JP2011225983A - 溶接歪みの少ない鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】合金元素の添加によるコスト上昇、および強冷却による形状不良を生じさせることなく、溶接歪みの発生を低減できる鋼板を提供する。
【解決手段】溶接歪みの少ない鋼板は、C:0.03〜0.2%(質量%の意味。以下、同じ。)、Si:0.05〜0.40%、Mn:0.5〜1.80%、Al:0.005〜0.1%、N:0.001〜0.01%、P:0.001〜0.050%、S:0.001〜0.050%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、ミクロ組織が加工フェライトを25面積%以上含有し、残部組織がポリゴナルフェライトおよびパーライト、並びに合計で10面積%以下(0%を含む)のベイナイトおよび/またはマルテンサイトであることを特徴とする。
【選択図】図2

Description

本発明は、船舶、建築構造物、橋梁などに用いられる鋼板の溶接時に発生する溶接歪みが少ない鋼板に関するものである。
船舶、建築構造物、橋梁などにおける鋼板を溶接する際、板厚が例えば10mm以上の厚い領域においては、板厚方向の温度差に起因して、板厚方向に不均一な横収縮変形が発生し、角変形と呼ばれる溶接歪みが起こる。このような溶接歪みが、例えば船舶等の外板に生じると、外板が内側に歪んだ状態(船舶の分野では一般に「やせ馬」と呼ばれる)となり特に外観上好ましくない。
溶接歪みとは、そもそも塑性変形により生じるものであり、塑性変形には可動転位の移動を伴う必要があるため、従来から可動転位の移動を妨げるための障害物を導入することによって溶接歪みを抑制するという方法が提案されており、前記障害物としては、例えば固溶元素、析出物(炭化物等)、ベイナイトやマルテンサイトなどの高転位密度組織、または結晶粒界などが挙げられる。
鋼板の溶接歪みを低減する技術として、例えば特許文献1、2が挙げられる。特許文献1、2ではいずれも、ベイナイト組織やマルテンサイト組織といった高転位密度組織を導入すると共に組織を微細化することによって結晶粒界を増加させ、さらにNb、Mo、V、W、Taの元素の固溶量を確保することによって溶接歪みを低減することが提案されている。
しかし、固溶元素を確保したり、析出物を形成させたりする方法では合金元素の添加により鋼材のコストの上昇を招くという問題がある。また、ベイナイト組織やマルテンサイト組織を導入する方法では、強冷却するかまたは焼入れ性を高める合金元素を添加することが必要になり、強冷却する場合には冷却後に形状不良という不具合が生じ、また合金元素を多量に添加する場合には鋼材コストが上昇するため好ましくない。
特開2006−2211号公報 特開2006−2198号公報
本発明は、合金元素の添加によるコスト上昇、および強冷却による形状不良を生じさせることなく、溶接歪みの発生を低減できる鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を達成し得た本発明に係る溶接歪みの少ない鋼板は、C:0.03〜0.2%(質量%の意味。以下、同じ。)、Si:0.05〜0.40%、Mn:0.5〜1.80%、Al:0.005〜0.1%、N:0.001〜0.01%、P:0.001〜0.050%、S:0.001〜0.050%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、ミクロ組織が加工フェライトを25面積%以上含有し、残部組織がポリゴナルフェライトおよびパーライト、並びに合計で10面積%以下(0%を含む)のベイナイトおよび/またはマルテンサイトであることを特徴とするものである。
本発明の鋼板は、下記式(1)で表されるAr3点が760℃以上、840℃未満であることが好ましい。
Ar3点(℃)=910−310×[C]−80×[Mn]−20×[Cu]−15×[Cr]−55×[Ni]−80×[Mo] ・・・(1)
(式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。)
本発明の鋼板は、必要に応じて(a)Nb:0.05%以下(0%を含まない)および/またはTi:0.050%以下(0%を含まない)、(b)Mo:0.50%以下(0%を含まない)、(c)Cr:0.50%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、およびNi:0.50%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、(d)V:0.100%以下(0%を含まない)および/またはB:0.0030%以下(0%を含まない)を含有することも好ましい。
本発明によれば、ミクロ組織が加工フェライトを25面積%以上含有しているため、溶接歪みが低減された鋼板が提供できる。
図1(a)はマルテンサイト組織のTEM観察像であり、図1(b)は加工フェライト組織のTEM観察像である。 図2は、後記する実施例の鋼種aについて、加工フェライト面積率と角変形量θの関係を示したグラフである。 図3は、後記する実施例(No.2およびNo.11)について、組織同定の手順を示した図である。 図4は、後記する実施例において角変形量を測定する際の試験片形状と、角変形量の計測の要領を示した図である。
本発明者らが検討した結果、溶接歪みの原因となる転位の移動を妨げる障害物として、フェライトを低温圧延することによって得られる加工フェライトを所定以上確保すれば溶接歪みを低減できるとともに、残部組織をポリゴナルフェライトおよびパーライト主体の組織とすれば、合金元素の添加によるコスト上昇および強冷却による形状不良を発生させることがないことを見出し、本発明を完成した。
図2は、後記する実施例の鋼種aを用いて、加工フェライトの面積率と、角変形の程度を表す角変形量θの関係を示したグラフである。図2によれば加工フェライトを所定以上確保することによって角変形量を著しく低下できることが分かる。
加工フェライトとは、オーステナイトから変態したフェライトを圧延することにより生成した、高密度の転位が導入されたフェライト組織である。図1にマルテンサイト組織および加工フェライト組織のTEM観察像を示す。図1(a)に示すように、マルテンサイト組織中の転位はラス状で均一に分布している。一方、図1(b)に示す加工フェライト中の転位は互いに絡み合ったセル状となっている。マルテンサイト組織中の転位は、均一に分布しているため移動しやすいが、加工フェライト中の転位は、互いに絡み合っているため移動しにくく、加工フェライトの方が塑性変形を進行させる転位の移動を妨げる障害物としての効果がより高いと考えられる。また、組織を微細化させて結晶粒界を増加させ、結晶粒界を障害物として作用させる方法において、例えば厚鋼板におけるフェライト組織の微細化では、結晶粒界の間隔はせいぜい数μm程度である。一方、加工フェライトにおけるセル状転位同士の間隔は10-1μmのオーダーであり高密度であるため、組織を微細化させる技術と比較しても、前記障害物としての効果は高いと考えられる。このような加工フェライトの効果を有効に発揮させるため、全組織中の加工フェライトの割合は25面積%以上と定めた。加工フェライトの割合の下限は、好ましくは30面積%以上であり、より好ましくは35面積%以上である。一方、加工フェライトの割合が多くなりすぎると、伸びの低下を招くこととなる。従って、加工フェライトの割合の上限は、80面積%以下が好ましく、より好ましくは75面積%以下であり、さらに好ましくは70面積%以下である。
本発明の組織において、加工フェライト組織以外の残部組織はポリゴナルフェライトおよびパーライトとする。残部組織をポリゴナルフェライトおよびパーライトとすれば、合金元素を過剰に添加する必要がないため鋼材のコストの上昇を招くことがなく、また圧延後の冷却を空冷等の冷却速度の遅い冷却(例えば10℃/秒以下)とすることができるため、強冷却による冷却後の形状不良という不具合を起こすこともない。残部のポリゴナルフェライトおよびパーライトの割合は、合計で20面積%以上とすることが好ましく、より好ましくは25面積%以上、さらに好ましくは30面積%以上である。一方、ポリゴナルフェライトおよびパーライトの割合が過剰になると、溶接歪みを抑制する効果のある加工フェライトを確保することができないため、合計で75面積%以下であることが好ましく、より好ましくは70面積%以下であり、さらに好ましくは65面積%以下である。
ポリゴナルフェライトの面積率は17面積%以上が好ましく、より好ましくは22面積%以上、さらに好ましくは27面積%以上である。一方、ポリゴナルフェライトの面積率の上限は、72面積%以下が好ましく、より好ましくは66面積%以下、さらに好ましくは60面積%以下である。
パーライトの面積率は3面積%以上が好ましく、より好ましくは4面積%以上であり、さらに好ましくは5面積%以上である。一方、パーライトの面積率の上限は、20面積%以下が好ましく、より好ましくは17面積%以下であり、さらに好ましくは15面積%以下である。
上述の通り、加工フェライト組織以外の残部組織はポリゴナルフェライトおよびパーライトであるが、これら組織の他、不可避的に形成されるベイナイト、マルテンサイトを本発明の作用効果を阻害しない範囲で含有することは許容される。不可避的に形成される組織の割合の合計は、好ましくは10面積%以下であり、より好ましくは8面積%以下であり、さらに好ましくは7面積%以下である。
次に、本発明の鋼板の化学成分を以下に説明する。
C:0.03〜0.2%
Cは、鋼板の強度を確保するために重要な元素であるため0.03%以上とする。C量は好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.08%以上である。一方、C量が過剰になると靭性が低下するため、0.2%以下とする。C量は好ましくは0.18%以下であり、より好ましくは0.16%以下である。
Si:0.05〜0.40%
Siは、脱酸元素であるとともに、固溶強化により強度を向上させる作用を有する。そこでSi量は0.05%以上と定めた。Si量は好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上である、一方、Si量が過剰になると溶接性が低下する。そこでSi量を0.40%以下と定めた。Si量は好ましくは0.35%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。
Mn:0.5〜1.80%
Mnは、鋼板の焼入れ性を高めて強度および靭性を向上させるのに有効な元素である。そこでMn量は0.5%以上と定めた。Mn量は、好ましくは0.60%以上であり、より好ましくは0.70%以上である。一方、Mn量が過剰になると溶接部の靭性が低下する。そこでMn量を1.80%以下と定めた。Mn量は、好ましくは1.70%以下であり、より好ましくは1.60%以下である。
Al:0.005〜0.1%
Alは、脱酸作用を有する元素であるため0.005%以上とする。Al量は、好ましくは0.008%以上であり、より好ましくは0.015%以上である。一方、Al量が過剰になると靭性の悪化や結晶粒の粗大化を招く。そこでAl量は0.1%以下と定めた。Al量は、好ましくは0.080%以下であり、より好ましくは0.060%以下である。
N:0.001〜0.01%
Nは、窒化物を形成することによって溶接熱影響部の靭性を向上させるのに寄与する元素である。そこでN量は0.001%以上と定めた。N量は、好ましくは0.0020%以上であり、より好ましくは0.0030%以上である。一方、N量が過剰になると固溶N量が増大することによって母材の靭性が劣化する。そこでN量は0.01%以下と定めた。N量は、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは0.0070%以下である。
P:0.001〜0.050%
Pは、不可避的に含まれる元素であり、通常0.001%程度含有される。しかしPは靭性や溶接性を劣化させる元素であり、可能な限り低減することが好ましい。そこでP量は0.050%以下と定めた。P量は、好ましくは0.030%以下であり、より好ましくは0.020%以下である。
S:0.001〜0.050%
Sは、Pと同様に鋼中に不可避的に含まれる元素であり、通常0.001%程度含有される。しかし、Sは靭性や溶接性を劣化させる元素であり、可能な限り低減することが好ましい。そこでS量は0.050%以下と定めた。S量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
本発明の鋼板における基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が含まれることは当然に許容される。さらに本発明の鋼板は必要に応じて以下の任意元素を含有していてもよい。
Nb:0.05%以下(0%を含まない)および/またはTi:0.050%以下(0%を含まない)
NbおよびTiはいずれも炭窒化物を形成して結晶粒を微細化することにより母材靭性を向上させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Nb量およびTi量はいずれも0.005%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.010%以上である。一方、これら元素が過剰になると却って母材靭性が劣化する。そこでNb量は0.05%以下、Ti量は0.050%以下とすることが好ましく、Nb量およびTi量はいずれも0.040%以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.030%以下である。
Mo:0.50%以下(0%を含まない)
Moは、母材強度を向上させる作用を有する元素である。そこでMo量は0.03%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.05%以上である。一方、Moが過剰になると溶接性が劣化する。そこでMo量は0.50%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.30%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。
Cr:0.50%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、およびNi:0.50%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上
Cr、Cu、およびNiはいずれも鋼板の耐食性を向上させる作用を有する元素である。そこでいずれも0.03%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.10%以上である。一方、これらの元素が過剰になると溶接性が劣化する。そこでCr、およびNiはいずれも0.50%以下とすることが好ましく、Cuは0.5%以下とすることが好ましい。Cr量は0.30%以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.20%以下である。Ni量は0.40%以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.35%以下である。Cu量は0.40%以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.30%以下である。
V:0.100%以下(0%を含まない)および/またはB:0.0030%以下(0%を含まない)
VおよびBはいずれも、大入熱溶接時の溶接熱影響部の軟化を抑制し、靭性を向上させる作用を有する元素である。そこでV量は0.003%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.010%以上である。B量は0.0003%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0010%以上である。一方、VおよびBが過剰になると母材靭性が劣化する。そこでV量は0.100%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.080%以下であり、さらに好ましくは0.060%以下である。B量は0.0030%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.0020%以下であり、さらに好ましくは0.0015%以下である。
本発明の鋼板において、加工フェライトを25面積%以上確保するためには特に、表1に示す強度クラス毎にAr3点が従来よりも高めになるような成分設計をした上で、圧延終了温度を、Ar3点と圧延終了温度との差が従来よりも大きくなるようにして(例えば仕上圧延温度がAr3点−80℃以下であり、好ましくはAr3点−85℃以下)、フェライト+オーステナイト二相域圧延を高圧下率で行うことが有効である。仕上圧延温度はAr3点−110℃以上(より好ましくはAr3点−100℃以上)が好ましい。このようにすることによって、鋼板の平坦度を向上できる。表1は本発明鋼板の適用対象となる日本海事協会規格の一部抜粋である。また、本発明におけるAr3点は、下記式(1)によって求められる温度である。なお、鋼板が下記式(1)に規定される元素を含んでいない場合は、その含有量は0質量%として計算すれば良い。
Ar3点(℃)=910−310×[C]−80×[Mn]−20×[Cu]−15×[Cr]−55×[Ni]−80×[Mo] ・・・(1)
(式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。)
表1に示した日本海事協会規格では、まず強度クラス別に40キロ鋼(区分(i)。SI単位に換算すると390MPa級鋼。)と50キロ鋼(区分(ii)および(iii)。SI単位に換算すると490MPa級鋼。)に分けられ、50キロ鋼についてはそれぞれ降伏点によってYP32(降伏点が32キロ)とYP36(降伏点が36キロ)に分けられている。さらにいずれの強度クラスにおいても、靭性レベルに応じてA、D、およびEクラスに分けられている。
区分(i)は、すなわち、引張強度(TS)が400〜490MPa、降伏点(YP)が235MPa以上、板厚30mmでの全伸び(El)が20%以上である。区分(i)において、さらに靭性クラスAでは0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0の平均値が20J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが0℃以下、靭性クラスDでは−20℃でのシャルピー吸収エネルギーvE-20の平均値が20J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが−20℃以下、靭性クラスEでは−40℃でのシャルピー吸収エネルギーvE-40の平均値が20J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが−40℃以下である。区分(i)において、本発明鋼板は従来鋼と比較して、Ar3点が10〜40℃程度高くなるようにすることが好ましく、Ar3点は例えば815℃以上840℃未満が好ましい。
区分(ii)のうちYP32は、引張強度(TS)が440〜590MPa、降伏点(YP)が315MPa以上、板厚30mmでの全伸びが20%以上であり、さらに靭性クラスAでは0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0の平均値が22J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが0℃以下、靭性クラスDでは−20℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0の平均値が22J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが−20℃以下である。また、区分(ii)のうちYP36は、引張強度(TS)が490〜620MPa、降伏点(YP)が355MPa以上、板厚30mmでの全伸びが19%以上であり、さらに靭性クラスAでは0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0の平均値が24J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが0℃以下、靭性クラスDでは−20℃でのシャルピー吸収エネルギーvE-20の平均値が24J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが−20℃以下である。区分(ii)において、本発明鋼板は従来鋼と比較してAr3点が10〜35℃程度高くなるようにすることが好ましく、Ar3点は例えば790℃以上815℃未満が好ましい。
区分(iii)のうちYP32は、引張強度(TS)が440〜590MPa、降伏点(YP)が315MPa以上、板厚30mmでの全伸びが20%以上であり、−40℃でのシャルピー吸収エネルギーvE-40の平均値が22J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが−40℃以下である。また、区分(iii)のうちYP36は、引張強度(TS)が490〜620MPa、降伏点(YP)が355MPa以上、板厚30mmでの全伸びが19%以上であり、−40℃でのシャルピー吸収エネルギーvE-40の平均値が24J以上、かつ目標破面遷移温度vTrsが−40℃以下である。区分(iii)において、本発明鋼板は従来鋼と比較してAr3点が5〜30℃程度高くなるようにすることが好ましく、Ar3点は例えば760℃以上790℃未満が好ましい。
以上の区分(i)〜(iii)を全てまとめると、本発明鋼板のAr3点は760℃以上、840℃未満であることが好ましい。
圧延後は、いずれの区分においても10℃/秒以下の冷却速度で冷却することが好ましい。また、いずれの区分においてもAr3点以下の累積圧下率は、例えば50%以上とすることが好ましく、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは65%以上であり、特に70%以上が好ましい。
本発明の鋼板の板厚は特に限定されないが、角変形が顕著となる板厚10mm以上30mm以下の鋼板で特に本発明の効果が有効に発揮される。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表2に示す化学成分の鋼を、通常の溶製法に従って溶製した後、鋳造し、表3に示す条件で圧延し、表3に示す板厚の鋼板を得た。
得られた鋼板を以下の方法で評価した。
(1)引張強度および靭性の測定
得られた鋼板からJIS1B号試験片(すなわち、全厚試験片)を採取し、JIS Z2241に従って、引張強度を測定するとともに、降伏点(YP)、全伸び(EL)も測定した。また靭性については、各鋼板の深さt/4(t:板厚)の位置から、JIS Z 2202(2006)で規定のVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242(2006)に規定の方法でシャルピー衝撃試験を行い、破面遷移温度(vTrs)を測定した。
(2)ミクロ組織の同定
ミクロ組織の同定について、図3を用いて説明する。図3は表3のNo.2およびNo.11について行った組織同定の手順を示した図である。まず、鋼板のt/4位置(t:板厚)の圧延方向と平行な板厚方向断面を試験面とし、ナイタールによる腐食後に100倍でミクロ組織写真(観察視野:0.8mm×0.6mm)を撮影する(図3のSTEP1)。次に、ミクロ組織写真画像のコントラストを最弱にして2値化し、黒色部の面積をパーライト面積率とする(図3のSTEP2)。続いてミクロ組織写真画像のコントラストを最強にして2値化し、白色部の面積をポリゴナルフェライト面積率とする(図3のSTEP3)。さらに、ミクロ組織にベイナイトおよび/またはマルテンサイトが含まれる場合は、それぞれの部分を着色する画像処理を行い、その面積率をベイナイトおよびマルテンサイト面積率とする(図3のSTEP4)。最後に、100%から上記STEP1〜4で求めたパーライト面積率、ポリゴナルフェライト面積率、ベイナイトおよびマルテンサイト面積率を差し引き、加工フェライト面積率とした(図3のSTEP5)。
(3)冷却後形状の観察
得られた鋼板について、加速冷却を行った鋼板の冷却後の形状を目視によって観察した。なお、空冷を行った鋼板については加速冷却を行った時のような形状不良はそもそも生じ得ないため、表4中「−」で示した。
(4)角変形量の測定
各鋼板から図4に示す形状の試験片(幅:200mm×長さ:100mm×厚さ:10〜30mm)を切り出し、幅方向の中心位置に以下に示す条件で溶接を行い、ビードオンプレートを作製した。
溶接条件
電流:300A
電圧:32V
溶接速度:25cm/min
入熱量:23040J/cm(リブの隅肉溶接時、脚長5〜6mmの1パス2本に相当)
ビード幅:約18mm
得られたビードオンプレートは、図4に示すように溶接側に凹の角変形が起きる。角変形量θは、試験片の幅方向の長さWと、上下方向の変形量δから、下記(2)式を用いることによって求めた。
θ=(1/2)×sin-1(2δ/W) ・・・(2)
結果を表4に示す。
No.1〜6、および18は、化学成分組成が本発明要件を満たすとともに、製造条件も好ましい要件を満たしているため、加工フェライトを25面積%以上確保することができ、その結果、角変形量を十分に抑えることができる。
一方、No.7〜9、13、14、17、20は、化学成分および製造条件(Ar3点の調整および圧延終了温度の調整)が適切に制御されていないため、加工フェライトが不十分であり、角変形量が大きくなった例である。
No.7〜9、17は、前述した表1の強度区分(i)に属する例であるが、強度区分
(i)に属する発明例であるNo.18に比べて、Ar3点が低く、かつ圧延終了温度も高かったためにフェライト+オーステナイト二相域での圧下量が不足した結果、加工フェライトを十分に確保することができず、角変形量が大きくなった例である。
No.19は、強度区分(ii)に属する例であるが、強度区分(ii)に属する発明例であるNo.1、2に比べてAr3点が低く、かつ圧延終了温度も高かったためにフェライト+オーステナイト二相域での圧下量が不足した結果、加工フェライトを十分に確保することができず、角変形量が大きくなった例である。
No.13、14、20は、強度区分(iii)に属する例であるが、強度区分(iii)に属する発明例であるNo.3〜6に比べてAr3点が低く、かつ圧延終了温度も高かったためにフェライト+オーステナイト二相域での圧下量が不足した結果、加工フェライトを十分に確保することができず、角変形量が大きくなった例である。
No.10、16は、Mo量が多かったためにフェライト変態の進行が抑制され、その結果、加工フェライトを確保することができなくなったため、角変形量が大きくなった例である。
No.11は、Mn量が多かったためにフェライト変態の進行が抑制され、その結果、加工フェライトを確保することができなくなったため、角変形量が大きくなった例である。
No.12は、溶接歪みを低減するために従来から提案されてきたマルテンサイト分率を高くした例であるが、各変形量は本発明例に比べて劣っており、さらに急冷しているため冷却後の形状も悪化している。
No.15は、圧延後の冷却速度が速かったため、冷却後の形状が悪化した例である。

Claims (6)

  1. C :0.03〜0.2%(質量%の意味。以下、同じ。)、
    Si:0.05〜0.40%、
    Mn:0.5〜1.80%、
    Al:0.005〜0.1%、
    N :0.001〜0.01%、
    P :0.001〜0.050%、
    S :0.001〜0.050%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、
    ミクロ組織が加工フェライトを25面積%以上含有し、
    残部組織がポリゴナルフェライトおよびパーライト、並びに合計で10面積%以下(0%を含む)のベイナイトおよび/またはマルテンサイトであることを特徴とする溶接歪みの少ない鋼板。
  2. 下記式(1)で表されるAr3点が760℃以上、840℃未満である請求項1に記載の鋼板。
    Ar3点(℃)=910−310×[C]−80×[Mn]−20×[Cu]−15×[Cr]−55×[Ni]−80×[Mo] ・・・(1)
    (式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。)
  3. さらに、Nb:0.05%以下(0%を含まない)および/またはTi:0.050%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の鋼板。
  4. さらに、Mo:0.50%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板。
  5. さらに、Cr:0.50%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、およびNi:0.50%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の鋼板。
  6. さらに、V:0.100%以下(0%を含まない)および/またはB:0.0030%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の鋼板。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN107557681A (zh) * 2017-08-02 2018-01-09 邢台钢铁有限责任公司 一种具有优异变形性能的中低碳钢线材及其生产方法
CN111020384A (zh) * 2019-12-16 2020-04-17 南阳汉冶特钢有限公司 一种调质型超厚高强度sm570钢板及其生产方法

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