本発明の歯科用キットは、カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体(a)、酸性基を有しない重合性単量体(b−1)、重合開始剤(c−1)、ならびに水(d)を含み、実質的に有機溶媒を含まない前処理組成物(A)と、
(メタ)アクリル酸エステル単位を主として含み、ハードセグメントとして機能する重合体ブロックを少なくとも1個と、アクリル酸エステルを主として含み、ソフトセグメントとして機能する重合体ブロックを少なくとも1個有するアクリル系ブロック重合体(e)、酸性基を有しない重合性単量体(b−2)、及び重合開始剤(c−2)を含む重合性組成物(B)とを含む。
まず前処理組成物(A)について説明する。前処理組成物(A)は、重合性組成物(B)の使用の前に使用されることが意図されている。前処理組成物(A)は、歯のエナメル質を脱灰する作用を有し、これにより、重合性組成物(B)のエナメル質に対する接着性を高めることができる。
カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体(a)
本発明で用いる重合性単量体(a)は、カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を有し、この酸性基は、エナメル質の脱灰を促進し、エナメル質への接着性の向上に寄与する。
本発明に用いられる重合性単量体(a)としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。重合性単量体(a)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基を少なくとも1個有する重合性単量体の具体例を下記する。なお、以下において、メタクリロイルとアクリロイルとを(メタ)アクリロイルと総称する。
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体、分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体などが挙げられる。
分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等及びこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物が挙げられる。
分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体の例としては、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
リン酸基を有する重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が例示される。
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートが例示される。
上述の重合性単量体(a)の中でも、前処理組成物として用いた場合に接着強さが良好である観点から、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、及び2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
本発明の歯科用キットにおける前処理組成物(A)中の重合性単量体(a)の配合量は、前処理組成物(A)に含まれる重合性単量体及び水の総量100重量部中において、0.1〜30重量部が好ましく、1〜25重量部がより好ましい。なお、重合性単量体及び水の総量とは、重合性単量体(a)、重合性単量体(b−1)、及び水(d)の合計量のことをいう。
酸性基を有しない重合性単量体(b−1)
本発明で用いる重合性単量体(b−1)は、酸性基(リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等)を含まない重合性単量体であり、硬化物の重合度を向上させ接着力を向上させる。重合性単量体(b−1)には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。重合性単量体(b−1)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。
酸性基を有しない重合性単量体(b−1)としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等の有機酸の脂肪族エステル類、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、ビスフェノールA骨格を有する(メタ)アクリレート単量体が例示される。なかでも、脂肪族(メタ)アクリル酸エステル、脂肪族(メタ)アクリルアミド、及びビスフェノールA骨格を有する(メタ)アクリレート単量体が、硬化速度及び、硬化物の機械的物性、耐水性、耐着色性等の観点から好適に用いられる。
酸性基を有しない脂肪族(メタ)アクリル酸エステル及び脂肪族(メタ)アクリルアミドの具体例を以下に示す。なお、本明細書において、「一官能性」、「二官能性」及び「三官能性以上」とは、それぞれ、(メタ)アクリロイル基のようなラジカル重合性基を、一個、二個及び三個以上有することを意味する。
一官能性脂肪族(メタ)アクリル酸エステル及び脂肪族(メタ)アクリルアミド
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
また、下記の一般式(I)で示されるフルオロカーボン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。
CH2=C(R1)COO−R2−Rf (I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2はアルキレン基を示し、Rfはパーフルオロアルキル基を示し、R2−Rfの炭素数は4〜10であり、かつ、R2−Rfの炭素原子に結合する原子のうちフッ素原子が占める割合は50個数%以上である。)
二官能性脂肪族(メタ)アクリル酸エステル
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロイルオキシプロパン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなどが挙げられる。
三官能性以上の脂肪族(メタ)アクリル酸エステル
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタンなどが挙げられる。
酸性基を有しないビスフェノールA骨格を有する(メタ)アクリレート単量体の具体例を以下に示す。2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(通称「Bis−GMA」)、2−[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]−2−[4−〔2,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(通称「Bis3」)、2−[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]−2−〔4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル〕プロパン、2−[4−〔(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]−2−〔4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル〕プロパン、2−[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]−2−〔4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
上述の重合性単量体(b−1)の中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロイルオキシプロパン、Bis−GMAが好ましい。
本発明の歯科用キットにおける前処理組成物(A)中の重合性単量体(b−1)の配合量は、前処理組成物(A)に含まれる重合性単量体及び水の総量100重量部中において、0.1〜70重量部が好ましく、1〜60重量部がより好ましい。
重合開始剤(c−1)
重合開始剤(c−1)は、前処理組成物(A)に硬化性を付与する。本発明に用いられる重合開始剤(c−1)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。特に、光重合開始剤が好ましく、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
重合開始剤(c−1)としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。これらの具体例としては、国際公開第2008/087977号パンフレットに記載のものが挙げられる。
これらの重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、並びにα−ジケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す組成物が得られる。
重合開始剤(c−1)の配合量は特に限定されないが、光硬化性の観点から、前処理組成物(A)に含まれる重合性単量体の総量100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましい。
なお、重合開始剤(c−1)を使用する際には、光重合を促進する目的で、公知の重合促進剤と組み合わせて用いてもよい。従って、前処理組成物(A)は、重合促進剤を含んでいてもよい。
重合促進剤としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などを用いることができ、これらの具体例としては、国際公開第2008/087977号パンフレットに記載のものが挙げられ、アミン類が好ましい。
本発明の前処理組成物(A)には水(d)が含まれる。水(d)は、エナメル質の脱灰促進に寄与する。
水は、悪影響を及ぼすような不純物を含有していないことが好ましく、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
本発明の歯科用キットにおける前処理組成物(A)中の水(d)の配合量は、前処理組成物(A)に含まれる重合性単量体及び水の総量100重量部中において0.1〜70重量部が好ましく、1〜60重量部がより好ましい。
前処理組成物(A)には、上記(a)〜(d)成分が配合される一方で、有機溶媒が実質的に含まれていない。
組成物が有機溶媒を含む場合、短時間のエアブロー処理で有機溶媒を十分に揮発させることは簡単ではなく、残存する有機溶媒が、接着性に悪影響を及ぼし得る。従って、前処理組成物(A)が有機溶媒を実質的に含まないことによって、操作性及び接着の信頼性が高いものとなる。
有機溶剤としては、具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジール、ブテンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、アリルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンエーテル等のアルコール類又はエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
有機溶媒を実質的に含んでいないとは、組成物中に有機溶媒を全く含んでいない状態だけでなく、エアブロー処理に実質的に影響を与えない範囲であるならば前処理組成物(A)の各成分に付随等して有機溶媒が極僅かに混入しているような状態は許容されることを意味する。具体的には、前処理組成物(A)に含まれる重合性単量体及び水の総量100重量部に対して、有機溶媒が1重量部以下程度に含有される場合も、実質的に有機溶媒を含んでいない状態として許容される。
pHは歯質の脱灰に影響するため、前処理組成物(A)の25℃におけるpHは、4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、2.2以下がさらに好ましい。なお、前処理組成物(A)のpHは、重合性単量体(a)の配合量を調整することにより、またpH調整剤を配合することにより調整することができる。pH調整剤としては、歯科用途に用いられている公知のものを用いることができ、例としては脂肪族アミン、芳香族アミン等の還元性化合物が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N−メチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、N−エチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミントリ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミン等が例示される。
芳香族アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。
続いて、重合性組成物(B)について記載する。重合性組成物(B)は、前処理組成物(A)の使用の後に用いられることが意図されており、歯科用キットの用途に応じた特性を有する硬化物を与える組成物である。
アクリル系ブロック共重合体(e)
本発明で用いるアクリルブロック共重合体(e)は、(メタ)アクリル酸エステル単位を主として含み、ハードセグメントとして機能する重合体ブロックA[以下単に「重合体ブロックA」という]を少なくとも1個と、アクリル酸エステル単位を主として含み、ソフトセグメントとして機能する重合体ブロックB[以下単に「重合体ブロックB」という]を少なくとも1個有する。従って、アクリルブロック共重合体(e)は、エラストマーとして機能する。
本発明において、「主として含む」とは、重合体ブロックの全モノマー単位(繰り返し単位)において、該当するモノマー単位が、50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含まれることをいう。
重合体ブロックAを構成する(メタ)アクリル酸エステル単位は、重合体ブロックAがエラストマーのハードセグメントとして機能する限り特に制限はない。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタアクリル酸エステルが好ましく、例として、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル等が挙げられる。これらの中で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソボルニル及びメタクリル酸t−ブチルを用いた場合には、重合体ブロックAのガラス転移温度が高くなり、重合体ブロックAが高い凝集力を発現して、重合性組成物(B)の硬化物が優れた強度を発現するため好ましい。重合体ブロックAに、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位が含まれていてもよい。
アクリル系ブロック共重合体(e)における重合体ブロックAの含有量は、1〜75重量%の範囲内が好ましく、1.5〜60重量%の範囲内であることがより好ましく、3〜50重量%の範囲内であることがさらに好ましい。重合体ブロックAの含有量が1〜75重量%の範囲内にある場合、重合性組成物(B)の硬化物に適切な柔軟性が付与される。
重合体ブロックBを構成するアクリル酸エステル単位としては、重合体ブロックBがエラストマーのソフトセグメントとして機能する限り特に制限はない。従って、重合体ブロックAがアクリル酸エステル単位を主に含む場合でも、該アクリル酸エステル単位は、重合体ブロックBが主に含むアクリル酸エステル単位とは異なる。アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノエチル)等が挙げられる。これらの中で、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルを用いた場合には、重合体ブロックBのガラス転移温度が低くなり、重合性組成物(B)の硬化物が優れた柔軟性を発現するため好ましい。重合体ブロックBに、2種以上のアクリル酸エステル単位が含まれていてもよい。
アクリル系ブロック共重合体(e)における重合体ブロックBの含有量は、25〜99重量%の範囲内が好ましく、40〜98.5重量%の範囲内であることがより好ましく、50〜97重量%の範囲内であることがさらに好ましい。重合体ブロックAの含有量が25〜99重量%の範囲内にある場合、重合性組成物(B)の硬化物に適切な柔軟性が付与される。
重合体ブロックA及び重合体ブロックBについて、本発明の効果を損なわない範囲で、重合体ブロックAに重合体ブロックBを構成するアクリル酸エステル単位が含まれていてもよく、同様に、重合体ブロックBに重合体ブロックAを構成する(メタ)アクリル酸エステル単位が含まれてもよい。さらに、これらの重合体ブロックには、本発明の効果を損なわない範囲で、他のモノマー単位が含まれてもよい。他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するビニル系モノマー;(メタ)アクリルアミド;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;ε−カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系モノマー等が挙げられる。
アクリル系ブロック共重合体(e)は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとが結合している限り、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はそれらの2つ以上が組合わさった結合形式のいずれでもよい。それらの中でも、重合体ブロックAと重合体ブロックBの結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては、重合体ブロックAを「A」、重合体ブロックBを「B」としたときに、A−Bで示されるジブロック共重合体、A−B−Aで示されるトリブロック共重合体、A−B−A−Bで示されるテトラブロック共重合体、A−B−A−B−Aで示されるペンタブロック共重合体などを挙げることができる。それらの中でも、アクリル系ブロック共重合体(e)の製造の容易性、重合性組成物(B)の硬化物の柔軟性に優れる点から、ジブロック共重合体(A−B)、トリブロック共重合体(A−B−A)が好ましく用いられ、トリブロック共重合体(A−B−A)がさらに好ましく用いられる。
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(e)の重量均分子量(Mw)は、アクリル系ブロック共重合体(e)の酸性基を有しない重合性単量体(b−2)に対する溶解性、重合性組成物(B)の硬化物の柔軟性の観点から、5000〜500000の範囲内であることが好ましく、10000〜200000の範囲内であることがより好ましく、30000〜150000の範囲内であることがさらに好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(e)の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、アクリル系ブロック共重合体(e)の酸性基を有しない重合性単量体(b−2)に対する溶解性、重合性組成物(B)の硬化物の透明性の観点から、1.0〜1.5であることが好ましく、1.0〜1.4であることがより好ましく、1.0〜1.3であることがさらに好ましい。
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(e)の製造方法は、化学構造に関する本発明の条件を満足する共重合体が得られる限りにおいて、特に限定されることはなく、公知の手法に準じた方法を採用することができる。狭い分子量分布のブロック共重合体を得る方法としては、構成単位となるモノマーをリビング重合する方法が採用される。リビング重合によれば、分子量分布が1.0〜1.3のブロック共重合体を得ることも可能である。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機希土類錯体を重合開始剤として重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩等の鉱酸塩存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、原子移動ラジカル重合(ATRP)法等が挙げられる。
上記の製造方法の中で、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤に用いた有機アルミニウム化合物存在下でのアニオン重合法によれば、より狭い分子量分布のブロック共重合体を製造することが可能で、重合率が高く、また、比較的緩和な温度条件下でリビング重合が可能であることから、本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(e)は、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤に用いた有機アルミニウム化合物の存在下でのアニオン重合法で製造されることが好ましい。
上記の有機アルカリ金属化合物を重合開始剤に用いた有機アルミニウム化合物存在下でのアニオン重合法としては、例えば、WO2007/029783に記載されているように、有機リチウム化合物、及び下記の一般式:
AlR3R4R5
(式中、R3は置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又は置換基を有してもよいアリールオキシ基を示し、R4及びR5はそれぞれ独立して置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又は置換基を有してもよいアリールオキシ基を示すか又はR4とR5が結合して置換基を有してもよいアリーレンジオキシ基を形成していてもよい。)
で表される有機アルミニウム化合物存在下に、必要に応じてN,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンやその他の3級アミン;1,2−ジメトキシエタンや12−クラウン−4等のクラウンエーテル等のエーテルをさらに用いて、アクリル系ブロック共重合体(e)中の各重合体ブロックを形成する(メタ)アクリル酸エステル及びアクリル酸エステルを逐次重合させる方法などを採用することができる。
アクリル系ブロック共重合体(e)の製造に用い得る前記した有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等のアルキルリチウム類;1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、ジフェニルメチルリチウム等のアラルキルリチウム類; フェニルリチウム、トリメチルシロキシリチウムなどを挙げることができる。
また、前記一般式で表される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジメチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジエチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、メチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、エチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でも、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムが、重合中における副反応の抑制、取り扱いの容易さ等の観点から好ましく用いられる。
なお、本発明に用いられるアクリル系ブロック共重合体(e)は、好適にはリビング重合法によって製造されるが、重合性組成物(B)に使用される際には、副反応防止の観点から、アクリル系ブロック共重合体(e)の重合末端は停止していることが好ましい。従って、アクリル系ブロック共重合体(e)は、酸性基を有しない重合性単量体(b−2)の重合性基に対して不活性であることが好ましい。
アクリル系ブロック共重合体(e)の配合量は特に限定されないが、得られる重合性組成物(B)の取扱い性、硬化物の柔軟性の観点から、重合性組成物(B)に含まれる酸性基を有しない重合性単量体(b−2)100重量部に対し、アクリル系ブロック共重合体(e)は5〜500重量部含まれることが好ましく、10〜250重量部含まれることがより好ましい。
酸性基を有しない重合性単量体(b−2)
重合性組成物(B)に用いられる酸性基を有しない重合性単量体(b−2)としては、前処理組成物(A)で例示した、酸性基を有しない重合性単量体(b−1)と同じものが挙げられる。重合性単量体(b−2)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、アクリル系ブロック共重合体(e)との混和性、得られる重合性組成物の取扱い性、硬化物の柔軟性、歯質への接着性が優れる点で、メタクリル酸t−ブチル、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート及び1,10−デカンオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、本発明に用いられる重合性組成物(B)において、酸性基を有しない重合性単量体(b−2)がウレタン結合を有する重合性単量体を含むことが好ましい。
ウレタン結合を有する重合性単量体は、例えば、後述するイソシアネート基(−NCO)を有する化合物と、水酸基(−OH)を有する(メタ)アクリレート化合物を付加反応させることにより容易に合成することができる。
イソシアネート基を有する化合物の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)などが挙げられる。
また、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。
その他、ジオールとジイソシアネートが反応して得られたポリウレタンの両末端に、(メタ)アクリル基を有するマクロモノマー等も用いることができる。
重合性組成物(B)に用いられる酸性基を有しない重合性単量体(b−2)に含まれるウレタン結合を有する重合性単量体として、硬化物の柔軟性及びエナメル質への接着性が優れる観点から、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)が好ましい。
重合性組成物(B)におけるウレタン結合を有する重合性単量体の配合量は、硬化物の柔軟性及びエナメル質への接着性が優れる点から、アクリル系ブロック共重合体(e)及び酸性基を有しない重合性単量体(b−2)の総量100重量部中において、10〜50重量部が好ましく、15〜40重量部がより好ましい。
なお、重合性組成物(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、酸性基を有する重合性単量体を含んでいてもよい。
重合開始剤(c−2)
本発明に用いられる重合開始剤(c−2)としては、前処理組成物(A)で例示した、前記重合開始剤(c−1)と同じものが挙げられる。
重合開始剤(c−2)の配合量は特に限定されないが、光硬化性の観点から、重合性組成物(B)に含まれるアクリル系ブロック共重合体(e)及び酸性基を有しない重合性単量体(b−2)の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。
なお、重合開始剤(c−2)を使用する際には、公知の重合促進剤と組み合わせて用いてもよい。従って、重合性組成物(B)は、重合促進剤を含んでいてもよい。用いられる重合促進剤としては、前記と同じものが挙げられる。
重合性組成物(B)には、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、柔軟性、流動性などの改質を目的として他の重合体、例えば天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、イソプレン−イソブチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロック共重合体やポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体又はそれらの水素添加物などのスチレン系エラストマーなどを添加することができる。
重合性組成物(B)は、必要に応じて軟化剤を含有することができる。軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、パラフィン、落花生油、ロジン等の植物油系軟化剤などが挙げられる。これらの軟化剤は単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
前処理組成物(A)及び重合性組成物(B)には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、増粘剤、フィラー等が挙げられる。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
フィラーとしては、歯科用途に用いられている公知の無機系フィラー、有機系フィラー、及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーを用いることができ、接着力、塗布性の点で、一次粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子フィラーが好ましい。その具体例としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が挙げられる。
本発明の歯科用キットによれば、エナメル質に対する優れた接着性が得られる。歯科用キットの重合性組成物(B)は、硬化前の粘度と賦形性が両立され操作性に優れている。また、重合性組成物(B)の硬化物が柔軟性、透明性及び色調安定性に優れている。従って、本発明の歯科用キットは、動揺歯固定材キットとして好適に用いることができる。また本発明の歯科用キットは、歯科用セメントキットとして好適に用いることもできる。
本発明の歯科用キットは、公知のコーティング組成物と組み合わせて使用してもよい。
本発明の歯科用キットの使用方法について説明する。本発明の歯科用キットを動揺歯固定材キットとして用いる場合には、先ず、前処理組成物(A)をスポンジ又はブラシを用いて治療すべき歯牙に塗布し、その状態で0秒(すなわち塗布後すぐに下記のエアブローを行う)〜120秒間、好ましくは1〜60秒間、より好ましくは5〜30秒間、最も好ましくは10〜20秒間、静置するか、あるいは、歯質表面上でスポンジ等を用いて60秒以内の範囲で擦り続ける。次いで、歯科用エアシリンジを用いてエアブローを行った後に、重合性組成物(B)を前処理組成物(A)の塗布面に塗布し、歯科用可視光線照射器などを用いて硬化させ治療を完結することができる。また、仮照射を行い、重合性組成物(B)を半硬化させ、固定面の調整を行なう操作を経てもよい。
本発明の歯科用キットを歯科用セメントキットとして用いる場合には、前処理組成物(A)をスポンジ又はブラシを用いて治療すべき歯牙に塗布し、その状態で0秒(すなわち塗布後すぐに下記のエアブローを行う)〜120秒間、好ましくは1〜60秒間、より好ましくは5〜30秒間、最も好ましくは10〜20秒間、静置するか、あるいは、歯質表面上でスポンジ等を用いて60秒以内の範囲で擦り続ける。次いで若干過剰な量の重合性組成物(B)を歯冠修復材料の内壁面に塗布し、歯質に圧接させる。この圧接操作の際、重合性組成物(B)の過剰分を歯質と歯冠用修復材料の接合部(マージン部)からはみ出させ、そのはみ出した余剰セメントに歯科用の光照射器を用いて仮照射を行い、余剰セメントを半硬化状態とする。半硬化状態とするための光照射時間は、光照射器の種類や光量に応じて異なるが、通常、2秒〜5秒程度である。こうして半硬化状態となった余剰セメントに対して歯科用短針等を用いて余剰セメントを除去する。
このように、本発明の歯科用キットは、操作ステップが簡単であるという利点も有する。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下の参考例において、サンプリングした重合体(ブロックを形成する重合体)及びアクリル系ブロック共重合体(最終的な重合体)の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表す)のポリスチレン換算により求めた。GPC測定に用いた装置及び条件は以下のとおりである。
〔GPC測定の装置及び条件〕
・装置:東ソー株式会社製GPC装置「HLC−8020」
・分離カラム:東ソー株式会社製「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結
・溶離液:テトラヒドロフラン
・溶離液流量:1.0ml/分
・検出方法:示差屈折率(RI)
また、以下の参考例において、アクリル系ブロック共重合体における各重合体ブロックの構成割合は、1H−NMR測定によって求めた。1H−NMR測定に用いた装置及び条件は次のとおりである。
〔1H−NMR測定の装置及び条件〕
・装置:日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置「JNM−LA400」
・重溶媒:重水素化クロロホルム
本実施例で用いたアクリル系ブロック共重合体は、次のようにして製造した。
参考例1 アクリル系ブロック共重合体(e−1)の製造
(1)1リットルの三口フラスコに三方コックを付け内部を脱気し、窒素で置換した後、室温にてトルエン390g、N,N’,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン1.4ml、及びイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム11mmolを含有するトルエン溶液18mlを加え、さらに、sec−ブチルリチウム2.2mmolを含有するシクロヘキサンとn−ヘキサンの混合溶液1.7mlを加えた。これにメタクリル酸メチル14mlを加え、室温で1時間反応させた。この時点で反応液1gを採取してサンプリング試料1とした。引き続き、重合液の内部温度を−15℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル120mlを6時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液1gを採取してサンプリング試料2とした。続いてメタクリル酸メチル14mlを加えて反応液を室温に昇温して、約10時間撹拌した。この反応液にメタノール1gを添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールと水の混合溶液(メタノール90質量%)に注ぎ、析出した白色沈殿物を回収してサンプリング試料3とした。
(2)上記(1)の採取又は回収したサンプリング試料1〜3について、上記した方法でGPC測定、1H−NMR測定を行って、その結果に基づいて、各重合段階で得られた重合体及びブロック共重合体のMw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸−n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの質量比を求めたところ、上記の(1)で最終的に得られた白色沈殿物は、PMMA−PnBA−PMMAからなるトリブロック共重合体であり、その全体のMwは85,000、Mw/Mnは1.13、各重合体ブロックの割合はPMMA(10質量%)−PnBA(80質量%)−PMMA(10質量%)であること(PMMAの合計20質量%)が判明した。また、試料1は、PMMAであって、そのMwは7,300、Mw/Mnは1.06であり;試料2はPMMA−PnBAのジブロック共重合体であって、そのMwは77,000,Mw/Mnは1.16であった。
参考例2 アクリル系ブロック共重合体(e−2)の製造
(1)1リットルの三口フラスコに三方コックを付け内部を脱気し、窒素で置換した後、室温にてトルエン390g、N,N’,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン1.4ml、及びイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム11mmolを含有するトルエン溶液18mlを加え、さらに、sec−ブチルリチウム2.2mmolを含有するシクロヘキサンとn−ヘキサンの混合溶液1.7mlを加えた。これにメタクリル酸メチル35mlを加え、室温で1時間反応させた。この時点で反応液1gを採取してサンプリング試料1とした。引き続き、重合液の内部温度を−15℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル75mlを5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液1gを採取してサンプリング試料2とした。続いてメタクリル酸メチル35mlを加えて反応液を室温に昇温して、約10時間撹拌した。この反応液にメタノール1gを添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールと水の混合溶液(メタノール90質量%)に注ぎ、析出した白色沈殿物を回収してサンプリング試料3とした。
(2)上記(1)の採取又は回収したサンプリング試料1〜3について、上記した方法でGPC測定、1H−NMR測定を行って、その結果に基づいて、各重合段階で得られた重合体及びブロック共重合体のMw、Mw/Mn、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸−n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの質量比を求めたところ、上記の(1)で最終的に得られた白色沈殿物は、PMMA−PnBA−PMMAからなるトリブロック共重合体であり、その全体のMwは85,000、Mw/Mnは1.03、各重合体ブロックの割合はPMMA(25質量%)−PnBA(50質量%)−PMMA(25質量%)であること(PMMAの合計50質量%)が判明した。また、試料1は、PMMAであって、そのMwは18,000、Mw/Mnは1.05であり;試料2はPMMA−PnBAのジブロック共重合体であって、そのMwは67,000,Mw/Mnは1.14であった。
参考例3 アクリル系ブロック共重合体(e−3)の製造
(1)1リットルの三口フラスコに三方コックを付け内部を脱気し、窒素で置換した後、室温にてトルエン390g、N,N’,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン0.95ml、及びイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム11mmolを含有するトルエン溶液12mlを加え、さらに、sec−ブチルリチウム2.2mmolを含有するシクロヘキサンとn−ヘキサンの混合溶液1.1mlを加えた。これにメタクリル酸メチル5mlを加え、室温で1時間反応させた。この時点で反応液1gを採取してサンプリング試料1とした。引き続き、重合液の内部温度を−15℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル97mlを5時間かけて滴下した。滴下終了後、この反応液にメタノール1gを添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールと水の混合溶液(メタノール90質量%)に注ぎ、析出した白色の液状沈殿物を回収してサンプリング試料2とした。
(2)上記(1)の採取又は回収したサンプリング試料1及び2について、上記した方法でGPC測定、1H−NMR測定を行って、その結果に基づいて、各重合段階で得られた重合体及びブロック共重合体のMw、Mw/Mn、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸−n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの質量比を求めたところ、上記の(1)で最終的に得られた白色の液状沈殿物は、PMMA−PnBAからなるブロック共重合体であり、その全体のMwは125,000、Mw/Mnは1.06、各重合体ブロックの割合はPMMA(5質量%)−PnBA(95質量%)であることが判明した。また、試料1は、PMMAであって、そのMwは6,000、Mw/Mnは1.08であった。
次に、実施例及び比較例で作製した歯科用キットの各組成物の成分を略号と共に以下に記す。
[カルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体(a)]
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド
MAC−10:11−メタクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸
4−MET:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリテート
AMPS: 2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
[酸性基を有しない重合性単量体(b−1)及び重合性単量体(b−2)]
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
Bis−GMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
#801:1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン
UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
TBM:メタクリル酸t−ブチル
DD:1,10−デカンジオールジメタクリレート
[重合開始剤(c−1)及び重合開始剤(c−2)]
CQ:dl−カンファーキノン
BAPO:ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
[重合促進剤]
DMAB:4−ジメチルアミノベンゾフェノン
PDE:N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル
[pH調整剤]
DEPT:N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン
[フィラー]
R972:アエロジル社製の微粒子シリカ
Ar380:アエロジル社製の微粒子シリカ
[重合禁止剤]
BHT:3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン
実施例1
下記組成の前処理組成物(A−1)を調製した。さらに下記組成の重合性組成物(B−1)を調製した。この前処理組成物と重合性組成物からなる歯科用キットについて、下記の引張接着強さの試験(Q1)を行なって引張接着強さを求めた。結果を表1に示す。
前処理組成物(A−1)
MDP 10重量部
HEMA 25重量部
Bis−GMA 5重量部
#801 25重量部
BAPO 1重量部
CQ 1.5重量部
PDE 1重量部
DEPT 1.5重量部
水 30重量部
重合性組成物(B−1)
アクリル系重合体(e−2) 30重量部
3G 15重量部
TBM 55重量部
BAPO 3重量部
BHT 0.05重量部
歯質(牛歯エナメル質)との引張接着強さの試験(Q1)
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨してエナメル質の平坦面を得た。平坦面を流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した後、表面の水を歯科用エアシリンジで吹き飛ばした。
平坦面に、直径3mmの丸孔を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼付し、接着面積を規定した。丸孔内に下記の前処理組成物(A−1)を筆で塗布し、30秒間放置した後、歯科用エアシリンジで、塗布した前処理組成物(A−1)の流動性がなくなるまで乾燥した。次いで、重合性組成物(B−1)を丸孔内の前処理組成物(A−1)の塗付面上に充填し、丸孔から溢れた余剰分は、カミソリで表面が平滑になるように除去した後、歯科用可視光照射器(株式会社モリタ製、ジェットライト3000)で、30秒間光照射して重合性組成物(B−1)を硬化させた。得られた重合性組成物(B−1)の未重合層を残した硬化物に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、パナビア21)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。接着試験供試サンプルは計16個作製し、37℃に保持した恒温器内に24時間保管した。
上記の接着試験供試サンプルの引張接着強さを、万能試験機(株式会社島津製、オートグラフAG−100kNI)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minで測定し、試験片8個の平均値を引張接着強さとした。
残りのエナメル質に対して接着した試験片8個については、さらに4℃の水槽と60℃の水槽にそれぞれ1分間ずつ交互に4000回浸漬するサーマルサイクル負荷をかけた後、引張接着強さを測定した。このサーマルサイクル負荷後の引張接着強さでもって接着耐久性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1記載の前処理組成物(A−1)の水を30重量部から15重量部に変更し、エタノールを15重量部配合した前処理組成物(A−2)を調製した。この前処理組成物(A−2)と重合性組成物(B−1)について、先の歯質との引張接着強さの試験(Q1)を行なって引張接着強さを求めた。結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1で作製した本発明の歯科用キットは、牛歯エナメル質に対して、初期及びサーマルサイクル後の接着強さが高く、長期に渡って優れた接着力を発現することがわかる。一方、比較例1で作製した歯科用キットは、牛歯エナメル質に対して、接着強さが低いことがわかる。
(実施例2〜6及び比較例2〜4)
表2に示す原料を常温下にて混合し、前処理組成物及び重合性組成物を調製し、上記試験(Q1)の方法に従って接着強さを調べた。結果を表2に示す。
表2に示すように、実施例2〜6で作製した本発明に係る歯科用キットは、牛歯エナメル質に対して、初期及びサーマルサイクル負荷後の接着強さが高く、長期に渡って優れた接着力を発現することがわかる。一方、比較例2〜4で作製した歯科用キットは、牛歯エナメル質に対して、接着しないことがわかる。