JP2012012672A - 冷延鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】化成処理性に優れた冷延鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上である。このように規定することにより、表面には未再結晶粒の{100}面が多く存在することとなり、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進されて化成処理性が優れることになる。さらに、このような集合組織分布とするには、固溶Tiが関与しており、Ti:0.01〜0.1%、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有することが好ましい。
【選択図】なし
【解決手段】鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上である。このように規定することにより、表面には未再結晶粒の{100}面が多く存在することとなり、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進されて化成処理性が優れることになる。さらに、このような集合組織分布とするには、固溶Tiが関与しており、Ti:0.01〜0.1%、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有することが好ましい。
【選択図】なし
Description
本発明は、自動車の外装板などに使用される、軟質で化成処理性に優れた冷延鋼板に関する。
従来から、自動車の外装板としては、引張強さが350MPa未満程度の軟質で、加工性に優れた冷延鋼板が使用されている。
軟質で加工性に優れた冷延鋼板としては、炭窒化物形成元素を含有する極低炭素鋼を熱間圧延し、熱延鋼板の段階で炭窒化物を生成させ、鋼中の固溶Cおよび固溶Nを低減させた後、冷間圧延および再結晶焼鈍を経て製造される冷延鋼板、いわゆるIF(Interstitial Free)鋼板が知られている。
軟質で加工性に優れた冷延鋼板としては、炭窒化物形成元素を含有する極低炭素鋼を熱間圧延し、熱延鋼板の段階で炭窒化物を生成させ、鋼中の固溶Cおよび固溶Nを低減させた後、冷間圧延および再結晶焼鈍を経て製造される冷延鋼板、いわゆるIF(Interstitial Free)鋼板が知られている。
このIF鋼板については、これまでに、主として加工性の改善を目的とした種々の鋼板や鋼板の製造方法が提案されており、例えば、特許文献1には、熱延段階で析出物を粗大に析出させることで、冷間圧延後の焼鈍段階でフェライト粒成長を促進して深絞り性を向上させた冷延鋼板の製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示されているような極低炭素のIF鋼板は、Cを0.02%以上含むいわゆる低炭素鋼板と比較して、化成処理性(リン酸処理性)が著しく劣り、電着塗装後に十分な耐食性が得られない場合がある。これは、C量が少ないこと及び炭窒化物形成元素が添加されていることからセメンタイトが析出せず、化成結晶核の生成サイトとなるカソード部が不十分であるためと考えられている。
一方、近年、環境に対する配慮から、自動車の塗装焼付けは有害物質の排出量が少ない低温、短時間焼付けが指向されている。低温、短時間焼付けで十分な塗装後耐食性を確保するためには、その下地処理である化成処理によって形成される化成結晶皮膜の健全性が、ますます重要になっている。
このような中で、これまで、高強度冷延鋼板、特に強化元素としてSiを添加した鋼板については、化成処理性や塗装後耐食性を向上させる技術が提案されている。例えば、特許文献2には、熱間圧延時にスラブを1200℃以上の温度に加熱し、高圧でデスケーリングし、酸洗前に熱延鋼板の表面を砥粒入りナイロンブラシで研削し、9%塩酸槽に2回浸漬して酸洗を行うことにより得られる、鋼板表面のSi濃度を下げた高強度冷延鋼板が提案されている。
特許文献3には、鋼板表面から1〜10μm深さの領域に観察されるSiを含む線状酸化物の線幅を300nm以下とし、鋼板表面のSi量を低減することで、JIS Z 2371の塩水噴霧試験における耐食性を向上させた高強度冷延鋼板が提案されている。
特許文献3には、鋼板表面から1〜10μm深さの領域に観察されるSiを含む線状酸化物の線幅を300nm以下とし、鋼板表面のSi量を低減することで、JIS Z 2371の塩水噴霧試験における耐食性を向上させた高強度冷延鋼板が提案されている。
また、鋼板表面にS化合物を付着させて化成処理性や塗装後耐食性を向上させる技術も提案されている。例えば、特許文献4には、連続焼鈍前に、鋼板表面にS化合物を付着させることで、リン酸塩処理性に優れた極低炭素冷延鋼板の製造方法が提案されている。
特許文献5には、グラファイトやSiなどのリン酸塩皮膜形成を阻害する表面汚染物質を電解除去後、鋼板表面にS化合物を吸着させることで、リン酸塩処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板およびその製造方法が提案されている。
特許文献5には、グラファイトやSiなどのリン酸塩皮膜形成を阻害する表面汚染物質を電解除去後、鋼板表面にS化合物を吸着させることで、リン酸塩処理性および塗装後耐食性に優れた冷延鋼板およびその製造方法が提案されている。
しかしながら、上記技術には、次のような問題がある。
特許文献2に記載の高強度冷延鋼板では、冷間圧延前に鋼板表面のSi酸化物を低減しても、その後の焼鈍により鋼板表面にSi酸化物が形成され、塗装後耐食性を改善できない。
特許文献3に記載の高強度冷延鋼板の技術を、深絞り性の改善のためにC量を低減したIF鋼板に適用すると、十分な塗装後耐食性が得られなくなる。
特許文献4に記載の極低炭素冷延鋼板の製造方法や特許文献5に記載の冷延鋼板では、必ずしもr値の高い深絞り性に優れた冷延鋼板が得られない。
特許文献2に記載の高強度冷延鋼板では、冷間圧延前に鋼板表面のSi酸化物を低減しても、その後の焼鈍により鋼板表面にSi酸化物が形成され、塗装後耐食性を改善できない。
特許文献3に記載の高強度冷延鋼板の技術を、深絞り性の改善のためにC量を低減したIF鋼板に適用すると、十分な塗装後耐食性が得られなくなる。
特許文献4に記載の極低炭素冷延鋼板の製造方法や特許文献5に記載の冷延鋼板では、必ずしもr値の高い深絞り性に優れた冷延鋼板が得られない。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、深絞り性の改善のためにC量を低減したIF鋼板において、特殊なS化合物等の処理が不要な、化成処理性に優れた冷延鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を進めた。
その結果、表層部分に特定結晶方位の未再結晶粒を形成させて表層組織を制御することで化成処理性が向上すること、そして、この未再結晶粒の形成には表層の析出物強化が大きく関与し、Tiを中心とする成分組成の制御が重要であることを見出した。
その結果、表層部分に特定結晶方位の未再結晶粒を形成させて表層組織を制御することで化成処理性が向上すること、そして、この未再結晶粒の形成には表層の析出物強化が大きく関与し、Tiを中心とする成分組成の制御が重要であることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.0005〜0.01%、Si:0.2%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.10%以下、S:0.003〜0.03%、Ti:0.01〜0.1%、Al:0.01〜0.10%、N: 0.005%以下を含み、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上であることを特徴とする冷延鋼板。
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。
[1]質量%で、C:0.0005〜0.01%、Si:0.2%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.10%以下、S:0.003〜0.03%、Ti:0.01〜0.1%、Al:0.01〜0.10%、N: 0.005%以下を含み、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上であることを特徴とする冷延鋼板。
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
本発明によれば、深絞り性の改善のためにC量を低減したIF鋼板において、特殊なS化合物等の処理を施すことなく化成処理性に優れた冷延鋼板が得られる。
本発明の冷延鋼板は、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上であることを特徴とする。これは本発明において最も重要な要件である。また、その時の成分組成は、C:0.0005〜0.01%、Si:0.2%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.10%以下、S:0.003〜0.03%、Ti:0.01〜0.1%、Al:0.01〜0.10%、N: 0.005%以下を含み、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。このように、鋼板表面の状態を規定することにより、化成処理性に優れた冷延鋼板を得ることができる。
なお、本発明において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上とは、冷間圧延後、α→γ変態や再結晶をおこさず回復現象のみを経過した、再結晶粒と比較して転位密度が高く圧延方向に伸展した形態の未再結晶粒が板面に平行な方向の{100}面に集積した状態であることを示している。したがって、変態点以上の温度で行われる焼鈍により得られるα→γ→α変態を経て生成した再結晶粒が集積した組織とは異なるものである。
このように、本発明では、板面に平行な方向の{100}面の集積において、その{100}面方位に集積した結晶粒の形態および転位密度に特徴があり、通常得られる再結晶粒γ→α変態を経て形成された{100}面方位が集積した組織からなる物とは構成が異なる。ゆえに、本発明では、未再結晶粒と再結晶粒の違いを明らかにすべく、ランダム強度比を測定し、ランダム強度比を用いて冷延鋼板の構成を示すこととする。
板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上であれば、表面における板面に平行な方向での{100}面の面積比率が十分に高くなる。その結果、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進され、化成処理性が向上する。
なお、本発明において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上とは、冷間圧延後、α→γ変態や再結晶をおこさず回復現象のみを経過した、再結晶粒と比較して転位密度が高く圧延方向に伸展した形態の未再結晶粒が板面に平行な方向の{100}面に集積した状態であることを示している。したがって、変態点以上の温度で行われる焼鈍により得られるα→γ→α変態を経て生成した再結晶粒が集積した組織とは異なるものである。
このように、本発明では、板面に平行な方向の{100}面の集積において、その{100}面方位に集積した結晶粒の形態および転位密度に特徴があり、通常得られる再結晶粒γ→α変態を経て形成された{100}面方位が集積した組織からなる物とは構成が異なる。ゆえに、本発明では、未再結晶粒と再結晶粒の違いを明らかにすべく、ランダム強度比を測定し、ランダム強度比を用いて冷延鋼板の構成を示すこととする。
板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上であれば、表面における板面に平行な方向での{100}面の面積比率が十分に高くなる。その結果、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進され、化成処理性が向上する。
以下、本発明を詳細に説明する。
従来、自動車の外装板用冷延鋼板の集合組織は、板面に平行な方向に{111}面が多く形成することが知られている。本発明者らが様々な製造条件での実験を繰返し実施したところ、鋼板の内部では{111}面が多く存在するが、最表層には{100}面が多く存在する鋼板を得られることを見出した。そして、この{100}面の集積が、変態点以上で焼鈍することにより得られる通常の{100}面ではなく、転位密度が高い未再結晶粒の{100}面である場合に化成処理性が格段に優れることも見出した。
未再結晶粒の{100}面は、結晶面内に歪を多く内包するため、再結晶粒である{111}面に比べて化成処理時のリン酸水溶液に対する溶解速度が大きい。従って、表層に未再結晶粒の{100}面が多く存在する集合組織分布を有する鋼板は、従来の表面に{111}面が多く形成されたIF鋼板に比べ、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進されて化成処理性が優れることになる。
未再結晶粒の{100}面は、結晶面内に歪を多く内包するため、再結晶粒である{111}面に比べて化成処理時のリン酸水溶液に対する溶解速度が大きい。従って、表層に未再結晶粒の{100}面が多く存在する集合組織分布を有する鋼板は、従来の表面に{111}面が多く形成されたIF鋼板に比べ、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進されて化成処理性が優れることになる。
以上の検討結果を踏まえて、本発明では、化成処理性を改善し、塗装後耐食性向上に寄与できる十分に健全な化成結晶皮膜を得るために、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度をランダム強度比で2.5以上とする。
なお、板面に平行な方向の{100}面X線強度は逆極点図法により測定することができる。表面での{100}面X線強度は、試験片を洗浄、乾燥した後に、一方、板厚中心部での板面に平行な方向の{100}面X線強度は、試験片の片面をシュウ酸により化学研磨して、板厚中心部を表面に露出させた後に、各々測定を行う。X線源には白色X線を用い、{100}面X線の検出にはGe半導体検出器を用いることができる。また同時に、選択配向のない、結晶方位が不規則な分布をするランダム試料の{100}面X線強度(ランダム強度)を測定する。ランダム強度比は、ランダム試料の{100}面X線強度に対する実試験片の{100}面X線強度の比により算出する。
また、未再結晶粒が多く存在する領域の、最表層から板厚中心方向への厚さは、鋼板の圧延方向断面を光学顕微鏡で観察することにより測定することができる。未再結晶粒の圧延方向断面の形態は、再結晶粒に比べ厚みが小さく、かつ圧延方向に伸展した形態であるため、容易に区別することができる。そして、概ね、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進されて化成処理性が優れるという効果を得るためには、少なくとも最表層から板厚中心方向5μmの領域までは未再結晶粒の{100}面が多く存在することが好ましい。さらに好ましくは最表層から板厚中心方向10μmの領域までである。
また、上記のような鋼板表面において板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上の鋼板は、熱間圧延および焼鈍工程での製造条件を制御することにより得られる。具体的には例えば熱間圧延での巻取り温度を630℃以下で行うことで、板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上となる。
なお、板面に平行な方向の{100}面X線強度は逆極点図法により測定することができる。表面での{100}面X線強度は、試験片を洗浄、乾燥した後に、一方、板厚中心部での板面に平行な方向の{100}面X線強度は、試験片の片面をシュウ酸により化学研磨して、板厚中心部を表面に露出させた後に、各々測定を行う。X線源には白色X線を用い、{100}面X線の検出にはGe半導体検出器を用いることができる。また同時に、選択配向のない、結晶方位が不規則な分布をするランダム試料の{100}面X線強度(ランダム強度)を測定する。ランダム強度比は、ランダム試料の{100}面X線強度に対する実試験片の{100}面X線強度の比により算出する。
また、未再結晶粒が多く存在する領域の、最表層から板厚中心方向への厚さは、鋼板の圧延方向断面を光学顕微鏡で観察することにより測定することができる。未再結晶粒の圧延方向断面の形態は、再結晶粒に比べ厚みが小さく、かつ圧延方向に伸展した形態であるため、容易に区別することができる。そして、概ね、リン酸水溶液中で表面近傍のpH変化が短時間で大きくなり、化成結晶生成が促進されて化成処理性が優れるという効果を得るためには、少なくとも最表層から板厚中心方向5μmの領域までは未再結晶粒の{100}面が多く存在することが好ましい。さらに好ましくは最表層から板厚中心方向10μmの領域までである。
また、上記のような鋼板表面において板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上の鋼板は、熱間圧延および焼鈍工程での製造条件を制御することにより得られる。具体的には例えば熱間圧延での巻取り温度を630℃以下で行うことで、板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上となる。
さらに、検討を進めた結果、鋼板の焼鈍過程において、Tiとして、C、N、SとTi化合物を形成して析出に寄与していない、すなわち、鋼中に固溶したTiが存在するような鋼成分とすることが、上記のような、表層で未再結晶粒の{100}面方位を多く集積させるのに重要であることも見出した。
固溶Tiの存在が表層で未再結晶粒の{100}面方位を多く集積させる正確な機構は明らかではないが、冷延後の焼鈍時に、Tiが雰囲気中に存在するNと反応して、表層近傍で形成される窒化物が、再結晶に影響して、本来多く形成される{111}面の形成を阻害させることによるものと推察される。
以上より、このように固溶Tiを存在させるための成分組成として、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有する。ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。詳細な説明は後述する。
固溶Tiの存在が表層で未再結晶粒の{100}面方位を多く集積させる正確な機構は明らかではないが、冷延後の焼鈍時に、Tiが雰囲気中に存在するNと反応して、表層近傍で形成される窒化物が、再結晶に影響して、本来多く形成される{111}面の形成を阻害させることによるものと推察される。
以上より、このように固溶Tiを存在させるための成分組成として、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有する。ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。詳細な説明は後述する。
次に、成分元素の限定理由について説明する。
C:0.0005〜0.01%
Cは、固溶強化元素であり、降伏強度の上昇に寄与し、面内剛性の向上には有利である。しかし、優れた深絞り性を得るためには、極力低減することが好ましい。また、Cを多量に含有すると鋼中でのTi炭化物量が増加し、鋼中の固溶Ti量が減少して、表層部での板面に平行な方向の{100}面の生成が阻害される。以上より、0.01%を上限とする。一方、0.0005%未満では、結晶粒径が著しく粗大化して降伏強度が大きく低下するため、面内剛性が低下して腰折れなどの欠陥が発生しやすくなる。また、脱炭コストの増大を招く。よって、0.0005%以上0.01%以下とする。
C:0.0005〜0.01%
Cは、固溶強化元素であり、降伏強度の上昇に寄与し、面内剛性の向上には有利である。しかし、優れた深絞り性を得るためには、極力低減することが好ましい。また、Cを多量に含有すると鋼中でのTi炭化物量が増加し、鋼中の固溶Ti量が減少して、表層部での板面に平行な方向の{100}面の生成が阻害される。以上より、0.01%を上限とする。一方、0.0005%未満では、結晶粒径が著しく粗大化して降伏強度が大きく低下するため、面内剛性が低下して腰折れなどの欠陥が発生しやすくなる。また、脱炭コストの増大を招く。よって、0.0005%以上0.01%以下とする。
Si:0.2%以下
Siは、比較的加工性を劣化することなく固溶強化により鋼を強化する有用な元素である。一方で、焼鈍時に表面に濃化して化成処理時の溶解性を著しく阻害する。よって、0.2%以下とする。
Siは、比較的加工性を劣化することなく固溶強化により鋼を強化する有用な元素である。一方で、焼鈍時に表面に濃化して化成処理時の溶解性を著しく阻害する。よって、0.2%以下とする。
Mn:0.1〜1.5%
Mnは、焼鈍時に表面に濃化して化成処理時の溶解性を助長する効果がある。この効果を得るためには0.1%以上必要である。また、固溶強化元素として鋼強度を増大させるため、所望の強度を得るために適宜添加することができる。一方で、過剰な添加は加工性を阻害するため、1.5%以下とする。
Mnは、焼鈍時に表面に濃化して化成処理時の溶解性を助長する効果がある。この効果を得るためには0.1%以上必要である。また、固溶強化元素として鋼強度を増大させるため、所望の強度を得るために適宜添加することができる。一方で、過剰な添加は加工性を阻害するため、1.5%以下とする。
P:0.10%以下
Pは固溶強化元素であり、鋼の強化に有効であるが、0.10%を超えて過度に添加すると、熱間、冷間割れの原因となるばかりでなく、溶接不良を生じやすくなる。よって、上限を0.10%とする。
Pは固溶強化元素であり、鋼の強化に有効であるが、0.10%を超えて過度に添加すると、熱間、冷間割れの原因となるばかりでなく、溶接不良を生じやすくなる。よって、上限を0.10%とする。
S:0.003〜0.03%
Sは不可避的不純物として鋼中に存在するが、0.03%超えでは鋼板製造時の熱間割れが生じ易くなるとともに、鋼中で介在物を形成して、加工性を著しく低下させる。また、過度の添加は、Ti硫化物の形成を促進し、固溶Tiの減少につながる。よって、0.03%を上限とする。一方、S量は少ない方が好ましいが、0.003%未満とするには脱硫コストが増大するので、0.003%を下限とする。
Sは不可避的不純物として鋼中に存在するが、0.03%超えでは鋼板製造時の熱間割れが生じ易くなるとともに、鋼中で介在物を形成して、加工性を著しく低下させる。また、過度の添加は、Ti硫化物の形成を促進し、固溶Tiの減少につながる。よって、0.03%を上限とする。一方、S量は少ない方が好ましいが、0.003%未満とするには脱硫コストが増大するので、0.003%を下限とする。
Al:0.01〜0.10%
Alは脱酸剤として添加する元素であり、0.01%以上必要である。しかし、多量に添加してもより一層の脱酸効果は得られない。よって、上限は0.10%とする。
Alは脱酸剤として添加する元素であり、0.01%以上必要である。しかし、多量に添加してもより一層の脱酸効果は得られない。よって、上限は0.10%とする。
N: 0.005%以下
Nは、少ないほど加工性には有利であるので、少ないほど望ましい。また、0.005%を超えて、過剰に添加すると、成形性の著しい低下と固溶Ti量の低下につながる。よって、上限は0.005%とする。
Nは、少ないほど加工性には有利であるので、少ないほど望ましい。また、0.005%を超えて、過剰に添加すると、成形性の著しい低下と固溶Ti量の低下につながる。よって、上限は0.005%とする。
Ti:0.01〜0.1%
Tiは本発明における最も重要な元素のひとつである。Tiは、鋼中のC、N、Sを析出物として固定することにより、加工性向上効果を有する。また、本発明においては、析出物を形成するのに必要な量よりも余剰にTiを添加することにより、製造時に雰囲気中のNとの窒化物を形成させて表層の未再結晶粒の{100}面方位を増大させるために不可欠である。0.01%未満では、このような効果を得ることができない。一方、Tiを0.1%を超えて添加してもそれ以上の効果が望めないばかりでなく、鋼板内部に異常組織の形成を促進し、加工性を低下させる。以上より、0.01%以上0.1%以下とする。
さらに、前述したように、鋼中のTiは、鋼中のC、N、Sと析出物を形成するため、これらC、N、Sの成分に対して、当量を超えてTiを添加して固溶Tiを余剰に存在させることで、表層に未再結晶粒の{100}面を集積させることが本発明においては重要である。そのため、上記0.01%以上0.1%以下の規定に加え、以下の関係式を満たすものとする。
Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時、Ti*>0.007
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。
Ti*が、0.007を超えるとき、焼鈍時に鋼中に侵入する雰囲気中のNと固溶Tiとがごく微細な窒化物を形成し、結晶粒界の移動を妨げて再結晶を抑制する。その結果、転位密度の高い未再結晶粒が残存しやすくなり、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上となる。よって、Ti*>0.007と限定する。
Tiは本発明における最も重要な元素のひとつである。Tiは、鋼中のC、N、Sを析出物として固定することにより、加工性向上効果を有する。また、本発明においては、析出物を形成するのに必要な量よりも余剰にTiを添加することにより、製造時に雰囲気中のNとの窒化物を形成させて表層の未再結晶粒の{100}面方位を増大させるために不可欠である。0.01%未満では、このような効果を得ることができない。一方、Tiを0.1%を超えて添加してもそれ以上の効果が望めないばかりでなく、鋼板内部に異常組織の形成を促進し、加工性を低下させる。以上より、0.01%以上0.1%以下とする。
さらに、前述したように、鋼中のTiは、鋼中のC、N、Sと析出物を形成するため、これらC、N、Sの成分に対して、当量を超えてTiを添加して固溶Tiを余剰に存在させることで、表層に未再結晶粒の{100}面を集積させることが本発明においては重要である。そのため、上記0.01%以上0.1%以下の規定に加え、以下の関係式を満たすものとする。
Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時、Ti*>0.007
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。
Ti*が、0.007を超えるとき、焼鈍時に鋼中に侵入する雰囲気中のNと固溶Tiとがごく微細な窒化物を形成し、結晶粒界の移動を妨げて再結晶を抑制する。その結果、転位密度の高い未再結晶粒が残存しやすくなり、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上となる。よって、Ti*>0.007と限定する。
なお、上記以外の残部はFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物として、例えば、Oは非金属介在物を形成し品質に悪影響を及ぼすため、0.003%以下に低減するのが望ましい。また、本発明では、本発明の作用効果を害さない微量元素として、Cu、Cr、Ni、W、V、Zr、Sn、Sbを0.1%以下の範囲で含有してもよい。
次に、本発明の冷延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の冷延鋼板は、上記化学成分範囲に調整された鋼を、粗圧延し、所望の仕上温度で仕上圧延し、次いで、所望の冷却条件で冷却し、巻取り、酸洗後、冷間圧延し、連続焼鈍を行うことにより得られる。中でも、本発明の特徴である鋼板表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上とするためには、巻取り温度を630℃以下とするのが好ましい。630℃以下とすることで、Tiを含有する析出物が微細になり、後の焼鈍時に再溶解して固溶Tiを増大させ、鋼板両面の表層に、板面に平行な方向の未再結晶粒の{100}面を集積させることができる。
また、焼鈍時の加熱工程における雰囲気を、水素を5vol%以上含有する水素と窒素の混合ガスとし、露点を−40℃以下とすることで、より効果的に、鋼板両面の表層に、転位密度の高い板面に平行な方向の未再結晶粒の{100}面を集積させることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、水素濃度が高いほど、また露点が低いほど、窒素の鋼中への侵入が促進されて鋼中のTiとより多くのごく微細な窒化物を形成させることができ、再結晶抑制効果が高まるためと推定される。より好ましくは、水素濃度8vol%以上、露点−45℃以下である。
本発明の冷延鋼板は、上記化学成分範囲に調整された鋼を、粗圧延し、所望の仕上温度で仕上圧延し、次いで、所望の冷却条件で冷却し、巻取り、酸洗後、冷間圧延し、連続焼鈍を行うことにより得られる。中でも、本発明の特徴である鋼板表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上とするためには、巻取り温度を630℃以下とするのが好ましい。630℃以下とすることで、Tiを含有する析出物が微細になり、後の焼鈍時に再溶解して固溶Tiを増大させ、鋼板両面の表層に、板面に平行な方向の未再結晶粒の{100}面を集積させることができる。
また、焼鈍時の加熱工程における雰囲気を、水素を5vol%以上含有する水素と窒素の混合ガスとし、露点を−40℃以下とすることで、より効果的に、鋼板両面の表層に、転位密度の高い板面に平行な方向の未再結晶粒の{100}面を集積させることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、水素濃度が高いほど、また露点が低いほど、窒素の鋼中への侵入が促進されて鋼中のTiとより多くのごく微細な窒化物を形成させることができ、再結晶抑制効果が高まるためと推定される。より好ましくは、水素濃度8vol%以上、露点−45℃以下である。
表1に示す成分からなる溶鋼を、真空脱ガス処理後、連続鋳造によりスラブとし、1180℃に再加熱した後、仕上温度900℃で3.5mm厚まで熱間圧延し、表2に示す巻取り温度にてコイルに巻き取った。
次いで、巻取り後の鋼板を酸洗し、板厚0.65mmまで冷間圧延し、連続焼鈍前処理として脱脂後、ただちに連続焼鈍ラインにて、表2に示す温度で焼鈍した後、調質圧延を行った。
次いで、巻取り後の鋼板を酸洗し、板厚0.65mmまで冷間圧延し、連続焼鈍前処理として脱脂後、ただちに連続焼鈍ラインにて、表2に示す温度で焼鈍した後、調質圧延を行った。
以上により得られた冷延鋼板に対して、以下に示す方法により、{100}面X線ランダム強度比、機械的特性、リン酸水溶液中での溶解性を測定、評価した。得られた結果を表2に焼鈍条件と併せて示す。
{100}面X線ランダム強度比
板面に平行な方向の{100}面X線強度は逆極点図法により測定した。表面での{100}面X線強度は、試験片を洗浄、乾燥したのちに、一方で、板厚中心部での板面に平行な方向の{100}面X線強度は、試験片の片面をシュウ酸により化学研磨して、板厚中心部を表面に露出させた後、測定を行った。X線源には白色X線を用い、{100}面X線の検出にはGe半導体検出器を用いた。また同時に、選択配向のない、結晶方位が不規則な分布をするランダム試料の{100}面X線強度(ランダム強度)を測定した。ランダム強度比は、ランダム試料の{100}面X線強度に対する実試験片の{100}面X線強度の比により算出した。
板面に平行な方向の{100}面X線強度は逆極点図法により測定した。表面での{100}面X線強度は、試験片を洗浄、乾燥したのちに、一方で、板厚中心部での板面に平行な方向の{100}面X線強度は、試験片の片面をシュウ酸により化学研磨して、板厚中心部を表面に露出させた後、測定を行った。X線源には白色X線を用い、{100}面X線の検出にはGe半導体検出器を用いた。また同時に、選択配向のない、結晶方位が不規則な分布をするランダム試料の{100}面X線強度(ランダム強度)を測定した。ランダム強度比は、ランダム試料の{100}面X線強度に対する実試験片の{100}面X線強度の比により算出した。
機械的特性
成形性は、引張特性とr値の機械的特性により評価した。引張特性は、JISZ 2201記載の5号試験片に加工した後、JISZ 2241記載の試験方法に従って行った。また平均r値は、15%の引張予歪を与えた後、3点法にて測定し、鋼板の1方向に対して、90°方向、45°方向、0°方向のr値の平均=(r(0°)+2×r(45°)+r(90°))/4として求めた。
成形性は、引張特性とr値の機械的特性により評価した。引張特性は、JISZ 2201記載の5号試験片に加工した後、JISZ 2241記載の試験方法に従って行った。また平均r値は、15%の引張予歪を与えた後、3点法にて測定し、鋼板の1方向に対して、90°方向、45°方向、0°方向のr値の平均=(r(0°)+2×r(45°)+r(90°))/4として求めた。
リン酸水溶液中での溶解性(化成処理性)
化成処理性は、リン酸水溶液中に浸漬したときの溶解量により評価した。溶解量の測定方法を以下に示す。試験片を、日本ペイント(株)製脱脂剤サーフクリーナーEC90(濃度16g/l)を用いて42〜44℃で120秒間スプレー脱脂し、42〜44℃のリン酸水溶液(濃度0.005mol/l)に120秒間浸漬して、浸漬前後の重量変化から単位面積あたりの溶解量を算出した。この溶解量が0.25g/m2以上であれば、化成処理後に健全なリン酸亜鉛結晶皮膜が形成されることがわかっている。
化成処理性は、リン酸水溶液中に浸漬したときの溶解量により評価した。溶解量の測定方法を以下に示す。試験片を、日本ペイント(株)製脱脂剤サーフクリーナーEC90(濃度16g/l)を用いて42〜44℃で120秒間スプレー脱脂し、42〜44℃のリン酸水溶液(濃度0.005mol/l)に120秒間浸漬して、浸漬前後の重量変化から単位面積あたりの溶解量を算出した。この溶解量が0.25g/m2以上であれば、化成処理後に健全なリン酸亜鉛結晶皮膜が形成されることがわかっている。
板面に平行な方向の{100}面X線強度がランダム強度比で2.5以上である本発明例ではは、深絞り性の指標である平均r値が1.5以上と優れ、かつ化成処理性も優れていた。
また、未再結晶粒が多く存在する領域の、最表層から板厚中心方向への厚さを、鋼板の圧延方向断面を光学顕微鏡で観察した結果、いずれも5μm以上であることを確認した。
一方、比較例では、平均r値が低いか、または化成処理性が劣っており、両特性を満足していなかった。
また、未再結晶粒が多く存在する領域の、最表層から板厚中心方向への厚さを、鋼板の圧延方向断面を光学顕微鏡で観察した結果、いずれも5μm以上であることを確認した。
一方、比較例では、平均r値が低いか、または化成処理性が劣っており、両特性を満足していなかった。
本発明の冷延鋼板は、深絞り性および化成処理性に優れているため、自動車の外装板などを中心に、多様な用途での使用が可能となる。
Claims (1)
- 質量%で、C:0.0005〜0.01%、Si:0.2%以下、Mn:0.1〜1.5%、P:0.10%以下、S:0.003〜0.03%、Ti:0.01〜0.1%、Al:0.01〜0.10%、N:0.005%以下を含み、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)とする時に、Ti*>0.007を満たす範囲で含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼板両面の表面において、板面に平行な方向の{100}面X線強度が、ランダム強度比で2.5以上であることを特徴とする冷延鋼板。
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(質量%)を示す。
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CN106854729A (zh) * | 2015-12-09 | 2017-06-16 | 上海梅山钢铁股份有限公司 | 一种含磷无间隙原子冷轧镀锌钢板及其制造方法 |
JP6687174B1 (ja) * | 2018-10-17 | 2020-04-22 | Jfeスチール株式会社 | 熱延鋼板およびその製造方法 |
-
2010
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