JP2012051830A - 胃粘膜保護剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】安全かつ効果的なHSP70産生誘導剤及びムチンタンパク産生誘導剤を提供する。
【解決手段】β-1,3-グルカンを含むヒートショック蛋白70産生誘導剤及びムチン産生誘導剤。
【選択図】図3

Description

本発明は、胃粘膜保護剤などとして使用されるヒートショック蛋白70の産生誘導剤、及びムチンタンパク産生誘導剤等に関する。
胃粘膜は、外的要因による損傷の増加や、胃粘膜の防御因子による保護システムとのバランスにより刺激を受けている。外的な損傷因子としては、エタノール、胃酸、ペプシン、活性酸素、抗炎症剤、抗ガン剤、抗生物質などの薬剤、ピロリ菌(helicobacter pylori)等が挙げられる。また、胃粘膜を保護するための防御システムとしては、ムチンタンパクの産生、炭酸イオンの増加、胃粘膜血流の調節等が複雑に関連したシステムが知られている。また、プロスタグランジンE2はこの防御システムを促進することが知られている。
近年、上記防御システムに、ヒートショック蛋白が防御因子として働いていることが明らかになってきた。細胞がストレスに曝されるとヒートショック蛋白(以下、「HSP」と略称することもある)、特にヒートショック蛋白70(HSP70)が遺伝子の翻訳レベルで誘導され、ヒートショック因子(HSF1)や細胞レベルでの調節制御を活性化するなどにより、ストレスへの抵抗性を与える(非特許文献1)。また、HSP1をノックアウト(遺伝子レベルで欠損)したマウスでは刺激誘導性の胃障害に対して感受性を示し、HSP70を導入したトランスジェニックマウスでは刺激誘導性の胃障害に抵抗性を示すことが知られている(非特許文献2)。このように、HSP70は刺激性胃傷害から胃を保護するのに重要な役割を果たすことがわかってきた。
これらの防御因子を増加させることは、刺激型の胃傷害から胃粘膜を保護するために有用である。また、これらの防御因子を増加させると、外科的治療の必要性が低くなり、患者のQOLが向上する。
また、最近、HSP70がチロシナーゼ、及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することも明らかになっている(特許文献1)。
一方、βグルカンは、きのこやカビが産生する細胞壁の成分として古くから知られており、有用な健康食品として利用されてきた。βグルカンは、免疫賦活活性から抗癌や抗癌転移効果(非特許文献3)や炎症性反応の低減にも効果があることが知られている(非特許文献4)。
また、特許文献2には、UFTの経口投与と共に、β-1,3-1,6-D-グルカンを経口投与することにより、小腸粘膜障害及び下痢が抑制されたことが記載されている。このようにβグルカンは、免疫賦活作用を通した炎症反応の低減により、種々の疾病に対して効果を示すことが報告されている。
特開2010−83804号公報 特開2010−90070号公報
Nature, 355, 6355, 33-45, 1992 Mol.Pharmacol.71(4),985-993 Immunity,19(3),311-315 Shock 27(4),397-401
本発明は、安全かつ効果的なHSP70産生誘導剤を提供することを課題とする。また、本発明は、安全かつ効果的なムチンタンパク産生誘導剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、β-1,3-グルカンがHSP70の産生、及びムチンタンパクの産生を誘導することを見出した。また、β-1,3-グルカンが、外部刺激により誘導される胃粘膜損傷を低減することを見出した。多糖がこれらの作用を有することはこれまで知られていない。本発明はこれらの知見に基づき完成されたものであり、以下のHSP70産生誘導剤、及びムチンタンパク産生誘導剤を提供する。
項1. β-1,3-グルカンを含むヒートショック蛋白70産生誘導剤。
項2. β-1,3-グルカンがβ-1,3-1,6-D-グルカンである項1に記載の剤。
項3. ヒートショック蛋白70産生誘導が粘膜におけるヒートショック蛋白70産生誘導である項1又は2に記載の剤。
項4. 粘膜が胃粘膜である項3に記載の剤。
項5. 経口投与される項1〜4のいずれかに記載の剤。
項6. 粘膜障害性の刺激に先立ち経口投与される項1〜5の何れかに記載の剤。
項7. β-1,3-グルカンを含むムチンタンパク産生誘導剤。
項8. β-1,3-グルカンがβ-1,3-1,6-D-グルカンである項7に記載の剤。
項9. ムチンタンパク産生誘導が粘膜におけるムチンタンパク産生誘導である項7又は8に記載の剤。
項10. 粘膜が胃粘膜である項9に記載の剤。
項11. 経口投与される項7〜10のいずれかに記載の剤。
項12. 粘膜障害性の刺激に先立ち経口投与される項7〜11の何れかに記載の剤。
β−1,3−グルカンは、HSP70及びムチンタンパクの産生を誘導する。HSP70及びムチンタンパクは粘膜の障害に対する重要な防御因子であることから、これらの産生を誘導する本発明の剤は、粘膜の保護剤として有用である。具体的には、粘膜細胞のアポトーシスや粘膜の炎症を抑制することにより胃粘膜を保護し、それにより、例えば、胃潰瘍や胃炎などの予防又は治療剤などとして有用である。
特に、本発明の剤は、エタノールや塩酸による粘膜の障害に対して、効果的に、HSP70及びムチンタンパクの産生を誘導することから、飲酒による胃粘膜障害(胃潰瘍、胃炎など)の予防又は治療剤や、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、ゾリンジャー・エリンソン症候群、副甲状腺機能亢進症などが原因となる胃酸過多症による胃粘膜障害の予防又は治療剤などとして有用である。特に、飲酒前に本発明の剤を投与することにより飲酒による胃粘膜障害を効果的に予防できる。また、胃酸過多症の原因となる十二指腸潰瘍、胃潰瘍、ゾリンジャー・エリンソン症候群、副甲状腺機能亢進症などの患者に本発明の剤を投与することにより胃酸過多による胃粘膜障害を効果的に予防できる。
また、本発明が提供するHSP70産生誘導剤は、HSP70の発現を誘導させ、生成されたHSP70がメラニン産生に関与するチロシナーゼや小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、その結果、メラニンの産生を抑制する。その結果、シミの予防又は改善に好適な皮膚外用剤や化粧品組成物となる。
実験例で得たオーレオバシジウム・プルランス由来のグルカンのH NMRスペクトルである。 実験例で得たオーレオバシジウム・プルランス由来のグルカンの超音波照射したときの培養液の粒度分布を示す図である。 図Aは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、エタノール投与による胃傷害を抑制したことを示す図である。図Bは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、塩酸投与による胃傷害を抑制したことを示す図である。図Cは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、エタノール投与による胃粘膜細胞のアポトーシスを抑制したことを示す写真である。 図Aは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、エタノール投与による好中球活性増大を抑制したことを示す図である。図Bは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、エタノール投与による炎症性サイトカイン及び接着因子の遺伝子レベルでの発現増大を抑制したことを示す図である。 図Aは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、胃粘膜でのHSP70の発現を増大させたことを示す写真である。図Bは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、エタノールによる胃粘膜でのムチン蛋白質量の減少を抑制したことを示す写真である。図Cは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、エタノールによるムチン蛋白質の遺伝子レベルでの発現の抑制を回復したことを示す図である。 図Aは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、胃癌細胞において、用量依存的にHSP70の発現を誘導したことを示す図である。図Bは、低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、ムチン蛋白質の遺伝子レベルでの発現を用量依存的に促進したことを示す図である。 低分子β−1,3−1,6−D−グルカンが、LPS刺激による炎症性サイトカイン及び接着因子の遺伝子レベルでの発現誘導を抑制したことを示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のHSP70産生誘導剤、及びムチンタンパク産生誘導剤は、β-1,3-グルカンを有効成分として含む。
β-1,3-グルカン
β−1,3−グルカンとしては、β−1,3−D−グルカン、β−1,3−1,6−D−グルカン、β−1,3−1,4−D−グルカン等が挙げられる。中でも、β−1,3−1,6−D−グルカンが好ましい。
これらのβ−1,3−グルカンは、酵母、担子菌(キノコ)類、かび類、乳酸菌、その他微生物等の細胞壁に大量に含まれている。また、β-1,3-グルカンを菌体外へ分泌する菌体も知られている。さらに、大麦、カラスムギ等のイネ科植物にも大量に含まれていることも知られている。中でも、オーレオバシジウム属微生物はβ−1,3−1,6−D−グルカンを主に生産するので、オーレオバシジウム属微生物由来のβ-1,3-グルカンが好ましい。
β-1,3-1,6-D-グルカンにおいて、主鎖のβ-1,3結合数に対する側鎖のβ-1,6結合数の比率である分岐度は、通常約50〜100%、好ましくは約75〜100%、より好ましくは約85〜100%であればよい。
β-1,3-1,6-D-グルカンが上記分岐度を有することは、β-1,3-1,6-D-グルカンをエキソ型のβ−1,3−グルカナーゼ(キタラーゼ M、ケイアイ化成製)で加水分解処理した場合に分解生成物としてグルコースとゲンチオビオースが遊離すること、及びNMRの積算比から確認できる(今中忠行 監修、微生物利用の大展開、1012-1015、エヌ・ティー・エス(2002))。
上記の分岐度を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が、好ましくは200cP(mPa・s)以下、より好ましくは100cP(mPa・s)以下、さらに好ましくは50cP(mPa・s)以下のものである。上記粘度の下限値は通常10cP(mPa・s)程度であり得る。
本発明において、粘度は、BM型回転粘度計を用いて測定した値である。
(a)オーレオバシジウム属微生物が生産するβ-1,3-1,6-D-グルカン
オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物由来のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有する。NMRの測定値は条件の微妙な変化によって変化し、また誤差を伴うことは周知のことであることから、「約4.7ppm」「約4.5ppm」は、通常予測される範囲の測定値の変動幅(例えば±0.2)を含む数値を意味する。
オーレオバシジウム属の微生物が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、菌体外に分泌されるため、キノコ類やパン酵母の細胞壁に含まれるβ-グルカンと比べて、回収が容易であり、また水溶性である点で好ましいものである。オーレオバシジウム属の微生物は、分子量が100万以上の高分子量のグルカンから分子量が数万程度の低分子のグルカンまでを培養条件に応じて産生することができる。
中でも、培養液が比較的低粘度であること、及びβ−1,3−1,6−D−グルカンを高生産する点で、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)が生産するものが好ましく、オーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株、又はGM-NH-1A2株(独立行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターにそれぞれFERM P-19285及びFERM P-19286として寄託済み)が産生するものが好ましい。GM-NH-1A1株及びGM-NH-1A2株は、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株の変異株である。オーレオバシジウム属K−1株は、分子量200万以上と100万程度の2種類のβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生することが知られている。
また、オーレオバシジウム属微生物が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、通常、硫黄含有基を有するところ、K-1株の産生するβ−グルカンはスルホ酢酸基を有することが知られている(Arg.Biol.Chem.,47,1167-1172(1983)),科学と工業,64,131-135(1990))。GM-NH-1A1株、及びGM-NH-1A2株が生産するβ-1,3-1,6-D-グルカンもスルホ酢酸基を有すると考えられる。オーレオバシジウム属微生物の中には、リン酸基のようなリン含有基、リンゴ酸基などを含むβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生する菌種、菌株も存在する。
GM-NH-1A1株及びGM-NH-1A2株は、後に実施例において示すようにメインピークが見かけ上50〜250万の高分子量のβ−グルカン(微粒子グルカン)とメインピークが見かけ上2〜30万の低分子量のβ−グルカンの両方を産生する菌株である。この微粒子状グルカンは、一次粒子径が0.05〜2μm程度である。
β-1,3-1,6-D-グルカンの溶解度は、pH及び温度に依存する。このβ-1,3-1,6-D-グルカンは、pH3.5、温度25℃の条件で2mg/ml水溶液を調製しようとすると、その50重量%以上が一次粒子径0.05〜2μmの微粒子を形成し、残部は水に溶解する。本発明において粒子径は、レーザー回折散乱法により測定した値である。
オーレオバシジウム属微生物が産生するβ-1,3-1,6-D-グルカンも、水溶液にしたときの粘度が、オーレオバシジウム属微生物が産生する天然型β-1,3-1,6-D-グルカンより低いものが好ましい。この低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンは、水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が、通常200cP(mPa・s)以下であり、より好ましくは100cP(mPa・s)以下であり、さらに好ましくは50cP(mPa・s)以下であり、さらにより好ましくは10cP以下である。
この低粘度グルカンは、オーレオバシジウム属微生物が産生する天然型β-1,3-1,6-D-グルカンと同様の一次構造を有し得る。具体的には、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のHNMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを有するものである。NMRの測定値は条件の微妙な変化によって変化し、また誤差を伴うことは周知のことであることから、「約4.7ppm」「約4.5ppm」は、通常予測される範囲の測定値の変動幅(例えば±0.2)を含む数値を意味する。
β-1,3-1,6-D-グルカンは、金属イオン濃度が、β-1,3-1,6-D-グルカンの固形分1g当たり0.4g以下であることが好ましく、0.2g以下であることがより好ましく、0.1g以下であることがさらにより好ましい。原料β-1,3-1,6-D-グルカンが水溶液状態のものである場合は、金属イオン濃度は、水溶液の100ml当たり120mg以下であることが好ましく、50mg以下であることがより好ましく、20mg以下であることがさらにより好ましい。
ここでいう金属イオンには、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、第3〜第5族金属イオン、遷移金属イオンなどが含まれるが、混入する可能性のある金属イオンとしては、代表的には、低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンの製造において使用されるアルカリ由来のカリウムイオン、ナトリウムイオンなどが挙げられる。金属イオン濃度は、限外ろ過や透析により調整できる。
金属イオン濃度が上記範囲であれば、水溶液状態で保存する場合や、水溶液状態で加熱滅菌する際に、β-1,3-1,6-D-グルカンのゲル化、凝集、沈殿が生じ難い。また、固形で使用する場合は、再溶解させる場合に凝集などが生じ難い。
(b)オーレオバシジウム属微生物によるβ-1,3-1,6-D-グルカンの生産方法
分岐度50〜100%のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、例えば、これを産生する微生物の培養上清に有機溶媒を添加することにより沈殿物として得ることができる。
また、オーレオバシジウム属の微生物を培養して、β-1,3-1,6-D-グルカンを産生させる方法は種々報告されている。培養培地に使用できる炭素源としては、シュークロース、グルコース、フラクトースなどの炭水化物、ペプトンや酵母エキスなどの有機栄養源等を挙げることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウムや硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの無機窒素源等を挙げることができる。場合によってはβ−グルカンの産生量を上昇させるために適宜、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの無機塩、更には鉄、銅、マンガンなどの微量金属塩やビタミン類等を添加するのも有効な方法である。
オーレオバシジウム属微生物を、炭素源としてシュークロースを含むツアペック培地にアスコルビン酸を添加した培地で培養した場合、高濃度のβ-1,3-1,6-D-グルカンを産生することが報告されている(Arg.Biol.Chem.,47,1167-1172(1983));科学と工業,64,131-135(1990);特開平7−51082号公報)。しかし、培地は、微生物が生育し、β-1,3-1,6-D-グルカンを生産するものであればよく、特に限定されない。必要に応じて酵母エキスやペプトンなどの有機栄養源を添加してもよい。
オーレオバシジウム属の微生物を上記培地で好気培養するための条件としては、10〜45℃程度、好ましくは20〜35℃程度の温度条件、3〜7程度、好ましくは3.5〜5程度のpH条件等が挙げられる。
効果的に培養pHを制御するためにアルカリ、あるいは酸で培養液のpHを制御することも可能である。更に培養液の消泡のために適宜、消泡剤を添加してもよい。培養時間は通常1〜10日間程度、好ましくは1〜4日間程度であり、これによりβ−グルカンを産生することが可能である。なお、β−グルカンの産生量を測定しながら培養時間を決めてもよい。
上記条件下オーレオバシジウム属の微生物を4〜6日間程度通気攪拌培養すると、培養液にはβ-1,3-1,6-D-グルカンを主成分とするβ−グルカン多糖が0.1%(w/v)〜数%(w/v)含有されており、その培養液の粘度はBM型回転粘度計(東機産業社製)により30℃では数百cP([mPa・s])から数千cP([mPa・s])という非常に高い粘度を有する。この培養を遠心分離して得られる上清に例えば有機溶媒を添加することにより、β-1,3-1,6-D-グルカンを沈殿物として得ることができる。
<低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンの製造方法>
上記の高粘度のβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む培養液を、常温で攪拌しながら、これにアルカリを添加すると、急激に粘度が低下する。
アルカリは、水溶性で、かつ医薬品や食品添加物として用いることができるものであればよく、特に限定されない。例えば、炭酸カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液などの炭酸アルカリ水溶液;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などの水酸化アルカリ水溶液;あるいはアンモニア水溶液などを使用できる。アルカリは、培養液のpHが12以上、好ましくは13以上になるように添加してもよい。例えば、水酸化ナトリウムを使用して培養液のpHを上げる場合は、水酸化ナトリウムの最終濃度が好ましくは0.5%(w/v)以上、より好ましくは1.25%(w/v)以上になるように添加すればよい。培養液にアルカリを添加し、良く攪拌すると、瞬時に培養液の粘度が低下する。
次いで、アルカリ処理後の培養液から菌体などの不溶性物質を分離する。培養液の粘度が低いため、菌体を自然沈降させて上澄みを回収する方法(デカント法)、遠心分離、ろ紙あるいはろ布を利用した全量ろ過、フィルタープレス、更に膜ろ過(MF膜などの限外ろ過)などの方法で、容易に不溶性物質とグルカンとを分離できる。ろ紙あるいはろ布による全量ろ過の場合は、セライトなどろ過助剤を利用するのも一つの手段である。工業的にはフィルタープレスによる菌体除去が好ましい。また、不溶性物質除去前のβ−D−グルカン液は必要に応じて水で希釈しても良い。濃度が高すぎると不溶性物質除去が困難であり、低すぎても効率的でない。β−D−グルカン濃度は、例えば0.1mg/ml〜20mg/ml程度、好ましくは0.5mg/ml〜10mg/ml程度、さらに好ましくは1mg/ml〜5mg/ml程度が良い。
次いで、グルカンを含む溶液に酸を添加して中和する。中和は、不溶物の除去前に行ってもよい。酸は、医薬や食品添加物として使用できるものであればよく、特に限定されない。例えば、塩酸、燐酸、硫酸、クエン酸、リンゴ酸などを使用できる。酸の使用量は、溶液又は培養液の液性が中性(pH5〜8程度)になるような量とすればよい。即ち、中和はpH7に合わせることを必ずしも要さない。
pH12以上のアルカリ処理後、中和して得られるβ-1,3-1,6-D-グルカンは、30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が通常200cP以下、場合によっては、100cP以下、50cP以下、又は10cP以下である。粘度は製造方法ないしは精製方法によって変動する。
アルカリ処理された低粘度のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、中和しても粘度が高くなることがない。さらに、常温(15〜35℃)では、液性をpHが4を下回るような酸性にしても、粘度が高くなることがない。
また、培養上清をアルカリ処理、及び中和した後に、菌体などを除去するのに代えて、培養上清から菌体などを除去した後に、アルカリ処理、及び中和を行うこともできる。
得られるグルカン水溶液からグルカンより低分子量の可溶性夾雑物(例えば塩類など)を除去する場合は、例えば限外ろ過を行えばよい。
また、アルカリ処理、除菌した後、中和せずに、アルカリ性条件下で限外ろ過することもでき、これにより透明性、熱安定性、長期保存性に一層優れる精製β−1,3−1,6−D−グルカンが得られる。アルカリ性条件は、pH10以上、好ましくは12以上であり、pHの上限は通常13.5程度である。
このようにして得られる水溶液に含まれるβ-1,3-1,6-D-グルカンは、乾燥させて固形製剤にする場合も、また水溶液のまま製剤として使用する場合も、一旦、水溶液から析出させることができる。β-1,3-1,6-D-グルカンの析出方法は、特に限定されないが、例えば、限外ろ過などにより濃縮してグルカン濃度を1w/w%以上にした水溶液に、エタノールのようなアルコールを、水溶液に対して容積比で等倍以上、好ましくは2倍以上添加することにより、β-1,3-1,6-D-グルカンを析出させることができる。この場合にpHをクエン酸などの有機酸によりpHを酸性、好ましくはpH4未満、さらに好ましくはpH3−3.7に調製して、エタノールを添加すると高純度のβ-1,3-1,6-グルカンの粉末を得ることができる。
β-1,3-1,6-D-グルカンを低粘度化することにより、限外ろ過などによる濃縮を容易に行えることから、アルコール沈殿に使用するアルコール量を少なくすることができる。
固形物として得る場合は、低粘度β-1,3-1,6-D-グルカン水溶液を直接乾燥させてもよく、析出させたβ-1,3-1,6-D-グルカンを乾燥させてもよい。乾燥は、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等公知の方法で行うことができる。
医薬組成物
本発明の剤は、適当な担体及び添加剤と共に製剤化して医薬組成物とすることができる。医薬組成物の剤型としては、経口投与剤(咽頭用剤を含む)、皮膚外用剤、点鼻剤、座剤などが挙げられる。中でも、胃粘膜におけるHSP70及びムチンタンパクの産生を誘導できる経口投与剤が好ましい。
<経口投与剤>
経口投与剤は、咽頭、食道、胃、腸などの粘膜にβ−1,3−グルカンを効果的に送達できる剤型である。
固形経口投与製剤の剤型としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤などが挙げられ、液体経口投与製剤の剤型としては、乳剤、液剤、シロップ剤などが挙げられる。中でも、摂取が容易である点で、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤が好ましく、液剤がより好ましい。経口投与剤は咽頭用剤としても使用できる。
固形製剤は、β-1,3-グルカンに薬学的に許容される担体や添加剤を配合して調製される。例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニットのような賦形剤;アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースのような結合剤;カルメロース、デンプンのような崩壊剤;無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、グリセロールのような安定剤などが配合される。さらに、ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウなどでコーティングしたり、カプセル化したりしてもよい。
また、液体製剤は、例えば、β-1,3-グルカンを、水、エタノール、グリセリン、単シロップ、又はこれらの混液などに、溶解又は分散させることにより調製される。これらの製剤には、甘味料、防腐剤、粘滑剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、着色剤のような添加剤が添加されていてもよい。
固形経口投与剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜99重量%が好ましく、約0.1〜50重量%がより好ましい。また、液体経口投与剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜2重量%が好ましく、約0.05〜0.5重量%がより好ましい。
上記含有量の範囲であれば、無理のない投薬量及び投薬スケジュールで、HSP70及びムチンタンパクの産生を効果的に誘導できる。
<皮膚外用剤>
皮膚外用剤は、皮膚におけるHSP70の産生を効果的に誘導できる剤型である。皮膚外用剤の剤型としては、エアゾール剤、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤等が挙げられる。中でも、塗布し易い点で、液剤、乳剤、クリーム剤、ローション剤が好ましい。
本発明の剤は、β−1,3−グルカンに、上記の剤型に応じた基剤や添加剤を加えて皮膚外用剤の剤型に製剤化すればよい。
基剤としては、精製水、生理食塩液のような溶剤;流動パラフィン、白色ワセリンのような油性成分;セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールのような高級アルコール;カルボキシビニルポリマーのような水溶性高分子;ステアリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、オレイン酸のような高級脂肪酸;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンのような多価アルコールなどが挙げられる。
また、添加剤としては、アラビアゴム、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような懸濁化剤又は増粘剤;ステアリン酸ポリオキシル40、セスキオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールのような乳化剤などが挙げられる。
皮膚外用剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.001〜5重量%が好ましく、約0.01〜1重量%がより好ましい。上記範囲であれば、HSP70の産生を効果的に誘導できる製剤となる。
<点鼻剤>
点鼻剤は、鼻粘膜におけるHSP70及びムチンタンパクの産生を効果的に誘導できる剤型である。点鼻剤には、噴霧点鼻剤、滴下点鼻剤、塗布点鼻剤などが含まれる。固形の点鼻剤は、β-1,3-グルカンに、結晶セルロースのような賦形剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドンのような結合剤、ステアリン酸マグネシウム、硬化ヒマシ油、タルクのような滑沢剤、防腐剤等を混合して調製できる。また、液体状の点鼻剤は、β-1,3-グルカンに、界面活性剤、溶解補助剤、緩衝剤等混合して調製できる。半固形の点鼻剤は、β-1,3-グルカンに、軟膏基剤、界面活性剤、溶解補助剤、緩衝剤等を混合して調製できる。
液体状の点鼻剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜10重量%が好ましく、約0.1〜5重量%がより好ましい。また、固形又は半固形状の点鼻剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜99重量%が好ましく、約0.1〜50重量%がより好ましい。
上記範囲であれば、通常の投薬量及び投薬スケジュールで、HSP70の産生及びムチンタンパクの産生を効果的に誘導できる。
<座剤>
座剤は、直腸粘膜にβ-1,3-グルカンを効果的に送達できる剤型である。
座剤は、β-1,3-グルカンを、カルボポール及びポリカルボフィルのようなアクリル性高分子;ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース性高分子;アルギン酸ナトリウム及びキトサンのような天然高分子;脂肪酸ワックスなどの基剤に配合することにより調製できる。また、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラベンのような防腐剤;塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウムのようなpH調節剤;メチオニンのような安定化剤を配合してもよい。
座剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜99重量%が好ましく、約0.1〜50重量%がより好ましい。上記範囲であれば、通常の投薬量及び投薬スケジュールで、HSP70の産生及びムチンタンパクの産生を効果的に誘導できる。
食品組成物
本発明の剤は食品組成物とすることもできる。この食品組成物は、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメントなどを含む)、保健機能食品(特定保健用食品(疾病リスク低減表示、規格基準型を含む)、条件付き特定保健用食品、栄養機能食品を含む)に好適である。
食品組成物は、食品に通常用いられる賦形剤または添加剤を配合して、錠剤、タブレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤等の剤型に調製することができる。中でも、摂取が容易である点で、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤が好ましく、液剤がより好ましい。
食品に通常用いられる賦形剤としては、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンのような結合剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコールのような潤沢剤;ジャガイモ澱粉のような崩壊剤;ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤等が挙げられる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
固形食品製剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜99重量%が好ましく、約0.1〜50重量%がより好ましい。また、液体食品製剤中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜2重量%が好ましく、約0.05〜0.5重量%がより好ましい。
上記範囲であれば、無理のない摂取量及び摂取スケジュールで、HSP70及びムチンタンパクの産生を効果的に誘導できる。
また、この食品組成物は、飲料(スポーツ飲料、ドリンク剤、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、炭酸飲料、野菜飲料、茶飲料等)、菓子類(クッキー等の焼き菓子、ゼリー、ガム、グミ、飴等)のような一般の飲食品を含むものであってもよい。中でも、摂取が容易である点で、飲料が好ましい。
固形又は半固形の食品組成物中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.01〜99重量%が好ましく、約0.1〜50重量%がより好ましい。また、液体状又は流動状の食品組成物中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、組成物全体に対して、約0.01〜10重量%が好ましく、約0.1〜5重量%がより好ましい。
上記範囲であれば、無理なく摂取できる飲食品中に、HP70及びムチンタンパクの産生を効果的に誘導できるだけのβ−1,3−グルカンが含まれることになる。
化粧品組成物
本発明の剤は、化粧品組成物とすることができる。
化粧品組成物としては、口紅、リップクリーム、リップグロス、ファウンデーション、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤、洗顔剤、ボディソープ、ハンドクリーム等のスキンケア用品やメイクアップ用品等が挙げられる。
化粧品組成物は、通常化粧品 に用いられる成分、例えば、精製水、アルコール類(低級アルコール、多価アルコールなど)、油脂類、ロウ類、炭化水素類のような基剤と、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、安定剤、防腐剤、着色剤、香料のような添加剤とを配合して調製することができる。
化粧品組成物中のβ-1,3-グルカンの含有量は、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.001〜5重量%が好ましく、約0.01〜1重量%がより好ましい。上記範囲であれば、通常の使用量で、HSP70の産生を効果的に誘導できる組成物となる。
使用方法
本発明の剤が経口投与医薬製剤、又は食品組成物である場合のβ−1,3−グルカンの1日投与量は約0.1〜1000mgが好ましく、約1〜500mgがより好ましく、約5〜200mgがさらに好ましい。また、飲酒など粘膜障害性刺激を与える約0〜3時間前、特に、約1〜1.5時間前に本発明の剤を投与することが好ましい。
また、本発明の剤が皮膚外用医薬製剤である場合のβ−1,3−グルカンの1日投与量は約0.1〜100mgが好ましく、約1〜50mgがより好ましい。
また、本発明の剤が点鼻医薬製剤である場合のβ−1,3−グルカンの1日投与量は、約0.1〜100mgが好ましく、約1〜50mgがより好ましい。
また、本発明の剤が医薬組成物の座剤である場合のβ−1,3−グルカンの1日投与量は、0.1〜1000mgが好ましく、約1〜500mgがより好ましい。
また、本発明の剤が化粧品組成物である場合は、通常の化粧品の使用方法に従えばよい。
用途
本発明の剤は、後述する実施例に示す通り、HSP70及びムチンタンパクの産生を誘導し、それにより、粘膜のアポトーシスや炎症反応を抑制する。従って、粘膜の保護剤、胃潰瘍や胃炎のような粘膜が損傷を受けている疾患の予防又は治療剤として有用である。
特に、本発明の剤は、エタノールや塩酸による粘膜の障害に対して、効果的に、HSP70及びムチンタンパクの産生を誘導することから、飲酒による胃粘膜障害(胃潰瘍、胃炎など)の予防又は治療剤や、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、ゾリンジャー・エリンソン症候群、副甲状腺機能亢進症などが原因となる胃酸過多症による胃粘膜障害の予防又は治療剤などとして有用である。
なお、本発明の剤は、抗ガン剤、抗生物質、又は抗炎症剤による消化管粘膜障害(特に、小腸粘膜障害)を除く、消化管粘膜障害の予防又は治療剤であることが好ましい。
HSP70を含むヒートショック蛋白は、変性した蛋白を正しい立体構造に折り畳み直す機能を有する。近年、蛋白質のフォールディング異常が様々な疾患の原因になっていることが明らかになり、「蛋白質フォールディング異常病」と総称されている。代表的なものは、アルツハイマー病のような神経変性疾患、及びプリオン病(いわゆる狂牛病)である。神経変性疾患は、原因蛋白質(アルツハイマー病ではβアミロイド)のフォールディングが異常になり凝集し、神経細胞が死滅したり機能を失ったりすることによって発症する。また、プリオン病は、異常型のプリオン蛋白質と接触した正常フォールディングプリオン蛋白質が異常型に変わることにより伝播する。この他にも、肺気腫、白内障、家族性高コレステロール症、ある種の糖尿病など多くの疾患において、その原因が蛋白質のフォールディング異常であることが明らかになってきた(Dig. Dis. Sci. 47, 1546-1553. (2002))。
細胞には蛋白質が正しいフォールディングを取るのを積極的に助ける一群の蛋白質が存在することが分かっており、分子シャペロンと呼ばれている。分子シャペロンは、合成されたばかりの蛋白質が正しいフォールディングをとるのを助けるだけでなく、蛋白質が目的の細胞小器官(例えば核、ミトコンドリア、小胞体など)に移動するのを助ける作用や、ストレスによってそのフォールディングが異常になった蛋白質を元に戻す作用を有する。さらに、分子シャペロンは、そのフォールディングを正常に戻せない蛋白質が、細胞に悪影響を及ぼすのを防ぐために、フォールディング異常を来した蛋白質を分解することも助ける。
実際に、試験管内、細胞レベルだけでなく、個体レベルでも、分子シャペロンが蛋白質フォールディング異常病の治療に有効であることを示唆する証拠が数多く得られている。
従って、HSP70産生を誘導する本発明の剤は、分子フォールディング異常に起因するこれらの疾患(アルツハイマー病のような神経変性疾患、クロイツフェルト・ヤコブ病のようなプリオン病、肺気腫、白内障、家族性高コレステロール症、ある種の糖尿病など)の予防又は治療剤として有用である。
また、分子シャペロンは、様々なストレス刺激で誘導され、細胞をストレスに耐性化することができる。従って、分子シャペロンは、胃潰瘍、虚血性疾患などのストレス性疾患の予防又は治療剤としても有用である( Dig. Dis. Sci. 47, 1546-1553. (2002))。
また、HSP70は、メラニン産生に関与するチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF)を制御して、メラニンの産生を抑制するので、本発明の剤は、シミの予防又は改善剤(医薬外用組成物、又は化粧品組成物)としても有用である。
対象
従って、本発明の剤の投与対象としては、健常人の他、胃粘膜障害患者、具体的には、胃潰瘍患者、胃炎患者、胃酸過多による胃粘膜障害を起す恐れがある十二指腸潰瘍、胃潰瘍、ゾリンジャー・エリンソン症候群、副甲状腺機能亢進症などの患者が対象となる。また、蛋白質フォールディング異常が原因となる疾患、例えば、アルツハイマー病のような神経性疾患、肺気腫、白内障、家族性高コレステロール症、ある種の糖尿病、クロイツフェルト・ヤコブ病のようなプリオン病の患者が好適な対象となる。また、虚血性疾患などのストレス性疾患の患者も好適な対象となる。さらに、シミ、ソバカスを有する人も好適な対象となる。
以下、本発明の実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(A)精製β-1,3-1,6-D-グルカンの製造
(1)低粘度β-1,3-1,6-D-グルカンの調製
(1-1)β−グルカンの培養産生
後掲の表1に示す組成を有する液体培地100mlを500ml容量の肩付きフラスコに入れ、121℃で、15分間、加圧蒸気滅菌を行った後、オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株(FERM P-19285)を同培地組成のスラントより無菌的に1白金耳植菌し、130rpmの速度で通気攪拌しつつ、30℃で24時間培養することにより種培養液を調製した。
次いで、同じ組成の培地200Lを300L容量の培養装置(丸菱バイオエンジ製)に入れ、121℃で、15分間、加圧蒸気滅菌し、上記のようにして得られた種培養液2Lを無菌的に植菌し、200rpm、27℃、40L/minの通気攪拌培養を行った。なお、培地のpHは水酸化ナトリウム及び塩酸を用いてpH4.2〜4.5の範囲内に制御した。96時間後の菌体濁度はOD660nmで23ODで、多糖濃度は0.5%(w/v)で、硫黄含量から計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
<多糖濃度測定>
多糖濃度は、培養液を数mlサンプリングし、菌体を遠心分離除去した後、その上清に最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを加えて多糖を沈殿させて回収した後、イオン交換水に溶解し、フェノール硫酸法で定量した。
<置換スルホ含量測定>
同様にして菌体を除去した培養上清にエタノールを最終濃度が66%となるように添加し、β−グルカンを沈殿回収した。その後、再度イオン交換水に溶解し、再度遠心分離後、その上清に最終濃度が0.9%になるように食塩を加えた後、再度66%エタノールでβ−グルカンを回収した。このβ−グルカン回収精製操作を更に2回繰り返し、得られたβ−グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ−グルカン粉末を得た。
このβ−グルカン粉末を燃焼管式燃焼吸収後、イオンクロマト法で組成分析した結果、S含量は239mg/kgであり、この値から計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
(1−2)アルカリ処理
上記のようにして得られた培養液の粘度をBM型回転粘度計(東京計器製)を用いて、30℃、12rpmで測定したところ、1500cP((mPa・s))であった。測定に用いるロータは粘度にあわせて適当なものを選択した。
この培養液に水酸化ナトリウム最終濃度が2.4%(w/v)となるように25%(w/w)水酸化ナトリウムを添加し攪拌したところ(pH13.6)、瞬時に粘度が低下した。引き続いて50%(w/v)クエン酸水溶液でpH5.0となるように中和してから、濃度0.5(w/v%)における粘度を測定したところ、そのときの粘度(30℃)は20cP([mPa・s])であった。
次いで、この培養液にろ過助剤としてKCフロック(日本製紙社製)を1wt%添加し、薮田式ろ過圧搾機(薮田機械製)を用いて菌体を除去し、最終的に培養ろ液(約230L)を得た。その多糖濃度は0.5%(w/v)で、ほぼ100%の回収率であった。
(1−3)β−グルカン水溶液の脱塩
上記のβ−グルカン水溶液(培養ろ液)を0.3%に希釈後、限外ろ過(UF)膜(分子量カット5万、日東電工社製)を用いて脱塩を行い、最終的にナトリウムイオン濃度を20mg/100mlに落とした後、50%(w/v)クエン酸水溶液によりpHを3.5に調整した。
引き続いて、ホット充填用加熱ユニット(日阪製作所製)を用いて95℃で、3分間保持することにより殺菌処理を行い、最終製品のβ−グルカン水溶液を得た。この時のβ−グルカンの濃度をフェノール硫酸法により測定したところ0.22%(w/v)であった。また、培養液からのトータル収率は約73%であった。
<硫黄含有量の測定>
また、得られたβ−グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ−グルカン粉末を得た。本β−グルカンの組成分析結果からS含量は330mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.12%であった。
<結合状態の確認>
また、脱塩を行った上記培養ろ液について、コンゴーレッド法によって、480nmから525nm付近への波長シフトを確認することができたのでβ−1,3結合を含むグルカンを含有していることが証明された(K. Ogawa, Carbohydrate Research, 67, 527-535 (1978)、今中忠行 監修, 微生物利用の大展開, 1012-1015, エヌ・ティー・エス(2002))。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.48/500μg多糖であった。
上記培養ろ液15mlを取り出し、30mlのエタノールを添加し、4℃、1000rpm、10minで遠心して、沈殿する多糖を回収した。66%エタノールで洗浄し、4℃、1000rpm、10分間遠心して、沈殿する多糖に2mlのイオン交換水と、1mlの1N水酸化ナトリウム水溶液を添加撹拌後、60℃、1時間保温して沈殿を溶解させた。次に-80℃にて凍結後、一晩、真空凍結乾燥を行い、乾燥後の粉末を1mlの1N水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させ、2次元NMRに供した。
2次元NMR(13C−H COSY NMR)106ppmと相関関係を有するH NMRスペクトルを図1に示す。このスペクトルにおいて4.7ppmと4.5ppm付近との2つのシグナルが得られた。
この結果、本β−グルカンがβ-1,3-1,6-D-グルカンであることが証明された(今中忠行 監修、微生物利用の大展開、1012-1015、エヌ・ティー・エス(2002))。それぞれのH NMRシグナルの積分比から、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.15であることが判明した。従って、主鎖のβ−1,3結合に対する側鎖のβ−1,6結合の分岐度は、約87%である。
<粒度測定>
次に、レ−ザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA−920)を用いて培養液の粒度を測定したところ、粒子としては0.3μmと100μm程度の大きさのところにピ−クが見られた。続いて、超音波を照射しながら、粒度測定を行うと、100μmのピ−クはみるみるうちに消失し、0.3μmのピ−クが増え、最終的に0.3μmのみとなった。超音波照射したときの培養液の粒度分布を図2に示す。
0.3μmのピークはβ-1,3-1,6-D-グルカンの一次粒子によるピークであり、100〜200μmのピークはβ-1,3-1,6-D-グルカンの一次粒子が凝集した二次粒子によるピークであると考えられる。
また、二次粒子はマグネチックスターラ−による攪拌、軽い振とうでも同じように消失し、容易に砕けて一次粒子になることが確認された。よって、二次粒子は非常に緩い凝集(緩凝集状態)と考えられる。
<分子量測定>
また、東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))を用いて、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルろ過クロマトグラフィーを行い、溶解β−1,3−1,6−D−グルカンとβ−1,3−1,6−Dグルカンの1次粒子とを含む溶液の分子量を測定したところ、溶解β−1,3−1,6−D−グルカンに由来する2〜30万のピークの低分子画分と、1次粒子に由来する見かけ上50〜250万の高分子画分との二種類が検出された。分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
水溶性β-1,3-1,6-D-グルカンと微粒子とを分離するため、上記の微粒子画分と可溶性画分とを含むβ-1,3-1,6-D-グルカン溶液をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。このことから、高分子画分はβ-1,3-1,6-D-グルカンの一次粒子や一次粒子が凝集した二次粒子に相当することが判明した。よって、水溶性β-1,3-1,6-D-グルカンの分子量は2〜30万と考えられる。
(2)粉末化β-グルカンの調製
(1−2)において、アルカリ処理および菌体除去処理により調製された微粒子β-1,3-1,6-D-グルカンを含むβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液に、最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを添加して、多糖グルカンを沈殿させ、遠心分離法により回収した。次いで凍結乾燥法によりエタノールと水分を除去し、乾燥β-1,3-1,6-D-グルカンを得た。そのときの収率はエタノール沈殿前の全糖濃度と比較して95%以上であった。
次いで、得られた乾燥β-1,3-1,6-D-グルカンを最終濃度が0.3%(w/v)となるように水に溶解分散後、前述したと同様にして東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ 75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))により0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルクロマトグラフィーを行い、分子量を測定したところ、得られた多糖の分子量は2〜30万のピークの低分子画分と見かけ上50〜250万の高分子画分の二種類からなることが判明した。ここで、分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
一方、水溶性β-1,3-1,6-D-グルカンと微粒子を分離するため、本法で調製したβ-1,3-1,6-D-グルカン水溶液(微粒子と可溶化グルカンを含むもの)をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。よって、本法により得られたβ-1,3-1,6-D-グルカンを乾燥させても、再溶解させれば乾燥前のβ-1,3-1,6-D-グルカンと同様の物理的挙動を再現することが実証された。
(3)高純度β-1,3-1,6-D-グルカン粉末の製造
(1)においてアルカリ処理を行い低粘度化した培養液(多糖濃度0.5%(5mg/ml))90Lを50%クエン酸水溶液9kgで中和後、濾過助剤(日本製紙ケミカル製粉末セルロ−スKCフロック)を1.8kgプレコートした薮田式濾過圧搾機40D-4を通して、菌体を取り除いた。ろ液を限外濾過スパイラルエレメント(日東電工製NTU3150−S4)で9Lまで濃縮した。本濃縮液を攪拌しながら、pHを3.0-3.5にクエン酸により調整して、エタノール18Lを加え、グルカン/エタノール/水スラリーを得た。スラリーの粘度はBM型粘度計で22mPa・s(30℃)であった。室温で3時間静置し、上澄み液(エタノール/水)約17Lを取り除いた。残ったスラリーの粘度は45mPa・s(30℃)であった。本濃縮スラリー10Lを坂本技研型の噴霧乾燥装置R-3を用いて噴霧乾燥し、360gのβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を得た(回収率80%)。得られたβ-1,3-1,6-D-グルカンの純度はNMRスペクトルの解析の結果、90%以上であった。
なお、得られたβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末を1N水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させ、NMRスペクトルを測定したところ、1H NMRスペクトルが約4.7ppm及び約4.5ppmの2つのシグナルを得た。また、得られたβ-1,3-1,6-D-グルカン粉末の濃度0.5(w/v%)の水溶液の粘度は200cP以下であった(pH5.0、30℃)。
上記記載の方法によって得られた精製β-グルカンを下記の試験に供した。
(B)エタノール又は塩酸による胃傷害マウスの作製とβ-1,3-1,6-D-グルカンの投与
上記実験例で得た高純度β-1,3-1,6-D-グルカン粉末(以下、「低分子βグルカン」という)を、ICRマウス(6〜8週齢、雄)に、それぞれ体重kgあたり0、5、20、50、100、200mg経口投与し、1時間後に100%エタノール又は1.0N塩酸をマウス体重kgあたり5ml経口投与し、胃傷害(胃潰瘍)を誘発させた。
(C)胃傷害に及ぼす低分子βグルカンの作用
(1)胃損傷インデックス
胃傷害誘発の4時間後にマウスを開腹して胃を切除し、出血性損傷(hemorrhagic damage)のスコアをつけた。出血性損傷のスコアの計算に当たっては、1mm四角の全ての創傷の面積を測定し、全ての胃損傷インデックスを与える値を合計した。
各用量で低分子βグルカンを事前経口投与した後に、エタノールを経口投与した場合の胃損傷インデックスを図3Aに示す。胃内へ100%エタノールを経口投与すると重大な胃傷害を引き起こしたが、低分子βグルカンは用量依存的に胃傷害を抑制した。低分子βグルカンには、エタノールによる胃傷害に対する保護作用があることが分る。
また、各用量で低分子βグルカンを事前経口投与した後に、塩酸を経口投与した場合の胃損傷インデックスを図3Bに示す。胃内へ1.0N塩酸を経口投与すると重大な胃傷害を引き起こしたが、低分子βグルカンは用量依存的に胃傷害を抑制した。低分子βグルカンには、塩酸による胃傷害に対する保護作用があることが分る。
(2)病理組織観察
切除胃サンプルを4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で固定し、パラフィンに埋設し、断面4μmの切片に切断した。このサンプルを、病理組織検査のために、ヘマトキシリン−エオジン染色し、Malinolで封入し、顕微鏡観察した(Olympus BX51)。
TUNELアッセイのために、切片は、最初、プロテイナーゼK(20μg/ml)と37℃、15分間インキュベートし、TdTase及びビオチン14−ATPと37℃で1時間インキュベートし、最終的に、ストレプトアビジン及びDAPIと複合させたAlexa Fluor488と37℃2時間インキュベートした。サンプルは、VECTASHIELDで封入し、蛍光顕微鏡(Olympus BX51)で観察した。
結果を図3Cに示す。図3Cから、低分子βグルカンが、エタノールによる胃粘膜細胞のアポトーシスを抑制したことが分る。即ち、低分子βグルカンの事前経口投与により胃粘膜が保護されたことが分かる。
(3)ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性
胃傷害誘発4時間後のマウスを深エーテル麻酔下に死亡させ、胃を解剖し、冷生理食塩水で洗浄し、小切片に切断した。サンプルをホモジナイズし、凍結−融解を繰り返し、遠心した。上清の蛋白濃度をAnal Biochem 72,248-254に記載の方法で測定した。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を0.5mM o−ジアニジシン、0.00005(w/v%)過酸化水素、及び20μg蛋白を含む10mMリン酸バッファーの中で決定した。反応曲線の傾きからMPO活性を得て、特異的活性を1分間にmg蛋白に変換させる過酸化水素分子の数として表現した。
白血球による炎症性反応は刺激性の胃傷害において、重要な役割を果たしている。胃の好中球(MPO)活性は、炎症性反応の指標となる。
結果を図4Aに示す。図4Aから、エタノール投与によりMPO活性は増大したが、低分子βグルカンの事前投与によりMPO活性の増大は大きく抑えられたことが分る。
(4)炎症性サイトカイン、接着因子の発現量
炎症を示す指標として、各種の炎症性サイトカイン(ケモカインを含む)、接着因子の遺伝子レベルでの発現を、リアルタイムRT−PCRにより測定した。
胃傷害誘発4時間後に切除した胃サンプルから、全RNAをRNeasyキットを用いて、添付プロトコールに従い抽出した。2.5μgのRNAを含むサンプルを、1本鎖cDNA合成キット(PrimeScript:商標)を用いて逆転写した。得られたcDNAを、iQ SYBR GREEN Supermixを用いたリアルタイムRT−PCR(Chromo 4 instrument; Bio-Rad, Hercules, CA) に供し、Opticon Monitor Software (Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて解析した。反応産物の電気泳動解析により、また鋳型又は逆転写フリーのコントロールにより特異性を確認した。全RNA存在量のノーマライズのために、gapdh 又は actin のcDNAを内部標準として用いた。
プライマーは、プライマー3ウェブサイトを用いて設計した。各タンパクを検出するためのフォワードプライマー、及びリバースプライマーをこの順に示す。
腫瘍壊死因子(TNFα):
5’-cgtcagccgatttgctatct-3’(配列番号1)
5’-cggactccgcaaagtctaag-3’(配列番号2)
IL-1β:
5’-gatcccaagcaatacccaaa-3’(配列番号3)
5’-ggggaactctgcagactcaa-3’(配列番号4)
IL- 6:
5’-ctggagtcacagaaggagtgg-3’(配列番号5)
5’-ggtttgccgagtagatctcaa-3’(配列番号6)
Macropharge inflammatory protein (MIP)-2:
5’-accctgccaagggttgacttc-3’(配列番号7)
5’-ggcacatcaggtacgatccag-3’(配列番号8)
monocyte chemoattractant protein(MCP)-1:
5’-ctcacctgctgctactcattc-3’(配列番号9)
5’-gcttgaggtggttgtggaaaa-3’(配列番号10)
vascular cell adhesion molecule (VCAM)-1:
5’-ctcctgcacttgtggaaatg-3’(配列番号11)
5’-tgtacgagccatccacagac-3’(配列番号12)
intercellular adhesion molecule (ICAM)-1:
5’-tcgtgatggcagcctcttat-3’(配列番号13)
5’-gggcttgtcccttgagtttt-3’(配列番号14)
cyclooxygenase (COX)-2:
5’-tgctatctttggggagacca-3’(配列番号15)
5’-gctcggcttccagtattgag-3’(配列番号16)
図4Bから、各種の炎症性サイトカイン(ケモカインを含む)、及び接着因子の遺伝子レベルでの発現は、エタノール投与により増大したが、低分子βグルカンの事前投与により、この増大が抑制されたことが分る。低分子βグルカンは胃の炎症を抑制したことが分る。
(5)免疫組織化学的解析・RT−PCRによる胃粘膜のHSP70及びムチンタンパクの量の測定
胃粘膜における保護因子であるHSP70、ムチンタンパクに与える低分子βグルカンの作用を検討した。
HSP70
免疫組織化学的解析のために、胃傷害誘発4時間後の胃の切片を0.3%過酸化水素のメタノール溶液と共にインキュベートし、内在的ペルオキシダーゼを除去した。切片は、2.5%ヤギ血清で10分間ブロックし、2.5%仔牛血清アルブミンの存在下で、HSP70に対する抗体(1:40希釈)と共に12時間インキュベートした。次いで、ペルオキシダーゼで標識したポリマーであってヤギ抗マウス免疫グロブリン抗体と複合させたものと共に2時間インキュベートした。次いで、3,3’−ジアミノベンジンを切片に加え、切片を最終的にメイヤーズヘマトキシリンと共にインキュベートした。サンプルをManitolで封入し、蛍光顕微鏡(Olympus BX51)で観察した。
結果を図5Aに示す。胃粘膜上でのHSP70の発現は、エタノール刺激により増大し、低分子βグルカンの事前投与により一層増大したことが分かる。
ムチンタンパク
胃傷害誘発4時間後の胃サンプルを、以下のようにしてPAS染色した。即ち、カルノア固定液(エタノール:無水酢酸=3:1)で固定し、パラフィンで封入し、4μm厚の切片に切断した。切片を1%過ヨウ素酸溶液と10分間インキュベートし、冷シッフ試薬と15分間、最後に硫酸塩溶液と2分間インキュベートした。切片をメイヤーズヘマトキシリンとインキュベートし、malinolで封入し、蛍光顕微鏡(Olympus BX51)で観察した。
結果を図5Bに示す。胃粘膜におけるムチンタンパク量は、エタノールの経口投与により減少したが、低分子βグルカンの事前経口投与により、その減少が抑制され、正常量に回復した。また、エタノールを投与せず、低分子βグルカンを投与しただけの場合、ムチンタンパク量は増大した。
胃傷害誘発4時間後の胃サンプルについて「(4)各種サイトカイン量の測定」の項目に記載した方法でRT−PCRを行い、ムチンタンパクmuc-1及びmuc-5acの遺伝子レベルでの発現量を測定した。フォワードプライマー及びリバースプライマーは以下のものを用いた。
muc-1:
5’-acacaaacccagcagtggc-3’(配列番号17)
5’-actcagctcagcggcgac-3’(配列番号18)
muc-5ac:
5’-cagccacgtccccttcaata-3’(配列番号19)
5’-accgcatttgggcatcc-3’(配列番号20)
結果を図5Cに示す。両ムチンタンパクの遺伝子レベルでの発現量は、エタノールの経口投与により抑制されたが、低分子βグルカンの事前投与により、正常レベルに回復した。
(7)イムノブロッティングによるHSP70の測定
ヒト胃癌上皮細胞AGSを、10%FBS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び10〜1000μg/mlの低分子βグルカンを含むRPMI1640培地で、5%CO295%空気の加湿雰囲気中で37℃で培養した。
全細胞抽出物をJ.Biol.Chem 278,15,12752-12758に記載された方法で調製した。サンプルの蛋白濃度をAnal Biochem 72,248-254に記載の方法で測定した。サンプルをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、ゲル中の蛋白を、HSP70蛋白抗体(R&D Systems (Minneapolis, MN).)およびムチンタンパク抗体(R&D Systems (Minneapolis, MN).)でイムノブロットした。
結果を図6Aに示す。低分子βグルカンは、胃癌細胞において、用量依存的にHSP70の発現を誘導したことが分る。なお、図6A下段のアクチンはコントロールである。
(8)ムチンタンパク遺伝子の発現に及ぼす影響
「(7)イムノブロッティングによるHSP70の測定」の項目で調整したヒト胃癌上皮細胞AGSサンプルを用いて、「(4)各種サイトカイン量の測定」の項目に記載した方法でRT−PCRを行い、ムチンタンパクmuc-1及びmuc-5acの遺伝子レベルでの発現量を測定した。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、muc−1については前記の配列番号17、18のプライマーセットを用い、muc−5acについては前記の配列番号19、20のプライマーセットを用いた。
結果を図6Bに示す。低分子βグルカンは、両ムチンタンパクの遺伝子の発現量を、用量依存的に促進したことが分る。
(9)LPS刺激による炎症性サイトカイン、接着因子の発現量に及ぼす影響
マウス腹腔浸潤液からのマクロファージの調製は、Am.J.Physiol. 277 (1 Pt 1):E110-117に記載の方法により行った。簡単に説明すると、プロテオースペプトン 10%溶液をマウス腹腔に注射し、3日間後に腹腔浸潤液細胞を回収した。次いで、得られた細胞を60mmのシャーレで4時間増殖させた。シャーレに付着していない浮遊細胞は除去し、付着細胞のみをマクロファージとして実験に使用した。腹腔浸潤液から調製したマクロファージは、βグルカンを100μg/mlの濃度下で37℃、1時間プレインキュベートし、さらにLPS(シグマ社)濃度1μg/mlとβグルカン100μg/mlの濃度下で37℃、3時間インキュベートした。このようにして得たサンプルを「(4)炎症性サイトカイン、接着因子の発現量に及ぼす影響」の項目に記載した方法でRT−PCRに供した。
結果を図7に示す。LPS刺激により炎症性サイトカイン及び接着因子の遺伝子レベルでの発現が誘導されたが、低分子βグルカンの投与により、この発現誘導が抑制されたことが分る。
本発明のHSP70産生誘導剤及びムチンタンパク産生誘導剤は粘膜の保護剤として有用であり、粘膜傷害を引き起こす胃潰瘍、胃炎などの疾患の予防又は治療剤として好適に使用できる。また、蛋白質のフォールディング異常に起因する疾患の予防又は治療剤としても好適に使用できる。また、ストレス性疾患の予防又は治療剤としても好適に使用できる。

Claims (12)

  1. β-1,3-グルカンを含むヒートショック蛋白70産生誘導剤。
  2. β-1,3-グルカンがβ-1,3-1,6-D-グルカンである請求項1に記載の剤。
  3. ヒートショック蛋白70産生誘導が粘膜におけるヒートショック蛋白70産生誘導である請求項1又は2に記載の剤。
  4. 粘膜が胃粘膜である請求項3に記載の剤。
  5. 経口投与される請求項1〜4のいずれかに記載の剤。
  6. 粘膜障害性の刺激に先立ち経口投与される請求項1〜5の何れかに記載の剤。
  7. β-1,3-グルカンを含むムチンタンパク産生誘導剤。
  8. β-1,3-グルカンがβ-1,3-1,6-D-グルカンである請求項7に記載の剤。
  9. ムチンタンパク産生誘導が粘膜におけるムチンタンパク産生誘導である請求項7又は8に記載の剤。
  10. 粘膜が胃粘膜である請求項9に記載の剤。
  11. 経口投与される請求項7〜10のいずれかに記載の剤。
  12. 粘膜障害性の刺激に先立ち経口投与される請求項7〜11の何れかに記載の剤。
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JP2018118949A (ja) * 2017-01-27 2018-08-02 日本製紙株式会社 免疫調整剤
CN114304640A (zh) * 2021-12-16 2022-04-12 南京工业大学 一种保护胃黏膜的多糖组合物及其制备方法与应用

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