JP2011500825A - 膜タンパク質の高分解能結晶を得るための方法および組成物 - Google Patents

膜タンパク質の高分解能結晶を得るための方法および組成物 Download PDF

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Abstract

本発明は、膜タンパク質の結晶化のために有用な組成物および方法を説明するものである。

Description

関連出願
本発明は、2007年10月22日に提出された米国仮出願第60/999,951号;2007年10月24日に提出された米国仮出願第61/000,325号;2008年6月9日に提出された米国仮出願第61/060,107号;および、2008年10月1日に提出された米国仮出願第61/194,961号の恩典を主張し、そのそれぞれはあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
連邦政府の援助を受けた研究に関する記述
本発明は、NIH Roadmap Initiative助成金P50 GM073197、Protein Structure Initiative P50 GM62411(R.C.S.に対して)、NIH Roadmap Initiative助成金R21 GM075811およびNINDS助成金NS028471、NIH助成金F32 GM082028;ならびにNIH助成金R01 GM056169の下で、米国政府の支援を受けてなされた。GM/CA-CATビームライン(23-ID)は、National Cancer Institute(Y1-CO-1020)およびNational Institute of General Medical Sciences(Y1-GM-1104)による支援を受けた。政府は本発明において一定の権利を有する。
座標および構造要素は、Protein Data Bankに識別コード2RH1として寄託されている。
発明の背景
天然に存在するポリペプチドまたはタンパク質は、多くの場合、フォールディングして、化学的および生理学的な機能性の両者を決定する複雑な三次元形状になる。このため、タンパク質の徹底した理解のためには、それらの空間的トポロジーの詳細な描写が必然的に必要となる。タンパク質結晶学の分野はこの20年間で非常に盛んになり、タンパク質構造の知識基盤(knowledge bas)の急速な増加をもたらして、生化学、医薬開発および細胞生物学を含む他の学問分野が長足の進歩を遂げることを可能にした。しかし、構造生物学の分野は、水性媒質中に元々可溶性であるか、または界面活性剤ミセル中への組み入れによって可溶化されたタンパク質を用いた取り組みに大きく制約されてきた。本発明は、より自然な膜二重層環境内での、膜に埋め込まれたタンパク質(すなわち、内在性膜タンパク質)の研究を可能にする方法および組成物を提供する。本発明は、エネルギーおよびシグナル伝達を含む種々の細胞プロセスにおいて鍵となる役割を果たす、膜に埋め込まれた重要なクラスのポリペプチドのより詳細な分析を可能にする。
本明細書に記載した方法および組成物のその他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、この詳細な説明および具体例は、具体的な態様を指し示してはいるものの、当業者にはこの詳細な説明から本発明の精神および範囲内にあるさまざまな変更および改変が明らかになると考えられるため、それらは実例として提示されているに過ぎないことが理解されるべきである。
本明細書中で言及したすべての刊行物、特許および特許出願は、あらゆる目的のために、かつ、それぞれの個々の刊行物または特許出願が参照により本明細書に組み入れられるように特定的および個別的に指示されるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
1つの局面において、本発明は、例えば膜タンパク質の結晶化のために有用な、組成物を提供する。いくつかの態様において、組成物は、脂質立方相(lipidic cubic phase)結晶化のために適している。いくつかの態様において、組成物は、10〜60%v/vのポリエチレングリコール、0.01〜0.5Mの塩、1〜20%v/vの有機化合物、およびホスト脂質中にある1〜50%w/wの脂質添加物を含む。組成物のいくつかの態様において、結晶化させようとするタンパク質は1〜100mg/mLの濃度で存在する。いくつかの態様において、結晶化させようとするタンパク質は50mg/mLの濃度で存在する。
本発明の組成物のいくつかの態様において、ポリエチレングリコールは分子サイズが10〜8000のPEGまたは修飾PEGである。いくつかの態様において、PEGまたは修飾PEGの平均分子量は400〜8000である。いくつかの態様において、PEGまたは修飾PEGの平均分子量は400〜2000である。いくつかの態様において、PEGまたは修飾PEGの平均分子量は400〜1000である。いくつかの態様において、PEGまたは修飾PEGの平均分子量は400である。修飾PEGの例には、PEGラウレート、PEGジラウレート、PEGオレエート、PEGジオレエート、PEGステアレート、PEGジステアレート、PEGグリセリルトリオレート、PEGグリセリルラウレート、PEGグリセリルステアレート、PEGグリセリルオレエート、PEGバーム核油、PEG水素化ヒマシ油、PEGヒマシ油、PEGコーン油、PEGカプレート/カプリレートグリセリド、PEGカプレート/カプリレートグリセリド、PEGコレステロール、PEGフィトスレロール、PEGダイズステロール、PEGトリオレエート、PEGソルビタンオレエート、PEGソルビタンラウレート、PEGスクシネート、PEGノニルフェノール系列、PEGオクチルフェノール系列、メチル-PEG、PEG-マレイミド、PEG4-NHSエステルおよびメトキシポリ(エチレングリコール)(mPEG)が非限定的に含まれる。
組成物のいくつかの態様において、塩は硫酸塩である。いくつかの態様において、硫酸塩は硫酸ナトリウムである。いくつかの態様において、塩は0.1〜0.5Mの濃度で存在する。いくつかの態様において、塩は0.1〜0.2Mの濃度で存在する。いくつかの態様において、本発明の組成物は緩衝剤を含む。いくつかの態様において、緩衝剤は0.01〜0.5Mの濃度で存在する。いくつかの態様において、緩衝剤は0.1〜0.2Mの濃度で存在する。いくつかの態様において、緩衝剤は0.1Mの濃度で存在する。いくつかの態様において、緩衝剤はBis-trisプロパンである。いくつかの態様において、緩衝剤はpH 6.5〜7.0を有する。組成物のいくつかの態様において、有機化合物は1〜10%v/vの濃度で存在する。いくつかの態様において、有機化合物は5〜7%v/vの濃度で存在する。いくつかの態様において、有機化合物は1,4-ブタンジオールである。
組成物のいくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する。脂質添加物の例には、コレステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、脂質添加物はコレステロールである。ホスト脂質の例には、モノパルミトレイン、モノバクセニン(monovaccenin)およびモノオレインが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、ホスト脂質はモノオレインである。
この局面のいくつかの態様において、本発明の組成物は、30〜35%v/vのPEG400、0.1〜0.2Mの硫酸Na、0.1MのBis-trisプロパン pH 6.5〜7.0、ホスト脂質としてのモノオレイン中にある8〜10%w/wのコレステロールを用いた5〜7%v/vの1,4-ブタンジオール、を含む。
別の局面において、本発明は、脂質立方相結晶化のために適した組成物を含む。いくつかの態様において、本発明の組成物は脂質添加物を含む。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜50%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する。脂質添加物の例には、コレステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、脂質添加物はコレステロールである。ホスト脂質の例には、モノパルミトレイン、モノバクセニンおよびモノオレインが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、ホスト脂質はモノオレインである。
別の局面において、本発明は、膜タンパク質の結晶化のための方法を含む。いくつかの態様において、膜タンパク質の結晶化のための方法は、脂質立方相に脂質添加物を添加する段階を含む。脂質添加物の例には、コレステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、脂質添加物はコレステロールである。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜50%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する。ホスト脂質の例には、モノパルミトレイン、モノバクセニンおよびモノオレインが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、ホスト脂質はモノオレインである。
別の局面において、本発明は、タンパク質の結晶化の方法を提供する。この局面のいくつかの態様において、本方法は、脂質立方相組成物中にある前記タンパク質を提供する段階、画像化の妨げとならない材料(例えば、透明なガラスまたはプラスチックなど)を含むプレートを前記組成物で満たす段階、前記組成物を含む前記プレートを前記タンパク質の結晶化のために適した条件下に置く段階、および、前記プレートにおける前記タンパク質の結晶の存在を検出する段階、を含む。いくつかの態様において、本方法はさらに、前記プレートを、画像化の妨げとならない材料(例えば、透明ガラスまたはプラスチックなど)を含む第2のプレートで覆う段階を含む。
本方法のいくつかの態様において、タンパク質は無色のタンパク質である。いくつかの態様において、タンパク質はGタンパク質共役受容体(GPCR)である。いくつかの態様において、タンパク質は、β2AR、CXCR4またはヒトアデノシンA2A受容体を含む。いくつかの態様において、タンパク質は、安定化(stabilizing)点突然変異またはT4リゾチーム融合物またはその両方を含む。
本方法のいくつかの態様において、脂質立方相組成物は脂質添加物を含む。脂質添加物の例には、コレステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、脂質添加物はコレステロールである。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜50%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で存在する。いくつかの態様において、脂質添加物はホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する。ホスト脂質の例には、モノパルミトレイン、モノバクセニンおよびモノオレインが非限定的に含まれる。いくつかの態様において、ホスト脂質はモノオレインである。
本方法のいくつかの態様において、第1のプレートおよび第2のプレートはガラス製である。いくつかの態様において、プレートは前記脂質立方相組成物の湿度および温度などの結晶化条件の制御を可能にする。
本方法のいくつかの態様において、結晶はプレートから直接採取される。本方法のいくつかの態様において、結晶は脂質立方相組成物の立方相とスポンジ相との間から採取される。本方法のいくつかの態様において、結晶は前記脂質立方相組成物から直接採取され、前記結晶は液体窒素中に置かれる。
別の局面において、本発明は、液体立方相組成物中に存在する結晶のスクリーニングのための方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、組成物を第1のビームに曝露させて第1のビームの変化を決定する段階、組成物を第2のビームに曝露させて第2のビームの変化を決定する段階、および、結晶が前記組成物中に存在する区域(area)を同定する段階を含む。ビームの変化の例には、ビームの方向および/または強度の変化が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、結晶は無色である。
本方法のいくつかの態様において、第1のビームおよび第2のビームは減衰されている。いくつかの態様において、ビームは10分の1に減衰されている。いくつかの態様において、第1のビームはスリットを通した(slitted)100×25μmビームである。いくつかの態様において、本方法は、前記脂質立方相組成物を第3のビームに曝露させる段階を含む。いくつかの態様において、本方法は、前記脂質立方相組成物を最大10個までの追加(extra)ビームに曝露させる段階を含む。いくつかの態様において、組成物のビームへの曝露は2秒間である。いくつかの態様において、ビームは可視光のビームである。
別の局面において、本発明は、膜タンパク質の結晶を含む。いくつかの態様において、本発明は、リガンドと非共有的に結合したGタンパク質共役受容体(すなわち、「GPCR」)の結晶を含む。いくつかの態様において、前記結晶性GPCRの細胞外ドメインはX線結晶学によって分解可能(resolvable)である。いくつかの態様において、リガンドは拡散性リガンドである。
この局面のいくつかの態様において、結晶の体積は15×5×1μmを上回る。いくつかの態様において、前記結晶の体積は30×5×5μmを上回る。この局面のいくつかの態様において、結晶の体積は40×20×5μmを上回る。いくつかの態様において、結晶の体積は、体積推定量が寸法の積となるように、記述した寸法のそれぞれが直交すると仮定して推算される。いくつかの態様において、結晶はX線結晶学に適している。いくつかの態様において、X線結晶学的分析は、前記結晶を含むタンパク質の構造を決定するために行われる。
この局面のいくつかの態様において、結晶は液体立方相結晶化を用いて結晶化される。いくつかの態様において、結晶はガラスサンドイッチプレートから結晶を採取することによって入手可能である。いくつかの態様において、結晶は1.0〜10.0Åの分解能で回折する。いくつかの態様において、結晶は2.0〜5.0Åの分解能で回折する。いくつかの態様において、結晶は2.2Åの分解能で回折する。いくつかの態様において、前記結晶の構造は約3.2、2.8、2.6または2.4Å未満の分解能で解明および精密化される。いくつかの態様において、前記結晶の構造は約2.8、2.6または2.4Å未満の分解能で解明および精密化される。いくつかの態様において、前記結晶の構造は約2.4Å未満の分解能で解明および精密化される。
いくつかの態様において、Gタンパク質共役受容体はβ2ARタンパク質、CXCR4タンパク質またはヒトアデノシンA2A受容体タンパク質である。
別の局面において、本発明は、β2ARの結晶を提供する。いくつかの態様において、前記結晶の細胞外ドメインの構造は、X線結晶学によって分解することができる。いくつかの態様において、結晶は、442個のアミノ酸、Cys341と共有結合した1個のパルミチン酸、およびCys2656.27と結合した1個のアセトアミド分子、1個の拡散性リガンド、最大10分子までの脂質添加物、最大5個までの塩イオン、および最大10個までのブタンジオール分子を含む。いくつかの態様において、脂質添加物はコレステロールである。いくつかの態様において、結晶は3個のコレステロール分子を含む。いくつかの態様において、塩イオンは硫酸イオンである。いくつかの態様において、結晶は2個の硫酸イオンを含む。いくつかの態様において、拡散性リガンドはカラゾール(carazol)である。いくつかの態様において、結晶は、2個のブタンジオール分子を含む。この局面のいくつかの態様において、結晶の体積は15×5×1μmを上回る。いくつかの態様において、前記結晶の体積は30×5×5μmを上回る。この局面のいくつかの態様において、結晶の体積は40×20×5μmを上回る。いくつかの態様において、結晶の体積は、体積が3つの長さの積となるように、各寸法が他の寸法に直交すると仮定して推算される。いくつかの態様において、結晶はX線結晶学に適している。いくつかの態様において、β2ARタンパク質の構造は、X線結晶学的分析を用いて前記結晶から決定することができる。いくつかの態様において、結晶は液体立方相結晶化を用いて結晶化される。いくつかの態様において、結晶はガラスサンドイッチプレートから結晶を採取することによって入手可能である。この局面のいくつかの態様において、結晶は液体立方相結晶化を用いて結晶化される。いくつかの態様において、結晶はガラスサンドイッチプレートから結晶を採取することによって入手可能である。いくつかの態様において、結晶は1.0〜10.0Åの分解能で回折する。いくつかの態様において、結晶は2.0〜5.0Åの分解能で回折する。いくつかの態様において、結晶は2.2Åの分解能で回折する。いくつかの態様において、前記結晶の構造は、約3.2、2.8、2.6または2.4Å未満の分解能で解明および精密化される。いくつかの態様において、前記結晶の構造は、約2.8、2.6または2.4Å未満の分解能で解明および精密化される。いくつかの態様において、前記結晶の構造は約2.4Å未満の分解能で解明および精密化される。
別の態様において、本発明は、膜タンパク質の脂質立方相結晶化のための組成物であって、ポリエチレングリコールまたは修飾ポリエチレングリコール;0.01〜1Mの塩;ホスト脂質;脂質添加物、ここで前記脂質添加物はホスト脂質に対して10〜60%v/vの比で存在する;および1〜100mg/mlの膜タンパク質を含む、組成物を提供する。1つの関連した態様において、ポリエチレングリコールはPEGまたは修飾PEGであり、ここで前記PEGまたは修飾PEGの平均分子量は200〜20,000、400〜8000または400〜2000である。さらに別の関連した態様において、組成物中のPEGまたは修飾PEGの平均分子量は400である。別の関連した態様において、塩は、硫酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、酢酸塩およびギ酸塩からなる群より選択される。組成物のある種の態様において、塩は0.1〜0.2Mの濃度で存在する。別の関連した態様においては、緩衝剤が組成物中に0.05〜0.5Mの濃度で存在する。ある種の態様において、緩衝剤はBis-trisプロパンまたはクエン酸ナトリウムである。組成物の他の関連した態様において、緩衝剤はpH 4.5〜8.0を有する。
膜タンパク質の脂質立方相結晶化のための組成物のさらに他の関連した態様において、組成物はさらに、1〜10%v/vまたは5〜7%v/vの濃度で存在するアルコールを含む。ある種の態様において、アルコールはジオールまたはトリオールである。他の態様において、アルコールは1,4-ブタンジオールまたは2,6-ヘキサンジオールである。
膜タンパク質の脂質立方相結晶化のための組成物のさらに他の関連した態様において、脂質添加物は、ホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で、またはホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する。組成物のさらにもう1つの関連した態様において、脂質添加物は、2-モノオレイン、ホスファチジルコリン、カルジオリピン、リゾ-PC(lyso-PC)、ポリエチレングリコール-脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(「DOPE」)、DOPE-Me、ジオレオイルホスファチジルコリン(「DOPC」)、アゾレクチンおよびステロールからなる群より選択される。さらに他の態様において、脂質組成物はステロールである。関連した態様において、脂質添加物はコレステロールである。
膜タンパク質の脂質立方相結晶化のための組成物のさらにもう1つの関連した態様において、ホスト脂質は、モノパルミトレイン、モノバクセニンおよびモノオレインからなる群より選択される。1つの関連した態様において、ホスト脂質はモノオレインである。さらにもう1つの関連した態様において、前記組成物中で結晶化させようとする膜タンパク質は、1〜100mg/mLの濃度で存在する。さらにもう1つの態様において、前記組成物中で結晶化させようとする膜タンパク質は、40〜60mg/mLの濃度で存在する。
膜タンパク質の脂質立方相結晶化のための組成物のさらにもう1つの関連した態様において、膜タンパク質は、β2ARタンパク質、ヒトアデノシンA2A受容体タンパク質、CXCR4-T4Lタンパク質またはβ2AR-T4Lタンパク質といったG-タンパク質共役受容体である。関連した態様において、G-タンパク質共役受容体は、β2AR(E122W)、β2AR(E122W)-T4L、ヒトアデノシンA2A受容体-T4L、CXCR4-T4Lもしくはβ2AR-T4Lを含むかまたはそれらからなるタンパク質である。膜タンパク質の脂質立方相結晶化のための組成物のさらにもう1つの関連した態様において、組成物は、カラゾロール、チモロール、アルプレノロールおよびクレンブテロールからなる群より選択されるリガンドを含む。
別の態様において、本発明は、膜タンパク質の結晶を生成させる方法であって、以下の段階:脂質添加物をホスト脂質と混合して脂質混合物を形成させる段階であって、前記脂質添加物がステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンからなる群より選択され、前記脂質添加物が前記ホスト脂質中に5〜20%w/wである段階;ならびに、脂質立方相組成物の形成のために適した条件下で前記脂質混合物を膜タンパク質溶液と組み合わせる段階、を含む方法を提供する。本方法の1つの関連した態様において、前記タンパク質は無色のタンパク質である。1つの関連した態様において、前記脂質添加物の量は前記脂質中に8〜10%w/wであり、別の関連した態様において、本発明はさらに、以下の段階:プレートを前記脂質立方相組成物で満たす段階であって、前記プレートが画像化と適合性がある段階;前記脂質立方相組成物を含む前記プレートを、前記タンパク質の結晶化のために適した条件下に置く段階;およびプレートにおける前記タンパク質の結晶の存在を検出する段階、を含む。別の態様において、本方法はさらに、前記プレートを第2のプレートで覆う段階を含む。
膜タンパク質の結晶を生成させる方法の1つの関連した態様において、タンパク質はGPCRである。さらにもう1つの関連した態様において、タンパク質はβ2ARを含む。さらにもう1つの関連した態様において、β2ARタンパク質は、β2AR(E122W)、β2AR(E122W)-T4Lおよびβ2AR-T4Lからなる群より選択される。さらにもう1つの関連した態様において、GPCRはヒトアデノシンA2A受容体またはCXCR4受容体であり、ここでタンパク質には、さらに他の関連した態様において、T4リソゾームが含まれうる。
膜タンパク質の結晶を生成させる方法のさらにもう1つの関連した態様において、脂質添加物はホスト脂質中に1〜20%w/wまたは8〜10%w/wの濃度で存在する。本方法のさらにもう1つの関連した態様において、第2のプレートはガラスを含む。さらにもう1つの関連した態様において、本方法はさらに、前記プレートから結晶を直接採取する段階を含む。本方法の別の関連した態様は、前記脂質立方相組成物の立方相とスポンジ相との間から結晶を採取することを含む。別の関連した態様において、本方法は、前記脂質立方相組成物から結晶を直接採取する段階、および前記結晶を液体窒素中に置く段階を含む。さらにもう1つの関連した態様において、本方法は、前記結晶中に拡散性リガンドまたは候補リガンドを染み込ませる段階を含む。
本発明はまた、液体立方相組成物中に存在するGPCRの結晶のスクリーニングの方法であって、以下の段階:GPCRタンパク質、ホスト脂質および脂質添加物を含む液体立方相組成物を調製する段階;前記組成物を第1のX線ビームに曝露させて、前記第1のX線ビームの方向または強度の変化を決定する段階;前記組成物を第2のビームに曝露させて、前記第2のX線ビームの方向または強度の変化を決定する段階;前記GPCR結晶が前記組成物中に存在する区域を同定する段階;および、前記同定された区域を少なくとも第3のX線ビームに曝露させる段階、を含む方法も提供する。1つの関連した態様において、第1のビームはスリットを通した100×25μmビームである。別の関連した態様において、結晶は無色である。さらにもう1つの態様において、GPCR結晶はβ2AR(E122W)-T4L、β2AR(E122W)、β2ARまたはβ2AR-T4Lタンパク質である。関連した態様において、結晶はヒトアデノシンA2A受容体またはCXCR4受容体であり、ここでタンパク質には、さらに他の関連した態様において、T4リソゾームが含まれうる。
別の態様において、本発明は、ヒトβ2ARタンパク質の結晶を提供し、ここで前記β2ARの細胞外ループECL2は、結晶学的に導き出された電子密度マップ中に解釈可能な電子密度を生じさせるように十分に秩序立っている。さらにもう1つの関連した態様において、前記結晶中の各β2AR分子は、3個の非共有的に結合したコレステロール分子および少なくとも1つの塩イオンを含む。さらにもう1つの関連した態様において、少なくとも1つの塩イオンは硫酸イオンである。さらにもう1つの関連した態様において、前記結晶中の各β2AR分子は、2個の硫酸イオンを含む。さらにもう1つの関連した態様において、前記結晶中の各β2AR分子はさらにカラゾールを含む。結晶のさらにもう1つの関連した態様において、前記結晶中の各β2AR分子は1〜10個のブタンジオール分子を含む。結晶のさらにもう1つの関連した態様において、前記結晶の体積は15×5×1μm、30×5×5μmまたは40×20×5μmを上回る。さらにもう1つの関連した態様において、結晶の比表面積は0.0001〜5m2/gである。さらにもう1つの関連した態様において、結晶は液体立方相結晶化を用いて結晶化される。さらにもう1つの関連した態様において、結晶はガラスサンドイッチプレートから結晶を採取することによって入手可能である。さらにもう1つの関連した態様において、結晶は2.0〜10.0Å、2.0〜5.0Åまたは2.2〜2.4Åの分解能で回折する。さらにもう1つの関連した態様において、前記結晶の構造は、約3.2Åよりも高い、約2.8Åよりも高い、または約2.4Åよりも高い分解能で解明および精密化される。
さらにもう1つの態様において、本発明は、付属書Iに示されたβ2AR座標を含む原子配置座標(atomic arrangement of coordinates)を有する、ヒトβ2ARタンパク質の結晶形態を提供する。
別の態様において、本発明は、ヒトβ2ARタンパク質の結晶形態を提供し、ここで前記形態はa=106.3オングストローム、b=169.2オングストロームおよびc=40.2オングストロームの単位格子寸法(unit cell dimension)を有する。1つの関連した態様において、前記β2ARタンパク質はβ2AR-T4Lである。別の関連した態様において、β2AR-T4L結晶はさらにカラゾロールリガンドを含む。
別の態様において、本発明は、ヒトβ2ARタンパク質の結晶形態を提供し、ここで前記結晶形態の前記空間群はC2である。1つの関連した態様において、前記β2ARタンパク質はβ2AR-T4Lである。別の関連した態様において、β2AR-T4L結晶はさらにカラゾロールリガンドを含む。
別の態様において、本発明はヒトβ2ARタンパク質の結晶形態を提供し、ここで前記結晶形態はX線を2.4オングストロームの分解能で回折させる。1つの関連した態様において、前記β2ARタンパク質は、前記β2ARタンパク質を安定化する点突然変異を含む。別の関連した態様において、前記β2ARタンパク質はβ2AR-T4Lである。1つの関連した態様において、β2AR-T4L結晶はさらにカラゾロールリガンドを含む。
別の態様において、本発明は、ヒトβ2ARタンパク質の結晶形態を提供し、ここで前記結晶中の各β2AR分子は442個のアミノ酸、Cys341と共有結合した1個のパルミチン酸、Cys2656.27と結合した1個のアセトアミド分子、1個の拡散性リガンド、1〜10分子の脂質添加物、1〜5個の塩イオン、および1〜10個のブタンジオール分子を含む。
別の態様において、本発明は、ヒトβ2ARタンパク質のリガンド結合部位と結合する化合物を同定する方法であって、候補化合物のセットを表す三次元構造のセットを前記リガンド結合部位の三次元分子モデルと比較する段階を含み、それが以下の段階:前記ヒトβ2ARタンパク質上のリガンド結合部位の三次元モデルを受け取る段階であって、前記リガンド結合部位の前記三次元モデルが多数のリガンド結合残基に関する原子座標を含み、前記原子座標が付属書Iから取得される段階;化合物三次元モデルのセットのそれぞれに関して、前記候補化合物のセットの候補化合物の前記原子座標と、前記リガンド結合部位を含む前記リガンド結合性残基の前記原子座標との間の距離を指し示す多数の距離値を決定する段階;化合物三次元モデルのセットのそれぞれに関して、化合物三次元モデルに関して決定された多数の距離値に基づく結合強度値を決定する段階であって、結合強度値が前記ヒトβ2ARタンパク質および化合物三次元モデルによって表される化合物によって形成された複合体の安定性を指し示す段階;ならびに、各候補化合物が三次元モデルと結合するか否かを結合強度値に基づいて指し示す結果のセットを記憶(storing)する段階、を含む方法を提供する。1つの関連した態様において、前記リガンド結合性残基は、Y199、A200、S204、T118、V117、W286、Y316、F290、F289、N293、W109、F193およびY308からなる群より選択される多数の残基を含む。別の関連した態様において、前記リガンド結合性残基は、W109、V117、T118、F193、Y199、A200、W286、F289、F290、Y316からなる群より選択される多数の残基を含む。ヒトβ2ARタンパク質のリガンド結合部位と結合する化合物を同定する方法の別の関連した態様において、前記結合強度値は、水素結合強度、疎水性相互作用強度またはクーロン相互作用結合強度のうち1つまたは複数に基づく。別の関連した態様において、前記受け取り、決定または記憶の段階のうち1つまたは複数は、市販のソフトウエアプログラムを用いて行われる。さらにもう1つの関連した態様において、市販のソフトウエアプログラムは、DOCK、QUANTA、Sybyl、CHARMM、AMBER、GRID、MCSS、AUTODOCK、CERIUS II、Flexx、CAVEAT、MACCS-3D、HOOK、LUDI、LEGEND、LeapFrog、Gaussian 92、QUANTA/CHARMM、Insight II/DiscoverおよびICMからなる群より選択される。さらにもう1つの関連した態様において、本方法はさらに、ヒトβ2ARタンパク質を、同定された候補化合物を含む分子と接触させる段階を含む。さらにもう1つの関連した態様において、分子はさらに、前記ヒトβ2ARタンパク質からリガンドを競合的に退去させることができるモイエティ(moiety)を含み、ここで前記リガンドは前記ヒトβ2ARタンパク質の前記リガンド結合部位と結合する。さらにもう1つの関連した態様において、本方法はさらに、前記ヒトβ2ARタンパク質と前記同定された候補化合物を含む前記分子との間の結合相互作用を特徴づける段階、および前記特徴づけの結果を記憶する段階を含む。さらにもう1つの関連した態様において、前記特徴づけは、前記ヒトβ2ARタンパク質の機能の活性化、前記ヒトβ2ARタンパク質の機能の阻害、前記ヒトβ2ARタンパク質の発現の増加、前記ヒトβ2ARタンパク質の発現の減少、前記リガンド結合部位と結合したリガンドの退去、または前記ヒトβ2ARタンパク質の安定性尺度(stability measure)を決定することを含む。
別の態様において、本発明は、スクリーニングしようとするβ2ARの潜在的モジュレーターのライブラリーを選択するための方法であって、付属書Iの構造座標の少なくとも一部分を用いて第1の潜在的モジュレーターの構造を計算する段階、前記第1の潜在的モジュレーターの前記構造を、前記第1の潜在的モジュレーターの前記構造を含むとして同定されたモジュレーターのライブラリーと相関づける段階、および、同定されたライブラリーに関する情報を記憶または伝送する段階を含む方法を提供する。
さらにもう1つの態様において、本発明は、タンパク質の結晶形態の構造を解明する方法であって、以下の段階:付属書Iの構造座標の少なくとも一部分を用いて被験タンパク質の結晶形態の構造を解明する段階であって、前記被験タンパク質がβ2ARのいずれかの機能ドメインに対して有意なアミノ酸配列相同性を有する段階;および、前記被験タンパク質の構造を記述するデータを伝送または記憶する段階、を含む方法を提供する。
別の態様において、本発明は、候補化合物三次元モデルのセットから、GPCRタンパク質またはβ2ARタンパク質のリガンド結合部位と結合する化合物を同定する方法であって、以下の段階:前記GPCRタンパク質またはβ2ARタンパク質上のリガンド結合部位の三次元モデルを受け取る段階であって、前記リガンド結合部位の前記三次元モデルが多数のリガンド結合残基に関する原子座標を含む段階;候補化合物三次元モデルのセットの各候補化合物に関して、前記候補化合物三次元モデルのセットの候補化合物の原子座標と、前記リガンド結合性残基の原子座標を含む前記リガンド結合部位との間の距離および角度を指し示す多数の距離および角度値を決定する段階;候補化合物三次元モデルのセットのそれぞれに関して、候補化合物三次元モデルに関して決定された多数の距離および角度値に基づく結合強度値を決定する段階であって、結合強度値が、前記ヒトGPCRタンパク質またはβ2ARタンパク質および化合物三次元モデルによって表される化合物によって形成された複合体の安定性を指し示す段階;各候補化合物が三次元モデルと結合するか否かを結合強度値に基づいて指し示す結果のセットを記憶する段階;小型有機分子のデータベースを、結合強度値に基づいて三次元モデルと結合することが指し示された候補化合物との形状、化学または静電的類似性を呈する化合物に関して検索する段階;ならびに、結合強度値に基づいて三次元モデルと結合することが指し示された候補化合物との形状、化学または静電的な類似性を呈する小型有機分子のセットを、GPCRまたはβ2ARとも結合する可能性が高いものとして同定する段階、を含む方法を提供する。小型有機分子のデータベースは入手可能な化学物質データベースである。1つの関連した態様において、形状、化学または静電的な類似性は、BROOD(openeye)、EON(openeye)、ROCS(openeye)、ISIS BaseおよびSciFinderからなる群より選択されるプログラムを用いて決定される。
別の態様において、本発明は、膜タンパク質と結合するリガンドを同定する方法であって、以下の段階:脂質中間相を調製する段階であって、前記脂質中間相組成物が(1)ホスト脂質;(2)前記膜タンパク質;(3)ステロール、コレステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンからなる群より選択される脂質添加物、ここで前記脂質添加物は脂質ホスト中に1〜50%w/wである、を含む段階;前記脂質中間相を、前記膜タンパク質の結晶を成長させるための湿度および温度条件下に置く段階;前記膜タンパク質結晶を拡散性リガンドまたは拡散性リガンドの混合物と接触させる段階;前記拡散性リガンドと接触させた膜タンパク質結晶の三次元構造をX線結晶学によって決定して電子密度マップを得る段階;ならびに結合したリガンドを電子密度マップの検査(inspection)によって同定する段階、を含む方法を提供する。1つの関連した態様において、リガンドは実質的に水不溶性である。
本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が利用されている例示的な態様を示している以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することによって得られるであろう。
30〜35%v/vのPEG400、0.1〜0.2Mの硫酸Na、0.1MのBis-trisプロパン pH 6.5〜7.0、ホスト脂質としてのモノオレイン中にある8〜10%w/wのコレステロールを用いた5〜7%v/vの1,4-ブタンジオールの中で得られたβ2AR-T4Lの結晶。図1aは、結晶化混合物小滴中(上方左)およびループ内にあるβ2AR-T4L結晶を示している。図1bは、「スポンジ」相にある結晶を示している。 事前に密封しておいたガラスサンドイッチプレート内のウェルから、本明細書に記載した方法(例えば、実施例1を参照)を用いて直接採取した脂質立方相結晶の前(上)および後(下)の画像。 脂質立方相の中で成長させたβ2AR-T4L結晶からの回折パターン(2.8Å分解能)。結晶サイズはおよそ25×5×5Åであった;空間群C2(a=106.8Å、b=169.5Å、c=40.5Å;β=105.3゜、α=γ=90゜)。ビーム直径は10μm、曝露10秒間、振動角:1゜であった。 LCP/コレステロール混合物を用いて、種々のリガンドとの組み合わせで得られたさまざまなGPCRの結晶の一覧。上のパネルは最適化されていない初期ヒットに対応し、一方、下のパネルは最適化された結晶に関する回折品質を示している。左から右の順に、2.4Å分解能で回折したβ2AR-T4L(カラゾロールと結合);3.5Å分解能で回折したβ2AR(E122W)T4L(カラゾロールと結合);3.5Å分解能で回折したβ2AR(E122W)T4L(アルプレノロールと結合);2.8Å分解能で回折したβ2AR(E122W)T4L(チモロールと結合);β2AR(E122W)(カラゾロールと結合);6Åで回折させたβ2AR(E122W)T4L(クレンブテロールと結合)、異方性;2.6Å分解能で回折したヒトA2Aアデノシン受容体-T4L(ZM241385と結合)。 A.バイセル条件から成長させたβ2AR-T4L結晶。B.APSの23ID-Bビームラインにて10μmミニビームを用いて記録した、バイセルで成長させたβ2AR-T4Lの微結晶からの回折画像。黒の丸印は分解能3.5Åで描写されている。 A.脂質中間相の中で成長させたβ2AR-T4Lの微結晶。B.APSの23ID-Bビームラインにて10μmミニビームを用いて記録した、脂質立方相の中で成長させたβ2AR-T4Lの微結晶からの回折画像。白の丸印は分解能2.2Åで描写されている。 β2AR-T4L中のカラゾロール結合部位の詳細な表示。図7A、BおよびCは、3つの異なる向きでのリガンド結合部位の電子密度の表示である。残基は、上付き記号としての、それらのBallesteros-Weinstein数によって標識されている。電子密度は、2 Fo-Fcディファレンスマップ(2 Fo-Fc difference map)から1σで輪郭を描いている。BおよびCはいずれも、視野をy軸周りにそれぞれ時計回りおよび反時計回りに90゜回転させることによって生成されている。 以下のものの電子密度:A.脂質を位相計算から除外した上で、2σで輪郭を描いたFo-Fc電子密度によって示したコレステロール分子。パルミチン酸も示されている。B.1.5σで輪郭を描いた2Fo-Fcによるヘリックスキンク領域。 β2AR-T4L融合物の全体的な折り畳みと、原形質膜内でのその予想される配向および鍵となる分子内相互作用。A.β2AR-T4Lの全体的な折り畳みの立体視画像。受容体およびT4Lはそれぞれグレーおよび緑色に彩色されている。カラゾロールは青色に彩色され、受容体と結合した脂質分子は黄色に彩色されている。B.受容体を、膜内タンパク質配向(OPM)データベース(M. A. Lomize et al., Bioinformatics 22, 623 (2006))で見られるように脂質膜内に配置させたロドプシンモデル(境界は水平な黒線で表示されている)と並べている。T4Lはβ2ARの第3の細胞内ループと内部で融合し、受容体から遠ざかるように傾斜することによって最小限の分子内パッキング相互作用を維持している。C.β2ARとT4Lとの間の特異的な分子内相互作用が表されている。 脂質中間相の中で結晶化されたβ2AR-T4Lにおける結晶パッキング相互作用。A.主な接触域は4つあり、そのうち2つは膜平面においてT4Lによって媒介され、2回対称軸および並進を通じたそれ自体とのものである。第3の相互作用は膜平面に対して垂直であり、T4Lとβ2ARの内腔露出(lumen exposed)ループとの間のものである。第4の相互作用は2回対称軸によって生じ、1つの受容体を膜平面内の受容体にパッキングさせる。B.受容体結晶パッキング接合面は、2個のコレステロール分子および2個のパルミチン酸分子を有する脂質で主として構成され、これらが相互作用の大半を形成する。イオン電荷相互作用のネットワークが接合面の細胞質末端に存在し、これが唯一の受容体タンパク質間接触を形成する。C.並列させたβ2AR-T4Lおよびロドプシン(PDB ID Code 2135)の受容体会合接合面の比較。いずれの構造においてもヘリックスI(青)およびVIII(マゼンタ)を強調表示している。各受容体の表示については、1個の単量体のみを、対向する対称関係にある分子のみからのヘリックスI'およびVIII'とともに示している。ロドプシン接合面はβ2AR-T4Lに比して著しくねじれており、その結果、生理的な二量体接合面のために必要な平行配向からの著しい食い違い(offset)が生じる。β2AR-T4Lの会合した単量体は高度に平行な配向にある。 誘電率70を用いて、計算された電荷によって赤(-10kbT/ec)から青(+10kbT/ec)までに着色されている、β2ARの表面表示。A.関心対象の3つの主な区域が指し示されている。結合部位クレフトは負に荷電しており、ヘリックスIII、IVおよびVの間の溝も同様である。第3の領域は、細胞質面のイオン性ロックの領域およびDRYモチーフにおける全体的な正電荷である。その全体的な結果は、その負電荷をカテコールアミンリガンドの結合を助長するために用いる可能性のある、高度に分極した分子である。ヘリックスIII、IVおよびVの間の溝における負電荷の存在は、それが脂質膜の中央にあることから予想外である。この電荷は、一部には、位置1223.41にある不対グルタミン酸の存在に由来する可能性がある。この領域における有効電荷は、それが脂質膜の低誘電率環境に位置するため、ここに示されたものを上回る可能性が高い。B.Aから90゜回転した像。負に荷電結合部位クレフト(上)および正に荷電した細胞質面(下)の両方を示している。Poisson-Boltzmann静電気は、Pymol(The PyMOL Molecular Graphics System (2002)、World Wide Web上、http://www.pymol.org)に実装されたプログラムAPBS(Baker et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 98, 10037(2001))を用いて計算した。Pymolはすべての図の作成に広範囲に用いた。 β2AR-T4Lおよびロドプシンの細胞外の側の比較。A.N末端はβ2AR-T4L構造における実験的密度から欠落しており、示されていない。ECL2は緑色で示されており、1個の短いα-ヘリックスおよび2個のジスルフィド結合(黄色)を含む。ループ内ジスルフィド結合は、ECL1と相互作用するECL2の先端を制約する。第2のジスルフィド結合はECL2をヘリックスIIIと連結させる。ECL2とカラゾロール(青)との間には、Phe193532を通じての1つの相互作用がある。ループ全体は、剛性のヘリックスセグメントおよび2個のジスルフィド結合の組み合わせによって、リガンド結合部位の外に支えられている。B.対照的に、ロドプシン中のECL2(緑色)は、レチナール結合部位への直接的な到達路を塞ぐ、構造中のより低い位置をとり、結合したレチナール(ピンク)のすぐ上部にあるN末端領域(マゼンタ)との組み合わせで小型のβ-シートを形成する。 リガンド結合の特徴づけおよびロドプシンとの比較。A.β2AR-T4Lにおけるカラゾロール結合部位の詳細な表示を示している、細胞外表面から膜の平面を見下ろした図。カラゾロールはスティックとして示され、炭素原子は黄色に彩色されている。カラゾロール結合に寄与するβ2AR-T4L残基は緑色で示され、標識されている。電子密度は、カラゾロールの寄与を伴わずに計算したFo-Fcオミットマップから5σで輪郭を描いている。B.ロドプシン中の11-シス-レチナールとβ2AR-T4L中のカラゾロールとの間の結合の向きの比較。カラゾロールおよびレチナールに関するファンデルワールス表面が、密接なパッキング相互作用を強調するためにドットとして表示されている。全シスコンフォメーションにおけるレチナール(ピンク)は、カラゾロール(青)と比較して、ロドプシンの活性部位の深くに結合し、そのβ-イオノン環をTyr2686.51とPhe2125.47との間にパッキングし(シアン)、その空間内へのTrp2656.48(マゼンタ)の移動を阻止する。活性化されたロドプシンにおけるトランス-レチナールのβ-イオノン環は、Trp2656.48が回転してその空間内に入るのを阻止せず、提唱されているその活性形態への回転異性体の移行を可能にすると考えられる。C.示されているようなβ2AR-T4Lのトグルスイッチ機構に関与する残基は4つある。Phe2906.52(マゼンタ)は、Phe2085.47(黄褐色)およびPhe2896.51(黄褐色)との間に挟まれて、環-面(ring-face)芳香族相互作用を形成する。ロドプシンと同じように、活性化段階は、Phe2906.52を転位させると考えられるTrp2866.48(マゼンタ)の回転異性体変化によって起こると考えられている。カラゾロールは、示されているようなサンドイッチモチーフと広範囲に相互作用することが示されている:しかし、Trp2866.48との少数の相互作用が見られる。β2AR-T4Lにおける6.52位置はPhe2906.52によって占有されており、これは、β-イオノン環がサンドイッチ相互作用の形成において芳香族タンパク質側鎖を置き換える、ロドプシン中のAla2696.52とは対照的である。サンドイッチの芳香族的な特徴は、β2AR-T4Lでは、Phe2896.51およびPhe2085.47によって別の様式で維持されている。 β2AR-T4Lヘリックスの向きの、ロドプシン(PDB ID Code 1U19)との比較。A.β2AR-T4Lを、2つの構造におけるCα位置間の観測された距離に対応する青色から赤色までのスペクトルに彩色して、リボン軌跡としてレンダリングしている(膜貫通領域におけるすべての残基間のRMSDは2.7Å)。ヘリックスIIは極めてわずかな移動しか示していないが、ヘリックスIII、IV、Vの全長は著しく移行している。ヘリックスVIIIおよびループは比較には含まれず、黄褐色で示されている。B.ロドプシンのヘリックスIおよびVの移動(グレイ)が、β2AR-T4Lを基準として示されている。C.ヘリックスIII、IVおよびVIの移動。D.リガンド結合部位の表示。カラゾロールは黄色の炭素で示されている。ヘリックス全体に対して、示されているようなリガンド結合部位の区域内でのロドプシン位置からの相違に基づいて単一の指定を割り当てている。ヘリックスIは高度の相違があり、ヘリックスIIおよびVIはロドプシンと類似している。ヘリックスIVおよびVIIは中程度に一定である。ヘリックスIIIおよびVは中程度に相違がある。 β2AR-T4Lおよび野生型β2ARに対して結合するアドレナリン作動性リガンドの親和性曲線。アンタゴニスト[3H]DHAに関する飽和曲線が左に示されており、その隣には、天然リガンドであるリガンド(-)-エピネフリンおよび高親和性合成アゴニストであるフォルモテロールに関する競合結合曲線が示されている。受容体を発現するSf9昆虫細胞から単離した膜に対する結合実験を、上記の通りに行った。 限定的トリプシンタンパク質分解アッセイにおける、野生型β2ARとβ2AR-T4Lとの間のタンパク質分解安定性の比較。カラゾロールと結合させ、精製し、ドデシルマルトシドで可溶化した受容体に対して、TPCK-トリプシンを1:1000の比(wt:wt)で添加し、試料をSDS-PAGEによって分析した。インタクトβ2AR-T4L(56.7kD)およびFLAGタグを付加した野生型β2AR(47.4kD)は、ほぼ55kDのバンドとして同程度の移動度である。マーカーはBiorad low-range SDS-PAGEタンパク質標準物質である。 リガンド非結合性のβ2AR365およびβ2AR-T4Lの安定性の比較。ドデシルマルトシドで可溶化した受容体調製物について、37℃でのインキュベーションの後に[3H]DHAと特異的に結合する能力の維持を、安定性の尺度として採用した。 β2AR-T4L(青色)およびβ2AR365(黄色)の受容体の重ね合わせたCα軌跡。モデル化された共通の膜貫通ヘリックス領域41〜58、67〜87、108〜137、147〜164、204〜230、267〜291、312〜326、332〜339を、プログラムLsqkab(The CCP4 Suite, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 50, 760(1994))による重層化に用いた(RMSD=0.8Å)。 β2AR365からのカラゾロールの解離。ドデシルマルトシドで可溶化した、カラゾロールと結合させた受容体(50μM)を、300μMのアルプレノロール競合リガンドとして含む大量の緩衝液中で透析し、さまざまな時点でアリコートを透析カセットから取り出した。330nmでの励起および335〜400nmでの発光を用いる蛍光発光を収集することにより、残留性の結合カラゾロールを測定した(相対的な意味で)。それぞれのカラゾロール蛍光測定について、データを透析カセット内のタンパク質濃度に対して標準化した(Bio-Rad Protein DCキットを用いて測定)。Y軸は341nmでのカラゾロール蛍光発光強度(cps単位)を表している。受容体透析カセット内のカラゾロール濃度の指数的減弱をGraphpad Prismソフトウエアを用いてフィッティングし、30.4時間という半減期を得た。 β1AR配列およびβ2AR配列の比較。β1AR配列およびβ2AR配列のアラインメントを行った後に、2つの受容体間で異なるアミノ酸を有する位置を、β2AR-T4Lの高分解能構造(赤色のスティックとして示されている)上にマッピングした。カラゾロールリガンドは緑色のスティックとして示されている(窒素は青色、酸素は赤色で示され)。強調されている残基Ala852.16、Ala922.63およびTyr3087.35は、β1ARのアミノ酸Leu1102.56、Thr1172.63およびPhe3597.35と相同であり、それらは化合物RO363に対するβ2ARを上回るその選択性の主な原因であることが示されている(Sugimoto at al., J Pharmacol Exp Ther 301, 51(2002))。β2AR-T4L構造においては、Tyr3087.35のみがリガンドと直面し、Ala852.56はヘリックスIIとIIIとの間の接合面に位置する。相違のあるアミノ酸すべての中で、Tyr3087.35のみが、カラゾロールのいずれかの分子と4Å以内にあることが見いだされている。 β2AR-T4L融合タンパク質の設計および最適化。A.結晶化しうるドメインの挿入のための標的としたβ2ARの領域の配列が示されており、さまざまな構築物に関して受容体とT4L(赤色)との間の接合部の位置が指し示されている。初期に置換または除去した配列は薄くしている。赤の線は10残基毎の後に示されている。B.選択した融合物構築物を発現するHEK293細胞の免疫蛍光画像。左側のパネルは、受容体のN末端に結合した抗体に対応するM1抗FLAGシグナルを示している。右側のパネルは、DAPI(すべての細胞に対する核染色)からの青色発光とマージした同じシグナルを示している。原形質膜染色は陽性対照D3およびD1で観察され、一方、C3およびD5は小胞体内部に保たれている。 β2AR-T4Lの機能的特徴づけ。A.β2AR-T4Lおよび野生型β2ARに対して結合するアドレナリン作動性リガンドに関する親和性競合曲線。受容体を発現するSf9昆虫細胞から単離した膜に対する結合実験を、実施例4の方法の項に記載した通りに行った。B.β2AR-T4Lは依然として、リガンドで誘導されるコンフォメーション変化を起こすことができる。365位で切断して短縮させ、Cys2656.27を選択的に修飾する条件下で標識した、界面活性剤で可溶化したβ2AR-T4Lおよび野生型β2ARのビマン蛍光スペクトル(350nmで励起)(実施例4の方法の項を参照)を、リガンドと結合していない受容体を化合物とともに室温で15分間インキュベートした後に測定した。略画は、観察された蛍光の変化を、より埋没した疎水性環境から、より極性の溶媒に露出された位置への、ビマンプローブの移動として解釈しうることを図示している。 A.β2AR-T4L融合タンパク質、およびβ2AR365とFab断片との間の複合体の結晶構造の並列比較。融合タンパク質の受容体成分は青色の略図として示されており(カラゾロールは赤色の球としてモデル化)、一方、Fab5と結合した受容体は黄色である。B.2つのタンパク質に関する、Phe2646.26(球として示されている)を取り囲む環境の違い。C.ロドプシンで見られるE(D)RYモチーフとGlu2476.30との間の「イオン性ロック」(右のパネル、濃色)と類似の相互作用は、β2ARのいずれの構造においても破壊されている(左のパネル)。Pymol(W. L. DeLano, The PyMOL Molecular Graphics System (2002)、World Wide Web上、http.//www.pymol.org)を、すべての図の作成のために用いた。 リガンド結合ポケットでのβ2AR-T4Lとカラゾロールとの間の相互作用の模式的表示。示されている残基は、2.4Å分解能の結晶構造中のリガンドの4Å以内に少なくとも1個の原子を有する。 カラゾロールが結合したβ2AR-T4Lのリガンド結合ポケット。A.リガンドの4Å以内にある残基が、A200、N293、F289およびY308を例外として、スティックとして示されている。リガンドと極性接触を形成する残基(距離カットオフ値3.5Å)は緑色であり、他の残基はグレーである(すべてのパネルにおいて、酸素は赤色に、窒素は青色に彩色されている)。B.パネルAと同じ、ただし、そのアミンがページの外側に面するようにリガンドが向いている。W109は示されていない。C.カラゾロールと、リガンドの5Å以内のすべての残基との間のパッキング相互作用。図は、膜の細胞外の側からのものである。カラゾロールは黄色の球として示され、受容体残基はファンデルワールスドット表面の内部のスティックとして示されている。D.結晶構造中に観察されたリガンド結合ポケットにおける(-)-イソプロテレノール(マゼンタのスティック)のモデル。最適な結合の長さおよび角度を有するアゴニストのモデルをPRODRGサーバから得て(Schuettelkopf, et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr D60, 1355 (2004))、二面角を、結合したカラゾロールの相同原子で観測された値に対して調整した(図24中の16〜22)。(-)-イソプロテレノールにおける、考慮に入れていない残った1つの二面角は、カラゾロール中のC16-C15-O14平面と同じ平面にカテコール環を配置するために調整した。アゴニストと特異的に相互作用することが判明している残基は、緑色のスティックで示されている。 活性化プロセスの間にモジュレートされる可能性が高い、β2ARにおけるパッキング相互作用。A.左側には、CAM(Rasmussen et al. Mol Pharmacol 56, 175 (1999);Tao, el. al, Mol Endocrinol 14, 1272 (2000);Jensen et al., J Biol Chem 276, 9279 (2001);Shi et al., J Biol Chem 277, 40989 (2002);Zuscik, et. al., (1998))またはUCM(Strader et al., Proc Natl Acad Sci U S A 84, 4384 (1987);Chung, et al., J Biol Chem 263, 4052 (1988);Moro, et. al., J Biol Chem 269, 6651 (1994);Green, et. al., J Biol Chem 268, 23116(1993);Gabilondo et al., Proc Natl Acad Sci U S A 94, 12285 (1997))であることが以前に実証されている残基が、β2AR-T4L構造の主軸略図上にマッピングされたファンデルワールス球として示されている。右側には、CAMであるLeu1243.43およびLeu2726.34の4Å以内に見いだされる残基が、黄色の球またはドット表面として示されている。この構造を貫通する垂直断片図は、これらの周囲の残基がヘリックスIIIおよびVI上のCAMが、パッキング相互作用を通じてヘリックスVII上のUCMと結び付くことを図示している。B.β2AR-T4L(青色)およびロドプシン(紫色)の両者において、無秩序な水分子のネットワークが、それらの細胞質末端にある膜貫通ヘリックス間の接合面に見いだされる。C.水分子とβ2AR-T4L残基(側鎖は青色のスティックとして)、とりわけヘリックスVII上のUCM(オレンジ色の略図)との間の水素結合相互作用。
発明の詳細な説明
本明細書で説明する本発明は、2〜3オングストロームという小さな分解能で回折する膜タンパク質の結晶構造を生成させるための方法および組成物を提供する。1つの態様において、本方法は、脂質立方相中でのタンパク質の結晶化を伴い、ここでホスト脂質は、添加物、例えば、コレステロールなどのステロールを含む。本発明はまた、結晶化された膜タンパク質それ自体も提供し、ここで結晶化された膜タンパク質はGPCRまたは修飾GPCRを含む。結晶化されたタンパク質はまた、結合したリガンド、天然アゴニスト、アンタゴニストおよび/またはアロステリックエフェクターを含むこともできる。本発明はさらに、(結晶から得られた)タンパク質の三次元構造を、インビトロまたはインビボでのタンパク質のコンフォメーションおよび/または活性に影響を及ぼす新規リガンド、薬物および他の有用な分子のスクリーニングのために用いる方法も提供する。
より具体的には、本発明は、高い分解能で回折するGPCRの特定の結晶形態を提供する。GPCRは配列の保存に基づいて5つのクラスにグループ分けされており(Fredriksson, et al., Mol Pharmacol 63, 1256 (2003))、β2ARを含むクラスAのGPCRは最大であり、かつ最も研究されている。β2ARアゴニストは喘息および早産の治療に用いられている(DeLano, The PyMOL Molecular Graphics System (2002)、World Wide Web上、pvmol.orgにて)。本発明によって提供される結晶形態には、β2ARを含む結晶およびヒトアデノシンA2A受容体を含む結晶を含む、いくつかの回折品質(diffraction quality)クラスA GPCR結晶が含まれる。
本発明は、カラゾロール(2-プロパノール,1-(9H-カルバゾール-4-イルオキシ)-3-[(1-メチルエチル)アミノ]の存在下で2.4Åの分解能で解明された、第3の細胞内ループの代わりにT4リゾチーム(T4L)を含むヒトβ2ARタンパク質(「β2AR-T4L」)の三次元構造を提供する。別のクラスA GPCR構造により、GPCR間の、例えばロドプシンとβ2ARとの間の配列の違いを、経験的に決定された構造の違いと相関づけて、他のクラスA GPCRへと外挿することが可能である。クラスA受容体を2通りの観測状態のそれぞれに拘束させる相互作用に脚光を当てることで、構造の相違に関するより包括的な分析が可能になり、それ故に、より正確なモデルが可能になる。さらに、GPCR構造は、仮想的リガンドスクリーニングおよび構造に基づくドラッグデザインのためにより妥当であると考えられる相同性モデルの基盤となる、代替的なシグナル伝達状態ももたらす(Bissantz, et. al. Proteins 50, 5 (2003);Gouldson et al., Proteins 56, 67 (2004))。
定義
特許請求の範囲および本明細書で用いる用語は、別に指定する場合を除き、以下に説明したように定義される。別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。
本明細書で用いる場合、「結合部位」または「結合ポケット」という用語は、特定の化合物と結合または相互作用する、タンパク質の領域のことを指す。
本明細書で用いる場合、「結合」または「相互作用」という用語は、ある化学的実体、化合物またはそれらの部分と、別の化学的実体、化合物またはそれらの部分との間の近接状態のことを指す。会合または相互作用は、非共有結合性であってもよく――その場合はその近接性(juxtaposition)は水素結合またはファンデルワールスもしくは静電的相互作用によってエネルギー的に有利となる――またはそれは共有結合性であってもよい。
本明細書で用いる場合、「残基」という用語は、ペプチド結合によって別のアミノ酸と連結しているアミノ酸のことを指す。残基は、本明細書において、アミノ酸、およびポリペプチド配列中でのその位置の両方を記載するために言及される。
本明細書で用いる場合、「表面残基」という用語は、ポリペプチドの表面に位置する残基のことを指す。対照的に、埋没(buried)残基とは、ポリペプチドの表面に位置しない残基のことである。表面残基は通常、親水性側鎖を含む。操作上、表面残基は、ポリペプチドの構造モデルから、分子構造の表面を取り巻く水和球(sphere of hydration)と接触する残基としてコンピュータ計算で同定することができる。また、表面残基を、重水素交換試験の使用、またはさまざまな標識試薬、例えば、親水性アルキル化剤などに対する到達性によって、実験的に同定することもできる。
本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」という用語は、2個またはそれ以上のアミノ酸でできた単一の線状鎖のことを指す。タンパク質はポリペプチドの一例である。
本明細書で用いる場合、「相同体」という用語は、共通の祖先DNA配列からの子孫(descent)として第2の遺伝子と関係している遺伝子のことを指す。相同体という用語は、種形成イベントによって隔てられた遺伝子間の関係に、または遺伝子重複イベントによって隔てられた遺伝子間の関係に適用することができる。
本明細書で用いる場合、「保存」という用語は、相同体間での分子の一次構造または二次構造における高度の類似性のことを指す。この類似性は、分子の保存された領域に対して機能的重要性を付与すると考えられている。個々の残基またはアミノ酸に関しては、保存は、相同性分子との比較に基づく、置換または欠失のコンピュータ計算上の尤度のことを指して用いられる。
本明細書で用いる場合、「距離行列」という用語は、最適ペアワイズアラインメントスコアの計算の結果を提示するために用いられる方法のことを指す。行列フィールド(i,j)は、入力配列からの2つの残基間(最大で合計i×j個の残基)の最適アラインメントに対して割り当てられたスコアである。各項目は、再帰方程式によって左上の隣接(top-left neighboring)エントリーから計算される。
本明細書で用いる場合、「置換行列」という用語は、アミノ酸置換に関するスコアを規定する行列のことを指し、これは物理化学特性の類似性および観測された置換頻度を反映する。これらの行列は、アラインメントを見いだすための統計学的手法の基礎である。
本明細書で用いる場合、「ファルマコフォア」という用語は、特定の生物標的構造との最適な超分子相互作用を確実に行わせるため、および生物応答を誘発または阻止するために必要な、立体的および電子的な特徴の集合のことを指す。ファルマコフォアは、ファルマコフォアに存在する立体的および電子的な特徴の集合のすべてまたは大部分を含み、かつ、ある部位と結合して生物応答を誘発または阻止する、1つまたは複数の候補化合物を設計するために用いることができる。
本明細書で用いる場合、「G-タンパク質共役受容体」(または「GPCR」)という用語は、ヘテロ三量体性グアニン-ヌクレオチド結合タンパク質(「G-タンパク質」)共役受容体のファミリーのメンバーのことを指す(Pierce, et al., Nat. Rev. Mol Cell. Biol. 3:630 (2002))。GPCRは、細胞外N末端および細胞内C末端を有する7回膜貫通ヘリックスという共通の構造的な特徴標識(signature)を有する。このファミリーは、配列の保存に基づいて少なくとも5つのクラスにグループ分けされている(A、B、C、D、Eなどと命名;例えば、Fredriksson, et al., Mol Pharmacol 63, 1256 (2003)を参照)。記述上の制約なしに用いる場合、「G-タンパク質共役受容体」には、ネイティブ性アミノ酸配列を有するGPCRのほかに、遺伝的に操作された、または他の様式で突然変異を生じたGPCRタンパク質が含まれる。突然変異性GPCRタンパク質には、点突然変異、短縮、挿入配列または他の化学修飾を含み、その上でリガンド結合活性を保っているものが含まれる。点突然変異を含む、本明細書で言及するGPCRの一例はβ2ARE122Wである。挿入されたT4リゾチーム配列を含む、本明細書で言及するGPCRの一例は、ヒトA2aアデノシン受容体-T4Lである。
クラスAまたはアミン群のアドレナリン作動性受容体は、最も徹底的に調べられているGPCRの一部であり(Kobilka, Annu Rev Neurosci 15, 87 (1992);Caron, et al., Recent Prog Horm Res 48, 277 (1993);Strosberg, Protein Sci 2, 1198 (1993);Hein, et al., Trends Cardiovasc Med 7, 137 (1997);Rohrer, J Mol Med 76, 764 (1998);Xiang, et al., Adrenergic Receptors, 267 (2006))、組織局在およびリガンド特異性、ならびにGタンパク質共役および下流エフェクター機構に違いのある、2つの主要なサブファミリーαおよびβで構成される(Milligan, et al., Biochem Pharmacol 48, 1059 (1994))。いくつかの代表的なクラスA受容体には、ヒトA2Aアデノシン受容体およびβ-2アドレナリン作動性受容体が含まれる。「β-2アドレナリン作動性受容体」(または「β2AR」もしくは「β2AR」)という用語は、拡散性ホルモンおよび神経伝達物質に応答し、かつ全身の平滑筋に主として存在する、クラスA GPCRのことを指す。記述上の制約なしに用いる場合、「β2AR」には、ネイティブ性アミノ酸配列を有するβ2ARのほかに、遺伝的に操作された、または他の様式で突然変異を生じたβ2ARタンパク質が含まれる。突然変異性β2ARタンパク質には、点突然変異、短縮、挿入配列または他の化学修飾を含み、その上でリガンド結合活性を保っているものが含まれる。点突然変異を含む、本明細書で言及するβ2ARの一例はβ2ARE122Wである。挿入されたT4リゾチーム配列を含む、本明細書で言及するβ2ARの一例は、ヒトアデノシン受容体β2ARE122W-T4Lである。
「xx-yyオングストロームの分解能で回折する」という用語は、所定の信号雑音比を上回る回折データを、記述した分解能の範囲内で得ることができることを意味する。いくつかの態様において、その回折データはシンクロトロン放射を用いて得ることができる。また、いくつかの態様において、その回折データを、液体窒素中での結晶の凍結後に得ることもできる。
本明細書で用いる場合、「原子座標」という用語は、分子構造内部の原子の三次元座標のセットのことを指す。1つの態様において、原子座標は、生物物理学の当業者に周知の方法に従ったX線結晶学を用いて得られる。簡潔に述べると、X線回折パターンは、X線を結晶から回折させることによって得ることができる。この回折データを用いて、結晶を構成する単位格子の電子密度マップを計算する;前記マップは、単位格子内部の原子の位置(すなわち、原子座標)を確定するために用いられる。当業者は、X線結晶学によって決定される構造座標のセットが標準誤差を含むことを理解している。他の態様において、原子座標は他の実験的な生物物理学的構造の決定方法を用いて得ることができ、これには電子回折法(電子結晶学としても知られる)および核磁気共鳴(NMR)法が含まれうる。さらに他の態様において、原子座標は分子モデリング用ツールを用いて得ることができ、それは非経験的(ab initio)タンパク質フォールディングアルゴリズム、エネルギー最小化および相同性に基づくモデリングのうち1つまたは複数に基盤を置くことができる。これらの手法は生物物理学およびバイオインフォマティクス分野の当業者に周知であり、以下にさらに詳細に説明されている。
結合ポケット、例えばβ2ARのリガンド結合ポケット、および/または本発明の他のアゴニスト/アンタゴニスト結合部位に関する原子座標は、本明細書に組み入れられたpdbファイル(付属書I)に示された座標、さらに実質的に等価な座標を範囲に含むものとする。実質的に等価な座標とは、座標系を規定するために用いられる1つまたは複数の基点または軸間角度の選択の違いを反映する変換によって、基準座標セットと関連づけることのできるもののことである。操作上、座標は、そのような座標によって表される構造を、構造に関する原子位置の二乗平均平方根偏差(RMSD)の違いが所定の閾値未満であるように重ね合わせることができる場合には「実質的に等価」である。いくつかの態様において、その閾値は、約5オングストローム未満または約4オングストローム未満または約3オングストローム未満または約2オングストローム未満または約1オングストローム未満または約0.9オングストローム未満または約0.8オングストローム未満または約0.7オングストローム未満または約0.6オングストローム未満または約0.5オングストローム未満または約0.4オングストローム未満または約0.3オングストローム未満である。好ましくは、座標は、RMSDが約1オングストローム未満である場合に「実質的に等価」であるとみなされる。構造の重層化およびRMSDの計算のための方法は当業者に周知であり、例えば、以下の表5に列記したプログラムのようなプログラムを用いて行うことができる。
構造的類似性は、例えば、目視検査および配列の比較を通じて、または、CLUSTAL(Wilbur et al., J Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, 726 730 (1983))もしくはCLUSTAL W(Thompson et al., Nucleic Acids Research, 22:4673 4680 (1994))、もしくはクエリーがタンパク質であるかDNAであるかにかかわらず利用可能な配列データベースのすべてを探索するように設計されている類似性検索プログラムのセットであるBLAST.RTM.(Altschul et al., .J Mol. Biol., October 5;215(3):403 10 (1990))などの周知のアラインメントソフトウエアプログラムを通じて当業者によって決定可能な、配列類似性から推測することができる。CLUSTAL WはEMBL-EBIのウェブサイト(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)で入手可能である;BLASTはNational Center for Biotechnologyのウェブサイト(http ://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)で入手可能である。第1のタンパク質または核酸配列の内部の残基は、第1および第2の配列のアラインメントを行った時にその2つの残基が同じ位置を占めるならば、第2のタンパク質または核酸配列の内部の残基と対応する。
2つまたはそれ以上の核酸配列またはポリペプチド配列の文脈における「一致」率(percent "identity")という用語は、最大の対応関係が得られるように比較およびアラインメントを行った場合に、以下に記載した配列比較アルゴリズムの1つ(例えば、BLASTPおよびBLASTN、または当業者が利用しうる他のアルゴリズム)を用いた、または目視検査による計測で、指定されたパーセンテージのヌクレオチドまたはアミノ酸残基が同じである、2つまたはそれ以上の配列または部分配列のことを指す。用途に応じて、「一致」率は、比較される配列のある領域にわたって、例えばある機能的ドメインにわたって存在することもでき、または代替的には、比較しようとする2つの配列の全長にわたって存在することもできる。
配列比較のためには、典型的には、1つの配列が、被験配列と比較するための参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを用いる場合には、被験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列の座標を指定して、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターを指定する。続いて、配列比較アルゴリズムが、指定されたプログラムのパラメーターに基づいて、参照配列に対する被験配列の配列一致率を算出する。
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2: 482 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48: 443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85: 2444 (1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.中のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により、または目視検査によって行うことができる(概論については、Ausubel et al., 下記を参照)。
配列一致率および配列類似性を決定するために適したアルゴリズムの一例はBLASTアルゴリズムであり、これはAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Information(NCBIのウェブサイト)を通じて公開されている。
「ステロール」という用語は、A環の3位にヒドロキシル基を有する、ステロイドのサブグループのことを指す。Fahy E. Subramaniam S et al., "A comprehensive classification system for lipids," J. Lipid Res. 46 (5):839-861 (2005)を参照。ステロールは、HMG-CoA還元酵素経路を介してアセチル-コエンザイムAから合成される両親媒性脂質である。分子全体は極めて平坦である。ステロールには、例えば、コレステロールまたはコレステリルヘミスクシネート(「CHS」)が含まれうる。
「残基に関する原子座標」という用語は、ある残基と関連のあるすべての残基に関する、または原子の一部、例えば側鎖原子などに関する座標のことを指す。
「候補化合物の原子座標」という用語は、化合物を構成するすべての原子、または化合物を含む原子のサブセットのことを指す。
「結合相互作用を特徴づけること」という用語は、第1の分子の任意の観測可能な性質を特徴づけること、および、第1の分子を第2の分子と、前記第1ならびに第2の分子が潜在的に結合しうる条件下で接触させた後に観測可能な性質の変化があるか否かを判定することを指す。
「アンタゴニスト」という用語は、タンパク質の活性部位と結合してそれをブロックするが、不活性状態と活性状態との間の平衡には影響を及ぼさない分子のことを指す。対照的に、「アゴニスト」とは、平衡を活性受容体状態の側へと推移させるリガンドのことである。「逆アゴニスト」とは、平衡をより不活性状態の側へと推移させる相互作用を通じて受容体の基礎活性を低下させるリガンドのことである。
Ballesteros-Weinstein番号付けは、本文および図面中にタンパク質の番号付けのための上付き記号として現れる。各ヘリックスの内部には、クラスA GPCRの間で最も保存されている単一の残基がある。この残基はX.50と命名されており、ここでxは膜貫通ヘリックスの番号である。そのヘリックス上の他のすべての残基は、この保存された位置を基準として番号付けされる。
本明細書および添付の特許請求項の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかに別のものを要求している場合を除き、複数形への言及も含むことに留意されたい。
膜タンパク質の回折品質結晶を作製するための方法
1つの局面において、本発明は、タンパク質を結晶化するための改変された脂質立方相中間相法(modified lipidic cubic mesophase method)(例えば、Cherezov et al., Biophysical J., v.83, 3393-3407 (2002)を参照)を提供する。本明細書に記載した新規方法は、膜タンパク質の回折特性結晶を生じさせており、G-タンパク質共役受容体タンパク質(「GPCR」)の結晶を生成させるために特に有用である。本方法は現在では、この重要なタンパク質ファミリーの多様なメンバーに対しても成功裏に適用され、2.5Åの範囲の分解能で回折する結晶を生じさせている。他の利点の中でもとりわけ、本方法は、結晶中にタンパク質と結合した安定化抗体が全く存在しなくても膜タンパク質の回折品質結晶を生成させることを可能にする。
本明細書に記載したLCP/ステロール結晶化法は、関心対象のタンパク質を含む溶液を、ホスト脂質、または脂質添加物を含むホスト脂質混合物と混合する段階を含む。本明細書に提示した教示が与えられることで、当業者は、種々のホスト脂質、例えば、モノオレイン、モノパルミトレインおよび/またはモノバクセニンといった水和した一不飽和モノアシルグリセロールが、立方相中間相の生成のためには十分であることを認識するであろう。ホスト脂質1-モノオレインは、本方法のある種の用途のために好ましいホスト脂質である。脂質混合物を利用する態様においては、ホスト脂質とは異なる脂質添加物、例えば、一不飽和モノアシルグリセロール、または膜もしくは膜結合性タンパク質と相互作用することが知られている他の疎水性分子、例えば2-モノオレイン、ホスファチジルコリン、カルジオリピン、リゾ-PC、ポリエチレングリコール脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(「DOPE」)、DOPE-Me、ジオレオイルホスファチジルコリン(「DOPC」)、アゾレクチンまたはステロール(例えば、コレステロール、エルゴステロール、など)が含められる。GPCR結晶化のための脂質混合物の一例は、コレステロールを脂質添加物として、ホスト脂質に対して1〜50%w/w、より好ましくは5〜20%、さらにより好ましくは8〜12%の比で含むものである。タンパク質混合物は、生理学的な関心対象のリガンド、および/またはタンパク質を安定化するリガンドを含みうる。GPCRの場合には、リガンドには、カラゾロール(逆アゴニスト)、チモロール、および以下のものを非限定的に含む他の分子などの周知のアゴニストを含む、当業者に公知のさまざまなアゴニストおよびアンタゴニストが含まれうる。リガンドの例には、カラゾロール、光および嗅覚刺激分子;アデノシン、ボンベシン、ブラジキニン、エンドセリン、y-酪酸(GABA)、肝細胞増殖因子、メラノコルチン、ニューロペプチドY、オピオイドペプチド、オプシン、ソマトスタチン、タキキニン、血管作動性腸管ポリペプチドファミリーおよびバソプレシン;生体アミン(例えば、ドパミン、エピネフリンおよびノルエピネフリン、ヒスタミン、グルタミン酸(代謝調節型作用)、グルカゴン、アセチルコリン(ムスカリン様作用)およびセロトニン);ケモカイン;炎症の脂質メディエーター(例えば、プロスタグランジンおよびプロスタノイド、血小板活性化因子およびロイコトリエン);ならびにペプチドホルモン(例えば、カルシトニン、C5aアナフィラトキシン、濾胞刺激ホルモン(FSH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、ニューロキニンおよび甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)およびオキシトシン)が非限定的に含まれる。
タンパク質混合物中のタンパク質の典型的な濃度は25〜75mg/mlであるが、この濃度はタンパク質の実体および精製方法に応じてさまざまであってよい。当業者は認識しているであろうが、濃度は、沈殿溶液を、タンパク質高含有(protein-laden)脂質溶液と配合した後に、核形成が起こるのに十分な度合いの不溶性がもたらされるのに十分なほど高くなければならない;その一方で、高すぎるタンパク質の濃度は、高品質の結晶の秩序立った成長を妨げる恐れがある。
脂質混合物は好ましくは、タンパク質混合物と配合され、例えばシリンジ混合器を用いてホモジネート化されて、均質な立方相を自然に生じる。典型的には、脂質混合物はタンパク質溶液に対して1:1、3:2、4:2w/wの脂質:タンパク質比で添加されるが、この比は、当業者により、例えば、タンパク質混合物中のタンパク質の濃度といったさまざまなパラメーターに応じて、望み通りに変更することができる。そのようにして得られたタンパク質高含有脂質立方相調製物を、続いて、混合された溶液を結晶化が起こっている間にインキュベートすることのできる、ウェルを有するガラスサンドイッチプレートのような適切な表面上または容器内にある沈殿溶液(結晶化溶液とも称する)と配合する。本方法に用いるタンパク質高含有脂質立方相の典型的な容積は10〜100nLであり、ある種の態様においては40〜60nLが好ましい。沈殿溶液の典型的な容積は20〜100倍の多さであり、例えば、タンパク質高含有脂質立方相が20nLの容積であれば、結晶化を開始させるためにおよそ1μLの沈殿溶液を添加する。
結晶化法に用いられる沈殿溶液は、ポリエチレングリコール、塩、および任意でアルコールなどの小型可溶性分子を含む、適切に緩衝化された溶液(すなわち、ネイティブ性タンパク質の生理的条件を近似するように緩衝化されている)である。
沈殿溶液中のポリエチレングリコールに関して、有用なPEG分子には、PEG 300、PEG 400、PEG 550、PEG 550mme、PEG 1000およびPEG 1500、ならびに平均分子量が2000未満である他のPEG分子が含まれる。ある種の態様においては、より平均分子量が大きいPEG分子(最大で20,000)または修飾PEG分子が好ましいことがある。いくつかの態様において、PEGまたは修飾PEGの平均分子量は400である。修飾PEGの例には、PEGラウレート、PEGジラウレート、PEGオレエート、PEGジオレエート、PEGステアレート、PEGジステアレート、PEGグリセリルトリオレート、PEGグリセリルラウレート、PEGグリセリルステアレート、PEGグリセリルオレエート、PEGバーム核油、PEG水素化ヒマシ油、PEGヒマシ油、PEGコーン油、PEGカプレート/カプリレートグリセリド、PEGカプレート/カプリレートグリセリド、PEGコレステロール、PEGフィトスレロール、PEGダイズステロール、PEGトリオレエート、PEGソルビタンオレエート、PEGソルビタンラウレート、PEGスクシネート、PEGノニルフェノール系列、PEGオクチルフェノール系列、メチル-PEG、PEG-マレイミド、PEG4-NHSエステルおよびメトキシポリ(エチレングリコール)(mPEG)が非限定的に含まれる。
PEGは、結晶化溶液中に、10〜60%v/v、最も典型的には20〜40%v/vの濃度で存在してよい。好ましい濃度は、利用するPEGの平均分子量に応じて異なると考えられ、すなわち、PEG≦1000に対しては10〜60%v/vのPEGが好ましいと考えられ、一方、PEG>1000に対しては10〜30%w/vが好ましいと考えられる(より平均分子量の大きいPEG配合物は、%v/vではなく%w/vで記載される)。
本方法に用いる塩に関しては、所与の結晶に対して最適なカチオンを通常は見いだすことができる。硫酸ナトリウムおよび硫酸リチウムはいずれも、GPCRの高分解能タンパク質を得るために有用なことが立証されている。この場合も、濃度は最高1Mまで変更することができ、およそ50〜200mMという比較的低い濃度が典型的には好ましい。他の有機塩、例えばクエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、ギ酸塩および酢酸塩を、結晶形成に対するそれらの影響に関してスクリーニングすることもできる。ある種の態様において、沈殿溶液はさらに、アルコール、ジオールまたはトリオール、例えばヘキサンジオール、ブタンジオールまたはそれらの誘導体といった小型有機分子を含む。これらの分子は、沈殿溶液中に適宜さまざまな濃度で存在してよいが、典型的には1〜20%v/vの範囲、より典型的には5〜10%v/vの範囲である。ある種の態様において、脂質添加物(タンパク質高含有脂質立方相混合物中)および小型分子(沈殿溶液中)の好ましい組み合わせは、最適な結果を生じさせる。そのような組み合わせの例には、1,4-ブタンジオールとDOPEまたはコレステロールの組み合わせ、および2,6-ヘキサンジオールとコレステロールの組み合わせが含まれる。
所与の系(例えば、タンパク質/リガンド系)に対して、微結晶からより大きな結晶への条件を最適化する上では、特定のステロールおよび特定の脂質の選択および濃度、ならびにpH、緩衝系、塩および塩濃度は、他の種類の結晶化方式と同じようにさまざまであってよい。上述したように、小型有機添加物、特にアルコール、および1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオールなどのジオールは、大きな回折品質結晶を生成させる上で特に有用な可能性がある。また、コレステロールおよび他のステロールの膜流動性変更特性のために、ステロールおよび沈殿物濃度の濃度は従属変数として扱うべきである。例えば、モノオレイン中のコレステロールの濃度を上昇させることは膜の剛性を高めるのに役立ち、これは脂質マトリックス内部での膜タンパク質の分散を緩徐化する可能性がある。その反対に、PEG 400の濃度を上昇させることは立方相を膨張させ、それによってマトリックスの格子パラメーターを増加させて脂質内部での分散を速める。前者の筋書きは結晶化の速度を遅くし、一方、後者は速度を増加させると考えられる。したがって、最適な核形成のためには、さらに高い分解能で回折する大きな秩序立った結晶の最適な成長のためには、この2つの作用を均衡させるべきである。
タンパク質高含有脂質立方相溶液および沈殿溶液の混合は、典型的には室温で行われる。設定の後に、混合された結晶化溶液を含むプレートを、結晶成長の出現に関して、必要に応じた頻度でモニターすることができる。当業者は、これらの条件のさらなる最適化が、例えば得られる回折品質結晶のサイズおよび数を最大限にするために、望ましい場合があることを認識しているであろう。結晶化のために好ましい分子および条件に関して決断を下す上で、当業者は、本明細書に記載した新規方法および実施例に加えて、周知の相図(phase diagram)および他の以前に決定された物理定数に依拠することもできる。ある種の脂質混合物については、タンパク質溶液と混合する前に、顕微鏡での映像化および/またはX線によってそれらの相挙動をプレスクリーニングすることで、最適化のプロセスを容易にすることができる。インメソ(in meso)結晶化ロボットおよび自動撮像装置を複数の96ウェル最適化スクリーンと組み合わせたものを用いることで、数千回ものの試行を比較的容易な様式で実施することができる。
タンパク質の修飾により、本明細書に記載したLCP/ステロール法を用いて、タンパク質のさらなる安定化を実現し、回折品質結晶の収量を向上させることも可能である。例えば、タンパク質の不安定な領域を、その構造が以前に知られているが(融合させた場合に)関心対象のタンパク質の生化学活性に有意な影響を及ぼさない、安定なタンパク質、例えばT4リゾチームの一部分の組み入れによって置換または安定化することができる。例えば、本明細書に記載したように(実施例3および4)、β2ARのECL2領域およびECL3領域を、そのような修飾によって安定化することができる。他の修飾には、その安定性および/または良好に結晶化する傾向を高めることを除いて、関心対象のタンパク質の特性を有意には変化させない、1つまたは複数の点突然変異が含まれる。例えば、β2AR(E122W)は、E122W点突然変異を含み、LPC/ステロール法で結晶を生じる。他のGPCR中の類似の残基を同じやり方で修飾することも可能と考えられる。修飾タンパク質および非修飾タンパク質の両方に適用されるLCP法の1つの利点は、上述したように、それが、結晶学者にとっての関心対象ではないと思われる抗体などの異種タンパク質の非存在下におけるタンパク質の結晶化を可能にする(が妨げない)ことである。
脂質立方相結晶化によるリガンドスクリーニングの方法
上記の脂質立方相結晶化法の諸局面は、脂質立方相マトリックスの内部での共結晶化の試行を通じて、内在性膜タンパク質の内部の低親和性脂質結合部位を決定する目的で改変することができる。この方法では、組成の異なるさまざまな脂質を種々の濃度でモノオレイン中に組み入れるが、ここでモノオレインはクロロホルム中に可溶化されているか、またはその流体等方性相になるまで加熱されている。続いて結晶成長を目視検査によって判定し、実験内部の任意の結晶性材料に関して回折データを収集する。脂質は低親和性であるため、本方法は、環状のものから非環状のタンパク質結合部位への脂質の自由な交換を導く環境を必要とする。結晶パッキング界面と関連性のない解釈可能な電子密度の存在により、膜環境における膜タンパク質の状況下での特定の脂質に関する特異的結合部位の推論が可能になる。結合は膜内部で起こるため、界面活性剤分配という複雑化要素は排除され、会合の熱力学はより現実的なものになる。本方法はそれ故に、膜タンパク質の以前には到達できなかった領域を詳細に特徴づけること、ならびに他の様式では検出されないままであると考えられる結合相互作用を記述および活用することを可能にする。さらに、この手法は、リガンドが水相への分配に依拠して脂質平面に並置されている膜タンパク質上のある部位を占有して、その部位の飽和を可能にするという、リガンド結合試験に適用することができる。これは刺激の強い有機共溶媒に対するタンパク質の曝露を制限し、さらには脂質立方相溶媒チャンネル内部で結晶化する可溶性タンパク質にとっても有用性がある可能性がある。
一例として、あるタンパク質に対する既存の結晶化条件を、β2-アドレナリン作動性受容体に対する新規リガンドのスクリーニングのための出発点として利用することができる。まず、クロロホルム中に可溶化したコレステロールを、クロロホルムで可溶化したモノオレイン中に10%の重量比で組み入れることができる。混合物の乾燥およびデシケーションの後に、30〜80mg/mLのタンパク質を2/3の容積比で組み入れて、結晶化の試行に用いることができる。同様のプロトコールは、コレステリルヘミスクシネートおよび種々の他のコレステロール類似体を含む他の脂質様分子に対して用いられており、いずれの場合にもタンパク質は結果的に生じる混合物中に組み入れられて、結晶化に関してスクリーニングされる。受容体に対する新規リガンドの結合は回折品質結晶によって指し示され、最終的には三次元構造データによって指し示される。コレステロールの類似体を組み入れることにより、本発明者らは、それらの各々のステロール環および極性モイエティに特有の構造的特徴に基づいて結合特異性を詳細に描写することができ、それらの組み入れが回折品質結晶をもたらしたならば、タンパク質とコレステロール類似体との間の相互作用が決定される。
このリガンドスクリーニングの方法は脂質様分子には限定されないが、これは本発明者らが脂質立方相を、オルトステリック結合部位として作用する他の高疎水性分子に対するホストとして用いうるためである。新規リガンドの構造に基づくまたは断片に基づく設計に伴う1つの問題は、潜在的なリード薬物に往々にして伴ってみられる疎水性である。これは水性ベースの結晶化スキームでは問題であるが、それはリガンドの溶解性が往々にして1mM未満であり、関心対象のタンパク質からの遅い解離速度(slow off rate)がなければ、0.5〜1mMのタンパク質濃度を往々にして必要とする結晶化条件では、結合部位はリガンド枯渇状態にあると考えられるためである。ジメチルスルホキシド(DMSO)またはジメチルホルムアミド(DMF)などの水性混和性有機溶媒中に疎水性リガンドを共可溶化する(co-solubilize)ように試みることはできる。しかし、これらは往々にしてタンパク質の安定性または結晶化特性と干渉する上、それらの有用性は一般的ではない。したがって、本方法は、疎水性リガンドを脂質立方相中に直接組み入れることを可能にし、タンパク質に対するその到達性は脂質と水相との間の分配および/または結合の到達性によって限定されると考えられる。
これらの方法に関するそのほかの手引きは、本明細書に提示したタンパク質結晶化の実際の例および予言的な例によって与えられる。
カラゾロールと結合したヒトβ2ARの結晶構造およびそれらの使用法
G-タンパク質共役受容体は、例えば細胞内シグナル伝達タンパク質、酵素またはチャンネルといった下流エフェクターに細胞外シグナルを間接的に伝達する細胞表面受容体である。G-タンパク質共役受容体膜タンパク質は、少なくとも6つのクラス(すなわち、A、B、C、D、EおよびF)の1つにグループ分けされる。哺乳動物G-タンパク質共役受容体の一例は、GPCRのクラスAサブファミリーの受容体の1つであるβ2A受容体である。
クラスA GPCRは、血管拡張、気管支拡張、神経伝達物質シグナル伝達、内分泌の刺激、消化管の蠕動、発生、有糸分裂誘発、細胞増殖、細胞遊走、免疫系機能および発癌といった種々の生理的プロセスに働く。したがって、クラスA GPCRを、これらのプロセスのモジュレーターを同定するためのスクリーニング標的として用い、続いてそれをこれらのプロセスと関連のある疾患、例えば癌および自己免疫などを改善するために働かせることができる。
本明細書に記載した、カラゾロールと結合したβ2ARの2.4オングストローム構造(PDB座標は付属書Iに掲載)は、ファルマコフォアおよび/または候補化合物を、デノボで、または既知の化合物の修飾によって合理的に設計するためのモデルとして用いることができる。以下に述べるように、この構造中の複数のリガンド結合部位は、多数のクラスA Gタンパク質共役受容体(GPCR)にわたって高度に保存されているアミノ酸を含み、このことはβ2ARの2.4オングストローム構造を、この受容体および他のものと結合するリガンド(例えば、治療用化合物)の合理的設計のために用いうることを指し示している。結晶構造座標の使用を通じて同定されたファルマコフォアおよび候補化合物は、β2ARの構造および/または結合特性を変化させるそれらの能力により、医薬品としての有用性を有すると考えられる。ファルマコフォアおよび候補化合物は、Hendryに対する米国特許第5,888,738号に記載された方法、およびWilsonらに対する米国特許第5,856,116号に記載された方法を含む、当技術分野で公知の任意の方法に従って決定することができ、それらの開示内容はいずれもそれらの全体があらゆる目的のために参照により組み入れられる。
本明細書に提示した構造データは、結晶構造データの分析によってヒトβ2ARまたは関連GPCR上の部位のモデルを開発するためのコンピュータモデリング手法とともに用いることができる。この部位モデルは部位表面の三次元トポロジー、ならびにファンデルワールス接触、静電相互作用および水素結合の見込みを含む諸因子を特徴づける。コンピュータシミュレーション手法を用いることで、モデル部位と相互作用するように設計された、プロトン、ヒドロキシル基、アミン基、二価カチオン、芳香族および脂肪族官能基、アミド基、アルコール基などを含む官能基の相互作用位置をマッピングすることができる。これらの基は、候補化合物がその部位と特異的に結合することを期待して、ファルマコフォアまたは候補化合物の中に設計することができる。ファルマコフォアの設計はそれ故に、候補化合物がファルマコフォアの内部に収まって、ある部位と水素結合、ファンデルワールス、静電的および共有結合性の相互作用を含む、利用可能な種類の化学的相互作用のいずれかまたはすべてを通じて相互作用するという能力の検討を必然的に伴うが、一般に、および好ましくは、ファルマコフォアは非共有結合機構を通じて部位と相互作用する。
ファルマコフォアまたは候補化合物がヒトβ2ARと結合する能力を、実際の合成の前にコンピュータモデリング手法を用いて分析することができる。標的と十分な結合エネルギー(すなわち、標的との解離定数が10-2Mまたはより強固であるものに対応する結合エネルギー)で結合することがコンピュータモデリングによって指し示された候補のみを合成して、それらがヒトβ2ARと結合する能力を、当業者に公知の結合アッセイまたは機能アッセイを用いて検査することができる。したがって、コンピュータ計算による評価の段階は、β2ARまたはその構成的結合部位の1つもしくは複数、または別のGPCRの関連した結合部位と十分な親和性で結合する可能性の低い化合物の不必要な合成をなくす。
ヒトβ2ARまたは候補化合物は、化学的実体または断片を、それらがβ2AR上の個々の結合標的部位、またはヒトβ2ARの結合ポケットを非限定的に含むそれらの結合部位と会合する能力に関してスクリーニングおよび選択を行う一連の段階によって、コンピュータ計算で評価して設計することができる。当業者は、いくつかの方法の1つを用いて、化学的実体または断片を、それらがこれらのヒトβ2AR結合部位の1つまたは複数と会合する能力に関してスクリーニングすることができる。例えば、カフェインおよび他のキサンチン分子に対して、キサンチン結合部位および非キサンチン結合部位の両方との相互作用を組み合わせることによって、向上した親和性および特異性を設計して加えることができる。
このプロセスは、付属書Iに示されているような、ヒトβ2AR座標、またはそれらの座標のサブセット(例えば、結合ポケット残基V117、T118、F193、Y199、A200、W286、F289、F290およびY316)に基づく、コンピュータスクリーン上での、例えば標的部位の目視検査によって始めることができる。続いて、選択した断片または化学的実体を、結晶構造データの分析から規定された通りに、種々の向きに配置すること、またはヒトβ2ARの内部の標的部位に「ドッキングさせること」ができる。ドッキングは、Quanta(Molecular Simulations, Inc., San Diego, Calif)およびSybyl (Tripos, Inc. St Louis, Mo.)などのソフトウエアを用い、その後に、CHARMM(Molecular Simulations, Inc., San Diego, Calif)、ICM(Molsoft, San Diego, Calif.)およびAMBER (University of California, San Francisco)などの標準的な分子力学力場を用いるエネルギー最小化および分子動力学を行うことによって遂行することができる。
特化したコンピュータプログラムを、断片または化学的実体を選択するプロセスに役立てることもできる。これらには、以下のものが非限定的に含まれる:GRID(Goodford, P. J., "A Computational Procedure for Determining Energetically Favorable Binding Sites on Biologically Important Macromolecules," J. Med. Chem., 28, pp. 849 857 (1985));GRIDはOxford University, Oxford, UKから入手可能である;MCSS (Miranker, A. and M. Karplus, "Functionality Maps of Binding Sites: A Multiple Copy Simultaneous Search Method." Proteins: Structure, Function and Genetics, 11, pp. 29 34 (1991));MCSSはMolecular Simulations, Inc., San Diego, Calif.から入手可能である;AUTODOCK (Goodsell, D. S. and A. J. Olsen, "Automated Docking of Substrates to Proteins by Simulated Annealing," Proteins: Structure, Function, and Genetics, 8, pp. 195 202 (1990));AUTODOCKはScripps Research Institute, La Jolla. Calif.から入手可能である;DOCK (Kuntz, I. D., et al. "A Geometric Approach to Macromolecule-Ligand Interactions," J. Mol. Biol., 161, pp. 269 288 (1982));DOCKはUniversity of California, San Francisco, Calif.から入手可能である;CERIUS II(Molecular Simulations, Inc., San Diego, Calif.から入手可能);およびFlexx (Raret, et al. J. Mol. Biol. 261, pp. 470 489 (1996))。
適した化学的実体または断片を選択した後に、それらを単一の化合物へと組み立てることができる。組み立ては、コンピュータスクリーン上に表示されたヒトβ2ARもしくはその結合部位または関連したGPCR受容体構造もしくはそれらの部分のそれに関連づけた、断片の三次元画像上での断片同士の互いの関係の目視検査によって進めることができる。目視検査に続いて、上記のQuantaまたはSybylプログラムのようなソフトウエアを用いて手作業でのモデル構築を行うことができる。
また、ソフトウエアプログラムを、当業者が個々の化学的実体または断片を連結する一助として用いることもできる。これらには以下のものが非限定的に含まれる:CAVEAT(Bartlett, P. A., et al. "CAVEAT: A Program to Facilitate the Structure-Derived Design of Biologically Active Molecules" In "Molecular Recognition in Chemical and Biological Problems," Special Publ, Royal Chem. Soc., 78, pp. 182 196 (1989));CAVEATはUniversity of California, Berkeley, Calif.から入手可能である;MACCS-3D(MDL Information Systems, San Lcandro, Calif.)などの3Dデータベースシステム;この分野はMartin, Y. C., "3D Database Searching in Drug Design," J. Med. Chem., 35:2145 2154 (1992)に総説されている);およびHOOK(Molecular Simulations Inc., San Diego, Calif.から入手可能)。
個々の断片または化学的実体から候補ファルマコフォアまたは候補化合物を構築することに代わる選択肢として、任意で補助因子、または標的部位と結合する公知の活性化物質もしくは阻害物質からの情報を含む、β2AR、その構成要素であるリガンド結合ポケット、または関連したGPCRにおける相同な腔の構造を用いて、それらをデノボ合成することもできる。デノボ設計は、LUDI(Bohm, H. J., "The Computer Program LUDI: A New Method for the De Novo Design of Enzyme Inhibitors," J Comp. Aid. Molec. Design, 6, pp. 61 78 (1992));LUDIはMolecular Simulations, Inc., San Diego, Calif.から入手可能である;LEGEND(Nishibata, Y., and Itai, A., Tetrahedron 47, p. 8985 (1991);LEGENDはMolecular Simulations, San Diego, Calif.から入手可能である;およびLeapFrog(Tripos Associates, St. Louis, Mo.から入手可能)を非限定的に含むプログラムによって実行することができる。
公知のβ2ARの機能的影響を、本明細書に記載した分子モデリングおよび設計の手法の使用を通じて変更することもできる。これは、公知のリガンドの構造を、ヒトA2Aアデノシン受容体上またはヒトβ2ARの1つもしくは複数の結合部位(例えば、本明細書に記載した結合ポケット)のモデル構造にドッキングさせ、リガンドとタンパク質との間の結合相互作用を最適化するようにリガンドまたはタンパク質モデル構造の形状および電荷分布を改変することによって行うことができる。改変された構造を合成し、または化合物のライブラリーから入手して、その結合親和性および/またはリボソーム機能に対する影響に関して検査することができる。当然ながら、ヒトβ2AR(またはそのサブユニット)とリガンドとの間の複合体の結晶構造が判明している場合には、前記複合体および本発明の構造との間の比較を行って、リガンド結合時に起こるヒトβ2ARコンフォメーションの変化に関してさらなる情報を得ることができる。この情報は、最適化されたリガンドの設計に用いることができる。(例えば、結合ポケットと相互作用することによって)ヒトβ2AR機能と干渉するかそれを活性化する化合物は、本発明のドッキング、共結晶化および最適化の用途に特に適する。
そのほかの分子モデリング手法を、本発明に従って採用することもできる。例えば、Cohen, N. C., et al. "Molecular Modeling Software and Methods for Medicinal Chemistry," J. Med. Chem., 33, pp. 883 894 (1990);Hubbard, Roderick E., "Can drugs be designed?" Curr. Opin. Biotechnol. 8, pp. 696 700 (1997);およびAfshar, et al. "Structure-Based and Combinatorial Search for New RNA-Binding Drugs," Curr. Opin. Biotechnol. 10, pp. 59 63 (1999)を参照。
上記の方法または当業者に公知の他の方法のいずれかに従ったファルマコフォアまたは候補化合物の設計または選択に続いて、ファルマコフォアの定義の範囲に含まれる候補化合物がヒトβ2ARもしくはそのリガンド結合部位と結合する効率、または代替的には、関連したGPCRもしくはその相同な部分と結合する効率を、コンピュータ計算による評価を用いて検査して最適化することができる。候補化合物は、例えば、その結合状態においてそれが好ましくは標的部位との反発的な静電相互作用を欠くように最適化することができる。これらの反発的な静電相互作用には、反発的な電荷-電荷間、双極子-双極子間および電荷-双極子間の相互作用が含まれる。候補化合物が標的と結合した時の、候補化合物と、そのリガンド結合部位を含むヒトβ2ARとの間のすべての静電相互作用の合計は、結合エンタルピーまたは自由エネルギーに対して中間的または有利な寄与を果たすことが好ましい。
化合物の変形エネルギーおよび静電相互作用を評価するための特定のコンピュータソフトウエアが、当技術分野では利用可能である。そのような用途のために設計されているプログラムには、Gaussian 92, 改訂版C (Frisch, M. J., Gaussian, Inc., Pittsburgh, Pa. (1992));AMBER, バージョン4.0(Kollman, P. A., University of California at San Francisco, (1994));QUANTA/CHARMM(Molecular Simulations, Inc., San Diego, Calif. (1994));およびInsight II/Discover(Biosym Technologies Inc., San Diego, Calif (1994))が非限定的に含まれる。これらのプログラムは、例えば、Silicon Graphicsワークステーション、Indigo、02-R10000またはIBM RISC/6000ワークステーションモデル550を用いて実行することができる。他のハードウエアおよびソフトウエアの組み合わせを上記の機能を遂行するために用いることもでき、それらは当業者に公知である。一般に、本明細書に記載した方法、特にコンピュータで実施される方法は、データを媒体に記録または記憶させる段階を含み、ここで媒体にはコンピュータ可読媒体が含まれうる。追加的または代替的に、本方法は、関心対象のユーザ、例えば、本発明に用いられるデバイスおよび/もしくはコンピュータの操作者にデータを報告または伝達する段階を含む;またはコンピュータが別の有用なタスクを遂行することもでき、例えば、本方法の1つまたは複数の判定段階の後にコンピュータの操作者に機能が完了したことを通知することもできる。
ひとたびファルマコフォアまたは候補化合物が上記のようにして最適に選択または設計されたところで、その結合特性を改良または改変するために、その原子または側基のいくつかに対して置換を施すことができる。一般に、最初の置換は、置換基が元の基とおよそ同じサイズ、形状、疎水性および電荷を有するという点で保存的である。コンフォメーションを変化させることが当技術分野で公知である成分は、置換を施す上で避けるべきである。置換された候補を、上記と同じ方法を用いて、ヒトβ2AR(またはヒトβ2ARの1つもしくは複数の結合部位)と嵌合する効率に関して分析することができる。
アッセイ
当業者に公知である機能アッセイの任意の1つを、候補化合物の生物活性を決定するために用いることができる。
候補化合物のヒトβ2AR(またはヒトβ2ARの1つもしくは複数の結合部位)との、または関連したGPCRもしくはそれらの部分との相互作用は、当業者に公知のものなどの、フィルター結合アッセイを含む直接結合アッセイを用いて評価することができる。結合アッセイを、例えば、キサンチン、ならびにテオフィリン、テオブロミンおよびカフェインのようなキサンチンを基にした化合物を含む、公知のヒトβ2AR結合性化合物の結合を競合的に阻害する候補化合物を評価するように改変することができる。これらのアッセイおよび他のアッセイは、国際公報WO 00/69391号に記載されており、そのすべての開示内容はその全体があらゆる目的のために参照により組み入れられる。リガンド結合およびシグナル伝達のモジュレーターをアッセイする方法には、ヒトβ2AR(またはヒトβ2ARの結合ポケットI、IIおよびIIIから選択される1つもしくは複数の結合部位)、細胞外ドメインなどのそれらの部分、またはGPCRの1つもしくは複数のドメインを含むキメラタンパク質などのGPCRを用いるインビトロリガンド結合アッセイ、天然型または組換え型のいずれかの、卵母細胞でのGPCR発現または組織培養細胞でのGPCR発現;天然型または組換え型のいずれかのGPCRの膜発現;GPCRの組織発現;トランスジェニック動物におけるGPCRの発現、などが含まれる。
上述したように、GPCRならびにそれらのアレル変異体および多型変異体はシグナル伝達に関与するG-タンパク質共役受容体であり、種々の細胞、例えばニューロン、免疫系細胞、腎細胞、肝細胞、結腸細胞、脂肪細胞および他の細胞における細胞機能とかかわっている。GPCRポリペプチドの活性は、例えば、リガンド結合(例えば、放射性リガンド結合)、二次メッセンジャー(例えば、cAMP、cGMP、IP3、DAGまたはCa2+)、イオン流、リン酸化レベル、転写レベル、神経伝達物質レベルなどを測定する、機能的、化学的および物理的な影響を決定するための種々のインビトロアッセイおよびインビボアッセイを用いて評価することができる。そのようなアッセイは、GPCRの阻害物質および活性化物質を試験するために用いることができる。特に、これらのアッセイは、例えば、受容体に対する天然リガンドの結合をモジュレートすることによって、および/または天然リガンドが受容体を活性化することをモジュレートすることによって、天然リガンドで誘導されるGPCR活性をモジュレートする化合物を試験するために用いることができる。典型的には、そのようなアッセイでは、天然リガンドの存在下で被験化合物をGPCRと接触させる。天然リガンドは、被験化合物の前、後またはそれと同時にアッセイ系に添加することができる。続いて、アッセイの結果、例えば結合のレベル、カルシウム動員などを、被験化合物の非存在下でGPCRおよび天然リガンドを含む対照アッセイにおけるレベルと比較する。
本発明のスクリーニングアッセイは、治療薬、例えば、GPCR活性のアンタゴニストとして用いうるモジュレーターを同定するために用いられる。例えば、カラゾロールはヒトβ2ARの公知の高親和性逆アゴニストである。
GPCRポリペプチドの機能に対する被験化合物の作用は、上記のパラメーターのいずれかを検討することによって測定することができる。GPCR活性に影響を及ぼす任意の適した生理的変化を、GPCRおよび天然リガンドを介したGPCR活性に対する被験化合物の影響を評価するために用いることができる。機能的な帰結を無傷の細胞または動物を用いて判定する場合には、伝達物質の放出、ホルモン放出、公知および性質不明の遺伝子マーカーの両者に対する転写上の変化(例えば、ノーザンブロット法)、細胞増殖またはpHの変化といった細胞代謝の変化、ならびにCa2+、IP3またはcAMPなどの細胞内二次メッセンジャーの変化といった種々の作用を測定することもできる。
GPCRシグナル伝達、およびシグナル伝達をアッセイする方法の全般的な総説については、例えば、Methods in Enzymology, vol. 237および238 (1994)およびvolume 96 (1983);Bourne et al., Nature 10:349:117-27 (1991);Bourne et al., Nature 348:125-32 (1990);Pitcher et al., Annu. Rev. Biochem. 67:653-92 (1998)を参照されたい。
GPCR活性のモジュレーターは、組換え型または天然型のいずれかのGPCRポリペプチドを用いて試験される。組換え型または天然型のいずれかのタンパク質を単離すること、細胞内で発現させること、細胞由来の膜で発現させること、組織または動物において発現させることができる。例えば、ニューロン、免疫系の細胞、脂肪細胞、腎細胞、形質転換細胞、または膜を用いることができる。モジュレーションを、本明細書に記載したインビトロアッセイまたはインビボアッセイまたは当技術分野で一般に公知である他のもののうち1つを用いて試験する。また、シグナル伝達を、受容体の細胞外ドメインを異種シグナル伝達ドメインと共有結合させたもの、または異種細胞外ドメインを受容体の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインと共有結合させたものといったキメラ分子を用いて、インビトロでの可溶状態または固体状態反応によって検討することもできる。さらに、関心対象のタンパク質のリガンド結合ドメインを、リガンド結合についてアッセイするためにインビトロでの可溶状態または固体状態反応に用いることもできる。
ヒトβ2AR(またはその1つもしくは複数の結合部位)またはキメラタンパク質誘導体に対するリガンド結合は、さまざまな方式で検査することができる。例えば、結合は溶液中で、二重層膜において、固相に結び付けて、脂質単層において、または小胞内で行わせることができる。典型的には、本発明のアッセイでは、天然リガンドのその受容体との結合を候補モジュレーターの存在下で測定する。または、候補モジュレーターの結合を天然リガンドの存在下で測定することもできる。多くの場合には、化合物が天然リガンドの受容体との結合に競合する能力を測定する競合アッセイが用いられる。結合はGPCR活性を評価することによって、または他のアッセイによって測定することができる;結合は、例えば、分光特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)の変化、水力学的(例えば、形状)変化、またはクロマトグラフィーもしくは溶解特性の変化を測定することによって検査しうる。
受容体-G-タンパク質相互作用を、モジュレーターに関するアッセイのために用いることもできる。例えば、GTPの非存在下では、天然リガンドなどの活性化物質の結合は、Gタンパク質(3種のサブユニットすべて)と受容体との強固な複合体の形成を招くと考えられる。この複合体は、上述したようなさまざまなやり方で検出可能である。そのようなアッセイを、阻害物質を探索するように改変することができる。例えば、リガンドをGTPの非存在下でヒトβ2ARおよびGタンパク質に添加して強固な複合体を形成させる。阻害物質は、受容体-Gタンパク質複合体の解離を観察することによって同定することができる。GTPの存在下では、Gタンパク質のαサブユニットの他の2つのGタンパク質サブユニットからの放出が、活性化の基準として役立つ。
活性化または阻害されたG-タンパク質は、続いてタンパク質、酵素およびチャンネルといった下流エフェクターの性質を変化させると考えられる。その古典的な例は、視覚系におけるトランスデューシンによるcGMPホスホジエステラーゼ、刺激性G-タンパク質によるアデニル酸シクラーゼ、Gqおよび他のコグネイトGタンパク質によるホスホリパーゼCの活性化、ならびにGiおよび他のGタンパク質による多様なチャンネルのモジュレーションである。ホスホリパーゼCによるジアシルグリセロールおよびIP3の生成、続いて、例えばIP3によるカルシウム動といった下流での帰結を検討することもできる。このように、モジュレーターを、リガンドを介した下流への作用を刺激または阻害する能力に関して評価することができる。他の例では、天然リガンドの能力と比較した上で、脂肪細胞で発現されたモジュレーターがGPCRを活性化する能力を、脂肪分解などのアッセイを用いて決定することができる(例えば、WO 01/61359号を参照)。
活性化されたGPCRは、受容体のC末端尾部(およびおそらくは他の部位も同様に)をリン酸化するキナーゼの基質となる。したがって、活性化物質はγ標識GTPから受容体への32Pの移行を促進すると考えられ、それをシンチレーションカウンターでアッセイすることができる。C末端尾部のリン酸化はアレスチン様タンパク質の結合を促進し、G-タンパク質の結合とは干渉すると考えられる。キナーゼ/アレスチン経路は、多くのGPCR受容体の脱感作において鍵となる役割を果たしている。このため、モジュレーターをβ-アレスチン動員を伴うアッセイを用いて同定することもできる。β-アレスチンは、活性化されていない細胞内の細胞質全体に分布する調節タンパク質としての役を果たす。適切なGPCRに対するリガンドの結合は細胞質から細胞表面へのβ-アレスチンの再分布にかかわり、そこでそれはGPCRと会合する。したがって、受容体活性化、およびリガンドで誘導される受容体活性化に対する候補モジュレーターの影響を、細胞表面へのβ-アレスチン動員をモニターすることによって評価することができる。これは多くの場合、標識β-アレスチン融合タンパク質(例えば、β-アレスチン-緑色蛍光タンパク質(GFP))を細胞内にトランスフェクトし、その分布を共焦点顕微鏡を用いてモニターすることによって行われる(例えば、Groarke et al., J. Biol. Chem. 274(33):23263-69 (1999)を参照)。
受容体内部移行アッセイを、受容体機能を評価するために用いることもできる。リガンドが結合すると、G-タンパク質共役受容体--リガンド複合体は、クラスリンで覆われた小胞のエンドサイトーシスプロセスによって原形質膜から内部移行する;受容体上の内部移行モチーフはアダプタータンパク質複合体と結合し、クラスリンで覆われた窪み(pit)および小胞の中への活性化受容体の動員を媒介する。活性化された受容体のみが内部移行するため、内部移行した受容体の量を決定することによってリガンド-受容体の結合を検出することが可能である。1つのアッセイ方式では、細胞に放射標識受容体を一過性にトランスフェクトして、リガンド結合および受容体内部移行を行わせるのに適切な期間にわたってインキュベートする。その後に、表面に結合した放射能を酸溶液による洗浄によって除去し、細胞を溶解させて、内部移行した放射能の量をリガンド結合のパーセンテージとして計算する。例えば、Vrecl et al., Mol. Endocrinol. 12:1818-29 (1988)およびConway et al., J. Cell Physiol. 189(3):341-55 (2001)を参照。加えて、受容体内部移行アプローチは、生細胞内の他の細胞成分とのGPCR相互作用のリアルタイム光学測定も可能にした(例えば、Barak et al., Mol. Pharmacol. 51(2)177-84 (1997))。モジュレーターは、対照細胞および候補化合物と接触させた細胞における受容体内部移行レベルを比較することによって同定することができる。例えば、ヒトβ2ARの候補モジュレーターを、天然リガンドが結合した時の受容体内部移行に対するそれらの影響を検討することによってアッセイする。
生細胞におけるGPCR-タンパク質相互作用を評価するために用いうる別の技術は、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)を伴う。BRETに関する詳細な考察は、Kroeger et al., J. Biol. Chem., 276(16):12736-43 (2001)に見ることができる。
受容体により刺激されるグアノシン5'-O-(γ-チオ)-三リン酸([35S]GTPγS)とG-タンパク質との結合を、GPCRのモジュレーターを評価するためのアッセイとして用いることもできる。[35S]GTPγSは、すべての種類のG-タンパク質に対して高い親和性を有する放射標識GTP類似体であり、高い比活性を伴って利用可能であり、非結合状態では不安定であるが、G-タンパク質と結合すると加水分解されない。このため、刺激下および非刺激下での[35S]GTPγS結合を、例えば液体シンチレーションカウンターを利用して比較することによって、リガンドが結合した受容体を定量的に評価することが可能である。受容体-リガンド相互作用の阻害物質は、[35S]GTPγS結合の低下をもたらすと考えられる。[35S]GTPγS結合アッセイの説明は、Traynor and Nahorski, Mol. Pharmacol. 47(4)848-54 (1995)およびBohn et al. Nature 408:720-23 (2000)に提示されている。
リガンドで誘導されるイオン流にモジュレーターが影響を及ぼす能力を決定することもできる。イオン流は、GPCRを発現する細胞または膜の分極化(すなわち、電位)の変化を決定することによって評価しうる。細胞分極化の変化を決定するための1つの手段は、電位固定法およびパッチクランプ法、例えば「細胞付着(cell-attached)」モード、「インサイドアウト(inside-out)」モードおよび「ホールセル」モードによって、電流の変化を測定すること(それによって分極化の変化を測定すること)である(例えば、Ackerman et al., New Engl. J. Med. 336:1575-1595 (1997))。細胞全膜電流は、標準的な方法を用いて好都合に決定される(例えば、Hamil et al., Pflugers. Archiv. 391:85 (1981)を参照。他の公知のアッセイには、以下のものが含まれる:放射標識イオン流アッセイおよび電位感受性色素を用いた蛍光アッセイ(例えば、Vestergarrd-Bogind et al., J. Membrane Biol. 88:67-75 (1988);Gonzales & Tsien, Chem. Biol. 4:269-277 (1997);Daniel et al. J. Pharmacol. Meth. 25:185-193 (1991);Holevinsky et al., J. Membrane Biology 137:59-70 (1994))。一般に、試験しようとする化合物は、1pM〜100mMの範囲で存在する。
G-タンパク質共役受容体に関する好ましいアッセイには、受容体活性を報告するためのイオン感受性または電位感受性色素が負荷された細胞が含まれる。また、そのような受容体の活性を決定するためのアッセイに、被験化合物の活性を評価するための陰性対照または陽性対照として本明細書に開示した他のG-タンパク質共役受容体および天然リガンドを用いることもできる。モジュレーター性化合物(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト)を同定するためのアッセイでは、細胞質中のイオンまたは膜電位のレベルの変化を、それぞれイオン感受性指示薬または膜電位蛍光指示薬を用いてモニターする。採用することのできるイオン感受性指示薬および電位プローブには、Molecular Probesの1997年カタログに開示されたものが含まれる。G-タンパク質共役受容体については、Gα15およびGα16などの乱交雑性(promiscuous)Gタンパク質を、選択したアッセイに用いることができる(Wilkie et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 88:10049-10053 (1991))。そのような乱交雑性G-タンパク質は、異種細胞において広範囲にわたる受容体とシグナル伝達経路との共役を可能にする。
リガンド結合による受容体活性化は、典型的にはその後の細胞内イベントを惹起し、例えば、IP3などの二次メッセンジャーを増加させ、それはカルシウムイオンの細胞内貯蔵物を放出させる。ある種のG-タンパク質共役受容体の活性化は、ホスホリパーゼCを介したホスファチジルイノシトールの加水分解を通じて、イノシトール三リン酸(IP3)の形成を刺激する(Berridge & Irvine, Nature 312:315-21 (1984))。IP3は続いて細胞内カルシウムイオン貯蔵物の放出を刺激する。このため、細胞質カルシウムイオンレベルの変化、またはIP3などの二次メッセンジャーレベルの変化を、G-タンパク質共役受容体機能を評価するために用いることができる。そのようなG-タンパク質共役受容体を発現する細胞は、細胞内貯蔵からのもの、およびイオンチャンネルの活性化を介したものという両者からの寄与の結果として細胞質中カルシウムレベルの上昇を呈する可能性があるため、この場合には、内部貯蔵からのカルシウム放出に起因する蛍光応答と識別するために、EGTAなどのキレート剤を任意で補充したカルシウム非含有緩衝液中でそのようなアッセイを実施することが、必ずしも必要というわけではないが望ましい。
他のアッセイは、リガンド結合によって活性化された時にアデニル酸シクラーゼなどの下流エフェクターを活性化または阻害することによって細胞内環状ヌクレオチド、例えばcAMPまたはcGMPなどのレベルの変化をもたらす受容体の活性を決定することを伴いうる。cAMPまたはcGMPの結合によって活性化されるとカチオン透過性になるヌクレオチド依存性イオンチャンネル、例えば、桿体光受容体細胞チャンネルおよび嗅覚ニューロンチャンネルが存在する(例えば、Altenhofen et at., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:9868-9872 (1991)およびDhallan et al., Nature 347:184-187 (1990)を参照)。受容体の活性化が環状ヌクレオチドレベルの低下をもたらす場合には、アッセイ系の細胞に受容体活性化化合物を添加する前に、細胞を、細胞内環状ヌクレオチドレベルを上昇させる作用物質、例えばフォルスコリンに曝露させることが好ましい可能性がある。この種のアッセイのための細胞は、環状ヌクレオチド依存性イオンチャンネルとGPCRホスファターゼをコードするDNA、および活性化された時に細胞質中の環状ヌクレオチドレベルの変化を引き起こす受容体(例えば、ある種のグルタミン酸受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体、ドパミン受容体、セロトニン受容体など)をコードするDNAによる宿主細胞のコトランスフェクションによって作製することができる。
1つの態様において、細胞内cAMPまたはcGMPの変化はイムノアッセイを用いて測定することができる。Offermanns & Simon, J. Biol. Chem. 270:15175-15180 (1995)に記載された方法を、cAMPのレベルを決定するために用いることができる。また、Felley-Bosco et al. Am. J. Resp. Cell and Mol. Biol., 11:159-164 (1994)に記載された方法を、cGMPのレベルを決定するために用いることができる。さらに、cAMPおよび/またはcGMPを測定するためのアッセイキットが米国特許第4,115,538号に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
別の態様において、ホスファチジルイノシトール(PI)加水分解を、米国特許第5,436,128号に従って分析することもでき、これは参照により本明細書に組み入れられる。手短に述べると、本アッセイは、細胞を3H-ミオイノシトールで48時間またはそれ以上にわたって標識することを伴う。標識された細胞を被験化合物で1時間処理する。処理された細胞を可溶化して、クロロホルム-メタノール-水中で抽出した後に、イノシトールリン酸をイオン交換クロマトグラフィーによって分離し、シンチレーション計数によって定量する。刺激倍数(fold stimulation)を、アゴニストの存在下におけるcpmと緩衝液対照の存在下におけるcpmとの比を算出することによって決定する。同様に、阻害倍数(fold inhibition)を、アンタゴニストの存在下におけるcpmと緩衝液対照(これはアゴニストを含みうることもあれば含まないこともある)の存在下におけるcpmとの比を算出することによって決定する。
別の態様においては、転写レベルを、リガンドで誘導されるシグナル伝達に対する被験化合物の影響を評価するために測定することができる。関心対象のタンパク質を含む宿主細胞を、天然リガンドの存在下で、被験化合物と何らかの相互作用を生じさせるのに十分な時間にわたって接触させ、続いて遺伝子発現のレベルを測定する。そのような相互作用を生じさせるための時間の量は、時間経過を辿って、転写レベルを時間の関数として測定することなどによって経験的に決定される。転写の量は、適していることが当業者に公知である任意の方法を用いて測定することができる。例えば、関心対象のタンパク質のmRNA発現はノーザンブロット法を用いて同定することができ、またはそれらのポリペプチド産物をイムノアッセイを用いて同定することもできる。または、レポーター遺伝子を用いる転写に基づくアッセイを米国特許第5,436,128号に記載された通りに用いることもでき、これは参照により本明細書に組み入れられる。レポーター遺伝子は、例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼでありうる。さらに、関心対象のタンパク質を、緑色蛍光タンパク質などの第2のレポーターとの結び付けを介して間接的レポーターとして用いることもできる(例えば、Mistili & Spector, Nature Biotechnology 15:961-964 (1997)を参照)。
続いて、転写の量を被験化合物の非存在下での同じ細胞における転写の量と比較することもでき、またはそれを関心対象のタンパク質を欠く実質的に同一な細胞における転写の量と比較することもできる。実質的に同一な細胞は、組換え細胞を調製したのと同じ細胞であるが異種DNAの導入によって改変されていないものから導き出すことができる。転写の量に違いがあれば、被験化合物が関心対象のタンパク質の活性を何らかの様式で変化させたことが指し示される。
GPCR阻害物質または活性化物質の可能性のあるもので処理した試料を、モジュレーションの程度を検討するために、被験化合物を伴わずに天然リガンドを含む対照試料と比較する。対照試料(活性化物質または阻害物質で処理していない)には相対的GPCR活性値100を割り当てる。GPCRの阻害は、GPCR活性値が対照に比して約90%、任意で50%、任意で25〜0%である場合に達成される。GPCRの活性化は、GPCR活性値が対照に比して110%、任意で150%、200〜500%または1000〜2000%である場合に達成される。
1つの態様において、本発明は、ドメインなどの分子、例えばリガンド結合ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン(例えば、7回膜貫通領域およびサイトゾルループを含むもの)、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、活性部位、サブユニット会合領域など;キメラ分子を作り出すために異種タンパク質と共有結合させたドメイン;天然型または組換え型のいずれかの、GPCR;またはGPCRを発現する細胞もしくは組織、を用いる可溶性アッセイを提供する。別の態様において、本発明は、ドメイン、キメラ分子、GPCR、またはGPCRを発現する細胞もしくは組織を固相基質に結び付ける、ハイスループット方式での固相ベースのインビトロアッセイを提供する。
ある種のスクリーニング方法は、本明細書に記載したGPCRの発現、または天然リガンド、例えばASPおよびスタニオカルシンなどのレベルをモジュレートする化合物に関するスクリーニングを行うことを伴う。そのような方法は一般に、被験化合物をGPCRまたはリガンドを発現する1つまたは複数の細胞と接触させ、続いて発現(転写物または翻訳産物)の増加または減少を検出する、細胞ベースのアッセイを実施することを伴う。そのようなアッセイは典型的には、内因性GPCRまたはリガンドを発現する細胞を用いて行われる。
発現は、数多くのさまざまなやり方で検出することができる。本明細書に記載したように、細胞におけるタンパク質の発現レベルは、細胞内で発現されたmRNAを、GPCRまたはタンパク質リガンドの転写物(またはそれに由来する相補的核酸)と特異的にハイブリダイズするプローブを用いて探索することによって決定することができる。探索は、細胞を溶解させてノーザンブロット法を実施すること、または細胞を溶解させずにインサイチューハイブリダイゼーション法を用いることによって実施することができる(上記参照)。または、タンパク質を、そのタンパク質と特異的に結合する抗体を用いて細胞溶解物を探索する免疫学的方法を用いて検出することもできる。
他の細胞ベースのアッセイには、そのタンパク質を発現しない細胞を用いて実施されるレポーターアッセイがある。これらのアッセイのある種のものは、検出可能な産物をコードするレポーター遺伝子と機能的に連結されたプロモーターを含む異種核酸構築物を用いて実施される。数多くのさまざまなレポーター遺伝子を利用することができる。レポーターの中には本来的に検出可能なものがある。そのようなレポーターの一例は、蛍光検出器を用いて検出しうる蛍光を発する緑色蛍光タンパク質である。他のレポーターには検出可能な産物を生じるものがある。多くの場合、そのようなレポーターは酵素である。例示的な酵素レポーターには、β-ガラクトシダーゼ、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼが非限定的に含まれる。
これらのアッセイでは、レポーター構築物を保有する細胞を被験化合物と接触させる。プロモーターの活性をそれとの結合によってモジュレートするか、またはプロモーターをモジュレートする分子を産生するカスケードを誘発する被験化合物が、検出可能なレポーターの発現を引き起こす。ある種の他のレポーターアッセイは、GPCRまたはリガンドおよびそれと機能的に連結されたレポーターの発現を活性化する転写制御エレメントを含む異種構築物を保有する細胞を用いて実施される。この場合も、転写制御エレメントと結合してレポーターの発現を活性化する作用物質、または転写制御エレメントと結合してレポーターの発現を活性化する作用物質の形成を誘発する作用物質を、レポーター発現に伴うシグナル生成によって同定することができる。
1つの態様において、本発明は、ドメインなどの分子、例えばリガンド結合ドメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン(例えば、7回膜貫通領域およびサイトゾルループを含むもの)、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、活性部位、サブユニット会合領域など;キメラ分子を作り出すために異種タンパク質と共有結合させたドメイン;天然型または組換え型のいずれかの、GPCR;またはGPCRを発現する細胞もしくは組織、を用いる可溶性アッセイを提供する。別の態様において、本発明は、ドメイン、キメラ分子、GPCR、またはGPCRを発現する細胞もしくは組織を固相基質に結び付ける、ハイスループット方式での固相ベースのインビトロアッセイを提供する。
本発明のハイスループットアッセイでは、最大で数千種もの異なるモジュレーターまたはリガンドを1日でスクリーニングすることが可能である。詳細には、マイクロタイタープレートの各ウェルを用いて、選択したモジュレーターの可能性のあるものに対して別々のアッセイを実行することもでき、または、濃度もしくはインキュベーション時間の影響を観察しようとする場合には、単一のモジュレーターを検査するためにウェルを5〜10個ずつ用いることができる。このため、1枚の標準的なマイクロタイタープレートで、約100種(例えば、96種)のモジュレーターをアッセイすることが可能である。1536穴のウェルプレートを用いれば、1枚のプレートで約100〜約1500種の異なる化合物をアッセイすることができる。1日当たり数枚の異なるプレートをアッセイすることが可能である;本発明の統合システムを用いて最大で約6,000〜20,000種類の化合物をアッセイでスクリーニングすることが可能である。
関心対象の分子を、共有結合またはタグを介した結合などの非共有結合によって、直接的または間接的に固体成分に結合させることができる。タグは種々の成分のうち任意のものでよい。一般的には、タグと結合する分子(タグ結合剤)を固体支持体に固定し、タグが付加された関心対象の分子(例えば、関心対象のシグナル伝達分子)、タグとタグ結合剤との相互作用によって固体支持体に結び付ける。
文献中に詳細に記載された公知の分子相互作用に基づいて、さまざまなタグおよびタグ結合剤の任意のものを用いることができる。例えば、ビオチン、プロテインAまたはプロテインGのようにタグが天然の結合剤を有する場合には、それを適切なタグ結合剤(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、免疫グロブリンのFc領域など)との結合に用いることができる。ビオチンなどの天然の結合剤を備えた分子に対する抗体も広く入手可能であり、適切なタグ結合剤についても同様である;例えば、SIGMA Immunochemicals 1998年カタログ、SIGMA, St. Louis MOを参照されたい)。
同様に、任意のハプテン性化合物または抗原性化合物を適切な抗体と組み合わせて用いて、タグ/タグ結合剤の対を形成させることもできる。数千種もの特異抗体が市販されており、ほかにも多くの抗体が文献中に記載されている。例えば、1つの一般的な構成において、タグは第1の抗体であり、タグ結合剤は第1の抗体を認識する第2の抗体である。抗体-抗原相互作用のほかに、受容体-リガンド相互作用もタグおよびタグ結合剤の対として適している。例えば、細胞膜受容体のアゴニストおよびアンタゴニスト(例えば、トランスフェリン、c-kit、ウイルス受容体リガンド、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、インターロイキン受容体、免疫グロブリン受容体および抗体、カドヘリンファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリーなどの細胞受容体-リガンド相互作用;例えば、Pigott & Power, The Adhesion Molecule Facts Book I (1993)を参照。同様に、毒素および毒液、ウイルスエピトープ、ホルモン(例えば、オピエート、ステロイドなど)、細胞内受容体(例えば、ステロイド、甲状腺ホルモン、レチノイドおよびビタミンD;ペプチドを含む種々の小型リガンドの作用を媒介するもの)、薬物、レクチン、糖、核酸(直鎖状重合体および環状重合体の両方の形態)、オリゴ糖、タンパク質、リン脂質および抗体はいずれも、さまざまな細胞受容体と相互作用することができる。
ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミドおよびポリアセテートといった合成重合体も、適切なタグまたはタグ結合剤を形成することができる。その他の多くのタグ/タグ結合剤の対も、本開示を吟味することによって当業者には明らかであるように、本明細書に記載したアッセイに有用である。
ペプチド、ポリエーテルなどの一般的なリンカーもタグとして有用であり、これには約5〜200アミノ酸のポリグリシン(poly-gly)配列などのポリペプチド配列が含まれる。そのような柔軟性のあるリンカーは当業者に公知である。例えば、ポリ(エチレングリコール)リンカーは、Shearwater Polymers, Inc. Huntsville, Ala.から販売されている。これらのリンカーは任意でアミド結合、スルフヒドリル結合またはヘテロ官能性結合を有してもよい。
タグ結合剤を、現在用いうる種々の方法のうち任意のものを用いて固体基質に固定する。固体基質は一般的には、基質の全体または一部を、タグ結合剤の一部分と反応する化学基を表面に固定させる化学試薬に曝露させることによって、誘導体化または官能性付与を受ける。例えば、比較的長い鎖部分を結び付けるのに適した基には、アミン基、ヒドロキシル基、チオール基およびカルボキシル基が含まれると考えられる。ガラス表面などの種々の表面に官能性を付与するためには、アミノアルキルシランおよびヒドロキシアルキルシランを用いることができる。そのような固相バイオポリマーアレイの構築は文献に詳細に記載されている。例えば、Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154 (1963)(ペプチドなどの固相合成を記載している);Geysen et al., J. Immun. Meth. 102:259-274 (1987)(ピン上での固相成分の合成を記載している);Frank & Doring, Tetrahedron 44:60316040 (1988)(セルロースディスク上での種々のペプチド配列の合成を記載している);Fodor et al., Science, 251:767-777 (1991);Sheldon et al., Clinical Chemistry 39(4):718-719 (1993);およびKozal et al., Nature Medicine 2(7):753759 (1996)(いずれも固体基質に固定したバイオポリマーのアレイを記載している)を参照のこと。タグ結合剤を基質に固定する非化学的アプローチには、加熱、UV照射による架橋などといった他の一般的な方法が含まれる。
モジュレーター
本発明の方法に従って同定された阻害物質および/または活性化物質は、さまざまな源から入手しうる化合物のライブラリーから得ることができ、または当技術分野で公知のコンビナトリアル化学アプローチによって導き出すこともできる。そのようなライブラリーには、利用可能なChemical Director、Maybridgeおよび天然物コレクション(natural product collection)が非限定的に含まれる。本発明の1つの態様においては、構造が公知であるか予想されている化合物のライブラリーを、本発明のヒトβ2ARの構造とドッキングさせることができる。別の態様において、リガンド結合部位に対するリガンド結合に関するライブラリーは、カラゾロールおよび関連化合物を含みうる。別の態様において、ライブラリーはリンカー成分またはモイエティを含みうる。いくつかの態様において、リンカーは約10〜22個の原子を含むことができ、かつC、O、N、Sおよび/またはH原子のうち1つまたは複数を含みうる。別の態様において、ライブラリーは、リガンド結合部位(リガンド、アゴニストまたはアンタゴニスト結合ポケットとしても知られる)成分またはモイエティを含みうる。いくつかの態様において、ライブラリーは薬物様分子、すなわち、GPCRと結合すること、および/またはその生理的機能に影響を及ぼすことが知られている1つまたは複数の化合物を含みうる。
いくつかの態様において、本発明は、GPCR活性のモジュレーターとして検査しうる化合物を含む。GPCRのモジュレーターとして検査される化合物は、任意の小型の化合物または生物的実体であってよい。典型的には、被験化合物は小型の化学分子およびペプチドであると考えられる。本質的にあらゆる化合物を、本発明のアッセイにおいてモジュレーターまたはリガンドの可能性のあるものとして用いることができるが、ほとんどの場合は、化合物を水性溶液または有機溶液(特にDMSOを基剤とするもの)中に溶解させることができる。アッセイは、アッセイの工程を自動化することによって大規模化学ライブラリーをスクリーニングするように設計される。アッセイは典型的には、同時並行的に実行される(例えば、自動機械アッセイ(robotic assay)におけるマイクロタイタープレート上でのマイクロタイター方式で)。化合物の供給元が、Sigma(St. Louis, MO)、Aldrich(St. Louis, MO)、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(Buchs Switzerland)などを含め、数多くあることは知られているであろう。
1つの好ましい態様において、ハイスループットスクリーニング方法は、治療用化合物の可能性のあるもの(モジュレーターまたはリガンド化合物の可能性のあるもの)を数多く含むコンビナトリアル化学ライブラリーまたはペプチドリガンドライブラリーを提供することを伴う。続いて、そのような「コンビナトリアル化学ライブラリー」または「リガンドライブラリー」を、望ましい特徴的な活性を呈するライブラリーのメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定するために、本明細書に記載したような1つまたは複数のアッセイでスクリーニングする。このようにして同定された化合物は、従来の「リード化合物」として役立てること、またはそれ自体を治療薬の可能性のあるもの、もしくは実際の治療薬として用いることができる。
コンビナトリアル化学ライブラリーは、試薬などの多数の化学的「構成単位(building block)」を組み合わせることにより、化学合成または生物合成のいずれかによって生成された多様な化合物の集成物である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの直鎖状コンビナトリアル化学ライブラリーは、一群の構成化学単位(アミノ酸)を所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物におけるアミノ酸の数)に関して考えられるすべてのやり方で組み合わせることによって生成される。化学的構成単位のこのようなコンビナトリアル混合を通じて、何百万もの化合物を合成することができる。
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者に周知である。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37: 487-493 (1991)およびHoughton et al., Nature 354: 84-88 (1991)を参照)が非限定的に含まれる。多様な化学物質ライブラリーを作製するために他の化学物質を用いることもできる。そのような化学物質には、ぺプトイド(例えば、PCT公報WO 91/19735号)、コード化ペプチド(例えば、PCT公報WO 93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公報WO 92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピンおよびジペプチドなどのディバーソマー(diversomer)(Hobbs et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90: 6909-6913 (1993))、ビニル性ポリペプチド(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114: 6568 (1992))、グルコーススカフォールディングを有する非ペプチド性ペプチド模倣物(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114: 9217-9218 (1992))、小型化合物ライブラリーの類似の有機合成(Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116: 2661 (1994))、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 261: 1303 (1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J. Org. Chem. 59: 658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel, Berger and Russell & Sambrook、いずれも前記、を参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al., Nature Biotechnology, 14(3): 309-314 (1996)およびPCT/US96/10287号を参照)、糖質ライブラリー(例えば、Liang et al., Science, 274: 1520-1522 (1996)および米国特許第5,593,853号を参照)、小型有機分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum C&EN, January 18, page 33 (1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルフィノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照)が非限定的に含まれる。
コンビナトリアルライブラリーの調製のための装置は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Wobum, Mass., 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, Mass.を参照)。加えて、数多くのコンビナトリアルライブラリーがそれ自体で市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照)。
ヒトβ2ARに対する公知のリガンドの結合および/または活性と競合するモジュレーターは、冠動脈疾患、アテローム硬化症、血栓症、肥満、糖尿病、卒中および他の疾患を非限定的に含む、さまざまな疾患を治療するために用いうることに留意されたい。
1つの態様において、モジュレーターは、GPCR、例えばヒトβ2AR上のある部位と結合する。1つの局面において、その部位はカラゾロール結合部位である。1つの関連した局面において、その部位はリガンド結合部位である。別の局面において、モジュレーターは、結合部位と結合する第1のモイエティを有する。別の局面において、第1のモイエティはリンカーと連結されている。別の局面において、第1のモイエティおよびリンカーは、第1のモイエティによって結合されるもの以外の部位と結合する、少なくとも1つの別のモイエティと連結されている。別の局面において、2つまたはそれ以上のモイエティはリンカーによって連結されてはおらず、いずれも組成物中に存在する。
β2ARのコンピュータを利用したモデリング
タンパク質-リガンドのドッキングは、タンパク質受容体、例えばヒトβ2ARが、分子基質および化合物を認識し、相互作用して会合する原理を利用することで、所与の化合物と三次元構造が知られている標的タンパク質との間の会合によって生じる構造を予測することを目指している。
タンパク質-リガンドのドッキングにおいて、検索アルゴリズムは、真の結合様式を含むように十分に、タンパク質-リガンド系の自由度をサンプリングすることを可能にする。このリガンド柔軟性の問題を取り扱うために、3通りの一般的カテゴリーのアルゴリズムが開発されている:系統的な方法;ランダムまたは確率論的な方法;およびシミュレーション法。
系統的検索アルゴリズムは、分子におけるすべての自由度を探ろうとする。これらのアルゴリズムはさらに、3つのタイプに分けることができる:コンフォメーション検索法、断片化法およびデータベース法。
コンフォメーション検索法では、リガンド中の回転可能なすべての結合を、すべての可能な組み合わせが生成されて評価されるまで、一定の増分を用いて360゜全体にわたって系統的に回転させる。生成される構造の数が、回転可能な結合の数に伴って莫大に増加するため(組み合わせ爆発)、この種の方法の用途は、その最も純粋な形態では極めて限られている。
断片化法は、リガンドを活性部位の中に徐々に成長させるために2種類の異なるアプローチを用いる。1つのアプローチは、いくつかの断片を部位の中にドッキングさせ、それらを共有結合させて初期リガンドを再び作り出すことによる(「プレース・アンド・ジョイン(place-and-join)アプローチ」)。別のアプローチは、リガンドを、第1の場所にドッキングされる強固なコア断片と、その後に連続的に追加される柔軟な領域とに分けることによる(「漸増(incremental)アプローチ」)。DOCK(上記参照)は、断片化検索法を用いるドッキングプログラムの一例である。
データベース法は、組み合わせ爆発の問題に対処するために、事前に生成されたコンフォメーションまたはコンフォメーション集合のライブラリーを用いる。データベース法を用いるドッキングプログラムの一例はFLOGであり、これは1分子当たり25通りのデータベースコンフォメーションの小規模セットをディスタンス・ジオメトリー(distance geometry)に基づいて生成し、その後にそれらを厳密なドッキングプロトコールに供する。
ランダム検索アルゴリズムは、単一のリガンドまたはリガンドの集団に対してランダムな変化を実行することによってコンフォメーション空間をサンプリングする。各段階で、実行した変更を、所定の確立関数に基づいて受け入れるか拒絶する。ランダムアルゴリズムに基づいて、方法には3通りの基本的なタイプがある:モンテカルロ法(MC)、遺伝的アルゴリズム法(GA)およびタブー検索(Tabu Search)法。
シミュレーション法は、ニュートンの運動方程式の解の計算に基づいて、ドッキング問題に対してかなり異なるアプローチを用いる。2つの主要なタイプが存在する:分子動力学(MD)および純粋なエネルギー最小化法。
タンパク質-リガンドのドッキングに通常用いられるスコアリング関数は一般に、7〜10kJ/molの範囲内にある結合自由エネルギーを予測することができ、3つの主要なクラスに分けることができる:力場ベースの、経験的な、および知識ベースのスコアリング関数。
力場ベースのスコアリングでは、標準的な力場が、受容体とリガンドとの間の相互作用エネルギーおよびリガンドの内部エネルギーという2種のエネルギーの合計を数量化する。これらのエネルギーは通常、ファンデルワールスエネルギー項と静電エネルギー項との組み合わせを通じて説明される。ファンデルワールスエネルギー項を記述するにはLennard-Jonesポテンシャルが用いられ、一方、静電項は、電荷-電荷間相互作用による寄与を小さくする距離依存的な誘電関数を伴うクーロンの公式によって与えられる。
経験的スコアリング関数は、結合エネルギーをいくつかの個々の無相関項の合計によって概算しうるという概念を基にしている。実験的に決定された結合エネルギー、および時には実験的に分解された受容体-リガンド複合体の訓練セットを用いることで、回帰分析によってさまざまな項に関する係数を決定する。
知識ベースのスコアリング関数は、結合エネルギーの代わりに、実験的に決定された構造を再現することを目指して統計学的に導き出された規則および原則に従うことに焦点を置き、明示的にモデル化することが困難な結合作用を暗黙的に捉えようとする。典型的には、これらの方法は、極めて単純な原子相互作用-対ポテンシャル(atomic interaction-pair potential)を用い、大規模な化合物データベースを効率的にスクリーニングすることを可能にする。これらのポテンシャルは、構造が判明しているタンパク質-リガンド複合体の大規模データセット中の種々の原子-原子対接触および他の典型的な相互作用の発生頻度に基づく。したがって、それらの導出は、限定的な構造セットにおいて入手可能な情報に依存する。
コンセンサススコアリング(consensus scoring)は、個々のスコアリング関数からの誤差を補償するために、種々のスコアから得られた情報を組み合わせて、それ故に正しい解を見いだす確率を向上させる。いくつかの研究により、個々の関数スキームの使用との関連でコンセンサススコアリング法の奏功性が実証されている。
上記のタンパク質-リガンドドッキング法を用いて、選択した化学物質ライブラリーの化合物(例えば、上記参照)と、付属書Iに記載したヒトβ2AR構造内の結合部位との間に予想される会合を構成させることができる。したがって、これらの方法は、シミュレーション下での化合物のドッキングに基づいて、ヒトβ2ARの結合部位または腔のいずれかにおける、任意の公知の化合物に関する結合プロフィールの生成を可能にすると考えられる。
別の態様においては、アミノ酸配列によってコードされた構造情報に基づいて候補クラスA GPCRの三次元構造を生成するためにコンピュータシステムを用いる、コンピュータ支援によるドラッグデザインの一形態が用いられる。これは、候補化合物を、予想されるGPCR構造結合部位の1つまたは複数の中にそれらがドッキングする能力に基づいて同定するための、上記の方法の使用を可能にすると考えられる。1つの局面においては、GPCRの入力アミノ鎖配列が、コンピュータプログラム内にあらかじめ設定されたアルゴリズムと直接かつ能動的に相互作用して、クラスA GPCRの二次、三次および四次構造モデルが生成される。続いて、クラスA GPCRのモデルを、その結合部位、例えば結合ポケットの位置および構造を同定するために検討する。続いて、予想された結合部位の位置および構造を用いることで、リガンド-受容体結合をモジュレートするさまざまな化合物を、上記の方法を用いて同定する。
GPCRの三次元構造モデルは、少なくとも10アミノ酸残基のタンパク質アミノ酸配列、またはGPCRポリペプチドをコードする対応する核酸配列をコンピュータシステムに入力することによって生成される。アミノ酸配列は、タンパク質の構造情報をコードする、タンパク質の一次配列または部分配列に相当する。少なくとも10残基のアミノ酸配列(または10アミノ酸をコードするヌクレオチド配列)を、コンピュータのキーボード、さらには電子記憶媒体(例えば、磁気ディスケット、テープ、カートリッジおよびチップ)、光メディア(例えば、CD ROM)、インターネットのサイトから配付された情報、およびRAMを非制限的に含むコンピュータ可読担体から、コンピュータシステムに入力する。続いて、当業者に知られたソフトウエアを用いて、アミノ酸配列とコンピュータシステムとの相互作用により、GPCRの三次元構造モデルを生成する。タンパク質構造モデリングの任意の方法、例えば非経験的(ab-initio)モデリング、スレッディング(threading)または配列-配列に基づく折り畳み認識の方法など。1つの態様においては、タンパク質構造モデリングに関するAS2TSシステムが用いられる。他の態様においては、配列アラインメントを、タンパク質構造をモデル化しようとするタンパク質配列のセットを決定するためのタンパク質配列類似性の閾値と組み合わせて用いる。1つの局面においては、当業者に公知のタンパク質構造データバンク中の経験的構造が解明されたタンパク質の配列を用いてモデル化しようとする配列のセットについて、配列アラインメントを生成させる。モデル化しようとする配列が、タンパク質構造が判明している1つまたは複数の配列と十分な類似性を有するならば、その配列の三次元構造をモデル化することができる。
このアミノ酸配列は、関心対象のGPCRの二次、三次および四次構造を生成するために必要な情報をコードする一次構造に相当する。1つの態様において、ソフトウエアは、一次配列によってコードされるある種のパラメーターを調べて構造モデルを生成する。これらのパラメーターは「エネルギー項」と呼ばれ、これには主として、静電ポテンシャル、疎水性ポテンシャル、溶媒接触表面および水素結合が含まれる。二次エネルギー項にはファンデルワールスポテンシャルが含まれる。生体分子は累積的様式でエネルギー項が最小となるような構造をとる。このため、コンピュータプログラムは、一次構造またはアミノ酸配列によってコードされるこれらの項を用いて二次構造モデルを作り出す。
続いて、二次構造によってコードされるタンパク質の三次構造が、二次構造のエネルギー項に基づいて生成される。ユーザはこの時点で、タンパク質が膜結合型または可溶型のいずれであるか、体内でのその位置、およびその細胞内位置、例えば細胞質、表面または核などの追加の変数を入力することができる。これらの変数が二次構造のエネルギー項とともに用いられて、三次構造のモデルが生成される。三次構造のモデル化に際して、コンピュータプログラムは二次構造の疎水面同士を合致させるとともに、二次構造の親水面同士を合致させる。
別の態様において、タンパク質構造アラインメントは、β2ARの公知の構造(付属書I)を用いてGPCRの構造を決定するために用いることができる。タンパク質構造アラインメントは、好ましくは、ポリペプチドの三次元構造の「主軸」を形成する炭素α原子のセットの対応関係のセットであるが、他の主軸または側鎖原子のアラインメントも想定することができる。これらの対応関係は、2セットの炭素α原子間の距離を最小化する目的で2セットの原子をコンピュータ計算で整列化して重ね合わせることによって生成される。主軸内の対応する炭素α原子すべての二乗平均平方根偏差(RMSD)が、アラインメントの質の量的尺度として一般的に用いられる。アラインメントの別の量的尺度は、等価な、または構造的に整列化された残基の数である。
別の態様において、GPCR構造は、2セットの炭素α原子(すなわち、ヒトβ2ARおよび未知のGPCR構造のα炭素原子)間の距離を最小化するように2セットの原子をコンピュータ計算で整列化して重ね合わせ、その後にシミュレーション下でのアニーリングおよびエネルギー最小化のうち1つまたは複数を行うことによって、ヒトβ2ARの解明された構造に基づいて計算される。この計算の結果は、α炭素主軸ならびに側鎖原子に関する原子座標を提供する、GPCRに関するコンピュータ計算された構造である。
最適な対応関係のセットを生成するためのさまざまな方法を、本発明に用いることができる。いくつかの方法は、距離行列の計算を用いて最適アラインメントを生成する。また別の方法は、RMSDを一定値に近く保ちながら等価な残基の数を最大限にする。
対応関係の計算においては、アラインメントのストリンジェンシーを高めるため、または低下させるために、さまざまなカットオフ値を指定することができる。これらのカットオフ値は、オングストローム単位の距離を用いて指定することができる。本発明で採用するストリンジェンシーのレベルに応じて、用いられる距離カットオフ値は10オングストローム未満または5オングストローム未満または4オングストローム未満または3オングストローム未満である。当業者は、ストリンジェンシー基準の有用性が構造決定の分解能に依存することを認知しているであろう。
本発明の別の態様において、残基-残基対応関係のセットは、米国特許公報第2004/0185486号に記載されたようなローカル-グローバル(local-global)アラインメント(LGA)を用いて作り出される。この方法では、最も類似性の高い領域を検出するために、局所的な重置(superposition)のセットを作り出す。LGAスコアリング関数には、タンパク質間の局所的および全体的な構造類似性のある領域の検出のために設定された、LCS(最長連続セグメント)および(GDT(グローバル距離テスト(global distance test))という2つの成分がある。2つのタンパク質構造を比較する上で、LCS手順は、選択したRMSDカットオフ値の下で適合しうる最長残基セグメントの位置を特定して重ね合わせることができる。GDTアルゴリズムは、LCSを用いて行った評価を補完するように設計されており、指定された距離カットオフ値を超えて離れてはいない「等価な」残基の最大(必ずしも連続的ではない)セットを検索する。
上記のタンパク質構造アラインメントを用いることで、付属書Iにおけるヒトβ2ARの構造を、他のGPCRおよび/またはそれらの予想されるリガンド結合部位の構造を識別するためのモデルとして用いることができる。
ひとたびGPCR構造が生成されれば、結合ポケットをコンピュータシステムによって同定することができる。コンピュータ計算モデルは、GPCRの三次元構造の特徴づけによって、それらの領域を同定しようとする。結合ポケットを同定する方法のいくつかは、重み付けドローネー三角分割法(weighted Delaunay triangulation)などの三角分割法を用いて結合ポケットを決定する(castP)。また別の方法は、球体を用いてタンパク質ポケット容積を決定する(Q-site-finder, UniquePocket)。保存された結合部位の同定は、結合ポケットなどの保存された領域を、例えば配列アラインメントの使用を通じて、前述の領域を形成する残基を相同なタンパク質配列または構造における保存された残基と関連づけることを通じて同定しようとする。
GPCRにおける結合ポケットを同定する1つの方法は、三次元のタンパク質構造を球体で満たして、構造の「ネガ像(negative image)」を作り出すことを必要とする。残基と相互作用球体を決定するためには、8オングストロームなどのカットオフ距離を用いる。球体は、保存された結合部位を形成する残基とのそれらの相互作用に基づき、保存されている、または非保存的であると標識される。保存された球体をそれらの三次元座標に基づいてクラスター化させ、保存された残基と相互作用し、クラスターを形成する三次元空間内で近接している、球体のセットを同定する。可能性のある化合物に関する三次元構造を、化合物の化学式を入力することによって生成させる。続いて、可能性のある化合物の三次元構造を、GPCRタンパク質リガンド結合部位(例えば、結合ポケット)のそれと比較して、GPCR結合部位と結合する化合物を同定する。エネルギー項を用いてGPCR結合部位と化合物との間の結合親和性を決定し、どのリガンドがタンパク質と結合する確率が高いかを判定する。
本明細書で用いてきた言葉は、読みやすさおよび教示を目的として主に選択されたものであり、本発明の主題を詳細に描写したり制限したりするために選択されているのではないことに留意されたい。したがって、本発明の開示は、特許請求の範囲に示されている本発明の範囲を例示することを意図しており、限定することを意図したものではない。
ここで、本発明の特に好ましい態様についてさらに詳細に言及する。好ましい態様の例は、以下の実施例の項に例示されている。
実施例
以下は、本発明を実施するための具体的な態様の例である。これらの例は例示のみを目的として提供され、本発明の範囲を限定することは全く意図していない。用いる数字(例えば、量、温度など)に関して正確であるように努力は払っているが、ある程度の実験的誤差および偏差は当然ながら許容されるべきである。
本発明の実施には、別に指定する場合を除き、当技術分野の範囲内にある、タンパク質化学、生化学、組換えDNA法および薬学の従来の方法を用いるものとする。そのような手法は、文献中に十分に説明されている。例えば、T.E. Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties (W.H. Freeman and Company, 1993);A.L. Lehninger, Biochemistry (Worth Publishers, Inc., current addition);Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition, 1989);Methods In Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan eds., Academic Press, Inc.);Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition (Easton, Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1990);Carey and Sundberg Advanced Organic Chemistry 3rd Ed (Plenum Press) Vols. A and B (1992)を参照のこと。
実施例1:脂質立方相/ステロール法を用いたβ2ARタンパク質の結晶化
本実施例は、カラゾロールと結合させた、β2ARタンパク質の回折品質結晶、特にヒトβ2ARとT4リゾチームとの融合タンパク質であるβ2AR-T4Lの結晶の生成について説明する。本タンパク質およびその合成の詳細な説明は実施例4に提示されている。手短に述べると、T4リゾチームを、β2ARに対する3種類の異なる修飾によって作製した:(1)T4Lによる第3の細胞内ループの置換によって融合物タンパク質を作り出した、(2)カルボキシル末端の48アミノ酸を削除した、および(3)Asn187のグリコシル化部位をグルタミン酸置換によって除去した。β2AR-T4LをSf9昆虫細胞で発現させ、1%ドデシルマルトシド中で可溶化して、抗体およびリガンドによる連続アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
LCP結晶化の設定
タンパク質溶液(30mg/ml)をホスト脂質または脂質混合物と、典型的には2:3の容積比で、シリンジ混合器を用いて混合した(Cheng, et al., Chem Phys Lipids 95, 11 (1998)。混合すると(約100回の通過、2〜3分)、試料は均質で透明な立方相を自発的に形成し、それを結晶化の試行に直接用いた。インメソ(in meso)結晶化ロボットを用いて自動装置試行を行った(Cherezov, et al., Acta Cryst D 60, 1795 (2004))。6ウェルのガラスサンドイッチプレート(Cherezov, et al., Acta Cryst D 60, 1795 (2004);Cherezov, J Appl Cryst 36, 1372 (2003))の各ウェル内に、25nLまたは50nLのタンパク質高含有脂質立方相の小滴を満たして、その上を800μLの沈殿剤溶液で覆い、ガラス製カバースリップで密封した。手作業での設定は、Impactマイクロバッチプレート(Hampton Research cat# HR3-293)、Innovaplate SD-2置滴プレート(Hampton Research cat# HR3-083)またはVDX48懸滴プレート(Hampton Research cat# HR3-275)で行った。気密性10μLシリンジをつないだ改良型反復シリンジディスペンサー(Cherezov, et al., J Appl Cryst 38, 398 (2005))を用いて1ウェル当たり70nLの立方相小滴を送出し、微量ピペットを用いて1〜2μLの沈殿剤溶液を添加した。InnovaplateプレートおよびVDX48プレートの貯留槽(reservoir)はそれぞれ50および100μLの沈殿剤で満たした。脂質およびタンパク質の混合から始まるすべての操作は室温(約21〜23℃)で行った。設定後にプレートを、20℃に維持されている自動インキュベーター/撮像装置(RockImager 1000, Formulatrix Inc.)の中に移した。プレートの撮像は最初の3日間は12時間毎に行い、その後は第7日までは毎日、さらにその後は第10日および第14日に行った。
初期ヒット
初期試行は、ホスト脂質としてのモノオレインと混合した濃度30mg/mLのタンパク質溶液を用いて、6種の市販のスクリーニングセット(Hampton Research製のIndex HT、SaltRx HTおよびMemFac HT、Nextal製のJCSG+およびMbClass、ならびにMolecular Dimensions製のMemSys&MemStart)設定に対して2回ずつ行った。3つの異なるウェルで検出された初期ヒットは、極めて小さな5μm未満の針状の複屈折性結晶シャワー(shower)を含んでいた。LCPにおけるこのような小さな無色タンパク質結晶の検出は、最適化された光学特性を有する特別に開発されたガラスサンドイッチプレートによって実現可能になった(Cherezov, et al., Acta Cryst D 60, 1795 (2004);Cherezov et al., J Appl Cryst 36, 1372 (2003))。沈殿剤としての30%v/vのPEG 400、低濃度の硫酸Li、およびpH 6.5または7.5の緩衝剤を含む化学組成によるヒット条件は類似していた。
最適化
結晶条件の最適化は、X線結晶学の当業者には周知である。以下は、結晶化混合物成分の1つまたは複数を濃度に関して系統的に変化させるか化学類似体によって置換する、一般に適用可能な最適化アプローチの具体的な一例である。最適化の初期ラウンドは、主な沈殿剤であるPEG 400の濃度、緩衝剤のpHおよび実体、塩の実体および濃度を変化させることに焦点を置いた。その結果、硫酸Liが硫酸Naに置き換えられ、有用な濃度およびpHの範囲が確定された。結晶を依然としてかなり小さく、ほぼ15×5×1μmのサイズに達する程度であった。
さらに、脂質および可溶性添加物を検索し、同時に並行して最適化した。3種類のホスト脂質(モノパルミトレイン、モノバクセニンおよびモノオレイン)、モノオレインホストに対する5種類の脂質添加物(DOPE、DOPE-Me、DOPC、アゾレクチンおよびコレステロール)および96ウェル可溶性添加物スクリーニングによる試行を、以前に見いだされた基本的な結晶化条件と合わせて、さまざまな組み合わせで行った。可溶性添加物の1つである1,4-ブタンジオールが卓越していたが、これはそれを脂質添加物であるDOPEまたはコレステロールと組み合わせて用いた場合に限られた。DOPEを添加物結晶として用いた場合には結晶は薄板(40×7×2μm)として成長したが、一方、コレステロールを用いた場合には結晶は小さな棒(30×5×5μm)として成長した。以後の最適化段階ではDOPEは不採用とし、コレステロールを採用した。
最終的な最適化は、すべての成分(タンパク質、PEG 400、硫酸Na、1,4-ブタンジオール、コレステロール、緩衝剤pH)の濃度の微調整を必要とした。最適化の最終ステージでは、より高濃度のタンパク質、例えば、50mg/mLのタンパク質溶液が好ましかった。1回の試行当たりの脂質立方相の容積を50nLから20nLに減らすと、より大きな結晶が常に生じた。最良の結晶(40×20×5μm;図1)は、30〜35%v/vのPEG400、0.1〜0.2Mの硫酸Na、0.1MのBis-trisプロパン pH 6.5〜7.0、ホスト脂質としてのモノオレイン中に8〜10%w/wのコレステロールを用いた5〜7%v/vの1,4-ブタンジオールの中で得られた。したがって、別の局面において、本発明は、脂質添加物(例えば、コレステロール、DOPE)を、タンパク質混合物と配合する前にホスト脂質に直接添加し、それによってLCPで成長する結晶のサイズおよび質を有意に改善する方法を提供する。以前は、外来性脂質は、タンパク質溶液をホスト脂質と配合する前に、タンパク質溶液のみに対して添加されていた(Luecke, et al., Science 293, 1499 (2001))。
スクリーニングのために用いる沈殿剤および添加物の濃度の範囲を限定するために、例えば、モノオレイン(Qiu, et al., Biomaterials 21, 223 (2000))およびモノバクセニン(Qiu, et al., J. Phys. Chem. B 102, 4819 (1998))に関して以前に発表されている相図、ならびに可溶性(Cherezov, et al., Biophys J 81, 225 (2001))および脂質添加物(Cherezov, et al., Biophys J 83, 3393 (2002))のモノオレイン相挙動に対する影響を用いた。ある種の脂質混合物は、結晶化試行のためにタンパク質を混合する前に、顕微鏡観察およびX線によってそれらの相挙動をプレスクリーニングすることを必要とした。33種の96ウェル最適化スクリーニングを種々の脂質混合物と組み合わせて用い、結果として15,000回を上回る試行を行った。このスループットは、インメソ結晶化ロボットおよび自動撮像装置の使用を通じて実現可能になった。
典型的には、脂質立方相条件下で成長した最良の結晶は、立方相とスポンジ相との間の境界に出現する(Cherezov, et al., J Mol Biol 357, 1605 (2006);Wadsten, et al., J Mol Biol 364, 44 (2006))。結晶が相境界の近くにある場合には、等しく良好な結晶がいずれの相でも得られる。
結晶の採取
結晶はガラスサンドイッチプレートから直接採取したが(図2)、これはこの方法がマイクロバッチプレートまたは蒸気分散プレートを用いて得られるものよりも優れた結果を与えたためである。これらのプレートは、スクリーニングおよび最適化のステージのみで最適に動作するように特別に設計されている(Cherezov, et al., Acta Cryst D 60, 1795 (2004);Cherezov and M. Caffrey, J Appl Cryst 36,1372 (2003))。高性能両面粘着テープによって強く結合したスライドガラスを分離する困難さが理由で、それらからの採取は以前は試みられていなかった。したがって、別の局面において、本明細書に開示した本発明は、個々のウェルを開けてそれらから結晶を採取するための特別な手法を提供する。キャピラリーカッティングストーン(capillary cutting stone)(この場合にはHampton Research製)の角を用いて、上面ガラスにウェルの外周に沿って傷を付ける。スライドガラスを傷のすぐ外側でそっと押すことにより、ガラスの最も奥まで傷が伝播する。続いて、鋭い針を用いて、傷の入った外周のすぐ外側の一点でスライドガラスを割る。この穴を用いてスライドガラスを持ち上げて、立方相を採取のために露出させる。脱水を減らすために、沈殿剤のほぼ5μLの小滴をウェルにさらに添加する。この手法を用いることで、試みたウェルの80%超を開けてそれから結晶を首尾良く採取することが可能であった。
口径30μmのMiTeGen MicroMountsを用いて結晶を脂質立方相から直接掬い取り、液体窒素中に投入した。不要なバックグラウンドを減らすために、結晶の周りの脂質はできるだけ引きずり込まないように注意を払った。PEG400の濃度を上昇させること、または鉱油を用いることのいずれかによって脂質を溶解させるための取り組みは、典型的には、結晶の回折能の低下をもたらした。
データ収集
APSのビームラインGM/CA CATでのこれらの結晶の回折に関するスクリーニングの間に(図3)、マウントしたループ内に結晶それ自体を観察することはできなかった(図1a)。このため、ループ内の結晶を同定するために、ビームを変化させながらループ材料の系統的スクリーニングを実施した。続いて、低線量X線による回折の最適化を用いて、結晶のセンタリングを行い、最終的にはGM/CA CATでの10μm×10μmミニビーム設定を用いた完全データ収集を行えるようにした。続いて、この完全データセットを、σカットオフによってフィルター処理したデータと比較する(表1)。データのすべてを構造の解明および精密化のために用いた。
(表1)
Figure 2011500825
実施例2.ほかの膜タンパク質結晶を生成するためのLCP/ステロール法の使用
β2AR-T4L/カラゾロール構造(実施例1、3および4)に加えて、LCP/ステロールマトリックスは、多様な受容体-リガンド系を結晶化させるために成功裏に用いられている。
1.β2AR-T4L(E122W)
E122W突然変異を含むβ2AR-T4Lの耐熱性構築物は、アルプレノロール、チモロール、エレンブトロールおよびカラゾロールを含む、アゴニスト性およびアンタゴニスト性リガンドの両者の存在下で結晶化されている。β2AR-T4L(E122W)の脂質立方相(LCP)結晶化のために、インメソ結晶化ロボットを用いて自動装置試行を行った(Cherezov et al., 2004)。96ウェル方式のガラスサンドイッチプレート(Cherezov and Caffrey, 2003;Cherezov et al., 2004)の各ウェル内に、25nLまたは50nLのタンパク質高含有LCP小滴を満たして、その上を0.8μlの沈殿剤溶液で覆い、ガラス製カバースリップで密封した。脂質およびタンパク質の混合から始まるすべての操作は室温(ほぼ21〜23℃)で行った。結晶は、28%(v/v)のPEG 400、0.3Mのギ酸カリウム、0.1MのBis-trisプロパン pH 7.0、およびホスト脂質としてのモノオレイン中に10%(w/w)のコレステロールを用いた飽和濃度のリガンド(例えば、チモロールの場合は2mM)中で得られた。回折データを4種のリガンド複合体のすべてに関して収集し(図4参照)、アルプレノロール(3.2Å)、チモロール(2.8Å)およびカラゾロール(2.8Å)に関して構造を決定した。
2.A2AR-T4L
非生体アミン受容体の結晶化におけるモノオレインコレステロール系の適用可能性も、高親和性選択的アンタゴニストZM241385と結合したヒトA2Aアデノシン受容体(A2AR-T4L)の、2.6Å分解能での構造決定によって実証された。図4参照。インメソでのヒトA2Aアデノシン受容体の脂質立方相(LCP)結晶化のためには、ガラスサンドイッチプレート(Cherezov, et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, 60, 1795 (2004))の各ウェル内に、50nlの受容体-コレステロール-モノオレインLCP小滴を満たして、その上を0.8μlの沈殿剤溶液で覆い、ガラス製カバースリップで密封した。脂質:受容体LCP混合物には典型的には、モノオレイン:コレステロール(54%:6%(w/w))および受容体(40%(w/w))を含めた。結晶化の設定は周囲温度(22±2℃)で行った。自動インキュベーター/撮像装置(RockImager 1000, Formulatrix)を用いて、プレートを20℃でインキュベートして撮像した。データ収集品質の結晶(ほぼ100μm×10μm×5μm)が、30%(v/v)のPEG 400(28〜32%の範囲)、186mMの硫酸リチウム(180〜220mMの範囲)、100mMのクエン酸ナトリウム(pH 6.5)(5.5〜6.5の範囲)および200μMのZM241385中で得られた。このタンパク質は単純単斜晶空間群P21として結晶化し、非対称単位当たり1分子を有し、推算溶媒含量は52%であった。
3.β2AR(E122W)
挿入されたT4リゾチームを欠くβ2AR(E122W)の初期結晶も得られた。タンパク質は、0.5%w/vのドデシルマルトシド(DDM)、0.1%w/vのコレステリルヘミスクシネート(CHS)および1mMのチモロールの混合物を用いて昆虫細胞膜から抽出した。チモロールは精製の第1段階の全体を通じて1mMに維持した。抽出したタンパク質を、Talon(商標)を固定化した金属親和性樹脂に対して一晩結合させ、その後に標準的な洗浄および200mMイミダゾールによる溶出を行うことによって精製した。5mMのアデノシン三リン酸を10mMのMgCl2と組み合わせたものを用いて、シャペロンタンパク質の混入物を除いた。溶出したタンパク質を2.5mLに濃縮して、PD10脱塩カラム(GE-Biosciences)を用いて0mMイミダゾール緩衝液中で脱塩した。続いてタンパク質を、グリコシル化を除去するためにPNGase(New England Biolabs)の存在下で100μLのNi-セファロース固定化金属親和性樹脂と結合させて、一晩インキュベートした。インキュベーションの後にタンパク質をカラム上で洗浄し、構造解明のためにチモロールをカラゾロールに置き換えた。カラゾロールと結合したタンパク質をNi-セファロースカラムから溶出させ、100mMのクエン酸Na pH 7.5で処理した上で、50mg/mLに濃縮した。
続いて、タンパク質溶液を、10%コレステロールを含むモノオレインと、タンパク質と脂質との比が40:60%w/wとなるように混合し、結晶化の試行に用いる脂質立方相を生成させた。タンパク質を含むLCP脂質をガラスサンドイッチ結晶化プレート上に20nLの容積で分注し、その上に1μLの結晶化溶液を添加した。続いて、96ウェル方式の実験物すべてをさらなるガラスプレートで覆い、それを両面粘着テープによって第1のものにしっかり固定した。初期結晶は、35%v/vのPEG 400、100mMのNaSO4、100mMのBis trisプロパン pH 7、および8%の2,6ヘキサンジオールを含む溶液の添加によって24時間後に得られた。
予測実施例(prophetic example)として、この方法によって得られたβ2AR(E122W)の最適化された結晶を、それらが高い分解能で、例えば3.5Å未満、またはより好ましくは3Å未満で回折する能力に関してスクリーニングする。最適化のための手引きは、本明細書および実施例に示された最適化プロトコールによって与えられる。本明細書中に提示した教示との組み合わせにより、当業者は、最適に結晶化されたタンパク質の詳細な分子構造を解明しうる回折パターンを得るために適切なビームセッティングを容易に特定するであろう。
4.CXCR4-T4L
CXCR4はフーシンとも呼ばれ、リンパ球に強力な走化活性を生じさせる分子であるストロマ由来因子-1(SDF-1、CXCL12とも呼ばれる)に対して特異的なGPCRタンパク質である。本実施例は、CXCR4を含む融合タンパク質(CXCR4-T4L)の回折品質結晶を生成させるために本発明の方法をいかにして用いうるかを予測的に教示する。
CXCR4をコードするcDNAをDNA2.0への外部委託によって合成するが、このDNAはヒトのコドン使用頻度、転写されたRNA二次構造の除去、リボソーム結合部位の除去、および後のクローニング手順で用いられる一般的な制限部位の回避に関して最適化された。野生型完全長受容体をコードする第1のもの、および膜貫通ヘリックスVとヘリックスVIとの間に融合タンパク質が位置し、受容体の第3の細胞内ループ(3IL)領域を効果的に除去した完全長受容体である第2のものという2種の初期変異体を合成するように契約する。CXCR4の場合には、T4-リゾチーム(T4L)が3ILの代わりに融合される融合タンパク質である。融合タンパク質へのT4Lの組み入れは、構造破壊ならびにそれに付随するタンパク質発現および安定性に対する影響の可能性を最小化する一連の指針に従って行う。手短に述べると、融合タンパク質のための5'挿入点は3'挿入点の上位にあり、受容体のヘリックスV上の保存的プロリンに関するコドンの66ヌクレオチド(22残基)下流に位置する。受容体の3IL区間が大きい場合には、3'融合点はヘリックスVI上のファミリー保存的プロリンに関するコドンから87ヌクレオチド(29残基)上流に設置する。しかし、CXCR4の場合がそうであるように、3ILループが小さい場合には、介在ヌクレオチドの切り出しが起こらないようなヘリックスVからの間隔という要求に従って、融合タンパク質に関するcDNAを3ILループ位置に直接挿入する。具体的には、T4LをヘリックスV上の保存されたプロリンとの間隔に基づいてCXCR4に挿入し、C末端短縮を先行文献に基づいて作製した。合成した各cDNAを、4種の発現ベクターのセットへのサブクローニングのために、5'末端ではAscI(GGCGCGCCG)制限部位にアウトオブフレーム(out of frame)で隣接させ、3'末端ではFseI(GGCCGGCC)にインフレームで隣接させる。続いてウイルスDNAを作製し、標準的なプロトコールに従ってこれらのベクターから増幅させて、ウイルス性にコードされたGP64タンパク質を発現する細胞の集団を測定するためのフローサイトメトリーを用いて力価判定を行う。
CXCR4-T4Lのタンパク質発現
力価判定を行ったウイルスを手にしたところで、小規模な発現試験を5mL/実験の容積で行う。発現レベルは、平均蛍光強度(MFI)および発現スクリーニングベクターによってコードされるFLAGエピトープを発現する細胞のパーセンテージを測定するためのフローサイトメトリーを用いて評価する。発現細胞を透過処理の有無別に検査して、原形質膜中に挿入されたタンパク質と細胞輸送機構の内部にあるタンパク質との比を求める。細胞表面発現と全タンパク質発現との相関を示し、さら安定性と細胞表面発現/全発現の比との相関についても示す。これらのアッセイに加えて、回収可能なタンパク質の量ならびにサイズ排除クロマトグラフィーによって測定される質を判定するために、ドデシルマルトシド(DDM)による可溶化後の小規模精製も行う。これらのデータに基づけば、T4L融合受容体が発現されること、およびそれがリガンド非依存的な様式で二量体化することが明らかであったが、これは他の受容体におけるC末端非特異的な相互作用の指標である。このようにして、CXCR4のC末端短縮突然変異体が作製される。
タンパク質の精製
T4Lを融合させたCXCR4のC末端短縮の規模を生産サイズの発現(5〜10Lの細胞培養物)に拡大し、さらに結晶化の試行に向けて大規模精製の取り組みによる処理も行った。手短に述べると、5〜10Lの細胞培養物を遠心してPBSで洗浄し、その後に-80℃で凍結させた。続いて凍結細胞材料を、プロテアーゼ阻害薬(Roche)を補充した820mLの溶解緩衝液(10mM Hepes pH 7.5、10mM MgCl2、20mM KCl)中に再懸濁させた。細胞懸濁液をダウンスホモジナイザーによる20回の往復動作で溶解させ、Ti45超遠心管にて45,000rpmで30分間遠心した。その結果得られたペレットを上清から分離し、再懸濁させて、可溶性タンパク質材料を確実に完全に除去するためにこのプロセスを6回繰り返した。最終的な再懸濁段階では、40%v/vのグリセロールを含む100mLの溶解緩衝液中に膜を再懸濁させ、ダウンスホモジナイザーによる20回の往復動作でホモジネート化して、10mLアリコートを無期限の貯蔵のために-80℃で凍結した。
可溶化および精製のためには、凍結膜の各10mLのアリコートを溶解緩衝液を用いて25mLに再懸濁させ、それに対して100uMのAMD070リガンドを、2×作用濃度のプロテアーゼ阻害薬および2mg/mLのヨードアセトアミドとともに加える。膜を解凍させて、適切な温度のリガンドとともに少なくとも30分間インキュベートする。インキュベーションの後に、混合物を100mM Hepes pH 7.5、1M NaCl、2%w/vのDDM、0.2%w/vのCHSを含む2×可溶化緩衝液で2倍に希釈する。4℃で少なくとも2時間にわたり撹拌しながら可溶化を進行させ、その後に不溶性材料を遠心によって分離して廃棄する。上清を単離して、7.5に緩衝化した20mMイミダゾール緩衝液および800mMのNaClの存在下で、Co2+を投入した0.5mLのTalon(Clontech)IMAC樹脂と結合させる。Talon IMAC樹脂に対する結合は少なくとも4時間、しかし最も一般的には一晩にわたって撹拌しながら進行させる。結合後に、スラリーを重力カラムに注ぎ入れ、樹脂を上清から分離させる。続いて樹脂を80倍カラム容積(CV)の洗浄緩衝液(50mM Hepes pH 7.5、800mM NaCl、20mMイミダゾール、0.1%w/v DDM、0.01%w/v CHSおよび100uM AMDO70(または受容体に適したリガンド)で洗浄する。初回洗浄の後に、NaCl濃度を500mMに調整してリガンド濃度を300uMに上昇させるために、樹脂をさらに処理する。続いてタンパク質を200mMイミダゾールを用いて樹脂から溶出させ、PD10脱塩カラム(GE Biosciences)による余分なイミダゾールの除去のために2.5mLに濃縮する。リガンド濃度を500uMに上昇させ、タンパク質を、N結合グリコシル化を除去しうるエンドグリコシダーゼである20,000単位のPNGase(NEB)の存在下で、100uLのNi-セファロースIMAC樹脂と結合させる。タンパク質を樹脂に結合させ、脱グリコシル化を6時間行い、その後に樹脂をイミダゾール非含有溶出緩衝液(50mM Hepes pH 7.5、500mM NaCl、0.05%w/v DDM、0.01%w/v CHSおよび1mM AMD 070)で洗浄する。洗浄段階の後に、タンパク質を、200mMイミダゾールを含む同じ緩衝液を用いて樹脂から溶出させる。溶出の後にタンパク質を通常はおよそ50mg/mLに濃縮し、SECによって完全性について検査する。結晶化しうるタンパク質は、SDS-PAGEによる判断で90%超が不均一でなくあるべきであり、SECによる判断で検出可能な凝集種を高タンパク質濃度では全く含まないべきである。タンパク質が高い品質を保っているならば、それをコレステロールを含む脂質立方相中に再構成する。続いて、再構成されたタンパク質をガラスサンドイッチ結晶化プレート上に分注し、本実施例および実施例1に記載したスクリーニング方法を用いて結晶化に関して検査する。混合の後に、タンパク質高含有脂質立方相混合物は、3.6〜7.2%w/wのステロール、56.5〜52.8w/w%のモノオレインおよび40%w/wのタンパク質溶液(脂質混合物とタンパク質との比は3:2)を含むと考えられる。初期結晶化条件は、PEG 400を25〜35%で、塩を50〜500mMで、およびpHを5.0〜7.5で用いる。
実施例3.ヒトβ 2 -アドレナリン作動性Gタンパク質共役受容体T4リゾチーム融合タンパク質の高分解能結晶構造
結晶化等級のβ2AR-T4Lタンパク質の人工的操作、機能特性、発現および精製は、実施例4により詳細に説明されている。手短に述べると、β2AR-T4Lを、β2ARに対する3種類の異なる修飾によって作製した:(1)T4Lによる第3の細胞内ループの置換によって融合タンパク質を作り出した、(2)カルボキシル末端の48アミノ酸を削除した、および(3)Asn187のグリコシル化部位をグルタミン酸置換によって除去した。β2AR-T4LをSf9昆虫細胞で発現させ、1%ドデシルマルトシド中で可溶化して、抗体およびリガンドによる連続アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。コレステロールを加えた(-doped)モノオレイン立方相から結晶を成長させる、本明細書に記載した改変された脂質立方相(LCP)結晶化手順を用いて、2.2Åの分解能で回折するβ2AR-T4L結晶を得た。構造は2.4Åの分解能で解明された。界面活性剤中での結晶化と比較して、LCPは、結晶化のためのよりネイティブな脂質環境、ならびにI型パッキング相互作用の形成を通じて結晶化プロセスを助長する可能性のある二次元膜シートへのタンパク質の閉じ込めを提供する(Caffrey, Curr Opin Strnct Biol 10, 486 (2000);Deisenhofer, EMBO J 8, 2149 (1989);Landau et al., Proc Natl Acad Sci USA 93, 14532 (1996))。
方法
脂質立方相結晶化
バイセルから成長させた、人工的に操作したヒトβ2AR(β2AR-T4L)は、3.5Åの分解能を超えて最適化することができなかった(図5)。このため、インメソ結晶化ロボット(Cherezov, et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 60, 1795 (2004))を用いて、脂質立方相(LCP)結晶化の試行を行った。96ウェルガラスサンドイッチプレート(Cherezov, et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 60, 1795 (2004);Cherezov, et al, J Membr Biol 195, 165 (2003))の各ウェル内に、25nLまたは50nLのタンパク質高含有LCP小滴を満たして、その上を0.8μLの沈殿剤溶液で覆い、ガラス製カバースリップで密封した。脂質およびタンパク質の混合から始まるすべての操作は室温(ほぼ21〜23℃)で行った。結晶は、30〜35%(v/v)のPEG 400、0.1〜0.2Mの硫酸ナトリウム、0.1MのBis-trisプロパンpH 6.5〜7.0、およびホスト脂質としてのモノオレイン中に8〜10%(w/w)のコレステロールを用いた5〜7%(v/v)の1,4-ブタンジオールの中で得られた(図6A)。コレステロールおよび1,4-ブタンジオールの添加は、結晶のサイズおよび形状を劇的に改善し、それによって高分解能回折を可能にした。この場合に、主なLCPホスト脂質であるモノオレイン(単独またはコレステロールとの組み合わせのいずれか)に対するリン脂質(ジオレオイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、アゾレクチン)の添加は、結晶品質を改善することができなかった。
結晶の採取
採取した結晶の平均サイズは30×15×5μmであった(最大の結晶は40×20×7μmであった)。結晶はガラスサンドイッチプレートから直接採取したが、これらのプレートはスクリーニングおよび最適化のために特別に設計されたものであった(Cherezov, et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 60, 1795 (2004);Cherezov, et al, J Membr Biol 195, 165 (2003))。結晶は、口径30μmまたは50μmのMiTeGen MicroMountsを用いてLCPから直接掬い取り、液体窒素中に投入した。不要なバックグラウンドを減らすために、結晶の周りの脂質はできるだけ引きずり込まないように注意を払った。PEG400の濃度を上昇させること、または鉱油を用いることのいずれかによって脂質を溶解させるための取り組みは、典型的には、結晶の回折能の低下をもたらした。
データ収集
X線データは、Advanced Photon Source, Argonne、ILの23ID-Bビームライン(GM/CA CAT)にて10μmミニビーム(波長1.0332Å)およびMarMosaic 300CCD検出器を用いて収集した(図6B)。いくつかの完全データセットを、単一の結晶から、1フレーム当たり5×減衰ビーム、5秒間の曝露および振動角1゜を用いて2.8〜3.5Åの分解能で収集した。しかし、一部の結晶は、1×減衰ビームによる5秒間の曝露で、最高2.2Åの分解能で回折した。その結果、ウェッジ角10〜20゜の高分解能データが40個を上回る結晶から収集された(結晶の一部は2〜3回の並進(translation)が十分に可能であった)。続いて、27個の独立した結晶からの最良データセットのうち31個を組み合わせて、より低分解能の全データセットに対するスケーリングを行って、完全な2.4Åデータを得た。
データ収集の際の課題の1つは、不透明な凍結脂質相の内部にある無色微結晶の描出、および10μmミニビームでそれらを整列化することであった。結晶はビームラインにあるインライン型光学機器では十分に描出することができないため、回折によるアラインメント(alignment-by-diffraction)手法を採用した。本発明は、1つの局面において、ミニビームを用いずに結晶の位置決めを行うための、最適化された結晶検索アルゴリズムを提供する。まず、高度に減衰させてスリット処理した100×25μmビームを用いて、脂質を含むループの区域を垂直方向にスキャニングした。回折が見いだされた時点で、ほぼ50×25μmの区域に対する2回の追加曝露によって、結晶の位置をさらに限定した。この区域をさらに、平行化された10×減衰ミニビームにより15μm刻みを用いて粗くスキャニングし、続いて5μmおよび2μmの刻みを用いて位置を微調整した。1つの方位での結晶の位置決めを行った後に、ループを90゜回転させて、手順を繰り返した。典型的には、アラインメントの間に、結晶に10×減衰ビームおよび2秒間の曝露を用いてほぼ10回曝露させた。
データの処理
2.8Åの分解能で回折する1つの結晶から、完全度90%、多重度2倍の単斜晶データセットを処理した。空間群C2における格子パラメーターおよび結晶方位の初期指数付け(indexing)は、HKL2000(Otwinowski, et al, in Methods in Enzymology C. W. J. Carter, R. M. Sweet, Eds. (Academic Press, New York, 1997), vol. 276, pp. 307-326)を用いて行った。精密化された格子パラメーターおよび空間群を、放射線崩壊、吸収および回転に関する誤差を明示的にモデル化する、スポットインテグレーション(spot integration)用のデータ処理プログラムXDSに組み込んだ(Kabsch, J Appl Crystallogr, 26, 795 (1993))。データは微結晶から10μmビームを用いて収集したため、ビームセンターでデータ収集中に結晶方位を維持することには特に問題があった。XDSは、φ軸周りの回転による結晶方位の誤差を、試行した他のデータ処理プログラムよりも良好にモデル化しており、より良いマージ統計値(merging statistics)が得られるように思われた。回転誤差に加えて、放射線崩壊もXDS処理プログラムによって部分的に補正された事項であり、異なる結晶および結晶並進からのデータセットのより信頼性の高いスケーリングが可能になった。この2.8Åデータを、はるかに高度の曝露下で収集した別のウェッジ角でのデータの組み入れのためのスケーリング基準として用いた。それぞれの新たなデータセットに対して、元の単位格子パラメーターを定数として用いてXDSで指数付けを行い、続いてそれらに結晶方位、ビームジオメトリー(beam geometry)およびモザイク性パラメーターを併せて精密化した。精密化は一般に安定であり、その後のスケーリングを可能にする極めて類似した単位格子定数がもたらされた。続いて、インテグレーションを行った諸ウェッジ角のデータのすべてをスケーリング基準セットに対して個々に検査し、そのデータを組み入れてもマージ統計値が依然として許容されるならば、スケーリングされた最終的なデータセットに含めた。27個の結晶からの合計31種のウェッジ角のデータをスケーリング参照データセットと組み合わせたところ、そのうち22種が2.4Åまたはより良好な分解能で回折した。比較的分解能の高いデータセットのそれぞれをはるかに大線量の放射線に曝露させ、強度の急速減衰(rapid decay)を生じさせた。典型的にはウェッジ角10゜〜20゜のものを各結晶または並進物から収集したが、そのうち5゜〜7゜のものは2.4Åでの回折データを有していた。このデータセットに関する最終的なマージ統計値を表2に示している。3つの結晶軸付近での反射の平均F/σ(F)に基づき、有効分解能は、b*およびc*の方向では2.4Å、a*の方向では2.7Åと推算された。この異方性のために、有意なI/σ(I)値にもかかわらず、最外郭側の少数の分解能シェル(last few resolution shells)ではマージしたR因子が高くなっている。異方性は、結晶の固有の性質であるか、またはマウント用ループの内部での結晶の選好的な配向の結果であるかのいずれかである。このため、より高分解能のシェルは高曝露レベルでの追加データの組み入れによって異方的に満たされていたが、一方、より低分解能のシェルは極めて高い多重度および低い異方性を有する。
(表2)XDSによるデータ処理の統計値
比較はσカットオフ値によってフィルター処理したデータと完全セットとの間で行っている。データのすべてを構造解明および精密化に用いた。
Figure 2011500825
Rsym=Σhkl|I(hkl)−<I(hkl)>|/Σhkl(hkl)、式中、<I(hkl)>はI(hkl)の対称等価反射の平均である;R-meas=多重度に依存しないRsym;Rmrgd-F=振幅品質の示度。例えば、Murshudov, et al, Acta Crystallogr D D53, 240 (1997)を参照。
構造解明および精密化
β2AR-T4Lに関する初期位相を、T4-リゾチーム(PDB ID Code 2LZM)およびロドプシン7回膜貫通バンドルのポリアラニンモデル(PDB ID Code 1U19)の両方を検索モデルとして用いる分子置換によって得た。残基12〜71を除去するためにリゾチーム検索モデルのトリミングが必要であったが、これはそのドメインがより大きな区間に比してシフトしたコンフォメーションを有していたためである。このドメインは後に、観測された密度へのフィッティングによってモデルに再導入した。分子置換は、プログラムPhaserを用いて、まず短縮リゾチーム(RFZ=3.74;TFZ=3.65)を配置し、その後にロドプシンモデル(RFZ=5.2;TFZ=7)を配置することによって行った(McCoy, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 63, 32 (2007))。受容体の配置を最適化するために、7個のヘリックスのそれぞれを、Refmacに実装された剛体最大尤度精密化によって独立に精密化した(初期Rwork/Rfree=0.50/0.51)(Murshudov, et al, Acta Crystallogr D D53, 240 (1997))。
精密化の初期ラウンドは、Refmacにおいて拘束されたパラメーターを用いて行った。モデル再構築は、Cootにおいて、2 Fo-Fc σ-A重み付けマップ、ならびにモデルベースの位相調整法によって導入されるモデルの偏りを軽減するResolveプライム・アンド・スイッチ位相調整(prime-and-switch phasing)を用いて計算した密度修正マップを利用して行った(Terwilliger, Acta Crystallogr D D56, 965 (2000))。Resolveで計算したマップは、主鎖密度をより多く追跡することができたという点で、σ-A重み付けのものよりも優れていた。結合リガンドに関する密度は精密化の早期に描出することができたが、観測されたリガンド密度の信号/雑音比の改善を通じた位相品質の偏りのない評価を可能にするために直ちにモデル化は行わなかった。構造品質は優れており(表3)、強い電子密度が特にリガンド結合部位(図7)、コレステロール結合部位(図8A)およびプロリンヘリックスキンク(図8B)で観察された。
(表3)データ収集および精密化の統計値
Figure 2011500825
*最も高分解能のシェルは括弧内に示されている。Rsym=Σhkl|I(hkl)−<I(hkl)>|/Σhkl(hkl)、式中、<I(hkl)>はI(hkl)の対称等価反射の平均である。
β2A受容体のトポロジーの分析
β2AR-T4Lの最終的なモデルは442個のアミノ酸を含む。精製中に、遊離チオールを除去するためにβ2AR-T4Lをヨードアセトアミドで処理した。このモデルは、Cys341と共有結合したパルミチン酸を含み(GPCRはしばしば、C末端尾部のシステイン残基上にパルミチン酸による翻訳後修飾を受ける)、およびCys2656..27と結合したアセトアミド分子を含む。説明の全体を通じて、残基はβ2AR配列の内部でのそれらの位置、および該当する場合には、上付き記号としてのそれらのBallesteros-Weinstein名称によって指定される。Ballesteros-Weinstein番号付けは、本文全体を通じて、タンパク質番号付けに対する上付き記号としてとして用いられる。各ヘリックスの内部には、クラスA GPCRの間で最も保存されている単一の残基がある。この残基はx.50と命名されており、ここでxは膜貫通ヘリックスの番号である。そのヘリックス上の他のすべての残基は、この保存された位置を基準として番号付けされる。このモデルはまた、β2ARと相互作用する、1個のカラゾロール分子、3個のコレステロール分子、2個の硫酸イオンおよび2個のブタンジオール分子も含む。また、T4Lと結合した4個の硫酸イオン、1個の推定的な二糖(マルトースとしてモデル化)および1個のPEG 400分子も存在する。β2ARについては、リガンドであるカラゾロールおよび2つのジスルフィド結合Cys1063.25-Cys1915.30およびCys1844.76-Cys1905.29を含めて、残基29〜342に関して質の高い電子密度が観察されている。Cys341にあるパルミチン酸はFo-Fcオミットマップ(omit map)に明らかに描出されている;しかし、電子密度の質は受容体の残りの部分よりも低い。N末端(残基1〜28)、およびC末端の大半(残基343〜365)は秩序立っておらず、この構造内に描出されていない。
β2ARは、ヘリックスバンドルを形成する7個の膜貫通ヘリックスで構成される折り畳みを1つ有する(図9A)。β2ARにおけるヘリックス(I〜VII)を形作る残基は以下の通りである:ヘリックスI 291.28〜601.59、ヘリックスII 672.38〜962.67、ヘリックスIII 1033.22〜1363.55、ヘリックスIV 1474.39〜1714.63、ヘリックスV 1975.36〜2295.68、ヘリックスVI 2676.29〜2986.60およびヘリックスVII 3057.32〜3287.55。β2ARの細胞内ループ(ICL)および細胞外ループ(ECL)を形成する残基は以下である:ICL1 611.60〜662.37、 ECL1 972.68〜1023.21、ICL2 1373.56〜1464.38、ECL2 1724.64〜1965.35、ICL3 2305.69〜2666.28(残基231〜262はT4リゾチーム残基2〜161によって置換されている)およびECL3 2996.61〜3047.31。ヘリックスII、V、VIおよびVIIはそれぞれ、プロリンで誘導されるキンクを、膜貫通セグメントの範囲に沿った保存された位置に有する。これらのキンクは、Gタンパク質エフェクターの活性化のために必要な構造再編成を可能にすると考えられている(Yohannan et al., Proc Natl Acad Sci USA 101, 959 (2004))。7個の膜貫通ヘリックスに加えて、β2ARは他に2個のヘリックスセグメントを有する:ヘリックスVIII、これはすべてのロドプシン様GPCRに共通すると考えられている(Katragadda et al., Biochim Biophys Acta 1663, 74 (2004))、およびECL2の中央部にある予想外の短いヘリックスセグメント、これはロドプシンには存在せず、コンピュータ計算による二次構造分析では予想されていなかった(図9A)。
β2AR-T4L構築物では、ヘリックスVおよびVIの短縮された細胞質末端にT4Lが融合されている。この結晶構造において、T4Lモイエティは、膜に対して垂直に描かれているβ2ARの中心軸から幾分外れて傾斜している(図9B)。その結果として、T4Lとβ2ARとの間の相互作用はごくわずかであり、それらの間に埋没した表面積は400Å2に過ぎない。T4Lとβ2ARとの間の分子内接触には、T4L-Asp159の側鎖とβ2AR-Lys2275.66の側鎖アミンとの間(距離3.4Å)およびT4L-Arg8のグアニジウム基とヘリックスVI上のβ2AR-Glu2686.30の側鎖カルボキシルとの間(距離3.2Å)の塩架橋が含まれる(図9C、表4)。後者の相互作用は、それが、Glu6.30が保存されたD(E)RYモチーフのArg3.50とイオン結合を形成するロドプシンとは異なるため、注目に値する。この相互作用はロドプシンを不活性状態に維持するために重要であるとの仮説が立てられているが、β2AR-T4L構造では、この2個の残基の荷電基[Arg1313.50(NH1)およびGlu2686.30(OE1)]は10Å隔たっている。リゾチーム分子の残りの部分は重要な結晶パッキング相互作用を提示しているが、受容体構造に有意な影響を及ぼすようには思われない。
(表4)β2ARとT4Lとの間の直接的な接触
Figure 2011500825
結晶パッキング相互作用
β2AR-T4Lタンパク質は、1つの非対称単位当たり1分子のC中心(C-centered)単斜晶格子内にパッキングされている(図10A)。膜タンパク質は一般に2種類の結晶パッキングを形成しうる:I型は、膜タンパク質の親水性部分の相互作用を介して三次元内に秩序立って並んだ二次元結晶の積み重なりである。II型結晶は、その疎水性部分が界面活性剤ミセルによって遮蔽され、すべての結晶接触が溶媒に露出したタンパク質分子の親水性部分を通じて形成されている膜タンパク質で構成される。これまでに脂質中間相の中で成長させたすべての結晶で観察されているように(Schwartz, et al., Annu Rev Pharmacol Toxicol 46, 481 (2006))、β2AR-T4L結晶はI型パッキングの形をとり、提唱されている結晶化機序に従った多層配置を特徴とする(Caffrey, Curr Opin Struct Biol 10, 486 (2000);P. Nollert, et al., FEBS Lett 504, 179 (2001))。各層の内部で、タンパク質分子は平行した対称関係にある二量体のアレイを形成する。各層の内部には4種の異なる結晶-パッキング相互作用があり、そのうち3つはT4Lによって媒介される。このアレイにおける第4の相互作用は、結晶学的な2回回転軸の関係にある2個の受容体分子の間のものである。これは対称関係にある受容体間の唯一の相互作用であり、6個のコレステロールおよび2個のパルミチン酸分子からなる秩序立って並んだ脂質によって主として媒介され、このうち後者は受容体のC末端部分にあるCys341と共有結合としている(O'Dowd et al., J Biol Chem 264, 7564 (1989))(図10B)。これらの8個の脂質分子は受容体間に2回対称性シートを形成する。唯一の直接的な受容体-受容体間接触には、ヘリックスI中のLys601.59の荷電アミン基と対称関係にある受容体からのヘリックスVIII中のGlu338との間の2.7Åのイオン相互作用対がかかわる。注目すべきことに、受容体対称接合面に埋没した515Å2のうち、結晶接触表面積の73%は秩序立って並んだ脂質によって媒介され、タンパク質-タンパク質間接触による寄与は27%に過ぎない。層の間のスタッキング相互作用は、T4Lと受容体の細胞外ループECL2およびECL3との間で形成される(図10A)。ECL3が小型であることおよびECL2の剛性の構造様式からみて、これらの接触がこれらのループの配向に影響を及ぼす可能性は低い。
脂質を介した受容体会合
β2ARを含む多くのGPCRは原形質膜内で二量体として存在すると考えられているが、二量体接合面の位置および二量体化の機能的な意味は明確でない(Milligan, Mol Pharmacol 66, 1(2004))。2個の対称関係にある分子間のヘリックスIおよびVIII接合面に秩序立って並んだ脂質が観察されていることは、この会合に生理的な意義があることを示唆する(Angers, et al., Proc Natl Acad Sci USA 97, 3684 (2000);Javitch, Mol Pharmacol 66, 1077 (2004);Mercier, et al., J Biol Chem 277, 44925 (2002))。ロドプシンの等価な領域間の会合が結晶構造中に見いだされている(Salom et al., Proc Natl Acad Sci USA 103, 16123 (2006);Schertler, Curr Opin Struct Biol 15, 408 (2005))(図10C)。
β2ARの生理的機能におけるコレステロールの役割は十分に立証されている。新生児心筋細胞の膜からのコレステロールの枯渇は、内因性β2ARのシグナル伝達挙動を変化させる(Xiang, et al., J Biol Chem 277, 34280 (2002))。処理していない細胞では、β2ARの活性化はGタンパク質GsおよびGiの逐次共役をもたらし、筋細胞の収縮速度に対する二相性作用を生じさせる。コレステロールを枯渇させると、β2ARはGsとより強く共役する。この作用は、β2ARとGタンパク質との間の相互作用を調節するコレステロールの役割、またはβ2AR二量体化に対するコレステロールの作用に起因する可能性がある。β2ARは単量体としてGsと効率的に共役するため(Mialet-Perez, et al., J Biol Chem 279, 38603 (2004))、コレステロールを介した会合(二量体化)はβ2ARのGsとの共役の効率を低下させると考えられる。β2ARシグナル伝達に対するコレステロール枯渇の影響が、細胞内シグナル伝達区画が変化したことの二次的影響である可能性もある。細胞は、GPCRおよびそれらのコグネイトGタンパク質などのシグナル伝達分子を、膜ミクロドメインまたはカベオラなどの区画を経由して集中させるという証拠がある(Ostrom, et al., Br J Pharmacol 143, 235 (Sep, 2004))。この区画化は受容体-エフェクター共役の主要な調節因子である可能性がある。このように、観測された結晶学的会合の形成におけるコレステロールの重要性は、β2ARシグナル伝達におけるその役割と一貫性がある。
静電電荷分布
静電電荷分布をAPBS(Gether, Enodocr Rev 21,90 (2000))を用いて計算し、β2ARの分子表面表示の上にマッピングした。この分析により、分子内部の3つの分極区域が明らかになった(図11A)。第1に、受容体の細胞質側の面はGタンパク質相互作用に関与し、同じく全体的に正電荷を有すると予想されるICL3の非存在下においても正味の正電荷を保有する(図11B)。第2の部位は、脂質アルキル鎖に露出される可能性のあるヘリックスIII、IVおよびVの間の膜内部に位置する静電的に負の領域であり、原形質膜内部の電荷の埋没は熱力学的に有利でないため、このことは意外である。位置1223.41にあるグルタミン酸残基は、観測された電荷分布の部分的な原因になっていると考えられる。最終的に、結合部位クレフト(cleft)は負に荷電し、特異なECL2の構造様式、およびN末端相互作用の欠如により、溶媒に対して露出する。この負の電荷は、正に荷電したカテコールアミンの静電的注ぎ込み(funneling)を通じてリガンド結合を助長すると考えられる(図11B)。
細胞外領域
ECLおよびGPCRのアミノ末端は、膜貫通ヘリックスの細胞外半分と合わせて、各受容体のリガンド結合性部位の範囲を定めると考えられている(Angers et al., Proc Natl Acad Sci U S A 97, 3684(2000))。このため、ECLは、どのような特定の受容体の全体的な薬理学的性質(pharmacology)においても重要な役割を果たす。一般に、低分子リガンドは膜貫通ドメインのヘリックスによって作り出された空間内部のより深いところで結合し、ペプチドなどのより大型のリガンドは膜表面により近い、ECLの付近で結合すると考えられている(Ji, et al., J Biol Chem 273, 17299(1998);Gether, Eodocr Rev 21, 90(2000))。突然変異誘発試験により、β2ARはそのリガンドと膜貫通ヘリックスバンドル内部の深いところで結合することが示唆されており、これはこの細胞外領域が膜貫通ヘリックスIIおよびIII、ならびにVIおよびVIIをつなぐ短いループを有するかなり単純な構造を有するという観察所見と関連する可能性がある(図12A)。ECL2はヘリックスIVおよびVを連結させ、これは予想外の幾分より大がかりな構造様式を有する。ロドプシン中のこのループが埋没したβ-シート構造であることとは対照的に(図12B)、β2AR中のECL2は溶媒に対してより露出しており、ヘリックス状セグメントを1つ余分に含む。さらに、Cys1844.76とCys1905.29の間にループ内ジスルフィド結合があり、これはより露出したECL2を安定化する一助になると思われる。ヘリックスIII中のCys1915.30とCys1063.25との間の第2のジスルフィド結合はECL2を膜貫通コアと効果的に結び付ける(Noda, et al., J Biol Chem 269, 6743 (1994))。ECL2の遠位部分はECL1と密な接触をなし、Asn1875.26にグリコシル化部位を含むが(Mialet-Perez, et al., J Biol Chem 279, 38603 (2004))、これはECL1上の芳香族残基のグループ化を遮蔽するのに役立つと思われる;この構築物において、Asn1875.26は結晶化を補助するためにグルタミン酸に突然変異させられている。
N末端に対応する電子密度はこのマップ中に現れておらず、このため、残基1〜28はモデルに含まれていない。この秩序のなさは、N末端がECLと広範囲に相互作用して、ECL2とともに小さな四本鎖β-シートを形成するロドプシンとは対照的である。このシート構造は、疎水性ポケット内のレチナール結合部位を効果的に隔離するキャップを形成する(図13B)。β2ARのN末端とECL2との間の相互作用の欠如は、拡散性リガンドの結合部位への到達を可能にする。しかし、完全に無秩序なN末端は、全体的にみて正電荷を有し、N末端の相互作用を乱す恐れのあるN末端Flagの存在によって誘導されたアーチファクトである可能性がある。
ECL2の短いヘリックス領域は、2個のジスルフィド結合とともに、コンフォメーションを狭い範囲のコンフォメーションへと拘束させて、3個の膜貫通ヘリックスを連結させることによって受容体を安定化する一助となる、剛性の構造要素を追加する(図13A)。この剛性のコンフォメーションは、受容体のコアを安定化するとともに、ECL2を結合ポケットへの到達を妨げないコンフォメーションに固定させる一助になると考えられる。
リガンド結合部位およびロドプシンとの比較
カラゾロールは、β2AR-T4Lに対してピコモル濃度単位の親和性で結合して、この受容体の基礎活性の低下を生じさせる部分的逆アゴニストである。その結晶構造から、カルバゾールモイエティをPhe2896.51、Phe2906.52およびTrp2866.48に隣接して配置させる、受容体とカラゾロールとの間の広範囲にわたる相互作用が判明している(図13A、図7および表5)。対照的に、シス-レチナールはロドプシンと共有結合している完全な逆アゴニストであり、トランスデューシンに向けられるすべての活性を抑制する(Palczewski, Annu Rev Biochem 75, 743 (2006))。カラゾロールおよびレチナールはそれらの各々の受容体の中で類似の空間を占有し、それはカラゾロールの非芳香族領域とかなり重複する。しかし、レチナールのβ-イオノン環はロドプシンの結合ポケット中の深くまで伸びてヘリックスVおよびVI上の残基と接触し、そこでそれはPhe2125.47とTyr2686.51との間に挟まれて、高度に保存されたTrp2656.48と相互作用する(図13B)。ロドプシンおよび関連ファミリーメンバーが活性化されるとTrp2656.48の回転異性体における変化が起こることが提唱されており、これは受容体活性化の「トグルスイッチ」となる(Schwartz, et al., Annu Rev Pharamacol Toxicol 46, 481 (2006))。このため、c/s-レチナールとTrp2656.48との間の相互作用は、ロドプシンの基礎活性の欠如の原因になる可能性が高い。カラゾロールはヘリックスVI上のトグルスイッチと直接的には相互作用しないものの、それは受容体の基礎活性を低下させるが、これはPhe2896.51およびPhe2906.52と相互作用して、高度に保存されたTrp2866.48を取り囲む拡張した芳香族ネットワークを形成することによってそれを行うと考えられる。その結果として、Trp2866.48は不活性状態に伴ってみられる回転異性体の形をとる。このために、Phe2906.52によって課せられる立体障害は、レチナールのβ-イオノン環とロドプシン上の保存されたTrp2656.48およびPhe2125.47との相互作用と構造的に近似するように思われる(Shi et al., J Biol Chem 277, 40989(2002))(図13C)。
(表5)β2ARとカラゾロールとの間の直接的な接触
Figure 2011500825
構造アラインメントおよびヘリックスバンドルの再編成
クラスA GPCRは長い間、それらの予想される7回膜貫通ヘリックスバンドル、および膜貫通領域内部での配列の保存が理由となって、共通した類似の構造様式を有すると考えられてきた(Lefkowitz, Nat Cell Biol 2, E133 (2000))。本発明者らは、リガンド結合様式の類似性および差異を評価するために、β2AR-T4Lの構造を、ロドプシンの最も高分解能の構造(PDB ID Code 1U19)に対してアラインメントした。本発明者らは、β2AR-T4Lとロドプシンとの間のヘリックス配向の差異を明らかにするために、アラインメントを行った2つの構造間の非相違区域(nondivergent area)を選択するための差異距離行列(difference distance matrix)を選択した。アラインメントについては、β2AR上の残基をロドプシン上の等価な残基に対して、それぞれ以下の通りにアラインメントした:43〜59を47-63に対して;67〜95を71〜99に対して;122〜135を126〜139に対して;285〜296を264〜275に対して。
ロドプシンを基準として、β2AR-T4Lには以下のヘリックス移行(helical shift)が見いだされた:ヘリックスIおよびIIIの細胞外部分は受容体の中心から離れるように傾斜しており、ヘリックスIVは受容体の中心から離れるように並進しており、ヘリックスVは受容体の中心により近づくように並進しており、ヘリックスVIは細胞質末端上で受容体から離れるように傾斜している(図14)。最大の差異はヘリックスIにあり、これはロドプシンに見られるプロリン誘導性キンクを欠き、比較すると直線的である。ロドプシンおよびβ2ARのヘリックスIの位置間の角度はおよそ18゜であり、細胞外面の頂部では7Åの移行がみられた。この構造的な差異は、N末端と細胞外ループセグメントとの相互作用の欠如によって部分的にもたらされる、β2ARにおける結合可能な結合部位の必要性に起因する可能性がある。対照的に、ロドプシンにおけるN末端領域は、細胞外ループとの広範囲にわたる相互作用を通じてレチナール-結合部位を塞ぐ(図12B)。β2ARのヘリックスVは結合ポケットに対して平均でおよそ3.5Å近く、その内腔末端はヘリックスVI側により傾斜している。β2ARのヘリックスIVは結合部位からより隔たっており、これはおそらくヘリックスVの位置変化に起因する立体的衝突を解消するためと考えられる(図14B、14C)。ヘリックスIIIは、細胞質末端の近くに位置する支点を軸として旋回している(図14C)。ロドプシンのヘリックスIIIとβ2ARのヘリックスIIIとの間に形成される角度はおよそ7゜であり、ヘリックスの細胞質末端で結合ポケットから離れる側に4Åの転位が生じている。ヘリックスVIは、ロドプシンと比較して細胞質末端で受容体の中心から隔たって位置しており、これはヘリックス中のプロリン誘導性キンクの周りの角度の幾分の違いによって引き起こされる(図14C)。
リガンド結合ポケットは、ロドプシンと比較して構造的に保存されたヘリックスおよび構造的に相違のあるヘリックスの両方によって形成される(図14D)。ヘリックスIIIおよびVはコンフォメーション上で最も移行したヘリックスのうち2つであり、アドレナリン作動性ファミリーの受容体の活性化と関連のある標準的なカテコールアミン結合性残基を含む(Strader et al., J Biol Chem 263, 10267 (1988);Strader, et al., J Biol Chem 264, 13572 (1989);Liapakis et al., J Biol Chem 275, 37779 (2000))。ロドプシンとの比較は、構造的に保存されたヘリックスがクラスA GPCR全体を通じて存在する共通コアをもたらし、一方、可変性ヘリックスが、広範囲のリガンドと結合しうる構造様式を結果的に生じさせる結合部位の可塑性を付与することを示している。
ロドプシンを基にしたGPCRモデルとの比較
不活性な暗状態のロドプシン構造の決定以来(Palczewski et al., Science 289, 739 (2000))、他のクラスA GPCRのさまざまな相同性モデルが報告されている(Bissantz, et al., Proteins 50, 5 (2003);Fano, et al., J Chem Inf Model 46, 1223 (2006);Hobrath, et al., J Med Chem 49, 4470 (2006);Nowak, et al., J Med Chem 49, 205 (2006);Zhang, et al., PLoS Comput Biol 2, e13 (2006))。典型的には、相同性モデルは、ファミリー間で共通するいわゆるフィンガープリントモチーフのアラインメントによって始まる。これらのフィンガープリントモチーフを外挿することで、ヘリックスバンドル全体に対して座標を割り付ける。ループ領域は用途に応じて、無視するか、またはループのコンフォメーションのデータベースに基づいてモデル化する(Bissantz, et. al, Proteins 50, 5 (2003))。β2ARについてはさまざまなモデルが存在し、そのうちいくつかは、裏づけとなる生化学的データによって改良されている(Bissantz, et. al, Proteins 50, 5 (2003);Zhang, et al., PLoS Comput Biol 2, e13 (2006);Freddolino et al, Proc Natl Acad Sci U S A 101, 2736(2004);Furse, et al., J Med Chem 46, 4450 (2003);Gouldson et al., Proteins 56, 67 (2004))。しかし、本明細書で報告したβ2AR構造(本実施例で上述した方法による)と比較すると、これらのモデルはすべて、ロドプシンとの類似性がより高く、他の受容体に関するモデルも同様であった(例えば、ドパミン、ムスカリン性およびケモカイン)。このことは、単一の構造テンプレートから生成された相同性モデルにおける一般的な欠点を強く示すものである。β2ARとロドプシンとの間の構造的な相違は、ロドプシンのみをテンプレートとして用いて正確に予測することは極めて困難であると考えられる。
実施例4:β 2 アドレナリン作動性受容体の機能に関する構造的な洞察
方法
哺乳動物発現構築物およびSf9発現構築物の作製のための分子生物学
ヒトβ2AR遺伝子の改変のためのテンプレートとして用いた昆虫細胞発現プラスミドは、以前に記載されている(Yao et al., Nat Chem Biol 2, 417 (2006)):ヒトβ2ARの野生型コード配列(Gly2に始まる)を、アミノ末端のHAシグナル配列およびそれに続くFlagエピトープタグ、およびN187Eとして突然変異させた第3のグリコシル化部位とともに、pFastbac1 Sf-9発現ベクター(Invitrogen)中にクローニングした。このテンプレートを用いて、TAA終止コドンをG1y365とTyr366との間に配置し、野生型β2ARの48個のC末端残基を伴わずに翻訳を終結させた(「β2AR365」)。T4リゾチーム(WT*-C54T、C97A)タンパク質をコードする合成DNAカセットは、50塩基のオリゴヌクレオチドのオーバーラッピング伸長PCRによって作製した。このカセットを増幅し、Quickchange Multiプロトコール(Stratagene)を用いて、β2AR365構築物中のIle2335.72とArg2606.22との間に挿入した(図21A)。対応する哺乳動物細胞発現プラスミドは、融合遺伝子全体を増幅して、それをpCDNA3(Invitrogen)中にクローニングすることによって作製した。Sf9細胞構築物および哺乳動物細胞構築物におけるさらなる欠失は、Quickchange Multiプロトコール(Stratagene)において、適切な合成オリゴヌクレオチドを用いて作製した。すべての構築物はシークエンシングによって確認した。
HEK293細胞染色および免疫蛍光染色
HEK293細胞を、5%ウシ胎仔血清を伴うダルベッコ変法イーグル培地(Cellgro)中で、プラスチック製培養皿上で37℃、5% CO2下にて培養した。個々の発現実験については、集密状態にある細胞を分割し、およそ100,000個の細胞を、同じ培地中にあるガラスカバースリップへの播種に用いた。2日後に、細胞に対して、1μgの所与のpCDNA3-受容体プラスミドおよび3μlのFugene 6試薬(Roche)の添加によりトランスフェクションを行った。トランスフェクションの48時間後に、細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定して、PBS+2%ヤギ血清によってブロックし、PBS+2%ヤギ血清+0.5% Nonidet P40(Sigma)で透過処理を行い、ブロッキング緩衝液中のAlexa488結合M1抗FLAG抗体(受容体に対して)+DAPI(核)で染色して、ブロッキング緩衝液で洗浄した。カバースリップをVectashield(Vector Labs)を用いて顕微鏡スライド上にマウントし、一晩乾燥させた。染色は、63倍対物レンズ、および緑色(Alexa488/FITC)または青色(DAPI/Hoechst)のフィルターセットを用いて、Axioplan 2蛍光画像化システムによって描出した。N末端FLAGタグ付加β1アドレナリン作動性受容体を発現するプラスミドpCDNA3-β1ARを、細胞表面染色に関する陽性対照として用いた。エンプティpCDNA3を、バックグラウンド染色を評価するための陰性対照として用いた。
バキュロウイルス感染Sf9細胞からのβ2AR-T4Lの発現および精製
Bac-to-Bacシステム(Invitrogen)を以前に記載された通りに用いて、組換えバキュロウイルスをpFastbac1-β2AR-T4Lから作製した(Yao et al., Nat Chem Biol 2, 417 (2006))。このバキュロウイルスを感染させたSf9昆虫細胞においてβ2AR-T4Lタンパク質を発現させ、以前に記載された方法に従って可溶化した(Kobilka, Anal Biochem 231, 269 (1995))。ドデシルマルトシドで可溶化した、N末端FLAGエピトープ(DYKDDDA)を有する受容体を、M1抗体アフィニティークロマトグラフィー(Sigma)によって精製し、TCEP/ヨードアセトアミドで処理して、機能性GPCRのみを単離するためにアルプレノロール-セファロースクロマトグラフィーによってさらに精製した(Kobilka, Anal Biochem 231, 269 (1995))。溶出したアルプレノロール結合受容体をM1 FLAG樹脂に再び結合させ、30μMカラゾロールとのリガンド交換をカラム上で行った。この最終的なカラムから、0.2mg/mlのFLAGペプチドを含むHLS緩衝液(0.1%ドデシルマルトシド、20mM Hepes、100mM NaCl、pH 7.5)+30μMのカラゾロールおよび5mM EDTAを用いてβ2AR-T4Lを溶出させた。N結合型グリコシル化物を、PNGaseF(NEB)での処理によって除去した。タンパク質を、100kDa分子量カットオフ値のVivaspin濃縮器(Vivascience)を用いてほぼ5mg/mlから50mg/mlに濃縮し、HLS緩衝液+10μMのカラゾロールに対して透析した。
膜からの野生型β2ARおよびβ2AR-T4L上での結合測定
バキュロウイルスに感染したSf9細胞からの膜の調製は、以前に記載された通りに行った(Swaminath, et al., Mol Pharmacol 61, 65 (2002))。各結合反応に関して、0.7μgの全膜タンパク質を含む膜を用いた。[3H]-ジヒドロアルプレノロール(DHA)の飽和結合を、500μlの結合緩衝液(0.4mg/ml BSAを補充した75mM Tris、12.5mM MgCl2、1mM EDTA、pH 7.4)中に再懸濁させた膜を、20pM〜10nMの間の12通りの濃度の[3H]DHA(Perkin Elmer)とともにインキュベートすることによって測定した。230rpmの振盪下での1時間のインキュベーションの後に、Brandelハーベスターを用いて結合反応物から膜を濾過し、結合緩衝液で洗浄した上で、結合した[3H]DHAをBeckman LS6000シンチレーションカウンターを用いて測定した。非特異的結合は、同一の反応を1μMのアルプレノロールの存在下で行うことによって評価した。競合結合については、500μlの結合緩衝液中に再懸濁させた膜を、0.5nMの[3H]DHA+増加する濃度の競合リガンド(化合物はすべてSigmaから購入した)とともにインキュベートした。(-)-イソプロテレノールおよび(-)-エピネフリンについては、濃度を100pM〜1mMとし、それぞれ10倍ずつ上昇させた。サルブタモールについては、濃度を1nM〜10mMとした。ICI-118,551およびフォルモテロールについては、濃度を1pM〜10μMとした。非特異的結合は、1μMの非標識アルプレノロールを競合リガンドとして用いることによって測定した。図2AおよびS1中の曲線における各データポイントは、それぞれ3回ずつ行った3つの別々の実験の平均を表している。結合データは、Graphpad Prismを用いて非線形回帰分析によって分析した。[3H]DHAのKdおよび他のリガンドのKiを表6に示している。
(表6)飽和結合
Figure 2011500825
野生型β2ARおよび融合タンパク質β2AR-T4Lに対する種々のリガンドの結合親和性。図22に示されている飽和および競合結合の曲線を、プログラムGraphpad Prismを用いて、理論的な飽和および一部位競合結合モデルに対してフィッティングさせた。Ki値は、Cheng-Prusoff式:Ki=IC50(1+[リガンド]/Kd)を用いて計算した。
精製して界面活性剤で可溶化させた受容体に関するビマン蛍光実験
β2AR-T4Lおよびβ2AR365を、2つの重要な違いの下で、上記の通りに精製した。第1に、ヨードアセトアミド処理の前に、2.5μMのFLAG-純粋受容体(可溶性[3H]DHA結合により測定)を、5μMのモノブロモビマンとともに4℃で1時間インキュベートした。第2に、ビマンで標識したアルプレノロールセファロース精製受容体をM1抗体樹脂に対して結合させた後に、溶出の前に、カラムをリガンド非含有緩衝液で十分に洗浄した。過去の先例(Ghanouni, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 98, 5997 (2001))によれば、このプロトコールはCys2656.27を蛍光団誘導体化の主な標的にすると予想される。蛍光分光法を、Spex FluoroMax-3分光蛍光計(Jobin Yvon Inc.)により、フォトン計数モードで、5nmの励起および発光帯域を用いて実施した。実験はすべて25℃で行った。発光スキャンについては、本発明者らは励起を350nmに設定し、417〜530nmの発光を積分時間1.0s nm-1を用いて測定した。リガンドの影響を判定するには、種々の化合物との15分間のインキュベーションの後にスペクトルを測定した(飽和濃度で:[(-)-イソプロテレノール]=100μM;[ICI-118,551]=10μM;[サルブタモール]=500μM)。すべての実験において、蛍光強度は緩衝液およびリガンドからのバックグラウンド蛍光に関して補正した。図22Bに示されている曲線はそれぞれ、並行して行った3回ずつの実験の平均である。それぞれ種々のリガンドとともにインキュベートしたβ2AR-T4Lおよびβ2AR365に関するλmax値および強度変化を、表7に表形式で示している。
(表7)
Figure 2011500825
リガンド非結合性の、ならびに種々のリガンドともに15分間インキュベートしたβ2AR365およびβ2AR-T4Lに関するビマン蛍光応答。上のパネルは、リガンドとの15分間のインキュベーション後の蛍光発光スペクトル(励起350nm、発光417〜530nm)に関するλmaxを示している。各値は、並行して行った3回ずつの実験の平均±標準偏差である。下のパネルは、リガンドのλmaxでの強度と対照のリガンド非存在下(「なし」)応答のλmaxでの強度との比として表した、リガンドとのインキュベーション後の蛍光強度の変化を示している。
リガンド非結合性のβ2ARおよびβ2AR-T4Lのタンパク質分解安定性の比較
限定的なトリプシンタンパク質プロトコールを、Jiang et al., Biochemistry 44, 1163 (2005)を変更して行った。カラゾロールが結合したβ2AR-T4Lまたは野生型β2AR(それぞれ30mg/ml)をHLS緩衝液(上記参照)中に10倍に希釈し、TPCK-トリプシンを1:1000の比(wt:wt)で添加した。消化物を室温でインキュベートした。さまざまな時点で、アリコートを取り出して、ドライアイス/エタノール上で急速凍結させた。最後のアリコートを取り出した後に、すべての試料を解凍し、それぞれに同容積の10% SDS/PAGEローディング緩衝液を添加した。続いて試料を、12%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動を行った後にクーマシーブルーで染色することによって分析した(図16)。
リガンド非結合性のβ2ARおよびβ2AR-T4Lの安定性の比較
リガンド非結合性のβ2AR365およびβ2AR-T4Lを、ビマン実験のためにそれぞれ上記の通りに精製した。HLS緩衝液中にある200μlの0.02mg/ml受容体を、加熱ブロック上で37℃でインキュベートした。図17に表記した時点で、試料を短時間遠心して、穏やかにボルテックス処理し、16.5μlを取り出して、HLS中に18.2倍に希釈した(合計300μl)。続いて、全結合の決定のために4×5μlを取り出し、非特異的結合のために2×5μlを取り出した。可溶性結合を測定するためには、5μlの希釈受容体を、10nMの[3H]DHA±10μMの非放射性アルプレノロールを含む105μlのHLS(受容体の最終的な希釈度は400倍)に添加した。反応物を室温で30分間インキュベートし、その後は処理時まで氷上に置いた。タンパク質を残留性の非結合[3H]DHAから分離するために各反応物の100μlを1mlのG50カラムに適用し、1.1mlの氷冷HLSを用いて受容体を溶出させた。結合した[3H]DHAをBeckman LS6000シンチレーションカウンターにて定量した。
「野生型」受容体β2AR365からのカラゾロールの解離
β2AR365を、カラゾロールが結合した状態で、β2ART4Lに関して上述した通りのプロトコールに従って精製した。カラゾロールが結合した受容体(およそ50μMの濃度)を、暗所にて、1Lの透析緩衝液(20mM HEPES pH7.5、100mM NaCl、0.1%ドデシルマルトシド、300μMアルプレノロール)に対して、室温で撹拌しながら透析した。指定した時点で、パラフィルムで密封した開口透析チャンバーから2つの試料を取り出し、新たな透析緩衝液中に希釈した後に、カラゾロール発光スペクトルをSpex FluoroMax分光蛍光計を用いて入手した(330nmでの励起および335〜400nmでの発光を使用)。すべての時点に関する内部標準として、試料を、Bio-Rad Protein DCキットを用いるタンパク質濃度の決定のために取り出した(図19)。
CAMおよびUCM突然変異体
図26Aおよび関連する考察の基盤となる、文献中に記載されているCAM(構成的活性突然変異体)は以下の通りである:L124A(Tao, et al., Mol Endocrinol 14, 1272 (2000))、C116F(Zuscik, et al., J Biol Chem 273, 3401 (1998))、D13OA(Rasmussen et al., Mol Pharmacol 56, 175 (1999))、L272C(Jensen et al., J Biol Chem 276, 9279 (2001))およびC285T (Shi et al., J Biol Chem 277, 40989 (2002))。図26Cに関して用いた、文献からのUCM(アンカップリング突然変異)は以下の通りである:D79N(Chung, et al., J Biol Chem 263, 4052 (1988))、F139A(Moro, et al., J Biol Chem 269, 6651 (1994))、T164I(Green, et al., J Biol Chem 268, 23116 (1993))、N318K(Strader et al., Proc Natl Acad Sci U S A 84, 4384 (1987))、N322A(Barak, et al., Biochemistry 34, 15407 (1995))、P323A(Barak, et al. Biochemistry 34, 15407 (1995))、Y326A(Barak, et al. Biochemistry 34, 15407 (1995))、L339A(Gabilondo et al., Proc Natl Acad Sci U S A 94, 12285 (1997))およびL340A(Gabilondo et al., Proc Natl Acad Sci U S A 94, 12285 (1997))。
β2AR-T4Lの生化学的分析および構造分析
T4リゾチームがGPCRの第3の細胞内ループの大部分を置き換えているβ2AR融合タンパク質(「β2AR-T4L」)は、ネイティブ性に近い薬理特性を保っている。上記の実施例に記載した通りに、β2AR-T4Lタンパク質を脂質立方相の中で結晶化させたところ、結果的に得られた2.4Å分解能の結晶構造から、受容体と部分的逆アゴニストであるリガンドのカラゾロールとの接合面が明らかになった。リガンドの効率は、GPCRの機能的特性に対するリガンドの影響を記述する。実施例のみの中では、アゴニストは受容体を完全に活性化するリガンドと定義される;部分的アゴニストは、飽和濃度であっても最大に満たない活性化を誘導する;逆アゴニストは基礎的な受容体活性を阻害し、アンタゴニストは基礎活性に何ら影響を及ぼさないが、他のリガンドの接近を競合的にブロックする。カラゾロールは、それがβ2ARの基礎活性を50%のみ抑制するため、部分的逆アゴニストと定義される。構造と照らし合わせた突然変異誘発データの分析は、逆アゴニスト結合における種々のアミノ酸の役割を明らかにし、結合ポケットの再編成がアゴニスト結合に随伴することを暗示する。加えて、構造は、構成的活性またはアゴニスト結合のアンカップリングおよびGタンパク質活性化を引き起こすことが知られている突然変異が、リガンドとの相互作用に起因する側鎖の変化がその構造を通じてGタンパク質相互作用の部位へと伝達されうるように、タンパク質のリガンド結合性ポケットと細胞質表面との間にどのように分布するかも明らかにする。
β2AR-T4Lのクローニング
T4Lタンパク質(C54T、C97A)をコードするDNA(Matsumura, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 86, 6562 (1989))を最初に、クラスA GPCR間のICL3の長さおよび配列の比較を手引きとして、ヒトβ2AR遺伝子中にクローニングした(Horn et al., Nucleic Acids Res 31, 294 (2003)):β2ARの残基2345.37〜2596.21を、T4Lの残基2〜164によって置き換えた(図21A中の構築物「E3」)。加えて、受容体を、ロドプシンのカルボキシル末端の位置とほぼ並ぶ、位置365で切断して短縮させた。これらの改変は、Sf9細胞において効率的に発現される受容体をもたらしたが、受容体とT4L末端との間の接合部の長さを短くするために、上記の方法に記載したように、さらに最適化を行った。いくつかの候補構築物を図21Aが図示されており、トランスフェクションおよび透過処理を受けたHEK293細胞の選択された免疫蛍光画像が図21Bに示されている。初期構築物に比して、本発明者らは、ヘリックスVの細胞質末端からの3個の残基、T4LのC末端からの3個の残基、およびヘリックスVIのN末端からの3個の残基を、いずれも著しい細胞表現発現の損失を伴うことなしに除去することができた。結晶化の試行のために用いた最終的な構築物(「β2AR-T4L」)は、β2ARの残基2315.70〜2626.24が、T4Lのアミノ酸2〜161によって置き換えられている(図21A中の「1D」)。リンカー長の最小化を通じての柔軟性の同様な低下は、可溶性融合タンパク質に関する以前の結晶化試験で重要であった(Smyth, et al., Protein Sci 12, 1313 (2003))。
β2AR-T4Lの機能的特性
本発明者らは、β2AR-T4Lに対する[3H]DHAの飽和結合、ならびに逆アゴニストICI-118,551およびいくつかのアゴニストの競合結合を測定した(図22A、図15および表6)。その結果は、β2AR-T4Lがアンタゴニスト[3H]DHAおよび逆アゴニストICI-118,551に対して野生型の親和性を有する一方で、アゴニスト(イソプロテレノール、エピネフリン、フォルモテロール)および部分的アゴニスト(サルブタモール)の両者に対する親和性は野生型β2ARに比して2〜3倍の高さであることを示している。より高いアゴニスト結合親和性は、GPCRの構成的活性突然変異体(CAM)に伴ってみられる特性である。β2ARのCAMはまた、Gsの基礎的なアゴニスト非依存的な活性化の亢進も呈し、典型的にはより低い発現レベルおよび低下した安定性を有する(Gether et al., J Biol Chem 272, 2587 (1997);Rasmussen et al., Mol Pharmacol 56, 175 (1999))。β2ART4LはCAMの結合特性を呈するが、それはSf9細胞培養物1リットル当たり1mgを上回るレベルで発現し、野生型β2ARよりもトリプシンタンパク質分解に対して抵抗性であり(図16)、かつ37℃の界面活性剤中で野生型受容体と同じ程度の結合活性を保っている(図17)。
β2AR-T4Lは、T4LによるICL3の置換のために予想された通り、Gsとは共役しなかった。融合タンパク質が受容体の機能を、それがコンフォメーション変化を起こす能力のレベルで変化させるか否かを評価するために、本発明者らは、共有結合した蛍光プローブを、リガンドで誘導される構造変化のレポーターとして用いた。ヘリックスVIの細胞質末端にあるCys2656.27に結び付けた蛍光団は、Gタンパク質活性化に対するアゴニストの有効性と相関する、アゴニストで誘導されるコンフォメーション変化を検出する(Ghanouni et al., J Biol Chem 276, 24433 (2001);Ghanouni, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 98, 5997 (2001);Swaminath et al., J Biol Chem 279, 686 (2004);Swaminath et al., J Biol Chem 280, 22165 (2005))。界面活性剤で可溶化したβ2AR365(365で切断されて短縮された野生型受容体)およびβ2AR-T4Lをそれぞれモノブロモビマンで標識した。精製したβ2AR365に対する、アゴニストであるイソプロテレノールの添加は、結び付けたビマンプローブに関する蛍光強度の低下およびλmaxの移行を誘導する(図22Bおよび表7)。強度およびλmaxのこれらの変化は、アゴニストで誘導される、ビマンの周りでの極性の増加と一貫性がある。部分的アゴニストであるサルブタモールではより小さな変化が観察され、一方、逆アゴニストであるICI-118,551はほとんど影響を及ぼさなかった。β2AR-T4Lについては、Cys2656.27の周りの環境がT4Lによって変わるならば予想されるように、ビマンで標識した融合タンパク質のベースラインスペクトルの違いはわずかである。しかし、完全アゴニストであるイソプロテレノールは、量的に類似した強度低下およびλmaxの右方移行を誘導する。このように、融合したT4Lの存在は、アゴニストで誘導されるコンフォメーション変化を妨げない。部分的アゴニストであるサルブタモールは、β2AR-T4Lにおいて、野生型β2ARで観察されたよりも大きな応答を誘導し、逆アゴニストICI-118,551に応答して蛍光のわずかな増加がみられた。これらはCAMで観察される特性であり(Gether et al., J Biol Chem 272, 2587 (1997);Samama, et al., J Biol Chem 268, 4625 (1993))、β2AR-T4Lが呈するアゴニストおよび部分的アゴニストに対するより高い親和性と一貫性がある。したがって、本発明者らは、このT4L融合物が、β2ARにおける部分的に構成的な活性表現型を誘導し、それがヘリックスVおよびVIの細胞質末端の変化によって引き起こされる可能性が高いと結論する。
β2AR-T4Lおよびβ2AR-Fabの構造間の比較
β2AR-T4L融合物戦略のバリデーションを、等方性分解能3.4Å/3.7Åで決定した、その構造と、ICL3のアミノ末端およびカルボキシル末端からなる三次元エピトープを認識するFabと複合体化した野生型β2AR複合体の構造との比較によって行った(Rasmussen et al., Nature, 7168:355-6 (2007))。図23Aは、β2AR結晶化に対する融合物アプローチと抗体複合体アプローチとの間の、いずれの戦略もヘリックスVとVIとの間の可溶性タンパク質パートナーの結び付け(それぞれ共有結合性または非共有結合性)という点での類似性を図示している。2つの構造間の主な違いは、β2AR-Fab複合体では細胞外ループおよびカラゾロールリガンドをモデル化することができなかったが、一方、β2AR-T4Lの構造ではこれらの領域が解明されていることである。しかしながら、T4L挿入が受容体を著しくは変化させないことは明らかである。2つの構造の重層化(図18)は、特にFab複合体の分解能がそれほど高くないことを考慮に入れれば、受容体成分の膜貫通ヘリックスが極めて類似していることを図示している(モデル化された154個の共通の膜貫通Cα位置に関するRMSD=0.8Åであり、これに対してβ2AR-T4Lとロドプシンにおける154個の等価な残基との間では2.3Å)。
Fab-複合体およびキメラ受容体の構造の間には、T4Lの存在に原因を求めることのできる1つの著しい違いがある。ヘリックスVIの細胞質末端は、T4Lのカルボキシル末端に対する融合の結果として外向きに引っ張られており、それはヘリックスVIのPhe2646.26のパッキングを変化させる(図23B)。Fab-複合体β2ARでは、Phe2646.26とヘリックスV、ヘリックスVIおよびICL2における残基との相互作用が、β2ARを基礎状態に維持する上で重要であると考えられる。β2AR-T4Lにおけるこれらのパッキング相互作用の喪失は、CAMのより高いアゴニスト結合親和性という特徴の原因になりうると考えられる。
ロドプシンおよびβ2AR-T4Lの構造間の予想外の差異には、クラスA GPCRの71%でヘリックスIIIの細胞質末端に見られる配列E/DRYがかかわる。ロドプシンでは、Glu1343.49およびArg1353.50が、ヘリックスVIの細胞質末端での水素結合のネットワークおよびGlu2476.30とのイオン性相互作用を形成する。これらの相互作用は、ロドプシンおよび他のクラスAのメンバーの不活性状態を安定化する「イオン性ロック(ionic lock)」と呼ばれている(Ballesteros et al., J Biol Chem 276, 29171 (2001))。しかし、β2AR-T4Lでは相同残基の配置が著しく異なる:Arg1313.50は、Glu2686.30よりも主としてAsp1303.49および硫酸イオンと相互作用し、ヘリックスIIIとヘリックスVIとの間の距離はロドプシンにおけるよりも大きい(図23C)。2種類のアプローチを用いて類似したイオン性ロック構造が得られたという事実は、イオン性ロックの破壊が、受容体のカラゾロール結合状態の真性の特徴であることを示唆する。
β2ARに対するリガンド結合
β2AR-T4L融合タンパク質を精製し、逆アゴニストであるカラゾロールとの複合体として結晶化させた。カラゾロールは、β2ARを極度のpHおよび温度に対して安定化するが、これはおそらくその非常に高い結合親和性(Kd<0.1nM)および緩徐な解離動態(t1/2がほぼ30時間)が関係していると考えられる(図19)。カラゾロールとβ2AR-T4Lとの間の相互作用を図24に模式的に描写している。カルバゾール環系は膜平面に対して概ね垂直方向を向き、アルキルアミン鎖(モデル中の原子15〜22)は複素環とほぼ平行している(図25A〜B)。上記の実施例3で述べたように、カラゾロールは、このリガンドのラセミ混合物を結晶化に用いたにもかかわらず、電子密度中に(S)-(-)異性体としてモデル化されたが、これはこのエナンチオマーの親和性がより高いためであった。Asp1133.32、Tyr3167.43およびAsn3127.39は、リガンドのアルキルアミンモイエティおよびアルコールモイエティに対する極性官能基の立体配置(constellation)を呈示し、Asp1133.32およびAsn3127.39側鎖はカラゾロールのO17原子およびN19原子と密な接触(<3Å)を形成する(図24および25A〜B)。Asp1133.32は、リガンド結合のために重要であることが示された最初のβ2AR残基の1つであった;注目されることに、D113N突然変異はアンタゴニストに対する検出可能な親和性の完全喪失(Strader et al., Proc Natl Acad Sci U S A 84, 4384 (1987))、および細胞ベースのGタンパク質活性化に対するアゴニストの効力の4桁を上回る低下を引き起こす(Strader et al., J Biol Chem 263, 10267 (1988))。同様に、Asn3127.39の突然変異はアゴニストおよびアンタゴニストに対するβ2ARの結合を擾乱させる:非極性アミノ酸(AlaまたはPhe)に対する変化は親和性を検出不能なレベルまで低下させ、一方、極性官能基(ThrまたはGln)の保持は部分的親和性を与える(Suryanarayana, et al., Mol Pharmacol 44, 111 (1993))。リガンドのヘリックスV近くの反対側の末端で、カルバゾール複素環のN7はSer2035.42の側鎖ヒドロキシルと水素結合を形成する。興味深いことに、Ser2035.42の突然変異は、カテコールアミンアゴニスト、ならびにピンドロール(Liapakis et al., J Biol Chem 275, 37779 (2000))、および暗示的にはカラゾロールなどの、窒素含有複素環を有するおよびアリールオキシアルキルアミンリガンドに対するβ2ARの親和性を特異的に低下させる。したがって、結晶構造中に観察されたカラゾロールと受容体との間の極性相互作用は、公知の生化学データと合致する。アンタゴニストおよびアゴニストの親和性に対するTyr3167.43の寄与については今後の検討が必要である;この残基は、シークエンシングが行われたすべてのアドレナリン作動性受容体遺伝子においてチロシンとして保存されている(Horn et al., Nucleic Acids Res 31, 294 (2003))。
図25Cは、790Å2の表面積を溶媒から埋没させる、カラゾロールと周囲のアミノ酸との間の強固なパッキングを示している;具体的な接触は図24に模式的に描写されている。カラゾロールと接触する疎水性残基の中で注目されるのはVal1143.33、Phe2906.52およびPhe1935.32である。ヘリックスIIIからのVal1143.33の側鎖は、カルバゾール複素環のC8-C13環と複数の接触を生じ、ヘリックスVIからのPhe2906.52は同じ環と辺縁-面(edge-to-face)芳香族相互作用を形成する。その結果として、これらの2個のアミノ酸は、多くのアドレナリン作動性アンタゴニストに共通するアリールモイエティの部分と疎水性「サンドイッチ」を形成する。Val1143.33のアラニンへの突然変異は、アンタゴニストであるアルプレノロールに対するβ2ARの親和性を1桁低下させること、ならびにアゴニストであるエピネフリンに対する親和性を300分の1に低下させることが示されている(P. Chelikani et al., Proc Natl Acad Sci U S A 104, 7027 (2007))。Phe1935.32は、それが結合ポケットに対するホルモン到達の経路の中にあるECL2上に位置する点で、他のカラゾロール接触性残基とは異なる。このアミノ酸は、β2AR-T4Lとカラゾロールとの間の接合面にある他のいずれの残基よりも多くの埋没表面積に寄与する(表8参照)。このため、Phe1935.32は、β2AR-カラゾロール複合体形成のエネルギーに対して著しく寄与する可能性が高く、結合部位の細胞外の側にあるというこの残基の位置は、それがリガンドの非常に緩徐な解離の原因となるゲートとして作用することを可能にすると考えられる(図19)。
(表8)
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β2AR-T4L/カラゾロール接合面での埋没表面積への寄与。溶媒到達可能表面積の計算は、CNSソフトウエアパッケージ(Brunger et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 54, 905 (1998))により、プローブ半径1.4Åを用いて行った。個々の残基の埋没表面積への寄与は、完全β2ART4L/カラゾロールモデルに関して1残基当たりの溶媒到達可能表面積を計算し、これらの数値を、カラゾロールを伴わない受容体モデルに関して計算された値から差し引くことによって求めた。
結合ポケットの分析は、β2ARと、β1ARなどの密接に関連したアドレナリン作動性受容体との間の薬理学的選択性の構造的基盤についての洞察を与える。ICI-118,551、ベタキソロールおよびRO363(Sugimoto et al., J Pharmacol Exp Ther 301, 51 (2002))などの特定のリガンドに対するこれらの2つの受容体の親和性には、最大で100倍の違いがある。奇妙なことに、カラゾロール結合ポケット内のアミノ酸はすべて、β1ARとβ2ARとの間で保存されている(図20参照)。β1ARとβ2ARとの間の94アミノ酸の違いの大半は、細胞質ループおよび細胞外ループに見られる。膜貫通セグメント中にある異なる残基は一般に脂質二重層に直面しているが、8個の残基はヘリックスとの接合部にあり、ヘリックスのパッキングに影響を及ぼす可能性がある。したがって、β1ARとβ2ARとの間の薬理学的な違いの構造的基盤は、結合ポケットへの入口におけるアミノ酸の違い、またはヘリックスのパッキングにおけるわずかな違いから生じるものでなければならない。後者に関する証拠は、β1ARとβ2ARとの間のヘリックスの連続的交換がβ2AR選択的なICI-118,551およびβ1AR選択的なベタキソロールに対する親和性の段階的な変化を招いた、キメラ受容体試験から得られている(Frielle, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 85, 9494 (1988))。
以上に考察したように、β2AR-T4Lはアゴニスト結合親和性の点でCAM様特性を示し、このことは、リガンドが結合していないβ2AR-T4Lは、野生型β2ARよりも活性なコンフォメーションで存在する可能性を示唆する。しかしながら、図22Bに示されているように、β2AR-T4Lは、逆アゴニストによって不活性コンフォメーションで安定化されうる。β2AR-T4Lは、部分的逆アゴニストであるカラゾロールが結合した状態で結晶化されたため、この構造は不活性状態を表している可能性が非常に高い。これは、β2AR-T4L構造およびβ2AR-Fab5カラゾロール結合構造の類似性と一貫性がある。コンフォメーション変化がカテコールアミンを収容するために必要であるか否かを評価するために、イソプロテレノールのモデルを、共通の原子(図24中の16〜22)が結晶構造中の類似のカラゾロール座標と重なり合うように(図25D)、結合部位に配置した。残基Ser2045.43およびSer2075.46は、カテコールアミンの結合およびβ2ARの活性化のために決定的に重要であり、Ser2045.43はカテコール環のメタ-ヒドロキシルと、Ser2075.46はパラ-ヒドロキシルと、それぞれ水素結合を形成する(Strader, et al., J Biol Chem 264, 13572 (1989))。本発明者らのモデルにおいて、イソプロテレノールのカテコールヒドロキシルはヘリックスV上の適切なセリンと直面しているが、それらの距離は水素結合のためには長すぎる(このメタ-ヒドロキシル酸素からSer2045.43の側鎖酸素までは6.8Å、このパラ-ヒドロキシル酸素からSer2075.46の側鎖酸素までは4.8Å)。加えて、文献に基づいてアゴニストと選択的相互作用を形成すると予想される2つの残基であるAsn2936.55およびTyr3087.35(Wieland, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 93, 9276 (1996);Kikkawa, et al., Mol Pharmacol 53, 128 (1998))は、モデル化されたイソプロテレノール分子と生産的な極性または疎水性接触のいずれを形成するにも離れすぎている。これらの観察所見は、アゴニストの共通の構造成分および逆アゴニストが著しく異なる様式で結合するのでなければ、アゴニスト結合は、カラゾロールが結合した構造に比して結合部位の変化を必要とすることを示唆する。
β2AR活性化についての構造的な洞察
β2ARの機能に影響を及ぼす突然変異の分析は、受容体活性化の際に起こる可能性の高い構造再編成についての洞察を与える。図26Aは、その突然変異が基礎的なアゴニスト非依存的な活性の亢進を招くアミノ酸(構成的活性突然変異、CAM)、ならびにその突然変異がアゴニスト活性化を障害させるアミノ酸(アンカップリング突然変異、UCM)の場所を図示している。CAMが記載されている残基は、受容体を不活性コンフォメーションに維持する相互作用に関与する可能性が高い。これらのアミノ酸はヘリックス IIIおよびVI上の中央に位置する。対照的に、UCMが観察されている位置は、活性状態を安定化する分子内相互作用を形成する可能性が高い。UCMのクラスターはヘリックスVIIの細胞質末端に見られる。CAMおよびUCMはいずれも、アゴニスト結合に直接的には関与しない。CAMおよびUCMは配列中で直接つながってはいないが、その構造から、一方の動きがもう一方のパッキングに影響を及ぼすというように、それらがパッキング相互作用を通じて結び付いていることは明白である。例えば、図26A(右のパネル)は、中央に位置する2つのCAMであるLeu1243.43(Tao, et al., Mol Eodocrinol 14, 1272(2000))およびLeu2726.34(Jensen et al., J Biol Chem 276, 9279(2001))の4Å以内にある原子を有するすべてのアミノ酸を示している。これらのCAMに対してパッキングを行ういくつかのアミノ酸は、1つまたは複数のUCMとも相互作用する。Trp2866.48は結合ポケットの基部にある。アゴニスト結合はTrp2866.48の回転異性体状態の変化を招き、それは引き続いて、Pro2886.50によって形成されるヘリックスキンクの角度の変化を招くことが提唱されている(Shi et al., J Biol Chem 277, 40989(2002))。アゴニストにより誘導されるTrp2866.48の回転異性体状態の変化が、パッキング相互作用を通じてCAMおよびUCMの側鎖の変化と結び付き、それがGタンパク質および他のシグナル伝達分子と相互作用するヘリックスの細胞質末端および関連する細胞内ループへと伝播されるという可能性は高い。
ロドプシンおよびβ2ARのいずれの構造中にも、水分子のクラスターが、最も高度に保存されたクラスA GPCR残基の近くにある(図26B)。これらの水分子は、受容体活性化に関与する構造変化において役割を果たす可能性が提唱されている(Pardo, et al., Chembiochem 8, 19 (2007))。図26Cは、Trp2866.48をヘリックスの細胞質末端へと伸びる保存されたアミノ酸と連結させる、可能性のある水素結合相互作用のネットワークを示している。UCMは、このネットワークによって連結される3個のアミノ酸である、N3227.49、P3237.50およびY3267.53に関して同定されている(Barak et al., Biochemistry 34, 15407 (1995))。この比較的緩くパッキングされている、水で満たされた領域は、側鎖リパッキングに対する立体的制約が少ないと考えられるため、コンフォメーション遷移を可能にする上で重要である可能性がある。
本明細書の本文中で引用したすべての参考文献、発行された特許、および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
付属書I
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Claims (47)

  1. ポリエチレングリコールまたは修飾ポリエチレングリコール;
    0.01〜1Mの塩;
    ホスト脂質;
    脂質添加物、ここで該脂質添加物はホスト脂質に対して10〜60%v/vの比で存在する;
    緩衝剤;および
    1〜100mg/mlの膜タンパク質
    を含む、膜タンパク質の脂質立方相(lipidic cubic phase)結晶化用の組成物。
  2. ポリエチレングリコールがPEGまたは修飾PEGであり、PEGまたは修飾PEGの平均分子量が200〜20,000である、請求項1記載の組成物。
  3. PEGまたは修飾PEGの平均分子量が400〜8000である、請求項2記載の組成物。
  4. PEGまたは修飾PEGの平均分子量が400〜2000である、請求項3記載の組成物。
  5. PEGまたは修飾PEGの平均分子量が400である、請求項4記載の組成物。
  6. 塩が硫酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、酢酸塩およびギ酸塩からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
  7. 塩が0.1〜0.2Mの濃度で存在する、請求項6記載の組成物。
  8. 緩衝剤が0.05〜0.5Mの濃度で存在する、請求項1記載の組成物。
  9. 緩衝剤がBis-trisプロパンである、請求項1記載の組成物。
  10. 緩衝剤がクエン酸ナトリウムである、請求項1記載の組成物。
  11. 緩衝剤がpH 4.5〜8.0を有する、請求項1記載の組成物。
  12. 1〜10%v/vの濃度で存在するアルコールをさらに含む、請求項1記載の組成物。
  13. アルコールが5〜7%v/vの濃度で存在する、請求項12記載の組成物。
  14. アルコールがジオールまたはトリオールである、請求項12記載の組成物。
  15. アルコールが1,4-ブタンジオールである、請求項13記載の組成物。
  16. アルコールが2,6-ヘキサンジオールである、請求項13記載の組成物。
  17. 脂質添加物がホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で存在する、請求項1記載の組成物。
  18. 脂質添加物がホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する、請求項17記載の組成物。
  19. 脂質添加物が2-モノオレイン、ホスファチジルコリン、カルジオリピン、リゾ-PC(lyso-PC)、ポリエチレングリコール-脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(「DOPE」)、DOPE-Me、ジオレオイルホスファチジルコリン(「DOPC」)、アゾレクチンおよびステロールからなる群より選択される、請求項17記載の組成物。
  20. 脂質添加物がステロールである、請求項19記載の組成物。
  21. 脂質添加物がコレステロールである、請求項20記載の組成物。
  22. ホスト脂質がモノパルミトレイン、モノバクセニン(monovaccenin)およびモノオレインからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
  23. ホスト脂質がモノオレインである、請求項22記載の組成物。
  24. 組成物中の結晶化しようとするタンパク質が1〜100mg/mLの濃度で存在する、請求項1記載の組成物。
  25. 組成物中の結晶化しようとするタンパク質が40〜60mg/mLの濃度で存在する、請求項1記載の組成物。
  26. 膜タンパク質がG-タンパク質共役受容体である、請求項1記載の組成物。
  27. 膜タンパク質がβ2ARタンパク質を含む、請求項1記載の組成物。
  28. G-タンパク質共役受容体がβ2AR(E122W)およびβ2AR(E122W)-T4Lからなる群より選択される、請求項27記載の組成物。
  29. カラゾロール、チモロール、アルプレノロールおよびクレンブテロールからなる群より選択されるリガンドをさらに含む、請求項28または29記載の組成物。
  30. 脂質添加物をホスト脂質と混合して脂質混合物を形成させる段階であって、該脂質添加物がステロール、DOPE、DOPE-Me、DOPCおよびアゾレクチンからなる群より選択され、該脂質添加物が該ホスト脂質中で5〜20%w/wである段階;ならびに
    脂質立方相組成物の形成のために適した条件下で該脂質混合物を膜タンパク質溶液と組み合わせる段階
    を含む、膜タンパク質の結晶を生成させる方法。
  31. 脂質添加物の量が脂質中で8〜10%w/wである、請求項30記載の方法。
  32. プレートを脂質立方相組成物で満たす段階であって、該プレートが画像化と適合性がある段階;
    該脂質立方相組成物を含む該プレートを、タンパク質の結晶化のために適した条件下に置く段階;および
    該プレートにおける該タンパク質の結晶の存在を検出する段階
    をさらに含む、請求項30記載の方法。
  33. プレートを第2のプレートで覆う段階をさらに含む、請求項30記載の方法。
  34. タンパク質が無色のタンパク質である、請求項30記載の方法。
  35. タンパク質がGPCRである、請求項34記載の方法。
  36. タンパク質がβ2ARを含む、請求項35記載の方法。
  37. タンパク質がβ2AR(E122W)およびβ2AR(E122W)-T4Lからなる群より選択される、請求項36記載の方法。
  38. 脂質添加物がホスト脂質中に1〜20%w/wの濃度で存在する、請求項30記載の方法。
  39. 脂質添加物がホスト脂質中に8〜10%w/wの濃度で存在する、請求項38記載の方法。
  40. 第2のプレートがガラスを含む、請求項34記載の方法。
  41. プレートから結晶を直接採取する段階をさらに含む、請求項34記載の方法。
  42. 脂質立方相組成物の立方相とスポンジ相との間から結晶を採取する段階をさらに含む、請求項41記載の方法。
  43. 結晶中に拡散性リガンドまたは候補リガンドを染み込ませる段階をさらに含む、請求項35記載の方法。
  44. GPCRタンパク質、ホスト脂質および脂質添加物を含む液体立方相組成物を調製する段階;
    該組成物を第1のX線ビームに曝露させて、該第1のX線ビームの方向または強度の変化を決定する段階;
    該組成物を第2のビームに曝露させて、該第2のX線ビームの方向または強度の変化を決定する段階;
    該GPCR結晶が該組成物中に存在する区域を同定する段階;および
    該同定された区域を少なくとも第3のX線ビームに曝露させる段階
    を含む、液体立方相組成物中に存在するGPCRの結晶のスクリーニングの方法。
  45. 第1のビームがスリットを通した(slitted)100×25μmビームである、請求項44記載の方法。
  46. 前記結晶が無色である、請求項44記載の方法。
  47. GPCR結晶がβ2AR(E122W)およびβ2AR(E122W)-T4Lである、請求項44記載の方法。
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