[0002]光ファイバは、光の伝送(transmission)によって情報及びエネルギーを運ぶことに用いられる。しかし、高いパワーが従来の光ファイバによって導波されるときは、光ファイバ中においてラマン散乱及びブリルアン散乱のような非線形効果が発生する。これらの非線形効果は、伝送されるパワーの低減を引き起こし、又は光ファイバ中に情報を伝達するために用いられる信号の質を低減させる。パワーを扱う(handling)能力(capability)を高めるために、導波領域の断面積が増加された光ファイバが開発されてきた。この光ファイバは、光ファイバ中の光パワー密度を低減させ、非線形効果を低減させる。断面積が増加された光ファイバの例はラージモードエリアファイバ(large mode area fiber:LMAF)がある。
[0003]高パワーのレーザーは、材料処理の分野において用いられる。この用途のために十分な高品質の出力ビームを得るために、ビーム伝送に用いられる光ファイバは単一モードであることが好適である。単一モードで動作するLMAFは、従来の屈折率ファイバの導波設計技術を用いて達成することが困難である。これは、大きなコア面積が得られるようにコアの直径を増加させるにつれ、コアとクラッドとの間の屈折率の差を低減しなければならないからである。例えば、35μmのコア直径、及び1.3μmのカットオフ波長を有するファイバが単一モードで動作するためには、屈折率差が0.02%でなければならない。しかし、屈折率を増加させるためにコアに物質を追加し、又は屈折率を低下させるためにクラッドに物質を追加するような既存のドーピング技術では、シリカベースのガラスにおいてそのような小さな屈折率の差を得ることが困難である。
[0004]ファイバが真に単一モードになるように設計することができなくても、クラッドモードをある程度はサポートするものの単一モードで動作するファイバを設計することはできる。そのようなファイバは、コアモードからクラッドモードへのカップリング量、及びクラッドモードの損失の程度を考慮し、作ることができる。カップリング量が少なく且つ損失の程度が高いと、ファイバが単一モードファイバとして効率よく動くこともある。これは、光強度のうちクラッドモードへ移転したものが急激に弱まり、出力ビームの劣化が防止されるからである。
[0005]ファイバ中のパワー密度及び非線形効果を低減するように大きなコアを有するファイバとしては、ラージモードエリアフォトニッククリスタルファイバ(large mode area photonic crystal fiber:LMAPCF)が提案されてきた。LMAPCFは、単一タイプのガラス物質で作られており、ドーピングが不要である。コアとクラッドとの間に要求される屈折率の差は、クラッド中に形成された空孔(air hole)のサイズによって決定される。実用的なLMAPCFは、1.55μm、1.06μm及び0.8μmの波長での使用にそれぞれ35μm、25μm、及び20μmのコア直径を有するように開発されてきた。コア直径がこれらの値より大きいと、ことによるとクラッドにおける空孔の直径が減少することにより空孔タイプのLMAPCFの曲げ損失が大きくなるので好ましくない。LMAPCFが有する問題は、製造が困難であることである。例えば、ファイバを線引きするので、空孔のサイズを正確に制御することが困難である。更に、LMAPCFは、空孔を有しない光ファイバと比較して高い伝送損失を有する。
[0006]代替的に、ラージモードエリアファイバは、オールソリッドフォトニックバンドギャップファイバ(all−solid photonic bandgap fiber:オールソリッドPBGF)の設計を用いて実現され得る。オールソリッドPBGFは空孔を有していないので、伝送損失が低い。更に、オールソリッドPBGFは、従来のファイバ製造方法及び製造装置を用いて製造することができる。
[0007]例えば、ステップ型の屈折率を有するロッドのアレイからなる周期的な構造を有する従来のオールソリッドPBGFが、図2(a)及び図2(b)において示されている。図2(a)は高屈折率ロッドの屈折率プロファイルを示す。高屈折率ロッドの直径はdである。図2(b)は、オールソリッドPBGFのクラッド中における高屈折率ロッドの周期的な配列を示す。図2(b)において、平行四辺形(点線で示されている)は、二次元的な周期構造のユニットセルを示す。一つの高屈折率ロッドの中央から隣接の高屈折率ロッドの中央までの距離は、Λである。そのコアの直径は、2Λ−dと考えることができる。ここで、コアは、周期的な構造から一つの高屈折率ロッドを除去することで作ることができる。
[0008]図1は、オールソリッドPBGFのコアの直径と動作の規格化周波数(normalized frequency)kΛとの間の関係を示す。コアの直径または比d/Λが大きくなるにつれ、規格化周波数kΛが大きくなる(ここで、kは自由空間の波数、すなわち、2π/波長)。
[0009]従来のそのようにして得られるPBGFにおける課題は、伝送スペクトルが不連続で動作の実質的な波長範囲を制限していることである。更に、伝送帯域(transmission band)のエッジの付近では、閉じ込め損失(confinement loss)及び曲げ損失(bend loss)が大きく、それらが利用できる波長範囲を更に減少させている。加えて、パラメータd/Λが約0.4(上述のように、dがクラッド中の周期的な構造の高屈折率領域の直径を表し、Λはクラッドの周期的な構造のピッチを表す)であるときに、偶数次の伝送帯域において曲げ損失が大きい。しかし、高屈折率の周期構造がロッドのアレイである従来のオールソリッドPBGFでは、単一モード動作のためにパラメータd/Λが小さくなければならず、それによって従来のオールソリッドPBGFラージモードエリアファイバの動作波長範囲が狭くなる。
[0010]図3(a)〜図3(d)は、クラッドの周期的な構造によって生み出されたフォトニック状態密度を示す。状態密度は、Phys. Rev. B71, 195108(2005)の“Adaptive curvilinear coordinates in a plane−wave solution of Maxwell’s equations in photonic crystals”に記載された方法を用いて計算された。図面において、横座標は規格化周波数kΛを表し、縦座標は実効屈折率、neffを表す。図3(a)〜図3(d)は、パラメータd/Λの値がそれぞれ0.2、0.4,0.6及び0.7の場合における状態密度を示す。この計算において、背景の屈折率が1.45であり、且つ高屈折率ロッドの屈折率が1.48であり、それにより屈折率差が約2%となっている。
[0011]図4(a)〜図4(d)は、d/Λが図3(a)〜図3(d)の場合と同じ値である場合における計算された状態密度(DOS)を示す。これらの図においでも、横座標は規格化周波数kΛを表すが、縦座標は電磁場のモードパラメータであるパラメータ(β2-n2k2)Λ2を表す。特に、(β2-n2k2)Λ2は、フォトニック結晶微細構造のためのスカラー波動方程式の固有値(eigenvalue)である。このモードパラメータは、Optics Express vol.12, 69−72(2004)の“Scaling laws and vector effects in bandgap−guiding fibers”において詳細に記載にされている。パラメータn及びβはそれぞれ、クラッドの背景(背景光学材料)の屈折率及び波数ベクトルの縦方向成分(longitudinal component)を表す。
[0012]図4(a)〜図4(d)のグラフにおいて、模様のない色の濃い領域は、状態密度が零であるバンドギャップを示す。灰色スケールは、クラッドモード、すなわち、クラッド中に単独又は部分的に存在するモードの存在を表す。灰色スケールが濃い色から薄い色に変わるにつれてクラッドモードの数は増加する。
[0013]図3(a)〜図3(d)は、規格化周波数kΛの低い値において、バンドギャップが、(縦座標に沿って)より深くなり、且つ(横座標に沿って)狭くなることを示している。定量的には、(縦座標に沿った)バンドギャップの深さは、ファイバの曲げ損失に対応する。深さが浅く(すなわち、許容されたモード間の屈折率の差が小さく)なると、曲げ損失が増加する。
[0014]図3(a)〜図3(d)に示されているように、パラメータd/Λが大きくなるにつれ、クラッドモード間のバンドギャップも、深くなると共に狭くなる。
[0015]図3(b)において、コア導波モード(core guided mode)は、クラッドモード上に重複されており、細い白い線で示されている。このコア導波モードは、周期的な構造から一つの高屈折率ロッドが除外された場合に対して計算される。コア導波モードは、規格化周波数が23〜60の範囲で示されており、規格化周波数37、40及び60のところがバンドギャップのエッジになっている。
[0016]上述したように、図4(a)〜図4(d)は、規格化周波数kΛに対するクラッドモードのモードパラメータ(β2-n2k2)Λ2を示している。バンドギャップが深くなるにつれ、コア導波モードとバンドギャップの底を成すクラッドモードとの間のモードパラメータにおける差が増加し、ファイバのコア領域中によく閉じ込められた電磁場を有するコア導波モードをもたらす。また、これは、コア導波モードの数の増加をもたらす。コア導波モードがkΛ=100に対して計算され、図4(a)〜図4(d)においてデータ点で示されている。図4(a)及び図4(b)では、一つのコアモードだけがバンドキャップに位置しているので、光ファイバは単一モードで動作する。図4(c)及び図4(d)では、1以上のコアモードが示されている。これらの場合において、最大のモードパラメータにおけるデータ点、すなわちゼロに一番近いデータ点、は基本コア導波モードを表し、次に大きなモードパラメータでのデータ点は第1の高次モードを表す。図から分かるように、パラメータkΛが0.4以下であるときは(図4(a)及び図4(b))、光ファイバは、単一モードで動作する。
[0044]図5(a)及び図5(b)は、PBGFの改善された構造を示す。周期的な構造は、ロッドタイプの高屈折率領域に替えてリングタイプの高屈折率領域から構成されている。このリングタイプの構造は、リングの内径を特定する追加の構造的なパラメータDで説明される。代替的に、リングのタイプの構造は、外径に対する内径比、D/dで具体化されるものとすることができる。本例において、背景の屈折率は1.45であり、高屈折率領域の屈折率は1.48であるので、先行技術と関連して説明したロッドで構成されたPBGFと同様に屈折率差が約2%となる。リングの外径dは、0.70Λである。
[0045]発明者は、上記のパラメータを慎重に調節することでPBGFの伝送特性を最適化することができることを現実化した。特に、所定の範囲にわたってモードパラメータ(β2-n2k2)Λ2が実質的に一定である光ファイバを提供できるようにパラメータが調節されると、低損失、大面積、及び単一モードの光ファイバが実現され得る。
[0046]図6(a)〜図6(e)は、バンドキャップ構造とリングの厚さとの間の関係を示す。特に、これらの図は、(横座標上に表されているように)規格化周波数kΛと(縦座標上に表されているように)実効屈折率neffとに関するクラッド中の状態密度を示す。図6(a)〜図6(e)は、リングの外径に対するリングの内径の比(D/d)が0.7,0.75,0.8,0.9及び0.95の場合におけるDOSを示す。図6(d)及び図6(e)において、横座標上に示されている最大値は、図6(a)〜図6(c)に用いられたkΛ=150からkΛ=190に増加させてある。パラメータD/dが増加すると、各クラッドモードはより高い規格化周波数にシフトする。LPllモード(l=0,1,2,3等)は、m≠1の場合における他のLPlmモードのいずれよりもシフト量が少ない。図において示唆されているように、LP02モードは約100のkΛでグラフの下部に位置する。
[0047]図7(a)〜図7(e)は、図6(a)〜図6(e)の算出された状態密度を示すグラフであるが、縦座標が、モードパラメータ(β2-n2k2)Λ2で示されている。バンドギャップの底を形成するLP02モードが、図7(d)及び図7(e)(それぞれD/d=0.90及び0.95)において横座標にほぼ平行であることは重要である。図7(c)(D/d=0.80)において、クラッドモードLP02は、約60〜100の規格化周波数の範囲において横座標に平行である。更に、これらの領域では、規格化周波数が大きくなるにつれ、LPl1モード(l=2,3…)が狭くなると共に横座標に対して垂直に近づく。従って、LP02モードのトップに対する深さ(すなわち、縦座標におけるバンドギャップの幅)は、コア導波モードの数の決定において、重要なファクターとなる。従って、LP02モードは横座標に略平行であるので、バンドギャップの深さは規格化周波数に依存しない。これは、コア導波モードの数が、規格化周波数にほぼ依存しないことを意味する。
[0048]従来のオールソリッドPBGFにおいて、そのようなバンドギャップの形状を実現することは難しい。例えば、図4に示されているように、規格化周波数kΛ=100の付近で、各バンドギャップの底の形状は、勾配を有する。例えば、図4(b)(d/Λ=0.4)の場合において、勾配(単位kΛ当りモードパラメータ(β2-n2k2)Λ2における変化率)は約0.4である。リングタイプのPBGFに対する同等なグラフが図8(a)において示されている。図8(a)では、d/Λ=0.4に対して、勾配が約0.1の値であることが示されている。高パワーのレーザー送達(delivery)のためのPBGFの実用的な使用を考慮すると、チタンサファイアレーザーのような波長可変レーザー光源の波長範囲にわたって単一モードが実現されると有効である。更に、1.06μm及び1.55μm、又は0.80μm及び1.06μmのように2つ以上の主なレーザーの周波数がカバーできると更に有効である。そのような場合、kΛ=100の点を含む、20の規格化周波数(kΛ)の範囲、より好ましくは30の規格化周波数(kΛ)の範囲にわたって、勾配が小さく(すなわち、0.4未満)維持されることが好適である。
[0049]図8(a)〜図8(d)に戻り、より詳細に説明すると、これらの図は、バンドギャップがパラメータd/Λ(図7に示されたD/dの代わりに)によってどのように変わるかを示し、また上述した図5(a)及び図5(b)の構造に対して算出された状態密度(DOS)を示す。図8(a)〜図8(d)はそれぞれ、d/Λが0.4,0.5,0.6及び0.7の場合において、DOSが(縦座標上の)モードパラメータ(β2-n2k2)Λ2及び(横座標上の)規格化周波数kΛに関連して変化することを示す。これらの図において、D/dが0.8に固定されている。図8(a)〜図8(d)は、パラメータd/Λが増加するにつれ(すなわち、高屈折率のリングがファイバのコアにより近づくようにファイバの構造が変化される)、バンドギャップの深さが深くなることを示す。kΛ=100でのデータ点は、コア導波モードを表す。これらは、単一のモード動作とマルチ動作との間の境界が0.4と0.5との間のd/Λに位置することを示す。
[0050]図9(a)〜図9(d)は、上記の例に対し、状態密度と屈折率との間の関係を示す。また、横座標は規格化周波数kΛ、を示し、縦座標はモードパラメータ(β2-n2k2)Λ2を示す。図9(a)〜図9(d)は、屈折率差Δnの異なる値、すなわち、1%、1.5%、2%及び3%を示す。これらの図において、比D/d及び比d/Λがそれぞれ0.9及び0.7に固定されている。屈折率差が大きくなるにつれ、LPllモードはバンド幅が狭くなると共に縦座標に平行に近づき始める。従って、屈折率差を変えることで、バンドギャップが存在する領域を、規格化周波数の広い範囲にわたって制御することができる。
[0051]上記の説明、図6(a)〜図6(e)、図7(a)〜図7(e)、図8(a)〜図8(d)、及び図9(a)〜図9(d)は、リングタイプのオールソリッドPBGFにおいて比D/d及びd/Λを慎重に選択することで、実用的なLMAFが生産できるように、バンドギャップの深さの波長依存性及び規格化周波数の使用可能な範囲を最適化することができることを示す。更に、クラッドモードのバンド幅は狭く、且つ広い波長範囲にわたってモードパラメータがほぼ一定であるので、多数のコア導波モードが広い波長帯にわたって維持され得る。バンドギャップ深さが独立的に制御可能であるので、この設計で広い波長範囲における単一モード動作を設計することが容易である。
[0052]単一モード動作が、計算上0.4以下のd/Λでのみ可能であると上述したが、実際には実効的単一モードはd/Λが0.4より僅かに大きい値において発生する。これは、曲げ損失又は閉じ込め損失における差によって、高次モードが基本モードより大きな損失を有するからである。計算上で高次モードが存在しても、高次モードは基本モードより損失されやすいので、単一モードだけで有効に動作するとみなすことができる。例えば、幾つかの空孔タイプPCFは、0.50のd/Λで単一モード動作を示す。従って、単一モード動作が達成できるd/Λの範囲を考慮する際に、実際の使用中に実際に得られる高次モードの曲げ損失が考慮されるべきである。オールソリッドPBGFでは、空孔タイプPCFより閉じ込め損失が大きく、また空孔タイプPCFより高次モードがより減衰されやすい。従って、オールソリッドPBGFに関しては、実効単一モードの動作はd/Λが0.50に至っても可能である。更に、高い閉じ込め損失によって、単一モード動作は0.5より大きな、例えば0.60のd/Λでも期待され得る。
[0053]更に、本発明に係る光ファイバにおいて、バンドギャップエッジでのクラッドモードは、高屈折率ロッドに強く閉じ込められるLPl1モードが支配的である。従って、ロッドタイプのオールソリッドPBGFに比較して、クラッドモードのバンド幅は狭く、バンドのエッジ付近でのバンドギャップの深さはより深い。従って、リングタイプPBGFは、ロッドタイプPBGFに比較して、損失帯域の幅が狭く、またバンドギャップのエッジ付近での曲げ損失がより小さい。
[0054]図9(a)〜図9(d)において示されているように、屈折率の制御によってバンドギャップの深さを維持しながら、LPl1クラッドモードの波長を制御することができる。屈折率の差が増加すると、LPl1クラッドモードの規格化周波数が小さくなる。更に、屈折率の差が大きいと、LPl1クラッドモードの幅が極端に狭くなり、バンドギャップエッジにより惹起された損失が更に低減される。
[0055]他の実施形態において、高屈折率の領域は、円形リングに限定されない。例えば、高屈折率の領域によって、モードパラメータ(β2-n2k2)Λ2に対するバンドギャップの深さが周波数の広い範囲にわたって規格化周波数に殆ど依存しないバンドギャップ領域が実現されると、単一モードのラージモードエリアファイバが実現され得る。特に、高屈折率領域の周辺部より小さな屈折率を有する中央部を少なくとも含む高屈折率領域により達成されることができることが分かった。
[0056]一実施形態において、高屈折率領域は、周辺部として中空の多角形を有する。図10(a)は、高屈折率領域として中空の六角形を有する周期的な構造を示す。図10(b)は、計算された状態密度を示し、横座標が規格化周波数kΛを表し、縦座標がモードパラメータ(β2-n2k2)Λ2を表す。中空の多角形タイプの光ファイバのバンドギャップ構造は、図9において示されたリングタイプのオールソリッドPBGFファイバに類似する。リングタイプのファイバの場合、高屈折率領域は、製造中に積み重ねられたロッド間の空隙を埋めるガラスの流動により頂点が丸みを帯びたものではあるが中空多角形タイプファイバの高屈折率領域に近づく。そのような場合でも、光ファイバのバンドギャップ構造は、リングタイプの光ファイバに類似し、中空多角形のサイズ及び厚さでバンドギャップの深さ及び勾配が制御され得る。
[0057]図11(a)、図12(a)、図13(a)及び図14(a)において示されているように、別の実施形態においては、円形の断面積を有するロッドが、円形又は規則的な多角形の状態に配列され、高屈折率領域の周辺部を形成する。図11(a)は、正三角形の頂点上に配列された3つのそのようなロッドを示す。図12(a)は、六角形の頂点上に配列された6つのそのようなロッドを示す。図13(a)は、六角形の頂点及び辺上に配列された12つのそのようなロッドを示す。図14(a)は、円状に配列された12つのそのようなロッドを示す。図11(b)、図12(b)、図13(b)及び図14(b)は、それぞれ図11(a)、図12(a)、図13(a)及び図14(a)に係るオールソリッドPBGFのDOSを示すグラフである。前の図の幾つかにおいて、横座標は規格化周波数kΛを表し、縦座標はモードパラメータ(β2-n2k2)Λ2を表す。これらの場合のそれぞれにおいて、円形ロッドの外径又はロッドが沿って配列された円又は規則的な多角形のサイズを変えることで、バンドギャップの深さ及び勾配を制御することができる。特に、図11(b)及び図12(b)において示されている構造では、バンドギャップのエッジが高周波数領域の伝送帯域に位置しないので、リングタイプPBGFに比べて改善された性能を提供する。従って、これらの構造は広く且つ連続的な伝送帯域を提供するという利点を有する。
[0058]図10(a)〜図14(a)において、高屈折率領域を形成する円形ロッドは、すべて同じ方向に向けられている。例えば、図11(a)において、ロッドは正三角形の頂点上に配置されている。また、各三角形において、一つの頂点が右側に位置しており、他の2つの頂点が図において一方が他方の上にあるように配置されている。この方向は、各三角形に対して同じである。しかし、各多角形におけるロッドの数が6つ以上である実施形態では、各多角形間において方向が異なるとしても、これによる状態密度の変化はほんの僅かである。従って、製造の際の多角形の方向における僅かな変化は、結果として得られるPBGFの状態密度に対して、影響を与えないか、あったとしてもほんの僅かな影響のみを与える。
[0059]円又は多角形の周囲に配列されていると共に円形の断面を有するロッドのアレイを備える実施形態において、リングタイプ構造に対して決定された構造パラメータの幾つかはここでまた使用され得る。例えば、比D/d(ロッドの直径に対する円又は多角形の直径の比)は0.8より大きいことが好適であり、またロッドと背景材料との間の屈折率差は少なくとも1.5%であることが好適である。
(製造方法)
[0060]リングタイプPBGFは、スタックアンドドロー(stack and draw)法又は切削加工方法(drilling method)により作ることができる。
[0061]スタックアンドドロー法において、例えば高屈折率の外側領域を有するロッド提供するために、個々の高屈折率領域となるロッドは、多重のスタッキングプロセス(multiple stacking process)、MCVD(modified chemical vapor deposition:MCVD)法又は外付け(outside vapor−phase deposition:OVD)法により作ることができる。(周期的なクラッド領域のための)ロッドは延伸されて複数のより細いロッド(cane)に分割される。これらの複数の細いロッドは、低屈折率であり且つコアとなる一つの細いロッドの周囲に積み重ねられる。次に、これらの積み重ねられた細いロッドをジャケット管に挿入し、中央のコアと周期的な構造を有するクラッドとを備える光ファイバプリフォームを製造する。プリフォームをコラプスしてそのファイバを線引きすることによって、又は線引き炉の中でコラプスすると同時に直接的に線引きすることによって、光ファイバのプリフォームから光ファイバを作ることができる。
[0062]切削加工方法において、ロッドはスタックアンドドロー法と同様の方法、すなわち多重のスタッキングプロセス、MCVD法又はOVD法で作られる。プリフォームを形成するために、ロッドは延伸されて分割され、背景材料を形成するガラス本体中の切削加工孔に挿入される。ロッドの外面領域(outer surface region)は、背景材料より高い屈折率を有するように、GeO2を含むシリカガラスから作られたものとすることができる。代替的に、ロッドの外面領域は、背景材料のガラスを含むものとすることができる。前者のタイプのロッドは、OVD法で作られることが好適である。一方、後者のタイプのロッドは、複数のスタッキングプロセス又はMCVDプロセスで作られることが好適である。
[0063]高屈折率領域の周辺部の形状がリング以外の別の形状である場合における実施形態においても、高屈折率領域は同じ方法で作ることができる。
[0064]図11(a)及び図12(a)において示されている実施形態において、円形のロッドを形成する高屈折率ロッドを、背景材料を形成するガラス本体中の切削加工孔に直接的に挿入することができる。高屈折率ロッドの数が小さい場合、多角形の方向は容易に達成され得る。(図13(a)及び図14(a)において示されているように)多角形を形成するロッドの数が6つ以上である場合には、製造の観点から切削加工孔に個々のロッドを挿入しないことが好適である。このような場合には、多角形の正確な方向がバンドギャップ構造に影響を与えないので、高屈折率領域はスタックアンドドロー法で作ることが可能であるからである。
[0065]本発明に係る光ファイバのための材料は、純シリカガラス、または、ゲルマニウム、リン、又はアルミニウムがドープされたシリカガラスであるとすることができる。これらの3つのドーパントは、シリカの屈折率を増加させる機能をし、高屈折率領域中にドーパントとして用いられるものとすることができる。代替的に、シリカの屈折率を低下させる機能をするフッ素又はホウ素がドープされたシリカが用いられるとすることができる。これらのドーパントはコア及び背景材料中に用いられるものことができる。また、上述の元素の共添加(co−doping)が用いられるとすることができる。シリカガラスを用いると、高い信頼性を有し且つ低い伝送損失のファイバが製造されると共に、従来の光ファイバの製造方法及び製造装置が用いられ得る。
[0066]本発明に係る光ファイバは、従来の技術を用いて製造されるものとすることができ、低価格で高品質の製品を提供することができる。更に、その光ファイバは空孔を含まないので、製造の際に、光ファイバの構造をより容易に制御することができる。
(本発明に係るPBGFの用途)
[0067]本発明に係るPBGFの一つの用途は、逆に高パワー送信に影響を与え得る誘導ラマン散乱(Stimulated Raman Scattering:SRS)を防止することである。SRSは、光ファイバ中に高パワー光が存在するときに発生する非線形光学効果である。SRSは、光パワーの一部を異なる波長にシフトさせる。波長が変更された光は、ストークス光と称される。場合によっては、光ファイバに入力された光の大部分がストークス光に変動される。光パワーの一部のストークス波長への変更は、所望な波長で伝送されるパワーを低減させ、パワー伝送に望ましくない。しかし、ストークス光が発生する波長で高損失を有するようにファイバが作られた場合には、SRS効果が抑えられる。オールソリッドPBGFの伝送帯域は空孔タイプLMAPCF等のように連続的ではなく、またクラッドモードによって妨げられる。伝送帯域が妨げられた波長では、コア導波モードが存在せず、中心のコア周囲の光はクラッドモードと結合されて急激に減衰する。ストークス光でコア導波モードが存在しないと、損失がラマン利得を上回る。その結果、ストークス光への変更は低減され得る。例えば、シリカガラスにおいて、1次のストークス光は、伝送周波数より約13.2THz低い周波数で発生する。1.55μmの波長において、ストークス光は1.55μmより約0.1μm長い。従って、光ファイバが1.66μmで大きな損失を有する場合には、高パワーの1.55μnの光が光ファイバに入力されるときにSRSが抑制され得る。
[0068]以上のように、クラッドモードは通常、高い損失を有し、クラッドモードに結合された光は急激に減衰する。しかし、低い閉じ込め損失及び低い材料損失を有する高屈折率ロッドにクラッドモードがよく閉じ込められた場合には、コアにおいてSRSによってクラッドモードに結合する光が急激に減衰しない場合もあり得る。そのような場合においても、損失が大きな材料で高屈折率ロッドを作ることによって、SRSの抑圧が実現され得る。従って、本発明の別の実施形態において、高屈折率ロッドの材料損失は、クラッドモードにおけるストークス光がラマン効果によって増幅される(gained)ことを防止する程度に十分に高いことが好適である。そのような光ファイバは、高損失材料を高屈折率ロッドへ同時ドーピングすることで製作することができる。高損失の材料は、例えば、遷移金属又は希土類金属である。高損失材料は、上述した例に制限されず、本実施形態の目的のために、クラッドモードを弱める何れかの材料を用いることができる。
[0069]本発明に係るPBGFは、複数の波長でSRSを抑制するように設計され得る。例えば、シリカベースの光ファイバにおいて、1.06μm及び1.55μmの伝送波長でSRSによって誘導された1次のストークス光は、それぞれ1.11μm及び1.66μmである(すなわち、各伝送波長より約0.05μm及び0.11μm長い)。従って、両方の伝送波長が伝送帯域内にあり、且つストークス波長が高損失帯域内である場合には、1次ストークス波長へシフトされた光パワーは抑えられ得る。所望の波長(例えば、1.55μm、1.06μm、又は0.80μm)での光伝送と1次のストークス光の波長での光伝送との差が15dB以上であると、SRSの優れた抑制が実現され得る。
[0070]従来のロッドタイプオールソリッドPBGFに対して、ここで記載したリングタイプのPBGF及び別の実施形態(非円形リング及び多角形の高屈折率領域のPBGF)の更なる利点は、リングタイプのファイバにおいて、クラッドモードがLPllモードからなる点である。状態密度グラフから分かるようにバンドエッジでのクラッドモードがそのようなモードで構成された場合には伝送帯域及び高損失帯域との間の分離(isolation)が大きい。これは、ストークス周波数で、光が急にフィルタされ得ることを意味する。高損失帯域の波長変化は、光ファイバが曲がっているとき起きることがある。しかし、高損失帯域の変動は、従来のロッドタイプオールソリッドPBGFより本発明に係るPBGFがより小さい。従って、本発明に係るPBGF、例えばリングタイプの光ファイバは、曲がりの影響が少なく、光パワー伝達用途(delivery use)に有利である。
[0071]更に、本発明の光ファイバは、オールソリッドであり空孔を含まないので、ファイバ端面の管理面において優れている。光ファイバが空孔を有すると、空孔内にごみが入ることがあり、また高パワーの光が入射されると、表面の端面が傷づき、又は過剰損失を誘発することもある。
[0072]本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、高屈折率領域が異なる辺の数を有する多角形上に配列されているとすることができ、用いられるガラス又はドープ材料は変更され得る。