JP2011136926A - プラズマローゲンの分析方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、プラズマローゲン分析における内部標準として用いることのできる新規化合物、及び前記化合物を用いる精確なプラズマローゲン分析方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、一般式(1)
Figure 2011136926

(式中、Rは、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、Rは、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基であり、Xは、CHCHN(CH、又はCHCHNHである)で表される化合物を、内部標準化合物として用いるプラズマローゲン分析方法によって解決することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、プラズマローゲン分析における内部標準物質として用いることのできる新規化合物、及び前記化合物を用いるプラズマローゲン分析方法に関する。本発明によれば、コリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンの多様な分子種を、精確に定量することができる。
プラズマローゲンは、グリセロリン脂質の一種であり、グリセロール骨格のsn−1位にビニルエーテル結合を有する側鎖を有し、グリセロール骨格のsn−2位にアシル鎖を持つリン脂質である。天然に存在するプラズマローゲンのsn−1位の主たる側鎖の炭素数は16又は18であり、sn−2位の主たるアシル鎖の炭素数は16、18、20又は22である。また、リン酸に結合する主たる塩基は、コリン又はエタノールアミンであり、それぞれ、コリンプラズマローゲン(以下、CPと称することがある)、及びエタノールアミンプラズマローゲン(以下、EPと称することがある)と呼ばれ、その他の塩基をもつプラズマローゲンはほとんど存在しない。また、哺乳類の心臓や骨格筋ではCPの比が高く、その脳ではEPの比が高いことが知られている。
ヒト血漿中のプラズマローゲン濃度は0.1〜0.3mMで、その約40%がCP、約60%がEPである。血漿中においては、CPがコリングリセロリン脂質の約5%、EPがエタノールアミングリセロリン脂質の約60%を占めている。
プラズマローゲンの生理的な役割として、内因性抗酸化物質としての役割、多価不飽和脂肪酸の貯蔵体としての役割、細胞融合や分泌作用に関わる膜融合作用、情報伝達や生体高分子輸送への関与などが報告されている。また、ヒトの遺伝的なプラズマローゲン欠損が、重篤な精神遅滞、又は副腎機能障害などの病状を呈することが報告されている。
プラズマローゲンのsn−1位のビニルエーテル結合を有する側鎖及びsn−2位のアシル鎖は、前記のように炭素数が異なる脂肪酸残基を含んでおり、更に脂肪酸残基中の不飽和結合の数も多様性があるため、プラズマローゲンはそれらの組み合わせの多様な分子種を有している。例えば、後述の実施例で示すように、生体内の主要なプラズマローゲンとしては、コリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンのそれぞれにおいて、sn−1位には16:0、18:0、及び18:1の3種の炭化水素基があり、sn−2位には16:0、18:0、18:1、18:2、18:3、20:4、20:5、22:4、22:5、及び22:6の10種のアシル基があり、従って、生体内には少なくとも60種のプラズマローゲンの分子種が存在していると考えられる。
最近、アルツハイマー症患者又は高齢者において、血清プラズマローゲン量が減少することが報告されており、特にアルツハイマーの前段階の状態から、血清中の特定の分子種のプラズマローゲン、すなわち16:0/22:6のプラズマローゲンが減少していることが報告されている(非特許文献1)。すなわち、アルツハイマー症と特定の分子種のプラズマローゲンの関係が示されており、特定の分子種のプラズマローゲンが、生体内で重要な役割を担うことが示唆されている。従って、プラズマローゲンの生理作用を評価するためには、分子種の分析が重要であると考える。
従来、血液中プラズマローゲンの測定法としては、試料から脂質を抽出し、sn−1位由来のジメチルアセタールを、ガスクロマトグラフィーにより分析し、プラズマローゲンの量を換算するものが一般的であった(非特許文献2)。しかしながら、この方法はプラズマローゲンの換算に外部標準物質を用いるものであり、更にコリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンをまとめて測定しており、プラズマローゲンの分子種を詳細に解析できなかった。
また、コリン型プラズマローゲンの分子種について、生体中のリン脂質をTLCで分画し、リン脂質クラス分けをした後にガスクロマトグラフィーにて分子種分析を行った報告があったが(非特許文献3)、この方法は、測定の工程が多く、煩雑であり、それに加えて、内部標準物質を用いるものではなく、精確な解析ができていないと考えられた。
一方、エタノールアミン型プラズマローゲンの分子種の測定については、液体クロマトグラフィー質量分析器(LC−MS/MS)を用い、エタノールアミン型プラズマローゲンの分子種に特異的に出現するフラグメントを測定した報告があるが(非特許文献1)、内部標準として用いている化合物はコール酸であり、プラズマローゲンとは全く異なるものであり、内部標準として適当ではないと考えられた。
更に、LC−MS/MSによるコリン型プラズマローゲンの分子種の測定においては、分子種特異的なフラグメントの生成が少ないことが知られており、従って、LC−MS/MSによって、生体内のコリン型プラズマローゲンの分子種を網羅的に分析することは困難であった。
「ジャーナル・オブ・リピッド・リサーチ(Journal of Lipid Research)」(米国)2007年、第48巻、p2485−98 「ブラッド・セルズ・モリキュールズ・アンド・ディジーズ(Blood Cells,Molecules,and Diseases)」(米国)2008年 第41巻、p196−199 「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(British Journal of Nutrition)」(英国)2002年、第88巻、p19−28
本発明の目的は、プラズマローゲン分析における内部標準として用いることのできる新規化合物、及び前記化合物を用いる精確なプラズマローゲン分析方法を提供することである。
前記非特許文献1における質量分析では、内部標準物質としてコール酸を用いている。コール酸は、実際に測定するプラズマローゲンとは、化学構造も極性も大きく異なる。本発明者らは、コール酸を内部標準物質として用いた場合は、生体試料からの抽出効率、及び質量分析器でのイオン化効率がプラズマローゲンと異なり、適切な補正ができておらず、結果としてプラズマローゲンが精確に測定されていないと考えた。
本発明者は、プラズマローゲン、すなわちコリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンの多様な分子種の精確な測定方法について、鋭意研究した結果、sn−1位のビニルエーテル結合を有する側鎖の炭素数が奇数であり、そしてsn−2位のアシル基の炭素数が9〜22である新規なプラズマローゲン様化合物を内部標準化合物として用い、質量分析を行うことにより、コリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンの多様な分子種を、簡便、高感度、そして精確に測定することができることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、一般式(1)
Figure 2011136926
(式中、Rは、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、Rは、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基であり、Xは、CHCHN(CH、又はCHCHNHである)で表される化合物に関する。
本発明の化合物の好ましい態様においては、式(4)
Figure 2011136926
で表される化合物である。
また、本発明は前記化合物を含むプラズマローゲン分析用内部標準組成物に関する。
更に、本発明は前記化合物を内部標準化合物として用い、プラズマローゲンを分析することを特徴とする、プラズマローゲン分析方法に関する。
本発明のプラズマローゲン分析方法の好ましい態様においては、(a1)生体試料中に、前記請求項1又は2に記載の化合物を、内部標準化合物として添加する工程、(b1)前記内部標準組成物が添加された試料からプラズマローゲン及び内部標準化合物を抽出する工程、及び(c1)前記抽出したプラズマローゲン及び内部標準化合物の質量を分析する工程、を含む。
本発明のプラズマローゲン分析方法の別の好ましい態様においては、(a2)生体試料から、プラズマローゲンを抽出する工程、(b2)抽出試料に、前記請求項1又は2に記載の化合物を、内部標準化合物として、添加する工程、及び(c2)プラズマローゲン及び内部標準化合物の質量を分析する工程、を含む。
本発明のプラズマローゲン分析方法の別の好ましい態様においては、分析が、液体クロマトグラフィータンデム質量分析である。
本発明の新規化合物を、プラズマローゲン分析における内部標準物質として用いることによって、試料からプラズマローゲンを抽出する際の試料間の抽出効率の差の補正、及び質量分析器におけるインジェクション毎のイオン化効率の差の補正を行うことができる。本発明者らの知る限りにおいて、内部標準物質を用いたプラズマローゲンの分析において、新規なプラズマローゲン様化合物が使用された例はなく、例えば非特許文献1においても、内部標準物質としてコール酸が用いられている。後述の実施例で示すように、コール酸を内部標準物質として用いた場合と比較すると、本発明の新規化合物は、内部標準物質の極性、抽出効率、及び質量分析器でのイオン化効率のすべての面において、測定されるプラズマローゲンに類似していると考えられ、内部標準化合物として優れていた。すなわち、測定値のバラツキが少なく、精確な測定値を得ることが可能であった。
更に、コリン型プラズマローゲンの分子種分析の報告のうち、非特許文献3のガスクロマトグラフィーを用いた分析は、処理の工程が多く、煩雑なものであり、更に内部標準を用いたものでなく、精確な値が得られていないと考えられた。本発明の測定方法は、脂質抽出後の分析操作を軽減し、より精度の高い同定方法を提供できるものであり、コリン型プラズマローゲンの分子種を、簡便、且つ精確に測定することができるものである。
そして本発明の方法により、高精度、且つ高感度に血液中のプラズマローゲンを測定することができ、更に分子種解析が可能になることにより、プラズマローゲンの特定の分子種と、疾病(例えば、メタボリックシンドローム、肥満、又は動脈硬化及びその関連疾患等)との関係を明らかにすることができる。
合成した内部標準化合物(p23:0/18:1)のマススペクトルでの分析結果を示す図である。 内部標準化合物(p23:0/18:1)を、LC−MS/MS法で質量分析した場合に生成される主要なフラグメントを示す図である。 内部標準化合物(p23:0/18:1)、及び合成したコリン型プラズマローゲン(p16:0/20:4)を用いて作成した、コリン型プラズマローゲン用の検量線を示す図である。 内部標準化合物(p23:0/18:1)及び3種のエタノールアミン型プラズマローゲン(p18:0/18:0、p18:0/20:4及びp18:0/22:6)を用いて作成したエタノールアミン型プラズマローゲン用の検量線を示す図である。
[1]化合物
本発明の化合物は、
一般式(1)
Figure 2011136926
で表される化合物である。本発明の化合物は、生体内のプラズマローゲンを分析する際の内部標準物質として、有用に用いることができる。
本発明の化合物において、前記式中XはCHCHN(CH又はCHCHNHである。XがCHCHN(CHの場合は、コリン型プラズマローゲン様化合物であり、下記一般式(2)
Figure 2011136926
で表される。コリン型プラズマローゲン様化合物は、生体内のプラズマローゲン分析において、すべてのプラズマローゲンの内部標準物質として用いることができるが、コリン型プラズマローゲンと構造が類似しているため、特にコリン型プラズマローゲンの分析に有用に用いることができる。
また、XがCHCHNHである場合は、エタノールアミン型プラズマローゲン様化合物であり、下記一般式(3)
Figure 2011136926
で表される。エタノールアミン型プラズマローゲン様化合物も、生体内のプラズマローゲン分析において、すべてのプラズマローゲンの内部標準物質として用いることができるが、エタノールアミン型プラズマローゲンと構造が類似しているため、特にエタノールアミン型プラズマローゲンの分析に有用に用いることができる。
本発明の化合物において、Rは、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21の奇数のアルキル基であり、好ましくは炭素数7、9、11、19、又は21のアルキル基であり、より好ましくは炭素数7、9、19、又は21のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数19、又は21のアルキル基である。プラズマローゲンのsn−1位の側鎖は、そのほとんどが16:0、18:0、及び18:1のビニルエーテル結合を有する炭化水素基であり、炭素数が奇数の炭化水素基は生体内にほとんど存在しない。従って、Rが奇数のアルキル基である本発明の前記化合物を、内部標準化合物としてプラズマローゲンの分析に用いることによって、各種分析において溶出位置が異なり、生体内のプラズマローゲンと明確に区別することが可能である。
また、Rが、炭素数が7〜21の奇数のアルキル基であることによって、本発明のコリン型プラズマローゲン様化合物は、特にLC−MS/MS分析におけるイオン化において、体内中のプラズマローゲンのsn−1位の脂肪酸と区別することができる。更に、Rが、炭素数が炭素数19、又は21のアルキル基であることによって、本発明のコリン型プラズマローゲン様化合物は、LC−MS/MSの液体クロマトグラフィーにおいて、血清中のプラズマローゲンよりも保持時間が長いため、血液中の不純物と区別することができる。
なお、本明細書において、「sn−1位の側鎖」は、「−CH=CH−R」を意味し、側鎖に含まれる炭素数と二重結合の表記については、例えば「16:1」と記載した場合は、側鎖に含まれる炭素数が16であり、ビニルエーテル結合を除いた二重結合が1であることを示す。
は、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基であり、好ましくは炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは炭素数13〜17のアルキル基又はアルケニル基であり、最も好ましくは炭素数17のアルキル基又はアルケニル基である。炭素数13〜17のアルキル基又はアルケニル基は合成効率が高く、本発明の新規化合物の合成効率を上げることができる点から好ましい。
なお、本明細書において、sn−2位のアシル鎖は「−CO−R」を意味し、アシル鎖に含まれる炭素数と二重結合の表記については、例えば「18:1」と記載した場合は、アシル鎖に含まれる炭素数が18であり、二重結合が1であることを示す。
本発明のコリン型プラズマローゲン様化合物として、例えば、下記式(4)
Figure 2011136926
で表される化合物を挙げることができる。式(4)で表されるコリン型プラズマローゲン様化合物は、Rが炭素数21のアルキル基(ヘンイコシル基)であり、Rが炭素数17のアルケニル基であり、従って、sn−1位の側鎖の表記は「23:0」であり、sn−2位のアシル鎖の表記は「18:1」である。以下、本明細書において、前記式(4)で表されるコリン型プラズマローゲン様化合物を「p23:0/18:1」と称することがある。
本発明における前記一般式(2)で表されるコリン型プラズマローゲン様化合物は、下記反応工程式(5)に従い、製造することができる。
Figure 2011136926
(式中、Rは炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、Rは炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基であり、R=C2n+1で表された場合、R=Cn−12n−1である)
本発明における前記一般式(3)で表されるエタノールアミン型プラズマローゲン様化合物は、定法に従い、製造することができる。
[2]プラズマローゲン分析用内部標準組成物
本発明のプラズマローゲン分析用内部標準組成物は、前記一般式(1)で表される化合物を含む組成物である。前記組成物は、前記化合物を溶媒に溶解して製造することができる。溶媒としては、本発明の化合物のプラズマローゲン分析用の内部標準化合物としての機能を損なわないものであれば、限定されるものではないが、例えば水性溶媒、又は有機溶媒を挙げることができる。有機溶媒としては、ヘキサン又はヘプタン以外の有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、又はイソプロパノールなどの低級アルコール、ベンゼン、又はクロロホルムを挙げることができる。
また、本発明のプラズマローゲン分析用内部標準組成物は、更に補助成分を含むことができる。補助成分としては、本発明の化合物のプラズマローゲン分析用の内部標準化合物としての機能を損なわないものであれば、限定されるものではないが、例えば前記化合物の安定化剤をあげることができ、具体的にはアニオン性化合物、非イオン性化合物、両性化合物、双性イオン化合物、タンパク質、粘度調整剤、カチオン性ポリマー、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリレートコポリマー、ポリメタクリレートコポリマー、ポリアミン、ポリアミノアミド、ポリエステル、シリコーン樹脂、多糖類、デンプン、ガム、シリコーン液、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド/ポリアクリレートコポリマー、又はこれらの混合物を挙げることができる。
[3]プラズマローゲン分析方法
本発明のプラズマローゲン分析方法は、前記化合物を内部標準化合物として用い、プラズマローゲンを分析することを特徴とするものである。
本明細書において、「内部標準化合物」とは、プラズマローゲンを分析する際に試料中に添加してプラズマローゲンの測定値を補正するための物質を意味する。内部標準化合物を添加する試料は、プラズマローゲンが含まれる可能性のある試料であれば、特に限定されるものではなく、例えばプラズマローゲンを分析するために生物から分離された生体試料でもよく、前記生体試料からリン脂質を抽出した抽出試料でもよく、更には合成されたプラズマローゲンを含む試料でもよい。
プラズマローゲンの分析方法は、特に限定されるものではなく、例えばガスクロマトグラフィーを用いる方法、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法、及び質量分析方法を挙げることができるが、特には質量分析方法が好ましい。
プラズマローゲンの質量分析方法は、特に限定されるものではないが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる質量分析法(以下、LC/MS法と称する)、ガスクロマトクラフィー(GC)を用いる質量分析法(以下、GC/MS法と称する)、及びキャピラリー電気泳動(CE)を用いる質量分析法(以下、CE−MS法と称する)を挙げることができ、特には、LC/MSの1つである液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(以下、LC−MS/MS法と称する)が好ましい。LC−MS/MS法によれば、感度が高く、プラズマローゲンの多様な分子種を分析することが可能であるからである。
前記LC−MS/MS法における、高速液体クロナトグラフィー(LC)に用いることのできるカラムとしては、逆相クロマトグラフィーカラムが好ましい。逆相クロマトグラフィーカラムとしては、オクタデシルシリカゲル(ODS)系カラムが好ましく、例えばWaters ACQUITY UPLC BEH C8(2.1×100 mm, 1.7μm)、Waters ACQUITY UPLC BEH C18及びHypersil Gold(2.1×100 mm, 5μm, Thermo Fisher Scientific Inc. Waltham, MA, USA)を挙げることができる。
高速液体クロマトグラフィー(LC)に用いる移動相は、特に限定されるものではないが、ギ酸緩衝系の移動相を用いることができ、例えば、ギ酸緩衝液としては、ギ酸アンモニウム溶液、又はギ酸溶液を挙げることができる。前記ギ酸アンモニウム溶液中のギ酸の濃度は、1mM〜20mMが好ましい。ギ酸緩衝系移動相としては、ギ酸アンモニウム/アセトニトリル混用を用いることができる。アセトニトリルとギ酸アンモニウムの混合割合は、容積比で1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜98:2であり、より好ましくは10:90〜96:4であり、最も好ましくは20:80〜95:5である。また、アセトニトリルに代えて、メタノールなどの低級アルコールを用いることもできる。
カラムの温度も特に限定されるものではなく、適宜決定することができるが、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは35〜60℃であり、最も好ましくは50〜60℃である。カラムの流速も特に限定されるものではないが、例えば、0.6mL/mLで行うことができる。
前記LC−MS/MS法におけるプラズマローゲンのイオン化法としては、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、サーモスプレーイオン化(TSP)及び高速原子衝撃(FAB)を挙げることができる。この中でもESIが好ましく、heated ESIがより好ましい。本明細書において、タンデム試料分析(MS/MS)とは、最初のMSで得られた親イオン(水素イオンが付加されている)を選択し、2番目のMSで親イオンを窒素ガスやアルゴンガス等により分解させ、生じるフラグメントイオンを検出する方法であり、この方法は、高選択性によりSN比が向上するため、高感度な検出が可能になる。
また、2番目のMSにおける衝突エネルギー(collision energy)は、適宜決定することが可能であるが、例えば、コリン型プラズマローゲンでは32eV、そしてエタノールアミン型プラズマローゲンでは20eVの衝突エネルギーによって、それぞれの親イオンを分解し、測定に有用なフラグメントを得ることができる。
前記フラグメントイオンの検出方法としては、例えば、フルスキャン法、選択リアクションモニタリング(SRM)法、又はマルチリアクションモニタリング(MRM)法を挙げることができるが、MRM法が好適に用いられる。
本発明によるプラズマローゲン分析方法は、例えば、第一の態様(以下、態様1と称することがある)においては、
(a1)生体試料中に、前記一般式(1)で表される化合物を、内部標準化合物として添加する工程、
(b1)前記内部標準組成物が添加された試料からプラズマローゲン及び内部標準化合物を抽出する工程、及び
(c1)前記抽出したプラズマローゲン及び内部標準化合物の質量を分析する工程、
により行うことができる。
前記生体試料は、生物由来の試料であれば特に限定されるものではなく、動物由来、植物由来、及び微生物由来の試料を挙げることができる。例えば、動物由来の生体試料としては、ヒトを含む動物の血液、血漿、血清、リンパ液、組織液、唾液、尿、涙、汗、臓器、及び組織などを挙げることができるが、特には血漿が好ましい。例えば、ヒトの血漿を生体試料として用いる場合は、血液を血液凝固剤(例えば、EDTA)の入った採血管で採血し、遠心分離により血球成分を除いて、用いることができる。
前記態様1の添加工程(a1)においては、例えば血漿を凍結乾燥し、内部標準化合物として、一般式(1)で表される化合物を添加する。前記内部標準化合物は、例えば、クロロホルム:メタノール=2:1の溶媒に溶解した溶液として添加することができる。添加する内部標準化合物の量は、特に限定されないが、10〜1000pmolが好ましく、20〜200pmolがより好ましく、40〜100pmolが更に好ましい。
前記抽出工程(b1)においては、プラズマローゲン及び内部標準化合物を生体試料から抽出する。プラズマローゲン及び内部標準化合物の抽出方法は、リン脂質を回収できる方法であれば特に限定されるものではなく、クロロホルム及びメタノールの混液を用いる方法、Bligh&Dyer法(Bligh et al. Can.J.Biochem. Physiol., 1959, 37, 911-917)、及びFolch法(Folch et al. J. Biol. Chem., 1957, 226 497-505)を用いることができる。
例えば、クロロホルム及びメタノールを用いる方法は、以下のように行うことができる。得られた血漿を凍結乾燥し、クロロホルム:メタノール=2:1の混液を0.5mL添加する。この溶液を遠心分離し、上層(1)を回収する。残った下層に、クロロホルム:メタノール=2:1の混液を1mL混合し、更に遠心分離を行い、上層(2)を回収する。前記上層(1)及び上層(2)を混合し、窒素を吹き付けることにより溶媒を除去し、固形物を1mLのメタノールに溶解することによって、プラズマローゲン及び内部標準化合物を含む抽出試料を得ることができる。
前記分析工程(c1)においては、前記LC/MS法、GC/MS法、CE−MS法を用いて、質量分析をすることができるが、特には、LC−MS/MS法により質量分析を行うことが好ましい。
また、本発明によるプラズマローゲン分析方法の第二の態様(以下、態様2と称することがある)においては、
(a2)生体試料から、プラズマローゲンを抽出する工程、
(b2)抽出試料に、前記請求項1又は2に記載の化合物を、内部標準化合物として、添加する工程、及び
(c2)プラズマローゲン及び内部標準化合物の質量を分析する工程、
により行うことができる。
前記態様1は、プラズマローゲンの抽出工程(b1)におけるプラズマローゲンの抽出効率、及び分析工程(c1)の質量分析のイオン化効率を補正することが可能である。一方、態様2は、抽出工程(a2)におけるプラズマローゲンの抽出効率を補正することができないが、分析工程(c2)の質量分析のイオン化効率を補正することが可能であり、イオン化効率のみの補正が必要な場合に有効である。
前記抽出工程(a2)における抽出方法は、前記態様1の抽出工程(b1)における抽出方法を用いることができる。また、前記添加工程(b2)における化合物の添加量は、前記態様1の添加工程(a1)における添加量と同じ量を用いることができる。更に、前記質量分析(c2)における質量分析法は、前記態様1の添加工程(c1)における質量分析法と同じ方法を用いることができる。
プラズマローゲンの質量分析において、内部標準化合物を用いた定量を行う場合、試料中のプラズマローゲンの量を内部標準化合物により補正する方法であれば、特に限定されるものではないが、既知の段階希釈した濃度のプラズマローゲンと、既知の濃度の内部標準化合物とから、作成した検量線を用いる方法が好ましい。すなわち、検量線はプラズマローゲンの濃度の異なる標準溶液に、内部標準化合物を添加した検体を用いて、作成することができる。
LC−MS/MS法による質量分析において、検量線を作成する場合には、内部標準化合物のピークフラグメントの面積と、プラズマローゲンのピークフラグメントの面積との比を求め、この比をグラフ上にプロットすることにより信頼性の高い検量線を作成することができる。実際の測定においては、生体試料に既知量の内部標準化合物を添加し、得られた検量線に、内部標準化合物のピークフラグメントと、検体中のプラズマローゲンのピークフラグメントの面積比を当てはめることにより、精確な測定値を得ることができる。
プラズマローゲンを質量分析する場合には、1つのプラズマローゲンからいくつかのフラグメントが生成されることが知られており、検量線を作成するためのフラグメントは特に限定されるものではないが、本発明のコリン型プラズマローゲン様化合物、及び試料中のプラズマローゲンのピークフラグメントとしては、例えば下記一般式(6)
Figure 2011136926
で表されるコリンリン酸由来のフラグメント(以下、「コリンリン酸フラグメント」と称することがある)を用いることが好ましい。本発明のコリン型プラズマローゲン様化合物の前記コリンリン酸フラグメント、及び試料中のプラズマローゲンの前記コリンリン酸フラグメントの面積比をプロットすることにより、検量線を作成することができる。
また、LC−MS/MS法による質量分析における、本発明のエタノールアミン型プラズマローゲン様化合物、及び試料中のエタノールアミン型のピークフラグメントとしては、下記一般式(7)
Figure 2011136926
で表されるR由来のフラグメント(以下、「Rフラグメント」と称することがある)を用いることが好ましい。本発明のエタノールアミン型プラズマローゲン様化合物のRフラグメント、及び試料中のエタノールアミン型のRフラグメントの面積比をプロットすることにより、検量線を作成することができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《製造例1:コリン型プラズマローゲン様化合物(p23:0/18:0)の製造》
本製造例では、コリン型プラズマローゲン様化合物(1-O-1'-(Z)-Tricosenyl-2-oleoyl-rac-glycero-3-phosphocholine:p23:0/18:0)を、下記反応工程式(8)に従って、製造した。
Figure 2011136926
(a)1-Allyl-3-tert-butyldimethylsilyl-rac-glycerol(1a)
3-Allyloxy-1, 2-propanediol(100mmol)をピリジンに溶解し、イミダゾール(20mmol)とtert−ブチルジメチルシリルクロリド(TBSCl、100mmol)を加え、0℃で1時間攪拌した。その後、室温で一時間攪拌し、エーテルで抽出した。最後にカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物1a(97mmol)を得た。
(b)1-Allyl-3-tert-butyldimethylsilyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycerol(2a)
水素化ナトリウムを脱水テトラヒドロフランに溶解し、化合物1a(30mmol)を滴下し、室温で30分攪拌した。2−(クロロメトキシ)エチルトリメチルシラン(SEMCl,36mmol)を加え、室温で1時間攪拌して、減圧下溶媒を留去した。ヘキサンで抽出し、カラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物2a(26mmol)を得た。
(c)ヨウ化エイコサン
1−エイコサノール(50mmol)をベンゼンに溶解し、イミダゾール(125mmol)、トリフェニルホスフィン(125mmol)、ヨウ素(51mmol)をこの順に加え、1時間加熱還流を行った。カラムクロマトグラフィーにより精製し、ヨウ化エイコサン(45mmol)を得た。
(d)3-tert-Butyldimethylsilyl-1-O-1'-(Z)-tricosenyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycerol(3a)
化合物2a(20mmol)をテトラヒドロフランに溶解して−70℃に冷却し、攪拌した。sec−ブチルリチウム(22mmol)を緩徐に滴下した。60分後、ヨウ化エイコサンを滴下し、1時間攪拌した。その後、室温に戻しながら1時間攪拌した。ヘキサンで抽出しカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物3a(3mmol)を得た。
(e)1-O-1'-(Z)-Tricosenyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycerol(4a)
化合物3a(1.3mmol)をテトラヒドロフランに溶解し、イミダゾール(9mmol)を加え、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF,3mmol)を滴下し、0℃で72時間攪拌した。カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物4a(0.97mmol)を得た。
(f)1-O-1'-(Z)-Tricosenyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycero-3-phosphocholine(5a)
化合物4a(1mmol)をテトラヒドロフランに溶解し、0℃に冷却した。トリエチルアミン(100mmol)を加え攪拌しながら、2−クロロ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン(4mmol)を滴下して、1時間攪拌した。その後、室温に戻して72時間攪拌した。溶媒を留去し、残渣をN,N−ジメチルホルムアミドで溶解して圧力試験管へ移した。トリメチルアミン(10mL)を加え、高圧下70℃で24時間攪拌した。カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物5a(0.15mmol)を得た。
(g)1-O-1'-(Z)-Tricosenyl-rac-glycero-3-phosphocholine(6a)
化合物5a(0.1mmol)をヘキサメチルリン酸トリアミドに溶解し、TBAF(3mmol)を加え、90℃で48時間攪拌した。カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物6a(0.08mmol)を得た。
(h)1-O-1'-(Z)-Tricosenyl-2-oleoyl-rac-glycero-3-phosphocholine(7a)
化合物6a(0.2mmol)をピリジンに溶解し、ジクロロメタンに溶解したオレイン酸クロリドを加え、室温で150分攪拌した。カラムクロマトグラフィーで精製し、ISとしてのプラズマローゲンである化合物7a(0.25mmol)を得た。
これら化合物の構造についてはH NMRスペクトルより確認したが、内部標準物質としての新規プラズマローゲンである化合物7aの構造を確認するためにそのマススペクトルを測定した。図1は合成したプラズマローゲンである化合物7a(C4996NOP:841.69)のMSスペクトルである。m/z842.6に擬似分子イオンピーク[M+H]が観察され、その構造を示唆している。
《製造例2:コリン型プラズマローゲン(p16:0/20:4)の製造》
本製造例では、コリン型プラズマローゲン(2-Arachidonoyl-1-O-1'-(Z)-hexadecenyl-rac-glycero-3-phosphocholine monohydroperoxide:p16:0/20:4)を、下記反応工程式(9)に従って、製造した。
Figure 2011136926
(a)1-Allyl-3-tert-butyldimethylsilyl-rac-glycerol(1b)
3−Allyloxy−1,2−propanediol(100mmol)を脱水ピリジンに溶解し、イミダゾール(20mmol)とtert−ブチルジメチルシリルクロリド(100mmol)を加え、0℃で1時間攪拌した。その後、室温で一時間攪拌し、エーテルで抽出した。有機層を水と塩酸で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製し、化合物1b(97mmol)を得た。
(b)1-Allyl-3-tert-butyldimethylsilyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycerol(2b)
常法に則り、オイルを除去した水素化ナトリウムを脱水テトラヒドロフランに溶解し、化合物1b(30mmol)を、シリンジを用いて滴下し、室温で30分攪拌した。2−(クロロメトキシ)エチルトリメチルシラン(36mmol)を加え、室温で1時間攪拌して、減圧下溶媒を留去した。ヘキサンで抽出し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去して、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物2b(26mmol)を得た。
(c)ヨウ化トリデシルの合成
1−トリデカノール(50mmol)をベンゼンに溶解し、イミダゾール(125mmol)、トリフェニルホスフィン(125mmol)、ヨウ素(100mmol)をこの順に加え、30分(常法では2時間)加熱還流を行った。冷却し、ヘキサンで洗浄しながら吸引ろ過を行った。減圧下溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)により精製し、ヨウ化トリデシル(45mmol)を得た。
(d)3-tert-Butyldimethylsilyl-1-O-1'-(Z)-hexadecenyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycerol(3b)
空気を窒素で置換し、化合物2b(20mmol)を−70℃に冷却し、脱水テトラヒドロフランに溶解して攪拌した。シリンジを用いてsec−ブチルリチウム(22mmol)を緩徐に滴下した。1時間後、ヨウ化トリデシルを緩徐に滴下し、30分攪拌した。その後、室温に戻しながら1時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、ヘキサンで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物3b(4.5mmol)を得た。
(e)1-O-1'-(Z)-Hexadecenyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycerol(4b)
化合物3b(3.1mmol)を脱水テトラヒドロフランに溶解し、イミダゾール(9mmol)を加え、シリンジを用いてフッ化テトラブチルアンモニウム(3mmol)を緩徐に滴下し、0℃で72時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=200:1)で精製し、化合物4b(2.8mmol)を得た。
(f)1-O-1'-(Z)-Hexadecenyl-2-(2-trimethylsilanylethoxymethyl)-rac-glycero-3-phosphocholine(5b)
化合物4b(1mmol)を脱水テトラヒドロフランに溶解し、0℃に冷却した。トリエチルアミン(32mmol)を加えて攪拌しながら、2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサフォスフォラン(4mmol)を滴下して、1時間攪拌した。その後、室温に戻して30分攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をN,N−ジメチルホルムアミド(6mL)で溶解して圧力試験管へ移した。脱水したトリメチルアミン(10mL)を加え、高圧下70℃で24時間攪拌した。クロロホルムで吸引ろ過し、減圧下溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=3:1)で精製し、化合物5b(0.55mmol)を得た。
(g)1-O-1'-(Z)-Hexadecenyl-rac-glycero-3-phosphocholine(6b)
化合物5b(0.5mmol)をヘキサメチルリン酸トリアミドに溶解し、フッ化テトラブチルアンモニウム(3mmol)を加え、90℃で48時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=3:1)で精製し、化合物6b(0.4mmol)を得た。
(h)2-Arachidonoyl-1-O-1'-(Z)-hexadecenyl-rac-glycero-3-phosphocholine(7b)
化合物6b(1.5mmol)を脱水したピリジンに溶解し、脱水ジクロロメタンに溶解したアラキドンクロリドを加え室温で150分攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=3:1)で精製しプラズマローゲンである化合物7b(0.2mmol)を得た。
《実施例1》
本実施例では、前記製造例1で製造した化合物7a(p23:0/18:1、MW:841.69;以下、「p23:0/18:1」と称することがある)をLC−MS/MS法で測定した。質量分析器は、Accela UHPLC及びTSQ Quantum system(ThermoFisher社)を用いた。
前記p23:0/18:1を、メタノールに1.2nmol/mL溶解し、下記のLC−MS/MSの条件で解析した。
質量分析器:Accela UHPLC and TSQ Quantum system(ThermoFisher)
<LC(高速液体クロマトグラフィー)の条件>
LC システム:Accela UHPLC System
溶離液A:5mMギ酸アンモニウム水溶液
溶離液B:アセトニトリル
カラム:Waters ACQUITY UPLC BEH C8(2.1×100mm,1.7μm)
カラム温度:60℃
流速:0.6mL/min
UHPLCの溶離液の条件を表1に示す。
Figure 2011136926
<MS/MS(タンデム質量分析)の条件>
MSシステム:TSQ Quantum system
イオン化モード:HeatedESI,positive
キャピラリー電圧:3.2kV
コーン電圧:35V
Desolvation温度:400℃
Source温度:80℃
衝突エネルギー:32eV(コリン型プラズマローゲン)
20eV(エタノールアミン型プラズマローゲン)
前記の条件で、p23:0/18:1を測定した結果を図2に示す。p23:0/18:1の親イオン(分子量+H)から、生じた主なフラグメントは、(A)コリンリン酸由来フラグメント、(B)sn−2位の脂肪酸がはずれたsn−1位由来のフラグメント、(C)sn−1位の脂肪酸がはずれたsn−2位由来のフラグメントであった。これらの3種のフラグメントのうち、最もフラグメント量の多い、コリンリン酸由来フラグメント(A)(m/z184)の面積を用いて、コリン型プラズマローゲンの各分子種の定量を行うことにした。
なお、生体試料中のコリン型プラズマローゲンの各分子種について、前記の(A)、(B)及び(C)のフラグメントが検出されることを確認した。更に、プラズマローゲンは、酸によって分解されるため、塩酸暴露によるプラズマローゲン分解後の分析を行い、前記の(A)、(B)及び(C)のフラグメントが消失することにより、プラズマローゲンのフラグメントを測定していることを確認した。
《実施例2》
本実施例では、試料中のコリン型プラズマローゲンの定量を行うための検量線を作成した。前記製造例2で製造した化合物7b(p16:0/20:4;以下「p16:0/20:4」と称することがある)を、メタノールに溶解し、標準原液(1.7μmol/mL)を調製した。前記標準原液をメタノールで希釈し、0.085pmol、0.17pmol、0.34pmol、及び0.51pmolの4種類の濃度の標準溶液を調製した。次に、それぞれの標準溶液に、製造例1で製造したp23:0/18:1を100pmol添加した。それぞれの標準溶液を、実施例1に記載の条件に従って解析した。得られたそれぞれの標準溶液中のp16:0/20:4と、p23:0/18:1とのコリンリン酸由来フラグメント(A)の面積比(peak area ratio)を計算し、検量線を作成した。図3に得られた検量線を示す。この検量線を用いて、後述の実施例4において、ヒトの血漿試料中のコリン型プラズマローゲンの定量を行った。
《実施例3》
本実施例では、試料中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量を行うための検量線を作成した。3種類のエタノールアミン型プラズマローゲン、すなわちp18:0/18:0、p18:0/20:4、及びp18:0/22:6を、メタノールに溶解し、標準原液(1.5μmol/mL)を調製した。前記標準原液をメタノールで希釈し、3種類のエタノールアミン型プラズマローゲンについて、それぞれ0.035pmol、0.07pmol、及び0.15pmolの3種類の濃度の標準溶液(合計9種)を調製した。次に、作成した標準溶液に、製造例1で製造したp23:0/18:1を100pmol添加した。標準溶液を、実施例1に記載の条件に従って解析した。得られたp23:0/18:1のコリンリン酸由来フラグメント(A)と、3種類のエタノールアミン型プラズマローゲン、すなわちp18:0/18:0、p18:0/20:4、及びp18:0/22:6の、下記の一般式(6)に示す分子種特異的なフラグメント(R由来フラグメント)との面積比(peak area ratio)を計算し、検量線を作成した。図4に得られた検量線を示す。この検量線を用いて、ヒトの血漿試料中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量を行った。
Figure 2011136926
《実施例4》
本実施例では、22〜53歳の被験者6人(男性4人、女性2人)の血液から分画した血清を用いて、プラズマローゲンを定量した。血清からの総脂質の抽出は、以下のようにして行った。
血液を遠心分離して得た血清0.15mLを凍結乾燥し、それに内部標準化合物として50pmolの前記p23:0/18:1を含むクロロホルム:メタノール=2:1の混液0.5mLを加えた。10分間混合後、30分間室温で放置した。300rpm、15分間遠心分離後、上層を回収した。下層に更にクロロホルム:メタノール=2:1の混液を1mL加え、混合・放置後、遠心分離を行い、上層を回収し、先の回収液と混合した。得られた溶液に窒素を吹きつけ、溶媒を除去した。得られた固形物を1mLのメタノールに溶解し、フィルターでろ過し、適宜メタノールで希釈したのち、LC−MS/MSを用いて解析した。LC−MS/MSの条件は、実施例1に記載の条件に従った。得られた測定値から、図3の検量線、又は図4の検量線を用いて、コリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンのそれぞれの分子種の量を換算した。結果を表2〜4に示す。
試料中の測定したプラズマローゲンの分子種は、コリン型プラズマローゲン及びエタノールアミン型プラズマローゲンのいずれも、sn−1位が16:0、18:0、又は18:1の3種類、sn−2位が16:0、18:0、18:1、18:2、18:3、20:4、20:5、22:4、22:5、又は22:6の10種類である。従って、測定したコリン型プラズマローゲンの分子種は30種類であり、エタノールアミン型プラズマローゲンの分子種も30種類である。
《比較例1》
本比較例では、外部標準法を用いて、実施例4と同じ22〜53歳の被験者6人(男性4人、女性2人)の血液から分画した血清中のプラズマローゲンを定量した。
血清に内部標準化合物を添加しないことを除いては、実施例4の操作を繰り返した。
コリン型プラズマローゲンの検量線に関しては、実施例2で得られた、p16:0/20:4のコリンリン酸由来フラグメント(A)の面積を用いて、検量線を作成した。本比較例で得られた測定値(コリンリン酸由来フラグメント(A)の面積)を検量線に当てはめ、コリン型プラズマローゲンのそれぞれの分子種の量を計算した。
エタノールアミン型プラズマローゲンの検量線に関しては、実施例3で得られた、3種類のエタノールアミン型プラズマローゲンの分子種特異的なフラグメント(R由来フラグメント)の面積から、検量線を作成した。本比較例で得られた測定値を検量線に当てはめ、エタノールアミン型プラズマローゲンのそれぞれの分子種を計算した。結果を表2〜4に示す。
《比較例2》
本比較例では、内部標準物質として、コール酸を用いて、実施例4と同じ22〜53歳の被験者6人(男性4人、女性2人)の血液から分画した血清中のプラズマローゲンを定量した。
内部標準化合物として、100pmolの前記p23:0/18:1を用いる代わりに、180pmolのコール酸を用いることを除いては、実施例4の操作を繰り返した。
コリン型プラズマローゲンの検量線も、p23:0/18:1を100pmol用いる代わりに、180pmolのコール酸を用いることを除いては、実施例2の操作を繰り返すことによって、作成した。
エタノールアミン型プラズマローゲンの検量線は、p23:0/18:1を50pmol用いる代わりに、180pmolのコール酸を用いることを除いては、実施例3の操作を繰り返すことによって、作成した。
本比較例で得られた測定値をそれぞれの検量線に当てはめ、エタノールアミン型プラズマローゲンのそれぞれの分子種を計算した。結果を表2〜4に示す。
《解析》
実施例4、及び比較例1及び2では、それぞれの試料について5回測定を行い、平均及び標準偏差を計算した。表2には、検体1及び2について、測定した30種のコリン型プラズマローゲンの合計の測定値及び標準偏差を示している。
Figure 2011136926
表2から明らかなように、内部標準としてコリン型プラズマローゲン様化合物を用いた実施例4は、外部標準を用いた比較例1及びコール酸を内部標準として用いた比較例2と比較すると、数値が高く、ばらつき(標準偏差)も小さく、内部標準物質としてプラズマローゲンを使用し、補正した数値の精度が高いことがわかった。
表3には、検体1及び2について、測定した30種のエタノールアミン型プラズマローゲンの合計の測定値及び標準偏差を示している。
Figure 2011136926
驚くべきことに、塩基の異なるコリン型プラズマローゲン様化合物を内部標準として用いて、エタノールアミン型プラスミノーゲンを測定した場合にも、外部標準法である比較例1及びコール酸を内部標準として用いた比較例2よりも、数値が高く、ばらつき(標準偏差)も小さく、内部標準としてプラズマローゲンを使用し、補正した数値の精度が高かった。
更に、表4は、p23:0/18:1を内部標準として用い分析をした場合の、6人の被験者のコリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲン、及び総プラズマローゲンの濃度、並びにコリン型プラズマローゲン、及びエタノールアミン型プラズマローゲンのそれぞれの分子種のsn−2位の脂肪酸毎にまとめたものの割合を記載した。被験者によって、プラズマローゲン総量とともに、sn−2位に結合している脂肪酸組成も異なり、特にコリン型プラズマローゲン、及びエタノールアミン型プラズマローゲンともにsn−2位の分子種が20:5のプラズマローゲンの割合は各被験者で大きく異なっていた。このように本発明により、従来、分析されていたエタノールアミン型の分子種分析に加え、コリン型プラズマローゲンの詳細な分子種分析が可能となった。
Figure 2011136926
本発明の化合物は、プラズマローゲンの分析方法に、内部標準化合物として用いることができる。前記化合物を用いたプラズマローゲンの分析方法は、簡便に且つ精確にプラズマローゲンの分子種を測定することができ、疾患などの診断に用いることができる。

Claims (7)

  1. 一般式(1)
    Figure 2011136926
    (式中、Rは、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、
    は、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基であり、
    Xは、CHCHN(CH、又はCHCHNHである)
    で表される化合物。
  2. 式(4)
    Figure 2011136926
    で表される、請求項1に記載の化合物。
  3. 請求項1又は2に記載の化合物を含むプラズマローゲン分析用内部標準組成物。
  4. 請求項1又は2に記載の化合物を、内部標準化合物として用い、プラズマローゲンを分析することを特徴とする、プラズマローゲン分析方法。
  5. (a1)生体試料中に、前記請求項1又は2に記載の化合物を、内部標準化合物として添加する工程、
    (b1)前記内部標準組成物が添加された試料からプラズマローゲン及び内部標準化合物を抽出する工程、及び
    (c1)前記抽出したプラズマローゲン及び内部標準化合物の質量を分析する工程、
    を含むプラズマローゲン分析方法。
  6. (a2)生体試料から、プラズマローゲンを抽出する工程、
    (b2)抽出試料に、前記請求項1又は2に記載の化合物を、内部標準化合物として、添加する工程、及び
    (c2)プラズマローゲン及び内部標準化合物の質量を分析する工程、
    を含むプラズマローゲン分析方法。
  7. 前記分析が、液体クロマトグラフィータンデム質量分析である、請求項4〜6のいずれか一項に記載のプラズマローゲン分析方法。
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