JP2012066096A - 細胞接着性を有する人工硬膜およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】一定条件下でイオンビーム照射されたePTFEを使用し、骨、筋肉と密着させることにより、時間経過過程でどのような形態学的、組織化学的変化を伴って細胞と接着するかを明らかにすること、またこの細胞接着性が臨床応用に耐え得るものであるか否かを検討することにより、提供可能となる炭素を構成元素として含む高分子材料より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる、骨及び/又は筋膜に接着性を有する材料。
【選択図】なし
Description
当初、この至適照射量で表面処理したePTFEは頭部脳神経外科手術に際しての硬膜欠損部分を補填する人工硬膜としての役割だけが考えられていた。しかし、ヒト乾燥硬膜が頭蓋底外科における頭蓋底形成の際に使用される補填材量として、脊髄疾患の手術の際の補填材量として、他の胸部腹部臓器ないし筋骨系手術の際の補填材量としても使用されてきたことを考えると、より広い応用範囲が存在すると考えるに到った。あらゆる部位において、一側では組織癒着が望まれず、他側では組織癒着が望まれる状況であれば、このNeイオンビーム照射ePTFEは広く使用できる。
即ち、本発明によれば、炭素を構成元素として含む高分子材料より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる、骨及び/又は筋膜に接着性を有する材料が提供される。
本発明の好ましい態様によれば、炭素を構成元素として含む高分子材料が、延伸ポリテトラフルオロエチエン(ePTFE)、ポリ乳酸、又はポリグラクチンである、上記の製造方法が提供される。
本発明で使用される炭素を構成元素として有する高分子材料は、生体適合性があり、操作が容易である材料であれば特に限定されず任意の材料を使用できる。本発明で好ましい高分子材料としては、延伸ポリテトラフルオロエチエン(ePTFE)、または生分解性高分子(例えば、ポリ乳酸、又はポリグラクチンなど)が挙げられ、特に延伸ポリテトラフルオロエチエン(ePTFE)が好ましい。
イオン加速エネルギーに関しては、その高低によりエネルギー伝達機構に差異が生ずるものと考えられるが、実用的には数十〜数百keV程度の範囲で設定することができ、好ましくは50〜150keV程度である。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
(1)Neイオンビーム照射により表面改質を行ったePTFEの生体接着性とイオン照射量の関係
これまでの培養細胞系を用いた実験結果から、1×1014 ions/cm2の照射量で細胞接着能が獲得されるようになり、1×1015 ions/cm2の照射量で最大の細胞接着能を示し、1×1016 ions/cm2の照射量では細胞接着能が大幅に失われることが観察されている。そこで生体内埋込み実験では、1×1014 ions/cm2照射量ePTFE、5×1014ions/cm2照射量ePTFE、1×1015 ions/cm2照射量ePTFEを使用し照射量による細胞接着性の変化を観察検討することとした。
生体内では常に細胞が動的に振る舞っており、創傷治癒機転という生体管理システムが働いている。従って生体内に埋め込まれたイオンビーム照射表面改質ePTFEの表面でも経時的に細胞接着は進行すると考えられる。超短期から、超長期迄の観察が行えれば理想的であるが、困難であるため、創の一次癒合がほぼ終了する2週間目と組織内修復機転が強まると考えられる4週間目に標本観察を絞り検討することとした。この際も照射量による変化が加味されるため、1×1014 ions/cm2照射量ePTFE、5×1014ions/cm2照射量ePTFE、1×1015 ions/cm2照射量ePTFEそれぞれについて経時観察を行うこととした。
本発明の目的の一つは、硬膜欠損を補填する際に脳に接する面では細胞接着性を持たず、頭蓋骨に接する面では細胞接着性を有する人工硬膜の開発にあった。しかし、かつてヒト乾燥硬膜が使用されていた時代には、ヒト乾燥硬膜は硬膜補填のみならず整形外科、泌尿器科、外科等でも使用されていた経緯がある。そこで、同一実験系で施行が可能な他臓器での接着性を確認することを目的として、家兎筋肉との接着実験を併せて行うこととした。
(1)試料
理化学研究所200KeVイオン注入装置を用いて厚さ0.3mm、20mm角のePTFEに対してNeイオンを加速エネルギー150KeV、照射量 1×1014、5×1014、1×1015 ions/cm2、イオンビーム電流0.5μA/cm2以下で照射した3種類の素材を作製し使用した。この3種の照射線量を選択したのは、これまでの細胞培養系を用いた基礎実験によりePTFEへの細胞接着性がイオン照射量1×1014 ions/cm2から発現し、1×1015 ions/cm2で接着効果が最大となり、1×1016 ions/cm2になると大方の接着効果が失われてしまうことを踏まえたものである。実際の実験際しては、照射素材を包埋部分の大きさに併せて、周囲からの力が掛かり難い大きさに切断して使用した。
体重2.5〜3.0Kgのオス日本白色家兎10羽を実験に使用した。イソフルラン全身麻酔下に2%キシロカインを局所注射し、頭皮を冠状縫合に沿って切開して頭骨を露出した。頭骨の表面骨膜を完全に除去した状態で試料を骨側に照射面を当てて置いた。骨上には筋組織がないため試料が移動する可能性が極めて低いと考えられるため、特に固定は行わなかった。骨膜を除去したのは、硬膜が頭骨内側骨膜の一部を担っているため、通常の手術に際して補填された人工硬膜は骨膜を有さない骨と直接接触することとなるためである。
次いで、背部傍正中に2%キシロカインを局所麻酔下に縦に皮切を置き、皮下組織を鈍的に剥離して背部筋群を露出した。背部筋群の筋膜を筋肉に傷を付けない様丁寧に剥離し、筋層上に照射面を当てるように試料を置き、四隅を軽く筋膜に縫合固定した。筋肉が存在する部分では筋の動きに伴って試料が移動してしまう可能性が強いためである。
試料を包埋移植後2週間目及び4週目にネンブタールを用いて家兎を犠牲とし、それぞれ周辺組織ごと一塊として取り出し、10%バッファーホルマリンで固定した。周辺組織ごと摘出したのはイオンビーム非処理面では組織とePTFEが全く接着していないためにePTFEと組織が分離してしまうことを避けるためである。筋上に置いた試料はそのままパラフィン包埋し、頭骨上に置いた試料は頭骨を脱灰後パラフィン包埋し、ヘマトキシリン・エオジン染色、マッソントリクローム染色を行って顕微鏡下に観察を行った。
(1)筋膜上に置いたePTFEの形態学的変化
未処置のePTFE面はこれまでも報告のある通り細胞接着は、2週目、4週目において全く観察されなかった(図1中の図1−1及び1−2)。しかし周囲組織に全く何の反応も認められないわけではない。一見するとePTFEと狭い間隙を介して表面平滑な線維性組織がePTFEを覆う形を取っているように見えるが、2週目では線維性組織のePTFEに接する面では、組織球の集簇が認められた(図1中の図1−3)。しかし、これがePTFEに対する反応性として出現してきたものか、単純に障害された組織断端の反応であるかは今回の実験からは明らかにし得なかった。4週目になると組織球集簇部位に線維性成分が増し、周囲の線維芽細胞も厚味を増してしっかりとした被膜形成の形を取ってくることが明かとなった(図1中の図1−4)。
また、処理面側ではePTFE内部に液体成分の染み込こみが確認された。非処理面ではこの様な液体成分の染み込みは認められなかった。染み込んでいる液体成分は、染色性から蛋白質を含有していると考えられるが、実際のどのような成分が染み込んでいるかは今後検討する必要がある。また、ePTFEと接着表面の強固さに直接関係する接着斑も認められ、2週目よりは4週目の方が増加する傾向を示した(図2中の図2−2)。
非処理ePTFE面で反応は筋膜上に置いた場合と全く異なる所はなかった。2週目に摘出した標本において、骨と接触したイオンビーム処理ePTFE面では1×1014 ions/cm2においても細胞接着性が認められ、組織球反応、液体成分の染み込みも認められ、接着斑も少数ながら認められた(図2中の図2−3)。筋膜上に置いた場合より細胞接着が強い印象を受けたが、客観的に証明することは出来なかった。5×1014、1×1015ions/cm2と照射量が増加するに従って線維芽細胞の接触が増加し、組織球反応、液体成分の染み込み、接着斑も増加する傾向を示した(図2中の図2−4;図3中の図3−3)。
今回の一連の実験から以下のことが明かとなった。
(1)Neイオンビーム照射ePTFEは生体内でも細胞接着性を有する。
これまでの培養細胞系を用いた実験からNeイオンビーム照射ePTFEが細胞接着性を有すようになることは明らかであった。しかし、実際の生体内ではより複雑な創傷治癒機転が存在するため、Neイオンビーム照射ePTFEに対して生体がどのように反応するかは明らかでなかった。今回の実験から、イオンビーム照射量に拘わらず多くの例で2週目には処理面に対して組織球が接着し、一部線維芽細胞も接着するすることが明かとなった。また、少数例ながら骨、筋肉に対して組織球や線維芽細胞を介さず直接骨、筋肉が接着している所見が認められた。従って、組織とNeイオンビーム照射ePTFEとの接着には組織球を主とした細胞接着因子が主体をなす場合と周辺組織が直接接着する場合が考えられる。
Neイオンビーム照射ePTFEに対する細胞接着性とイオンビーム照射量との関係については培養細胞系で明らかな関係が存在することが提示されている。しかし生体内でこの条件がそのまま当て嵌まるか否かは明らかでなかった。今回の一連の実験により、イオンビーム照射ePTFEは生体内でも培養細胞系と同様に細胞接着性を有し、接着斑を介して強固に接着することが明かとなった。しかし、生体内では組織球、貪食細胞など培養細胞系では認められない細胞の出現が接着性と強く関係していることが示唆された。Neイオンビーム照射ePTFEの細胞接着性は培養細胞系と同様に接着斑の出現状況等から1×1014、5×1014、1×1015と照射量が増加することによって増加することが明かとなった。
今回の実験でNeイオンビーム照射ePTFEと周辺組織との接着面を観察してみると、a) 表面に組織球が接着してる、b) 線維芽細胞が接着している、c) 周辺に存在している骨、筋肉が接着している、d) 組織球、線維芽細胞から接着斑が出現しePTFE内部に足を出したように接着している、という4種類の接着状況が存在することが明らかとなった。各々の状態において剥し力測定を行っている訳ではないが、組織球や線維芽細胞がePTFEの上に乗っているだけでは強固な接着性は期待できない。イオンビーム処理を行っていない面でも同様の所見が認められるからである。非照射面ではePTFEとの接着は認められない事から、Neイオンビーム照射ePTFE上に組織球、線維芽細胞がただ乗っているように見えても実際には小さな接着斑が存在している可能性が高い。
今回の実験で染色態度からタンパク質を含むと考えられる液体成分がNeイオンビーム照射ePTFE内部に染み込こんでいる所見が認められた。染込みは表面から広く染み込んでいる場所と、小さい瘻孔が存在して表面より内部に大きな広がりを見せて染込んでいる場所が認められた。
全体的に見ると接着面での反応は至適照射量で増強し、時間経過と共に強化され、接している組織によって反応態度に差があることが明かとなった。しかし、実験結果を詳細に検討すると、接着面での組織球の出現状態、線維芽細胞の出現状態、接着斑の出現状況等が必ずしもイオンビーム照射量、接している組織、反応時間等と必ずしも並行していないことが分かった。
今回の家兎を用いた生体内埋込み実験の結果から、Neイオンビーム照射ePTFEは1×1015ions/cm2照射量で最大の効果を示す充分な細胞接着性を示した。また骨、筋肉に対してほぼ同様な接着性を示した。これらの結果は、Neイオンビーム照射ePTFEが硬膜補填材料としての人工硬膜としてだけでなく、癒着性・非癒着性の二面性を持つ生体膜補填材量として様々な臨床分野において応用可能であることを示す。
Claims (1)
- 骨及び/又は筋膜に接着性を有する人工硬膜の製造のための、延伸ポリテトラフルオロエチエン(ePTFE)より構成され、表面の少なくとも一部がイオン衝撃により改質されてなる材料の使用。
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Non-Patent Citations (2)
Title |
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JPN6011015584; IONICS Vol.25, No.1(別冊), 1999, p.47-54 * |
JPN6011015587; Neurol Med Chir (Tokyo) Vol.33, 1993, p.582-585 * |
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