JP2012045080A - 歯列矯正ワイヤー - Google Patents
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Abstract
【課題】 歯列矯正器具として使用する際に望ましい適度な剛性の確保、及び/または、適度なバネ特性を確保した特性を備える歯列矯正ワイヤーを提供する。
【解決手段】 直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、1.5%の伸び歪みを負荷したときに800MPa以上の引張り強度を備えていることを特徴とする歯列矯正ワイヤーとする。
【選択図】 図2
【解決手段】 直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、1.5%の伸び歪みを負荷したときに800MPa以上の引張り強度を備えていることを特徴とする歯列矯正ワイヤーとする。
【選択図】 図2
Description
本発明は、歯列の矯正治療器具として使用される形状記憶合金からなる歯列矯正ワイヤーに関する。
歯には持続的に弱い力が加わるとその方向に移動する性質があり、その性質を利用して口腔内に歯列矯正ワイヤーと呼ばれている矯正装置を入れ、歯に一定の力を持続的にかけて歯を人為的に動かし歯並びや噛み合わせを治療する歯列矯正が行われている。
歯列矯正ワイヤーは、歯列や周囲の生体組織の診断状況に応じてそれぞれに適したワイヤーを用いることが必要であり、例えば、適度な剛性があることが望ましいケース,硬すぎず柔らかすぎず適度な柔軟性を有し、かつ、塑性変形せずに元の形状に戻る形状復元性を兼ね備えるバネ特性(弾性)を有することが望ましいケース、或いはその両方が求められるケース等が存在する。
そのため歯列矯正ワイヤーには、ステンレス線やTi−Ni合金線等が用いられる。ステンレス線は剛性が高く歯列移動力に優れ、また意図的な変形によるベンディングテクニック加工が可能であるが、塑性変形を受け易い。一方、Ti−Ni合金線は、マルテンサイト変態の逆変態に付随して顕著な形状記憶を示し(例えば、特許文献1参照。)、逆変態後の母相での強変形によって誘起される応力誘起マルテンサイト変態に伴い良好な超弾性を示すので近年広く実用化されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
しかしながら、上述したTi−Ni合金製の歯列矯正ワイヤーは、Niの成分が溶出して金属アレルギーを引き起こす可能性がある。また、金属アレルギーの原因となるNiを含まないTi基合金が考案されている。Niを含まないTi基合金としては、耐腐食性チタン合金としてβ型Ti合金にAgを1〜2wt%含むものが開示され(例えば、特許文献5参照。)、冷間加工用低強度・高延性Ti合金であって、6wt%≦ Mo≦18wt%および0.5wt%≦Sn≦10wt%、残部をTiのものが開示され(例えば、特許文献6及び7参照。)、チタンに10〜15wt%のMoを含有させた形状記憶チタン合金が開示され(例えば、特許文献8参照。)、Ti−Zr系合金からなる医療器具が開示され(例えば、特許文献9参照。)、Ti-Mo基合金バネが開示され(例えば、特許文献10参照)、Ti−Sc系形状記憶合金が開示されている(例えば、特許文献11参照。)。
また、加工性が良く生体適合性に優れた合金として、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなる管状器具への挿入具が開示されている(特許文献12参照。)。
米国特許第3174851号明細書
特開昭58−161753号公報
特開昭61−106173号公報
特開昭63−223138号公報
特開昭53−123323号公報
特開平1−129941号公報
特開平4− 214830号公報
特開昭59−56554号公報
特開2001−3126号公報
特開2004−183014号公報
特開2004−204245号公報
特開2006−314525号公報
特許文献1〜4に開示されているTi−Ni合金は前述の通り金属アレルギーを引き起こす可能性がある。特許文献5〜8はNiを含まないが、医療用途に用いられることを前提したものではなく、歯列矯正ワイヤー等に要求される上述した剛性やバネ特性等の特性を満足させることはできなかった。また、特許文献9は、ガイドワイヤー等に用いられるものであるが、高強度で加工性に優れるものを提供することを主目的としており、この場合も歯列矯正ワイヤー等に要求される前記特性を満足させることはできなかった。更に、特許文献10は、良好な加工性及びバネ性を備えるTi−Mo基合金ばね材が開示されているが、バネ性を部材のどの範囲に付与するかについて何ら記載されておらず、歯列矯正ワイヤー等に要求される前記特性を得ることは難しい。特許文献11においても、Niを含まず生体適合性がよいTi−Sc系形状記憶合金が開示されているのみであり、この場合も歯列矯正ワイヤー等に要求される特性を得ることは難しかった。特許文献12においては、歯列矯正ワイヤー等に要求される0.5mm以下の極細ワイヤーには適していなかった。
したがって、本発明の目的は、歯列矯正器具として使用する際に望ましい適度な剛性の確保、及び/または、適度なバネ特性を確保した特性を備える歯列矯正ワイヤーを提供することにある。
前記目的を達成するため、本発明の第1は、直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、1.5%の伸び歪みを負荷したときに800MPa以上の引張り強度を備えていることを特徴とする歯列矯正ワイヤーを提供する。
第1の発明によれば、人体に悪影響を及ぼすNiが含まれていないので、より安全性の高い歯列矯正ワイヤーが得られる。また、上述のような引張り強度を備えており、周知のNi−Ti合金に比べて高い剛性が得られるので、高歯列移動力,ねじれ・折れ曲がり等を防止する耐キンク性等の各特性を向上させることができる。
本発明の第2は、直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバックが2%以上となるバネ特性を備えていることを特徴とする矯正ワイヤーを提供する。
第2の発明によれば、人体に悪影響を及ぼすNiが含まれていないので、より安全性の高い歯列矯正ワイヤーが得られる。また、上述のようなバネ特性を有し、少なくともステンレスよりは柔軟となり、適度な柔軟性を確保できるので、軟弱な歯列組織を傷める事無く移動力の付与が可能であり歯列の損傷を防止すると共に、塑性変形することなく確実に元の理想の歯列へ排列させることができる。
本発明の第3は、直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、1.5%の伸び歪みを負荷したときに800MPa以上の引張り強度を備えており、かつ4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバックが2%以上となるバネ特性を備えていることを特徴とする矯正ワイヤーを提供するものである。
第3の発明によれば、人体に悪影響を及ぼすNiが含まれていないので、より安全性を高くすることができると共に、歯列矯正ワイヤーの任意の部位には、上述のような引張り強度及びバネ特性を備えているので、適度な剛性を確保して、高歯列移動力,耐キンク性等を向上させ、かつ、他の任意の部位には適度なバネ特性を確保して、歯列矯正の損傷を防止し、確実な理想歯列の排列を行うことができ、歯列矯正治療に好適な歯列矯正ワイヤーが得られる。
本発明の第4は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記歯列矯正ワイヤーには、Moが4〜10at%,Snが3〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
本発明の第5は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記歯列矯正ワイヤーには、Moが4〜10at%,Scが3〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
本発明の第6は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、Moが4〜10at%,Snが3〜10at%,Scが0.1〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
本発明の第7は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記歯列矯正ワイヤーには、Nbが15〜30at%,Scが1〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
本発明の第8は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記歯列矯正ワイヤーには、Ta が20〜30at%,Scが1〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
本発明の第9は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記歯列矯正ワイヤーには、Hf が20〜30at%,Sc が1〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
本発明の第9は、前記第1〜3の発明のいずれか1つにおいて、前記歯列矯正ワイヤーには、Zrが30〜45at%,Scが1〜10at%含まれている歯列矯正ワイヤーを提供するものである。
前記第4〜9の発明によれば、各成分を、前記のごとく示す割合にて、コアのTi基合金に含有させることにより、適度な剛性及びバネ特性を兼ね備える歯列矯正ワイヤーが得られるようになる。
本発明の歯列矯正ワイヤーによれば、人体に悪影響を及ぼすNiが含まれていないので、より安全性の高い歯列矯正ワイヤーが得られる。また、本発明の第1の歯列矯正ワイヤーによれば、適度な剛性として、歯列の移動力,耐キンク性等を向上させることができ、本発明の第2によれば、適度なバネ特性として、柔軟性及び理想歯列の排列を行うことができ、更に、本発明の第3によれば、基部にて適度な剛性を確保し、かつ、適度なバネ特性を確保して、理想的な歯列の排列を行え、歯列矯正治療に好適な歯列矯正ワイヤーが得られる。
本発明に係る歯列矯正ワイヤーは、例えば、図1に示すような歯列矯正ワイヤーとして提供される。図1に示す歯列矯正ワイヤー1は、0.5mm以下に線引き加工された極細線として提供される。この歯列矯正ワイヤーは、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなる。
本発明に係る歯列矯正ワイヤーは、1.5%の伸び歪みを負荷したときに、800MPa以上の引張り強度を備えている。より具体的には、歯列矯正ワイヤーは、インストロン型引張り試験機等によって、引張荷重を付与した場合であって、引張荷重付与前に対して1.5%の伸び歪みを生じさせたときに、800MPa以上の引張り強度を備える。
本発明に係る歯列矯正ワイヤーは、或いは、4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバックが、2%以上となるバネ特性を備えている。より具体的には、歯列矯正ワイヤーは、インストロン型引張り試験機等によって、引張荷重を付与した場合であって、引張荷重付与前に対して4%の伸び歪みを生じさせたときに、少なくとも2%以上が、引張荷重付与前の形状に復元するようなバネ特性を備えている。
歯列矯正ワイヤーは、前記引張り強度及びバネ特性双方を兼ね備えるものであってもよい。すなわち、基部の一部は、1.5%の伸び歪みを負荷したときに、800MPa以上の引張り強度を備えており、かつ、基部の別部は、4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバッグが、2%以上となるバネ特性を備えていてもよい。
そして、前述したように、Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含む、Ti基合金であって、前記引張り強度またはバネ特性を備える本発明のワイヤーを得るためには、上記の金属元素を、所定量含有するTi合金が採用される。
すなわち、本発明に用いられるTi基合金は、650℃を超える温度での溶体化処理によってTi合金のβ相を安定化させることが可能で、かつ、650℃以下の温度での時効処理によって生じるω相やα相によって、その機械強度を任意とすることが可能であり、具体的には、Ti基合金の中でも加工性が優れたβ型もしくはnearβ型のTi基合金が採用される。Ti合金は、α相,β相,α+β相,ω相等の相が存在する。β相は体心立方格子(bcc)であるので、稠密六方格子(hcp)であるα相よりも変形性が良好、すなわち、バネ特性がよいことが知られ、ω相はβ相からα相へ変態する際に生じるもので、このω相が存在すると著しく硬化することが知られている。
Ti基合金における歯列矯正ワイヤーの組成の第1態様としては、コアには、Moが4〜10at%,Snが3〜10at%含まれていることが好ましい。
同第2態様としては、歯列矯正ワイヤーには、Moが4〜10at%,Scが1〜10at%含まれていることが好ましい。
同第3態様としては、歯列矯正ワイヤーには、Moが4〜10at%,Snが3〜10at%,Scが0.1〜10at%含まれていることが好ましい。
同第4態様としては、歯列矯正ワイヤーには、Nbが15〜30at%,Scが1〜10at%含まれていることが好ましい。
同第5態様としては、歯列矯正ワイヤーには、Taが20〜30at%,Scが1〜10at%含まれていることが好ましい。
同第6態様としては、歯列矯正ワイヤーには、Hfが20〜30at%,Scが1〜10at%含まれていることが好ましい。
同第7態様としては、歯列矯正ワイヤーには、Zrが30〜45at%,Scが1〜10at%含まれていることが好ましい。
歯列矯正ワイヤーの組成が、上述のように限定されている理由は、次の通りである。
前記金属元素の内、Mo,Sc,Nb,Ta,Hf,Zr,Scは、Ti合金のβ相の安定化を図るものである。そして、前記第1〜3の歯列矯正ワイヤーの態様において、Ti合金に対するMoの含有量が4〜10%であるのは、4at%未満だとβ相の安定化が十分に図れず、10at%を超えると十分なバネ特性が得られず好ましくないためである。
同様に、前記第4〜7の歯列矯正ワイヤーの態様において、Nb、Ta、Hf、ZrのTi合金に対する含有量の上限及び下限を定めたのは、各金属元素が下限未満だとβ相の安定化が十分に図れず、上限を超えると十分なバネ特性が得られず好ましくないためである。
ScもMoと同様に、Ti合金のβ相の安定化を図るものであるが、Mo、Nb等の他のβ相安定化元素と共存することにより、顕著なバネ特性が得られることが知られている。前記第2〜7のコアの態様において、Mo、Nb等と共にScを含有させたのは、その顕著なバネ特性を得るためであるが、Ti合金に対するScの含有量が1〜10at%としたのは、0.1at%未満だとScの顕著なバネ特性が得られず、10%を超えるとScの含有量が多すぎてコスト面で問題が生じ好ましくないためである(一般に、Scは極めて高価である)。
また、Snは、Ti合金のα相の安定化を図る金属元素であり、前記ω相の生成を抑制する性質が知られている。前記第1,第3の歯列矯正ワイヤーの態様において、Ti合金に対するSnの含有量を3〜10at%としたのは、3at%未満だとα相の安定化やω相の生成を適度に抑えて所望の剛性にすることができず、10at%を超えるとα相が極めて多くなりバネ特性が低下するので好ましくないためである。
更に、上述した第1〜7の態様の各コアには、不可避不純物の他、各態様を構成するβ相安定化元素( 例えば、第1 態様ではMo)の他のβ相安定化元素(第1態様では、Nb,Hf,Zr,Ta等) や、Ag,Al等のα相安定化元素等を、各コイルの態様の特性を損なわない程度に、微量に含有していてもよい。
以上の組成からなる歯列矯正ワイヤーは、は、次のような工程を経ることにより、基部の一部は、1.5%の伸び歪み時に800MPa以上の引張り強度を有し、先端部は4%の伸び歪み後のスプリングバッグが2%以上となるバネ特性を有するようになる。
すなわち、前記組成よりなるTi基合金を、熱間鍛造,熱間圧延,冷間加工等の公知の方法によって所定線径の線状に加工する。その後、コアを所定温度,所定時間で保持し、その後炉冷して、均質なβ相にするための熱処理が施される。この際の処理温度としては650℃を超える温度、好ましくは700〜1100℃であり、0.5〜10分保持することにより、β相への均質化処理(以下、β化処理という)が施される。このβ化処理を施すことにより、コアは常温においても、十分なバネ特性を示すようになる。
β化処理を施した歯列矯正ワイヤーは、その後、基部の一部または基部全体を650℃以下の温度、好ましくは300〜600℃の温度でもって、1〜20分保持することにより時効処理が施される。この時効処理により、Ti基合金からω相やα相が生成され、基部において所望の引張り強度を備える剛性の高い歯列矯正ワイヤーが得られる。
こうして、β化処理を施した後、時効処理を施すことにより、バネ特性が良好または、剛性の高い、或いはそれらを複合した歯列矯正ワイヤーが得られる。
また、前記の処理は、時効処理を先に行って、β化処理を後に行ってもよく、その順序は特に限定されない。
以上のような処理を施すことにより、図1に示すように歯列矯正ワイヤーが形成される。そして、本発明の歯列矯正ワイヤーによれば、人体に悪影響を及ぼすNiが含まれていないので、より安全性の高い歯列矯正ワイヤーが得られる。また、歯列矯正ワイヤーは上述のような引張り強度を備えており、周知のNi−Ti合金に比べて高い剛性が得られるので、歯列矯正ワイヤーに高歯列移動力や、ねじれ・折れ曲がりを防止する耐キンク性等の各特性を向上させることができる。
また、以上のような時効処理を施さなかった歯列矯正ワイヤーの全部或いは基部の一部は、上述のようなバネ特性を有し、少なくともステンレスよりは柔軟となり、適度な柔軟性を確保できるので、軟弱な歯列組織の損傷を防止すると共に、塑性変形することなく確実に理想の歯列へ矯正させることができる。
また、前記工程により形成された歯列矯正ワイヤーは、基部またはその一部を、上述のような引張り強度及びバネ特性としたので、適度な剛性を確保すると共に、適度なバネ特性を確保して、歯列矯正治療に好適な歯列矯正ワイヤーが得られる。
なお、前記実施形態では、歯列矯正ワイヤーの基部の一部及び先端部の双方に熱処理を施しているが、どちらか一方のみを施してもよい。
(1)Ti基合金の作製
下記の表1〜3に示すようにβ型或いはnearβ型となり得る合金組成(試料No.1〜55)からなるインゴットを、アルゴンアーク溶解にて溶融し、これに熱間加工、冷間加工を施して、φ0.3mmの線材を作製した。
下記の表1〜3に示すようにβ型或いはnearβ型となり得る合金組成(試料No.1〜55)からなるインゴットを、アルゴンアーク溶解にて溶融し、これに熱間加工、冷間加工を施して、φ0.3mmの線材を作製した。
(2)加工性評価
前記試料1〜55のうち、表1及び2に示す試料1〜34について、前記冷間加工時における加工性の是非を評価した。その結果を、前記表1及び2に併せて示した。この場合、○は問題なく加工性が出来た場合で、△はやや加工速度を遅くしなければならなかったが、加工自体に問題はなかった場合で、×は加工中に割れや破断があった場合を示す。なお、表3中の合金については記載しないが、加工性に課題を残すいくつかの合金は見られたが、いずれも次に説明するバネ特性評価に用いることは可能な試料は作製できた。
前記試料1〜55のうち、表1及び2に示す試料1〜34について、前記冷間加工時における加工性の是非を評価した。その結果を、前記表1及び2に併せて示した。この場合、○は問題なく加工性が出来た場合で、△はやや加工速度を遅くしなければならなかったが、加工自体に問題はなかった場合で、×は加工中に割れや破断があった場合を示す。なお、表3中の合金については記載しないが、加工性に課題を残すいくつかの合金は見られたが、いずれも次に説明するバネ特性評価に用いることは可能な試料は作製できた。
(3)バネ特性評価
前記試料1〜55のぞれぞれについて、1000℃で0.5分保持し、その後炉冷して、β相への均質化処理を施した。そして、各試料をインストロン型引張り試験機にセットして、各試料に引張り荷重を付与して伸び歪みを生じさせた後、引張り荷重を除去するというサイクルを繰り返して、各試料がどの程度、元の形状に復帰するかを確認した。
前記試料1〜55のぞれぞれについて、1000℃で0.5分保持し、その後炉冷して、β相への均質化処理を施した。そして、各試料をインストロン型引張り試験機にセットして、各試料に引張り荷重を付与して伸び歪みを生じさせた後、引張り荷重を除去するというサイクルを繰り返して、各試料がどの程度、元の形状に復帰するかを確認した。
なお、伸び歪みは、各試料のそれぞれについて、2%,4%,6%,8%付与して試験した。図2には、その一例として、Ti−6Mo−4Sn合金(試料3)の繰り返しひずみ付加による応力−ひずみ線図が示されている。図中、H1が2%,H2が4%,H3が6%,H4が8%の伸び歪み時をそれぞれ示している。
そして、4%の伸び歪み負荷後のスプリングバック(図2中、Sで示す)が2%以上であれば、本発明におけるバネ特性が良好であると判断した。なお、図2の場合、約2.9%のスプリンバックSが認められる。前記表1〜3には、各試料1〜55のバネ特性が併せて示されている。表中、○は4%伸び歪み負荷後のスプリングバッグSが2%以上の場合で、×は該スプリングバックSが2%よりも低い場合である。
(4)試料の選定
前記(2),(3)の加工性評価及びバネ特性評価の結果より、本発明の歯列矯正ワイヤーに最適なものを選定した。表1においては、試料1〜13(実施例)であり、表2においては、試料21〜31であり、表3においては、試料35〜46である。それ以外の試料は、比較例とした。そして、実施例における各金属元素の組成から、本発明の範囲となる合金組成が特定できた。
前記(2),(3)の加工性評価及びバネ特性評価の結果より、本発明の歯列矯正ワイヤーに最適なものを選定した。表1においては、試料1〜13(実施例)であり、表2においては、試料21〜31であり、表3においては、試料35〜46である。それ以外の試料は、比較例とした。そして、実施例における各金属元素の組成から、本発明の範囲となる合金組成が特定できた。
(5)時効特性評価
表1〜表3の実施例に示す組成の試料を、1000℃で1分保持してβ化処理を施した後、200〜700℃で各5分保持して、時効処理を施した後、インストロン型引張り試験機でもって、2%の伸び歪みを生じさせたときの、引張り強度を測定した。
表1〜表3の実施例に示す組成の試料を、1000℃で1分保持してβ化処理を施した後、200〜700℃で各5分保持して、時効処理を施した後、インストロン型引張り試験機でもって、2%の伸び歪みを生じさせたときの、引張り強度を測定した。
同様に、表1〜表3の実施例に示す組成の試料を、強加工を施した後、200℃〜700℃で各5分保持して、時効処理を施した後、インストロン型引張り試験機でもって、2%の伸び歪みを生じさせたときの、引張り強度を測定した。
下記表4にβ化処理後、時効処理を施した場合、下記表5に強加工後、時効処理した場合の結果をそれぞれ示す。
表4,5中、○は1.5%伸び歪み時に、800MPa以上の引張り強度が測定された場合で、×は2%伸び歪み時に、800MPa未満の引張り強度が測定された場合である。
表4に示すように、β化処理を施した場合には、合金の組成の相違により、適度な時効処理温度の幅が変化することが理解できる。一方、表5に示すように、強加工を施した場合には、合金の組成に左右されず、広い温度範囲(200〜600℃)で、時効処理が可能であることが理解できる。なお、表3に示す試料については、その結果は示していないが、いずれも400℃の時効処理で所要の強度は得ることができた。
(7)歯列矯正ワイヤーの作製及びその評価
Ti−6Mo−4Sn合金(試料3)を用いて、φ0.3mmの歯列矯正ワイヤーを作製した。
Ti−6Mo−4Sn合金(試料3)を用いて、φ0.3mmの歯列矯正ワイヤーを作製した。
すなわち、強加工を施してφ0.3mmとした線材を、1000℃で30分間保持し、550℃で5分間保持し、時効処理を施した後、その両端部の約30mm(先端の端面からの距離)を約700℃ で、30秒加熱してβ化処理を施し、図1に示す歯列矯正ワイヤーとほぼ同様の歯列矯正ワイヤーを作製した。
そして、作製した歯列矯正ワイヤーをインストロン型引張り試験によって、4%の伸び歪みが生じるまで引張り荷重を付与した後、引張り荷重を除去した。その際の、基部と両端部における応力―ひずみ曲線を図3に示した(両端部はA1、基部はA2で示す)。
この図3によれば、作製した歯列矯正ワイヤーは、基部にて2%伸び歪み時に約1000MPaの引張り強度を示し、4%の伸び歪み時には、1800MPaもの高い引張り強度を発揮することが分かる。一方、歯列矯正ワイヤーの両端部における、4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバッグは、3.3%以上となり、優れたバネ特性を備えることが理解できる。
Claims (10)
- 直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、
Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、1.5%の伸び歪みを負荷したときに800MPa以上の引張り強度を備えていることを特徴とする歯列矯正ワイヤー。 - 直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、
Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバックが2%以上となるバネ特性を備えていることを特徴とする矯正ワイヤー。 - 直径0.5mm以下に加工された歯列矯正ワイヤーであって、
Mo,Sn,Sc,Nb,Ta,Hf,Zrから選ばれた少なくとも2種を含み、残部がTi及び不可避不純物からなり、かつ、少なくともNiを含まないTi基合金からなり、1.5%の伸び歪みを負荷したときに800MPa以上の引張り強度を備えており、かつ4%の伸び歪みを負荷後のスプリングバックが2%以上となるバネ特性を備えていることを特徴とする矯正ワイヤー。 - Moが4〜10at%,Snが3〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー
- Moが4〜10at%,Scが3〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー
- Moが4〜10at%,Snが3〜10at%,Scが0.1〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー。
- Nbが15〜30at%,Scが1〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー。
- Taが20〜30at%,Scが1〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー。
- Hfが20〜30at%,Scが1〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー。
- Zrが30〜45at%,Scが1〜10at%含まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯列矯正ワイヤー。
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