JP2011515680A - 糖尿病のためのバイオマーカーおよびアッセイ - Google Patents

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Abstract

本発明は、新規のバイオマーカーおよびその組合せを目的とする。本発明は、疾患、とりわけ糖尿病の検出およびモニタリングに関するアッセイおよびデータ評価法も提供する。とりわけ、本発明によるバイオメーカーとしては、Gc−グロブリンまたはGcG(ビタミンD結合タンパク質としても公知である)、β−2−ミクログロブリン(b2m)、シスタチンC(cysC)、アルブミンならびにHemAおよびBなど、名目上は野生型の修飾型タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法により企図される特定の形態の糖尿病としては、1型糖尿病(T1D)、2型糖尿病(T2DM)、前T1Dおよび前T2DMが挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、単一アッセイにおいて複数のバイオマーカーを検出し、糖尿病などの疾患の判定およびモニタリングにおいてこれらのデータを正確に使用できるデータ評価法を採用する方法も提供する。

Description

糖尿病(1型糖尿病と2型糖尿病との合計)は、ほぼ2400万人のアメリカ人を苦しめており、こうした個人のほぼ3分の1が、自分がこの疾患に罹患しているとは気づいていないと推定される。糖尿病は、控え目に見て、米国において6番目の主死因であると推定されており、少数民族集団において過度に(高率(%)で)生じることが見出されている。糖尿病の有病率は、1990〜2000年の10年間にわたりおよそ50%ずつ増加してきたが、この先40年の間に2倍になると推定され、多くの報告書から、国内では死亡率増加、生活の質の低下および健康管理費用の上昇に関わる流行病的な脅威であると考えられる。2007年においては、糖尿病管理の総費用は1740億ドルであり、その額の大部分は専ら医療費に費やされたものと推定される。糖尿病は、毎年12,000〜24,000件の失明の新規症例の原因であり、腎不全の主因であり、透析処置のみのために1年当たり75億ドルを超える費用のかかるおよそ150,000名の末期腎疾患患者を生じさせる原因である。さらに、糖尿病は、非外傷性の下肢切断の60%の原因でもあり(2002年においては、82,000件は糖尿病によるものであった)、これは、原価計算という恐ろしい見方をすれば、肢を切除するために国家が毎年およそ80億ドルを費やすのと同じことである。こうした深刻な結果(死亡または障害)に関わる糖尿病の影響は、早期の検出および治療により防止する(または、少なくとも遅らせる)ことができる。非薬物治療療法は、食事改善、減量および運動療法の形態の生活習慣介入が中心である。侵攻性の糖尿病の古典的な薬物治療は、スルホニル尿素またはメトホルミン、ならびに、短時間作用型および長時間作用型のインスリン製剤により行われる。より最近では、ジペプチジル・ペプチダーゼIV阻害薬(例えば、JanuviaおよびGalvus)と類型化されるような新薬が、血糖値制御において大きな有望性を示している。さらに、現在、350を超える開発中の薬物候補(例えば、GLP−1類似体、DPP−IV阻害薬およびSGLT2阻害薬)があり、このことから、糖尿病は、健康関連の研究開発の焦点という意味では唯一、癌に次ぐ第2の存在となっている。すべての治療の適時施用に重要なのは、初期段階における、好ましくは、容易に到達できる生体液中のバイオマーカーの高感度検出による診断である。同様に重要なのは(特に、開発中の多くの新薬を考慮すると)、当該治療の有効性をモニターするためのマーカーの使用である。
現在、糖尿病の検出においては、2つのバイオマーカー、すなわち、血中グルコースおよび糖化ヘモグロビン(HbA1c)が通常使用されている。この2つのマーカーは、本質的には、血流中のグルコースの上昇の直接的(グルコース)および間接的(HbA1C)なモニターである。各マーカーは、糖尿病を検出およびモニターするうえで有用である。グルコースは、血中グルコースの上昇の即時的な測定値であり、糖尿病の診断の補助および治療のモニタリングのいずれにおいても用いられる。HbA1Cは、血中グルコースの上昇をより長期に経験していることの測定値であり、その時間尺度は、ヘモグロビン(60〜90日)のin vivo半減期に一般に匹敵し、糖尿病の管理の進行をモニターするうえで典型的に用いられる。いずれのマーカーも単一の臨床検査室用プラットフォーム(例えば、Beckman Coulter SYNCHRON)を用いて測定できるが、それぞれが異なるアッセイ・シナリオを必要とする。グルコースは、分光光度的な読み取りを行う酵素アッセイ(ヘキソキナーゼ)を用いて典型的に測定され、一方、HbA1Cは、糖化ヘモグロビンの測定用の比濁免疫阻害法と組み合わせて、総ヘモグロビンの直接的な分光光度測定法を用いて測定される。加えて、いずれのマーカーについても、例えば、Therasense Freestyle(グルコース)およびBio−Rad in2it(HbA1c)など、いくつかのポイント・オブ・ケア装置が利用できるようになってきており、このことから、バイオマーカーおよびアッセイを、患者により身近なものに変えていく重要性が示される。
いずれのアッセイも、標的バイオマーカーにおける比較的小量の変化の正確な測定に依存している。空腹時血糖検査の間は、100mg/dL未満の血糖値が正常とみなされ、126mg/dLを超えるレベルは糖尿病と一致する、すなわち、およそ25%の濃度変化である。同様の増加は経口グルコース負荷試験(OGTT)でも見られるが、この場合、140mg/dL未満が正常とみなされ、200mg/dL超は糖尿病の指標である(およそ40%の変化)。絶対濃度を測定する代わりに、総ヘモグロビンに対する糖化ヘモグロビンを測定する。6%未満のHbA1C値は、正常な個体または治療を受けている糖尿病罹患者の標的値であり、これに対し、7%超の値は、管理不足の指標であり、治療の変更を正当化する可能性がある(すなわち、相対存在量のわずか16%の変化が重大とみなされる)。複雑な問題としては、これらの値(すなわち、空腹時グルコースが100〜125mg/dL、OGTT=140〜200mg/dL、HbA1c=6〜7%)にはグレー領域があり、これは「前糖尿病」状態に起因することが多い。
したがって、健康な状態を前糖尿病状態と区別する、または前糖尿病状態を糖尿病状態と区別するには、現在利用可能な単一のマーカーにより得ることができるものよりさらに正確な測定値が必要である。
したがって、適切なデータ評価法と共に用いれば糖尿病を正確に検出でき、同時に治療効果をモニターできる複数の新規のマーカーおよびアッセイを開発する必要がある。
本発明は、新規のバイオマーカーおよびその組合せを同定する。さらに、本発明は、糖尿病の検出およびモニタリングに関するアッセイおよびデータ評価法も提供する。とりわけ、本発明によるバイオマーカーとしては、名目上は野生型の修飾型タンパク質が挙げられるが、これに限定されない。遺伝子修飾体(GM、genetic modification)、翻訳後修飾体(PTM、posttranslational modification)および/または代謝改変体(MA、metabolic alteration)を非限定的に含む本発明により企図されるタンパク質修飾体は、当技術分野で周知の方法により実施できる。本発明の方法により企図される特定の形態の糖尿病としては、1型糖尿病(T1D)、2型糖尿病(T2DM)、前T1Dおよび前T2DMが挙げられるが、これらに限定されない。このバイオマーカー、アッセイおよびデータ評価法は、結果として似たように修飾された形態のタンパク質がもたらされる他の障害においても意味がある。決定的に重要なのは、野生型の形態のタンパク質が存在していてもGM型、PTM型およびMA型のタンパク質を明確に検出するアッセイの能力である。加えて重要なのは、単一アッセイにおいて複数のバイオマーカーを検出することができること、ならびに、糖尿病の判定およびモニタリングにおいてこれらのデータを正確に使用できるデータ評価法を採用できることである。
したがって、本発明の一態様は、Gc−グロブリンまたはGcG(ビタミンD結合タンパク質としても公知である)、β−2−ミクログロブリン(b2m)、シスタチンC(cysC)、アルブミンならびにHemAおよびBを非限定的に含む新規のバイオマーカーを目的とする。
本発明の別の態様は、GM型、PTM型およびMA型のヒト血漿および尿タンパク質を非限定的に含むバイオマーカーを検出および/またはアッセイすることによる、疾患または障害、好ましくは糖尿病の検出およびモニタリングの方法を目的とする。
さらに別の態様では、本発明は、複数のアッセイを用いて、糖尿病に関連するGM、PTMおよび/またはMAの組合せを定量することによる、疾患または障害、好ましくは糖尿病の検出およびモニタリングの方法を目的とする。
また別の態様では、本発明は、単一アッセイを用いて、糖尿病に関連するGM、PTMおよび/またはMAの組合せを同時に定量することによる、疾患または障害、好ましくは糖尿病の検出およびモニタリングの方法を目的とする。
本発明の特定の態様では、GM、PTMおよびMAは、同じ遺伝子産物上にすべて存在し、タンパク質ベースの単一分析においてすべて検出される。
さらなるまた別の態様では、本発明の方法による複数のマーカーから得られる複数のデータを、分類アルゴリズムを用いてさらに評価して、健康状態および糖尿病状態を確定させる。
さらなる態様では、本発明の方法によるバイオマーカーをin vivoでの存続期間と相関させて、糖尿病状態および前糖尿病状態に関連する長期的な記録を構築する。
別の特定の態様では、本発明の方法によるバイオマーカーをin vivoでの存続期間と相関させて、糖尿病の管理および治療に関連する長期的な記録を構築する。
本発明のこのような、またさらなる目的は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照すればより明らかとなろう。この目的のために、背景技術の項および詳細な説明にわたり多様な参考文献を引用するが、そのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
本特許のファイルには、彩色された少なくとも1つの図面が含まれる。(1つまたは複数の)カラー図面付きの本発明のコピーは、申請のうえ必要な料金を支払えば、特許商標庁により提供されるであろう。
4名の個体由来のGcGの分析の結果得られたデコンボリューション後のESI質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。このスペクトルは、試験中、調査した100名超の個体の分析の結果得られたデータの代表的なものである。示してあるのは、3つの主要な対立遺伝子産物(Gc−1F、Gc−1SおよびGc−2)、ならびに、低頻度の変異対立遺伝子(「変異体」)由来のシグナルである。これらの個体の各対立遺伝子産物(Gc−2を除く)に由来するΔm=+656Daでの天然グリコシル化も観察される。データは、集団に適用した場合のGcGの標的化「トップダウン」分析の結果得られる情報の程度を示すために載せてある。 健康者(左側のカラム、n=50個体)およびT2DM(右側のカラム、n=52個体)におけるGcGの対立遺伝子の出現頻度を示す図である。Gc−1s対立遺伝子は、T2DM対象においてはおよそ5倍高い出現率で観察される。 3名の個体(遺伝子型は全員Gc−1f/1f):健康者(赤)、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)由来のGcGの質量スペクトルのオーバーレイを示す図であり、T2DMに関しては糖化GcGが上昇していることが示されている。挿入図:健康者(赤、n=50)、T2DM(緑、n=37)およびid−T2DM(青、n=15)について総GcG(積分値)に正規化された糖化GcGの分布の箱ひげ図であり、点は、対象の平均値を表す。平均すると、糖尿病個体は、相対的な糖化において4〜5倍の増加を呈した。 3名の個体:健康者(赤)、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)由来のb2mの質量スペクトルのオーバーレイを示す図であり、T2DMに関しては糖化レベルが上昇していることが示されている。挿入図:健康者(赤、n=50)、T2DM(緑、n=37)およびid−T2DM(青、n=15)について総b2m(積分シグナル)に正規化された糖化b2mの分布の箱ひげ図である。平均すると、糖尿病個体は、糖化による相対シグナルにおいて2〜5倍の増加を呈した。 図3および4を得るために用いたのと同じ試料に由来するcysCの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。健康者(赤)と比較して、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)において糖化の上昇が示されている。挿入図:健康者(赤、n=50)、T2DM(緑、n=37)およびid−T2DM(青、n=15)について総cysC(積分シグナル)に正規化された糖化cysCの分布の箱ひげ図である。平均すると、糖尿病個体は、糖化による相対シグナルにおいて3〜4倍の増加を呈した。 2名の個体:健康者(赤)およびT2DM(緑)由来のC−ペプチドの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。des(GluAla)変異体の相対存在率は、健康個体(1.7%、分子量=2819)のものと比較して、T2DM個体(8.1%、分子量=2819)において有意に高いことが観察される。挿入図:試料中に存在するすべてのアイソフォームに対するdes(GluAla)C−ペプチドの量の比率(%)を表す箱ひげ図である。健康者の平均は4.8%であり、T2DMについては9.3%であった。 図5を得るために用いたのと同じ試料に由来するTTRの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。TTRスルホン化の上昇(天然型のTTRに対し)を、健康者(赤)との比較で、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)において示すものである。挿入図:健康者(赤、n=50)、T2DM(緑、n=37)およびid−T2DM(青、n=15)について、スルホン化TTR対天然TTRの比率の分布の箱ひげ図である。平均すると、糖尿病個体は、健康個体と比較して、スルホン酸化TTR対天然TTRの比率においておよそ10倍の増加を呈した。 102名分の試料中のb2m、cysCおよびGcGの相対的な糖化を示す図。50名分の健康者試料(赤)が、15名分のid−T2DM試料(青)および37名分の非ID−T2DM試料(緑)と空間分離されていることから、組み合わせて使用されるタンパク質糖化バイオマーカーは、健康患者をT2DM患者と区別するのに役立つ可能性があることが示唆される。GcG値は遺伝子型とは無関係であることに注意。 図9に示す102個のデータ点の主成分分析から得られる評点プロットを示す図であり、赤の点は健康者試料を示し、青の点はID−T2DM試料を示し、緑の点は非ID−T2DM試料を示す。主成分1および2(この図にプロットしてある)は、生データ・セット中で観察される分散の94%を説明し、SIMCAベースの分類のためのモデルを得るのに役立つ。 GcG遺伝子型、および、健康(赤)個体、T2DM(緑)個体およびid−T2DM(青)個体におけるGcGの単一分析の結果得られる各データ点を付したGcG糖化の概要を示す図。影付きの破線は、T2DMの指標としての、遺伝子型に依存する糖化についての予言的な参考レベルを表す(注意:健康対照群は1S/1S遺伝子型を呈さなかったので、値は示していない)。数字(1〜4)は、本文中に記載した個体についての値を示すものである。 複数のMAを用いた時間的モニタリング。3つのマーカーのそれぞれの相対的な糖化(I糖化/I全体×100)についての値を、in vivoでの半減期に対して(過去にさかのぼり)プロットしてある図である。破線で結んだ値は、健康(四角(訳注:逆三角形の誤りと思われる))対象、T2DM(逆三角形(訳注:四角の誤りと思われる))対象およびid−T2DM(丸)対象について得られた平均値である。個体1(×印)および2(スラッシュ)は、特に採血の数日前は比較的良好な維持を示している。個体3(逆スラッシュ)および4(丸)は、個体のそれぞれのカテゴリーの内外で変動することが観察され、このことから、より積極的または厳格な療法の必要性が示唆される。個体5(三角)は、数カ月にわたり比較的良好な維持を示す。 健康者およびT2DM患者(スラッシュ)から得られた(示したとおりの)Alb、ApoA1、ApoC1およびTTRの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。挿入図:酸化率(%)(すべての種の積分値に正規化された糖化イオン・シグナルの積分値として1タンパク質当たりで測定)を示す分布の箱ひげ図であり、健康者(n=50)およびT2DM(スラッシュ、n=52)。 健康者およびT2DM患者(スラッシュ)から得られた(示したとおりの)Alb、ApoA1、ApoC1およびTTRの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。挿入図:酸化率(%)(すべての種の積分値に正規化された糖化イオン・シグナルの積分値として1タンパク質当たりで測定)を示す分布の箱ひげ図であり、健康者(n=50)およびT2DM(スラッシュ、n=52)。 健康者およびT2DM患者(スラッシュ)から得られた(示したとおりの)Alb、ApoA1、ApoC1およびTTRの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。挿入図:酸化率(%)(すべての種の積分値に正規化された糖化イオン・シグナルの積分値として1タンパク質当たりで測定)を示す分布の箱ひげ図であり、健康者(n=50)およびT2DM(スラッシュ、n=52)。 健康者およびT2DM患者(スラッシュ)から得られた(示したとおりの)Alb、ApoA1、ApoC1およびTTRの質量スペクトルのオーバーレイを示す図である。挿入図:酸化率(%)(すべての種の積分値に正規化された糖化イオン・シグナルの積分値として1タンパク質当たりで測定)を示す分布の箱ひげ図であり、健康者(n=50)およびT2DM(スラッシュ、n=52)。 健康者およびT2DM(スラッシュ)由来のC−ペプチドのMSIAスペクトルを示す図である。 健康個体およびT2DM(スラッシュ)個体由来のインスリンの陽イオンMSIAスペクトルを示す図である。 表1に掲載のマーカーのうち8つ(訳注:9つの誤りと思われる)についての受信者動作特性(ROC)曲線を示す図であり、内訳は、S−スルホン化TTR(S−スルホン化TTR(訳注:スラッシュの誤りと思われる))、酸化APO C1(逆スラッシュ)、糖化GcG(三角)、酸化アルブミン(逆三角)、糖化アルブミン(四角)、糖化CysC(×印)、糖化ヘモグロビン(丸)、糖化B2m(正弦波線)および酸化ApoAi(尖った波線)である。 糖化のPC1(4つのタンパク質の特質的な糖化値を用いたPCAから)および酸化のPC1(3つのタンパク質において観察された特質的な酸化のPCAから得られる)から得られた糖化対酸化のプロットを示す図である。T2DM個体は、×を用いて示す。
本発明の一実施形態は、Gc−グロブリンまたはGcG(ビタミンD結合タンパク質としても公知である)、β−2−ミクログロブリン(b2m)、シスタチンC(cysC)、アルブミンならびにHemAおよびBを非限定的に含む新規のバイオマーカーを目的とする。
「バイオマーカー」とは、生物学的状態の指標として用いられる物質を意味する。本出願中で使用する場合、バイオマーカーは、正常な生物学的過程、病因となる過程、または治療的介入への薬理学的応答の指標として客観的に測定および評価できる特徴である。本発明により企図されるとりわけ好ましいバイオマーカーは、その検出が特定の疾患または障害の状態を示す物質であり、そのような疾患または障害としては、糖尿病、心血管疾患、冠動脈疾患および末梢動脈疾患、慢性の閉塞性肺疾患、脳卒中、癌、アルツハイマー病、ニューロパチー、網膜症および栄養欠乏症が挙げられるがこれらに限定されず、単独であっても、または糖尿病と関連のある併存疾患としてのものであってもいずれでもよい。さらに、本発明は、疾患のリスクもしくは進行と、または、受ける治療に対する疾患の感受性と相関するタンパク質の発現または状態の変化を示すバイオマーカーを企図する。
本発明によれば、バイオマーカーは、遺伝的に修飾(GM)されていても、翻訳後修飾(PTM)されていても、または代謝的に改変(MA)されていてもよい。企図されるバイオマーカーは、一般的な生物学的環境(例えば、血漿、血清、尿、唾液、涙、汗または組織抽出物)から検出される遺伝子産物中で見出される。遺伝子修飾体としては、ヌクレオチド多型、点突然変異体、ハプロタイプ、対立遺伝子変異体およびスプライス変異体を挙げることができるが、これらに限定されない。翻訳後修飾体としては、一般的または特定の生理に関連する遺伝子産物の酵素的および非酵素的な修飾体が挙げられるが、これらに限定されない。代謝改変体としては、疾患の病態生理に関連する遺伝子産物の酵素的および非酵素的修飾体が挙げられるが、これらに限定されない。
さらに、本発明は、疾患または障害の検出およびモニタリングにおいて使用するためのデータ評価のアッセイおよび/または方法も企図しており、そのような疾患または障害としては、糖尿病、心血管疾患、冠動脈疾患および末梢動脈疾患、慢性の閉塞性肺疾患、脳卒中、癌、アルツハイマー病、ニューロパチー、網膜症および栄養欠乏症が挙げられるがこれらに限定されず、単独であっても、または糖尿病と関連のある併存疾患としてのものであってもいずれでもよい。好ましくは、本発明は、糖尿病の検出およびモニタリングに使用するためのデータ評価のアッセイおよび/または方法を目的とする。
したがって、本発明の別の実施形態は、GM型、PTM型およびMA型のヒト血漿および尿タンパク質を非限定的に含むバイオマーカーを検出および/またはアッセイすることによる、疾患または障害の検出およびモニタリングの方法を目的とする。本発明により検出および/またはモニターされることになる疾患または障害としては、糖尿病、心血管疾患、冠動脈疾患および末梢動脈疾患、慢性の閉塞性肺疾患、脳卒中、癌、アルツハイマー病、ニューロパチー、網膜症および栄養欠乏症が挙げられるがこれらに限定されず、単独であっても、または糖尿病と関連のある併存疾患としてのものであってもいずれでもよい。好ましくは、本発明は、GM型、PTM型およびMA型のヒト血漿および尿バイオマーカー・タンパク質を検出および/またはアッセイすることによる糖尿病の検出およびモニタリングの方法を目的とする。
本発明によるアッセイは、従来の形態、または従来にない形態の遺伝子産物分析を両方とも含むことができ、このような分析としては、免疫測定(例えば、酵素免疫吸着測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA))、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、キャピラリー電気泳動法(CE)、二次元ゲル電気泳動(2D−GE)、表面プラズモン共鳴(SPR)および質量分析(MS)またはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明によるデータ評価の方法としては、線形回帰、遺伝子型および表現型の値の加重および非加重による評価、主成分分析(PCA)、SIMCA法(soft independent modeling of class analogies)、ならびに遺伝子型および表現型の値対疾患状態対時間(またはタンパク質の半減期)などの時間依存性評価法が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明による糖尿病の検出および診断としては、リスク因子および発症マーカーの定量ならびにその組合せが挙げられるが、これらに限定されない。本発明により企図される検出および診断には、健康状態、前糖尿病状態および糖尿病状態の間を正確に区別し、同時に、健康状態、前糖尿病状態または糖尿病状態を他の疾患と区別するための複数のマーカーの組合せ使用も含まれる。
本発明による「モニターすること」とは、糖尿病の状態または進行、ならびに、治療に対する応答を確認するための1つまたは複数のマーカーの使用を包含する。
さらに別の実施形態では、本発明は、糖尿病に関連するGM、PTMおよび/またはMAの組合せを定量するために複数のアッセイを用いることによる、疾患または障害、好ましくは糖尿病の検出およびモニタリングの方法を目的とする。
また別の実施形態では、本発明は、糖尿病に関連するGM、PTMおよび/またはMAの組合せを同時に定量するための単一アッセイを用いることによる、疾患または障害、好ましくは糖尿病の検出およびモニタリングの方法を目的とする。
本発明の特定の実施形態では、GM、PTMおよびMAは、同じ遺伝子産物上にすべて存在し、タンパク質ベースの単一分析においてすべて検出される。
さらにまた別の実施形態では、本発明の方法による複数のマーカーから得られた複数のデータを、分類アルゴリズムを用いてさらに評価して、健康状態および糖尿病状態を確定させる。
さらなる実施形態では、本発明の方法によるバイオマーカーをin vivoでの存続期間と相関させて、糖尿病状態および前糖尿病状態に関連する長期的な記録を構築する。
本発明によれば、以下の方法によりT2DMを検出およびモニターする。この方法には、結果として対象の体液中の特定のタンパク質を検出する以下のステップが含まれる。血漿、血清、尿、唾液、涙、汗または組織抽出物は、すべて、適当な体液の例である。まず、対象から体液試料を採取する。一実施形態では、採取する体液試料は血液である。採取後、エレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)を用いた質量分析免疫測定法(MSIA)を実施するために、体液を調製する。ESI−MSを用いたMSIAによる特定の調製およびテストについては、下記の実施例2でさらに詳しく説明する。
別の実施形態では、採取後、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化による飛行時間型質量分析法(MALDI−TOFMS)を用いたMSIAを実施するために体液を調製する。MALDI−TOFMSを用いたMSIAによる特定の調製およびテストについては、下記の実施例2でさらに詳しく説明する。
特定の質量分析計により得られる結果をいくつかの糖化マーカー(GcG、b2m、cysC、AlbならびにHemAおよびBなど)用に収集した。さらに、特定の質量分析計により得られる結果をいくつかの酸化ストレス・マーカー、(アルブミン(Alb)、アポリポタンパク質A1(ApoA1)、アポリポタンパク質C1(ApoC1)およびトランスチレチン(TTR)など)用に収集した。さらに、特定の質量分析計により得られる結果を2つの酵素シグナル・マーカー(C−ペプチド(C−pep)およびインスリンなど)用に収集した。
T2DM対象における糖化マーカーは、健康対象の標的タンパク質に対するMS結果における正の質量変化として出現する。これについては、下記の実施例4でさらに説明する。具体的には、糖化の比率の上昇をb2m、cysC、GcG、AlbならびにヘモグロビンA鎖およびB鎖((HemAおよびB)、その成分はHbA1Cである)において観察した。
T2DM対象における酸化ストレス・マーカーは、健康対象の標的タンパク質に対するMS結果における正の質量変化として出現する。これについては、下記の実施例8でさらに説明する。具体的には、特質的な酸化は、選抜された高密度リポタンパク質成分であるApoA1、ApoC1だけでなくTTRおよびAlbにおいても観察された。
T2DM対象における酵素マーカー、具体的にはC−ペプチドおよびインスリンは、一定のタンパク質が切断された負の質量変化の形で出現する。これについては、下記の実施例7でさらに説明する。具体的には、C−pepおよびインスリンの切断型変異体は、T2DM対象におけるほうが、高頻度でより多量に観察された。
受信者動作特性法(ROC)を用いた最初の一変量評価、ならびに、主成分分析(PCA)およびSIMCA法(soft independent modeling of class analogies)を用いた全データの多変量評価の結果、健康対象とT2DMを有する対象との間が良好に分離された。このデータは、特定の対象における健康対T2DMの軌跡をモニターするために使用できる。さらに、このデータは、過去数日にわたる対象の糖化レベルを後ろ向き分析するために使用できる。
以下の非限定的な実施例により本発明をさらに例証する。
疾患対象:健康者、2型糖尿病(T2DM)およびインスリン依存性2型糖尿病(id T2DM)
以下に示すのは、健康個体(病気を有さないと思われる、n=50)、T2DM個体(T2DMと診断され食事、運動および非インスリン薬により治療、n=37)およびid−T2DM個体(インスリン依存性、T2DMと診断され、インスリン投与により治療、n=15)から成る対象の集団スクリーニングにより得られる遺伝子、翻訳後および代謝改変体の例である。8時間の絶食後、これらの個体からEDTA血漿試料を採取(インフォームド・コンセントおよびIRB認可の下で)し、以下に記載の方法を用いて分析するまで−70℃で保管した。各糖尿病個体について、性別、人種、BMI、病歴および現行の治療の記録も入手した。
集団プロテオミクスおよびT2DM
表1は、15種の血液由来マーカー(タンパク質およびタンパク質変異体)の例示的な一覧を示すものであり、それぞれが、対象を、健康者とT2DMとの間で区別できる。このマーカーのすべてが、T2DMの診断または治療において影響を及ぼすことが公知の生理学的経路と関連のあるPTM型の相対的な調節によるものであることに注意することが重要である。
Figure 2011515680
ヘモグロビンMSIAは、HbA1Cと同時に、ヘモグロビンB鎖の第2のPTM(+120Daで)およびA鎖の糖化(+162Da)を検出する。特質的な酸化を、すべての修飾型(例えば、+119Daでのシステイン化)に対する天然型の枯渇としてモニターする。このアッセイを用いて、特質的な糖化も(同時に)モニターする。特質的な酸化は、cys10で生じるスルホン化の増加(+80Da)である。酸化は、メチオニン(+16〜+48Da)で生じる。比率(%)は総酸化能力を反映する。ApoC1は、完全なものと、N末端のThrProで切断されているものとの2つの形態を有する。C−pepは、N末端のGluAlaで切断されており、C−ペプチド(3−31)と呼ばれる。インスリンは、C末端のThr(b鎖)で切断される。このアッセイは、質量が変化しているインスリン製剤、例えば、LantusおよびNovologも容易に検出する。
表1の「観察」カラム中では、記載されている比率(%)は、各タンパク質についての特定の種の測定値である。β−2ミクログロブリンは、相対的な糖化の1形態を測定する。シスタチンCは、相対的な糖化の1形態を測定する。GcGは、相対的な糖化の1形態、および、T2DMと相関のあった、遺伝子型データの3つのハプロタイプを測定する。アルブミンは、相対的な糖化の2形態および酸化の1形態(システイン化)を測定する。ヘモグロビンAおよびBは、ヘモグロビンAの相対的な糖化の1形態、および、ヘモグロビンB鎖の2形態を測定する。TTRは、相対的な酸化の2形態、すなわちシステイン化およびスルホン化を測定する。ApoA1は、相対的な酸化の3形態を測定する。ApoC1は、相対的な酸化の2形態を測定する。C−ペプチドは、相対的な切断体の2形態、すなわちdes(E)およびdes(EA)を測定する。インスリンは、内因性インスリンの相対的な切断体の1形態、b鎖des(30)、および、投与された形態のNovologおよびLantusならびにそれらの切断型の相対的な寄与を測定する。
この調査は、50名の健康個体(すなわち、病気を有さないと思われる個体)および52名のT2DM患者(T2DMと診断され食事、運動および非インスリン薬により治療された37名の個体と、T2DMと診断され、インスリン投与により治療された15名のインスリン依存性個体とから成る)から成る対象を用いて実施した。8時間の絶食後、これらの個体からEDTA血漿試料を採取し、以下に記載の方法を用いて分析するまで−70℃で保管した。各糖尿病個体について、性別、人種、BMI、病歴および現在の治療の記録も入手した。
以下の要領でエレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)を用いてMSIAを実施した。ヒト血漿試料(125μL)は、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)中で2倍に希釈し、96ウェルの滴定プレート中に載せた。最適なタンパク質に対するウサギ抗ヒト・ポリクローナルIgGを用いて調製した抽出ピペットの先端を取り付けたロボット・システムを用いて、タンパク質(および変異体)を抽出した。抽出後、HBS、水、2M酢酸アンモニウム/アセトニトリル(3:1 v/v)、次いで再度水を用いてすすぐことにより、非特異的に結合したタンパク質を除去した。次に、5μLのギ酸/アセトニトリル/水(9/5/1 v/v/v)を先端(固体支持体を覆う)中に吸引することにより、保持されたタンパク質を溶出させ、短時間(およそ30秒)の後、溶出されたタンパク質を清潔な滴定プレートのウェル中に排出させた。次に、ESI−MSに備えて溶出剤を水で2倍に希釈した。典型的には、LC/ESI−MSの1日の処理量に合うように、24個の試料を並行して加工した(96個すべてではなく)。Eksigent nanoLC1D低流量HPLCと連動して作動するBruker microTOFqを用いて質量分析を実施した。この分析には、伝統的なLCではなく、捕捉・溶出型の試料濃度/溶媒交換を使用した。マイクロリットル・ピックアップ・モードで試料5マイクロリットルを、Spark Holland Enduranceオートサンプラーにより注入し、6ポートの迂回弁上に一方向で流れるように構成されたタンパク質キャップトラップ(Michrom Bioresources、Auburn、CA)上に、Eksigent nanoLC1Dにより10μL/分(0.1%ギ酸を含有する90/10 水/アセトニトリル、溶媒A)で載せた。2分後、迂回弁の位置が自動的に切り替えられ、キャップトラップ・カートリッジを越える流れを1μL/分の溶媒A(ESIの入り口に直接流れる)に変え、これを、0.1%ギ酸を含有する10/90 水/アセトニトリルに8分にわたり即時に傾斜させた。10.2分までに運転を完了させ、流れを100%溶媒Aに戻した。すべてのイオンを質量分析計の4段階に通し(事前選択なし)、500〜3000m/zの範囲において飛行時間イオンをモニターする(5kHzでサンプリング)ことにより、TOF単独モードでデータを入手した。およそ1.5分のスペクトル記録を、タンパク質溶出のクロマトグラフィーのピーク頂点を挟んで平均した。デコンボリューションされたピークがあれば、そのいずれかの側について、Bruker Daltonics’ DataAnalysis v3.4ソフトウェアを用いてESI帯電状態のエンベロープを1000Daの質量範囲にデコンボリューションした。デコンボリューション後のスペクトルからベースラインを減算し、すべてのピークを積分した。
マトリックス支援レーザー/脱離イオン化による飛行時間質量分析法(MALDI−TOFMS)を用いてMSIAを実施した。手短に言えば、所望のタンパク質に対するウサギ抗ヒト・ポリクローナルIgGを用いて誘導体化した抽出ピペットの先端を取り付けたロボット・システムを用いて、タンパク質および変異体を血漿から抽出した。抽出後、HBS、水、2M酢酸アンモニウム/アセトニトリル(3:1 v/v)、次いで再度水を用いてすすぐことにより、非特異的に結合したタンパク質を除去した。次に、5μLのマトリックス溶液(2:1 v/v、HO:ACN、シナピン酸で飽和、TFAを0.4%加えたもの)を先端(固体支持体を覆う)中に吸引し、96ウェルのフォーマット済みMALDI−TOF−MS標的の表面上にマトリックス/タンパク質混合物を堆積させることにより、保持されたタンパク質を溶出させた。遅延抽出線形モードおよびレーザー(Nd:YAG)繰返し率200Hzで作動するBruker Autoflex IIIを用いて質量分析を実施した。試料調製物内の異なる部位から取得した25×100レーザーショット・スペクトル[それぞれがS/N>10、分解能(FWHM)>1,000の基準を満たす]を合計することにより、スペクトル(2,500レーザーショット)を得た。ベースライン減算に次いで、所望の各シグナルのシグナル積分(ベースラインに)によりスペクトルを加工した。変異体形態のタンパク質の積分値を、観察される全形態のタンパク質の積分値に正規化することにより、各個体について変異体の相対値(イオン・シグナル)を定量した。
Gc−グロブリン(akaビタミンD結合タンパク質):遺伝子修飾体および翻訳後修飾体
Gc−グロブリンまたはGcG(ビタミンD結合タンパク質としても公知である)は、名目分子量がおよそ51kDa、血漿中の推定濃度が200〜600mg/Lの血漿タンパク質である。GcGは、3つの高頻度の対立遺伝子変異体(Gc−1F、Gc−1SおよびGc−2)、ならびに、他の低頻度の変異体として、ヒト集団において存在することが公知である。GcGの主な生物学的役割としては、ビタミンD代謝産物輸送、脂肪酸輸送、アクチン隔離およびマクロファージ活性化が挙げられる。したがって、このタンパク質の修飾体は、広範囲に及ぶ結果の生物学的事象を構成できる。
調査過程にわたり、免疫親和性抽出に次いでエレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)を用いて、血漿から、GcGの遺伝子型および表現型の変異体を分析した。ヒト血漿試料(125μL)は、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)中で2倍に希釈し、96ウェルの滴定プレート中に載せた。ウサギ抗ヒトGcGポリクローナルIgGを用いて調製した抽出ピペットの先端を取り付けたロボット・システムを用いて、GcG(および変異体)を抽出した。抽出後、HBS、水、2M酢酸アンモニウム/アセトニトリル(3:1 v/v)、次いで再度水を用いてすすぐことにより、非特異的に結合したタンパク質を除去した。次に、5μLのギ酸/アセトニトリル/水(9/5/1 v/v/v)を先端(固体支持体を覆う)中に吸引することにより、保持されたタンパク質を溶出させ、短時間(およそ30秒)の後、溶出されたタンパク質を清潔な滴定プレートのウェル中に排出させた。次に、ESI−MSに備えて、溶出剤を水で2倍に希釈した。典型的には、ESI−MSの1日の処理量に合うように、24個の試料を並行して加工した(96個すべてではなく)。Eksigent nanoLC1D低流量HPLCと連動して作動するBruker microTOFqを用いて質量分析を実施した。この分析には、伝統的なLCではなく、捕捉・溶出型の試料濃度/溶媒交換を使用した。マイクロリットル・ピックアップ・モードで試料5マイクロリットルを、Spark Holland Enduranceオートサンプラーにより注入し、6ポートの迂回弁上に一方向で流れるように構成されたタンパク質キャップトラップ(Michrom Bioresources、Auburn、CA)上に、Eksigent nanoLC1Dにより10μL/分(0.1%ギ酸を含有する90/10 水/アセトニトリル、溶媒A)で載せた。2分後、迂回弁の位置が自動的に切り替えられ、キャップトラップ・カートリッジを越える流れを1μL/分の溶媒A(ESIの入り口に直接流れる)に変え、これを、0.1%ギ酸を含有する10/90 水/アセトニトリルに8分にわたり即時に傾斜させた。10.2分までに運転を完了させ、流れを100%溶媒Aに戻した。すべてのイオンを質量分析計の4段階に通し(事前選択なし)、500〜3000m/zの範囲において飛行時間イオンをモニターする(5kHzでサンプリング)ことにより、TOF単独モードでデータを入手した。およそ1.5分のスペクトル記録を、GcG溶出のクロマトグラフィーのピーク頂点を挟んで平均した。デコンボリューションされたピークがあれば、そのいずれかの側について、Bruker Daltonics’ DataAnalysis v3.4ソフトウェアを用いてESI帯電状態のエンベロープを1000Daの質量範囲にデコンボリューションした。デコンボリューション後のスペクトルからベースラインを減算し、すべてのピークを積分した。相対ピーク量をさらに計算および定量するために、表にした質量スペクトルのピーク面積をスプレッドシートにエクスポートした。
図1は、4名の個体由来のGcGの分析の結果得られたデコンボリューション後のESI質量スペクトルのオーバーレイを示すものであり、このスペクトルは、単一アッセイの結果得られる情報の程度を示すために載せてある。シグナルは、試験過程の間共通して観察された3つのホモ接合遺伝子型について観察される。示してあるのは、Gc−1F(分子量計算=51188.2)、Gc−1S(分子量計算=51202.2)およびGc−2(分子量計算=51215.3Da)である。定量された質量(この様式で分析されたすべての試料について)は、2Daの計算値以内であった。試験中に高頻度で観察された3つの他の遺伝子型は、この3つの遺伝子型、すなわち、Gc−1F/1S、Gc−1F/2およびGc−1S/2のヘテロ接合の組合せであった。時には、他の遺伝子型の変異体が試験を通して観察された(変異体により示された)が、調査中の集団内では低頻度であった。翻訳後修飾体、すなわちO連結グリコシル化[(NeuAc)(Gal)1(GalNAc)三糖]も示される。注目すべきは、Gc−1FおよびGc−1S遺伝子型に対しては一貫した質量変化(dm=+656Da)でグリコシル化シグナルが観察されたが、Gc−2遺伝子型に対しては観察されなかったことである。この観察は、好ましい部位のO連結グリコシル化(Thr420がLys420に変化)が欠けているGcG−2遺伝子型に由来するタンパク質と一致する。全対象(n=102個体)の遺伝子型同定データのみを評価すると、T2DM対象においては、Gc−1S対立遺伝子(遺伝子型Gc−1S/1S、Gc−1F/1SおよびGc−1S/2)が主に見出された。図2において示されるように、対立遺伝子出現頻度は、健康対象と比較してT2DM対象においておよそ500%増加した[カイ二乗検定:(2つの試料ドナー型×3つの主要なGcG対立遺伝子、α=0.01、自由度2、Χ=49.6、p<0.0001、Cramer’s V=0.474)]。
この実施例により、遺伝子修飾体(GM)および翻訳後修飾体(PTM)は両方とも、単一の遺伝子に由来する産物中に存在し、そのような修飾体は、単一分析を用いて(すなわち、単一の分析様式において)同時に定量できることが実証される。
Gc−グロブリン(akaビタミンD結合タンパク質):代謝改変体
タンパク質ベースの分析が特に有利な点は、核酸ベースのアッセイによっては得ることのできない追加的なデータをマッピングできることである。図1に示すように、標的化ESI−MSアッセイを用いて、翻訳後修飾体に関してGcGをさらに特徴付けることが可能である。注目すべきことに、天然グリコシル化など、多様なタンパク質表現型(翻訳後修飾体)は、個体に依存する特質的な相対強度(修飾体の相対量を反映する)で観察された。この同じ方法論は、T2DM、すなわち、GcGの糖化変異体の病態生理に関連する翻訳後修飾体および代謝改変体についてスクリーニングするために用いることができる。図3は、3名の個体(遺伝子型はすべてGc−1f/1f):健康者(赤)、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)由来のGcGのスペクトルのオーバーレイを示すものである。T2DMを有する個体に由来するスペクトルにおいて観察されるのは、天然GcGのものより質量の大きい162Daでのシグナルのレベルの増加である。分子量のこうした変化は、1−デオキシフルクトシル付加体の(非酵素的)付加の結果もたらされると考えられるものに相当し、このことは、T2DMに伴う血糖値上昇と一致する。群として見た場合、T2DM対象における糖化GcGの平均レベル(積分されたイオン・シグナル)は、健康個体において見出されるレベルより4〜5倍高い(図3の挿入図を参照)。
この実施例により、遺伝子修飾体(GM)および代謝改変体(MA)は両方とも、単一の遺伝子に由来する産物中に存在し、それらは単一分析を用いて(すなわち、単一の分析様式で)同時に分析できることが実証される。
β−2−ミクログロブリンおよびシスタチンC:代謝改変体
連続した集団ベースのスクリーニングにおいては、2つの他の血漿タンパク質の糖化変異体、すなわちβ−2−ミクログロブリン(b2m)(クラスIの主要組織適合複合体の軽鎖、血漿中におよそ1mg/Lで通常存在する)およびシスタチンC(cysC)(システイン・プロテアーゼ阻害物質、血漿中におよそ0.1mg/Lで通常存在する)が、T2DM対象において上昇したレベルで見出された。ウサギ抗ヒトb2mおよびcysCポリクローナルIgGを用いて誘導体化された抽出ピペットの先端を用いるGcGアッセイにおいて使用される同じ試料調製物からb2mおよびcysCを同時に抽出することにより、アッセイを実施した。抽出後、HBS、水、2M酢酸アンモニウム/アセトニトリル(3:1 v/v)に次いで再度水を用いてすすぐことにより、非特異的に結合したタンパク質を除去した。次に、5μLのマトリックス溶液(2:1 v/v、HO:ACN、シナピン酸で飽和、TFAを0.4%加えたもの)を先端(固体支持体を覆う)中に吸引することにより、保持されたタンパク質を溶出させ、マトリックス/タンパク質混合物を96ウェルのフォーマット済みMALDI−TOF−MS標的の表面上に堆積させた。遅延抽出線形モードおよびレーザー(Nd:YAG)繰返し率200Hzで作動するBruker Autoflex IIIを用いて質量分析を実施した。試料調製物内の異なる部位から取得した25×100レーザーショット・スペクトル[それぞれがS/N>10、分解能(FWHM)>1,000の基準を満たす]を合計することにより、スペクトル(2,500レーザーショット)を得た。ベースライン減算に次いで、所望の各シグナルのシグナル積分(ベースラインに)によりスペクトルを加工した。糖化形態のタンパク質(b2mまたはcysCのいずれか)の積分値を、観察される全形態のタンパク質の積分値に正規化することにより、各個体について、相対的な糖化値(イオン・シグナル)を定量した。
図4は、3名の個体:健康者(赤)、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)のb2mのMSIAの結果得られたスペクトルのオーバーレイを示すものである。すべてのスペクトルに共通するのは、野生型b2m(m/z=11,730Da)、およびマトリックス付加体(シナピン酸、m/z=11,936Daおよび11,954Daで)によるシグナルである。GcG分析と同様、T2DMを有する個体に由来するスペクトルにおいては、糖化レベルの増加(b2mより分子量が大きい162Daのシグナルにより示される)が観察される。群として見た場合、T2DM対象における糖化b2mのレベル(相対的なイオン・シグナル)は、健康個体において見出されるレベルより2〜5倍高かった(図4の挿入図)。
cysCスクリーニングにわたっても、同様の結果が得られた。図5は、GcGおよびb2mの分析において用いた同じ試料から得られたcysCおよび変異体のスペクトルのオーバーレイを示すものである。すべてのプロファイルに共通するのは、cysCの4つの形態のシグナル、すなわち、N末端desSSP(m/z=13,073)、N末端desS(それぞれ、m/z=13257(ヒドロキシプロリンなし)または13273(ヒドロキシプロリンあり))、天然cysC(m/z=13,344)およびヒドロキシプロリンcysC(m/z=13360)、ならびに野生型およびヒドロキシプロリンcysCのマトリックス付加体(m/z=13550〜13584)である。加えて、糖尿病個体においては、糖化cysC(m/z=13509および13525)についてのシグナルが観察される。GcGおよびb2mと同様、3つの対象について定量された平均値は、T2DM対象由来の糖化シグナルにおいておよそ3〜4倍の相対的な増加を示す(図5の挿入図)。
この実施例により、複数の遺伝子に由来する複数の形態の産物(疾患に関連する代謝改変体(MA)を含む)を同時に定量するために単一分析を用いることができることが実証される。この実施例により、MA関連の1つを超える疾患を同時に分析することができる多重化アッセイも実証される。
C−ペプチド:翻訳後修飾体
この試験では、実施例1の血漿を、実施例2〜4において使用したものと同様の方法論を用いて、C−ペプチドについて質的および半定量的に分析した。図6は、健康個体およびT2DMに罹患している個体について得たスペクトルを示すものである。最も興味深いのは、これまでに報告されていないC−ペプチドの変異体(des(Glu−Ala)アイソフォームと同定される)が、健康集団と比較して上昇したレベルでT2DM集団において存在し、そのことから、T2DMにとっての新しい候補バイオマーカー(PTMの形態での)が確立されたことである(挿入図)。いかなる特定の機序によっても限定されることを意図するものではないが、ジペプチジル・ペプチダーゼIV(DPP−IV、CD26、EC3.4.14.5)はこの特定の切断産物に関与していると考えられ、このことは、T2DMの病態生理の進行中の研究と一致する。この多機能の膜貫通型セリン・プロテアーゼは、ペプチド・ホルモンのアミノ末端からXaa−ProまたはXaa−Alaを切断する酵素の特異性により、この試験において広く見られるGlu−Alaの切断されたバージョンのC−ペプチドに関与している可能性がある。これを考慮に入れると、健康個体に対しT2DM個体においては相対的なdes(Glu−Ala)C−ペプチドが実質的に増加していることから、この特異的な翻訳後修飾型のC−ペプチドはT2DMの臨床診断において有効なバイオマーカーであり、DPP−IVの生物活性を示すことが確認される。
この実施例により、疾患に関連する酵素活性を有する直接的なマーカーとしてのPTM型およびMA型のタンパク質または遺伝子産物の使用が実証される。
酵素的シグナリング
糖化および酸化ストレスは、両方とも、標的タンパク質に対する正の質量変化として出現する。本発明によれば、一定のタンパク質における負の質量変化(すなわち切断)は、T2DMと相関する。手短に言えば、本明細書中に記載の試験において使用するために、C−ペプチド(C−pep)およびインスリン(Ins)についての(リフレクトロン)MALDI−TOFMS MSIAアッセイを開発した。集団における最初のスクリーニング時に、切断型変異体のC−pep、インスリンおよびインスリン類似体を同定し、T2DM対象と相関することを観察した。図13は、この試験において調査された個体について得られたものを質的に表す陰イオンMSIAスペクトルを示すものである。このスペクトルにおいて観察されるのは、モノアイソトピックm/z=3017.50Daの完全なC−ペプチド、ならびに、m/z=2888.49Daおよび2817.45Daで記録される2つの他のシグナルである。10ppmの質量精度で、MALDI−TOF/TOFMSを用いた部分配列決定も行い、これらのシグナルをそれぞれC−ペプチド、C−pep(2−31)およびC−pep(3−31)と同定した。この3つのシグナルは、健康対象およびT2DM対象の両方を通じ全般的に観察された。ヘテロ接合点突然変異C−pep Ala18Gluが、対象(健康な女性)において一度観察された。それぞれ質的に異なる種のイオン・シグナルを全種からの総シグナルに正規化することにより、各個体由来のスペクトルのデータを、相対定量分析に供した。次に、個体由来のデータをそのそれぞれの対象に群化することにより、T2DMの存在に関して各種についての相対的なイオン・シグナルを評価した。C−pep(2−31)は、健康対象とT2DM対象との間でほとんど差を示さなかった。しかし、C−pep(3−31)の相対的な寄与は、その2つの対象間で相当異なることが見出された。図13の挿入図は、C−pep(3−31)の相対的なイオン・シグナルについて、その2つの対象間での発生頻度を比較するヒストグラムを示すものである。T2DM対象については平均およそ9.0%(対象における全個体の平均)の広い分布が観察されたが、これに対し、健康対象については平均およそ4.8%の狭い分布が観察された。健康者およびT2DM(スラッシュ)由来のC−ペプチドのMSIAスペクトル。図13においては、両方の対象において2つのN末端切断型変異体、すなわちC−pep(2−31)およびC−pep(3−31)が一貫して観察されたことがわかる。T2DM対象においては、より高頻度、より高い相対存在量でC−pep(3−31)が観察された(図13の挿入図を参照)。
対象に対し、インスリンMSIAも実施した。図14に示すのは、健康者およびインスリン依存性T2DM患者(スラッシュ)から得た2つの例示的なスペクトルである。完全な内因性インスリンが両個体において、m/z平均=5,808.4Daで現れることが観察される。加えて、T2DM個体における別々のシグナルとして、インスリン相同体であるLantus(インスリン・グラルギン、分子量=6,063.7)およびNovolog(インスリン・アスパルト、分子量=5831.6)が観察される(個体の病歴により)。公知の生理学的処理によれば、Lantusは、2つのC末端のアルギニン残基、次いで次のThr残基(b鎖のC末端から)を取り除くことにより最初に分解することが観察される。Novolog配列とアラインする注目すべき分解産物は観察されなかったが、b鎖C末端の残基(Des(B30)HI)の切断体として、内因性インスリン変異体が同定された(対象にわたり)。C−pep(3−31)と同様、この切断型変異体は、T2DM対象においてより高い相対的な寄与および頻度で存在した(図14の挿入図)。
トランスチレチン(a.k.a.プレアルブミンまたはTTR):翻訳後修飾体
健康対象、T2DM対象およびid−T2DM対象における完全なTTRの標的化分析を、b2mおよびcysCについて前述したものと似た様式で実施した。図7は、健康者、T2DM患者およびid−T2DM患者に由来する、いくつかの特質的修飾型のTTR、主に、天然TTR(m/z13762)、スルホン化TTR(m/z13842)、システイン化TTR(m/z13881)およびシステイニルグリシルTTR(m/z13938)の質量スペクトルを示すものである。挿入図に示すように、所見から、糖尿病患者由来の血漿試料中では、スルホン化TTR対天然TTRの比率が劇的に増加していることが明らかになった。このことから、スルホン化TTRは、過去数日にわたり個体が経験した炎症および/または酸化ストレスの総合的な程度を示すことにより、T2DMの補助的なマーカーとして役立つ。
タンパク質糖化と似た様式で、いくつかのタンパク質において特質的な酸化が観察された。図12A〜12Dは、酸化率(%)(全種の積分値に正規化された糖化イオン・シグナルの積分値として、1タンパク質当たりで測定)を示すものであり、健康者(n=50)およびT2DM(スラッシュ、n=52)。図12Aは、健康個体およびT2DM(スラッシュ)個体から取得した、アルブミン(Alb)の、図12Bはアポリポタンパク質A1(ApoA1)の、図12Cはアポリポタンパク質C1(ApoC1)の、図12Dはトランスチレチン(TTR)の、オーバーレイを示すものである。アルブミンおよびTTRは、それぞれ、システイン化(dm=119Da)およびスルホン化(dm=80Da)の形態のそれらの遊離システインで特質的な酸化を呈する(アルブミンのスペクトルにおいても観察されるのは、特質的な糖化によるシグナルである)。アポリポタンパク質の酸化は、主に、遊離メチオニン(ApoA1においては3つ、ApoC1においては1つ)でスルホキシド形成の形態で生じた。さらに、ApoC1スペクトルにおいて観察されたのは、完全な種由来の2つのN末端のアミノ酸の切断によるシグナルである。この実施例により、T2DMの補助的な(1つまたは複数の)バイオマーカーとしてのPTM型のタンパク質の使用が実証される。
代謝改変データ:健康者対T2DMのクラス・モデリング
前述のアッセイを用いて、実施例1に記載の全個体を分析した。GcG、b2mおよびcysCについてのMAの前駆図は、三次元空間において健康個体がT2DM個体から分離されることを示すものである(図8)。こうして分離されることから、適切に訓練すれば、管理された分類手法によりこれら3つのタンパク質(楕円により示す)についての正常な糖化「空間」を定義する有効な手段がもたらされる可能性があり、そうなれば、T2DMに伴う異常な糖化を識別するためのベースラインとしてこれを用いることができることが示唆される。この目的のために、健康試料由来のデータ(図8中の赤い点)を、SIMCA法(soft independent modeling of class analogies)分類(市販のソフトウェア:The Unscrambler、Camo Software,Inc.、Woodbridge、NJを用いて)を構築する目的で、主成分分析(PCA)に供した。
図9は、このPCAの評点プロットを示すものである。手短に言えば、完全交差検証および標準化変量分散(すなわち、3つの糖化値に、モデルと同等の重みをつける)を用いて健康対象のデータ(n=50個体、1個体当たり3データ値)を分析して、健康者データのモデルを構築した。次に、このモデルを全対象(n=102個体)のデータと対比させて、健康者をT2DMと識別するうえでの有用性を構築した。p<0.001の有意水準でモデルを用い、50名分の健康者試料のうち3名分を健康者と分類せず、52名分のT2DM試料のうち2名分を健康者と分類した(臨床的感度および特異性がそれぞれ96%および94%に匹敵する測定基準)。注目すべきは、3例の偽陽性についての分離の程度が相当有意であることが観察され、このことから、こうした個体は、自覚はなくても実際は糖尿病である可能性がある、すなわち、アメリカ人の1/3に当たる人は、自身が糖尿病に罹患していることに気づいていないことが示唆されることである。偽陰性に関しては、T2DMは、典型的に前糖尿病領域と呼ばれる、健康者とT2DMとの間の「グレー領域」を有する疾患であることが示された。一旦糖尿病と診断された場合には、この境界の糖尿病状態に到達することが、事実上、治療の目標である。したがって、2例の偽陰性は、T2DMの良好な管理によるものである可能性がある。
要約すると、3つの糖化タンパク質のSIMCAベースの分析は、T2DMを判定およびモニターするうえで使用するための相当な有望性を示し、より大きい対象の対比に適した主要なアッセイを表す。さらに、この分析は、他のマーカー(一旦見出されれば)を追加することで改善できる技術的な基礎として役立つ。バイオマーカー開発へのこの種の追加的なアプローチを完全に理解するために、本発明が、確定値および不確定値を両方とも有する大量のスペクトルのデータを詳しく調べるための多変量解析を用いることにより開始していないことは注目に値する。むしろ、マーカー(この事例では、血漿タンパク質の相対的な糖化値)としての有望性を示す確定形態のタンパク質由来のデータのみを分析に加える。この様式で、個々の(独立した)マーカーの値を完全な分析の一部として評価できる。例えば、先に報告した偽陽性率および陰性率(それぞれ6%、4%)は、3つの確定因子すべてを用いて達成できた。これらの測定基準は、2つのみのタンパク質を用いることを上回る改良であり、例えば、b2mおよびGcGのデータのみを用いると、結果は最良のものに次ぐ偽陽性率および陰性率(それぞれ8%、12%)となった。仮に逆の結果が観察されていれば、価値を持たないマーカーは分析から除外されたであろう。複数の確定因子のアッセイを「構築」するこのアプローチは、非標的化スペクトルのデータの量が考慮される臨床プロテオミクスの例とは対照的であり、その多くは、予測に対して有意ではなく、最悪の場合は、データ・セットにおける疑似的な見かけのためにエラーの原因となる(64、65)。したがって、重要でない(または誤った)値を測定から排除し、確定的なデータのみを加えることにより、本発明は、疾患を正確に分類するためのデータおよび評価法を最大限に活用することを企図するものである。
この実施例は、健康者を疾患から正確に検出および診断するための、MAおよびPCAまたはクラス・モデリングの複数の値の使用を実証するものである。
単一アッセイ:GcG遺伝子型および糖化
MSベースのGcGアッセイを実施する利点は、単一分析において遺伝子型およびタンパク質表現型(糖化)のデータを両方とも得ることができることであり、各測定基準は独立に、T2DMの検出およびモニタリングに対する値を有する。現在、等価値のデータを得ることが可能な単一分析アッセイは存在しない。現在の技術、例えばGcG遺伝子型同定の使用は、例えば、単一ヌクレオチド多形(SNP)分析または遺伝子配列決定法を用いて、核酸レベルで実施できる。したがって、GcGの3つの主要な対立遺伝子型の分析には、遺伝子型に関与する2つのSNP’sを見分けることが可能な少なくとも2つの遺伝子ベースのアッセイが必要となろう。そのような遺伝子型同定アッセイのデータは、糖化データと組み合わせることになると考えられ、遺伝子型同定のアッセイはあまり直接的なものではない。HbA1Cと同様、糖化型のGcGの相対存在量を測定することはまた、T2DMの重要な検出およびモニタリングである。この測定には、少なくとも2つのさらなるアッセイ(例えば、タンパク質ベースの免疫測定的アプローチ)、すなわち、全形態のGcG(分母)用のアッセイと、糖化GcG(分子)のみを見分けることが可能な第2のアッセイとが必要となろう。全部で少なくとも4つのアッセイを実施しなければならない。他の分析シナリオを提案してもよいが、いずれの場合においても、MSベースのアッセイと等価値のデータを得るには、複数のアッセイを実施しなければならない。
本発明は、GcG遺伝子型同定(GM)および糖化(MA)の両方を組み合わせて用いることを認める。図10は、両方の測定基準を組み合わせて用いた結果を示すものである。各点は、所与の個体[健康者(赤)、T2DM(緑)およびid−T2DM(青)]について実施された単一分析で得られたものである。X軸上に明示してあるのは、GcGの6つの主要な遺伝子型である。Y軸上に記載してあるのは、個体において見出される糖化GcGの相対存在量である。グレーの領域により強調されている破線は、糖化GcGの関数(対GcG遺伝子型)として健康者をT2DMから最もよく分離する基準レベルと、T2DM(または前T2DM)を適切に管理している個体を示す可能性のある範囲とを記すために付したものである。2〜3の外れ値を除けば、それを超える糖化GcGレベルはT2DMを示す、遺伝子型依存性の閾値が存在する。
この種(単一分析)の遺伝子型−タンパク質表現型アッセイの展望は相当なものである。そうしたアッセイは、1)T2DMの発症しやすさを示すこと、2)T2DMを検出すること、および3)T2DMの進行(および/または治療効果)を個人レベルについてモニターすること、により、価値が見出される。図2に示すデータを参照すれば、X軸そのものが、遺伝子型同定(すなわち、個体が自身の生涯でT2DMを発症する可能性のある遺伝学的なリスク因子の測定)に基づくT2DMの素因として解釈でき、Gc−1s遺伝子型のほうがT2DMにかかりやすい。糖化についての遺伝子型依存性の閾値(T2DMの指標としての)により、最初のリスク因子ならびにT2DMの病態生理学的マーカーの存在に基づいて一般集団内の個体を層化することが可能な、すなわち、個体がT2DMを発症した時期および治療への応答の仕方をより正確に示すために2つの値を組み合わせて用いる、より個別性の高いアッセイが得られる。そのような層化は、個別化医療の必須構成要素である。
この実施例により、単一分析に由来する、疾患を層化するためのGM型およびMA型の組合せ使用が実証される。この単一アッセイおよびデータ評価法は、糖尿病の、素因、発症、進行および治療への応答を示すことが可能である。
複数マーカー:時間依存性評価
異なる糖化タンパク質(MA)のデータのとりわけ新規の使用は、個体の血糖値を(3つのタンパク質の糖化レベルにより)時間の関数として見るためのものであり、糖化における時間的な変動を、タンパク質のin vivoでの存続期間との相関により見ることができる。明白なT2DMのより正確な診断に加え、本明細書において関心のある他の話題は、前T2DMの「グレーの影」をより正確に定義し、同時に、一旦診断された場合には個体のT2DM管理をモニターすることである。個体は、現在のマーカーを用いてモニターされる時点(即時および過去およそ90日)内で前T2DM(または良好に維持された)状態の内外で変動することがあると考えられる。個体が元々T2DMの診断、例えば、テストに先立ち長時間の絶食が義務づけられる低FGT試験(OGTTまたはHbA1Cを用いない)についてスクリーニングされる場合には、この効果は、誤った測定値につながる可能性がある。T2DMを有すると既に診断されている個体、例えば、治療を周期的にさぼる個体、空腹時グルコース試験前に適切に絶食しない個体については、その逆が当てはまる場合が、すなわち、不要な治療変更につながる可能性がある。個体の過去における異なる時点を反映する多重化アッセイは、こうした問題に関しいくつかの利益をもたらすことができる。
図11は、多様なタンパク質の糖化における時間的な変動の「半減期時計」を構築する可能性を示すものである。示してあるのは、相対的な糖化率対サンプリングに先立つ時間のプロットである。マーカーのin vivoでの存続期間は、b2m、cysC、GcG、AlbならびにHem(AおよびB)についてそれぞれ、およそ0.5時間、2時間、85時間、550時間および2000時間である。着色された破線は、健康対象(逆三角形)およびT2DM対象(四角)の分析中、糖化タンパク質について見出された平均値を結ぶものである。さらに、図16において示される5名の個体のデータも示す。個体5については、すべてのマーカーがそれぞれの対象の平均値より低く、このことから、適切で厳格に管理された非インスリンベースの治療を受けていることが示される。個体4は、直近の過去における糖化上昇を除いてほぼ同じプロファイルを呈している(また、図16を参照すると、比較的高めの酸化ストレス値も呈している)。その一方、個体1は、治療を正しく施されていないか、または治療自体が適切でないかいずれかである。同様に、過去1〜2カ月、個体2は、(極端な)糖化上昇を呈するが、過去1週間以内に、比較的低めのレベルに糖化を低下させ始めた。T2DMを有するとはそれまでに診断されていない個体3は、T2DMレベルの内外を変動することが観察され、境界または「前T2DM」状態であることが示される。最後に、個体の3、4および5はすべて、糖化ヘモグロビンを用いて測定される場合とほぼ同じ糖化指標を呈するが、採血までの時間においては異なる軌跡をたどることに注目すべきである。
これらの時間依存性マーカーにより、単一の血漿試料の分析に基づく個体の糖化状態を詳細に見ることが可能になる。モニター手段として使用されると、複数点のある画像からは個体のT2DM維持の詳細な状況が得られ、このことは、個体が自身との比較で長期的にモニターされる個別化医療の一形態である。健康な糖化の複数点のある時間的な画像は、高リスクの個体(「前T2DM」)を回復させることが潜在的に必要な、個体がT2DM状態の内外を変動する可能性があると考えられるベースラインとして役立つ。最後に、短期および長期両方の糖化が同時にモニターされ、このことは、「グルコース・パラドックス」に関し、高血糖誘導性の酸化ストレスとの比較で相当興味深い。
この実施例により、疾患管理を時間の関数として見るための複数のMA型の使用が実証される。
一変量検証および多次元分析
アッセイの、可能性のあるカットオフ値すべてにわたり健康者をT2DMと区別するマーカーの能力を反映する受信者動作特性(ROC)曲線を用いて、糖化および酸化ストレスのマーカーそれぞれを評価した。図15は、表1に示すマーカーのうち8つについてのROC曲線を示すものである。曲線下面積は0.84〜0.99の範囲であり、これにより、健康対象とT2DM対象との間が良好に分離されることが実証される。糖化および酸化ストレスは、曲線を作成するうえで用いたタンパク質変異体に関与している。
SIMCA法(soft independent modeling of class analogies)分類(市販のソフトウェア:The Unscrambler、Camo Software,Inc.、Woodbridge、NJを用いて)を構築する目的で、データを主成分分析(PCA)に供した。図16は、糖化データ由来のPC1対酸化データ由来のPC1をプロットした結果を示すものである。健康個体は、低糖化/低酸化象限、すなわち、「健康な」糖化および酸化の象限に集中しているが、この象限は、T2DM診断のための基準点として役立つと同時に、一旦診断されたT2DMの治療についての標的でもある。T2DM対象における個体の大部分は、高糖化/高酸化象限に入る。T2DM個体(×印)のおよそ20%は、糖化の比較的良好な制御を呈するが、酸化ストレスは上昇している。
参考文献
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Claims (14)

  1. 対象における疾患または障害を検出およびモニターする方法であって、前記対象の体液タンパク質中で遺伝子修飾型(GM)、翻訳後修飾型(PTM)または代謝改変型(MA)のバイオマーカーを検出およびアッセイすることを含む方法。
  2. 前記疾患または障害が糖尿病である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記体液タンパク質が血漿または尿タンパク質である、請求項1に記載の方法。
  4. 前記複数のマーカーから得られるデータを、分類アルゴリズムを用いてさらに評価して、健康状態および糖尿病状態を確定させる、請求項1に記載の方法。
  5. 前記バイオマーカーをin vivoでの存続期間と相関させて、糖尿病状態および前糖尿病状態に関連する長期的な記録を構築する、請求項1に記載の方法。
  6. 前記バイオマーカーをin vivoでの存続期間と相関させて、糖尿病の管理および治療に関連する長期的な記録を構築する、請求項1に記載の方法。
  7. 前記疾患または障害が、糖尿病、心血管疾患、冠動脈疾患および末梢動脈疾患、慢性の閉塞性肺疾患、脳卒中、癌、アルツハイマー病、ニューロパチー、網膜症および栄養欠乏症から成る群から選択され、単独であっても、または糖尿病と関連のある併存疾患としてのものであってもよい、請求項1に記載の方法。
  8. 前記バイオマーカーが、Gc−グロブリン(GcG)、β−2−ミクログロブリン(b2m)、シスタチンC(cysC)、アルブミンならびにHemAおよびBから成る群から選択される糖化バイオマーカーである、請求項1に記載の方法。
  9. 前記バイオマーカーが、アルブミン、TTR、ApoA1およびApoC1から成る群から選択される酸化バイオマーカーである、請求項1に記載の方法。
  10. 前記バイオマーカーが、C−ペプチド(C−Pep)およびインスリンから成る群から選択される酵素的バイオマーカーである、請求項1に記載の方法。
  11. 対象における疾患または障害を検出およびモニターする方法であって、複数のアッセイにより、前記疾患または障害に関連するGM、PTMおよび/またはMAのバイオマーカーの組合せを定量することを含む方法。
  12. 対象における疾患または障害を検出およびモニターする方法であって、単一アッセイにより、前記疾患または障害に関連するGM、PTMおよび/またはMAのバイオマーカーの組合せを定量することを含む方法。
  13. 前記GM、PTMおよびMAのバイオマーカーが、同じ遺伝子産物上にすべて存在し、タンパク質ベースの単一分析においてすべて検出される、請求項11に記載の方法。
  14. 前記GM、PTMおよびMAのバイオマーカーが、同じ遺伝子産物上にすべて存在し、タンパク質ベースの単一分析においてすべて検出される、請求項12に記載の方法。
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