[左手系メタマテリアルを実現する上での課題]
近年、メタマテリアル(metamaterial)と称されるデバイスが注目されている。このメタマテリアルとは、自然界に存在する物質が有さないような電磁気的あるいは光学的な特性をもつ人工物質である。このようなメタマテリアルの代表的な特性として、負の透磁率(μ<0)、負の誘電率(ε<0)、あるいは負の屈折率(透磁率および誘電率がいずれも負の場合)が挙げられる。なお、μ<0かつε>0の領域、またはμ>0かつε<0の領域は「エバネッセント解領域」とも称され、μ<0かつε<0の領域は「左手系領域」とも称される。
μ<0かつε<0である左手系メタマテリアルは、負の誘電率と負の透磁率を同時に実現するため、負の誘電率を持つ素子と、負の透磁率を持つ素子とを周期配置して作られる。
左手系メタマテリアルには、大きく分けて、回路系と共振系とがある。共振系において、負のμを実現する手段としては、例えば、スプリットリング共振器(SRR:Split Ring Resonator)がある(例えば、「左手系メタマテリアル」(日経エレクトロニクス1月2日号、日経BP社、2006年1月2日、p.75−81)参照)。
一方、負のεを実現する手段としては、電磁波の波長に対して十分長い金属細線がある。この金属細線によれば、プラズマ周波数が下がり、負のεが実現される。"Low Frequency Plasmons in thin-wire structures"(J B Pendry他, J. Phys.: Condens. Matter Vol.10 (1998) 4785-4809)には、金属細線のアレイにより負のεを実現できることが記載されている。また、特表2008−507733号公報には、周期格子のワイヤが負の誘電率となるとの記述がある。
また、電磁波の波長λの半分の長さの金属細線が、電磁波との共振によって負の誘電率を発生することも知られている。
負のεの実現のために電磁波の波長に対して十分長い金属細線を用いる方法では、メタマテリアルを小型化できない。そこで、電磁波の波長λの半分の長さの金属線を用いることが考えられる。
しかしながら、λ/2長の金属線を負のμを実現するための共振器と組み合わせて左手系メタマテリアルを実現しようとした場合、λ/2長の金属線は、一種の共振器であるので、負のμを実現するための共振器との間で干渉を起こすおそれがある。そして、その結果、金属線と共振器との組み合わせは、負のεおよび負のμを同時に発現しないおそれがある。
上述した課題を解決するための、負の誘電率および負の透磁率を同時に発現することが可能なメタマテリアルの実施の形態を以下に記載する。
[共振器について]
本発明に係る左手系メタマテリアルは、共振器を組み合わせた共振系のものである。そこで、まず、本発明の左手系メタマテリアルを構成する共振器について説明する。
(多層コンデンサ型共振器)
本実施の形態において用いられる共振器の1つに、複数の電極を含む多層コンデンサ型共振器がある。この共振器には、当該電極間に生じる静電容量(キャパシタンス)を主体とした共振回路が形成される。この共振回路は、共振器の周辺に配置された信号線路に交流電流が流れることで発生する電磁波の特定の周波数成分に感受性をもち、この周波数成分の電磁波を受けて電気的な共振現象を生じ得る。この共振現象によって、負の透磁率が発現する。
ここで、メタマテリアルとしての機能である透磁率の共振を生じさせるためには、各共振器の電流の伝搬方向における長さが、対象とすべき周波数における電磁波の波長λに対して、少なくともλ/4より短い必要がある。さらに、各共振器の電流の伝搬方向における長さは、λ/20以下であることが好ましい。
共振器としては、複数の平板電極を絶縁物(誘電体)を積層して形成された積層コンデンサなどを用いることができる。以下では、積層コンデンサを用いて共振器を実現する構成について例示する。この構成によれば、市販されている積層セラミックコンデンサなどの積層コンデンサを用いて、容易に共振器を構成できる。ただし、本発明に係る共振器を構成するための専用に設計された電極部材を用いてもよい。
図1は、コンデンサ型共振器300の概略の外観図である。図1を参照して、コンデンサ型共振器300は、非磁性体である外装部10により覆われている。なお、外装部10としては、テフロン(登録商標)などの樹脂材料が適している。このコンデンサ型共振器300は、所定の周波数成分を含む電流が流れる信号線路200に近接して配置されることで、当該電流が発生する電磁波の特定の周波数成分(共振周波数)を受けて共振を生じる。また、コンデンサ型共振器300の信号線路200に接する面とは反対側の面には、グランド220が配置される。
コンデンサ型共振器300内での共振によって、コンデンサ型共振器300に磁束が発生し、負の透磁率が発現する。
なお、コンデンサ型共振器300が負の透磁率を発現する、すなわちメタマテリアルとしての機能である負の透磁率を発揮するためには、コンデンサ型共振器300の信号線路200における電流の伝搬方向における長さl’が、共振周波数における電磁波の波長λに対して、少なくともλ/4より短い必要がある。さらに、コンデンサ型共振器300の長さlは、λ/20以下であることが好ましい。
以下では、コンデンサ型共振器300の一例として、長さl’=1.6mm、幅W=0.8mm、高さH=1.2mmの8層の内部電極を有する積層コンデンサを用いる場合について例示する。なお、信号線路200と積層コンデンサとの距離h=0.2mm、積層コンデンサとグランドの距離h’=0.2mmとする。
ここで、λ/4=長さl’=1.6mmとすると、λ=6.4mmとなり、これは、空気中では周波数fmax=46.875GHzに相当する。従って、このコンデンサ型共振器300をλ/4以下のピッチで並べると、ギガヘルツ帯においてメタマテリアルとして用いることができる。当然のことながら、適用すべき周波数領域に応じて、共振器の長さlを適宜設計することができる。
次に、図1および図2を参照して、コンデンサ型共振器300の構造について説明する。図2は、図1に示すII−II線断面図である。
図1を参照して、信号線路200に電流が流れることによって、信号線路200を中心とした円周方向に交流の磁界が発生する。すなわち、磁界の磁力線は、信号線路200を中心とする同心円となる。また、信号線路200には電流が流れる際に電位が発生するので、信号線路200とグランド220との間には交流の電界が発生する。
図2を参照して、コンデンサ型共振器300は、各々が比誘電率の高い絶縁物であるスペーサ6を介して互いに対向する第1内部電極4および第2内部電極5をそれぞれ複数含む。複数の第1内部電極4は、第1外部電極2と電気的に接続されており、複数の第2内部電極5は、第2外部電極3と電気的に接続されている。このように、コンデンサ型共振器300では、平板状の複数の内部電極4,5が積層されており、隣接する第1内部電極4と第2内部電極5との間には、その電極の面積、電極間の距離、スペーサ6の比誘電率などによってその値が定まる静電容量(キャパシタンス)が生じる。
コンデンサ型共振器300を構成する第1内部電極4および第2内部電極5の各電極面は、磁界の磁力線に対して実質的に平行となるように配置される。それとともに、第1外部電極2および第2外部電極3の各電極面が、第1外部電極2および第2外部電極3の各電極面とは異なる面において、磁界の磁力線に対して実質的に平行となるように配置される。すなわち、図2に示すように、信号線路200を流れる電流によって生じる磁界の磁力線が紙面前後方向に発生している場合において、コンデンサ型共振器300は、第1内部電極4および第2内部電極5の電極断面長手方向が紙面左右方向と一致し、かつ第1外部電極2および第2外部電極3の電極断面長手方向が紙面上下方向と一致するように配置される。
コンデンサ型共振器300が図2に示すような位置関係を保って配置されることで、所定の周波数成分に対して図3に示すような共振回路が形成され、この共振回路によって、負の透磁率が発現する。
図3は、共振周波数においてコンデンサ型共振器300で形成される共振回路を説明するための図である。
図3を参照して、その電極面が磁界の磁力線に対して実質的に平行となるように配置される第1内部電極4および第2内部電極5、ならびに第1外部電極2および第2外部電極3は、その経路長さに応じたコイル(インダクタ)として作用する。
コンデンサ型共振器300では、第1内部電極のうち最上層の電極4aと、第1外部電極2と、第1内部電極のうち最下層の電極4bとは互いに電気的に接続されており、これらを含む電流経路が形成される。同様に、第2内部電極のうち最上層の電極5aと、第2外部電極3と、第2内部電極のうち最下層の電極5bとも互いに電気的に接続されており、これらを含む電流経路が形成される。ここで、電極4aと電極5aとの間の静電容量(キャパシタンスC1)と、電極4bと電極5bとの間の静電容量(キャパシタンスC2)とを介して、両電流経路は互いに電気的に接続され、キャパシタンスC1,C2と各電極によって生じるインダクタンスL1〜L6とを含む共振回路が形成される。したがって、本実施の形態に従うコンデンサ型共振器300は、キャパシタンス(C1+C2)と、インダクタンス(L1+L2+L3+L4+L5+L6)とによって定まる共振周波数をもち、この共振周波数の電磁波が入射することで、透磁率共振が発現する。
なお、コンデンサ型共振器300では、隣接する内部電極の間の各々で静電容量が発生するが、最上位の静電容量および最下位の静電容量を除いた他の静電容量は、この共振回路の形成への影響は小さい。これは、共振を起こす循環経路の最外層に電流が集中するためである。
図4は、コンデンサ型共振器300で生じる比透磁率の周波数特性の一例を示す図である。なお、図4に示す変化特性は、シミュレーションによって算出されたものである。ここで、比透磁率とは、真空の透磁率に対する透磁率の比を表す。
図4を参照して、コンデンサ型共振器300は、その1つの共振周波数として約4.9GHzをもち、その前後で比透磁率が大きく変動し、負の透磁率が生じることが分かる。
上述の説明では、第1内部電極4および第2内部電極5、ならびに第1外部電極2および第2外部電極3の各電極面が磁界の磁力線に対して実質的に平行となるように配置されることで、メタマテリアルとしての機能である負の透磁率を発現させることができることについて述べた。ここで、「実質的に平行」とは、各電極面が磁界の磁力線と直交する状態を除外する意味であり、各電極面が磁界の磁力線とまったく平行である状態以外にも、磁力線に対して所定角度をもつ状態をも含む。実用上は、コンデンサ型共振器300で発現する負の透磁率の大きさが適用アプリケーションなどの要求を満足できる値であれば、「実質的に平行」とみなすことができる。
(コイル型共振器)
次に、本実施の形態のメタマテリアルに用いられるもう1つの種類の共振器である、コイル型共振器について説明する。コンデンサ型共振器が負の透磁率を発現するものであったのに対し、コイル型共振器は、中心軸が電界方向に対して平行(磁界に対して直角)になるように配置されたとき、負の誘電率を実現できる。また、中心軸が電界方向に対し直角(磁界方向に対して平行)になるように配置されたコイル型共振器は、負の透磁率を実現できる。
まず、コイル型共振器を用いて負の誘電率を発現するメタマテリアルの構成を図5を参照して説明する。図5は、コイル型共振器を用いて負の誘電率を発現するメタマテリアルの構成を説明するための図である。
図5を参照して、メタマテリアルは、コイル型共振器100と外装部10とを備える。コイル型共振器100は、非磁性体である外装部10により覆われている。コイル型共振器100は、信号線路200と、グランド220との間に配置されている。グランド220は、コイル型共振器100の信号線路200に接する面とは反対側の面にある外装部10の面に配置される。
信号線路200には、所定の周波数成分を含む電流が流れる。本実施の形態においては、信号線路200は、ストリップラインであるとする。ただし、信号線路200は、電流を流す導体の一例であって、導体の形態はこれに限られるものではない。
コイル型共振器100は、金属線を周回したものである。コイル型共振器100の全長(金属線の全長)は、信号線路200を流れる電流の波長の半分程度である。ここでは、信号線路200を流れる電流の周波数はGHz帯であり、コイル型共振器100の長さは、28mmである。
図5では、コイル型共振器100として、中心軸110を中心に巻かれている、すなわち、ばね形状を有するものを示した。ただし、コイル型共振器100の形状は、図5に示した、円筒面に沿うように巻かれたものに限られない。例えば、コイル型共振器100は、四角柱に沿って巻かれたような形状であってもよい。あるいは、コイル型共振器100は、球面に沿って巻かれたような形状であってもよい。
コイル型共振器100は、上述のような長さおよび形状を有していればよい。コイル型共振器100としては、金属線を巻いたコイルなどを利用できる。コイル型共振器100としては、既成のもの(例えば、既成のコイル)を用いてもよいし、専用に作成したものを用いてもよい。
外装部10は、コイル型共振器100の位置を固定する。外装部10としては、テフロン(登録商標)などの樹脂材料が適している。ただし、外装部10は、コイル型共振器100の位置を固定する支持部材の一例であり、コイル型共振器100は、他の部材により固定されていてもよい。
コイル型共振器100の中心軸110は、信号線路200を流れる電流が作る電界、より詳しくは、信号線路200とグランド220との間に生じる電界に対して平行である。すなわち、外装部10は、中心軸110が電界に平行になるように、コイル型共振器100を固定する。言い換えると、コイル型共振器100は、電界の勾配に沿って、コイルの両端の電位に差があるように、配置される。
図5に示す例では、中心軸110を、信号線路200からグランド220に向かう方向にとっている。すなわち、中心軸110は、グランド220面に直交し、かつ、信号線路200を貫通する。この配置により、中心軸110は、信号線路200を流れる電流が作る電界に平行(信号線路200を流れる電流が作る磁界に垂直)になっている。
信号線路200に対して、コイル型共振器100は、信号線路200を流れる電流が発生する電場の特定の周波数(共振周波数)成分を受けて、共振を生じる。
コイル型共振器100の電磁的性質を図6および図7に示す。図5に示すメタマテリアルが示す比透磁率および比誘電率をそれぞれ図6、図7に示す。ここで、比誘電率とは真空の誘電率に対する誘電率の比を表し、比透磁率とは真空の透磁率に対する透磁率の比を表わす。図7に示すように、図5のメタマテリアルは、2.6GHz付近で負の誘電率を示す。一方、比透磁率は、図6に示すように、常に正である。
以上のとおり、波長の1/2の長さのコイル状の金属線によって、負の誘電率が発現することが分かる。このようにコイル状の金属線を用いたメタマテリアルは、直線状の金属線を用いて負の誘電率を実現するメタマテリアルに比べ、小型にできる。
次に、ばね状の金属線を用いて負の透磁率(μ)を持つメタマテリアルを実現する例について説明する。負のμを持つメタマテリアルは、図5に示したコイル型共振器100と同様の長さおよび形状のコイル型共振器100を、その中心軸110が磁界に平行になるように置くことで実現される。このように配置されたコイル型共振器100が、負の透磁率を示すことを、図8から図10を参照して、以下、説明する。
図8は、コイル型共振器を用いて負の誘電率を発現するメタマテリアルの構成を説明するための図である。図8に示すメタマテリアルは、図6に示すコイル型共振器100をY軸周りに90度回転して、コイル型共振器100の中心軸が、信号線路200を流れる電流により生じる磁界と平行(信号線路200を流れる電流が作る電界に垂直)になるように配置したものである。
図8に示すメタマテリアルが示す比透磁率および比誘電率をそれぞれ図9、図10に示す。図9に示すように、図8のメタマテリアルは、2.6GHz付近で負の透磁率を示す。一方、図10に示すように、比誘電率は常に正である。
このように中心軸方向を変えることにより、同じ構造のコイル型共振器100が、負の誘電率を示す場合も、負の透磁率を示す場合もあることが分かる。なお、中心軸方向が磁界方向および電界方向に対して非直交になるように配置されたコイル型共振器100は、負の誘電率および透磁率を同時に示す。
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係るメタマテリアルとして、コイル型共振器と、コンデンサ型共振器とを並べて配置したものを説明する。
これらの共振器の組み合わせが、左手系メタマテリアルとなる、すなわち、負の透磁率および負の誘電率を同時に発現するためには、各共振器の配置および構造が重要となる。まず、コイル型共振器が負の誘電率を発現し、コンデンサ型共振器が負の透磁率を発現するよう、各共振器を配置しなければならない。さらに、共振器同士が不適切な干渉を起こさないように、共振器の構造にも配慮する必要がある。
コイル型共振器が負の誘電率を発現するためには、コイル型共振器を、その軸が電界方向(z方向とする)に平行となるように配置すればよい。一方、コンデンサ型共振器については、コンデンサ型共振器が負の透磁率を発現するように、その内部極板が、磁界方向に平行、すなわち、z方向を法線とする平面(x−y平面)に平行となるように配置すればよい。
以上の配置の条件に加えて、コンデンサ型共振器は、最外部の2枚の内部電極が逆相、すなわち、それぞれの内部電極に蓄えられる電荷の符号が逆、という条件を満たすことが好ましい。これは、コンデンサ型共振器とコイル型共振器とが干渉することを避けるためである。以下、図11から図16を参照して、このことについて、さらに詳しく説明する。
図11は、最外部の内部電極が直接接続されているコンデンサ型共振器とコイル型共振器とを示す図である。これらの共振器は、近接して配置されている。ただし、コイル型共振器およびコンデンサ型共振器はお互いに電気的に接触していない。コイル型共振器は、電界中に置かれているので、両端に異なる符号の電荷が現れる。図11においては、上端に正の電荷(図11の+)を、下端に負の電荷(図11の−)が現れている状況を示している。反共振の周波数では、両端の電荷の符号が反転し、逆向きの電界ベクトルが発生し、負の誘電率が発現する。
一方、コンデンサ型共振器の図11における最上面の電極と最下面の電極とは、外部電極によって最上面の電極により電気的に直接接続されているので、同符号の電荷を蓄えることになる。図11では、最上面の電極および最下面の電極が、負の電荷を帯びている場合を示している。
図11に示した状況では、近接する最下面の電極とコイル型共振器の下端とに蓄えられた負の電荷同士が干渉する。そのため、負の誘電率と負の透磁率とが、同時に発生しない。すなわち、負の誘電率の反共振周波数と、負の透磁率の反共振周波数とが、一致することがない。
このことを図12および図13を用いて具体的に説明する。図12は、図11に示す共振器群の比誘電率を示す図である。図13は、図11に示す共振器群の比透磁率を示す図である。
図12には、コイル型共振器の形状(長さなど)を変化させたときの、共振器群全体の比誘電率特性を示している。コイル型共振器の形状変化にしたがい、誘電率の共振周波数が変化し、したがって、負の誘電率が生じる周波数が変化する。
図13には、コイル型共振器の形状(長さなど)を変化させたときの、共振器群全体の比透磁率特性を示している。コイル型共振器の形状変化にしたがい、透磁率の共振周波数が変化し、したがって、負の透磁率が生じる周波数が変化する。コンデンサ型共振器の形状を変化させていないのにもかかわらず透磁率の共振周波数が変化するのは、各共振器の端部の電荷の干渉によるものである。
このようにコイル型共振器の形状を変化させると、負の誘電率が生じる帯域と、負の透磁率が生じる帯域との双方が変化する。そのために、負の誘電率および負の透磁率を同じ周波数で発現させることができない。負の誘電率(透磁率)を示す周波数を増加させていくと、負の透磁率(誘電率)を示す周波数も増加してしまう。逆に、負の誘電率(透磁率)を示す周波数を減少させていくと、負の透磁率(誘電率)を示す周波数も減少してしまう。このように、透磁率(誘電率)の共振周波数が、誘電率(透磁率)の共振周波数から離れてしまう現象が生じるので、負の誘電率および負の透磁率を同じ周波数で発現するように共振器を設計することが難しい。
そこで、本実施の形態に係るメタマテリアルにおいては、図14のように2種類の共振器を配置する。本実施の形態に係るメタマテリアルは、コイル型共振器100とコンデンサ型共振器300と外装部10(図14には図示せず)とを備える。図11に示す場合と同様、外装部10は、コンデンサ型共振器とコイル型共振器とを、近接する位置に固定する。なお、先の説明と同様、外装部10のかわりに他の支持部材を用いてもかまわない。
コイル型共振器は、図11の場合と同様、電界中に置かれているので、両端に異なる符号の電荷が現れる。図14においても、図11と同様、上端に正の電荷(図14の+)を、下端に負の電荷(図14の−)が現れている状況を示している。反共振の周波数では、両端の電荷の符号が反転し、逆向きの電界ベクトルが発生し、負の誘電率が発現する。
一方、コンデンサ型共振器は、図11に示すものと異なる。コンデンサ型共振器の図14における最上面の電極と最下面の電極とは、外部電極によって電気的に直接接続されておらず、電気容量を介して接続されている。そのため、最上面の電極と最下面の電極とは、逆相になる(逆符号の電荷を蓄える)。図14では、最上面の電極が負の電荷を、最下面の電極が正の電荷を帯びている場合を示している。
図14に示した状況では、図11に示した状況と異なり、近接する最下面(あるいは最上面)の電極とコイル型共振器の下端(あるいは上端)とに蓄えられた電荷の干渉を抑えることができる。したがって、負の誘電率と負の透磁率とを、同時に発生することができる。すなわち、負の誘電率の反共振周波数と、負の透磁率の反共振周波数とを一致させることができる。
このことを図15および図16を参照して説明する。図15には、コイル型共振器の形状を変化させたときの、共振器群全体の比誘電率特性を示している。コイル型共振器の形状変化にしたがい、誘電率の共振周波数が変化し、したがって、負の誘電率が生じる周波数が変化する。
図16には、コイル型共振器の形状を変化させたときの、共振器群全体の比透磁率特性を示している。コイル型共振器の形状を変化させても、透磁率の共振周波数はほぼ変化しない。これは、各共振器の端部の電荷の干渉が抑えられており、コンデンサ型共振器の共振特性が変化しないためである。
以上のように、本実施の形態に係るメタマテリアルは、負の誘電率と負の透磁率とを同時に発生でき、左手系となる。
なお、図14では、1つのコイル型共振器と1つのコンデンサ型共振器とのセットを示したが、メタマテリアルは、このセットを複数備えていてもよい。この場合、例えば、セットを1次元的あるいは2次元的に連続する位置に、支持部材で固定する。
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、負のεをもつ共振器としてコイル型共振器を用いる例を示した。しかしながら、本発明においては、負のεをもつ共振器として、コイル型共振器に限られず、電磁波に共振する略λ/2の長さの線路を含む共振器を用いることができる。
また、負のεをもつ共振器と負のμを持つ共振器(第1の実施の形態ではコンデンサ型共振器)は、第1の実施の形態で説明したように、必ずしも横に並べる必要はない。
第2の実施の形態では、負のεをもつ共振器として、λ/2長の線路と線路の両端に接続した2枚の導電板とを含む共振器を用い、負のεを持つ共振器と、負のμをもつコンデンサ型共振器とを共通の空間に組み合わせる構成について説明する。
第2の実施の形態に係るメタマテリアルの構成の概略を図17および図18を用いて説明する。図18が、第2の実施の形態のメタマテリアルの概略図である。図17は、第2の実施の形態のメタマテリアルにおいて、コンデンサ型共振器の構成を変えたものである。
図17、図18のいずれにおいても、コンデンサ型共振器の2つの最外電極の外部に、それぞれの最外電極と対向するように、2つの導電板が配置される。また、導電板は、巻かれた線路で接続されている。線路は、その長さが共振波長の略λ/2になるように設計される。
線路は、巻かれているため、小型のスペースでその長さを確保することができる。ただし、共振波長によっては、あるいは、小型化が必要ない場合には、線路は巻かれていなくてもよい。また、図17、図18では、コイル状に巻かれた線路を示したが、小型化は、線路を巻く方法に限られず、線路を屈曲させることにより実現される。例えば、ミアンダ線路などを用いてもよい。
各導電板は、線路との間の容量を大きくし、共振周波数における負の誘電率の絶対値を大きくする。また、容量による波長短縮効果により、実質的なλ/2の長さを短かくできる。なお、求められる負の誘電率の値によっては、各導電板は設置しなくてもよい。また、設計上の理由等により、線路の一方の端部のみに導電板を接続してもよい。
図17と図18の差異は、図17では、コンデンサ型共振器の2つの最外電極が直接接続されているのに対し、図18では、2つの最外電極が直接接続されず、逆相である点にある。図18に示す本実施の形態に係るメタマテリアルは、第1の実施の形態に係るメタマテリアルと同様、電荷の干渉を抑えられるので、負の誘電率と負の透磁率とを同時に発現することができる。図17に示す構造では、負の誘電率と負の透磁率とを同時に発現することが困難である。
図18で概略を示した本実施の形態に係るメタマテリアルの具体的な構成を図19に示す。図19を参照して、本実施の形態に係るメタマテリアルは、負の誘電率用の共振器および負の透磁率用の共振器を基板材料内に作りこんだユニット600を複数備える。このユニットは、多層基板のような技術を使って、1チップ内に、負の誘電率用の共振器および負の透磁率用の共振器を作りこんだものである。この構成では、基板材料が支持部材に相当する。
各ユニット600は、信号線路200の直下に、かつ、信号線路200とグランド220との間に配置されている。また、各ユニット600は、空間的に連続的に配置される。図19では、4つのユニット600を、信号線路200に沿った方向で配置した例を示しているが、ユニット600の配置はこれに限られるものではない。1次元状に配置された共振器を、同一平面内に並べて、平面状のメタマテリアルを構成することも可能である。さらに、平面状のメタマテリアルを重ねて、立体的なメタマテリアルを構成することも可能である。
ユニット600の構造を図20および図21を参照して説明する。図20は、ユニット600の斜視図である。図21は、ユニット600をy方向から見た側面図である。
図20に示すように、ユニット600は、最上部電極610aと、最下部電極610bと、第1の内部電極622と、第2の内部電極624と、第3の内部電極632と、第4の内部電極634と、線路640とを備える。また、図21に示すように、ユニット600は、さらに、第1の外部電極650と、第2の外部電極660とを備える。
最上部電極610aは、第1の内部電極622、第2の内部電極624、第3の内部電極632、第4の内部電極634よりも上に(z座標が大きな位置に)配置される。最下部電極610bは、第1の内部電極622、第2の内部電極624、第3の内部電極632、第4の内部電極634よりも下に(z座標が小さな位置に)配置される。最上部電極610aは、−z方向に伸びた側面部分を有する。最下部電極610bは、+z方向に伸びた側面部分を有する。また、最上部電極610aは、信号線路200の真下に配置される。
線路640は、最上部電極610aの−z方向に伸びた側面部分と、最下部電極610bの+z方向に伸びた側面部分とを接続する。線路640は、最上部電極610aおよび最下部電極610bと、各側面部分とをつなぐことで、負の誘電率を実現するλ/2線路の一部として機能する。
線路640と各側面部分により構成される線路の長さは、共振周波数に応じて設計される。ここでは、λ/2の長さをとるため、線路640を、中央層に引いたミアンダ線路としている。ただし、線路640の形状はこれに限られるわけではなく、例えば、ヘリカルでもスパイラルでも構わない。
なお、最上部電極610aおよび最下部電極610bは、負の誘電率の絶対値を大きくするとともに、共振波長を短縮するために備えられているものである。共振波長が短縮されるのは、最上部電極610aと信号線路との容量による波長短縮効果による。最上部電極610aおよび最下部電極610bは、要求される負の誘電率や共振波長により省略することも可能である。
第1の内部電極622および第2の内部電極624は、近接して対向して配置される。また、第3の内部電極632および第4の内部電極634は、近接して対向して配置される。第1の内部電極622および第2の内部電極624の対(上部電極対とよぶ)は、最上部電極610aの側に配置される。第3の内部電極632および第4の内部電極634の対(下部電極対とよぶ)は、最下部電極610bの側に配置される。各々の内部電極面は、信号線路200を流れる電流により生じる磁界方向と平行(電界方向と垂直)に配置される。
第1の外部電極650は、図21に示すとおり、第1の内部電極622と第3の内部電極632とを接続する。第2の外部電極660は、図21に示すとおり、第2の内部電極624と第4の内部電極634とを接続する。各々の外部電極面は、信号線路200を流れる電流により生じる磁界方向と平行(電界方向と垂直)に配置される。
上述の線路640と最上部電極610aと最下部電極610bとは、負の誘電率を実現する。第1〜第4の内部電極622,624,632,634、ならびに第1の外部電極650および第2の外部電極660は、上下2枚ずつの電極をもつコンデンサ型共振器を形成し、負の透磁率を実現する。負の誘電率を実現するλ/2線路および負の透磁率を実現するコンデンサ型共振器は、当然ながら、互いに電気的に直接接続されていない。また、λ/2線路およびコンデンサ型共振器は、信号線路200、グランド220に対しても電気的に接続されておらず、浮いた状態となっている。また、各ユニット600も、お互いに接触していない。
以上説明したようなユニット600を空間的に連続に配置することにより、本実施の形態に係るメタマテリアルは、左手系メタマテリアルとして機能する。なお、ユニット600の配置の仕方は、上述のものに限られない。例えば、平面内に2次元状に配置してもよい。
本実施の形態に係るメタマテリアルは、負の誘電率用の共振器および負の透磁率用の共振器をユニット内に作りこむことで作成されるため、工業的な製造が容易である。
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態では、第2の実施の形態におけるコンデンサ型共振器のかわりにスプリットリング型の共振器を用いたメタマテリアルについて説明する。
第3の実施の形態に係るメタマテリアルの1つのユニット700の構造を図22および図23に示す。図22は、ユニット700の斜視図である。図23は、ユニット700の側面図である。
図22を参照して、ユニット700は、最上部電極710aと、最下部電極710bと、第1の内部電極722と、第2の内部電極724aと、第3の内部電極724bと、第4の内部電極730と、線路740を備える。図23を参照して、ユニット700は、さらに、第1の外部電極750および第2の外部電極760を備える。
最上部電極710aおよび最下部電極710bは、第2の実施の形態に係る最上部電極610aおよび最下部電極610bと同様の構造をもち、各内部電極よりも外部に配置される。
線路740は、最上部電極710aおよび最下部電極710bを接続する。線路740は、第2の実施の形態の線路640と同様、λ/2線路の一部として機能し、負の誘電率を実現する。なお、本実施の形態では、線路740として、水平面内を1周半するヘリカル構造のものを用いている。
第2の内部電極724aおよび第3の内部電極724bは、同一面内で、離して配置される。第1の外部電極750は、第2の内部電極724aと第4の内部電極730とを接続する。第2の外部電極760は、第3の内部電極724bと第4の内部電極730とを接続する。つまり、第2の内部電極724a、第1の外部電極750、第3の内部電極724b、第2の外部電極760、第3の内部電極730は、スプリットリング型の共振器と同様の構造を有する。したがって、これらの電極は、負の透磁率を発現する。
第1の内部電極722は、第2の内部電極724aおよび第3の内部電極724bと対向して、第2の内部電極724aおよび第3の内部電極724bとは電気的に接触しないように配置される。第1の内部電極722は、第2の内部電極724aと第3の内部電極724bとの間の切れ目部分の静電容量を補い、共振周波数を下げる役割を果たす。
[第4の実施の形態]
1チップ内に、負の誘電率用の共振器および負の透磁率用の共振器を作りこむメタマテリアルの他の例として、周辺に配置したコイルの中に負の透磁率用の共振器を配置したものを作ることもできる。第4の実施の形態では、そのようなメタマテリアルの一例を示す。
第4の実施の形態に係るメタマテリアルの1つのユニット800の構造を図24、図25、図26を参照しつつ説明する。図24は、ユニット800の斜視図である。図25は、ユニット800の側面図である。図26は、ユニット800の上面図である。
ユニット800は、コイル状導体810と、第1の電極822と、第2の電極824と、第3の電極832と、第4の電極834と、第1のビア842と、第2のビア844とを備える。
コイル状導体810は、ユニット800の表面に近い領域を複数(ここに示す例では、8回)周回する。コイル状導体810は、第1の電極822、第2の電極824、第3の電極832、第4の電極834、第1のビア842、第2のビア844を囲むように配置される。
第1の電極822および第2の電極824は、近接して対向して配置される。また、第1の電極822および第2の電極824は、それぞれの水平面内の位置を互いにずらして配置される。
第3の電極832および第4の電極834は、近接して対向して配置される。また、第3の電極832および第4の電極834は、それぞれの水平面内の位置を互いにずらして配置される。
第1の電極822と第2の電極824の対は、ユニット800内の上部に形成される。第3の電極832と第4の電極834の対は、ユニット800内の下部に形成される。なお、ここでの上部、下部とは、図24および図25に即したものである。
第1のビア842は、第1の電極822と第3の電極832とを接続する。また、第2のビア844は、第2の電極824と第4の電極834とを接続する。
以上の構造により、第1〜第4の電極822,824,832,834ならびに第1のビア842および第2のビア844は、コンデンサ型の共振器として機能し、負の透磁率を発現する。
本実施の形態の構成によれば、第2および第3の実施の形態に比べ、ユニットの大きさを保ちつつ、線路(コイル)の長さを長く取れる。そのため、低い共振周波数を得ることができる。
[第5の実施の形態]
第3の実施の形態や、第4の実施の形態に係るメタマテリアルを作成するためのユニット(メタマテリアルユニット)では、負の透磁率用の共振器は、内部電極を接続するための外部電極を有していた。これに対し、本実施の形態に係る負の透磁率用の共振器では、内部電極を接続するための導電部が、ビアにより実現される。
第5の実施の形態に係るメタマテリアルの1つのユニット900の構造を図27から図29に示す。図27は、ユニット900の斜視図である。図28は、ユニット900の正面図である。図29は、ユニット900の側面図である。
図27から図29を参照して、ユニット900は、最上部電極910aと、第1のビア912aと、第2のビア912bと、最下部電極910bと、第1の内部電極922と、第2の内部電極924aと、第3の内部電極924bと、第4の内部電極930と、線路940と、第3のビア950と、第4のビア960とを備える。
第1のビア912a、線路940および第2のビア912bは、最上部電極910aおよび最下部電極910bを接続する。
第1のビア912a、線路940および第2のビア912bの全長は、共振波長の略1/2の長さである。第1のビア912a、線路940および第2のビア912bは、λ/2線路の一部として機能し、負の誘電率を実現する。なお、線路940の形状は、図示したミアンダ線路に限られず、例えば、ヘリカルでもスパイラルでも構わない。
最上部電極910aおよび最下部電極910bは、図21に示す最上部電極610aおよび最下部電極610bと同様に、負の誘電率の絶対値を大きくするとともに、共振波長を短縮する機能を発揮する。ただし、最上部電極910aおよび最下部電極910bは、省略することも可能である。
なお、第1のビア912aの外部端部(線路940に接続されていないほうの端部)および第2のビア912bの外部端部(線路940に接続されていないほうの端部)は、最上部電極910aおよび最下部電極910bの有無にかかわらず、λ/2線路の両端に電荷がたまるように、負の透磁率用の共振器の外部にあることが好ましい。
第3のビア950は、第2の内部電極924aと第3の内部電極930とを接続する。第4のビア960は、第3の内部電極924bと第3の内部電極930とを接続する。第2の内部電極924a、第3のビア950、第3の内部電極924b、第4のビア960、第3の内部電極930は、スプリットリング型の共振器と同様の構造を有し、負の透磁率を発現する共振器として機能する。第1の内部電極922は、第4の実施の形態の第1の内部電極722と同様、第2の内部電極924aと第3の内部電極924bとの間の切れ目部分の静電容量を補い、共振周波数を下げる役割を果たす。
本実施の形態に係るユニット900は、外部電極を必要としない。したがって、このユニットは、製造が容易である。外部電極を備えるユニットを作成する場合、通常、外部電極以外の部分を積層形成したあと、外部電極を積層形成した部品に貼り付ける。一方、本実施の形態に係るユニット900は、積層形成のみで、作成することができる。
また、ユニット900は、複数のユニットを並べたメタマテリアルの作成に好適である。外部電極をもつユニット同士が接触してしまうと、一方のユニットの外部電極に流れる電流が、他方のユニットの外部電極にも流れることになり、適切に電磁波の共振が起きなくなる。したがって、ユニット同士を離して配置する、あるいは、外部電極を絶縁体で覆うなどのユニット加工を行なう必要があった。本実施の形態に係るユニット900は、互いに隣接させて配置できるので、メタマテリアルをさらに小さくできる。また、加工が不要なため、ユニット900を用いたメタマテリアルの作成は、容易である。
ユニット900の作成方法を、図30を参照して説明しておく。図30は、第6の実施の形態に係るユニット900の作成方法を説明するための図である。
図30を参照して、ユニット900は、複数の層を順次重ねて作成される。図30には、ユニット900の主要な構成要素を含む層L1〜L6を示している。各層の材料(基板材料)は、樹脂などの絶縁性材料である。いくつかの層の基板材料上には金属部品が形成されている。また、いくつかの層の基板材料には、基板材料を貫通するようにビアが形成されている。なお、図30に示しているのは、層L1〜L6の一部である。実際には、層L1〜L6は、図30における横方向にさらにのびている。
層L1〜L6には、それぞれ、周期的に配置された複数の(図30では3×3の)ユニットの構成部品が配置されている。層L1は、複数の最下部電極910bを含む。層L2は、複数の第4の内部電極930を含む。層L3は、複数の線路940を含む。層L4は、第2の内部電極924aと第3の内部電極924bとの対を複数含む。層L5は、複数の第1の内部電極922を含む。層L6は、複数の最上部電極910aを含む。
また、各層のうち、第1のビア912a、第2のビア912b、第3のビア950、および、第4のビア960に相当する領域には、ビアが形成されている。図30中では、ビアを垂直方向の細線にて示している。
各層を積み重ねて積層体を作った後、積層体を切断して、ユニット900を作成する。図30に示す部分からは、9つのユニット900ができる。なお、積層体を1つ1つのユニット900にばらすのではなく、いくつかのユニット900をひとまとまりにして積層体から切り出してもよい。
なお、本実施の形態では、第3の実施の形態で示したスプリット型共振器の導電部をビアとする構造を示したが、他のタイプの共振器の導電部をビアとすることもできる。例えば、第2の実施の形態で示した多層コンデンサ型共振器の外部電極をビアにしてもよい。
[第6の実施の形態]
第2、第3、第5の実施の形態に係るメタマテリアルユニットでは、負の誘電率を発現するための線路を、LC共振器(具体的には、多層コンデンサ型共振器およびスプリット型共振器)の中に形成していた。しかしながら、線路は、必ずしも、LC共振器の内部になくてもよい。第6の実施の形態では、λ/2線路を、LC共振器の外部に配置したユニット1000について説明する。
第6の実施の形態に係るユニット1000の構造を図31に示す。図31は、第6の実施の形態に係るユニット1000の構造を示す図である。
図31を参照して、ユニット1000は、最上部電極1010aと、第1のビア1012と、最下部電極1010bと、第1の内部電極1022と、第2の内部電極1024aと、第3の内部電極1024bと、第4の内部電極1030と、第2のビア1050と、第3のビア1060とを備える。
第1のビア1012は、最上部電極1010aおよび最下部電極1010bを接続する。第1のビア1012の長さは、共振波長の略1/2である。したがって、第1のビア1012は、共振波長の電磁波に対して負の誘電率を発現する。
なお、本実施の形態では、最上部電極1010aおよび最下部電極1010bが、直線の第1のビア1012で接続されている。しかしながら、図27に示す構造のように、複数のビアと、水平面内の線路とを組み合わせて、λ/2線路を実現してもよい。ユニットの小型化のためには、この場合の線路は、他の実施の形態で説明したように、ミアンダ線路など屈曲したものであることが好ましい。
最上部電極1010aおよび最下部電極1010bは、第5の実施の形態における最上部電極910aおよび最下部電極910bと同様に、負の誘電率の絶対値を大きくするとともに共振周波数を短縮する機能を発揮する。
第2の内部電極1024a、第1のビア1050、第3の内部電極1024b、第3の内部電極1030、第2のビア1060、および、第3の内部電極1024bは、スプリットリング型の共振器と同様の構造を有し、負の透磁率を発現する共振器として機能する。第1の内部電極1022は、第4の実施の形態の第1の内部電極722と同様、第2の内部電極1024aと第3の内部電極1024bとの間の切れ目部分の静電容量を補い、共振周波数を下げる役割を果たす。
第1の内部電極1022、第2の内部電極1024a、第1のビア1050、第3の内部電極1024b、第2のビア1060、および、第3の内部電極1030は、最上部電極1010aおよび最下部電極1010bに挟まれる空間内に配置される。つまり、本実施の形態に係るユニットでは、負の誘電率を発現する共振器の中に、負の透磁率を発現する共振器が形成されている。
本実施の形態に係るユニット1000は、第5の実施の形態に係るユニット900と同様に、ビアによって、内部電極を接続しているため、容易に作成できる。また、ユニット1000は、ユニットの表面に電極を有さないため、メタマテリアルの作成に好適である。
[補足]
メタマテリアルが、ある共振周波数において、負の誘電率と負の透磁率とを同時に発現するための、共振器の位置関係について、まとめておく。ここでは、第5の実施の形態で説明したような、スプリットリング型共振器と、半波長共振器とを組み合わせたメタマテリアル(あるいはメタマテリアルユニット)を例にとって、説明する。
図32は、スプリットリング型共振器1210および半波長共振器1220を組み合わせたメタマテリアルと、信号線路200と、グランド220との位置関係を模式的に示した図である。このメタマテリアルは、第5の実施の形態で説明したとおり、負の透磁率と負の誘電率とを同時に発現する。これは、メタマテリアルが電磁界に共振する際に電界が集中する領域と、磁界が集中する領域とが重複しないためである。
電界が集中する領域について図33を参照して説明する。図33は、図32に示すメタマテリアルが、負の誘電率を示すときの、電荷および電界の様子を模式的に示す図である。図33を参照して、半波長共振器1220は、第1の最外電極1222と、第2の最外電極1224と、線路1226とを含む。第1の最外電極1222は、信号線路200側に配置されている。第2の最外電極1244は、グランド220側に配置されている。
図33には、信号線路200に電流が流れ、信号線路200からグランド220に向かう電界が発生している状況を示している。共振周波数をもつ電流が流れると、第1の最外電極1222には負電荷がたまり、第2の最外電極1224には、正電荷がたまる。そして、第1の最外電極1222と信号線路200との間の領域1230、ならびに、第2の最外電極1224とグランド220との間の領域1240に大きな電界が発生する。
つまり、半波長共振により電荷がたまる半波長共振器1220の端部と、信号線路200あるいはグランドとに挟まれる領域が、共振による電界が集中する領域である。なお、ここでは、半波長線路の両端に接続された電極が、半波長共振器1220の端部に相当する。しかし、半波長共振器1220が電極を含まない場合、半波長線路の両端が半波長共振器1220の端部に相当する。
磁界が集中する領域について図34を参照して説明する。図34は、図32に示すメタマテリアルが、負の透磁率を示すときの、磁界の様子を模式的に示す図である。図34を参照して、スプリットリング型共振器1210は、第1の導体1212と、第2の導体1214とを含む。
図34には、信号線路200に電流が流れ、スプリットリング型共振器1210から磁界が発生している状況を示している。共振周波数をもつ電流が流れると、電流とスプリットリング型共振器1210がLC共振し、第2の導体1214の内部の領域1250に、信号線路200を流れる電流により発生する磁界を打ち消す、大きな磁界が発生する。発生する磁界は、主に紙面に直交する。
つまり、LC共振の生じるループの内部領域が、共振による磁界が集中する領域である。言い換えると、キャパシタンスを形成する電極対と、インダクタンスを形成する導電部とに囲まれた空間が、共振による磁界が集中する領域である。
図33と図34とを比較して、電界が集中する領域(領域1230および領域1240)と、磁界が集中する領域(領域1250)とは互いに離れている。そのため、半波長共振器1220の共振により発生する電界は、スプリットリング型共振器1210の共振に影響をほぼ及ぼさない。逆もまた同様である。したがって、図32に示したメタマテリアルは、負の誘電率と負の透磁率とを同時に発現することができる。図32に示す構造をもつメタマテリアルは、誘電率共振により発生する電界が集中する領域とは異なる領域に、透磁率共振により発生する磁界が集中する。
比較のため、スプリットリング型共振器と、半波長共振器との位置関係を変更したメタマテリアルについて、図35から図37を参照して説明する。
図35は、図34のメタマテリアルとは共振器の配置が異なるメタマテリアルと、信号線路200と、グランド220との位置関係を模式的に示した図である。
図35に示すメタマテリアルは、スプリットリング型共振器1310および半波長共振器1320を備える。スプリットリング型の共振器1310は、第1の導体1312および第2の導体1314を含む。半波長共振器1320は、全体が、第2の導体1314の中に配置されている。
このメタマテリアルでは、メタマテリアルが電磁界に共振する際に電界が集中する領域と、磁界が集中する領域とに重なりがある。そのため、負の透磁率と負の誘電率とを同時に安定に発現することがやや難しくなる。
電界が集中する領域を図36に示す。図36は、図35に示すメタマテリアルが、負の誘電率を示すときの電界の集中する領域を説明するための図である。図36を参照して、半波長共振器1320は、第1の最外電極1322と、第2の最外電極1324と、線路1326とを含む。第1の最外電極1322は、信号線路200側に配置されている。第2の最外電極1344は、グランド220側に配置されている。
負の誘電率の発生時には、第1の最外電極1322と信号線路200との間の領域1330、ならびに、第2の最外電極1324とグランド220との間の領域1340に大きな電界が発生する。
磁界が集中する領域について図37を参照して説明する。図37は、図35に示すメタマテリアルが、負の透磁率を示すときの磁界の集中する領域を説明するための図である。負の透磁率の発現時には、第2の導体1314の内部の領域1350に、信号線路200を流れる電流により発生する磁界を打ち消す方向の大きな磁界が発生する。
図36と図37とを比較して、電界が集中する領域(領域1330および領域1340)の一部と、磁界が集中する領域(領域1350)の一部とは重複する。そのため、半波長共振器1220の共振により発生する電界が、スプリットリング型共振器1210の共振に影響を及ぼす。逆もまた同様である。したがって、図35に示したメタマテリアルは、負の誘電率と負の透磁率とを同時に発現することがやや難しくなる。
なお、以上の説明は、他の種類の共振器をもつメタマテリアルにもあてはまる。例えば、スプリット型共振器を多層コンデンサ型共振器に替えたメタマテリアルについても、以上の説明はあてはまる。
ただし、多層コンデンサ型共振器を用いる場合には、第1の実施の形態や第2の実施の形態で説明したように、同極性の電荷が、不干渉であることが好ましい。つまり、同極性の電荷が、互いの発現に影響しない程度に離れて発生するように、共振器が構成されていることが好ましい。具体的には、静電容量を形成する複数の電極のうち、最も外部にある2つの最外電極の極性が逆であることが好ましい。
[第7の実施の形態]
第1の実施の形態から第6の実施の形態までにおいては、メタマテリアル単体について説明した。第7の実施の形態では、第1の実施の形態から第6の実施の形態までで説明したメタマテリアルを用いた電気部品であるインピーダンス整合回路について説明する。
図38は、インピーダンス整合回路2100の接続例を示す図である。図38を参照して、デバイス(たとえば、トランジスタ)2200は、伝送線路と異なるインピーダンスを持つ場合が多い。このため、デバイス2200の入力側および出力側にインピーダンス整合回路2100を接続して、伝送線路と整合を取る必要がある。
インピーダンス整合回路2100の入力側の端子2120A,2120Bには、伝送線路が接続される。また、インピーダンス整合回路2100の出力側の端子2130A,2130Bには、デバイス2200が接続される。
なお、ここでは、デバイスの入力側にインピーダンス整合回路2100を接続する場合について説明するが、デバイスの出力側にインピーダンス整合回路を接続する場合も同様である。
図39は、第7の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Aを示す図である。図39を参照して、第7の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Aは、配線層に設けられた伝送線路2150と、配線層と隣接する層に設けられたグランド面2160との間のプリント基板内に、メタマテリアル2110A,2110Bを設けることによって構成される。
なお、メタマテリアル2110A,2110Bは、部品内蔵基板技術などを用いてプリント基板内に埋め込むことができる。
ここで、デバイス間を最短経路の伝送線路で結んでその伝送線路の下にメタマテリアルを設けてインピーダンス整合回路とすることができるため、デバイス間の基板上にインピーダンス整合回路を設ける必要を無くすることができるので、インピーダンス整合回路を設けるための面積の分、基板面積の小型化をすることができる。
また、伝送線路と非接触の状態でメタマテリアルを設けるだけでよいため、伝送線路をカットしてインピーダンス整合回路を割込ませる必要がない。このため、伝送効率を悪化させないようにすることができる。
メタマテリアル2110A,2110Bは、伝送線路2150の電流の所定波長の成分による電磁界に対して所定のインピーダンス整合回路の等価回路を構成するための所定の誘電率および所定の透磁率を示すように位置および方向が定められて配置される。
図40は、第7の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Aの回路図および等価回路の回路図を示す図である。図40(A)は、インピーダンス整合回路2100Aの回路図を示す。図40(A)を参照して、図38で説明したように、インピーダンス整合回路2100Aの入力側の端子2120A,2120Bが伝送線路に接続され、出力側の端子2130A,2130Bがデバイスに接続される。
図40(B)は、インピーダンス整合回路2100Aの等価回路の回路図を示す。図40(B)を参照して、インピーダンス整合回路2100Aは、メタマテリアル2110Aに対応する、コイル2170Aとコンデンサ2180Aとで構成されるインピーダンス整合回路とメタマテリアル2110Bに対応する、コイル2170Bとコンデンサ2180Bとで構成されるインピーダンス整合回路とを組合せたものと等価である。
ここで、たとえば、背景技術の欄の図50で説明したインピーダンス整合回路を実現する場合、図40(B)のコイル2170Bが図50のシリーズのインダクタンスLとなり、図40(B)のコンデンサ2180Aが図50のシャントのキャパシタンスCとなり、図40(B)のコイル2170Aおよびコンデンサ2180Bは不要なので小さい値(たとえば、0近辺の値)となるようなメタマテリアル2110A,2110Bが用いられる。この場合は、メタマテリアル2110A,2110Bがそれぞれ発現する比誘電率および比透磁率は負の値である必要はない。
また、図50で説明したインピーダンス整合回路と異なるもの、たとえば、図50とコイルとコンデンサが逆の配置のもの、コイルが2個のもの、コンデンサが2個のものなど様々なインピーダンス整合回路がある。
たとえば、図50とコイルとコンデンサが逆の配置のものを実現する場合、図40(B)のコイル2170BがシリーズのキャパシタンスCとなり、図40(B)のコンデンサ2180AがシャントのインダクタンスLとなり、図40(B)のコイル2170Aおよびコンデンサ2180Bは不要なので小さい値(たとえば、0近辺の値)となるようなメタマテリアル2110A,2110Bが用いられる。この場合は、メタマテリアル2110A,2110Bがそれぞれ発現する比誘電率および比透磁率は負の値である必要がある。
このように、左手系のメタマテリアルは、伝送線路の下に入れることで、シリーズにインダクタンスL、シャントにキャパシタンスCを付加させる機能を有する。したがって、シリーズのインダクタンスLを負にすれば、シリーズにキャパシタンスCが入るのと同等になる。また、シャントのキャパシタンスCを負にすれば、シャントにインダクタンスLが入るのと同等になる。つまり、左手系のメタマテリアルを用いると、シリーズおよびシャントにインダクタンスLおよびキャパシタンスCを自由に入れられるインピーダンス整合回路を実現できる。
また、左手系のメタマテリアルでは、他の既存の材料では不可能な0〜1の比透磁率および比誘電率を与えられるので、極端に小さいインダクタンスLおよびキャパシタンスCを用いたインピーダンス整合回路を実現できる。このため、整合の自由度を飛躍的に広げることができる。
メタマテリアル2110A,2110Bとしては、電流の所定波長の成分に対して、インピーダンス整合回路2100Aの一方端側にデバイス2200が結合される伝送線路2150の他方端側から見た特性インピーダンスが整合させたいインピーダンス値に整合するようなものが用いられる。
図4、図7、図9、図12、図13、図15および図16で示したように、比誘電率および比透磁率が負になるのは、整合させたい信号の波長が、共振波長より高い一定の範囲に限られる。
負の誘電率および負の透磁率の両方を発現可能なメタマテリアルにおいては、共振波長は2つある。電界に対する共振は、比誘電率を決める。磁界に対する共振は、比透磁率を決める。
このことから、電界および磁界の共振周波数(波長)と整合させたい信号の周波数(波長)との組合せでインピーダンス整合回路のインピーダンス値を定める。
なお、本実施の形態においては、1つのインピーダンス整合回路2100Aにおいて、メタマテリアル2110A,2110Bを2つ用いることとしたが、これに限定されず、メタマテリアルは、1つであってもよいし、3つ以上の複数であってもよい。
[第8の実施の形態]
第7の実施の形態においては、インピーダンス整合回路2100Aにおけるメタマテリアル2110A,2110Bの種類については、第1の実施の形態から第6の実施の形態までで説明したものなどいずれのメタマテリアルを用いてもよいこととした。第8の実施の形態においては、インピーダンス整合回路において、第5の実施の形態で説明したメタマテリアルと同様のものを用いる場合について説明する。
図41は、第8の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Bの斜視図である。図42は、第8の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Bの三面図である。図42(A)から図42(C)は、それぞれ、インピーダンス整合回路2100Bの正面図、側面図および平面図である。
図41および図42を参照して、第7の実施の形態の図39で説明したインピーダンス整合回路2100Aと同様、第8の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Bは、配線層に設けられた伝送線路2151と、配線層と隣接する層に設けられたグランド面(不図示)との間のプリント基板内に、メタマテリアル2111A,Bを設けることによって構成される。
メタマテリアル2111A,Bは、それぞれ、最上部電極2110aA,Bと、第1のビア2112aA,Bと、第2のビア2112bA,Bと、最下部電極2110bA,Bと、第1の内部電極2122A,Bと、第2の内部電極2124aA,Bと、第3の内部電極2124bA,Bと、第4の内部電極2130A,Bと、線路2140A,Bと、第3のビア2150A,Bと、第4のビア2160A,Bとを備え、それぞれの機能および構造は、第5の実施の形態のメタマテリアルのユニット900の、最上部電極910a、第1のビア912a、第2のビア912b、最下部電極910b、第1の内部電極922、第2の内部電極924a、第3の内部電極924b、第4の内部電極930、線路940、第3のビア950、および、第4のビア960と同様である。
最上部電極2110aA,B、第1のビア2112aA,B、線路2140A,B、第2のビア2112bA,B、および、最下部電極2110bA,Bの順にそれぞれ電気的に接続される構造は、半波長共振器を構成する。
第1の内部電極2122A,B、第2の内部電極2124aA,B、第3のビア2150A,B、第4の内部電極2130A,B、第4のビア2160A,B、第3の内部電極2124bA,B、および、第1の内部電極2122A,Bの順でそれぞれ一巡するように構成されるLC共振回路と等価な構造は、LC共振器を構成する。
なお、伝送線路2151、および、メタマテリアル2111A,Bは、それぞれ互いに、電気的には接触していない。
伝送線路2151とメタマテリアル2111A,Bとの位置関係は、伝送線路2151を流れる電流の所定波長の成分による電磁界に対して所定のインピーダンス整合回路の等価回路を構成するための所定の誘電率および所定の透磁率を示すように定められる。
伝送線路2151とメタマテリアル2111A,Bとの位置関係は、メタマテリアル2111A,Bによって発現される誘電率および透磁率が伝送線路2151に電磁気的な影響を与えるように定められる。
伝送線路2151とメタマテリアル2111A,Bとの位置関係は、半波長共振器の第1のビア2112aA,B、線路2140A,B、および、第2のビア2112bA,Bでそれぞれ構成されるλ/2線路の両端それぞれの、伝送線路2151からの距離が異なるように定められる。
メタマテリアル2111A,Bの方向は、それぞれ、伝送線路2151を流れる電流により生じる磁界の磁力線が、LC共振器と等価なLC共振回路を貫通するように定められる。
伝送線路2151と、メタマテリアル2111A,Bの位置関係は、それぞれ、λ/2線路の前述のメタマテリアル上面の側の端が、LC共振器のメタマテリアル上面の側の最外電極である第1の内部電極2122A,Bと、伝送線路2151が配置されるメタマテリアル上面との間となるように定められる。
伝送線路2151とメタマテリアル2111A,Bとの位置関係は、それぞれ、半波長共振器のλ/2線路の両端における電位が、伝送線路2151に流れる電流より生じる電界に基づき、異なる電位となるように定められる。
伝送線路2151とメタマテリアル2111A,Bとの位置関係は、それぞれ、LC共振器が伝送線路2151を流れる電流により生じる磁界と磁気結合するように定められる。
伝送線路2151とメタマテリアル2111A,Bとの位置関係は、それぞれ、LC共振器の第1の内部電極2122A,B、第2の内部電極2124aA,B、第3の内部電極2124bA,B、および、第4の内部電極2130A,Bで形成されるLC共振回路面が、伝送線路2151に流れる電流により生じる電界方向と略平行になるように定められる。
また、本実施の形態においては、インピーダンス整合回路2100Bが、2つのメタマテリアル2111A,Bで構成されることとしたが、共振波長が同じであったり異なったりする複数のメタマテリアルで構成されるようにしてもよい。
ここで、メタマテリアル2111A,Bのチップのサイズは、2.4mm×2.0mm×1.8mmであり、電極およびビアの間の誘電体の比誘電率は25である。そして、ミアンダ線路である線路2140Aの全線路長を2.6mm、線路2140Bの全線路長を5.6mmとしたときに、25Ωのデバイスのインピーダンスを伝送線路のインピーダンスの50Ωに整合する変換特性が得られた。
このように、ミアンダ線路の全線路長を短くすることにより、シャントのキャパシタンスCを減らす働きをし、長くすることにより、シャントのキャパシタンスCを増やす働きをする。
なお、整合を取るための回路定数としては、ミアンダ線路の全線路長を用いることに限定されず、LC共振器の共振周波数を用いてもよいし、両方を用いてもよい。
LC共振器の共振周波数を変えるためには、第1の内部電極2122A,Bと第2の内部電極2124aA,Bとのギャップ、および、第1の内部電極2122A,Bと第3の内部電極2124bA,Bとのギャップを変えたり、メタマテリアル2111A,Bの誘電体の誘電率を変えたりして、LC共振器のキャパシタンスCを変える。
図43は、第8の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Bのスミスチャートである。図43を参照して、25Ωから50Ωに整合していることが分かる。
図44は、第8の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Bの入力特性を示すグラフである。図44を参照して、約2.0GHzから2.1GHzまでの範囲で、インピーダンス整合回路2100Bの入力側および出力側の反射が−20dB以下となっている。このため、インピーダンス整合回路2100Bは、2.0GHzから2.1GHzまでの範囲で、インピーダンス整合回路として用いることができることが分かる。
このように、共振を用いているので、狙いの特定の周波数帯だけで整合を取ることができ、他の周波数帯にはあまり影響を与えないようにすることができる。たとえば、1GHzおよび5GHzは、50Ωで整合させ、2GHzだけ25Ωで整合させるといった使い方ができる。
また、従来のLC回路を用いたインピーダンス整合回路では、インピーダンスが周波数ごとに変わるので、或る周波数で整合させると、その他の周波数でのインピーダンスが変わってしまうため、複数の周波数帯で整合させるためには調整が困難であるといった問題があった。
本実施の形態におけるインピーダンス整合回路2100Bを用いれば、共振周波数が異なるメタマテリアルを複数含むようにすれば、互いに影響を与えず複数の周波数帯で所望のインピーダンスで容易に整合させることができる。
[第9の実施の形態]
第8の実施の形態においては、インピーダンス整合回路において、第5の実施の形態で説明したメタマテリアルと同様のものを用いる場合について説明した。第9の実施の形態においては、インピーダンス整合回路において、第1の実施の形態で説明したように負の透磁率を発現可能な共振器と、負の誘電率を発現可能な共振器とを交互に並べて配置したものを用いる場合について説明する。
図45は、第9の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Cの斜視図である。図45を参照して、第9の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Cは、配線層に設けられた伝送線路2152と、配線層と隣接する層に設けられたグランド面(不図示)との間のプリント基板内に、負の透磁率を発現可能な共振器2112A〜Cと、負の誘電率を発現可能な共振器2113A〜Cとを交互に設けることによって構成される。
負の透磁率を発現可能な共振器2112A〜Cとしては、第1の実施の形態で説明したようなMLCC(multi-layer ceramic capacitor、積層セラミックコンデンサ)を用いてもよいし、スプリットリング共振器を用いるようにしてもよい。
負の誘電率を発現可能な共振器2113A〜Cとしては、第1の実施の形態で説明したようなヘリカルコイルを用いてもよいし、チップコイルを用いてもよいし、金属細線樹脂を用いてもよい。
MLCCおよびチップコイルは、汎用電気部品であるので、インピーダンス整合回路2100Cの製造コストを削減することができる。
また、メタマテリアルを構成する素子の数が減るので、設計の自由度が制限されるが、インピーダンス整合回路2100Cの構造を簡単にすることができる。
[第10の実施の形態]
第7から第9の実施の形態においては、プリント基板内にメタマテリアルを設けることによってインピーダンス整合回路を構成するようにした。第10の実施の形態においては、プリント基板の配線層に設けられた伝送線路に後付けで取付けられるインピーダンス整合回路について説明する。
図46は、第10の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Dの取付け方を説明するための図である。第10の実施の形態に係るインピーダンスを整合するための部品であるインピーダンス整合回路2100Dは、図47および図48で後述するように、内部にメタマテリアルを2つ含む。また、インピーダンス整合回路2100Dの図46におけるの手前側の面、上面および向こう側の面には、それぞれ、グランド面2401a〜cが形成される。グランド面2401a〜cは、電気的に接続される。
図46を参照して、伝送線路2153に隣接したグランド面2163A,Bが設けられたコプレナ線路の伝送線路2153上にインピーダンス整合回路2100Dを載せて、手前側の面および向こう側の面に形成されたグランド面2401a,cが、それぞれ、コプレナ線路のグランド面2163A,Bと電気的に接続される。
なお、インピーダンス整合回路2100Dは、コプレナ線路の伝送線路2153と電気的に接続されない。
図47は、第10の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Dの斜視図である。図48は、第10の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Dの三面図である。図48(A)から図48(C)は、それぞれ、インピーダンス整合回路2100Dの正面図、側面図および平面図である。
図47および図48を参照して、第10の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Dには、内部にメタマテリアル2114A,Bが設けられ、前述したように、インピーダンス整合回路2100Dの外面のうち手前側の面、上面および向こう側の面にグランド面が形成される。
メタマテリアル2114A,Bは、それぞれ、最上部電極2410aA,Bと、第1のビア2412aA,Bと、第2のビア2412bA,Bと、最下部電極2410bA,Bと、第1の内部電極2422A,Bと、第2の内部電極2424aA,Bと、第3の内部電極2424bA,Bと、第4の内部電極2430A,Bと、線路2440A,Bと、第3のビア2450A,Bと、第4のビア2460A,Bとを備え、それぞれの機能および構造は、第5の実施の形態のメタマテリアルのユニット900の、最上部電極910a、第1のビア912a、第2のビア912b、最下部電極910b、第1の内部電極922、第2の内部電極924a、第3の内部電極924b、第4の内部電極930、線路940、第3のビア950、および、第4のビア960、ならびに、第8の実施の形態の最上部電極2110aA,Bと、第1のビア2112aA,Bと、第2のビア2112bA,Bと、最下部電極2110bA,Bと、第1の内部電極2122A,Bと、第2の内部電極2124aA,Bと、第3の内部電極2124bA,Bと、第4の内部電極2130A,Bと、線路2140A,Bと、第3のビア2150A,Bと、第4のビア2160A,Bと同様である。
このように、本実施の形態におけるインピーダンス整合回路2100Dの部品は、基板内に内蔵する必要がないので、実装が容易である。
また、インピーダンス整合回路2100Dをこのような構造とすることによって、整合回路を介さずに、トランジスタ、ICまたはモジュールなどのデバイスを伝送線路で直接接続して配線し、必要に応じて、後付けで、伝送線路の上に、インピーダンス整合回路2100Dの部品を置くことで、容易にインピーダンス整合を行なうことができる。
図49は、第10の実施の形態に係るインピーダンス整合回路2100Dの作成方法を説明するための図である。
図49を参照して、インピーダンス整合回路2100Dは、複数の層を順次重ねて作成される。図49には、インピーダンス整合回路2100Dの主要な構成要素を含む層L1〜L6を示している。各層の材料(基板材料)は、樹脂などの絶縁性材料である。いくつかの層の基板材料上には金属部品が形成されている。また、いくつかの層の基板材料には、基板材料を貫通するようにビアが形成されている。
層L1〜L6には、それぞれ、2つのメタマテリアル2114A,Bの構成部品が配置されている。層L1は、2つの最下部電極2410bA,Bを含む。層L2は、2つの第4の内部電極2430A,Bを含む。層L3は、2つの線路2440A,Bを含む。層L4は、第2の内部電極2424aA,Bと第3の内部電極2424bA,Bとの対を2つ含む。層L5は、2つの第1の内部電極2422A,Bを含む。層L6は、2つの最上部電極2410aA,Bを含む。
また、各層のうち、第1のビア2412aA,B、第2のビア2412bA,B、第3のビア2450A,B、および、第4のビア2460A,Bに相当する領域には、ビアが形成されている。図49中では、ビアを垂直方向の細線にて示している。
各層を積み重ねて積層体を作った後、外径が直方体状になるように絶縁体などで表面を覆って、その直方体の図49において手前側の面、上面および向こう側の面にグランド面を形成することによって、インピーダンス整合回路2100Dが作成される。
[変形例]
前述した実施の形態においては、インピーダンス整合回路2100,2100A〜Dの電気部品、インピーダンス整合回路2100,2100A〜Dを含む電気回路基板、および、インピーダンス整合回路2100,2100A〜Dを含む電気回路の部分構造として発明を説明した。
しかし、これに限定されず、前述した実施の形態で説明したようなインピーダンス整合回路2100,2100A〜Dを用いてインピーダンスを整合させるインピーダンス整合方法として発明を捉えることができる。
[その他]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。