JP2011253834A - 受光素子、光学センサ装置および受光素子の製造方法 - Google Patents

受光素子、光学センサ装置および受光素子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 短波長側から長波長側の近赤外域にわたって、受光感度の変動を抑制した、受光素子等を提供する。
【解決手段】この受光素子50は近赤外域に感度を持ち、ペア数が50以上の、タイプ2型のMQWの受光層3と、受光層の中に位置し、または該受光層の外面に接して位置し、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第2の受光層13と、エピタキシャル積層体の表面から該エピタキシャル積層体内へと位置する、p型領域6とを備え、そのp型領域は先端部にpn接合15を形成しており、そのpn接合が、該第2の受光層13よりもエピタキシャル積層体の表面に近い位置に位置することを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、受光素子、光学センサ装置および受光素子の製造方法であって、より具体的には、近赤外の長波長域にまで受光感度を持つような構成を持つタイプ2型多重量子井戸構造(Multi-Quantum Well)を受光層に含む、受光素子、光学センサ装置および受光素子の製造方法に関するものである。
InP基板を用いたIII−V族化合物半導体は、バンドギャップエネルギが近赤外域に対応することから、通信用、生体検査用、夜間撮像用などの受光素子の研究開発が行われている。
このなかで、InP基板上にInGaAs/GaAsSbのタイプ2型MQWの受光層を備えるフォトダイオードの試作例が開示されている(非特許文献1)。このフォトダイオードのカットオフ波長は2.39μmであり、波長1.7μmから2.7μmまでの感度特性が示されている。
また、他の例では、InP基板上にInGaAs/GaAsSbのタイプ2型MQWを備えるフォトダイオードについて、波長1μmから3μmまでの感度(温度:200K、250K、295K)が開示されている(非特許文献2)。このフォトダイオードでは、InGaAsおよびGaAsSbの厚みは、両方とも5nmであり、150ペア積層しており、そのカットオフ波長は2.3μmである。
R.Sidhu, et.al. "ALong-Wavelength Photodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-II Quantum Wells, IEEE Photonics Technology Letters, Vol.17, No.12(2005), pp.2715-2717 R.Sidhu, et.al.," A 2.3μm cutoff wavelength photodiode on InPusing lattice-matched GaInAs-GaAsSb type II quantum wells"2005 International Conference on Indium Phosphide and RelatedMaterials
上記のフォトダイオードについては、タイプ2型InGaAs/GaAsSbのMQWにより受光域の最長波長に研究開発が集中する傾向がある。このため、もっぱら、GaAsSbの価電子帯の電子が、InGaAsの伝導帯に遷移するタイプ2型の遷移に関心が集中する。GaAsSbの価電子帯の電子がInGaAsの伝導帯に遷移することから、このタイプ2型の遷移は、InGaAs/GaAsSb、の界面で生じる。
一方、タイプ2型InGaAs/GaAsSbのMQWにおいて、タイプ1型の遷移、すなわちそれぞれの層の価電子帯の電子が、同じ層の伝導帯へと遷移することも並行して生じる。この場合、InGaAsおよびGaAsSbのバンドギャップはほぼ同じで、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップより相当大きいので、タイプ2型遷移による最長波長より相当短い短波長側が受光域となる。
上記の受光素子は、生体組織等の検査に用いられことが想定され、またその他の理由により、0.9μm以上の近赤外域で、所定以上の受光感度、とくにほぼ一定の受光感度を持つことが必須である。しかし、上記の非特許文献では、前者においては、波長1.8μmから2.3μmまでほぼ一定の受光感度を持つが、波長1.7μm以下で急激に高くなっている。また、後者のフォトダイオードでは、長波長側は一定であるが、波長1.5μm以下で受光感度は急激に低下している。
上述のように、タイプ2型InGaAs/GaAsSbのMQWにおいてもそれぞれの量子井戸内でタイプ1型の遷移(受光)が生じて短波長側の受光感度が向上してもよいはずであるが、実際は受光感度の波長依存性が大きく、短波長側で受光感度は低下する。このような、受光感度の変動は避けなければならない。すなわち受光感度の波長依存性は実用的に許容される範囲内に平坦化されるべきである。
本発明は、短波長側から長波長側の近赤外域にわたって、受光感度の変動を抑制した、受光素子、光学センサ装置および受光素子の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の受光素子は、化合物半導体の基板、および該基板上に形成されたエピタキシャル積層体を備え、近赤外域に受光感度を持つ。この受光素子では、エピタキシャル積層体は、ペア数が50以上の、タイプ2型のMQWの受光層と、受光層の中に位置し、または該受光層の外面に接して位置し、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第2の受光層と、エピタキシャル積層体の表面から該エピタキシャル積層体内へと位置する、p型またはn型の不純物領域とを備える。その不純物領域は先端部にpn接合を形成しており、そのpn接合が、第2の受光層内か、または該第2の受光層よりもエピタキシャル積層体の表面に近い位置に位置することを特徴とする。
本発明の受光素子は、タイプ2型のMQWを含む。このタイプ2型MQWでは、一方の化合物半導体層(a層、たとえばGaAsSb層)は、MQWの状態で、他方の化合物半導体層(b層、たとえばInGaAs層)よりも、価電子帯および伝導帯が、高い。ただし、両方のフェルミ準位が一致することから、a層(GaAsSb層)の価電子帯よりはb層(InGaAs層)の伝導帯のほうが高いエネルギ準位を有する。このa層の価電子帯とb層の伝導帯とのエネルギ差は、a層内およびb層内の、価電子帯と伝導帯とのエネルギ差よりも相当小さい。タイプ2型の受光(遷移)のとき、a層の価電子帯に位置する電子が入射光を吸収してb層の伝導帯に励起される。この結果、a層の価電子帯に正孔が生じ、b層の伝導帯に当該励起された電子が位置する。このように、a層の価電子帯の電子がb層の伝導帯に励起されることで、より低エネルギ(より長波長)の入射光を受光することができる。これをタイプ2型の遷移(受光)といい、a層とb層との界面で生じる現象である。
上記のタイプ2型の遷移は、受光域の最長波長を決め、かつそのため、タイプ2型による受光域は、最長波長を上限とする長波長域、たとえばタイプ2型(InGaAs/GaAsSb)MQWの例では波長2.6μmから3μmのいずれかの波長を最長波長とする。また上記MQWのタイプ2型遷移では短い方は波長1.7μm以上に感度を持つ。
また、一般に、タイプ2型MQWでは、タイプ2型の遷移だけでなく、タイプ1型の遷移も生起する。タイプ1型の遷移は、上記の界面ではなく、a層内およびb層内で生じる。通常、タイプ2型MQWを形成する、a層およびb層は、ほとんど同じバンドギャップエネルギを有する。タイプ1型の受光が、a層内またはb層内で生じると、a層またはb層の価電子帯の電子が、それぞれの層の伝導帯に励起され、それぞれの層の価電子帯に正孔が生じる。このタイプ1型の遷移で受光される光は、当然、タイプ2型で受光される光よりも短波長である。正孔が価電子帯に生じ、また電子が伝導帯へと励起される点では、タイプ1型もタイプ2型も同じである。
ここで、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップとは、上記のa層の価電子帯と、b層の伝導帯との差をいうこととする。実際の受光における電子の遷移では、価電子帯における正孔(電子)のエネルギ準位や、伝導帯における電子のエネルギ準位が、受光される光の波長に影響する。しかし、本発明では、価電子帯や伝導帯内での電子のエネルギ準位までは問題にしないで、a層の価電子帯とb層の伝導帯との差を対象とする。
また、受光層の外面とは、受光層を構成するMQWが他の材料の層との間に面する面であり、表面(上面)、底面(下面)をいう。受光層の中とは、MQWを構成する多数のペアの中に割って入って位置することをいう。
従来のタイプ2型MQWを備える受光素子では、上記のペア数を50以上に多くして界面でのタイプ2型遷移を生じやすくすることでタイプ2型の受光感度を向上させてきた。しかし、タイプ1型の受光感度が低いためなのか、および/または、その他の理由によってか、短波長側の受光感度が低い受光素子が多くみられた。
上記の構成によって、pn接合に逆バイアス電圧を印加して空乏層を、該pn接合から、タイプ2型MQWの受光層および第2の受光層へと張り出して、各受光層において対応する波長域の光を受光することができる。このため、長波長側の光については、MQWのタイプ2型の遷移により受光し、短波長側の光については、MQWのタイプ1型の遷移により、および第2の受光層によって受光することができる。第2の受光層は、タイプ2型遷移はなく、タイプ1型の遷移だけが生じるので、タイプ1型の遷移は不要であり、省略する。この結果、短波長域から長波長域にわたって受光感度の波長依存性が実用上問題ないレベルにまで平坦化された受光素子を得ることができる。
なお、上記の受光素子は、画素は一つでもよいし、複数の画素が一次元または二次元に配列したアレイであってもよい。光入射は、化合物半導体の基板側からでもよいし、エピタキシャル積層体の表面側からでもよい。ただし、画素が複数で二次元配列の場合は、画素電極をCMOS等の読み出し回路(ROIC:Read out IC)の読み出し電極に導電接続するために、基板側から光を入射するほうがよい。
また、上記第2の受光層は、一つだけでなく複数に分かれて位置していてもよい。複数に分かれて位置する場合、その材料は同じでなくてもよく、異なっていてもよい。すなわち、一つの層は同一材料で形成されているが、分かれて配置される場合は、分かれた層は、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップよりも大きいバンドギャップを持てば、相互に異なる材料であってよい。
また、pn接合を先端部に持つ不純物領域は、たとえば選択拡散によって導入された不純物領域でもよいし、成長時に当該不純物と同型の不純物をドープして、周囲をメサエッチングによって除いたあとの不純物領域であってもよい。また、成長時に上記同型の不純物をドーピングしておいて、周囲に反対型の不純物を選択拡散して隔離した状態の不純物領域であってもよい。すなわち周囲と電気的または半導体的に隔離された状態の不純物領域であれば形態は問わない。
基板をInP基板とし、受光層を、InGa1−xAs(0.38≦x≦0.68、以下InGaAsと記す。)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦0.62、以下GaAsSbと記す)とのMQWとし、不純物領域をp型領域とすることができる。上記の(InGaAs/GaAsSb)MQWのタイプ2型遷移は、最長波長を3.0μm〜2.6μm程度として、波長1.7μm以上をカバーする。上記本発明の受光素子では、MQWとは別に、タイプ2型の遷移でのバンドギャップより大きいバンドギャップを有する第2の受光素子を備えるので、0.9μm〜1.7μmの範囲の短波長側での低い受光感度は向上する。この受光感度の向上は、短波長側の受光による正孔の数が増えること、およびMQWにおける量子井戸ポテンシャルがない部分の受光層の厚み比率が増えること、の両方による。このため、波長0.9μm程度から3.0μm〜2.6μm程度にかけて感度の波長依存性に優れた受光素子を得ることができる。
上記の受光素子では、p型領域をエピタキシャル積層体の表面側に形成するので、p側電極をInP系エピタキシャル積層体の表面に配置する。対をなすn側電極は、受光層からみてInP基板に近い位置の層(InP基板であってもよい)に配置する。InP基板を用いた場合、p側電極をInP系エピタキシャル層の表面に配置する理由は次のとおりである。InP系半導体のp型不純物であるZnは、これまでに膨大な技術蓄積がある。このZnを、InP系エピタキシャル層の表面から選択拡散によって導入して、画素領域を形成することが容易なためである。このため、p側電極をInP系エピタキシャル層の表面に配置する。画素領域は、一つまたは複数、形成され、複数の場合はp側電極は各画素領域に1つずつ配置される。このためp側電極を画素電極と呼ぶことがある。一方、n側電極は共通のグランド電極となる。すなわち、p側電極が、一つの場合および複数の場合、のいずれの場合でも、各画素に共通のグランド電極となる。
上記のp側電極およびn側電極の配置によって、受光現象が起きると、タイプ1とタイプ2とによらず、正孔はp側電極に、また電子はn側電極へと、逆バイアス電界によって誘導される。
画素が複数で二次元配列になる場合、画素電極(p側電極)から電荷を読み出す配線が複雑になり、光伝播の障害になるので、エピタキシャル層側を光入射面にすることはできない。このため、InP基板側から光入射を行う。CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等で形成された読み出し配線(ROIC:Read Out IC)の読み出し電極は、p側電極に導電接続される。
光がInP基板側から入射されると、InP基板に近い範囲のMQWで受光が生じて正孔および電子が発生する。正孔は、電子に比べて移動度が小さいことが知られている。逆バイアス電界があるとはいえ、移動度が小さいうえに正孔は多くの量子井戸のポテンシャルを繰り返し越えてp側電極に到達しなければならない。このため、p側電極に到達できない正孔が多く生じ、受光感度の低下を生じる。タイプ1型の遷移でもタイプ2型の遷移で生じた正孔は、どちらも、同じ程度にp側電極に到達しにくいはずである。しかし、従来の実際の結果は、上述のように、近赤外域の長波長側の受光感度は比較的高いのに比べて、短波長側では受光感度は低い。
MQWにおいてGaAsSbと対をなすInGaAsを、InGaAsN、InGaAsNPおよびInGaAsNSbのいずれか一つで置き換えることができる。これによって、より最長波長をより長波長側に拡大することが可能になる。
第2の受光層を、全厚み0.1μm以上1μm以下のInGa1−xAs(0.38≦x≦0.68、以下InGaAsと記す。)層とすることができる。これによって波長0.9μm以上の範囲に、受光感度の波長依存性が良好な受光素子を得ることができる。通常、MQWの受光層は、全膜厚2μm〜5μmなので、上記の第2の受光層は、厚み0.5μmのとき、受光層全体の9%程度〜20%程度の比率となる。
受光素子において、波長1.3μmの受光感度と波長2.0μmの受光感度との比を、0.3以上1.2以下の範囲内とすることができる。これによって、実用上で問題ないレベルの受光感度の平坦性を有する受光素子を得ることができる。
上記のエピタキシャル積層体の内部、または該エピタキシャル積層体と基板との間に、再成長界面がないようにできる。ここで、再成長界面とは、所定の成長法で第1結晶層を成長させたあと、一度、大気中に出して、別の成長法で、第1結晶層上に接して第2結晶層を成長させたときの第1結晶層と第2結晶層との界面をいう。通常、酸素、炭素、珪素が不純物として高濃度に混入する。これによって結晶性に優れ、かつ表面が平滑なエピタキシャル積層体を得ることができる。このため、暗電流を低くでき、高いS/N比の受光素子を得ることができる。
また、受光素子を能率よく製造することができる。すなわち、このあと説明するように、(バッファ層〜MQW)からPを含むInP窓層まで、一貫して全有機MOVPE法によって成長するので、同じ成長槽内で、連続して製造を遂行することができる。また、たとえば燐を含むInP窓層を形成しても、原料に固体の燐を用いないので、成長槽の内壁に燐が固着しない。このためメンテナンス時に発火などのおそれがなく、安全上も優れている。
これによって結晶性に優れ、かつ表面が平滑なエピタキシャル積層体を得ることができる。このため、暗電流を低くでき、高いS/N比の受光素子を得ることができる。
本発明の光学センサ装置は、上記のいずれかの受光素子を備えることを特徴とする。これによって、受光感度の波長依存性が問題ないレベルに平坦な光学センサ装置を得ることができる。この光学センサ装置は、半導体素子(受光素子)の各画素からの読み出し電極を備えたCMOS、分光器(回折格子)、レンズなどの光学素子、マイコンなどの制御装置等を含むことができる。
本発明の受光素子の製造方法は、InP基板の上にタイプ2型の、InGaAsとGaAsSbとのMQWの受光層を備えた受光素子を製造する。この製造方法は、InP基板の上にMQWを成長する工程を備え、そのMQW成長工程の(1)前に、もしくは(2)後に、または(3)該MQWの成長の途中で該MQWの成長を一時的に停止して、MQWのタイプ2型の遷移におけるバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第2の受光層を形成することを特徴とする。
上記の構成によって、この結果、短波長域から長波長域にわたって受光感度の波長依存性が実用上問題ないレベルにまで平坦化された受光素子を得ることができる。
エピタキシャル積層体の表面をInP窓層として、InP基板上に、MQW、第2の受光層およびInP窓層を含むエピタキシャル積層体を、一貫して、全有機金属気相成長法により成長することができる。ここで、全有機気相成長法は、気相成長に用いる原料のすべてに、有機物と金属との化合物で構成される有機金属原料を用いる成長方法のことをいい、全有機MOVPE法と記す。
上記の方法によれば、上述の受光素子を能率よく製造することができる。すなわち、Pを含むInP窓層まで、一貫して全有機MOVPE法によって成長するので、同じ成長槽内で、連続して製造を遂行することができる。このため再成長界面を持たないので結晶性のよいエピタキシャル層を得ることができ、暗電流の抑制等を実現することができる。また、燐を含むInP窓層を形成しても、原料に固体の燐を用いないので、成長槽の内壁に燐が固着しない。このためメンテナンス時に発火などのおそれがなく、安全上も優れている。
全有機MOVPE法におけるその他の利点は、各層間で急峻なヘテロ界面をもつMQWを得ることができる。急峻なヘテロ界面をもつMQWによって、高精度のスペクトル分光等を行うことができる。
MQWの形成工程では、温度400℃以上かつ560℃以下で、MQWを形成することができる。これによって、結晶性に優れたMQWを得ることができ、暗電流をより一層低くすることができる。上記の温度は、基板表面温度を赤外線カメラおよび赤外線分光器を含むパイロメータでモニタしており、そのモニタされている基板表面温度をいう。したがって、基板表面温度ではあるが、厳密には、基板上に成膜がなされている状態の、エピタキシャル層表面の温度である。基板温度、成長温度、成膜温度など、呼称は各種あるが、いずれも上記のモニタされている温度をさす。
本発明の受光素子等によれば、短波長側から長波長側にわたって、受光感度の波長依存性を実用上問題ないレベルにまで平坦化することができる。とくにInP基板、(InGaAs/GaAsSb)MQWの受光層、およびInGaAsの第2の受光層を用いることで、波長0.9μm程度の短波長から波長3μm程度の長波長にわたって、受光感度が平坦な受光素子等を得ることができる。さらに、たとえば全有機MOVPE法を適用することで、受光層のMQWからInP窓層まで一貫して成長するので、製造能率は高く、燐の成長槽内面への付着がないので、安全性でも優れている。
本発明の実施の形態1における受光素子を示す図である。 図1の受光素子における受光域を説明するための図であり、(a)はタイプ2型MQWの受光層、(b)は第2の受光層、のバンド構造を示す。 全有機MOVPE法の成膜装置の配管系統等を示す図である。 (a)は有機金属分子の流れと温度の流れを示す図であり、(b)は基板表面における有機金属分子の模式図である。 図1の受光素子50の製造方法のフローチャートである。 実施の形態1の変形例1の受光素子を示す図である。 実施の形態1の変形例2の受光素子を示す図である。 本発明の実施の形態2における、受光素子(受光素子アレイ)を含む光学センサ装置である。 実施例における各試験体の受光感度の波長依存性を示す図である(エピタキシャル積層体表面入射の場合)。 実施例における各試験体の受光感度の波長依存性を示す図である(基板入射の場合)。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における受光素子50を示す図である。受光素子50は、InP基板1の上に次のInP系エピタキシャル積層体を有する。
(n型InP基板1/n型InPバッファ層2/タイプ2型(InGaAs/GaAsSb)MQWの受光層3と、該受光層3の間に位置する第2の受光層13であるInGaAs層と、からなる複合受光層/拡散濃度分布調整のためのInGaAs層4/InP窓層5)
InP窓層5からInGaAs層4を経て受光層3内にわたって位置するp型領域6は、SiN膜の選択拡散マスクパターン36の開口部から、p型不純物のZnが選択拡散されることで形成される。選択拡散マスクパターンの開口部を調整することで、p型領域6を側面から所定距離隔てられるように形成することができる。p型領域6にはAuZnによるp側電極11が、またInP基板1の裏面にはAuGeNiのn側電極12が、それぞれオーミック接触するように設けられている。InP基板1にはn型不純物がドープされ、所定レベルの導電性を確保されている。
MQWの受光層3および第2の受光層13は、アンドープであり、意図して不純物をドープはしていない。このため真性半導体(イントリンシック:i型)といえるが、意図しないで微量のn型不純物が含まれることが通例である。意図せずにn型不純物が含まれる場合にも、微量であることからi型もしくは真性またはアンドープという。p型領域6の先端部のp型キャリア濃度分布と、受光層3における低濃度のn型キャリア濃度のバックグランドとが交差する面がpn接合15を決める。すなわち濃度勾配がついたp型キャリア濃度値が、n型キャリアのバックグランド濃度値と一致する面がpn接合15を形成する。したがってpn接合であるが、pi接合といってもよい。pin型フォトダイオードの由来である。
MQWの受光層3におけるn型キャリアのバックグラウンドは、n型キャリア濃度で5E15cm−3程度またはそれ以下である。p型領域6はMQWの受光層3に少し入るように形成されるが、そのMQWの受光層3内では、Zn濃度は5E16cm−3以下にするのがよい。
上記のpn接合15の近傍におけるZn濃度分布は、傾斜型接合を示すような分布になっている。このため、pn接合15に逆バイアス電圧を印加すると、低濃度のn型領域またはi型領域である受光層3側に空乏層はより大きく張り出す。空乏層を受光層3の側(受光層3および第2の受光層13)に大きく張り出すことで、受光層3および第2の受光層での受光にそなえる。
InGaAs層4は、受光層3を構成するMQW内でのp型不純物の濃度分布を調整するために配置されるが、このInGaAs層4はなくてもよい。また、図1では、InP基板1の裏面にSiONの反射防止膜35を設け、InP基板の裏面側から光を入射するようにして使用するようになっている。しかし、本発明の受光素子は、基板(裏面)入射でも、エピタキシャル積層体(表面)入射でもよい。
上述の空乏層は、受光待機のとき、pn接合15から、上側のMQWの受光層3/第2の受光層13/下側のMQWの受光層3、へと張り出される。光がInP基板1側またはInP窓層5側から入射されると、光は受光層3または第2の受光層13で受光され、受光によって生じた電子/正孔対は、逆バイアス電界によって電子と正孔とに分離されるように互いに逆方向に誘導される。
本実施の形態における受光素子のポイントは次の点にある。
(1)InGaAsおよびGaAsSbのペア数を50以上とする。これによって、InGaAs/GaAsSbの界面において、タイプ2型の遷移(受光)を十分多く生じることができ、長波長側の受光感度を確保することができる。すなわち、InGaAs/GaAsSbに即して述べれば、波長1.7μm以上の近赤外域の長波長側の受光感度を確保することができる。この結果、本発明の対象とする受光素子は、近赤外域の長波長側に十分高い受光感度をもつ。長波長側の受光感度が過大にならないために、ペア数は500以下にするのがよい。
(2)本発明では、タイプ2型MQWの受光層3に加えて、第2の受光層13を備える点にポイントがある。この第2の受光層13は、その伝導帯と価電子帯とのエネルギ差が、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップ、すなわちInGaAsの伝導帯とGaAsSbの価電子帯とのエネルギ差、よりも大きい。
図2は、上記のポイント(1)および(2)を説明するための図である。図2(a)は、タイプ2型MQWの受光層3のバンド構造を示し、また図2(b)は、第2の受光層13のバンド構造を示す。図2(a)において、タイプ2型の遷移(受光)では、GaAsSbの価電子帯に位置する電子が、波長λ(>λ)以下の光を吸収してInGaAsの伝導帯に励起される。上述したように、タイプ2型の遷移におけるバンドギャップは、InGaAsの伝導帯EcとGaAsSbの価電子帯Evとの差ΔEtype2である。
また、タイプ1型の遷移では、GaAsSbまたはInGaAsの価電子帯に位置する電子が、波長λ(<λ)以下の光を吸収して、同じ層内の伝導帯に励起される。タイプ2型の遷移は、InGaAs/GaAsSb界面でおいてのみ生じ、一方、タイプ1型の遷移は、InGaAs層内またはGaAsSb層内において生じる。タイプ1型およびタイプ2型の遷移は、両方ともMQWの価電子帯に正孔を生じ、伝導帯に電子を生じる。電子は移動度が大きいが、正孔は、電子に比べて、相当、移動度が小さい。
MQWの価電子帯には、量子井戸ポテンシャルが多数繰り返し形成されており、移動度が小さい正孔が多数の量子井戸ポテンシャルを超えてp型領域6に到達することは容易ではない。理由は不明であるが、タイプ2型の遷移による受光感度、したがって長波長の光の受光感度は、タイプ1型の遷移による受光感度より大きい。このため、図2(a)に示すMQWの受光層3のみでは、波長1.7μm程度以上の長波長泡の受光感度は良好ではあるが、それより短い短波長側の受光感度は実用レベルに達しない。このため、図1に示すように、MQWの中に割って入るように第2の受光層13を設ける。第2の受光層13では、図2(b)に示すように、当該層では単一半導体材料(InGaAs)なので、もっぱら波長λ以下の短波長側の光を受光する。第2の受光層13のバンドギャップは、当該InGaAsの伝導帯Ecと価電子帯Evとの差ΔEである。ΔEはΔEtype2より大きい。このため、MQWのタイプ1型遷移による感度は高くなくても、第2の受光層13によって、短波長域の受光感度を向上することができる。この結果、第2の受光層13の配置によって、近赤外域の波長0.9μm〜3.0μmにわたって、受光感度の波長依存性が良好な受光素子を実現することができる。
<MQWの受光層3および第2の受光層13の成長方法>
次に製造方法について説明する。InP基板1を準備して、その上に、InPバッファ層2/タイプ2型(InGaAs/GaAsSb)MQWの受光層3と、InGaAsからなる第2の受光層13との複合受光層/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5、を全有機MOVPE法で成長する。ここでは、とくにタイプ2型(InGaAs/GaAsSb)MQWの受光層3の成長方法を詳しく説明する。
図3に全有機MOVPE法の成膜装置60の配管系統等を示す。反応室(チャンバ)63内に石英管65が配置され、その石英管65に、原料ガスが導入される。石英管65中には、基板テーブル66が、回転自在に、かつ気密性を保つように配置される。基板テーブル66には、基板加熱用のヒータ66hが設けられる。成膜途中のウエハ50aの表面の温度は、反応室63の天井部に設けられたウィンドウ69を通して、赤外線温度モニタ装置61によりモニタされる。このモニタされる温度が、成長するときの温度、または成膜温度もしくは基板温度等と呼ばれる温度である。本発明における製造方法における、温度400℃以上かつ560℃以下でMQWを形成する、というときの400℃以上および560℃以下は、この温度モニタで計測される温度である。石英管65からの強制排気は真空ポンプによって行われる。
原料ガスは、石英管65に連通する配管によって、供給される。全有機MOVPE法は、原料ガスをすべて有機金属気体の形態で供給する点に特徴がある。図7では、不純物等の原料ガスは明記していないが、不純物も有機金属気体の形態で導入される。有機金属気体の原料は、恒温槽に入れられて一定温度に保持される。搬送ガスには、水素(H)および窒素(N)が用いられる。有機金属気体は、搬送ガスによって搬送され、また真空ポンプで吸引されて石英管65に導入される。搬送ガスの量は、MFC(Mass Flow Controller:流量制御器)によって精度よく調節される。多数の、流量制御器、電磁弁等は、マイクロコンピュータによって自動制御される。
ウエハ50aの製造方法について説明する。まず、Sドープn型InP基板1に、n型InPバッファ層2を、たとえば膜厚150nm程度に、エピタキシャル成長させる。n型のドーピングには、TeESi(テトラエチルシラン)を用いるのがよい。このときの原料ガスには、TMIn(トリメチルインジウム)およびTBP(ターシャリーブチルホスフィン)を用いる。このInPバッファ層2の成長には、無機原料のPH(ホスフィン)を用いて行っても良い。このInPバッファ層2の成長では、成長温度を600℃程度あるいは600℃程度以下で行っても、下層に位置するInP基板の結晶性は600℃程度の加熱で劣化することはない。しかし、InP窓層を形成するときには、下層にGaAsSbを含むMQWが形成されているので、基板温度は、たとえば温度400℃以上かつ560℃以下の範囲に厳格に維持する必要がある。その理由として、600℃程度に加熱すると、GaAsSbが熱のダメージを受けて結晶性が大幅に劣化する点、および、400℃未満の温度としてInP窓層を形成すると、原料ガスの分解効率が大幅に低下するため、InP層内の不純物濃度が増大し高品質なInP窓層を得られない点があげられる。
次いで、InGaAs/GaAsSbを量子井戸のペアとするタイプ2型のMQWの受光層3を形成する。量子井戸におけるGaAsSbは、膜厚はたとえば5nmとし、またInGaAs3bの膜厚もたとえば5nmとする。図1では、第2の受光層のInGaAs層13を挟んで、上下で200ペアの量子井戸を積層してMQWの受光層3を形成している。GaAsSbの成膜では、TEGa(トリエチルガリウム)、TBAs(ターシャリーブチルアルシン)およびTMSb(トリメチルアンチモン)を用いる。また、InGaAsについては、TEGa、TMIn、およびTBAsを用いることができる。これらの原料ガスは、すべて有機金属気体であり、化合物の分子量は大きい。このため、400℃以上かつ560℃以下の比較的低温で完全に分解して、結晶成長に寄与することができる。MQWの受光層3を全有機MOVPEによって、量子井戸の界面の組成変化を急峻にするすることができる。この結果、高精度の分光測光をすることができる。
Ga(ガリウム)の原料としては、TEGa(トリエチルガリウム)でもよいし、TMGa(トリメチルガリウム)でもよい。In(インジウム)の原料としては、TMIn(トリメチルインジウム)でもよいし、TEIn(トリエチルインジウム)でもよい。As(砒素)の原料としては、TBAs(ターシャリーブチルアルシン)でもよいし、TMAs(トリメチル砒素)でもよい。
上記のGa、In、およびAsの原料は、MQWのInGaAsを形成するときに用いることができるが、第2の受光層13をInGaAsで形成するときにも用いることができる。以下では、MQWの成長について詳しく説明するが、MQWの中に割って入って第2の受光層13をInGaAsによって形成する場合、MQWの中のInGaAs層の膜厚を厚くする点が相違するだけである(図5参照)。
Sb(アンチモン)の原料としては、TMSb(トリメチルアンチモン)でもよいし、TESb(トリエチルアンチモン)でもよい。また、TIPSb(トリイソプロピルアンチモン)、また、TDMASb(トリスジメチルアミノアンチモン)でもよい。これらの原料を用いることによって、MQWの結晶品質が優れた半導体素子を得ることができる。この結果、たとえば受光素子等に用いた場合、暗電流の小さい、かつ、感度が大きい受光素子を得ることができる。さらには、その受光素子を用いて、より鮮明な像を撮像するこが可能となる光学センサ装置、たとえば撮像装置を得ることができる。
次に、全有機MOVPE法によって、MQW3を形成するときの原料ガスの流れ状態について説明する。原料ガスは、配管を搬送されて、石英管65に導入されて排気される。原料ガスは、何種類でも配管を増やして石英管65に練通させることができる。たとえば十数種類の原料ガスであっても、電磁バルブの開閉によって制御される。
原料ガスは、流量の制御は、図3に示す流量制御器(MFC)によって制御された上で、石英管65への流入を電磁バルブの開閉によってオンオフされる。そして、石英管65からは、真空ポンプによって強制的に排気される。原料ガスの流れに停滞が生じる部分はなく、円滑に自動的に行われる。よって、量子井戸のペアを形成するときの組成の切り替えは、迅速に行われる。
図3に示すように、基板テーブル66は回転するので、原料ガスの温度分布は、原料ガスの流入側または出口側のような方向性をもたない。また、ウエハ50aは、基板テーブル66上を公転するので、ウエハ50aの表面近傍の原料ガスの流れは、乱流状態にあり、ウエハ50aの表面近傍の原料ガスであっても、ウエハ50aに接する原料ガスを除いて導入側から排気側への大きな流れ方向の速度成分を有する。したがって、基板テーブル66からウエハ50aを経て、原料ガスへと流れる熱は、大部分、常時、排気ガスと共に排熱される。このため、ウエハ50aから表面を経て原料ガス空間へと、垂直方向に大きな温度勾配または温度段差が発生する。
さらに、本発明の実施の形態では、基板温度を400℃以上かつ560℃以下という低温域に加熱される。このような低温域の基板表面温度でTBAsなどを原料とした全有機MOVPE法を用いる場合、その原料の分解効率が良いので、ウエハ50aにごく近い範囲を流れる原料ガスで多重量子井戸構造の成長に寄与する原料ガスは、成長に必要な形に効率よく分解したものに限られる。
図4(a)は有機金属分子の流れと温度の流れを示す図であり、図4(b)は基板表面における有機金属分子の模式図である。これらの図は、多重量子井戸構造のヘテロ界面で急峻な組成変化を得るために、表面温度の設定が重要であることを説明するための図である。
ウエハ50aの表面はモニタされる温度とされているが、ウエハ表面から少し原料ガス空間に入ると、上述のように、急激に温度低下または大きな温度段差が生じる。このため分解温度がT1℃の原料ガスの場合、基板表面温度は、(T1+α)に設定し、このαは、温度分布のばらつき等を考慮して決める。ウエハ50a表面から原料ガス空間にかけて急激で大きな温度降下または温度段差がある状況において、図4(b)に示すような、大サイズの有機金属分子がウエハ表面をかすめて流れるとき、分解して結晶成長に寄与する化合物分子は表面に接触する範囲、および表面から数個分の有機金属分子の膜厚範囲、のものに限られると考えられる。したがって、図4(b)に示すように、ウエハ表面に接する範囲の有機金属分子、および、ウエハ表面から数個分の有機金属分子の膜厚範囲以内に位置する分子、が、主として、結晶成長に寄与して、それより外側の有機金属分子は、ほとんど分解せずに石英管65の外に排出される、と考えられる。ウエハ50aの表面付近の有機金属分子が分解して結晶成長したとき、外側に位置する有機金属分子が補充に入る。
逆に考えると、ウエハ表面温度を有機金属分子が分解する温度よりほんのわずかに高くすることで、結晶成長に参加できる有機金属分子の範囲をウエハ50a表面上の薄い原料ガス層に限定することができる。
上記のことから、真空ポンプで強制排気しながら上記ペアの化学組成に適合した原料ガスを電磁バルブで切り替えて導入するとき、わずかの慣性をもって先の化学組成の結晶を成長させたあとは、先の原料ガスの影響を受けず、切り替えられた化学組成の結晶を成長させることができる。その結果、ヘテロ界面での組成変化を急峻にすることができる。これは、先の原料ガスが、石英管65内に実質的に残留しないことを意味しており、ウエハ50aにごく近い範囲を流れる原料ガスで多重量子井戸構造の成長に寄与する原料ガスは、成長に必要な形に効率よく分解したものに限られる(成膜要因1)ことに起因する。すなわち、図3から分かるように、量子井戸の一方の層を形成させたあと、真空ポンプで強制排気しながら電磁バルブを開閉して、他方の層を形成する原料ガスを導入したとき、少しの慣性をもって結晶成長に参加する有機金属分子はいるが、その補充をする一方の層の分子はほとんど排気されて、なくなっている。ウエハ表面温度を、有機金属分子の分解温度に近づけるほど、結晶成長に参加する有機金属分子の範囲(ウエハ表面からの範囲)は小さくなる。
このMQWを形成する場合、600℃程度の温度範囲で成長するとMQWのGaAsSb層に相分離が起こり、清浄で平坦性に優れたMQWの結晶成長表面、および、優れた周期性と結晶性を有するMQWを得ることができない。このことから、成長温度を400℃以上かつ560℃以下という温度範囲にする(成膜要因2)が、この成膜法を全有機MOVPE法にして、原料ガスすべてを分解効率の良い有機金属気体にすること(成膜要因3)に、成膜要因1が強く依拠している。
<半導体素子の製造方法>
図1に示した半導体素子50では、タイプ2型MQWの受光層3の上には、InGaAs拡散濃度分布調整層4が位置し、そのInGaAs拡散濃度分布調整層4の上にInP窓層5が位置している。InP窓層5の表面に設けた選択拡散マスクパターン36の開口部からp型不純物のZnが選択拡散されてp型領域6が設けられる。そのp型領域6の先端部にpn接合15またはpi接合15が形成される。このpn接合15またはpi接合15に、逆バイアス電圧を印加して空乏層を形成して、光電子変換による電荷を捕捉して、電荷量に画素の明るさを対応させる。p型領域6またはpn接合15もしくはpi接合15は、画素を構成する主要部である。p型領域6にオーミック接触するp側電極11は画素電極であり、接地電位にされるn側電極12との間で、上記の電荷を画素ごとに読み出す。p型領域6の周囲の、InP窓層表面には、上記の選択拡散マスクパターン36がそのまま残される。さらに図示しないSiON等の保護膜が被覆される。選択拡散マスクパターン36をそのまま残すのは、p型領域6を形成したあと、これを除いて大気中に暴露すると、窓層表面のp型領域との境界に表面準位が形成され、暗電流が増大するからである。
図5に示すようにMQWの形成からInP窓層5の形成まで、全有機MOVPE法によって同じ成膜室または石英管65の中で成長を続けることが、一つのポイントになる。すなわち、InP窓層5の形成の前に、成膜室からウエハ50aを取り出して、別の成膜法によってInP窓層5を形成することがないために、再成長界面を持たない。InGaAs拡散濃度分布調整層4とInP窓層5とは、石英管65内において連続して形成されるので、界面16,17は再成長界面ではない。再成長界面では、酸素濃度1E17cm−3以上、炭素濃度1E17cm−3以上、珪素濃度1E17cm−3以上、となり、結晶性は劣化し、エピタキシャル積層体の表面は平滑になりにくい。本発明では、酸素、炭素および珪素の濃度がいずれも所定レベル以下であり、とくにp型領域6と界面17との交差線において電荷リークが生じることはない。
本実施の形態では、MQWの受光層3の上に、たとえば膜厚0.3μm程度のノンドープInGaAs拡散濃度分布層4を形成する。このInGaAs拡散濃度分布層4は、InP窓層5を形成したあと、選択拡散法によってInP窓層5からp型不純物のZnをMQWの受光層3に届くように導入するとき、高濃度のZnがMQWに進入すると、結晶性を害するので、その調整のために設ける。このInGaAs拡散濃度分布調整層4は、上記のように配置してもよいが、なくてもよい。
上記の選択拡散によってp型領域6が形成され、その先端部にpn接合15またはpi接合15が形成される。InGaAs拡散濃度分布調整層4を挿入した場合であっても、InGaAsはバンドギャップが小さいのでノンドープであっても受光素子の電気抵抗を低くすることができる。電気抵抗を低くすることで、応答性を高めて良好な画質の動画を得ることができる。
InGaAs拡散濃度分布調整層4の上に、同じ石英管65内にウエハ50aを配置したまま連続して、アンドープのInP窓層5を、全有機MOVPE法によってたとえば膜厚0.8μm程度にエピタキシャル成長するのがよい。原料ガスには、上述のように、トリメチルインジウム(TMIn)およびターシャリーブチルホスフィン(TBP)を用いる。この原料ガスの使用によって、InP窓層5の成長温度を400℃以上かつ560℃以下に、さらには535℃以下にすることができる。この結果、InP窓層5の下に位置するMQWのGaAsSbが熱のダメージを受けることがなく、MQWの結晶性が害されることがない。InP窓層5を形成するときには、下層にGaAsSbを含むMQWが形成されているので、基板温度は、たとえば温度400℃以上かつ560℃以下の範囲に厳格に維持する必要がある。その理由として、600℃程度に加熱すると、GaAsSbが熱のダメージを受けて結晶性が大幅に劣化する点、および、400℃未満の温度としてInP窓層を形成すると、原料ガスの分解効率が大幅に低下するため、InP窓層5内の不純物濃度が増大し高品質なInP窓層5を得られない点があげられる。
上記したように、従来は、MQWをMBE法によって形成する必要があった。ところが、MBE法によってInP窓層を成長するには、燐原料に固体の原料を用いる必要があり、安全性などの点で問題があった。また製造能率という点でも改良の余地があった。
本発明前は、InGaAs拡散濃度分布調整層4とInP窓層5との界面17は、いったん大気に露出された再成長界面であった。再成長界面は、二次イオン質量分析によって、酸素濃度が1E17cm−3以上、炭素濃度が1E17cm−3以上、および、珪素濃度が1E17cm−3以上のうち、少なくとも一つを満たすことによって特定することができる。再成長界面は、p型領域と交差線を形成し、交差線で電荷リークを生じて、画質を著しく劣化させる。
また、たとえばInP窓層を単なるMOVPE法によって成長すると、燐の原料にホスフィン(PH)を用いるため、分解温度が高く、下層に位置するGaAsSbの熱によるダメージの発生を誘起してMQWの結晶性を害することとなる。
図5は、図1の受光素子50の製造方法のフローチャートである。この製造方法によれば、原料ガスに有機金属気体のみを用いて(成膜要因3)成長温度を低下させること(成膜要因2)、および、InP窓層5の形成が終了するまで、一貫して同じ成膜室または石英管65の中で形成するので、再結晶界面を持たないこと(成膜要因4)が重要である。これによって、電荷リークが少ない、結晶性に優れた、2μm〜5μmの波長領域に受光感度を持つフォトダイオードを能率良く、大量に製造することができる。
(実施の形態1の変形例1および変形例2)
図6は、実施の形態1の変形例1であって、本発明の一実施例である受光素子を示す図である。本変形例1では、InGaAs拡散濃度分布調整層4とMQW受光層3との間に、InGaAsからなる第2の受光層13を配置している。第2の受光層を形成するInGaAsの膜厚は0.5μmである。pn接合15は、第2の受光層13内に少し入っている。この第2の受光層13によって、近赤外域の短波長側の受光感度を向上させて、受光感度の波長依存性が全波長域にわたって良好な受光素子を得ることができる。
図7は、実施の形態1の変形例2であって、本発明の一実施例である受光素子を示す図である。本変形例2では、MQW受光層3と、InPバッファ層2との間に、0.5μm厚みのInGaAsからなる第2の受光層13を配置している。pn接合15は、第2の受光層13よりも大きく上側、すなわちInP窓層5側に位置している。この第2の受光層13によって、近赤外域の短波長側の受光感度を向上させて、受光感度の波長依存性が全波長域にわたって良好な受光素子を得ることができる。
図1、図6、および図7に示す受光素子50は、第2の受光層13と、MQWの受光層3との相対的な位置が違うだけで、他の構成は同じである。pn接合15に逆バイアス電圧を印加するとき、逆バイアス電圧の大きさによって、空乏層の広がる程度が異なる。たとえば、図7に示す受光素子(変形例2)では、逆バイアス電圧の絶対値が小さいとき、空乏層が第2の受光層に届かない可能性がある。また、図7の受光素子(変形例2)では、第2の受光層13で受光によって生じた正孔は、全ての量子井戸ポテンシャルを越えなければp型領域6に到達しない。このため、第2の受光層に起因する受光感度の向上が得られない場合がある。
(実施の形態2)
図8は本発明の実施の形態2における、受光素子(受光素子アレイ)50を含む光学センサ装置10である。レンズなどの光学部品は省略してある。SiON膜からなる保護膜43が、図8では示されているが、実際には図1にも配置されている。受光素子50は、図1に示す受光素子と積層構造は同じであり、異なる点は、複数の受光素子または画素Pが配列されていることである。また、界面16,17が、再成長界面ではなく、酸素、炭素、珪素等の不純物濃度がいずれも低いことなども図1の受光素子と同じである。
図8では、この受光素子アレイ50と、読み出し回路(Read-Out IC)を構成するCMOS70とが、接続されている。CMOS70の読み出し電極(図示せず)と、受光素子アレイ50の画素電極(p側電極)11とは、接合バンプ39を介在させて接合されている。また、受光素子アレイ50の各画素に共通のグランド電極(n側電極)12と、CMOS70の図示しない接地電極とが、バンプ12bを介在させて接合されている。CMOS70と受光素子アレイ50とを組み合わせて、画素ごとに受光情報を集積して、撮像装置等を得ることができる。
上述のように、本発明の受光素子アレイ(半導体素子)50は、短波長側〜長波長側の近赤外域に、波長依存性が良好な受光感度を有している。また、全有機MOVPEで一貫して成長されて再成長界面を持たない。このため、暗電流(リーク電流)が小さいので、動植物等の生体の検査、環境モニタ等に用いることで、高精度の検査を遂行することができる。
4つの試験体(受光素子)を製造して受光感度を測定した。試験体は次のとおりである。
(本発明例A):図7に示す実施の形態1の変形例2の受光素子と同じ構造とした。第2の受光層は、InPバッファ層とMQW受光層との間に位置する。
(本発明例B):図1に示す実施の形態1の受光素子と同じ構造とした。第2の受光層は、MQWの中に割って入っている。
(本発明例C):図6に示す実施の形態1の変形例1の受光素子と同じ構造とした。第2の受光層は、MQW受光層とInGaAs拡散濃度分布調整層との間に位置する。
(比較例D):図1に示す受光素子から第2の受光層を除き、MQWのペア数を250とした構造とした。第2の受光層はない。
上記の4つの試験体の製造にあたり、共通して次の成長方法を用いた。
SドープしたInP基板上に、上記各図に示した積層構造を有する半導体ウエハを全有機MOVPEを用いて成長した。すなわち、InP基板/InPバッファ層/タイプ2型(InGaAs/GaAsSb)MQWの受光層と第2の受光層InGaAsとを有する複合の受光層/InGaAs拡散濃度分布調整層/InP窓層、の積層構造を成長した。ただし、比較例Dは、第2の受光層を含まない。
SドープInP基板上に、n型不純物ドープInPバッファ層を厚み0.15μm成長し、その上に、タイプ2型(InGaAs/GaAsSb)受光層と、第2の受光層とを、両方の受光層の位置関係に応じて、前後して、または間に割って入って、成長した。本発明例A〜CのMQWは、厚み5nmのInGaAsと、厚み5nmのGaAsSbとの200ペアの積層体とした。第2の受光層は、厚み0.5μmのアンドープInGaAsとした。比較例Dでは、上述のように、第2の受光層を設けずに、250ペアのMQWとした。
拡散濃度分布調整層にはアンドープの厚み0.3μmInGaAs層を用い。このInGaAs層上に厚み0.8μmのアンドープInP窓層を成長した。
上記の受光層、InP窓層等の成長には、実施の形態において説明した方法を用いた。
<受光感度の評価>
上記の受光素子に対して室温で受光感度の測定を行った。測定に用いた光の波長は、1.31μm、1.55μm、1.65μm、2.0μmである。入射は、各受光素子ともに、エピタキシャル積層体側入射(表面入射)と、InP基板入射の2通り行った。感度評価の際の逆バイアス電圧Vrは−5Vとした。
受光感度の測定結果を図9および図10に示す。図9は表面入射の場合を示し、図10は基板側入射の場合を示す。
比較例Dでは、表面入射、および基板入射の場合、のいずれの場合でも、波長2.0μmの受光感度が0.55〜0.6(A/W)であるのに比して、波長1.31μmの受光感度は0.05A/W程度であり、極端に小さい。波長2.0μmの受光感度が大きいのは、MQWのペア数を250として、本発明例A〜Cのペア数200よりも大きくしたためである。
本発明例のうち、本発明例Bは、表面入射および基板入射の両方において、波長1.31μmにおける受光感度の低下を抑制している。MQWの中に割って入って第2の受光層を配置させることで、波長1.31μmでの受光感度の低下を抑制可能なことが分かる。
また、本発明例Cは、第2の受光層(InGaAs)をMQWの上、表面近くに配置した構造であるが、表面入射の場合に限って、波長1.31μmでの受光感度の低下を抑制可能である。しかし、基板入射では、波長1.31μmでの受光感度の抑制効果は認められない。
また、本発明例Aでは、表面入射および基板入射の両方の場合ともに、受光感度の低下を抑制する効果がわすかに認められるが、十分とはいえない。
上記のように、本発明例A〜Cにおいて、波長1.31μmでの受光感度の低下の抑制効果は、第2の受光層の位置によって変動する。その理由については、ここで推測をすることは控えたい。
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明の受光素子によれば、近赤外の受光域、1μm程度の短波長側から3.0μm程度の長波長側にわたって、実用上、問題のないレベルの受光感度の平坦性を得ることができる。とくにMQWの成長を全有機MOVPEで行うことによって、InP窓層を含むエピタキシャル層を能率良く積層できるだけでなく、受光感度の平坦性の一層の向上にも資することができる。
1 InP基板、2 バッファ層(InPおよび/またはInGaAs)、3タイプ2型MQW受光層、4 InGaAs層(拡散濃度分布調整層)、5 InP窓層、6 p型領域、10 光学センサ装置(検出装置)、11 p側電極(画素電極)、12 グランド電極(n側電極)、12b バンプ、13 第2の受光層、15 pn接合、16 MQWとInGaAs層との界面、17 InGaAs層とInP窓層との界面、20 赤外線温度モニタ装置、21 反応室の窓、30 反応室、35 AR(反射防止)膜、36 選択拡散マスクパターン、39 接合バンプ、43 保護膜(SiON膜)、50 受光素子(受光素子アレイ)、50a ウエハ(中間製品)、60 全有機MOVPE法の成膜装置、61 赤外線温度モニタ装置、63 反応室、65 石英管、69 反応室の窓、66 基板テーブル、66h ヒータ、70 CMOS、P 画素。

Claims (10)

  1. 化合物半導体の基板、および該基板上に形成されたエピタキシャル積層体を備え、近赤外域に受光感度をもつ受光素子であって、
    前記エピタキシャル積層体は、
    ペア数が50以上の、タイプ2型の多重量子井戸構造(MQW:Multi-Quantum Well)の受光層と、
    前記受光層の中に位置し、または該受光層の外面に接して位置し、前記タイプ2型の遷移におけるバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第2の受光層と、
    前記エピタキシャル積層体の表面から該エピタキシャル積層体内へと位置する、p型またはn型の不純物領域とを備え、
    前記不純物領域は先端部にpn接合を形成しており、
    前記pn接合が、前記第2の受光層内か、または該第2の受光層よりも前記エピタキシャル積層体の表面に近い位置に位置することを特徴とする、受光素子。
  2. 前記基板がInP基板であり、前記受光層が、InGa1−xAs(0.38≦x≦0.68、以下InGaAsと記す。)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦0.62、以下GaAsSbと記す)とのMQWであり、前記不純物領域がp型領域であることを特徴とする、請求項1に記載の受光素子。
  3. 前記MQWにおいてGaAsSbと対をなすInGaAsを、InGaAsN、InGaAsNPおよびInGaAsNSbのいずれか一つで置き換えたことを特徴とする、請求項2に記載の受光素子。
  4. 前記第2の受光層が、厚み0.1μm以上1μm以下のInGa1−xAs(0.38≦x≦0.68、以下InGaAsと記す。)層であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の受光素子。
  5. 前記受光素子において、波長1.3μmの受光感度と波長2.0μmの受光感度との比が、0.3以上1.2以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の受光素子。
  6. 前記エピタキシャル積層体の内部、または該エピタキシャル積層体と前記基板との間に、再成長界面がないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の受光素子。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の受光素子を備えることを特徴とする、光学センサ装置。
  8. InP基板の上にタイプ2型の、InGa1−xAs(0.38≦x≦0.68、以下「InGaAs」と記す)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦0.62、以下「GaAsSb」と記す)との多重量子井戸構造(MQW:Multi-Quantum Well)の受光層を備えた受光素子の製造方法であって、
    前記InP基板の上に前記MQWを成長する工程を備え、
    前記MQW成長工程の(1)前に、もしくは(2)後に、または(3)該MQWの成長の途中で該MQWの成長を一時的に停止して、前記MQWのタイプ2型の遷移におけるバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する第2の受光層を形成することを特徴とする、受光素子の製造方法。
  9. 前記エピタキシャル積層体の表面をInP窓層として、前記InP基板上に、前記MQW、第2の受光層および前記InP窓層を含むエピタキシャル積層体を、一貫して、全有機金属気相成長法により成長することを特徴とする、請求項8に記載の受光素子の製造方法。
  10. 前記MQWの形成工程では、温度400℃以上かつ560℃以下で、前記MQWを形成することを特徴とする、請求項8または9に記載の半導体素子の製造方法。
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