以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる鍵盤装置を備えた電子鍵盤楽器の全体構成を示すブロック図である。同図に示す電子鍵盤楽器1は、後述する複数の鍵20を有してなる鍵盤装置10と、ペダル装置52と、鍵盤装置10やペダル装置52を含む電子鍵盤楽器1の全体を制御するための主制御部50とを備えている。鍵盤装置10とペダル装置52及び主制御部50など電子鍵盤楽器1の各部は、バス51を介して互いに接続されている。
図2は、鍵盤装置10を示す図であり、鍵20及びその周辺の概略側面図である。また、図3は、鍵盤装置10が備える後述する電磁アクチュエータ40及びその周辺の詳細構成を示す部分拡大側面図である。また、図4は、鍵盤装置10の動作を説明するための図で、(a)は、鍵20が非押鍵位置にある状態を示し、(b)は、鍵20が押鍵位置にある状態を示している。鍵盤装置10は、電子鍵盤楽器1の一部である平板状のフレーム11と、それぞれがフレーム11に対して回動可能に支持された鍵20及び質量体(擬似ハンマ)30と、鍵20と質量体30の間に設置した電磁アクチュエータ(駆動力付与手段)40とを備えて構成されている。なお、以下の説明では、鍵20の長手方向における両側のうち、電子鍵盤楽器1の演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。なお、図2では、鍵盤装置10が備える並設された複数の鍵20のうち、1個の鍵20及びその周辺の構成部品を示している。また、同図では、鍵20が白鍵である場合を示しているが、黒鍵の場合も同様の構成になっている。なお、図示は省略するが、鍵盤装置10には、鍵20の動作に応じた楽音を発生させるように、鍵20の動作を電気的な出力に変換するためのスイッチ接点機構も設けられている。
鍵20は、前後方向の中間の位置がフレーム11上の鍵支点12に支持されている。鍵支点12は、フレーム11上で鍵20の配列方向に沿って延びるバランスレール12aの上に立設した支点ピン12bを備えており、鍵20は、支点ピン12bに支持されている。鍵20は、前端20a及び後端20bが鍵支点12を中心に上下方向へ回動可能であり、演奏者による押鍵部20cへの押鍵操作に応じて回動するようになっている。また、鍵20の前端20aの下方には、フロントピン13が立設されている。フロントピン13は、その上端が鍵20の裏面側に挿入されており、回動する鍵20の前端20aの横方向の振れを規制するものである。
鍵20の後端20bの下方には、鍵上限ストッパー21が設置されており、前端20aの下方には、鍵下限ストッパー22が設置されている。鍵上限ストッパー21及び鍵下限ストッパー22は、いずれもフレーム11の上面に固定されたフェルトなどの緩衝材を備えて構成されている。鍵上限ストッパー21は、図4(a)に示す非押鍵位置にある鍵20の後端20bの下面に当接し、鍵20の回動を非押鍵位置で規制する。一方、鍵下限ストッパー22は、図4(b)に示す押鍵位置にある鍵20の前端20aの下面に当接し、鍵20の回動を押鍵位置で規制する。
また、鍵支点12より後方のフレーム11上には、質量体30を支持するための柱状の支持部14が設けられている。支持部14は、フレーム11上で隣接する鍵20の間から複数鍵域ごとに1つの割合で各鍵20の真上に張り出している。この支持部14は、所定間隔で前後に配置された前壁14aと後壁14bを備えている。前壁14aと後壁14bは、いずれも垂直に立設されて、鍵20よりも高い位置まで延びている。
支持部14に支持された質量体30は、各鍵20に対応して設置されており、鍵支点12よりも後側の真上位置に設置されている。質量体30は、支持部14の前壁14aの上端に設けた質量体支点31から後方に延びる直線棒状のシャンク部32と、該シャンク部32の先端に取り付けた所定の質量を有する質量部(錘)33とを備えて構成されている。シャンク部32は、質量体支点31に回動自在に支持されており、鍵20の長手方向に沿う垂直面内で上下に回動するようになっている。質量部33は、シャンク部32の先端においてその回動方向に沿って延びる棒状に形成されている。この質量体30は、質量体支点31を中心にシャンク部32を腕として質量部33が鍵20の後端近傍の上方で上下方向に回動するようになっている。
支持部14の後壁14bには、質量体30の回動を規制するための質量体上限ストッパー34及び質量体下限ストッパー35が設けられている。質量体下限ストッパー35は、下限位置に回動した質量体30のシャンク部32を当接させるものであり、質量体上限ストッパー34は、上限位置に回動した質量体30のシャンク部32を当接させるものである。これら質量体下限ストッパー35及び質量体上限ストッパー34によって、質量体30は、図4(a)に示すように、シャンク部32が質量体支点31から後側の斜め下方向に延びる下限位置と、図4(b)に示すように、シャンク部32が質量体支点31から後側の略水平方向に延びる上限位置との間で回動するように規制される。質量体30は、後述するプランジャ42を介して鍵20の動作に連動するようになっており、電磁アクチュエータ40との協働によって、鍵20にその演奏操作に対する反力を与えるものである。
鍵20及び質量体30に所定の駆動力を付与するための電磁アクチュエータ(駆動力付与手段)40は、鍵支点12より後側の鍵20の上面と、質量体30のシャンク部32との間に設置されている。電磁アクチュエータ40は、双方向駆動型のアクチュエータであり、上下に同軸状に並べて設置した往動コイル41a及び復動コイル41bの二個のソレノイドコイルと、往動コイル41a及び復動コイル41bの内側に嵌挿された1本のプランジャ42とを備えて構成されている。また、往動コイル41a及び復動コイル41bの外周には、それらを囲むヨーク40a,40bが設置されている。
ヨーク40a,40bは、その後側面が平板状のプレート15を介して支持部14の後壁14bの前面に固定されている。したがって、往動コイル41a及び復動コイル41bは、固定側である支持部14及びフレーム11に固定されている。プランジャ42は、往動コイル41a及び復動コイル41bの内側で上下方向に摺動(往復動)自在に設置された柱状の強磁性体からなる胴部42aと、胴部42aの上端に連結した第1ロッド42b及び下端に連結した第2ロッド42cを備えている。胴部42aと第1ロッド42b及び第2ロッド42cの軸芯は、垂直方向に向かって一直線状に配列されている。第1ロッド42bの上端には、平板状の板部材43が固定されている。板部材43は、第1ロッド42bの上端に固定された水平面状の本体部43aと、該本体部43aの前端から垂直下方に延びる前辺43bとを有し、横断面が略L字型に形成されている。
板部材43の本体部43aの上面には、水平面状の上面44aを有する台部材44が固定されている。一方、質量体30のシャンク部32における台部材44に対向する位置には、円筒状のローラ36が取り付けられている。ローラ36は、鍵20の配列方向に沿う水平向きの回転軸36bを中心に回転自在に設置されている。そして、台部材44の上面44aには、緩衝作用を有する緩衝シート91が貼付されており、さらに、緩衝シート91の上面には、表面の摩擦低減効果を有する低摩擦シート92が重ねて貼付されている。これにより、ローラ36の下側面(円筒面)36aが低摩擦シート92の表面に載置されている。
一方、プランジャ42の第2ロッド42cの下端には、プランジャキャップ85が取り付けられている。プランジャキャップ85の下面85bには、緩衝作用を有する緩衝シート(緩衝部材)93が貼付されており、さらに、緩衝シート93の下面には、表面の摩擦低減効果を有する低摩擦シート94が重ねて貼付されている。これにより、キャプスタンスクリュー25の頭部27の上面27aが低摩擦シート94の表面に当接している。
上記の緩衝シート91,93の具体例として、衝撃吸収性に優れた人工皮革シートなどを用いることができる。緩衝シート91,93による緩衝作用を調節するためには、緩衝シート91,93を所定の厚さ寸法に設定するとよい。また、低摩擦シート92,94の具体例として、表面の摩擦係数が極めて低い超高分子量ポリエチレン製のシートなどを用いることができる。
電磁アクチュエータ40は、往動コイル41a及び復動コイル41bに駆動電流が供給されることで、プランジャ42を双方向へ駆動するようになっている。すなわち、復動コイル41bに駆動電流が供給されると、プランジャ42は下側へ移動する。これにより、プランジャ42から鍵20の鍵支点12よりも後側に対して下向きの荷重が付与されるので、鍵20の離鍵方向へかかる荷重が増加する。一方、往動コイル41aに駆動電流が供給されると、プランジャ42は上側へ移動する。これにより、プランジャ42から鍵20の鍵支点12よりも後側に対して下向きにかかる荷重が軽減されるので、鍵20の離鍵方向へかかる荷重が減少する。
すなわち、鍵20は、プランジャ42を介して質量体30からかかる荷重(質量体30の質量による荷重)で離鍵方向へ付勢されており、該鍵20は、電磁アクチュエータ40による質量体30からの荷重の低減に伴い、押鍵方向に回動するように構成されている。この場合、鍵20は、非押鍵時には、自重による押鍵方向への付勢力よりも質量体30からの離鍵方向への荷重の方が大きいため、押鍵方向への付勢力が打ち消された状態で離鍵位置に停止している。そして、電磁アクチュエータ40の駆動力による質量体30からの荷重の低減に伴い、鍵20の自重による押鍵方向への付勢力が次第に質量体30からの離鍵方向への荷重よりも大きくなることで、押鍵位置へ回動するようになっている。
また、鍵盤装置10には、プランジャ42(プランジャ42)の位置を検出するための位置センサ(動作検出手段)47が設置されている。位置センサ47は、図3に示すように、ヨーク40a,40bの前側面に設けた受光部47aと、板部材43の前辺43bにおける受光部47aに対向する位置に設けた反射面47bとを備え、反射面47bで反射した光を受光部47aで受光するように構成した反射式センサである。反射面47bは、上下方向の各位置の反射光量が連続的に変化するように構成されている。したがって、受光部47aの出力信号に基づいてプランジャ42の位置を一義的に特定できる。
次に、図1に示す主制御部50について説明する。主制御部50は、CPU51、ROM52、RAM53、フラッシュメモリ(EEPROM)54を備えている。また、CPU51にはタイマ55が接続されている。CPU51は、鍵盤装置10を含む電子鍵盤楽器1全体の制御を司る。ROM52やフラッシュメモリ54には、CPU51が実行する制御プログラムや各種テーブルデータのほか、後述する力覚付与テーブル75及び自動演奏データ76が記憶されている。RAM53は、演奏データ、テキストデータなどの各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算処理結果などを一時的に記憶する。タイマ55は、タイマ割り込み処理における割り込み時間などの各種時間を計時する。
また、電子鍵盤楽器1には、主制御部50のほか、設定操作部61、表示装置63、音声出力部65、外部記憶装置66、HDD67、通信インターフェイス68、MIDIインターフェイス69などが設けられている。通信インターフェイス68には、外部装置71を接続でき、MIDIインターフェイス69には、MIDI機器72を接続できる。また、通信インターフェイス68は、インターネットなどの通信ネットワーク73を介して外部のサーバ装置74との間で通信を行えるようになっている。設定操作部61には、演奏者が設定操作情報を入力するために用いる不図示の各種スイッチなどが含まれ、スイッチの操作による信号がCPU51に供給されるようになっている。外部記憶装置66やHDD67は、上記の制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや各種楽曲データなどを記憶するものである。表示装置63は、表示制御回路62を介してバス51に接続されており、音声出力部65は、音源回路64を介してバス51に接続されている。
図5は、鍵20の駆動を制御するための駆動制御回路を含む鍵盤装置10の概略構成を示す図である。同図に示すように、鍵盤装置10の駆動制御回路は、主制御部50と、主制御部50の指令に応じて電磁アクチュエータ40の往動コイル41a又は復動コイル41bに駆動用のPWM(パルス幅変調)信号を出力する制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59を備えている。主制御部50は、図1に示す構成であって、力覚付与テーブル75及び自動演奏データ76を記憶したROM52を備えている。位置センサ47によって検出されたプランジャ42の位置情報は、主制御部50に出力されるようになっている。主制御部50からの制御信号は、制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59に入力される。制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59は、主制御部50からの制御信号に基づいて、電磁アクチュエータ40の往動コイル41a又は復動コイル41bに駆動電流を供給する。
図6は、ROM52に格納された力覚付与テーブル75の構成例を示す図である。力覚付与テーブル75は、電磁アクチュエータ40が発生すべき駆動力のパターンを格納したテーブルである。さらに、力覚付与テーブル75には、押鍵用テーブル81と離鍵用テーブル82とが用意されている。また、これら押鍵用テーブル81,離鍵用テーブル82はそれぞれ、反力パターンテーブル81a,82aと指令値テーブル81b,82bを備えている。反力パターンテーブル81a,82aは、位置センサ47の検出値(または該検出値から算出したプランジャ42の速度、加速度などの値)の信号に対する出力値を参照するためのテーブルである。また、指令値テーブル81b,82bは、制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59に上記の出力値を発生させる指令値を参照するためのテーブルである。
次に、上記構成の鍵盤装置10の動作について説明する。鍵20は、鍵支点12の前後の質量(自重)バランスによって生じる押鍵方向への付勢力と、プランジャ42を介してかかる質量体30からの荷重との大小関係によって、押鍵力が作用していない状態では、後端20bの下面が鍵上限ストッパー21に当接し、前端20aの押鍵部20cが最上位置に上昇しており、図4(a)に示す非押鍵位置にある。このとき、質量体30は、シャンク部32が質量体下限ストッパー35に当接した下限位置にある。一方、非押鍵位置にある鍵20が押鍵操作されると、鍵20は、プランジャ42を介して質量体30を押し上げながら鍵支点12を中心に押鍵方向へ回動する。こうして、前端20aの下面が鍵下限ストッパー22に当接する位置まで回動し、図4(b)に示す押鍵位置となる。鍵20が押鍵位置のとき、プランジャ42を介して鍵20によって押し上げられた質量体30は、シャンク部32が質量体上限ストッパー34に当接する上限位置にある。そして、鍵20に対する押鍵力が解除されると、鍵20には、自重で下方へ回動する質量体30からプランジャ42を介して荷重が加わる。鍵20は、この荷重と自重バランスとの両方によって非押鍵位置へ復帰する。
このような質量体30の慣性質量を利用した鍵20の動作が行われる際に、電磁アクチュエータ40でプランジャ42を双方向へ駆動することで、質量体30から鍵20にかかる付勢力をアシストあるいは軽減することができる。したがって、主制御部50により電磁アクチュエータ40の駆動を制御することで、押鍵操作に対する反力の力覚制御を行うことができる。
押鍵操作に対する力覚制御についてさらに説明する。本実施形態の鍵盤装置10では、アコースティックピアノでアクション機構の作用に基づいて指に感じられる独特の鍵タッチ感(抵抗感)を再現すべく、電子鍵盤楽器1の演奏時に電磁アクチュエータ40でプランジャ42を駆動することで、当該アコースティックピアノの鍵タッチ感に相当する反力特性を鍵20に付与するようになっている。この反力特性は、鍵20の位置によって刻々と変化するものである。したがって、上記の力覚制御を行う際には、位置センサ47で検出したプランジャ42の位置情報に基づいた駆動力の付与が行われる。すなわち、まず、位置センサ47による検出データが主制御部50に出力される。主制御部50では、位置センサ47の検出データに基づくプランジャ42の位置情報と、ROM52に記憶された力覚付与テーブル75を参照することにより、制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59に対する指令が出される。制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59では、主制御部50の指令に基づいて、駆動電流が往動コイル41a又は復動コイル41bに供給される。こうして、往動コイル41a又は復動コイル41bの駆動で、プランジャ42に質量体30側又は鍵20側への駆動力が付与される。なお、ここでは、力覚付与テーブル75を参照して電磁アクチュエータ40での駆動力を決定する場合について説明したが、力覚付与テーブル75を参照せずに、位置センサ47で検出したプランジャ42の位置情報からの演算で電磁アクチュエータ40での駆動力を決定してもよい。
図7は、電磁アクチュエータ40による力覚制御を行った場合の鍵20の変位(押鍵量)と鍵20から押鍵操作をする指にかかる反力との関係を示すグラフであり、(a)、(b)はそれぞれ、鍵20を比較的ゆっくりと押鍵操作したときと離鍵操作したときの反力分布(いわゆる静特性)である。
本実施形態の鍵盤装置10における鍵20の力覚制御では、鍵20にかかる質量体30の質量あるいは慣性負荷を含む機械的構造によって生じる反力L1と、電磁アクチュエータ40で鍵20に付与される反力L2とを合わせたもの(図7の一点鎖線)が、押鍵操作を行う演奏者の指にかかる反力となる。この演奏者の指にかかる反力の分布は、質量体30の反力L1と電磁アクチュエータ40で付与される反力L2との協働によるものであり、それによってアコースティックピアノの反力分布を再現したものとなっている。
ここで、鍵20の操作に対する反力の分布について詳細に説明する。まず、図7(a)に示す押鍵操作の場合を説明する。この場合、押鍵操作を行う演奏者の指にかかる反力は、押鍵量がゼロのときの初期値(荷重ゼロ)から、次に説明する領域A,領域B,領域C,領域Dの四箇所の変化を含む分布になっている。
領域Aは、押鍵初期において、静止状態にある鍵20及び質量体30の持ち上げが開始される際の静荷重による反力分布である。押鍵初期には、まだ電磁アクチュエータ40によるプランジャ42の駆動は無く、鍵20には質量体30からの反力のみが作用している。この領域Aは、静止状態にある鍵20及び質量体30の静荷重によるものであるが、アコースティックピアノの押鍵に対する反力特性でも、押鍵初期には、鍵及びハンマの持ち上げによって同様の分布が現れる。領域Bは、電磁アクチュエータ40によるプランジャ42の駆動が開始された際の反力分布である。この領域Bでは、アコースティックピアノのアクション機構で、鍵によるダンパーの持ち上げが開始される際に鍵にかかる反力が再現されている。
領域Cは、領域Bよりも若干小さい反力の増加量であり、電磁アクチュエータ40の駆動で創生される反力分布である。領域Cでは、アコースティックピアノでの押鍵途中にアクション機構の各部が動作することで鍵に付与される反力が再現されている。領域Dは、電磁アクチュエータ40の駆動で創生される反力の急激かつ大きな増加及び減少を伴う山型の分布である。この領域Dでは、アコースティックピアノのアクション機構における、いわゆるジャック抜けに伴い鍵にかかる負荷の急激な変化が再現されている。なお、領域Dの後に質量体30から鍵20にかかる反力L1が再度急激に上昇しているが、これは、質量体30が質量体上限ストッパー34から受ける反力、あるいは鍵20が鍵下限ストッパー22から受ける反力によるものである。
また、図7(b)に示す離鍵操作の反力分布では、領域Dのジャック抜け荷重に対応する反力が無いが、それ以外は、概ね図7(a)の押鍵操作の場合と同様である。この場合も、アコースティックピアノの鍵操作に対する反力分布が再現されている。
このように、本実施形態の鍵盤装置10では、質量体30の作用を含む機械的構造によって生じる反力L1と、電磁アクチュエータ40で創生された反力L2とが合成された反力によって、複雑なアクション機構を有するアコースティックピアノの鍵操作に対して指にかかる反力の分布が忠実に再現されている。
一方、鍵盤装置10では、電磁アクチュエータ40によって、プランジャ42を押鍵に対する反力を鍵20に与える方向とは逆の方向(この場合は上方)へ駆動することで、鍵20に対して離鍵方向へ作用する力を低減することができる。したがって、演奏者による鍵20の操作が行われておらず、鍵20が非押鍵位置に停止している状態で、電磁アクチュエータ40でプランジャ42を上方へ駆動すれば、鍵20が自重で押鍵方向へ回動する。この動作を利用すれば、演奏者による押鍵操作が無くても、鍵20を自動的に動作させることができる。したがって、電子鍵盤楽器1において、鍵20の自動動作(無人動作)を伴う自動演奏が可能となる。
この自動演奏では、ROM52に記憶された自動演奏データ76に基づき、主制御部50から制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59に対して自動演奏に関する指令が出される。制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59は、当該指令に基づいて往動コイル41aに駆動電流を供給する。これにより、往動コイル41aの駆動でプランジャ42が上方(質量体30側)へ移動して、鍵20は、押鍵位置へ回動する。一方、往動コイル41aに対する駆動電流の供給を停止すれば、質量体30からの荷重でプランジャ42が下方(鍵20側)へ移動する。これにより、プランジャ42から鍵20に離鍵方向の荷重がかかり、鍵20は離鍵位置へ回動する。このような動作が自動演奏データ76による鍵20の動作情報に合わせたタイミングで行われることで、演奏音に合致した動作を鍵20に行わせることができる。
ここで、鍵20を離鍵方向へ回動させるには、上記のように往動コイル41aに対する駆動電流の供給を停止することで、質量体30からの荷重でプランジャ42を下方(鍵20側)へ移動させて行う以外にも、復動コイル41bでプランジャ42を下方へ駆動することで、電磁アクチュエータ40による鍵20の離鍵方向へ駆動を伴って行うことも可能である、すなわち、鍵20を離鍵方向へ回動させる際、鍵20に対して質量体30から付与される反力に加えて、電磁アクチュエータ40で鍵20に対して離鍵方向への駆動力を付与する。このようにすれば、離鍵方向へ移動する鍵20の動作応答性を向上させることができる。したがって、鍵20の動作の見かけを良好にすることができ、自動演奏の質を向上させることができる。
また、鍵20の自動動作では、自動演奏データ76に基づいて電磁アクチュエータ40による双方向の駆動制御を行うことで、鍵20の押鍵方向及び離鍵方向の動作速度を制御するとよい。このようにすれば、自動演奏データ76に基づいて電磁アクチュエータ40が双方向に駆動制御されることで、押離鍵動作に伴う鍵20の移動速度を所望の速度に調節することが可能となる。したがって、速い押離鍵動作や遅い押離鍵動作を視覚的に再現することができるようになり、自動演奏の質を向上させることができる。
ここで、鍵20と質量体30はそれぞれ、鍵支点12と質量体支点31を中心とした回動動作を行う一方、プランジャ42は、往動コイル41a及び復動コイル41bの内側で軸方向に直線動作を行う。したがって、鍵20、質量体30、プランジャ42が一体に動作する際には、プランジャ42の上端に設置した台部材44と質量体30のローラ36との間で摺動が生じる第1摺動部48では、上下に直動する台部材44の上面44aに設置した低摩擦シート92が、質量体30の動作に伴って回動するローラ36の下側面36aに対して摺接移動する。また、プランジャ42の下端と鍵20のキャプスタンスクリュー25との間で摺動が生じる第2摺動部49では、上下に直動するプランジャキャップ85の下面85bに設置した低摩擦シート94が鍵20の動作に伴って回動するキャプスタンスクリュー25の頭部27の上面27aに対して摺接移動する。
図8は、本実施形態の鍵盤装置10が備える低摩擦シート92,94の作用を説明するための図で、鍵盤装置10における鍵20の変位(押鍵量)と鍵20から押鍵操作をする指にかかる反力との関係の静特性を示すグラフである。そして、同図(a),(b)は、質量体30の作用を含む機械的構造によって生じる反力L1のみ(電磁アクチュエータ40による駆動力L2を除いた反力)の分布を示すグラフであって、同図(a)は、第1摺動部48及び第2摺動部49に低摩擦シート92,94を設けていないと仮定した場合の変化を示すグラフであり、同図(b)は、低摩擦シート92,94を設けた場合の変化を示すグラフである。また、同図(c)は、同図(b)に示す反力L1に対して、電磁アクチュエータ40による駆動力L2を付加した合計反力L1+L2の変化を示すグラフである。また、同図(d)は、アクション機構を有する従来のアコースティックピアノにおける反力の分布を示すグラフである。
既述のように、本実施形態の鍵盤装置10では、第1摺動部48及び第2摺動部49に設置した低摩擦シート92,94によって、質量体30とプランジャ42との間、及びプランジャ42と鍵20との間の摺動による摩擦を効果的に低減できる。これによって、図8(b)に示す低摩擦シート92,94を設けた場合の押鍵過程と離鍵過程とにおける機械的な構造によって生じる反力L1の差D2は、図8(a)に示す低摩擦シート92,94を設けていない場合の反力L1の差D1よりも小さくなる。(D1>D2)。したがって、図8(c)に示す機械的構造によって生じる反力L1に電磁アクチュエータによる駆動力L2を付加した反力L1+L2の変化を、図8(d)に示すアコースティックピアノにおける反力の分布により近づけることができる。
このように、本実施形態の鍵盤装置10では、鍵20及び質量体30は、それぞれの支点12,31を中心とした回動動作を行う一方、プランジャ42は、軸方向に直線動作を行う。したがって、プランジャ42と鍵20との間で摺動が生じる第1摺動部48と、プランジャ42と質量体30との間で摺動が生じる第2摺動部49では、摺動に伴う摩擦が発生する。この摩擦を低減するための対策として、本実施形態では、台部材44の上面44aに超高分子量ポリエチレンからなる低摩擦シート92を設置し、かつ、プランジャキャップ85の下面85aにも、超高分子量ポリエチレンからなる低摩擦シート94を設置している。これにより、第1摺動部48又は第2摺動部49の摺動による摩擦を効果的に低減できるので、鍵20又は質量体30とプランジャ42との相対的な摺動を低摩擦で滑らかに行わせることができ、鍵20のスムーズな駆動が実現できる。また、電磁アクチュエータ40の駆動による力覚制御で生成した駆動力を鍵20に対して正確に伝達することができるので、鍵20の操作感覚を所望のタッチ感に制御可能となる。
また、本実施形態では、台部材44の上面44aには、低摩擦シート92に加えて緩衝作用を有する緩衝シート91を設置しており、プランジャキャップ85の下面85bには、低摩擦シート94に加えて緩衝作用を有する緩衝シート93を設置している。これら緩衝シート91,93によって、直動するプランジャ42と回動する鍵20又は質量体30との当接に対する緩衝作用を付与できる。したがって、第1摺動部48又は第2摺動部49で生じる振動や騒音(メカノイズなど)も低減することができる。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。これらの点は、他の実施形態についても同様である。
図8及び図9は、本発明の第2実施形態にかかる鍵盤装置10−2が備える電磁アクチュエータ40及びその周辺の詳細構成を示す部分拡大側面図で、図8は、鍵20がエンド位置にあるときの状態を示す図、図9は、鍵20がレスト位置にあるときの状態を示す図である。また、図10(a),(b)はそれぞれ、鍵盤装置10−2におけるプランジャ42と質量体30の間で摺動が生じる第1摺動部48−2と、プランジャ42と鍵20との間で摺動が生じる第2摺動部49−2を示す部分拡大図である。本実施形態の鍵盤装置10−2は、第1実施形態の鍵盤装置10と比較して、第1摺動部48−2と第2摺動部49−2に配置した部品の構成が異なっている。その他の構成は、第1実施形態の鍵盤装置10と同じである。
すなわち、本実施形態の鍵盤装置10−2が備える第1摺動部48−2は、質量体30のシャンク部32の下面32bに取り付けた突起部材95と、台部材44の上面44aに取り付けた摩擦低減部材96とを当接させた構成である。突起部材95は、円弧面状に形成された下面95bを有する半円柱状の鋼材からなる。また、摩擦低減部材96は、所定の厚みを有する板状に形成された低摩擦特性を有するゲル状部材であって、ここではDN(DN:ダブルネットワーク)ゲル又はDN−Lゲルが用いられている。DNゲル又はDN−Lゲルの詳細については下記で説明する。そして、シャンク部32の下面32bと台部材44の上面44aとの間には、摩擦低減部材96を囲繞してなる伸縮性フィルム97が取り付けられている。伸縮性フィルム97は、合成樹脂製のフィルム部材を筒状に形成したもので、その上端97aがシャンク部32の下面32bにおける突起部材95の周囲に固定されており、下端97bが台部材44の上面44aにおける摩擦低減部材96の周囲に固定されている。伸縮性フィルム97の内側には、エチレングリコールからなる溶媒98が充填されていて、摩擦低減部材96は、この溶媒98に浸されている。
また、プランジャ42と鍵20との間に設けた第2摺動部49−2は、キャプスタンスクリュー25の頭部27の上面27aに取り付けた低摩擦特性を有するゲル状部材からなる摩擦低減部材86をプランジャキャップ85の下面85bに当接させた構成である。低摩擦特性を有するゲル状部材からなる摩擦低減部材86は、第1摺動部48−2に設置した摩擦低減部材96と同じDNゲル又はDN−Lゲルで構成されている。そして、プランジャキャップ85とキャプスタンスクリュー25の頭部27との間には、摩擦低減部材86を囲繞する伸縮性フィルム87が取り付けられている。伸縮性フィルム87は、合成樹脂製のフィルム部材を筒状に形成したもので、上端87aがリング状の止めバンド83でプランジャキャップ85の外周面に固定されており、下端87bがリング状の止めバンド84でキャプスタンスクリュー25の頭部27の外周面に固定されている。伸縮性フィルム87の内側には、エチレングリコールからなる溶媒88が充填されていて、摩擦低減部材86は、この溶媒88に浸されている。
ここで、摩擦低減部材86を構成するDNゲル又はDN−Lゲルについて説明する。DNゲル又はDN−Lゲルに関しては、「新材料・新素材シリーズ 医療用ゲルの最新技術と開発・吉田亮監修・シーエムシー出版・2008/01/11出版」(以下、「参考文献1」という。)、「論文 高強度高分子ゲルの摩擦特性・島津栄一郎,江上正樹,黒川孝幸,Jian Ping GONG・NTN TECHINICAL REVIEW No,76(2008)」(以下「参考文献2」という。)、国際公開WO2003/093337号公報(以下、「参考文献3」と称す。)などに詳細な構造説明及びその特性についての記載がある。以下のDNゲル又はDN−Lゲルに関する説明は、参考文献1乃至3に記載された内容のうち、DNゲル又はDN−Lゲルの構造及び製造方法に関連する記載を引用したものである。以下の説明により、本実施形態の摩擦低減部材96,86を構成するゲル状部材であるDNゲル又はDN−Lゲルの技術説明とする。
DNゲルは、第一のモノマー成分を重合し架橋することにより形成された網目構造中に、第二のモノマー成分を導入し、第二のモノマー成分を重合し架橋することにより得られる相互侵入網目構造ハイドロゲルの一実施態様である。相互侵入網目構造ハイドロゲルとは、ベースとなる網目構造に、他の網目構造が、ゲル全体において均一に絡みついており、結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。そして、DN(ダブルネットワーク)ゲルとは、強電解質で剛直なpoly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid)gel(PAMPSゲル)を1stネットワーク、とし、中性で柔軟なpoly-acrylamide(PAAm)を2ndネットワークとした相互侵入網目ゲル(IPNゲル)である(参考文献1)。また、DN−Lゲルとは、DNゲルの内部にPAMPSのリニアポリマーを導入し、表面グラフト化したものである(参考文献1)。なお、上記の相互侵入網目構造ハイドロゲルは、ダブルネットワークゲルのみでなく、三重や四重以上の網目構造を有するゲルをも含む概念である。
上記の相互侵入網目構造ハイドロゲル(又はセミ相互侵入網目構造ハイドロゲル)の製造方法については、参考文献3に次の記載がある。「本発明に係るゲルの製造方法を説明する。まず、第二のモノマー成分(電気的に中性である不飽和モノマーを60モル%以上含む)及び重合開始剤(相互侵入網目構造ハイドロゲルの場合には架橋剤も)を含有する溶液を調製する。続いて、第一の網目構造を有するゲル{第一のモノマー成分(電荷を有する不飽和モノマーを10モル%以上含む)を重合・架橋することにより形成されたシングルネットワークゲル}をこの溶液に浸漬し、充分な時間をおいて、第二のモノマー成分及び重合開始剤(相互侵入網目構造ハイドロゲルの場合には架橋剤も)をゲル内に拡散させる。次いで、溶液からゲルを取り出し、このゲル中の第二のモノマー成分を重合(相互侵入網目構造ハイドロゲルの場合には架橋も)することにより、第一の網目構造の網目に絡まる第二の網目構造(相互侵入網目構造ハイドロゲルの場合)又は直鎖状ポリマー(セミ相互侵入網目構造ハイドロゲルの場合)が形成される結果、二重網目構造を有するゲルを製造することができる。更に、上記手順と同様の手法で、上記のシングルネットワーク型ゲルではなく、多重網目構造を有するゲルを用いることにより、三重以上の相互侵入網目構造ゲルも製造可能である。」
DNゲルの特性として、参考文献1に次の記載がある。「合成されたDNゲルは、驚くべき破断応力を示した。PAMPSゲルは、0.4MPa、PAAmゲルは0.7Mpaという弱い圧力で破壊されてしまうが、DNゲルは、通常の組成では約20MPa,圧縮破壊強度に特化した組成では約60MPaもの圧力に耐えることが出来た。これは原料となるゲルのおよそ50〜200倍であり、生体軟骨に日常的に掛かっている圧力(3〜18MPa)をも凌駕する値となっている。(中略)DNゲルは、他の力学的特性も大変優れている。引張試験においてDNゲルの破壊エネルギーを測定したところ、100〜1000J/m2という非常に高い値(PAMPSゲルおよそ1000倍)を示した。また、引張試験による測定では最大で2000%という大きな破断伸びを示した。このように、DNゲルは高い圧縮破断応力や破壊エネルギー、伸縮性などを示す非常に優れた物質であることが分かった。」
また、参考文献2には、DNゲルは親水性であり、通常、溶媒には水が用いられる旨が記載されている。また、同文献には、水よりも低凝固点及び高沸点であるエチレングリコールをDNゲルの溶媒として用いることが記載されている。
また、DN−Lゲルの特性として、参考文献1に次の記載がある。「DN−LゲルはDNゲルと同程度の強度を保ちつつ、その摩擦係数は約10-4と、前項で述べた低摩擦ゲルに匹敵するほどの低い値を持つ。これはDNゲルに対して1/100〜1/1000という非常に低い値であり、生体関節軟骨の摩擦係数(0.005〜0.03)を遥かに凌駕するものである。」
本実施形態の鍵盤装置10−2の説明に戻る。鍵盤装置10−2では、第1実施形態の鍵盤装置10と同様、鍵20がレスト位置とエンド位置の間で移動することで、プランジャ42及び質量体30が、図8に示す最上点と図9に示す最下点との間を移動する。この移動において、質量体30のシャンク部32に取り付けた突起部材95は、質量体支点31を中心に回動し、台部材44の上面44aに取り付けた摩擦低減部材96は、プランジャ42と一体に上下に直動する。同様に、鍵20の上面20dに取り付けたキャプスタンスクリュー25は、鍵支点12を中心に回動し、プランジャキャップ85の下面85bに取り付けた摩擦低減部材86は、プランジャ42と一体に上下に直動する。したがって、回動する突起部材95と直動する摩擦低減部材96との当接箇所、及び回動するキャプスタンスクリュー25の頭部27と直動する摩擦低減部材86との当接箇所には、摺動による摩擦が必然的に発生する。この場合、摩擦低減部材96,86として、上記のDNゲル(又はDN−Lゲル、以下同じ。)を用いたことで、第1摺動部48−2及び第2摺動部49−2の摺動による摩擦を効果的に低減できる。したがって、鍵20及び質量体30とプランジャ42との非常に滑らかな摺動が可能となり、鍵20及び質量体30のスムーズな動作を得ることができる。
また、本実施形態では、DNゲルからなる摩擦低減部材96,86をエチレングリコールからなる溶媒88,98に浸していることで、DNゲルに所望の摩擦低減効果を持たせることができる。これにより、第1摺動部48−2及び第2摺動部49−2における効果的な低摩擦を実現できる。また、第1摺動部48−2で質量体30と台部材44とに固定された伸縮性フィルム97、及び第2摺動部49−2で鍵20とプランジャキャップ85とに固定された伸縮性フィルム87は、薄膜状でかつ伸縮性を有しているので、質量体30とプランジャ42の動作が互いに干渉を受けずに済み、かつ、鍵20とプランジャ42の動作が互いに干渉を受けずに済む。したがって、その点においても、鍵20及び質量体30とプランジャ42とのスムーズな動作を確保することができる。
既述のように、本実施形態の鍵盤装置10−2では、第1摺動部48−2及び第2摺動部49−2に設置したDNゲルからなる摩擦低減部材96,86によって、質量体30とプランジャ42との間、及びプランジャ42と鍵20との間の摺動による摩擦を効果的に低減できる。これによって、本実施形態の鍵盤装置10−2でも、第1実施形態の鍵盤装置10の作用について説明した図8(b)及び(c)のグラフと同様の効果が得られる。すなわち、摩擦低減部材96,86を設けた場合の押鍵過程と離鍵過程とにおける機械的な構造によって生じる反力の差は、摩擦低減部材96,86を設けていない場合の反力の差よりも小さくなる。したがって、機械的構造によって生じる反力に電磁アクチュエータによる駆動力を付加した合計反力の変化を、アコースティックピアノにおける反力の分布により近づけることができる。なお、この点は、後述する第3実施形態の鍵盤装置10−3においても同様である。
以上説明したように、本実施形態の鍵盤装置10−2によれば、直動するプランジャ42と回動する鍵20との間で摺動が生じる第1摺動部48−2、及び直動するプランジャ42と回動する質量体30との間で摺動が生じる第2摺動部49−2に、当該摺動による摩擦を低減するためのDNゲルからなる摩擦低減部材96,86を備えたことで、第1摺動部48−2又は第2摺動部49−2の摺動による摩擦を効果的に低減できる。また、この摩擦の低減によって、第1摺動部48−2又は第2摺動部49−2で生じる振動・騒音も低減できる。さらに、DNゲルが有する弾力性によって、直動するプランジャ42と回動する鍵20又は質量体30との当接に対する緩衝作用を付与できる。これによっても、第1摺動部48−2又は第2摺動部49−2で生じる振動・騒音を低減できる。
そして、参考文献1乃至3によれば、上記の摩擦低減部材96,86として用いるDNゲルは、圧縮変形などに対して非常に高い強度を有するゲル状部材である。したがって、このDNゲルを第1摺動部48−2又は第2摺動部49−2に設置することで、第1摺動部48−2又は第2摺動部49−2の摺動で発生する摩擦を効果的に低減しながら、第1摺動部48−2又は第2摺動部49−2に必要な強度及び耐久性を十分に確保できるようになる。
なお、本実施形態では、第1摺動部48−2が備える摩擦低減部材96は、上記のように台部材44の上面44aに取り付けるほか、シャンク部32の下面32bに取り付けてもよい。その場合は、突起部材95を台部材44の上面44aに取り付けるようにする。また、第2摺動部49−2が備える摩擦低減部材86は、上記のようにプランジャキャップ85の下面85bに取り付けるほか、キャプスタンスクリュー25の頭部27の上面27aに取り付けてもよい。その場合は、摩擦低減部材86をプランジャキャップ85の下面85bに当接させる。
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態にかかる鍵盤装置について説明する。図12は、第3実施形態の鍵盤装置10−3の構成を説明するための図で、(a)は、プランジャ42と質量体30との間で摺動が生じる第1摺動部48−3を示す部分拡大図であり、(b)は、プランジャ42と鍵20との間で摺動が生じる第2摺動部49−3を示す部分拡大図である。本実施形態の鍵盤装置10−3は、第2実施形態の鍵盤装置10−2が備える第1摺動部48−2と第2摺動部49−2の構造に若干の変更を加えたものである。他の構成は、第2実施形態の鍵盤装置10−2と同じである。
すなわち、本実施形態の鍵盤装置10−3が備える第1摺動部48−3は、第2実施形態の第1摺動部48−2が備えていた鋼材からなる突起部材95に代えて、ガラス板からなる突起部材95−3を備えている。突起部材95−3は、その材質が異なるだけで、形状は、第2実施形態の突起部材95と同じである。また、伸縮性フィルム97の内側には、エチレングリコールではなく水からなる溶媒98−3を充填している。
また、本実施形態の鍵盤装置10−3が備える第2摺動部49−3は、プランジャキャップ85の下面85bに取り付けたDNゲル(又はDN−Lゲル、以下同じ。)からなる摩擦低減部材86−3と、キャプスタンスクリュー25の頭部27の上面27aに取り付けたガラス板89とを備えており、摩擦低減部材86−3とガラス板89とを当接させた構成である。また、伸縮性フィルム87の内側に充填した溶媒88−3には、エチレングリコールに代えて水を用いている。
本実施形態の鍵盤装置10−3でも、直動するプランジャ42と回動する質量体30との間で摺動が生じる第1摺動部48−3、及び直動するプランジャ42と回動する鍵20との間で摺動が生じる第2摺動部49−3に、当該摺動による摩擦を低減するためのDNゲルからなる摩擦低減部材86−3を備えたことで、第1摺動部48−3又は第2摺動部49−3の摺動による摩擦を効果的に低減できる。また、この摩擦の低減によって、第1摺動部48−3又は第2摺動部49−3で生じる振動・騒音も低減できる。さらに、DNゲルが有する高い弾力性によって、直動するプランジャ42と回動する鍵20又は質量体30との当接に対する緩衝作用を付与できる。これによっても、第1摺動部48−3又は第2摺動部49−3で生じる振動・騒音を低減できる。また、DNゲルが有する圧縮変形などに対する高い強度によって、第1摺動部48−3又は第2摺動部49−3の摺動で発生する摩擦を効果的に低減しながら、第1摺動部48−3又は第2摺動部49−3に必要な強度及び耐久性を確保できるようになる。
なお、本実施形態では、第1摺動部48−3が備える摩擦低減部材96と突起部材95−3は、互いの設置箇所を入れ替えることも可能である。すなわち、摩擦低減部材96をシャンク部32の下面32bに設置し、突起部材95−3を台部材44の上面44aに設置してもよい。また、第2摺動部49−3が備える摩擦低減部材86−3とガラス板89は、互いの設置箇所を入れ替えることも可能である。すなわち、摩擦低減部材86−3をプランジャキャップ85の下面85bに設置し、ガラス板89をキャプスタンスクリュー25の頭部27の上面27aに設置してもよい。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。