我々は、“RNA5’ポリホスファターゼ”または単に“RNAポリホスファターゼ”と呼ぶ新たなクラスの酵素を見出した。RNAポリホスファターゼは、5’ポリリン酸基を有しており、キャップ形成されていないRNAを、5’一リン酸基を有しているRNAに転化する(図1)。我々は、タンパク質についての研究の結果として、βリン酸およびγリン酸を一次RNA転写物から除去可能なRNAポリホスファターゼを見出した。驚くべきことに、RNAポリホスファターゼは、公知の酵素と異なり、αリン酸をRNAの5’末端に残してβリン酸およびγリン酸を一次RNA転写物から除去し、かつキャップ形成されているRNAの三リン酸架橋(例えばm7G−キャップ形成されているRNA)を消化しない。我々の知る限り、酵素活性のこの特性を有している酵素は報告されていない。RNAポリホスファターゼを用いた一次RNA分子の処理の後に、RNA分子は、5’エキソリボヌクレアーゼ(例えば、Xrn I エキソリボヌクレアーゼ)によって分解可能になる。
RNAポリスフェターゼを使用する様々な方法を以下に示す。本明細書の記載に基づいて、当業者は、RNAポリホスファターゼを単独にか、または他の酵素と組み合わせて使用する方法を知り、理解するであろう。当該方法のすべては、本発明の範囲内にある。
本発明の一実施形態は、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物である。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は、当該RNAポリホスファターゼが当該組成物に存在する最も多いタンパク質であるように、実質的に精製されている。いくつかの実施形態において、この精製されている組成物は、RNAポリホスファターゼが得られている細胞の他の細胞成分の大部分から分離されている。
いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は天然生成源から得られる。いくつかの実施形態において、天然生成源は細菌細胞である。いくつかの実施形態において、細菌細胞を含んでいる天然生成源から得られたRNAポリホスファターゼは、培養培地におけるアルミニウムイオンまたは亜鉛イオンの存在によって誘導される。いくつかの実施形態において、当該天然生成源はE. coliまたはShigellaの細菌細胞である。いくつかの実施形態において、E. coliまたはShigellaの細菌細胞から得られるRNAポリホスファターゼは、例えば当該細菌が培養されている培地に0.2mMの硫化亜鉛を加えることによって、少なくとも10倍以上のレベルまで誘導される。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは約19kDの細胞周辺質タンパク質である。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは細胞周辺質画分から分離されている。
他の実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は組換え生成源から入手され得る。ここで、当該RNAポリホスファターゼの遺伝子は原核生物または真核生物の宿主細胞において発現されている。例えば、いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は組換え生成源から入手される。ここで、当該RNAポリホスファターゼの遺伝子は、少なくとも18の連続する配列番号1(図2)のヌクレオチドを含んでいる配列を示す。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、その配列は、ホスホグリセリン酸塩ムターゼ様スーパーファミリーにとってのモチーフを含んでいる遺伝子を示す。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、その遺伝子によって示される配列はアルミニウム誘導性の(ais)遺伝子である。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、RNAポリホスファターゼの遺伝子によって示される配列は、E. coliのK21株(MG1655)における50.4マイニュートに位置し、当該タンパク質が遺伝子座タグb2252を有している。本発明のいくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは、配列番号1の完全な配列を示す遺伝子が組み込まれている組換え生成源から得られる。本発明のいくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは、配列番号1の103〜603位のヌクレオチドを含んでいる配列を示す遺伝子が導入されている組換え生成源から得られる。いくつかの実施形態において、本発明の任意の実施形態のポリホスフェターゼをコードしている配列は、配列番号1と70%を超える(例えば、80%を超える、90%を超える、95%を超える、98%を超える)相同性を有している。例えば、いくつかの実施形態において、ポリホスフェターゼをコードしている配列は、配列番号1と71%以上の相同性(例えば、配列番号1と71%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の相同性)を有している。
いくつかの実施形態において、組換え生成源から得られたRNAポリホスファターゼ組成物は、ベクターにクローニングされているRNAポリホスファターゼ遺伝子によって示される配列から、宿主細胞において発現される。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼによって示される配列は、ベクターのT7型のRNAポリメラーゼのプロモータの下流にクローニングされており、宿主細胞は当該T7型のRNAポリメラーゼの発現を誘導可能である。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼによって示される配列は、ベクターのT7 RNAポリメラーゼのプロモータの下流にクローニングされており、宿主細胞はT7 RNAポリメラーゼの発現を誘導可能である。RNAポリホスファターゼを使用する任意の方法を包含している本発明の実施形態のいくつかにおいて、RNAポリホスファターゼ遺伝子によって示される配列は、pETベクターにクローニングされており、宿主細胞はT7 RNAポリメラーゼの発現を誘導可能なE. coli細胞である。
他の実施形態において、組換え生成源由来のRNAポリホスファターゼは、宿主細胞の染色体内または染色体外DNAに挿入されているRNAポリホスファターゼに示される配列から発現される。これらの実施形態のいくつかにおいて、宿主細胞はE. coli宿主細胞である。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは、誘導可能なプロモータと抱合され、RNAポリホスファターゼ遺伝子を発現可能な人工トランスポゾン(例えば、EZ−TN5(商標)トランスポゾンまたはHYPERMU(商標)トランスポゾン(EPICENTRE, Madison, WI)、またはトランスポザーゼ酵素をコードしない他の人工的なトランスポゾン)を用いて、Escherichia coli宿主細胞の染色体に挿入されている。EZ−TN5(商標) トランスポゾンまたはHYPERMU(商標) トランスポゾンは、トランスポザーゼ遺伝子をコードしていないことを意味する“人工トランスポゾン”であり、それゆえ、上記人工トランスポゾン内のトランスポゾン認識配列を使用して転位をもたらし得る外因性のトランスポザーゼの供給を受けることなく転位できない。
本発明の他の実施形態は、組換え生成源由来のRNAポリホスファターゼをコードしている遺伝子を含んでいる組換え宿主細胞であり、当該遺伝子は、組換えベクターまたは人工トランスポゾンを用いて宿主細胞に導入される。いくつかの実施形態において、組換え宿主細胞は、細菌宿主細胞であり、組換え生成源由来のRNAポリホスファターゼをコードしている遺伝子を示す配列と相補的なmRNAを発現する。いくつかの実施形態において、組換え宿主細胞によって発現されたmRNAは、配列番号1、または配列番号1の103〜600位のヌクレオチドを含んでいる配列と相補的である。これらの実施形態のいくつかにおいて、組換え宿主細胞はE. coli宿主細胞である。
いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は、配列番号2のうちの少なくとも6の連続するアミノ酸配列を含んでいるアミノ酸配列を示す、単一のポリペプチドを含んでいる。これらの実施形態のいくつかにおいて、RNAポリホスファターゼは約24kDの分子量を有している。これらの実施形態のいくつかにおいて、RNAポリホスファターゼは、アミノ末端の最初の4アミノ酸がMLAFであるアミノ酸配列を示す。これらの実施形態のいくつかにおいて、RNAポリホスファターゼは約19kDの分子量を有している。これらの実施形態のいくつかにおいて、RNAポリホスファターゼは、アミノ末端の最初の4アミノ酸がSNGLであるアミノ酸配列を示す。
本発明のいくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は、EDTAの存在下において活性を示し、その酵素活性は、酵素反応混合物における1mM以上の濃度のMg2+カチオンの存在下において阻害される。いくつかの実施形態において、精製されているRNAポリホスファターゼは、pH5.0〜8.0のpH範囲にわたって、反応混合物において最適な活性を示す。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは、4−メチルウンベリフェリルリン酸(4−MUP)を基質として使用する場合と比べて、6,8−ジフルオロ−4−メチルウンベリフェリルリン酸(DiFMUP)を基質として使用する場合に少なくとも50倍以上の酵素活性を有しており、ここで反応緩衝液がpH7.5の50mMのHEPES/KOH、0.1MのNaCl、1mMのEDTA、0.1%のBMEおよび0.01%のTRITON X100から構成されている。いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの精製されている組成物は、当該組成物が発現されている細胞の細胞周辺質画分から精製されるか、または分離される。
本発明の他の実施形態は、RNA5’ポリホスファターゼ(例えば、アルミニウム誘導性のRNA5’ポリホスファターゼ、例えば、E. coliのRNA5’ポリホスファターゼI(E. coli RPP I または RPP I(EPICENTRE))もしくはShigellaのRNA5’ポリホスファターゼI)を、単独に備えているキット、または5’エキソリボヌクレアーゼ(XRN)(例えば、Saccharomyces cerevisiaeのXrn I エキソリボヌクレアーゼ(Xrn I)、もしくはTERMINATOR(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクレアーゼ、EPICENTRE);ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)(例えば、T4 PNK、EPICENTRE);RNA5’モノホスフェート(RMP)(例えば、RNA5’モノホスフェート1またはRMP1、(EPICENTRE))およびキャップ形成酵素系(例えば、ポックスウイルスのキャップ形成酵素系、ワクシニアのキャップ形成酵素系、Saccharomyces cerevisiaeのキャップ形成酵素系またはSCRIPTCAP(商標)キャップ形成酵素キット(EPICENTRE))からなる群から選択される少なくとも1つの他の成分と組み合わせて備えているキットである。キットは、小容器(例えばチューブまたはバイアル)を格納している容器(例えば箱)を備え得る。試薬は、溶液(例えば、安定な保存液または反応緩衝液)、または乾燥された形態(例えば、凍結乾燥物)として提供され得る。キットは、制御試薬(例えばRNA分子)、取扱説明書、ソフトウェア、または所望の生物学的反応または一連の反応(例えば、本明細書の記載の反応)を実施にとって有用、必要または十分な他に利用する成分を備え得る。
本発明の別の実施形態は、細胞または細胞の抽出物もしくは画分から得られるタンパク質を含んでいる試料におけるRNAポリホスファターゼを同定するか、入手するか、単離するか、または精製する方法である。当該方法は、以下のステップ:(A)上記試料における上記タンパク質を分離する(例えば、大きさ、電荷、電荷密度に基づいて)ことによって、分離されたタンパク質の溶液を回収するステップ;(B)RNAポリホスファターゼが活性を示す条件(例えば、本明細書に述べる条件)において、分離されたタンパク質の上記溶液のそれぞれを、βリン酸またはγリン酸の少なくとも1つが標識されている5’三リン酸基または5’二リン酸基を有しているRNA分子と接触させ、標識されている上記βリン酸またはγリン酸がRNA分子から除去されているか否かを検出するステップ;(C)標識されている上記βリン酸またはγリン酸がRNA分子から除去されている分離されたタンパク質の溶液から、上記RNA分子上に5’αリン酸が存在している分離されたタンパク質の溶液を同定することによって、RNAポリホスファターゼを同定するか、入手するか、単離するか、または精製するステップを包含している。
いくつかの実施形態において、これらのRNA分子上に5’αリン酸が存在している分離されたタンパク質の溶液を同定するステップ(C)は、5’一リン酸基を有しているRNAを消化し、5’三リン酸基または5’二リン酸基を有しているRNAを消化しないための、条件においてかつ十分な時間にわたって、標識されたリン酸がステップ(B)において除去された上記RNA分子を、5’エキソリボヌクレアーゼ(XRN)(例えば、Saccharomyces cerevisiaeのXrn I エキソリボヌクレアーゼ(Xrn I)、またはTERMINATOR(商標)5’リン酸依存性のエキソヌクレアーゼ、EPICENTRE)と接触させるステップを包含している。ここで、上記RNA分子の消化がRNAポリホスファターゼの存在を意味する。
いくつかの実施形態において、上記RNA分子上に5’αリン酸が存在している分離されたタンパク質のこれらの溶液を同定するステップ(C)は、RNAアクセプターオリゴヌクレオチドが5’一リン酸基を有しているRNA分子の5’末端に十分に連結されるための、条件においてかつ十分な時間にわたって、標識されたリン酸がステップ(B)において除去された上記RNA分子を、上記RNAアクセプターオリゴヌクレオチドおよびRNAリガーゼ(例えばT4RNAリガーゼまたはバクテリオファージTS2126RNAリガーゼ(EPICENTRE))と接触させるステップを包含している。ここで、上記RNA分子に対する上記RNAアクセプターオリゴヌクレオチドのライゲーションがRNAポリホスファターゼの存在を意味する。
本発明の他の実施形態は、5’ポリリン酸基を有しているRNAを5’一リン酸基を有しているRNAに転化し、キャップ形成されているRNAを5’一リン酸基を有しているRNAに転化しない方法であって、(1)キャップ形成されているRNAおよび5’ポリリン酸基を有しているRNAを含んでいる試料、ならびにRNAポリホスファターゼを準備するステップと;(2)5’α一リン酸基を除くすべてのリン酸が除去され、5’一リン酸を有しているRNAが生成されるための、条件においてかつ十分な時間にわたって、上記試料をRNAポリホスファターゼと接触させるステップを包含している、方法である。
この方法のいくつかの実施形態において、5’ポリリン酸基を有している上記RNAが、5’三リン酸基を有しているRNAおよび5’二リン酸基を有しているRNAのなかから選択される。
5’ポリリン酸基を有しているRNAが、5’三リン酸基を有しているRNAを含んでいるか、または当該RNAからないくつかの実施形態において、5’三リン酸基を有している当該RNAは、真核生物の一次RNA;原核生物の一次RNA(例えば細菌のmRNA);ncRNA;およびRNAポリメラーゼを用いたインビトロ転写反応によって合成されているRNA(RNA増幅反応の一部であるインビトロ転写反応に由来するRNAが挙げられる)から選択される。
5’ポリリン酸基を有しているRNAが、5’二リン酸基を有しているRNAを含んでいるか、または当該RNAからなるいくつかの実施形態において、5’三リン酸基を有している当該RNAは、キャップ形成酵素系(例えば、ポックスウイルスのキャップ形成酵素系、ワクシニアのキャップ形成酵素系、Saccharomyces cerevisiaeのキャップ形成酵素系またはSCRIPTCAP(商標) キャップ形成酵素キット(EPICENTRE))のRNAトリホスファターゼを用いた一次RNA転写物の消化生成物である。
5’ポリリン酸基を有しているRNAを5’一リン酸基を有しているRNAに転化する方法のいくつかの実施形態において、当該方法は、(例えば、真核細胞(例えば、卵母細胞または体細胞)における発現の調査または使用、研究用途ならびに治療用途を目的とした)キャップ形成されているRNAの改良された組成物を調製するために使用される。ここで、当該組成物は、キャップ形成されていないRNA分子と比べて、キャップ形成されているRNA分子を高い割合において含んでいる。例えば、いくつかの実施形態において、当該方法は、インビトロキャップ形成酵素系または同時転写のキャップ形成酵素系におけるカップ類似物を用いたキャップ形成されていないRNA分子の合成に続いて、キャップ形成されていないRNA分子と比べて、キャップ形成されているRNA分子を高い割合において含んでいる、キャップ形成されているRNAの改良された組成物を調製するために用いられる。当該インビトロキャップ形成酵素系は、例えば、ポックスウイルスのキャップ形成酵素、Saccharomyces cerevisiaeのキャップ形成酵素、およびSCRIPTCAP(商標) キャップ形成酵素(mSCRIPT(商標) mRNA生成系(EPICENTRE, Madison, WI)に含まれている)のなかから選択される。当該同時転写系は、例えば、MESSAGEMAX(商標) T7 ARCA−CAPPED MESSAGE TRANSCRIPTIONキット(EPICENTRE, Madison, WI)であり、当該キャップ類似物は、例えば、ARCAアンチリバースキャップ類似物である。例えば、いくつかの実施形態において、当該方法は、治療用のワクチン作製に使用される樹枝状細胞を形質転換するためのキャップ形成されているRNA分子の改良された組成物の調製のために用いられる。
したがって、5’ポリリン酸基を有しているRNAを5’一リン酸基を有しているRNAに転化する方法の一つの特定の実施形態は、キャップ形成されていないRNAを少なくとも1つ含んでいる試料に存在するキャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、または精製する方法である。当該方法は、(1)キャップ形成されているRNA、ならびに5’ポリリン酸基を有しているRNA(例えば、5’三リン酸基を有しているRNA(すなわち、一次RNA)または5’二リン酸基を有しているRNA)および必要に応じて5’一リン酸基を有しているRNAからなる群から選択される少なくとも1つのキャップ形成されていないRNAと;RNAポリホスファターゼと;付加的に5’エキソリボヌクレアーゼとを準備するステップと;(2)5’ポリリン酸基を有している上記RNAが5’一リン酸基を有しているRNAに転化されるための、条件においてかつ十分な時間にわたって、ステップ(1)から得られた試料をRNAポリホスファターゼと接触させるステップと;(3)5’一リン酸基を有しているRNAが消化され、キャップ形成されているRNAが消化されないための、条件においてかつ十分な時間にわたって、ステップ(2)から得られた試料を5’エキソリボヌクレアーゼと接触させることによって、キャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、または精製するステップとを包含している。
本発明のこの実施形態は、キャップ形成されていない一次RNAまたは5’二リン酸基もしくは付加的に5’一リン酸基を有しているRNAをさらに含んでいる混合物から、キャップ形成されているRNAの改良された組成物を調製する方法である。当該組成物は、キャップ形成されていないRNA分子に比べてキャップ形成されているRNA分子を高い割合において含んでいる。
この方法は、キャップ形成されているRNAからのキャップ形成されていないRNAの除去(例えば、治療用途または研究用途を目的とした、例えば細胞の形質転換のための)にとって有用である。例えば、この方法の一つの実施形態において、この方法を用いて入手されるか、単離されるか、または精製されたキャップ形成されているRNAは、樹枝状細胞、マクロファージ、上皮細胞および人工APC(例えば、ワクチン調製用の)から選択される抗原提示細胞(APCs)の形質転換に使用される。APC(例えば樹枝状細胞)はキャップ形成されているRNAにコードされているタンパク質を発現し、発現した当該タンパク質は、APCにおける酵素によってペプチドへと次々に分解される。ここで、当該ペプチドは、他の免疫系細胞に対してAPCの表面に提示され、これによって免疫応答を誘導する。
いくつかの実施形態において、ステップ(1)において準備された、キャップ形成されているRNAおよび少なくとも1つのキャップ形成されていないRNAを含んでいる溶液は、生物学的な試料から入手される。
いくつかの実施形態において、ステップ(1)において準備された、キャップ形成されているRNAおよび少なくとも1つのキャップ形成されていないRNAを含んでいる試料は、RNAポリメラーゼおよびジヌクレオチド類似物を用いた転写と同時のインビトロキャップ形成反応、およびキャップ形成酵素系を用いた転写後のインビトロキャップ形成反応のなかから選択されるインビトロキャップ形成反応から入手される。
いくつかの他の実施形態において、ステップ(1)において準備された、キャップ形成されているRNAおよび少なくとも1つのキャップ形成されていないRNAを含んでいる試料は、転写と同時のインビトロ反応から入手される。転写と同時のインビトロ反応は、キャップ形成されているRNAおよびキャップ形成されていないRNAを含んでいるRNAが合成されるための、条件においてかつ十分な時間にわたって、RNAポリメラーゼプロモータを認識するRNAポリメラーゼと共にRNAポリメラーゼプロモータと機能的に連結されたDNA鋳型を、ジヌクレオチドキャップ類似物およびNTPと共にインキュベートすることを包含している。これらの実施形態において、この方法は、低い割合のRNAがキャップ形成されている場合でさえ(例えば、インビトロ転写反応においてGTPに対するジヌクレオチドキャップ類似物の割合が低い場合に)、80%、90%または95%を超えてキャップ形成されているRNAを入手するために使用され得る。多くのジヌクレオチドキャップ類似物が当分野において公知である。キャップ形成されているRNAは、インビトロ転写反応のためのRNAポリメラーゼを用いて組み込まれるという条件の下に、任意の公知のジヌクレオチドキャップ類似物を含み得る。例えば、いくつかの実施形態において、当該ジヌクレオチドキャップ類似物は、GpppG;m7GpppG;m7GpppA;m2 7,3'-OGpppG ARCA;m2 7,2'-OGpppG;キャップヌクレオチドおよび他のキャップ類似物のヌクレオシドの間の三リン酸のヌクレオシド間の結合の代わりの四リン酸(pppp)のヌクレオシド間の結合を有している上述のキャップ類似物のうちのいずれかのバリアント;ならびに三リン酸または四リン酸のヌクレオシド間の結合のうちの1つ以上のリン酸の代わりにチオリン酸を有している上述のキャップ類似物のうちのいずれかのバリアントのなかから選択される。
いくつかの他の実施形態において、ステップ(1)において準備された、キャップ形成されているRNAおよび少なくとも1つのキャップ形成されていないRNAを含んでいる試料は、キャップ形成酵素系を含んでいる転写後のインビトロキャップ形成反応から入手される。これらの実施形態において、当該方法は、キャップ形成されていないRNAの少なくとも一部がキャップ形成されるための、条件における、かつ十分な時間にわたるインビトロキャップ形成酵素反応において、5’三リン酸基を有しているRNAまたは5’二リン酸基を有しているRNAから構成されるキャップ形成されていないRNAを、GTP、S−アデノシルメチオニンおよびキャップ形成酵素系と共にインキュベートすることをさらに包含している。そのようなステップ(1)〜(3)を包含している実施形態において、キャップ形成酵素系によってキャップ形成されているRNAの割合が低い場合(例えば、RNAがキャップ形成され難いものである場合)でさえ、80%、90%または95%を超えてキャップ形成されているRNAを入手するために、当該方法は使用される。種々のキャップ形成酵素系が公知であり、キャップヌクレオチドをRNAに付加可能な任意のキャップ形成酵素系が当該方法に使用され得る。例えば、いくつかの実施形態において、キャップ形成酵素系は、ポックスウイルスのキャップ形成酵素、ワクシニアのキャップ形成酵素、Saccharomyces cerevisiaeのキャップ形成酵素、およびSCRIPTCAP(商標) キャップ形成酵素キット(EPICENTRE)のなかから選択される。
ステップ(1)〜(3)を包含しているいくつかの実施形態において、ステップ(1)において準備された試料におけるキャップ形成されているRNAおよび少なくとも1つのキャップ形成されていないRNAは、キャップ形成酵素系を用いてインビトロにおいてキャップ形成されている原核生物のRNA(例えば、細菌のmRNA)を含んでいるか、または当該RNAからなる。
いくつかの実施形態において、試料におけるキャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、または精製する方法は、試料中におけるキャップ形成されているRNAの量を定量する方法を付加的に包含している。当該方法は、(1)(a)上記試料におけるRNAの総量を定量するステップ;および(4)ステップ(3)において消化されなかったRNAの量を定量することによって、上記試料におけるキャップ形成されているRNAの量を定量するステップを包含している。いくつかの実施形態において、当該方法は、ステップ(3)において消化されたRNAの量を定量し、これによって試料におけるキャップ形成されていないRNAの量を定量するステップをさらに包含している。いくつかの実施形態において、RNAは、公知の方法を用いて(例えば、RIBOGREEN DYE(Invitrogen, Carlsbad CA)を用いたか、または2.5Mの酢酸アンモニウム、0.3Mの酢酸ナトリウムもしくは0.3Mの酢酸カリウムおよびエタノールもしくはイソプロパノールを用いた沈殿、ペレットの水への再懸濁、ならびに吸光係数A260に基づいた分光光度法によるRNAの定量による)各ステップにおいて定量される。
試料に存在するキャップ形成されているRNAを定量する方法のいくつかの実施形態において、試料は、5’一リン酸基を有しているRNA(例えば、18Sおよび26Sもしくは28Sの真核生物のrRNA、16Sおよび23Sの原核生物のrRNA、真核生物のmiRNAもしくはウイルスにコードされているmiRNA、またはスプライスされているか、もしくは内在性のリボ核酸分解性のプロセスを受けているRNAのイントロン)を含み得る。したがって、試料におけるキャップ形成されているRNAおよびキャップ形成されていないRNAの量を定量する方法のいくつかの実施形態において、ステップ(1)において準備された上記試料が、5’一リン酸基を有しているRNAをさらに含んでおり、当該方法が、上記RNAポリホスファターゼと上記試料を接触させるステップ(2)の前に、上記試料における5’一リン酸基を有しているRNAの定量するステップをさらに包含しており、以下のサブステップ:(1)(b)上記試料における5’一リン酸基を有している上記RNAが消化されるが、5’ポリリン酸基を有しているRNAおよびキャップ形成されているRNAが消化されないための、条件においてかつ十分な時間にわたって、ステップ(1)において準備された上記試料を、5’エキソリボヌクレアーゼと接触させるステップ;ならびに(1)(c)ステップ(1)(b)において消化されたRNA、または消化されなかったRNAの量を定量するステップを包含している。ここで、上記試料において消化されたRNAの量が、上記試料における5’一リン酸基を有しているRNAの量を示す。
試料に存在するキャップ形成されているRNAを定量する方法であって、当該試料が、5’一リン酸基を有しているRNA(例えば、18Sおよび26Sもしくは28Sの真核生物rRNA、16Sおよび23Sの原核生物のrRNA、真核生物のmiRNAもしくはウイルスにコードされているmiRNA、またはスプライスされているか、もしくは内在性のリボ核酸分解性のプロセスを受けているRNAのイントロン)を含み得る方法のいくつかの実施形態において、5’エキソリボヌクレアーゼのステップの前に(例えば、5’ポリリン酸基を有しているRNAのキャップ形成の効率の定量を煩雑にする、5’エキソリボヌクレアーゼによる消化を、5’一リン酸基を有しているRNAが受けないように)、5’一リン酸基を有しているRNAを、5’ヒドロキシル基を有しているRNAに転化することが望ましい。したがって、ステップ(1)において準備された試料が5’一リン酸基を有しているRNAを含んでおり、ステップ(2)の前に試料をRNAポリホスファターゼと接触させる、試料におけるキャップ形成されているRNAまたはキャップ形成されていないRNAの量を定量する方法のいくつかの実施形態において、当該方法は、次のサブステップ:(1)(d)ステップ(1)において付加的にRNA5’モノホスファターゼ(RMP)(例えば、RMP1(EPICENTRE))を準備するステップ;(1)(e)試料における5’一リン酸基を有しているRNAが5’ヒドロキシル基を有しているRNAに転化されるための、条件においてかつ十分な時間にわたって、ステップ(1)において準備された試料をRNA5’モノホスファターゼと接触させるステップを包含している。
ここで、ステップ(3)において5’エキソリボヌクレアーゼによって消化された、上記試料におけるRNAの量が、5’ポリリン酸を有する試料におけるRNAの量を示し、ステップ(1)において準備された5’一リン酸基を有している試料におけるrRNAの量を示さない。これらの実施形態のいくつかにおいて、RNA5’モノホスファターゼは、ステップ(2)の前に不活性化されるか、または除去される。
いくつかの他の実施形態において、RNA5’モノホスファターゼはステップ(2)に採用された反応条件によって不活性化される。
いくつかの実施形態において、RMPは、反応に使用された後に、すぐに不活性化されるか、または除去される(例えば、RMP1に関しては、加熱、またはEDTAもしくは亜鉛の添加によって)。
出願人は、RMP、RNA5’モノホスファターゼ1(EPICENTRE, Madison, WI)が、18Sおよび26Sもしくは28Sの真核生物のrRNA、ならびに16Sおよび23Sの原核生物のrRNAを含んでいるrRNAから5’一リン酸基を除去することと、この酵素をこの目的に使用し得ることとを見出した。しかし、出願人は、特定の他の方法が、ほとんどの試料における大量のrRNA(例えば、rRNAは、ほとんどの細胞における総RNAの約95〜96%を構成している)の除去するためのRNA5’モノホスファターゼ1による処理と比べて、より効率的であることを見出した。したがって、いくつかの好ましい実施形態において、本発明の方法で用いるためのステップ(1)において準備された試料は、既にrRNAが除去されている(例えば、RIBOMINUS(商標) キット(Invitrogen Life Technologies)を用いて)。RIBOMINUSを用いる予めのrRNAの除去、または実質的にrRNAの量が少ない試料を準備する代替的な方法は、本発明の方法を、所望の目的にとってより効率的かつ有効にする。したがって、本明細書において特に断りがない限り、いくつかの好ましい実施形態において、5’一リン酸化されているリボソームRNA分子が、本発明のステップ(1)において準備された試料から実質的にすでに除去されていることについて理解されるであろう。
例えば、キャップ形成されていないRNAも含んでいる試料に存在するキャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、もしくは精製する方法、または付加的に、試料におけるキャップ形成されているRNAの量を定量する方法および/または試料におけるキャップ形成されていないRNAの量を定量する方法におけるいくつかの好ましい実施形態において、ステップ(1)において準備された試料は、当該方法に使用する前に、リボソームRNAのみを特に除去する処理がなされている(例えば、RIBOMINUS(商標) rRNA除去キット(INVITROGEN)または他の好適な方法を用いて)。RIBOMINUSキット用の手順のような手順を用いる試料からのリボソームRNAの除去は、試料における所望の他のRNA分子(キャップ形成されているRNAおよびキャップ形成されていないRNA(例えば、5’ポリリン酸基を有しているRNA、およびリボソームRNAの除去の後に試料にある5’一リン酸基を有しているRNA)が挙げられる)の分析を容易にする。
試料に存在するキャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、精製するか、または定量する方法のいくつかの実施形態において、試料は、5’ヒドロキシル基を有しているRNAを(例えば、RNaseAのようなリボヌクレアーゼによって消化された結果として)含み得る。5’ヒドロキシル基を有しているRNAは5’エキソリボヌクレアーゼによって消化されない。したがって、試料におけるキャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、精製するか、またはその量を定量する方法のいくつかの実施形態において、ステップ(1)において準備された試料は、5’ヒドロキシル基を有しているRNAを付加的に含んでおり、当該方法は、以下のステップ:(1)(f)ステップ(1)においてポリヌクレオチドキナーゼ(例えば、ファージT4 ポリヌクレオチドキナーゼ)およびATPを付加的に準備するステップ;(5)5’ヒドロキシル基を有しているRNAが5’一リン酸基を有しているRNAにリン酸化されるための、条件においてかつ十分な時間にわたって、ステップ(3)から得られた試料を、ポリヌクレオチドキナーゼ(ファージT4 ポリヌクレオチドキナーゼ)およびATPと接触させるステップ;(6)5’一リン酸基を有しているRNAが消化されるが、5’ポリリン酸基を有しているキャップ形成されているRNA、5’ポリリン酸基を有しているRNAおよび5’ヒドロキシル基を有しているRNAが消化されないための、条件においてかつ十分な時間にわたって、ステップ(5)から得られた上記試料を、5’エキソリボヌクレアーゼと接触させて、キャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、精製するか、および/または定量するステップをさらに包含する。
いくつかの実施形態において、試料における5’ヒドロキシル基を有しているRNAの量を定量する方法は、以下のステップ:(7)ステップ(6)において消化されたRNAまたは消化されなかったRNAの量を定量するステップをさらに包含しており、ここで、上記試料における消化されたRNAの量が、上記試料における5’ヒドロキシル基を有しているRNAの量を示す。
当業者は、本発明の様々な方法のステップを実行する順番が重要であることを理解するが、試料に存在するであろうRNA分子の5’末端にある基に対するそれぞれの酵素の作用が、所望の目的にとって逆に影響しないように注意深く配慮されることを条件に、ステップの順番が変更され得ることを理解する。
本発明の別の実施形態は、試料に存在するキャップ形成されているRNAを入手するか、単離するか、精製するか、または当該RNAの量を定量するキットであって、(1)RNAポリホスファターゼ(RPP)(例えば、アルミニウム誘導性のRPP、E. coliのRPP IおよびShigellaのRPP Iからなる群から選択される);ならびに(2)5’エキソリボヌクレアーゼ(XRN)(例えば、TERMINATOR(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクレアーゼおよびSaccharomyces cerevisiaeのXrn Iエキソリボヌクレアーゼ(Xrn I)からなる群から選択される)を備えている。いくつかの実施形態において、キットは、ポリヌクレオチドキナーゼ(例えばT4 PNK)を付加的に備えている。他のいくつかの実施形態において、キットは、RNA5’モノホスファターゼ(例えば、RNA5’モノホスファターゼ1(EPICENTRE))を備えている。
本発明のさらなる他の実施形態は、親和性結合分子と抱合されているRNAポリホスファターゼを含んでいる組成物である。いくつかの実施形態において、親和性結合分子は、分析物と特異的に結合し得る分析物結合物質(ABS)である。いくつかの実施形態において、親和性結合分子が、(a)DNAもしくはRNAを含んでいる核酸;(b)タンパク質;(c)糖タンパク質;(d)リポタンパク質;(e)含水炭素;(f)脂質;(g)レクチン;(h)ホルモン;(i)ホルモン受容体;(j)ビオチン;(k)アビジンもしくはストレプトアビジン;(l)プロテインA;(m)プロテインG;(n)抗体;(o)抗原;および(p)ジゴキシゲニンからなる群から選択される。
親和性結合分子(分析物結合物質およびそれらの分析物が挙げられる)は、本発明の方法に使用され得る、特異的な結合対を形成する任意の物質であり得る。いくつかの実施形態において、分析物は、細胞性の生化学的な小分子(例えば、ステロイドもしくは他のホルモン、ビタミンおよび細胞性の代謝物から選択される)、または巨大分子(例えば、核酸、タンパク質、脂質および含水炭素から選択される)。いくつかの実施形態において、分析物は、小分子(例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、および可視染料、蛍光染料もしくは化学発光染料から選択される)と抱合されている。いくつかの実施形態において、ABSは、生化学的な小分子(例えば、ビオチンおよびジゴキシゲニンから選択される)、または巨大分子(例えば、核酸、およびタンパク質(例えば、ストレプトアビジン、プロテインA、抗体およびホルモン受容体から選択される)から選択される)。巨大分子であるABSは、生化学な小分子(ビオチン、ジゴキシゲニン、可視染料、蛍光染料および化学発光染料から選択される)と抱合され得る。
本発明の別の実施形態は、親和性結合分子(例えば、分析物結合物質)を標識する方法であって、(i)RNAポリホスファターゼ、親和性結合分子(例えば、分析物結合物質)、および化学抱合試薬を準備するステップ;ならびに(ii)上記RNAポリホスファターゼが上記親和性結合分子と抱合され、かつ上記RNAポリホスファターゼの酵素活性、および上記親和性結合分子の特異的な結合対の形成能が維持される条件において、上記RNAポリホスファターゼを、上記親和性結合分子および上記化学抱合試薬と接触させるステップを包含している方法である。いくつかの実施形態において、親和性結合分子は、核酸プローブ、タンパク質、ストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、抗体、人工の抗体、SELEXを用いて選択されるアプタマー、およびジゴキシゲニンからなる群から選択される。本発明のRPPは、親和性結合分子との抱合物の作製に有用であり、当該抱合物は、二価の金属イオンの非存在下において核酸、タンパク質または他の分析物を高感度に検出するシグナル増幅物質として使用される。
本発明の別の実施形態は、親和性結合分子と抱合されているか、または結合されているRNAポリホスファターゼからなるシグナル増幅物質を調製する方法であって、(a)反応部分を有している親和性結合分子からなる反応性の親和性結合分子、およびRNAポリホスファターゼを準備するステップ;ならびに(b)反応性の上記親和性結合分子が上記RNAポリホスファターゼと共有結合的に抱合され、上記RNAポリホスファターゼの酵素活性、および上記親和性結合分子の特異的な結合対の形成能が維持される条件において、反応性の上記親和性結合分子を、RNAポリホスファターゼと接触させるステップを包含している方法である。いくつかの実施形態において、親和性結合分子は、核酸プローブ、タンパク質、ストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、抗体、人工の抗体、SELEXを用いて選択されるアプタマー、およびジゴキシゲニンからなる群から選択される。したがって、本発明のRPPは、核酸、タンパク質および他の分析物を子感度に検出するためのシグナル増幅物質として用いるための、ビオチンまたはジゴキシゲニン等の小型分子ならびに核酸またはタンパク質(例えば、ストレプトアビジン、プロテインA、一次抗体または二次抗体)との抱合物の作製に有用である。
本発明のRPPは単一のサブユニットの酵素であるので、RPP酵素およびタンパク質の親和性結合分子からなる融合タンパク質をシグナル増幅物質として、遺伝工学的に作製するために有用である。したがって、本発明の実施形態は、RNAポリホスファターゼ(RPP)(例えば、アルミニウム誘導性のRPP、E. coliのRPP、およびShigellaのRPPからなる群から選択される)、および分析物結合物質(ABS)であるタンパク質(例えば、ストレプトアビジン、人工の短鎖抗体およびプロテインAからなる群から選択される)からなる組換え融合タンパク質を含んでいる組成物である。融合タンパク質は、ABSをコードしている核酸配列の5’末端または3’末端に連結されている、RPPをコードしている核酸配列からなる組換え核酸を作製すること、それから発現ベクター(例えばプラスミド)のうちの条件付で誘導可能なプロモータ配列(例えば、T7プロモータ)の下流に当該組換え核酸をクローニングして、組換えベクターを作製すること、それから、条件付で組換え核酸を発現可能な宿主細胞を形質転換して、組換え宿主細胞を入手すること、組換え融合タンパク質が発現される条件において組換え宿主細胞を培養すること、ならびに組換え融合タンパク質を精製することによって作製される。
したがって、本発明のRPPは、研究、分子診断、免疫診断および他の用途において生体分子を検出する方法に使用するためのシグナル増幅物質を作製する多様な方法に使用され得る。
〔定義〕
本発明は、以下に規定されるような用語の定義に基づいて、理解され、解釈されるだろう。
“例えば”、“のような”、“が挙げられる(include)”、“が挙げられる(including)”またはこれらの変化形の用語が本明細書に使用されるとき、これらの用語は、限定の用語と判断されず、“に限定されないが”または“限定されることなく”と解釈されるだろう。
本明細書に使用されるとき、“アクセプターオリゴヌクレオチド”は、RNAリガーゼの作用によって、5’リン酸基を有しているRNAの5’末端に連結され得る3’ヒドロキシル基を有しているオリゴヌクレオチドを意味し、5’リン酸基を有している当該RNAは“ドナー”と呼ばれる。リボヌクレオチドからなるアクセプターオリゴヌクレオチドは、“RNAアクセプターオリゴヌクレオチド”または“RNAアクセプター”である。
本明細書において“親和性結合分子”または“特異的な結合対”は、互いにとっての親和性を有しており、“結合条件”と呼ばれる特定の条件において互いと“結合”する二分子である。特異的な結合対を構成する二分子のそれぞれは、“親和性結合分子”である。ビオチンおよびストレプトアビシンもしくはアビジンは、“親和性結合分子”または“特異的な結合対”の例であり、それぞれが“親和性結合分子”である。
“分析物”は、試料における分析物の存在、濃度または量が、アッセイまたは測定法において決定されている基質である。“分析物結合物質”(または“ABS”)は、分析物と特異的に結合する基質である。本明細書に使用されるとき、分析物、および当該分析物と結合するABSは、“特異的な結合対”を構成し、当該分析物およびABSのそれぞれが“親和性結合分子”である。本発明における方法またはアッセイのうちのいずれかは、(例えば、当該技術に公知のサンドイッチアッセイの方法および組成物を用いる)試料における1つ以上の分析物の検出、回収または定量のために、複数の特異的な結合対(分析物、分析物結合物質または他の親和性結合分子が挙げられる)を利用し得る。
本発明は、任意の特異的な親和性結合分子、特異的な結合対、分析物または分析物結合物質に限定されない。親和性結合分子、分析物および分析物結合物質としては、例えば、タンパク質(糖タンパク質およびリポタンパク質、酵素、ホルモン、受容体、抗原ならびに抗体が挙げられる)、核酸(例えばDNAまたはRNA)、核酸の断片、生化学的な分子および多糖が挙げられる。分析物は、分析物が存在する場合、および当該場合にのみ、試料に存在する生物学的な構成要素としばしばと会合する。多くの他の分析物は、当業者にとって明らかである。
2つの抗体の利用をともなう免疫測定法の場合におけるいくつかの実施形態においては、分析物は、第一の抗体と抱合されているか、もしくは結合されている抗原(サンドイッチアッセイの場合)または抗原と抱合されているか、もしくは結合されている第一の抗体(免疫吸着アッセイの場合)である;ABSは、シグナル増幅物質としてのRNAポリホスファターゼと代わりに抱合されているか、もしくは結合されている第二の抗体である。核酸アッセイの場合のいくつかの実施形態において、分析物は、核酸分子または核酸分子の一部分(例えば、特定の配列を示す一部分)である。ABSは、当該分析物と相補的な他の核酸分子である。上記ABSである上記核酸(例えば、核酸プローブ)は、第一の親和性結合分子(例えばビオチンまたはジゴキシゲニン)と代わりに抱合されており、当該ABSまたは当該核酸プローブは、第三の親和性性分子と結合する第二の親和性結合分子(例えば、それぞれ、ストレプトアビシン、またはジゴキシゲニンと結合する抗体)を用いて検出され、当該第三の親和性性分子は、シグナル増幅物質としてのRNAポリホスファターゼと代わりに抱合されているか、または結合されている。
いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは、当該技術において公知の方法を用いてシグナル増幅物質として使用するために、親和性結合分子と抱合されている。例えば、いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼは、1996年にAcademic Press, Inc.(San Diego, CA)によって出版されたGreg T. Hermansonによる“BIOCONJUGATE Techniques”に記載の試薬および方法を用いて巨大分子の親和性結合分子と抱合されている。ここで、当該巨大分子の親和性結合分子は、例えば、分析物結合基質(例えば、抗体、ストレプトアビシン、プロテインA)、核酸または他の親和性結合分子である。他の実施形態において、親和性結合分子(例えば、分析物結合物質)は固体の表面に抱合されている。さらなる他の実施形態においては、RNAポリホスファターゼは、当該技術において周知の方法を用いてシグナル増幅物質として使用するために、親和性結合分子(例えば、ビオチンまたはジゴキシゲニン)と抱合されている。例えば、いくつかの実施形態において、ビオチンまたは親和性小分子は、D. Savageらによる“Avidin-Biotin Chemistry: A Handbook”(Pierce Chemical Company, 1992)、およびR.P. Hoaglandによる“Handbook of Fluorescent Probes and Research Products”の第9版(Molecular Probes, Inc)に記載のビオチン標識試薬および方法を用いてRNAポリホスファターゼと抱合されている。また、DNAまたはRNAと抱合されている親和性結合分子は、当該技術において公知の試薬および方法を用いたオリゴヌクレオチド合成機を利用して合成され得る。したがって、いくつかの実施形態において、第一の親和性結合分子(ビオチンまたはジゴキシゲニン)は、他の分子(例えば、RNAまたはDNA)と抱合されており、第二の親和性結合分子(例えば、ビオチンと結合するストレプトアビシンもしくはアビジン、またはジゴキシゲニンと結合する特異性抗体)は、当該技術において公知のいずれかの方法を用いて、固体表面と共有結合的に結合されているか、または非共有結合的に結合されている。
好ましい分析物結合物質は、核酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、または核酸もしくはポリヌクレオチドの断片(複数のモノヌクレオシド(DNA、RNA、またはDNAおよびRNAの両方)から構成されている核酸が挙げられる)である。当該複数のモノヌクレオシドとしては、修飾されているDNAまたはRNAの複数のモノヌクレオシドが挙げられる。核酸を含んでいる分析物結合物質が使用される場合、本発明の好ましい分析物は、分析物結合物質の少なくとも断片または領域と少なくとも部分的に相補的な断片または領域を有している核酸、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである。このような核酸親和性結合分子は、公知の多くのインビボまたはインビトロの技術(自動核酸合成技術、PCRまたはインビトロ転写が挙げられる)によって作製され得る。当該技術において理解されているように、DNA親和性結合分子またはRNA親和性結合分子がアッセイにおいてあらかじめ決定されている特異性を必須に提供すべき長さは、アッセイされる試料における核酸の量および複雑さに部分的に依存する。そのような親和性結合分子は、通常、少なくとも5つのヌクレオチドを必要とする。いくつかの実施形態において、GoldおよびTuerkによる米国特許第5270163号に記載の“SELEX”と呼ばれる方法は、本発明に係る分析物結合物質として使用するための核酸を選択するために使用される。SELEXは、少なくとも一部がランダム化された配列を有している複数の核酸分子の大きな集団からの、特定の分析物に対して高い親和性を有している核酸分子の選択を可能にする。例えば、考えられるすべてのランダムな25−merのオリゴヌクレオチドの集団(すなわち、すべての位置において考えられる4つの核酸塩基のそれぞれを有している)は、425の(または1015の)異なる核酸分子を含んでおり、当該核酸分子はそれぞれ、異なる三次元構造および異なる分析物結合特性を有している。いくつかの実施形態において、SELEXは、例えば以下の特許文献に記載の方法にしたがって、核酸またはポリヌクレオチドではない特定の分析物(例えば、タンパク質の分析物(例えば抗体または酵素など))に対して高い親和性を有している核酸からなる分析物結合物質を選択するために使用される。当該特許文献は、米国特許第5,270,163号;米国特許第5,567,588号;米国特許第5,580,737号;米国特許第5,587,468号;米国特許第5,683,867号;米国特許第5,696,249号;米国特許第5,723,594号;米国特許第5,773,598号;米国特許第5,817,785号;米国特許第5,861,254号;米国特許第5,958,691号;米国特許第5,998,142号;米国特許第6,001,577号;米国特許第6,013,443号;および米国特許第6,030,776号である。SELEXによって選択されると、核酸親和性結合分子は、多くの公知のインビボまたはインビトロの技術(自動化された核酸合成技術、PCRまたはインビトロ転写が挙げられる)によって作製され得る。
分析物および分析物結合物質の説明から、本発明が広い適用範囲(免疫アッセイまたは核酸プローブハイブリダイゼーションアッセイが採用される用途が挙げられる)を有していることが明らかである。したがって、他の用途のなかでも、本発明は、植物および動物(ヒトが挙げられる)における疾患の診断;ならびに生成物(例えば、食品、血液および組織培養物)の夾雑物ついての試験に有用である。
本発明によれば、“結合”という用語は、複数の親和性結合分子または特異性結合対の間(例えば、一方の親和性結合分子および他方の親和性結合分子(例えば、分析物およびその分析物結合物質)の間)における、非共有結合を生じる相互作用である。当該非共有結合は、例えば、水素結合、疎水性結合、ファンデルワールス結合およびイオン結合である。理論に束縛されることなく、これらの種類の非共有結合が、特異的な結合対に関連する分子の相補的な形状または構造に部分的に起因する結合を生じると、当該技術において考えられている。“結合”に関する定義、および広範な親和性結合分子もしくは特異性結合対に基づいて、結合条件は異なる特異的な結合対にとって異なることについて明らかである。当業者は、試料において親和性結合分子間に結合が生じる条件を容易に見出し得るか、または決定し得る。特に、当業者は、当該技術において“特異的な結合”と考えられる親和性結合分子間の結合が生じるようにされ得る条件を容易に条件を決定し得る。当該技術に公知のように、このような特異性は、通常、試料における他の物質および組成物(例えば容器の壁、固体支持体)に対してよりも高い、親和性結合分子間の親和性に起因する。また、特定の場合に、その特異性は、試料における他の分子および成分との会合よりも、親和性結合分子の有意により速い会合に関連し得るか、または起因し得る。
本明細書に使用されるとき、“緩衝液”または“緩衝試薬”という用語は、溶液に加えられると、pH値変化に対する耐性を当該溶液にもたらす物質を指す。本明細書に使用されるとき、“反応緩衝液”は、酵素反応が実施される緩衝溶液を指す。本明細書に使用されるとき、“保存緩衝液”という用語は、酵素が保存される緩衝液溶液を指す。
“キャップ”または“キャップヌクレオチド”は、その5’末端を介して一次RNA転写物の5’に抱合されているグアニンヌクレオチドである。その5’末端に抱合されているキャップヌクレオチドを有しているRNAは、“キャップ形成されているRNA”、“キャップ形成されているRNA転写物”または“キャップ形成されている転写物”と呼ばれる。通常のキャップヌクレオシドは、“m7G”と表される構造を有している7−メチルグアノシンまたはN7−メチルグアノシン(ときに“標準的なキャップ”と呼ばれる)である。“m7G”は、キャップ形成されているRNAまたは“m7G−キャップ形成されているRNA”が、m7G(5’)ppp(5’)N1(pN)X−OH(3’)、またはより簡単にm7GpppN1(pN)Xもしくはm7G[5’]ppp[5’]Nと表される構造を有している場合における構造である。ここで、m7Gは7−メチルグアノシルキャプヌクレオシドを表し、pppはキャップヌクレオシドの5’炭素と一次RNA転写物の最初のヌクレオチドとの間における三リン酸架橋を表し、N1(pN)X−OH(3’)は一次RNA転写物を表す。これらにおいて、N1は最も5’側にあるヌクレオチドであり、“p”はリン酸基を表し、“G”はグアノシンヌクレオシドを表し、“m7”はグアニンの7位におけるメチル基を表し、“[5’]”は、“p”がキャップヌクレオチドのリボースおよびmRNA転写物の最初のヌクレオシド(“N”)に抱合されている位置を示す。この“標準的なキャップ”に加えて、天然に存在する様々な他のキャップ類似物および合成のキャップ類似物が当該技術において公知である。任意のキャップヌクレオチドを有しているRNAは“キャップ形成されているRNA”と呼ばれる。いくつかの実施形態において、キャップ形成されているRNAは、生物学的な試料に由来して天然に存在している。いくつかの実施形態において、キャップ形成されているRNAは、キャップ形成酵素系(例えば、ワクシニアのキャップ形成酵素系またはSaccharomyces cerevisiaeのキャップ形成酵素系)を用いた、5’三リン酸基を有しているRNAまたは5’二リン酸基を有しているRNAのインビトロキャップ形成によって得られる。この代わりのいくつかの実施形態において、キャップ形成されているRNAは、RNAポリメラーゼプロモータを含んでいるDNA鋳型のインビトロ転写(IVT)によって得られる。ここで、GTPに加えて、IVT反応はまた、当該技術において公知の方法(例えば、AMPLICAP(商標)T7 キャップ形成キット(EPICENTRE))を用いた、ジヌクレオチドキャップ類似物(例えば、m7GpppGキャップ類似物;N7−メチル,2’−O−メチル−GpppG ARCAキャップ類似物;N7−メチル,3’−O−メチル−GpppG ARCAキャップ類似物)を含んでいる。
5’三リン酸化を受けている一次RNA転写物のインビボにおけるキャップ形成は、種々の酵素的なステップを介して生じる(例えば、Martin, S A et al., J. Biol. Chem. 250: 9322, 1975、Myette、J R and Niles, E G, J. Biol. Chem. 271: 11936, 1996、M A Higman, et al., J. Biol. Chem. 267: 16430, 1992を参照すればよい)。
以下の酵素反応は、真核生物のmRNAのキャップ形成に関連する。
(1)RNA三リン酸がmRNAの5’三リン酸を切断して、二リン酸にする。
pppN1(p)NX-OH(3') → ppN1(p)NX-OH(3')+Pi
(2)それから、RNAグアニルトランスフェラーゼが、mRNAの最も5’側にあるヌクレオチド(N1)の5’二リン酸へのGTPの抱合を触媒する。
ppN1(p)NX-OH(3') + GTP → G(5')ppp(5')N1(pN)x-OH(3') + PPi
(3)最後に、グアニン−7−メチルトランスフェラーゼが、補足因子としてS−アデノシル−メチオニン(AdoMet)を用いて、キャップヌクレオチドにおけるグアニンの7位の窒素のメチル化を触媒する。
G(5')ppp(5')N1(pN)x-OH(3') + AdoMet → m7G(5')ppp(5')N1(pN)x-OH(3') + AdoHyc。
RNAポリホスファターゼおよびRNAグアニルトランスフェラーゼの酵素活性の作用から生じるRNA、ならびにグアニン−7−メチルトランスフェラーゼによってさらにメチル化されているRNAは、本明細書において“5’キャップ形成されているRNA”または“キャップ形成されているRNA”と呼ばれる。本明細書において、“キャップ形成酵素系”またはより簡単に“キャップ形成酵素”は、“キャップ形成されているRNA”を生じる酵素活性を有している1つ以上のポリペプチドの任意の組合せを意味する。キャップ形成酵素系(当該酵素のクローニングされている形態が挙げられる)が、多くの生成源から同定され、精製されており、当該技術において公知である(例えば、Shuman, S, Prog. Nucleic Acid Res. Mol. Biol. 66: 1-40, 2001、Shuman, S, Prog Nucleic Acid Res Mol Biol 50: 101-129, 1995、Shuman, S et al., J. Biol. Chem. 255: 11588, 1980; Banerjee, A K, Microbiol. Rev. 44: 175-205, 1980、Wang, S P et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 9573, 1997、Higman M.A. et al., J. Biol. Chem. 267: 16430, 1992、Higman, MA et al., J. Biol. Chem. 269: 14974-14981, 1994; Myette, JR and Niles, EG, J. Biol. Chem. 271: 11936-11944, 1996を参照すればよい)。5’ポリリン酸を有しているキャップ形成されていないRNAをキャップ形成されているRNAに転化し得る任意のキャップ形成酵素系は、本発明の実施形態のうちのいずれかにとってのキャップ形成されているRNAを提供するために使用され得る。いくつかの実施形態において、キャップ形成酵素系は、ポックスウイルスのキャップ形成酵素系である。いくつかの好ましい実施形態において、キャップ形成酵素系はワクシニアウイルスのキャップ形成酵素である。いくつかの実施形態において、キャップ形成酵素系はSaccharomyces cerevisiaeのキャップ形成酵素である。1つの生成源に由来するRNAポリホスファターゼ、RNAグアニルトランスフェラーゼおよびグアニン−7−メチルトランスフェラーゼをコードしている遺伝子が、他の生成源に由来するこれらの遺伝子の1つまたはすべてにおける欠失を補完し得るという観点から、キャップ形成酵素系は、単一の生成源に由来し得るか、またはRNAポリホスファターゼ、RNAグアニルトランスフェラーゼおよび/またはグアニン−7−メチルトランスフェラーゼの活性の1つ以上が異なる生成源に由来するポリペプチドに含まれ得る。
本明細書に使用されるとき、“キレーター”または“キレート剤”という用語は、金属カチオンに結合可能な非共有電子対を有している2以上の原子を有している任意の物質を指す。EDTAは、本発明に使用され得るキレーターまたはキレート剤の一例である。本明細書に使用されるとき、“2価の塩”または“2価の金属カチオン”という用語は、金属が溶液において2+の正味の電荷を有している任意の塩を指す。
本発明において、“脱キャップ酵素”は、5’ポリリン酸基を有しているRNAを5’一リン酸基を有しているRNAに転化しない条件において、キャップ形成されているRNAを、5’一リン酸基を有しているRNAに転化するDcp1/Dcp2複合体脱キャップ酵素(または“Dcp2型脱キャップ酵素”)を意味する。本明細書において“Dcp2型脱キャップ酵素”は、酵素のNudixスーパーファミリーのメンバーである脱キャップ酵素を意味する。当該酵素は、NudixモチーフまたはNudixボックスと呼ばれる保存されているアミノ酸配列を共有しており、当該アミノ酸配列は、GX5EX7REUXEEXGUによって表される(Dunckley, T and Parker, R. EMBO J 18: 5411-5422, 1999、van Dijk, E et al., EMBO J. 21: 6915-6924, 2002; Steiger, M et al., RNA 9: 231-238, 2003、Xu, W et al. J. Biol. Chem. 279: 24861-24865, 2004、Gunawardana, D et al., Nucleic Acids Res. 36: 203-216, 2008)。
本明細書に使用されるとき、“酵素”という用語は、化学反応または生物学的な反応を触媒することを担っているタンパク質分子またはタンパク質分子の集合物を指す。出願人によって発見された1つの酵素の分類は、5’ポリリン酸基を有しているが、キャップ形成されていないRNAを、5’一リン酸基を有しているRNAに転化するRNA5’ポリホスファターゼを含んでいるか、または当該RNA5’ポリホスファターゼからなる。しかし、他の酵素もまた、本発明の種々の方法およびキットに使用される。一般的に、本発明の方法またはキットは、特定の生成源に由来する特定の酵素の使用に限定されない。むしろ、本発明の方法またはキットは、特定の方法またはキットに関して本明細書に開示されている特定の酵素と同等の酵素活性を有している、任意の生成源に由来する任意の酵素を含んでいる。例えば、いくつかの実施形態において、当該方法またはキットにおけるRNA5’ポリホスファターゼは、Escherichia coliもしくはShigellaのRNA5’ポリホスファターゼI、および5’ポリリン酸基を有しているが、キャップ形成されていないRNAを5’一リン酸基を有しているRNAに転化する他のRNA5’ポリホスファターゼのなかから選択される。また、当該方法またはキットにおける5’リボヌクレアーゼ(XRN)は、Saccharomyces cerevisiaeのXrn Iエキソリボヌクレアーゼ、TERMINATOR(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクレアーゼ(EPICENTRE)、および一リン酸化を受けているRNAをモノヌクレオチドに消化するが、5’三リン酸基、5’キャップ基または5’ヒドロキシル基を有しているRNAを一般的に消化しない他の酵素のなかから選択される。また、当該方法またはキットにおけるポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)は、T4 ポリヌクレオチドキナーゼ、および5’ヒドロキシル基を有しているRNAの5’末端に対してATPもしくは他のヌクレオシド5’三リン酸から一リン酸基を、好適な反応条件において転移させ得る任意の他の酵素のなかから選択される。また、当該方法またはキットにおけるRNAモノホスファターゼは、RNA5’モノホスファターゼI(EPICENTRE, Madison, WI, USA)(例えば、製造者の取扱説明書にしたがって使用される)、および当該RNA5’モノホスファターゼが、5’三リン酸基を有しているRNAを、5’ヒドロキシル基を有しているRNAへと実質的に消化しない条件において、5’一リン酸基を有しているRNAを、5’ヒドロキシル基を有しているRNAに転化する任意の他のRNAモノホスファターゼのなかから選択される。
現在、本明細書に示されているか、または市販の製品において提供されており、実施例に挙げられている方法、緩衝液および反応条件は、本発明の方法、組成物およびキットの実施形態にとって好ましい。しかし、当該技術において公知の他の酵素保存緩衝液、反応緩衝液および反応条件が、本発明の他の実施形態に使用される。
本明細書に使用されるとき、“5’エキソリボヌクレアーゼ”(“XRN”)は、5’一リン酸化されている末端を有している一本鎖RNA基質に対する5’−3’エキソヌクレアーゼ活性が、5’キャップ形成されている末端を有している同じRNA基質に対する5’−3’エキソヌクレアーゼ活性の20倍を超えている5’エキソヌクレアーゼを意味する。本発明の5’エキソリボヌクレアーゼの酵素活性は、多くの異なる方法を用いて測定され得る。5’三リン酸、5’キャップまたは5’一リン酸を有しているRNA基質を用いて活性を定量化し、相対活性を決定する好適な方法は、StevensおよびPoole(J. Biol. Chem., 270: 16063, 1995)によって説明されている。5’エキソリボヌクレアーゼの好ましい組成物の1つは、Saccharomyces cerevisiaeのXrn1p/5’エキソリボヌクレアーゼ1(または“Xrn I エキソリボヌクレアーゼ”、“Xrn I 5’エキソリボヌクレアーゼ”もしくは“Xrn1p エキソリボヌクレアーゼ”)(例えば、当該技術において公知の方法を用いて調製される)である。いくつかの実施形態において、5’エキソリボヌクレアーゼは、プラスミドにクローニングされ、それから複製され、Escherichia coliにおいて発現されるSaccharomyces cerevisiaeのXRN1遺伝子の発現によって得られる。好ましい5’エキソリボヌクレアーゼの1つは、TERMINATOR(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクレアーゼ(EPICENTRE, Madison, WI, USA)(例えば、製造者の取扱説明書にしたがって使用される)である。
“単離されているか、または精製されているポリヌクレオチド”、“単離されているか、または精製されているオリゴヌクレオチド”、または“単離されているか、または精製されているRNA”のように核酸に関して使用されるとき、“単離されている”または“精製されている”という用語は、それまたはそれらの生成源において通常、それまたはそれらが会合している少なくとも1つの夾雑物から分離されている通常の性質を有している1つ以上の核酸分子(例えば、それらの5’末端に同じ化学部分または化学基を有している分子)を指す。したがって、単離されているか、または精製されている核酸は、それらが天然に見られる形態または状態と異なる形態または状態において存在している。一方で、単離されていないか、または精製されていない核酸(例えば、DNAおよびRNA)は、それらが天然に存在している状態において見られる。例えば、(複数の)所定のRNA分子は、多数の他のRNA分子(例えば、rRNA、ncRNA、miRNA、snRNA、分解されたRNA)との混合物として細胞に見られる。
本明細書に使用されるとき、“ヌクレオシド”は、ペントース糖と共有結合されているグアニン(G)もしくはアデニン(A)のプリン塩基、またはチミジン(T)、ウリジン(U)もしくはシチジン(C)のピリミジン塩基からなる化合物を指し、一方で、“ヌクレオチド”は、上記ペントース糖のヒドロキシル基の1つにおいてリン酸化されているヌクレオシドを指す。
本明細書に使用されるとき、“核酸”または“ポリヌクレオチド”は、1つのヌクレオチドの糖部分の3’位が、隣のヌクレオチドの糖部分の5’位と、ホスホジエステル結合によって連結されており、複数のヌクレオチド残基(塩基)が特定の配列(すなわちヌクレオチドの線状の整列)に連結されている複数のヌクレオチドの共有結合されている配列である。本明細書に使用されるとき、“オリゴヌクレオチド”は、短いポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの一部である。オリゴヌクレオチドは、約2塩基から約100塩基の配列を典型的に含んでいるが、より長い分子もときにオリゴヌクレオチドと呼ばれ得る。“オリゴ”という単語は、ときに“オリゴヌクレオチド”という単語の代わりに使用される。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは複数の2’デオキシリボヌクレオチド(DNA)からなる。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは複数のリボヌクレオチド(RNA)からなる。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドは複数のDNAおよびRNAの両方からなる。
直鎖状の核酸分子は、“5’末端”(または“5’−末端”)および“3’末端”(または“3’−末端”)を有していると言える。これは、キャップに関する場合を除いて(本明細書の他の箇所に説明されるように)、1つのモノヌクレオチドの糖部分の5’炭素におけるリン酸基が、その隣のモノヌクレオチドの糖部分の3’炭素における酸素と連結されるように、複数のモノヌクレオチドがホスホジエステル結合を介して一方向に連結されて、オリゴヌクレオチドを形成しているためである。したがって、オリゴヌクレオチドの末端は、その5’リン酸がモノヌクレオチドの糖部分の3’炭素の酸素と連結されていない場合に“5’末端”と呼ばれ、その3’酸素が次のモノヌクレオチドの糖部分の5’リン酸と連結されていない場合に“3’末端”と呼ばれる。
核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドに関する“相補的な”または“相補性”という用語は、塩基対の規則によって関連付けられているヌクレオチドの配列を指して、本明細書において使用される。例えば、配列5’−A−G−T−3’は、配列3’−T−C−A−5’と相補的である。核酸の塩基のいくつかのみが塩基対の規則にしたがって適合している相補性は、“部分的”であり得る。また、相補性は、核酸間における“完全”または“全体的”な相補性であり得る。核酸鎖間における相補性の程度は、核酸鎖間におけるハイブリダイゼーションの効率および強度に重大な影響を有している。これは、増幅反応および核酸のハイブリダイゼーションに依存する検出方法において特に重要である。
“相同性”という用語は、1つの核酸配列の、他の核酸配列に対する相補性の程度を指す。部分的な相同性または完全な相同性(すなわち相補性)があり得る。部分的に相補的な配列は、完全に相補的な配列が標的の核酸とハイブリダイズすることを少なくとも部分的に阻害する配列であり、“実質的に相同性を示す”という機能的な用語を用いて呼ばれる。例えば、本発明のいくつかの実施形態において、RNA5’ポリホスファターゼは、配列番号1と実質的に相同性を示す酵素を含んでいるか、または当該酵素からなる。いくつかの実施形態において、RNA5’ポリホスファターゼは、配列番号1と少なくとも70%の相同性を示す。いくつかの実施形態において、RNA5’ポリホスファターゼは、配列番号1と少なくとも80%の相同性を示す。いくつかの実施形態において、RNA5’ポリホスファターゼは、配列番号1と少なくとも90%の相同性を示す。RNA5’ポリホスファターゼは、配列番号1と少なくとも95%の相同性を示す。完全に相補的な配列の標的配列に対するハイブリダイゼーションの阻害は、低いストリンジェンシーの条件におけるハイブリダイゼーションアッセイ(サザンブロットまたはノザンブロット、ならびに溶液ハイブリダイゼーションなど)を用いて試験され得る。実質的に相同性を示す配列またはプローブは、低いストリンジェンシーの条件における標的に対する完全に相同性を示す配列の結合(すなわちハイブリダイゼーション)と競合し、阻害する。これは、低いストリンジェンシーの条件が非特異的な結合を許容するということではなく、低いストリンジェンシーの条件は、2つの配列のお互いの結合が特異的な(すなわち選択的な)相互作用であることを必要とする。非特異的な結合の非存在は、相補性を有していないか、または程度の低い相補性(例えば、約30%未満の相補性)しか有していない他の標的の使用によって試験され得る。特異的な結合が少ないか、または存在しない場合、プローブは核酸の標的とハイブリダイズしない。二本鎖の核酸配列(例えば、cDNAまたはゲノムクローン)を指して使用されるとき、“実質的に相同性を示す”という用語は、本明細書に記載のような低いストリンジェンシーの条件において、二本鎖の核酸配列のいずれかまたは両方の鎖とハイブリダイズし得る任意のプローブを指す。本明細書に使用されるとき、“ハイブリダイゼーション”または“アニーリング”という用語は、相補的な核酸鎖の対合を指して使用される。ハイブリダイゼーションまたはハイブリダイゼーションの強度(すなわち核酸鎖間における会合の強度)は、当該技術において公知の多くの要素によって影響される。当該要素としては、核酸間における相補性の程度、例えば塩濃度によって影響される関連する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm(融解温度)、他の要素の存在(例えば、ポリエチレングリコールまたはベタインの存在または非存在)、ハイブリダイズする鎖の部分、および核酸鎖のG:C含量が挙げられる。本明細書において、例えばmRNAが特定の配列を示す遺伝子に相補的である場合、一般的に、第1の核酸は第2の核酸に対して相補的であると言える。これは、第1の核酸が、高いストリンジェンシーの条件において第2の核酸とアニールするために十分な相補性または相同性を第2の核酸に対して有していることを意味する。しかし、いくつかの実施形態において、第1の核酸は、穏やかなストリンジェンシーの条件において第2の核酸とアニールするために十分な相補性または相同性を第2の核酸に対して有している。穏やかなストリンジェンシーは、低いストリンジェンシーと高いストリンジェンシーとの間を意味している。穏やかなストリンジェンシーまたは高いストリンジェンシーの条件をどのように整えるかは、当業者にとって公知である。
“オリゴキャップ”または“オリゴヌクレオチドキャップ”は、“オリゴキャップ形成”法の一部としてRNAリガーゼの作用によって、5’一リン酸化されているRNA分子の5’末端に連結されているアクセプターオリゴヌクレオチドである。“オリゴキャップ”は、真核生物のmRNA分子に典型的に見られる“m7Gキャップ”と異なる。真核生物のmRNAおよびいくつかの他の真核生物のRNA分子におけるキャップは、“オリゴヌクレオチドキャップ”または“オリゴキャップ”と区別するために、本明細書において、ときに“m7G−キャップ”、“キャップヌクレオチド”または“ヌクレオチドキャップ”と呼ばれる。本明細書において真核生物のmRNAを指して“m7Gキャップ形成されているRNA”と、ときに記載するが、キャップヌクレオチドはグアニン塩基のN7メチル基に加えて、他の修飾を有し得る。
第1のアミノ酸残基の骨格にあるアミノ基と第2のアミノ酸残基の骨格にあるカルボキシル基との間にペプチド結合が存在しているので、ポリペプチドは、“アミノ末端”(N末端)および“カルボキシ末端”(C末端)を有していると言える。
“一次RNA”または“一次RNA転写物”は、インビボまたはインビトロにおいてRNAポリメラーゼによって合成されており、その最も5’末端側のヌクレオチドの5’炭素に三リン酸を有しているRNA分子を意味する。
本発明によれば、“RNA増幅”または“RNA増幅反応”は、試料に存在するRNA配列のコピー数と比べて、RNA配列またはその相補的な配列のコピー数の増加をもたらす、RNA産物の合成を生じる方法である。例えば、いくつかの実施形態において、RIBOMULTIPLIER(商標) センスRNA増幅キット(EPICENE)は、試料にあらかじめ存在しているRNAからセンスRNAを生成するために使用される。代わりのいくつかの実施形態において、一本差cDNAの合成プライマーとしてオリゴ(dT)プロモータのプライマーを使用する方法は、Van Gelder, R.N., et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 1663, 1990)によって説明されているように、アンチセンスRNAの合成に使用される。いくつかの実施形態において、増幅されたアンチセンスRNAを生成するための市販のキットが使用される(例えば、TARGETAMP(商標) aRNA増幅キット(EPICENTRE, Madison, WI))。代わりのいくつかの実施形態において、RNAポリメラーゼプロモータの1つの鎖の配列をその5’位に示し、一本鎖cDNAの3’末端にあるタグによって示される配列と相補的な配列をその3’位に示す二本鎖cDNAの合成プライマー(またはPCRプライマー)が、センスRNAの合成に使用される。この実施形態において、mRNAのアクセプターオリゴヌクレオチドは、5’一リン酸基を有しているRNAを含んでいる所望のRNAの5’末端に連結されており、これによって5’ライゲーションタグつきのRNAが得られる。5’ライゲーションタグつきのRNAは、それからRNA依存性のDNAポリメラーゼを用いた一本鎖cDNAの合成用の鋳型として使用される。それから、RNAポリメラーゼプロモータを含んでいる二本鎖のcDNAは、DNAポリメラーゼおよびcDNA合成プライマー(またはPCRプライマー)を用いて合成される。最後に、増幅されたセンスRNAは、RNAポリメラーゼプライマーに結合し、転写を開始させるRNAポリメラーゼを用いた二本鎖cDNAのインビトロ転写によって合成される。試料における所望のRNAが5’一リン酸基をすでに有している場合、5’一リン酸基を有しているRNAに転化される(例えば、タバコ酸性ピロホスファターゼを用いて、キャップ形成されているRNAおよび5’ポリリン酸基の両方を含んでいる所望のRNAに転化するか、またはRNAポリホスファターゼを用いて5’ポリリン酸基を有しているRNAのみに転化する)。
また、本発明は、二本鎖cDNAの合成に必要なRNAの増幅方法に限定されない。また例えば、本発明は、一本鎖のプロモータと機能的に連結されている一本鎖の鋳型を用いてRNAを合成し得るRNAポリメラーゼを使用する、米国特許出願公開第2004/0171041号に説明されているRNAの増幅方法および組成物(例えば、MINI−V RNAポリメラーゼ(MINI−V(商標) インビトロ転写キットとしてEPICENTREから入手可能)を使用する方法)を包含している。これらの実施形態において、一本鎖のプロモータは、プライマーを伸張させるためにRNA依存性のDNAポリメラーゼを用いたmRNAの逆転写によって作製されているcDNAの5’末端またはcDNAの3’末端のいずれかに連結されており、続いて起こる一本鎖DNAの鋳型のインビトロ転写(例えば、MINIV RNAポリメラーゼを用いる)によって、増幅されたアンチセンスRNAまたは増幅されたセンスRNAのそれぞれの合成をもたらす。
“RNAリガーゼ”は、5’末端にリン酸基を有しているRNA(すなわちRNAドナー)に対する、3’末端にヒドロキシル基を有しているRNA(すなわちRNAアクセプタ)の連結を触媒する酵素または酵素の組成物を意味する。例えば、いくつかの実施形態において、RNAリガーゼは、バクテリオファージのT4遺伝子63によってコードされているポリペプチド(gp63)である。第2のRNAリガーゼ(gp24.1)がHo, CKおよびShuman, S(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 12709-12714, 2002)によって報告されているので、通常には単に“T4 RNAリガーゼ”と呼ばれるこの酵素は、現在ではより正確に“T4 RNAリガーゼ1”と呼ばれている。上記第2のRNAリガーゼは、バクテリオファージのT4遺伝子24.1によってコードされており、現在“T4 RNAリガーゼ2”と呼ばれている。特に断りがない限り、“T4 RNAリガーゼ”が、本明細書において使用され、T4 RNAリガーゼを意味する。例えば、いくつかの実施形態において、RNAリガーゼは、Thermus scotoductusに感染するバクテリオファージTS2126から得られたRNAリガーゼ遺伝子に由来するか、または当該RNAリガーゼ遺伝子によってコードされているポリペプチド(すなわちバクテリオファージTS21226 RNAリガーゼ)である。当該ポリペプチドとしては、米国特許第7,303,901号に記載の核酸によってコードされている未処理のファージ酵素および他のポリペプチドが挙げられる。
本明細書に規定されるとき、“RNA5’モノホスファターゼ”、“RNA5’モノホスファターゼ酵素”、“RNA5’モノホスファターゼの組成物”または“RMP”は、RNA5’モノホスファターゼが、キャップ形成されていない一次RNA(すなわち5’三リン酸基を有しているRNA)を、5’ヒドロキシル基を有しているRNAに実質的に消化しない条件において、5’一リン酸基を有しているRNAを、5’ヒドロキシル基を有しているRNAに転化可能な酵素または酵素の組成物を意味する。RNA5’モノホスファターゼは、RNAの5’一リン酸基の5’ヒドロキシル基への消化能に関して本明細書に規定されているが、他の酵素活性を有し得る。例えば、RNA5’モノホスファターゼが3’一リン酸基を有しているRNAから3’一リン酸基を除去する活性を有し得る(が、必須ではない)ことについて本明細書から理解される。さらに、RNA5’モノホスファターゼはまた、DNA、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの5’末端から一リン酸基を切断可能であり得る(が、必須ではない)。これと同時に、RNA5’モノホスファターゼは、非核酸の基質からでさえ一リン酸基を切断可能であり得る。本発明の方法またはキットのいくつかの実施形態において、RNA5’モノホスファターゼは、例えば製造者の取扱説明書にしたがって使用されるRNA5’モノホスファターゼ1(RMP1)(EPICENTRE, Madison, WI, USA)である。本発明は、RMP1を含んでいる実施形態に限定されず、所望の目的のために酵素が機能する限り、任意のRNA5’モノホスファターゼが使用され得る。所望の目的とは、同じ反応混合物に存在する5’三リン酸基を有しているRNAを、5’ヒドロキシル基を有しているRNAに転化することなく、5’一リン酸基を有しているRNAを5’ヒドロキシル基を有しているRNAへと特異的に転化することである。
RNA5’モノホスファターゼの酵素活性は、異なる基質(例えば、p−ニトロフェニルホスフェート、NMPまたは5’一リン酸基を有しているRNA)、条件およびアッセイを用いた種々の方法において規定され得る。例えば、使用され得るユニットの定義の1つは、“RNA5’モノホスファターゼの1のユニットは、15mMのp−ニトロフェニルホスフェートおよび5mMの塩化カルシウムを含んでいるpH9.8の1Mのジエタノールアミン緩衝液、25℃において1分間に1μmolのp−ニトロフェニルホスフェートを脱リン酸化する酵素の量”である。例えば、使用され得るユニットの定義の他の1つは、“RNA5’モノホスファターゼ(例えば、RNA5’モノホスファターゼ1(RMP1)(EPICENTRE))の1の分子生物学的ユニット(BMU)は、好適な反応緩衝液、30℃において60分間に、5’一リン酸基を有している核酸基質の規定の調製物の1μgから5’一リン酸基を除去する酵素の量”である。ここで、当該調製物は、例えば、RMP1にとってのRNA基質またはDNA基質(例えば、16Sおよび/または23S 細菌リボソームRNAの規定の調製物、または5’一リン酸基を有している規定のDNA)であり、当該反応緩衝液は、例えば、pH7.5の33mMのトリス酢酸、66mMの酢酸カリウム、10mMの酢酸マグネシウム、5mMの塩化カルシウムおよび0.5mMのDTTを含んでいる、RMP1にとって好適な反応緩衝液である。
本明細書に規定されるとき、“RNA5’ポリホスファターゼ”または“RNAポリホスファターゼ”は、RNAポリホスファターゼがキャップ形成されているRNAを、5’一リン酸基を有しているRNAに消化しない条件において、5’ポリリン酸基を有しているRNAを、5’一リン酸基を有しているRNAに消化可能な酵素の組成物を意味する。5’ポリリン酸基を有している上記RNAは、例えば、5’二リン酸基を有している一次RNAまたはRNAである。例えば、いくつかの実施形態において、RNA5’ポリホスファターゼは、本明細書に記載されているEscherichia coliのRNA5’ポリホスファターゼI(E. coliのRPP I)およびShigellaのRNA5’ポリホスファターゼI(ShigellaのRPP I)のなかから選択される。しかし、本発明の方法に関して、上記酵素は、特定の方法においてRNA5’ポリホスファターゼ活性を有している、任意の生成源から得られる任意の酵素であり得る。例えば、バキュロウイルスのホスファターゼ(BVP)(Takagi, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 9808-9812, 1998;Gross, C.H. and Shuman, S., J. Virology 72: 7057-7063, 1998)、ヒトのPIR1タンパク質(Deshpande, T. et al., J. Biol. Chem. 274: 16590-16594, 1999)およびE. coliのRppHタンパク質(Deana, A et al., Nature 451: 355-358, 2008)が、5’三リン酸化されているRNAを5’一リン酸化されているRNAに転化することについて報告されている。しかし、キャップ形成されているRNAに対するそれらの活性は、調べられていないか、または報告されていない。この活性は試験されるであろうと考えられる。本発明の方法のいくつかの実施形態において、キャップ形成されているRNAまたは5’一リン酸基を有しているRNAを転化する活性を有していない、BVP、PIR1およびRppHタンパク質のなかから選択されるタンパク質のいずれかが、RNAポリホスファターゼとして使用される。
また、RNAポリホスファターゼは、5’ポリリン酸基(例えば、一次RNAの5’三リン酸基)を5’一リン酸基に消化する能力に関して、本明細書に規定されているが、RNAポリホスファターゼは、他の酵素活性を有し得る。また例えば、RNAポリホスファターゼは、RNA分子の5’末端に連結されており、2以上のリン酸を含んでいる任意の直鎖状のポリリン酸からリン酸を除去し得ることについて理解される。さらにまた、RNAポリホスファターゼは、DNA、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはさらに非核酸のポリリン酸基質の5’末端に連結されている、2以上のリン酸を含んでいる任意の直鎖状のポリリン酸を消化可能である。
RNAポリホスファターゼは、未処理のタンパク質または組換えタンパク質から入手され得る。“未処理のタンパク質”という用語は、天然に存在する(すなわち非組換えの)生成源から単離されたタンパク質を指して、本明細書に使用される。本明細書に使用されるとき、“組換えタンパク質”または“組換えポリペプチド”という用語は、組換えDNA分子から発現されたタンパク質分子を指す。タンパク質の未処理の形態と比べて、同一または類似の性質を有しているタンパク質の組換え形態を生成するために、分子生物学的な技術が使用され得る。また、未処理の種々の配列は、発現、精製またはポリペプチドの他の所望の性質を向上させるために作製され得る。
組換えタンパク質であるRNAポリホスファターゼは、融合タンパク質であり得る。本明細書に使用されるとき、“融合タンパク質”という用語は、外来性のタンパク質断片と連結されている所望のタンパク質を含んでいるキメラタンパク質を指す。当該所望のタンパク質は、例えば、RNAポリホスファターゼまたはこれらの断片であり、当該外来性のタンパク質は、例えば、非RNAポリホスファターゼタンパク質を含んでいる融合パートナーである。当該融合パートナーは、宿主細胞において発現されるときのRNAポリホスファターゼタンパク質の可溶性を増強させ得、宿主細胞もしくは培養物の上清、またはこれらの両方からの組換え融合タンパク質の精製を可能にする親和性タグを提供し得る。必要に応じて、融合タンパク質は、当該分野において公知の種々の酵素的または化学的な手段によって、所望のタンパク質(例えば、RNAポリホスファターゼまたはこれらの断片)から除去され得る。
本発明の好ましい実施形態において、RNAポリホスファターゼの組成物は、精製されているタンパク質を含んでいる。本明細書に使用されるとき、“精製されている”または“精製すること”は、所望の構成要素から夾雑物のいくつかを除去する任意の処理の結果を意味する。例えば、特定の所望のタンパク質(例えば、RNAポリホスファターゼ)は、混入している所望されない他のタンパク質、核酸、糖質、脂質および/または生化学的な小分子の除去によって精製される。夾雑物の除去は、組成物における所望のタンパク質の割合の向上をもたらす。例えば、好ましい実施形態においてRNAポリホスファターゼの組成物は、核酸分子に対する活性を有している、混入している核酸および酵素がないように精製されている。
いくつかの好ましい実施形態において、RNAポリホスファターゼは、Escherichia coliにおいて複製され、発現されるプラスミドまたは他のベクターにおけるEscherichia coliのRNAポリホスファターゼ遺伝子(および/または機能的な種々のバリアントおよびこれらの相同物)の発現によって入手される。これは、そのような組換え生成源から入手されるRNAポリホスファターゼが、非組換え生成源から入手されるRNAポリホスファターゼより、精製度が高く、混入している酵素活性がなく、一般的に酵素濃度がより高いからである。
本明細書に使用されるとき、“遺伝子”という用語は、コードされているポリペプチドまたはタンパク質の前駆体(例えば、RNAポリホスファターゼ)の産生に必要な制御配列およびコーディング領域を含んでいるDNA配列を指す。当該ポリペプチドは、全長のコーディング配列、または所望の酵素活性が維持される限りのコーディング配列の任意の部分によってコードされ得る。
本発明の好ましい実施形態において、RNAポリホスファターゼは、“安定化されている”。“安定化されている”とは、RNAポリホスファターゼが、分解および酵素活性の低下の原因になるプロテアーゼおよび夾雑物のない十分な純度であり、少なくとも6ヶ月間にわたる−20℃における保存の間に活性が顕著に低下しない酵素保存緩衝液の調製物に含まれていることを意図している。安定化されているRNAポリホスファターゼを提供するための好適な酵素保存緩衝液の1つは、50mMのTris−HCl(pH7.5)、100mMのNaCl、100mMのEDTA、1mMのDTTおよび1%の非イオン性の界面活性剤Triton X−100を含有している50%のグリセロール溶液を含んでいる。精製されているE. coliの酵素の一形態は、約19kDaのタンパク質であることが見出された。精製されているE. coliの酵素の他の形態は、約24kDaのタンパク質であると見出された。E. coliのRNAポリホスファターゼのバリアントの核酸配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)が決定された(図2)。また、ShigellaがE. coliに見られるRNAポリホスファターゼと同一の配列を示すRNAポリホスファターゼタンパク質を含んでいることが見出された。特に断りがない限り、本明細書に使用されるとき、“RNAポリホスファターゼ”は、タンパク質または遺伝子のバリアントを指し得る。
またさらに、RNAポリホスファターゼのバリアントの形態は、本明細書にさらなる詳細が記載されているこれらのタンパク質およびDNA分子と等価であると考えられる。例えば、イソロイシンもしくはバリンを用いたロイシンの置換、グルタミン酸を用いたアスパラギン酸の置換、セリンを用いたスレオニンの置換、または構造的に関連のあるアミノ酸を用いたアミノ酸の類似の置換(すなわち保存的な変異)は、生じる分子の生物学的な活性に重大な影響を与えないと考えられる。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、保存的な置換を含んでいる本明細書に開示されているRNAポリホスファターゼのバリアントを提供する。保存的な置換は、それらの側鎖に関連のあるアミノ酸の群の範囲において生じる置換である。遺伝的にコードされているアミノ酸は、4つの群:(1)酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸);(2)塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン);(3)非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);および(4)無電荷の極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン)に分けられる。ときにフェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、芳香族アミノ酸として、ともに分類される。同様にして、アミノ酸の種類は、(1)酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸);(2)塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン);(3)脂肪族(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン)、任意にこのうちセリンおよびスレオニンは脂肪族のヒドロキシルとして別に分類される;(4)芳香族(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン);(5)アミド(アスパラギン、グルタミン);ならびに(6)含硫(システインおよびメチオニン)として分類され得る(例えば、Stryer ed., Biochemistry, pg. 17-21, 2nd ed, WH Freeman and Co., 1981)。ペプチドアミノ酸配列における変化が機能的なポリペプチドを生じさせるか否かは、野生型のタンパク質と同様に機能するバリアントペプチドの能力を評価することによって容易に決定され得る。2つ以上の置換を有しているペプチドは、同じ手法において容易に試験され得る。
よりまれに、バリアントは、“非保存的な”変化(例えば、トリプトファンを用いたグリシンの置換)を含んでいる。また、類似の軽度の変異は、アミノ酸欠失もしくはアミノ酸挿入またはその両方を含み得る。生物学的な活性を消失させることなくアミノ酸残基が置換され得るか、挿入され得るか、または欠失され得るかを決定する教示は、コンピュータプログラム(例えば、LASERGENEソフトウェア(DNASTAR Inc., Madison, WI))を用いて見出され得る。
バリアントは、後ほどその詳細が記載されている方法(例えば、定方向の進化またはバリアントの組換えライブラリを生成する他の技術)によって生成され得る。本発明のさらなる他の実施形態において、本発明のヌクレオチド配列は、RNAポリホスファターゼのコーディング配列を変化(遺伝子産物のクローニング、局在化、分泌および/または発現を調節する変化変更が挙げられる)させるために、改変され得る。例えば、変異は、当該分野において十分に知られている技術(例えば、新たな制限酵素部位を挿入するか、糖鎖形成の型を変更するか、またはコドンの優先度を変更するなどのための部位特異的な突然変異誘発)を用いて導入され得る。いくつかの実施形態において、バリアントの核酸配列は、遺伝コードの縮重のために未処理のタンパク質をコードしている。いくつかの実施形態において、バリアントは、所望の特定の組換え発現系にとって最適なコドンを選択するために提供される。
本発明のさらなる他の実施形態は、RNAポリホスファターゼの変異体またはバリアントの形態を提供する。活性または安定性を増強させることを目的として、RNAポリホスファターゼの活性を有しているペプチドの構造を修飾することが可能である。当該安定性は、例えば、エクスビボにおける保存期間および/またはインビボにおける加水分解性の分解に対する耐性である。そのような修飾されているペプチドは、本明細書に規定されるような対象となるRNAポリホスファターゼの活性を有しているペプチドの、機能的な等価物と考えられる。例えばアミノ酸置換、アミノ酸欠失(トランケーションが挙げられる)またはアミノ酸付加によって、アミノ酸配列が改変されている、修飾されているペプチドが生成され得る。
さらに、上述のように、対象となるRNAポリホスファターゼタンパク質のバリアントの形態(例えば変異体)はまた、さらなる詳細について述べられているこれらのペプチドおよびDNA分子と等価であると考えられる。例えば、上述のように、本発明は、保存的または非保存的なアミノ酸置換を含んでいる変異体およびバリアントのタンパク質を包含している。
本発明は、本発明のRNAポリホスファターゼタンパク質の組換え変異体の組と同様に、トランケーション変異体の組を生成させる方法をさらに意図しており、RNAポリホスファターゼ活性に関して機能的であるバリアントの配列(すなわち変異体)の同定にとって特に有用である。そのような組換えライブラリのスクリーニングの目的は、例えば改善されているか、または変更されているRNAポリホスファターゼ活性を有している新規なRNAポリホスファターゼのバリアントを生成することである。
したがって、本発明のいくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼのバリアントは、本発明の方法によって改変されて、変更されている(例えば、向上されているか、または低下させられている)RNAポリホスファターゼ活性をもたらす。他の実施形態において、RNAポリホスファターゼのバリアントは、改変されて、特定の用途のための熱安定性(すなわち熱耐性)または熱不安定性のRNAポリホスファターゼの活性をもたらす。本発明の他の実施形態において、天然に存在しているRNAポリホスファターゼと異なる基質可変性(substrate variability)を有している、組合せ的に生成されているバリアントが生成される。組換えDNA構築物から発現される場合に、そのようなタンパク質には、本明細書に記載の方法における使用が見出される。
本発明のさらなる他の実施形態は、対応する野生型タンパク質と異なる細胞内の半減期を有しているRNAポリホスファターゼのバリアントを提供する。例えば、変更されているタンパク質は、加水分解性の分解、またはRNAポリホスファターゼの破壊もしくは不活化を生じる他の細胞過程に対してより安定または不安定な状態のいずれかにし得る。そのようなバリアント、およびそれらをコードしている遺伝子は、タンパク質の半減期を調節することによってRNAポリホスファターゼ発現の局在を変更するために利用され得る。例えば、短い半減期は、RNAポリホスファターゼのより短い生物学的な作用をもたらし得、誘導性の発現系の一部である場合に、細胞内のRNAポリホスファターゼのレベルのより厳密な制御を可能にする。
本発明のさらなる他の実施形態において、RNAポリホスファターゼのバリアントは、対応する野生型タンパク質の能力を妨害して細胞機能を制御可能なアンタゴニストとして作用するために、組換え手法によって生成される。
本発明の組合せの変異生成手法のいくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼの相同物、バリアントまたは他の関連タンパク質の集団に関するアミノ酸配列は、考え得る最も高い相同性を好ましく求めるために整列化される。バリアントのそのような集団としては、例えば、1つ以上の種もしくは亜種から得られるRNAポリホスファターゼの相同物、または同じ種もしくは亜種から得られるが、変異または多形に起因して異なるRNAポリホスファターゼのバリアントが挙げられる。整列化されている配列の各位置に現れるアミノ酸が、組合せの配列の変質した組を作り出すために選択される。
本発明の好ましい実施形態において、組合せのRNAポリホスファターゼライブラリは、RNAポリホスファターゼタンパク質の見込みのある配列の少なくとも一部をそれぞれが含んでいるポリペプチドのライブラリをコードしている遺伝子の変性したライブラリによって生成される。例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物は、RNAポリホスファターゼの見込みのある配列の変性した組が個々のポリペプチド、またはRNAポリホスファターゼの配列の組を含んでいる(例えば、ファージディスプレイ用の)より大きなタンパク質の組として発現可能に、遺伝子配列に酵素的に連結され得る。
RNAポリホスファターゼの見込みのある相同物およびバリアントのライブラリが変性したオリゴヌクレオチド配列から生成される多くの方法が存在している。いくつかの実施形態において、変性した遺伝子配列の化学合成は自動化されたDNA合成機において実施され、合成された遺伝子は発現にとって適切な遺伝子と連結される。遺伝子の変性した組の目的は、RNAポリホスファターゼの見込みのある配列の所望の組をコードしている配列のすべてを、単一の混合物において提供することである。変性したオリゴヌクレオチドは、当該技術においてよく知られている(例えば、Narang, Tetrahedron Lett., 39: 39, 1983;Itakura et al., Recombinant DNA, in Walton (ed.), Proceedings of the 3rd Cleveland Symposium on Macromolecules, Elsevier, Amsterdam, pp 273-289, 1981;Itakura et al., Annu. Rev. Biochem., 53: 323, 1984;Itakura et al., Science 198: 1056, 1984;Ike et al., Nucl. Acid Res., 11: 477, 1983を参照すればよい)。そのような技術は、他のタンパク質の定方向の進化に採用される(例えば、Scott et al., Science 249: 386, 1980;Roberts et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 2429, 1992;Devlin et al., Science 249: 404, 1990; Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378, 1990;ならびに米国特許第5223409号;米国特許第5198346号;および米国特許第5096815号を参照すればよい)。
RNAポリホスファターゼの核酸(例えば、配列番号1、ならびにそれらの断片、バリアントおよび相同物)が、定方向の進化のための開始核酸として利用され得ることが意図されている。これらの技術は、所望の特性(例えば、増強されているか、低下させられているか、または変更されているRNAポリホスファターゼ活性)を有しているRNAポリホスファターゼバリアントを構築するために利用され得る。
いくつかの実施形態において、人工的な進化は、無作為の変異生成(例えば、所望のコーディング配列に無作為に変異を導入するためのエラー−プローンPCR(error-prone PCR))によって実施される。この方法は、変異の頻度が精密に調整されている必要がある。一般的な法則として、有益な変異はまれであり、有害な変異が多く見られる。これは、有害な変異および有益な変異の組合せが不活性な酵素をしばしば生じるためである。標的の遺伝子に関する塩基置換の理想的な数は、一般的に1.5から5の間である(Moore and Arnold, Nat. Biotech., 14, 458, 1996;Eckert and Kunkel, PCR Methods Appl., 1: 17-24, 1991; Caldwell and Joyce, PCR Methods Appl., 2: 28, 1992;およびZhao and Arnold, Nuc. Acids Res. 25: 1307, 1997)。変異生成の後に、生じたクローンは所望の活性に関して選択される(例えば、RNAポリホスファターゼ活性についてスクリーニングされる)。所望の特性を有している酵素の構築には、変異生成および選択の繰返しに成功する必要がしばしばある。有用な変異のみが次回の変異生成に持ち越されることに留意されたい。
本発明の他の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、遺伝子シャッフリングまたはセクシャルPCR法(sexual PCR procedures)に使用される(例えば、Smith, Nature, 370: 324, 1994;米国特許第5837458号;米国特許第5830721号;米国特許第5811238号;米国特許第5733731号)。遺伝子シャッフリングは、種々の変異体DNAのランダムな断片化、これに続くPCRによる全長分子への再構築に関する。種々の遺伝子シャッフリング法の例としては、DNase処理に続く構築、食い違いの伸張過程(staggered extension process)、およびインビトロ組換えにおけるランダムプライミングが挙げられる。DNaseを使用する方法において、陽性の変異体のプールから単離されたDNAセグメントが、DNase Iを用いてランダムな断片に切断され、プライマーを加えない多段階のPCRに供される。ランダムな断片の長さが、PCRサイクルが進むにつれて切断されていないセグメントの長さに近づいてゆき、異なるクローンに存在する変異を、混合して生じさせ、生じる配列のいくつかに蓄積させる。選択およびシャッフリングの繰返しによって、種々の酵素の機能的な増強に導く(Stemmer, Nature, 370:398, 1994;Stemmer, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 10747, 1994;Crameri et al., Nat. Biotech., 14: 315, 1996; Zhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94: 4504, 1997;およびCrameri et al., Nat. Biotech., 15: 436, 1997)。
点変異によって作製される組合せのライブラリの遺伝子産物のスクリーニング、および特定の特性を有している遺伝子産物のcDNAライブラリのスクリーニングに関する広範な手法が、当該技術において公知である。そのような手法は、RNAポリホスファターゼの相同物もしくはバリアントの、組合せの変異生成または組換えによって生成される遺伝子ライブラリの迅速なスクリーニングと一般的に適合する。大きな遺伝子ライブラリのスクリーニングに最も広く使用される手法は、複製可能な発現ベクターへの遺伝子ライブラリのクローニング、生じたライブラリの複数のベクターを用いた細胞の形質転換、および組合せの遺伝子の発現を典型的に包含している。ここで、当該遺伝子は、所望の活性の検出が、生成物を検出した遺伝子をコードしているベクターの簡単な単離を比較的に容易にする条件において発現される。
また、本発明の核酸およびタンパク質の断片は、当該断片が所望の酵素活性をコードしているか、または保有している限り、使用され得る。
RNAポリホスファターゼの酵素活性は、異なる基質(例えば、NTP、一次RNAまたは6,8−ジフルオロ−4−メチルウンベリフェリルホスフェート)、条件およびアッセイを用いた種々の方法において規定され得る。例えば、使用され得るユニットの定義の1つは、“RNAポリホスファターゼの1ユニットが、標準的な反応アッセイ条件、37℃において60分間にATPから1nmの無機リン酸を放出する酵素の量”である。当該条件は、例えば、50mMのHEPES/KOH(pH7.5)、0.1MのNaCl、1mMのEDTA、0.1%のBMEおよび0.01%のTRITON X100からなる反応緩衝液における1mMのATPを用いた条件である。
“試料”および“生物学的な試料”という用語は、広義の意味に使用され、任意の生成源(生物学的な生成源および環境の生成源が挙げられる)から得られる試料または分析物を包含している。生体から得られる生物学的な試料を指して本明細書に使用されるとき、“試料”という用語は、液体、固体、組織および気体を包含している。本発明の好ましい実施形態において、生物学的な試料としては、体液、単離された細胞、固定された細胞、および細胞溶解液などが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態において、試料は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された(FFPE)組織切片であり、当該試料に含まれいているRNAは、分解されたRNA分子(キャップ形成されている分解されたRNA、5’ポリリン酸基を有している分解されたRNA、5’一リン酸基を有している分解されたRNA、および/または5’ヒドロキシル基を有している分解されたRNAが挙げられる)を含んでいる。したがって、1つ以上のRNA分子を入手するか、単離するか、精製するか、または定量化する方法のいずれかのいくつかの実施形態において、試料は分解されたRNAを含んでおり、当該方法は、当該試料における分解されたRNA(例えば、キャップ形成されている分解されたRNAまたは5’三リン酸化されている分解されたRNA)のそれぞれを入手するか、単離するか、精製するか、または定量化するために使用される。いくつかの実施形態において、入手されるか、単離されるか、精製されるか、または定量化される1つ以上のRNA分子は、天然に存在する未分解のRNA分子から得られたRNA分子の5’末端部分のみか、または当該5’末端部分を主に(例えば、キャップ形成されているRNA分子または5’三リン酸化されているRNA分子の5’末端部分のみを)含んでいる。しかし、これらの試料は、本発明とともに使用を見出す試料の種類を限定するようには構成されていない。いくつかの実施形態において、試料は、例えば当該技術に公知のRNA増幅反応のいずれかを用いて増幅されているRNAを含んでいる。一般的に、そのようなRNA増幅反応の少なくとも一段階は、試料に元から存在しているRNAから調製される二本鎖のcDNAのインビトロ転写を包含している。
“転写”は、DNA分子を鋳型として用いたRNAポリメラーゼによるRNA分子の形成または合成を意味する。本発明は、転写に使用されるRNAポリメラーゼに限定されない。
本明細書に規定されるとき、“T7型のRNAポリメラーゼ”は、T7型バクテリオファージから得られたRNAポリメラーゼの野生型または変異体(ファージにコードされる酵素、ならびにDNAベクターにおけるRNAポリメラーゼのクローニングおよび細菌細胞もしくは他の細胞における発現によって得られた酵素が挙げられる)の形態である。これは、試験されているすべてのT7型バクテリオファージの遺伝的起源が、T7の遺伝的起源と必須に同じであるとの知見に基づいている。T7型バクテリオファージの例としては、Escherichia coli ファージのT3、phi I、phi II、W31、H、Y、A1、122、cro、C21、C22およびC23;Pseudomonas putida ファージのgh−1;Salmonella typhimurium ファージのSP6;Serratia marcescens ファージのIV;Citrobacter ファージのViIII;ならびにKlebsiella ファージのNo.11が挙げられる(Hausmann, Current Topics in Microbiology and Immunology 75: 77-109, 1976;Korsten et al., J. Gen. Virol. 43: 57-73, 1975;Dunn, et al., Nature New Biology 230: 94-96, 1971;Towle, et al., J. Biol. Chem. 250: 1723-1733, 1975; Butler and Chamberlin, J. Biol. Chem. 257:5772-5778, 1982)。また、変異体T7型のRNAPが、いくつかの実施形態において、本発明の方法またはアッセイに使用され得る。変異体T7型のRNAPは、米国特許第5,849,546号;Padilla, R and Sousa, R, Nucleic Acids Res., 15: e138, 2002;Sousa, R and Mukherjee, S, Prog Nucleic Acid Res Mol Biol., 73: 1-41, 2003に記載されているようなものである。変異体T7型のRNAPは、例えば、T7 RNAP Y639F変異体酵素、T3 RNAP Y640F変異体酵素、SP6 RNAP Y631F変異体酵素、639位および784位の両方に変更されたアミノ酸を有しているT7 RNAP、640位および785位の両方に変更されたアミノ酸を有しているT3 RNAP、または631位および779位の両方に変更されたアミノ酸を有しているSP6 RNAPである。特にそのような変異体酵素は、特定の特性および用途を有しているRNA分子の合成に有利な特定の基質またはddNTPに加えて、dNTPおよび2’−F−dNTPを(例えば、T7 R&DNA(商標) ポリメラーゼまたはDURASCRIBE(商標) T7 転写キット(EPICENTRE)を用いて)を組み込み得る。いくつかの実施形態において、ファージ N4 mini−vRNAPが、T7型のRNAポリメラーゼとして使用される。ファージ N4 mini−vRNAPは、N4 vRNAPの転写活性のある1106のアミノ酸ドメインであり、当該アミノ酸ドメインは、T7型のRNAPと共通する特定のドメインを有しているN4 VRNAPの998−2103アミノ酸に対応する(Kazmierczak, K.M., et al., EMBO J 21: 5815-5823, 2002;米国特許第7,452,705号)。代わりのいくつかの実施形態において、標準的ではないヌクレオチド(例えば、2’−F−dNTP、米国特許第7,452,705号)を組み込み得るN4−mini vRNAP Y678F変異体酵素が、T7型のRNAポリメラーゼとして使用される。転写を実施するために、RNAポリメラーゼは、“RNAポリメラーゼプロモータ”、“転写プロモータ”または単に“プロモータ”と呼ばれるおよそ長さ25ヌクレオチドのDNA配列を認識し、当該DNA配列に結合し、それらから転写を開始する。ほとんどの場合、プロモータ配列は二本鎖である。本明細書に使用されるとき、RNAの合成用の鋳型と共有結合的に連結されている二本鎖のプロモータの鎖は、“センス鎖”または“センスプロモータ配列”と規定され、その相補物は、“アンチセンス鎖”または“アンチセンスプロモータ配列”と規定される。
次の実施例は本発明の好ましい特定の実施形態および態様を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきものではない。
〔RNAポリホスファターゼの発見と精製〕
我々は、SDS−PAGEゲルのインシチュにおいてEscherichia coliのタンパク質を復元して、RNAポリホスファターゼ(RPP)を発見した。γ32Pによって末端標識したRNAの存在下においてポリアクリルアミドを重合させることによって、SDS−PAGE泳動ゲル(15%)を準備した。当該RNAは、T7 RNAポリメラーゼ、T7反応緩衝液、γ32Pによって標識されたGTP、非標識のATP、非標識のCTPおよび非標識のUTPを用いた、直鎖状の鋳型DNAのインビトロにおける転写によって合成された。電気泳動の後に、SDS−PAGE泳動バッファは、SDSを含んでいない緩衝液においてゲルをインキュベートすることによって交換されて、SDSを除去し、インシチュにおけるタンパク質の復元を可能にした。ゲルは、緩衝液において一晩にわたってインキュベートされ、当該ゲルは、SYBR Gold(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて染色された。約30000の分子量の位置に移動していた未染色のバンドが明確に認められた。しかし、ゲルが7.5%の酢酸中において固定され、それから乾燥され、オートラジオグラフィーにかけられると、オートラジオグラフィーにおいて放射性を示さない2つのバンドが、約30000(30kDa)および約19000の分子量(19kDa)の位置に移動して、認められた。SYBR Gold染色は、19kDaバンドにおけるRNAの存在を示しており、これは19kDaのタンパク質による32Pによって末端標識したRNAの、分解を伴わない脱リン酸化を意味する。30kDaバンドにおいてSYBRゴールドによって染色されていないことは、当該バンドにおけるタンパク質が、おそらくRNaseIであるRNaseであることとを意味している。
酵素活性についてのアッセイを簡素化し、酵素の精製を容易にするために、我々は代替となる酵素の基質を探索した。我々は、蛍光発生性のホスファターゼ基質である6,8−ジフルオロ−4−メチルウンベリフェリルホスフェート(DiFMUP)が19kDaタンパク質にとっての基質であることを見出した。加水分解によって、この基質は、蛍光性の生成物6,8−ジフロロ−7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(DiFMU)に転換された。DiFMUは358nmに吸収ピークを有しており455nmに吸収ピークを有している。驚いたことに、RPP酵素は、DiFMUPを基質として用いる場合に、4−メチルウンベリフェリルホスフェート(4MUP)を基質として用いる場合よりも、50倍を超える活性を示した。それゆえに、DiFMUPは、ポリアクリルアミドゲルのインシチュにおいてタンパク質を復元させた後、標準的なUVトランスイルミネーターを用いてEscherichia coliの全抽出物において19kDaの単一の蛍光のバンドを検出するために使用された。また、上記バンドはクーマシーブルーのタンパク質染色によって染色された。より簡便なDiFMUPアッセイを使用して、我々は、RNAポリホスファターゼタンパク質の精製の大規模化を可能にし、物理的特性および酵素特性の性質決定を可能にした。例えば、いくつかの実施形態において、RNAポリホスファターゼ活性は、以下の方法:ポリエチレンイミン分画、硫酸アンモニウム分画、Bio−Rex 70カチオン交換カラムクラマトグラフィー(例えば、Bio−Rex70クラマトグラフィー);ゲルろ過カラムグラマトグラフィー(例えばSephacryl SlOO);アニオン交換カラムグラマトグラフィー(例えばSP−Sepharose)の1つ以上を用いて精製されている。RNAポリホスファターゼ活性は、イオン交換カラムおよびゲルろ過カラムの両方における単一のピークとしてクロマトグラム化され、これは、19kDaのタンパク質がこの活性を示す単一の酵素であることを示唆している。
〔RNAポリホスファターゼをコードしている遺伝子の同定〕
タンパク質を同定し、RNAポリホスファターゼ酵素をコードしている遺伝子座を決定するために、RNAポリホスファターゼをトリプシンを用いてゲルにおいて消化し、生じたトリプシン消化物を、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間質量分析計(MALDI−TOF MS)によって分析した。MASCOT検索エンジンを用いて、NCBIデータベースにおけるタンパク質配列と比較すると、RNAポリホスファターゼから得られたトリプシンによって生じたペプチド配列は、Escherichia coliの53638に由来するタンパク質と一致した。実際には、上位の12位が、データベースにおけるEscherichia coliの異なる菌種に由来する同じタンパク質と一致した(タンパク質スコアは439〜229の範囲である、p<0.05)。Escherichia coliの異なる菌種に由来する12のタンパク質の配列は、実質的に同一である。Escherichia coliのKl 2(MG 1655)において、このタンパク質(遺伝子座タグb2252)は、未知の機能を有しているアルミニウム誘導タンパク質と注釈されている。対応するアルミニウム誘導性(ais)の遺伝子は、50.04マイニュートに位置しており、約200アミノ酸のタンパク質をコードしている。当該遺伝子は、非必須の遺伝子に分類され、無機リン酸を含んでいない規定の培地において培養された培養物に0.2mMのZnSO4を添加した後に、当該遺伝子のmRNAレベルが16倍に誘導された。この遺伝子によるタンパク質産物の情報は、当該タンパク質産物がこれまでに発見されていないため、入手不可能である。理論に束縛されることなく、ORFに保存されているドメインの探索によって、上記タンパク質は、ホスホグリセリン塩酸ムターゼ様スーパーファミリーの一員であり得ることが示されている。このファミリーにおける酵素の触媒活性は、ヒスチジンのリン酸化と典型的に関連する。
〔ais遺伝子のクローニングおよび過剰発現〕
我々は、Escherichia coli Kl2(MG 1655)から分離されたゲノムDNAおよびNdelおよびBamHIの制限酵素にとっての認識部位を有している特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、ais遺伝子(b2252遺伝子座)を増幅した。Ndel認識配列を有しているこのフォワードプライマーを、最初のコドンをGTGからATGに変更するために改変した。増幅生成物を、誘導可能なT7に基づくpETプラスミド発現ベクターの対応する部位にクローンし、続いてEscherichia coliのEc100コンピテント細胞の形質転換、および組換え体の選択を行い、挿入されたDNAの配列がais遺伝子であることを確認した。組換えクローンに由来するタンパク質のRNAポリホスファターゼ活性は、上述のようにインシチュゲルアッセイを用いて蛍光によって検出し、誘導によるタンパク質の過剰発現をクーマシーブルー染色によってモニターした。精製された天然RNAポリホスファターゼを、これらの実験において対照として使用した。組換えクローンから得られたタンパク質の全量より少ない量を、誘導されていない細胞に存在する内在性のRNAポリホスファターゼの検出を最小化するために、ゲルアッセイに使用した。
2つの蛍光およびクーマシーブルー染色のバンドは、誘導された組換え細胞から調製されたタンパク質抽出物に見られた。誘導された組換え細胞に由来するこれらのバンドの1つは、19kDaの天然のRNAポリホスファターゼと大きさおよび特性が同一の、RNAポリホスファターゼ活性を有している溶解性のタンパク質であった。さらに、RNAポリホスファターゼ活性を有しており、大部分が封入体に存在する第2の24kDaのタンパク質はまた、誘導された組換え細胞において過剰発現された。精製された天然酵素、ならびに組換えの24kDaおよび19kDaのRNAポリホスファターゼのアミノ末端を、エドマン分解によって決定した。天然のタンパク質および過度発現された組換え体の19kDaタンパク質のアミノ末端の配列は、S−N−G−L−Pであり、同一であった。24kDaの組換え体のタンパク質のアミノ末端は、M−L−A−Fであり、クローンされたais遺伝子のアミノ末端と一致している。天然の酵素のアミノ末端配列S−N−G−L−Pによって、当該タンパク質は、おそらくシグナルぺプチダーゼによって処理され、成熟した酵素が細胞膜周辺腔に存在することが示唆された。天然の酵素の細胞における局在を決定するために、Escherichia coliのB 細胞をスフェロプラストに転換し、上清(細胞膜周辺腔画分)に放出されたRNAポリホスファターゼ活性、および上記スフェロプラスト(細胞質画分)によって保持されたRNAポリホスファターゼ活性を蛍光のインシチュゲルアッセイによって測定した。RNAポリホスファターゼが、細胞周辺質画分において検出され、活性成分は、精製された19kDaの天然の酵素と共に移動した。また、細胞質画分は、19kDaタンパク質のように移動するRNAポリホスファターゼ活性を有していたが、24kDa RNAポリホスファターゼは検出されなかった。理論に束縛されことなく、上記データによって、組換えの19kDaのRNAポリホスファターゼは、アミノ末端の処理によって24kDaタンパク質から得られる細胞周辺質のタンパク質であることが示唆された。非組換え細胞の細胞質画分に認められた19kDaのRNAポリホスファターゼ活性の存在は、細胞からスフェロプラストへの不完全な転換に起因し得、組換え細胞における24kDaの活性なタンパク質の存在は、組換え細胞内の封入体に存在する未処理のタンパク質におそらく起因し得る。ais遺伝子は、Zalucki, YMら(Nucleic Acids Res. 35: 5748-5754, 2007)によって分泌タンパク質に分類されたが、予測される断裂部位は、同定されたアミノ端末と異なっていたことを鑑みると興味深い。
〔精製されたRNAポリホスファターゼの触媒性質〕
精製されたRNAポリホスファターゼ酵素は、広いpH範囲において活性を示す(例えば、pH5.0からpH8.0の範囲において最適の活性を有している)。驚くことに、いくつかの他のリン酸除去酵素と対照的に、当該RNAポリホスファターゼ酵素は、Mg2+といった二価のカチオンを必要とせず、EDTA存在下において活性を有している。実際に、当該酵素は、1mMのMg2+カチオン存在下において阻害される。
一次RNAまたは5’二リン酸化されているRNA(例えば、キャップ形成酵素RNA三リン酸化反応から得られる)といった核酸から、βリン酸およびrリン酸を除去することに加えて、精製された〜19kDaの単一のサブユニットのRNAポリホスファターゼは、多くの他の基質(ヌクレオシド5’二リン酸およびヌクレオシド5’三リン酸(例えば、NTP、NDP、dNTP、dNDPs)が挙げられる)からリン酸基を除去し得る。加水分解の生成物は、ヌクレオシド5’一リン酸および無機のオルトリン酸である。ヌクレオシド5’一リン酸は基質ではない。ADPは、ATPと比べて50%の効率において加水分解された。上記酵素は、ヌクレオシド三リン酸を段階的に加水分解し、ピロリン酸の代わりに無機のオルトリン酸を放出する。薄層クラマトグラフィーによるATP加水分解の生成物の経時的な分析によって、AMP出現を受けたADPの蓄積が示された。興味深いことに、ポリリン酸は、ATPと同様にRNAポリホスファターゼにとっての良好な基質であると同時に、無機のピロリン酸は基質ではように思われる。左右対称のジヌクレオシド三リン酸であるG[5’]ppp[5’]Gおよびそのメチル化誘導体である m7G[5’]ppp[5’]Gは、加水分解を受るにしてもほとんどまれであり、当該酵素がエキソポリホスファターゼであることを示唆している。また、酵素の最初のスクリーニングおよび同定に使用された基質であるDiFMUPは、良好な基質であると同時に、4−メチル−ウンベリフェリルリン酸およびp−ニトロフェニルリン酸(PNPP)は当該酵素にとって良好な基質ではなく、ビス(p−ニトリルフェニル)リン酸はほとんど加水分解を受けなかった。理論に束縛されることなく、DiFMUPが一リン酸を有しているにもかからず、6位および8位にあるフッ素がDiFMUPを上記酵素の基質にする役割をおそらく果たしていると仮定される。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドーリル リン酸、およびホスホアミノ酸であるホスホセリンは、基質としてまったく認識されなかった。
我々は、RNAの5’末端上に三リン酸基または二リン酸基を有しているRNAを一リン酸塩に切断できるが、キャップ形成されているRNAを一リン酸塩に切断できないRNAポリホスファターゼが、当該技術においてこれまでに教示されていないと確信する。この活性は本明細書に記載の種々の方法に有用である。しかし、理論に束縛されることなく、我々は、RNAポリホスファターゼが得られるバクテリアが、天然において類似の機能のために当該酵素を利用しているとは考えていない。むしろ、我々は、RNAポリホスファターゼが原核生物における細胞周辺質の酵素であるとの知見から、その天然の機能が、酵素の周囲にある必要の栄養素(例えばリン酸)を捕集するためであり得ることを示していると考える。したがって、本明細書に記載の方法は、我々の目的にとって好都合であるとはいえ、人工的なものであり得る。それにもかかわらず、これらおよびいくつかの他のホスファターゼは多機能であり、広範なリン酸化化合物(例えば、ヌクレオチド、糖リン酸、ホスホリン脂質およびポリリン酸)に対して活性であるので、天然におけるRNAポリホスファターゼによって果たされる役割は不明なままである。
〔キャップ形成されていないRNAおよびキャップ形成されているRNAの混合物から、キャップ形成されているRNAを入手するか、分離するか、もしくは精製するキットおよび方法、またはキャップ形成されていないRNAおよびキャップ形成されているRNAの混合物から、キャップ形成されているRNAの割合を定量するキットおよび方法の例〕
(A.キットの内容物)
組成物およびキットは、以下の成分:
1.2U/μlのRNA5’ポリホスファターゼ
2.1U/μlのTerminator(商標) 5’リン酸依存性エキソヌクリアーゼ
3.10×酵素反応用緩衝液:
41.5%(500mMのTris−HCl(pH8.0)、20mMのMgCl2および1MのNaCl)および58.5%(0.5MのHEPES−KOH(pH7.5)、1MのNaCl、10mMのEDTA、1%のβ−メルカプトエタノールおよび0.1%のトリトン X−100)
4.RNaseを含んでいない水
を含んでいるか、または当該成分からなる。
保存緩衝液:RNAポリホスファターゼおよびTerminator エキソヌクレアーゼの両方は、50mMのTris−HCl(pH7.5)、0.1MのNaCl、0.1mMのEDTA、1mMのジチオスレイトールおよび0.1%のTriton(登録商標) X−100を含有している50%のグリセロール溶液に含まれている。
活性およびユニットの定義:1ユニットのRNAポリホスファターゼは、標準的なアッセイ条件、37℃において1時間に、1ナノモルの無機リン酸をATPから放出させる。1ユニットのTerminator エキソヌクリアーゼは、標準的なアッセイ条件、37℃において1時間に、0.1μgのrRNA基質を酸可溶性のヌクレオチドに消化する。
保存:霜取りサイクルを有していないフリーザーにおいて−20℃に保存する。
RNAの定量:いくつかの実施形態において、Quant−iT(商標) RiboGreen(登録商標) RNA試薬/キット(Molecular Probes(登録商標)/Invitrogen(商標))がRNAの定量に使用される。
(B.キャップ形成されているRNAおよびキャップ形成されていないRNAの混合物から、キャップ形成されているRNAを分離するか、または当該RNAの割合を定量する方法またはアッセイ)
背景:
キットにおけるRNA5’ポリホスファターゼは、5’三リン酸基を有しているRNAを、5’一リン酸基を有しているRNAに選択的に消化するが、試料におけるキャップ形成されているRNAを消化しない。それから、Terminator(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクリアーゼは、5’一リン酸基を有しているRNAをRNAモノヌクレオチドに選択的に消化するが、キャップ形成されているRNAを消化しない。必要に応じて、試料におけるキャップ形成されているRNAを定量し、試料におけるキャップ形成されているRNAの割合を、RNA5’ポリホスファターゼおよびTerminator(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクリアーゼを用いた処理前におけるRNAの初期量と、定量されたキャップ形成されているRNAとの比較によって算出する。
キャップ形成されているRNAおよびキャップ形成されていないRNAの混合物を含有している試料または溶液は、任意の生成源から(細胞もしくは細胞の混合物に由来する精製されている総RNAを含んでいる生物学的な試料からか、またはインビトロキャップ形成反応からが挙げられる)入手され得る。いくつかの実施形態において、インビトロキャップ形成反応から得られるRNAは、転写と同時のキャップ形成反応(例えば、mSCRIPT(商標) mRNA生成システムまたはSCRIPTCAP(商標) キャップ形成酵素;EPICENTRE)から得られる。
〔方法またはアッセイの手順〕
以下の手順は4μgのRNAを含んでいる試料を使用するが、ユーザのニーズ、または以下に示されているRNAのμg数に対する酵素の同じ割合を用いたRNAの有効性に依存して、反応を大規模化または小規模化し得る。平行して進める対照は、RNA5’ポリホスファターゼまたはTerminator(商標) 5’リン酸依存性のエキソヌクリアーゼによって処理されていない同じ試料からなる。
(ステップ1)
生物学的な試料または転写と同時もしくは転写後のキャップ形成反応から精製された8μgのRNAを含んでいる試料を準備し、当該試料4μgを含んでいる分量に分ける。一方に“対照”(未処理)のラベルを付し、他方に“試験”(処理済)のラベルを付す。
(ステップ2)
以下の反応成分を記載の順に混合する。
(ステップ3)
37℃において30分間にわたってインキュベートする。
(ステップ4)
ドライアイスの上に置くことによって反応を停止させる。
(ステップ5)
必要に応じて、各チューブにおけるRNAを定量する。
例えば、Quant−iT RiboGreen RNA試薬/キット(Molecular Probes/Invitrogen)を用いて、メーカーの推薦にしたがって0−200ng(0−1000ng/ml)範囲にわたる標準曲線を作成する。個々に上述の反応物から5μlを分注し、10mMのTris−HCl(pH7.5)および1mMのEDTAを含んでいる195μlのTE緩衝液を分注したものに加える。この40μlをRiboGreenアッセイに使用する。40μlは、キャップ形成反応が100%の効率である場合の80ngのRNAに等しい。すべての反応は、最小限かつ2通りに実施されるべきである。
キャップ形成されているRNAの割合=実験反応におけるRNAの量/対照反応におけるRNAの量×100
正確さは、Quant− iT RiboGreen RNA試薬/キットを用いて+/−10%か、それよりも正確であった。
注:マグネシウム(Mg++)はRNA5’ポリホスファターゼ活性に対して抑制性である。前段の反応(例えば、転写と同時または転写後のキャップ形成反応)からMg++を含まないようにRNAを精製することに注意すべきである。
本明細書に述べられている刊行物および特許は、参照によって本明細書に援用される。記載されている方法および組成物の改良および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者にとって明らかである。本発明は、特定の好ましい実施形態に関して記載されているが、特許請求の範囲に記載の発明は、そのような特定の好ましい実施形態に不当に限定されるべきではないことについて理解される。実際には、本発明を実施するために記載されている態様の、関連分野の当業者にとって明らかな種々の変形は、以下の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図されている。