JP2011246793A - 拡管性と低温靭性に優れた油井用溶接鋼管の製造方法および溶接鋼管 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C,Si,Mn,Al,P,Sn,S,N,Oを規定し、かつ、30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)を16.0%未満とした鋼スラブを特定の熱延条件で熱間圧延し、得られた熱延鋼帯を、スリットし、連続ロール成形によって円弧状断面とし、該円弧状断面の両端を溶接し、該溶接してなる溶接部のみを750〜1000℃に加熱後500℃以下まで5℃/s以上の冷却速度で冷却することで、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管を得る。鋼は、Cu,Ni,Cr,Mo,Nb,V,Ti,W,B,Ca,REMのいずれか1種又は2種以上を規定量だけ含有してもよい。
【選択図】図1
Description
ここにいう「優れた拡管性」とは、次の円錐拡管試験で求められる限界拡管率が46%以上であることとする。
(円錐拡管試験:)溶接鋼管から外径の2倍長さの鋼管を切り出し、両管端を平行に▽▽▽仕上げ(Ra:1.6a相当仕上げ、日本機械学会編「機械工学便覧」新版第6刷、1993.7.30丸善発行、B1-22頁参照)した後、齧りを防ぐためプレス油を塗布後、頂角60°の円錐をプレス機で鋼管に押込んで管端を押し拡げる。管端に亀裂が生じたところで押込みを止め、除荷した後の押し拡げ側の管端外径Dbを測定し、原管の外径Doから拡管率(=(Db−Do)/Do×100(%))を求める。これを3回繰り返し、得られた3つの拡管率データの平均を限界拡管率とする。
(低温衝撃試験:)2mmVノッチシャルピー試験(JIS Z 2242規定に準拠)において、ノッチ深さ方向を管円周方向及び肉厚方向に直交させた試験片(JIS Z 2202の規定に準拠)を用い、−20℃で試験して、衝撃値(試験片ノッチ位置のノッチ深さ方向断面の単位面積1cm2当たりの吸収エネルギー)を求め、これをVE−20とする。
(1) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.001〜2.00%、Mn:0.50〜2.50%、Al:0.010〜0.100%を含有し、P:0.019%以下、Sn:0.10%以下、S:0.005%以下、N:0.0049%以下、O:0.0030%以下で、かつ、30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)が16.0%未満であり、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、1150〜1300℃に加熱して30分以上均熱保持し、全圧下率93.0〜98.0%で熱間圧延を施し、750℃以上で仕上げ圧延を終え、750〜600℃間の冷却時間を4s以上とし、300℃超600℃未満の巻取温度で巻き取って熱延鋼帯となし、該熱延鋼帯をスリットし、連続ロール成形によって円弧状断面とし、該円弧状断面の両端を溶接し、該溶接してなる溶接部のみを750〜1000℃に加熱後500℃以下まで5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
(2) 質量%で、Cu:0.001〜1.00%、Ni:0.001〜1.00%のうちから選ばれた1種又は2種を含有することを特徴とする(1)に記載の拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
(3) 質量%で、Cr:0.001〜1.50%、Mo:0.001〜0.49%、Nb:0.0001〜0.14%、V:0.0001〜0.14%、Ti:0.0001〜0.14%、W:0.0001〜0.14%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0030%、REM:0.0001〜0.10%うちから選ばれた1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
(4) (1)〜(3)のいずれか1つにおいて、該溶接してなる溶接部のみを、に替えて、該溶接してなる溶接鋼管全体を、としたことを特徴とする拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
(5) (1)〜(4)のいずれか1つにおいて、最後の冷却の後に、溶接鋼管全体を200〜650℃の範囲で焼戻し熱処理することを特徴とする拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
(6) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.001〜2.00%、Mn:0.50〜2.50%、Al:0.010〜0.100%を含有し、P:0.019%以下、Sn:0.10%以下、S:0.0005%以下、N:0.0049%以下、O:0.0030%以下で、かつ、30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)が16.0%未満であり、あるいはさらに下記A群及び/又はB群を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ母材部及び溶接部の微視組織中にCが0.4質量%以上に濃化した第2相を0.1〜12面積%含むことを特徴とする、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管。
記
A群:質量%で、Cu:0.001〜1.00%、Ni:0.001〜1.00%のうちから選ばれた1種又は2種
B群:質量%で、Cr:0.001〜1.50%、Mo:0.001〜0.49%、Nb:0.0001〜0.14%、V:0.0001〜0.14%、Ti:0.0001〜0.14%、W:0.0001〜0.14%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0030%、REM:0.0001〜0.10%のうちから選ばれた1種又は2種以上
C:0.05〜0.25%
Cは所望の原管強度(TS、YS)を確保させ、かつ母材部並びに溶接部の微視組織中に所望の第2相(Cが0.4%以上に濃化した第2相)を所望の面積率(0.1〜12面積%)だけ形成させ、良好な拡管性を得させる元素である。0.05%未満ではこの、所望の原管強度と第2相を得ることができない。一方、0.25%を超えると鋼管の低温靭性が低下するためこれを上限とする。なお、好ましくは0.06〜0.13%である。
Siは熱延工程でのフェライト変態を促進する元素であり、必要な拡管性を確保するための元素である。0.001%未満では拡管性が不足する。一方、2.00%を超える場合は酸化物が残存し、溶接部の低温靭性が劣化する。従ってSiは0.001〜2.00%に限定した。なお、好ましくは0.81〜1.45%である。
Mnは所望の原管強度(引張強度TS,降伏強度YS)を確保させ、かつ母材部並びに溶接部の微視組織中に所望の第2相(Cが0.4%以上に濃化した第2相)を所望の面積率(0.1〜1.2面積%)だけ形成させ、良好な拡管性を得させる元素である。0.50%未満ではこの、所望の原管強度と第2相を得ることができない。一方、2.50%を超えると鋼管の低温靭性が低下するためこれを上限とする。なお、好ましくは0.84〜1.25%である。
Alは製鋼時の脱酸元素であるとともに、熱間圧延工程でのオーステナイト粒の成長を抑制し、結晶粒を微細とし、良好な拡管性を得させる元素である。0.010%未満ではこれらの効果が得られず、一方、0.10%を超えると効果は飽和し、酸化物系介在物の増大により拡管性が低下するために0.10%を上限とする。なお、好ましくは0.030〜0.080%である。
PはMnとの凝固共偏析を介し、低温靭性を低下させるとともに、拡管性を低下させる。0.019%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.019%を上限とする。なお、好ましくは0.009%以下である。
Sn:0.10%以下
Snは低融点固溶元素として鋼中に存在し、拡管性を劣化させる。0.10%を超えると悪影響が顕著となるため、0.10%を上限とする。なお、好ましくは0.05%以下である。
SはMnSなどとして鋼中介在物として存在し、拡管性を低下させる。0.005%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.005%を上限とする。なお、好ましくは0.003%以下である。
N:0.0049%以下
Nは固溶Nとして残存すると拡管性を低下させる。0.0049%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.0049%を上限とする。なお、好ましくは0.0040%以下である。
Oは酸化物系介在物として存在し、拡管性、低温靭性を低下させる。0.0030%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.0030%を上限とする。なお、好ましくは0.0020%以下である。
30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O):16.0%未満
Cは炭化物や硬質第2相の面積率上昇を通して、PとSはメタルフロー部への偏析を通して、Snは低融点固溶元素として、Nは時効硬化を通して、Oは溶接部の酸化物系介在物として、いずれも拡管性と低温靭性を相乗的に低下させる。所望の拡管性と低温靭性を確保するためには、これら元素の成分含有量範囲を個別に規定するだけでは不十分で、各元素の影響を勘案した30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)値を特定の閾値未満に抑える必要がある。30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)値が16.0%以上となると、拡管性と低温靭性の低下が大きくなるため、16.0%未満とする。なお、好ましくは13.0%未満である。
A群:質量%で、Cu:0.001〜1.00%、Ni:0.001〜1.00%のうちから選ばれた1種又は2種
Cu:0.001〜1.00%
Cuは腐食保護皮膜を形成し、これを強固にすることで鋼中への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ特性を向上させるとともに、溶接時に再固溶した鋼中SをCuサルファイドとして捕捉し、溶接部の選択腐食を抑制する効果がある。これら効果は0.001%以上の含有で発現するが、1.00%を超える含有は拡管性を低下させ、また、素材の熱間圧延時にCuが液相となり、熱間割れや、表面疵の要因となるために1.00%を上限とする。なお、好ましくは0.001〜0.049%である。
NiはCuと同様鋼中への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ特性を向上させる効果がある。さらに、母材部及び溶接部の低温靭性を向上させる効果がある。これらの効果は0.001%以上の含有で発現するが、1.00%を超える含有は拡管性を低下させるために1.00%を上限とする。なお、好ましくは0.001〜0.049%である。
B群:質量%で、Cr:0.001〜1.50%、Mo:0.001〜0.49%、Nb:0.0001〜0.14%、V:0.0001〜0.14%、Ti:0.0001〜0.14%、W:0.0001〜0.14%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0030%、REM:0.0001〜0.10%のうちから選ばれた1種又は2種以上
Cr:0.001〜1.50%
Crは耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性等の耐食性を向上させる元素である。さらに、熱延或いは溶接後の溶接部熱処理時のオーステナイト相からの冷却過程において、組織の2相分離を促進し、母材部並びに溶接部の微視組織中に所望の第2相(Cが0.4%以上に濃化した第2相)を所望の面積率(0.1〜12面積%)だけ形成させるのに有効な元素である。これらの効果は0.001%以上の含有で発現するが、1.50%を超える含有は、溶接部に酸化物が残存して、拡管性並びに溶接部の低温靭性を低下させるために1.50%を上限とする。なお、好ましくは0.01〜0.49%である。
Moは硫化水素が存在する環境下での耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる元素であり、さらに、熱延或いは溶接後の溶接部熱処理時のオーステナイト相からの冷却過程において、組織の2相分離を促進し、母材部並びに溶接部の微視組織中に所望の第2相(Cが0.4%以上に濃化した第2相)を所望の面積率(0.1〜12面積%)だけ形成させるのに有効な元素である。これらの効果は0.001%以上の含有で発現するが、0.49%を超えると拡管性を低下させるために0.49%を上限とする。なお、好ましくは0.01〜0.09%である。
Nbは結晶粒の微細化を通して、低温靭性の向上に寄与する。0.0001%未満ではこの効果が得られない。一方、0.14%を超えると拡管性低下が顕著となるため0.14%を上限とする。なお、好ましくは0.022〜0.080%である。
V:0.0001〜0.14%
Vは焼入れ性の向上を通して、母材部並びに溶接部の微視組織中に所望の第2相(Cが0.4%以上に濃化した第2相)を所望の面積率(0.1〜12面積%)だけ形成させるのに有効な元素である。0.0001%未満ではこの効果が得られない。一方、0.14%を超えると拡管性低下が顕著となるため0.14%を上限とする。なお、好ましくは0.011〜0.080%である。
Tiは拡管性に悪影響を及ぼす固溶NをTiNとして固定し、拡管性の向上に有効な元素である。0.0001%未満ではこの効果が得られない。一方、0.14%を超えると析出炭化物による拡管性低下が顕著となるため0.14%を上限とする。なお、好ましくは0.0001〜0.0049%である。
Wは炭化物として析出し、強度確保に有効な元素である。この効果は0.0001%以上の含有で発現するが、0.14%を超える含有では拡管性が低下するために0.14%を上限とする。なお、好ましくは0.0001〜0.06%である。
B:0.0001〜0.0030%
Bは焼入れ性の向上を通して、強度確保に有効な元素である。この効果は0.0001%以上の含有で発現するが、0.0030%を超える含有は拡管性を低下させるために0.0030%を上限とする。なお、好ましくは0.0001〜0.0005%である。
Caは展伸したMnSを粒状のCa(Al)S(O)とする所謂形態制御効果があり、特に拡管成形時の溶接部近傍メタルフロー立上がり部での割れを抑制し、拡管性の向上に有効な元素である。この効果は0.0001%以上の含有で発現するが、0.0030%を超える含有では、非金属介在物の増大によってかえって拡管性が低下するために0.0030%を上限とする。なお、好ましくは0.0001〜0.0019%である。
REMはCaと同様、展伸したMnSを粒状とする所謂形態制御効果があり、特に拡管成形時の溶接部近傍メタルフロー立上がり部での割れを抑制し、拡管性の向上に有効な元素である。この効果は0.0001%以上の含有で発現するが、0.10%を超える含有では拡管性が低下するために0.10%を上限とする。なお、好ましくは0.01〜0.05%である。
母材部及び溶接部の微視組織中の、Cが0.4%以上に濃化した第2相:0.1〜12面積%
本発明の溶接鋼管は、溶接部を除き、基本的に熱延鋼帯を管状に成形したままで適正なYR(0.74〜0.92)を有し、かつ、溶接部を含む管において所望の拡管性を有すべく、母材部及び溶接部の微視組織中に、Cが0.4%以上に濃化した第2相を0.1〜12面積%だけ含むものとする。当該第2相は、熱延或いは溶接後の溶接部熱処理時のオーステナイト相からの冷却過程において変態時に周囲の軟質相に可動転位を生起せしめ、成形ままでYRが高くなりすぎなくする効果がある。さらに、冷却過程以降、例えば拡管成形時に変態することにより、拡管成形時の応力を緩和し、拡管性を大きく向上させる効果がある。これらの効果は微視組織中の第2相分率が0.1面積%以上で発現し、一方、12面積%を超えると反対に拡管性が低下するためにこれを上限とする。なお、好ましくは2.0〜10.0面積%である。
(第2相分率測定方法:)研磨した円周方向断面領域400μm×400μmを測定面積とし電子ビーム寸法2μm×2μmでEMPA面分析を行い、C濃度(鋼中含有量)が0.4%以上となっているC濃化領域を特定してその合計面積を求め、これを前記測定面積に対する百分率で表して前記第2相の面積率とする。
図1は、微視組織中に占める、Cが0.4%以上に濃化した第2相の面積率と、限界拡管率、VE−20、YRの関係を示すグラフであり、同図に示されるように、当該第2相の面積率が0.1〜12面積%の範囲において、限界拡管率:46%以上、VE−20:100J/cm2以上、YR:0.74〜0.92が達成される。
スラブ加熱温度及びスラブ均熱時間:1150〜1300℃、30分以上
熱間圧延工程におけるスラブ加熱条件はオーステナイト粒径を通して、鋼管の低温靭性に、含有元素の固溶分散状態を通して拡管性に影響を及ぼす。スラブ加熱温度が1150〜1300℃、かつスラブ均熱時間が30分以上の場合に、VE−20:100J/cm2以上かつ限界拡管率:46%以上が得られる。スラブ加熱温度が1300℃を超えるとオーステナイト粒径が極端に粗大化し、VE−20が100J/cm2を下回る。一方、スラブ加熱温度が1150℃を下回るか、スラブ均熱時間が30分を下回ると、含有元素の固溶分散状態が不均一となり、拡管成形時の変形が局所に集中し、限界拡管率が46%を下回る。このため、スラブ加熱温度は1150〜1300℃、スラブ均熱時間は30分以上とすることが好ましい。
スラブ厚Hから熱延仕上げ板厚hまでの全圧下率(=(H−h)/H×100(%))は変態前のオーステナイトの粒径を通して、鋼管の低温靭性とYRに影響を及ぼす。全圧下率が93.0〜98.0%の場合にVE−20は100J/cm2以上、YRは0.74〜0.92が得られる。全圧下率が93.0%を下回ると、変態前のオーステナイト粒径が大きくなり、VE−20が100J/cm2を下回る。また、YSが低下し、造管後のYRが0.74を下回る。一方、全圧下率が98.0%を上回るとYRが0.92を上回る。以上から全圧下率は93.0〜98.0%とした。なお、好ましくは95.0〜97.6%である。
熱間圧延工程における仕上げ圧延終了温度は、鋼管の低温靭性、YR、拡管性に影響を及ぼす。仕上げ圧延終了温度が750℃以上で、VE−20は100J/cm2以上、YRは0.92以下、限界拡管率は46%以上が得られる。仕上げ圧延終了温度が750℃を下回ると、圧延歪みが残存するためVE−20が100J/cm2を下回り、YRが0.92を超え、また表層部に粗大粒が形成されるため、限界拡管率が46%を下回る。ここで、仕上げ圧延終了温度の上限は特に定めないが、表面性状を良好に保つという観点から950℃以下であることが好ましい。さらにまた表面性状確保の観点からは、仕上げ圧延前に150kgf/cm2以上の水圧でのデスケーリングを行うことが好ましい。
熱間圧延終了後、ランナウトでの冷却条件は、フェライトの析出有無/量、2相分離状態に影響を及ぼし、微視組織形成を通して、鋼管の低温靭性、YR、拡管性に影響を及ぼす。鋼材のフェライトノーズ温度域に相当する750〜600℃間において冷却時間を4s以上確保することにより、フェライトが75面積%以上生成され、2相分離が進行し、Cが0.4%以上に濃化した第2相が0.1〜12面積%を占有する微視組織が形成されて、VE−20は100J/cm2以上、YRは0.92以下、限界拡管率は46%以上が得られる。750〜600℃間の冷却時間が4sを下回ると、前記第2相の面積率が12面積%を超え、VE−20が100J/cm2を下回り、YRが0.92を超え、限界拡管率が46%を下回る。なお、好ましくは、750〜600℃間の冷却時間が6s以上である。
熱延ランナウトでの冷却によってオーステナイト/フェライト2相分離した微視組織のうちオーステナイト相は巻取(コイリング)後、300℃超600℃未満の温度で、一部ベイナイト変態し、オーステナイト相へのCの濃化が進み、最終的にCが0.4%以上に濃化した第2相が形成される。巻取温度が300℃以下であると、オーステナイト相へのCの濃化が不十分となり、前記第2相の面積率が0.1面積%を下回り、YRが0.92を超え、限界拡管率が46%を下回る。一方、巻取温度が600℃以上であると、Cがパーライトとして析出してしまい、Cの濃化が進行せず、YRが0.92を超える。以上から、巻取温度は300℃超600℃未満とした。なお、好ましくは350〜550℃である。
上記熱延要件を満たして製造された熱延鋼板は、黒皮まま(=酸化スケール付着のまま)、或いは酸洗やショットブラストによって酸化スケールを除去後、スリットし、連続ロール成形によって円弧状断面とし、該円弧状断面の両端を高周波誘導加熱等によって加熱、溶接(衝合・圧接)する。なお、溶接は大気中で行ってもよいが、溶接部の酸化物等の介在物を減少させる目的で不活性ガスの噴きつけ、或いはシールディング等により酸素濃度を低下させて(例えば100ppm以下)溶接してもよい。また、溶接は、高周波誘導加熱に替えて、抵抗溶接、レーザ溶接、アーク溶接、プラズマ溶接等で、あるいはこれらを組み合わせて行うこともできる。
溶接後急冷された溶接部は、硬度が高く、VE−20が100J/cm2を下回る。これをオンラインで750〜1000℃に加熱した後、500℃以下まで5℃/s以上の冷却速度で冷却することで、Cが0.4%以上に濃化した第2相を0.1〜12面積%だけ含む微視組織が形成され、VE−20は100J/cm2を確保することができる。加熱温度が1000℃を超えると、粒径が大きくなり低温靭性が低下する。一方、加熱温度が750℃を下回ると硬度低下が不十分で低温靭性が低下する。オンライン加熱後、500℃以下まで5℃/s未満の冷却速度で冷却された溶接部は、硬度が低くTS490MPa以上が確保できない。さらに冷却途中でパーライト組織が生成し、VE−20が100J/cm2を下回る。なお、前記オンライン加熱後500℃以下までの冷却速度は、これが速すぎると前記第2相の面積率が12面積%以下となり難いため、好ましくは5〜300℃/sであり、より好ましくは5〜200℃/sである。
表1に示す組成の鋼スラブを約1240℃に加熱し約60分均熱後抽出し、全圧下率約96.8%の熱間圧延を施し、約840℃で仕上げ圧延を終了し、熱延ランナウトで約700℃を挟んだ温度域で空冷を行い、750〜600℃間の冷却時間8sを確保し、約450℃で巻き取って熱延鋼帯(板厚約8mm)とした。次いでこれらの熱延鋼帯を所定の幅寸法にスリット加工し、連続ロール成形してオープン管となし、該オープン管の円弧状断面の両端を高周波抵抗溶接により電縫溶接して管となし、引き続き連続的にオンラインシーム熱処理を、加熱温度約900℃、200℃までの冷却速度30℃/s(ミスト冷却による)の条件で行い、外径φ203.2mm、肉厚約8mmの溶接鋼管を得た。
(1)組織観察試験
溶接鋼管の円周方向断面が観察面となる組織観察試験片を母材部及び溶接部よりそれぞれ採取し、研磨、ナイタール腐食して走査型電子顕微鏡(3000倍)で組織を観察、撮像し、画像解析装置を用いて、フェライトの面積率を測定した。さらに、前述の第2相分率測定方法により、Cが0.4%以上に濃化した第2相の面積率を求めた。
(2)引張試験
溶接鋼管のL方向(管長さ方向)が引張方向となるように、ASTMのA−370の規定に準拠して母材部から弧状試験片を切り出し、同規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(TS,YS,EL,YR)を求めた。
(3)拡管試験
前述の円錐拡管試験を実施し、限界拡管率を求めた。
(4)低温靭性試験
前述の低温衝撃試験において、試験片として溶接鋼管の母材部及び溶接部より採取した1/2サイズのものを用いた試験により、VE−20を求めた。
これに対し、比較例は、いずれも本発明規定の鋼組成要件及び製造方法要件の少なくともいずれか1つを満たさず、得られた溶接鋼管は本発明規定の第2相面積率要件を満たさず、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の特性を有するものとはなっていない。
(実施例2)
表1中の鋼B,Cの組成を有する鋼スラブに表3に示す条件(鋼帯の熱間圧延製造条件)で熱間圧延を施し熱延鋼帯とした。次いでこれらの熱延鋼帯を所定の幅寸法にスリット加工し、連続ロール成形してオープン管となし、該オープン管の円弧状断面の両端を高周波抵抗溶接により電縫溶接して管となし、引き続き連続的にオンラインシーム熱処理を、表3に示す条件(溶接部のオンライン熱処理条件。ここでの冷却:空冷又はミスト冷却)で行い、表3に示す外径、肉厚の溶接鋼管を得た。また、表3に示すとおり、電縫溶接後の管のうちいくつかの管には、オンラインシーム熱処理に替えて全管熱処理を施し、あるいはオンラインシーム熱処理もしくは全管熱処理の後に焼戻し熱処理を施した。
得られた結果を表4に示す。同表より、本発明例は、いずれも本発明規定の鋼組成要件及び製造方法要件を満たし、得られた溶接鋼管は本発明規定の第2相面積率要件を満たし、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の特性を有するものとなっている。
(実施例3)
実施例3では、実施例2のNo.34においてオープン管から管への溶接を、高周波抵抗溶接による電縫溶接に替えてレーザ溶接、TIG溶接の二通りで実施し、それ以外は同様として溶接鋼管を製造し、これらをそれぞれ表3に示す本発明例No.59、60とし、これらについて、実施例2と同様に試験した。その結果を表4に示す。同表より、実施例3においても、得られた溶接鋼管は、実施例2と同様、本発明規定の第2相面積率要件を満たし、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の特性を有するものとなっている。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.001〜2.00%、Mn:0.50〜2.50%、Al:0.010〜0.100%を含有し、P:0.019%以下、Sn:0.10%以下、S:0.005%以下、N:0.0049%以下、O:0.0030%以下で、かつ、30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)が16.0%未満であり、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、1150〜1300℃に加熱して30分以上均熱保持し、全圧下率93.0〜98.0%で熱間圧延を施し、750℃以上で仕上げ圧延を終え、750〜600℃間の冷却時間を4s以上とし、300℃超600℃未満の巻取温度で巻き取って熱延鋼帯となし、該熱延鋼帯をスリットし、連続ロール成形によって円弧状断面とし、該円弧状断面の両端を溶接し、該溶接してなる溶接部のみを750〜1000℃に加熱後500℃以下まで5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
- 質量%で、Cu:0.001〜1.00%、Ni:0.001〜1.00%のうちから選ばれた1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
- 質量%で、Cr:0.001〜1.50%、Mo:0.001〜0.49%、Nb:0.0001〜0.14%、V:0.0001〜0.14%、Ti:0.0001〜0.14%、W:0.0001〜0.14%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0030%、REM:0.0001〜0.10%うちから選ばれた1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1つにおいて、該溶接してなる溶接部のみを、に替えて、該溶接してなる溶接鋼管全体を、としたことを特徴とする拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1つにおいて、最後の冷却の後に、溶接鋼管全体を200〜650℃の範囲で焼戻し熱処理することを特徴とする拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管の製造方法。
- 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.001〜2.00%、Mn:0.50〜2.50%、Al:0.010〜0.100%を含有し、P:0.019%以下、Sn:0.10%以下、S:0.0005%以下、N:0.0049%以下、O:0.0030%以下で、かつ、30*C+100*(P+Sn)+1000*(S+N+O)が16.0%未満であり、あるいはさらに下記A群及び/又はB群を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ母材部及び溶接部の微視組織中にCが0.4質量%以上に濃化した第2相を0.1〜12面積%含むことを特徴とする、拡管性と低温靭性に優れた引張強度490MPa以上、降伏比0.74〜0.92の油井用溶接鋼管。
記
A群:質量%で、Cu:0.001〜1.00%、Ni:0.001〜1.00%のうちから選ばれた1種又は2種
B群:質量%で、Cr:0.001〜1.50%、Mo:0.001〜0.49%、Nb:0.0001〜0.14%、V:0.0001〜0.14%、Ti:0.0001〜0.14%、W:0.0001〜0.14%、B:0.0001〜0.0030%、Ca:0.0001〜0.0030%、REM:0.0001〜0.10%のうちから選ばれた1種又は2種以上
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