JP2011133018A - ピストンリング - Google Patents

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Abstract

【課題】高面圧が外周摺動面に加わった場合であっても、硬質炭素膜の剥離を著しく低減できるピストンリングを提供する。
【解決手段】ピストンリング基材1と、ピストンリング基材1の少なくとも外周摺動面に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜3とを有する。第1のピストンリング11は、その下地膜2が、ピストンリング基材1上に設けられたCr膜2aと、Cr膜2a上に設けられたCr−N膜2bとからなるように構成し、第2のピストンリング12は、その下地膜2が、ピストンリング基材1上に設けられた第1Cr膜2aと、第1Cr膜2a上に設けられたCr−N膜2bと、Cr−N膜2b上に設けられて硬質炭素膜3の厚さを100としたときの厚さが2〜5の範囲の第2Cr膜2cとからなるように構成する。
【選択図】図1

Description

本発明は、外周摺動面に硬質炭素膜を有するピストンリングに関し、更に詳しくは、高面圧下での硬質炭素膜の剥離を著しく低減できる下地膜を設けたピストンリングに関する。
内燃機関の軽量化と高出力化に伴い、ピストンリングの更なる耐摩耗性の向上及び耐スカッフ性の向上が要求されている。近年は、ピストンリングの外周摺動面にPVD(物理的蒸着)法で成膜されたCr−N(窒化クロム)やTi−N(窒化チタン)等の硬質膜を採用することで、上記の要求に対応している。例えば、特許文献1,2では、耐摩耗性及び初期なじみ性を向上させたり、摩擦係数を低くするために、金属酸化物や金属炭化物を含有させた硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン膜又はDLC膜ともいう。)を摺動部材に形成することが提案されている。また、特許文献3では、相手材がアルミニウム部材又はアルミニウム合金部材である場合には、硬質炭素膜を摺動面に形成して、Alの凝着現象を抑制できることが提案されている。
特開2001−316819号公報 特開2002−348668号公報 特開2003−293136号公報
特許文献1では、高硬度、高密着性且つ低摩擦係数の硬質炭素膜の提供を課題としているが、基材と硬質炭素膜との間に中間膜がないため、酸素原子を0.1〜10原子%含有する硬質炭素膜を、基材上に直接形成することになる。その結果、基材として窒化処理したステンレス鋼を用いた場合、その酸素原子によって基材表面が酸化し、硬質炭素膜の密着性が低下するという問題がある。
特許文献2では、基材であるSKH51材上に、RFマグネトロンスパッタリング法でクロム中間膜を形成しているが、そのクロム中間膜はビッカース硬度Hvが100〜400と低硬度であり、そのクロム中間膜上に形成される硬質炭素膜はビッカース硬度がHV1000〜3000程度と高い。そのため、高面圧が加わるピストンリングの外周摺動面にそうしたクロム中間膜と硬質炭素膜を積層した場合、クロム中間膜が高面圧下で面内方向に変形し、その上に設けられた硬質炭素膜がクロム中間膜の変形に追従できずに剥離するという問題がある。また、同文献中には、硬質炭素膜を構成する酸化ケイ素含有量が膜表面に向かって連続的又は段階的に増加するとの記載がある。しかし、クロム中間膜の表面に酸化ケイ素含有量が少ない硬質炭素膜を形成した場合、そうした硬質炭素膜は応力が高く、中間膜との硬度差が生じて高い密着性を確保することができず、ピストンリングの外周摺動面のような高面圧下では剥離が生じてしまうという問題がある。
特許文献3では、基材上に中間膜と硬質炭素膜とを積層してなる摺動部材において、その中間膜を、ケイ素、クロム、タングステン、チタン及びそれらの合金及びそれらの炭化物から選ばれたもので形成しているが、クロムやチタンからなる中間膜は柔らかく変形しやすい。その結果、硬質炭素膜に高面圧が加わった場合、その硬質炭素膜は、柔らかい中間膜の面内方向の変形に追従できず、剥離が生じてしまうという問題がある。また、ケイ素、クロム、タングステン、チタン及びそれらの炭化物は、高硬度であるが靭性が乏しいため、高面圧が加わった場合に中間膜に亀裂や破壊が生じ、硬質炭素膜が剥がれるという問題がある。また、ケイ素、クロム、タングステン、チタンからなる合金の中間膜についての記載はあるが、硬質炭素膜と中間膜の構成、及び膜厚の影響については十分に検討されていなかった。
本発明は、上記の問題を解消するためになされたものであって、その目的は、高面圧が外周摺動面に加わった場合であっても、硬質炭素膜の剥離を著しく低減できるピストンリングを提供することにある。
上記課題を解決するためのピストンリングとして、本願では2態様のピストンリングを提案する。
本発明に係る第1のピストンリングは、ピストンリング基材と、該ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜とを有し、前記下地膜が、前記ピストンリング基材上に設けられたCr膜と、該Cr膜上に設けられたCr−N膜と、からなることを特徴とする。
この発明によれば、厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜の下地膜として、Cr膜とCr−N膜とをピストンリング基材上に積層する。この厚さ範囲の硬質炭素膜はCr−N膜上に直接設けても剥離を起こさないという結果が得られたことから、後述の第2のピストンリングで適用した第2Cr膜を設ける必要がない。その理由は、上記厚さ範囲の硬質炭素膜の膜応力がCr−N膜よりも小さいためであろうと推察され、その結果、前記特許文献2,3の場合のような中間膜の変形に追従できずに剥離する、という現象が生じなかったものと推察される。なお、Cr−N膜は高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCr−N膜に亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜の剥離が生じない。さらに、下地膜があることで、硬質炭素膜に含まれる酸素原子によるピストンリング基材の酸化を防ぐので、硬質炭素膜の高い密着性を確保することができる。
本発明に係る第2のピストンリングは、ピストンリング基材と、該ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた厚さ7μm超20μm以下の硬質炭素膜とを有し、前記下地膜が、前記ピストンリング基材上に設けられた第1Cr膜と、該第1Cr膜上に設けられたCr−N膜と、該Cr−N膜上に設けられて前記硬質炭素膜の厚さを100としたときの厚さが2〜5の範囲の第2Cr膜と、からなることを特徴とする。
この発明によれば、厚さ7μm超20μm以下の硬質炭素膜の下地膜として、第1Cr膜とCr−N膜と第2Cr膜とをピストンリング基材上に積層する。この厚さ範囲の硬質炭素膜はCr−N膜上に直接設けると剥離を起こすという結果が得られたが、Cr−N膜上に第2Cr膜を設け、その上に硬質炭素膜を設けた場合には剥離を起こさないという結果が得られたことから、上述の第1のピストンリングとは異なり、第2Cr膜をCr−N膜上に設けている。その理由は、上記厚さ範囲の硬質炭素膜の膜応力がCr−N膜(このCr−N膜自体も高硬度且つ高応力である。)よりも大きいため、そのCr−N膜上に直接硬質炭素膜を設けると、高面圧が加わった場合に、その硬質炭素膜の応力を下地膜のCr−N膜で緩和できずに、且つその硬質炭素膜自体の応力に基づいて、亀裂の発生が生じて剥離が起きやすいと推察される。しかし、Cr−N膜よりも柔らかい第2Cr膜をCr−N膜上に設けることにより、その第2Cr膜が硬質炭素膜の応力を緩和して硬質炭素膜の亀裂の発生等を抑制することができる。しかも、硬質炭素膜の厚さを100としたときの第2Cr膜の厚さが2〜5の範囲と薄いので、その第2Cr膜の変形は大きくない。その結果、第2Cr膜上に設けられた硬質炭素膜に破壊が起こらず、下地膜上に高い密着性で設けられる。なお、Cr−N膜は高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCr−N膜に亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜の剥離が生じない。さらに、下地膜があることで、硬質炭素膜に含まれる酸素原子によるピストンリング基材の酸化を防ぐので、硬質炭素膜の高い密着性を確保することができる。
本発明に係る第1及び第2のピストンリングにおいて、前記Cr−N膜の厚さが、0.05μm以上1.5μm以下である。
この発明によれば、上記厚さ範囲のCr−N膜を硬質炭素膜の下地膜として設けることにより、外周摺動面に高い耐摩耗性及び耐スカッフ性を付与することができる。
本発明に係る第1及び第2のピストンリングにおいて、前記硬質炭素膜が、前記ピストンリング基材側から、高濃度ケイ素含有層、高濃度ケイ素から低濃度ケイ素への傾斜層、及び低濃度ケイ素含有層、の順で積層された積層膜である。
硬質炭素膜の構成としては種々適用可能であるが、この発明のような傾斜層を含む多層構成とすることにより、特に高面圧が加わった場合に、外周摺動面に高い耐摩耗性と耐スカッフ性を付与することができる。なお、この発明では、下地膜上には、低濃度ケイ素膜に比べて応力が低い高濃度ケイ素膜が設けられているので、下地膜上に低濃度ケイ素膜を設けた場合のような顕著な硬度差(応力差)がなく、密着性が確保でき、剥離の発生を抑制することができる。
本発明に係る第1及び第2のピストンリングによれば、高面圧が外周摺動面に加わった場合であっても、硬質炭素膜の剥離を著しく低減でき、高い耐摩耗性と耐スカッフ性を付与することができる。さらに、Cr−N膜は高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCr−N膜に亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜の剥離が生じない。また、下地膜があることで、硬質炭素膜に含まれる酸素原子によるピストンリング基材の酸化を防ぐので、硬質炭素膜の高い密着性を確保することができる。
特に第1のピストンリングにおいては、厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜の下地膜としてCr膜とCr−N膜とをピストンリング基材上に積層することによって、上記効果を達成できる。一方、第2のピストンリングにおいては、厚さ7μm超20μm以下の硬質炭素膜の下地膜として第1Cr膜とCr−N膜と第2Cr膜とをピストンリング基材上に積層することによって、上記効果を達成できる。
本発明に係るピストンリングの例を示す模式的な断面構成図である。 本発明に係るピストンリングの使用形態を示す模式的な断面図である。 第1のピストンリングを構成する下地膜と硬質炭素膜の例を示す拡大断面図である。 第2のピストンリングを構成する下地膜と硬質炭素膜の例を示す拡大断面図である。
以下、本発明のピストンリングについて図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的範囲に含まれるものであれば以下の説明及び図面の記載に限定されない。
[ピストンリング]
本発明に係るピストンリング10(10A,10B)は、図1に示すように、ピストンリング基材1と、ピストンリング基材1の少なくとも外周摺動面21に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた硬質炭素膜3とを有する。なお、図1(A)に示すピストンリング10Aは、ピストンリング基材1の外周に窒化層6が形成されていない態様であり、図1(B)に示すピストンリング10Bは、ピストンリング基材1の外周に窒化層6が形成されている態様である。
本発明に係るピストンリング10は、図2に示すように、ピストン31に形成されたピストンリング溝32に装着され、ピストン31の上下運動(往復運動に同じ。)によってシリンダライナ33の内周面34を摺動しながら上下運動する摺動部材である。図2はトップリングの例を示しているが、本発明の特徴は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れに適用したものであってもよい。特に高面圧が加わる場合に、本発明の有意差を発揮することができる。リングの形状は、図1においては矩形リングを示しているが、バレルフェースやテーパーフェース等のような外周形状からなるものであってもよい。また、リングの断面形状としては、ハーフキーストンリング、フルキーストンリング、スクレーパリング等の断面形状を有するものでもよい。また、オイルリングとしては、窓付きオイルコントロールリング、ベベルオイルコントロールリング、ダブルベベルオイルコントロールリング等でもよく、さらにそれら以外のコイルエキスパンダ付きオイルリング等であってもよい。
本発明に係るピストンリング10は、硬質炭素膜3の剥離が極めて生じにくい高い密着性を持つものであるが、図3及び図4の拡大断面図に示すように、下地膜2の構成により2つ態様のピストンリング11,12に分けることができる。
第1のピストンリング11は、図3に示すように、ピストンリング基材1と、ピストンリング基材1の少なくとも外周摺動面21に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜3とを有し、その下地膜2が、ピストンリング基材1上に設けられたCr膜2aと、Cr膜2a上に設けられたCr−N膜2bと、で構成されている。
第2のピストンリング12は、図4に示すように、ピストンリング基材1と、ピストンリング基材1の少なくとも外周摺動面21に設けられた下地膜2と、下地膜2上に設けられた厚さ7μm超20μm以下の硬質炭素膜3とを有し、その下地膜2が、ピストンリング基材1上に設けられた第1Cr膜2aと、第1Cr膜2a上に設けられたCr−N膜2bと、Cr−N膜2b上に設けられて前記硬質炭素膜3の厚さTを100としたときの厚さが2〜5の範囲の第2Cr膜2cと、で構成されている。
以下、第1及び第2のピストンリングを構成する各要素について説明する。
(ピストンリング基材)
ピストンリング基材1は、従来使用されている材質からなるものであればよく、特に限定されない。したがって、いかなる材質のピストンリング基材1に対しても本発明を適用でき、従来好ましく用いられている例えばステンレススチール材、鋳物材、鋳鋼材、鋼材、アルミニウム合金製等をピストンリング基材1として適用できる。また、図1(B)に示したように、ピストンリング基材1に窒化処理等を施して窒化層6を形成したものも適用できる。さらに、クロムめっきやPVD(Cr−N、Ti−N、Cr−B−N)を形成してなるピストンリング基材1も適用できる。
(下地膜)
下地膜2は、硬質炭素膜3の密着性を高めて剥離を防ぐために設けられる膜であって、ピストンリング基材1上(窒化層6が形成されている場合には窒化層6上)の少なくとも外周摺動面21に設けられる。通常は、図1に示すように、外周摺動面21のみに設けられるが、外周摺動面21、上面22及び下面23の3面に形成してもよいし、外周摺動面21、上面22、下面23及び内周面24の全周に形成してもよい。この下地膜2は、硬質炭素膜3に含まれる酸素原子によるピストンリング基材1の酸化を防ぐので、硬質炭素膜3の密着性を確保することができる。
第1のピストンリング11における下地膜2は、図3に示すように、ピストンリング基材1側から、Cr膜2a、Cr−N膜2bの順で設けられている。一方、第2のピストンリング12の下地膜2は、図4に示すように、ピストンリング基材1側から、第1Cr膜2a、Cr−N膜2b、第2Cr膜2cの順で設けられている。
Cr膜2a(第1Cr膜2a)は、ピストンリング基材1上(窒化層6が形成されている場合には窒化層6上)に設けられる。このCr膜2aは、Cr−N膜2bをピストンリング基材1上に設ける場合に、そのCr−N膜2bがピストンリング基材1から剥離しにくくするように作用する。Cr膜2aは、純クロムで構成されていてもよいし、他の元素を含んでいてもよいが、少なくともCr−N膜2bの剥離防止作用を有していればよい。Cr膜2aは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式手段で成膜してもよいし、電気めっき等の湿式手段で成膜してもよい。
Cr膜2aの厚さTは、特に限定されないが、通常、0.1〜1μm程度である。厚さTをこの範囲内とすることにより、その上に設けられたCr−N膜2bの密着性を確保して剥離を防ぐことができる。Cr膜2aの厚さTが0.1μm未満では、その上に設けられるCr−N膜2bの密着性を確保できず、剥がれやすくなることがある。Cr膜2aの厚さTが1μmを超えると、高面圧が加わった場合に面内方向に変形することがあり、その上に設けるCr−N膜2bがその変形に追従できなくなって剥離を起こすことがある。
Cr−N膜2bは、Cr膜2a(第1Cr膜2a)上に設けられる。このCr−N膜2bは高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCr−N膜2bに亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜3の剥離が生じない。さらに、Cr−N膜2bを設けたことによって、硬質炭素膜3をCr膜2a上に直接設けた場合に起こる問題、すなわち硬質炭素膜3が比較的柔らかいCr膜2aの面内方向の変形に追従できずに剥離するという問題、を防ぐように作用する。また、このCr−N膜2bは、Cr膜2aよりも高硬度で高靭性であり、外周摺動面21に高面圧が加わった場合であっても、そのCr−N膜2bに亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜3の剥離が生じない。Cr−N膜2bは、窒化クロムであり、その原子比は特に限定されないが、通常、質量%で、Cr:N=60:40〜75:25の範囲である。Cr−N膜2bは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法で成膜される。
Cr−N膜2bの厚さTは、通常、0.05μm以上1.5μm以下、好ましくは0.5μm以上1.0μm以下である。この厚さ範囲のCr−N膜2bを硬質炭素膜3の下地膜2として設けることにより、外周摺動面21に高い耐摩耗性と耐スカッフ性を付与することができるとともに、高面圧が加わった場合であっても、硬質炭素膜3の剥離を防ぐことができる。Cr−N膜2bの厚さTが0.05μm未満では、薄すぎて高硬度で高靭性のCr−N膜2bの機能を十分に発揮させることができず、高面圧が加わった場合、その下にあるCr膜2aの変形の影響が出て、硬質炭素膜3が剥離することがある。Cr−N膜2bの厚さTが1.5μmを超える場合は、剥離防止の点では問題ないが、成膜時間が長くなってコストがかさむという難点が出てくる。
第2Cr膜2cは、図4に示すように、硬質炭素膜3の厚さTDLCが7μm超20μm以下の第2のピストンリング12では必須の構成として設けられる。そして、この場合において、第2Cr膜2cは、硬質炭素膜3の厚さTDLCを100としたときの厚さTが2〜5の範囲内であるように構成する。
第2のピストンリング12において、第2Cr膜2cを必須の構成とする理由は、この厚さ範囲の硬質炭素膜3をCr−N膜2b上に直接設けた場合に剥離が起きやすいという結果と、Cr−N膜2b上に第2Cr膜2cを設けた場合に剥離を起こさないという結果とに基づいている。こうした結果は次のように考えられる。すなわち、上記厚さ範囲の硬質炭素膜3の膜応力がCr−N膜2b(このCr−N膜自体も高硬度且つ高応力である。)よりも大きいため、そのCr−N膜2b上に直接硬質炭素膜3を設けると、高面圧が加わった場合に、その硬質炭素膜3の応力をCr−N膜2bで緩和できずに、且つその硬質炭素膜自体の応力に基づいて、亀裂の発生が生じて剥離が起きやすいためであろうと推察される。しかし、ここで提案するように、Cr−N膜2bよりも柔らかい第2Cr膜2cをCr−N膜2b上に設けることにより、その第2Cr膜2cが硬質炭素膜3の応力を緩和して硬質炭素膜3の亀裂の発生等を抑制すると推察される。
そして、硬質炭素膜3の厚さTDLCを100としたときの第2Cr膜2cの厚さTを2〜5の範囲と薄くすることにより、高面圧が加わった場合に生じうる第2Cr膜2cの変形を小さくすることができる。その結果、第2Cr膜2c上に設けられた硬質炭素膜3に破壊が起こらず、この第2Cr膜2cを含む下地膜2上に硬質炭素膜3が高い密着性で設けられる。硬質炭素膜3の厚さTDLCを100としたときの第2Cr膜2cの厚さTを2未満とした場合には、薄すぎて応力緩和の効果が得られず、硬質炭素膜3に破壊が生じて剥離しやすくなる。硬質炭素膜3の厚さTDLCを100としたときの第2Cr膜2cの厚さTが5を超えると、高面圧が加わった場合に変形することがあり、その上に設ける硬質炭素膜3が追従できなくなって剥離を起こすことがある。なお、この第2Cr膜2cの厚さTは、第1Cr膜2aの厚さTと同じ厚さであるか、又は、第1Cr膜2aの厚さTよりも薄いことが好ましい。その理由は、この第2Cr膜2cは専ら硬質炭素膜3の応力緩和を目的としており、第1Cr膜2aのように、ピストンリング基材1とCr−N膜2bとの密着性改善を目的として設けられたものではないことによる。
一方、第2Cr膜2cは、図3に示すように、硬質炭素膜3の厚さTDLCが1μm以上7μm以下の第1のピストンリング11では不要である。その理由は、この厚さ範囲の硬質炭素膜3をCr−N膜2b上に直接設けても剥離を起こさないという結果が得られたためである。こうした結果は、上記厚さ範囲の硬質炭素膜3の膜応力がCr−N膜2bよりも小さいためであり、前記した特許文献2,3の場合のような中間膜の変形に追従できずに剥離する、という現象が生じなかったものと推察される。
第2Cr膜2cは、純クロムで構成されていてもよいし、他の元素を含んでいてもよいが、少なくとも硬質炭素膜3の応力緩和機能を阻害しない範囲であればよい。第2Cr膜2cは、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式手段で成膜される。
(硬質炭素膜)
硬質炭素膜3は、ダイヤモンドライクカーボンと呼ばれ、非晶質(アモルファス)の炭素膜であり、本発明では、上述した下地膜2上に設けられる。具体的には、第1のピストンリング11においては、下地膜2の最上層であるCr−N膜2b上に1μm以上7μm以下の厚さTDLCで設けられ、第2のピストンリング12においては、下地膜2の最上層である第2Cr膜2c上に7μm超20μm以下の厚さTDLCで設けられる。硬質炭素膜3の厚さ範囲に応じて、下地膜2の最上層をCr−N膜2bとするか第2Cr膜2cとするかは、実験結果に基づいて説明した上述のとおりである。
硬質炭素膜3は、下地膜2上に設けられるが、少なくとも下地膜2はピストンリング基材1の外周摺動面21に設けられ、硬質炭素膜3も外周摺動面21に設けられる。外周摺動面21に下地膜2と硬質炭素膜3を積層することにより、高面圧下での硬質炭素膜3の剥離を極力抑制することができるので、高い耐摩耗性と高い耐スカッフ性を実現できる。なお、下地膜2がピストンリング基材1の全周に設けられていれば硬質炭素膜3も全周に設けてもよいが、その場合であっても、少なくとも外周摺動面21に設ければよく、上面22、下面23及び内周面24には必要に応じて任意に設ければよい。
硬質炭素膜3の構成としては種々適用可能であるが、その厚さ方向で均一な組成を持つものであってもよいし(図示しない)、図3及び図4に示すように、ピストンリング基材1の側から、高濃度ケイ素含有層3a(ケイ素の高濃度層ともいう。)、高濃度ケイ素から低濃度ケイ素への傾斜層3b(ケイ素の傾斜層ともいう。)、及び低濃度ケイ素含有層3c(ケイ素の低濃度層ともいう。)、の順で積層された積層膜であることが好ましい。硬質炭素膜3へのケイ素の含有は、硬質炭素膜3の応力緩和の点で好ましく、特にケイ素の高濃度層3a、傾斜層3b及び低濃度層3cで多層化したものは、硬質炭素膜3を厚膜化しても剥離しにくく、耐久性の良い膜を形成できるという利点がある。多層化した硬質炭素膜3は、特に高面圧が加わった場合に、外周摺動面21に高い耐摩耗性と耐スカッフ性を付与することができる。また、下地膜2上にその下地膜2に接して設けるケイ素の高濃度層3aは、ケイ素の低濃度層3cに比べて応力が小さいので、下地膜2上にその下地膜2に接して低濃度層3cを設けた場合のような顕著な硬度差(応力差)がなく、密着性が確保でき、剥離の発生を抑制することができるという効果もある。
ケイ素含有量を変化させた硬質炭素膜3は、ケイ素含有量のみを主として変化させたものであり、その他の構成成分である水素と酸素の含有量は、条件変動によって組成変動はあるものの、硬質炭素膜3の厚さ方向の全域に渡って故意に変化させなくてもよい。ケイ素含有量の変化は、成膜時に供給するケイ素化合物ガス量を調整して任意にコントロールすることができる。また、炭素の含有量としては、上記の各成分(ケイ素、水素及び酸素)の含有量の合計にもよるが、おおむね50原子%以上90原子%以下の範囲になる。
なお、硬質炭素膜3の最表面には、酸素を1〜15原子%含み、最表面から0.015μmまでの深さまでの間に酸素を最も多く含む硬質炭素膜からなる表面層3dを設けることが好ましい。この表面層3dは、摩耗初期では、表面層3d中に多く含まれる酸素の作用効果により、初期なじみ性が上がって低摩擦の効果が得られ、その後においては、大気中から酸素が表面層3dに取り込まれる。そのため、上記のように、表面層3dの酸素含有量は上記範囲であればよい。なお、酸素含有量が15原子%を超えると、表面層3dの耐久性が低下する。この表面層3dの厚さは、0.005〜0.015μm程度であることが好ましい。
以下、本発明で好ましく適用する多層化した硬質炭素膜3を例にし、その構成を説明する。なお、以下では多層化した硬質炭素膜3について説明するが、厚さ方向で均一な組成を持つ硬質炭素膜3を除外するものではない。硬質炭素膜3中の成分組成は、後方散乱測定装置を用いて定量することができる。
ケイ素の高濃度層3aは、10原子%以上20原子%以下のケイ素を含む非晶質の硬質炭素膜である。ケイ素以外の成分としては、10〜40原子%の水素と、1〜15原子%の酸素と、残りの炭素とで構成されている。こうした組成からなる高濃度層3aは、内部応力を小さくできるので、後述する低濃度層3cの内部応力を緩和するという役割を有するとともに、第1のピストンリング11におけるCr−N膜2b又は第2のピストンリング12における第2Cr膜2cとの間の応力差を小さくでき、剥離の発生を抑制できる。このケイ素の高濃度層3aの厚さは、0.05〜1.0μm程度であることが好ましい。
ケイ素含有量が10原子%未満では、成膜初期の内部応力が高くなって応力緩和作用を発揮できず、また、下地膜2(Cr−N膜2b又は第2Cr膜2cとの間)との間の応力差も大きくなって、剥離が生じやすくなる。一方、ケイ素含有量が20原子%を超えると、硬さが低下し、摩耗しやすくなる。水素含有量が10原子%未満では、内部応力が高くなって欠けが生じやすくなる。一方、水素含有量が40原子%を超えると、硬さが低下し、摩耗しやすくなる。酸素含有量が1原子%未満では、ケイ素との反応による化合物(ケイ素酸化物)が生成されにくく、そのケイ素酸化物が有する低摩擦効果を十分に発揮できないことがある。一方、酸素含有量が15原子%を超えるように成膜すると、成膜時に酸素プラズマが発生し、硬質炭素膜3の除膜現象が起こり、成膜に時間がかかってしまうとともに、得られた硬質炭素膜3の耐摩耗性が低下し、耐久性が低下する。
ケイ素の傾斜層3bは、上記した高濃度層3a側から上記した低濃度層3cに向かって、高濃度のケイ素含有層から低濃度のケイ素含有層に連続的又は段階的に変化する硬質炭素膜である。すなわち、0.1〜20原子%の範囲でケイ素含有量が変化する層である。ケイ素以外の成分は、高濃度層3a及び低濃度層3cと同じであり、10〜40原子%の水素と、1〜15原子%の酸素と、残りの炭素とで構成されている。こうした傾斜層3bは、内部応力の小さい高濃度層3aと、内部応力が大きい低濃度層3cの中間層として機能し、両層3a,3cを含む硬質炭素膜3を厚膜化しても剥離しにくくすることができ、耐久性のよい硬質炭素膜3を形成できる。このケイ素の傾斜層3bの厚さは、0.05〜1.0μm程度であることが好ましい。
ケイ素の低濃度層3cは、0.1原子%以上10原子%未満のケイ素を含む非晶質の硬質炭素膜である。ケイ素以外の成分としては、上記同様、10〜40原子%の水素と、1〜15原子%の酸素と、残りの炭素とで構成されている。こうした組成からなる低濃度層3cは、十分な硬さと靭性を有し、高面圧が加わった場合であっても、十分な耐摩耗性と耐スカッフ性を有している。ケイ素含有量が0.1原子%未満では、靭性が不足し、摺動時に欠けが生じることがある。一方、ケイ素含有量が10原子%以上の場合は、硬さが低下し、摩耗初期で、異常摩耗が生じることがある。なお、水素含有量及び酸素含有量の上記範囲外の技術的事項については、高濃度層3aの欄で説明したのと同様であるので、ここではその説明を省略する。このケイ素の低濃度層3cの厚さは、0.5〜19μm程度であることが好ましい。
上記した高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c及び表面層3dで構成された硬質炭素膜3の合計厚さTDLCは、1〜20μmの範囲であることが、ピストンリングの耐摩耗性と耐久性(耐スカッフ性)の観点から好ましい。その厚さが1μm未満では、薄すぎて、摩耗により硬質炭素膜3自身が消滅してしまい、ピストンリングの耐摩耗性が得られず耐久性が低下する。特に高面圧が加わった場合には顕著である。一方、その厚さが20μmを超えると、硬質炭素膜3が欠けやすく、また、成膜時間がかかってコスト高になる。
硬質炭素膜3の硬さは、例えば圧力又は基板バイアス電圧(V)を調整することにより、ビッカース硬さで1000Hv(0.05)以上3000Hv(0.05)以下の範囲で制御可能である。こうした範囲の硬質炭素膜3は、高い耐摩耗性と耐久性を有するものとなる。ビッカース硬さが1000Hv(0.05)未満では、ピストンリングとして必要とされる耐摩耗性が得られず、また、ビッカース硬さが3000Hv(0.05)を超えると、靭性が低下して脆くなり、欠けや剥離が生じやすくなる。
硬質炭素膜3の成膜方法としては、反応性イオンプレーティング法や反応性スパッタリング法等のいわゆるPVD法や、プラズマCVD法等のCVD法等の各種の方法で形成することができる。本発明においては、プラズマCVD法等のCVD法が好ましく適用できる。特にPIG(Penning Ionization Gauge)式プラズマCVD法、又は、HCD(ホローカソード放電)式プラズマCVD法が好ましい。特にPIG式プラズマCVD法は、プラズマ源がピストンリングの外周摺動面に近いため、より緻密な膜を形成することができる。
(その他)
図1(B)に示す窒化層6は、ピストンリング基材1に形成される。こうした窒化層6は、ガス窒化法、塩浴軟窒化法、イオン窒化法等で形成できる。窒化層6の深さは、ピストンリング基材1の表面から70μm程度である。
(製造方法)
本発明に係るピストンリングの製造方法の一例としては、例えば、準備したピストンリング基材1を成膜治具に固定し、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDを兼用可能な装置のチャンバー内にセットし、そのチャンバー内を真空引きする。成膜治具を自転ないし公転させつつ、脱ガスのため、全体に予熱をかける。予熱後、アルゴンガス等の不活性ガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング基材1の表面を清浄化する。その後、ピストンリング基材1上に、下地膜2として、Cr膜2a(第1Cr膜2a)とCr−N膜2bをその順で成膜し、必要に応じて第2Cr膜2cを成膜して、下地膜2を形成する。その上に、プラズマCVD法を用いて、炭素源であるメタン又はアセチレン等の炭化水素ガスと、酸素、Siが含まれるシランガス、TMS(テトラメチルシラン)等を任意に選択してチャンバー内に導入し、プラズマで活性化し、チャンバー内の炭素原子と蒸発した金属原子とが結合してピストンリング上に、上記成分組成の範囲内となる高濃度層3a、傾斜層3b、及び低濃度層3cをその順で成膜し、さらに表面層3dを成膜して、硬質炭素膜3を形成する。硬質炭素膜3を構成する各膜(高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3d)の成分は、炭化水素ガスの流量、Si元素を含む反応性ガスの流量、及び酸素の流量等を調整して制御される。この場合において、硬質炭素膜3を形成しない面にはマスキング等の処理を施すことができる。こうして、ピストンリングが製造される。
以上説明したように、本発明に係るピストンリング10は、高面圧が外周摺動面21に加わった場合であっても、硬質炭素膜3の剥離を著しく低減でき、高い耐摩耗性と耐久性(耐スカッフ性)を付与することができる。さらに、Cr−N膜2bは高硬度で且つ靭性があるので、高面圧が加わった場合であっても、そのCr−N膜2bに亀裂や破壊が起こらず、硬質炭素膜3の剥離が生じない。特に第1のピストンリング11においては、厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜3の下地膜2としてCr膜2aとCr−N膜2bとをピストンリング基材1上に積層することによって、上記効果を達成できる。一方、第2のピストンリング12においては、厚さ7μm超20μm以下の硬質炭素膜3の下地膜2として第1Cr膜2aとCr−N膜2bと第2Cr膜2cとをピストンリング基材1上に積層することによって、上記効果を達成できる。
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
[実施例1]
ピストンリング基材1として、C:0.65質量%、Si:0.4質量%、Mn:0.3質量%、Cr:13.5質量%、Mo:0.3質量%、P:0.02質量%、S:0.02質量%、残部:鉄及び不可避不純物からなるSUS410J1相当(13Crステンレス鋼)製のものにガス窒化を施し、全周に窒化層を設けたものを準備した。試料として用いたピストンリング基材1の大きさは、8mm×7mm×5mmである。準備したピストンリング基材1を成膜治具に固定し、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDを兼用可能な装置のチャンバー内にセットし、そのチャンバー内を真空引きした。成膜治具を自転ないし公転させつつ、脱ガスのため、全体に予熱をかけ、その後、アルゴンガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング基材1の表面を清浄化した。
その後、ピストンリング基材1上に、純クロムターゲットを用いたスパッタリング法で厚さ0.1μmのCr膜2aを成膜した。次いで、そのCr膜2a上に、蒸発源である金属クロムと窒素ガスとを用いたイオンプレーティング法で厚さ0.05μmのCr−N膜2b(Cr:4.1質量%、CrN:1.1質量%、CrN:94.8質量%)を成膜し、Cr膜2aとCr−N膜2bからなる下地膜2を形成した。その後、Cr−N膜2b上に、プラズマCVD法を用いて、炭素源及び水素源であるアセチレンガスと、Si源であるTMS(テトラメチルシラン)ガスと、酸素源である酸素ガスとをチャンバー内に導入し、プラズマで活性化し、チャンバー内の炭素原子と蒸発した金属原子とを結合させて、ピストンリング上に下記成分組成の高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c及び表面膜3dをその順で成膜して、硬質炭素膜3を形成した。硬質炭素膜3を構成する各膜(高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3d)の成分は、各ガスの流量とプラズマ条件を調整して制御した。こうして実施例1の第1のピストンリング11を作製した(表1参照)。
(硬質炭素膜の組成と成膜条件)
高濃度層3a:16.2原子%のSi、31.1原子%のH、2.3原子%のO、50.4原子%のC、厚さ0.05μm;
傾斜層3b:3.6〜16.2原子%のSi、25.6〜31.1原子%のH、2.3〜5.6原子%のO、50.4〜65.2原子%のC、厚さ0.05μm;
低濃度層3c:3.6原子%のSi、25.6原子%のH、5.6原子%のO、65.2原子%のC、厚さ0.89μm;
表面層3d:4.2原子%のSi、24.3原子%のH、9.4原子%のO、62.1原子%のC、厚さ0.01μm;
プラズマ条件:圧力:1.0Pa、プラズマ出力:2kW、バイアス電圧:−550Vを基本的な成膜条件とし、この成膜条件と各ガス流量を各層毎で任意に変更して上記組成を得た。
[実施例2,3]
実施例1において、上記プラズマ条件と各ガス流量を変更して表1に示す厚さの各層を形成し、実施例2,3の第1のピストンリング11を作製した。
実施例2,3において、Cr膜2a、Cr−N膜2b、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにした。また、高濃度層3aの厚さを0.5μm、傾斜層3bの厚さを0.5μm、低濃度層3cの厚さを5.99μm、表面層3dの厚さを0.01μmとした。
[実施例4〜10]
実施例1において、表1に示す厚さの第1Cr膜2aとCr−N膜2bを形成した後、硬質炭素膜3の形成前に、純クロムターゲットを用いたスパッタリング法で表1に示す厚さの第2Cr膜2cを成膜し、実施例4〜10の第2のピストンリング12を作製した。
実施例4〜10において、第1Cr膜2a、Cr−N膜2b、第2Cr膜2c、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにした。
実施例4〜6において、高濃度層3aの厚さを0.8μm、傾斜層3bの厚さを0.7μm、低濃度層3cの厚さを8.485μm、表面層3dの厚さを0.015μmとした。
実施例7,8において、高濃度層3aの厚さを0.8μm、傾斜層3bの厚さを0.7μm、低濃度層3cの厚さを13.485μm、表面層3dの厚さを0.015μmとした。
実施例9,10において、高濃度層3aの厚さを1.0μm、傾斜層3bの厚さを1.0μm、低濃度層3cの厚さを17.985μm、表面層3dの厚さを0.015μmとした。
[従来例1〜4]
従来例1〜4は、下地膜2としてCr膜2a又はCr−N膜2bのいずれかのみを成膜し、その後、その下地膜2上に、上記プラズマ条件と各ガス流量を変更して表1に示す厚さの各層を形成し、従来例1〜4のピストンリングを作製した。
従来例1〜4において、Cr膜2a、Cr−N膜2b、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにした。
従来例1,2において、高濃度層3aの厚さを0.5μm、傾斜層3bの厚さを0.5μm、低濃度層3cの厚さを3.99μm、表面層3dの厚さを0.010μmとした。
従来例3,4において、高濃度層3aの厚さを0.8μm、傾斜層3bの厚さを0.7μm、低濃度層3cの厚さを8.485μm、表面層3dの厚さを0.015μmとした。
[比較例1〜5]
実施例1において、上記プラズマ条件と各ガス流量を変更して表1に示す厚さの各層を形成し、比較例1〜5のピストンリングを作製した。
比較例1において、Cr膜2a、Cr−N膜2b、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにし、また、高濃度層3aの厚さを0.05μm、傾斜層3bの厚さを0.05μm、低濃度層3cの厚さを0.89μm、表面層3dの厚さを0.01μmとした。
比較例2において、Cr膜2a、Cr−N膜2b、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにし、また、高濃度層3aの厚さを0.5μm、傾斜層3bの厚さを0.5μm、低濃度層3cの厚さを3.99μm、表面層3dの厚さを0.01μmとした。
比較例3〜5において、Cr膜2a、Cr−N膜2b、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにし、また、高濃度層3aの厚さを0.8μm、傾斜層3bの厚さを0.7μm、低濃度層3cの厚さを8.485μm、表面層3dの厚さを0.015μmとした。
[比較例6〜13]
実施例1において、表1に示す厚さの第1Cr膜2aとCr−N膜2bを形成した後、硬質炭素膜3の形成前に、純クロムターゲットを用いたスパッタリング法で表1に示す厚さの第2Cr膜2cを成膜し、比較例6〜13のピストンリングを作製した。
比較例6〜9において、第1Cr膜2a、Cr−N膜2b、第2Cr膜2c、高濃度層3a、傾斜層3b、低濃度層3c、表面層3dの各組成を実施例1と同じにした。
比較例10〜13において、高濃度層3aの厚さを1.0μm、傾斜層3bの厚さを1.0μm、低濃度層3cの厚さを17.985μm、表面層3dの厚さを0.015μmとした。
[密着性試験]
密着性試験は、JIS Z 2245に記載のロックウェル硬さ試験方法に基づいて評価した。具体的には、ロックウェルCスケール硬度測定用圧子を用い、硬質炭素膜が形成されたピストンリングの外周摺動面に150kgf(1470N)の押し込み荷重をかけ、その結果として得られた圧痕の周辺を金属顕微鏡で観察し、欠け、剥離発生の有無を見た。その評価は、金属顕微鏡100倍にて圧痕の周辺部の写真を撮影し、画像解析装置(LEICA Q500MW)を用いて、圧痕部以外の剥離部の面積率を求め、下記の判断基準で4段階評価した。結果を表1に示した。
「◎」は剥離部の面積率が0%で外観が剥離なしの状態
「○」は剥離部の面積率が0%超〜1%未満で外観がカケ有りの状態
「△」は剥離部の面積率が1%以上〜3%未満で外観が剥離有りの状態
「×」は剥離部の面積率が3%以上で外観がカケ有りの状態
表1の結果より、実施例1〜10は、「◎」又は「○」であり、従来例及び比較例と比べて非常に優れていることがわかる。
[硬さ測定]
硬さ測定は、微小ビッカース硬さ試験機(株式会社フューチュアテック製、FM−ARS9000)を用いて測定した。実施例1〜10のピストンリングにおける硬質炭素膜のビッカース硬さはいずれも1000〜3000の範囲であった。
[厚さ測定]
硬質炭素膜3及び下地膜2の厚さは、各試料を湿式切断機にて切断し、樹脂に試料を埋め込んで研磨し、断面観察から算出した。下地膜2の第1Cr膜2a、Cr−N膜2b、第2Cr膜2cと、硬質炭素膜3の高濃度ケイ素含有層3a、高濃度ケイ素から低濃度ケイ素への傾斜層3b、低濃度ケイ素含有層3c、表面層3dのそれぞれの厚さは、それぞれの膜の成長速度から算出した。
[成分測定]
硬質炭素膜3中の成分組成は、後方散乱装置(日新ハイボルテージ株式会社製、AN−2500)を用いて定量した。
Figure 2011133018
1 ピストンリング基材
2 下地膜
2a 第1Cr膜(Cr膜)
2b Cr−N膜
2c 第2Cr膜
3 硬質炭素膜
3a 高濃度ケイ素含有層(高濃度層)
3b 高濃度ケイ素から低濃度ケイ素への傾斜層(傾斜層)
3c 低濃度ケイ素含有層(低濃度層)
3d 表面層
6 窒化層
10 ピストンリング
11 第1のピストンリング
12 第2のピストンリング
21 外周摺動面(外周面)
22 上面
23 下面
24 内周面
31 ピストン
32 ピストンリング溝
33 シリンダライナ
34 シリンダライナ内周面
DLC 硬質炭素膜の厚さ
第1Cr膜の厚さ
Cr−N膜の厚さ
第2Cr膜の厚さ

Claims (4)

  1. ピストンリング基材と、該ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた厚さ1μm以上7μm以下の硬質炭素膜とを有し、前記下地膜が、前記ピストンリング基材上に設けられたCr膜と、該Cr膜上に設けられたCr−N膜と、からなることを特徴とするピストンリング。
  2. ピストンリング基材と、該ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面に設けられた下地膜と、該下地膜上に設けられた厚さ7μm超20μm以下の硬質炭素膜とを有し、前記下地膜が、前記ピストンリング基材上に設けられた第1Cr膜と、該第1Cr膜上に設けられたCr−N膜と、該Cr−N膜上に設けられて前記硬質炭素膜の厚さを100としたときの厚さが2〜5の範囲の第2Cr膜と、からなることを特徴とするピストンリング。
  3. 前記Cr−N膜の厚さが、0.05μm以上1.5μm以下である、請求項1又は2に記載のピストンリング。
  4. 前記硬質炭素膜が、前記ピストンリング基材側から、高濃度ケイ素含有層、高濃度ケイ素から低濃度ケイ素への傾斜層、及び低濃度ケイ素含有層、の順で積層された積層膜である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のピストンリング。
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