(発明の要旨)
本明細書に記載されかつ特許請求される発明は多くの属性及び実施形態を有し、このような属性及び実施形態としては、この要旨に記述又は記載又は参照されるものが挙げられるがこれらに限定されない。この要旨は、包括的であることを意図するものではなく、本明細書に記載されかつ特許請求される発明は、この要旨に規定される特徴又は実施形態によって限定されないことに留意されるべきである。また、この要旨は、限定する目的ではなく単に例示の目的で包含されるものである。
既に述べたように、多くのタイプの癌細胞は、チオレドキシン又はグルタレドキシンの発現及び/又は活性を増大させることが示されている。このような癌のタイプとしては、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌が挙げられるが、これらに限定されない。癌細胞におけるチオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの過剰発現(もしくは活性の増大、又は両方)は、アポトーシスに対する化学療法薬物抵抗性として現れてくる癌細胞の多成分及び多経路の延命効果を媒介する。それにより、これらの重要なオキシドレダクターゼ経路のいずれかでのこのような過剰発現は、癌細胞に対する医療介入(intervention)の意図された治療効果をなくすか又は妨害し、さらにチオレドキシン又はグルタレドキシンの濃度又は発現の増大の存在及び持続によって媒介されると考えられる、患者の生存を短縮させることが観察される。このことは、言い換えると、化学療法により誘導されたアポトーシスに対する腫瘍の媒介による抵抗性、オキシドペルオキシダーゼの過剰発現、RNAのDNAへの変換の増大、核転写の増大、細胞増殖の増大及び/又は脈管形成の増大を促進し、これらのいずれも、化学療法及び放射線療法の細胞毒性作用に抵抗する能力を癌細胞に与えるのに合わせて作用でき、それによって患者の生存時間を低減させる。
本発明は、チオレドキシン/グルタレドキシン系の医薬的及び薬理学的不活性化及び調整に関係し、それにより、別な方法で癌細胞中のチオレドキシン/グルタレドキシのレベル又は過剰発現の増大によって付与された前記癌細胞の薬物抵抗特性を不活性化、逆転又は調整する。医薬的及び薬理学的不活性化は、本発明の式(I)の化合物の投与に関係する。チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの発現又は濃度を増大させる前述の癌のタイプのいずれもが、本発明によるチオレドキシン/グルタレドキシンに基づく介入(intervention)に対して敏感であり、そのような介入から恩恵を受けてもよい。本発明はまた、個々の患者から単離された癌細胞のサンプル内のチオレドキシン/グルタレドキシンレベル及び代謝状態を治療の前及び治療中に同定することによって患者の化学療法レジメンのスケジュール、用量及び組み合わせを最適化する方法を教示する。また、本発明の組成物及び方法の診断上及び治療上の最適化により、例えば、利用する最適な化学療法薬物レジメンの決定によって、患者の生存結果及び恩恵をさらに高めるキットの使用を教示する。本発明はまた、診断用キットの使用によってこのような介入から恩恵を受けそうにない患者を前もって同定する方法を教示し、それによって、より臨床的に有効であってもよい他の治療アプローチを遂行できる。さらに、本発明の診断用キットにより、患者及び治療に対する患者の生化学的応答の継続的モニタリングが可能になる。
簡潔には、本発明は、以下を開示及び特許請求の範囲に記載する:(i)癌患者の生存時間を増大させる組成物であって、前記癌が、チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/あるいはチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法剤又は介入に対する抵抗性を示すか又は有する癌のいずれかである組成物;(ii)癌患者の生存時間を増大させる治療方法であって、前記癌が、チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/あるいはチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法薬物に対する抵抗性を示すか又は有する癌のいずれかである方法;(iii)癌患者を治療するためのこれらの組成物の投与のためのキット;(iv)癌患者におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの発現レベルを定量的に確認するための方法;(v)初期診断において癌におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの発現のレベル及びパターンを使用し、それに続く治療方法を計画し、及び/又は癌患者の特定の癌の潜在的な治療反応性を確認する方法;(vi)癌患者の癌におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの発現レベルを定量的に確認するためのキット;(vii)癌患者の生存時間を増大させる治療方法であって、前記癌が、チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/あるいはチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法薬物に対する抵抗性を示すか又は有する癌のいずれかであり、前記治療が、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの過剰発現に対して敏感である化学療法剤の投与を含み、これらの過剰発現のいずれかが腫瘍媒介性の薬物抵抗性及び脈管形成の増大をもたらす方法;並びに(viii)癌患者からのサンプル中のチオレドキシンレベル、グルタレドキシンレベル及び代謝状態を治療クール(treatment course)の前及び治療クール中に確認することによって、患者における化学療法レジメンのスケジュール、用量及び組み合わせを最適化するための方法。
本発明において論じられ及び記載される日本第III相非小細胞肺癌(NSCLC)臨床試験及び米国(U.S.)第II相NSCLC臨床試験は、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンを不活性化又は調整する薬剤(この薬剤は、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物の様式において薬理学的に作用する)によって生じた生存の増大についての対照(controlled)臨床エビデンス(証拠)を示すことにも留意されるべきである。これら2つの臨床試験は、後述の項で十分に論じられる。しかし、これらの対照(controlled)臨床試験の両方から得られたデータから、患者、特に本発明の式(I)の化合物を受ける非小細胞肺癌、腺癌サブタイプの患者において、生存が顕著に増大することが観察される。例えば、日本第III相NSCLC臨床試験及び米国第II相NSCLC臨床試験のタボセプト部門において、それぞれ、腺癌患者について約138日(すなわち、4.5月)及び約198日(すなわち、6.5月)、生存期間中央値が増大した。
本発明の組成物は、医学的に十分な用量の酸化的代謝に影響を及ぼす式(I)の化合物を含む。このような化合物としては、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの二ナトリウム塩、又はその薬学的に許容可能な塩もしくは類似体が挙げられるが、これらに限定されない。2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの二ナトリウム塩はまた、文献において、ジメスナ、タボセプト(商標)、及びBNP7787とも称されている。非限定的な例として、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(ジメスナ、タボセプト(商標)、及びBNP7787)は、公知の化合物であり、当該技術分野において公知の方法によって製造できる。例えば、J. Org. Chem. 26:1330-1331(1961);J. Org. Chem. 59:8239(1994)を参照のこと。さらに、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの種々の塩及び類似体、並びに他のジチオエーテルもまた、米国特許第5,808,160号、米国特許第6,160,167号及び米国特許第6,504,049号(これらの開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる)において概説されるように合成されてもよい。さらに、本発明の組成物はまた、医学的に十分な用量の2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム代謝産物を含む。この代謝産物は、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(文献においてメスナとして公知でもある)並びに−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステインGly、−ホモシステインGlu、−ホモシステインGlu−Gly、及び
(R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる置換基で結合(又は抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートとして公知である。これらのメスナヘテロ結合体(抱合体)化合物は、米国特許出願第2005/0256055号(この開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる)に記載されるように合成されてもよい。
癌患者の生存時間の増大において、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物の機序は、1又はそれ以上のいくつかの新規な薬理学的及び生理学的因子に関与してもよい。これらの因子としては、種々の生理学的細胞性チオールの正常な増大、反応性又は濃度及び/もしくは腫瘍保護代謝における予防、折衷及び/又は低減が挙げられるが、これらに限定されず;これらの抗酸化剤及び酵素は、それぞれ、腫瘍細胞における細胞毒性/細胞増殖抑制性の化学療法剤への曝露によって生じてもよい細胞内の酸化的代謝における変化の誘導に応答して、濃度及び/又は活性が増大する。本発明の式(I)の化合物は、分子自体の固有の組成(すなわち、酸化型ジスルフィド)によって、並びに遊離のチオールを酸化して酸化型ジスルフィドを形成することによって[すなわち、非酵素的SN2−媒介反応(ここで、ジスルフィドに対するチオール/チオラートの作用によって、元のジスルフィドが、チオール含有基の容易な離脱を伴って分離される。チオラート基は、対応するチオールよりもはるかに求核性であるので、この作用はチオラートを介すると考えられているが、いくつかの場合においては、作用する遊離のスルフヒドリル基内に含まれる硫黄原子が求核剤であってもよい)によって]酸化的活性を発揮してもよく、それによって、還元的な生理学的に遊離のチオール(例えば、グルタチオン、システイン及びホモシステイン)の薬理学的減少(枯渇)及び代謝をもたらしてもよい。
出願人は、これらの反応を支配する新規な原理のいくつかが、この反応から形成されるジスルフィド及び遊離のチオール生成物の溶媒和自由エネルギーの増大(すなわち、より大きな安定性)に関与することを決定した;したがって、これらの反応は、主に、生成物形成の好都合なサーモダイナミクスによって駆動されるようである(すなわち、発熱反応)。したがって、1又はそれ以上のこれらの薬理学的活性は、癌患者に投与された化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性に対する増大(相加的又は相乗的)効果を有し、この相加的な細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物及び化学療法化合物の併用投与の結果として生じ、それによって(i)細胞毒性の及び細胞減少的な抗癌効果の増大並びに種々の同時投与される化学療法剤の腫瘍媒介性の抵抗性の減少、例えば、白金系及びアルキル化剤系薬物の効果及び腫瘍媒介性の薬物抵抗性;(ii)本発明の式(I)の化合物によるチオレドキシン不活性化、それによるアポトーシス感受性の増大及び癌細胞におけるミトゲンの/細胞の複製信号の減少;(iii)2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてジメスナ、タボセプト(商標)又はBNP7787として公知でもある)の重要な代謝産物、いくつかの腫瘍において固有の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性を有する(すなわち、アポトーシスを生じる)2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(文献においてメスナとして公知でもある)を含む、式(I)の化合物の直接使用による癌細胞の殺傷;及び/又は(iv)酸化的代謝の増強もしくは癌性腫瘍細胞の抗酸化的応答の調整(compromising)又はその両方をもたらし、それにより、式(I)の化合物[2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート化合物(及び、あるいはメスナ又はメスナヘテロ結合体(抱合体))を含む]の使用によって酸化的な生物学的及び生理学的状態を高めてもよい。このことは、その後、化学療法剤に曝露された腫瘍細胞における酸化的損傷の量を増大するのに役立ち、それによって、化学療法剤により媒介される抗癌細胞毒性、細胞増殖抑制性、及びアポトーシスの効果を高めてもよい。したがって、酸化的代謝を増強すること及び/又は癌腫瘍細胞の全体の抗酸化力もしくは反応性を低減もしくは調整(compromising)することによって、抗癌活性の増大を達成し、結果として患者の生存時間を増大できる。
既に述べたように、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物を含む組成物及び処方物は、以下の3つの一般的な治療方法を任意に組み合わせて与えられてもよい:(i)患者の癌細胞を感作して、後に投与された化学療法剤(単数又は複数)の抗腫瘍の細胞毒性を増強するために、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンが媒介する経路を直接的又は間接的に介して作用し得る任意の化学療法剤(単数又は複数)の任意のその後の投与に対する癌細胞の感受性を増大させる、癌患者への直接的な阻害又は不活性化方法(すなわち、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンを不活性化する直接的な化学的相互作用)及び/又は減少(枯渇)方法(すなわち、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシン濃度又は生成速度の減少);及び/又は(ii)化学療法が同時に投与されている間存在する、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンが媒介する機序に対して直接向けられた薬理学的活性を増大及び最適化するために、抗チオレドキシン及び/又はグルタレドキシン療法を、癌患者が任意の化学療法サイクルを開始するときに化学療法投与と同時に投与する、相乗方法;及び/又は(iii)好ましく要求される限り、患者の癌細胞においてチオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの薬理学的に誘導された減少(枯渇)、不活性化又は調整の存在を維持するための、治療後方法(post-treatment manner)(すなわち、化学療法用量投与又は化学療法サイクルの終了後)。さらに、前述の化合物は、任意のさらなる臨床的に有益な機序によって、細胞毒性又は細胞増殖抑制剤の抗癌活性を増大又は増強するための同一の方法において与えられてもよい。
酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物は、化学療法薬物、組成物、及び/又はレジメンの治療効果(すなわち、治療指数)をも増大できる化合物であり、したがって、例えば、(i)腫瘍奏効率を増大、腫瘍進行までの期間(腫瘍無増悪生存期間)(time to tumor progression)を増大、及び転移性疾患の発病を遅延/減少すること;(ii)投与された化学療法剤の抗癌の細胞毒性及び細胞増殖抑制性の作用を妨害させないこと、並びに(iii)投与された化学療法剤の細胞毒性及び細胞増殖抑制性の活性に対する腫瘍脱感作又は薬物抵抗性を生じさせないことにより、患者の生存の総体的な増大をもたらす。
本発明の一実施形態において、癌患者の生存時間を増大させるための組成物が開示され、ここで、この癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記組成物は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量で前記癌患者に投与され、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって逆に作用される(又は悪影響を及ぼされる)。
チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性の提示(exhibition)は、患者の治療の前に、癌細胞がチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性を示すことが予期もされないし、確実に100%で証明することも可能でないという事実に起因する「エビデンス」として記載されることに留意されるべきである。非限定的な例として、例えば、HER2/neuに基づく療法について治療の決定を導くための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)又は免疫組織化学(IHC)の現行の使用は、治療的応答の可能性に関係しているHER2/neuの過剰発現/濃度増大の可能性に基づいて予測される。このような治療的応答の予想は100%確実ではなく、多くの要因(少なからず、試験の診断精度)に関係し、同様に、腫瘍のサンプリング及び種々の他の要因(例えば、実験室の方法/技術、試薬の質など)によっても制限される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるための組成物が開示され、ここで、前記非小細胞肺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記組成物は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量で前記非小細胞肺癌患者に投与され、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(II)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって逆に作用される(又は悪影響を及ぼされる)。
本発明の他の実施形態において、腺癌患者の生存時間を増大させるための組成物が開示され、ここで、前記腺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記腺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記組成物は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量で前記腺癌患者に投与され、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって逆に作用される(又は悪影響を及ぼされる)。
本発明の一実施形態において、癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記患者に投与するものであり、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって逆に作用される(又は悪影響を及ぼされる)。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の他の実施形態において、非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記非小細胞肺癌(non-small lung carcinoma)は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記非小細胞肺癌患者に投与するものであり、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
本発明のさらに他の実施形態において、腺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記腺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記腺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の、酸化的代謝に影響を及ぼす式(I)の化合物を前記腺癌患者に投与するものであり、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
本発明の一実施形態において、酸化的代謝に影響を及ぼす投与用の式(I)の化合物、及び化学療法剤(単数又は複数)を受ける癌患者の生存時間を増大させるために十分な量で前記式(I)の化合物を前記癌患者に投与するための説明書を含むキットであって、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされるキットが、開示される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
本発明の他の実施形態において、酸化的代謝に影響を及ぼす投与用の式(I)の化合物、及び化学療法剤(単数又は複数)を受ける非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるために十分な量で前記式(I)の化合物を前記癌患者に投与するための説明書を含むキットであって、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされるキットが、開示される。
さらに他の実施形態において、投与用の式(I)の化合物、及び化学療法剤(単数又は複数)を受ける腺癌患者の生存時間を増大させるために十分な量で前記式(I)の化合物を前記癌患者に投与するための説明書を含むキットであって、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされるキットが、開示される。
本発明の一実施形態において、癌の疑いがあるか又は既に癌であると診断された患者から単離された細胞中のチオレドキシン又はグルタレドキシンDNA、mRNA又はタンパク質のレベルを定量的に確認するための方法が開示され、ここで、チオレドキシン又はグルタレドキシンのレベルを同定するために使用される方法は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、核酸マイクロアレイ分析、免疫組織化学(IHC)及び放射免疫測定(RIA)からなる群より選択される。
他の実施形態において、前記方法は、癌を構成する細胞が(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現するか、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者に既に投与された化学療法剤(単数又は複数)に対する治療抵抗性のエビデンスを示すかのいずれかであるタイプの癌を有する患者における初期診断、それに続く治療方法の計画、及び/又は癌成長の潜在的な攻撃性の決定において使用される。
さらに他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、癌の疑いがあるか又は既に癌であると診断された患者から単離された細胞中のチオレドキシン又はグルタレドキシンDNA、mRNA又はタンパク質のレベルを定量的に確認するための説明書を有するキットが開示され;ここで、前記キットは、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、核酸マイクロアレイ分析、免疫組織化学(IHC)及び放射免疫測定(RIA)からなる群より選択されたチオレドキシン又はグルタレドキシンのレベルを同定するための方法を用いる。
さらに他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の他の実施形態において、癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤であるシスプラチン及びドセタキセルの投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記患者に投与するものであり;前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者に既に投与された化学療法剤に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌から選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記非小細胞肺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤であるシスプラチン及びドセタキセルの投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記非小細胞肺癌患者に投与するものであり;前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
他の実施形態において、腺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記腺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記腺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤であるシスプラチン及びドセタキセルの投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記腺癌患者に投与するものであり;前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
さらに他の実施形態において、前記方法は、(i)約1時間にわたって静脈内にドセタキセルを75mg/m2の用量で投与する工程;(ii)前記工程(i)におけるドセタキセルの投与の直後に、約30分にわたって静脈内に2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(タボセプト(商標))を約40グラムの用量で投与する工程;及び(iii)前記工程(ii)における2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(タボセプト(商標))の投与の直後に、十分な静脈内水分補給(hydration)とともに約1時間にわたって静脈内にシスプラチンを75mg/m2の用量で投与する工程を含む方法であって、前記工程(i)〜(iii)が1回の化学療法サイクルを構成し、このサイクルが、合計6サイクルまでの間、隔週に繰り返され得る。
他の実施形態において、投与のための式(I)の化合物、及びチオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現が存在する任意の病状又は疾患を有する患者に式(I)の化合物を投与するための説明書を含むキットが開示され、ここで、前記キットは、医学的に十分な用量の式(I)の化合物の投与を含み、及び前記チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現は、前記患者における有害な生理的影響を生じる。
本発明の種々の実施形態において、前記組成物は式(I)の化合物であり、前記式(I)の化合物は、下記構造式:
X−S−S−R1−R2
[式中、R1は低級アルキレン(ここで、R1は、対応する水素原子が、低級アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はアリールチオからなる群の一種で置換されていてもよい)又は
であり;
R2及びR4は、スルホナート又はホスホナートであり;
R5は、水素、ヒドロキシ又はスルフヒドリルであり;
mは、0、1、2、3、4、5又は6であり;及び
Xは、硫黄含有アミノ酸又は2〜10個のアミノ酸からなるペプチドであるか;又は
Xは、対応する水素原子の代わりに低級チオアルキル(低級メルカプトアルキル)、低級アルキルスルホナート、低級アルキルホスホナート、低級アルケニルスルホナート、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はヒドロキシからなる群の一種である]を有し;
その薬学的に許容可能な塩、プロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体を含む。
本発明の別の実施形態において、前記組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な二ナトリウム塩である。さらに別の実施形態において、本発明の組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩(単数又は複数)であり、このような塩としては、例えば、(i)一ナトリウム塩;(ii)ナトリウムカリウム塩;(iii)二カリウム塩;(iv)カルシウム塩;(v)マグネシウム塩;(vi)マンガン塩;(vii)一カリウム塩;及び(viii)アンモニウム塩が挙げられる。任意の所定の時点で投与されたカリウムの総用量が100Meq以下であり、かつ被験体が高カリウム血症でも高カリウム血症にかかりやすい状態(例えば、腎不全)でもない場合、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの一及び二カリウム塩並びに/又はその類似体が被験体に投与されることに留意されるべきである。
本発明の実施形態において、前記組成物は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてタボセプト(Tavocept)(商標)、BNP7787及びジメスナとしても公知である)である。
さらに別の実施形態において、前記組成物は、2−メルカプトエタンスルホナート、又は−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly及び
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる群より選択された置換基を有するジスルフィドとして結合(抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートである。
別の実施形態において、投与される化学療法剤(単数又は複数)は、フルロピリミジン(fluropyrimidines);ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;葉酸拮抗剤、白金薬剤;アントラサイクリン(anthracyclines)/アントラセンジオン(anthracenediones);エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン複合体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド並びにポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤;アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;抗ウイルス薬;並びに種々の他の細胞毒性及び細胞増殖抑制剤からなる群より選択される。
本発明の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン(satraplatin)、ピコプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
別の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型(polyglutamylated form)パクリタキセル、リポソーマル(liposomal)パクリタキセル、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
本発明のさらに別の実施形態において、化学療法剤は、ドセタキセル及びシスプラチンである。
さらに、簡潔には、本発明は、以下を開示及び特許請求の範囲に記載する:(i)化学療法を受ける癌患者において患者の生存時間の増大をもたらす組成物、方法及びキット;(ii)化学療法剤の抗癌活性の細胞毒性又はアポトーシス相乗作用を生じる組成物及び方法;(iii)必要とする患者(癌患者を含む)において血液機能を維持又は刺激するための組成物及び方法;(iv)必要とする患者(癌患者を含む)においてエリスロポエチンの機能又は合成を維持又は刺激するための組成物及び方法;(v)必要とする患者(癌患者を含む)において貧血を緩和又は予防するための組成物及び方法;(vi)必要とする患者(癌患者を含む)において多能性(pluripotent)、複能性(multipotent)、及び単能性(unipotent)の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激するための組成物及び方法;(vii)化学療法を受ける癌患者において腫瘍の進行の停止又は遅延を促進する組成物及び方法;(viii)化学療法を受ける癌患者において生活の質を維持又は改善しながら患者の生存を増大し及び/又は腫瘍の進行を遅延するための組成物及び方法;(ix)タキサン及び白金薬剤及び本発明の式(I)の化合物を癌患者に投与する新規な方法;並びに(x)必要とする患者(癌患者を含む)において1又はそれ以上の前述の生理学的効果を達成するためのキット。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における患者の生存時間を増大させるために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
他の実施形態において、式(I)の化合物で治療される肺癌患者における患者の生存時間の増大は、この患者が式(I)の化合物で治療されなかった場合に予期される生存時間よりも少なくとも30日長いと予期される。
さらに他の実施形態において、肺癌患者は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療された患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、肺癌患者は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療された患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される腺癌患者は、この腺癌患者における患者の生存時間を増大させるために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、式(I)の化合物で治療される腺癌患者における患者の生存時間の増大は、この患者が式(I)の化合物で治療されなかった場合に予期される生存時間よりも少なくとも30日長いと予期される。
さらに他の実施形態において、腺癌患者は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、腺癌患者は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、タキサン及び白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における化学療法効果を増強するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、化学療法効果は、タキサン及び白金薬剤で治療されかつ腺癌患者における患者の生存時間を増大させるために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、増強される。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、血液機能は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において維持又は刺激される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における血液機能を維持又は刺激するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、血液機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、血液機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、血液機能は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ腺癌患者における血液機能を維持又は刺激するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、維持又は刺激される。
さらに他の実施形態において、血液機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、血液機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において維持又は刺激される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者におけるエリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能を維持又は刺激するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ腺癌患者におけるエリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能を維持又は刺激するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、維持又は刺激される。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、貧血は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において緩和又は予防される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者において化学療法により誘導された貧血を緩和又は予防するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ化学療法により誘導された貧血を緩和又は予防するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、緩和又は予防される。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において維持又は刺激される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ腺癌患者における多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、維持又は刺激される。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
他の実施形態において、式(I)の化合物は、本発明のタキサン及び/又は白金薬剤で治療されている肺癌と診断された患者の生活の質を維持又は改善しながら、患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延する。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
他の実施形態において、式(I)の化合物は、本発明のタキサン及び/又は白金薬剤で治療されている腺癌と診断された患者の生活の質を維持又は改善しながら、患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延する。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
他の実施形態において、本発明の白金薬剤としては、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、及びそれらの誘導体及び類似体が挙げられる。
他の実施形態において、タキサン薬剤は、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセル誘導体、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの誘導体及び類似体からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、式(I)の組成物としては、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート、その薬学的に許容可能な塩及び/又はその類似体、並びにプロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物及び多形体、並びにそのような化合物の立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体が挙げられる。
さらに他の実施形態において、タキサン及び白金薬剤の用量割合は約10〜20mg/m2/日の範囲、及び式(I)の化合物の用量割合は1日あたり約4.1〜41.0g/m2の範囲にあり;タキサン及び白金薬剤及び/又は式(I)の化合物の濃度は少なくとも0.01mg/mLであり;タキサン及び白金薬剤及び/又は式(I)の化合物の注入時間は約5分〜約24時間であり、所定の患者において必要に応じてかつ耐えられるように繰り返すことができ;タキサン及び白金薬剤及び/又は式(I)の化合物の投与のスケジュールは2〜8週毎である。
他の実施形態において、キットは、患者に投与するための式(I)の化合物、及び1又はそれ以上の生理学的効果を引き起こすのに十分な量で前記式(I)の化合物を投与するための説明書を含み、この生理学的効果は、タキサン及び/又は白金薬剤を受ける癌患者において患者の生存時間を増大させること;タキサン及び白金薬剤の化学療法効果の細胞毒性又はアポトーシス相乗作用を生じさせること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)において血液機能を維持又は刺激すること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)においてエリスロポエチンの機能又は合成を維持又は刺激すること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)において貧血を緩和又は予防すること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)において多能性、複能性及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激すること;タキサン及び白金薬剤を受ける癌患者において腫瘍の進行の停止又は遅延を促進すること;並びに/あるいはタキサン及び白金薬剤を受ける癌患者において生活の質を維持又は改善しながら患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延することからなる群より選択される。
他の実施形態において、癌患者は、肺癌を患う。
さらに他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、癌患者は、腺癌を患う。
一実施形態において、キットは、さらに、タキサン薬剤及び白金薬剤を投与するための説明書を含み、ここで、白金薬剤は、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、並びにそれらの誘導体及び類似体からなる群より選択される。
他の実施形態において、キットは、さらに、白金薬剤及びタキサン薬剤を投与するための説明書を含み、ここで、タキサン薬剤は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの誘導体及び類似体からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、白金及びタキサン薬剤は、シスプラチン及びパクリタキセルである。
(発明の詳細な説明)
本明細書中に記載される説明及び実施形態は、本発明を完全に網羅することを意図するものではなく、開示された厳密な形式(形態)に本発明を限定することを意図するものでもない。本明細書中に記載される説明及び実施形態は、本発明の原理並びに当業者によるその応用及び実用的な用途を説明するために包含される。
定義
本明細書において使用されるように、用語「一般構造式」とは、所定の式で表される分子の不変の構造部をいう。
本明細書において使用されるように、用語「求核剤」とは、原子核に一対の電子を供与して共有結合を形成するイオン又は分子を意味する;電子を受容する原子核は、求電子剤と呼ばれる。これは、有機化合物における炭素共有結合においてはもとより、例えば、Lewisの概念に従う酸及び塩基の形成においても存在する。
本明細書において使用されるように、用語「フラグメント」、「部分」、又は「置換基」は分子の可変部であり、式中においてRx、X、又は他の記号などの可変記号によって示される。置換基は、以下の1以上からなるものであってもよい:
「Cx−Cyアルキル」とは、一般に、x個〜y個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐鎖状脂肪族炭化水素を意味する。例としては、「C1−C6アルキル」、特に「C1−C4アルキル」(「低級アルキル」とも称される)(全部で6以下の炭素原子を有する直鎖状又は分岐鎖状炭化水素で構成される)、及びC1−C16アルキル(全部で1〜16個の炭素原子を有する炭化水素で構成される)などが挙げられる。本願において、用語「アルキル」は、1〜20個の原子を有する直鎖状又は分岐鎖状炭化水素で構成されると定義され、このアルキルは飽和であってもよいし不飽和であってもよく、また、窒素、硫黄、及び酸素などのヘテロ原子を含んでもよい;
「Cx−Cyアルキレン」とは、「x」個〜「y」個の−CH2−基で形成される橋架け(bridging)部分を意味する。本発明において、用語「アルキレン」又は「低級アルキレン」は、その両末端の炭素において2つの他の原子に結合される、全部で1〜6個の炭素原子を有する橋架け炭化水素(−CH2−)x(ここで、xは1〜6である)で構成されると定義される;
「Cx−Cyアルケニル又はアルキニル」とは、2つの炭素原子間に少なくとも1つの二重結合(アルケニル)又は三重結合(アルキニル)を有する直鎖状又は分岐鎖状炭化水素を意味する;
「ハロゲン」又は「ハロ」とは、クロロ、フルオロ、ブロモ、又はヨードを意味する;
「Cx−Cyシクロアルキル」とは、全部でx個〜y個の炭素原子を有する環(単数又は複数)を有する縮合しているか又は縮合していない1以上の環からなる炭化水素環又は環系を意味し、ここで少なくとも1つの環結合は完全に飽和している;
「アシル」とは、−C(O)−R(ここで、Rは水素、Cx−Cyアルキル、アリール、Cx−Cyアルケニル、Cx−Cyアルキニルなどである)を意味する;
「アシルオキシ」とは、−O−C(O)−R(ここで、Rは水素、Cx−Cyアルキル、アリールなどである)を意味する;
「アリール」とは、一般に、環原子が全て炭素原子からなる縮合しているか又は縮合していない1以上の環、好ましくは1〜3個の環からなる芳香環又は環系を意味する。本発明において、用語「アリール」は、全部で5〜8個の炭素原子からなる環成分を有する縮合しているか又は縮合していない芳香環系(好ましくは全部で1〜3個の環)で構成されると定義される;
「アリールアルキル」とは、アルキル部分(連結鎖)を介して骨格に結合された、上記に定義されるアリール部分を意味する;
「アリールアルケニル」及び「アリールアルキニル」とは、「アリールアルキル」と同様であるが、連結鎖において1以上の二重結合又は三重結合を有するものを意味する;
「アミン」とは、アンモニア(NH3)から1以上の水素原子がアルキル基で置換されることによって得られると考えられ得る窒素の有機錯体の一種を意味する。アミンは、1つ、2つ、又は3つの水素原子が置換されているかどうかに応じて、第一級、第二級、又は第三級である。「短鎖アミン」とは、アルキル基が1〜10個の炭素原子を含むものである;
「アンミン」とは、窒素原子が直接金属に結合するような様式におけるアンモニアと金属物質との結合によって形成される配位類似体を意味する。窒素が炭素原子に直接結合しているアミンとは異なることに留意すべきである;
「アジド」とは、特性式R(N3)xを有する任意の群の錯体を意味する。Rは、ほぼ任意の金属原子、水素原子、ハロゲン原子、アンモニウム基、錯体[CO(NH3)6]、[Hg(CN)2M](M=Cu、Zn、Co、Ni)、メチル、フェニル、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、p−ニトロベンジル、硝酸エチルなどの有機基などであってもよい。アジド基は、環構造よりもむしろ鎖構造を有する;
「イミン」とは、炭素−窒素二重結合を有する窒素含有錯体の一種(すなわち、R−CH=NH)を意味する;
「複素環」とは、縮合されているか又は縮合されていない1以上の環(好ましくは1〜3個の環)の環状部分であって、1つの環の少なくとも1つの原子が炭素原子ではないものを意味する。好ましいヘテロ原子としては、酸素、窒素、及び硫黄、又はこれらの原子の2以上の任意の組み合わせが挙げられる。用語「複素環」としては、フラニル、ピラニル、チオニル、ピロリル、ピロリジニル、プロリニル、ピリジニル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサチアゾリル、ジチオリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピペラジニル、オキサジニル、チアゾリルなどが挙げられる;及び
「置換(された)」とは、あるフラグメント(部分)を、任意の、いくつかの又は全ての水素原子を本明細書中に示されるような部分(または複数の部分)で置換することによって修飾することをいう。水素原子を置換して置換錯体を形成するための置換基としては、ハロ、アルキル、ニトロ、アミノ(N−置換、及びN,Nジ置換アミノも含む)、スルホニル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンゾキシ、ベンゾイル、及びトリフルオロメチルが挙げられる。
本明細書において使用されるように、用語「有害事象(adverse event)」(影響(effect)又は経験(experience))、「有害反応」及び予期せぬ有害反応は、WHO国際医薬品モニタリングセンター(ウプサラ、スウェーデン)の30を越える協力センターの総意によって以前に同意されている。エドワーズ,I.R.(Edwards, I.R.)ら、医薬品の調和化(Harmonisation in Pharmacovigilance )、Drug Safety 10(2):93-102(1994)を参照のこと。WHO協力センターからの情報提供に対して、以下の定義が同意されている:
1.有害事象(有害な影響又は有害な経験)−医薬品を投与された患者又は臨床研究被験体におけるあらゆる不都合な医学的発生であり、この治療との因果関係を有する必要はない。したがって、有害事象(AE)は、医薬品の使用と時間的に関連する、あらゆる好ましくなくかつ意図しない徴候(例えば、検査所見異常を含む)、症状又は疾患であってもよく、医薬品に関連すると考えられるか否かを問わない。
2.有害薬物反応(ADR)−特に、治療用量が確立されていないかもしれないので、新たな医薬品又はその新たな使用法を用いる承認前の臨床経験において、いかなる用量に関連して起こる医薬品に対するすべての有害でかつ意図しない反応は、有害薬物反応であるとみなされるべきである。薬物関連有害事象は、グレード1〜グレード5で評価され、その事象の重症度(severity)又は強度に関連する。グレード1は軽症(軽度)、グレード2は中等症(中等度)、グレード3は重症(高度)、グレード4は生命を脅かす、及びグレード5は死亡する。
3.予期せぬ有害薬物反応−性質又は重症度が、適用可能な製品情報と一致しない有害反応。
重篤な有害事象又は有害薬物反応:重篤な有害事象(経験又は反応)は、いかなる用量が:
(a)死亡又は生命を脅かすもの。「重篤」の定義における用語「生命を脅かす」は、その事象の時に患者が死の危険性があった事象をいい;たとえより深刻であったとしても、仮定で死に至るかもしれない事象はいわない。
(b)入院又は入院期間の延長を要するもの
(c)永続的又は重大な障害(disability)/機能不全(incapacity)に陥るもの、又は
(d)先天異常を来すもの
である、いかなる不都合な医学的発生である。
本明細書において使用されるように、用語「癌」とは、固形の癌(例えば、腫瘍)、リンパ腫及び白血病を含む全ての公知の形態の癌をいう。
本明細書において使用されるように、用語「臨床試験」又は「試験」は、以下をいう:
(i)本発明において開示された日本第III相臨床試験であって、この臨床試験は、タボセプト(商標)(文献において、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム、ジメスナ又はBNP7787とも称される)がパクリタキセル/シスプラチン併用療法によって誘導された末梢神経障害を予防及び/又は低減する能力を示すために利用された。有害反応の発生率及び重症度、発病までの時間などを、生活の質(QOL)質問票(すなわち、末梢神経障害質問票(PNQ(コピーライト))及びCIPN−20))及び米国国立がん研究所−共通毒性基準(NCI−CTC)を用いて、タボセプト(商標)で治療された患者とプラシーボを与えられた患者との間で比較した。抗癌治療を受けた患者の生活の質(QOL)に対するタボセプト(商標)の影響は、QOL質問票、EORTC QLQ−C30を用いても評価された。タボセプト(商標)がパクリタキセル/シスプラチン併用療法の効き目に影響するか否かについても、奏効率(response rate)、無増悪生存期間(aggravation-free survival period)及び全生存時間(total survival period)に基づいて評価した。これらすべての評価をするために、タボセプト(商標)(約14〜22g/m2、最も好ましくは、約18.4g/m2)又はプラシーボ(0.9%NaCl)を、3週毎に(及び最低2サイクル繰り返して)、パクリタキセル(約160〜190mg/m2、最も好ましくは、約175mg/m2)及びシスプラチン(約60〜100mg/m2、最も好ましくは、約80mg/m2)を用いる化学療法を受けている非小細胞肺癌(NSCLC)患者(腺癌患者を含む)に投与した;及び/又は
(ii)本発明において開示された米国(U.S.)第II相非小細胞肺癌(NSCLC)臨床試験であって、この臨床試験を用いて、進行した段階(IIIB/IV)の非小細胞肺癌(NSCLC)患者(腺癌患者を含む)において、タボセプト(商標)(文献において、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム、ジメスナ又はBNP7787とも称される)を投与するか又は投与しないで、ペグフィルグラスチム及びダルベポエチン アルファの投与とともに隔週(2週毎)のドセタキセル及びシスプラチンの高用量(dose-dense)投与の影響を確認した。タボセプト(商標)が高用量のドセタキセル/シスプラチン併用療法の効き目に影響するか否かについても、奏効率、無増悪生存期間(aggravation-free survival period)及び全生存時間(total survival period)に基づいて評価した。これらすべての評価をするために、臨床試験のタボセプト(商標)群において、ドセタキセル投与(75mg/m2;化学療法サイクルの第1日に1時間にわたる静脈内(i.v.)投与)の直後に、タボセプト(商標)の投与(40g;30分にわたる静脈内(i.v.)投与)を行った。次いで、タボセプト(商標)投与の直後に、適切に水分補給しながらシスプラチンの投与(75mg/m2;1時間にわたる静脈内(i.v.)投与)を行った。患者のヘモグロビンレベルが≦11g/dLである場合、ダルベポエチン アルファ(200μg;皮下投与)を化学療法サイクルの第1日に投与し、そしてペグフィルグラスチム(6mg皮下投与)を化学療法サイクルの第2日に投与した。前述の化学療法サイクルを、合計6サイクルまでの間、隔週(2週毎)に繰り返した。他方、この試験の非タボセプト(商標)投与群は、ドセタキセル投与の直後にタボセプト(商標)を中間投与することなくシスプラチン投与を行ったことを除いて、先に論じられたタボセプト(商標)群と同一であった。さらに、有害反応の発生率及び重症度についても、米国国立がん研究所−共通毒性基準(NCI−CTC)質問票を用いる試験のタボセプト(商標)群と非タボセプト(商標)群との患者間で比較した。
本明細書において使用されるように、用語「腺癌」とは、腺組織から発する癌をいう。腺組織は、ホルモンなどの放出のための物質を合成する組織で構成される。腺は、2つの一般的な群に分類することができる:(i)内分泌腺−管を介してよりもむしろ表面上へ、しばしば血流中へ、直接これらの産物を分泌する腺及び(ii)外分泌腺−管を介して、しばしば体内又はその外面の腔へ、それらの産物を分泌する腺。しかし、腺癌として分類されるために、組織又は細胞は、分泌性を有する限り、必ずしも腺の一部である必要はないことに留意されるべきである。腺癌は、胸部、結腸、肺、前立腺、唾液腺、胃、肝臓、胆嚢、膵臓(膵臓癌の99%は管の腺癌である)、頸部、膣及び子宮が挙げられるがこれらに限定されない種々の組織並びに未知の原発性腺癌に由来してもよい。腺癌は、腫瘍が生じた腺組織の場所及びそのタイプから区別することがしばしば著しく困難な新生物である。したがって、肺において同定された腺癌は、卵巣腺癌にその起源を有してもよい(又は卵巣腺癌から転移されてもよい)。原発部位が見出せない癌は、未知原発性癌(cancer of unknown primary)と呼ばれる。
本明細書において使用されるように、用語「非小細胞肺癌(NSCLC)」は、すべての原発性肺癌の約75%を占める。NSCLCは、病理学的に、さらに腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌及び種々の他のまれな形態に特徴付けられる。
本明細書において使用されるように、用語「化学療法」又は「化学療法レジメン」又は「化学療法サイクル」とは、本発明の酸化的代謝に影響を及ぼす式(I)の化合物を用いて又は用いることなく上記化学療法剤を使用する治療をいう。
本明細書において用いられるように、用語「増強する(potentiate)」、「増強する(potentiating)」、「化学療法を増強する(chemotherapy potentiating)」、「化学療法効果が増強される(chemotherapy effect is potentiated)」、及び「化学療法効果を増強する(potentiating the chemotherapy effect)」は、1又はそれ以上の以下の生理学的効果を生じるとして本明細書において定義される:(i)腫瘍細胞内に化学療法剤を用いる相加的又は相乗的な細胞毒性様式において作用することによる化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性の増大又は増強;(ii)癌を患う被験体における癌の有害な生理学的発現の低減、予防、緩和及び/又は遅延;(iii)化学療法剤の抗癌活性に対する癌細胞の選択的感作;並びに/あるいは(iv)腫瘍細胞におけるアポトーシス効果又は感受性の回復。
本明細書において使用されるように、「化学療法剤(chemotherapeutic agent)」又は「化学的治療剤(chemotherapy agent)」又は「化学療法薬物(chemotherapeutic drug)」とは、転移もしくは新生物(又は腫瘍)の成長を低減、予防、緩和、制限及び/もしくは遅延するか又は新生物のネクローシスもしくはアポトーシス又は任意の他の機構(機序)によって直接的に新生細胞を殺傷する薬剤、あるいは、薬学的に有効な量において、新生物性疾患を有する被験体の転移もしくは新生物の成長を低減、予防、緩和、制限及び/又は遅延するために使用できる薬剤をいう。化学療法剤としては、例えば、フルロピリミジン;ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;抗葉酸剤、白金薬剤;アントラサイクリン/アントラセンジオン;エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン錯体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド並びにポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤(antimirotubule agents);アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;抗ウイルス剤;並びに種々の他の細胞毒性及び細胞増殖抑制剤が挙げられる。
本明細書において使用されるように、用語「化学療法」、「化学療法レジメン」又は「化学療法サイクル」とは、本発明の式(I)の化合物を用いて又は用いることなく上記化学療法剤を使用する治療をいう。
本明細書において使用されるように、用語「化学療法効果」とは、転移もしくは新生物の成長を低減、予防、緩和、制限及び/もしくは遅延するか又は新生物のネクローシスもしくはアポトーシス又は任意の他の機構(機序)によって直接的に新生細胞を殺傷する薬剤、あるいは、新生物性疾患を有する被験体の転移もしくは新生物の成長を低減、予防、緩和、制限及び/又は遅延するために使用できる薬剤の能力をいう。
本明細書において使用されるように、用語「サイクル」とは、規定された期間において完全なレジメンの薬剤を、それを必要とする患者に投与することをいう。非限定的な例として、本明細書に開示された日本第III相臨床試験において、サイクルは、規定された期間内でのタキサン及び白金薬剤、酸化的代謝に影響を及ぼす式(I)の化合物、並びに必要であり得る任意の関連する医薬品(例えば、水分補給前の抗嘔吐薬など)の患者への投与で構成される。
本明細書において用いられるように、用語「細胞増殖抑制剤(細胞増殖抑制性薬剤)」は、新生物性疾患の進行を遅らせる、機序に基づく薬剤であり、薬物、生物学的薬剤及び放射線が挙げられる。
本明細書において用いられるように、用語「細胞毒性剤(細胞毒性薬剤)」は、新生細胞を殺傷する任意の薬剤又はプロセスであり、薬物、生物学的薬剤及び放射線が挙げられる。さらに、用語「細胞毒性(の)」は、用語「細胞増殖抑制性(の)」を含む。
本明細書において用いられるように、用語「白金薬剤」又は「白金化合物」は、分子の構造に白金リガンドを含むすべての化合物、組成物及び処方物を含む。非限定的な例として、これらに含まれる白金リガンドの価数は、白金(II)又は白金(IV)であってもよい。本発明の白金薬剤又は白金化合物としては、限定されない様式において、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、並びにそれらの類似体及び誘導体が挙げられる。
本明細書において用いられるように、用語「タキサン薬剤」としては、限定されない様式において、ドセタキセル又はパクリタキセル(市販のパクリタキセル誘導体であるタキソール(Taxol)(商標)及びアブラキサン(Abraxane)(商標)を含む)、ポリグルタミン酸型パクリタキセル(例えば、ジオタックス(Xyotax)(商標))、リポソーマルパクリタキセル(例えば、トコソル(Tocosol)(商標))並びにそれらの類似体及び誘導体が挙げられる。
本明細書において使用されるように、用語「コロニー刺激因子」(CSF)は、造血幹細胞の表面上で受容体タンパク質に結合し、それによって細胞内シグナリング経路を活性化する分泌糖タンパク質であり、この細胞内シグナリング経路は、これらの細胞を増殖させて特定の種類の血液細胞(通常、白血球)に分化させ得る。造血幹細胞(HSC)は、幹細胞(すなわち、細胞が、有糸細胞分裂によってその細胞自体を新生する能力を保持し、種々の範囲の特定の細胞型に分化し得る)であり、この幹細胞は、骨髄様系統(例えば、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/小板、樹状突起細胞など)及びリンパ様系統(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞など)を含むすべての血液細胞型を生じる。コロニー刺激因子としては、マクロファージコロニー刺激因子(CSF−1);顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(CSF−2);及び顆粒球コロニー刺激因子(GCSF又はCSF−3)が挙げられる。
本明細書において用いられるように、用語「赤血球形成」とは、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))が産生されるプロセスをいう。初期胎児において、赤血球形成は、卵黄嚢の中胚葉細胞において生じる。胎児発達の3又は4月までに、赤血球形成は脾臓及び肝臓に移動する。ヒト成人において、赤血球形成は、一般的に、骨髄内で生じる。腕(脛骨)及び脚(大腿)の長骨は、約25才までに造血の重要な部位でなくなり;脊椎、胸骨、骨盤及び頭蓋骨が、引き続き一生を通じて赤血球を産生する。しかし、ある種の疾患を有するヒト及びいくつかの動物において、赤血球形成は骨髄外、脾臓又は肝臓内でも生じることに留意されるべきである。このことは、髄外赤血球形成と称される。赤血球成熟のプロセスにおいて、細胞は、一連の分化を受ける。以下の発達段階はすべて、骨髄内で生じる:(i)多能性造血幹細胞;(ii)複能性幹細胞;(iii)単能性幹細胞;(iv)前正赤芽球;(v)好塩基性正赤芽球/初期正赤芽球;(vi)多染性正赤芽球/中間体正赤芽球;(vii)正染性正赤芽球/後期正赤芽球;及び(viii)網状赤血球。これらの段階の後、細胞は、骨髄から放出され、最終的に末梢血中に循環する「赤血球(erythrocyte)」又は成熟赤血球(mature red blood cell)になる。
本明細書において用いられるように、用語「エリスロポエチン」は、赤血球産生(すなわち、赤血球形成)のプロセスを調節する骨髄における赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell))前駆体のためのサイトカインである糖タンパク質ホルモンである。エリスロポエチン(EPO)は、主に、腎皮質の筋様線維芽細胞(peritubular fibroblast)によって産生される。調節は、血液酸化を評価するフィードバック機構(機序)に依存すると考えられる。EPOのために構成的に合成された転写因子は、低酸素誘導因子(hypoxia inducible factors(HIFs))として公知であり、酸素の存在下においてヒドロキシル化され、プロテオソーム的に消化され(proteosomally-digested)る。
本明細書において用いられるように、用語「ダルベポエチン アルファ」は、エリスロポエチンの合成型である。ダルベポエチン アルファは、赤血球形成を刺激する(すなわち、赤血球レベルを増大する)タンパク質であり、165個のアミノ酸残基で構成され、一般に慢性腎不全及び癌化学療法に関係する貧血を治療するために使用される。ダルベポエチンは、アムジェン社(Amgen)によってアラネスプ(Aranesp)の商品名で販売されている。ダルベポエチンは、改変チャイニーズハムスター卵巣細胞における組み換えDNA技術によって産生される。ダルベポエチンは、2つの追加のN−結合オリゴ糖鎖を含むことによって、内因性エリスロポエチンとは異なる。
本明細書において使用されるように、用語「ペグフィルグラスチム」は、ペグ化顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)として機能する免疫賦活剤である。アムジェン社は、ニューラスタ(Neulasta)の商標名でペグフィルグラスチムを製造する。GCSFは、コロニー刺激因子ホルモンである。GCSFは、内皮、マクロファージ及び多くの他の免疫細胞によって産生される糖タンパク質の成長因子又はサイトカインであり、骨髄を刺激して顆粒球及び幹細胞を産生する。次いで、GCSFは、骨髄を刺激してこれらの細胞を血液中に放出する。GCSFはまた、好中球前駆体及び成熟好中球の生存、増殖、分化及び機能を刺激する。GCSFは、コロニー刺激因子3(CSF3)としても公知である。その天然ヒト糖タンパク質は、2つの形態(分子量19.6kDaの174及び180アミノ酸残基タンパク質)で存在する。より豊富でかつより活性な174アミノ酸残基型は、組み換えDNA(rDNA)技術による医薬品の開発に使用されている。ペグ化は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖を別の分子(通常、薬物又は治療用タンパク質)に共有結合(covalent attachment)させるプロセスである。ペグ化は、通常、PEGの反応性誘導体とターゲット高分子とのインキュベーションによって達成される。薬物又は治療用タンパク質へのPEGの共有結合により、宿主の免疫系からの薬剤の「マスキング(masking)」(すなわち、免疫原性及び抗原性を低減させること)を容易にでき、そして腎クリアランスを低減することによってその循環時間を延長する薬剤の流体力学的大きさ(すなわち、溶液中の大きさ)を増大できる。ペグ化により、水溶性乃至疎水性の薬物及びタンパク質を提供することもできる。
本明細書において用いられるように、本発明におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性の提示に適用されるように、用語「のエビデンス(evidence of)」は、たぶん又はおそらくチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性が生じたか又は生じるであろうということを意味する。患者の実際の治療の前に、癌細胞がチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性を示すことが予期もされないし、確実に100%で証明することも可能でないという事実に起因して、その様式において記載される。非限定的な例として、例えば、HER2/neuに基づく療法について治療の決定を導くための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)又は免疫組織化学(IHC)の現行の使用は、治療的応答の可能性に関係しているHER2/neuの過剰発現/濃度増大の可能性に基づいて予測される。このような治療的応答の予想は100%確実ではなく、多くの要因(少なからず、利用される試験の診断精度)に関係し、同様に、腫瘍のサンプリング及び種々の他の要因(例えば、実験室の方法/技術、試薬の質など)によっても制限される。
本明細書において用いられるように、用語「式(I)の化合物」又は「式(I)の組成物(コンポジション(composition))」は、特に断らない限り、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート親化合物と実質的な構造的及び/又は機能的特徴を共有するすべての分子を含み、一般構造式:
X−S−S−R1−R2
[式中、R1は低級アルキレン(ここで、R1は、対応する水素原子が、低級アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はアリールチオで構成される群の一種で置換されていてもよい)又は
であり;
R2及びR4は、スルホナート又はホスホナートであり;
R5は、水素、ヒドロキシ又はスルフヒドリルであり;
mは、0、1、2、3、4、5又は6であり;及び
Xは、硫黄含有アミノ酸又は2〜10個のアミノ酸で構成されるペプチドであるか;又はXは、対応する水素原子の代わりに低級チオアルキル(低級メルカプトアルキル)、低級アルキルスルホナート、低級アルキルホスホナート、低級アルケニルスルホナート、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はヒドロキシで構成される群の一種である]
を有する化合物を指す式(I)の化合物を含む。
本発明の式(I)の化合物又は組成物は、その薬学的に許容可能な塩、プロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体も含む。
非限定的な例として、本発明の式(I)の化合物又は組成物としては、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの二ナトリウム塩(文献において、ジメスナ、タボセプト(商標)及びBNP7787とも称されている)が挙げられる。さらに、非限定的な例として、本発明の式(I)の化合物又は組成物としては、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム代謝産物が挙げられる。この代謝産物は、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(文献においてメスナとして公知でもある)又は−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly及び
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる置換基で結合(又は抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートとして公知である。
先の2つの段落における前述の化学物質及び化合物のすべてが本発明の式(I)の化合物に含まれることに留意されるべきである。式(I)の化合物は、そのような化合物の薬学的に許容可能な塩、並びにそのような化合物のプロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物及び多形体並びに立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体を含む。式(I)の化合物及びそれらの合成は、例えば、米国特許第5,808,160号、同第5,922,902号、同第6,160,167号及び同第6,504,049号;並びに公開された米国特許出願第2005/0256055号に記載されており、これらの文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。
本明細書において用いられるように、用語「メスナヘテロ結合体(又はメスナヘテロ抱合体)(mesna heteroconjugate)」、「メスナ結合体(又はメスナ抱合体)(mesna conjugate)」又は「メスナ誘導体」は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム代謝産物を表し、−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly又は
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる置換基で結合(又は抱合)されたジスルフィド型としての2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(メスナ)として公知である。メスナヘテロ結合体(メスナヘテロ抱合体)化合物は、式(I)の化合物に含まれ、公開された米国特許出願第2005/0256055号(この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる)に記載されるように合成されてもよい。
本明細書において使用されるように、用語「酸化的代謝に影響を及ぼす化合物」は、(i)癌細胞におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現(又は活性の増大又は両方);(ii)療法に対するアポトーシス感受性の損失(すなわち、薬物又は電離放射線抵抗性);(iii)RNAのDNAへの変換の増大(リボヌクレオチドレダクターゼを含む);(iv)遺伝子発現の改変;(v)細胞増殖シグナル及び速度の増大;(vi)チオレドキシンペルオキシダーゼの増大;及び/又は(vii)脈管形成活性の増大(すなわち、腫瘍への血液供給の増大)を緩和又は予防することができる化合物、処方物又は薬剤である。したがって、本発明の酸化的代謝に影響を及ぼす化合物の有効なレベル及びスケジュールの適切な医療投与によるチオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの薬理学的不活性化又は調整によって、化学療法効果を高めることができ、それによって患者の生存が増す。
本明細書において用いられるように、本発明の化合物または組成物に関して「医学的に十分な用量」又は「医学的に十分な量」は、新生物性疾患を患う被験体において所望の生物学的、薬理学的又は治療的成果を誘導するのに十分な投与量をいう。その結果は、患者において予期された副作用、毒性、障害もしくは状態又は任意の他の不都合な変化の出現又は発生の低減、予防、緩和、遅延、それを消散するための時間の短縮、その徴候又は症状の緩和を単独で又は同時に受けながら、(i)以前に観察された癌の治癒又は緩解;(ii)腫瘍サイズの収縮;(iii)腫瘍の数の低減;(iv)癌の成長又は再発の遅延又は予防;(v)化学療法剤の抗癌活性に対する癌細胞の選択的な感作(vi)腫瘍細胞におけるアポトーシス効果又は感受性の回復又は増大;及び/又は(vii)患者の生存時間の増大であってもよい。
本明細書において用いられるように、用語「g/m2」は、ある化合物又は処方物が投与される被験体の全体表面積1平方メートルあたりのその化合物又は処方物の量(g)を表す。
本明細書において用いられるように、用語「mg/m2」は、ある化合物又は処方物が投与される被験体の全体表面積1平方メートルあたりのその化合物又は処方物の量(mg)を表す。
本明細書において使用されるように、用語「患者」とは、本発明において開示される化合物、組成物、薬剤、処方物、方法又はキットを用いて治療する必要のある、限定されることなくあらゆる個人又は被験体をいう。
本明細書において用いられるように、用語「前治療(pre-treatment)」は、1又はそれ以上の薬物の投与を含み、この投与は、当該技術分野において公知の方法及び患者の病状の両方に基づいて化学療法投与に先立つ任意の時期に行う。
本明細書において用いられるように、用語「薬学的に許容可能な塩」とは、ヒト投与のために安全であると認められる薬物の塩誘導体を意味する。本発明において、本発明の式(I)の化合物としては薬学的に許容可能な塩が挙げられ、薬学的に許容可能な塩としては、(i)一ナトリウム塩;(ii)二ナトリウム塩;(iii)ナトリウムカリウム塩;(iv)二カリウム塩;(v)カルシウム塩;(vi)マグネシウム塩;(vii)マンガン塩;(viii)アンモニウム塩;及び(ix)一カリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において用いられるように、用語「生活の質」又は「QOL」とは、限定されない様式において、癌患者の総体的な身体的及び精神的状態(例えば、認知力、他者とコミュニケーション及び交流する能力、疼痛制御のための鎮痛薬への依存の減少、歩行能力の維持、食欲及び体重の維持(悪液質(cachexia)の欠如)、「絶望」感の欠如又は減少;治療に影響を与える継続的な関心、及び他の類似の精神的及び身体的状態)の維持又は増進をいう。
本明細書において用いられるように、用語「反応性酸素種(ROS)」及び「反応性窒素種(RNS)」とは、種々の代謝及び/又は環境プロセスから生じ得るイオン種をいう。非限定的な例として、細胞内ROS(例えば、過酸化水素:H2O2、スーパーオキシドアニオン:O2 −、ヒドロキシルラジカル:OH−、一酸化窒素など)は、いくつかの機序:(i)放射線の活性によって;(ii)生体異物及び薬物代謝の間に;及び(iii)比較的低酸素の、虚血性及び異化代謝条件下において、生じてもよい。
本明細書において用いられるように、用語「低減(する)」は、被験体における悪性度に関係する急性及び/又は慢性病態生理学を予防し、その全体の重症度を減衰し、その初期発病を遅延し、及び/又はその消散を促進することを含む。
本明細書において用いられるように、任意の特定の生物学的環境の、用語「酸化還元状態」、「酸化還元電位」、「酸化的/還元的状態」は、その環境内に生じる酸化的及び還元的プロセスの合計として定義でき、分子がその環境内において酸化又は還元される程度に影響を及ぼす。生物学的イオン又は分子の酸化還元電位は、電子を失う(すなわち、それによって酸化されるようになる)傾向の尺度である。正常の生理学的環境下において、たいていの細胞内の生体系は、主に還元状態で見受けられる。細胞内では、グルタチオン(GSH)などのチオール(R−SH)は、ニコチンアミドヌクレオチド補酵素NADH及びNADPHであるように、その還元状態において維持される。逆に、血漿は、高い酸素分圧及びジスルフィド還元酵素が比較的存在しないことに起因して、一般的に酸化性環境である。しかし、生理学的環境が生じることができ、全体的な酸化還元バランスを変更して、細胞に対してより酸化性環境に導く。生体系において、この活性は、細胞内の酸化的代謝における変化の結果として生じ、生理学的系は、正常の還元性環境を維持、保護、及び制御するように展開している。しかし、この変化がこれらの保護機序を圧倒する場合、酸化的損傷及び深刻な生物学的変化が起こることがある。癌細胞は、正常の非癌性細胞と比較して、細胞内の酸化的代謝(例えば、酸化的ストレス)における変化に対して、より有効な抗酸化的応答を備え、それによって延命効果につながる能力、及び化学療法剤の抗癌及び細胞毒性作用に抵抗し又はそれから逃れる能力を有することが観察されている。
本明細書において使用されるように、用語「酸化還元応答」とは、細胞内の酸化還元バランスにおけるホメオスタシスを維持するために酸化的代謝における変化に対して抗酸化系(antioxidant system)を誘導する生物学的応答をいう。
本明細書において用いられるように、用語「受ける(receive)」又は「受けた(received)」とは、癌を患い(又は癌を有し)、かつ1もしくはそれ以上の化学療法剤及び/又は本発明の酸化的代謝に影響を及ぼす式(I)の化合物を受けたか、現在受けているか、あるいは受けるであろう被験体をいう。
本明細書において用いられるように、用語「相乗作用」又は「相乗的(な)」は、上記に規定された式(I)の化合物と化学療法剤との併用によって達成された抗癌活性が、それぞれの治療形態によって個々に達成された抗癌活性よりも大きいことを意味する。例えば、これは、数学的に、一緒に投与された薬物A+Bを用いる治療の相乗的結果(本明細書において教示される)=結果C>薬物A単独の結果+薬物B単独の結果、として表すことができる。対照的に、単なる相加的な結果は、数学的に、一緒に投与された薬物A+B=結果C=薬物A単独の結果+薬物B単独の結果、として表すことができる。前述の例において、薬物Aは、式(I)の化合物及び単独で又は併用での観察された治療結果を表すことができ、薬物Bは、任意の1つの化学療法剤又は単独で投与される複数の化学療法剤の組み合わせを表すことができる。
用語「溶媒和物(solvate)」又は「溶媒和物(solvates)」とは、本発明の酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物などの化合物と、1又はそれ以上の溶媒分子との分子錯体をいう。このような溶媒分子は、薬学分野において一般的に使用されるものである(例えば、水、エタノールなど)。用語「水和物」は、溶媒分子が水である錯体をいう。
本明細書において用いられるように、癌ではない患者に関して、用語「治療する(treat)」又は「治療された(treated)」とは、本発明の式(I)の化合物を必要とし、かつ本発明の式(I)の化合物を受けたか、現在受けているか、又は受けるであろう患者をいう。
本明細書において用いられるように、癌患者に関して、用語「治療する(treat)」又は「治療された(treated)」とは、1又はそれ以上の化学療法剤及び/又は本発明の式(I)の化合物を受けたか、現在受けているか、又は受けるであろう患者をいう。
本明細書において用いられるように、「治療スケジュール時間(又は治療スケジュール期間)」は、(i)1日又は1週あたりに投与される薬物の量;(ii)1日又は1週あたり体表面積1m2あたりに投与される薬物の量;及び(iii)1日又は1週あたり体重1kgあたりに投与される薬物の量を含む、投与時間のスケジュールにおける差異を意味する。
本明細書において用いられるように、「薬物治療時間の投与における差異」は、治療の投与が実質的により少ない時間内に生じることを可能にし(例えば、4時間から1時間へ、1日から6時間へ、などの時間の削減)それによって患者の通院又は入院治療期間の時間を最小限にできることを意味する。
本明細書において用いられるように、「治療スケジュール時間」又は「治療レジメン」は、(i)1日又は1週あたりに投与される薬物の量;(ii)1日又は1週あたり体表面積1m2あたりに投与される薬物の量;及び(iii)1日又は1週あたり体重1kgあたりに投与される薬物の量を含む、投与時間のスケジュールにおける差異を意味する。
多くのタイプの癌細胞は、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの発現及び/又は活性を増大させることが示されており、このような癌のタイプとしては、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌が挙げられるが、これらに限定されない。癌細胞におけるチオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの過剰発現(及び、もしかすると活性の増大)は、アポトーシスに対する化学療法薬物抵抗性をもたらす。このような過剰発現は、例えば、チオレドキシン/グルタレドキシンの濃度又は発現の増大によって媒介されると考えられている患者の生存の短縮をもらたし、このことは、言い換えると、化学療法によって誘導されたアポトーシスに対する腫瘍の媒介による抵抗性、オキシドペルオキシダーゼの過剰発現、RNAのDNAへの変換の増大、核転写の増大、細胞増殖の増大及び/又は脈管形成の増大を促進し、これらのいずれも、化学療法及び放射線療法に抵抗する能力を癌細胞に与えるのに合わせて作用し得る。
本発明は、チオレドキシン/グルタレドキシン系の医薬的及び薬理学的不活性化及び調整に関係し、それにより、別な方法で癌細胞中のチオレドキシン/グルタレドキシのレベル又は過剰発現の増大によって付与された前記癌細胞の薬物抵抗特性を不活性化、逆転又は調整する。医薬的及び薬理学的不活性化は、本発明の酸化的代謝に影響を及ぼす式(I)の化合物の投与に関係する。チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの発現又は濃度を増大させる前述の癌のタイプのいずれもが、本発明によるチオレドキシン/グルタレドキシンに基づく介入(intervetion)に対して敏感であり、そのような介入から恩恵を受けてもよい。本発明はまた、個々の患者から単離された癌細胞のサンプル内のチオレドキシン/グルタレドキシンレベル及び代謝状態を治療の前及び治療中に同定することによって患者の化学療法レジメンのスケジュール、用量及び組み合わせを最適化する方法を教示する。また、本発明の組成物及び方法の診断上及び治療上の最適化により、例えば、利用する最適な化学療法薬物レジメンの決定によって、患者の生存結果及び恩恵をさらに高めるキットの使用を教示する。本発明はまた、診断用キットの使用によってこのような介入から恩恵を受けそうにない患者を前もって同定する方法を教示し、それによって、より臨床的に有効であってもよい他の治療アプローチを遂行できる。
I.グルタチオン及びシステイン
グルタチオン(GSH)は、トリペプチド(γ−グルタミル−システイニル−グリシン)であり、細胞内及び細胞外の酸化還元バランスの両方において非常に重要な役割を果たす。グルタチオンは、システインの主な誘導体であり、最も豊富な細胞内非タンパク質チオールであり、細胞内濃度は他の細胞内チオールよりも約10倍高い。細胞内環境中では、グルタチオン(GSH)は、グルタチオンレダクターゼ及びNADPHの作用によって還元型に維持される。しかし、酸化的ストレス条件下では、GSHの濃度は著しく減少(枯渇)される。グルタチオンは、多くの種々の役割で機能し、このような役割としては、抗酸化防御(antioxidant defense)を調節すること、薬物及び生体異物の解毒、及びシグナル伝達の酸化還元調節が挙げられるが、これらに限定されない。抗酸化剤(酸化防止剤)として、グルタチオンは、細胞内のフリーラジカルを直接的に除去するように役立ち得るか、又は種々の他の保護酵素のための補因子として作用し得る。さらに、グルタチオンはまた、免疫反応の調節、細胞増殖の制御、及びプロスタグランジン代謝においても役割を有し得る。グルタチオンはまた、化学療法剤及び電離放射線に対する腫瘍の媒介による薬物抵抗性において認められた役割を有するので、特に腫瘍学治療に関連する。グルタチオンは、グルタチオンS−トランスフェラーゼの作用下でアルキル化剤及びシスプラチンなどの求電子薬物を結合(抱合)できる。近年、GSHはまた、多剤耐性関連タンパク質(MRP)の作用を介してアントラサイクリンなどの他のクラスの薬剤の流出(efflux)にも関連している。さらに、薬物解毒に対して、GSHは、反応性酸素種を還元し、かつその還元状態において細胞性チオール(非タンパク質スルフヒドリル(NPSH)としても公知である)を維持する抗酸化経路において機能することによって、細胞生存を増強する。例えば、キガワ J(Kigawa J)ら、γ−グルタミルシステインシンテターゼは、化学療法抵抗性上皮卵巣癌患者においてグルタチオン及び多剤耐性関連タンパク質を上方制御する(Gamma-glutamyl cysteine synthetase up-regulates glutathione and multidrug resistance-associated protein in patients with chemoresistant epithelial ovarian cancer.)、Clin. Cancer Res. 4:1737-1741(1998)を参照のこと。
グルタチオンと同様に、システインは重要なNPSHであり、電離放射線又は化学薬剤によって生成されたラジカルによるDNA損傷を予防することもできる。システイン濃度は、典型的に、細胞を組織培養中で成長させる場合GSHよりも非常に低く、in vivo細胞保護剤(cytoprotector)としてのシステインの役割は、あまり特徴付けられない。しかし、モル基準では、システインは、DNAに対する放射線又は化学薬剤の副作用からのより大きな保護活性を示すことが見出されている。さらに、腫瘍組織中のシステイン濃度が、組織培養中で典型的に見出されるシステイン濃度よりも有意に大きいものであり得るというエビデンス(証拠)がある。
多くの研究によって、種々のヒト固形腫瘍におけるGSHレベルが調査されており、しばしばこれらのレベルを臨床結果に結びつけている。例えば、ホックワルド,S.N.(Hochwald, S. N.)ら、ハイグレード転移性四肢軟組織肉腫におけるグルタチオン及び関連する酵素の活性の上昇(Elevation of glutathione and related enzyme activities in high-grade and metastatic extremity soft tissue sarcoma)、American Surg. Oncol. 4:303-309(1997);ガザル−アスワド,S(Ghazal-Aswad,S.)ら、上皮卵巣癌患者における腫瘍グルタチオン濃度、グルタチオンS−トランスフェラーゼアンソエンザイム発現及び単独薬剤カルボプラチンに対する応答の関係(The relationship between tumour glutathione concentration, glutathione S-transferase isoenzyme expression and response to single agent carboplatin in epithelial ovarian cancer patients. )、Br. J. Cancer 74:468-473(1996);バーガー,S.J.(Berger, S. J.)ら、グルタチオンについての感受性酵素サイクリングアッセイ:in vivo及びin vitroヒト結腸癌でのブチオニンスルホキシミンによるグルタチオン含量及びその調整の測定(Sensitive enzymatic cycling assay for glutathione: Measurement of glutathione content and its modulation by buthionine sulfoximine in vivo and in vitro human colon cancer)、Cancer Res. 54:4077-4083(1994)を参照のこと。広範囲の腫瘍GSH濃度が報告されており、一般に、これらの濃度は、隣接した正常組織と比較して、腫瘍中ではより大きい(すなわち、10倍まで)。たいていの研究者は、酵素アッセイを用いてバルク(bulk)腫瘍組織のGSH含量、又はHPLCを用いてGSH及びシステインを評価している。
さらに、細胞性チオール/非タンパク質スルフヒドリル(NPSH)(例えばグルタチオン)はまた、(i)化学療法剤の結合(又は抱合)及び排泄;(ii)反応性酸素種(ROS)及び反応性窒素種(RNS)の直接的及び間接的除去;及び(iii)「正常の」細胞内酸化還元状態の維持が挙げられるがこれらに限定されない機序によって、治療に対する腫瘍抵抗性の増大に関連している。関連した腫瘍脈管構造の異常な構造及び機能によって生じる腫瘍細胞内における低レベルの細胞内酸素(すなわち、腫瘍低酸素)はまた、化学療法抵抗性及び生化学的に攻撃的な悪性疾患と関連していることが明らかとなっている。間欠性低酸素の領域において通常見出される酸化的ストレスは、グルタチオン代謝の調節に関係しており、このようにして、NPSHレベルの増大と腫瘍低酸素とを関連付ける。したがって、腫瘍及び他の腫瘍性組織において、NPSH発現及びNPSH発現と腫瘍低酸素との関係の双方を特徴付けることも重要である。
NPSHレベルの異質性は、根治的放射線療法への応答に対する細胞性酸化及び還元レベルの活性(特に、低酸素)を調査する研究に参加した頸部癌患者から得られた複数の生検において調べられた。例えば、フィルス,A(Fyles, A.)ら(酸化は、頸部癌患者における放射線応答及び生存を予測する(Oxygenation predicts radiation response and survival in patients with cervix cancer.)、Radiother. Oncol. 48:149-156(1998))を参照のこと。この研究から得られた主な所見は、GSH及びシステイン濃度の腫瘍間(intertumoral)異質性が腫瘍内(intratumoral)異質性を越えること、及び約21mMのシステイン濃度がいくつかのサンプルにおいて見出されたことであり、ギチャード(Guichard)らによる先の報告(ヒト腫瘍生検におけるグルタチオン及びシステインレベル(Glutathione and cysteine levels in human tumour biopsies.)、Br. J. Radiol. 134:63557-635561(1990))を確認した。これらのシステインレベルは、組織培養中で典型的にみられるレベルよりもはるかに大きく、このことは、システインが、頸部癌及びおそらくは他のタイプの癌においても重要な放射線防護活性を発揮するかもしれないことを示唆する。
薬物解毒又はGSHの抗酸化活性に起因して、細胞のグルタチオンレベルの上昇により実験モデルにおいて薬物抵抗性をもたらすことができることを示す広範囲の文献も存在する。さらに、放射線により誘導されたDNAラジカルは、GSH及びシステインによって非酵素的に修復でき、このことは、放射線抵抗性におけるNPSHの潜在的な役割を示す。システインは、より効果的な放射線防護剤であるが、通常、GSHよりも低い濃度で存在する。興味深いことには、十分に好気性の条件下ではこの放射線防護活性は比較的小さいようであり、NPSHは、いくつかの固形腫瘍において存在する低酸素条件下で、より効果的にDNAラジカルを得るために酸素と競い合い、放射線抵抗性において重要な役割を果たすかもしれない。
放射線療法は、伝統的に、頸部癌のための主要な治療方法である。無作為臨床試験(ローズ,D.(Rose, D.)ら、局所的に進行した頸部癌のための同時シスプラチン系放射線療法及び化学療法(Concurrent cisplatin-based radiotherapy and chemotherapy for locally advanced cervical cancer.)、New Engl. J. Med. 340:1144-1153(1999))は、放射線療法がシスプラチン系化学療法と併用される場合に患者の結果が有意に改善されることを示し、併用療法は、現在、治療レジメンにおいて広範囲に利用されている。ブチオニンスルホキシミン(腫瘍組織及び正常組織の両方においてGSHの深刻な減少を生じ得るγ−グルタニルシステインシンテターゼの不可逆的阻害剤)などの薬剤を使用してGSH及びシステインレベルを調整できる可能性があるので、GSH及びシステインレベルと薬物及び放射線抵抗性との臨床的関連性を確立することは重要である。例えば、ベイリー,T.(Bailey, T.)ら、静脈内ブチオニンスルホキシミン及びメルファランの第I相臨床試験:グルタチオンの調整における試み(Phase I clinical trial of intravenous buthionine sulfoximine and melphalan: An attempt at modulation of glutathione.)、J. Clin. Oncol. 12:194-205(1994)を参照のこと。GSH濃度の評価により、隣接する正常組織に対する腫瘍GSHの上昇、及びGSH含量における腫瘍間異質性が報告されている。これらの所見は、GSHが薬物抵抗性において臨床的に重要な役割を果たすことができるという考えと一致するが、腫瘍GSH含量と化学療法に対する応答との間の有意な関係を発見するために必要なサンプルサイズ及び追跡期間を有する研究が比較的少ないので、この考えを支持する矛盾のない臨床データは存在しないことに留意されるべきである。
コッホ及びエバンス(Koch and Evans)(齧歯類腫瘍におけるシステイン濃度:予想外に高い値により療法抵抗性を生じ得る(Cysteine concentrations in rodent tumors: unexpectedly high values may cause therapy resistance.)、Int. J. Cancer 67:661-667(1996))は、株化腫瘍細胞系におけるシステイン濃度が、in vivo腫瘍として成長する場合に、in vitroでの値と比較してはるかに大きくなることがあることを示しており、このことは、システインが、療法抵抗性において以前に考えられていたよりもより重要な役割を果たすかもしれないことを示唆する。ヒト癌におけるシステインレベルに対して報告されているものは比較的少ないが、ギチャード,D.G.(Guichard, D. G.)らによる先のHPLCに基づく頸部癌の研究(ヒト腫瘍生検におけるグルタチオン及びシステインレベル(Glutathione and cysteine levels in human tumour biopsies.)、Br. J. Radiol. 134:63557-635561(1990))により、かなり多くのケースにおいて、1mMより大きいシステイン濃度が報告された。それゆえ、システインレベルの変動性がGSHについての変動性よりも大きいという事実は、これらの2つのチオールが、腫瘍において別々制御されることを示唆する。非限定的な例として、γ−グルタミルシステインシンテターゼがGSHのde novo合成に利用されていないという事実に起因して、ブチオニンスルホキシミン(BSO)の静脈内投与を用いるγ−グルタミルシステインシンテターゼの阻害は、システインの細胞レベルの上昇をもたらし得る。GSHと同様に、システインは放射線により誘導されたDNAラジカルを修復する能力を有し、そしてシステインはまた、シスプラチン(現在、局所的に進行した頸部癌を治療するために放射線療法と慣例的に併用される細胞毒性薬剤)を解毒する可能性を有する。
II.グルタレドキシン
グルタレドキシン及びチオレドキシン(TX)は、チオレドキシンスーパーファミリーのメンバーであり;それらのCys含有触媒部位を介してジスルフィド交換を媒介する。グルタレドキシンは、主に、グルタチオンを含む混合ジスルフィドを還元するが、チオレドキシンは、ジスルフィド結合の還元を介して、タンパク質スルフヒドリルを還元状態で維持することに関与する。例えば、プリント,W.A.(Print、W.A.)ら、大腸菌細胞質におけるタンパク質ジスルフィド結合を還元するチオレドキシン及びグルタレドキシン経路の役割(The role of the thioredoxin and glutaredoxin pathways in reducing protein disulfide bonds in the Escherichia coli cytoplasm.)、J. Biol. Chem. 272:15661-15667(1996)を参照のこと。チオレドキシンの還元型は、チオレドキシンレダクターゼの作用によって生じ;一方、グルタチオンは、グルタレドキシンの還元型の再生のための還元電位(reducing potential)を直接的に提供する。
グルタレドキシンは、約100個のアミノ酸残基を有する小さな酸化還元酵素であり、グルタチオンを補因子として用いる。グルタレドキシンは、基質によって酸化され、そしてグルタチオンによって非酵素的に還元される。チオレドキシンレダクターゼによって還元されるチオレドキシンとは対照的に、本発明において記載される以外に、グルタレドキシンを特異的に還元するオキシドレダクターゼは存在しない。その代わりに、酸化型グルタチオンは、グルタチオンレダクターゼによって再生される。同時に、これらの成分はグルタチオン系を構成する。例えば、ホルムグレン,A.(Holmgren, A.)及びフェルナンデス,A.P.(Fernandes, A. P.)、グルタレドキシン:単純なチオレドキシンバックアップシステムをはるかに超える機能を有するグルタチオン依存性酸化還元酵素(Glutaredoxins: glutathione-dependent redox enzymes with functions far beyond a simple thioredoxin backup system.)、Antioxid. Redox. Signal. 6:63-74(2004);ホルムグレン,A.、チオレドキシン及びグルタレドキシン系(Thioredoxin and glutaredoxin systems.)、J. Biol. Chem. 264:13963-13966(1989)を参照のこと。
グルタレドキシンは、基本的に、酵素リボヌクレオチドレダクターゼによるデオキシリボヌクレオチドのグルタチオン依存性合成において、電子伝達体として機能する。類似の経路において機能するチオレドキシンと同様に、グルタレドキシンは、活性触媒部位ジスルフィド結合を有する。グルタレドキシンは、2つのシステイン残基が分子内ジスルフィド結合において結合されている場合に還元型又は酸化型のいずれかで存在する。このドメインを含むヒトタンパク質としては、グルタレドキシンチオールトランスフェラーゼ(GLRX);グルタレドキシン2(GLRX2);チオレドキシン様2(GLRX3);GLRX5;PTGES2;及びTXNL3が挙げられる。例えば、ニルソン,L.(Nilsson, L.)及びフォロッペ,N.(Foloppe, N.)、グルタレドキシン−C−P−Y−C−モチーフ:末梢残基の影響(The glutaredoxin -C-P-Y-C- motif: influence of peripheral residues.)、Structure 12:289-300(2004)を参照のこと。
少なくとも2つのグルタレドキシンタンパク質が、哺乳類細胞に存在し(12又は16kDa)、チオレドキシンと同様に、グルタレドキシンはジスルフィド型とジチオール型との間を循環する。グルタレドキシンのジスルフィド型(酸化型)からジチオール(還元)型への変換は、グルタチオンによって非酵素的に触媒され、以下に説明される。同様に、グルタチオンは、グルタレドキシンを還元できるチオール型(グルタチオン)とジスルフィド型(グルタチオン)との間を循環し;グルタチオンレダクターゼは、グルタチオンジスルフィドをグルタチオンに酵素的に還元する。この反応を、以下に説明する。
−CysXaaXaaCys−分子内ジスルフィド結合は、チオレドキシン及びタンパク質ジスルフィドイソメラーゼにとって触媒的循環の主要部分であるが、グルタレドキシンにとって最も重要な酸化種は、パネルBに示されるようなグルタチオニル化型である。
III.チオレドキシンレダクターゼ(TRX)/チオレドキシン(TX)系
チオレドキシンレダクターゼ(TRX)
チオレドキシン系は、チオレドキシンレダクターゼ(TXR)及びその主なタンパク質基質であるチオレドキシン(TX)で構成され、この系において、TXの触媒部位ジスルフィドは、NADPHを犠牲にしてTXRによってジチオールに還元される。チオレドキシン系は、グルタチオン系(NADPH、フラビンタンパク質グルタチオンレダクターゼ、グルタチオン及びグルタレドキシンを含む)と共に、細胞内酸化還元環境の主な調節剤と考えられており、いくつかの細胞プロセスの酸化還元調節を支配するのみならず、細胞酸化還元状態の制御及び抗酸化防御を発揮する。この系は、(i)いくつかの転写因子、(ii)アポトーシス(すなわち、プログラムされた細胞死)誘導及び(iii)多くの代謝経路(例えば、DNA合成、グルコース代謝、セレン代謝、及びビタミンC再生利用)の直接的な調節に関与する。例えば、アメア,E.S.J.(Amer, E.S.J.)ら、チオレドキシン及びチオレドキシンレダクターゼの生理学的機能(Physiological functions of thioredoxin and thioredoxin reductase.)、Eur. J. Biochem 267:6102-6109(2000)を参照のこと。TXに加えて、他の内因性基質が、TXRについて証明されている。このようなTXRとしては、リポ酸;脂質ヒドロペルオキシド;細胞毒性ペプチドNK−リシン;ビタミンK;デヒドロアスコルビン酸;アスコルビン酸フリーラジカル;及び腫瘍抑制タンパク質p53が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、リード,D.J.(Reed、D.J.)、毒性の分子性又は細胞性機序(Molecular and Cellular Mechanisms of Toxicity)(デマティス,F.(DeMatteis, F.)及びスミス,L.L.(Smith, L. L.)編)、35−68頁、CRC Press, Boca Raton(2002)を参照のこと。しかし、TXRがこれらの基質の大部分の還元において果たす正確な生理学的役割については、いまだ十分に明らかにされていない。
哺乳類チオレドキシンレダクターゼ(TXR)は、リポアミドデヒドロゲナーゼ、グルタチオンレダクターゼ及び水銀イオンレダクターゼを含むピリジンヌクレオチド−ジスルフィドオキシドレダクターゼのフラビンタンパク質(avoprotein)ファミリーに属する酵素である。このファミリーのメンバーは、各モノマーがFAD補欠分子族、NADPH結合部位、及び酸化還元活性ジスルフィドを含む活性部位を含むホモダイマータンパク質である。電子は、FADを介してNADPHからTXRの活性部位ジスルフィドに移動し、次いで基質を還元する。例えば、ウィリアムス,C.H.(Williams, C. H.)、フラビン酵素の化学及び生化学(Chemistry and Biochemistry of Flavoenzymes)(ミュラー,F.(Muller, F.)編)、121−211頁、CRC Press, Boca Raton(1995)を参照のこと。
TXRの名前は、酸化型チオレドキシン(TX)(触媒部位内の2つの保存されたシステイン(Cys)残基の可逆的酸化/還元を受ける、小さな普遍的に存在する酸化還元ペプチドの一群)を還元するその能力に由来する。哺乳類TXRは、(i)保存された−Cys−Val−Asn−Val−Gly−Cys−触媒部位;(ii)NADPH結合部位;及び(iii)触媒部位と連絡しかつその酸化還元活性に必須であるC末端Cys−セレノシステイン配列を有する、セレン含有フラビンタンパク質である。例えば、パウイス,G.(Powis, G.)及びモノフォート,W.R.(Monofort, W. R.)、チオレドキシンの特性及び生物学的活性(Properties and biological activities of thioredoxins.)、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 41:261-295(2001)を参照のこと。これらのタンパク質はホモダイマーとして存在し、可逆的酸化/還元を受ける。TXRの活性は、NADPHによって調節(又は制御)され、次いで、NADPHは、酸化的ヘキソース一リン酸シャント(HMPS;ペントースリン酸経路としても公知である)の律速酵素であるグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6DP)によって産生される。2つのヒトTXRアイソザイム遺伝子(細胞質において主に見出される54Kdaの酵素(TXR−1)及びミトコンドリアのインポート配列を含む56Kdaの酵素(TXR−2))が、クローニングされている。同上文献。TXRの第3のアイソフォーム(指定された(TGR)は、主に精巣に局在化されたTX及びグルタチオンレダクターゼである)もまた、同定されている。例えば、サン,Q.A.(Sun, Q. A.)ら、チオレドキシン及びグルタチオン系に対する特異性を有するセレン含有タンパク質オキシドレダクターゼ(Selenoprotein oxidoreductase with specificity for thioredoxin and glutathione systems.)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:3673-3678(2001)を参照のこと。さらに、哺乳類細胞質型TX−1及びミトコンドリアTX−2の両方は、選択的スプライスバリアントを有する。ヒトにおいて、5つの異なる5’cDNAバリアントが報告されている。このスプライシングバリアントの1つは、一般的な55kDaの代わりに、N末端伸長を有する67kDaのタンパク質を示す。これらのTXRスプライスバリアントの生理学的機能は、いまだ解明されていない。例えば、サン,Q.A.(Sun, Q. A.)ら、哺乳類チオレドキシンレダクターゼ内の異質性:選択的エキソンスプライシングについてのエビデンス(Heterogeneity within mammalian thioredoxin reductases: evidence for alternative exon splicing.)、J. Biol. Chem. 276:3106-3114(2001)を参照のこと。
TXR−1アイソザイムは、最も広範囲に研究されている。胎盤、肝臓又は胸腺などの組織から精製され、そして組み換え型において発現されるTXR−1は、広範な基質特異性及び求電子剤に対する一般的に高い反応性を有する。TXR−1の触媒部位は、C末端モチーフ−Gly−Cys−Sec−Gly−COOH内に位置する接近しやすいセレノシステイン(Sec)残基を含む。例えば、チョング,L.(Zhong, L.)ら、ラット及び子ウシチオレドキシンレダクターゼは、保存された触媒的に活性な、端から2番目のセレノシステイン残基を含みカルボキシル末端伸長を有するグルタチオンレダクターゼと相同である。(Rat and calf thioredoxin reductase are homologous to glutathione reductase with a carboxyl-terminal elongation containing a conserved catalytically active penultimate selenocysteine residue.)、J. Biol. Chem. 273:8581-8591(1998)を参照のこと。このセレノシステイン残基は、隣接のシステインと共に、酸化還元活性なセレネニルスルフィド/セレノールチオールモチーフを形成する。このモチーフは、ダイマー酵素中の他のサブユニットのN末端ドメインに存在する酸化還元活性な−Cys−Val−Asn−Val−Gly−Cys−モチーフから電子を受け取る。例えば、サンダロバ,T.(Sandalova, T.)ら、哺乳類チオレドキシンレダクターゼの三次元構造:セレノシステイン依存性酵素の機序及び展開に対する意味(Three-dimensional structure of a mammalian thioredoxin reductase: implications for mechanism and evolution of a selenocysteine-dependent enzyme.)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:9533-9538(2001)を参照のこと。TXR−1酵素の基質は、セレノールチオールモチーフによって還元できる。TXR−1酵素の基質としては、チオレドキシン;NK−リシン;タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ;カルシウム結合タンパク質1及び2;及び血漿グルタチオンペルオキシダーゼ、などのタンパク質ジスルフィド;並びに5,5’−ジチオビス(2−ニトロベンゾエート)(DTNB);アロキサン;セレノジグルタチオン;メチルセレニナート;S−ニトロソグルタチオン;エブセレン;デヒドロアスコルバート;及びアルキルヒドロペルオキシド、などの小分子が挙げられる。例えば、アムク,E.S.(Amk, E. S.)ら、哺乳類チオレドキシン及びチオレドキシンレダクターゼの調製及びアッセイ(Preparation and assay of mammalian thioredoxin and thioredoxin reductase.)、Method. Enzymol. 300:226-239(1999)を参照のこと。さらに、いくつかのキノン化合物はこの酵素によって還元でき、キノンの一電子還元種は、さらに、セレノールチオールモチーフを誘導体化し、それによってこの酵素を阻害してもよい。この酵素の非常に接近しやすいセレネニルスルフィド/セレノールチオールモチーフは、並はずれた反応性を有し、種々の求電子化合物によって速やかに誘導体化できる。
TXRの多くの重要な機能に起因して、その阻害が、全チオレドキシン系の阻害によって細胞に有害であり得ることは、驚くべきことではない。また、細胞毒性についての機序としてチオレドキシン系の一般的な阻害に加えて、TXRのセレン中間体型(selenium-compromised form)が、機能の獲得によって細胞のアポトーシスを直接的に誘導し得ることも示されている。例えば、アネスタル,K.(Anestal, K.)ら、セレン中間体チオレドキシンレダクターゼ1によるが、セレノシステインを含む十分に活性な酵素によらない、細胞死の速やかな誘導(Rapid induction of cell death by selenium-compromised thioredoxin reductase 1 , but not by the fully active enzyme containing selenocysteine.)、J. Biol. Chem. 278:15966-15672(2003)を参照のこと。このアポトーシス誘導のシグナリング機序は、現時点では解明されていない。しかし、TXRを阻害する求電子化合物がそれらの効果の結果として重要な細胞毒性を有し得ることは、明らかである。これらの所見から、TXR阻害は潜在的に重要な機序であると考えられ、この機序によって、抗癌治療において一般的に利用されるいくつかのアルキル化剤及び種々の化学療法剤(例えば、シスプラチンの一水和錯体、オキサリプラチンなど)が細胞毒性効果を発揮し得ることが推測される。
チオレドキシン(TX)
チオレドキシン(TX)は、システインチオール−ジスルフィド交換による他のタンパク質の還元を促進することにより、抗酸化剤として作用するタンパク質である。グルタレドキシンは、主に、グルタチオンを含む混合ジスルフィドを還元するが、チオレドキシンは、ジスルフィド結合の還元を介して、タンパク質スルフヒドリルを還元状態で維持することに関与する。例えば、プリント,W.A.(Print, W.A.)ら、大腸菌細胞質におけるタンパク質ジスルフィド結合を還元するチオレドキシン及びグルタレドキシン経路の役割(The role of the thioredoxin and glutaredoxin pathways in reducing protein disulfide bonds in the Escherichia coli cytoplasm.)、J. Biol. Chem. 272:15661-15667(1996)を参照のこと。チオール−ジスルフィド交換は、チオラート基(S−)がジスルフィド結合(−S−S−)の硫黄原子を攻撃する化学反応である。元のジスルフィド結合は切断され、その他方の硫黄原子が新たなチオラートとして放出され、そのようにしてその負電荷を運び去られる。一方、新たなジスルフィド結合が、攻撃するチオラートと元の硫黄原子との間で形成される。この反応の遷移状態は、3つの硫黄原子の直線配列であり、ここで、攻撃するチオラートの電荷が等しく共有される。プロトン化チオール型(−SH)は不活性である(すなわち、チオールはジスルフィド結合を攻撃できず、チオラートのみが攻撃できる)。したがって、チオール−ジスルフィド交換は、プロトン化チオール型が脱プロトン化チオラート型に対して好まれる低pH(典型的には、<8)で阻害される。典型的なチオール基のpKaは、約8.3であるが、この値は、環境の関数として変化することがある。例えば、ギルバート,H.F.(Gilbert, H. F.)、チオール−ジスルフィド交換の分子的及び細胞的見地(Molecular and cellular aspects of thiol-disulfide exchange.)、Adv. Enzymol. 63:69-172(1990);ギルバート,H.F.(Gilbert, H. F.)、チオール/ジスルフィド交換の平衡及びジスルフィド結合の安定性(Thiol/disulfide exchange equilibria and disulfide bond stability.)、Meth. Enzymol. 251:8-28(1995)を参照のこと。
チオール−ジスルフィド交換は主要な反応であり、この反応によって、ジスルフィド結合が形成され、タンパク質内で再構成される。タンパク質内でのジスルフィド結合の再構成は、一般に、タンパク質内チオール−ジスルフィド交換反応を介して生じ;システイン残基のチオラート基が、そのタンパク質自身のジスルフィド結合の1つを攻撃する。このジスルフィド再構成のプロセス(ジスルフィドシャッフリングとして公知である)は、タンパク質内のジスルフィド結合の数を変化させず、単にその位置(すなわち、システインが実際に結合される位置)のみを変化させる。ジスルフィドの再シャッフリングは、一般に酸化/還元反応よりもはるかに速く、これは、実際にタンパク質内のジスルフィド結合の総数を変化させる。in vitroでのタンパク質ジスルフィド結合の酸化及び還元もまた、一般に、チオール−ジスルフィド交換反応を介して生じる。典型的には、グルタチオン又はジチオトレイトール(DTT)などの酸化還元試薬のチオラートは、タンパク質とこの試薬との間に混合ジスルフィド結合を形成するタンパク質上のジスルフィド結合を攻撃する。この試薬から別のチオラートによって攻撃された場合、この混合ジスルフィド結合により、酸化されたシステインが残される。実質的に、ジスルフィド結合は、2つの工程(両方のチオール−ジスルフィド交換反応)においてタンパク質から試薬へ移動する。
チオレドキシン(TX)は、最初、大腸菌におけるDNA合成のための必須酵素であるリボヌクレオチドレダクターゼに対する水素供与体として、1964年に記載された。ヒトチオレドキシンは、最初、成人T細胞白血病(ATL)由来因子(ADF)と名付けられたサイトカイン様因子としてクローニングされた。この因子は、初めは、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV−1)形質転換T細胞ATL2細胞の上清から精製された、IL−2受容体α鎖(IL−2Ra、CD25)誘導因子として規定された。例えば、ヨルジ,J.(Yordi, J.)ら、ADF、成人T細胞白血病に由来し、チオレドキシンに相同な成長促進因子:IL−2受容体誘導におけるジチオール還元の関与の可能性(ADF, a growth-promoting factor derived from adult T cell leukemia and homologous to thioredoxin: possible involvement of dithiol-reduction in the IL-2 receptor induction.)、EMBO J. 8:757-764(1989)を参照のこと。
高度に保存された−Cys−Xxx−Xxx−Cys−を共有しかつ類似の三次元構造(すなわち、チオレドキシフォールド)を有するタンパク質は、チオレドキシンファミリーに属すると分類される。細胞質ゾルにおいて、チオレドキシンファミリーのメンバーとしては、「古典的細胞質型(classical cytosoic)」チオレドキシン1(TX−1)及びグルタレドキシン1が挙げられる。ミトコンドリアにおいて、ファミリーメンバーとしては、ミトコンドリア特異的チロキシン2(TX−2)及びグルタレドキシン2が挙げられる。小胞体(ER)におけるチオレドキシンファミリーのメンバーとしては、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI);カルシウム結合タンパク質1(CaBP1);ERp72;TX関連膜貫通タンパク質(TMX);ERdj5;及び類似のタンパク質が挙げられる。マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は、炎症性サイトカインであり、最初、遅延型過敏性における活性化T細胞によって発現された可溶性因子として記載された。例えば、モランド,E.F.(Morand, E. F.)ら、MIF:慢性関節リウマチとアテローム硬化との間の新たなサイトカイン関連(MIF: a new cytokine link between rheumatoid arthritis and atherosclerosis.)、Nat. Rev. Drug Discov. 5:399-411(2006)を参照のこと。MIFはまた、酸化還元活性触媒部位を有し、ジスルフィドレダクターゼ活性を示す。例えば、クリーマン,R.(Kleeman, R.)ら、ジスルフィド分析によって、チオールタンパク質オキシドレダクターゼとしてのマクロファージ遊走阻止因子(MIF)のための役割が明らかになる(Disulfide analysis reveals a role for macrophage migration inhibitory factor (MIF) as thiol-protein oxidoreductase.)、J. Mol. Biol. 280:85-102(1998)を参照のこと。MIFは炎症性機能を有するが、チオレドキシン1(TX−1)は、抗炎症性機能及び抗アポトーシス機能の両方を示す。TX−1及びMIFはそれらの発現を相互に制御するので、このことは、それらの反対の機能を説明できるであろう。しかし、TX−1及びMIFは、種々の類似の特徴も共有する。例えば、両者は、約12kDaの類似の分子量を有し、リーダーレス排出経路(leaderless export pathway)によって分泌される。TX−1及びMIFは両方とも、細胞において、Jun活性化ドメイン結合タンパク質1(JAB1)などの同一の相互作用タンパク質を共有する。グリコシル化阻害因子(GIF)は、最初、IgE応答のための抑制因子として報告された。グリコシル化阻害因子(GIF)は、Cys60でシステイニル化している翻訳後修飾MIFである。MIFとGIFとの間の生物学的差異は、おそらくTX−1を含め、酸化還元依存性修飾によって説明され得る。例えば、ナカムラ,H.(Nakamura, H.)、チオレドキシン及びその関連分子:2005更新(Thioredoxin and its related molecules: update 2005.)、Antioxid. Redox Signal. 7:823-828(2005)を参照のこと。
哺乳類チオレドキシン(TX)は、高度に保存された−Trp−Cys−Gly−Pro−Cys−Lys−触媒部位を含む10〜12Kdaのタンパク質のファミリーである。例えば、ニシナカ,Y.(Nishinaka, Y.)ら、チオレドキシンによる細胞機能の酸化還元制御:宿主防御における新たな治療的動向(Redox control of cellular functions by thioredoxin: A new therapeutic direction in host defense.)、Arch. Immunol. Ther. Exp. 49:285-292(2001)を参照のこと。この活性部位の配列は、大腸菌からヒトまで保存されている。哺乳類細胞中のチオレドキシンは、90%を越える(>90%)相同性を有し、E.coliタンパク質に対して、約27%の全相同性を有する。
既に述べたように、チオレドキシンはオキシドレダクターゼとして作用し、2つの触媒部位システイン(Cys)アミノ酸残基の可逆的酸化/還元を受ける。最も一般的なチオレドキシンであるTX−1は、非常に多くの多様な生物学的活性に関与する。TXの還元ジチオール型[TX−(SH)2]は、一般にジスルフィド基を含む酸化型タンパク質基質を還元するが;TXの酸化ジスルフィド型[TX−(SS)]酸化還元は、チオレドキシンレダクターゼ(TXR)(2つの同一サブユニット(各々分子量約55kDa)で構成されたホモダイマー)によって媒介されたNADPH依存性プロセスにおいて逆循環する。ジスルフィド型(酸化)からジチオール型(還元)へのチオレドキシンの変換を、以下に図示する。
チオレドキシン(TX)の2つの主要な型が、クローニングされている。TX−1は、105個のアミノ酸で構成されるタンパク質である。ヒト型TX−1のほぼすべて(>99%)において、第1番目のメチオニン(Met)残基が、N末端除去プロセスによって除去され(例えば、ジグリオーネ,C.(Giglione, C.))ら、タンパク質N末端メチオニン除去(Protein N-terminal methionine excision.)、Cell. Mol. Life Sci. 61:1455-1474(2004)を参照のこと)、それゆえに、成熟タンパク質は、N末端バリン(Val)残基からの合計104個のアミノ酸残基から構成される。TX−1は、典型的には細胞質中に局在化されるが、正常子宮内膜支質細胞、腫瘍細胞及び原発性固形腫瘍の核においても同定されている。TX−1の種々の型の翻訳後修飾が報告されている:(i)1〜80又は1〜84N末端アミノ酸から構成されるC末端切断TX−1は、細胞から分泌され、完全長TX−1よりもサイトカイン様機能を示し;(ii)Cys69でのS−ニトロシル化は、抗アポトーシス効果に重要であり;(iii)グルタチオニル化がCys73で生じ、この部位は、酸化によって誘導されたダイマー化を引き起こす部位でもあり;(iv)Cys32とCys35との間の元々の活性部位に加え、分子内ジスルフィド形成を受け入れて、別のジチオール/ジスルフィド交換がCys62とCys69との間で観察され;並びに(v)Cys35及びCys69は、15−デオキシプロスタグランジン−J2のターゲットであると報告されている。例えば、ナカムラ,H.(Nakamura, H.)、チオレドキシン及びその関連分子:2005更新(Thioredoxin and its related molecules: update 2005.)、Antioxid. Redox Signal. 7:823-828(2005)を参照のこと。
還元型TX−1は、その酸化型又はCys→Ser触媒部位変異体とは異なり、種々の細胞内タンパク質に結合し、それらの生物学的活性を調節し得ることが示されている。NK−κB及びRef−1に加えて、TX−1は、プロテインキナーゼC(PKC)の種々のアイソフォーム;p40ファゴサイトオキシダーゼ;核グルココルチコイド受容体;及びリポカリンに結合する。TX−1はまた、正常生理学的条件下、細胞質ゾル中でアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK 1)に結合する。しかし、TX−1が酸化的ストレス下で酸化されると、ASK 1はTX−1から解離され、TX−1はホモダイマーになってアポトーシスシグナルを伝達する。ASK 1は、JNK及びp38 MAPキナーゼ経路の活性化物質であり、TNFαによって媒介されたアポトーシスに必要とされる。例えば、サイトウ,M.(Saitoh, M.)ら、哺乳類チオレドキシンはアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ask1)の直接的な阻害剤である(Mammalian thioredoxin is a direct inhibitor of apoptosis signal-regulating kinase 1 (ask1).)、EMBO J. 17:2596-2606(1998)を参照のこと。
TX−1に対する別の結合タンパク質は、ビタミンD3上方制御タンパク質1(VDUP1)と同一であるチオレドキシン結合タンパク質2(TBP−2)である。TBP−2/VDUP1は、最初、発現が1a,25−ジヒドロキシビタミンD3で刺激されたHL−60細胞において上方制御された遺伝子産物として報告された。TBP−2/VDUP1とTRXとの相互作用は、in vitro及びin vivoの両方で観察された。TBP−2/VDUP1は、単にTRXの還元型に結合するのみであり、見かけ上TRXの負の調節剤として作用する。例えば、ニシヤマ,A.(Nishiyama, A.)ら、チオレドキシン機能及び発現の負の調節剤としてのチオレドキシン結合タンパク質−2/ビタミンD(3)上方制御タンパク質1の同定(Identification of thioredoxin-binding protein-2/Vitamin D(3) up-regulated protein 1 as a negative regulator of thioredoxin function and expression.)、J. Biol. Chem. 274:21645-21650(1999)を参照のこと。この機序は未知であるが、TRX及びTBP−2の相互発現パターンは、種々のタイプの刺激に対してしばしば報告された。TBP−2/VDUP1のいくつかの高度に相同な遺伝子が同定されている。TBP−2相同体である、TBP−2様誘導膜タンパク質(TLIMP)は、新規なVD3又はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体−γ(PPAR−γ)リガンド誘導膜関連タンパク質であり、細胞増殖及びPPAR−γ活性化を調節する役割を果たす。例えば、オカ,S.(Oka, S.)ら、チオレドキシン結合タンパク質2様誘導膜タンパク質は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)γシグナリングを調節する新規なビタミンD3及びPPARγリガンドターゲットタンパク質である(Thioredoxin-binding protein 2-like inducible membrane protein is a novel Vitamin D3 and peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) gamma ligand target protein that regulates PPAR gamma signaling.)、Endocrinology 147:733-743(2006)を参照のこと。別のTBP−2相同遺伝子であるDRH1は、肝細胞癌において下方制御されると報告されている。例えば、ヤマモト,Y.(Yamamoto, Y.)、進行したヒト肝細胞癌において下方制御された新規遺伝子DRH1のクローニング及びキャラクタリゼーション(Cloning and characterization of a novel gene, DRHl, down-regulated in advanced human hepatocellular carcinoma.)、Clin. Cancer. Res. 7:297-303(2001)を参照のこと。これらの結果は、TBP−2のファミリーメンバーが癌抑制においても役割を果たし得ることを示す。
TBP−2はまた、成長抑制活性を有する。TBP−2の過剰発現は成長抑制をもたらすことが示された。TBP−2発現は、ビタミンD3処理及び血清又はIL−2剥奪によって上方制御され、成長停止をもたらす。TBP−2は、核において主に見出される。TBP−2 mRNA発現は、いくつかの腫瘍(例えば、バトラー,L.M.(Butler, L. M.)ら、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤SAHAは、癌細胞成長を停止し、チオレドキシン結合タンパク質−2を上方制御し、チオレドキシンを下方制御する(The histone deacetylase inhibitor SAHA arrests cancer cell growth, up-regulates thioredoxin-binding protein-2 and down-regulates thioredoxin.)、Proc. Natl. Acad. Sci.USA 99:11700-11705(2002)を参照のこと)及びリンパ腫(例えば、トメ,M.E.(Tome, M. E.)ら、酸化還元用法指示スコアにより、予後の不良なびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者を同定する(A redox signature score indentifies diffuse large B-cell lymphoma patients with poor prognosis.)Blood 106:3594-3601(2005)を参照のこと)において下方制御され、このことは、発現低減と腫瘍形成との間に密接な関連があることを示唆する。TBP−2発現はまた、黒色腫転移において下方制御される。例えば、ゴールドバーグ,S.F.(Goldberg, S. F.)ら、染色体6による黒色腫転移の抑制:CRSP3及びTXNIPによって調節された経路についてのエビデンス(Melanoma metastasis suppression by chromosome 6: evidence for a pathway regulated by CRSP3 and TXNIP.)、Cancer Res. 63:432-440(2003)を参照のこと。
TBP−2の損失は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV−1)形質転換の重要な工程のようである。in vitroモデルにおいて、HTLV−1感染T細胞は、形質転換の初期相において増殖するためにIL−2を必要としたが、IL−2の非存在下でのこの細胞の連続増殖段階によって示されるように、その後、後期相において細胞周期制御を失った。細胞成長表現型の変化は、腫瘍形成の形質転換プロセスの1つであることが示唆されている。例えば、マエダ,M.(Maeda, M.)ら、成人T細胞白血病における白血病細胞のインターロイキン−2依存性拡大のエビデンス(Evidence for the interleukin-2 dependent expansion of leukemic cells in adult T cell leukemia)、Blood 70:1407-1411(1987)を参照のこと。TBP−2の発現は、(DNAメチル化及びヒストン脱アセチル化に起因して)HTLV−1−陽性IL−2非依存性T細胞株において失われる;しかし、TBP−2の発現は、HTLV−1−陰性T細胞株と同様に、HTLV−1陽性IL−2−依存性T細胞株において維持される。例えば、アーサン,M.K.(Ahsan, M. K.)ら、チオレドキシン結合タンパク質−2の遺伝子サイレンシングに対するHTLV−1感染T細胞におけるインターロイキン−2依存性の損失(Loss of interleukin-2-dependancy in HTLV- 1-infected T cells on gene silencing of thioredoxin-binding protein-2.)、Oncogene 25:2181-2191(2005)を参照のこと。さらに、TBP−2/Txnip/VDUP1遺伝子において自然突然変異を有するマウスノックアウトHcB−19系統は、肝細胞癌(HCC)の発生率を増大させることが報告されており、TBP−2/VDUP1が、in vivoにおいて潜在的な腫瘍抑制遺伝子候補物であることを示す。例えば、シェス,S.S.(Sheth, S. S.)ら、チオレドキシン相互作用タンパク質欠損は、空腹−摂食に伴う代謝の移行を破壊する(Thioredoxin-interacting protein deficiency disrupts the fasting- feeding metabolic transition.)、J. Lipid Res. 46:123-134(2005)を参照のこと。同じHcB−19マウスも、NK細胞の減少及び腫瘍拒絶の低減を示した。TBP−2はまた、JAB1及びFAZFなどの種々の細胞性ターゲットと相互作用することが見出され、転写抑制因子複合体の成分であり得る。例えば、リー,K.N.(Lee, K. N.)ら、VDUP1は、ナチュラルキラー細胞の発生に必要である(VDUP1 is required for the development of natural killer cells.)、Immunity 22:195-208(2005)を参照のこと。しかし、その分子作用の正確な機序は、いまだ解明されていない。
TX−2は、166個のアミノ酸で構成されるタンパク質であり、このタンパク質をミトコンドリアに指向させる60個のアミノ酸残基のN末端トランスロケーション配列を含む。例えば、スピロング,M.(Spyroung, M.)ら、新規な哺乳類チオレドキシンのクローニング及び発現(Cloning and expression of a novel mammalian thioredoxin.)、J. Biol. Chem. 272:2936-2941(1997)を参照のこと。TX−2は、ミトコンドリア中で独自に発現し、そこでミトコンドリアの酸化還元状態を調節し、細胞増殖において重要な役割を果たす。TX−2欠失細胞は、ミトコンドリアによって媒介されるアポトーシスシグナリング経路を介してアポトーシスに陥る。例えば、ヌーン,L.(Noon, L.)ら、ミトコンドリアチオレドキシン−2の非存在により、ホモ接合型マウスにおいて大量のアポトーシス及び初期胚性致死率が引き起こされる(The absence of mitochondrial thioredoxin-2 causes massive apoptosis and early embryonic lethality in homozygous mice.)、Mol. Cell. Biol. 23:916-922(2003)を参照のこと。TX−2は、ミトコンドリアマトリックスに局在化されたシトクロムcと複合体を形成することが見出され、ミトコンドリアからのシトクロムcの放出は、TX−2の発現が阻害された場合に有意に増強された。TX−2の過剰発現は、ヒト骨肉腫細胞において酸化剤によって誘導されたアポトーシスに対する抵抗性を生じ、ミトコンドリアにおけるアポトーシスに対して保護するタンパク質として重要な役割を示した。例えば、チェン,Y.(Chen, Y.)ら、過剰に発現したヒトミトコンドリアチオレドキシンは、ヒト骨肉腫細胞において酸化剤によって誘導されたアポトーシスに対する抵抗性を与える(Overexpressed human mitochondrial thioredoxin confers resistance to oxidant-induced apoptosis in human osteosarcoma cells.)、J. Biol. Chem. 277:33242-33248(2002)を参照のこと。
TX−1及びTX−2はともに、酸化還元感受性カスパーゼ(redox-sensitive capases)に属するアポトーシス発現の公知の調節剤であるので、これらの作用は連係するかもしれない。しかし、TX−2ノックアウトマウスが胚性致死であることが見出されたので、TX−1及びTX−2の機能は、互いに完全に補うことはできないようである。例えば、ヌーン,L.(Noon, L.)ら、ミトコンドリアチオレドキシン−2の非存在により、ホモ接合型マウスにおいて大量のアポトーシス及び初期胚性致死率が引き起こされる(The absence of mitochondrial thioredoxin-2 causes massive apoptosis and early embryonic lethality in homozygous mice.)、Mol. Cell. Biol. 23:916-922(2003)を参照のこと。また、チオレドキシンレダクターゼ(TXR)サブタイプ及びチオレドキシン(TX)サブタイプの細胞内局在位置は、細胞質及びミトコンドリア系が細胞内において異なる役割を果たし得ることを示唆する。例えば、パウイス,G.(Powis, G.)及びモノフォート,W.R.(Monofort, W. R.)、チオレドキシンの特性及び生物学的活性(Properties and biological activities of thioredoxins.)、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 41:261-295(2001)を参照のこと。
IV.TRX/TX系の生物学的活性
チオレドキシン(TX)及び関連タンパク質によって調節される生理学的効果
哺乳類細胞は、2つの主要な抗酸化系として、グルタチオン(GSH)/グルタレドキシン系及びチオレドキシン(TX)/チオレドキシンレダクターゼ(TXR)系を含む。GSHの細胞内濃度は、哺乳類細胞において約1〜10ミリモル濃度(mM)であるが、TXの標準の報告された細胞内濃度は、約0.1〜2μMである。したがって、TXは、当初は、細胞内抗酸化剤として、より少ない成分であるようにみえるかもしれない。しかし、TXは、ペルオキシレドキシン又はメチオニンスルホキシドレダクターゼに電子を供給する主要な酵素であり、一般的なタンパク質ジスルフィドレダクターゼとして作用する。TXノックアウトマウスは胚性致死であり(例えば、マツイ,M.(Matsui, M.)ら、マウスチオレドキシン遺伝子のターゲットとされた崩壊によって生じる初期胚性致死率(Early embryonic lethality caused by targeted disruption of the mouse thioredoxin gene.)、Dev. Biol. 178:179-185(1996)を参照のこと)、したがって、TX/TXR系が哺乳類細胞において必須の生存的役割を果たしていることは明らかである。この重要性は、アポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)活性化の阻害(例えば、サイトウ,M.(Saitoh, M.)ら、哺乳類チオレドキシンはアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ask1)の直接的な阻害剤である(Mammalian thioredoxin is a direct inhibitor of apoptosis signal-regulating kinase 1 (askl).)、EMBO J. 17:2596-2606(1998)を参照のこと)が挙げられるがこれに限定されない特定のターゲットタンパク質との相互作用及び必須遺伝子の転写制御のためのAP−1、NF−κB及びp53などの転写因子のDNA結合活性の調節(ナカムラ,H.(Nakamura, H.)ら、細胞性活性化の酸化還元調節(Redox regulation of cellular activation.)、Ann. Rev. Immunol. 15:351-369(1997)を参照のこと)において重要な役割を果たすTXによって説明できる。例えば、酸化的ストレスの間、TX−1は、細胞質ゾルから核へ転位し、核において、TX−1はこれらの前述の転写因子のDNA結合活性を増大する。交代に、細胞性酸化的ストレスに対する防御における役割、又はリボヌクレオチドレダクターゼを介してDNA合成のための「ビルディングブロック(building block)」を供給するためのTXの役割は、等しく必須である。TX−1及びその14KdaのTX−1様タンパク質(TRP14)は、過酸化水素によって可逆的に誘導されるジスルフィドの還元により、PTEN(ホスホイノシチド3キナーゼの作用を逆転させるタンパク質チロシンホスファターゼ)を再活性化させる。例えば、ジェオン,W.(Jeong, W.)ら、TRP14(14Kdaのチオレドキシン関連タンパク質)の同定及びキャラクタリゼーション(Identification and characterization of TRP 14, a thioredoxin-related protein of 14 Kda.)、J. Biol. Chem. 279:3142-3150(2004)を参照のこと。外因性TX−1は、細胞に入り込むことができ、細胞内反応性酸素種(ROS)の発生及び細胞のアポトーシスを弱めることが示されている。例えば、コンドウ,N.(Kondo, N.)ら、負のフィードバックループを有するTリンパ球からのヒトチオレドキシンの酸化還元を感受する放出(Redox-sensing release of human thioredoxin from T lymphocytes with negative feedback loops.)、J. Immunol. 172:442-448(2004)を参照のこと。さらに、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤(アテローム硬化の予防のために一般的に利用されている)もまた、Cys69でのTX−1のS−ニトロシル化を増大して、酸化的ストレスを低減することが示されている。例えば、ヘンデラー,J.(Haendeler, J.)ら、内皮細胞におけるチオレドキシンのS−ニトロシル化及び活性化によるスタチンの抗酸化効果(Antioxidant effects of statins via 5-nitrosylation and activation of thioredoxin in endothelial cells.)、Circulation 110:856-861(2004)を参照のこと。
DNA合成における補因子としてのTX/TXR系
TX/TXRが結合(共役)した系は、DNA合成において必要でかつ細胞増殖に必須であるデオキシリボヌクレオチドの発生において重要な役割を果たす。TXは、リボヌクレオチドレダクターゼによるリボースの還元に必要な電子を与える。リボヌクレオチドレダクターゼは、ヌクレオチド二リン酸のデオキシリボヌクレオチドへの変換を触媒する酵素である。リボヌクレオチドレダクターゼは、DNA合成及び細胞増殖のために必要である。ジアジクオン及びドキソルビシンは、TR/TXR系を阻害して、ヒト癌細胞において細胞性リボヌクレオチドレダクターゼ活性の濃度依存的阻害をもたらすことが示されている。例えば、マウ,B.(Mau, B.)ら、ジアジクオン及びドキソルビシンによる細胞性チオレドキシンレダクターゼの阻害(Inhibition of cellular thioredoxin reductase by diaziquone and doxorubicin.)、Biochem. Pharmacol. 43:1621-1626(1992)を参照のこと。同様に、グルタレドキシン/グルタチオン結合(共役)の反応もまた、リボヌクレオチドレダクターゼの等価物を還元させる。例えば、グルタチオンの減少は、DNA合成を阻害し、多くの癌細胞株においてアポトーシスを誘導することが示されている。例えば、デトレフゼン,L.A.(Dethlefsen, L. A.)ら、マウス乳癌細胞による急性グルタチオン減少の毒性効果(Toxic effects of acute glutathione depletion by on murine mammary carcinoma cells.)、Radiat. Res. 114:215-224(1988)を参照のこと。
細胞のアポトーシスにおけるTX/TXR系の役割
TX−1は、リンパ細胞の培地に添加された場合又はその遺伝子がこれらの細胞内にトランスフェクトされる場合にアポトーシス(プログラムされた細胞死)を予防することが示された。マウスWEH17.2リンパ細胞は、グルココルチコイドデキサメタゾン又はトポイソメラーゼI阻害剤エトポシドに曝露された場合、及びそれほどではないにせよ、キナーゼ阻害剤スタウロスポリン又はタプシガルジン(thapsigarin)(細胞内のカルシウム取り込みの阻害剤)に曝露された場合にアポトーシスを受けた。例えば、パウイス,G.(Powis, G.)ら、細胞成長及び細胞死のチオレドキシン制御及び阻害剤の効果(Thioredoxin control of cell growth and death and the effects of inhibitors.)、Chem. Biol. Interact. 111:23-34(1998)を参照のこと。細胞質及び核におけるTXレベルは、ヒトTX−1を用いるこれらの細胞の安定なトランスフェクションの後に増大し、結果として、トランスフェクトされた細胞は、デキサメタゾン及び他の細胞毒性薬剤に曝露された場合にアポトーシスに対する抵抗性を示した。TX−1トランスフェクションを用いるアポトーシス阻害のパターンは、bcl−2抗アポトーシスオンコジーンを用いるトランスフェクションの後のアポトーシス阻害のパターンに類似した。酸化還元因子−1と連携して、TX−1は、細胞周期の停止及びDNA修復をもたらすp53依存性p−21トランス活性化を誘導する。例えば、ウエダ,S.(Ueda, S.)ら、細胞死の酸化還元制御(Redox control of cell death.)、Antioxid. Redox Signal. 4:405-414(2002)を参照のこと。さらに、TX−1は、アポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK−1)の活性化を抑制することによってアポトーシスのためのシグナリングを調節する。例えば、ナカムラ,H.(Nakamura, H.)ら、細胞性活性化の酸化還元調節(Redox regulation of cellular activation.)、Ann. Rev. Immunol. 15:351-369(1997)を参照のこと。
TX−2が癌細胞において化学療法アポトーシスに対する抵抗性を付与する具体的な機序は、十分に解明されていない。しかし、現在の研究に基づいて、細胞の還元力の増大によって、酸化的化学種によって損傷されているかあるいは損傷されるであろうタンパク質、DNA、細胞膜又は炭水化物の進行中の保護的及び/又は修復的還元ができ、したがって化学療法及び/又は放射線療法から誘導された細胞のアポトーシスを抑える。類似のグルタレドキシン/グルタチオン系もまた、アポトーシスを予防できる。いずれの例においても、TX−2の増大によって、及びグルタレドキシン経路によって媒介されるようにみえる正常な治療の介入に対してアポトーシス感受性が欠如する。一例として、グルタレドキシンによって媒介された経路において、L−ブチオニンスルホキシミンによるグルタチオン減少は、いくつかの胸部及び前立腺癌細胞株の成長を阻害することが示され、そして、ラットR3230Ac乳癌細胞において、顕著にアポトーシスを増大させた。グルタチオンの減少に続くミトコンドリア膨化は、これらの細胞におけるアポトーシスに対する刺激薬であり得ると考えられる。例えば、ビガロウ,J.E.(Bigalow, J. E.)ら、グルタチオン減少又は放射線治療は、R3230Ac乳癌において呼吸作用を変えてアポトーシスを誘導する。(Glutathione depletion or radiation treatment alters respiration and induces apoptosis in R3230Ac mammary carcinoma.)、Adv. Exp. Med. Biol. 530:153-164(2003)を参照のこと。TX−2は、ミトコンドリアシトクロムc放出及びアポトーシスの重要な調節剤であることが示されている。例えば、タナカ,M.(Tanaka, M.)ら、チオレドキシン−2(TX−2)は、ミトコンドリア依存性アポトーシスの調節における必須遺伝子である(Thioredoxin-2 (TX-2) is an essential gene in regulating mitochondrial-dependent apoptosis.)、EMBO J. 21:1695-1701(2002)を参照のこと。
脈管形成の刺激におけるTXの役割
癌細胞による脈管形成は、原発性並びに二次性(転移性腫瘍)に局在化される成長及び延命効果を与える。悪性腫瘍は、一般に血管に乏しいが、脈管形成因子の過剰発現とともに、腫瘍細胞は、より一層栄養及び酸化を得て、それによって癌細胞の増殖及び腫瘍の成長を促進する。ヒト乳癌MCF−7、ヒト結腸癌HT29及びマウスWEHI7.2リンパ腫細胞を含むいくつかの異なる細胞株のヒトTX−1を用いるトランスフェクションは、血管内皮成長因子(VEGF)の分泌において有意な増大をもたらした。例えば、ウェルチ,S.J.(Welch, S. J.)ら、酸化還元タンパク質チオレドキシン−1は、低酸素誘導因子1αタンパク質発現を増大させる:TXR−1過剰発現は、血管内皮成長因子産生の増大及び腫瘍脈管形成の増強をもたらす(The redox protein thioredoxin-1 increases hypoxia-inducible factor 1α protein expression: TXR-1 overexpression results in increased vascular endothelial growth factor production and enhanced tumor angiogenesis.)、Cancer Res. 62:5089-5095(2003)を参照のこと。VEGF分泌は、酸素正常(20%酸素)条件下で41%〜77%、及び低酸素(1%酸素)条件下で46%〜79%増大した。対照的に、酸化還元不活性TX変異体(Cys→Ser)を用いるトランスフェクションは、部分的にVEGF産生を阻害した。TX−1をトランスフェクトしたWEH17.2細胞をSCIDマウスにおいて増殖した場合、VEGFレベルは顕著に増大し、腫瘍脈管形成(微細血管密度によって測定される)もまた、野生型WEH17.2腫瘍に対して2.5倍増大した。同上文献。したがって、チオレドキシン系が癌細胞においてVEGFレベルを増大させ得るエビデンスが存在する。
細胞増殖の刺激におけるTXの役割
TX−1への曝露は、リンパ球、線維芽細胞、及び種々の白血病性及び固形腫瘍細胞株の成長を刺激することが示された。例えば、パウイス,G.(Powis, G.)及びモノフォート,W.R.(Monofort, W. R.)、チオレドキシンの特性及び生物学的活性(Properties and biological activities of thioredoxins.)、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 41:261-295(2001)を参照のこと。対照的に、既に述べた50倍高い濃度でのCys→Ser酸化還元変異体は、細胞成長を刺激しなかった。この増殖性効果についての機序は十分に解明されていないが、このようなTXによって媒介された細胞増殖の増大は多因子的であり、種々のサイトカイン(例えば、IL−1、IL−2、及び腫瘍壊死因子α(TNFα))の産生の増大及び成長因子活性(例えば、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF))の相乗作用の両方に関連するエビデンスが存在する。さらに、DNA合成及び転写も、同様に増大すると考えられる。
TXの抗酸化効果
グルタチオンペルオキシダーゼ及び膜ペルオキシダーゼは、酸素ラジカル及び過酸化物が挙げられるがこれらに限定されない反応性酸素種(ROS)の損傷効果から細胞を保護することにおいて非常に重要な役割を果たす。例えば、ビガロウ,J.E.(Bigalow, J. E.)ら、X線応答における過酸化物及びスーパーオキシドの重要性(The importance of peroxide and superoxide in the x-ray response.)、Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 22:665-669(1992)を参照のこと。これらの酵素は、反応性酸素種(ROS)を除去するための電子供給源としてチオール基を利用し、このプロセスにおいて、保存されたシステイン残基とのジスルフィド結合の形成を介して、他のペルオキシダーゼとホモ又はヘテロダイマーを形成する。TXは、チオレドキシンペルオキシダーゼのための電子供与体としての役割を果たすことによって、主として抗酸化効果をもたらす。したがって、酸化型ペルオキシダーゼの還元によって、TXはこの酵素をモノマー型に戻して、この酵素がオキシラジカル除去を継続することを可能にする。
TXはまた、チオレドキシンペルオキシダーゼの発現を増大できる。例えば、TX−1で安定にトランスフェクトされたMCF−7ヒト乳癌細胞において、チオレドキシンペルオキシダーゼのmRNAは、野生型及び空ベクター形質転換細胞に対して2倍になり、ウェスタンブロットは、同様にタンパク質レベルの増大を示した。また、TX−1をトランスフェクトしたマウスWEH17.2細胞は、過酸化物によって誘導されたアポトーシスに対して、野生型及び空ベクター形質転換細胞よりも、より抵抗性であった。しかし、TX−1トランスフェクションは、デキサメタゾン又は化学療法剤によって誘導されたアポトーシスから細胞を保護しなかった。例えば、ベルグレン,M.I.(Berggren, M. I.)ら、チオレドキシンペルオキシダーゼ1は、チオレドキシン−1をトランスフェクトした細胞において増大し、過酸化水素によって生じたアポトーシスからの保護を増強させるが、デキサメタゾン、エトポシド及びデオキソルビン(deoxorubin)を含む他の薬剤によって生じたアポトーシスからの保護を増強させない(Thioredoxin peroxidase-1 is increase in thioredoxin- 1 transfected cells and results in enhanced protection against apoptosis caused by hydrogen peroxide, but not by other agents including dexamethasone, etoposide, and deoxorubin.)、Arch. Biochem. Biophys. 392:103-109(2001)を参照のこと。
転写因子活性の刺激におけるTXの役割
チオレドキシン(TX)は、多くの転写因子(例えば、NF−κB、AP−1及びAP−2)及び核内受容体(例えば、グルココルチコイド及びエストロゲン受容体)のDNA結合活性を増大させる。例えば、ニシナカ,Y.(Nishinaka, Y.)ら、チオレドキシンによる細胞機能の酸化還元制御:宿主防御における新たな治療的動向(Redox control of cellular functions by thioredoxin: A new therapeutic direction in host defense.)、Arch. Immunol. Ther. Exp. 49:285-292(2001)を参照のこと。非限定的な例として、NF−κBに関して、TXは、核内のp50サブユニットのCys残基を還元し、そのようにしてNF−κBがDNAに結合するのを可能にする。例えば、マウ,B.(Mau, B.)ら、ジアジクオン及びドキソルビシンによる細胞性チオレドキシンレダクターゼの阻害(Inhibition of cellular thioredoxin reductase by diaziquone and doxorubicin.)、Biochem. Pharmacol. 43:1621-1626(1992)を参照のこと。しかし、細胞質において、TXは逆説的に、内因性阻害剤IκBの解離をブロックしてIκBキナーゼに対するシグナリングを妨害することによって、NF−κBを妨害する。例えば、ヒロタ,K.(Hirota, K.)ら、細胞質及び核におけるチオレドキシンの明確な役割:転写因子NF−κBの酸化還元調節の2段階機序(Distinct roles of thioredoxin in the cytoplasm and in the nucleus: A two-step mechanism of redox regulation of transcription factor nf-κB.)、J. Biol. Chem. 274:27891-27897(1999)を参照のこと。いくつかの転写因子に対するTXの効果は、Ref−1(DNA修復エンドヌクレアーゼ活性も有する37kDaのタンパク質)の還元によって媒介される。例えば、TXはRef−1を還元し、次いでAP−1のfos及びjunサブユニット内のシステイン残基を還元してDNA結合を促進する。Ref−1の酸化還元活性はそのN末端ドメインにおいて見出されるが、そのDNA修復活性はC末端配列中に位置する。
細胞性タンパク質に対するTX結合
還元型TX−1は、その酸化型又は触媒部位Cys→Ser酸化還元不活性変異体とは異なり、種々の細胞性タンパク質に結合し、それらのタンパク質の生物学的活性を調節し得る。例えば、パウイス,G.(Powis, G.)及びモノフォート,W.R.(Monofort, W. R.)、チオレドキシンの特性及び生物学的活性(Properties and biological activities of thioredoxins.)、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 41:261-295(2001)を参照のこと。さらに、NK−κB及びRef−1に対して、TXは、(i)アポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)、(ii)プロテインキナーゼC(PKC)の種々のアイソフォーム、(iii)p40ファゴサイトオキシダーゼ、(iv)核グルココルチコイド受容体及び(v)リポカリンに結合する。例えば、ASK1は、JNK及びp38MAPキナーゼ経路の活性化物質であり、TFNαによって媒介されるアポトーシスに必要である。例えば、イチジョウ,H.(Ichijo, H.)ら、jnk及びp38シグナリング経路を活性化する哺乳類mapキナーゼであるask1によるアポトーシスの誘導(Induction of apoptosis by askl, a mammalian map kinase that activates jnk and p38 signaling pathways.)、Science 275:90-94(1997)を参照のこと。TXは、ASK1のN末端で部位に結合し、それにより、キナーゼ活性を阻害してASK1によって媒介されるアポトーシスをブロックする。例えば、サイトウ,M.(Saitoh, M.)ら、哺乳類チオレドキシンはアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ask1)の直接的な阻害剤である(Mammalian thioredoxin is a direct inhibitor of apoptosis signal-regulating kinase 1 (ask1).)、EMBO J. 17:2596-2606(1998)を参照のこと。しかし、酸化的ストレス条件下では、TXを酸化する反応性酸素種が産生され、それにより、ASK1からのTXの解離が促進し、それに付随するASK1の活性化がもたらされる。
癌におけるTX/TXR発現
チオレドキシン(TX)の種々の細胞外の役割が、癌において調査されている。既に記載されたように、TXは、最初、ADFと名付けられたサイトカイン様因子としてクローニングされた。独立して、TXは、Epstein−Barrウイルス形質転換B細胞によって産生された、3B6−IL1と名付けられたオートクリン成長因子(例えば、ワカスギ,H.(Wakasugi, H.)ら、Epstein−Barrウイルス含有B細胞株は、成長因子として用いるインターロイキン1を産生する(Epstein-Barr virus-containing B-cell line produces an interleukin 1 that it uses as a growth factor.)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:804-808(1987)を参照のこと)、又はT細胞ハイブリドーマMP6によって産生された、MP6−BCGFと名付けられたB細胞成長因子(例えば、ローゼン A(Rosen A)ら、チオレドキシンとして同定された、正常及び白血病性B細胞の成長を促進するCD4+T細胞株分泌因子(A CD4+ T cell line-secreted factor, growth promoting for normal and leukemic B cells, identified as thioredoxin.)、Int. Immunol. 7:625-33(1995)を参照のこと)としても同定された。また、好酸球細胞毒性増強因子(ECEF)は、TXのN末端の1〜80(又は1〜84)残基を含むTXの切断型(Trx80)として見出され(例えば、シルバーシュタイン,D.S.(Silberstein, D. S.)ら、ヒト好酸球細胞毒性増強因子。COOH末端を欠失する生合成(組み換え)種の好酸球刺激活性及びジチオールレダクターゼ活性(Human eosinophil cytotoxicity-enhancing factor. Eosinophil-stimulating and dithiol reductase activities of biosynthetic (recombinant) species with COOH -terminal deletions.)、J. Biol. Chem. 268:913-942(1993)を参照のこと)、妊娠している雌性血清における免疫抑制因子であった「早期妊娠因子」の成分もまた、TXとして同定された(例えば、クラーク,F.M.(Clarke, F. M.)ら、「早期妊娠因子」現象に関与する分子の同定(Identification of molecules involved in the "early pregnancy factor" phenomenon.)、J. Reprod. Fertil. 93:525-539(1991)を参照のこと)。これらの歴史的な報告は、集合的に、TXが種々の重要な細胞外機能を有することを説明する。
チオレドキシン(TX)発現は、種々のヒト悪性疾患において増大される。このような悪性疾患としては、肺癌、結腸直腸癌、頸部癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、TX発現は、積極的な腫瘍成長にも関連している。この発現レベルの増大は、おそらくTXタンパク質構造及び機能の変化に関連する。例えば、膵管癌組織において、TXレベルは、正常膵臓組織と比較して、32件のうち24件で上昇したことが見出された。グルタレドキシンレベルは、これらの件のうち29件で増大した。例えば、ナカムラ,H.(Nakamura, H.)ら、膵臓癌における酸化還元調節タンパク質であるチオレドキシン及びグルタレドキシンの発現(Expression of thioredoxin and glutaredoxin, redox-regulating proteins, in pancreatic cancer.)、Cancer Detect. Prev. 24:53-60(2000)を参照のこと。同様に、原発性結腸直腸癌又はリンパ節転移の組織サンプルは、正常結腸粘膜又は結腸腺腫性ポリープよりも、TX−1レベルが有意に高かった。例えば、ラフェル,J.(Raffel, J.)ら、ヒト結腸直腸癌におけるチオレドキシン−1の発現の増大は、患者の生存の減少に関係する(Increased expression of thioredoxin-1 in human colorectal cancer is associated with decreased patient survival.)、J. Lab. Clin. Med. 142:46-51(2003)を参照のこと。
2つの最近の研究において、TX発現は、積極的な腫瘍成長及びより不良な予後に関係した。102の原発性非小細胞肺癌の研究において、腫瘍細胞TX発現を、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片の免疫組織化学によって測定した。例えば、カコリリス,S.(Kakolyris, S.)ら、チオレドキシン発現は、初期の手術可能な非小細胞肺癌においてリンパ節の状態及び予後に関係する(Thioredoxin expression is associated with lymph node status and prognosis in early operable non-small cell lung cancer.)、Clin. Cancer Res. 7:3087-3091(2001)を参照のこと。TX発現の非存在は、リンパ節陰性状態(P=0.004)及びよりよい結果(P<0.05)に有意に関係し、腫瘍の病期、悪性度分類(グレード)又は組織学とは無関係であることが見出された。研究者らはまた、これらの結果がいくつかのヒト癌における成長プロモーターとしてTXの提案された役割と一致したこと、及び過剰発現がより積極的な腫瘍表現型(したがって、TX過剰発現と結節陽性及びより悪い結果との関連)を示し得ることを結論付けた。37名の結腸直腸癌患者についての別の研究において、TX−1発現は、デュークの病期分類(Dukes stage)が高くなるにつれて増大する傾向を示し(P=0.077)、生存の低減と有意な相関関係を示した(P=0.004)。デュークの病期分類について調整後、TX−1レベルは、生存に関係する重要な予後因子のままであった(P=0.012)。例えば、ラフェル,J.(Raffel, J.)ら、ヒト結腸直腸癌におけるチオレドキシン−1の発現の増大は、患者の生存の減少に関係する(Increased expression of thioredoxin-1 in human colorectal cancer is associated with decreased patient survival.)、J. Lab. Clin. Med. 142:46-51(2003)を参照のこと。GSHレベルは前述の研究のいずれにおいても決定されなかったことに留意されるべきである。
TXR活性と腫瘍成長との間の関係は、それほど明確ではない。腫瘍細胞は、TXR酵素の発現を増大させる必要がないかもしれないが、その触媒活性は、関数的に増大され得る。例えば、ヒト結腸直腸腫瘍は、正常結腸粘膜よりも、TXR活性が2倍高いことが見出された。例えば、ムスタチック,D.(Mustacich, D.)及びパウイス,G.(Powis, G.)、チオレドキシンレダクターゼ(Thioredoxin reductase.)、Biochem. J. 346:1-8(2000)を参照のこと。TXRはまた、ヒト原発性黒色腫において上昇し、侵襲性と相関関係を示すことが報告されている。例えば、シャルロイター,K.U.(Schallreuter, K. U.)ら、チオレドキシンレダクターゼレベルは、ヒト原発性黒色腫細胞において上昇される(Thioredoxin reductase levels are elevated in human primary melanoma cells.)、Int. J. Cancer 48:15-19(1991)を参照のこと。TXR酵素レベル及び触媒活性と癌の病期及び結果とを関係付けるさらなる評価は、この関係を十分に解明するために必要である。
低酸素誘導因子(HIF)の刺激におけるTXの役割
癌細胞は、ほとんどすべての固形腫瘍において見出される低酸素条件に適応できる。低酸素は、低酸素誘導因子1(HIF−1)の活性化をもたらす。この低酸素誘導因子1は、癌表現型の発生に関与する転写因子である。詳細には、HIFは、低酸素応答性領域(HRE)に結合して、(i)脈管形成(例えば、VEGF);(ii)代謝適応(例えば、GLUT輸送体、ヘキソキナーゼ及び他の解糖酵素);及び(iii)細胞増殖及び生存を促進する役割を果たす種々の遺伝子の発現を誘導する。HIFは、2つのサブユニット、すなわち、HIF−1α(これは低酸素によって誘導される)及びHIF−1β(これは構成的に発現される)で構成される。TX過剰発現は、酸素正常条件下及び低酸素条件下の両方でHIF−1αを有意に増加させることが示されており、このことは、HRE調節遺伝子の発現の増大のみならず、ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいて実証されたHRE活性の増大と関係していた。HIFは、ヘキソキナーゼを誘導し、それにより、優勢なエネルギー源となる解糖を可能にすることによって、低酸素条件下で腫瘍細胞に延命効果を与える可能性がある。例えば、転移性肝臓癌患者からの外科的試料は、肝細胞癌患者からの試料よりも、腫瘍血管が少なく、かつヘキソキナーゼ発現が高かった。ヘキソキナーゼ発現は、両母集団においてHIF−1α発現と相関関係を有し、これらの発現は、壊死領域の近くに見出された腫瘍細胞において共局在化(co-localize)した。
癌用薬物(抗癌剤)抵抗性におけるTX/TXR系
既に述べたように、哺乳類チオレドキシンレダクターゼ(TXR)は、多くの重要な細胞性プロセスに関与する。このようなプロセスとしては、細胞増殖、抗酸化防御及び酸化還元シグナリングが挙げられるが、これらに限定されない。グルタチオンレダクターゼ(GR)と共に、チオレドキシンレダクターゼはまた、多くの細胞性プロセスに対して還元性等価物を与える主な酵素である。GR及びTXRは、同じ酵素ファミリーのフラビンタンパク質であるが、ただし後者は、セレン含有タンパク質である。セレノシステインを含む触媒部位により、TXRは広範な基質の還元を触媒し得るが、TXRはまた、セレノシステイン部分の並はずれて高い反応性に起因して、求電子化合物によって容易にターゲットとされ得る。近年の研究において、抗癌アルキル化剤及び白金含有化合物によるTXR及びGRの阻害が、GRの阻害と比較された。例えば、ワング,X.(Wang, X.)ら、癌療法におけるイホスファミドの重要な機序としてのチオレドキシンレダクターゼ不活性化(Thioredoxin reductase inactivation as a pivotal mechanism of ifosfamide in cancer therapy.)、Eur. J. Pharmacol. 579:66-75(2008);ワング,X.(Wang, X.)ら、in vivoにおける腫瘍チオレドキシンレダクターゼの強力な阻害剤としてのシクロホスファミド(Cyclophosphamide as a potent inhibitor of tumor thioredoxin reductase in vivo.)、Toxicol. Appl. Pharmacol. 218:88-95(2007);ウィッテ,A−B(Witte, A-B.)ら、主要な種類のアルキル化抗癌化合物及び白金含有抗癌化合物による、グルタチオンレダクターゼの阻害ではなくチオレドキシンレダクターゼの阻害(Inhibition of thioredoxin reductase but not of glutathione reductase by the major classes of alkylating and platinum- containing anticancer compounds.)、Free Rad. Biol. Med. 39:696-703(2005)を参照のこと。これらの研究により、(i)ニトロソウレアであるカルムスチンは、GR及びTXRの両方を阻害し得ること;(ii)ナイトロジェンマスタード(シクロホスファミド、クロラムブシル及びメルファラン)及びアルキルスルホナート(スルホン酸アルキル)(ブスルファン)は、濃度及び時間依存様式においてTXRを不可逆的に阻害したが、GRを阻害しなかったこと;(iii)オキサザホスホリンであるイホスファミドは、TXRを阻害したこと;(iv)アントラサイクリン(ダウノルビシン及びドキソルビシン)は、TXRの阻害剤ではなかったこと;(v)シスプラチン、その一水和錯体、オキサリプラチン及びトランスプラチンは、TXRを不可逆的に阻害したが、GRを阻害しなかったこと;並びに(vi)カルボプラチンは、TXR又はGRのいずれも阻害できなかったことが見出された。他の研究は、キノン、ニトロソウレア及び13−cis−レチノイン酸によるTXRの不可逆的阻害が、シスプラチン、オキサリプラチン及びトランスプラチンによるTXRの阻害に著しく類似することを示している。例えば、アメア,E.S.J.(Amer, E. S. J.)ら、cis−ジアンミンジクロロ白金(II)及びその主要な代謝産物であるグルタチオン−白金錯体による哺乳類チオレドキシン、チオレドキシンレダクターゼ及びグルタレドキシンの阻害の分析(Analysis of the inhibition of mammalian thioredoxin, thioredoxin reductase, and glutaredoxin by cis-diamminedichloroplatinum (II) and its major metabolite, the glutathione-platinum complex.)、Free Rad. Biol. Med. 31:1170-1178(2001)を参照のこと。
研究はまた、TXR酵素の非常に接近しやすいセレネニルスルフィド/セレノールチオールモチーフが、多くの求電子化合物によって速やかに誘導体化され得ることを示している。例えば、ビーカー,K(Beeker, K)ら、病態生理学的因子及び薬物ターゲットとしてのチオレドキシンレダクターゼ(Thioredoxin reductase as a pathophysiological factor and drug target.)、Eur. J. Biochem. 262:6118-6125(2000)を参照のこと。これらの化合物としては、(i)シスプラチン及びそのグルタチオン付加体(例えば、アメア,E.S.J.(Amer, E.S.J.)ら、cis−ジアンミンジクロロ白金(II)及びその主要な代謝産物であるグルタチオン−白金錯体による哺乳類チオレドキシン、チオレドキシンレダクターゼ及びグルタレドキシンの阻害の分析(Analysis of the inhibition of mammalian thioredoxin, thioredoxin reductase, and glutaredoxin by cis-diamminedichloroplatinum (II) and its major metabolite, the glutathione-platinum complex.)、Free Rad. Biol. Med. 31:1170-1178(2001)を参照のこと);(ii)ジニトロハロベンゼン(例えば、ノールベルグ,J.(Nordberg, J.)ら、哺乳類チオレドキシンレダクターゼは、酸化還元活性なセレノシステイン及びその隣接するシステイン残基の両方のアルキル化により、ジニトロハロベンゼンによって不可逆的に阻害される(Mammalian thioredoxin reductase is irreversibly inhibited by dinitrohalobenzenes by alkylation of both the redox active selenocysteine and its neighboring cysteine residue.)、J. Biol. Chem. 273:10835-10842(1998)を参照のこと);(iii)金化合物(例えば、グロマー,S.(Gromer, S.)ら、ヒト胎盤チオレドキシンレダクターゼ:治療用金化合物によるセレン含有酵素の単離、定常状態動力学、阻害(Human placenta thioredoxin reductase: Isolation of the selenoenzyme, steady state kinetics, inhibition by therapeutic gold compounds)、J. Biol. Chem. 273:20096-20101(1998)を参照のこと);(iv)有機カルコゲナイド(organochalogenide)(例えば、エングマン,L.(Engman, L.)ら、水溶性有機テルル化合物は、チオレドキシンレダクターゼ及びヒト癌細胞の成長を阻害する(Water-soluble organatellurium compounds inhibit thioredoxin reductase and the growth of human cancer cells.)、Anticancer Drug. Des. 15:323-330(2000)を参照のこと);(v)種々のナフタザリン誘導体(例えば、デソリン,I.(Dessolin, I.)ら、ナフタザリン誘導体に容易に接近できる2.3−ジメチルナフタザリンコアの臭素化の研究(Bromination studies of the 2.3-dimethylnaphthazarin core allowing easy access to naphthazarin derivatives.)、J. Org. Chem. 66:5616-5619(2001)を参照のこと);(vi)ある種のニトロソウレア(例えば、シャルロイター,K.U.(Schallreuter, K. U.)ら、ニトロソウレア抗腫瘍薬物並びにチオレドキシンレダクターゼ、グルタチオンレダクターゼ及びリボヌクレオチドレダクターゼの作用機序(The mechanism of action of the nitrosourea anti-tumor drugs and thioredoxin reductase, glutathione reductase and ribonucleotide reductase.)、Biochim. Biophys. Acta 1054:14-20(1990)を参照のこと);並びに(vii)C−ビニルピリジン、ヨードアセトアミド又はヨード酢酸などの一般的なチオール又はセレノールアルキル化剤(例えば、ノールベルグ,J.(Nordberg, J.)ら、哺乳類チオレドキシンレダクターゼは、酸化還元活性なセレノシステイン及びその隣接するシステイン残基の両方のアルキル化により、ジニトロハロベンゼンによって不可逆的に阻害される(Mammalian thioredoxin reductase is irreversibly inhibited by dinitrohalobenzenes by alkylation of both the redox active selenocysteine and its neighboring cysteine residue.)、J. Biol. Chem. 273:10835-10842(1998)を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。
同様に、エビデンスのいくつかの傾向は、チオレドキシン(TX)が、多くの化学療法薬物に対する抵抗性を与えるために必要であり得るが、全体として十分でないことを示唆する。このエビデンスとしては、(i)ドキソルビシンに対する成人T細胞白血病細胞株及びシスプラチンに対する卵巣癌細胞の抵抗性は、細胞内のTX−1レベルの増大に関係していること;(ii)TX−1レベルが増大した肝細胞癌細胞は、シスプラチンに対してそれほど感受性でなかった(しかし、ドキソルビシン又はマイトマイシンCに対してはそれほど感受性でないというわけではなかった)こと;(iii)TX−1 mRNA及びタンパク質レベルは、シスプラチンに対して抵抗性がなされた膀胱及び前立腺癌細胞において4〜6倍増大したが、アンチセンスプラスミドを用いてTX−1レベルを低下すると、シスプラチンに対する感受性が元に戻り、いくつかの他の細胞毒性薬物に対する感受性を増大させたこと;(iv)TX−1レベルは、シスプラチン抵抗性の胃及び結腸癌細胞において上昇されたこと;及び(v)TX−1を用いる線維肉腫細胞の安定なトランスフェクションは、シスプラチン抵抗性の増大をもたらすことが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ビアグロウ,J.E.(Biaglow, J. E.)及びミラー,R.A.(Miller, R. A.)、チオレドキシンレダクターゼ/チオレドキシン系(The thioredoxin reductase/thioredoxin system.)、Cancer Biol. Ther. 4:6-13(2005)を参照のこと。
グルタチオンはまた、抗癌薬抵抗性において役割を果たす可能性がある。グルタチオン−S−トランスフェラーゼは、グルタチオンと多くの求電子化合物との結合(抱合)を触媒し、種々の癌薬物によって上方制御される。グルタチオン−S−トランスフェラーゼは、セレン非依存性のペルオキシダーゼ活性を有する。Mμもまた、グルタレドキシン活性を有する。いくつかの薬剤は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼに対する基質であり、グルタチオン結合(抱合)によって直接的に不活性化され、そのようにして、抵抗性をもたらす。酵素基質の例としては、メルファラン、カルムスチン(BCNU)及びナイトロジェンマスタードが挙げられる。癌細胞株のパネルにおいて、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ発現は、アルキル化剤に対する感受性と逆相関であった。グルタチオン−S−トランスフェラーゼはMAPキナーゼ経路も阻害するので、この酵素を上方制御する他の薬物は抵抗性を有するようになる可能性がある。これらの薬剤は、アポトーシス応答を誘導するために、機能的MAPキナーゼ、詳細にはJNK及びp38活性を必要とする。例えば、タウンゼント,D.M.(Townsend, D. M.)及びテュー,K.D.(Tew, K. D.)、抗癌薬抵抗性におけるグルタチオン−S−トランスフェラーゼの役割(The role of glutathione-S-transferase in anti-cancer drug resistance.)、Oncogene 22:7369-7375(2003)を参照のこと。
ターゲッティングTX/TXR結合(連結)反応
TX/TRXの生物学的活性及び積極的な腫瘍成長に対するこの活性の見かけの関連性は、この系が癌療法のための魅力的なターゲットであり得ることを示唆する。個々の酵素又は基質のいずれかが改変できる。グルタレドキシンを含まない細胞において、ヘキソース一リン酸シャント(HMPS)によって生成されたNADPHの減少又は、交代に、TX又はTRXとの直接的な相互作用は、HMPS/TX/TRX結合(連結)反応をブロックするための実行可能なアプローチであることを証明してもよい。グルタレドキシンが存在する細胞において、その還元活性もまた、グルタチオンの減少を介してターゲットとする必要があり得る。
酸化的代謝の生物学的マーカーとしての血漿又は血清中のチオレドキシン
チオレドキシン1(TX)は、酸化的代謝の変化に応答して細胞によって放出される。例えば、コンドウ,N.(Kondo, N.)ら、負のフィードバックループを有するTリンパ球からのヒトチオレドキシンの酸化還元を感受する放出(Redox-sensing release of human thioredoxin from T lymphocytes with negative feedback loops.)、J. Immunol. 172:442-448(2004)を参照のこと。TXの血漿又は血清レベルは、高感度サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(エライザ(ELISA))によって測定される。TXの血清血漿レベルは、種々の障害における酸化的代謝の変化に対する良好なマーカーである。例えば、バーク−ガフニー,A.(Burke-Gaffhey, A.)ら、チオレドキシン:ヒト疾患において味方か敵か?(Thioredoxin: friend or foe in human diseases?)、Trends Pharmacol. Sci. 26:398-404(2004)を参照のこと。例えば、TRXの血漿レベルは、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者において上昇して、GSHの細胞内レベルと逆相関関係を示し、このことは、AIDSを患いGSHの細胞内レベルと逆相関関係を示す患者(AIDSを患うHIVに感染した個体)を示唆する。例えば、ナカムラ,H.(Nakamura, H.)ら、HIVに感染した個体における血漿チオレドキシンレベルの上昇(Elevation of plasma thioredoxin levels in HIV-infected individuals.)、Int. Immunol. 8:603-611(1996)を参照のこと。C型慢性肝炎患者において、TRX及びフェリチンの血清レベルは、インターフェロン療法の効き目に対する良好なマーカーである。例えば、スミダ,Y.(Sumida, Y.)ら、C型ウイルス感染性肝炎患者における酸化的ストレスの指標としての血清チオレドキシンレベル(Serum thioredoxin levels as an indicator of oxidative stress in patients with hepatitis C virus infection.)、J. Hepatol. 33:616-622(2001)を参照のこと。癌の場合において、TRXの血清レベルは、肝細胞癌患者(例えば、ミヤザキ,K.(Miyazaki, K.)ら、肝細胞癌患者における血清チオレドキシンの血清レベルの上昇(Elevated serum levels of serum thioredoxin in patients with hepatocellular carcinoma.)、Biotherapy 11:277-288(1998)を参照のこと)及び膵臓癌患者(例えば、ナカムラ,H.(Nakamura, H.)ら、膵臓癌における酸化還元調節タンパク質であるチオレドキシン及びグルタレドキシンの発現(Expression of thioredoxin and glutaredoxin, redox-regulating proteins, in pancreatic cancer.)、Cancer Detect. Prev. 24:53-60(2000)を参照のこと)において上昇する。TXの血清レベルは、主な腫瘍の除去後に減少し、このことは、癌組織が血清中のTX上昇の主な原因であることを示唆する。例えば、ミヤザキ,K.(Miyazaki, K.)ら、肝細胞癌患者における血清チオレドキシンの血清レベルの上昇(Elevated serum levels of serum thioredoxin in patients with hepatocellular carcinoma.)、Biotherapy 11:277-288(1998)を参照のこと。
癌患者におけるTX療法の使用
TXは循環において抗炎症効果を示すので、特に、TXは炎症部位中への好中球浸潤をブロックすることが示されているので、TX療法の臨床応用が、現在計画されている。例えば、組み換えヒトTX(rhTX)の投与は、ブレオマイシン又は炎症性サイトカインによって誘導された間質性肺炎を阻害する。例えば、ホシノ,T.(Hoshino, T.)ら、酸化還元活性タンパク質チオレドキシンは、炎症性サイトカイン又はブレオマイシンによって誘導された肺損傷を予防する(Redox-active protein thioredoxin prevents proinflammatory cytokine- or bleomycin- induced lung injury.)、Am. J. Respir. Crit. Care Med. 168:1075-1083(2003)を参照のこと。したがって、急性呼吸促進症候群(ARDS)/急性肺損傷(ALI)は、TX療法にとって良好なターゲットとなる障害の一つである。ARDS/ALIは、ゲフィチニブ(上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼを阻害する分子標的剤)などの抗癌剤を含む種々の病因によって生じる。癌患者におけるTX療法の安全性は、現在試験されている。癌組織におけるTXの細胞内発現は、例えば、抗癌剤に対する抵抗性に関係するが(例えば、ヨコミゾ,A.(Yokomizo, A.)ら、チオレドキシンの細胞性レベルは、シスプラチン、マイトマイシンC、ドキソルビシン及びエトポシドに対する薬物感受性に関係する(Cellular levels of thioredoxin associated with drug sensitivity to cisplatin, mitomycin C, deoxrubicin, and etoposide.)、Cancer Res. 55:4293-4296(1995);ササダ,T.(Sasada, T.)ら、cis−ジアンミンジクロロ白金(II)(CDDP)に対する酸化還元制御及び抵抗性;CDDPによって誘導された細胞毒性からのヒトチオレドキシンの保護効果(Redox control and resistance to cis-diamminedichloroplatinum (II) (CDDP); protective effect of human thioredoxin against CDDP-induced cytotoxicity.)、J. Clin. Investig. 97:2268-2276(1996)を参照のこと)、外因的に投与されたrhTRXが癌の成長を促進することを示すエビデンス(証拠)はない。例えば、ヌードマウスに植えられた腫瘍の成長に対して、投与されたrhTRXの効果を促進することはできない。さらに、投与されたrhTRXは、ヌードマウスにおける腫瘍成長を抑制するための抗癌剤に対する阻害効果を有しない。このことによって、外因性TRXの細胞取り込みは非常に限定され、血漿中の投与されたTRXは、速やかに、既に述べたように腫瘍成長刺激活性を有しない酸化型になることが説明され得る。
チオレドキシン1(TX)発現は癌組織において増強されるので、現在、TX及び/又はチオレドキシンレダクターゼ(TXR)のための阻害剤が、新たな抗癌剤として研究されている。例えば、パウイス,G.(Powis, G.)、チオレドキシンの特性及び生物学的活性(Properties and biological activities of thioredoxins.)、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 41:261-295(2001)を参照のこと。この見地から、TX遺伝子療法は、癌を有する患者において危険であるかもしれない。対照的に、rhTXの投与は、白血球浸潤に関係する炎症性障害を減ずるために、癌を有する患者にさえも安全でかつ適用可能であり得る。
本発明において論じられ及び記載される日本第III相非小細胞肺癌(NSCLC)臨床試験及び米国(U.S.)第II相NSCLC臨床試験は、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンを不活性化又は調整する薬剤(この薬剤は、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物の様式において薬理学的に作用する)によって生じた生存の増大についての対照(controlled)臨床的エビデンス(証拠)を示すことにも留意されるべきである。これら2つの前述の臨床試験は、後述の項で十分に論じられる。しかし、これらの対照(controlled)臨床試験の両方から得られたデータから、患者、特に本発明の式(I)の化合物を受ける非小細胞肺癌、腺癌サブタイプの患者において、生存が顕著に増大することが観察される。例えば、日本第III相NSCLC臨床試験及び米国第II相NSCLC臨床試験のタボセプト部門において、それぞれ、腺癌患者について約138日(すなわち、4.5月)及び約198日(すなわち、6.5月)、生存期間中央値が増大した。
種々の代表的な本発明の式(I)の化合物が合成され、そして精製されている。さらに、本発明の式(I)の化合物である、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてタボセプト(Tavocept)(商標)、ジメスナ及びBNP7787とも称される)は、本発明の出願人によって提供された指導をもって、譲受人であるバイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッドにより、非臨床試験のみならず、患者における第I相、第II相及び第III相臨床試験に導入されている。さらに、この化合物は、腺癌を含む進行した段階(IIIB/IV)の非小細胞肺癌(NSCLC)患者に関し多施設無作為第II相臨床試験において利用されている(米国第II相NSCLC臨床試験)。化学療法剤とともに2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(タボセプト(商標))を利用する前述の最近の第II相及び第III相臨床試験からのデータは、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウムが、腺癌サブタイプを含む非小細胞肺癌(NSCLC)を患う個体の生存時間を著しく増大できることを証明している。簡潔には、試験に基づくエビデンスは、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウムが、選択的様式において、腫瘍細胞内で酸化的代謝を増大させることによって患者の生存時間を増大させるように機能するという所見を支持する。
本発明の出願人は、以前に、(i)腎毒性を緩和するため(例えば、米国特許第5,789,000号;同第5,866,169号;同第5,866,615号;同第5,866,617号;及び同第5,902,610号)及び(ii)神経毒性を緩和するため(例えば、公開された米国特許出願第2003/0133994号)の2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム及び他のジチオエーテルの使用を開示している。これらの文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。しかし、既に述べたように、本発明の新規なアプローチは、癌患者の生存時間を増大させる組成物、方法及びキットを含み、ここで、癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法剤に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである。
本発明は、以下を開示及び特許請求の範囲に記載する:(i)癌患者の生存時間を増大させる組成物であって、前記癌が、チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、あるいはチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法薬物に対する抵抗性を示すか又は有する癌のいずれかである組成物;(ii)癌患者の生存時間を増大させる治療方法であって、前記癌が、チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/あるいはチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法薬物に対する抵抗性を示すか又は有する癌のいずれかである方法;(iii)癌患者を治療するためのこれらの組成物の投与のためのキット;(iv)癌患者におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの発現レベルを定量的に確認するための方法;(v)初期診断において癌におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの発現のレベル及びパターンを使用し、それに続く治療方法を計画し、及び/又は癌患者の特定の癌の潜在的な治療反応性を確認する方法;(vi)癌患者の癌におけるチオレドキシン又はグルタレドキシンの発現レベルを定量的に確認するためのキット;(vii)癌患者の生存時間を増大させる治療方法であって、前記癌が、チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/あるいはチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、1又はそれ以上の化学療法薬物に対する抵抗性を示すか又は有する癌のいずれかであり、前記治療が、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの過剰発現に対して敏感である化学療法剤の投与を含み、これらの過剰発現のいずれかが腫瘍媒介性の薬物抵抗性及び脈管形成の増大をもたらす方法;並びに(viii)癌患者からのサンプル中のチオレドキシンレベル、グルタレドキシンレベル及び代謝状態を治療クール(treatment course)の前及び治療クール中に確認することによって、患者における化学療法レジメンのスケジュール、用量及び組み合わせを最適化するための方法。
本発明の一実施形態において、癌患者の生存時間を増大させるための組成物が開示され、ここで、この癌患者から単離される癌を含む細胞が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する細胞、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す細胞のいずれかであり;前記組成物は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量で前記癌患者に投与され、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって逆に作用される(又は悪影響を及ぼされる)。
チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性の提示は、患者の治療の前に、癌細胞がチオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性を示すことが予期もされないし、確実に100%で証明することも可能でないという事実に起因する「エビデンス」として記載されることに留意されるべきである。非限定的な例として、例えば、HER2/neuに基づく療法について治療の決定を導くための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)又は免疫組織化学(IHC)の現行の使用は、治療的応答の可能性に関係しているHER2/neuの過剰発現/濃度増大の可能性に基づいて予測される。このような治療的応答の予想は100%確実ではなく、多くの要因(少なからず、利用される試験の診断精度)に関係し、同様に、腫瘍のサンプリング及び種々の他の要因(例えば、実験室の方法/技術、試薬の質など)によっても制限される。
HER2/neu(ErbB−2としても公知である)は、乳癌において、より高いレベルの「攻撃性」に関係するタンパク質である。HER2/neuは、ErbBタンパク質ファミリーのメンバーであり、より一般的には、上皮成長因子受容体ファミリー(EGFR)として公知である。HER2/neuは、細胞膜表面に結合した受容体型チロシンキナーゼであり、通常は細胞成長及び分化をもたらすシグナル伝達経路に関与する。HER2遺伝子は、ヒト17番染色体長腕(17q11.2−q12)に存在するプロトオンコジーンである。例えば、オレイオイ,M.A.(Olayioye,M. A.)ら、癌療法のためのターゲットとしてのHER−2の最新情報:ErbB2/HER−2及びファミリーメンバーの細胞内シグナル経路(Update on HER-2 as a target for cancer therapy: intracellular signaling pathways of ErbB2/HER-2 and family members.)、Breast Cancer Res. 3:385-389(2001)を参照のこと。HER2/neuは、乳癌の病因において重要な役割を果たし、治療のターゲットとしての機能を果たす。乳癌の約15〜20パーセントは、HER2/neu遺伝子の増幅又はそのタンパク質産物の過剰発現を有する。乳癌におけるHER2/neuの過剰発現は、疾患再発の増加及び予後不良と関係する。HER2/neuの過剰発現はまた、他の癌、例えば、卵巣癌及び胃癌において生じることも示されている。臨床的に、HER2/neuは、モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin))のターゲットとして重要である。HER2/neuがトラスツズマブに対する応答を予測できるのみならず、予後におけるHER2/neuの役割の理由から、胸部腫瘍は、HER2/neuの過剰発現について慣用的に検査される。トラスツズマブは、HER2/neu受容体が過剰に発現される乳癌においてのみ効果的である。トラスツズマブがHER2に結合した後にどのように作用するかに関する機序の1つは、細胞増殖を停止させるタンパク質であるp27を増大させることによる。例えば、レー,X.F(Le, X. F.)ら、HER2ターゲッティング抗体は、複数のシグナリング経路を介してサイクリン依存性キナーゼ阻害剤p27Kip1を調節する(HER2-targeting antibodies modulate the cyclin- dependent kinase inhibitor p27Kip1 via multiple signaling pathways.)、Cell Cycle 4:87-95(2005)を参照のこと。HER2遺伝子の過剰発現は、他の遺伝子の増幅及び薬物ハーセプチン(Herceptin)の使用によって抑制され得る。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるための組成物が開示され、ここで、前記非小細胞肺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記組成物は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量で前記非小細胞肺癌患者に投与され、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
本発明の他の実施形態において、腺癌患者の生存時間を増大させるための組成物が開示され、ここで、前記腺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記腺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記組成物は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量で前記腺癌患者に投与され、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
他の実施形態において、前記組成物は式(I)の化合物であり、前記式(I)の化合物は、下記構造式:
X−S−S−R1−R2
[式中、R1は低級アルキレン(ここで、R1は、対応する水素原子が、低級アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はアリールチオからなる群の一種で置換されていてもよい)又は
であり;
R2及びR4は、スルホナート又はホスホナートであり;
R5は、水素、ヒドロキシ又はスルフヒドリルであり;
mは、0、1、2、3、4、5又は6であり;及び
Xは、硫黄含有アミノ酸又は2〜10個のアミノ酸からなるペプチドであるか;又は
Xは、対応する水素原子の代わりに低級チオアルキル(低級メルカプトアルキル)、低級アルキルスルホナート、低級アルキルホスホナート、低級アルケニルスルホナート、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はヒドロキシからなる群の一種である]を有し;
その薬学的に許容可能な塩、プロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体を含む。
本発明の一実施形態において、前記組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な二ナトリウム塩である。種々の別の実施形態において、本発明の組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩(単数又は複数)であり、このような塩としては、例えば、(i)一ナトリウム塩;(ii)ナトリウムカリウム塩;(iii)二カリウム塩;(iv)カルシウム塩;(v)マグネシウム塩;(vi)マンガン塩;(vii)一カリウム塩;及び(viii)アンモニウム塩が挙げられる。任意の所定の時点で投与されたカリウムの総用量が100Meq以下であり、かつ被験体が高カリウム血症でも高カリウム血症にかかりやすい状態(例えば、腎不全)でもない場合、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの一及び二カリウム塩並びに/又はその類似体が被験体に投与されることに留意されるべきである。
本発明の他の実施形態において、前記組成物は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてタボセプト(Tavocept)(商標)、BNP7787及びジメスナとしても公知である)である。
さらに他の実施形態において、前記組成物は、2−メルカプトエタンスルホナート、又は−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly及び
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる群より選択された置換基を有するジスルフィドとして結合(抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートである。
他の実施形態において、投与される化学療法剤(単数又は複数)は、フルロピリミジン;ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;葉酸拮抗剤、白金薬剤;アントラサイクリン/アントラセンジオン;エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン複合体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド並びにポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤;アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;抗ウイルス薬;並びに種々の他の細胞毒性及び細胞増殖抑制剤からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
他の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
本発明のさらに他の実施形態において、化学療法剤は、ドセタキセル及びシスプラチンである。
本発明は、さらに、任意に装置を用いるか又は装置内での、方法の使用及び本明細書に記載される組成物の被験体への投与を含み、ここで、この投与は、任意の経路、用量、濃度、重量オスモル濃度(osmolarity)、期間又はスケジュールによって、任意の化学療法剤又は薬学的に活性な化合物(単数又は複数)の投与の前に、前記投与とともにもしくは同時に又は前記投与の後に、前記被験体において医学的に指示されるように行われる。このような経路、用量、濃度、重量オスモル濃度、期間又はスケジュールのいくつかは、2006年12月13日に提出された「化学保護方法及び組成物(CHEMOPROTECTIVE METHODS AND COMPOSITIONS)」と題された米国特許出願第11/638,193号に開示されており、この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。本発明の実施形態はまた、1又はそれ以上の化学療法剤及び本発明の式(I)の化合物を含む制御されたもしくは他の用量、剤形、処方物、組成物及び/又は装置を含み、1又はそれ以上の化学療法剤及び本発明の式(I)の化合物は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート、その薬学的に許容可能な塩、その類似体;メスナ、メスナヘテロ結合体(メスナヘテロ抱合体);及び種々の他の式(I)の化合物を含む。このような制御されたもしくは他の用量、剤形、処方物、組成物及び/又は装置としては、(i)経口投与経路(例えば、錠剤、懸濁剤、液剤、ゼラチンカプセル剤(硬カプセル剤又は軟カプセル剤)、舌下錠、溶解錠、トローチ剤など);(ii)注射投与経路(例えば、皮下(subcutaneous)投与、皮内投与、真皮下(subdermal)投与、筋内投与、デポー投与、静脈内投与、動脈内投与など);(iii)腔内投与経路(例えば、胸膜腔内、腹腔内、嚢内及び/又は鞘内間隙へ);(iv)経直腸的投与経路(例えば、坐剤、停留浣腸剤(retention enema)など);及び(v)局所投与経路のための用量及び剤形が挙げられる。
種々の化学療法剤は、本明細書に記載されかつ特許請求される組成物、方法及びキットと共に、又はそれらの一部として使用され得る。化学療法剤としては、例えば、フルロピリミジン;ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;葉酸拮抗剤、白金類似体;アントラサイクリン/アントラセンジオン;エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン類似体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド又はポリクローナルもしくはモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤;アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;アジリジン含有化合物;抗ウイルス薬;あるいは別の細胞毒性及び/又は細胞増殖抑制剤が挙げられる。
より詳細には、フルロピリミジンとしては、例えば、5−フルオロウラシル(5−FU)、S−1、カペシタビン、フトラフール、5’デオキシフルロウリジン、UFT、エニルウラシルなどが挙げられる。ピリミジンヌクレオシドとしては、例えば、シタラビン、デオキシシチジン、5−アザシトシン、ゲムシタビン、5−アザデオキシシチジンなどが挙げられる。プリンヌクレオシドとしては、例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チオグアニン、アロプリノール、クラドリビン及び2−クロロアデノシンが挙げられる。葉酸拮抗剤としては、例えば、メトトレキサート(MTX)、ペメトレキセド(アリムタ(Alimta)(商標))、トリメトレキサート、アミノプテリン、メチレン−10−デアザアミノプテリン(MDAM)などが挙げられる。白金類似体としては、白金部分がII価又はIV価を有し得るものが挙げられ、詳細には、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、及びそれらの類似体が挙げられる。タキサン薬剤としては、例えば、ドセタキセル又はパクリタキセル(市販のパクリタキセル誘導体であるタキソール(Taxol)(商標)及びアブラキサン(Abraxane)(商標)を含む)、ポリグルタミン酸型パクリタキセル(例えば、ジオタックス(Xyotax)(商標))、リポソーマルパクリタキセル(例えば、トコソル(Tocosol)(商標))、並びにそれらの類似体及び誘導体が挙げられる。アントラサイクリン/アントラセンジオンとしては、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン及びイダルビシンが挙げられる。エピポドフィロトキシン誘導体としては、例えば、エトポシド、リン酸エトポシド及びテニポシドが挙げられる。カンプトテシンとしては、例えば、イリノテカン、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、10,11−メチレンジオキシカンプトテシン、カレニテシン、9−ニトロカンプトテシン及びTAS 103が挙げられる。ホルモン及びホルモン類似体としては、例えば、(i)アナストラゾール、ジエチルスチルベステロール(diethylstilbesterol)、エストラジオール、プレマリン、ラロキシフェンを含むエストロゲン及びエストロゲン類似体;プロゲステロン、ノルエチルドレル、エチステロン(esthisterone)、ジメスチステロン、酢酸メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン及びノルエチステロンを含むプロゲステロン、プロゲステロン類似体及びプロゲスチン;(ii)フルオキシメステロン、メチルテストステロン及びテストステロンを含むアンドロゲン;並びに(iii)デキサメタゾン(dexamthasone)、プレドニゾン、コルチゾール、ソルメドロールを含む副腎皮質ステロイドなどが挙げられる。抗ホルモン剤としては、例えば、(i)タモキシフェン、フルベストラント、トレミフェンを含む抗エストロゲン剤;アミノグルテチミド、テストラクトン、ドロロキシフェン及びアナストロゾール;(ii)ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド及びゴセレリンを含む抗アンドロゲン剤;(iii)フルタミド、ロイプロリド及びトリプトレリンを含む抗テストステロン剤;並びに(iv)アミノグルテチミド及びミトタンを含む副腎ステロイド阻害剤;及びゴセレリンを含む抗黄体形成ホルモンが挙げられる。酵素、タンパク質、ペプチド、ポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体としては、例えば、アスパラギナーゼ、セツキシマブ、エルロチニブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、ゲフィチニブ、トラスツズマブ、インターロイキン、インターフェロン、ロイプロリド、peg−アスパラナーゼ(pegasparanase)などが挙げられる。ビンカアルカロイドとしては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシンなどが挙げられる。アルキル化剤としては、例えば、ダカルバジン;プロカルバジン;テモゾラミド;チオテパ、ナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、L−フェニルアラニンマスタード、メルファランなど);オキサザホスホリン(例えば、イホスファミド、シクロホスファミド、メホスファミド(mefosphamide)、ペルホスファミド、トロホスファミドなど);アルキルスルホナート(例えば、ブスルファン);及びニトロソウレア(例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチンなど)が挙げられる。エポチロンとしては、例えば、エポチロンA−Eが挙げられる。代謝拮抗物質としては、例えば、トムデックス及びメトトレキサート、トリメトレキサート、アミノプテリン、ペメトレキセド(pemetrexid)、MDAM、6−メルカプトプリン及び6−チオグアニンが挙げられる。トポイソメラーゼ阻害剤としては、例えば、イリノテカン、トポテカン、カレニテシン、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、及びドキソルビシン、ダウノルビシン、並びに他の類似体が挙げられる。抗ウイルス剤としては、例えば、アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビル、アマンタジン、リマンタジン、ラミブジン及びジドブジンが挙げられる。モノクローナル抗体剤としては、例えば、ベバシズマブ、トラスツズマブ、リツキシマブなど、並びにエルロチニブなどの成長阻害剤などが挙げられる。一般には、細胞増殖抑制剤は、新生物疾患の進行を遅らせる、機序に基づく薬剤である。
化学療法剤は、当該技術分野において公知の方法を用いて調製され及び被験体に投与されてもよい。例えば、パクリタキセルは、米国特許第5,641,803号、同第6,506,405号及び同第6,753,006号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第5,641,803号、同第6,506,405号及び同第6,753,006号を参照のこと)。パクリタキセルは、約50mg/m2〜約275mg/m2の範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約80mg/m2、約135mg/m2及び約175mg/m2が挙げられる。
ドセタキセルは、米国特許第4,814,470号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第4,814,470号、同第5,438,072号、同第5,698,582号及び同第5,714,512号を参照のこと)。ドセタキセルは、約30mg/m2〜約100mg/m2の範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約55mg/m2、約60mg/m2、約75mg/m2及び約100mg/m2が挙げられる。
シスプラチンは、米国特許第4,302,446号、同第4,322,391号、同第4,310,515号及び同第4,915,956号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第4,177,263号、同第4,310,515号、同第4,451,447号を参照のこと)。シスプラチンは、単回投与において約30mg/m2〜約120mg/m2の範囲の用量又は5日間毎日15mg/m2〜約20mg/m2の範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約50mg/m2、約75mg/m2及び約100mg/m2が挙げられる。
カルボプラチンは、米国特許第4,657,927号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第4,657,927号を参照のこと)。カルボプラチンは、約20mg/kg〜約200mg/kgの範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約300mg/m2及び約360mg/m2が挙げられる。他の用量は、製造業者の説明書に従う式を用いて計算されてもよい。
オキサリプラチンは、米国特許第5,290,961号、同第5,420,319号、同第5,338,874号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第5,716,988号を参照のこと)。オキサリプラチンは、約50mg/m2〜約200mg/m2の範囲の用量で投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、85mg/m2及び約130mg/m2が挙げられる。
本発明の一実施形態において、癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記患者に投与するものであり、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の他の実施形態において、非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記非小細胞肺癌(non-small lung carcinoma)は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記非小細胞肺癌患者に投与するものであり、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
本発明のさらに他の実施形態において、腺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記腺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記腺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤(単数又は複数)の投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記腺癌患者に投与するものであり、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
一実施形態において、式(I)の化合物は、下記構造式:
X−S−S−R1−R2
[式中、R1は低級アルキレン(ここで、R1は、対応する水素原子が、低級アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はアリールチオからなる群の一種で置換されていてもよい)又は
であり;
R2及びR4は、スルホナート又はホスホナートであり;
R5は、水素、ヒドロキシ又はスルフヒドリルであり;
mは、0、1、2、3、4、5又は6であり;及び
Xは、硫黄含有アミノ酸又は2〜10個のアミノ酸からなるペプチドであるか;又は
Xは、対応する水素原子の代わりに低級チオアルキル(低級メルカプトアルキル)、低級アルキルスルホナート、低級アルキルホスホナート、低級アルケニルスルホナート、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はヒドロキシからなる群の一種である]を有し;
その薬学的に許容可能な塩、プロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体を含む。
本発明の一実施形態において、前記組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な二ナトリウム塩である。種々の別の実施形態において、本発明の組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩(単数又は複数)であり、このような塩としては、例えば、(i)一ナトリウム塩;(ii)ナトリウムカリウム塩;(iii)二カリウム塩;(iv)カルシウム塩;(v)マグネシウム塩;(vi)マンガン塩;(vii)一カリウム塩;及び(viii)アンモニウム塩が挙げられる。任意の所定の時点で投与されたカリウムの総用量が100Meq以下であり、かつ被験体が高カリウム血症でも高カリウム血症にかかりやすい状態(例えば、腎不全)でもない場合、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの一及び二カリウム塩並びに/又はその類似体が被験体に投与されることに留意されるべきである。
本発明の他の実施形態において、前記組成物は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてタボセプト(Tavocept)(商標)、BNP7787及びジメスナとして公知でもある)である。
さらに他の実施形態において、前記組成物は、2−メルカプトエタンスルホナート、又は−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly及び
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる群より選択された置換基を有するジスルフィドとして結合(抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートである。
他の実施形態において、投与される化学療法剤(単数又は複数)は、フルロピリミジン;ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;葉酸拮抗剤、白金薬剤;アントラサイクリン/アントラセンジオン;エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン複合体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド並びにポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤;アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;抗ウイルス薬;並びに種々の他の細胞毒性及び細胞増殖抑制剤からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
他の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
本発明のさらに他の実施形態において、化学療法剤は、ドセタキセル及びシスプラチンである。
本発明の一実施形態において、投与用の式(I)の化合物、及び化学療法剤(単数又は複数)を受ける癌患者の生存時間を増大させるために十分な量で前記式(I)の化合物を前記癌患者に投与するための説明書を含むキットであって、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされるキットが、開示される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、式(I)の化合物は、下記構造式:
X−S−S−R1−R2
[式中、R1は低級アルキレン(ここで、R1は、対応する水素原子が、低級アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はアリールチオからなる群の一種で置換されていてもよい)又は
であり;
R2及びR4は、スルホナート又はホスホナートであり;
R5は、水素、ヒドロキシ又はスルフヒドリルであり;
mは、0、1、2、3、4、5又は6であり;及び
Xは、硫黄含有アミノ酸又は2〜10個のアミノ酸からなるペプチドであるか;又は
Xは、対応する水素原子の代わりに低級チオアルキル(低級メルカプトアルキル)、低級アルキルスルホナート、低級アルキルホスホナート、低級アルケニルスルホナート、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はヒドロキシからなる群の一種である]を有し;
その薬学的に許容可能な塩、プロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体を含む。
本発明の一実施形態において、式(I)の化合物は、二ナトリウム塩、一ナトリウム塩、ナトリウムカリウム塩、二カリウム塩、一カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、又はマンガン塩からなる群より選択される。
他の実施形態において、式(I)の化合物は、二ナトリウム塩である。
さらに他の実施形態において、式(I)の化合物は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウムである。
さらに他の実施形態において、前記組成物は、2−メルカプトエタンスルホナート、又は−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly及び
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる群より選択された置換基を有するジスルフィドとして結合(抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートである。
一実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、フルロピリミジン;ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;葉酸拮抗剤、白金薬剤;アントラサイクリン/アントラセンジオン;エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン複合体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド並びにポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤;アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;抗ウイルス薬;並びに種々の他の細胞毒性及び細胞増殖抑制剤からなる群より選択される。
他の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
一実施形態において、化学療法剤は、ドセタキセル及びシスプラチンである。
本発明の他の実施形態において、投与用の式(I)の化合物、及び化学療法剤(単数又は複数)を受ける非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるために十分な量で前記式(I)の化合物を前記非小細胞肺癌患者に投与するための説明書を含むキットであって、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされるキットが、開示される。
さらに他の実施形態において、投与用の式(I)の化合物、及び化学療法剤(単数又は複数)を受ける腺癌患者の生存時間を増大させるために十分な量で前記式(I)の化合物を前記腺癌患者に投与するための説明書を含むキットであって、前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性が、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされるキットが、開示される。
一実施形態において、式(I)の化合物は、下記構造式:
X−S−S−R1−R2
[式中、R1は低級アルキレン(ここで、R1は、対応する水素原子が、低級アルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はアリールチオからなる群の一種で置換されていてもよい)又は
であり;
R2及びR4は、スルホナート又はホスホナートであり;
R5は、水素、ヒドロキシ又はスルフヒドリルであり;
mは、0、1、2、3、4、5又は6であり;及び
Xは、硫黄含有アミノ酸又は2〜10個のアミノ酸からなるペプチドであるか;又は
Xは、対応する水素原子の代わりに低級チオアルキル(低級メルカプトアルキル)、低級アルキルスルホナート、低級アルキルホスホナート、低級アルケニルスルホナート、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ又はヒドロキシからなる群の一種である]を有し;
その薬学的に許容可能な塩、プロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物、多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体を含む。
本発明の一実施形態において、前記組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な二ナトリウム塩である。種々の別の実施形態において、本発明の組成物は、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩(単数又は複数)であり、このような塩としては、例えば、(i)一ナトリウム塩;(ii)ナトリウムカリウム塩;(iii)二カリウム塩;(iv)カルシウム塩;(v)マグネシウム塩;(vi)マンガン塩;(vii)一カリウム塩;及び(viii)アンモニウム塩が挙げられる。任意の所定の時点で投与されたカリウムの総用量が100Meq以下であり、かつ被験体が高カリウム血症でも高カリウム血症にかかりやすい状態(例えば、腎不全)でもない場合、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの一及び二カリウム塩及び/又はその類似体が被験体に投与されることに留意されるべきである。
本発明の他の実施形態において、前記組成物は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてタボセプト(Tavocept)(商標)、BNP7787及びジメスナとしても公知である)である。
さらに他の実施形態において、前記組成物は、2−メルカプトエタンスルホナート、又は−Cys、−ホモシステイン、−Cys−Gly、−Cys−Glu、−Cys−Glu−Gly、−Cys−ホモシステイン、−ホモシステイン−Gly、−ホモシステイン−Glu、−ホモシステイン−Glu−Gly及び
(式中、R1及びR2は、任意のL−又はD−アミノ酸である)からなる群より選択された置換基を有するジスルフィドとして結合(抱合)された2−メルカプトエタンスルホナートである。
他の実施形態において、投与される化学療法剤(単数又は複数)は、フルロピリミジン;ピリミジンヌクレオシド;プリンヌクレオシド;葉酸拮抗剤、白金薬剤;アントラサイクリン/アントラセンジオン;エピポドフィロトキシン;カンプトテシン;ホルモン;ホルモン複合体;抗ホルモン剤;酵素、タンパク質、ペプチド並びにポリクローナル及び/又はモノクローナル抗体;ビンカアルカロイド;タキサン;エポチロン;抗微小管剤;アルキル化剤;代謝拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤;抗ウイルス薬;並びに種々の他の細胞毒性及び細胞増殖抑制剤からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
他の実施形態において、化学療法剤(単数又は複数)は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの類似体及び誘導体からなる群より選択される。
本発明のさらに他の実施形態において、化学療法剤は、ドセタキセル及びシスプラチンである。
本発明の一実施形態において、癌の疑いがあるか又は既に癌であると診断された患者から単離された細胞中のチオレドキシン又はグルタレドキシンDNA、mRNA又はタンパク質のレベルを定量的に確認するための方法が開示され、ここで、チオレドキシン又はグルタレドキシンのレベルを同定するために使用される方法は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、核酸マイクロアレイ分析、免疫組織化学(IHC)及び放射免疫測定(RIA)からなる群より選択される。
他の実施形態において、前記方法は、癌を構成する細胞が(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現するか、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者に既に投与された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示すかのいずれかであるタイプの癌を有する患者における初期診断、それに続く治療方法の計画、及び/又は癌成長の潜在的な攻撃性の決定において使用される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の他の実施形態において、癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤シスプラチン及びドセタキセルの投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記患者に投与するものであり;前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、癌患者を治療するために使用される化学療法剤に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである任意の癌からなる群より選択される。
他の実施形態において、本発明を用いる治療の発端の癌は、肺癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、胆道の癌、胆嚢癌、頸部癌、卵巣癌、子宮内膜癌、膣癌、前立腺癌、子宮癌、肝癌、膵臓癌及び腺癌からなる群より選択される。
本発明の一実施形態において、非小細胞肺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記非小細胞肺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記非小細胞肺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤シスプラチン及びドセタキセルの投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記非小細胞肺癌患者に投与するものであり;前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
他の実施形態において、腺癌患者の生存時間を増大させるための方法が開示され、ここで、前記腺癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記腺癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかであり;前記方法は、化学療法剤シスプラチン及びドセタキセルの投与の前、前記投与とともに又は前記投与の後のいずれかにおいて、医学的に十分な用量の式(I)の化合物を前記腺癌患者に投与するものであり;前記化学療法剤の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介による治療抵抗性のいずれかによって悪影響を及ぼされる。
さらに他の実施形態において、前記方法は、(i)約1時間にわたって静脈内にドセタキセルを75mg/m2の用量で投与する工程;(ii)前記工程(i)におけるドセタキセルの投与の直後に、約30分にわたって静脈内に2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(タボセプト(商標))を約40グラムの用量で投与する工程;及び(iii)前記工程(ii)における2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(タボセプト(商標))の投与の直後に、十分な静脈内水分補給とともに約1時間にわたって静脈内にシスプラチンを75mg/m2の用量で投与する工程を含む方法であって、前記工程(i)〜(iii)が1回の化学療法サイクルを構成し、このサイクルは、合計6サイクルまでの間、隔週に繰り返すことができる。
他の実施形態において、投与のための式(I)の化合物、及びチオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現が存在する任意の病状又は疾患を有する患者に式(I)の化合物を投与するための説明書を含むキットが開示され、ここで、前記キットは、医学的に十分な用量の式(I)の化合物の投与を含み、及び前記チオレドキシン又はグルタレドキシンの過剰発現は、前記患者における有害な生理的影響を生じる。
さらに、簡潔には、本発明は、以下を開示及び特許請求の範囲に記載する:(i)化学療法を受ける癌患者において患者の生存時間の増大をもたらす組成物、方法及びキット;(ii)化学療法剤の抗癌活性の細胞毒性又はアポトーシス相乗作用を生じる組成物及び方法;(iii)必要とする患者(癌患者を含む)において血液機能を維持又は刺激するための組成物及び方法;(iv)必要とする患者(癌患者を含む)においてエリスロポエチンの機能又は合成を維持又は刺激するための組成物及び方法;(v)必要とする患者(癌患者を含む)において貧血を緩和又は予防するための組成物及び方法;(vi)必要とする患者(癌患者を含む)において多能性(pluripotent)、複能性(multipotent)、及び単能性(unipotent)の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激するための組成物及び方法;(vii)化学療法を受ける癌患者において腫瘍の進行の停止又は遅延を促進する組成物及び方法;(viii)化学療法を受ける癌患者において生活の質を維持又は改善しながら患者の生存を増大し及び/又は腫瘍の進行を遅延するための組成物及び方法;(ix)タキサン及び/又は白金薬剤及び本発明の式(I)の化合物を癌患者に投与する新規な方法;並びに(x)必要とする患者(癌患者を含む)において1又はそれ以上の前述の生理学的効果を達成するためのキット。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における患者の生存時間を増大させるために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
他の実施形態において、式(I)の化合物で治療される肺癌患者における患者の生存時間の増大は、この患者が式(I)の化合物で治療されなかった場合に予期される生存時間よりも少なくとも30日長いと予期される。
さらに他の実施形態において、肺癌患者は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療された患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、肺癌患者は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療された患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される腺癌患者は、この腺癌患者における患者の生存時間を増大させるために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、式(I)の化合物で治療される腺癌患者における患者の生存時間の増大は、この患者が式(I)の化合物で治療されなかった場合に予期される生存時間よりも少なくとも30日長いと予期される。
さらに他の実施形態において、腺癌患者は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、腺癌患者は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される患者であり、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、タキサン及び白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における化学療法効果を増強するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、化学療法効果は、タキサン及び白金薬剤で治療されかつ腺癌患者における患者の生存時間を増大させるために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、増強される。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法効果は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において増強され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、血液機能は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において維持又は刺激される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における血液機能を維持又は刺激するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、血液機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、血液機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、血液機能は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ腺癌患者における血液機能を維持又は刺激するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、維持又は刺激される。
さらに他の実施形態において、血液機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、血液機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において維持又は刺激される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者におけるエリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能を維持又は刺激するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ腺癌患者におけるエリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能を維持又は刺激するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、維持又は刺激される。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、エリスロポエチン機能もしくは合成又は赤血球生成の恒常性機能は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、貧血は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において緩和又は予防される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者において化学療法により誘導された貧血を緩和又は予防するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ化学療法により誘導された貧血を緩和又は予防するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、緩和又は予防される。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、化学療法により誘導された貧血は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において緩和又は予防され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、式(I)の化合物を含む組成物を医学的に十分な投与量で患者に与えることによって、必要とする患者において維持又は刺激される。
一実施形態において、タキサン及び/又は白金薬剤で治療される肺癌患者は、この肺癌患者における多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激するために、医学的に十分な投与量の式(I)の化合物を与えられる。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される肺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、肺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
一実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、タキサン及び/又は白金薬剤で治療され、かつ腺癌患者における多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激するために医学的に十分な投与量の式(I)の化合物も与えられる腺癌患者において、維持又は刺激される。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、2〜4週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約160mg/m2〜約190mg/m2の範囲にあり、式(I)の化合物の用量は約14g/m2〜約22g/m2の範囲にあり、及びシスプラチンの用量は約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲にあり、前記2〜4週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、少なくとも1回繰り返された。
さらに他の実施形態において、多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成は、3週毎に1回、パクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンで治療される腺癌患者において維持又は刺激され、ここで、パクリタキセルの用量は約175mg/m2であり、式(I)の化合物の用量は約18.4g/m2であり、及びシスプラチンの用量は約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲にあり、前記3週毎に1回のパクリタキセル、式(I)の化合物及びシスプラチンの投与は、6サイクルの間繰り返された。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
他の実施形態において、式(I)の化合物は、本発明のタキサン及び/又は白金薬剤で治療されている肺癌と診断された患者の生活の質を維持又は改善しながら、患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延する。
他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
他の実施形態において、式(I)の化合物は、本発明のタキサン及び/又は白金薬剤で治療されている腺癌と診断された患者の生活の質を維持又は改善しながら、患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延する。
他の実施形態において、腺癌患者は、男性又は女性及び喫煙者又は非喫煙者であった。
他の実施形態において、本発明の白金薬剤としては、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、及びそれらの誘導体及び類似体が挙げられる。
他の実施形態において、タキサン薬剤は、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセル誘導体、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの誘導体及び類似体からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、式(I)の組成物としては、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート、その薬学的に許容可能な塩及び/又はその類似体、並びにプロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物及び多形体、並びにそのような化合物の立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体が挙げられる。
さらに他の実施形態において、タキサン及び白金薬剤の用量割合は約10〜20mg/m2/日の範囲、及び式(I)の化合物の用量割合は1日あたり約4.1〜41.0g/m2の範囲にあり;タキサン及び白金薬剤及び/又は式(I)の化合物の濃度は少なくとも0.01mg/mLであり;タキサン及び白金薬剤及び/又は式(I)の化合物の注入時間は約5分〜約24時間であり、所定の患者において必要に応じてかつ耐えられるように繰り返すことができ;タキサン及び白金薬剤及び/又は式(I)の化合物の投与のスケジュールは2〜8週毎である。
他の実施形態において、キットは、患者に投与するための式(I)の化合物、及び1又はそれ以上の生理学的効果を引き起こすのに十分な量で前記式(I)の化合物を投与するための説明書を含み、この生理学的効果は、タキサン及び白金薬剤を受ける癌患者において患者の生存時間を増大させること;タキサン及び白金薬剤の化学療法効果の細胞毒性又はアポトーシス相乗作用を生じさせること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)において血液機能を維持又は刺激すること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)においてエリスロポエチンの機能又は合成を維持又は刺激すること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)において貧血を緩和又は予防すること;患者(化学療法を受ける癌患者を含む)において多能性、複能性及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激すること;タキサン及び/又は白金薬剤を受ける癌患者において腫瘍の進行の停止又は遅延を促進すること;並びに/あるいはタキサン及び/又は白金薬剤を受ける癌患者において生活の質を維持又は改善しながら患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延することからなる群より選択される。
他の実施形態において、癌患者は、肺癌を患う。
さらに他の実施形態において、肺癌は、非小細胞肺癌である。
さらに他の実施形態において、癌患者は、腺癌を患う。
一実施形態において、キットは、さらに、タキサン薬剤及び白金薬剤を投与するための説明書を含み、ここで、白金薬剤は、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、並びにそれらの誘導体及び類似体からなる群より選択される。
他の実施形態において、キットは、さらに、白金薬剤及びタキサン薬剤を投与するための説明書を含み、ここで、タキサン薬剤は、ドセタキセル、パクリタキセル、ポリグルタミン酸型パクリタキセル、リポソーマルパクリタキセル、並びにそれらの誘導体及び類似体からなる群より選択される。
さらに他の実施形態において、白金及びタキサン薬剤は、シスプラチン及びパクリタキセルである。
化学療法剤は、当該技術分野において公知の方法を用いて調製され及び被験体に投与されてもよい。例えば、パクリタキセルは、米国特許第5,641,803号、同第6,506,405号及び同第6,753,006号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第5,641,803号、同第6,506,405号及び同第6,753,006号を参照のこと)。パクリタキセルは、約50mg/m2〜約275mg/m2の範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約160mg/m2〜約190mg/m2が挙げられる。最も好ましい用量は、約175mg/m2である。
ドセタキセルは、米国特許第4,814,470号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第4,814,470号、同第5,438,072号、同第5,698,582号及び同第5,714,512号を参照のこと)。ドセタキセルは、約30mg/m2〜約100mg/m2の範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約55mg/m2、約60mg/m2、約75mg/m2及び約100mg/m2が挙げられる。
シスプラチンは、米国特許第4,302,446号、同第4,322,391号、同第4,310,515号及び同第4,915,956号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第4,177,263号、同第4,310,515号、同第4,451,447号を参照のこと)。シスプラチンは、単回投与において約30mg/m2〜約120mg/m2の範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量は、約60mg/m2〜約100mg/m2の範囲である。最も好ましい用量は、約75mg/m2〜約85mg/m2の範囲である。
カルボプラチンは、米国特許第4,657,927号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第4,657,927号を参照のこと)。カルボプラチンは、約20mg/kg〜約200mg/kgの範囲の用量での投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約300mg/m2及び約360mg/m2が挙げられる。他の用量は、製造業者の説明書に従う式を用いて計算されてもよい。
オキサリプラチンは、米国特許第5,290,961号、同第5,420,319号、同第5,338,874号に記載の方法を用いて調製されてもよく、そして当該技術分野において公知のように投与される(例えば、米国特許第5,716,988号を参照のこと)。オキサリプラチンは、約50mg/m2〜約200mg/m2の範囲の用量で投与のために調製されてもよい。好ましい用量としては、約85mg/m2及び約130mg/m2が挙げられる。
式(I)の組成物としては、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート、その薬学的に許容可能な塩及び/又はその類似体、並びにプロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物及び多形体、並びにそのような化合物の立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及び互変異性体が挙げられる。本発明の薬学的に許容可能な塩としては、(i)一ナトリウム塩;(ii)ナトリウムカリウム塩;(iii)二カリウム塩;(iv)カルシウム塩;(v)マグネシウム塩;(vi)マンガン塩;(vii)アンモニウム塩;(viii)一カリウム塩;及び(ix)最も好ましくは、二ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。任意の所定の時点で投与されたカリウムの総用量が100Meq以下であり、かつ被験体が高カリウム血症でも高カリウム血症にかかりやすい状態(例えば、腎不全)でもない場合、一及び二カリウム塩が被験体に単に投与されることに留意されるべきである。
非限定的な例として、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献において、ジメスナ、タボセプト(商標)、及びBNP7787とも称される)は、公知の化合物であり、当該技術分野において公知の方法によって製造できる。例えば、J. Org. Chem. 26:1330-1331(1961);J. Org. Chem. 59:8239(1994)を参照のこと。さらに、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナートの種々の塩、並びに他のジチオエーテルもまた、米国特許第5,808,160号、米国特許第6,160,167号及び米国特許第6,504,049号において概説されるように合成されてもよい。式(I)の化合物は、公開された米国特許出願第2005/0256055号に記載されるように製造されてもよい。これらの特許、特許出願及び公開された特許出願の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。
本発明の式(I)の化合物の好ましい用量は、約14g/m2〜約22g/m2の範囲であり、最も好ましい用量は18.4g/m2である。
本発明の方法のいくつか、並びに本発明の組成物及び処方物の使用において、式(I)の化合物は、1又はそれ以上の化学療法剤とともに投与されてもよく、ここで、各クールは、利用される特定の化学療法剤(単数又は複数)に依存する特定の期間である。本明細書に記載されかつ特許請求の範囲に記載された発明と関連して、治療レジメンは、例えば、2又はそれ以上の治療クール、5又はそれ以上の治療クール、6又はそれ以上の治療クール、7又はそれ以上の治療クール、8又はそれ以上の治療クール、あるいは9又はそれ以上の治療クールで構成されてもよい。治療クールは、本質的に連続していてもよい。
本発明の組成物及び処方物単独又は1もしくはそれ以上の化学療法剤との組み合わせ、並びにそれらの使用説明書は、パック又はキットの形態で含まれていてもよい。したがって、本発明は、本明細書に記載される組成物、処方物及び/又は装置を使用説明書とともに含むキットも包含する。例えば、キットは、本発明の式(I)の化合物及び投与のための説明書を含んでいてもよい。キットは、さらに、1又はそれ以上の化学療法剤をそれらの使用説明書とともに含んでいてもよい。キットはまた、本明細書に記載されるような1又はそれ以上の前治療及びそれらの使用説明書をさらに含んでいてもよい。
本発明の態様はまた、本発明の式(I)の化合物を含む制御された送達もしくは他の用量、剤形、処方物、組成物及び/又は装置を含み、例えば、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート、その薬学的に許容可能な塩もしくは類似体;又はメスナヘテロ結合体(メスナヘテロ抱合体);並びに1又はそれ以上の化学療法剤を含む。これらの組成物は、例えば、種々の癌の治療として被験体への(i)経口投与経路(例えば、錠剤、懸濁剤、液剤、ゼラチンカプセル剤(硬カプセル剤又は軟カプセル剤)、舌下錠、溶解錠、トローチ剤など)又は肝臓による初回代謝(すなわち、シトクロムP450オキシダーゼ系)を回避する舌下投与による投与;(ii)注射投与経路(例えば、皮下(subcutaneous)投与、皮内投与、真皮下(subdermal)投与、筋内投与、デポー投与、静脈内投与、動脈内投与など)であって、ここでこの投与は、例えば、注射による送達、非経口ボーラスを介する送達、緩慢な静脈内注射及び点滴、並びに輸液装置(例えば、埋込可能な輸液装置(能動型及び受動型の両方))によって行われてもよい;(iii)腔内投与経路(例えば、胸膜腔内、腹腔内、嚢内及び/又は鞘内間隙へ);(iv)経直腸的投与経路(例えば、坐剤、停留浣腸剤(retention enema)など);及び(v)局所投与経路のための、種々の用量及び剤形で構成される。
本発明の化合物及び処方物の注射に適した剤形の例としては、静脈内注射、皮下、真皮下及び筋内投与による、単回又は複数回又は連続又は一定の投与などのボーラスを介する送達が挙げられる。これらの形態は、例えば、血管又は腹腔アクセスによりシリンジ、ペン、ジェット式注射器、及び内部又は外部ポンプを用いて注射されてもよい。シリンジは、0.3、0.5、1、2、5、10、25及び50mL容量を含む種々のサイズで売られている。無針ジェット式注射器も当該技術分野において公知であり、圧縮空気を用いて微細噴霧溶液を皮膚内に注入する。ポンプも当該技術分野において公知である。ポンプは、可撓管(フレキシブルチューブ)によってカテーテルに接続し、このカテーテルは、皮膚直下の組織内に挿入される。カテーテルは、一度に数日間所定の位置に置かれたままにされる。ポンプは、適切な時間に必要量の溶液を分注するようにプログラムされる。
本発明の化合物及び処方物のための輸液装置の例としては、所望の回数の用量又は定常状態投与のための所望の割合及び量で投与される本発明の式(I)の化合物を含む輸液ポンプ、及び埋込式(埋込可能な)薬物ポンプが挙げられる。
本発明の化合物及び処方物のための埋込可能な輸液装置の例としては、活性剤が、溶液、懸濁液、あるいは生分解性ポリマー又は合成ポリマー(例えば、シリコーン、ポリプロピレン、シリコーンゴム、シラスチック(silastic)又は同様のポリマー)の内部にカプセル化されているか又はその中に分散されている任意の固形状又は液状が挙げられる。
本発明の化合物及び処方物の送達に役立つ制御された放出薬物処方物の例が以下に見られる。例えば、スウィートマン,S.C.(Sweetman, S. C.)(編)、薬物参考文献完全版、第33版、ファーマシューティカル プレス、シカゴ(The Complete Drug Reference, 33rd Edition, Pharmaceutical Press, Chicago)、2483頁(2002);オウルトン,M.E.(Aulton,M.E.)(編)、薬剤学.剤形設計の科学、チャーチル リビングストン、エジンバラ(Pharmaceutics. The Science of Dosage Form Design. Churchill Livingstone, Edinburgh)、734頁(2000);及びアンセル,H.C.(Ansel, H. C.)、アレン,L.V.(Allen, L. V.)及びポポビッチ,N.G.(Popovich, N. G.)、薬学的投与形態及び薬物送達系、第7版、リッピンコット(Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 7th Ed., Lippincott)、676頁(1999)。薬物送達系の製造において用いられる賦形剤は、当業者に公知の様々な出版物、例えば、キービ,E.H.(Kibbe, E. H.)、薬学的賦形剤ハンドブック、第3版、アメリカン ファーマシューティカル アソシエーション、ワシントン(Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rd Ed., American Pharmaceutical Association, Washington)、665頁(2000)などに記載されている。
主に経口投与で利用される本発明の剤形のさらなる例としては、限定はされないが、遅延型放出(DR)形態を含む改変放出(modified-release)(MR)投与形態;持続性作用(PA)形態;制御放出(controlled-release(CR))形態;拡張放出(extended-release(ER))形態;時間調節放出(timed-release(TR))形態;及び長時間作用性(LA)形態が挙げられる。既に述べたように、これらの処方物は、しばしば経口投与形態で使用されるが、これらの用語は、本明細書に記載される任意の剤形、処方物、組成物及び/又は装置に適用してもよい。これらの処方物は、薬物投与後、しばらくの間、全薬剤放出、及び/又は投与後の断続的な少量ずつ(small aliquots)での薬物放出、及び/又は送達系に制御された一定量でのゆっくりとした薬物放出、及び/又は変化しない一定割合での薬物放出、及び/又は通常の処方物よりも顕著に長い期間にわたる薬物放出を遅延及び制御する。
本発明の改変放出投与形態としては、時間、クール(又はコース)(course)、及び/又は位置に基づいた薬物放出特徴を有する投与形態(又は剤形)が挙げられる。この投与形態は、慣用の又は即時放出形態では得られない治療上又は便宜上の目的を達成するように設計されている。例えば、ボグナー,R.H.(Bogner, R. H.)、「拡張放出経口投与形態の生物学的利用能及び生物学的平衡」、ユナイテッド ステイツ ファーマシスト(Bioavailability and bioequivalence of extended-release oral dosage forms. U.S. Pharmacist)、22:3−12(1997)を参照のこと。本発明の拡張放出(extended-release)投与形態(剤形)としては、例えば、米国食品医薬品局(FDA)によって定義されるように、溶液又は即時放出型投与形態などの慣用の剤形での投与頻度を低下させる投与形態(剤形)を含む。
例えば、一実施形態は、非経口投与のための本発明の式(I)の化合物を含む拡張放出処方物を提供する。注射後の、本発明の式(I)の化合物の活性の拡張速度(extended rate)は、下記に挙げる多くの方法において達成されてもよい:長期の溶解特徴を有する式(I)の化合物の結晶又は非結晶形態;式(I)の化合物の処方物がゆっくりと溶解する化学複合体;ゆっくりと吸収される担体又はベヒクル(例えば、油性として)における、本発明の式(I)の化合物の液剤又は懸濁剤;懸濁剤中の本発明の式(I)の化合物の粒径増大;あるいは式(I)の化合物のゆっくりと浸食するミクロスフェアの注射(例えば、フリース,W.(Friess, W.)ら、タンパク質の延長された送達のための不溶コラーゲンマトリックス(Insoluble collagen matrices for prolonged delivery of proteins.)、Pharmaceut. Dev. Technol. 1:185-193(1996)を参照のこと)。例えば、インシュリンの様々な形態の作用持続は、部分的に、その物理的形態(非結晶状又は結晶状)、添加された薬剤との錯体形成、及びその剤形(懸濁剤の液剤)に基づく。
酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、重炭酸塩、グルタミン又はグルタミン酸塩緩衝剤を、最終組成物のpHを改変するために添加してもよい。任意に、炭水化物又は多価アルコール等張化剤(tonicifier)、並びにm−クレゾール、ベンジルアルコール、メチル、エチル、プロピル及びブチルパラベン並びにフェノールからなる群より選択される防腐剤を添加してもよい。注射用水、塩化ナトリウムなどの等張化剤(tonicifying agent)、並びに他の賦形剤もまた、所望により存在していてもよい。非経口投与の場合、投与部位での刺激及び疼痛を回避するために、処方物を等張又は実質的に等張にしてもよい。あるいは、非経口投与のための処方物はまた、本明細書に記載されるように、正常哺乳類血漿に対して高浸透であってもよい。
用語「緩衝剤」、「緩衝溶液」及び「緩衝された溶液」は、水素イオン濃度又はpHに関して用いられる場合、溶質/溶媒系(特に、水溶液)が酸もしくはアルカリの添加又は溶媒での希釈又はその両方に対するpHの変化に抵抗する能力をいう。酸又は塩基の添加に対して小さなpH変化を受ける緩衝された溶液の特徴は、弱酸及び弱酸の塩又は弱塩基及び弱塩基の塩のいずれかの存在である。前者の系の一例は、酢酸及び酢酸ナトリウムである。添加されたヒドロキシルイオンの量が、緩衝系がヒドロキシルイオンを中和する能力を越えない限り、pHの変化はわずかである。本発明の実施において用いられる緩衝剤は、例えば、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、重炭酸塩、グルタミン又はグルタミン酸塩緩衝剤のいずれかから選択され、最も好ましい緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤である。
担体又は賦形剤は、本発明の組成物及び処方物の投与を容易にするために使用することもできる。担体及び賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ラクトース、グルコース又はスクロースなどの様々な糖、又はデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、ポリエチレングリコール及び生理学的に適合可能な溶媒が挙げられる。
安定化剤は、本発明の処方物に含まれていてもよいが、一般に必要でないであろう。しかし、含まれている場合、本発明の実施に有用な安定化剤は、炭水化物又は多価アルコールである。多価アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、グリセロール、キシリトール、及びポリプロピレン/エチレングリコールコポリマー、並びに分子量200、400、1450、3350、4000、6000及び8000の種々のポリエチレングリコール(PEG)などの化合物が挙げられる。炭水化物としては、例えば、マンノース、リボース、トレハロース、マルトース、イノシトール、ラクトース、ガラクトース、アラビノース又はラクトースが挙げられる。
米国局方(United States Pharmacopeia (USP))には、静菌又は静真菌濃度における抗菌剤を複数回投与容器に含まれる調剤に添加しなければならないことが記載されている。抗菌剤は、皮下注射針及びシリンジを用いて内容物の一部を取り出す間又はペン型注射器などの他の送達用侵襲手段を用いる間に不注意に調剤中に持ち込まれる微生物の繁殖を予防するために、使用の際に適切な濃度で存在しなければならない。抗菌剤は、すべての他の処方物成分との相溶性を保証するように評価されるべきであり、抗菌剤の活性は、ある処方物に効果的な特定の薬剤が他の処方物に効果的でなくはないことを保証するように、全処方物において評価されるべきである。特定の薬剤がある処方物に効果的であるが他の処方物に効果的でないことを見出すことは、珍しいことではない。
防腐剤は、共通の薬学的認識において、微生物の成長を予防又は阻害する物質であり、結果として生じる微生物による薬学的処方物の損傷を回避する目的で処方物に添加されてもよい。防腐剤の量は多くはないが、それにもかかわらず、本発明の式(I)の化合物の全体的な安定性に影響を及ぼすかもしれない。防腐剤としては、例えば、ベンジルアルコール及びエチルアルコールが挙げられる。本発明の実施における使用のための防腐剤は0.005〜1.0%(w/v)の範囲にあってもよいが、単独で又は他との組み合わせにおける各防腐剤の好ましい範囲は、ベンジルアルコール(0.1〜1.0%)、又はm−クレゾール(0.1〜0.6%)、又はフェノール(0.1〜0.8%)、又はメチルパラベン(0.05〜0.25%)とエチルパラベンもしくはプロピルパラベンもしくはブチルパラベン(0.005%〜0.03%)との組み合わせである。パラベンは、p−ヒドロキシ安息香酸の低級アルキルエステルである。各防腐剤の詳細な記載は、「レミングトンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」並びに薬学的剤形:非経口薬剤(Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications)、第1巻、エイビス(Avis)ら(1992)に記載されている。これらの目的のために、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート、その薬学的に許容可能な塩、その類似体及び/又は式(I)の化合物は、慣用の非毒性の薬学的に許容可能な担体、補助剤(アジュバント)及びベヒクルを含む投与量単位処方物において非経口的(皮下注射、静脈内、筋内、皮内注射又は注入(点滴)技術を含む)に投与されてもよい。さらに、非経口投与のために設計された本発明の処方物は、安定であり、滅菌され、かつ発熱物質を有さない(ピロゲンフリーな)ものでなければならず、許容されたレベル内で粒子状レベル及びサイズを有する。
所望であれば、非経口処方物は、メチルセルロースなどの増粘剤で増粘されてもよい。非経口処方物は、油中水型又は水中油型のいずれかの乳化型に調製されてもよい。任意の広範に種々の薬学的に許容可能な乳化剤を用いてもよく、このような乳化剤としては、例えば、アカシア粉末、非イオン性界面活性剤又はイオン性界面活性剤が挙げられる。
適切な分散剤又は懸濁化剤を薬学的処方物に添加することが所望されてもよい。これらの分散剤又は懸濁化剤としては、例えば、合成又は天然ゴム(例えば、トラガカント、アカシア、アルギナート、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン又はゼラチン)などの水性懸濁剤が挙げられる。
他の成分を本発明の非経口薬学的処方物中に存在させ得ることは可能である。このような追加成分としては、湿潤剤、油剤(例えば、ゴマ油、ピーナツ油又はオリーブ油などの植物油)、鎮痛剤、乳化剤、抗酸化剤、充填剤、張度改質剤、金属イオン、脂肪性ベヒクル、タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン、ゼラチン又はタンパク質)及び両性イオン(例えば、ベタイン、タウリン、アルギニン、グリシン、リシン又はヒスチジンなどのアミノ酸)が挙げられる。このような追加成分は、当然ながら、本発明の薬学的処方物の全体的な安定性に不利な影響を与えるべきではない。
容器及びキットは組成物の一部でもあり、成分とみなされてもよい。したがって、容器の選択は、容器の組成、並びに成分の組成及び供されるであろう治療の検討に基づく。
非経口投与の適切な経路としては、筋内、静脈内、皮下、腹腔内、真皮下、皮内、関節内、鞘内などが挙げられる。粘膜送達も許容される。用量及び投与量レジメンは、被験体の体重、健康状態、疾患型(type)、及び疾患の重症度の程度に依存するであろう。薬学的処方物に関しては、薬学的剤形:非経口薬剤(Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications)、第1巻、第2版、エイビス(Avis)ら(編)、マルセル デッカー, ニューヨーク,N.Y.(Mercel Dekker, New York, N.Y.)(1992)を参照のこと。
拡大した薬物作用を達成する前記手段に加えて、本発明の式(I)の化合物並びに1又はそれ以上の化学療法剤の送達の速度および持続期間は、例えば、機械的に制御された薬物輸液ポンプの使用によって制御されてもよい。
本発明は、ある程度、輸液用量送達処方物及び装置を提供し、このような処方物及び装置としては、本発明の組成物及び処方物送達用の埋込可能な輸液装置が挙げられるが、これらに限定されない。埋込可能な輸液装置は、上記の生分解性ポリマー又は合成シリコーン(例えば、シラスチック、シリコーンゴム又はそのような使用のために製造され承認された他の市販のポリマー)などの不活性物質を使用してもよい。ポリマーは、本発明の式(I)の化合物及び任意の賦形剤を含んでいてもよい。埋込可能な輸液(又は注入)装置はまた、医療用装置の膜(coating)又は部品で構成されてもよい。この医療用装置では、前記膜(coating)が、本発明の式(I)の化合物、1又はそれ以上の化学療法剤及び任意の賦形剤を含んだポリマーで構成されている。このような埋込可能な輸液装置は、例えば、米国特許第6,309,380号に開示されているように、ポリマーを含むインビボ(in vivo)で生体適合性及び生分解性又は生体吸収性又は生体腐食性溶液又はゲル溶液であって、所望の投与量の本発明の式(I)の化合物、1又はそれ以上の化学療法剤及び任意の賦形剤を含む溶液で、装置をコーティングすることによって調製されてもよい。前記溶液を前記医療装置に付着するフィルムにすることで、式(I)の化合物を送達可能であり、埋込可能な医療用装置が形成される。
埋込可能な輸液装置は、(その全体が本明細書中に組み入れられている米国特許第6,120,789号に開示されているように、)固形マトリックス及び1又はそれ以上の化学療法剤を含む、本発明の式(I)の化合物のその場での(in situ)形成によって調製されてもよい。埋込可能な輸液装置は受動型であっても能動型であってもよい。埋込可能な能動型輸液装置は、式(I)の化合物のリザーバ、式(I)の化合物を前記リザーバから(例えば、半透膜を通過させて)流出させる手段、及び式(I)の化合物を前記リザーバから推進させるための駆動力で構成されてもよい。前述の埋込可能な能動型輸液装置のリザーバは、1又はそれ以上の化学療法剤を含んでいてもよい。このような埋込可能な能動型輸液装置は、例えば、WO 02/45779に開示されるように、さらに外部信号によって作動させてもよい。ここで、埋込可能な輸液装置は、本発明の式(I)の化合物及び1又はそれ以上の化学療法剤を送達するために構成されたシステムを含み、この輸液装置は、埋込可能な輸液装置を作動させたい使用者によって操作可能な外部作動ユニットを含み、この外部作動ユニットは、閉鎖間隔が終わる前にそのような要求を拒絶するコントローラを含む。埋込可能な能動型輸液装置の例としては、埋込式(埋込可能な)薬物ポンプが挙げられる。埋込式薬物ポンプとしては、例えば、目標とする器官系、通常、脊髄又は管に挿入される付属のカテーテルを有する、小型でコンピュータ化されたプログラム可能で詰め替え可能な薬物送達系が挙げられる。例えば、メドトロニック インク パブリケーションズ(Medtronic Inc. Publications):UC9603124EN NP−2687、1997;UC199503941b EN NP−2347 182577−101、2000;UC199801017a EN NP3273a 182600−101、2000;UC200002512 EN NP4050、2000;UC199900546bEN NP−3678EN、2000. メドトロニック,インク(Medtronic, Inc)、ミネアポリス,MN(Minneapolis, MN)(1997−2000)を参照のこと。ポンプには、たいてい2つの引き込み口があり、その一方へ薬物を注入でき、そして、他方は、ボーラス投与又はカテーテルからの液体分析のために、カテーテルに直接接続されている。埋込式薬物輸液ポンプ(例えば、シンクロメドEL(SynchroMed EL)及びシンクロメドプログラマブルポンプ(SynchroMed Programmable Pumps);メドトロニック(Medtronic)製)は、慢性難治性疼痛治療のためのモルヒネ硫酸塩の長期の鞘内輸液;原発性又は転移性癌治療のためのフロクスウリジンの血管内への輸液;重篤な痙縮のための鞘内注射(例えば、バクロフェン注射);慢性難治性疼痛治療のためのモルヒネ硫酸塩の長期の硬膜外輸液;転移性癌治療のためのドキソルビシン、シスプラチン又はメトトレキサートの長期の血管内への輸液;及び骨髄炎治療のためのクリンダマイシンの長期の静脈内への輸液などに必要とされる。このようなポンプは、所望の投与回数又は定常投与の間に所望の量で、一般的に好まれる1又はそれ以上の化学療法剤と組み合わせて、本発明の式(I)の化合物を含む1又はそれ以上の化合物を同時に長期間にわたって輸液するために使用されてもよい。典型的な埋込式薬物輸液ポンプの1種としては(例えば、シンクロメドELプログラマブルポンプ(SynchroMed EL Programmable Pump);メドトロニック(Medtronic)製)、チタンで覆われ、概円盤状(測定において、直径85.2mm、厚み22.86mm、及び重量185グラム)であり、容量が10mLの薬物リザーバを有し、リチウム−塩化チオニル電池で作動し、使用量によるが、使用可能年数が6〜7年であるポンプがある。ダウンロード可能なメモリは、プログラムされた薬物送達パラメータ及び算出された薬物残存量を含み、この薬物残存量を実際の薬物残存量と比較することでポンプ機能の正確性にアクセスできるが、長時間にわたる実際のポンプ機能は記録されない。ポンプは、通常、腹壁の右側又は左側に埋め込まれる。本発明において有用な他のポンプとしては、例えば、携帯用使い捨て輸液ポンプ(PDIP)が挙げられる。また、埋込可能な輸液装置は、様々なリン脂質、例えば、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリンなどから形成され得る小単層小胞(気胞)、大単層小胞(気胞)、及び多層小胞(気胞)などのリポソーム送達系を利用してもよい。
本発明は、ある程度であるが、本発明の式(I)の化合物の生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)を高めるために処方された用量送達処方物及び装置も提供する。この処方物及び装置は、1又はそれ以上の化学療法剤又は上述の任意の処方物及び/もしくは装置に加えてあるいは組み合わせて用いてもよい。
例えば、本発明の式(I)の化合物の生物学的利用能の増加は、式(I)の化合物が1又はそれ以上の生物学的利用能もしくは吸収増強剤又は処方物(タウロコール酸などの胆汁酸を含む)と錯体化することによって達成されてもよい。
本発明はまた、生物学的利用能を高めるためのマイクロエマルジョンで、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物並びに1又はそれ以上の化学療法剤の処方物を規定する。マイクロエマルジョンは、下記の4つの主な成分を含む流体でかつ安定した均一な溶液である:親水性相、親油性相、少なくとも1つの界面活性剤(SA)及び少なくとも1つの共界面活性剤(CoSA)。界面活性剤は2つの基を有する化合物であり、第1の基は極性又はイオン性であり、水に対する親和性が大きく、そして、第2の基は長鎖又は短鎖の脂肪族鎖を含み、かつ疎水性である。著しく親水性の特性を有するこれらの化合物は、水性又は油性溶液中でミセル形成を生じることを意図する。適切な界面活性剤の例としては、モノ、ジ及びトリグリセリド並びにポリエチレングリコール(PEG)モノ及びジエステルが挙げられる。時には「共表面活性剤」としても知られる共界面活性剤は、疎水性の特徴を有する化合物であり、マイクロエマルジョン中で水相及び油相の相互可溶化を生じることを意図する。適切な共界面活性剤の例としては、エチルジグリコール、プロピレングリコールのラウリル酸エステル、ポリグリセロールのオレイン酸エステル、及びそれに関連した化合物が挙げられる。
任意のこのような用量は、本明細書に記載された任意の経路又は任意の形態によって投与されてもよい。例えば、用量は、改変放出、拡張放出、遅延型放出、ゆっくりとした放出又は繰り返し作用(repeat action)経口投与形態において送達される剤形に関して記載された特徴又は組成物を組み入れてもよい、非経口投与に適切な剤形を用いて非経口的に与えられ得る。
本発明はまた、直腸坐剤又は停留浣腸剤の利用による直腸送達及び吸収のための、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物の処方物を規定する。一般的には、坐剤は、直腸及びS状結腸へ薬物を送達するために利用される。本発明の処方物の送達のための理想的な坐剤の基剤は、下記の仕様を満たすのがよい:(i)肛門粘膜に対して無毒性でかつ刺激性の無い基剤;(ii)様々な薬物と混和可能な基剤;(iii)直腸液(rectal fluids)に溶融又は溶解する基剤;及び(iv)貯蔵安定性を有し、かつ坐剤に含まれる薬学的処方物に結合しないかあるいはこの処方物の放出及び/又は吸収を妨害する基剤。典型的な坐剤の基剤としては、カカオバター、グリセリンゼラチン、硬化植物油、様々な分子量のポリエチレングリコール及びポリエチレングリコールの脂肪酸エステルの混合物が挙げられる。直腸上皮は、類脂質の性質を有する。下、中、及び上直腸静脈が直腸を取り巻いている。上直腸静脈だけが、門脈系へ血液を輸送し、そのため、下及び中直腸静脈へと吸収された薬物は、肝臓及びシトクロムP450オキシダ−ゼ系を迂回するであろう。そのため、薬物の吸収及び分布は、直腸から吸収された薬物の少なくとも一部が、肝臓を迂回しつつ、下大静脈へ直接通されてもよいという点で、薬物の直腸での位置によって変化する。本発明はまた、1種又はそれ以上の化学療法剤に加えて本発明の式(I)の化合物を含む、坐剤によって投与される処方物を規定する。
種々の代表的な本発明の式(I)の化合物が、合成され、そして精製されている。さらに、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(文献においてタボセプト(商標)、ジメスナ及びBNP7787とも称される)は、本発明の出願人によって提供された指導をもって、譲受人であるバイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッドによる非臨床試験、及び米国第II相NSCLC臨床試験(これにより得られたデータはさらに、再び本発明の出願人によって提供された指導をもって、譲受人であるバイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッドによって分析された)においてのみならず、患者における第I相、第II相及び第III相臨床試験に導入されている。例えば、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム(タボセプト(商標))と1又はそれ以上の化学療法剤とを利用する日本第III相臨床試験及び米国第II相臨床試験から得られたデータは、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウムが、腺癌を含む非小細胞肺癌(NSCLC)を患う個体の生存時間を著しく増大できることを証明している。簡潔には、試験に基づくエビデンスは、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムが、選択的様式において、腫瘍細胞内で酸化的代謝を増大させることによって患者の生存時間を増大させるように機能するという所見を支持する。また、これらの臨床結果は、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウムが、癌細胞における化学療法剤の細胞毒性効果のいかなる減少も回避するとともに、有害な化学療法剤により誘導される正常(すなわち、非癌性)細胞及び組織に対する生理学的副作用及び薬理学的影響の頻度及び重症度の両方を低減できることも証明している。
V. タキサンの薬理学
タキサンは、植物由来の天然に存在する化合物を半合成して得られる類似体である。詳細には、タキサンは、ヨーロッパイチイ(Taxus baccata)の針葉及び枝、又はタイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から得られる。現在最も広く知られているタキサンは、パクリタキセル(タキソール(Taxol)(登録商標))及びドセタキセル(タキソテール(Taxotere)(登録商標))であり、これらは抗新生物剤として広く流通している。
パクリタキセルは、1970年代後半に発見され、当時存在していた化学療法剤とは異なる作用機序を有する有効な抗新生物剤であることが見出された。タキサンは、他の抗新生物剤では治りにくい多くの固形腫瘍の治療において有効な薬剤と認められる。
パクリタキセルは、式(A)として下記に示される分子構造を有する。
ドセタキセルは、パクリタキセルの類似体であり、式(B)として下記に示される分子構造を有する。
タキサンは、細胞微小管に対して生物学的な作用を及ぼし、チューブリン(紡錘体微小管のタンパク質サブユニット)の重合を促進するように作用する。結果的には、微小管の解重合が阻害され、これにより、安定でかつ非機能的な微小管が形成される。これにより微小管系内の動的平衡が乱されて、細胞周期はG2期の終わり及びM期において停止され、細胞の複製が阻害される。タキサンは、微小管成長の正常な機能を妨げ、そして微小管の構造を過度に安定化させることによってその機能を停止させる。これにより、柔軟な方法で、細胞がその細胞骨格を用いる能力を破壊する。
タキサンは、チューブリンダイマー(チューブリン二量体)よりもむしろ、チューブリンオリゴマー又はポリマー中のβ−チューブリンサブユニットのN末端の31個のアミノ酸残基に結合することによって抗新生物剤として機能する。微小管構築を阻害する他の抗微小管剤(例えば、ビンカアルカロイド)とは異なり、マイクロモル濃度未満のタキサンは、遅延時間を減少させ、チューブリンダイマーと微小管(すなわち、チューブリンオリゴマーの過重合(hyperpolymerization))との間の動的平衡を微小管構築のほうにシフトして、新たに形成された微小管を解重合に対して安定化させるように機能する。形成される微小管は高度に安定であり、それによって、微小管ネットワークの動的再編成を阻害する。例えば、ロビンスキー,E.K.(Rowinsky, E. K.)ら、タキソール:原型的タキサン、抗腫瘍剤の重要な新たな種類(Taxol: The prototypic taxane, an important new class of antitumor agents)、Semin. Oncol. 19:646(1992)を参照のこと。チューブリンは、微小管の「ビルディングブロック(building block)」であり、得られた微小管/タキサン複合体は、分解される能力を有しない。したがって、タキサンの結合は、微小管ネットワークの動的再編成を阻害する。微小管を短くしたり長くすること(すなわち、動的不安定性)は、他の細胞性成分を輸送するための機序としての微小管機能に必要であるので、この阻害は細胞機能に影響を及ぼす。例えば、有糸分裂中に、微小管は、染色体の複製及びそれに続く2つの娘細胞核への分離中に染色体に位置する。
さらに、マイクロモル濃度未満であっても、タキサンは、細胞において微小管を束ねること(bundling)も誘導し、並びに多数の異常有糸分裂星状体(これは、正常生理学的条件下で形成される有糸分裂星状体とは異なる)の形成は、除核のための中心小体を必要としない。したがって、タキサンは、微小管ポリマー質量及び微小管バンドル形成を増大させるのに必要な濃度よりもはるかに低い濃度で、中期−後期の境界で持続した有糸分裂「ブロック」を誘導することによって、細胞の増殖を阻害するように機能する。例えば、ラオ,S.(Rao, S.)ら、タキソールによるチューブリンの直接光親和性標識化(Direct photoaffinity labeling of tubulin with taxol.)、J. Natl. Cancer Inst. 84:785(1992)を参照のこと。タキサンによって生じる有害な生理学的副作用の多くが、正常(すなわち、非新生細胞)における中期−後期の境界での持続した有糸分裂「ブロック」によって生じることに留意されるべきである。
微小管を安定化することに加えて、タキサンであるパクリタキセルは、遊離のチューブリンを隔離することによって「分子スポンジ(molecular sponge)」として作用してもよく、したがって、チューブリンモノマー/ダイマーの細胞供給を効果的に減少(枯渇)させる。この活性は、前述のアポトーシスを誘発し得る。たいていの癌細胞のある共通の特徴は、高い細胞分裂率である。これを調整するために、癌細胞の細胞骨格は、広範な再構築を受ける。パクリタキセルは、この再構築を阻止することによって細胞分裂のプロセスに悪影響を及ぼすので、攻撃的な癌に有効な治療である。非癌性細胞も悪影響を及ぼされるが、癌細胞の速やかな分裂速度により、癌細胞はパクリタキセル治療に対してはるかに感受性になる。
さらなる調査もまた、パクリタキセルが、B細胞白血病2(Bcl−2)と呼ばれるアポトーシス停止タンパク質(apoptosis stopping protein)に結合することによってがん細胞におけるプログラムされた細胞死(アポトーシス)を誘導し、その機能を停止することを示す。
タキサンの分子構造は、C−4位及びC−5位で四員オキセタン環に結合したタキサン系からなる複合体アルカロイドエステルである。パクリタキセル及びドセタキセルの両方のタキサン環はC−13位でエステルに結合しているが、10−デアセチルバッカチンIIIは結合していない。実験的な研究及び臨床試験は、先述の結合を欠如する類似体が哺乳類チューブリンに対して非常に小さい活性を有することを証明している。また、C−2’及びC−3’での部分は、その十分な生物学的活性に関して、特にタキサンの抗微小管過重合にとって、重要である。C−2’−OHは、タキソール及び本発明の式(I)の化合物の活性に最も重要であり、タキソールのC−2’−OHは十分に強い求核剤によって「置換」できるが(PCT/US98/21814;第62頁、第8〜27行)、生化学的活性が非常に減少する。例えば、ラタステ,H.(Lataste, H.)ら、タキソール及びバッカチンIII誘導体の構造と哺乳類脳の分解におけるそのin vitro作用との関係(Relationship between the structures of Taxol and baccatine III derivatives and their in vitro action of the disassembly of mammalian brain.)、Proc. Natl. Acad.Sci. 81:4090(1984)を参照のこと。例えば、C−2’位でのアセチル基の置換はタキサン活性を顕著に減少させることが証明されている。例えば、ゲーリッテ−フェーゲリン,F.(Gueritte-Voegelein, F.)ら、タキソール類似体の構造とそれらの抗有糸分裂活性との関係(Relationships between the structures of taxol analogues and their antimitotic activity.)、J. Med. Chem. 34:992(1991)を参照のこと。
タキサンは、低い治療指数を有する毒性化合物であり、患者において多くの様々な毒性作用を生じることが示されている。タキサンの最も周知でありかつ深刻な有害な影響は、神経毒性及び血液毒性、特に貧血及び深刻な好中球減少症/血小板減少症である。さらに、タキサンは、推奨された投与量でさえ、患者の多くにおいて過敏性反応;胃腸作用(例えば、悪心(又は吐き気)(nausea)、下痢及び嘔吐);脱毛;貧血;及び種々の他の有害な生理的影響も生じる。本発明に開示されるタキサン薬剤としては、限定されない様式において、ドセタキセル又はパクリタキセル(市販のパクリタキセル誘導体であるタキソール(商標)及びアブラキサン(商標)を含む)、ポリグルタミン酸型パクリタキセル(例えば、ジオタックス(商標))、リポソーマルパクリタキセル(例えば、トコソル(商標))並びにそれらの類似体及び誘導体が挙げられる。
VI. 白金化合物の薬理学
抗新生物薬物であるシスプラチン(cis−ジアンミンジクロロ白金又は「CDDP」)、ならびにカルボプラチン及びオキサリプラチンを含む関連する白金系薬物は、種々の悪性腫瘍の治療において広範に使用される。これらの悪性腫瘍としては、卵巣、肺、結腸、膀胱、胚細胞腫瘍、及び頭頸部の癌が挙げられるがこれらに限定されない。白金薬剤は、一つにはアクア化(すなわち、反応性アクア(aqua)種を形成すること)によって作用することが報告され、そのようなアクア種の一部は、細胞内において優位であり、後にプリン塩基とDNA鎖内配位キレート架橋を形成し、それによってDNAを架橋し得る。シスプラチンの作用機序に関して現在認められている例は、この薬物が、核DNA中に見出されるグアニン及びアデノシンのイミダゾール成分内に含まれるN7窒素と反応して鎖内白金−DNA付加体を形成する反応性モノアコ(monoaquo)種を形成することによって、その細胞毒性を誘導することである。しかし、シスプラチンの正確な作用機序は完全には理解されておらず、科学界における調査の関心の対象のままである。したがって、この機序は、主に鎖内架橋を介して、及びまれに鎖間架橋を介して働き、それによってDNAの構造及び機能を崩壊させ、このような働きが癌細胞に対して細胞毒性であると考えられている。白金抵抗性癌細胞は、これらの薬剤の細胞毒性作用に対して回復力を有する(resilient)。ある癌は、白金薬剤の殺傷効果に対して新生の(de novo)固有の自然抵抗性を示し、初期の白金化合物治療の後にアポトーシス、ネクローシス又は退行に陥らない。対照的に、他のタイプの癌は、初期の治療の後の腫瘍退行によって証明されるように、白金薬物に対して細胞毒性の感受性を示すが、その後、白金抵抗性のレベルが上昇する。このことは、白金薬物による治療後の感応性の減少及び/又は腫瘍の増殖から明らかである(すなわち、「獲得抵抗性」)。したがって、腫瘍細胞を効果的に殺傷する新たな白金薬剤が絶えず探求されているが、これらの薬剤もまた、他の白金薬剤で観察される、腫瘍によって媒介される薬物抵抗性機序に鈍感であるか又はあまり感受性がない。
シスプラチンの加水分解反応を、以下のスキームIに示す。
中性pH(すなわち、pH7)の脱イオン水中、シスプラチンはモノアクア/モノヒドロキシ白金錯体に加水分解され、この加水分解物は、さらにジアクア錯体に加水分解されることはあまりないようである。しかし、シスプラチンは、無機塩(例えば、硝酸銀など)を用いるクロロリガンドの沈殿反応によって、モノアクア及びジアクア錯体を容易に形成し得る。また、クロロリガンドは、アクア化中間体を経ることなく、求核剤(例えば、窒素及び硫黄電子供与体など)の存在によって置換され得る。
シスプラチンは、ヒト血漿中で比較的安定であり、そこでは高濃度のクロリドがシスプラチンのアクア化を妨げる。しかし、いったんシスプラチンが腫瘍細胞に入ると、そこではクロリドの濃度が非常に低いので、シスプラチンの一方の又は双方のクロロリガンドが水で置換されて(上記に示されるように)アクア活性中間体形態を形成し、この中間体形態は、次々にDNAのプリン(すなわち、アデニン及びグアニン)と速やかに反応して、安定な白金−プリン−DNA付加体を形成する。
シスプラチンは、受動拡散及び能動輸送の両方を介して細胞に入る。シスプラチンの薬理学的挙動はある程度、いったんシスプラチンが本質的にクロリド濃度がゼロである細胞内部にあると生じる加水分解反応によって決定される。この細胞内環境において、1つの塩素リガンドが水分子によって置換され、シスプラチンのアクア化体(aquated version)を生じる。アクア化白金は、次いで、種々の細胞内求核剤と反応し得る。シスプラチンは、DNAよりも広範囲にわたってRNAに結合し、タンパク質よりも広範囲にわたってDNAに結合する;しかし、これらの反応のすべては、細胞内で起こると考えられる。したがって、投与に際して、クロリドリガンドは、アクア化と名付けられるプロセスにおいて水(アクアリガンド)分子との置換を受ける。得られた[PtCl(H2O)(NH3)2]+中のアクアリガンドは容易に置換され、シスプラチンにDNA中の塩基性部位を調整させる。その後、この白金は、他のクロリドリガンドの置換を介して2つの塩基を架橋する。シスプラチンは、いくつかの異なる方法においてDNAを架橋し、有糸分裂による細胞分裂を妨げる。損傷したDNAは種々のDNA修復機序を引き出し、次いで、修復が不可能であることが分かるとアポトーシスを作動させる。DNA変化のうち最も注目すべきものは、プリン塩基間の1,2−鎖内架橋である。このような架橋としては、付加体のほぼ90%を構成する1,2−鎖内d(GpG)付加体及びより頻度の低い1,2−鎖内d(ApG)付加体が挙げられる。1,3−鎖内d(GpXpG)付加体も生じ得るが、ヌクレオチド除去修復(NER)機序によって速やかに除去される。他の付加体としては、シスプラチンの活性に寄与すると仮定されている鎖間架橋及び非機能性付加体が挙げられる。いくつかの場合において、白金1,2−d(GpG)架橋の複製バイパスが生じ得、細胞にその白金架橋の存在下でそのDNAを忠実に複製させるが、しばしば、この1,2−鎖内d(GpG)架橋が修復されない場合、この架橋はDNA修復を妨げ、最終的にはアポトーシスという結果になる。
DNA修復を妨げるシスプラチン−DNA付加体の形成を、以下のスキームIIに示す。
細胞性タンパク質、特に高移動群(HMG)染色体ドメインタンパク質(これは転写、複製、組換え及びDNA修復に関係する)との相互作用もまた、有糸分裂を妨げる機序として進められているが、これはおそらく、その主要な作用機序でない。シスプラチンはしばしばアルキル化剤と呼ばれるが、シスプラチンは、アルキル基を有さずアルキル化反応を行えないことにも留意されるべきである。したがって、より正確には、シスプラチンはアルキル化様剤(alkylating-like agent)と分類される。
非限定的な例として、本発明の白金化合物としては、分子の構造中に白金リガンドを含むすべての化合物、組成物及び処方物が挙げられる。これらの化合物に含まれる白金リガンドの価数は、白金(II)又は白金(IV)であってもよい。本発明の白金薬剤としては、限定されない様式において、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、並びにそれらの類似体及び誘導体が挙げられる。
VII. 式(I)の化合物の薬理学
本発明の目的のために最も代表的な式(I)の化合物、ジメスナ(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム;BNP7787;タボセプト(商標))及びジメスナの代謝産物、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(メスナ)は、in vivoにおいてある種の抗新生物剤の毒性を選択的に低減するように作用する。メスナは、イホスファミド及びシクロホスファミドのアクロレイン関連尿路上皮細胞毒性を低減するために利用され、現在、米国及び海外においてこのような使用について認可されている。
ジメスナは、メスナの生理学的自動酸化ダイマーである。メスナ(I)及びジメスナ(II)は、以下の分子構造を有する。
これらの化合物の薬化学は、メスナの末端スルフヒドリル基(及びより少ない程度で、ジメスナのジスルフィド結合)が、白金錯体の活性代謝産物における末端ヒドロキシ又はアコ部分の置換基として作用することを示す。ジメスナは、メスナとは異なり、その生物学的に有効な効果を発揮するために、グルタチオンレダクターゼによるような代謝活性化を必要とする。ジメスナはまた、メスナよりも有意に低い毒性を示す。
ヒドロキシ又はアコ部分からチオエーテルへの変換は、特に酸性条件下において有利であり、その結果はるかに低い毒性の親水性化合物を形成し、体内から速やかに除去される。
血漿はわずかにアルカリ性(pH〜7.3)であるので、より安定なジスルフィド型が好ましい種であり、シスプラチン又はカルボプラチンのシクロブタンジカルボキシラト部分の求核性末端塩素と容易には反応しない。このことにより、この薬物は、ターゲット癌細胞に対してその意図された細胞毒性作用を実行することが可能である。白金錯体に対する仮定かつ仮説の作用機序は、最近の文献において考察されている。
本発明の組成物は、治療的に有効な量の式(I)の化合物を含む。既に規定されたように、式(I)の化合物は、このような化合物の薬学的に許容可能な塩、並びにこのような化合物のプロドラッグ、類似体、結合体(抱合体)、水和物、溶媒和物及び多形体、立体異性体(ジアステレオマー及びエナンチオマーを含む)及びこのような化合物の互変異性体を含む。式(I)の化合物及びそれらの合成は、例えば、米国特許第5,808,160号、同第5,922,902号、同第6,160,167号及び同第6,504,049号に記載されており、これらの文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。さらに、式(I)の化合物はまた、公開された米国特許出願第2005/0256055号(この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる)に記載されるように、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(メスナ)又は種々の置換基で結合(抱合)されるジスルフィド型としての2−メルカプトエタンスルホナートとして公知の2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムの代謝産物を含む。
化学療法剤の抗癌活性の相乗作用において機能する本発明の式(I)の組成物の推定される機序は、1又はそれ以上のいくつかの新規な薬理学的及び生理学的因子に関係し得る。このような因子としては、グルタチオン/システイン及び他の生理学的細胞性チオールの正常な増大、反応性又は濃度及び/もしくは腫瘍保護代謝における予防、調整並びに/又は低減が挙げられるが、これらに限定されず;これらの抗酸化剤及び酵素は、腫瘍細胞において細胞毒性化学療法剤に対する曝露によって生じ得る細胞内酸化的代謝の誘導に応答して、それぞれ、濃度及び/又は活性が増大する。式(I)の化合物に関与できるある種の機序に関するさらなる情報は、2007年3月16日に提出された米国特許出願第11/724,933号に開示され、この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。
さらに、本発明の式(I)の化合物が、(i)化学療法を受ける癌患者において患者の生存時間を増大させること;(ii)必要とする患者(癌患者を含む)において血液機能を維持又は刺激すること;(iii)必要とする患者(癌患者を含む)においてエリスロポエチンの機能又は合成を維持又は刺激すること;(iv)必要とする患者(癌患者を含む)において貧血を緩和又は予防すること;(v)必要とする患者(癌患者を含む)において多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激すること;(vi)化学療法を受ける癌患者において腫瘍の進行の停止又は遅延を促進すること;並びに(vii)化学療法を受ける癌患者において生活の質を維持もしくは改善しながら患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延することにおいても役割を果たすエビデンス(証拠)を提供する開示が、本明細書において提供される。
本発明の式(I)の化合物の好ましい用量は、約1g/m2〜約50g/m2、好ましくは約5g/m2〜約40g/m2(例えば、約10g/m2〜約30g/m2)、より好ましくは約14g/m2〜約22g/m2の範囲であり、最も好ましい用量は18.4g/m2である。
VIII. エリスロポエチンの薬理学及び赤血球形成のプロセス
赤血球形成は、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))が産生されるプロセスである。初期胎児において、赤血球形成は、卵黄嚢の中胚葉細胞において生じる。胎児発達の3又は4月までに、赤血球形成は脾臓及び肝臓に移動する。ヒト成人において、赤血球形成は、一般的に、骨髄内で生じる。腕(脛骨)及び脚(大腿)の長骨は、約25才までに造血の重要な部位でなくなり;脊椎、胸骨、骨盤及び頭蓋骨が、引き続き一生を通じて赤血球を産生する。しかし、ある種の疾患を有するヒト及びいくつかの動物において、赤血球形成は骨髄外、脾臓又は肝臓内でも生じることに留意されるべきである。このことは、髄外赤血球形成と称される。
赤血球成熟のプロセスにおいて、細胞は、一連の分化を受ける。以下の発達段階はすべて、骨髄内で生じる:(i)多能性造血幹細胞;(ii)複能性幹細胞;(iii)単能性幹細胞;(iv)前正赤芽球;(v)好塩基性正赤芽球/初期正赤芽球;(vi)多染性正赤芽球/中間体正赤芽球;(vii)正染性正赤芽球/後期正赤芽球;及び(viii)網状赤血球。これらの段階の後、細胞は、骨髄から放出され、最終的に末梢血中に循環する「赤血球(erythrocyte)」又は成熟赤血球(mature red blood cell)になる。これらの段階は、ライト(Wright)の染色液で染色し光学顕微鏡検査によって調べた場合の細胞の特異的な組織学的外見(appearance)に対応するが、多くの他の固有の生化学的及び生理学的変化には対応しない。例えば、成熟のプロセスにおいて、好塩基性前正赤芽球は、大きな核を有し体積900μm3の細胞から体積95μm3の除核(又は脱核)された円盤に変換される。網状赤血球段階によって、細胞はその核を押し出すが、まだヘモグロビンを産生できる。
サイトカイン糖タンパク質ホルモンであるエリスロポエチン(以下に論じられる)に関係するフィードバックループは、赤血球形成のプロセスの調節(制御)を助けるので、非疾患状態において、赤血球の産生は赤血球の破壊に等しく、赤血球数は適切な組織酸素レベルを維持するのに十分であるが、血液の濃厚化もしくは「沈殿化(sludging)」、血栓症及び/又は発作を引き起こすほど高くはない。エリスロポエチンは、低い酸素レベルに応答して腎臓及び肝臓において産生される。さらに、エリスロポエチンは、赤血球を循環することによって結合し;循環回数が少ないと、結合していないエリスロポエチンが比較的高いレベルになり、骨髄における産生を刺激する。
近年の研究において、ペプチドホルモンであるヘプシジンが、ヘモグロビン産生の調節においても役割を果たし、それによって赤血球形成をもたらし得ることが明らかになっている。肝臓によって産生されるヘプシジンは、胃腸管における鉄の吸収及び網内細胞組織からの鉄の放出を制御する。鉄は、赤血球中のヘモグロビンのヘム基に組み込まれるように、骨髄においてマクロファージから放出されなければならない。
形成中の細胞を支配するコロニー形成単位(例えば、顆粒球単球コロニー形成単位を含む)が存在する。これらの細胞は、方向づけられた細胞(committed cell)と称される。例えば、マウス細胞におけるエリスロポエチン受容体又はJAK2の機能の損失により、赤血球形成の障害が生じるので、胚における赤血球の産生及び成長が妨害される。同様に、この系におけるSOCS(サイトカインシグナリングのサプレッサー)タンパク質などのフィードバック阻害の欠如は、マウスにおいて巨人症をもたらすことが明らかになっている。
エリスロポエチン(EPO)は、赤血球産生(赤血球形成)のプロセスを調節する骨髄における赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell))前駆体のためのサイトカインである、サイトカイン糖タンパク質ホルモンである。サイトカインは、細胞によって産生されたシグナリング化合物として機能して互いに連絡するタンパク質及びペプチドの一群である。サイトカインは、細胞表面サイトカイン受容体を介して作用する。サイトカインファミリーは、主に、8〜30kDaの質量を有する、より小さな水溶性タンパク質及び糖タンパク質(すなわち、付加された糖鎖を有するタンパク質)からなる。サイトカインは、ホルモン及び神経伝達物質と似た作用をするが、ホルモンが特定の器官から血液中に放出され、神経伝達物質がニューロンによって産生されるのに対して、サイトカインは多くの細胞型によって放出される。免疫系におけるこれらの中心的役割に起因して、サイトカインは、種々の免疫学的、炎症性及び感染性疾患に関与する。免疫系が病原体と戦っているとき、サイトカインは、T細胞及びマクロファージなどの免疫細胞に感染部位まで移動するようにシグナルを送る。さらに、サイトカインはこれらの細胞を活性化し、より多くのサイトカインを産生するようにこれらの細胞を刺激する。しかし、サイトカインは胚形成の間いくつかの発達プロセスにも関与するので、これらのすべての機能が免疫系に限定されるとは限らない。サイトカインは、広範に種々の細胞型(造血及び非造血の両方)によって産生され、細胞の近く又は器官の至る所の両方に影響を与えることができる。時には、これらの影響は、他の化学物質及びサイトカインの存在に強く依存する。サイトカインは、外因的に合成され、そして管理され(administered)てもよい。しかし、このような分子は、例えば翻訳後修飾の特徴において、内因性のものとはわずかに異なるので、後半の段階で検出できる。
EPOは、腎皮質の筋様線維芽細胞によって主に産生される。EPOの調節は、血液酸化を評価するフィードバック機序に依存すると考えられる。EPOのための構成的に合成された転写因子は低酸素誘導因子(HIFs)として公知であり、この因子は、酸素の存在下において加水分解され、そしてプロテアソームにより消化(proteosomally-digested)される。例えば、イェルケマン,W.(Jelkmann, W.)、研究の世紀の後のエリスロポエチン:今までよりも若く(Erythropoietin after a century of research: younger than ever.)、Eur. J. Haematol. 78(3):183-205(2007)を参照のこと。低酸素誘導因子(HIFs)は、細胞性環境における利用可能な酸素の変化、詳細には酸素の減少、すなわち低酸素、に応答する転写因子である。すべてではないが、ほとんどの酸素呼吸種は、高度に保存された転写複合体HIF−1を発現する。このHIF−1は、α−及びβ−サブユニットで構成されるヘテロダイマーであり、後者は、構成的に発現されたアリール炭化水素受容体核トランスロケーター(ARNT)である。
HIF−1は、転写因子の塩基性へリックス−ループ−へリックス(bHLH)ファミリーのPER−ARNT−SIM(PAS)サブファミリーに属する。HIF−1のα−サブユニットは、HIFプロリルヒドロキシラーゼによるプロピルヒドロキシル化のターゲットであり、HIF−1αをE3ユビキチンリガーゼ複合体による分解のターゲットにして、プロテオソームによる速やかな分解をもたらす。これは、酸素正常条件においてのみ起こる。低酸素条件においては、HIFプロリルヒドロキシラーゼは補基質として酸素を利用するので、阻害される。
低酸素はまた、ミトコンドリアにおける電子伝達系の阻害に起因して、コハク酸(サクシナート)の蓄積(buildup)を生じる。コハク酸(サクシナート)はHIFヒドロキシル化の最終産物であるので、その蓄積は、HIFプロリルヒドロキシラーゼ作用をさらに阻害する。類似の様式において、SDHB又はSDHD遺伝子中の突然変異に起因するコハク酸デヒドロゲナーゼ複合体における電子移動の阻害は、HIFプロリルヒドロキシラーゼを阻害するコハク酸(サクシナート)の蓄積を生じることができ、HIF−1αを安定化する。これは、偽低酸素(pseudohypoxia)と呼ばれる。
低酸素条件によって安定化される場合、HIF−1は、いくつかの遺伝子を上方制御して、低酸素条件における生存を促進する。これらの遺伝子としては、解糖酵素(これは、酸素非依存様式においてATP合成させる)及び血管内皮成長因子(VEGF)(これは、脈管形成を促進する)が挙げられる。HIF−1は、配列NCGTGを含むプロモーターにおいてHIF応答性領域(HIF-responsive elements(HREs))に結合することによって作用する。一般に、HIFsは、成長に極めて重要である。哺乳類において、HIF−1遺伝子の欠失は、周産期死亡という結果となる。HIF−1は、軟骨細胞の生存に極めて重要であり、細胞を骨の成長板内で低酸素条件に適応させることが明らかとなっている。
エリスロポエチンは、哺乳類細胞培養における組み換えDNA技術によって産生される治療剤として利用可能である。エリスロポエチンは、慢性腎臓疾患から、癌の治療(例えば、化学療法及び放射線)から、及び他の重篤な病気(例えば、心不全)から生じる貧血の治療に使用される。
貧血性の癌患者におけるEPOの使用の安全性に関して、製薬業者及び米国食品医薬品局(FDA)の両方によって最近発表された多くの警告が存在していることに留意されるべきである。最初に、赤血球形成刺激剤(ESAs)の製造業者は、2007年に「医師宛(Dear Doctor)」を広め、この「医者宛」において、癌に関連する貧血を試験した近年の臨床試験の結果を強調し、医者にその認可外(off-label)の指示での使用を慎重に考慮するよう警告した。ESAの製造業者はまた、FDAに3つの臨床試験(DAHANCA 10;PREPARE、及びGOG−191臨床試験)の結果に関して忠告した。例えば、DAHANCAは、「デンマークでの頭頸部癌研究(Danish Head and Neck Cancer Studies)」と題された一連の研究をいい、最新のものを「DAHANCA 10」という。例えば、エリクセン,J.(Eriksen, J.)及びオヴァガード,J.(Overgaard, J.)、公知の変更可能な低酸素での頭頸部の扁平上皮癌の放射線療法におけるCA IXの予後及び予想値の欠如:DAHANCA 5研究の評価(Lack of prognostic and predictive value of CA IX in radiotherapy of squamous cell carcinoma of the head and neck with known modifiable hypoxia: An evaluation of the DAHANCA 5 study.)、Radiotherap. Oncol. 83(3):383-388(2007)を参照のこと。この研究において、DAHANCA 10データモニタリング委員会は、ESAを用いて治療された被験体における種々のタイプの頭頸部癌の3年局所領域制御が、ESAを受けなかった患者よりも有意に悪かった(p=0.01)ことを見出した。これらの勧告に応答して、FDAはその後、ESAの使用に関して、公衆衛生勧告(Public Health Advisory)及び医師のための臨床警告を発表した。この勧告は、化学療法を受けるか又は化学療法をやめている(off chemotherapy)癌患者におけるこれらの薬剤の使用の際の警告を推奨し、これらの設定において生活の質の改善又は輸血の要件を支持するための臨床的エビデンスの欠如を示した。さらに、ESAの製造業者は、これらの薬物の安全性についての新たなブラックボックス警告(Black Box Warnings)に同意している。種々のESAに関するさらなる情報は、食品医薬品局(FDA)又は特定のESA製造業者自体から得ることができることに留意されるべきである。
関連するサイトカインであるコロニー刺激因子(CSF)は、造血幹細胞の表面上の受容体タンパク質に結合し、それによって細胞内シグナリング経路を活性化する分泌糖タンパク質であり、この細胞内シグナリング経路は、これらの細胞を増殖させて特定の種類の血液細胞(典型的には、白血球)に分化させ得る。造血幹細胞(HSC)は、幹細胞(すなわち、細胞が、有糸細胞分裂によってその細胞自体を新生する能力を保持し、種々の範囲の特定の細胞型に分化し得る)であり、この幹細胞は、骨髄様系統(例えば、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/小板、樹状突起細胞など)及びリンパ様系統(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞など)を含むすべての血液細胞型を生じる。造血幹細胞の定義は、最近20年の間にかなり改訂されている。造血組織は、長期間又は短期間の再生能力及び方向づけられた(committed)複能性、寡能性(oligopotent)及び単能性前駆体(progenitor)を有する細胞を含む。近年、長期間の移植実験は、造血幹細胞のクローン多様性モデルに向いている。ここで、HSC区分(HSC compartment)は、特定の数に決められた様々なタイプのHSCからなり、各々後生的にあらかじめプログラムされた挙動を示す。この区分は、より古いHSC挙動のモデルとは異なる。より古いHSC挙動は、様々なサブタイプのHSCに連続的に形成できる単一型のHSCを仮定した。例えば、HSCは、骨髄組織中の細胞の1:10.000を構成する。
コロニー刺激因子は、外因的に合成され、そして管理される。しかし、このような分子は、例えば翻訳後修飾において、内因性のものとはわずかに異なるので、後半の段階で検出され得る。「コロニー刺激因子」という名称は、これらが発見された方法に由来する。造血幹細胞を、細胞が動き回らないようにするいわゆる半固体マトリックス上に培養し、その結果単一の細胞が増殖し始める場合、それに由来する細胞のすべては、最初の細胞が元々位置していたマトリックス中のスポットの周りに密集したままであろう。これらを「コロニー」と称する。したがって、造血幹細胞の培養に種々の物質を添加して、(もしあれば)どの種類のコロニーが添加物質によって「刺激され」たかを試験することが可能となった。例えば、マクロファージのコロニーの形成を刺激することが見出された物質は、マクロファージコロニー刺激因子などと称された。コロニー刺激因子は、他の造血微環境の膜結合物質とは対照的に可溶性である。このことは、CSFの定義として用いられることもある。コロニー刺激因子は、傍分泌(パラクリン)、内分泌(エンドクリン)又は自己分泌(オートクリン)シグナリングによって伝達する。
コロニー刺激因子としては、マクロファージコロニー刺激因子;顆粒球マクロファージコロニー刺激因子;及び顆粒球コロニー刺激因子が挙げられる。マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF又はCSF−1)は、造血幹細胞を促してマクロファージ又は他の関連する細胞型に分化させる分泌サイトカインである。M−CSFは、マクロファージコロニー刺激因子受容体に結合する。M−CSFはまた、胎盤の成長に関与してもよい。
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF又はCSF−2)は、マクロファージ、T細胞、肥満細胞、内皮細胞及び線維芽細胞によって分泌されるタンパク質である。GM−CSFは、白血球成長因子として機能するサイトカインである。GM−CSFは、幹細胞を刺激して、顆粒球(例えば、好中球、好酸球及び好塩基球)及び単球を産生する。単球は、血液循環を抜け出して組織内に移入するとすぐに、マクロファージへと成熟する。したがって、この作用は、免疫/炎症性カスケードの一部であり、このカスケードにより、少数のマクロファージが活性化され、その数を増加し、感染と戦うために重要なプロセスが速やかに発現できる。このタンパク質の活性型は、ホモダイマーとして細胞外に見出される。
顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF又はCSF−3)は、コロニー刺激因子ホルモンである。顆粒球コロニー刺激因子は、骨髄を刺激して顆粒球及び幹細胞を産生するために多くの様々な組織によって産生される糖タンパク質、成長因子又はサイトカインである。次いで、G−CSFは骨髄を刺激して、顆粒球及び幹細胞を骨髄から血液中に脈動させる。G−CSFはまた、好中球前駆体及び成熟好中球の生存、増殖、分化及び機能を刺激する。G−CSFは、内皮、マクロファージ及び多くの他の免疫細胞によって産生される。天然ヒト糖タンパク質は2つの形態、すなわち、1モルあたり分子量19,600グラムの174及び180アミノ酸長のタンパク質で存在する。より豊富でかつより活性な174アミノ酸型は、組み換えDNA(rDNA)技術による医薬品の開発に使用されている。G−CSF受容体は、骨髄中の前駆細胞上に存在し、G−CSFによる刺激に応答して、増殖及び成熟顆粒球への分化を開始する。プロメガポエチンは、血液細胞再生を増大させるために化学療法の間に与えられる組み換え薬物である。プロメガポエチンは、巨核球産生を刺激するコロニー刺激因子である。プロメガポエチンは、インターロイキン−3及びc−Mplのためのリガンドを刺激することによって機能する。
IX. タボセプト(商標)の作用機序
癌の治療における化合物としてのタボセプト(商標)の有効性の重要な要素は、正常細胞対癌細胞についてのこの化合物の選択性、及びこの化合物が化学療法剤の抗癌活性を妨害できないことである。in vitroでの研究は、ヒト胸部、卵巣及びリンパ腫癌細胞株におけるPARP分割、Bcl−2リン酸化及びDNAラダー(DNA断片化)によって評価されるように、タボセプト(商標)がパクリタキセルによって誘導されるアポトーシスを妨げないことを実証した。さらに、タボセプト(商標)は、ヒト癌細胞株においてパクリタキセル及び白金によって誘導される細胞毒性を妨げず、本明細書中に論じられた動物モデルにおいてパクリタキセル及び白金レジメン(治療)を妨げなかった。
タボセプト(商標)によって抗癌活性を妨げないことの根本を成す潜在的な機序は、多因子的であり、既に述べたように、正常細胞対癌細胞についてのこの化合物の選択性、正常細胞において重要な(critical)血漿及び細胞性チオール−ジスルフィド均衡に最小限の影響を与える固有の化学的性質、並びにこの化合物と細胞性オキシドレダクターゼ(これは、細胞性酸化/還元(酸化還元(レドックス))維持システムにおける鍵である)との相互作用に関係し得る。
抗癌活性を妨げないことに加えて、in vivo研究からの結果は、タボセプト(商標)が、チオレドキシン及びグルタレドキシンによって媒介される機序を介して腫瘍細胞におけるアポトーシス感受性の回復を導き得るので、このことが化学療法剤としてのその有効性の重要な要素であり得ることを明らかにしている。タボセプト(商標)は、チオレドキシンのための基質であり、還元型グルタチオン及びグルタチオンレダクターゼの存在下でグルタレドキシンと基質様活性を示し、そしてこの基質様活性はアッセイ反応の間のグルタチオン含有ジスルフィドヘテロ結合体(抱合体)の非酵素的形成に起因してもよく;これらのグルタチオンジスルフィドヘテロ結合体(抱合体)は、今度はグルタレドキシンのための基質として作用してもよいことが実証されている。したがって、タボセプト(商標)は、酸化型(不活性)及び還元型(活性)チオレドキシン又はグルタレドキシンの細胞内均衡を潜在的にシフトし、その後これらの細胞性活性を調節できるかもしれない。
同様に、タボセプト(商標)の濃度の増大は、還元型グルタチオンと1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(CDNB)との結合(抱合)においてGST触媒反応の阻害の割合を著しく増大させる(このデータは、後に提示される)。GST及び関連種(GST)の1つの機能は、例えば、グルタチオンと種々の求電子化合物との結合(抱合)を触媒することによって、発癌物質及び反応性酸素種の求電子代謝産物の新生物性効果から哺乳類細胞を保護することである。また、GSTは、正常組織に対して腫瘍組織において高度に発現し、癌患者の血漿において高レベルで見出され、GSTの発現の増大は、アルキル化細胞増殖抑制性薬物に対する細胞抵抗性の発達に関連している。
チオレドキシン、グルタレドキシン又は関連する細胞性酸化還元系を介する腫瘍細胞のアポトーシス感受性のタボセプト(商標)による回復は、腫瘍細胞に対する正味の抗増殖活性を有するであろう。チオレドキシン及びGSTは、細胞中のアポトーシス経路及び細胞内酸化還元環境の両方に重要なプレイヤーであり、これらのタンパク質のための基質を阻害するか又は基質として働く任意の分子は、高い/上昇した/異常なレベルのチオレドキシン及び/又はGSTに起因する細胞内酸化還元環境における変化を相殺するかもしれない。チオレドキシン及び/又はGSTに対するタボセプト(商標)の効果はまた、アポトーシスに関与する酸化還元感受性のシグナリング経路を潜在的に正常化するかもしれない。したがって、正味の結果は、化学療法剤に対する腫瘍細胞の感受性の増大及び/又はより正常な細胞内酸化還元環境の回復であろう。これらのオキシドレダクターゼの不活性型の実質的な増大により、酸化還元ホメオスタシス、細胞増殖、及び種々の転写因子に対する還元的制御による遺伝子転写において有意な変化がもたらされるかもしれない。詳細には、腫瘍の進行におけるチオレドキシン系の関与、p53によって媒介される遺伝子転写に対するチオレドキシン系の影響、及び化学毒素からの神経保護におけるチオレドキシン系の実証された役割は、この系とタボセプト(商標)との相互作用が、(i)酸化的ストレッサーの存在下における腫瘍成長の阻害;(ii)化学的に誘導された癌細胞の過酸化及び高熱の間の正常細胞の保護;及び/又は(iii)化学的に誘導された神経毒性の改善を含む種々の陽性の臨床的二次結果(positive clinical sequelae)を有し得ることを示すであろう。
X. 生理学的細胞性チオール及び非タンパク質スルフヒドリル(NPSH)に対するタボセプト(商標)の活性
癌のための薬剤及び治療の数、並びに1又はそれ以上のこれらの化学療法剤を同時に受ける被験体の数が増加するにつれて、臨床医及び研究者は、種々の有害な疾患の発現の病因及び病態生理学を引き起こす生物学的、化学的、薬理学的及び細胞性機序、並びにこれらの化学療法薬物が生化学的及び薬理学的に抗癌及び細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性をどのように発揮するかを十分に説明しようと努めている。本明細書に記載されるように、本発明の新規な構想及び実行を除いては、(i)チオレドキシン及びグルタレドキシンの細胞内濃度に影響を及ぼすか並びに/又はチオレドキシンもしくはグルタレドキシンによって媒介される化学療法剤に対する抵抗性を緩和又は予防することができ、その結果、医薬組成物を受けなかった癌患者と比較して、癌患者の生存時間を増大させる;並びに(ii)化学療法剤によって誘導された急性もしくは慢性の有害な作用の初期の発病を予防もしくは遅延し、その全体的な重症度を減衰させ、及び/又はその解決を促進させる、現在利用可能な医薬組成物は、存在しない。
本発明の式(I)の化合物(2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホナート並びにその薬学的に許容可能な塩及び類似体を含む)が機能する機序は、いくつかの新規な薬理学的及び生理学的因子に関係する。このような因子としては、以下の因子が挙げられるがこれらに限定されない:
(i)生理学的細胞性チオールの正常な増大、反応性、又は濃縮及び代謝における予防、調整及び/又は低減;これらの抗酸化剤及び酵素は、それぞれ、腫瘍細胞における化学療法剤への曝露によって生じ得る細胞内の酸化的代謝の変化の誘導に応答して、濃度及び/又は活性が増大する。本発明の式(I)の化合物は、分子自体の固有の組成(すなわち、酸化型ジスルフィド)によって、並びに遊離のチオールを酸化して酸化型ジスルフィドを形成することによって(すなわち、非酵素的SN2−媒介反応(ここで、ジスルフィドに対するチオール/チオラートの作用によって、より酸性のチオール基の離脱をもたらす。チオラート基は、対応するチオールよりもはるかに求核性であるので、この作用はチオラートを介すると考えられている)によって)、及び還元的生理学的遊離のチオール(例えば、グルタチオン、システイン及びホモシステイン)の薬理学的減少及び代謝によって、酸化的活性を発揮する。したがって、これらの薬理学的活性は、癌患者への細胞毒性化学療法投与に対して相加効果を有し、さらなる抗癌活性は、酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物の投与の結果として生じ、薬物の効き目を増大させ、そして種々の同時投与される化学療法剤の腫瘍媒介性の抵抗性(白金、タキサン及びアルキル化剤系薬物の効き目及び腫瘍媒介性の薬物抵抗性)を減少させる。;
(ii)酸化的代謝に影響を及ぼす本発明の式(I)の化合物によるチオレドキシン不活性化。それによって、癌細胞におけるアポトーシス感受性を増大させ、ミトゲン/細胞複製シグナリングを減少させる。;
(iii)式(I)の化合物であるタボセプト(商標)(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム)の重要な代謝産物(2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(文献においてメスナとしても公知である)として公知である)は、いくつかの腫瘍において固有の細胞毒性又は細胞増殖抑制性の活性を有し(すなわち、アポトーシスを引き起こし)、癌細胞を直接的に殺傷できる。;並びに
(iv)本発明の式(I)の化合物は、癌腫瘍細胞の細胞内酸化的代謝の変化を引き起こすことによって作用でき、そしてそれらの酸化的生物学的及び生理学的段階を増強でき、それにより、化学療法に曝露された腫瘍細胞における(例えば、ROS、RNS又は他の機序によって媒介される)酸化的損傷の量を増大させ、それにより、化学療法剤の細胞毒性/アポトーシスを増強すると考えられている。したがって、生理学的に有害な酸化的化合物のレベルを高め及び/又は癌腫瘍細胞の全体の抗酸化的能力又は反応性を減少もしくは調整することによって細胞内酸化的代謝を変更することにより、抗癌活性の著しい増大を達成できる。本発明の出願人は、これが本発明の式(I)の化合物の鍵となる作用機序(種々の他の抗癌増強機序と併せて作用し得る)であり、治療にとって非常に重要な意味を持つと考えている。
本発明の式(I)の化合物を含む組成物及び処方物は、以下の3つの一般的な治療方法を任意に組み合わせて与えられもよい:(i)患者の癌を感作して患者の生存を増大させるために、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンが媒介する経路を直接的又は間接的に介して作用してもよい任意の化学療法剤(単数又は複数)の任意のその後の投与に対する癌細胞の感受性を増大させる、直接的な阻害又は不活性化方法(すなわち、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンを不活性化する直接的な化学的相互作用)及び/又は減少(枯渇)方法(すなわち、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシン濃度又は生成速度の減少);及び/又は(ii)化学療法が同時に投与されている間存在する、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンが媒介する機序に対して直接向けられた薬理学的活性を増大及び最適化するために、抗チオレドキシン及び/又はグルタレドキシン療法を、癌患者が任意の化学療法サイクルを開始するときに化学療法投与と同時に投与する、相乗方法;及び/又は(iii)好ましく要求される限り、患者の癌細胞においてチオレドキシン及び/又はグルタレドキシンの薬理学的に誘導された減少(枯渇)、不活性化又は調整の存在を維持するための、治療後方法(post-treatment manner)(すなわち、化学療法用量投与又は化学療法サイクルの終了後)。さらに、前述の組成物及び処方物は、任意のさらなる臨床的に有益な機序によって、細胞毒性又は細胞増殖抑制性の抗癌剤を用いる治療においてその治療を受ける患者の生存時間を増大させるための同一の方法において与えられてもよい。
XI. チオレドキシン及びグルタレドキシン系に対する潜在的効果に焦点を当てたタボセプト(商標)関連研究の要約
(i)タボセプト(商標)(BNP7787、ジメスナ)及びタボセプト(商標)由来のメスナジスルフィドヘテロ結合体(抱合体)を含む種々の式(I)の化合物は、チオレドキシン及び/又はグルタレドキシン系の新しい基質阻害剤として機能する(後述の表3及び表4を参照のこと)。
(ii)タボセプト(商標)及びタボセプト(商標)由来のメスナジスルフィドヘテロ結合体(抱合体)を含む種々の式(I)の化合物は、酸化型チオレドキシン又は酸化型グルタレドキシンの形成を促進することが明らかとなっており、抗アポトーシス及び細胞増殖シグナルは、通常、還元型チオレドキシン及び還元型グルタレドキシンを必要とするので、タボセプト(商標)によって媒介される酸化型チオレドキシン及び/又はグルタレドキシンへの変換は、アポトーシス感受性の増大及び細胞成長経路の阻害をもたらし得る。
(iii)タボセプト(商標)は、結合したチオレドキシン/チオレドキシンレダクターゼ系(チオレドキシンレダクターゼ単独ではない)のための基質である(Km=72μM)。
(iv)タボセプト(商標)は、チオレドキシン/チオレドキシンレダクターゼによって触媒されるインシュリンA−B鎖ジスルフィドの還元を阻害する(Km=3.6mM)。
(v)タボセプト(商標)は、タボセプト(商標)由来のメスナジスルフィドヘテロ結合体(抱合体)(例えば、BNP7772)を形成する細胞内グルタチオンを減少(枯渇)できる。タボセプト(商標)は、還元型グルタレドキシンの新たな基質阻害剤として働くこと及び/又は酸化型グルタレドキシンを活性な還元型へ還元するために利用可能な細胞内グルタチオンを減少(枯渇)することによって、グルタチオンにより媒介される酸化型グルタレドキシンの還元を妨げると考えられる。
詳細な実施例及び実験的/臨床的結果を開示する以下の項を参照することにより、本発明をよりよく理解できるであろう。以下の実施例は、例示的なものであり、いかなる様式においても本発明又は特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
詳細な実施例及び実験的/臨床的結果
I. グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)に対するタボセプト(商標)の効果
タボセプト(商標)(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム;BNP7787)が化学療法剤の抗癌活性を増大できることを説明するための1つの可能性のある仮説は、タボセプト(商標)がグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)の反応においてグルタチオン代替物又はモジュレーターとして作用し得ることを述べる。グルタチオン及びその関連する酵素は、細胞毒性の化学療法を含む毒性化学物質の解毒において主要な役割を果たす。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)は、グルタチオンと種々の求電子化合物との結合(抱合)、しばしば、N−アセチルシステインなどのメルカプツール酸誘導体の形成における第1工程を触媒する第II相解毒アイソザイムのファミリーを構成する。以下の反応スキームIは、グルタチオンの求電子種RX(ここで、Rは、S、N又はCである)への移動を触媒するグルタチオンS−トランスフェラーゼを説明する。
得られたグルタチオン結合体(グルタチオン抱合体)は、細胞から排出されるか又はγ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びシステイン−S−結合体−β−リアーゼによってさらなる酵素的プロセスを受けるかのいずれかである。例えば、ハウシェール,F.H.(Hausheer, F. H.)ら、白金によって誘導された毒性及び治療指数の調整:機械論的洞察並びに第1及び第2世代の保護剤(Modulation of platinum-induced toxicities and therapeutic index: mechanistic insights and first- and second-generation protecting agents.)、Semin Oncol. 25:584-599(1998)を参照のこと。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)は、正常組織に比べて腫瘍組織において高度に発現され、癌患者の血漿中においても高レベルで見出され;それにより、これらの酵素を潜在的な癌マーカーとして利用できる。GSTには複数の細胞質及び膜結合GSTアイソザイムが存在し、これらの組織特異的発現及び分布において異なる。GSTは、発癌物質及び反応性酸素種の求電子代謝産物の毒性及び新生物性効果から哺乳類細胞を保護する。例えば、GSTの発現の増大は、アルキル化細胞増殖抑制性薬物に対する細胞抵抗性の発達に関連している。GSTアイソザイムの欠乏は、種々の形態の癌になりやすい傾向を増大させ得る。したがって、GSTの状態は、化学療法の臨床的成果の決定において有用な診断因子であり得る。
以下の実験は、タボセプト(商標)がGSTに対する阻害又は刺激効果を有するかどうかを決定するために計画された。詳細には、これらの研究は、タボセプト(商標)がGSTのための基質として作用し得るか否か、又はこれらの化合物のいずれがGSTを阻害するかを扱う。GSTについてのin vitroアッセイは、開発及び報告されている。マイアー,D.J.(Meyer, D. J.)及びケットラー,B.(Ketterer, B.)、溶解性ヒトグルタチオンS−トランスフェラーゼの精製(Purification of soluble human glutathione S-transferases.)、Methods Enzymol. 252:53-65(1995)を参照のこと。このアッセイは、以下の反応スキームIIに説明されるように、還元型グルタチオンと1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(CDNB)との結合(抱合)をモニターする。
還元型チオールは、340nmで検出されるCDNB(吸光係数=9600M−1cm−1)と結合体(抱合体)を形成する。GSH、CDNB、タボセプト(商標)のストック溶液(原液)を、使用に先だって、試薬を以下に記載された濃度で滅菌水に溶解することによって調製した。典型的な1mLアッセイを、500μLのNaHPO4緩衝剤(200mM、pH6.5)、20μLのGSH(50mM)、20μLのCDNB(50mM)及び458μLの滅菌水を混合することによって設定した。反応を、酵素(GSTのml−1アイソタイプ;活性>100U/mg)の添加によりこのアッセイを開始する前に、分光光度計のキュベットホルダー中で約5分間20℃でインキュベートした。売り主から購入した酵素ストックを、200mMのNaHPO4緩衝剤(pH6.5)で1:100に希釈し、希釈した酵素2μLを添加して反応を開始した。このアッセイに添加した酵素の最終的な量は、概して0.002Uであった。アッセイを1mL石英キュベット(ヘルマ・サイエンティフィック(Hellma Scientific))中、20℃で行った。このアッセイの直線範囲(すなわち、概して5〜10分の間)において傾きを測定した。GST活性に対するタボセプト(商標)の効果が測定されたアッセイにおいて、500mM、166.7mM又は55.6mMのいずれかのタボセプト(商標)ストック溶液の20μLを、酵素基質として1mMのGSHを用いる標準反応に添加した。最終反応容量を、水の添加量を調整することにより1mLで固定した。
すべてのUV−可視アッセイは、恒温ジャケット付きマルチセルホルダー(thermostatic jacketed multi-cell holder)を装着したVarian Cary 100分光光度計を用いて行った。可視ランプ及び重水素ランプの両方を用いたこと、並びに波長340nm、温度20℃及び最大アッセイ時間30分を設定したことを除いては、Cary Win UV Enzyme Kineticsアプリケーション(バージョン2.00)のデフォルトパラメータを使用した。
生データを、Cary 100分光光度計によって得た。このデータは、典型的な反応に対していくつかの相を示した。第1相は、酵素添加前の時間(概して、時間にして2〜5分)に対応するベースラインであった。反応の第1相におけるアッセイは、基質、緩衝剤及び(いくつかのアッセイでは)タボセプト(商標)のみを含んでいた。分光光度計は、酵素(GST)がアッセイ反応中に添加及び混合される間、休止モードにおかれた。酵素添加のプロセスの間に収集した吸光度値はなかった。実験的に興味のある領域は、酵素反応の直線相となる領域であり、これはすぐに酵素添加に続いた。この直線相は、ミカエリス−メンテンの動力学の古典的モデルがなおも真実であるため、実験的に興味がある。この相の間、基質濃度は高く(酵素について>Km)、それゆえ、触媒反応の速度は基質濃度に依存しない。この時間の間、反応速度(すなわち、時間による吸光度の変化の傾き)は、Cary 100ソフトウェアを用いて測定された。直線相の持続時間は、特定の反応条件に依存して、5〜10分の間であった。基質濃度がもはや飽和であり、このアッセイの律速因子となったときに、反応は完了したとみなした。基質が限定されている場合、反応速度は直線から逸脱した。反応のこの終相は、概して10〜15分後に観察された。この反応の終相の間の吸光度及び時間の値は、傾きの算出に用いなかった。なぜなら、この反応がもはや酵素力学についての古典的ミカエリス−メンテンモデルに従わず、この時点で事実上反応が終了していたからである。Caryソフトウェアによる反応の完了は、酵素添加で始まる直線を重ね、アッセイ曲線の終相を通り過ぎて延長することによって、視覚的に検出できた。1セットの反応の完了と同時に、データを電子的「バッチ(batch)」ファイルとして保存した。詳細には、Sigma Plot(シグマ・プロット)を使用して、線形回帰線及び標準偏差を示すエラーバーを用いて3回測定(triplicate)で実行したアッセイの平均を示した。記述統計学(平均及び標準偏差)を用いて、実験結果を記載及び要約した。これらの実験結果を、以下のグラフ1で説明する。
GST反応は、タボセプト(商標)の存在下で実施した。最終的なタボセプト(商標)濃度を、各回帰曲線の右側に示す。示されたデータポイントは、各アッセイ条件について3回測定実験の平均曲線を表し、エラーバーは、標準偏差である。アッセイは、直線範囲(すなわち、8.9分〜13.1分)においてGSTの添加の後に測定した。
所定のタボセプト(商標)濃度、標準偏差、平均、相対酵素活性及び阻害率について、3つの各アッセイ行程の個々の傾きを、以下の表2に列挙する。
表2は、各アッセイ試験についての傾きを示し、これは、アッセイの直線部分における1分あたりの340nmでの吸光度の変化から計算した。これらの実施例において、傾きは、8.9〜13.1分において計算された。相対活性は、タボセプト(商標)が添加されていない反応に対する傾き平均を用いて正規化され;阻害割合は、100%からの相対活性の差として計算された。
したがって、グラフ1及び表2の両方から得られたデータは、タボセプト(商標)の濃度の増大が、上記の反応スキームIIにおいて最初に説明されるように、還元型グルタチオンと1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(CDNB)との結合(抱合)においてGST触媒反応の阻害の割合を著しく増大させることを示す。例えば、タボセプト(商標)濃度が1.1mMから3.3mMへ増大すると、阻害割合が5.6%から39.0%へ増大することが示された。したがって、タボセプト(商標)濃度の比較的小さな増大によって、GST阻害が約6倍増大した。
GST及び関連種(GST)の1つの機能は、例えば、グルタチオンと種々の求電子化合物との結合(抱合)を触媒することによって、発癌物質及び反応性酸素種の求電子代謝産物の新生物性効果から哺乳類細胞を保護することである。また、GSTは、正常組織に比べて腫瘍組織において高度に発現し、癌患者の血漿において高レベルで見出され、GSTの発現の増大は、アルキル化細胞増殖抑制性薬物に対する細胞抵抗性の発達に関連している。したがって、タボセプト(商標)の1つの潜在的な作用機序は、おそらく、生理学的に有害な酸化的化合物の細胞内レベルを増大させるように、腫瘍細胞内での細胞内酸化的代謝(すなわち、酸化的/還元的潜在性)の変化を生じさせることにあるのであろう。この変化は、次に、化学療法剤自体の作用機序に直接的に影響を及ぼすことなく、化学療法剤に対して腫瘍細胞がより大きな感受性を示すようできる。
II. 結合(連結)したGRX/GSH/GR系に対する式(I)の化合物の効果
図1は、いくつかの代謝経路を介して細胞成長を促進及び/又は細胞増殖を刺激する(還元型)グルタレドキシンの関与を説明する。グルタレドキシン系は、グルタレドキシン、グルタチオン及びグルタチオンレダクターゼからなる。しかし、グルタレドキシンは多くの他の細胞内経路にも関与することに留意されるべきである。図2は、結合(連結)したグルタレドキシン(GRX)/グルタチオン(GSH)/グルタチオンレダクターゼ(GR)系を説明する。
以下の表3は、種々の式(I)の化合物(すなわち、ジチオール含有化合物)が、NADPH酸化によって評価されるように、結合(連結)したGRX/GSH/GR系に対する新たな基質阻害剤として作用し得ることを説明する。式(I)の化合物は、0.5mMの濃度で利用された。
III. 結合(連結)したTX/TXR系に対する式(I)の化合物の効果
TX系は、多くの細胞性プロセス、とりわけアポトーシス及び細胞増殖の調整の酸化還元調節において重要な役割を果たす。この系は、セレン含有タンパク質、チオレドキシンレダクターゼ(TXR)及びその主な基質であるチオレドキシン(TX)、並びにチオレドキシンペルオキシダーゼ(TPX)を含む。例えば、チョング,L.(Zhong, L.)ら、ラット及び子ウシチオレドキシンレダクターゼは、保存された触媒的に活性な端から2番目のセレノシステイン残基を含みカルボキシル末端伸長を有するグルタチオンレダクターゼと相同である。(Rat and calf thioredoxin reductase are homologous to glutathione reductase with a carboxyl-terminal elongation containing a conserved catalytically active penultimate selenocysteine residue.)、J. Biol. Chem. 273:8581-8591、1998、ホルムグレン,A.(Holmgren, A.)、チオレドキシン及びグルタレドキシン系(Thioredoxin and glutaredoxin systems.)、J. Biol. Chem. 264:13963-13966(1989)を参照のこと。TXRは、ピリジンヌクレオチド−ジスルフィドオキシドレダクターゼであり、酸化型チオレドキシンにおいて活性部位ジスルフィドのNADPH依存性還元を触媒(反応スキームIII;TRX−S2を参照のこと)して、還元型チオレドキシンにおいてジチオールを与える(TX−(SH)2)。例えば、チョング,L.(Zhong, L.)ら、ラット及び子ウシチオレドキシンレダクターゼは、保存された触媒的に活性な端から2番目のセレノシステイン残基を含みカルボキシル末端伸長を有するグルタチオンレダクターゼと相同である。(Rat and calf thioredoxin reductase are homologous to glutathione reductase with a carboxyl-terminal elongation containing a conserved catalytically active penultimate selenocysteine residue.)、J. Biol. Chem. 273:8581-8591(1998)を参照のこと。以下の反応スキームIIIは、TX酸化還元調節系に関与する種々の反応機序を略述する。
TXは、小さなジスルフィドレダクターゼであり、タンパク質シグナリングの酸化還元調整及び多くの重要な転写因子の還元的活性化において広範な基質及び重要な機能を有する。例えば、ウェルシュ,S.J.(Welsh, S. J.)ら、チオレドキシン酸化還元阻害剤1−メチルプロピル2−イミダゾリルジスルフィド及びプロイロチン(pleurotin)は、低酸素誘導因子1α及び血管内皮成長因子の形成を阻害する(The thioredoxin redox inhibitors 1-methylpropyl 2-imidazolyl disulfide and pleurotin inhibit hypoxia-induced factor 1 alpha and vascular endothelial growth factor formation.)、Mol. Cancer Therapy 2:235-243(2003)を参照のこと。グルタレドキシン(GRX)と同様に、TXは、リボヌクレオチドレダクターゼ及び他の酸化還元酵素のための水素供与体として働くその還元型(TX−(SH)2)において単に活性であり、細胞内酸化的代謝での変化に対する防御物として作用する。GRX及びTXは、いくつかの基質特異性を共有するが、TX系は、GRX系よりも触媒的により多様であり、グルタチオン(GSH)と実質的に相互作用しない。例えば、ルスマン,M.(Luthman, M.)、及びホルムグレン,A.(Holmgren, A.)、ラット肝臓チオレドキシン及びチオレドキシンレダクターゼ:精製及びキャラクタリゼーション(Rat liver thioredoxin and thioredoxin reductase: purification and characterization.)、Biochemistry 21:6628-6633(1982)を参照のこと。
図3は、細胞増殖及びアポトーシスに関与するいくつかの代表的なチオレドキシン関連経路を説明する。細胞成長を促進し、アポトーシスを阻害し、又は細胞増殖を刺激するためのチオレドキシン(TX)について、還元型でなければならない。しかし、TXは、多くの他の細胞内経路にも関与することに留意されるべきである。図4は、結合(連結)したチオレドキシン(TX)/チオレドキシンレダクターゼ(TXR)系を説明する。
以下の実験的研究の目的は、タボセプト(商標)が以下のオキシドレダクターゼ酵素と検出可能な直接的相互作用を有するかどうかを決定することである:グルタチオンレダクターゼ(GR);グルタレドキシン(GRX);グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX);チオレドキシンレダクターゼ(TXR);及び チオレドキシン(TX)。相互作用の性質及び大きさに基づいて、酸化還元均衡酵素との相互作用が、タボセプト(商標)代謝又はその作用機序に関する臨床的所見を説明するのに役立ったか否かを決定し得る。
TXR及びTXの活性は、以前に報告された方法にしたがい、340nmでのNADPH酸化に続けて決定された。ルスマン,M.(Luthman, M.)、及びホルムグレン,A.(Holmgren, A.)、ラット肝臓チオレドキシン及びチオレドキシンレダクターゼ:精製及びキャラクタリゼーション(Rat liver thioredoxin and thioredoxin reductase: purification and characterization.)、Biochemistry 21:6628-6633(1982)を参照のこと。典型的なアッセイ混合物は、TR緩衝剤(50mMのリン酸カリウム、pH7.0、1mMのEDTA)、200μMのNADPH、1.6μgのウシTX、並びに次の1又はそれ以上:4.8μMのTXR、86μMのインシュリン及び本明細書に記載のジスルフィドの1つ、を含んでいた。すべてのジスルフィドは、TR緩衝剤で10倍溶液として反応に添加した。各反応の全容量は、0.1mLであった。反応を、TXの添加によって開始し、25℃で40分間インキュベートした。活性は、各反応の4分間の直線部分を用いて計算した。酵素アッセイは、Molecular Devices SpectraMaxPlus UVプレートリーダー又はVarian Cary 100 UV−可視分光光度計のいずれかを用いて実行した。
次いで、データを収集し、Microsoft Excelでプロットした。誤差計算及びグラフ表示は、Microsoft Excel及びKaleidograph(バージョン3.5)で実行した。ANOVA及び他の統計分析は、SAS(バージョン8.2)を用いて実行した。非線形データを、Kaleidographを用いてグラフに表した。特に断りのない限り、有意水準は0.05で設定し、エラーバーは実際の実験の標準偏差を表す。
タボセプト(商標)を用いるTXR及びTXの活性を、以下のグラフIIIに表す。タボセプト(商標)は、TXの存在下においてTXRによるNADPH酸化を濃度依存的に増大させる。TXの非存在下では、TXRによるNADPH酸化は、バックグラウンドと区別できない。観察された酸化応答の大きさ及び濃度依存性に基づき、タボセプト(商標)はおそらく、TXRのためではなく、TXのための基質である。グラフIIIのみの目的のために、チオレドキシンをTXRと呼び、チオレドキシンレダクターゼをTRRと呼ぶこと留意されるべきである。
以下の表4は、本発明の種々の式(I)の化合物(すなわち、ジスルフィド含有化合物)が、NADPHの酸化によって評価される、結合(連結)したチオレドキシン(TX)/チオレドキシンレダクターゼ(TXR)/NADPH系のための新たな基質阻害剤として役立ち得ることを説明する。表4において、式(I)の化合物は、0.5mMの濃度で利用した。
IV. TX及びGRX系に対するタボセプト(商標)に関連する研究の要約
種々の実験データは、タボセプト(商標)(BNP7787、ジメスナ)及びチオール−ジスルフィド交換反応の結果として形成されたタボセプト(商標)由来のメスナジスルフィドヘテロ結合体(抱合体)が、以下の方法においてチオレドキシン(TX)及びグルタレドキシン(GRX)系と相互作用し得ることを示す:
1)タボセプト(商標)は、還元型チオレドキシンの酸化型チオレドキシンへの酸化を駆動する;
2)BNP7787由来の代謝産物(BNP7772、BNP7766、BNP7768、BNP7774及びBNP7776)は、結合(連結)したチオレドキシン/チオレドキシンレダクターゼ/NADPHのための基質(すなわち、新たな基質阻害剤)である(図3、図5及び表1を参照のこと);
3)タボセプト(商標)は、インシュリンA−B鎖ジスルフィド結合のTX/TXRで触媒された還元を阻害する(及びシグナリング経路と相互作用するTX/TXRによって他のタンパク質ジスルフィドの還元を阻害し得る);
4)タボセプト(商標)は、グルタチオンレダクターゼ(グルタレドキシンのジスルフィド型を還元する酵素)のための基質ではないが、タボセプト代謝産物BNP7772(タボセプト(商標)由来のメスナジスルフィドヘテロ結合体(抱合体))は、新たな基質阻害剤として機能するので、グルタチオンジスルフィドのGRで触媒された還元と競合する。これは、グルタレドキシンに関連するシグナリング及び細胞増殖経路を阻害するかもしれない(図1、図2;及び表3を参照のこと);
5)シスプラチンと併用されたタボセプト(商標)代謝産物であるメスナは、全細胞によってα−リポ酸(TX/TXR基質)又はヒドロキシエチルジスルフィド(GRX基質)の還元を増強したので、細胞内でこのメスナ/シスプラチン効果は、酸化型チオレドキシン及びグルタレドキシンの方に平衡を移動させることが予測される;及び
6)全細胞によって媒介されたジスルフィド還元は、パクリタキセル、シスプラチン及びタボセプト(商標)を用いる治療に応答して減少し、細胞内で、このことは、酸化型チオレドキシン及び酸化型グルタレドキシンに有利に変更した酸化還元均衡に関連する。この変更された酸化還元状態は、アポトーシス感受性の増大及び細胞増殖の減少をもたらすことが期待されるであろう。
V. ヒト癌細胞株におけるタボセプト(商標)に関連する細胞毒性の研究の要約
1)非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株において、パクリタキセルと併用されたメスナ(100μM)は、パクリタキセル単独対照と比較して、パクリタキセルの細胞毒性効果を増強した;
2)NSCLC及び卵巣癌細胞株において、オキサリプラチンと併用されたメスナ(100μM)は、オキサリプラチン単独対照と比較して、オキサリプラチンの細胞毒性効果を著しく増強した。この同じ研究において、オキサリプラチン及びメスナで処理された脳癌細胞において、オキサリプラチン細胞毒性の増大はより小さかった;脳癌細胞においてこの効果は観察可能であったが、統計的に有意ではなかった;及び
3)NSCLC及び乳癌細胞株において、シスプラチンと併用されたタボセプト(商標)は、シスプラチン単独対照と比較して、細胞死の増大をもたらした。
VI. 日本第III相臨床試験
A. 日本第III相臨床試験の目的及び方法の要約
データは、近年、化学療法薬物であるパクリタキセル及びシスプラチンを受けた進行した非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者に関し日本で実施された式(I)の化合物であるタボセプト(商標)(BNP7787、2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸二ナトリウム及びジメスナとしても公知である)の多施設二重盲検(double-blind)無作為プラシーボ対照(randomized, placebo-controlled)第III相臨床試験(本文献の目的のために、「日本第III相臨床試験」と称される)から明らかになった(unblinded)。
日本第III相臨床試験の主目的は、式(I)の化合物であるタボセプト(商標)が、非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者においてパクリタキセル+シスプラチン併用療法によって誘導された末梢神経障害を予防及び/又は低減することを明らかにすることであった。
この試験に許可された患者には、過去に治療を受けていない患者を含めた(この試験の登録の3月以内において外科治療、漿膜へのピシバニールの投与、30%もしくはそれ以下の造血骨の放射又は経口化学療法剤の治療を除いて)。
末梢神経障害は、臨床的面接、実験室における検査などによって評価される主観的な症状に基づいて診断されるので、日本第III相臨床試験は二重盲検試験として実施した。したがって、医師及び患者の両方による評価が非常に重要である。この試験は、タボセプト(商標)が、NSCLC患者(腺癌サブタイプを含む)においてパクリタキセル及びシスプラチンによって誘導された末梢神経障害を予防及び/又は低減することを明らかにするように計画された。末梢神経障害を予防するための確立された療法又は薬物は存在しないので、プラシーボを対照として使用した。主要評価(primary evaluation)では、末梢神経障害の重症度は患者の報告(すなわち、主観的な症状)に基づいて評価されるので、末梢神経障害質問票(PNQ(コピーライト))を使用した。副次的評価(scondary evaluation)では、CIPN−20及びNCI−CTCを使用した。有害反応の発生及び重症度、発病までの時間などは、前述の方法を用いて、タボセプト(商標)で治療された患者と、プラシーボを与えられた患者との間で比較した。
この試験を実施するために、パクリタキセル(約160〜190mg/m2、最も好ましくは約175mg/m2)及びシスプラチン(約60〜100、最も好ましくは約80mg/m2)による化学療法を受けるNSCLC(腺癌サブタイプを含む)患者に、3週毎に(及び最低2サイクル繰り返して)、タボセプト(商標)(約14〜22g/m2、最も好ましくは約18.4g/m2)又はプラシーボ(0.9%NaCl)を投与した。
B. 日本第III相臨床試験の結果の要約
日本第III相臨床試験データは、化学療法及びプラシーボを受ける患者と比較して、タボセプト(商標)及び化学療法を受ける患者について、化学療法により誘導された末梢神経障害が医学的に重要に低減したことを実証した。さらに、臨床試験母集団において、化学療法により誘導された嘔吐(vomiting)/嘔吐(emesis)及び腎臓損傷における医学的に重要な低減が同時に観察された。
前述の臨床試験は、また、これまでいかなる過去の科学又は臨床試験においても報告されていなかった多くの予期せぬ生理学的結果を与えた。重要なことは、日本第III相臨床試験は、タボセプト(商標)及び化学療法を受ける進行した非小細胞肺癌(NSCLC)患者の生存時間の増大を実証したことである。医学的に重要な生存時間の増大は、タボセプト(商標)及び化学療法を受けるNSCLC腺癌サブタイプ患者においても観察された。さらに、これらの予期せぬかつ新規な結果としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:(i)化学療法により誘導された末梢神経障害が、「間欠性」又は「散発性」末梢神経障害と呼ばれる全く新しい分類の末梢神経障害へ区分されること;(ii)タボセプト及び化学療法を受ける非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者における化学療法剤の細胞毒性活性又はアポトーシス活性の増強;(iii)タボセプト(商標)及び化学療法を受ける非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者における生活の質を維持又は改善しながら患者の生存の増大及び/又は腫瘍の進行の遅延;並びに(iv)タボセプト(商標)及び化学療法を受ける非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者における血液機能の維持又は刺激(例えば、ヘモグロビン、ヘマトクリット及び赤血球レベルの増大)。
図5は、本発明を支持する日本第III相臨床試験の主要評価項目(すなわち、患者の末梢神経障害の緩和又は予防)を末梢神経障害質問票(PNQ(コピーライト))を利用して決定し、表形式で説明する。図5において説明された結果により、パクリタキセル/食塩水プラシーボ/シスプラチンのレジメンを受けた非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者母集団と比較して、パクリタキセル/タボセプト(商標)/シスプラチンのレジメンによって治療された患者母集団では、深刻な(グレードD又はE)末梢神経障害が約50%低減していたことが実証された。
図6は、主要評価項目(すなわち、患者の末梢神経障害の緩和又は予防)に関する日本第III相臨床試験において観察された統計的検出力の評価を一般化推定方程式(GEE)統計的方法によって測定し、表形式で説明する。図6において「P値」の列における「薬物」の行での0.1565の数値は、日本第III相臨床試験においてタボセプト(商標)について観察された末梢神経障害の低減が偶然のみに起因する確率はわずか15.65%であることを示す。
図7は、タボセプト(商標)及び化学療法を受ける患者において、本発明を支持する日本第III相臨床試験の副次的評価項目(すなわち、患者のヘモグロビン、赤血球及びヘマトクリットレベルの減少)を、表形式で説明する。図7において説明された結果は、この試験のタボセプト(商標)群における非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者においてヘモグロビン、赤血球及びヘマトクリットレベルでグレード3(重症(高度))の減少を示したのが、それぞれ、たった2名、1名及び1名であったのに対して、日本第III相臨床試験のプラシーボ群における同一カテゴリにおいては、それぞれ、8名、5名及び5名であったことを示す。
図8は、医師によって又は独立放射線委員会(the Independent Radiological Committee)(IRC)基準によって測定されるタボセプト(商標)又はプラシーボのいずれかを受ける患者母集団における、本発明を支持する日本第III相臨床試験の副次的評価項目(すなわち、化学療法投与に対する腫瘍奏効率)を、表形式で説明する。「医師」と示した表部分に示されるように、日本第III相臨床試験のタボセプト(商標)群において医師によって測定される奏効率は、プラシーボ群の奏効率33.0%と比較して、41.9%であった。「IRC」と示した表部分に示されるように、日本第III相臨床試験のタボセプト(商標)群においてIRCによって測定される奏効率は、プラシーボ群の奏効率28.6%と比較して、33.3%であった。
図9は、タボセプト(商標)又はプラシーボのいずれかを受ける患者母集団における、本発明を支持する日本第III相臨床試験の副次的評価項目(すなわち、患者の生存)を、グラフ形式で説明する。図9において説明された結果は、パクリタキセル/タボセプト(商標)/シスプラチンのレジメンによって治療された非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者母集団の一部における生存期間中央値の増大が、パクリタキセル/食塩水プラシーボ/シスプラチンのレジメンを受けた非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者の生存期間中央値と比較して、40日まであったことを示す。
図10は、タボセプト(商標)又はプラシーボのいずれかを受ける女性患者母集団における、本発明を支持する日本第III相臨床試験の副次的評価項目(すなわち、患者の生存)を、グラフ形式で説明する。図10の結果は、パクリタキセル/タボセプト(商標)/シスプラチンのレジメンによって治療された非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)女性患者母集団の一部が、パクリタキセル/食塩水プラシーボ/シスプラチンのレジメンを受けた女性患者母集団と比較して、生存時間がより長かったことを示す。
図11は、タボセプト(商標)又はプラシーボのいずれかを受ける非小細胞肺癌(NSCLC)の腺癌サブタイプと診断された患者母集団における、本発明を支持する日本第III相臨床試験の副次的評価項目(すなわち、患者の生存)を、グラフ形式で説明する。図11において説明された結果は、パクリタキセル/タボセプト(商標)/シスプラチンのレジメンによって治療された腺癌患者母集団の一部の生存期間中央値の増大が、パクリタキセル/食塩水プラシーボ/シスプラチンのレジメンを受けた患者の生存期間中央値と比較して、138日まであったことを示す。
さらに、日本第III相臨床試験から得られた結果は、パクリタキセル/タボセプト(商標)/シスプラチンのレジメンによって治療された非小細胞肺癌(NSCLC)患者母集団の一部において、パクリタキセル/食塩水プラシーボ/シスプラチンのレジメンを受けたNSCLC患者と比較して、(i)疲労(p=0.0163);(ii)悪心(又は吐き気)/嘔吐(p=0.0240);(iii)食欲不振(p=0.0029);(iv)下痢(p=0.0859);(v)便秘(p=0.1114);及び(vi)不眠(p=0.1108)と低下したことを示す。
本出願において記載される日本第III相臨床試験から得られた結果は、(i)化学療法を受ける癌患者において患者の生存時間を増大させる;(ii)化学療法を受ける癌患者において化学療法剤の抗癌活性の細胞毒性又はアポトーシス相乗作用を生じさせる;(iii)必要とする患者(癌患者を含む)において血液機能を維持又は刺激する;(iv)必要とする患者(癌患者を含む)においてエリスロポエチンの機能又は合成を維持又は刺激する;(v)必要とする患者(癌患者を含む)において貧血を緩和又は予防する;(vi)必要とする患者(癌患者を含む)において多能性、複能性、及び単能性の正常幹細胞の機能又は合成を維持又は刺激する;(vii)化学療法を受ける癌患者において腫瘍の進行の停止又は遅延を促進する;並びに(viii)化学療法を受ける癌患者において生活の質を維持もしくは改善しながら患者の生存を増大させ及び/又は腫瘍の進行を遅延するための使用の可能性を含む、式(I)の化合物についての驚くべき新たな所見を支持する医学的に重要な成果を示す。
A. 米国第II相NSCLC臨床試験の結果の要約
データは、近年、化学療法薬物であるドセタキセル及びシスプラチンを受けた進行した段階(IIIB/IV)の非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者に関し、式(I)の化合物であるタボセプト(商標)(BNP7787、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム、及びジメスナとしても公知である)の米国(U.S.)での多施設第II相臨床試験(本文献の目的のために、「米国第II相NSCLC臨床試験」と称される)から非盲検であった。
本発明において開示される米国第II相NSCLC臨床試験は、進行した段階(IIIB/IV)の非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者において、タボセプト(商標)(文献において、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム、ジメスナ又はBNP7787とも称される)を投与するか又は投与しないで、ペグフィルグラスチム及びダルベポエチン アルファの投与とともに隔週(2週毎)のドセタキセル及びシスプラチンの高用量投与の影響を確認するために使用した。タボセプト(商標)が高用量のドセタキセル/シスプラチン併用療法の効き目に影響するか否かについても、奏効率、無増悪生存期間(aggravation-free survival period)及び全生存時間(total survival period)に基づいて評価した。米国第II相NSCLC臨床試験のタボセプト(商標)群において、これらすべての評価をするために、ドセタキセル投与(75mg/m2;化学療法サイクルの第1日に1時間にわたる静脈内(i.v.)投与)の直後に、タボセプト(商標)の投与(約40グラム;30分にわたる静脈内(i.v.)投与)を行った。次いで、タボセプト(商標)投与の直後に、適切に水分補給しながらシスプラチンの投与(75mg/m2;1時間にわたる静脈内(i.v.)投与)を行った。患者のヘモグロビンレベルが≦11g/dLである場合、ダルベポエチン アルファ(200μg;皮下投与)を化学療法サイクルの第1日に投与し、そしてペグフィルグラスチム(6mg皮下投与)を化学療法サイクルの第2日に投与した。前述の化学療法サイクルを、合計6サイクルまでの間、隔週(2週毎)に繰り返した。他方、この試験の非タボセプト(商標)投与群は、ドセタキセル投与の直後にタボセプト(商標)を中間投与することなくシスプラチン投与を行ったことを除いて、先に述べたタボセプト(商標)群と同一であった。さらに、グレード3及びグレード4の有害事象の発生及び重症度を、米国国立がん研究所−共通毒性基準(NCI−CTC)質問票を用いる米国第II相NSCLC臨床試験のタボセプト(商標)投与群とタボセプト(商標)非投与群との患者間で比較した。
B.米国第II相NSCLC臨床試験の結果の要約
米国第II相NSCLC臨床試験データは、化学療法により誘導された脱水、悪心(又は吐き気)、嘔吐、及び低マグネシウム血症における劇的な低減の副作用が医学的に重要に低減したことを実証した。
前述の臨床試験はまた、日本第III相臨床試験を除き、これまでいかなる過去の科学又は臨床研究においても報告されていなかった多くの予期せぬ生理学的結果を与えた。日本第III相臨床試験において得られた結果と同様に、米国第II相NSCLC臨床試験は、タボセプト(商標)及び化学療法を受ける進行した非小細胞肺癌(NSCLC)(腺癌サブタイプを含む)患者の生存時間の増大を実証した。生存時間の著しい増大は、タボセプト(商標)及び化学療法を受ける腺癌の非小細胞肺癌(NSCLC)サブタイプ患者においても観察された。さらに、日本第III相臨床試験及び/又は米国第II相NSCLC臨床試験の予期せぬかつ新規な結果としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:(i)タボセプト(商標)及び化学療法を受ける非小細胞肺癌(腺癌サブタイプを含む)患者における化学療法剤の細胞毒性活性又はアポトーシス活性の相乗作用、並びに(ii)いくつかの化学療法により誘導された生理学的副作用の低減に起因してタボセプト(商標)及び化学療法を受ける非小細胞肺癌(腺癌サブタイプを含む)患者における生活の質を維持又は改善するとともに患者の生存の増大及び/又は腫瘍の進行の遅延。米国第II相NSCLC臨床試験は、日本第III相臨床試験とは異なり、ヘモグロビンレベルが<11g/dLの患者が療法サイクルの第1日及び第2日に、それぞれ、ダルベポエチン アルファ(200μg)及びペグフィルグラスチム(6mg)を受けたという事実に起因して、タボセプト(商標)及び化学療法を受ける非小細胞肺癌(腺癌を含む)患者における血液機能の維持又は刺激(例えば、ヘモグロビン、ヘマトクリット及び赤血球レベルの増大)が測定されなかったことに留意されるべきである。
図12は、タボセプト(商標)(BNP7787)治療を用いるか又はタボセプト(商標)治療を用いないかのいずれかの化学療法を受ける非小細胞肺癌(腺癌サブタイプを含む)と診断された患者母集団における米国第II相NSCLC臨床試験の患者の生存期間中央値(median patient survival)(すなわち、死に至るまでの時間(月)(time to death in months))を、グラフ形式で説明する。この結果は、95%の信頼限界で測定され、この研究のタボセプト(商標)群における患者の生存(11.66月)が、非タボセプト(商標)群(10.74月)に対して0.92月増大したことを示す。ハザード比(hazard ratio)は0.750であった。
図13は、タボセプト(商標)(BNP7787)治療を用いるか又はタボセプト(商標)治療を用いないかのいずれかの化学療法を受ける非小細胞肺癌(腺癌サブタイプを含む)と診断された患者母集団における米国第II相NSCLC臨床試験の患者の全生存期間(OS)及び患者の無増悪生存期間(PFS)を、表形式で説明する。この結果は、この研究のタボセプト(商標)群の患者の無増悪生存期間(PFS)(18.7%)が非タボセプト(商標)群(9.25%)に対して9.5%増大し、タボセプト(商標)群の全患者の1年生存(OS)率(50.7%)が非タボセプト(商標)群(39.5%)に対して11.2%増大したことを示す。これらの値はともに、95%の信頼区間で測定された。
図14は、タボセプト(商標)(BNP7787)治療を用いるか又はタボセプト(商標)治療を用いないかのいずれかの化学療法を受ける腺癌と診断された患者母集団における米国第II相NSCLC第II相臨床試験の患者の生存期間中央値(すなわち、死に至るまでの時間(月))を、グラフ形式で説明する。この結果は、この研究のタボセプト(商標)群の患者の生存(15.64月)が、非タボセプト(商標)群(9.10月)に対して6.54月増大したことを示す。この値は、95%の信頼限界で測定された。これは、患者の死亡率が40%低減したことを表す。さらに、この研究のタボセプト(商標)群の患者数(11患者)が、非タボセプト(商標)群(5患者)の2倍を越えたことに留意されるべきである。ハザード比は0.601であった。
図15は、タボセプト(商標)(BNP7787)治療を用いるか又はタボセプト(商標)治療を用いないかのいずれかの化学療法を受ける非小細胞肺癌(腺癌サブタイプを含む)と診断された患者母集団における米国第II相NSCLC第II相臨床試験のグレード3及びグレード4の治療関連有害事象を経験する患者の数を、表形式で説明する。この結果は、この研究のタボセプト(商標)群における患者が、非タボセプト(商標)群に対して、脱水では50%低減、悪心(又は吐き気)では38.5%低減、嘔吐では71.5%低減、及び低マグネシウム血症では100%低減したことを示す。
要約すると、出願人は、上記で論じた日本第III相臨床試験及び米国第II相NSCLC臨床試験から得られた実験及び臨床データが、タボセプト(商標)によって非小細胞肺癌(NSCLC)患者、特に、腺癌NSCLCサブタイプ患者の生存時間を著しく増大できることを支持すると考える。総合すれば、米国第II相NSCLC臨床試験及び日本第III相臨床試験における患者母集団が異なる民族性の患者の多様なサンプリングを表すことは、重要である。さらなる実験的及び臨床的評価は、タボセプト(商標)が、癌患者(ここで、癌は、(i)チオレドキシン又はグルタレドキシンを過剰に発現する癌、及び/又は(ii)チオレドキシン又はグルタレドキシンの媒介によって、前記癌患者を治療するために使用された化学療法剤(単数又は複数)に対する抵抗性のエビデンスを示す癌のいずれかである)の生存時間を増大できることの引き続きの支持を与えるであろう。
本明細書において参照又は記載された全ての特許、出版物、科学論文、ウェブ・サイトなど、ならびに他の文献及び資料は、本発明の属する分野における当業者の技術レベルを示し、このような参照された文献及び資料の各々は、あたかも、言及することによりその全体がそれぞれ組み入れられるか又はその全体が本明細書に示されている場合と同じ程度で参照されることにより組み入れられる。出願人は、いかなるこのような特許、出版物、科学論文、ウェブ・サイト、電子的に入手可能な情報、及び他の参照される資料又は文献からのいかなる及び全ての資料及び情報を本明細書に物理的に組み入れる権利を留保する。
本特許の記述説明部分は全ての請求の範囲を包含する。さらに、全ての請求の範囲は、全ての当初の請求の範囲ならびに任意の及び全ての優先権書類からの全ての請求の範囲を含み、言及することにより、本明細書の記述説明部分にその全体が組み入れられる。また、出願人は任意の及び全てのそのような請求の範囲を本出願の記述説明部分または任意の他の部分に物理的に組み入れる権利を留保する。それゆえ、例えば、いかなる場合であっても、本特許は、請求項の表現が本特許の記述部分中に厳密にその通りの言葉で記載されていないという主張にもとづいて、根拠なく、その請求項に対する記述部分が与えられていないとは解釈されない。
請求の範囲は法律に従って解釈される。しかし、任意の請求の範囲又はその一部の解釈が容易である又は難解であるという主張又は認識にもかかわらず、特許をもたらす出願(単数又は複数)の手続の間に任意の請求の範囲又はその一部を修正又は補正することは、いかなる場合であっても、先行技術の一部を成さない本特許の任意の及び全ての均等物に対する権利が放棄されたと解釈されない。
本明細書に開示された特徴の全ては、任意の組み合わせで組み合わされてもよい。その結果、別に述べない限り、開示された特徴はそれぞれ、包括的な一連の均等物又は同様の特徴の単なる例でしかない。
本発明はその詳細な説明に関連して記載されるが、前述の詳細な説明は説明を意図するものであって、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲によって規定されるということが理解されるべきである。それゆえ、本発明の具体的な実施形態が説明を目的として、明細書に記載されてはいるが、種々の修正形態が本発明の精神及び範囲から逸脱することなくなされ得ることは、前述から理解されるであろう。他の態様、効果、及び修正形態は以下の請求の範囲の範囲内にあり、本発明は添付の請求の範囲による場合以外は限定されない。
本明細書に記載された具体的な方法及び組成物は好ましい実施形態の代表例であり模範例であり、本発明の範囲を限定すること意図するものではない。他の課題、態様、及び実施形態は本明細書を考慮することにより当業者に想起されるものであり、請求の範囲によって規定される本発明の精神に包含される。本明細書に開示された本発明に対する種々の置換及び修正形態は本発明の範囲及び精神から逸脱することなくなされることは当業者には容易に理解される。本明細書に説明的に記載された本発明は、本質的なものとして詳細に開示されていない、任意の要素(単数又は複数)又は限定(単数又は複数)がない場合において適切に実施されてもよい。それによって、例えば、本明細書中の各例、本発明の実施形態又は実施例において、用語「構成する」、「含む」、「含有する」などは、限定されることなく広く解釈されるべきである。本明細書に説明的に記載された方法及び処理(プロセス)は、異なる工程順で適切に実施されてもよく、本明細書又は請求の範囲に示される工程順に必ずしも限定されない。
使用されている用語及び表現は、限定用語ではなく記述用語として用いられ、このような用語及び表現の使用には、示された及び記載された特徴及びその一部の任意の均等物を除外する意図はないが、種々の修正形態が、請求される本発明の範囲内で可能であることが認められる。それゆえ、本発明は種々の実施形態及び/又は好ましい実施形態及び任意の特徴によって具体的に開示されてはいるが、本明細書に開示された概念の任意の及び全ての修正形態及び変更は当業者によってなされてよく、そのような修正形態及び変更は、添付の請求の範囲によって規定される本発明の範囲内にあることが理解される。
本発明は明細書中に広く一般的に記載されている。包括的な開示の範囲内にある狭義の種及びやや包括的な分類も、各々本発明の一部をなす。削除されたものが本明細書中に詳細に列挙されているか否かにかかわらず、任意の内容を種から除くという条件又は消極的な限定による本発明の包括的な記載も含まれる。
文脈において特に明らかに規定されない限り、本明細書及び添付の請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」には複数形も含まれ、表現「X及び/又はY」は「X」又は「Y」又は「X」及び「Y」の両方を意味することも理解されるべきである。名詞に続く文字「s」はその名詞の複数形及び単数形の両方を表す。さらに、本発明の特徴又は様態がマーカッシュ群で記載されるところでは、本発明が包含し、それによってマーカッシュ群の任意の個々の要素及び任意の下位概念の要素の形式で記載され、出願人は、マーカッシュ群の任意の個々の要素及び任意の下位概念の要素に特に言及する出願又は請求の範囲を改訂する権利を留保するということを意図しており、このことは、当業者には明らかである。
他の実施形態は以下の請求の範囲の範疇にある。本特許は、本明細書に詳細に及び/又は明確に開示された具体的な例又は実施形態又は方法に限定されると解釈されるものではない。いかなる場合であっても、本特許は、米国特許商標局のいかなる審査官又はいかなる関係者又は当局員による見解によって限定されて解釈されない。ただし、出願人らによる応答書面にこのような見解が具体的に及び無制限に又は無条件にはっきりと採用された場合には、その限りではない。