回路を構成するようにコンデンサを接続し、電源制御部によって励磁することで、直列接続された両コイルとコンデンサとが並列共振するように制御された電流を両コイルに供給する。一方、主コイルとコンデンサによって並列回路を構成するとともに、それとは別のコンデンサと従コイルとによって並列回路を構成する場合、電源制御部では、主コイル側の並列回路において主コイルとコンデンサとが並列共振するように制御された電流を主コイルに供給するが、主コイルに供給した電流と略同じ電流を従コイル側にも供給して強制的に励磁する。従コイル側に用いるコンデンサは、主コイル側に用いるコンデンサと同容量のものとなる。なお、主コイル側の励磁回路と従コイル側の励磁回路とに供給される電流は、厳密には僅かに異なる可能性があるが、本発明において「略同じ電流」若しくは「同じ電流」と言う場合には、全く同じ電流である場合は勿論のこと、ごく小さい差異で同じ電流と見なせる程度である場合も含まれる。
ここで、上述した原理説明を具体的に当て嵌めて説明すると、主コイル及び従コイルからなるコイル群に対して導電体の表面が静止している(表面の速度が0である)場合には、主コイルと従コイルとによって導電体の表面上に誘導される渦電流による鎖交磁束は等しいため、主コイルと従コイルのインピーダンスは等しく、主コイルと従コイルとは同一の電圧波形で共振し、主コイル側と従コイル側の検出される電圧波形間には位相差は生じない。しかしながら、導電体の表面が主コイル側から従コイル側へ、又は従コイル側から主コイル側へ移動している(表面がある速度で動いている)場合には、主コイル及び従コイルと導電体の表面の渦電流との間に位置の差が生じ、主コイルと従コイルとに同じ励磁電流を印加していれば、それぞれのコイルへの鎖交磁束に相違が生じるため、主コイルと従コイルとでインピーダンスに相違が生じ、主コイル側と従コイル側とで検出される電圧波形間に位相差が生じる。
そこで、位相差検出部おいて、主コイル及び従コイルの入力側と出力側との間の一定振幅の電流による電圧波形をそれぞれ検出し、これら2つの電圧波形を比較して両者の位相差を検出する。そして、位相差/電圧変換部において、検出された2つの電圧波形の位相差の時間分を積分することにより電圧値に変換する。さらに、速度検出部においては、位相差/電圧変換部で変換された電圧値が導電体の移動速度に比例することを利用して、電圧値を導電体の移動速度を示す値を求める。このようにして求められた移動速度値を適宜に処理し出力することで、導電体の移動速度を検出できることとなる。
このように、本発明の移動速度検出器は、検出に用いる主従2つのコイルに電流を入力し、検出対象である移動中の導電体からの影響を受けた2つのコイルの電圧波形の位相差を検出することによって導電体の移動速度を検出するように構成することができる。すなわち、導電体の表面の移動速度検出に際して、直接的な検出が必要なのは2つのコイルの電圧波形の変化だけであるため、従来技術と比べると、検出器のサイズやコストを大幅に小さくしつつもより正確な速度を検出することが可能である。
このような本発明に係る導電体の移動速度検出器においては、検出対象となる導電体の表面と主従2つのコイルとの距離が一定である場合には、その離間距離に導電体の移動速度が影響されないため、検出した速度を離間距離によって補正する必要はない。しかしながら、導電体の表面と主従2つのコイルとの距離を把握する必要がある場合や、離間距離が変化するような場合には、その離間距離の検出を考慮に入れなければならない。ここで、前述したとおり、導電体がある速度で移動する場合には、通電された主コイルと従コイルとによって導電体の表面に誘導された渦電流は、微少時間では移動速度に応じて比例的に微少距離だけ移動する。このとき、渦電流の移動量に応じてその移動の上流側のコイルに与える鎖交磁束が減少し、下流側のコイルに与える鎖交磁束が増加することとなる。その結果、上流側のコイルのインダクタンスが減少し、下流側のコイルのインダクタンスが増加するため、元々は同一であった2つのコイルのインダクタンスに差が生じて、移動速度を検出することができる。導電体の表面から主コイル及び従コイルまでの距離を検出する際には、主コイルと従コイルが直列接続されている場合は、それぞれのインダクタンスの変化分は略等しいので、各コイルのインダクタンスの和は略一定となる。また、主コイル側と従コイル側とを個別に励磁している場合は、従コイル側は主コイル側と同じ電流で強制励磁されているので、並列共振周波数を検出するのは主コイル側である。そして、元々インダクタンスの変化分は微少であるから無視することができ、主コイルのインダクタンスだけでも略一定と見なすことができる。そこで、並列共振の共振周波数を検出すれば、共振回路に用いたコンデンサの容量は予め分かっているため、並列共振に関係するインダクタンスが判明する。このインダクタンスは導電体の表面と主従2つのコイルとの離間距離との関数として表すことができるため、離間距離を得ることができる。
このような原理を利用して、本発明では、上述した移動速度検出器の構成に加えて、主コイル及び従コイルの並列共振の共振周波数を検出する共振周波数検出部と、この共振周波数検出部で検出した共振周波数に基づいて算出される並列共振に関係するインダクタンスから導電体の表面と主コイル及び従コイルとの離間距離を表す値に変換する周波数/距離変換部、とをさらに設けることで、距離検出器を別途に設けることなく、移動速度検出器に距離検出器としての機能を付加することができるようにすることができる。
主コイルと従コイルとを直列に接続してコンデンサと並列共振回路を構成した場合には、主コイルと従コイルのインダクタンスの差は相殺されるため、並列共振に関係するインダクタンスは、主従2つのコイルのインダクタンス(導電体の静止時における主コイルと従コイルのインダクタンスの和)の和として得られる。また、主コイルとコンデンサとから構成される並列共振回路と従コイルとコンデンサとから構成される並列回路とを別々に設け、主コイル側に入力した電流と同じ電流を従コイル側にも流して強制励磁する場合には、インダクタンスの差は主コイルのインダクタンス(導電体が静止している場合には従コイルのインダクタンスと等しい)と比べて極めて小さいため、並列共振に関係するインダクタンスは主コイルのインダクタンス(導電体の静止時のインダクタンス)として得られる。
さらに、導電体の表面と主従2つのコイルとの距離が変化するために、その離間距離を導電体の移動速度に反映させる必要がある場合は、本発明では、速度検出部において、周波数/距離変換部により得られた離間距離を表す値に基づいて、導電体の移動速度を補正して求めるように構成することができる。このようにして補正された移動速度を適宜に出力すれば、導電体の表面と2つのコイルとの距離が変化する場合であっても、距離検出器を別途に設ける必要なく導電体の正確な移動速度を知ることができる。
また上述した本発明の移動速度検出器は、前述した従来技術の速度検出器のように、連続鋳造装置に好適に用いることができる。すなわち、本発明に係る連続鋳造装置は、溶融金属を貯留するタンディッシュと、タンディッシュから溶融金属の供給を受けて溶融金属を冷却しつつ吐出する鋳型と、タンディッシュの底部から鋳型へ前記溶融金属を供給する浸漬ノズルと、上述の移動速度検出器とを具備するものであり、移動速度検出器における主コイル及び従コイルを、浸漬ノズルの鋳型の周壁に対する一側方であって且つ鋳型内の溶融金属の表面の上方においてその表面から等距離となる位置に配置していることを特徴とするものである。
このような連続鋳造装置であれば、タンディッシュから浸漬ノズルを通じて鋳型へ注入される溶融金属の表面(メニスカス)における移動速度を、小型で正確な速度検出が可能な移動速度検出器によって検出することができるため、浸漬ノズルの内面や吐出口に介在物が堆積することによって生じる吐出量の変化と、それに伴う浸漬ノズルの交換時期を適切に把握することができ、適切な連続鋳造を行うことが可能となる。また、移動速度検出器には溶融金属の高さ(溶融金属から励磁回路上の2つの検出箇所(例えば主従2つのコイル)までの高さ)を把握するためのレベル検出器としての機能を兼ね備えさせることができるため、別途にレベル検出器を設ける必要がなく、適切なレベル管理が可能となり、溶融金属の表面レベルに応じて適切な移動速度の検出も可能となる。
本発明の移動速度検出器によれば、導電体の表面の移動速度を検出するために用いる励磁回路に一定周波数の電流を入力して励磁させ、検出対象である移動中の導電体からの影響を受けた励磁回路上の2つの検出箇所の電圧波形の位相差を検出することによって導電体の移動速度を検出するように構成したものであるため、従来技術のように導電体へ電磁場を作用させる媒体と、導電体が受けた変化を検出する媒体の2種類の媒体を別体として設ける必要がないため、検出器の小型化及び低コスト化を図ることができるうえに、従来技術のように導電体の微少な変化を検出したり処理する必要がないため、より正確に導電体表面の移動速度を検出することが可能である。さらに、本発明の移動速度検出器には、導電体の表面から励磁回路上の検出箇所までの離間距離を検出する機能を付加することができるため、速度検出と距離検出の両方の機能を兼ね備えた検出器を小型且つ低コストなものとして提供することができ、特に検出した離間距離によって移動速度を補正することで、さらに正確な導電体表面の速度検出も可能である。
そして、このような速度検出器を備えた本発明の連続鋳造装置であれば、溶融金属の表面速度を的確に検出することで、浸漬ノズルへの介在物の堆積状態を把握して、浸漬ノズルの交換時期を適切に知ることができ、さらには速度検出と併せて溶融金属のレベル検出やそれを利用した速度補正も可能であることから、小型で低コストでありながら優れた機能を有する移動速度検出器を備えた連続鋳造装置を提供することができる。このような連続鋳造装置は、より適切な連続鋳造に資するものとなる。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態及び後述する第2実施形態に係る移動速度検出器1(1’)を、連続鋳造装置100に適用した態様を模式的に示す図である。まず、連続鋳造装置100は、溶融金属である溶鋼Zが注入された取鍋110と、取鍋110から溶鋼Zが供給されるタンディッシュ120と、タンディッシュ120の底部に接続された浸漬ノズル130と、タンディッシュ120から浸漬ノズル130を通じて溶鋼Zが注入される鋳型140と、鋳型140で冷却されて押し出される鋼片を圧延する圧延装置(鋼片と圧延装置は図示省略)とを備えている。浸漬ノズル130の下端部側は鋳型140内の溶鋼Z内に挿入されており、鋳型140内の溶鋼Zの表面(メニスカス)Zaは浸漬ノズル130の下端よりも上方にある。なお、以上のような連続鋳造装置100の構成は公知であるため、詳述を省略する。
本実施形態では、この鋳型140内の溶鋼Zの表面Zaにおける移動速度とレベルとを管理するための移動速度検出器1(1’)を備えている。特にこの移動速度検出器1(1’)においては、タンディッシュ120の底部と鋳型140の上端との間において、浸漬ノズル130に対して鋳型140の1つの周壁寄りに2つのコイル(主コイル21及び従コイル22)からなるコイル群2を配置している。すなわち、本実施形態の連続鋳造装置100では、浸漬ノズル130から吐出された溶鋼Zが鋳型140内で流れを持って動いていることから、その溶鋼表面Zaの上方において、ある1つの方向に流れている溶鋼表面Zaの速度と表面高さ(溶鋼Z表面aとコイル群2までの距離)を検知し、管理することとしている。
<第1実施形態> 以下、本発明の第1実施形態における移動速度検出器1について詳述する。移動速度検出器1は、図2に示すように、直列に接続された上述の2つのコイル(主コイル21及び従コイル22)からなるコイル群2と、これら主コイル21及び従コイル22と共に並列回路Aを構成するコンデンサ3と、図示しない電源部からの電流をこの並列回路Aを並列共振させるように交流電流を供給する電源制御部4と、主コイル21と従コイルの電圧波形の位相差を検出する位相差検出部5と、位相差検出部5で検出した位相差を電圧値に変換する位相差/電圧変換部6と、位相差/電圧変換部6で得られた電圧値に基づいて溶鋼表面Zaの移動速度を示す値に変換する速度検出部7と、並列回路Aの共振周波数を検出する共振周波数検出部8と、共振周波数検出部8で検出した共振周波数を溶鋼表面Zaとコイル群2との距離(すなわち、溶鋼表面Zaの高さを表す値である)に変換する周波数/高さ変換部9とを備えている。
主コイル21と従コイル22には、インピーダンスを含めた電気的性質が等しいコイルが適用され、直列に接続されている。これら主コイル21と従コイル22は、図3に模式的に示したように、溶鋼表面Zaから等しい高さ位置hに配置される。コンデンサ3は直列接続された主コイル21及び従コイル22と並列に接続されるものであり、所定の容量のものが適用される。これら主コイル21及び前記従コイル22とコンデンサ3とによって形成された並列回路Aには、電源制御部4によって交流電流が発振されて並列共振するようになされている。なお、並列回路Aには、適宜に抵抗を設けることができる。
電源制御部4は、図示しない交流電源から供給された電流を、並列回路Aの主コイル21及び従コイル22とコンデンサ3とが並列共振するように制御する電流制御部41と、電流制御部41で制御された電流を主コイル21と従コイル22に流す電流増幅部42とを備えている。電流制御部41と電流増幅部42は、いずれも所定の励磁回路によって構成されるものである。すなわち、主コイル21と従コイル22とには、一定の等しい電流が流されており、コンデンサ3を含む並列回路Aにおいて主コイル21と従コイル22は、等しい電圧波形で並列共振するように構成されている。
ここで、電源制御部4からの発振電流によって並列回路Aを並列共振させた場合、主コイル21及び従コイル22によって生じる磁界と溶鋼表面Zaの速度vとの関係について、図3に模式的に示した原理図を用いて説明する。なお、以下の説明では、溶鋼表面Zaの流れに沿って上流側に主コイル21を配置し、下流側に従コイル22を配置しているものとする。まず、コイル群2に対して溶鋼表面Zaが静止している(同図(a))場合、電源制御部4によって励磁された並列回路A内の直列に接続されたインピーダンスの等しい主コイル21と従コイル22とによって、同図に破線で示すように磁束Φができ、磁界が形成されるが、それによって溶鋼表面Za上の位置Pに誘導される渦電流(図中、黒丸で示す)による鎖交磁束は等しいため、主コイル21と従コイル22のインピーダンスは等しいままであり、主コイル21と従コイル22は同一の電流で励磁していることから、主コイル21と従コイル22の検出される電圧波形間には位相差は生じない。一方、溶鋼表面Zaが主コイル21側から従コイル22側へある速度vで移動している場合(又は従コイル22側から主コイル21側へ速度vで移動している場合)、溶鋼表面Za上の渦電流は微少時間Δtにおいて位置Pから位置Qまで距離Δxだけ移動するため、主コイル21及び従コイル22と溶鋼表面Zaの渦電流との間に位置の差が生じ、各コイル21,22への鎖交磁束に相違が生じることから、主コイル21と従コイル22との間にインピーダンスに差が生じる。そのため、電流増幅部42からの出力電流からそのインピーダンスの変化分だけ位相差が生じることとなる。その結果、主コイル21と従コイル22とで検出される電圧波形間に、溶鋼表面Zaの速度に応じた位相差が生じる。
このような主コイル21と従コイル22の電圧間の位相差を検出するための構成として、位相差検出部5は、主コイル21の入力側と出力側との電圧波形を検出するとともに、従コイル22の入力側と出力側との電圧波形を検出し、それらを比較することで両電圧波形間の位相差を検出する機能を有するものであり、適宜の電気回路により構成される。具体的には、主コイル21及び従コイル22は、交流電流により発振されてコンデンサ3と共に並列共振しているため、図4(a)に示すとおり、主コイル21及び従コイル22の発振波形は正弦波として検出される(主コイルについては破線、従コイルについては実線で示す。以下同じ。)が、上述したように、溶鋼表面Zaが速度vで移動していることに起因して、主コイル21の電圧波形と従コイルの電圧波形との間に位相差が生じる。そこで、主コイル21及び従コイル22それぞれの電圧を基準電位と比較することで、同図(b)に示すように矩形波として出力し、さらに同図(c)に示すように、進み位相型となる従コイル22の電圧の矩形波信号を基準として、主コイル21の電圧の矩形波信号との位相差信号を測定、検出する。位相差信号は、主コイル21に基づく信号(同図に破線で示す)と、従コイル22に基づく信号(同、実線で示す)の2種類が得られる。
位相差/電圧変換部6は、位相差検出部5で検出した位相差を電圧値に変換する機能を有するものであり、適宜の電気回路により構成される。具体的には、位相差として検出した2種類の信号について、一方を時間分で積分した積分信号とし、他方を積分値の放電信号とすることで、図4(d)に示したような電圧値に変換する。なお、同図では、位相差信号に基づいて、積分信号と放電信号とを組み合わせたアナログ回路による変換方法について示しているが、デジタル回路によって位相差信号を電圧値へと変換することも可能である。すなわち、位相差信号よりも十分高い周波数のクロックパルスで位相差信号をパルス検出してデジタル化し、電圧値に変換する方法が採用できる。ただし、デジタル回路を利用した場合であっても、積分信号と放電信号とを組み合わせることについては、アナログ回路を採用した場合と変わりはない。
そして、速度検出部7は、位相差/電圧変換部6で得られた電圧値を、溶鋼表面Zaの移動速度を表す値を求める機能を有するものであり、例えば位相差/電圧変換部6に接続したコンピュータにより実現される。具体的には、溶鋼表面Zaの移動速度と位相差/電圧変換部6で得られた電圧値とは比例関係にあるため、その電圧値に所定の定数を乗じることで、溶鋼表面Zaの移動速度を表す値が得られる。この移動速度を表す値を適宜に出力することで、溶鋼表面Zaの移動速度が得られる。ところで、このようにして得られた溶鋼表面Zaの移動速度は、溶鋼表面Zaの高さ、すなわち溶鋼表面Zaとコイル群2との距離に影響を受けることから、速度検出部7では、後述する周波数/高さ変換部9による出力結果を用いて補正処理を行う。
共振周波数検出部8は、主コイル21及び従コイル22とコンデンサ3とからなる並列回路Aの共振周波数を検出するものである。この並列回路Aで検出される共振周波数に基づいて、並列共振に関係するインダクタンスを求めることができるが、主コイル21と従コイル22とは直列接続されているため、並列共振に関係するインダクタンスLは、主コイル21のインダクタンスL1と従コイル22のインダクタンスL2の和として得られる。ここで、溶鋼表面Zaにおける渦電流の移動量に応じてその移動の上流側となるコイル(図1の例で言えば主コイル21)に与える鎖交磁束が減少するためそのコイルのインダクタンスは減少し、下流側のコイル(図1の例で言えば従コイル22)に与える鎖交磁束が増加するためそのコイルのインダクタンスは増加する。しかしながら、一方のコイルのインダクタンスの増加分と他方のコイルのインダクタンスの減少分とは、主コイル21と従コイル22のインダクタンスL1,L2を足し合わせることで相殺される。また、並列回路Aに用いたコンデンサの容量Cは既知の値であることから、この並列回路Aの共振周波数fは、次式1で表される。
周波数/高さ変換部9は、共振周波数検出部8で検出した共振周波数fに基づいて、溶鋼表面Zaと主コイル21及び前記従コイル22までの高さを示す値に変換し出力するものであり、例えば周波数/高さ変換部9に接続したコンピュータにより実現される。このコンピュータは、位相差/電圧変換部6に接続したコンピュータと同じものであってもよいが、別のコンピュータを用いることを妨げるものではない。具体的には、共振周波数と高さとの関係を予めシミュレーション又は較正試験して表にしておき、検出した共振周波数fとその表とに基づいて高さを示す値が得られる。ここで、並列回路の並列共振に関係するインダクタンスLと高さhとの関係をグラフ化した図を図5に示す。同図の縦軸を上述した式1により共振周波数fに変換することで、共振周波数fと高さhとの関係が示される。すなわち、インダクタンスLが小さいほど共振周波数fが大きくなり、それに従って高さhの値が小さくなる。並列共振に関係するインダクタンスLと高さhとの関係を近似式で表すと次式2のようになる。なお、式2中、μ0は真空透磁率、x0はコイルの巻線の電線間隔、r0はコイルの電線の半径である。図5では、一例として、電線の半径を0.4mm、電線間隔を2cmとした場合において、高さhが1cmから25cmまでの範囲におけるインダクタンスLとの関係を示している。
この式2に、求められたインダクタンスLの値を適用し、高さhの式として展開することで、高さを示す値hが求まる。そして、この高さを示す値は、溶鋼表面Zaのレベル管理に用いられると共に、速度検出部7において求められた速度を示す値の補正に利用される。速度検出部7では、主コイル21と従コイル22の電圧波形の位相差から導いた溶鋼表面Zaの速度を示す値を、高さを示す値によって補正することで、溶鋼表面Zaのレベルに応じた正確な移動速度を出力することができることとなる。
このように、本実施形態では、直列接続した主コイル21と従コイル22とを溶鋼表面Zaから同じ高さ位置に設けてコンデンサ3と共に並列回路Aを構成し、主コイル21と従コイル22とに同じ電流を入力し、検出対象である溶鋼表面Zaにおける渦電流のある速度での移動によって影響を受けた主コイル21と従コイル22の電圧波形の位相差を検出することに基づいて、溶鋼表面Zaの移動速度を検出するようにしているため、従来技術のように溶鋼表面Zaへ電磁場を作用させる媒体と、導電体が受けた変化を検出する媒体の2種類の媒体を別体として設ける必要がない。また、コイル群2の並列共振の周波数に基づいて、溶鋼表面Zaからコイル群2までの高さを検出し、さらにはその高さに基づいて溶鋼表面Zaの速度を補正することも可能である。したがって、本実施形態によれば、従来技術のように溶鋼表面Zaの微少な変化を検出したり処理する必要がない移動速度検出器1を小型且つ低コストなものとして得ることができるとともに、別途に高さ検出器を設ける必要もなくすことができる。また、このような移動速度検出器1を設けた連続鋳造装置100においては、低コストで正確な溶鋼表面Zaの速度管理と高さ管理が可能となるため、浸漬ノズル130への介在物の堆積状態による溶鋼表面Zaの速度や高さの変化を正確に把握することで浸漬ノズル130の交換時期を適切に知ることができるため、より適切で安全な連続鋳造が可能となる。
<第2実施形態> 図6に機能ブロック図を示す本発明の第2実施形態における移動速度検出器1’は、第1実施形態の移動速度検出器1と同様に、主コイル21’及び従コイル22’の2つのコイルから構成されるコイル群2’(図示省略)と、電源制御部4’と、位相差検出部5’と、位相差/電圧変換部6’と、速度検出部7’と、共振周波数検出部8’と、周波数/高さ変換部9’とを備えている。以下ではこれらの各構成について、第1実施形態のものと異なる点について主に詳述する。
本実施形態の移動速度検出器1’では、主コイル21’と従コイル22’は、それぞれコンデンサ31’,32’と共に個別に並列回路B1,B2を形成している。主コイル21’と従コイル22’とにはインピーダンスを含めて電気的に等価なものが用いられ、コンデンサ31’,32’にも同じもの(同容量のもの)が適用される。このような各並列回路B1,B2をそれぞれ並列共振させる電源制御部4’は、電流制御部41’と電流増幅部42’とから構成され、さらに電流増幅部42’は、主コイル用電流増幅部42a’と従コイル用電流増幅部42b’とから構成される。電流制御部41’は、並列回路B1と並列回路B2とをそれぞれ励磁するように交流電源からの電流を制御するものであり、まず主コイル用電流増幅部42a’を通じて並列回路B1に発信電流を供給する。従コイル用電流増幅部42b’は、主コイル用電流増幅部42a’によって並列回路B1に流された電流を検出し、それと同じ電流(同じ波形の電流)を並列回路B2に流して強制的に励磁するように制御している。すなわち、主コイル21’と従コイル22’とには、同じ電流が流され、並列回路B1と並列回路B2とは同一の電流波形でそれぞれ個別に励磁されることになる。なお、並列回路B1に流される電流と並列回路B2に流される電流とは、実際には僅かに異なる可能性はあるが、本実施形態では、両電流は実質的に同じとみなせる程度であるものとする。
このように、並列回路B1が並列共振しており、それと同一の電流波形で並列回路B2を強制励磁している場合、両者は同じ電流波形で励磁されていることとなり、第1実施形態の場合と同様に、溶鋼表面Zaが図3(a)に示したように静止していれば、検出される2つの電圧波形に位相差は生じないが、同図(b)に示したように速度vで溶鋼表面Zaが移動していれば、2つの電圧波形に速度vに応じた位相差が生じることとなる。そこで、本実施形態でも、第1実施形態と同様に、位相差検出部5’によってその位相差を検出し、位相差/電圧変換部6’によって位相差を電圧値に変換し、速度検出部7’によって電圧値から溶鋼表面Zaの速度を求める。
本実施形態においても、共振周波数検出部8’において並列回路の並列共振に関係する共振周波数を検出し、その共振周波数に基づいて周波数/高さ変換部9’において溶鋼表面Zaからコイル群2’までの高さを示す値を検出し、さらに速度検出部7’において高さを示す値で速度を補正することについては、第1実施形態と変わりはない。ただし、並列共振に関係する共振周波数の検出については、主コイル21’側の並列回路B1と従コイル側22’の並列回路B2とは、並列回路B1の共振周波数で個別に励磁されていることから、検出している共振周波数fは、主コイル21’側の並列回路B1の共振周波数である。また、溶鋼表面Zaの移動によるインダクタンスの変化量ΔLは、主コイル21’のインダクタンスL1と比べて極めて小さい(L1>>ΔL)ため、本実施形態において並列共振に関係するインダクタンスLは、主コイル21’のインダクタンスL1とみなすことができる。また、主コイル21’側のコンデンサの容量も既知であるため、前掲の式1により、検出した並列回路B1の共振周波数fから、並列共振に関係するインダクタンスLを求めることができる。周波数/高さ変換部9’では、このインダクタンスLを用いて溶鋼表面Zaからコイル群2’までの高さhを求め出力することで、溶鋼表面Zaのレベル管理用の情報として利用するとともに、速度検出部7’において高さhで速度を補正し出力することで、溶鋼表面Zaの移動速度の情報として利用する。
すなわち、本実施形態の移動速度検出器1’においても、主コイル21’と従コイル22’とを溶鋼表面Zaから同じ高さ位置に設けてそれぞれコンデンサ31’,32’と個別の並列回路B1,B2を形成しているが、2つの並列回路B1,B2には同一の電流を入力することで、第1実施形態の移動速度検出器1と同様に、検出対象である溶鋼表面Zaにおける渦電流のある速度での移動によって影響を受けた主コイル21’と従コイル22’の電圧波形の位相差を検出することに基づいて、溶鋼表面Zaの移動速度を検出し、また並列共振に関する共振周波数に基づいて、溶鋼表面Zaからコイル群2’までの高さを検出し、さらにはその高さに基づいて溶鋼表面Zaの速度を補正するようにしている。そのため、移動速度検出器1’の小型化や低コスト化が可能であり、このような移動速度検出器1’を設けた連続鋳造装置100についても溶鋼表面Zaの速度管理とレベル管理を適切に行い、有用な連続鋳造が可能なものとすることができる。
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。例えば、速度検出の対象である導電体が一定の表面高さで常に移動する固体金属である場合など、その対象とコイル群との距離(高さ)に関する情報を特に要しない場合には、共振周波数検出部と周波数/距離(高さ)変換部を設ける必要はなく、速度検出部においても距離に基づいた速度の補正処理を行う必要はない。
また、移動速度検出器に、コイルやコンデンサを備えない単純な励磁回路を適用する場合、一定周波数の電流で励磁回路を励磁し、その励磁回路上において導電体の表面からの距離が等しい2箇所に設定された検出箇所において電圧波形の位相差を検出することに基づいて、導電体の表面の移動速度を検出することも可能である。適用する励磁回路が1つ(主コイルと従コイルとを直列に接続)の場合は、その回路において導電体の表面からの距離が等しくなる2箇所を検出箇所とすればよく、励磁回路を2つ設ける(主コイル側の回路と従コイル側の回路とを個別に励磁)場合は、それぞれの励磁回路を同じ電流を流し、導電体の表面からの距離が等しくなる両回路の1箇所ずつを検出箇所とすればよい。このような励磁回路を適用する場合、励磁回路が励磁電流により並列共振するものではない場合には、導電体の表面レベルが一定である検出対象の移動速度検出器として利用することが好適である。
また、本発明を、コイル群と検出対象である導電体との距離検出器としてのみ使用することも可能であり、その場合は、位相差検出部と位相差/電圧変換部と速度検出部との機能を停止するか、もしくはそれらを当初から設けない構成とすることも可能である。その他、本発明を構成する各部についても条規実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することができる。