JP2012072387A - 冶金用コークスの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺環境を模擬して石炭の軟化溶融特性を測定することにより配合炭に使用する石炭の軟化溶融特性を正確に評価し、複数の銘柄の石炭を配合してなる配合炭を用いて従来法よりも強度等の品質に優れた冶金用コークスの製造方法を提供する。
【解決手段】容器3内に充填した所定量の石炭試料1の上に上下面に貫通孔を有する材料2を配置して上下面に貫通孔を有する材料2に所定の荷重を負荷させつつ所定の加熱速度で石炭試料1を加熱することで貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離により各銘柄の石炭の軟化溶融特性を予め評価し、配合炭に配合される石炭のうち、ギーセラー最高流動度が100ddpm以上500ddpm以下の銘柄の石炭の平均浸透距離に対して浸透距離が1.6倍以上ある銘柄の石炭の配合割合を10mass%以下とする。
【選択図】図1

Description

この発明は石炭乾留時の軟化溶融特性を精度良く評価する試験方法を用いてコークス製造用石炭を評価し、その結果に基づいて配合炭に含まれる石炭の割合を調整することでコークス強度を向上させることのできる、冶金用コークスの製造方法に関するものである。
高炉で銑鉄を溶製するには、まず、高炉内に鉄鉱石類とコークスを交互に装入し、それぞれを層状に充填し、羽口より吹き込まれる高温の熱風で鉄鉱石類やコークスを加熱すると共に、コークスから発生したCOガスで鉄鉱石類を還元することが必要である。
かかる高炉の操業を安定して行うには、炉内での通気性や通液性の確保が必要であり、強度、粒度および反応後強度等の諸特性に優れたコークスが不可欠である。なかでも強度(回転強度)は、特に重要な特性と考えられている。
上述のように冶金用コークスにおいては、高炉等の竪型炉内での通気通液性を維持するため堅牢なコークスの製造が求められている。通常、冶金用コークスではJIS K 2151に示される回転強度試験等によりコークス強度の測定を行いコークス強度の管理を行っている。石炭は乾留により、軟化溶融して互いに接着し、コークスとなる。従って、石炭の軟化溶融特性の違いがコークス強度に大きな影響を及ぼしており、コークスの品質管理の観点から石炭の軟化溶融特性の評価は必要不可欠である。軟化溶融特性とは、石炭を加熱したときに軟化溶融する性質であり、通常、軟化溶融物の流動性、粘度、接着性、膨張性などにより測定、評価される。
石炭の軟化溶融特性のうち、軟化溶融時の流動性を測定する一般的な方法としては、JIS M 8801に規定されるギーセラープラストメータ法による石炭流動性試験方法が挙げられる。ギーセラープラストメータ法は、425μm以下に粉砕した石炭を所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、規定のトルクをかけた撹拌棒の回転速度を目盛板で読み取り、ddpm(dial division per minute)で表示する方法である。
ギーセラープラストメータ法がトルク一定での撹拌棒の回転速度を測定しているのに対し、定回転方式でトルクを測定する方法も考案されている。例えば、特許文献1では、回転子を一定の回転速度で回転させながらトルクを測定する方法が記載されている。
また、軟化溶融特性として物理的に意味のある粘性を測定することを目的にした、動的粘弾性測定装置による粘度の測定方法がある(例えば、特許文献2参照。)。動的粘弾性測定とは、粘弾性体に周期的に力を加えたときに見られる粘弾性挙動の測定である。特許文献2に記載の方法では、測定で得られるパラメータ中の複素粘性率により軟化溶融石炭の粘性を評価しており、任意のせん断速度における軟化溶融石炭の粘度を測定可能な点が特徴である。
さらに、石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの石炭軟化溶融物接着性を測定した例が報告されている。少量の石炭試料を活性炭、ガラスビーズで上下方向から挟んだ状態で加熱し、軟化溶融後に冷却を行い、石炭と活性炭、ガラスビーズとの接着性を外観から観察する方法である。
石炭の軟化溶融時の膨張性を測定する一般的な方法としては、JIS M 8801に規定されているジラトメーター法が挙げられる。ジラトメーター法は、250μm以下に粉砕した石炭を規定の方法で成型し、所定のるつぼに入れ、規定の昇温速度で加熱し、石炭の上部に配置した検出棒で、石炭の変位の経時変化を測定する方法である。
さらに、コークス炉内での石炭軟化溶融挙動を模擬するため、石炭軟化溶融時に発生するガスの透過挙動を改善した石炭膨張性試験方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。これは、石炭層とピストンの間、もしくは石炭層とピストンの間と石炭層の下部に透過性材料を配置し、石炭から発生する揮発分と液状物質の透過経路を増やすことで、測定環境を、よりコークス炉内の膨張挙動に近づけた方法である。同様に、石炭層の上に貫通経路を有する材料を配置し、荷重を負荷しながら石炭をマイクロ波加熱して石炭の膨張性を測定する方法も知られている(特許文献4参照。)。
特開平6−347392号公報 特開2000−304674号公報 特許第2855728号公報 特開2009−204609号公報
諸富ら著:「燃料協会誌」、Vol.53、1974年、p.779−790 宮津ら著:「日本鋼管技報」、vol.67、1975年、p.125−137
高炉等の竪型炉で所定の強度を満足していない低強度のコークスを使用した場合、竪型炉内での粉の発生量が増加し圧力損失の増大を招き、竪型炉の操業を不安定化させるとともにガスの流れが局所的に集中する、いわゆる吹き抜けといったトラブルを招く可能性がある。冶金用コークスの製造においては、複数の銘柄の石炭を所定の割合で配合した配合炭を原料として使用するのが一般的であるが、用いる石炭の軟化溶融特性を正しく評価できないと要求されているコークス強度を満足することができず、高炉の安定操業が行なえないという問題がある。そこで、経験的に軟化溶融特性の不正確さに由来するコークス強度のバラツキを考慮して目標とするコークス強度を予め高めに設定することでコークス強度を一定値以上に管理することが行われるが、軟化溶融特性に優れた比較的高価な石炭を使用して配合炭の平均的な品位を高めに設定することが必要となるため、コストの増大を招く。こうした問題の解決のため、コークス強度をよりよく制御できる新たな石炭の軟化溶融特性評価方法の開発と、それを用いたコークス強度制御方法の開発が望まれている。
コークス炉内において、軟化溶融時の石炭は隣接する層に拘束された状態で軟化溶融している。石炭の熱伝導率は小さいため、コークス炉内において石炭は一様に加熱されず、加熱面である炉壁側からコークス層、軟化溶融層、石炭層と状態が異なっている。コークス炉自体は乾留時多少膨張するがほとんど変形しないため、軟化溶融した石炭は隣接するコークス層、石炭層に拘束されている。
また、軟化溶融した石炭の周囲には、石炭層の石炭粒子間空隙、軟化溶融石炭の粒子間空隙、熱分解ガスの揮発により発生した粗大気孔、隣接するコークス層に生じる亀裂など、多数の欠陥構造が存在する。特に、コークス層に生じる亀裂は、その幅が数百ミクロンから数ミリ程度と考えられ、数十〜数百ミクロン程度の大きさである石炭粒子間空隙や気孔に比較して大きい。従って、このようなコークス層に生じる粗大欠陥へは、石炭から発生する副生物である熱分解ガスや液状物質だけではなく、軟化溶融した石炭自体の浸透も起こると考えられる。また、その浸透時に軟化溶融した石炭に作用するせん断速度は、銘柄毎に異なることが予想される。
上述したとおり、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で石炭の軟化溶融特性を測定するためには、拘束条件、浸透条件を適正にする必要がある。しかし、従来方法には以下のような問題がある。
ギーセラープラストメータ法は、石炭を容器に充填した状態での測定のため、拘束、浸透条件を全く考慮していない点で問題である。また、この方法は、高い流動性を示す石炭の測定には適さない。その理由は、高い流動性を示す石炭を測定する場合、容器内側壁部が空洞となる現象(Weissenberg効果)が起こり、撹拌棒が空転し、流動性を正しく評価できない場合があるためである(例えば、非特許文献1参照。)。
定回転方式でトルクを測定する方法についても同様に、拘束条件、浸透条件を考慮していない点で不備がある。また、せん断速度一定下での測定のため、上記で述べたように石炭の軟化溶融特性を正しく比較評価することができない。
動的粘弾性測定装置は、軟化溶融特性として粘性を対象とし、任意のせん断速度下で粘度が測定可能な装置である。よって、測定時のせん断速度を、コークス炉内での石炭に作用する値に設定すれば、コークス炉内での軟化溶融石炭の粘度を測定可能である。しかし、各銘柄のコークス炉内でのせん断速度を予め測定、または推定することは通常は困難である。
石炭の軟化溶融特性として、活性炭、またはガラスビーズを用い、それらへの接着性を測定する方法は、石炭層の存在について浸透条件を再現しようとしているものの、コークス層と粗大欠陥を模擬していない点で問題がある。また、拘束下での測定でない点でも不十分である。
特許文献3に記載されている透過性材料を用いた石炭膨張性試験方法においては、石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮しているが、軟化溶融した石炭自体の移動を考慮していない点で問題である。これは特許文献3で用いる透過性材料の透過度が、軟化溶融石炭が移動するほど十分に大きくないためである。本発明者らが実際に特許文献3に記載の試験を行ったところ、軟化溶融石炭の透過性材料への浸透は起こらなかった。したがって、軟化溶融石炭の透過性材料への浸透を起こさせるためには、新たな条件を考慮する必要がある。
特許文献4にも同様に石炭層の上に貫通経路を有する材料を配置して石炭から発生するガス、液状物質の移動を考慮した石炭の膨張性測定方法が開示されているが、加熱方法に制約があるという問題点の他、コークス炉内における浸透現象を評価するための条件が明確になっていないという問題がある。さらに特許文献4では、石炭溶融物の浸透現象と軟化溶融挙動の関係が明確になっておらず、石炭溶融物の浸透現象と生成するコークスの品質との関係についての示唆も無く、良好な品質のコークスの製造について記載されているものではない。
このように、従来技術ではコークス炉内において軟化溶融した石炭及の周辺の環境を十分に模擬した状態で、石炭の軟化溶融特性を測定することができない。
したがって本発明の目的は、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で石炭の軟化溶融特性を測定することにより配合炭に使用する石炭の軟化溶融特性を正確に評価することで、複数の銘柄の石炭を配合してなる配合炭を用いて従来法よりも強度等の品質に優れた冶金用コークスを製造するための方法を提供することにある。
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
[1]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
前記配合炭中に含まれる石炭の銘柄をあらかじめ決定し、
決定された銘柄の石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
前記配合炭に含まれるギーセラー最高流動度が100ddpm以上500ddpm以下の銘柄の石炭の平均浸透距離に対して浸透距離が1.6倍以上ある銘柄の石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とする、
ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
[2]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
前記一次回帰式におけるギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離の1.6倍未満の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10〜100mass%とする、
ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
[3]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
前記一次回帰式におけるギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離の1.6倍以上の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とする、
ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
[4]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
前記一次回帰式における配合炭の目標とするギーセラー流動度の場合の浸透距離の1.6倍未満の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10〜100mass%とする、
ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
[5]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
前記一次回帰式における配合炭の目標とするギーセラー流動度の場合の浸透距離の1.6倍以上の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とする、
ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
[6]石炭の浸透距離の測定にあたり、石炭試料の上に配置した貫通孔を有する材料に荷重を負荷させつつ行なうことを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の冶金用コークスの製造方法。
[7]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
下記(1)〜(4)の方法により測定される浸透距離が15mm以上であり、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とすることを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
(1)石炭を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭を充填密度0.8g/cmで、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを浸透距離以上の層厚となるように配置し、
(3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
[8]複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
下記(1)〜(4)の方法により測定される浸透距離が15mm未満であり、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である石炭の合計配合割合を10〜100mass%とすることを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
(1)石炭を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭を充填密度0.8g/cmで、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを浸透距離以上の層厚となるように配置し、
(3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
本発明によれば、コークス炉内での石炭軟化溶融特性に大きな影響を及ぼすと考えられる、コークス炉内での石炭軟化溶融層周辺に存在する欠陥構造、特に軟化溶融層に隣接するコークス層に存在する亀裂の影響を模擬し、また、コークス炉内での軟化溶融物周辺の拘束条件を適切に再現した状態での石炭軟化溶融特性の評価が可能であるため、特に従来の軟化溶融特性の評価方法のみでは検出することのできなかった過剰な流動性を示す石炭由来の欠陥を低減することができ、高強度の冶金用コークスが製造可能となる。
本発明で使用する石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。 本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円形貫通孔をもつものの一例を示す概略図である。 本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、球形粒子充填層の一例を示す概略図である。 本発明で使用する上下面に貫通孔を有する材料のうち、円柱充填層の一例を示す概略図である。 実施例で測定した、石炭軟化溶融物の浸透距離の測定結果を示すグラフである。 実施例で測定した、コークスの回転強度の測定結果を示すグラフである。 本発明で使用する石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ軟化溶融特性を測定する装置の一例を示す概略図である。
本発明者らは、コークス炉内において軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で軟化溶融特性を測定可能とし、測定した軟化溶融特性である「浸透距離」とコークス強度の関係について鋭意研究を重ねた結果、従来から報告されている軟化溶融特性にはほとんど差がない石炭であっても、軟化溶融した石炭の周辺の環境を模擬した状態で測定した本発明の方法による軟化溶融特性には差があることを知見した。さらに、本発明の方法で測定した軟化溶融特性に差がある石炭を配合してコークスを製造した場合には、それらのコークス強度も異なっていることを知見し、本発明に至った。
図1に本発明で使用する軟化溶融特性(浸透距離)の測定装置の一例を示す。図1は石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させて石炭試料を加熱する場合の装置である。容器3下部に石炭を充填して試料1とし、試料1の上に、上下面に貫通孔を有する材料2を配置する。試料1を軟化溶融開始温度以上に加熱し、上下面に貫通孔を有する材料2に試料を浸透させ、浸透距離を測定するものである。加熱は不活性ガス雰囲気下で行なうものとする。ここで、不活性ガスとは、測定温度域で石炭と反応しないガスを指し、代表的なガスとしてはアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等である。なお、浸透距離の測定は、石炭と貫通孔を有する材料を一定容積に保ちつつ加熱するようにしてもよい。その場合に使用する軟化溶融特性(浸透距離)の測定装置の一例を図7に示す。
図1に示す試料1と上下面に貫通孔を有する材料2に一定荷重を負荷して試料1を加熱する場合、試料1が膨張又は収縮を示し、上下面に貫通孔を有する材料2が上下方向に移動する。よって、上下面に貫通孔を有する材料2を介して試料浸透時の膨張率を測定することが可能である。図1に示すように上下面に貫通孔を有する材料2の上面に膨張率検出棒13を配置し、膨張率検出棒13の上端に荷重付加用の錘14を乗せ、その上に変位計15を配置し、膨張率を測定する。変位計15は、試料の膨張率の膨張範囲(−100%〜300%)を測定可能なものを用いれば良い。加熱系内を不活性ガス雰囲気に保持する必要があるため、非接触式の変位計が適しており、光学式変位計を用いることが望ましい。不活性ガス雰囲気としては、窒素雰囲気とすることが好ましい。上下面に貫通孔を有する材料2が粒子充填層の場合は、膨張率検出棒13が粒子充填層に埋没する可能性があるため、上下面に貫通孔を有する材料2と膨張率検出棒13の間に板を挟む措置を講ずるのが望ましい。負荷させる荷重は、試料上面に配置した上下面に貫通孔を有する材料の上面に対して、均等にかけることが好ましく、上下面に貫通孔を有する材料の上面の面積に対し、5〜80kPa、好ましくは15〜55kPa、最も好ましくは25〜50kPaの圧力を負荷することが望ましい。この圧力は、コークス炉内における軟化溶融層の膨張圧に基づいて設定することが好ましいが、測定結果の再現性、種々の石炭での銘柄差の検出力を検討した結果、炉内の膨張圧よりはやや高めの25〜50kPa程度が測定条件として最も好ましいことを見出した。
加熱手段は、試料の温度を測定しつつ、所定の昇温速度で加熱できる方式のものを用いることが望ましい。具体的には、電気炉や、導電性の容器と高周波誘導を組み合わせた外熱式、またはマイクロ波のような内部加熱式である。内部加熱式を採用する場合は、試料内温度を均一にする工夫を施す必要があり、例えば、容器の断熱性を高める措置を講ずることが好ましい。
加熱速度については、コークス炉内での石炭及び粘結材の軟化溶融挙動を模擬するという目的から、コークス炉内での石炭の加熱速度に一致させる必要がある。コークス炉内での軟化溶融温度域における石炭の加熱速度は炉内の位置や操業条件によって異なるが概ね2〜10℃/分であり、平均的な加熱速度として2〜4℃/分とすることが望ましく、もっとも望ましいのは3℃/分程度である。しかし、非微粘結炭のように流動性の低い石炭の場合、3℃/分では浸透距離や膨張が小さく、検出が困難となる可能性がある。石炭は急速加熱することによりギーセラープラストメータによる流動性が向上することが一般的に知られている。従って、例えば浸透距離が1mm以下の石炭の場合には、検出感度を向上させるために、加熱速度を10〜1000℃/分に高めて測定しても良い。
加熱を行なう温度範囲については、石炭及び粘結材の軟化溶融特性の評価が目的であるため、石炭及び粘結材の軟化溶融温度域まで加熱できればよい。コークス製造用の石炭及び粘結材の軟化溶融温度域を考慮すると、0℃(室温)〜550℃の範囲において、好ましくは石炭の軟化溶融温度である300〜550℃の範囲で所定の加熱速度で加熱すればよい。
上下面に貫通孔を有する材料は、透過係数をあらかじめ測定または算出できるものが望ましい。材料の形態の例として、貫通孔を持つ一体型の材料、粒子充填層が挙げられる。貫通孔を持つ一体型の材料としては、例えば、図2に示すような円形の貫通孔16を持つもの、矩形の貫通孔を持つもの、不定形の貫通孔を持つものなどが挙げられる。粒子充填層としては、大きく球形粒子充填層、非球形粒子充填層に分けられ、球形粒子充填層としては図3に示すようなビーズの充填粒子17からなるもの、非球形粒子充填層としては不定形粒子や、図4に示すような充填円柱18からなるものなどが挙げられる。測定の再現性を保つため、材料内の透過係数はなるべく均一で、かつ測定を簡便にするため、透過係数の算出が容易なものが望ましい。したがって、本発明で用いる上下面に貫通孔を有する材料には球形粒子充填層の利用が特に望ましい。上下面に貫通孔を有する材料の材質は、石炭軟化溶融温度域以上、具体的には600℃まで形状がほとんど変化せず、石炭とも反応しないものならば特に指定はない。また、その高さは、石炭の溶融物が浸透するのに十分な高さがあればよく、厚み5〜20mmの石炭層を加熱する場合には、20〜100mm程度あればよい。
上下面に貫通孔を有する材料の透過係数は、コークス層に存在する粗大欠陥の透過係数を推定して設定する必要がある。本発明に特に望ましい透過係数について、粗大欠陥構成因子の考察や大きさの推定など、本発明者らが検討を重ねた結果、透過係数が1×108〜2×109-2の場合が最適であることを見出した。この透過係数は、下記(1)式で表されるDarcy則に基づき導出されるものである。
ΔP/L=K・μ・u ・・・ (1)
ここで、ΔPは上下面に貫通孔を有する材料内での圧力損失[Pa]、Lは貫通孔を有する材料の高さ[m]、Kは透過係数[m-2]、μは流体の粘度[Pa・s]、uは流体の速度[m/s]である。例えば上下面に貫通孔を有する材料として均一な粒径のガラスビーズ層を用いる場合、上述の好適な透過係数を持つようにするためには、直径0.2mmから3.5mm程度のガラスビーズを選択することが望ましく、もっとも望ましいのは2mmである。
測定試料とする石炭および粘結材はあらかじめ粉砕し、所定の充填密度で所定の層厚に充填する。粉砕粒度としては、コークス炉における装入石炭の粒度(粒径3mm以下の粒子の比率が全体の70ないし80質量%程度)としてもよく、粒径3mm以下が70質量%以上となるように粉砕することが好ましいが、小さい装置での測定であることを考慮して、全量を粒径2mm以下に粉砕した粉砕物を用いることが特に好ましい。粉砕物を充填する密度はコークス炉内の充填密度に合わせ0.7〜0.9g/cm3とすることができるが、再現性、検出力を検討した結果、0.8g/cm3が好ましいことを知見した。また、充填する層厚は、コークス炉内における軟化溶融層の厚みに基づいて層厚5〜20mmとすることができるが、再現性、検出力を検討した結果、層厚は10mmとすることが好ましいことを知見した。
以上の浸透距離の測定において、代表的な測定条件を以下に記す。
(1)石炭又は粘結材を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭又は粘結材を充填密度0.8g/cmで、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
(2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを浸透距離以上の層厚となるように配置し、
(3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
(4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
石炭及び粘結材の軟化溶融物の浸透距離は、加熱中に常時連続的に測定できることが本来望ましい。しかし、常時測定は、試料から発生するタールの影響などにより、困難である。加熱による石炭の膨張、浸透現象は不可逆的であり、一旦膨張、浸透した後は冷却してもほぼその形状が保たれているので、石炭溶融物が浸透終了した後、容器全体を冷却し、冷却後の浸透距離を測定することで加熱中にどこまで浸透したかを測定するようにしてもよい。例えば、冷却後の容器から上下面に貫通孔を有する材料を取り出し、ノギスや定規で直接測定することが可能である。また、上下面に貫通孔を有する材料として粒子を使用した場合には、粒子間空隙に浸透した軟化溶融物は、浸透した部分までの粒子層全体を固着させている。したがって、前もって粒子充填層の質量と高さの関係を求めておけば、浸透終了後、固着していない粒子の質量を測定し、初期質量から差し引くことで、固着している粒子の質量を導出でき、そこから浸透距離を算出することができる。
このような浸透距離の優位性は、コークス炉内状況に近い測定方法をとることに基づいて原理的に想定されるだけではなく、コークス強度への浸透距離の影響を調査した結果からも明らかとなった。実際、本発明の評価方法により、同程度のlogMF(ギーセラープラストメータ法による最高流動度の常用対数値)を持つ石炭であっても、銘柄により浸透距離に差があることが明らかとなり、浸透距離の異なる石炭を配合してコークスを製造した場合のコークス強度に対する影響も異なることが確認された。
従来のギーセラープラストメータによる軟化溶融特性の評価では、高い流動性を示す石炭の方が石炭粒子同士を接着する効果が高いと考えられてきた。一方で、浸透距離とコークス強度との関係を調査することで、極端に浸透距離の大きい石炭を配合するとコークス化時に粗大な欠陥を残し、かつ薄い気孔壁の組織構造を形成するため、コークス強度が配合炭の平均品位から予想される値に比べて低下することが分かった。これは、浸透距離が大きすぎる石炭は、周囲の石炭粒子間に顕著に浸透することで、その石炭粒子が存在していた部分自体が大きな空洞となり、欠陥となってしまうためと推測される。特にギーセラープラストメータによる軟化溶融特性の評価において高い流動性を示す石炭においては、浸透距離の大小によりコークス中に残存する粗大な欠陥の生成量が異なることが分かった。
発明者らは、どの程度浸透距離が大きいとコークス強度に悪影響を及ぼすかについて検討し、以下の基準を得た。すなわち、配合炭中に含まれる石炭の銘柄をあらかじめ決定できる場合には、その配合炭に含まれるギーセラー最高流動度が100ddpm以上500ddpm以下の銘柄の石炭の平均浸透距離に対して浸透距離が1.6倍以上である石炭は、コークス中に粗大な欠陥を残しやすいため配合炭中にできるだけ添加しないことが望ましい。この時、平均浸透距離はそれぞれの配合比率により加重平均して求めることが好ましいが、単純平均でもよい。このように、他の石炭を基準に浸透距離の基準を定めるのは、浸透距離の測定条件によりその値が変わるためである。しかし、石炭間での浸透距離の相対的な大小関係は測定方法によらずほぼ同じ傾向となるため、このような基準を定めることができる。
事前に配合炭中に含まれる石炭の銘柄をあらかじめ決定しない場合には、次のように浸透距離の基準と、その基準を超える石炭の好ましい配合率を決めることができる。まず、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求める。その際に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の石炭の銘柄数は多いほど良く、2銘柄以上であるのが好ましく、この範囲の全銘柄で一次回帰式を求めるのが最も好ましい。その回帰式におけるギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離の1.6倍を基準として定め、その基準未満の浸透距離を持ち、かつギーセラープラストメータによる流動性評価で1000ddpm以上と比較的高い流動性を示す石炭は、その合計配合率を10mass%以上100mass%以下とすることが好ましい。このような石炭は、コークス中に粗大な欠陥を残しにくいため、配合炭中に添加することで流動性を改善する効果が得られる。このような石炭であれば配合率が高くとも問題はなく、配合率は100mass%であってもかまわないが、ギーセラー流動性の高い石炭は比較的高価であり、また炭化度の比較的低いものが多いため、配合率10〜70mass%とすることが更に好ましい。なお、ここで、ギーセラー最高流動度200ddpmにおける浸透距離を算出するのは、好適なコークスが得られる配合炭のギーセラー最高流動度の下限値が200ddpm程度とされていることに基づいている。
しかし、ギーセラープラストメータによる流動性評価で1000ddpm以上と比較的高い流動性を示す石炭であり、かつ前段落と同じ基準値以上の石炭は、コークス中に粗大な欠陥を残すため配合炭中にできるだけ添加しないことが望ましく、その石炭の合計配合率は10mass%以下とすることが望ましく、全く添加しなくてもよい。
また、浸透距離の基準値は以下のように定めることもできる。すなわち、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、その回帰式を使って配合炭の目標とするギーセラー流動度の場合の浸透距離を算出し、その浸透距離の1.6倍を基準値とする方法である。通常、配合炭のギーセラー最高流動度の目標は200〜500ddpmであり、要求される最高流動度の目標値が高いほど平均的な浸透距離も大きくなることを考慮してそれに合わせて基準値も大きめに設定するようにするのがこの方法である。
ギーセラープラストメータによる流動性評価で1000ddpm以上と比較的高い流動性を示す石炭であり、前段落に述べた基準値未満の浸透距離を有する石炭は、コークス中に粗大な欠陥を残しにくいため、配合炭中に添加することで流動性を改善する効果が得られ、そうした石炭の合計配合率は10mass%以上100mass%以下とすることが好ましい。しかし、ギーセラープラストメータによる流動性評価で1000ddpm以上と比較的高い流動性を示す石炭であり、かつその浸透距離が前記基準値以上である石炭は、コークス中に粗大な欠陥を残すため配合炭中にできるだけ添加しないことが好ましく、そうした石炭の合計配合率は10mass%以下(0mass%を含む)とすることが好ましい。
配合炭に使用する石炭は、通常、銘柄ごとに様々な品位を予め測定して使用している。浸透距離についても同様に予め銘柄のロット毎に測定しておけばよい。配合炭の平均浸透距離は、予め各銘柄での浸透距離を測定しておき、その値を配合割合に応じて平均してもよいし、配合炭を作成して浸透距離を測定しても良い。コークス製造に用いる配合炭は、石炭に加えて、粘結材、油類、粉コークス、石油コークス、樹脂類、廃棄物などを含むものであってもよい。
浸透距離の値は測定する装置の形状や測定条件により異なるが、実施例に示す測定方法を用いる場合では、通常の配合炭では配合炭に含まれるギーセラー最高流動度が100ddpm以上500ddpm以下の銘柄の石炭の平均浸透距離は7.0〜9.5mm程度の値となる。したがって、浸透距離の基準値としてはこの平均浸透距離の1.6倍すなわち、11.2〜15.2mm程度の値となる。従って、浸透距離15mmを簡易的な基準として用いれば、コークス強度に悪影響を及ぼす銘柄をほぼ確実に選択し、そのような石炭の配合率に制限を加えることができる。
石炭試料と上下面に貫通孔を有する材料に一定荷重を負荷させて石炭試料を加熱した場合の浸透距離の測定例を示す。9種類の石炭(石炭A〜I)について、浸透距離の測定を行った。使用した石炭の性状および測定結果を表1に示す。
Figure 2012072387
図1に示した装置を用い、浸透距離の測定を行った。加熱方式は高周波誘導加熱式としたため、図1の発熱体8は誘導加熱コイルであり、容器3の素材は誘電体である黒鉛を使用した。容器の直径は18mm、高さ37mmとし、上下面に貫通孔を有する材料として直径2mmのガラスビーズを用いた。粒度2mm以下に粉砕し室温で真空乾燥した石炭試料2.04gを容器3に装入し、石炭試料の上から重さ200gの錘を落下距離20mmで5回落下させることにより試料1を充填した(この状態で試料層厚は10mmとなった。)。次に直径2mmのガラスビーズを試料1の充填層の上に25mmの厚さとなるように配置した。ガラスビーズ充填層の上に直径17mm、厚さ5mmのシリマナイト製円盤を配置し、その上に膨張率検出棒13として石英製の棒を置き、さらに石英棒の上部に1.3kgの錘14を置いた。これにより、シリマナイト円盤上にかかる圧力は50kPaとなる。不活性ガスとして窒素ガスを使用し、加熱速度3℃/分で550℃まで加熱した。加熱終了後、窒素雰囲気で冷却を行い、冷却後の容器から、軟化溶融した石炭と固着していないビーズ質量を計測した。
浸透距離は固着したビーズ層の充填高さとした。ガラスビーズ充填層の充填高さと質量の関係をあらかじめ求め、軟化溶融した石炭が固着したビーズの質量よりガラスビーズ充填高さを導出できるようにした。その結果が(2)式であり、(2)式より浸透距離を導出した。
L=(G−M)×H ・・・ (2)
ここで、Lは浸透距離[mm]、Gは充填したガラスビーズ質量[g]、Mは軟化溶融物と固着していないビーズ質量[g]、Hは本実験装置に充填されたガラスビーズの1gあたりの充填層高さ[mm/g]を表す。
浸透距離測定結果とギーセラー最高流動度(Maximum Fluidity:MF)の対数値(logMF)の関係を図5に示す。図5より、本実施例で測定した浸透距離は最高流動度と相関は認められるが、同じMFであっても浸透距離の値には差がある。例えば、本装置での浸透距離の測定誤差を検討した結果、同一条件で3回試験を行った結果について標準偏差が0.6であったことを考慮すると、最高流動度がほぼ等しい石炭Eと石炭Gに対して、浸透距離に有意な差が認められた。
従来のコークス強度を推定するための石炭配合理論においては、コークス強度は主に、石炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)と、ギーセラー最高流動度(MF)の対数値(logMF)により決定されると考えられてきた(例えば、非特許文献2参照。)。そこで、配合炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)を一定とした条件で、浸透距離がコークス強度に及ぼす影響を検討した。表2に配合組成を示す。粒径3mm以下100mass%、水分8mass%に調整した配合炭16kgを嵩密度750(kg/m3)となるように乾留缶に充填し、炉壁温度1050℃で6時間、電気炉で乾留してコークスを製造した。乾留後、窒素冷却し、ドラム強度試験を実施した。JIS K 2151の回転強度試験法に準じ、15rpm、150回転で粒径6mm以上のコークスの質量割合を測定し、回転前との重量比をドラム強度DI(150/6)として算出した。
石炭BおよびE、G〜Iを配合した配合炭Kに流動性の高い(ギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度MFがいずれも1000ddpm以上)D炭およびF炭を添加して配合炭L〜Qを調製し、同じ条件で乾留して得られたコークスの強度を表2に示す(D炭およびF炭は配合炭に対し、外枠で添加しているため、配合比率の合計は100mass%を超えるものがある)。
Figure 2012072387
いずれの配合炭においても配合炭に含まれるギーセラー最高流動度が100ddpm以上500ddpm以下の銘柄の石炭の平均浸透距離は7.9mm程度であり、D炭の浸透距離はその2.4倍であり浸透距離が極端に大きい。一方、F炭の浸透距離は1.5倍である。配合炭K〜Qを同じ条件で乾留して製造したコークスについて回転強度指数DI(150/6)を測定した結果を表2および図6に示す。
配合炭Kに対してF炭を添加した場合、F炭を10mass%以上添加した配合炭MおよびNでは配合炭Kに比べて乾留後のコークス強度DI(150/6)が大幅に上昇した。F炭を5mass%添加した場合(配合炭L)では、配合炭Kに比べてDI(150/6)が0.1増加しており、F炭添加による配合炭の流動性向上によるコークス強度向上効果はF炭を15mass%添加してもその3倍程度と考えられる。したがって、配合炭M及びNでは、単なる配合炭の流動性向上ではなく、低浸透距離の高流動性石炭添加による粗大欠陥の生成抑制などの効果により大幅に強度が向上したと考えられる。一方、D炭を15mass%添加した場合(配合炭Q)では、配合炭Kから製造したコークスよりも強度DI(150/6)が低下する結果となった。石炭Dの浸透距離が大きく、コークス中に脆弱な組織(欠陥)を形成するため強度が低下したと考えられる。
したがって配合炭に対してギーセラープラストメータで測定した最高流動度MFが大きく、かつ浸透距離が小さい石炭(例えばF炭のような石炭)を10mass%以上添加すると強度を向上させることができるので、強度を一定にすれば、比較的高価な石炭を削減できる。一方、配合炭に対してギーセラープラストメータで測定した最高流動度MFが大きく、かつ浸透距離が極端に大きい石炭(例えばD炭のような石炭)を多量に配合すると強度低下を起こすので、強度を一定に維持しようとすれば、比較的高価な石炭を別途添加せざるを得なくなりコスト増を招くことになる。配合炭に対してこのような浸透距離の大きい石炭であっても使用量が10mass%以下と適正な範囲にあれば強度低下はほとんど起こらないので、コスト増を招くことはない。
このように高流動性炭はその浸透距離が大きいとコークス強度に悪影響を及ぼすことが明らかとなった。このような悪影響をもたらす石炭を区別するための浸透距離の基準値は、上記とは別の方法によっても定めることができる。すなわち、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、その回帰式を使ってギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離を算出し、その浸透距離の1.6倍を基準として定める方法である。例えば図5の30ddpm以上1000ddpmの範囲にある測定値を用いて、原点を通る一次回帰式を求めると、以下の式が得られる。
(浸透距離)=3.34×(logMF)
この回帰式を用いてギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離を推定すると浸透距離は約7.7mmとなる。従って、基準値はその1.6倍すなわち12.3mm程度となる。この基準で判断してもF炭はコークス強度に好ましい影響を及ぼし、D炭は悪影響を及ぼすことが推定できる。また、基準値として、上記一次回帰式を用いて目標とする配合炭のlogMF値から計算される浸透距離の1.6倍とすることもできる。表2の例の場合、目標とする配合炭のlogMF値は2.6〜2.7程度であるので、そのMF値から推定される浸透距離約8.7〜9.0mmの1.6倍、すなわち13.9〜14.4mmを基準値として定めることができる。なお、ここで推定される浸透距離の1.6倍を石炭の判定基準としたのは、F炭のようなコークス強度に好ましい影響を与える石炭を確実に選ぶためである。発明者らの知見によれば、MFが比較的高い石炭では、浸透距離が小さいほど好ましいことがわかっているため、判定基準の値を小さめにすることによって、より確実に好ましい石炭の配合量を増やし、好ましくない可能性のある石炭の配合率に対してより確実に制限を加えることができるようになる。
1 石炭試料
2 上下面に貫通孔を有する材料
3 容器
5 スリーブ
7 温度計
8 発熱体
9 温度検出器
10 温度調節器
11 ガス導入口
12 ガス排出口
13 膨張率検出棒
14 錘
15 変位計
16 円形貫通孔
17 充填粒子
18 充填円柱

Claims (8)

  1. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
    前記配合炭中に含まれる石炭の銘柄をあらかじめ決定し、
    決定された銘柄の石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
    前記配合炭に含まれるギーセラー最高流動度が100ddpm以上500ddpm以下の銘柄の石炭の平均浸透距離に対して浸透距離が1.6倍以上ある銘柄の石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とする、
    ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
  2. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
    石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
    次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
    前記一次回帰式におけるギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離の1.6倍未満の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10〜100mass%とする、
    ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
  3. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
    次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
    前記一次回帰式におけるギーセラー流動度が200ddpmの場合の浸透距離の1.6倍以上の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とする、
    ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
  4. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
    石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
    次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
    前記一次回帰式における配合炭の目標とするギーセラー流動度の場合の浸透距離の1.6倍未満の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10〜100mass%とする、
    ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
  5. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
    石炭の軟化溶融特性を、容器内に充填した石炭試料の上に上下面に貫通孔を有する材料を配置して前記石炭試料を加熱することで前記貫通孔へ浸透する石炭の浸透距離およびギーセラー最高流動度によりあらかじめ評価し、
    次に、ギーセラー最高流動度が30ddpm以上1000ddpm以下の1銘柄以上の石炭のギーセラー最高流動度の対数値と浸透距離の測定値に基づいて原点を通る一次回帰式を求め、
    前記一次回帰式における配合炭の目標とするギーセラー流動度の場合の浸透距離の1.6倍以上の浸透距離を有し、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である銘柄の石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とする、
    ことを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
  6. 石炭の浸透距離の測定にあたり、石炭試料の上に配置した貫通孔を有する材料に荷重を負荷させつつ行なうことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の冶金用コークスの製造方法。
  7. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
    下記(1)〜(4)の方法により測定される浸透距離が15mm以上であり、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である石炭の合計配合割合を10mass%以下(0mass%を含む)とすることを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
    (1)石炭を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭を充填密度0.8g/cmで、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
    (2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを浸透距離以上の層厚となるように配置し、
    (3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
    (4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
  8. 複数銘柄の石炭よりなる配合炭を乾留することにより冶金用コークスを製造する方法であって、
    下記(1)〜(4)の方法により測定される浸透距離が15mm未満であり、かつギーセラープラストメータ法で測定した最高流動度が1000ddpm以上である石炭の合計配合割合を10〜100mass%とすることを特徴とする冶金用コークスの製造方法。
    (1)石炭を粒径2mm以下が100質量%となるように粉砕し、該粉砕された石炭を充填密度0.8g/cmで、層厚が10mmとなるように容器に充填して試料を作成し、
    (2)該試料の上に直径2mmのガラスビーズを浸透距離以上の層厚となるように配置し、
    (3)前記ガラスビーズの上部から50kPaとなるように荷重を負荷しつつ、加熱速度3℃/分で室温から550℃まで不活性ガス雰囲気下で加熱し、
    (4)前記ガラスビーズ層へ浸透した溶融試料の浸透距離を測定する。
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