JP2011238382A - プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】大画面化、高精細化に適するプラズマディスプレイパネルを提供することを目的とする。
【解決手段】PDP1の保護膜8を、主成分であるCeOに対し、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で添加され、結晶構造としてはCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持し、且つ、(100)配向を有する下層保護膜8aと、これを覆うように(111)配向を有する上層保護膜8bを積層させて構成する。
【選択図】図2

Description

本発明は、気体放電による放射を利用したプラズマディスプレイパネルに関し、特に表面層(保護膜)周辺の特性の改良技術に関する。
PDPは、液晶パネルに比べて高速の表示が可能であり、視野角が広いこと、大型化が容易であること、自発光型であるため表示品質が高いことなどの理由から、フラットパネルディスプレイの中で最近特に注目を集めている。多くの人が集まる場所での表示装置や家庭で大画面の映像を楽しむための表示装置として各種の用途に使用されている。
PDPには大別して、駆動的にはAC型とDC型があり、放電形式では面放電型と対向放電型の2種類がある。高精細化、大画面化および製造の簡便性から、現状では3電極構造の面放電型のものが主流である。
代表的な構造を持つ面放電型のPDPは、フロントパネルとバックパネルとを放電空間を介して対向配置させてなる。フロントパネルは、第一基板(前面基板)の表面に複数の表示電極を形成し、これを覆うように誘電体層及び保護膜を順次配してなる。バックパネルは、第二基板(背面基板)の表面に複数のデータ電極を形成し、これを覆うように誘電体層を形成し、誘電体層表面に放電空間を区画する隔壁を形成するとともに、隔壁側面及びこれに囲まれる誘電体層表面にRGBいずれかの色の蛍光体層を形成してなる。隔壁で区画された放電空間の位置に合わせ、複数の放電セルがマトリクス状に配置される。放電空間には所定の放電ガスが満たされ、駆動時には各電極への電圧印加により放電空間で発生した短波長の真空紫外光で蛍光体層を励起し、RGB各色可視光を発生させてカラー表示を行う。
PDPは、アルミニウムなどの金属製のシャーシ部材の前面側に保持される。そのシャーシ部材の背面側には、PDPを発光させるための駆動回路を構成する回路基板を配置したモジュールが配設される(特許文献1参照)。
特開2003−131580号公報
近年、PDPの高精細化が望まれているが、これを実現するためには放電セルサイズを現状よりも微細化させ、放電セル数を増大させることが要求される。これに伴い、PDPをより高速で駆動することも求められるため、発光すべき所定の放電セルに書き込み放電を行う際に、その放電確実性が低下し、不点灯セルとなって画像表示が良好に行えない場合がある。
書き込み放電の確実性を高めるためには書き込み電圧を上昇させることが考えられるが、消費電力の上昇を招く新たな課題が生じる。
本発明はこのような現状に鑑みなされたものであって、良好な画像表示を低電力駆動で安定して実現することが可能なPDPを提供することを目的とする。
上記目的を実現するために本発明は、複数の表示電極が配設された第一基板が、放電ガスが満たされている放電空間を介して、第二基板と対向した状態で封着されたプラズマディスプレイパネルであって、保護膜は第一基板表面側から、下層保護膜と上層保護膜を積層してなり、下層保護膜及び上層保護膜は、いずれもCeOを主成分としてなり、且つ、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で含まれ、結晶構造としてCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持しており、上層保護膜は(111)配向であり、下層保護膜は(100)配向である構成とした。
ここで、下層保護膜及び上層保護膜は、いずれも結晶構造としてホタル石構造を有する構成とすることもできる。
また、放電ガスには分圧15%以上のXeを含めることもできる。
また本発明は、第一基板表面に複数の表示電極を配置する工程と、前記第一基板の最上面に保護膜を形成する保護膜形成工程とを経てフロントパネルを形成し、
第二基板表面に複数のデータ電極を配置する工程を経てバックパネルを形成し、
フロントパネルとバックパネルとを、表示電極とデータ電極とが放電空間を挟んで交差し、前記保護膜が放電空間に臨むように対向配置させるプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、保護膜形成工程では、下層保護膜形成工程及び上層保護膜形成工程を順次実施し、下層保護膜形成工程では、CeO粉末とアルカリ土類金属元素の炭酸化物である炭酸Sr粉末とを混合し、大気中で焼成して得た焼結体を、一旦溶解させ、これを冷却して凝固させたペレットを用いた真空プロセスによる薄膜法により、CeOを主成分としてなり、且つ、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で含まれ、結晶構造としてCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持し、(100)配向を有する下層保護膜を成膜し、上層保護膜形成工程では、CeO粉末とアルカリ土類金属元素の炭酸化物である炭酸Sr粉末とを混合し、大気中で焼成して得た焼結体であるペレットを用いた真空プロセスによる薄膜法により、CeOを主成分としてなり、且つ、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で含まれ、結晶構造としてCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持し、(111)配向を有する上層保護膜を成膜するものとした。
ここで下層保護膜形成工程及び上層保護膜形成工程では、それぞれ結晶構造としてCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持する下層保護膜、上層保護膜を成膜することもできる。
また、前記真空プロセスとして、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかを用いることもできる。
また、下層保護膜形成工程では、前記焼結体の溶解を電子ビームの照射または減圧下での加熱により実施することもできる。
以上の構成を持つ本発明のPDPでは、CeOを含む保護膜において、さらに、エージング時間を長時間化させない程度の所定濃度に調整されたSrが含まれる。これによりバンド構造において、禁制帯中にSrに由来する電子準位を形成するとともに、価電子帯の上端の位置が上昇し、比較的浅い準位に価電子帯中の電子を存在させる。従って、PDPの駆動時には、放電ガスのXe原子等によるオージェ中性化の過程で取得可能なエネルギーを利用して、不純物準位や価電子帯の上端付近に存在する多量の電子を電子放出に関与させることができる。この増大したエネルギーを利用して、保護膜の二次電子放出特性が大幅に向上するので、PDPでは比較的低い放電開始電圧で応答性良く放電開始を行うことができ、放電遅れを防止して、優れた画像表示性能を低電力駆動で発揮することができる。
また、Srに起因する電子準位は、真空準位から或程度の深さ(すなわち、エネルギー的に浅すぎない深さ)に形成されている。従って、駆動時に保護膜から過度に電荷が消失することによる「電荷抜け」の発生が抑制されており、適切な電荷保持特性を発揮でき、経時的に良好な二次電子の放出が期待できるようになっている。
また、下層保護膜が(100)配向を有しており、局所的な放電の発生を抑制する効果を発揮することから、良好な耐スパッタ性(耐久性)を有する。このため、たとえ上層保護膜がスパッタにより削除されても、下層保護膜は比較的残留されるため、長期にわたり、良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性を維持するとともに放電規模を増大させ、安定な放電特性を得ることができる。
さらに、上層保護膜が(111)配向を有しており、優れた不純物吸着特性を有するので、これを下層保護膜の表面に積層することで、パネルの表示特性を低下させることなく、ディスプレイの広い表示領域(特に表示電極対の主放電領域を含む領域)にわたり、放電空間中の不純物の吸着除去を図ることができる。また、駆動中の放電によりスパッタされ、スパッタ粒子が上層保護膜上に再付着しても、上層保護膜自体の組成変動を小さくでき、保護膜本来の優れた放電特性を維持できる。
このように本発明によれば、良好な画像表示を低電力駆動で長期にわたり安定して実現することが可能なPDPを提供できる。
実施の形態1のPDPの構成を示す概略斜視図である。 実施の形態1のPDPのxz平面に沿った模式的な断面図である。 実施の形態1のPDPにおける各電極とドライバとの関係を模式的に示す図である。 実施の形態1のPDPの駆動波形の一例を示す図である。 CeOの電子準位とオージェ中性化過程における二次電子の放出過程を説明するための模式図である。 実施の形態1のPDPの保護膜及び従来のPDPの保護膜の各電子準位とオージェ中性化過程における二次次電子の放出過程を説明するための模式図である。 X線回折で求めた格子定数のSr濃度依存性を示すグラフである。 15%の分圧でXeを含む放電ガスを用いた場合の放電電圧のCeOにおけるSr濃度依存性を示すグラフである。 15%の分圧でXeを含む放電ガスを用いた場合のエージング時間のCeOにおけるSr濃度依存性を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態及び実施例を説明するが、当然ながら本発明はこれらに限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
<実施の形態1>
(PDP1の構成)
図1は、本発明の実施の形態1におけるPDP1の概略構造を示す断面斜視図である。図2はPDP1のxz平面に沿った断面を模式的に示す図である。なおPDP1の解像度としては、以下に一般的な規格を示すが、HD、FHDなどいずれでも構わない。本発明の効果がより顕著に得られるのは高精細型PDPに適用した場合であり、特に、4K2Kや8K4K等のような超高精細型であれば、その効果はさらに顕著となる。
図1、図2に示すように、PDP1は、第1基板(フロントパネル2)および第二基板(バックパネル9)の互いの主面を放電空間15を介して対向配置させ、内部封止して構成される。
フロントパネル2の基板となるフロントパネルガラス3には、その一方の主面に所定の放電ギャップをおいて配設された一対の表示電極対6(走査電極5、維持電極4)が複数対にわたり形成されている。各表示電極対6は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)等の透明導電性材料からなる帯状の透明電極51、41に対して、Ag厚膜、Al薄膜、またはCr/Cu/Cr積層薄膜等からなるバスライン52、42が積層されてなる。このバスライン52、42によって透明電極51、41のシート抵抗が下げられる。
なお「厚膜」とは、導電性材料を含むペースト等を塗布した後に焼成して形成する各種厚膜法により形成される膜をいい、また、「薄膜」とは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子線蒸着法等を含む、真空プロセスを用いた各種薄膜法により形成される膜をいう。
表示電極対6を配設したフロントパネルガラス3には、その主面全体にわたり、酸化鉛(PbO)または酸化ビスマス(Bi)または酸化燐(PO)を主成分とする低融点ガラスの誘電体層7が、スクリーン印刷法等によって形成されている。
誘電体層7は、AC型PDP特有の電流制限機能を有し、DC型PDPに比べて長寿命化を実現する要素になっている。
誘電体層7の表面には保護膜8が形成される。保護膜8は、主として放電時のイオン衝撃から誘電体層7を保護するほか、放電開始電圧を低減させる目的で配され、耐スパッタ性及び二次電子放出係数γに優れる材料からなる。当該保護膜8の材料には、さらに良好な光学透明性、電気絶縁性が要求される。
ここで後述するように、PDP1の主たる特徴として、保護膜8は(100)配向を有する下層保護膜8aの上に、(111)配向を有する上層保護膜8bを積層して構成される。
また、バックパネル9の基板となるバックパネルガラス10には、その一方の主面に、Ag厚膜(厚み2μm〜10μm)、Al薄膜(厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(厚み0.1μm〜1μm)等のいずれかからなるデータ電極11が、幅100μmで、x方向を長手方向としてy方向に一定間隔毎(360μm)でストライプ状に並設される。そして、各々のデータ電極11を内包するように、バックパネルガラス9の全面にわたって、厚さ30μmの誘電体層12が配設されている。
誘電体層12の上には、さらに隣接するデータ電極11の間隙に合わせて井桁状の隔壁13(高さ約110μm、幅40μm)が配設され、放電セルが区画されることで誤放電や光学的クロストークの発生を防ぐ役割をしている。
隣接する2つの隔壁13の側面とその間の誘電体層12の面上には、カラー表示のための赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各々に対応する蛍光体層14が形成されている。なお、誘電体層12は必須ではなく、データ電極11を直接蛍光体層14で内包するようにしてもよい。
フロントパネル2とバックパネル9は、データ電極11と表示電極対6の互いの長手方向が交差するように対向配置され、両パネル2、9の外周縁部がガラスフリットで封着されている。この両パネル2、9間にはHe、Xe、Ne等を含む不活性ガス成分からなる放電ガスが所定圧力で封入される。
隔壁13の間は放電空間15であり、隣り合う一対の表示電極対6と1本のデータ電極11が放電空間15を挟んで交叉する領域が、画像表示にかかる放電セル(「サブピクセル」とも言う)に対応する。放電セルピッチはx方向が675μm、y方向が300μmである。隣り合うRGBの各色に対応する3つの放電セルで1画素(675μm×900μm)が構成される。
図3は、本発明の一実施の形態によるPDPの電極配列を模式的に示す図である。走査電極5、維持電極4及びデータ電極11の各々には、図3に示すようにパネル外部において、駆動回路として走査電極ドライバ111、維持電極ドライバ112、データ電極ドライバ113が接続される。
(駆動方法について)
上記構成のPDP1は、駆動時には各ドライバ111〜113を含む公知の駆動回路(不図示)によって、各表示電極対6の間隙に数十kHz〜数百kHzのAC電圧が印加される。これにより任意の放電セル内で放電が発生し、主として励起Xe原子による波長147nm主体の共鳴線と励起Xe分子による波長172nm主体の分子線を含む紫外線(図2の点線及び矢印)が蛍光体層14に照射される。蛍光体層14は励起されて可視光発光する。そして当該可視光はフロントパネル2を透過して前面に発光される。
この駆動方法の一例としては、フィールド内時分割階調表示方式が採られる。当該方式は、表示するフィールドを複数のサブフィールド(S.F.)に分け、各サブフィールドをさらに複数の期間に分ける。1サブフィールドは更に、(1)全放電セルを初期化状態にする初期化期間、(2)各放電セルをアドレスし、各放電セルへ入力データに対応した表示状態を選択・入力していく書込期間、(3)表示状態にある放電セルを表示発光させる維持期間、(4)維持放電により形成された壁電荷を消去する消去期間という4つの期間に分割されてなる。
各サブフィールドでは、初期化期間で画面全体の壁電荷を初期化パルスでリセットした後、書込期間で点灯すべき放電セルのみに壁電荷を蓄積させる書込放電を行い、その後の放電維持期間ですべての放電セルに対して一斉に交流電圧(維持電圧)を印加することによって一定時間放電維持することで発光表示する。
ここで図4は、PDP1に印加する駆動波形を例示しており、フィールド中の第m番目のサブフィールドにおける駆動波形を示す。この例では各サブフィールドに、初期化期間、書込期間、放電維持期間、消去期間がそれぞれ割り当てられる。
初期化期間とは、それ以前の放電セルの点灯による影響(蓄積された壁電荷による影響)を防ぐため、画面全体の壁電荷の消去(初期化放電)を行う期間である。図4に示す駆動波形例では、走査電極5にデータ電極11および維持電極4に比べて高い電圧(初期化パルス)を印加し放電セル内の気体を放電させる。それによって発生した電荷はデータ電極11、走査電極5および維持電極4間の電位差を打ち消すように放電セルの壁面に蓄積されるので、走査電極5付近の保護膜8表面には負の電荷が壁電荷として蓄積される。またデータ電極11付近の蛍光体層14表面および維持電極4付近の保護膜8表面には正の電荷が壁電荷として蓄積される。この壁電荷により、走査電極5―データ電極11間、走査電極5―維持電極4間に所定の値の壁電位が生じる。
書込期間は、サブフィールドに分割された画像信号に基づいて選択された放電セルのアドレッシング(点灯/不点灯の設定)を行う期間である。当該期間では、放電セルを点灯させる場合には走査電極5にデータ電極11および維持電極4に比べ低い電圧(走査パルス)を印加させる。すなわち、走査電極5―データ電極11には前記壁電位と同方向に電圧を印加させると共に走査電極5―維持電極4間に壁電位と同方向にデータパルスを印加させ、書込放電(書込放電))を生じさせる。これにより蛍光体層14表面、維持電極4付近の保護膜8表面には負の電荷が蓄積され、走査電極5付近の保護膜8表面には正の電荷が壁電荷として蓄積される。以上で維持電極4―走査電極5間には所定の値の壁電位が生じる。
放電維持期間は、階調に応じた輝度を確保するために、書込放電により設定された点灯状態を拡大して放電維持する期間である。ここでは、上記壁電荷が存在する放電セルで、一対の走査電極5および維持電極4の各々に維持放電のための電圧パルス(例えば約200Vの矩形波電圧)を互いに異なる位相で印加する。これにより表示状態が書き込まれた放電セルに対し電圧極性の変化毎にパルス放電を発生せしめる。
この維持放電により、放電空間における励起Xe原子からは147nmの共鳴線が放射され、励起Xe分子からは173nm主体の分子線が放射される。この共鳴線・分子線が蛍光体層14表面に照射され、可視光発光による表示発光がなされる。そして、RGB各色ごとのサブフィールド単位の組み合わせにより、多色・多階調表示がなされる。なお、保護膜8に壁電荷が書き込まれていない非放電セルでは、維持放電が発生せず表示状態は黒表示となる。
消去期間では、走査電極5に漸減型の消去パルスを印加し、これによって壁電荷を消去させる。
(保護膜周辺の構成について)
次に、PDP1の主な特徴部分である保護膜8について、詳細に説明する。
図1、2に示すように、PDP1の保護膜8は、誘電体層7の表面に対し、下層保護膜8aと上層保護膜8bを順次積層してなる。
下層保護膜8aと上層保護膜8bは、いずれもCeOを主成分としてなり、それぞれの膜中にはSrが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で添加され、結晶構造としてはCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持する。以上の点で下層保護膜8aと上層保護膜8bは共通しているが、各々の膜の特徴として、下層保護膜8aは(100)配向を有し、上層保護膜8bは(111)配向を有して構成される。
保護膜8の構成を上述のようにすれば、まず各保護膜が有する組成及び結晶構造に基づく特性によって、良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性が発揮され、動作電圧(主として放電開始電圧と放電維持電圧)の低減による安定した低電力駆動が可能となる。
また、下層保護膜8aが(100)の配向を有し、局所的な放電の発生を抑制する効果を発揮して、良好な耐スパッタ性(耐久性)を有する。このため、たとえ駆動時に上層保護膜8bがスパッタにより削除されても、下層保護膜8aは比較的残留されるため、長期にわたり、良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性を維持するとともに放電規模を増大させ、安定な放電特性を得ることができる。また、本願発明者らの試験によれば、耐スパッタ性の向上とともにエージング工程に要する時間が低減され、保護膜8の特性の経時的な安定性、ひいてはPDP1の長寿命化を図れることが分かっている。
さらに、上層保護膜8bが(111)の配向を有し、優れた不純物吸着特性を有するので、これを下層保護膜8aに積層することで、表示特性を低下させることなく、表示電極対6の主放電領域を含むディスプレイの広い表示領域にわたって放電空間中の不純物の吸着除去を図ることができる。また、駆動中の放電により発生するスパッタ粒子は本来上層保護膜と同一組成であるため、再度、スパッタ粒子が上層保護膜8b上に再付着しても、上層保護膜8bの組成変動を小さくできる。従って、仮にスパッタが進行しても、保護膜の組成変動による放電特性の変化を抑制でき、安定した放電特性を期待できる。
そこで、保護膜8において上記特性が得られる理由について、本願発明者らによる考察を以下に述べる。
まず、良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性が発揮され、動作電圧(主として放電開始電圧と放電維持電圧)の低減による安定した低電力駆動が可能となる理由を述べる。
これは、保護膜8の主成分(CeO)に適量のSrが添加されることで、当該保護膜8のバンド構造の禁制帯中に電子準位が形成されるとともに、価電子帯の上端の位置が上昇し、これらの電子準位に存在する多量の電子によって、良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性が発揮されるため、動作電圧(主として放電開始電圧と放電維持電圧)の低減による安定した低電力駆動が可能となるものと考えられる。
このようにPDPの放電電圧は、保護膜から放出される電子量(電子放出特性)で決まる。保護膜の電子放出過程としては、放電ガス組成のNe(ネオン)やXe(キセノン)が駆動時に励起され、そのオージェ中性化の際のエネルギーを受けることにより、保護膜から二次電子が放出される過程が支配的である。
図5は、CeOからなる保護膜のバンド構造と、電子準位を示す模式図である。当図に示すように、保護膜の価電子帯周辺に存在する電子が、保護膜の電子放出に大きく関与している。
放電ガス組成にイオン化エネルギーの比較的高いNeを用いる場合、駆動時にNe原子が励起されると、その基底状態に電子が落ち込む(図5中の右端の電子)。このときのエネルギー(21.6eV)をオージェ中性化によって、保護膜の価電子帯に存在する電子が受け取る。この過程においてやりとりされるエネルギー量(21.6eV)は、価電子帯に存在する電子が二次電子として放出されるには充分な量である。
しかし、放電ガス組成にイオン化エネルギーの比較的低いXeを用いる場合、駆動時にXe原子が励起されると、その基底状態に電子が落込む際に保護膜中の価電子帯の電子がオージェ中性化で受け取れるエネルギー量は、上記したNe原子の場合よりも少ないため(12.1eV)、保護膜中から良好に電子放出を行うためには充分と言えない。このため、二次電子放出確率が非常に低くなり、結果として、放電ガス中のXe分圧が上昇すると動作電圧が顕著に増加する。これは、PDPの高輝度化を図るため、放電ガス中のXe分圧を上げる場合に大きな問題となる。
ここで、一般にCeOからなる保護膜のバンド構造には、図5に示すように、CeOの禁制帯中にオージェ中性化の効果を良好に受けることのできる、Ce4fと考えられる電子準位が存在する。この比較的浅い電子準位に存在する電子を利用すれば、Xe原子によるオージェ中性化の過程で得られるエネルギーによっても保護膜中から電子放出を図ることが比較的容易になるため、二次電子の放出確率が上昇し、結果としてPDPの駆動電圧を低減させることができる。しかし、このCe4fと考えられる電子準位に存在する電子の数は、価電子帯の電子の数と比較すると非常に少なく、また、電子準位自体が安定ではない。従って、放電電圧の低減効果も不十分であり、長時間にわたる安定した放電特性を維持する上でも課題が残る。
そこでPDP1の保護膜8の組成としては、CeOにSrを添加し、その濃度(SrとCeの合計モル数に対するSrモル数の割合)を11.8mol%以上49.4mol%以下に制御することで、更なる低電圧放電を実現したものである。この効果を図6で説明する。保護膜8では、適量のSrを添加することで、禁制帯中に不純物準位を形成するとともに、価電子帯の上端の位置を従来のCeOでの位置である(b)から(a)まで押し上げる。価電子帯の上端の位置を押し上げることで、駆動時のオージェ中性化の過程で取得できるエネルギーにより、保護膜から放出される電子の量(二次電子の放出確率)が上昇し、効率的に放電電圧を低減させることができる。しかもこの場合、オージェ中性化に関与して放出される電子は不純物準位に存在する少量の電子だけではなく、安定な価電子帯に存在する多量の電子も加わるため、長期にわたり豊富な二次電子放出特性を期待することができる。
次にCeOに添加する適切なSrの濃度範囲について述べる。
Srの濃度範囲は、保護膜全体において、11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲となるように、主成分であるCeOに対して添加することが適切である。Srの添加量が11.8mol%未満の低濃度であると、保護膜8の二次電子放出特性及び電荷保持特性が不十分となるうえ、エージングに長時間有してしまうため好ましくない。また、Sr濃度が49.4mol%よりも高濃度であると、保護膜8の結晶構造が、CeO本来のホタル石構造からアモルファス構造もしくはSrOのNaCl構造になり、CeOの表面安定性が悪化する。このため充分な二次電子放出特性を発揮できないほか、エージング工程に係る時間もかなり長時間となってしまうため好ましくない。このようにSrの濃度範囲としては、本願発明者らの検討により、上記した適切な範囲とすることが望ましいと言える。
なお、保護膜8の結晶構造は線源をCuKα線とする薄膜X線解析測定によって確認することができる。Srのイオン半径は、Ceのイオン半径とは相当に異なるため、保護膜8中のSr濃度が高い(Sr添加量が多すぎる)と、CeOベースのホタル石構造が崩れてしまうが、上述したSr濃度の範疇であれば、純粋なCeOと同等の位置にピークが確認できることから、少なくともCeOと同様の結晶構造(ホタル石構造)を保持していることを確認している。
次に、保護膜8が有している耐スパッタ性等の効果について述べる。
一般的にPDPでは、放電時に放電空間15中の放電ガス(He、Ne、Ar、Xe等の希ガス)がイオン化し、この希ガスイオンによって保護膜がスパッタされる。保護膜のスパッタが進行すると放電電圧の上昇を招くため、これを回避するために希ガスイオンに対する高い耐スパッタ性を持つ材料で保護膜を構成することが求められる。
ここで本願発明者らが行った検討によれば、上述した、CeOにSrを添加し、その濃度(SrとCeの合計モル数に対するSrモル数の割合)が11.8mol%以上49.4mol%以下となるように制御し、結晶構造としてCeOと同様の結晶構造(ホタル石構造)を保持することに加え、その結晶構造の配向性として、少なくとも(100)配向を有するようにすれば、希ガスイオンに対する耐スパッタ性の向上を図れることが分かった。
次に、下層保護膜、上層保護膜の各配向性により発揮される効果について述べる。
CeOに対し、SrとCeの合計モル数に対するSrモル数の割合が11.8mol%以上49.4mol%以下となるようにSrを添加し、結晶構造としてCeOと同様の結晶構造(ホタル石構造)を有する保護膜では、(111)配向を有する場合、比較的、水や不純物との反応性が高い性質(言い換えると水や不純物に対する吸着効果が高い特性)を有する。これにより(111)配向を有してなる当該保護膜の表面には、水酸化、炭酸化した劣化層で覆われ、二次電子放出特性が低下する。このような劣化層は、実際には製造工程の終了段階でエージング工程を実施し、放電空間に放電を発生させることで、ある程度除去することが可能である。エージング工程では非常に高い電圧を掛けるため、図2のように、最も電界の集中する表示電極対6の維持電極4と走査電極5の内側部分(主放電領域近傍)で比較的強い放電が生じる。この強い放電によって、主放電領域近傍の劣化層は除去され、劣化層に覆われていた保護膜が部分的に放電空間15に露出し、放電電圧が顕著に減少する。しかしながら、この状態のままでは、保護膜が露出して二次電子放出特性が高まった主放電領域近傍しか放電に寄与できず、その他の劣化層に覆われた広い領域(二次電子放出特性の低い放電セル領域)まで放電が広がりにくい。この状態では電界集中する領域のみでイオン衝突が生じ、放電によるスパッタが当該領域に局所的に集中するため、結果的にPDPの製品寿命を縮める原因となる。また、最悪の場合には保護膜がなくなってしまい、放電特性に重大な悪影響を及ぼす場合も考えられる。
また、PDPの輝度、効率を上昇させるには、Xeの励起による真空紫外光を効率よく発生させる必要があるが、放電領域が広がらない状態では効率よく真空紫外が発生せず、輝度、効率の向上を望めない。従って、PDPの輝度化、高効率化、信頼性の向上をいずれも図るためには、上記した放電の局所化を防ぐ必要がある。
ここで本願発明者らが検討した結果、CeOに対し、SrとCeの合計モル数に対するSrモル数の割合が11.8mol%以上49.4mol%以下となるようにSrを添加し、結晶構造としてCeOと同様の結晶構造(ホタル石構造)を有し、且つ、(100)配向を有する保護膜では、放電時のスパッタの局所的な集中を抑制し、良好な放電規模を維持できることが分かった。本発明はこの知見に基づくものであり、(100)配向を有する下層保護膜8aを被覆するように、(111)配向を有する上層保護膜8bを積層させて保護膜8を構成したものである。
この構成による効果として、まず(100)配向を有する下層保護膜8aによって、局所的な放電集中を防いで良好な放電規模で放電発生を行うことができ、優れた放電特性が得られる。また、放電の集中を防止することで過度なスパッタの発生を抑制できるため、エージング時間を短縮するとともに、PDP完成後は長期にわたり安定した放電特性を維持できる。
さらに、下層保護膜8aの上に(111)配向を有する上層保護膜8bを設けることで、放電空間15に面する広い保護膜8の表面にわたり、放電空間15中に存在する水分や不純物の吸着除去を図ることができる。しかも、上層保護膜8bは可視光発光に悪影響を及ぼさない(可視光透過率を低下させない)ため、従来は吸着材の配設が難しかった、放電セル中の表示領域(特に駆動時のスパッタ効果が高い表示電極対6の主放電領域)においても、いわゆるゲッター材として作用し、良好な不純物の吸着除去を図ることができる。
また、上層保護膜8bがエージング工程等における放電によりスパッタされても、少なくとも下層保護膜8aが良好に残留できるため、保護膜自体が無くなってしまうという最悪の問題を回避できる。また、仮に上層保護膜8aのスパッタが部分的に進行した場合、主放電領域を除く表示電極対6の周辺領域において上層保護膜8bが主に残留する。このような領域に上層保護膜8bが残留すると、放電特性に影響の大きい主放電領域周辺に存在する不純物を効果的に吸着除去できるため、清浄効果を有効に作用させることが可能である。
また、駆動中の放電により発生するスパッタ粒子は、本来、上層保護膜8bと同一組成である。従って、放電空間15に浮遊するスパッタ粒子が上層保護膜8b上に再付着しても、上層保護膜8bの組成変動を小さくできるほか、いわゆる自己再生の効果を図ることができる。よって、仮に駆動時間の経過に伴って、放電によるスパッタが進行しても、上層保護膜8bの放電特性の変化を抑制して、安定した放電特性を期待することができる。このような上層保護膜8bによる放電特性の安定性についての効果は、保護膜の組成とは全く異なる一般的なゲッター材を用いた場合には得られない、高度な効果と言える。
これにより保護膜8では、上記した良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性、動作電圧(主として放電開始電圧と放電維持電圧)の低減による安定した低電力駆動、且つエージング工程時間の低減を図れる効果に加え、さらには、保護膜8の耐スパッタ性を向上させることができる。これらの諸効果を発揮させることで、PDP1では良好な低電力駆動を行え、且つ、優れた画像表示性能が長期にわたり安定して発揮されることとなる。
(各配向面の存在量について)
下層保護膜8aは(100)配向を有する保護膜である。本発明において、「(100)配向を有する保護膜」とは、X線回折測定を行った際、少なくとも(100)配向を示すピークが認識される程度に含まれている構成であると定義できる。ここで、X線回折測定を行った際、(100)配向のピークの他に、(111)配向のピークが現れる場合がある。この場合、ピーク高さに応じて結晶配向の存在する量が比例するため、(111)配向のピーク高さを100%とした場合、(100)配向のピーク高さが1%以上の高さで認識できることがより好ましい。(100)配向のピーク高さが高いほど、望ましい結晶構造であると言える。
一方、上層保護膜8bは(111)配向を有する保護膜である。本発明において「(111)配向を有する保護膜」とは、X線回折測定を行った際、(100)配向を示すピークは認識されず、且つ、(111)配向を示すピークが含まれている構成であると定義できる。
このような保護膜8を有することが、PDP1における主な特徴である。
<PDP1の製造方法>
以下、本発明のPDPの製造方法について例示する。
(バックパネル9の作製)
例えば厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるバックパネルガラス10の表面上に、スクリーン印刷法によりAgを主成分とする導電体材料を一定間隔でストライプ状に塗布し、厚さ数μmのデータ電極11を形成する。データ電極11の電極材料としては、Ag、Al、Ni、Pt、Cr、Cu、Pd等の金属や、各種金属の炭化物や窒化物等の導電性セラミックスなどの材料やこれらの組み合わせ、あるいはそれらを積層して形成される積層電極も必要に応じて使用できる。
続いて、データ電極11を形成したバックパネルガラス10の面全体にわたって鉛系あるいは非鉛系の低融点ガラスやSiO材料からなるガラスペーストを厚さ約数十μmで塗布して焼成し、誘電体層12を形成する。
次に、誘電体層12面上に所定のパターンで隔壁13を形成する。低融点ガラス材料ペーストを塗布し、サンドブラスト法やフォトリソグラフィ法を用い、隣接放電セル(図示省略)との境界周囲を仕切るように、放電セルの複数個の配列を行および列を仕切る、例えば井桁形状のパターンで形成する。
隔壁13が形成できたら、隔壁13の壁面と、隔壁13間で露出している誘電体層12の表面に、AC型PDPで通常使用される赤色(R)蛍光体、緑色(G)蛍光体、青色(B)蛍光体のいずれかを含む蛍光インクを塗布する。これを乾燥・焼成し、それぞれ蛍光体層14とする。
適用可能なRGB各色蛍光の化学組成例は以下の通りである。
赤色蛍光体;(Y、Gd)BO:Eu
緑色蛍光体;ZnSiO:Mn
青色蛍光体;BaMgAl1017:Eu
各蛍光体材料の形態は、平均粒径2.0μmの粉末が好適である。これをサーバー内に50質量%の割合で入れ、エチルセルローズ1.0質量%、溶剤(α−ターピネオール)49質量%を投入し、サンドミルで撹拌混合して、15×10−3Pa・sの蛍光体インクを作製する。そして、これをポンプにて径60μmのノズルから隔壁13間に噴射させて塗布する。このとき、パネルを隔壁20の長手方向に移動させ、ストライプ状に蛍光体インクを塗布する。その後は500℃で10分間焼成し、蛍光体層14を形成する。
以上でバックパネル9が完成される。
なおバックパネルガラス10は、ソーダライムガラスを材料の一例として挙げることができるが、特にこれに限るものではなく、これ以外の材料で構成してもよい。
(フロントパネル2の作製)
例えば厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるフロントパネルガラス3の面上に、表示電極対6を作製する。ここでは印刷法によって表示電極対6を形成する例を示すが、これ以外にもダイコート法、ブレードコート法等で形成することができる。
まず、ITO、SnO、ZnO等の透明電極材料を、ストライプ等の所定のパターンでフロントパネルガラス上に形成することで透明電極41、51を作製する。
一方、Ag粉末と有機ビヒクルに感光性樹脂(光分解性樹脂)を混合してなる感光性ペーストを調整し、これを前記透明電極41、51の上に重ねて塗布し、形成する表示電極のパターンを有するマスクで覆う。そして、当該マスク上から露光し、現像工程を経て、焼成する。これにより透明電極41、51上にバスライン42、52が形成される。このフォトマスク法によれば、従来のスクリーン印刷法に比べ、バスライン42、52を細線化することが可能となる。バスライン42、52の金属材料としては、Agの他にPt、Au、Al、Ni、Cr、また酸化錫、酸化インジウム等を用いることができる。バスライン42、52は上記方法以外にも、蒸着法、スパッタリング法などで電極材料を成膜したのち、エッチング処理して形成することも可能である。以上で表示電極対6が完成する。
次に、形成した表示電極対6の上から、鉛系あるいは非鉛系の低融点ガラスやSiO材料粉末とブチルカルビトールアセテート等からなる有機バインダーを混合したペーストを塗布する。そしてその後、焼成することで誘電体層7を形成する。
(保護膜8の形成)
まず、下層保護膜8a及び上層保護膜8bを成膜するための成膜用ペレットをそれぞれ作製する。その後、各成膜用ペレットを用いて、公知の真空プロセス(例えば電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の薄膜法)に基づき、誘電体層7の表面に順次成膜する。
下層保護膜8a及び上層保護膜8bの成膜用ペレットは例えば以下の方法で作製することができる。
[下層保護膜用ペレットの作製]
まずCeO粉末とアルカリ土類金属元素の炭酸化物である炭酸Sr粉末とを混合する。これをアルミナルツボに入れ、大気中で例えば1400℃程度の温度で約30分間の焼成して焼結体(前段階ペレット)を得る。なお、最終的な下層保護膜8aにおけるSr濃度の制御は、CeO粉末と炭酸Sr粉末との混合比率を調節することで行えばよい。これは以下に示す上層保護膜8bの成膜においても同様である。
次に、得られた前段階ペレットを電子ビーム蒸着装置の蒸着ルツボに入れ、減圧下で電子ビームにより加熱し、一旦溶解させる。その後、冷却して凝固させることで、成膜用ペレットを得る。
なお、前段階ペレットを溶解させて成膜用ペレットを得る方法としては、電子ビームを用いる方法に限定されない。本願発明者らの検討により、減圧下(真空中)のチャンバーで前段階ペレットを高温加熱することで一旦、溶解させ、その後、冷却して凝固させたものを成膜用ペレットとして用いることもできる。
[上層保護膜用ペレットの作製]
CeO粉末とアルカリ土類金属元素の炭酸化物である炭酸Sr粉末とを混合した後、アルミナルツボに入れ、大気中で例えば1400℃程度の温度で約30分間の焼成することで焼結体のペレットを得る。このペレットを成膜用ペレットとして用いる。
上記各方法で各成膜用ペレットを作製したら、例えば電子ビーム蒸着装置に、誘電体層7を形成した基板(成膜対象基板)を載置する。そして誘電体層7の表面に対し、下層保護膜の成膜用ペレットを蒸着源として成膜する。これにより主成分であるCeOに対し、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で添加され、結晶構造としてはCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持し、且つ、(100)配向を有する下層保護膜8aが得られる。なお、この工程により(100)配向性が得られる理由は詳しくは不明であるが、前段階ペレットを一旦溶解・凝固させることで、ペレットの密度が上がり、電子ビームで照射して成膜対象基板上に蒸着させる際の成膜レートが変化することや、溶解・凝固を経ることでペレット中のデガス等の不純物が低減されていることが影響していると考えられる。
次に、上記と同様の手法で、上層保護膜用ペレットをチャンバー内にセッティングし、前記成膜された下層保護膜の上に上層保護膜を成膜する。これにより下層保護膜と同じ組成及び結晶構造を有し、且つ、(111)配向を有する上層保護膜8bが得られる。
なお、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの真空プロセスを実施する際にも、上記と同様の手順で各成膜装置を用いて下層保護膜、上層保護膜を順次成膜することもできる。
(PDP1の完成)
作製したフロントパネル2とバックパネル9を、封着用ガラスを用いて貼り合わせる。その後、放電空間15の内部を高真空(1.0×10−4Pa)程度に排気し、これに所定の圧力(ここでは66.5kPa〜101kPa)でNe−Xe系やHe−Ne−Xe系、Ne−Xe−Ar系等の放電ガスを封入する。ここで本発明では上記した組成を有する保護膜8を設けているため、Xeを15%以上の分圧で封入しても、高効率なPDPを得ることができる。
以上の各工程を経ることにより、PDP1が完成する。
<性能確認試験>
次に、本発明のPDPについて行った性能確認試験を説明する。
まず、表1、2に示す参考例、実施例、比較例に係るPDP(サンプル1〜18)を作製した。ここで、サンプル4〜6については、上記した本発明の保護膜8の成膜方法に従って成膜し、(111)配向性のみを有するサンプル1〜3、7、8、10〜17については、上記した上層保護膜8bの成膜方法とほぼ同様の方法で成膜した(確認)。さらに、(100)配向性のみを有するサンプル9については、上記した上層保護膜8aの成膜方法とほぼ同様の方法で成膜した。
Figure 2011238382
Figure 2011238382

表1、2においては、CeOを主体とする保護膜8中のSr量を表す方法として、Sr/(Sr+Ce)×100で表される原子数の割合(以下、XSrと表記)を用いた。なお、このXSrの単位は、数値はそのままで(%)または(mol%)のいずれでも表記することができるが、便宜上、以下では(mol%)で表す。なおサンプル18は、最も基本的な従来構成のPDPにおける保護膜である、EB蒸着にて成膜した酸化マグネシウム(MgO)からなる保護膜である。
[試験1]膜物性評価(結晶構造解析)
上記した各サンプルの結晶構造を調べるために、θ/2θX線回折測定を行った。
その結果、XSrが1.6〜49.4mol%の範囲では、CeOのホタル石構造が保持されていることが確認された。
また、XSrが54.9mol%(サンプル12)の保護膜では、X線回折測定の結果、ピークが確認できないことがわかった。このピークが確認できないことに基づくと、当該サンプルの構造は非晶質(アモルファス)であると考えられる。これは、XSrの増加に伴って結晶構造がホタル石構造からNaCl構造に変遷するのであるが、サンプル12におけるXSrの値:54.9を含む一定の濃度範囲では、どちらの結晶構造も取ることができず結晶性が崩れ、その結果、アモルファスとなったものと推測される。
一方、XSrが98mol%程度に達し、多量のSrが含有されている保護膜(サンプル15)では、Sr(OH)のピークが検出された。これは、成膜直後はSrOであった保護膜が、測定までもしくは測定中に大気に曝されることにより、水酸化が進んでしまったためと考えられる。このように、XSrが98mol%程度以上になると水酸化による劣化層が形成され、保護膜の表面安定性が極めて悪くなることが分かった。
ここで、X線回折の結果からそれぞれの結晶構造の格子定数を求め、格子定数へのXSr依存性を調べた。その結果を図7に示す。
図7に示す結果から、XSrが0mol%〜30mol%程度の領域における保護膜は、CeOの結晶構造を有しており、XSrの増加に比例して格子定数が上昇することが分かった。これは、少なくともXSrが30mol%以下の範囲においては、CeOにSrが固溶するということを示している。また、格子定数の増大についてもSrのイオン半径がCeのイオン半径より大きいことを考えれば説明ができる。
一方、XSrが60mol%〜100mol%の領域における保護膜は、SrOの結晶構造を有することが分かった。そして、XSrが50mol%〜60mol%の領域における保護膜は、いずれの結晶構造も取らないアモルファスの領域が存在する。
これらの結果より、結晶構造がホタル石構造を取るためには、XSrが49.4mol%よりも小さい値であることが必要であることが分かる。
[試験2] 放電特性評価
(放電電圧について)
上記した各サンプルの作動電圧の特性を調べるために、各々のサンプルと、放電ガスとしてXe分圧が15%のXe−Ne混合ガスを用いたPDPを作製し、放電維持電圧の測定を行った。
図8は上記条件で測定を行った膜中のXSrに対する放電維持電圧の挙動をプロットしたものである。
図8及び表1、2に示すように、XSrを11.8mol%以上49.4mol%以下に設定すると、もともと175V程度であった放電維持電圧がさらに160V程度以下にまで下がるため、低電力駆動化が促進されることが分かった。
このような結果が得られた理由として、適量のSrを添加することで、保護膜の禁制帯中にSr由来の不純物準位が形成されるとともに、価電子帯の位置が押し上げられ、その結果、保護膜の二次電子放出特性が向上し、放電電圧の低減に寄与できたためと考えられる。
なお、XSrが49.4mol%を超えると、逆に放電電圧が上昇することが確認できる。これは、相状態がSrOを主体する構成になってしまい、前述したようにパネル作製プロセスで保護膜に不要なSr(OH)が形成されるなどの汚染が発生してしまうためであると考えられる。
以上の結果から、保護膜に含有させるSr量は、多すぎても望ましくなく、適度な濃度範囲とすることが必要であることが分かる。
(エージング挙動について)
次に、図9及び表1、2に各々のサンプルを用いたPDPのエージング時間のXSr依存性を示す。ここで言う「エージング時間」とは、エージング工程を実施開始後、放電電圧が飽和するまでの時間であって、電圧が落ち込むボトム電圧よりも5%高い電圧に達するまでの時間を指す。
図9、表1、2から、XSrがサンプル1〜7に相当する範囲(11.8mol%以上49.4mol%以下)では、XSrが8.4mol%以下の場合に比べ、エージング時間が大幅に短縮できていることが分る。
これは、通常のCeOでは禁制帯に存在する電子準位からの電子放出が支配的であり、この電子放出が安定するまでの時間が長くかかるのに対して、SrをXSrが11.8mol%以上49.4mol%以下の範囲で適切に添加すると、上端の位置が上昇した価電子帯からの安定な電子放出が支配的になるため、その分、エージングの時間が早まったものと考えられる。
以上の結果から、エージング時間の観点においても、CeOに対して添加するSrの濃度はXSrが11.8mol%以上49.4mol%以下とすることが好ましいことが分かった。
(耐スパッタ性評価)
前述したように、保護膜が放電ガスのイオンでスパッタされると放電電圧の上昇を招くため、保護膜に耐スパッタ性があることが重要である。
そこで、(100)配向を有する下層保護膜を被覆するように(111)配向を有する上層保護膜を配設してなる保護膜を備えるサンプル4〜6と、(111)配向を有する保護膜のみを備えるサンプル8、(100)配向を有する保護膜のみを備えるサンプル9のそれぞれについて、希ガスイオンに対する耐スパッタ性を比較した。
各サンプルを一部カプトンテープにてマスクし、Commonwealth Scientific Corporation製のイオンミリング装置にて、加速電圧を600V、ガス圧を2.7×10−2(Pa)に設定し、NeガスおよびXeガスにて5minエッチングさせた。その後、接触式段差計(デックタック)にて掘れ量を測定した。
その結果、(111)配向を有する保護膜を持つサンプル6に対し、少なくとも(100)配向を含む保護膜を持つサンプル4の掘れ量は、Neイオンに対しては30%程度少なく、Xeイオンに対しては54%程度も少ないことが分った。
また(111)配向を有する膜の下に(100)配向を有する膜を形成することで、保護膜自体のNeイオンやXeイオンに対する耐スパッタ性が向上することが分った。
これによりCeOに所定量のSrを添加してなるホタル石構造の結晶構造を持つ保護膜では、(100)配向を有する膜を配設することで、上層の(111)配向を有する膜の耐スパッタ性、すなわち保護膜全体の耐スパッタ性(耐久性)が向上し、保護膜自体の特性を長期にわたり安定させることができると言える。
さらに、本願発明者らが行った別の試験によれば、サンプル4〜6の(100)配向を有する膜の上に(111)配向を有する膜を積層してなる保護膜を持つPDPの輝度は、サンプル1〜3、7〜17の(111)配向を有する保護膜を持つPDPの輝度よりも高輝度であることを確認できた。
この理由を調べるため、放電後の各サンプルの保護膜表面の様子を調べた。その結果、サンプル4〜6の保護膜では、サンプル1〜3、7〜17の(111)配向を有する保護膜に比べ、放電のスパッタによる掘れ量が減少しており、且つ、掘れ領域が拡大していることを確認した。
この理由を考えると、主成分であるCeOに対し、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で添加され、結晶構造としてはCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持した保護膜であっても、(111)配向を有する場合には放電が局所的に発生し、掘れ量が増大する。これに対し、(100)配向を有する膜の上に(111)配向性を有する膜を積層して保護膜を形成すれば、(100)配向が有する局所放電の抑制効果が、(111)配向を有する上層保護膜の表面において発揮され、単層の(111)配向の保護膜に比べて相対的に放電領域が拡大されたため、掘れ量も減少できたものと考えられる。サンプル4〜6の保護膜では、上記のような放電領域の拡大効果と保護膜の掘れ量の抑制効果によって、保護膜が本来有している放電特性を保持することができ、結果として輝度を相対的に維持されたものと思われる。
以上の各試験結果から、本発明のPDPでは保護膜の組成及び結晶構造、並びに結晶配向性を適切に制御することで、放電空間(特に主放電領域近傍)の不純物が適切に吸着除去され、良好な二次電子放出特性及び電荷保持特性が発揮され、動作電圧(主として放電開始電圧と放電維持電圧)の低減による安定した低電力駆動が可能となる。また、エージング工程に係る時間を低減するともに、保護膜の耐スパッタ性を向上させることができる。これにより保護膜の良好な特性を長期にわたり安定して発揮させることができ、もって、良好な画像表示を低電力駆動で安定して実現可能なPDPを得ることができるものである。
<その他の事項>
上記試験に供したサンプル4〜6においては、(100)配向を有する保護膜を下層に、(111)配向を有する保護膜を上層に積層した。しかしながら、本発明の保護膜はこの構成に限定されず、いわゆる傾斜膜のように、下層保護膜、上層保護膜の表面を傾斜させてもよい。或いは、下層保護膜、上層保護膜の積層単位を繰り返した多層構造で保護膜を構成してもよい。
また、本発明のPDPの保護膜の上には、SrCeO、BeCeO、LaCeの少なくともいずれかの酸化物からなる微粒子を配設してもよい。このような微粒子を配設することで放電時に保護膜におけるスパッタの集中を防止し、保護膜ならびにPDP自体の長寿命化を図ることができるので望ましい。
本発明のPDPは、例えば高精細な動画を低電圧駆動により画像表示するガス放電パネルに適用することができる。その他、交通機関及び公共施設における情報表示装置、或いは家庭や職場等におけるテレビジョン装置又はコンピューターディスプレイ等への利用が可能である。
1 PDP
2 フロントパネル
3 フロントパネルガラス
4 維持電極
5 走査電極
6 表示電極対
7、12 誘電体層
8 保護膜
8a (100)配向を主とする下層保護膜
8b (111)配向を主とする上層保護膜
9 バックパネル
10 バックパネルガラス
11 データ(アドレス)電極
13 隔壁
14、14R、14G、14B 蛍光体層
15 放電空間

Claims (7)

  1. 複数の表示電極が配設された第一基板が、放電ガスが満たされている放電空間を介して、第二基板と対向した状態で封着されたプラズマディスプレイパネルであって、
    保護膜は第一基板表面側から、下層保護膜と上層保護膜を積層してなり、
    下層保護膜及び上層保護膜は、いずれもCeOを主成分としてなり、且つ、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で含まれ、
    上層保護膜は(111)配向であり、下層保護膜は(100)配向である
    プラズマディスプレイパネル。
  2. 下層保護膜及び上層保護膜は、いずれも結晶構造としてホタル石構造を有する
    請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  3. 放電ガスには分圧15%以上のXeが含まれている
    請求項1または2のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
  4. 第一基板表面に複数の表示電極を配置する工程と、前記第一基板の最上面に保護膜を形成する保護膜形成工程とを経てフロントパネルを形成し、
    第二基板表面に複数のデータ電極を配置する工程を経てバックパネルを形成し、
    フロントパネルとバックパネルとを、表示電極とデータ電極とが放電空間を挟んで交差し、前記保護膜が放電空間に臨むように対向配置させるプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
    保護膜形成工程では、下層保護膜形成工程及び上層保護膜形成工程を順次実施し、
    下層保護膜形成工程では、
    CeO粉末とアルカリ土類金属元素の炭酸化物である炭酸Sr粉末とを混合し、大気中で焼成して得た焼結体を、一旦溶解させ、これを冷却して凝固させたペレットを用いた真空プロセスによる薄膜法により、
    CeOを主成分としてなり、且つ、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で含まれ、(100)配向を有する下層保護膜を成膜し、
    上層保護膜形成工程では、
    CeO粉末とアルカリ土類金属元素の炭酸化物である炭酸Sr粉末とを混合し、大気中で焼成して得た焼結体であるペレットを用いた真空プロセスによる薄膜法により、
    CeOを主成分としてなり、且つ、Srが11.8mol%以上49.4mol%以下の濃度範囲で含まれ、(111)配向を有する上層保護膜を成膜する
    プラズマディスプレイパネルの製造方法。
  5. 下層保護膜形成工程及び上層保護膜形成工程では、それぞれ結晶構造としてCeOの結晶構造であるホタル石構造を保持する下層保護膜、上層保護膜を成膜する
    請求項4に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
  6. 前記真空プロセスとして、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかを用いる
    請求項4または5のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
  7. 下層保護膜形成工程では、
    前記焼結体の溶解を電子ビームの照射または減圧下での加熱により実施する
    請求項4〜6のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
JP2010106689A 2010-05-06 2010-05-06 プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法 Withdrawn JP2011238382A (ja)

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