つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。先ず、この発明で制御の対象とする車両の構成および制御系統を図7に示す。この発明で対象とする車両は、複数の駆動輪に付与するトルクをそれぞれ個別に制御することが可能な駆動力源としての電動機が設けられており、この図7では、左右の前輪1,2および左右の後輪3,4に、それら各車輪1,2,3,4のそれぞれに個別にトルクを付与する電動機5,6および電動機7,8が設けられた車両Veの構成例を示している。
具体的には、この車両Veは、車両Veの幅方向(図7での左右方向)における左右の前輪1,2および左右の後輪3,4を有している。そして、前輪1,2は、互いにもしくはそれぞれ独立してサスペンション機構(図示せず)を介して車両Veの車台に支持されている。同様に、後輪3,4も、互いにもしくはそれぞれ独立してサスペンション機構を介して車両Veの車台に支持されている。
車両Veの駆動力源として、前輪1,2のホイール内部および後輪3,4のホイール内部には、それぞれ、電動機5,6および電動機7,8が組み込まれていて、それら電動機5,6の出力軸および電動機7,8の出力軸と、前輪1,2の駆動軸および後輪3,4の駆動軸とが、それぞれ動力伝達可能に連結されている。すなわち、前輪1,2の電動機5,6および後輪3,4の電動機7,8は、いわゆるインホイールモータ5,6,7,8であり、前輪1,2および後輪3,4と共に車両Veのばね下に配置されていて、各インホイールモータ5,6,7,8からそれぞれ各車輪(すなわち駆動輪)1,2,3,4へ至る各駆動系統9,10,11,12が形成されている。そして、各インホイールモータ5,6,7,8の回転をそれぞれ個別に独立して制御することにより、前輪1,2および後輪3,4の駆動トルクあるいは制動トルクを、それぞれ独立して制御することができる構成となっている。なお、ここでは図示していないが、各駆動系統9,10,11,12の中には、各インホイールモータ5,6,7,8の出力をそれぞれ減速して各駆動輪1,2,3,4へ伝達させる減速機構を設けることもできる。
これらの各インホイールモータ5,6,7,8は、例えば交流同期モータにより構成されていて、インバータ13を介してバッテリやキャパシタなどの蓄電装置14に接続されている。したがって、各インホイールモータ5,6,7,8の駆動時には、蓄電装置14の直流電力がインバータ13によって交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ5,6,7,8に供給されることによりそれら各インホイールモータ5,6,7,8が力行制御されて、各駆動系統9,10,11,12を介して前輪1,2および後輪3,4に駆動トルクが付与される。
また、各インホイールモータ5,6,7,8は前輪1,2および後輪3,4の回転エネルギを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各インホイールモータ5,6,7,8の回生・発電時には、前輪1,2および後輪3,4の回転(運動)エネルギが各インホイールモータ5,6,7,8によって電気エネルギに変換され、その際に生じる電力がインバータ13を介して蓄電装置14に蓄電される。このとき、前輪1,2および後輪3,4には回生・発電力に基づく制動トルクが付与される。
そして、上記のインバータ13は、各インホイールモータ5,6,7,8の回転状態を制御する電子制御装置(ECU)15に、それぞれ接続されている。この電子制御装置15には、例えば、各駆動輪1,2,3,4の駆動軸の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する車輪速センサ16,17,18,19、各インホイールモータ5,6,7,8の出力軸の回転角度あるいは回転速度をそれぞれ検出するレゾルバ20,21,22,23、車両Veの前後方向および横方向に加わる加速度を検出するGセンサ24、車両Veに加わるヨーレートを検出するヨーレートセンサ25、車両Veの操舵角度を検出する舵角センサ26などの各種センサ類からの検出信号、およびインバータ9からの情報信号などが入力されるように構成されている。
このうち、インバータ13からこの電子制御装置15に入力される信号に基づいて、各インホイールモータ5,6,7,8の出力トルク(モータトルク)がそれぞれ演算されて求められる。例えば、インバータ13からの入力信号によって各インホイールモータ5,6,7,8が力行制御されていることを検出した場合に、その際に各インホイールモータ5,6,7,8へ供給される電力量あるいは電流値を検出し、それに基づいて各インホイールモータ5,6,7,8のモータトルクをそれぞれ算出することができる。また、各インホイールモータ5,6,7,8の回転を制御する際の電流値を基に、各インホイールモータ5,6,7,8の回転数をそれぞれ算出することもできる。
一方、電子制御装置15からは、インバータ13を介して各インホイールモータ5,6,7,8の回転をそれぞれ制御する信号が出力されるように構成されている。すなわち、各インホイールモータ5,6,7,8の回転(力行・回生)を制御するために、各インホイールモータ5,6,7,8へ供給する、もしくは各インホイールモータ5,6,7,8から回収する電流を制御するための制御信号が、電子制御装置15からインバータ13へ出力されるようになっている。
なお、上記の図7では、左右の前輪1,2および左右の後輪3,4の両方に、駆動力源として、インホイールモータ5,6,7,8がそれぞれ設けられた4輪駆動方式の車両Veの構成例を示しているが、この発明における車両Veは、例えば図8,図9に示すように、インホイールモータが左右の前輪1,2もしくは左右の後輪3,4のいずれか一方に設けられた構成であってもよい。
すなわち、この発明における車両Veは、例えば図8の(a)に示すように、左右の後輪3,4のみにインホイールモータ7,8がそれぞれ設けられるとともに、前輪1,2を駆動するための電動機(モータ・ジェネレータ)20およびトランスアクスル21が車台に配置された4輪駆動方式の車両Veであってもよい。あるいは、この発明における車両Veは、例えば図8の(b)に示すように、左右の後輪3,4のみにインホイールモータ7,8がそれぞれ設けられるとともに、前輪1,2を駆動するためのエンジンおよび電動機(モータ・ジェネレータ)ならびにトランスミッションなどから構成されるハイブリッドユニット22が車台に配置された4輪駆動方式のハイブリッド車両Veであってもよい。あるいは、この発明における車両Veは、例えば図8の(c)に示すように、左右の前輪1,2のみにインホイールモータ5,6がそれぞれ設けられるとともに、後輪3,4を駆動するためのエンジンおよびトランスミッションならびにデファレンシャルなどから構成される駆動ユニット23が車台に配置された4輪駆動方式のハイブリッド車両Veであってもよい。
さらに、この発明における車両Veは、例えば図9の(a)に示すように、左右の後輪3,4のみにインホイールモータ7,8がそれぞれ設けられた後輪駆動方式の車両Veであってもよい。あるいは、この発明における車両Veは、例えば図9の(b)に示すように、左右の前輪1,2のみにインホイールモータ5,6がそれぞれ設けられた前輪駆動方式の車両Veであってもよい。要は、この発明で対象とする車両Veは、複数の駆動輪が、例えば上記の各インホイールモータ5,6,7,8のように、それら各駆動輪を独立して直接駆動することが可能な構成であればよい。
前述したように、この発明で対象としている車両Veは、複数の駆動輪に付与するトルクをそれぞれ個別に制御することが可能なように、具体的には、上記のように各駆動輪1,2,3,4のホイール内部に組み込まれて各駆動輪1,2,3,4をそれぞれ直接駆動するインホイールモータ5,6,7,8を搭載したインホイールモータ車として構成されている。そのため、走行状態や走行環境に応じて各駆動輪1,2,3,4を個別に制御することにより、旋回性や操安性などの車両Veの走行性能を向上させることができる。その一方で、例えば、駆動系統におけるギヤ部でギヤの噛み込み等により駆動輪の回転が制止もしくは規制される車輪ロックが発生してしまった場合を想定して、そのような車輪ロックが発生してしまった場合であっても、その後の車両Veの走行状態を安定的に維持するためのフェールセーフ機能を確立させておく必要がある。
各駆動輪1,2,3,4の車輪ロックに対応するフェールセーフとしては、例えば各駆動輪1,2,3,4と各インホイールモータ5,6,7,8との間の各駆動系統9,10,11,12の途中に、いわゆるトルクヒューズとして機能する構成を設け、すなわち各駆動系統9,10,11,12に、トルクヒューズとして設計的に強度を低下させた部位を形成しておく設計を採用することができる。例えば、いずれかの駆動輪がロックされてしまった場合に、上記のように構成したトルクヒューズの部位を破断させることにより、その駆動輪の回転をフリーにさせることができる。すなわち、駆動輪の車輪ロック状態を解消させて、例えば前述したようなスピンの発生などの車両挙動が不安定になってしまう事態を回避し、車両Veの走行状態を安定的に維持することができる。
しかしながら、トルクヒューズとして上記のように強度を低下させた部位を設けた場合であっても、駆動輪の車輪ロックが発生した際にそのトルクヒューズの部位が破断するまでの間は、駆動輪は車輪ロック状態のままであるので、その間、車両挙動の不安定な状態が継続される。したがって、駆動輪の車輪ロックが発生してしまった場合には、その車輪ロックが発生した駆動輪の駆動系統における上記のようなトルクヒューズの部位を可及的に速やかに破断させるのが望ましい。
そこで、この発明における車両Veの制御装置では、各駆動輪1,2,3,4の各駆動軸の回転速度および各インホイールモータ5,6,7,8の各出力軸の回転速度を検出し、それら各駆動輪1,2,3,4の各駆動軸の回転速度および各インホイールモータ5,6,7,8の各出力軸の回転速度のそれぞれの速度変化を基に、各駆動輪1,2,3,4の回転が制止もしくは規制されてしまうような車輪ロックの有無を判定し、その車輪ロックが検出された場合に、各インホイールモータ5,6,7,8の出力を制御して、車輪ロックが発生してしまった駆動輪の駆動系統の一部を強制的に破断するように構成されている。
図1は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、車両Veが前進しているか否かが判断される(ステップS11)。車両Veが停止している、もしくは車両Veが後進していることにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。なお、車両Veが後進する場合を含めた制御例は後述する。
一方、車両Veが前進していることにより、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS12へ進み、いずれかの駆動輪のインホイールモータの出力軸(モータ軸)の回転速度の変位が、その駆動輪の車輪速よりも、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。すなわち、いずれかの駆動輪のインホイールモータの出力軸の回転速度の速度変化量(変位)と、その駆動輪の駆動軸の回転速度(車輪速)の速度変化量(変位)との偏差が、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。
ここで、閾値αは、上記の駆動輪の駆動軸およびインホイールモータの出力軸の回転速度変化の変化方向も考慮して設定されたものであり、すなわち、それら駆動軸および出力軸の回転速度変化の変化方向が、車両Veを走行させる際の駆動系統の回転速度を低下させる方向であるか否かを判断し得る値に設定されている。具体的には、車両Veを走行させる際の各駆動系統における各駆動輪の駆動軸の回転速度が低下する方向の所定の値に設定されている。
したがって、このステップS12では、上記のような閾値αと、駆動輪の駆動軸およびインホイールモータの出力軸の回転速度の速度変化量とを比較することにより、いずれかの駆動系統における駆動輪の駆動軸の回転速度変化の変化方向が車両Veを走行させる際のその駆動系統における駆動輪の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつその駆動系統におけるインホイールモータの出力軸の回転速度変化の変化量がその駆動系統における駆動輪の駆動軸の回転速度変化の変化量よりも予め設定した閾値α以上であるか否かが判断される。
すなわち、このステップS12は、例えばギヤの噛み込みなどによりいずれかの駆動系統における駆動輪の回転がロックしてしまうような状況である車輪ロック状態を速やかに検知するための判断ステップである。
具体的には、各駆動輪1,2,3,4毎に設けられている車輪速センサ12,13,14,15により各駆動輪1,2,3,4の駆動軸の回転速度(車輪速)、および各インホイールモータ5,6,7,8毎に設けられているレゾルバ20,21,22,23の検出値を基に、各インホイールモータ5,6,7,8の出力軸の回転速度がそれぞれ検出される。そして、いずれかの駆動輪(ここでは仮に駆動輪4とする)の駆動系統12におけるインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と、その駆動系統12における駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が算出され、その偏差の方向が、車両Veを走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつ、その偏差が閾値αとして予め設定した所定値以上であるか否かが判断される。
言い換えると、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向である場合に、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりもインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が閾値α以上大きいか否かが判断される。なお、この場合のいずれかの駆動輪とは、例えば各駆動輪1,2,3,4のうちのいずれか1輪のみであってもよく、あるいは、各駆動輪1,2,3,4のうちの2もしくは3輪であってもよく、あるいは、各駆動輪1,2,3,4の全輪であってもよい。
なお、各インホイールモータ5,6,7,8と各駆動輪1,2,3,4との間に、すなわち各駆動系統9,10,11,12に、前述したような減速機構が設けられている場合には、その減速機構による減速比を考慮した上で、駆動輪4の車輪速度の変化量とインホイールモータ8の回転速度の変化量とが比較される。すなわち、その場合は、インホイールモータ8の回転速度の変化量と、減速機構の減速比で除算した駆動輪4の車輪速度の変化量とが比較される。
駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向でないこと、もしくは、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きくないこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値αよりも小さいことにより、このステップS12で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつ、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きいこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値α以上であることにより、ステップS12で肯定的に判断された場合には、ステップS13へ進み、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の変位が負の方向であるか否か、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が、負の方向であるか否かが判断される。
インホイールモータ8の出力軸の回転速度の回転方向が負の方向であるとは、車両Veを後進させる際の回転方向であり、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向であるとは、負の方向すなわち車両Veを後進させる回転方向の回転速度が増大する方向である。
図4には、いずれかの車輪に負の方向の大きな車輪速度変化が生じた状態を示している。すなわち、図4に示す状態は、車両Veの前進時に、いずれかの車輪に負方向の大きな車輪速度変化が生じた状態であって、前進方向の駆動トルクが作用していた車輪に、例えば外乱やギヤの噛み込みなどによる後進方向のトルクが作用した結果、すなわち前進方向に回転していた車輪の回転を停止させようとする方向のトルクが作用した結果、負の方向に大きな車輪速度の変化が生じた状態である。
インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向でない、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向であることによって、このステップS13で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、例えば図4に示すように、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向であることによって、ステップS13で肯定的に判断された場合には、ステップS14へ進み、回転速度変化があったインホイールモータ8が、負の方向のトルクを出力するように制御される。すなわち、車輪ロックが発生した駆動系統12に対して、その駆動系統12におけるインホイールモータ8を制御して、車輪ロックが発生した駆動系統12における最弱部位を破断させる方向のトルクが出力される。最弱部位とは、例えばフェールセーフのためのトルクヒューズとして可及的に強度が低下するように形成された部位である。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図1のフローチャートで示す制御例では、車両Veが前進走行している際に駆動輪に車輪ロックが発生した場合の例を示しているが、車両Veが後進走行している場合も含み、また、駆動輪に車輪ロックが発生した際のインホイールモータの出力に制限を設けて制御するようにした他の制御例を次に示す。図2は、その他の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図2において、先ず、車両Veが前進しているか否かが判断される(ステップS21)。
車両Veが前進走行していることにより、このステップS21で肯定的に判断された場合は、ステップS22へ進み、いずれかの駆動輪のインホイールモータの出力軸(モータ軸)の回転速度の変位が、その駆動輪の車輪速よりも予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。すなわち、いずれかの駆動輪(ここでは仮に駆動輪4とする)のインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量(変位)と、その駆動輪4の駆動軸の回転速度(車輪速)の速度変化量(変位)との偏差が、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。
前述したように、閾値αは、上記の駆動輪4の駆動軸およびインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化方向も考慮して設定されたものであり、具体的には、車両Veを走行させる際の駆動系統12における駆動輪4の駆動軸の回転速度が低下する方向の所定の値に設定されている。したがって、このステップS22では、上記のような閾値αと、駆動輪4の駆動軸およびインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量とが比較されて、駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化方向が車両Veを前進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向(すなわち車両Veを後進走行させる際の回転方向)であり、かつインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化量が駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化量よりも予め設定した閾値α以上であるか否かが判断される。要するに、このステップS22は、前述の図1のフローチャートにおけるステップS12と同様に、いずれかの駆動系統における駆動輪に車輪ロックが発生してしまうような状況を速やかに検知するため判断ステップである。
駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを前進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向でないこと、もしくは、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きくないこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値αよりも小さいことにより、このステップS22で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを前進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつ、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きいこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値α以上であることにより、ステップS22で肯定的に判断された場合には、ステップS23へ進み、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の変位が負の方向であるか否か、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が、負の方向であるか否かが判断される。
インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向でない、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向であることによって、このステップS23で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、例えば図4に示すように、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向であることによって、ステップS23で肯定的に判断された場合には、ステップS24へ進み、回転速度変化があったインホイールモータ8が、負の方向でかつ無限定格フルトルクを出力するように制御される。無限定格フルトルクとは、例えば図5に示すように、無限にかつ連続的に出力することが可能な最大トルクのことであり、電動機の性能として保証されている使用限度範囲内での最大トルク、すなわち電動機の定格トルクのことである。
すなわち、このステップS24では、車輪ロックが発生した駆動系統12に対して、その駆動系統12におけるインホイールモータ8を制御して、車輪ロックが発生した駆動系統12における最弱部位を破断させる方向のトルクが出力される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、車両Veが停止している、もしくは車両Veが後進走行していることにより、前述のステップS21で否定的に判断された場合には、ステップS25へ進み、車両Veが後進しているか否かが判断される。車両Veが後進していない、すなわち車両Veが停止していることにより、このステップS25で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
車両Veが後進走行していることにより、ステップS25で肯定的に判断された場合は、ステップS26へ進み、いずれかの駆動輪のインホイールモータの出力軸(モータ軸)の回転速度の変位が、その駆動輪の車輪速よりも、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。すなわち、いずれかの駆動輪(ここでは仮に駆動輪4とする)のインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量(変位)と、その駆動輪4の駆動軸の回転速度(車輪速)の速度変化量(変位)との偏差が、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。
ここでの閾値αも同様に、上記の駆動輪4の駆動軸およびインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化方向も考慮して設定されたものであり、具体的には、車両Veを走行させる際の駆動系統12における駆動輪4の駆動軸の回転速度が低下する方向の所定の値に設定されている。したがって、このステップS26では、駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化方向が車両Veを後進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向(すなわち車両Veを前進走行させる際の回転方向)であり、かつインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化量が駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化量よりも予め設定した閾値α以上であるか否かが判断される。要するに、このステップS26は、前述の図1のフローチャートにおけるステップS12、および、この図2のフローチャートにおけるステップS22と同様に、いずれかの駆動系統における駆動輪に車輪ロックが発生してしまうような状況を速やかに検知するため判断ステップである。
駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを後進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向でないこと、もしくは、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きくないこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値αよりも小さいことにより、このステップS26で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを後進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつ、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きいこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値α以上であることにより、ステップS26で肯定的に判断された場合には、ステップS27へ進み、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の変位が正の方向であるか否か、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が、正の方向であるか否かが判断される。
図6には、いずれかの車輪に正の方向の大きな車輪速度変化が生じた状態を示している。すなわち、図6に示す状態は、車両Veの後進時に、いずれかの車輪に正の方向の大きな車輪速度変化が生じた状態であって、後進方向の駆動トルクが作用していた車輪に、例えば外乱やギヤの噛み込みなどによる前進方向のトルクが作用した結果、すなわち後進方向に回転していた車輪の回転を停止させようとする方向のトルクが作用した結果、正の方向に大きな車輪速度の変化が生じた状態である。
インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向でない、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向であることによって、このステップS27で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、例えば図6に示すように、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向であることによって、ステップS27で肯定的に判断された場合には、ステップS28へ進み、回転速度変化があったインホイールモータ8が、正の方向でかつ無限定格フルトルクを出力するように制御される。
すなわち、このステップS28では、車輪ロックが発生した駆動系統12に対して、その駆動系統12におけるインホイールモータ8を制御して、車輪ロックが発生した駆動系統12における最弱部位を破断させる方向のトルクが出力される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図2のフローチャートで示す制御例では、駆動輪に車輪ロックが発生した際のインホイールモータの出力を、定格トルクで制限して制御するように構成した例を示しているが、駆動輪に車輪ロックが発生した際のインホイールモータの出力を、瞬時出力可能な最大トルクで制限して制御するように構成した他の制御例を次に示す。図3は、その他の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図3において、先ず、車両Veが前進しているか否かが判断される(ステップS31)。
車両Veが前進走行していることにより、このステップS31で肯定的に判断された場合は、ステップS32へ進み、いずれかの駆動輪のインホイールモータの出力軸(モータ軸)の回転速度の変位が、その駆動輪の車輪速よりも、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。すなわち、いずれかの駆動輪(ここでは仮に駆動輪4とする)のインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量(変位)と、その駆動輪4の駆動軸の回転速度(車輪速)の速度変化量(変位)との偏差が、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。
ここでの閾値αも同様に、上記の駆動輪4の駆動軸およびインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化方向も考慮して設定されたものであり、具体的には、車両Veを走行させる際の駆動系統12における駆動輪4の駆動軸の回転速度が低下する方向の所定の値に設定されている。したがって、このステップS32では、駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化方向が車両Veを前進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向(すなわち車両Veを後進走行させる際の回転方向)であり、かつインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化量が駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化量よりも予め設定した閾値α以上であるか否かが判断される。要するに、このステップS32は、前述ステップS12やステップS22あるいはステップS26と同様に、いずれかの駆動系統における駆動輪に車輪ロックが発生してしまうような状況を速やかに検知するため判断ステップである。
駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを前進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向でないこと、もしくは、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きくないこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値αよりも小さいことにより、このステップS32で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを前進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつ、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きいこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値α以上であることにより、ステップS32で肯定的に判断された場合には、ステップS33へ進み、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の変位が負の方向であるか否か、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が、負の方向であるか否かが判断される。
インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向でない、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向であることによって、このステップS33で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、例えば図4に示すように、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向であることによって、ステップS33で肯定的に判断された場合には、ステップS34へ進み、インホイールモータ8の温度が予め設定された閾値β以下であるか否かが判断される。具体的には、例えばサーミスタ式の温度センサ(図示せず)によりインホイールモータ8のコイルエンド部の温度が検出され、その温度の検出値が、インホイールモータ8の定格温度を上限とするように予め設定した閾値β以下であるか否かが判断される。なお、ここでの定格温度とは、電動機の性能として保証されている使用限度範囲内での最高温度、言い換えると、電動機を正常にかつ連続的に運転することが可能な電動機の使用温度の上限値である。
インホイールモータ8の温度が閾値βすなわちインホイールモータ8の定格温度よりも高いことにより、このステップS34で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。すなわち、インホイールモータ8の温度が閾値βすなわちインホイールモータ8の定格温度よりも高い場合は、インホイールモータ8の使用に支障をきたす可能性があるので、この制御は実行されない。
これに対して、インホイールモータ8の温度が閾値βすなわちインホイールモータ8の定格温度以下であることにより、ステップS34で肯定的に判断された場合には、ステップS35へ進み、回転速度変化があったインホイールモータ8が、負の方向で、かつ定格温度の範囲内で、なおかつ瞬時出力可能な最大トルクを出力するように制御される。瞬時出力可能な最大トルクとは、瞬間的にもしくは一時的に出力することが可能な最大トルクのことである。
すなわち、このステップS35では、車輪ロックが発生した駆動系統12に対して、その駆動系統12におけるインホイールモータ8を制御し、その車輪ロックが発生した駆動系統12における最弱部位を破断させる方向の可及的に大きなトルクが出力される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、車両Veが停止している、もしくは車両Veが後進走行していることにより、前述のステップS31で否定的に判断された場合には、ステップS36へ進み、車両Veが後進しているか否かが判断される。車両Veが後進していない、すなわち車両Veが停止していることにより、このステップS36で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
車両Veが後進走行していることにより、ステップS36で肯定的に判断された場合は、ステップS37へ進み、いずれかの駆動輪のインホイールモータの出力軸(モータ軸)の回転速度の変位が、その駆動輪の車輪速よりも、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。すなわち、いずれかの駆動輪(ここでは仮に駆動輪4とする)のインホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量(変位)と、その駆動輪4の駆動軸の回転速度(車輪速)の速度変化量(変位)との偏差が、予め設定された閾値α以上であるか否かが判断される。
ここでの閾値αも同様に、上記の駆動輪4の駆動軸およびインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化方向も考慮して設定されたものであり、具体的には、車両Veを走行させる際の駆動系統12における駆動輪4の駆動軸の回転速度が低下する方向の所定の値に設定されている。したがって、このステップS37では、駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化方向が車両Veを後進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向(すなわち車両Veを前進走行させる際の回転方向)であり、かつインホイールモータ8の出力軸の回転速度変化の変化量が駆動輪4の駆動軸の回転速度変化の変化量よりも予め設定した閾値α以上であるか否かが判断される。要するに、このステップS337は、前述のステップS12やステップS22あるいはステップS26やステップS32と同様に、いずれかの駆動系統における駆動輪に車輪ロックが発生してしまうような状況を速やかに検知するための判断ステップである。
駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを後進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向でないこと、もしくは、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きくないこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値αよりも小さいことにより、このステップS37で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化方向が、車両Veを後進走行させる際の駆動輪4の駆動軸の回転速度を低下させる方向であり、かつ、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量が、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量よりも閾値α以上大きいこと、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化量と、駆動輪4の駆動軸の回転速度の速度変化量との偏差が閾値α以上であることにより、ステップS37で肯定的に判断された場合には、ステップS38へ進み、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の変位が正の方向であるか否か、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が、正の方向であるか否かが判断される。
インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向でない、すなわち、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が負の方向であることによって、このステップS38で否定的に判断された場合は、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、例えば図6に示すように、インホイールモータ8の出力軸の回転速度の速度変化の方向が正の方向であることによって、ステップS38で肯定的に判断された場合には、ステップS39へ進み、インホイールモータ8の温度が予め設定された閾値β以下であるか否かが判断される。すなわち、例えばサーミスタ式の温度センサによりインホイールモータ8のコイルエンド部の温度が検出され、その温度の検出値が、インホイールモータ8の定格温度を上限とするように予め設定した閾値β以下であるか否かが判断される。
インホイールモータ8の温度が閾値βすなわち定格温度よりも高いことにより、このステップS39で否定的に判断された場合は、インホイールモータ8の使用に支障をきたす可能性があるので、以降の制御は行わず、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、インホイールモータ8の温度が閾値βすなわち定格温度以下であることにより、ステップS39で肯定的に判断された場合には、ステップS40へ進み、回転速度変化があったインホイールモータ8が、正の方向で、かつ定格温度の範囲内で、なおかつ瞬時出力可能な最大トルクを出力するように制御される。
すなわち、このステップS40では、車輪ロックが発生した駆動系統12に対して、その駆動系統12におけるインホイールモータ8を制御し、その車輪ロックが発生した駆動系統12における最弱部位を破断させる方向の可及的に大きなトルクが出力される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
なお、上記のステップS35およびステップS40におけるインホイールモータ8の制御においては、それぞれインホイールモータ8で瞬時出力可能な最大トルクを出力するように構成した例を示しているが、インホイールモータ8の定格トルクと瞬時出力可能な最大トルクとを適宜使い分けて、そのインホイールモータ8でトルクを出力させるように制御することもできる。
すなわち、車輪ロック状態を解消するためにインホイールモータ8でトルクを出力する際に、先ず、車両Veの走行状態が検出される。具体的には、車両Veの車速、車両Veに加わる前後方向および横方向の加速度、車両Veに加わるヨーレート、車両Veのステアリングもしくは操舵輪の操舵角度などが検出される。そして、それらの各検出値の大きさと、それぞれに対して予め設定された各閾値との大小関係がそれぞれ比較され、それらの比較結果に基づいて、インホイールモータ8で出力させるトルクとして定格トルクと瞬時出力可能な最大トルクとのいずれか一方が選択的に設定される。
例えば、車速が所定の閾値よりも速い高速走行状態、あるいは車両Veのヨーレートセンサが所定の閾値よりも大きい走行状態、あるいは操舵角度が所定の閾値よりも大きい走行状態で、いずれかの駆動輪に車輪ロックが発生した場合は、通常の走行状態と比較して、その車輪ロックが発生した駆動輪を起点として車両Veがスピンしてしまう可能性が高くなる。したがって、上記のような車速が速い走行状態あるいはヨーレートが大きい走行状態あるいは操舵角度が大きい走行状態で車輪ロックが発生した場合は、インホイールモータ8を保護することよりも、緊急的に車両Veの挙動を安定させることを優先して、瞬時出力可能な最大トルクが選択されてインホイールモータ8から出力されるように制御される。
反対に、車速が所定の閾値よりも遅い中・低速走行状態、あるいは車両Veのヨーレートセンサが所定の閾値よりも小さい走行状態、あるいは操舵角度が所定の閾値よりも小さい走行状態で車輪ロックが発生した場合には、上記のような車速が速い走行状態あるいはヨーレートが大きい走行状態あるいは操舵角度が大きい走行状態で車輪ロックが発生した場合と比較して、車両Veがスピンしてしまうような著しい車両挙動の乱れが即座に発生する可能性は低くなる。したがって、上記のような車速が遅い走行状態あるいはヨーレートが小さい走行状態あるいは操舵角度が小さい走行状態で車輪ロックが発生した場合には、緊急的に車両Veの挙動を即座に安定させることよりも、インホイールモータ8を保護することを優先して、定格トルクが選択されてインホイールモータ8から出力されるように制御される。
したがって、車輪ロックが発生した際にその車輪ロック状態を解消させるためにインホイールモータ8がトルクを出力するように制御される場合、その時点の車両Veの走行状態に応じて、インホイールモータ8の定格トルクと、インホイールモータ8の定格温度の範囲内で瞬時出力可能な最大トルクとのいずれか一方が上限として選択されて、その選択された制限の下での最大のトルクがインホイールモータ8から出力される。そのため、可及的に定格の範囲内でインホイールモータ8が運転されるので、そのインホイールモータ8を保護することができ、また、スピンの発生など車両Veの挙動が著しく不安定になる可能性がある場合に、可及的速やかに車輪ロック状態を解消させて、車両Veの走行状態を安定的に維持することができる。
以上のように、この発明に係る車両Veの制御装置によれば、車両Veの走行中、各駆動輪1,2,3,4の駆動軸の回転速度、およびそれら各駆動輪1,2,3,4を個別に直接駆動する各インホイールモータ5,6,7,8の出力軸の回転速度がそれぞれ検出され、それら各駆動軸の回転速度の速度変化および各出力軸の回転速度の速度変化に基づいて、各駆動輪における車輪ロックの発生を検出することができる。そして、いずれかの駆動輪(例えば駆動輪4)で車輪ロックが発生したことが検出されると、その車輪ロックが発生した駆動輪4における駆動軸の回転速度変化の変化方向と同じ回転方向のトルクを出力するように、その駆動輪4に連結するインホイールモータ8が制御される。
すなわち、車輪ロックが発生した駆動輪4の駆動系統12に対して、その駆動輪4を車輪ロックしているトルクと同じ回転方向のトルクがインホイールモータ8から出力される。したがって、車輪ロックが発生した駆動系統12に作用する車輪ロック方向のトルクを更に増大させて、最終的にその駆動系統12の最弱部位を破断させて車輪ロックが発生した駆動輪4を回転フリーの状態にすることができる。そのため、走行中に車輪ロックが発生した場合であっても、その車輪ロックが発生した駆動系統12の一部をインホイールモータ8の出力により強制的に破断させることができる。その結果、車輪ロック状態を速やかに解消させることができ、車両Veの走行状態を安定的に維持することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS11ないしS13、ステップS21ないしS23、ステップS25ないしS27、ステップS31ないしS33、ステップS36ないしS38を実行する機能的手段が、この発明における「駆動軸回転検出手段」および「電動機回転検出手段」ならびに「車輪ロック検出手段」に相当する。そして、ステップS14、ステップS24、ステップS28、ステップS34,S35、ステップS39,S40を実行する機能的手段が、この発明における「出力制御手段」に相当する。