JP2012006828A - 生体用材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】擬似体液溶液に液浸した時に有孔シリコンが経時的に溶解するように有孔シリコン領域を含むことを特徴とする、再吸収性シリコンの提供。
【解決手段】シリコンウェハーを50重量%の水性HFの電解質を含む電気化学的セルにおいて陽極化して有孔シリコン領域20を持つウェハー10を作製する。
【効果】擬似体液溶液に液浸した時、ある種の有孔シリコンが該有孔シリコン20と近接領域のバルクシリコン22の両方にアパタイト沈着物の沈着を生じさせることを示した。このアパタイトの沈着は、適当な形態の有孔シリコンが生物活性であり、またそれ故生物適合性でもあることの示唆を与えるものであり、有孔シリコンの形態は擬似体液溶液に溶解し、再吸収性生体用材料特性を示唆している。
【選択図】図1
【解決手段】シリコンウェハーを50重量%の水性HFの電解質を含む電気化学的セルにおいて陽極化して有孔シリコン領域20を持つウェハー10を作製する。
【効果】擬似体液溶液に液浸した時、ある種の有孔シリコンが該有孔シリコン20と近接領域のバルクシリコン22の両方にアパタイト沈着物の沈着を生じさせることを示した。このアパタイトの沈着は、適当な形態の有孔シリコンが生物活性であり、またそれ故生物適合性でもあることの示唆を与えるものであり、有孔シリコンの形態は擬似体液溶液に溶解し、再吸収性生体用材料特性を示唆している。
【選択図】図1
Description
本発明は生体用材料に関する。
「生体用材料」とは、生物系と相互作用させることを意図した医療用具において用いられる非生体的材料である。かかる材料は、それらのin vivoでの生体反応に依存して比較的「生物不活性」、「生物適合性」、「生物活性」あるいは「再吸収性」でありうる。
生物活性材料は、各々が、in vivoで生体組織と該物質間の結合形成を生じさせる特異的生体反応を誘発する材料の類である。生物活性材料はまた表面反応性生体用材料とも称される。生体用材料は、生体内への移植に適した物質と定義することもできる。L.L.HenchはScience、208巻、1980年5月、p.826−831に発表された学術論文の中で生体用材料を検討した。比較的不活性な生体用材料は移植した時にインターフェイスの問題を引き起こすことがあり、そのため生体用材料−組織インターフェイスを改善するべく生物活性的である材料の開発に向けて多大な研究活動が行われてきた。
既知の生物活性材料は、ヒドロキシアパタイト(水酸化リン灰石)(HA)、一部のガラスおよび一部のガラスセラミックを含む。生物活性ガラスおよび生物活性ガラスセラミックはいずれも、移植した時生物学的に活性なヒドロキシカルボネートアパタイト(HCA)の層を形成する。この層は化学的および構造的に骨中の無機質相に等しく、骨と生物活性材料間の界面結合の原因となる。これらの生物活性材料の特性は、Journal of the American Ceramic Society、74巻、第7号、1991、p.1487−1510においてL.L.Henchにより記述されている。生物活性材料に関する学術文献はしばしばHAとHCAという用語を交換可能なベースで用いている。本特許明細書においては、HAとHCA材料は集合的にアパタイトと称する。
Lieらは,Journal of Biomedical Materials Reserach、28巻、1994、p.7−15においてシリカゲルへのアパタイトの沈着を報告した。彼らは、ヒドロキシアパタイトの異種核形成を引き起こすためには一定の密度のシラノール(SiOH)基が必要であることを示唆している。シリカガラスサンプルの表面にはアパタイト層は発生せず、これはシリカゲルに比べて表面シラノール基の密度が低いためであると考えられる。
WangらがJournal of Materials Science:Materials in Medicine、6巻、1995、p.94−104の中で述べているように、36℃の生理溶液に浸したアパタイトおよびケイ灰石含有のガラスのプレートのすぐ近くにシリコン単結晶ウェハーを置くことにより、あらかじめアパタイトの厚い被膜をウェハーに沈着させた。擬似体液(SBF)としても知られる生理溶液は人体において認められるものと同様のイオン濃度を含有する溶液であり、生物活性のin vitro試験で身体の反応を擬態するために広く用いられる。Wangらは、(111)Siウェハー上でのアパタイトの生長を報告したが、(100)Siウェハーでは「ほとんど全く」アパタイトが成長できないことも報告している。シリコンウェハー自体は生物活性ではない。Wangらは、「基質上のSi原子がアパタイト核中の酸素原子と強く結合して低エネルギーでインターフェイスを形成することができることを除いて、Siはアパタイト被膜の生長において特別な役割を果たさない。」と述べている。アパタイトの沈着を誘発するためにはアパタイトとケイ灰石を含有するガラスの存在が必要である。実際に、Y.AbeらがJournal of Materials Science:Materials in Medicine、1巻、1990、p.233−238において報告したように、生物活性材料を用いてもうひとつ別の材料を処理する、このいわゆる「生体模倣過程」は様々な生物不活性材料上でのアパタイトの生長を誘発することが示されている。
診断と治療の両方の目的のために人体内でシリコンベースの集積回路を用いる能力が長い間待望されている。シリコンは血液中で低い生物適合性を示すことがKandaらによりElectronics Letters、17巻、第16号、1981、p.558、559の中で報告されており、現在、集積回路を生体環境での損傷から保護するために適切な材料による被包が必要である。シリコンベースのセンサーの医療応用がJournal of Physics E:Sci.Instrum.、16巻、1983、p.987−994の中のEngelsらの論文において記述されている。
Science、208巻、1980年5月、p.826−831
Journal of the American Ceramic Society、74巻、第7号、1991、p.1487−1510
Journal of Biomedical Materials Reserach、28巻、1994、p.7−15
Journal of Materials Science:Materials in Medicine、6巻、1995、p.94−104
Journal of Materials Science:Materials in Medicine、1巻、1990、p.233−238
Electronics Letters、17巻、第16号、1981、p.558、559
Journal of Physics E:Sci.Instrum.、16巻、1983、p.987−994
本発明は、シリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする生物活性シリコンを提供する。
生物活性シリコンは、他の生物活性材料に比べて、シリコンベースの集積回路テクノロジーと適合性があるという利点を提供する。また非生物活性シリコンに比べてより大きな生物適合性を示すという利点を持つ。さらに、生物活性シリコンは生きている動物の骨あるいは血管組織への結合を形成するために使用することができる。生物活性シリコンは、小型化包装適用における包装材料としての使用に適した材料を提供しうる。
シリコンの生物活性特性は、生理的温度の擬似体液中に材料を液浸することによって証明され、かかる液浸は生物活性シリコンへの材料の沈着を生じさせる。無機質沈着物はアパタイトであってもよい。アパタイト沈着物は100μm2より広い面積にわたって連続的でありうる。生物活性シリコンは少なくとも部分的には有孔シリコンである。有孔シリコンは4%より多く、70%未満の有孔性を持ちうる。
バルクの結晶性シリコンは、米国特許第5,348,618号に述べられているように、フッ化水素酸ベースの溶液中での部分的な電気化学的溶解によって多孔化することができる。このエッチング工程に、最初のバルク材料の結晶性と結晶学的方向性を保持するシリコン構造を生じる。このようにして形成された多孔性シリコンは、結晶性シリコンの形態である。低レベルの、たとえば20%以下の有孔性では、有孔シリコンの電子特性はバルク結晶性シリコンの電子特性に類似している。
有孔シリコンはその有孔性に従って再分することができる。微小孔性シリコンは直径20Å未満の孔を含む;中孔性シリコンは直径が20Åから500Åまでの範囲の孔を含む;大孔性シリコンは直径500Åより大きい孔を含む。生物活性シリコンは微小孔性あるいは中孔性のいずれかの有孔シリコンから成る。
シリコンは、数多くの金属、セラミックおよびポリマーとは対照的に、有望な生体用材料と評価されたことは一度もなく、また生物活性反応を示すことができるとも考えられてこなかった。実際に、半導体が生物活性であると報告されたことはない。シリコンはせいぜい、比較的生物不活性であるが概して低い生物適合性を示すと報告されている。集積回路の小型化においてもたらされた進歩にもかかわらず、シリコンのVLSIテクノロジーは、N.G.Einspruchらが編集した「VLSI in Medicine」、Academic Press,New York,1989、第10章の中でK.W.Wiseらによって、またAppl.Biochem.Biotechn.,41巻、1993、p.109−128の中でM.Madouらによって述べられているように、まだ観血的医療適用およびバイオセンサー適用のための開発下にある。
生物学的適用のためのシリコン構造の使用は知られている。国際出願番号第WO95/24472を持つ国際特許願第PCT/US95/025752号は、有孔非晶質シリコン構造から形成されるエンドフェイスを持つカプセルを記述しており、その孔は、所望する分子産物は通過させるがより大きな免疫学的分子の通過は遮断するのに十分な大きさであり、カプセルの中に含まれている細胞の免疫学的分離を提供する。シリコン構造の生物適合性に関する証拠は示されておらず、生物適合性材料の分野の当業者は、かかる装置がin vivoでは孔を閉塞する線維組織の産生を刺激することを予測するであろう。IEEE Transactions on Biomedical Engineering、39巻、第6号、1992、p.635においてD.J.Edellらが報告したように、微小機械化されたシリコン構造を神経要素のためのセンサーとして使用する時、シリコン表面と対象とする神経要素の間に線維組織の層が形成されることが知られている。実際に、形成される線維組織層の厚さと特性がしばしば生物適合性のひとつの基準として使用され、層が薄いほど含まれる細胞壊死が少なく、より高い生物適合性を反映する。
米国特許第5,225,374号は、in vitro溶液中で標的種に接触させた時、標的種と相互作用して電流を生じさせるたんぱく−脂質被膜のための基質としての有孔シリコンの使用を記述している。有孔シリコンは酸化されて親水性表面を生じ、またその孔がイオン流動のための導管として働き、その構造が脂質層のための構造的支持体を提供することから選択されている。該有孔シリコンはたんぱく−脂質被膜によってin vitro溶液から分離されており、そのため有孔シリコンの生物活性あるいは生物適合性の問題は起きてこない。
有孔シリコンは、M.ThustらによりMeas.Sci.Technol.、7巻、1996、p.26−29においてin vitroバイオセンサーのための基質材料として提案された。その中に述べられている装置の構造では、有孔シリコンを熱酸化工程に供して、孔の露出したシリコン表面上に二酸化ケイ素の層を形成させる。有孔シリコンは部分的に熱酸化されるので、被検液に接触するのは二酸化ケイ素だけであるため、シリコンの生物活性あるいは生物適合性は問題とならない。有孔シリコンは、酵素溶液のための有効な不活性宿主である。
E.RichterらによりJournal of Materials Science:Materials in Medicine、7巻、1996、p.85−97において、またG.FuhrらによりJournal of Micromechanics and Microengineering、5巻、第2号、1995、p.77−85において、微小穿孔したシリコン膜は細胞構造を支持することができると述べられている。その中に述べられているシリコン膜は、リソグラフィ工程を用いて幅5μm〜20μmの正方形の孔によって穿孔した厚さ3μmのシリコン膜を含む。マウスの胚線維芽細胞は清浄にした膜上で増殖することができたが、膜をポリリシンで被覆すると細胞の付着が改善された。この論文はシリコン膜の生物活性に関しては触れておらず、細胞培地に接触させた時に形成されるアパタイト層についても言及していない。実際に、使用されている孔の大きさを考慮すると、該構造は重要な度合の生物活性を示しそうにない。さらに、依然として長期的安定性を備えた細胞適合性材料を発見し、開発する必要があることがFuhrらによって認められている。
Journal of Vacuum Science Technology A、13巻、第5号、1995、p.2608−2612においてA.Offenhausserらは、基質を超薄ポリマーフィルムで被覆することによってシリコン基質との生物適合性を実現するための手法を記述している。同様に、R.S.PotemberらはProc.第16回国際会議、IEEE Engineering in Medicine and Biology Society、2巻、1994、p.842−843において、ラットのニューロンの発達を促進するための、シリコン表面に付着させた合成ペプチドの使用を記述している。
もうひとつの側面では、本発明はシリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする生物活性なシリコン構造を提供する。
さらにもうひとつの側面では、本発明は、装置が生物活性シリコンを含むことを特徴とする、生きているヒトあるいは動物の体内での操作のための電子装置を提供する。
本発明の生物活性シリコンは、電子回路のための保護的被覆として、ならびに装置を骨あるいは他の組織に付着させるための手段として配置される。
電子装置は、センサー装置あるいは知的薬剤供給送達のための装置あるいはプロテーゼ装置でありうる。
さらにもうひとつの側面では、本発明はシリコンを生物活性にする方法を提供し、かかる方法はシリコンの少なくとも一部を有孔にすることを含む。
もうひとつの側面では、本発明は、多結晶性シリコンの層を沈着させる段階を含むことを特徴とする、生物活性シリコンの製造方法を提供する。
さらに別の側面では、本発明はシリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする生物適合性シリコンを提供する。
さらにまた別の側面では、本発明は再吸収性シリコンを提供する。
もうひとつの側面では、本発明は生理的電解質中での無機沈着物のシリコンへの沈着速度を加速あるいは遅延させる方法を提供し、かかる方法はシリコンへの電気バイアスの適用を含む。
該シリコンは有孔シリコンでありうる。
さらなる側面では、本発明は、材料の生物活性が該材料への電気バイアスの適用によって制御できることを特徴とする生物活性材料を提供する。
従来の生物活性セラミックは電気的に絶縁されており、従って電気化学的適用における使用はあらかじめ排除されている。以前に組織成長の電気刺激が検討されたが、電場の直接の作用と移植した「生物不活性」電極付近の生体化学の変化に関連する影響とを識別することがしばしば困難であった。
さらに別の側面では、本発明は、シリコン領域が少なくとも部分的に結晶性であるシリコンを含むことを特徴とする、生物活性シリコン領域とその上の無機沈着物から成る複合構造を提供する。
本発明の考えられる適用は、生物学的検定を実施するための基質としてである。動物の生体での試験に頼らずに、薬物化合物に関して一定の試験が実施できることは望ましい。それ故、基質上に細胞系を支持して、該細胞系への薬物化合物の作用を監視するin vitro試験を開発することに多大の研究努力が注がれてきた。シリコンとアパタイトの複合構造はかかる試験のための適切な基質を提供する。
さらなる側面では、本発明は、生物活性シリコンとその上の無機沈着物から成る複合構造を形成する段階を含むことを特徴とする、バイオセンサーの製造方法を提供する。
本発明はさらに、シリコン基質の少なくとも一部が生物活性シリコンから成ることを特徴とする、化合物の薬理活性を試験するためのシリコン基質を含むバイオセンサーを提供する。
図1を参照すると、通常10で指示される、生物活性シリコンウェハーの断面が示されている。シリコンウェハー10は、有孔領域20と非有孔バルクシリコン領域22から成る。有孔領域20は13.7μmの厚さdと18%の平均有孔性を持つ。シリコンウェハー10は3インチあるいは75mmの直径lを持つ。有孔領域20は67m2/g−1の材料の単位質量当り表面積を持つ。これは、S.J.GreggとK.S.W.Singにより「Adsorbption,Surface Area and Porosity」第2版、Academic Press、1982に述べられているように、BETガス分析手法を用いて測定した。
ウェハー10は、0.012Ωcmの初期抵抗性を持つ、強くヒ素ドープしたCzochralski−grown(CZ)n型(100)シリコンウェハーの陽極化によって製造した。陽極化は、米国特許第5,348,618号に述べられているように、50重量%の水性HFの電解質を含む電気化学的セルにおいて実施した。100mA/cm−2の陽極化電流密度を1分間使用してウェハーを陽極化した。ウェハーの外側付近の合成ゴムワッシャーにより、ウェハーを電気化学的セル中の適当な位置に保持した。その結果として、ウェハーの外側の環は陽極化工程後も陽極化されないままであった。この外側の陽極化されない環が、図1の中で非有孔バルクシリコン領域22として示されている。陽極化されない環は4mmの幅sを持つ。
陽極化されたウェハーの生物活性を測定するために、分割したウェハーの断片を2時間から6週間までの期間擬似体液(SBF)中に入れた。SBF溶液は試薬グレードの塩を脱イオン水に溶解して調製した。該溶液はヒト血漿中で認められるのと同様のイオン濃度を含有した。SBF溶液とヒト血漿のイオン濃度を表1に示す。SBF溶液は、トリヒドロキシメチルアミノメタンと塩酸により、生理的pHに等しい7.30±0.05のpHで有機的に緩衝した。有孔ウェハーをSBF溶液に液浸する前に少なくとも数ヵ月間環境空気中で保存し、それ故有孔シリコンウェハーは水和された。従って有孔シリコンは、空気中での保存の結果バルクシリコン上に形成されるものと同様の、薄い未変性酸化物で被覆されたシリコン骨格を含んだ。
0.4×50×20mm3の典型的な寸法を持つ分割したウェハー断片を、SBF溶液を満たした容量30cm3のポリエチレン製のビンに入れ、較正した水浴により37°±1℃に保持した。
既知の期間後、断片をSBF溶液から取り出し、脱イオン水で洗浄して、環境空気中で乾燥させた後、特性指摘した。走査型電子顕微鏡(SEM)とJEOL6400F顕微鏡でのx線微量分析(EDX)を用いてSBF処理した断片を検討した。Cameca4F機器を用いて二次イオン質量分析を実施し、Biorad FTS−40スペクトロメータを用いて赤外分光測定を実施した。
2、4および17時間のSBF溶液での液浸期間後、有孔シリコン領域20と非有孔バルクシリコン領域22の両方に無視しうるアパタイトの沈着物が生じた。
図2を参照すると、通常50で指示される、SEM顕微鏡写真の再現が示されている。顕微鏡写真50は、ウェハー10を6日間SBF溶液中に入れておいた後の領域20の部分の画像である。秤の棒線52は2μmの寸法を表わす。顕微鏡写真50は、領域22の表面をおおうアパタイト球状体54の連続的な層を示している。アパタイト球状体は、比較的なめらかな被膜を創造するのに十分な高密度で核形成されており、境界56のような球状体間の境界は不明瞭である。被膜は少なくとも100μm2の面積にわたって連続的であった。
図3を参照すると、通常100で指示される、ウェハーをSBF溶液に6日間液浸した後の領域2におけるウェハー10の横断面のSEM顕微鏡写真の再現が示されている。秤の棒線102は1.0μmの寸法を表わす。顕微鏡写真100はA、B、Cの文字で指示される3つの異なる領域を示す。EDX分析により、領域Aが、原材料である非有孔バルクシリコン領域22に相当するシリコンであることを確認した。領域BはEDX分析下でシリコンと酸素の両方のピークを示し、領域Bが酸化シリコンを含むことを示唆した。領域CはEDX分析下でカルシウム、リンおよび酸素のピークを示し、この領域がアパタイトの球状体を含むことと一致した。SEMとEDX分析を組み合わせると、有孔酸化シリコン層(領域B)がバルクシリコン(領域A)上に形成され、それによってアパタイト(領域C)の核形成と被覆が可能になることを明らかにした。
SBF溶液に6日間液浸した後の有孔シリコン領域20の部分におけるウェハー10のSEM分析は領域22に比べてはるかに低いレベルのアパタイト被覆を示した。有孔シリコン領域20は高いレベルの中孔性を有する。SBF溶液に10日間液浸した後、その間に有孔シリコンの重要な層侵食が生じたが、領域20ではSEM分析下で大孔が見えた。SEMとEDX分析を組み合わせると、バルクシリコン領域22と異なって、有孔シリコン領域20では直接アパタイトの核形成が起こり、中間の有孔酸化シリコン層の形成を必要としないことが明らかになった。非常に大きな(直径100μm以上)大孔の意図的な導入は、有孔シリコンの構造内で血管組織を成長させることができるという点で有利でありうる。
アパタイト沈着物の形成は、有孔シリコンの有孔性が18%以外であるウェハーに関しても認められた。有孔性31%の有孔シリコン領域を持つ微小孔ウェハーを、0.03Ωcmの強くホウ素ドープしたp型CZシリコンウェハーから、50重量%HF中で1分間、100mA/cm2の陽極化電流密度で陽極化することによって製造した。生じた有孔シリコン領域は9.4μmの厚さと250m2/gの単位質量当り表面積を有していた。該有孔シリコンウェハーは、相当な期間を経過した後SBF溶液に液浸した。
図4は、通常150で指示される、ウェハー断片を30cm3のSBF溶液に7日間液浸した後の、有孔性31%の有孔シリコン層の表面のSEM顕微鏡写真の像を示す。顕微鏡写真150は、有孔シリコンの表面154上にアパタイトの球状体152などの球状体を示す。
有孔性48%の有孔シリコン領域を持つ微小孔ウェハーを、30Ωcmの抵抗性を持つ軽くホウ素ドープしたp型シリコンウェハーを、50重量%のHF中20mA/cm2の陽極化電流密度で5分間陽極化することによって製造した。生じた有孔シリコン領域は、6.65μmの厚さと約800m2/gの単位質量当り表面積を有していた。該有孔シリコンウェハー断片は、相当な期間を経過した後SBF溶液を満たした150cm3のポリエチレン製ビンに液浸した。
図5aは、通常200で指示される、4週間の液浸期間後の、有孔性48%の非陽極化領域上のアパタイト沈着物202のSEM顕微鏡写真の像を示す。図5bは、通常250で指示される、有孔性48%の有孔領域上に沈着したアパタイト球状体252のSEM顕微鏡写真の像を示す。球状体252は、P.LiらがJournal of Biomedical Materials Research、28巻、p.7−15、1994において述べているように、生物活性セラミック上でアパタイト成長の円柱状構造特性を備えた形態を示す。同様の形態を持つアパタイト球状体がウェハーの非陽極化領域で認められた。非陽極化領域を越えて採取した、SBF溶液で液浸した後の有孔性48%のウェハーの横断面EDXスペクトルは、球状体がアパタイトに一致するカルシウム、リンおよび酸素を含有することを示した。球状体から離れたところに、主としてシリコンと酸素から成る厚さわずか150nmのインターフェイス層が観察された。フーリエ変換赤外分光法は、有孔領域と非有孔領域の両方においてアパタイトの存在を確認する。約600/cmの波数のPO4四面体のP−O屈曲振動モードと、カルボネート基の振動モードに帰せられる約1400/cmの広域バンドの両方が観察された。
一部の形態の有孔シリコンは光輝性であることが知られている。有孔シリコンから赤あるいは橙の光輝が認められることは、一般にシリコン材料の量子ワイヤあるいは量子ドットの存在を示す。SBF溶液に液浸する前に相当な期間を経過した有孔性48%のウェハーは光輝を示し、環境空気との接触により水和されているにもかかわらず、有孔シリコン領域が高濃度の量子ワイヤあるいはドットを保持していることを示唆した。SBF溶液での液浸中および液浸後も発光特性は保存された。これは、アパタイトが発光特性を保存するように有孔シリコン上に沈着することを示す。アパタイト層成長後の発光特性の保存は、電気光学的バイオセンサーの開発にとって有用な特性であると考えられる。
有孔性70%、単位質量当り表面積640m2/g、厚さ1μmの有孔領域を持つ、完全に中孔性の発光性有孔シリコンウェハーをSBF溶液中に入れた。およそ1日後、有孔領域はSBF溶液に溶解して完全に除去されており、ウェハーはもはや発光性ではなかった。有孔シリコン領域あるいは非有孔領域のいずれにもアパタイト沈着物は認められなかった。中孔シリコンはSBF溶液によってより有効に水和され、従って中孔シリコンは微小孔シリコンよりも溶解率が高いと考えられる。それ故中孔シリコンは再吸収性生体用材料特性を示す。可溶性シリコンの供給源として作用する、限られた面積の中孔性シリコンを持つ生物活性シリコン構造を構築することが可能であると考えられる。これは局所的に飽和されたシリコン溶液を生じさせ、従ってアパタイト沈着を促進させることができるであろう。
有孔性4%、厚さ38μmの有孔領域を持つ大孔シリコンウェハーは、SBF溶液に4週間液浸した時、アパタイト沈着物の成長を示さない程度に、バルクの陽極化していないシリコンウェハーと同様に行動した。さらに、有孔性80%、厚さ50μmの有孔シリコン領域ではアパタイトの成長は認められなかったが、この領域はSBF溶液に2週間液浸した後もその発光特性を保持する。
さらなる対照として、有孔シリコンウェハー断片と同様の寸法の、分割した非有孔シリコンウェハー断片を30cm3のSBF溶液中に入れた。SBF溶液に5週間液浸した後、5000/cm2以下の極めて低密度のミクロンサイズの沈着物を認めた。これらの沈着物はおそらくシリコンウェハーの表面欠陥部位に位置していた。従ってバルクの非有孔シリコンは生物活性ではない。生体組織と結合を形成するにはアパタイト沈着物の成長速度が遅すぎるからである。
このようにこれらの実験は、孔の大きさと有孔性を適切に制御することにより、シリコン構造は実質的に生物活性スペクトル全体をカバーできることを示唆している。バルクの純粋に大孔性のシリコンは比較的生物不活性である;有孔性の高い中孔シリコンは再吸収性であり、中等度の有孔性の微小孔シリコンは生物活性である。
生体用材料の化学組成の変化も、それらが生物不活性、再吸収性あるいは生物活性であるかどうかに影響しうることが知られている。シリコンの半導体特性を制御するための夾雑物ドーピング以外には意図的に特異的要素でドープしなかった有孔シリコンウェハーに関して、上記の実験を実施した。SiO2、Na2O、CaOおよびP2O5を含有する生物活性ガラスからのカルシウムの溶出は、局所的過飽和を促進することによってアパタイトの成長を有意に助けると考えられる。40%水性HF中20mA/cm2で1分間陽極化することにより、軽度にドープしたp型(30Ωcm)CZシリコンウェハーにおいて形成される有孔性55%、厚さ1.2μmの微小孔シリコンの新鮮腐食層にカルシウムを透浸させた。カルシウム透浸は、125cm3の純粋エタノール中に5gのCaCl.2H2Oを含有する溶液中で保存することによる軽度の酸化を通して実施した。カルシウム、ナトリウムあるいはリンあるいはこれらの種の組合せによる有孔シリコンの透浸はシリコン上でのアパタイトの形成を促進すると考えられる。
SBF溶液での液浸後、陽極化したウェハーの有孔シリコン領域に隣接する非有孔領域において、アパタイト沈着物の下に酸化シリコン層が存在することは、有孔シリコン領域からのシリコンの溶解が有孔シリコンの生物活性にとって重要な因子であることを示唆している。シリコンの溶解は局所的過飽和溶液を形成し、それが有孔酸化シリコン層の沈着を生じさせると考えられる。その後アパタイトが有孔酸化シリコン上に沈着する。これは、SBF溶液中で通常のバルク結晶性シリコンより高い可溶性を持ち、透浸したカルシウムを含有する、様々な非有孔結晶性、多結晶性あるいは非晶質シリコンをベースとする構造が生物活性であることを示唆している。アパタイトの成長を有意に助けるためには、必ずしもシリコンの結晶性が保存されている必要はないが、カルシウム透浸のレベルが、以前に報告されているカルシウムドープしたシリコンよりもはるかに高いことが必要である。
カルシウムは一般にシリコンにとってあまり魅力的でないドーパントとみなされており、その結果カルシウムドープしたシリコンについての試験はほとんどなかった。Journal of the Electrochemical Society、129巻、1982、p.2809−2812においてSigmundは、単結晶性シリコンにおけるカルシウムの最大平衡溶解度は6.0×1018/cm3であると報告している。この濃度で、カルシウムはアパタイトの成長に重要な影響を及ぼさないと考えられる。1021/cm3(2%)を越える濃度の、過飽和レベルのカルシウムが必要である。かかる非常な高濃度は次の工程によって達成しうる:
(a)先に述べたような有孔シリコンの溶液ドーピング;
(b)カルシウムイオンによる有孔シリコンあるいはバルクシリコンのイオン透浸;あるいは
(c)カルシウムあるいはカルシウム化合物のエピタクシー沈着とそれに続く熱処理。
(a)先に述べたような有孔シリコンの溶液ドーピング;
(b)カルシウムイオンによる有孔シリコンあるいはバルクシリコンのイオン透浸;あるいは
(c)カルシウムあるいはカルシウム化合物のエピタクシー沈着とそれに続く熱処理。
図6を参照すると、通常300で指示される、生物活性シリコンを組み込んだ医療適用のための汎化されたセンサーの図式的な概要図が示されている。センサー300は2つのシリコンウェハー部分302と304を含む。302の部分はCMOS回路306を含み、センサーエレメント308が回路306に連結している。センサーエレメント308は酸素センサー、たとえばクラークセルである。CMOS回路は小型電池(図には示されていない)によって動力供給され、標準的な遠隔測定手法を用いて外部監視のためのシグナルが産出される。
ウェハー部分304は302の部分の微小機械化された上部カバーである。304の部分は、その中にはめ込まれた2つの主要な空洞310と312を持つ。空洞310はドーム形である。302と304の部分が互いに連結すると、空洞310がCMOS回路306の上になる。空洞312は横断面では円形であり、304の部分を通って伸びており、センサーエレメント308がセンサーを取り巻く環境を監視することを可能にしている。空洞312は透過性膜の314によっておおわれている。主要な空洞310および312に加えて、空洞316のような小さな空洞が304の部分の上部表面322に分布している。小さな空洞は切頭−円錐形であり、その横断面の直径は部分内に入るとともに大きくなる。小さな空洞は、生物学的固定のための血管組織あるいは骨の成長を可能にするために存在する。空洞310、312および316は標準的なエッチング手法、たとえばイオン線梁切削および光耐性マスクを通してのイオンエッチングによって形成される。部分302および304の外側表面の少なくとも一部は、アパタイトの沈着および組織とセンサーの結合を促進するために、陽極化されて有孔シリコン領域を形成する。図6において、有孔シリコンは部分304の上部表面の環330および他の表面では溝332によって示されている。図6は302と304の部分の外側表面が完全に有孔シリコンによっておおわれていることを示しているが、部分302の表面322と底部表面334だけが有孔シリコンを含むだけで十分である。そのような仕組みは製造がより簡単であろう。部分302と304は、絶縁体テクノロジーに関してシリコンのために開発された手法を用いて互いに結合されている。有孔シリコンの作製のための陽極化手法を述べたが、有孔シリコン作製のための染色エッチング手法も知られている。かかる手法は複雑な形の構造上に有孔シリコン表面を創造するのに有利であると考えられる。
センサーに加えて、生物活性シリコンは電子プロテーゼ装置、たとえば義眼における適用が認められる。生物活性シリコンを含みうる他の電子装置は、知的薬剤供給送達系を含む。
ヒトおよび他の動物の体内に組み込むためのセンサーのほかに、生物活性有孔シリコンはin vitro適用のためのバイオセンサーの製造においても使用しうる。有孔シリコンとその上のアパタイト層から成る複合構造は、従来技術のバイオセンサー装置に比べて改善された細胞適合性を持つと考えられる。バイオセンサーはin vitroの製薬学的試験の分野において潜在的に非常な重要性を持つ。自動化された製薬学的試験のために、生物学的検定装置は有孔シリコン領域の基質配列を持ったシリコンウェハーを含みうる。セルは有孔シリコン領域の選択的に置くことができ、これは薬剤への接触後の自動的細胞分析を容易にするであろう。有孔シリコンの発光特性は光学的細胞分析手法を可能にするために使用しうる。バイオセンサーの分野の当業者は、その経験を利用してどの細胞培養が適当であるか、また細胞の行動をいかにしてモニターすることができるかを同定するであろう。
in vitro実験の結果を記述したが、in vivo実験については述べていない。しかしながら、in vitro実験は人体内の環境を擬態するように計画される。in vitro実験の結果から、SBF溶液中に重要なアパタイト沈着物を生じさせたシリコンウェハーはin vivoでも生物活性行動を示すであろうと結論できるであろう。
in vitroでのシリコンあるいは有孔シリコン表面上のアパタイト被膜の形成は、該生物活性シリコンがある程度まで生物適合性形態のシリコンであることを示唆している。「生物適合性」という用語は、必ずしも物質がすべての適用に関して生物学的に許容されるわけではないが、特定の適用に関しては生物学的に許容されうることを意味する。生物適合性の分野の当業者は、「組織適合性」をこの生物適合性の定義を説明するためのより適切な用語とみなすかもしれない。アパタイトの層はシリコンの生理的作用を抑制する保護バリアとして働くと考えられる。
上述したように、中孔シリコンは再吸収性生体用材料特性を示す。先に引用したJournal of the American Ceramic Societyの中のHenchによる論文から、再吸収性生体用材料は経時的に徐々に分解して、自然の宿主組織に取って代わられるようにデザインされた材料である。擬似体液中での中孔シリコンの特性は、適切な有孔性の中孔シリコンが再吸収性生体用材料であることを示唆する。先に論じたように、図1の生物活性シリコンウェハー10の有孔領域20は高レベルの中孔性を持つ。これは、中孔シリコンの有孔性を制御することによって有孔シリコン領域が生物活性となるか再吸収性となるかを制御しうることを示す。有孔性を調節することによって有孔シリコン領域が吸収される速度を制御することも可能であろう。
SBF溶液中での有孔シリコンの溶解は再吸収性生体用材料特性を示唆しているが、生体内での有孔シリコン領域の反応はSBF溶液中では再現できない因子によって影響されると考えられる。生体細胞が有孔シリコンの表面で増殖すれば、これらの細胞は有孔シリコンと相互作用すると考えられる。従ってSBF溶液で実施した実験は、特定の形態の有孔シリコンが再吸収性材料の適用に適合するかどうかを明確に示すものではない。特定の所望する生理的反応が達成されるかどうかを調べるin vivoでの実験を実施しなければならないであろう。
SBF溶液中でのバイアス電流の適用によって有孔シリコン上のアパタイト層の形成を促進するあるいは遅延させることが可能であることを示す、さらなる実験を行なった。
図7を参照すると、シリコンウェハー402全体への静電気負荷を適用するための電気化学的セル400の図式的概要図が示されている。ウェハー402は、抵抗性0.012Ωcmの強くドープしたn型(100)定方向シリコンウェハーであり、これをセル400中で負荷する前に、40重量%水性HF中100mA/cm2で1分間陽極化し、有孔性約20%、厚さ11μm、BET測定した表面積約70m2/gの生物活性有孔シリコン層を形成させた。陽極化後、重量が安定するまでウェハーを空気中でスパン乾燥させ、その後ただちにセル400に負荷する。
ウェハー402をPTFEカセット404に挿入し、ねじ筋を付けたPTFEリング406をカセット404にねじ止めしてはめ込み、このリング406がPTFE被覆したO−リング408と410を圧迫する。カセット404において、シリコンウェハーは金属の背当てプレート412に押しつけられる。プレート412はシリコンウェハーの背面への電気接触をもたらし、またカセット内でシリコンウェハーの有孔前面の36cm2の面積が接触する。水浴内の、pH=7.3±0.05に有機緩衝され、37±1℃に維持されている、SBF溶液2リットルが入ったポリカルボネートタンク414にカセット404を入れる。らせん形白金逆電極416もSBF溶液に入れる。d.c.静電気供給装置を使用して、ウェハー402と逆電極416の間に一定の電流を維持する。ウェハー402は陰極バイアスあるいは陽極バイアスのいずれの制御下でもよい。動力供給装置418は36mAの定電流を供給する。この定電流は、電流が主としてシリコン骨格を通る場合は約1mA/cm2、電流が有孔シリコンの孔ネットワークを通してシリコン−SBFインターフェイス全体を越えて均一に分布する場合は約1μA/cm2の、シリコンウェハーの電流密度に相当する。電流を3時間保持する。セル400から取り出した後、ウェハー402を脱イオン水で洗浄し、スパン乾燥させる。
3時間のSBF接触後、有孔シリコンウェハーの表面をJEOL6400F走査型電子顕微鏡(SEM)において加速電位6kVで検討した。陽極バイアスして孔形成されたウェハーは、バイアスを受けずに孔形成した対照ウェハーと共に、有孔シリコン上に表面沈着物の証拠を示さなかった。しかし陰極バイアスしたウェハーは、合体して連続的な層を形成した球状体で完全に被覆された。平面EDX分析は、この被覆層が主としてカルシウムとリンを含む無機質であり、EDXの検出限界に近い(すなわち<1原子%)炭素、マグネシウム、ナトリウムおよび塩素のような他のSBF成分を含むことを示した。バイアスしていないウェハーと陽極バイアスしたウェハーの平面EDX分析はシリコンと酸素の存在だけを示した。
横断面のSEMおよびEDX分析は、陰極バイアス下で生じたカルシウムとリンに富む無機質が有孔シリコン層の上部に限定されており、比較的薄く、厚さ約0.2μmであることを示した。有孔シリコン内では、すべてのサンプルについてカルシウムとリンのレベルはEDXの検出限界以下である。陽極負荷した有孔シリコン層は、層の上部0.5μm内で重要な酸素の蓄積を示した。
二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、3回の異なる処理後に層がカルシウム沈着する程度と深さ、ならびに他の特異的要素の深度分布を比較した。新鮮エッチングした微小孔シリコンは、たとえばカルシウムおよびナトリウム(SBF中に存在する)は非常に低レベルであるが、評価しうるレベルのフッ素(SBF中には存在しない)を含むことを示した。
図8は、電気的バイアス処理から生じる様々なレベルのカルシウム沈着を示したSIMSプロットである。図8では、陰極バイアスしたウェハーからのSIMSプロットを450の線で示し、バイアスしていないウェハーからのSIMSプロットを452の線で、また陽極バイアスしたウェハーからのSIMSプロットを454の線で示している。沈着は主として有孔シリコンの表面近くで起こっているが、いずれの場合も11μmの厚さの層全体にわたってカルシウムレベルは背景レベルよりも高かった。450の線は、バイアスしていないウェハーに比べて、陰極バイアスがカルシウム沈着の度合を上昇させ、陽極バイアスはその度合を低下させたことを示している。SIMS測定はまた、有孔シリコン層全体にSBF成分が存在すること、および陰極バイアスの結果として、被覆層内でのある程度の貯留を伴って、フッ素の重要な動きと喪失があったことを示唆した。
電気刺激実験において、in vitroおよびin vivo組織は入力した動力、電流および電圧量の極めて限られた範囲でのみ有利に反応することは広く認められている。これらの範囲は刺激電極の性質を含めた多くの因子に対して感受性である。上述したバイアス実験は、有孔シリコンのカルシウム沈着過程の動態がin vitroで、またそれ故おそらくin vivoでも、陰極バイアスの適用によって加速されうることを示している。また同時に、有孔シリコンとバルクシリコンのような異なるシリコン構造を一緒に生理的電解質に液浸した時、電気侵食過程は、それが生じるいずれの陰極部位でもカルシウム沈着を促進すると考えられる。
無機質沈着のバイアス制御についての潜在的適用は多様である。電極を生きている生物に挿入すると電極の周囲に線維層が形成され、その層の厚さが電極の生物適合性を示すことが知られている。in vivoで微小電極のまわりに安定な無機沈着物が速やかに形成されることは、組織成長の電気刺激あるいは対麻痺患者の筋刺激のために潜在的な恩恵を提供する。無機質沈着の局所的な制御は、その上に無機沈着物が形成されないように限局領域をアレンジすれば、in vivoおよびin vitroでのバイオセンサー装置の分野における適用が得られるであろう。無機質沈着促進の過程は、シリコンベースの集積回路を体内に移植する前に被覆する上で有益であると考えられる。
無機質沈着の電気的制御についての上記の説明は有孔シリコンへの沈着に関するものであるが、SBF溶液中で陽極化していないウェハーに陰極バイアスを適用した時にも無機沈着物が認められた。
さらなる具体例では、特定の種類の多結晶性シリコン(ポリシリコン)はSBF溶液からのリン酸カルシウムの沈着も誘発することができ、従って生物活性であることが認められた。
生物活性な多結晶性シリコンを作製するために、5〜10Ωcmの範囲の抵抗性を持つ直径100mmの〈100〉p型CZシリコンウェハーを、厚さ0.5μmの湿性熱酸化物で、またその後様々な微小構造を持つ厚さ1μmのポリシリコン層で前面および背面被覆する。酸化物層はThermco TMX9000拡散ファーネスにおいて成長させ、ポリシリコン層はThermco TMX9000低圧化学蒸気付着熱壁ファーネスで成長させる。熱酸化物の成長のために、ファーネスの管を1000℃の一定温度に保持し、110分間の蒸気酸化を用いて湿性熱酸化物を成長させる。その後のポリシリコン層の沈着は、ファーネスの管を570〜620℃の範囲に維持しながら、250〜300mtorrの範囲の圧でSiH4を熱分解することを含む。
Kluwer Acad.Publ.1988発行のT.Kaminsによる「Polycrystalline Silicon for Integrated Circuit Applications」の第2章に述べられているように、ポリシリコン層の微小構造が温度、熱、ガス流量および基質の種類のような多くの沈着パラメータに対して感受性であることは広く認められている。570℃、580℃、590℃、600℃、610℃および620℃という異なる沈着温度を用いて、極めて多様な微小構造と形態を持つポリシリコン層が得られた。横断面透過型電子顕微鏡分析は、570℃で沈着させた層がその表面近くでは実質的に非晶質であるのに対し、600℃と620℃で沈着させた層はその深さ全体を通じて多結晶性であることを明らかにした。一定の層に関して、粒子サイズは沈着温度によっていくぶん異なり、深さによって大きく異なる。
次に、0.5×50×20mm3の代表的寸法を持つ分割したウェハー断片を、前述したようにSBF溶液を満たした別々の30cm3のポリエチレンビンに入れ、SBFの温度を37℃±1℃に保持した。横断面SEM画像によって測定すると、様々なポリシリコン層がSBF溶液中で様々なレベルの安定性を持つことが認められた。SBF溶液中に64時間置いた後、620℃で沈着させたポリシリコン層は最初の厚さの約60%まで薄くなったのに対し、570℃で沈着させた層の厚さはSBF溶液中に160時間置いた後も実質的に変化しなかった。
無機沈着物は一部のポリシリコン層の上で核形成し、増殖することが認められた。これらの沈着物を平面SEMを用いて観察した。SBF溶液に2週間液浸した後、600℃と620℃で沈着させたポリシリコン層では無機沈着物が観察されたが、570℃で沈着させた層上には沈着物は観察されなかった。これらの所見は、有孔シリコンに関して、その微小構造に依存して至適生物活性のための反応ウィンドウが存在することを示唆している。無機沈着物の最大密度は600℃で沈着させたポリシリコン層で観察された。重要なレベルの無機沈着物がシリコンウェハーの前面と背面の両方で観察され、両側にポリシリコンの沈着があったことと一致した。
沈着物のEDAX分析は、一部の形態のアパタイトが核形成していたことと一致して、カルシウム、リンおよび酸素の存在を示した。しかし沈着物の形態は先に有孔シリコンに関連して述べた球状体の形態とは異なっており、沈着物はより角張っているよに思われた。この理由は明らかではないが、ポリシリコン上の核形成部位における局所的pHがわずかに異なることを反映していると考えられる。P.LiらはJournal of Applied Biomaterials、4巻、1993、p.221において、シリカゲル上での成長に関してpH7.3で認められるアパタイトの形態がpH7.2で認められるものとは有意に異なることを報告した。
生物活性ポリシリコンの潜在的適用は生物活性有孔シリコンよりも潜在的に広い。単結晶性シリコンでは被覆できない様々な基質をポリシリコンで被覆することが可能である。骨への付着を改善するために外科的インプラントをポリシリコンの層で被覆することができるであろう。ポリシリコンはまたVLSIテクノロジーとも極めて高い適合性があり、複雑な電子回路を生物適合性にする見込みを提示する。様々な装置やパッケージングアレンジメントを作製するために、ポリシリコンを表面微小機械化することができる。
既に、図6を参照してひとつの考えられる生物活性シリコンパッケージングの概念を述べた。生物活性ポリシリコンを用いて、より小さなバイオチップを構築することが可能であろう。図9を参照すると、生物活性ポリシリコンを組み込んだバイオセンサー装置500の図式的概要図が示されている。装置500はバルクシリコンウェハー510を含み、その上にCMOS回路512とセンサーエレメント514が作られている。センサーエレメント514は回路512に電気的に接続されている。回路512は、たとえば酸化シリコンや窒化シリコンのバリア層516によって保護されている。センサーエレメント514へのウィンドウ518を除いて、装置500全体が生物活性ポリシリコンの層520で被覆されている。粒子境界を通過する拡散のためにポリシリコン自体はシリコンベース回路の良好な保護層ではないので、バリア層516が必要である。それ故バリア層516は回路512とポリシリコン層520の間に置かれている。
有孔シリコンを用いた結果から類推して、多結晶性シリコンの生物活性はカルシウム、ナトリウムあるいはリン、あるいはこれらの種の組合せでドープすることによって改善されると考えられる。
生物活性ポリシリコンは生物学的検定装置の適用に適した基質であると考えられる。L.BousseらはIEEE Engineering in Medicine and Biology、1994、p.396−401において、細胞をシリコンチップ上の微小機械化された空洞内に捕獲するin vitro測定を実施するためのバイオセンサーについて述べている。かかる装置はポリシリコンとその上のアパタイト層から成る複合構造を有用に組み込んでおり、細胞はアパタイトの領域上に優先的に位置する。
Claims (45)
- シリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする生物活性シリコン(20、520)。
- 生理的温度に保持した擬似体液溶液に液浸した時、シリコンがその上に無機沈着物(54、C)の沈着を誘発することを特徴とする、請求項1に記載の生物活性シリコン。
- 無機沈着物がアパタイトであることを特徴とする、請求項2に記載の生物活性シリコン。
- アパタイトが少なくとも100μm2の面積にわたって連続的であることを特徴とする、請求項3に記載の生物活性シリコン。
- シリコン(20)が、4%より多く70%未満の有孔性で少なくとも部分的に有孔であることを特徴とする、請求項1に記載の生物活性シリコン。
- 有孔シリコンが微小孔性であることを特徴とする、請求項5に記載の生物活性シリコン。
- 有孔シリコンが中孔性であることを特徴とする、請求項5に記載の生物活性シリコン。
- 有孔シリコンが可視的に発光性であることを特徴とする、請求項5に記載の生物活性シリコン。
- シリコンに、カルシウム、ナトリウムおよびリンのリストから選択される少なくともひとつの種を透浸させることを特徴とする、請求項1あるいは請求項5に記載の生物活性シリコン。
- シリコンが多結晶性シリコン(520)であることを特徴とする、請求項1に記載の生物活性シリコン。
- シリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする、生物活性シリコン構造(10、300、500)。
- 構造が、4%より多く70%未満の有孔性を持つ有孔シリコン領域(20)を含むことを特徴とする、請求項11に記載の生物活性シリコン構造。
- 有孔シリコンが微小孔性であることを特徴とする、請求項12にの生物活性シリコン構造。
- 有孔シリコンが中孔性であることを特徴とする、請求項12に記載の生物活性シリコン構造。
- 構造が同時に大孔も含むことを特徴とする、請求項12に記載の生物活性シリコン構造。
- シリコンに、カルシウム、ナトリウムおよびリンのリストから選択される少なくともひとつの種を透浸させることを特徴とする、請求項11あるいは請求項12に記載の生物活性シリコン構造。
- 有孔シリコンに1021cm3より多い濃度でカルシウムを透浸させる、請求項16に記載の生物活性シリコン構造。
- 構造が再吸収性シリコン材料を含むことを特徴とする、請求項11に記載の生物活性シリコン構造。
- 構造が多結晶性シリコンの領域(520)を含むことを特徴とする、請求項11に記載の生物活性シリコン構造。
- 装置が生物活性シリコン(20、520)を含むことを特徴とする、ヒトあるいは動物の生体内での操作のための電子装置(300、500)。
- 生物活性シリコンが、4%より多く70%未満の有孔性を持つ少なくとも部分的に有孔なシリコンを含むことを特徴とする、請求項20に記載の電子装置。
- 血管組織の内殖を高めるために有孔シリコンが大孔を含むことを特徴とする、請求項21に記載の電子装置。
- 有孔シリコンが装置の外側表面上に少なくとも部分的に広がっていることを特徴とする、請求項21に記載の電子装置。
- 装置がセンサー装置であることを特徴とする、請求項20〜23のいずれかに記載の電子装置。
- 生物活性シリコンが多結晶性シリコンであることを特徴とする、請求項20に記載の電子装置。
- シリコンを生物活性にする方法で、該方法はシリコンの少なくとも一部を有孔にすることを含む。
- 該方法がカルシウムによる有孔シリコンの透浸を含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
- 該方法が多結晶性シリコンの層を沈着させる段階を含むことを特徴とする、生物活性シリコンを製造する方法。
- シリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする、ヒトあるいは動物の生体における使用のための装置(300、500)の製作のための生物活性シリコンの使用。
- ヒトあるいは動物の身体の治療方法における使用のための生物活性シリコン(20、520)。
- シリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする、ヒトあるいは動物の生体における使用に適した装置(300、500)に組み込まれた生物活性シリコン(20、520)。
- シリコンが少なくとも部分的に結晶性であることを特徴とする、生物適合性シリコン(20、520)。
- 生理的温度に保持した擬似体液溶液に液浸した時、シリコンが該シリコン上への無機沈着物の沈着を誘発することを特徴とする、請求項32に記載の生物適合性シリコン。
- 再吸収性シリコン。
- 再吸収性シリコンが、擬似体液溶液に液浸した時に有孔シリコンが経時的に溶解するように有孔シリコン領域を含むことを特徴とする、請求項34に記載の再吸収性シリコン。
- 生理的電解質中で無機沈着物のシリコンへの沈着の速度を加速するあるいは遅延させる方法で、かかる方法はシリコンに電気バイアスを適用することを含む。
- シリコンが有孔シリコンであることを特徴とする、請求項36に記載の方法。
- 材料の生物活性が該材料への電気バイアスの適用によって制御しうることを特徴とする生物活性材料(20)。
- 生物活性な電気伝導性材料(20、520)。
- シリコン領域が少なくとも部分的に結晶性であるシリコンを含むことを特徴とする、生物活性シリコン領域(20、520)とその上の無機沈着物から成る複合構造(10、300、500)。
- 無機沈着物がアパタイトであることを特徴とする、請求項40に記載の複合構造。
- 生物活性シリコン領域が有孔シリコン(20)であることを特徴とする、請求項40あるいは請求項41に記載の複合構造。
- 生物活性シリコンが多結晶性シリコン(520)であることを特徴とする、請求項40あるいは請求項41に記載の複合構造。
- 方法が、生物活性シリコンとその上の無機沈着物の複合構造を形成する段階を含むことを特徴とする、バイオセンサーを製造する方法。
- シリコン基質の少なくとも一部が生物活性シリコンから成ることを特徴とする、化合物の薬理活性を試験するためのシリコン基質を含むバイオセンサー。
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