以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態による燃料噴射弁1の概略を示す図であり、縦断面を示している。燃料噴射弁1は、燃料供給源としてのコモンレール(図示しない)に蓄圧された高圧燃料をディーゼル機関(図示しない)の燃焼室に噴射するコモンレール式燃料噴射システムに組み込まれているものである。
燃料噴射弁1は、ボディ2、電気駆動式制御弁23、ニードル弁36、ノズルシリンダ37、スプリング38などから構成されている。ボディ2は、金属材料より筒状に形成されている。ボディ2は、ハウジング3、バルブホルダ4、プレート5、コイルホルダ6、およびノズルボディ7などから構成されている。ボディ2を構成するこれらの部材3、4、5、6および7は、図1に示すように上方から下方に向けて積層され、外周に設けられるリテーナ8などの締結部材により互いに油密に固定される。なお、本実施形態では、燃料噴射弁1の上方を図1に図示する上向きの矢印が指し示す方向とし、燃料噴射弁1の下方を図1に図示する下向きの矢印が指し示す方向とする。
ハウジング3、バルブホルダ4、プレート5およびノズルボディ7は、強磁性体材料からなっている。本実施形態では、部材3、4、5および7は、機械的強度の比較的高い鉄系の金属材料からなっている。コイルホルダ6のみ、強磁性体材料よりも透磁率の低い非磁性材料または弱磁性材料からなっている。本実施形態では、コイルホルダ6はステンレス鋼からなっているが、コイルホルダ6は他の材料であっても良い。
ハウジング3の上方の端面には、コモンレールに連通する高圧燃料入口9および燃料タンク(図示せず)に連通する低圧燃料出口10が開口している。また、ノズルボディ7の下方の端面には、高圧燃料入口9から導入したコモンレール内の高圧燃料を燃焼室に向って噴射する噴孔11が形成されている。本実施形態では、四つの噴孔11が形成されている。
ボディ2は、ニードル収容部12、および高圧燃料通路13を有する。ニードル収容部12は、噴孔11と連通しており、ニードル弁36、ノズルシリンダ37およびスプリング38を収容する。高圧燃料通路13は、高圧燃料入口9とニードル収容部12とを連通する。
ボディ2は、高圧燃料通路13とは別に、分岐通路14を有する。分岐通路14は、高圧燃料通路13から分岐し、後述する制御室21に高圧燃料通路13内の高圧燃料を導入する。分岐通路14は、電気駆動式制御弁23の弁部材24を収容する弁室16を有する。また、ボディ2は、電気駆動式制御弁23の駆動部26を収容する収容部18および連通路19を有する。収容部18、連通路19および弁室16は同軸上に配置されている。さらに、ボディ2は、連通路19および収容部18と、低圧燃料出口10とを連通する低圧燃料通路20を有する。
高圧燃料通路13は、ハウジング3、バルブホルダ4、プレート5、コイルホルダ6のそれぞれを軸方向に貫くように形成されている。また、制御室21は、ニードル弁36にノズルシリンダ37およびスプリング38を組み付けたものをニードル収容部12に収容させることにより筒孔状に形成される。制御室21は、高圧燃料通路13と分岐通路14を介して通じており、高圧燃料通路13内の高圧燃料を導入することにより、噴孔11を閉塞する方向にニードル弁36を付勢する。
ニードル弁36は強磁性材料より円柱状に形成されている。ニードル弁36の下方の端面は、先端に向かうほど外径が小さくなるような円錐状に形成されている。この円錐状の部分には、弁座22に着座する当接部36aが形成されている。弁座22は、ニードル収容部12の壁面において、噴孔11よりも上方に形成されている。また、当接部36aとは反対側の端部、つまりニードル弁36の上方の端部における外周壁には、摺動部36bが形成されている。摺動部36bには、円筒状に形成されたノズルシリンダ37が挿入される。ノズルシリンダ37は摺動部36bに接しながら軸方向に移動可能である。当接部36aと摺動部36bとの間には、スプリング座36cが形成されている。スプリング38はノズルシリンダ37の下端面とスプリング座36cとの間に配置され、ノズルシリンダ37に対して上方への付勢力を付与する。
コイルホルダ6の下端面にノズルシリンダ37の上端面を当接させ、当接部36aを弁座22に当接させるように、ニードル弁36、ノズルシリンダ37、およびスプリング38をニードル収容部12に収容することにより、ノズルシリンダ37の内周壁、ニードル弁36の上端面、およびコイルホルダ6の下端面にて制御室21が形成される。本実施形態では、コイルホルダ6の下端面のうち、制御室21を形成する部分に、下方に向って開口する凹部6aが形成されている。
ニードル弁36は、制御室21内の燃料圧力とニードル収容部12内の燃料圧力との圧力差に応じてニードル収容部12内を上下方向に往復動する。ニードル弁36の上端面には制御室21内の燃料圧力が作用し、円錐状の部分にはニードル収容部12内の燃料圧力が作用する。ニードル弁36には、制御室21内の燃料圧力が上端面に作用することにより発生する下向きの力(閉弁方向の力)と、ニードル収容部12内の燃料圧力が円錐状部分に作用することにより発生する上向きの力(開弁方向の力)と、ニードル弁36を下向きに付勢するスプリング38の付勢力に応じた推力が発生する。
制御室21およびニードル収容部12内の燃料圧力が同じである場合、ニードル弁36には下向きの推力が発生する。このため、当接部36aが弁座22に着座する状態が維持される。この状態から、制御室21内の燃料圧力が減少すると、ニードル弁36に作用する下向きの力が減少する。下向きの力が上向きの力よりも小さくなると、ニードル弁36に上向きの推力が発生する。これにより、当接部36aは弁座22から離座し、ニードル収容部12内の燃料が噴孔11に供給され、噴孔11から燃料が噴射される。ニードル弁36は、上端面の外周縁がコイルホルダ6の凹部6aの周りの部分に突き当たるまで上方に移動する。
さらに、制御室21内の燃料圧力が回復すると、ニードル弁36に作用する下向きの力も回復する。そして、下向きの力が上向きの力よりも大きくなると、ニードル弁36に下向きの推力が発生する。これにより、当接部36aが再び弁座22に着座する。このため、噴孔11への燃料の供給が断たれ、噴孔11からの燃料噴射が停止する。
分岐通路14は、バルブホルダ4、プレート5およびコイルホルダ6に形成されている。分岐通路14は、分岐部15、弁室16および連通部17から構成されている。分岐部15は、プレート5の下端面に形成され、高圧燃料通路13と連通している環状溝と、環状溝の底部と弁室16とを連通するようにプレート5を貫通する通路とから構成されている。
弁室16は、下方に向って開口するようにバルブホルダ4の下端面に形成されている凹部4a、およびプレート5の上端面にて形成されている。プレート5の上端面のうち、弁室16を形成する部分、つまり弁室16の下端面には、分岐部15の上端が開口している。連通部17は弁室16と制御室21とを連通する。連通部17の上端は、弁室16の下端面に開口し、連通部17の下端は、凹部4aの底部に開口している。連通部17は、プレート5およびコイルホルダ6のそれぞれを軸方向に貫くように形成されている。弁室16の上端面には、連通路19が開口している。
弁室16の下端面には、連通部17の開口部の周囲に下方弁座が形成され、上端面には、連通路19の開口部の周囲に上方弁座が形成されている。両弁座は、同軸上に配置されるように形成されている。
弁室16には、上下方向に往復動する弁部材24および弁部材24を上方に付勢するスプリング25が収容されている。弁部材24の下端面には、下方弁座に着座する下方当接部が形成され、上端面には、上方弁座に着座する上方当接部が形成されている。
下方当接部が下方弁座に着座しているときは、上方当接部は上方弁座より離座する。このとき、弁室16と高圧燃料通路13との連通が遮断し、弁室16と低圧燃料通路20とが連通する。これにより、制御室21内の燃料が連通部17、弁室16、連通路19、低圧燃料通路20を経由して、低圧燃料出口10より燃料噴射弁1の外部に放出される。
下方当接部が下方弁座より離座しているときは、上方当接部は上方弁座に着座する。このとき、弁室16と高圧燃料通路13とが連通し、弁室16と低圧燃料通路20との連通が遮断する。これにより、高圧燃料通路13内の燃料が分岐通路14を経由して制御室21に流入する。
低圧燃料通路20は、ハウジング3およびバルブホルダ4に形成されている。収容部18は、ハウジング3の下端面に開口するように凹状にハウジング3に形成されている。
駆動部26は、通電することにより弁部材24を上下方向に往復動させるアクチュエータである。駆動部26は、ピエゾスタック27および駆動力伝達部28から構成されている。
ピエゾスタック27は、例えば、PZTなどの圧電セラミック層と電極層とを交互に積層したコンデンサ構造を有する一般的なもので、充放電されることにより、図1の上下方向に伸縮する。本実施形態では、充電されることにより、ピエゾスタック27は伸長し、放電されることにより収縮する。ピエゾスタック27は収容部18の上方に配置されている。
駆動力伝達部28は、ピエゾスタック27が伸縮する際の変位を弁部材24に伝達するものである。駆動力伝達部28は、ピエゾピストン29、油圧ピストン30、油圧シリンダ31、第一スプリング32、第二スプリング33、およびバルブニードル34から構成されている。
ピエゾピストン29および油圧ピストン30は、内部を上下方向に移動可能に油圧シリンダ31に挿入されている。油圧シリンダ31の下端面は、バルブホルダ4の上端面に当接している。ピエゾピストン29はピエゾスタック27の下側に配置されており、第一スプリング32にて常にピエゾスタック27に押し付けられている。ピエゾピストン29と油圧ピストン30との間には、両ピストン29、30、シリンダ31の内周壁によって、油密室35が形成されている。油密室35内には、両ピストン29、30を上下方向に引き離すような付勢力を付与する第二スプリング33が収容されている。油圧ピストン30の下端には、油圧ピストン30と弁部材24とを連接するバルブニードル34が設けられている。
ピエゾスタック27が充電され、ピエゾピストン29が下方に移動すると、油密室35内の燃料圧力が上昇する。そして、その上昇した燃料圧力が油圧ピストン30に作用する。油圧ピストン30は、上昇した燃料圧力を受けて下方に移動する。この油圧ピストン30の下方への移動により、バルブニードル34が下方へ移動する。このバルブニードル34と連動して、弁部材24も下方に移動する。このようにして、ピエゾスタック27の変位が弁部材24に伝達される。再び、ピエゾスタック27が放電されると、第一スプリング32の付勢力と、弁室16に導入される高圧燃料通路13内の高圧燃料の燃料圧力が弁部材24に作用することにより発生する上方に向う推力により、ピエゾピストン29および油圧ピストン30が上方に移動する。これら両ピストン29、30の上方への移動に伴い弁部材24も上方に移動する。
ニードル弁36の上端面には磁石40がニードル弁36と同軸上に設けられている。磁石40は当該上端面に形成された凹部に一部が差し込まれるようにして設けられている。ニードル弁36と磁石40は接着剤にて固定されている。このため、磁石40は、ニードル弁36の往復動と連動して、上下方向に往復動する。
磁石40は、磁極がニードル弁36の軸線上に位置するように制御室21に配置される。磁石40は、一方の磁極より他方の磁極に向って磁力線を発している。なお、本実施形態の磁石40は、ネオジウム磁石よりなっている。ネオジム磁石は、ネオジウム、鉄、ホウ素などを微粉末にし、これらの原料を焼き固めることで製造される焼結磁石の一種である。
磁石40の外径は、コイルホルダ6の凹部6aの内径よりも小さい。噴孔11が閉弁されている状態において、磁石40の上端部は、凹部6a内に収容されている。また、磁石40は、ニードル弁36が最も上方に移動し、全開位置に達したとき、凹部6aの底部に接触しないようになっている。このときに凹部6aの底部に磁石40が接触しないため、連通部17は磁石40により塞がれない。
図1に示すように、コイルホルダ6には、コイル41が設けられている。コイル41は、磁石40の往復動方向に制御室21と同軸上に配置されている。磁石40がニードル弁36と連動して、上下方向に移動することにより内周側を通過する鎖交磁束数が変化し、その磁束数の変化に応じたコイル41に起電力(電圧)が発生する。
コイル41は、樹脂などの材料より円筒状に形成されたボビン42と、ボビン42の軸線を囲むようにボビン42に巻かれた線材43から構成されている。コイル41は、制御室21に対して、磁石40の往復動方向に同軸上に並んで配置されている。コイル41は、磁石40の上方に、かつ磁石40が発する磁力線がコイル41の内周側を通過する位置に配置されている。
また、ニードル弁36が上方に移動し、上端面がコイルホルダ6の下端面に当接したとき、磁石40の上端側の磁極がコイル41の下方の端面、つまり磁石40側端面よりも下方に位置するように、コイル41はコイルホルダ6に収容されている。つまり、コイル41は、磁石40が最接近したとき、磁石40の上端側の磁極がコイル41の内周側に突入しない位置に収容されている。
ボビン42の内径は、制御室21における磁石40の移動方向と交差する方向の内径よりも大きく、内周側に高圧燃料通路13および分岐通路14の連通部17を配置させることが可能となる大きさに設定されている。コイルホルダ6の径方向外側の壁面には、中心軸に向かって凹む凹部6bが設けられている。この凹部6bにコイル41が収容される。
コイル41は、コイル41と制御室21との間の隔壁(コイルホルダ6の一部)の肉厚が、制御室21の形状を維持するために制御室21が必要とする肉厚以上となる位置に収容されている。このように、コイル41はコイルホルダ6に収容されているので、制御室21に高圧燃料通路13、分岐通路14を通じて、コモンレールに蓄圧された高圧燃料が導入されても、制御室21の形状を維持することができる。
本実施形態の燃料噴射弁1では、ボディ2の中心軸付近に電気駆動式制御弁23、ニードル弁36、ニードル収容部12などが配置されているため、高圧燃料通路13はボディ2の外周壁に近い部分に形成されている。本実施形態では、コイル41の内周側に高圧燃料通路13を配置させるような構成を採用しているため、高圧燃料通路13は、図1に示すようにコイルホルダ6部分にてコイル41を避けるように形成されている。この部分における高圧燃料通路13は、ボディ2の軸線に対して傾斜している。
線材43の両端は、電気配線を通じて燃料噴射弁1の外部に設けられている処理回路50と電気的に接続されている。この処理回路50は、コイル41に発生した電圧を検出し、ニードル弁36の移動量に応じた電圧を出力する。処理回路50は、制御装置66に接続されている。
制御装置66は、ディーゼル機関の各種制御を行う制御回路が設けられている。制御回路は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されていたプログラムにしたがって各種演算などの処理を実行する。制御装置66には、上述の処理回路50からのニードル弁36の動作に係る電圧、空気流量センサからの検出信号、エンジン冷却水温度センサからの検出信号、エンジン回転速度センサからの検出信号などのディーゼル機関の運転状態に係る検出信号やアクセル開度センサからの検出信号などのユーザーの要求に係る検出信号が入力される。制御装置66は、その時々の状況に応じた最適な態様でディーゼル機関の運転が可能となるように、入力される各種信号に基づき、ディーゼル機関に係る各種アクチュエータに指令信号を生成し、各種アクチュエータを制御する。
本実施形態では、制御装置66が燃料噴射弁1のニードル弁36の動作を制御する例のみを示している。制御装置66は、ニードル弁36の動作精度を高めるべく、処理回路50からのニードル弁36の移動量に関する電圧に基づき、電気駆動式制御弁23に出力する指令信号を補正する。このように、ニードル弁36の動作に応じて、指令信号を補正するので、ニードル弁36の動作精度が向上する。これにより、燃料噴射量や燃料噴射のタイミングの精度が向上する。
次に、処理回路50について詳細に説明する。図2は、本実施形態で使用する処理回路50の回路図である。処理回路50は、増幅回路51、積分回路55、フィルタ回路58、コイル電圧検出回路59、オフセット調整回路61および補正回路63から構成されている。
増幅回路51は、反転増幅器52、サンプルホールド回路53およびバッファー回路54から構成されている。これらの要素52、53、54は、この順序で直列に接続されており、バッファー回路54から出力される電圧が後述する補正回路63に入力される。反転増幅器52はオペアンプA1を含んでなり、オペアンプA1の反転入力端子(マイナス端子)は、スイッチSWを介してコイル41のHi端子が接続されており、非反転入力端子(プラス端子)は、スイッチSWを介してコイル41のLo端子が接続されている。スイッチSWが第二位置に切替えられているとき、磁石40の動作に応じてコイル41に発生した電圧がそれぞれの端子に入力される。反転増幅器52は、反転入力端子および非反転入力端子に入力されるコイル41に発生した電圧を所定の増幅率で反転し増幅した電圧を出力する。
反転増幅器52にて増幅された電圧は、サンプルホールド回路53に入力される。サンプルホールド回路53は、スイッチSWが第二位置から第一位置に切替えられるときの電圧をサンプリングし、そのサンプリングした電圧をスイッチSWが再び第二位置に切替えられるまで後段のバッファー回路54に出力し続ける。バッファー回路54は、オペアンプからなっており、前段の回路(増幅回路51)の影響を後段の回路(補正回路63)に与え難くする緩衝回路であって、反転増幅器52にて増幅された電圧をそのまま補正回路63に出力する。
積分回路55は、磁石40の動作に応じた電圧を生成する回路であり、補正回路63にて補正された電圧を積分する。積分回路55は、積分器56、とバッファー回路57とから構成されている。積分器56およびバッファー回路57は、直列に接続されており、バッファー回路57から出力される電圧がフィルタ回路58に入力される。積分器56は、オペアンプA2、抵抗R1、R2およびコンデンサC1を含んでなり、オペアンプA2の反転入力端子(マイナス端子)は、抵抗R1を介して補正回路63に接続され、補正回路63からの電圧が入力される。そして、オペアンプA2の非反転入力端子(プラス端子)は、グランド(GND)に接続されている。オペアンプA2の出力端子と反転入力端子との間には、抵抗R2とコンデンサC1とが並列接続されてなる回路が設けられている。
このように構成された積分器56では、オペアンプA2の反転入力端子に入力された電圧を積分した信号を出力する。積分器56から出力された電圧は、バッファー回路57に入力される。バッファー回路57は、オペアンプからなっており、増幅回路51のバッファー回路54と同じ役割を担う回路であって、積分器56から出力された電圧をそのままフィルタ回路58に出力する。
フィルタ回路58は、抵抗R3とコンデンサC2とが直列接続されてなる回路であって、コンデンサC2の両端から電圧を出力させる構成となっている。このフィルタ回路58はローパスフィルタであって、抵抗R3を介して入力される電圧に含まれるノイズを低減する回路である。このフィルタ回路58から出力される電圧は、制御装置66に入力される。
コイル電圧検出回路59は、磁石40の温度に相関する値(磁石温度相関値)を検出するための回路である。本実施形態では、コイル41に一定電圧を印加することにより得られるコイル41の電圧降下に応じた電圧をコイル電圧検出回路59にて検出し、その検出した電圧を上記磁石40の温度に相関する値としている。この検出回路59にて検出された電圧は補正回路63に出力される。コイル電圧検出回路59は、ツェナーダイオードD1、スイッチSW、切替器59a、コイル41、抵抗R4、オペアンプA3およびサンプルホールド回路60から構成されている。
コイル41と抵抗R4とを直列接続してなる回路は、ツェナーダイオードD1にて定電圧化された一定電圧を分圧してコイル41と抵抗R4との間より出力する。この回路から出力された電圧は、コイル41の電圧降下に応じた電圧であり、オペアンプA3の反転入力端子(マイナス端子)に入力される。オペアンプA3の非反転入力端子(プラス端子)は、グランド(GND)に接続されている。オペアンプA3は、反転増幅機能を有しており、反転入力端子に入力された電圧を反転し、その反転した信号をサンプルホールド回路60に入力させる。
コイル41のHi端子と処理回路50との間、およびコイル41のLo端子と処理回路50との間には、それぞれスイッチSWが設けられている。これらのスイッチSWは、第一位置に切替えられることにより、コイル電圧検出回路59とコイル41とを電気的に接続するとともに、増幅回路51とコイル41とを電気的に切り離し、第二位置に切替えられることにより、コイル電圧検出回路59とコイル41とを電気的に切り離すとともに、増幅回路51とコイル41とを電気的に接続するように構成されている。
これらのスイッチSWが第一位置に切替えられると、電源Bとコイル41のHi端子とが接続され、抵抗R4とコイル41のLo端子とが接続される状態となる。そして、これらのスイッチSWが第二位置に切替えられると、オペアンプA3の反転入力端子とコイル41のHi端子とが接続され、オペアンプA3の非反転入力端子とコイル41のLo端子とが接続される状態となる。これらのスイッチSWは、切替器59aにより切替えられる。切替器59aは、制御装置66と接続されており、制御装置66からの指示に基づいてスイッチSWを切替える。
サンプルホールド回路60は、スイッチSWが第一位置から第二位置に切替えられるときの電圧をサンプリングし、サンプリングした信号をスイッチSWが再び第一位置に切替えられるまで補正回路63の調整部64aに出力し続ける。
コイル41は上述したようにディーゼル機関に搭載される燃料噴射弁1に設けられているため、ディーゼル機関からの熱の影響を受けやすい。すなわち、磁石40の温度が上昇すると、コイル41の温度もまた上昇することとなる。また、コイル41の抵抗値は、コイル41の温度に依存しており、コイル41の温度が上昇するとコイル41の抵抗値もまた上昇する。このため、一定電圧をコイル41および抵抗R4に印加したときのコイル41の電圧降下は温度が上昇すればするほど大きくなる。上述したように磁石40の温度はコイル41の温度に依存しているといえるので、上述したコイル41の電圧降下は磁石40の温度を反映したものとなる。このため、オペアンプA3の出力端子から出力されるコイル41の電圧降下に応じた電圧は、磁石40の温度に相関した値となっている。
オフセット調整回路61は、磁石40がボディ2に対して静止しているときに増幅回路51から補正回路63に入力される電圧としての基準電圧がゼロとなるように、電圧をオフセットさせる回路であり、抵抗R5〜R7、ツェナーダイオードD2、D3、コンデンサC3およびバッファー回路62から構成されている。
直列接続されてなる三つの抵抗R5〜R7を有する回路と、直列接続されてなる二つのツェナーダイオードD2、D3を有する回路とが並列に接続され、これらの回路の両端には、プラス側の電源電圧とマイナス側の電源電圧が印加されている。抵抗R6は可変抵抗であり、その中間点は、バッファー回路62としてのオペアンプA4の非反転入力端子に接続されている。オペアンプA4の非反転入力端子は、コンデンサC3を介してグランド(GND)にも接続されている。オペアンプA4の出力端子から出力される電圧は、補正回路63に入力される。増幅回路51から補正回路63に入力される基準電圧に、オフセット調整回路から出力される電圧が加算されたときにゼロとなるように、抵抗R6の抵抗値が調整される。
補正回路63は、増幅率を可変自在の第一反転増幅器64と、第二反転増幅器65とから構成されている。これらの反転増幅器64、65は直列接続されており、第一反転増幅器64には、増幅回路51、コイル電圧検出回路59およびオフセット調整回路61からの電圧が入力される。第一反転増幅器64は、設定された増幅率にて、入力される電圧を反転し、増幅する。第二反転増幅器65は、第一反転増幅器64から入力される電圧を反転し、増幅する。第二反転増幅器65の増幅率は予め定められた値となっている。
第一反転増幅器64は、オペアンプA5、抵抗R8、R9、帰還抵抗R10、抵抗R11、調整部64aから構成されている。オペアンプA5の反転入力端子(マイナス端子)には、増幅回路51のバッファー回路54から出力された電圧が、抵抗R8を介して入力されるとともに、オフセット調整回路61から出力される電圧が、抵抗R9を介して入力される。オペアンプA5の非反転入力端子(プラス端子)は、抵抗R11を介してグランド(GND)に接続されている。オペアンプA5の出力端子と反転入力端子との間の負帰還回路には、調整部64aにて抵抗値を制御される帰還抵抗R10が設けられている。調整部64aには、コイル電圧検出回路59から出力された電圧が入力される。調整部64aは、入力される電圧に基づき、帰還抵抗R10の抵抗値を調整する。帰還抵抗R10の抵抗値が調整されることにより、第一反転増幅器64の増幅率が調整される。
第一反転増幅器64にて反転され増幅された電圧は、第二反転増幅器65に入力される。第二反転増幅器65は、オペアンプA6、抵抗R12、R13および帰還抵抗R14から構成されている。オペアンプA6の反転入力端子(マイナス端子)には、第一反転増幅器64にて増幅された電圧が抵抗R12を介して入力される。オペアンプA6の非反転入力端子(プラス端子)は、抵抗R13を介してグランド(GND)に接続されている。そして、オペアンプA6の出力端子と反転入力端子との間には、帰還抵抗R14が設けられている。この帰還抵抗R14は、第一反転増幅器64の帰還抵抗R10と異なり、抵抗値が固定されている。第二反転増幅器65にて増幅された電圧は、積分回路55に入力される。
次に、上記構成を有する燃料噴射弁1の作動、および処理回路50の作動を図1、図2に加え図3、図4を参照しながら説明する。図3は、制御装置66からの指令信号、ニードル弁36の動作、コイル電圧検出回路59のスイッチSWの状態、コイル41に発生した電圧、コイル電圧検出回路59の電圧、増幅回路51の電圧を示すタイムチャートであり、図4は、補正回路63における第一反転増幅器64の電圧、第二反転増幅器65の電圧、フィルタ回路58の電圧を示すタイムチャートである。これら図3、図4のそれぞれに図示する前半部分(左側)の波形は、ディーゼル機関の温度が比較的低い状態のときの波形であり、後半部分(右側)の波形は、ディーゼル機関の温度が比較的高い状態のときの波形である。
ニードル弁36をリフトさせる制御装置66からの指令信号がピエゾスタック27に入力されるまでに、制御装置66は、時刻t1〜t2の間だけ、スイッチSWが第一位置となるようにスイッチSWを切替器59aに制御させる。切替器59aは、制御装置66から送られてくる上記指令信号に基づいて、ニードル弁36がボディ2に対して静止している期間を判断し、その判断に応じてスイッチSWは第二位置から第一位置に切替える。
図3に示すように、コイル電圧検出回路59のサンプルホールド回路60は、スイッチSWが第一位置に切替えられている状態のときのオペアンプA3から出力される電圧をサンプリングし、次にスイッチSWが第一位置に切替えられるまで、サンプリングした電圧を磁石40の温度相関値として第一反転増幅器64の調整部64aに向けて出力し続ける。サンプルホールド回路60は、スイッチSWが第二位置に切替えられ、第一反転増幅器64にニードル弁36が動作することによりコイル41に発生した電圧が入力され、第一反転増幅器64にて入力された当該電圧が増幅される際に、上記サンプリングされた電圧が調整部64aに入力されるようになっていれば良い。例えば、第一反転増幅器64が入力された電圧を増幅する際にだけ、サンプリングされた電圧を調整部64aに出力するようにサンプルホールド回路60を構成しても良い。
図1に示す状態から、ピエゾスタック27に制御装置66からの指令信号が入力され、充電されるとピエゾスタック27が変位(伸長)し、その変位がピエゾピストン29から油密室35内の燃料を介して油圧ピストン30に伝達される(図3中の時刻3を参照)。油圧ピストン30に伝達された変位は、バルブニードル34を介して弁部材24に伝達される。これにより、弁部材24は下方に移動し、下方当接部が下方弁座に着座する。すると、制御室21内の高圧燃料が、連通部17、弁室16、連通路19、低圧燃料通路20を介して低圧燃料出口10より外部に放出され、制御室21内の燃料圧力が低下する。これに伴い、ニードル弁36に発生する下向きの力が低下する。当該下向きの力が低下し、上向きの力を下回ると、ニードル弁36が上方に移動し始める。これにより、ニードル弁36の当接部36aが弁座22より離座し、噴孔11より燃料が噴射される。
ニードル弁36が上方に移動するとともに、磁石40もコイル41に向って移動する。これにより、コイル41の内周側を通過する磁力線が多くなり、鎖交磁束数が増加する方向に変化する。このため、コイル41には、図3中の時刻t3〜t4に図示すように、当該鎖交磁束数の変化量に応じた電圧が発生する。この電圧は、ニードル弁36が最大リフト位置に達するまで発生する。この電圧は、ニードル弁36の移動速度に比例している。電圧の勾配は、ニードル弁36の加速度を表す。
ニードル弁36が最大リフト位置まで上昇してから所定時間が経過し、ピエゾスタック27への指令信号が停止すると、ピエゾスタック27の電荷が放出されて、ピエゾスタック27が収縮する(図3中の時刻t5〜t6)。このため、駆動力伝達部28を介して弁部材24に作用していた力が解除される。これにより、スプリング38の付勢力と分岐部15を介して弁室16に導入される高圧燃料の燃料圧力により、弁部材24が上方に移動する。すると、制御室21に高圧燃料通路13からの高圧燃料が再び導入され、制御室21内の燃料圧力が回復する。制御室21内の燃料圧力が回復すると、ニードル弁36に発生する下向きの力が回復する。当該下向きの力が上昇し、上向きの力を上回ると、ニードル弁36が下方に移動し始める。その後、当接部36aが弁座22に着座し、噴孔11からの燃料噴射が停止する。
図3中の時刻t5〜t6に示すように、ニードル弁36が上記最大リフト位置から噴孔11に向うと、開弁時とは反対向きの電圧が発生する。この電圧は、ニードル弁36が弁座22に着座する閉弁位置まで発生する。
ニードル弁36が非噴射位置から最大リフト位置まで移動し、再び非噴射位置まで移動するときに得られたコイル41の電圧は、スイッチSWを介して増幅回路51に入力される。増幅回路51では、図3に示すように、コイル41の電圧を反転して、増幅する。増幅された電圧は、補正回路63に入力される。このとき、スイッチSWは第二位置にあり、コイル電圧検出回路59のオペアンプA3からは電圧が出力されないが、補正回路63には、コイル電圧検出回路59のサンプルホールド回路60の作動により、この回路60にてサンプリングされた電圧が入力される。
コイル電圧検出回路59からの磁石40の温度に相関する電圧が調整部64aに入力されると、調整部64aは、その電圧に応じて第一反転増幅器64の帰還抵抗R10の抵抗値を調整する。これにより、第一反転増幅器64の増幅率が設定され、第一反転増幅器64に入力される反転増幅器52からの電圧をその増幅率で増幅する(図4中の時刻t7〜t10を参照)。第二反転増幅器65では、第一反転増幅器64にて増幅された電圧を更に反転し、増幅する(図4中の時刻t7〜t10)。第二反転増幅器65にて増幅された電圧は、積分回路55にて積分され、フィルタ回路58を介して処理回路50から出力される。フィルタ回路58から出力される電圧は、図4中の時刻t7〜t10に図示するように、ニードル弁36の動作に沿ったものとなる。制御装置66は、この信号に基づきニードル弁36の移動量などを算出し、ニードル弁36の動作を最適にすべく、ピエゾスタック27へ供給する電力の調整を行う。
ところが、磁石40およびコイル41は、既に説明したように燃料噴射弁1に内蔵されている。このため、これら磁石40およびコイル41は、ディーゼル機関から発せられる熱の影響を受けやすい。図5に図示するように、磁石40の温度が変化すると、磁束密度が変化する。例えば、磁石40としてネオジウム磁石を使用した場合、温度が1℃上昇するごとに、磁束密度が0.12%減少する。磁石40にフェライト磁石を使用した場合などは、温度が1℃上昇するごとに磁束密度が0.18%も減少する。すなわち、温度が上昇することにより、コイル41を鎖交する磁束数が減少してしまう。
これでは、例え磁石40がコイル41に対して同じように相対運動しても、コイル41にて発生した電圧が変化してしまう。具体的には、図3中のコイル出力および増幅回路出力の後半部分の波形に示すように、磁石40の温度が上昇すると、コイル41を鎖交する磁束数が減少するため、コイル41に発生する電圧が磁石40の温度の上昇に応じて低下する。なお、ここでいう電圧の低下とは、ニードル弁36がボディ2に対して静止しているときにコイル41に発生する電圧(基準電圧)と、ニードル弁36が動作しているときにコイル41に発生する電圧との差分が減少することをいう。
このため、第一反転増幅器64から出力される電圧も、磁石40の温度上昇に応じて低下する(図4中の第一反転増幅器出力の後半部分の一点鎖線で示す波形を参照)。よって、フィルタ回路58から出力される破線で示す電圧も低下し、検出されるニードル弁36のリフト量が本来のリフト量よりも少なくなってしまう。これでは、制御装置66は、ニードル弁36の動作を最適なものとすることができない。
これに対し、本実施形態では、磁石40の温度変化によって変化するコイル41に発生した電圧を、磁石40の温度に相関する値(コイル電圧検出回路59から出力される電圧)に基づいて補正する補正回路63を処理回路50に追加している。以下、この補正回路63の作動を中心に説明する。
本実施形態では、図3中の時刻t1〜t2と同じように、切替器59aは、図3中の時刻t11〜t12の間、スイッチSWを第一位置に切替える。ここでは、上述した状態からディーゼル機関の温度が上昇しているため、コイル電圧検出回路59から出力される電圧は、図3中の時刻t11〜t12に示すように前半部分の波形よりも上昇する。この電圧は、サンプルホールド回路60を介して補正回路63の調整部64aに入力される。
コイル電圧検出回路59からの電圧が調整部64aに入力されることにより、その電圧に応じて第一反転増幅器64の帰還抵抗R10の抵抗値が調整され、第一反転増幅器64の増幅率が変更される。本実施形態では、この増幅率は、磁石40の温度の上昇に応じて低下した電圧の低下分がコイル41に発生した電圧に加わえられるように設定される。
このように増幅率が設定された第一反転増幅器64によれば、図4の時刻t17〜t18および時刻t19〜t20において実線で示すように、増幅回路51からの電圧が補正される。このため、図4中の時刻t17〜t20において実線で図示するように、フィルタ回路58から出力される電圧を本来のニードル弁36の動作に応じたものとすることができる。以上、これまで説明してきたように、第一反転増幅器64の増幅率を磁石40の温度に相関して調整し、コイル41に発生した電圧を調整された増幅率で増幅することにより、磁石40の温度変化の影響を低減させた電圧を生成することができる。そして、本実施形態では、積分回路55はこの磁石40の温度変化の影響を低減させた電圧からニードル弁36の動作状態を検出しているので、この積分回路55にて得られるニードル弁36の動作状態は磁石40の温度変化の影響が低減された非常に精度の高いものとなる。
また、本実施形態では、上述したようにコイル41に発生した電圧を補正するのに、第一反転増幅器64と第一反転増幅器64の増幅率を調整する調整部64aとを用いている。このため、第一反転増幅器64の増幅率を磁石40の温度相関値であるコイル電圧検出回路59からの電圧によって上げるという簡単な操作で、磁石40の温度上昇に応じて低下した電圧の低下分を、ニードル弁36が動作することによりコイル41に発生した電圧に加えることができる。
加えて、本実施形態では、上述したように、磁石40の温度相関値として、一定電圧をコイル41に印加することにより得られるコイル41の電圧降下に応じた電圧を利用している。このことによれば、往復動する磁石40の温度を直接検出しなくとも、磁石40の温度に相関する値を得ることができる。
本実施形態では、コイル41に一定電圧を印加することにより得られる電圧を磁石40の温度相関値として利用しているが、無秩序に一定電圧をコイル41に印加すると、ニードル弁36の動作によりコイル41に発生した電圧に、コイル41に一定電圧を印加することにより得られるコイル41の電圧降下分の電圧が重畳してしまい、ニードル弁36の動作の検出精度が低下するおそれがある。
本実施形態では、このような問題を解消すべく、切替器59aは、少なくともニードル弁36が動作しているときは、スイッチSWを第二位置に切替え、ニードル弁36がボディ2に対して静止している期間の少なくとも一部で、スイッチSWを第一位置に切替えている。このことによれば、ニードル弁36の動作に応じてコイル41に発生する電圧と、磁石40の温度相関値として、一定電圧を印加することにより得られるコイル41の電圧降下に応じた電圧とを確実に分けることができる。よって、ニードル弁36の動作に応じてコイル41に発生する電圧に、上記コイル41の電圧降下分の電圧が重畳するのを抑制でき、ニードル弁36の動作状態の検出精度の低下を抑制することができる。
また、本実施形態の処理回路50は、上述したような切替器59aによって操作されるスイッチSWを備えているため、コイル41を磁石40の温度に相関する値を検出する素子として利用することが可能となる。このことによれば、磁石40の温度相関値を検出する素子を別途用意する必要がなくなるため、ニードル弁36の動作を検出する装置の構造が簡単となる。
本実施形態では、切替器59aはこの指令信号に基づいてニードル弁36の静止を判断し、その判断に基づいてスイッチSWを操作している。上述したように燃料噴射弁1は、制御装置66から出力される指令信号に基づいてニードル弁36が動作するように構成されている。したがって、指令信号の状態により、ニードル弁36が静止しているか動作しているかを推定することは可能である。本実施形態では、切替器59aは、この指令信号に基づきニードル弁36の静止期間を判断して、スイッチSWを操作しているので、確実に、ニードル弁36が静止しているときに、磁石40の温度に相関する値を得るべく、コイル41へ一定電圧を印加させることができる。
ところが、コイル41と処理回路50との間にスイッチSWが設けられていると、スイッチSWが第一位置から第二位置に切替わると、第一位置となっているときに得られていたコイル電圧検出回路59から出力される電圧が消滅する。これでは、スイッチSWが第二位置に切替えられ、その状態で得られていたコイル41に発生した電圧を第一反転増幅器64にて補正する際、調整部64aへのコイル電圧検出回路59からの電圧の入力が途絶えてしまう。このため、第一反転増幅器64の増幅率の調整が不能となり、磁石40の温度変化に基づいたコイル41に発生した電圧の補正が行えない。
そこで、本実施形態では、コイル電圧検出回路59にサンプルホールド回路60を設けている。この構成によれば、スイッチSWが第二位置に切替えられているときであっても第一位置で得られた電圧を調整部64aに出力し続けることができる。すなわち、このサンプルホールド回路60によれば、スイッチSWが第二位置に切替えられ、第一反転増幅器64にコイル41に発生した電圧が入力され、当該増幅器64がその電圧を補正すべく増幅する際に、サンプルホールド回路60にてサンプリングされた電圧が調整部64aに入力されるようになっている。このことによれば、スイッチSWが第二位置に切替り、コイル電圧検出回路59からコイル41の電圧降下に応じた電圧が出力されなくなる状態となっても、コイル41に発生した電圧を磁石40の温度に基づいて補正することができる。
なお、本実施形態では、コイル電圧検出回路59が特許請求の範囲に記載の磁石温度検出手段に相当し、第一反転増幅器64が特許請求の範囲に記載の補正手段に相当する。また、積分器56が特許請求の範囲に記載の動作状態検出手段に相当する。また、サンプルホールド回路60が特許請求の範囲に記載の出力回路に相当する。
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態の変形例である。第2実施形態では、第1実施形態のコイル電圧検出回路59に代えて、熱電対159を利用することにより磁石40の温度相関値を検出する。ここでは、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。したがって、ここで説明を省略した部分は、第1実施形態のものと同じ構成のものとする。
本実施形態の熱電対159では、アルメルとクロメルとが使用されている。熱電対159は、例えば、低圧燃料通路20内に設けられ、その通路20を流れる燃料の温度に応じた電圧を発生する。
図1に示すように、この通路20は、磁石40を収容する制御室21を経由した燃料が流れるようになっている。したがって、この通路20を流れる燃料の温度は、磁石40の温度と相関しているといえる。よって、熱電対159に発生する電圧は、磁石40の温度に相関する値といえる。熱電対159を使用することにより、比較的簡単に磁石40の温度に相関する値を検出することができる。
熱電対159に発生した電圧は、図6に示すように、第一反転増幅器64の調整部64aに入力される。調整部64aは、入力された電圧に基づいて、帰還抵抗R10の抵抗値を調整し、第一反転増幅器64の増幅率を調整する。これにより、増幅率を磁石40の温度変化に応じたものとすることができる。
熱電対159の設置位置は、低圧燃料通路20内に限らない。例えば、ボディ2の側面に設置しても良いし、コイル41を保持するコイルホルダ6であっても良い。熱電対159の設置位置は、磁石40に近ければ近いほど良い。そうすれば、磁石40の温度に相関する値の検出精度を高めることができる。
本実施形態では、第1実施形態とは異なり、コイル41を磁石40の温度に相関する値を検出するための素子として利用していない。したがって、スイッチSWやスイッチSWを操作する切替器59aが必要ない。このため、サンプルホールド回路53、60も必要なくなる。したがって、第1実施形態のものに比べ、処理回路50内の構成が簡単になる。なお、本実施形態では、熱電対159が特許請求の範囲に記載の磁石温度検出手段に相当する。
(第3実施形態)
第3実施形態は、第1、第2実施形態の変形例である。第3実施形態では、磁石40の温度に相関する値を検出する手段が第1、第2実施形態と全く異なっている。本実施形態では、コイル電圧検出回路59や熱電対159を使用せずに、ディーゼル機関の運転状態に基づいて磁石40の温度に相関する値を検出している。
具体的には、図7に示すように、制御装置66は、制御装置66に入力される各種センサ(例えば、エンジン冷却水温度センサ、エンジン回転速度センサなど)からの検出信号に基づき、磁石40の温度に相関する値を推定する。そして、制御装置66は、この推定した値に基づき、処理回路50内の調整部64aを制御して、帰還抵抗R10の抵抗値を調整部64aに調整させる。これによれば、磁石40の温度に相関する値を検出するための装置を燃料噴射弁1内に設ける必要がなくなるので、燃料噴射弁1の構造、およびニードル弁36の動作状態を検出するための構造が簡単となる。なお、本実施形態の場合、制御装置66が特許請求の範囲に記載の推定装置に相当することとなる。
(第4実施形態)
第4実施形態は、第1〜第3実施形態の変形例である。第1〜第3実施形態では、コイル41に発生した電圧を、オペアンプや抵抗素子などの電気素子にて信号処理することにより、補正していた。これに対し、第4実施形態では、制御装置66に内蔵されているマイクロコンピュータにてプログラムを実行することにより、コイル41に発生した電圧を演算処理して補正する。
図8は、本実施形態の燃料噴射弁の概略構成を示す。本実施形態では、第1〜第3実施形態とは異なり、制御装置66には、増幅回路51およびコイル電圧検出回路59を介してコイル41が接続されている。増幅回路51およびコイル電圧検出回路59は第1実施形態のものと同じであるため、ここでは詳細な説明は省略する。なお、コイル電圧検出回路59のスイッチSWは、第1実施形態で説明したような態様で切替え制御される。
制御装置66に入力される増幅回路51からの電圧およびコイル電圧検出回路59からの電圧は、内蔵されているA/D変換器(図示しない)にてデジタル信号に変換され、マイクロコンピュータに送られる。マイクロコンピュータでは、図9に示す演算フローにしたがい、コイル41に発生した電圧をコイル電圧検出回路59にて得られた電圧に基づいて補正し、ニードル弁36の動作状態を検出する。
この演算フローは、ディーゼル機関が始動すると開始する。ステップS10では、増幅回路51にて増幅されたコイル41に発生した電圧を検出する。そして、ステップS20では、コイル電圧検出回路59の電圧を検出する。
次に、ステップS30では、ステップS20にて検出したコイル電圧検出回路59の電圧に基づき、温度補正量を算出する。続いて、ステップS40では、ステップS30にて算出された温度補正量に基づいてステップS10にて検出した増幅されたコイル41に発生した電圧を補正する。このステップS40の処理を経ることにより、磁石40の温度変化の影響を低減させた値を得ることができる。
ステップS50では、このようにして磁石40の温度変化の影響を低減させた値に基づき、ニードル弁36の移動量(動作状態)を算出する。ニードル弁36の移動量は、例えば積分などの処理を実行することにより得られる。なお、本実施形態では、演算フローでのステップS40での処理が、特許請求の範囲に記載の補正手段に相当し、ステップS50での処理が、特許請求の範囲に記載の動作状態検出手段に相当する。
(その他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
例えば、第4実施形態では、磁石40の温度に相関する値をコイル電圧検出回路59を用いて検出しているが、これに代えて、第2実施形態のように熱電対159を利用しても良いし、第3実施形態のように制御装置66に入力される各種センサからの信号に基づき推定しても良い。
なお、磁石40は、アルミニウム、ニッケル、コバルトなどを原料として鋳造されたアルニコ磁石を使用しても良い。また、第1実施形態の燃料噴射弁1は、ディーゼル機関が備えるコモンレール式燃料噴射システムに適用したものであるが、ガソリン機関の燃料噴射システムに適用しても良い。
加えて、燃料噴射弁1に設けられている電気駆動式制御弁23はピエゾスタック27ではなく電磁コイルを利用するものであっても良い。