JP2011087916A - フットボールシューズ用アッパー構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】 キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも容易に無回転シュートを蹴ることができるようになるアッパー構造を提供する。
【解決手段】 サッカーシューズ1において、着用者の足甲上部の内甲側領域40、とくに足の舟状骨NBから内側楔状骨MCおよび中間楔状骨ICにかけての領域(無回転シュート領域NR)を被うアッパー材は、当該アッパー材に対して斜め衝突試験を行った際に反射直後のボール回転数が950rpm以下になるような材料から構成されている。斜め衝突試験は、当該アッパー材をプレートに貼り付けた状態で、プレート面に対して29〜33度をなす方向から0〜25rpmの回転数のサッカーボールを速度23.0〜25.0m/sでアッパー材に衝突させることにより、実施されている。内甲側領域40を被うアッパー材は、硬度30〜50Aの低硬度軟質ポリウレタンから構成されている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、フットボールシューズ、とりわけサッカーシューズに好適のアッパー(甲被)構造に関し、詳細には、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも容易に無回転シュートを蹴ることができるようにするためのアッパー構造の改良に関する。
一般に、サッカーシューズは、底面に複数のスタッドを有するソールと、ソール上に固着されたアッパー(甲被)とから主として構成されている。サッカーシューズのアッパーは、他のスポーツシューズのように単に着用者の足を保護するだけでなく、ボールを蹴る役目を担うため、非常に重要である。
このため、サッカーシューズのアッパーに対してこれまで種々の改良がなされてきた。例えば、特開平8−332101号公報や特開平9−28412号公報、特表2004−520113号公報に示すものでは、アッパー表面に多数の凸部、凹部、樹脂突起または突条部を形成することで、ボールに対するアッパー表面の摩擦力を増大させ、これにより、蹴り出し後のボールの回転数を上げて(つまり、ボールにスピンをかけて)、ボールの曲がりを増大させるようにしている。
特表平10−501725号公報に示すものでは、伸縮性を有する高摩擦材料からなるボール接触パッドをアッパー表面に設けている。このボール接触パッドは、ウエブを介して上下に離隔配置された頂部層および底部層からなり、ボールインパクト時に変位した頂部層およびウエブが、ボールインパクト後に元の位置に戻ろうとする際の動きを利用して、ボールにスピンを与えようとしている。
特表2007−509655号公報に示すものでは、アッパー表面にコーティング剤を塗布することにより、アッパー表面の乾燥摩擦係数を改善して、グリップ性を向上させようとしている。
特表2001−523499号公報に示すものでは、アッパーのボール蹴り面を凹状に形成する挿入物がアッパーに設けられている。この場合、凹状のボール蹴り面の曲率半径は、ボールの半径と実質的に同一またはこれよりわずかに大きくなっており、ボール蹴り面をボールの形状に一致させることで、ボールとの接触面積を増大させてボールの蹴り精度を向上させようとしている。
上記特開平8−332101号公報、特開平9−28412号公報、特表2004−520113号公報、特表平10−501725号公報および特表2007−509655号公報に示すものは、いずれボールにスピンを与えることを主眼としており、上記特表2001−523499号公報に示すものは、ボールとの接触面積を増大させることを主眼としている。
その一方、最近、一流のサッカープレーヤーによって、いわゆる「無回転シュート」と呼ばれるキックが用いられるようになっている。この無回転シュートは、ボールにできるだけ回転を与えないようにする蹴り方であって、蹴り出されたボールは、飛翔中に揺れる(またはブレる)ような変化をして予測できない動きをするため、ゴールキーパーにとって非常に捕えにくいものである。ここで、本明細書中において、「無回転シュート」とは、或る回転数以下で飛翔中にブレるような動きをすることにより予測不能の軌道を描くシュートと定義することにする。
このような無回転シュートは、これまで、ボールを蹴るプレーヤーの技術に委ねられてきており、サッカーシューズの観点から無回転シュートに取り組んだものはなかった。上記いずれの公報に記載のシューズについても、ボールに回転を与えないようにする工夫は何ら施されていない。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも容易に無回転シュートを蹴ることができるようになるアッパー構造を提供しようとしている。また、本発明は、一般のプレーヤーでも、カーブキックやインステップキック等のスピンシュートと無回転シュートとを容易に蹴り分けることができるようになるアッパー構造を提供しようとしている。
本願発明者らは、まず、無回転シュートを検証することから始めた。一流のサッカープレーヤーに実際に無回転シュートを蹴ってもらい、どのような条件下で無回転シュートが発生するのかについて検証した。
プレーヤーがキックするボールが置かれたキック地点に第1の観測者をおくとともに、蹴り出されたボールの到達目標地点をキック地点から50m離れた位置に置いて、当該到達目標地点に第2の観測者をおき、プレーヤーに実際に蹴ってもらったボールが到達目標地点に到達するまでに、第1および第2の観測者がボールの動きを観察して、双方の観測者が無回転シュートと判断したもののみを最終的に無回転シュートと判定した。なお、無回転シュートか否かの判定は、蹴り出されたボールが一方向への曲がりがなくかつうねりながら揺れる(またはブレる)ような軌道を描いた場合、別の言い方をすれば、ボールの飛翔中にブレるような動きをすることにより予測不能の軌道を描いた場合を「無回転」とした。
図10Aは、プレーヤーが無回転シュートを11回試行した場合のそれぞれについて、ボールインパクト直前の足(Foot)に関するデータ、ボールインパクト直後のボール(Ball)に関するデータ、および無回転シュートか否かの判定結果を示している。なお、図10A中の空白の欄は、データが入手されなかったことを示している。また、図10(a)、(b)は、インパクト直前のボールBおよびインパクト直後のボールB’をそれぞれ平面図および側面図で示しており、図中の符号は図10A中の符号に対応している。
図10Aおよび図10(a)、(b)中において、V(m/s)は、ボールインパクト直前の足の速度(Velocity)を示しており、V(m/s)は、ボールインパクト直後のボールB’の速度(Velocity)を示している。また、S(deg)は、ボールインパクト直前の足の移動方向を水平面(x−y平面)に投影したとき、足の移動方向がボールBの到達目標方向(x軸)に対してなす角度(Side Angle)を示しており、S’(deg)は、ボールインパクト直後のボールB’の移動方向を水平面(x−y平面)に投影したとき、ボールB’の移動方向がボールB’の到達目標方向(x軸)に対してなす角度(Side Angle)を示している。B(deg)は、ボールインパクト直前の足の移動方向を鉛直面(x−z平面)に投影したとき、足の移動方向が水平面となす角度(Blow Angle)を示しており、L(deg)は、ボールインパクト直後のボールB’の移動方向を鉛直面(x−z平面)に投影したとき、ボールB’の移動方向が水平面となす角度(Launch Angle)を示している。図10A中、B(deg)がいずれも負の値になっているのは、プレーヤーが足を下方に下ろしつつキックを行っているからである。R(rpm)は、インパクト直後のボールB’の回転数(Spin Rate)である。
図10A中の無回転シュートか否かの判定結果から見ると、無回転シュートが得られるボール回転数は最大で111rpmであるが、測定誤差や観測者のばらつき等を考慮して、測定値の有効数字上位二桁を採用することにした。したがって、無回転シュートが得られるボール回転数は110rpm以下であると判断される。
次に、プレーヤーが無回転シュートを蹴った際に、シューズのアッパーのどの領域がボールと接触しているかを検証することにした。一流のサッカー選手10人を集め、それぞれの足の表面の内甲側部および第1趾から第5趾の各足趾に沿ってセンサを貼り付け、その上から靴下を履いた状態で無回転シュートを蹴ってもらい、そのとき、足のどの位置にどれだけの圧力が作用しているかを測定した。
図7はその測定結果の平均値を示しており、同図(a)は足の内甲側の足圧分布を示す側面図、同図(b)は足の足甲部分の足圧分布を示す平面図である。なお、ここでは、左足を例にとって示している。
図7に示すように、無回転シュートは、主に足の足甲上部の内甲側領域で蹴っていることが分かった。この内甲側領域を図5および図6に示す左足の骨格図と重ねてみると分かるように、無回転シュートを蹴った際に比較的足圧の高い領域である無回転シュート領域NRは、足の舟状骨NBから内側楔状骨MCおよび中間楔状骨ICにかけて延在する領域であることが分かる。なお、図5および図6中、LCは外側楔状骨を、TAは距骨を、CAは踵骨をそれぞれ示している。
また、比較のために、上記サッカー選手にカーブキックおよびインステップキックも併せて蹴ってもらって、それぞれについて同様に足圧を測定した。
図8(a)はカーブキックの際の足の内甲側の足圧分布を示す側面図、同図(b)は同キックの際の足の足甲部分の足圧分布を示す平面図であり、図9(a)はインステップキックの際の足の内甲側の足圧分布を示す側面図、同図(b)は同キックの際の足の足甲部分の足圧分布を示す平面図である。なお、ここでも、左足を例にとって示している。
これらの図に示すように、カーブキックおよびインステップキックはいずれも足趾の内甲側領域で蹴っており、カーブキックの方がインステップキックよりも、ボール接触領域が内甲側後方部分まで延在していることが分かった。
これらの内甲側領域を図5および図6に示す足の骨格図と重ねてみると分かるように、インステップキック領域IKは、第1趾末節骨DP骨底から第1趾基節骨PPおよび第1趾中足骨ME中央部分まで被う領域であり、カーブキック領域Cはインステップキック領域IKを含みつつ、さらに第1中足骨ME骨底直前部分まで被う領域である。
次に、本願発明者らは、プレーヤーがボールを蹴った現象と相関関係が高い斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数と、無回転シュート時のボール回転数の上限値である110rpmとの対応関係を検証することにした。
図11は、斜め衝突試験の概要を説明するための図である。同図に示すように、アッパー材となる素材シートMを人体硬度板HBに張り付けたものを鉄板IBに固定した。ここで、人体硬度板とは、人体に相当する硬さを有する厚み10mmの塩化ビニル製の板であって、アスカーのAスケールで60度の硬度(つまり硬度60A)を有している。素材シートMと鉄板IBとの間にこのような人体硬度板HBを入れるのは、実際のキックの際には、アッパーに作用する衝撃力は人体が受けることになるからである。
また、図11中、角度αは、サッカーボール発射装置(図示せず)から発射したサッカーボールBが素材シートMに衝突する際に素材シートMの面となす進入角度であり、角度βは衝突後に素材シートMから跳ね返るサッカーボールBが素材シートMの面となす跳ね返り角度であり、V、VはそれぞれボールBの衝突速度および衝突直後の跳ね返り速度である。サッカーボールBを素材シートMの面に対して鋭角の角度αの進入角度をもって斜めに衝突させるようにしたのは、進入角度の小さい方が衝突後のボールに回転が生じやすくなるため、素材間の違いを顕著にするためであるが、その一方、進入角度が小さすぎると、衝突時の力の鉛直成分が小さくなって各素材が反発特性を発揮できなくなるため、これら双方を勘案して、αの値を下記のように設定している。
この斜め衝突試験における試験条件は以下のとおりである。
=23.0〜25.0m/s
α=29〜33°
衝突前のボール回転数=0〜25rpm
ボールの空気圧=0.81kg/cm
また、使用したサッカーボールは、アディダス製の2006年ワールドカップモデル・プラス・チームガイストである。
ここで、Vを上記範囲に設定したのは、プロと上級のアマチュア選手のインパクト前の足の平均的な速度に対応させるためである。
なお、斜め衝突試験においては、静止した素材シートMに向かってボールBを発射させているが、ボールBの衝突速度Vが実際のキック時のボールと足の相対速度に一致していれば、このような斜め衝突試験により、実際のキック時の衝突現象を再現できるものと考えられる。
素材シートMとして、硬度38Aの軟質ポリウレタンであるPU40Aおよび天然皮革を用意し、上記斜め衝突試験を行った。なお、V=24.1m/sのとき、素材シートMに平行な速度成分が20.7m/sで、素材シートMに垂直な速度成分が12.4m/sであった。このとき、ボール衝突後のボール回転数は、それぞれ911.5rpm、1045.5rpmであった。その一方、これらと同じ素材をアッパーの上記無回転シュート領域に有するシューズを用いて一般のプレーヤーがサッカーボールを実際にキックした際のキック後のボール回転数は、それぞれ103.1rpm、128.6rpmであった。
同じ素材同士であれば、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数と実際のキック後のボール回転数は、一対一に対応していると考えられる。そこで、図12に示すように、横軸に実際のキック後のボール回転数(rpm)を、縦軸に斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数(rpm)をそれぞれとり、点(103.1,911.5)および点(128.6,1045.5)を図中にプロットした。そして、これら2つの点を直線状に結んで、直線L’が得られる。この直線L’は、一般のプレーヤーが実際にボールをキックした後のボール回転数(rpm)と、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数(rpm)との関係を表すグラフである。
ここで、直線L’上において、無回転シュート時のボール回転数の上限値である110rpm(横座標)に対応する縦座標を求めると、947.8rpmになる。ここでも、有効数字上位二桁を採用することにすると、横座標の110rpmに対応する斜め衝突試験によるボール回転数の換算値は、950rpmになる。したがって、実際のキック後に無回転シュートとなるアッパー材の斜め衝突試験後によるボール回転数の上限値は950rpmであることが分かった。また、ボール回転数が950rpmを超えると、カーブキックやインステップキック等の回転キック(スピンキック)になるということも分かった。
次に、素材シートMとして、別の天然皮革を用意し、同様に斜め衝突試験を行うと、ボール衝突後のボール回転数は、1044rpmであった。その一方、この天然皮革をアッパーの上記無回転シュート領域に有するシューズを用いて一流のプレーヤーが無回転シュートを蹴った際のキック後のボール回転数は、100rpmであった。
この場合においても、同じ素材同士であれば、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数と実際のキック後のボール回転数は、一対一に対応していると考えられる。そこで、図12中に点(100,1044)をプロットして、この点を通る直線Lを引いた。なお、同図中、縦座標の1044rpmは縦座標の1045.5rpmに極めて接近した値であるが、図示の便宜上、これらの間隔を拡大して示している。
ここで、直線Lの傾きを直線L’の傾きよりも大きくしたのは、以下の理由による。
プレーヤーが実際に無回転シュートを蹴ろうとする場合、ボール上の足の接触領域に立てた法線に対して足の移動方向のなす角度はできるだけ小さい方が好ましい。すなわち、図11中の進入角度αはできるだけ90度に近い方が好ましい。これはボールの中心に向かって蹴った方がキック後のボールに回転が生じにくいからである。ところが、通常、ボールを蹴る動作は、足の背屈をともなうため、キック時に足の移動方向がボール上の法線に対してなす角度の絶対値は大きくなる傾向がある。すなわち、図11中の進入角度αが小さくなる傾向がある。これに対して、一流のサッカープレーヤーの場合には、足を背屈させずに或る程度足を真っ直ぐに保ったままボールを蹴ることができるので、キック時に足の移動方向がボール上の法線に対してなす角度の絶対値を小さくすることが可能である。このように、下手なプレーヤーほど進入角度が小さくなって、上述した斜め衝突試験の進入角度αに近づき、逆に、上手なプレーヤーほど進入角度を大きくすることができ、上述した斜め衝突試験の衝突角度αよりも大きい角度でボールを蹴ることができるのである。さらに付言すれば、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が同じアッパー材であっても、一般のプレーヤーがボールを蹴ればキック後のボール回転数は高くなるが、一流のプレーヤーがボールを蹴ればキック後のボール回転数は低くなる傾向があり、この傾向は、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が高いアッパー材ほど顕著になるのである。
図12から分かるように、一般のプレーヤーが、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が1045.5rpmのアッパー材を有するシューズでボールを蹴った場合には、キック後のボール回転数は128.6rpm(>110rpm)となって、無回転シュートにはならないが、一般のプレーヤーが、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpmのアッパー材を有するシューズでボールを蹴った場合には、キック後のボール回転数は110rpmとなって、無回転シュートになる。
次に、各種素材シートMのアスカーAスケールでの硬度(A硬度)と、これらの素材シートMを用いた斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数との関係を表1に示す。また、横軸にA硬度、縦軸にボール回転数をとり、表1中のデータをプロットするとともに、これらのデータの相関関係を1次関数のグラフにしたものを図13に示す。
図13中のグラフの方程式は、横座標をx、縦座標をyとするとき、
y=5.359x+697.2 …(1)
と表すことができる。
ここで、(1)式にy=950を代入すると、
x=47.17≒47
を得る。
したがって、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpmに対応するA硬度は、47度であることが分かった。なお、測定誤差のばらつき等を考慮した結果、A硬度の上限値として50度を採用することにした。
本発明は、上述した種々の検証結果に基づいてなされたものであって、本願の請求項1に係る発明は、フットボールシューズ用アッパー構造において、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材が、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpm以下になるような材料から構成されていることを特徴としている。
この場合には、上述したように、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpm以下の回転数が、一般のプレーヤーによる実際のボールキック後のボール回転数110rpm以下の回転数に対応しているので、請求項1の発明によるアッパー構造のシューズを履いて、一般のプレーヤーが、足甲上部の内甲側領域でボールを蹴ると、無回転シュートになる。このように、請求項1の発明によれば、一般のプレーヤーでも、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになる。
請求項2の発明では、請求項1において、足甲上部の内甲側領域が、着用者の足の舟状骨から内側楔状骨および中間楔状骨にかけての領域であることを特徴としている。
これは、上述したように、プレーヤーが実際に無回転シュートを蹴った際の足圧測定結果を検証することにより得られたものである。
請求項3の発明によれば、請求項2において、足甲上部の内甲側領域が実質的にシューズ前後方向に延びる領域であることを特徴としている。
これは、プレーヤーが実際に無回転シュートを蹴った際の足圧測定結果を示す図7(a)において、無回転シュートの際の足圧分布領域が実質的にシューズ前後方向に延びている点に着目したものである。
なお、本明細書中において「実質的にシューズ前後方向に延びる」とは、シューズ前後方向(つまり足長方向)に沿って延びる場合のみならず、当該シューズ前後方向と交差する斜め方向(つまりシューズ前後方向とシューズ幅方向との合成方向)に延びる場合をも含む趣旨である。
請求項4の発明では、請求項1において、足甲上部の内甲側領域のアッパー材が、実質的にシューズ前後方向に延びる複数本の突条部を有しており、各突条部がその周囲のアッパー領域から上方に突出している。
この場合には、足甲上部の内甲側領域でボールを蹴った際に、各突条部が弾性変形し、その結果、ボールとの接触時間が長くなって、ボールの跳ね返りの後半でボールに対して回転を抑えようとするせん断力が発生しやすくなると考えられる。
請求項5の発明では、請求項1において、斜め衝突試験が、アッパー材をプレートに貼り付けた状態で、当該プレートの面に対して29〜33度をなす方向から0〜25rpmの回転数のサッカーボールを速度23.0〜25.0m/sでアッパー材に衝突させることにより、実施されていることを特徴としている。
この場合において、サッカーボールをプレート面に対して29〜33度という比較的浅い進入角度で衝突させるようにしたのは、上述したように、各種アッパー材に衝突後のサッカーボールの回転数の差が顕著になるようにするためであるが、その一方、進入角度が小さすぎると、衝突時の力の鉛直成分が小さくなって各アッパー材が反発特性を発揮できなくなるため、これら双方を勘案したものである。
請求項6の発明では、請求項1において、足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材が、硬度の低い低硬度材料から構成されており、当該低硬度材料の硬度が、アスカーのAスケールで50度以下である。また、請求項7の発明では、請求項6において、低硬度材料の硬度がアスカーのAスケールで30〜50度であることを特徴としている。
これは、図13のグラフに示したように、アッパー材の硬度が低くなるほど、斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数が低くなる傾向のあることが分かったからである。また、図13のグラフに示したように、斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数950rpmに相当するアッパー材の硬度がアスカーのAスケールで約47度であることに基づいたものである。なお、下限を30度としたのは、主に、製造面および耐久性を考慮したためである。
請求項8の発明では、請求項6または7において、低硬度材料が軟質ポリウレタンであることを特徴としている。
請求項9の発明では、請求項1において、内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材が、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpmより高くなるような材料から構成されていることを特徴としている。
この場合には、上述したように、斜め衝突試験による反射直後のボール回転数が950rpmを超えるようなアッパー材によりボールをキックすると、カーブキックやインステップキック等の回転系のボール(スピンボール)になるということが分かったので、このような回転系のボールを蹴るべき領域である前側領域に、斜め衝突試験による反射直後のボール回転数が950rpmより高くなるようなアッパー材を配置するようにしたのである。
また、この場合には、無回転シュートを蹴る際には、アッパーの足甲上部の内甲側領域を用い、またカーブキックやインステップキック等のスピンキックを蹴る際には、足甲上部の内甲側の前側領域を用いるようにすればよいので、一般のプレーヤーでもスピンシュートと無回転シュートとを簡単に蹴り分けることができるようになる。
請求項10の発明では、請求項9において、前側領域が、着用者の足の第1趾中足骨から第1趾基節骨にかけての領域であることを特徴としている。
これは、上述したように、プレーヤーがカーブキックやインステップキック等の回転系のボールを実際に蹴った際の足圧測定結果を検証することにより得られたものである。
請求項11の発明では、請求項9において、内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材が、当該内甲側領域を被うアッパー材よりも相対的に硬度の高い高硬度材料から構成されていることを特徴としている。
これは、内甲側領域の前方の前側領域が、カーブキックやインステップキックのような回転系のボールを蹴るための領域であり、また、図13のグラフに示したように、アッパー材の硬度が高くなるほど、斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数が高くなる傾向があるためである。
請求項12の発明では、請求項11において、高硬度材料が、軟質ポリウレタンよりも高硬度の硬質ポリウレタンであることを特徴としている。
請求項13の発明では、請求項1において、足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材が、貯蔵弾性率の低い材料から構成されていることを特徴としている。
図14には、材料の違いによる貯蔵弾性率E’の違いが示されている。同図中、PU80AはA硬度(アスカーのAスケール)80のポリウレタンを、従来品はA硬度64のポリウレタンを、PU40AはA硬度38のポリウレタンをそれぞれ示している。横軸は材料に加える振動の周波数(Hz)を、縦軸は貯蔵弾性率E’(Pa)を示している。なお、貯蔵弾性率の測定は、JIS K 7244−4 に規定する非共振強制振動法による引張振動に準拠して行った。図14から分かるように、硬度が低いほど、貯蔵弾性率も低くなっていることが分かる。
このような点に鑑みて、請求項13の発明では、低硬度材料を配置すべき足甲上部の内甲領域に、貯蔵弾性率の低い材料を配置するようにしたのである。なお、貯蔵弾性率が低いということは、動的に柔らかいことを意味している。したがって、貯蔵弾性率の低い材料を用いて斜め衝突試験を行うと、材料との衝突の際にボールとの接触時間が長くなり、その結果、ボールの跳ね返りの後半で材料がボールの回転を抑えようとする方向にせん断力を作用させるようになると考えられる。
請求項14の発明では、請求項13において、足甲上部の内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材が、当該内甲側領域を被うアッパー材よりも相対的に貯蔵弾性率の高い材料から構成されていることを特徴としている。
上述した図14より、硬度が高いほど、貯蔵弾性率も高くなっていることから、請求項13の発明では、足甲上部の内甲側領域よりも高硬度を要求される、当該内甲側領域の前側領域に、貯蔵弾性率の高い材料を配置するようにしたのである。
請求項15の発明では、請求項1において、当該アッパー構造のアッパーが、シューズの外側に配置される表材と、シューズの内側に配置される裏材とを有するとともに、足甲上部の内甲側領域に沿って表材が窓孔状に刳り貫かれており、足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材が、当該窓孔状刳り貫き部分において裏材の上に設けられていることを特徴としている。
この場合には、足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材の下部が当該窓孔状刳り貫き部分において表材の内部に沈み込んでいることで、当該アッパー材が表材から外側に過度に突出するのを抑制しつつ、当該アッパー材として或る程度の厚みを確保できるとともに、当該アッパー材の剥離を防止できる。
請求項16の発明では、請求項15において、アッパー材が、足甲上部の内甲側領域の周囲の表材から上方に突出して設けられていることを特徴としている。
この場合には、当該アッパー材の表材からの突出量を調整することで、無回転シュート時の足に対する衝撃を緩和できる。
本願の請求項17に係る発明は、フットボールシューズ用アッパー構造において、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材が、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)以下の値になるような材料から構成されている。また、請求項19の発明では、請求項18において、足甲上部の内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材が、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)より大きな値になるような材料から構成されている。ここで、「35Hz」は、サッカーボールの固有振動数から割り出した周波数である。
いま、硬度の異なる3種類のポリウレタンとして、従来品(硬度64A)、PU40A(硬度38A)、PU80A(硬度80A)を用意し、これらを用いて上述の斜め衝突試験を行って、衝突後のボール回転数を測定するとともに、上述のJIS K 7244−4 に準拠した引張振動試験を行って、周波数35Hzでの貯蔵弾性率E’(Pa)を測定した。これらの測定結果を表2に示す。
次に、横軸にE’(Pa)をとり、縦軸にボール回転数(rpm)をとって、表2中の各測定値をプロットするとともに、これらの測定値の相関関係を1次関数のグラフにしたものを図15に示す。
図15中のグラフの方程式は、横座標をx、縦座標をyとするとき、
y=2.211E−05x+727.9
と表すことができる。ここで、y=950を代入すると、
x≒1.0E+07
を得る。
このことから、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpmに対応する貯蔵弾性率E’は、1.0E+07(Pa)つまり1.0×10(Pa)であることが分かった。したがって、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpm以下に対応する貯蔵弾性率E’は1.0×10(Pa)以下である。この基準に適合する材料の一つは、図15よりPU40Aである。また、これは、図14において、周波数35Hzにおける貯蔵弾性率E’が1.0×10(Pa)以下つまり1.0E+07(Pa)以下である材料がPU40Aであることとも一致している。
したがって、請求項17の発明によれば、一般のプレーヤーでも、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになる。また、請求項18の発明によれば、無回転シュートを蹴る際には、アッパーの足甲上部の内甲側領域を用い、またカーブキックやインステップキック等のスピンキックを蹴る際には、足甲上部の内甲側領域の前方の前側領域を用いるようにすればよいので、一般のプレーヤーでもスピンシュートと無回転シュートとを簡単に蹴り分けることができるようになる。
請求項19の発明では、請求項17において、足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材が、硬度の低い低硬度材料から構成されており、前記低硬度材料の硬度が、アスカーのAスケールで30〜50度であることを特徴としている。
これは、図13のグラフに示したように、アッパー材の硬度が低くなるほど、斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数が低くなる傾向のあることが分かったからである。また、図13のグラフに示したように、斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数950rpmに相当するアッパー材の硬度がアスカーのAスケールで約47度であることに基づいたものである。なお、下限を30度としたのは、主に、製造面および耐久性を考慮したためである。
以上のように、本願発明の第1の発明に係るアッパー構造によれば、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材を、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpm以下になるような材料から構成するようにしたので、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになる。
また、本願発明の第2の発明に係るアッパー構造によれば、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材を、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)以下の値となるような材料から構成するようにしたので、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになる。
本発明の一実施例によるアッパー構造を備えたサッカーシューズ(左足)の内甲側側面図である。 サッカーシューズ(図1)の外甲側側面図である。 サッカーシューズ(図1)の前足部分の平面図である。 図1のIV-IV線断面図である。 無回転シュート領域、カーブキック領域およびインステップキック領域を左足の骨格図に対応させて示す内甲側側面図である。 無回転シュート領域、カーブキック領域およびインステップキック領域を左足の骨格図に対応させて示す平面図である。 (a)は無回転シュートの際の足圧分布を示す左足の内甲側側面図、(b)はその平面図である。 (a)はカーブキックの際の足圧分布を示す左足の内甲側側面図、(b)はその平面図である。 (a)はインステップキックの際の足圧分布を示す左足の内甲側側面図、(b)はその平面図である。 (a)は無回転シュートの際のインパクト前後のボールを示す平面図、(b)はその側面図である。 プレーヤーが無回転シュートを11回試行した場合のそれぞれについて、ボールインパクト直前の足(Foot)に関するデータ、ボールインパクト直後のボール(Ball)に関するデータ、および無回転シュートか否かの判定結果を示す表である。 斜め衝突試験の概要を説明するための図である。 実際にボールをキックした際のキック後のボール回転数と、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数との相関関係を示すグラフである。 各種アッパー材のA硬度と、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数との関係を示すグラフである。 各種素材の貯蔵弾性率を周波数との関係で示したグラフである。 各種素材の貯蔵弾性率と、当該各種素材を用いた斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数との関係を示すグラフである。 各種素材を用いて斜め衝突試験を行った際に、ボールの接触時間と貯蔵弾性率との関係を示すグラフである。 複数の突条部を有するパネルにボールを衝突させるシミュレーション実験の概要を説明するための図である。 各突条部のパネルトップ面の意匠幅を横軸にとり、ボール回転数を縦軸にとって表4の関係を表したグラフである。 本発明の他の実施例によるアッパー構造を備えたサッカーシューズ(左足)の内甲側側面図である。 サッカーシューズ(図19)の外甲側側面図である。 サッカーシューズ(図19)の前足部分の平面図である。 サッカーシューズ(図19)の無回転シュート領域を構成する無回転シュートパネルパーツの拡大図である。 図22のXXIII-XXIII線断面図である。
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし図4は、本発明の一実施例によるサッカーシューズを示している。図1ないし図3に示すように、このサッカーシューズ1は、シューズ前足部分に配置された前足側ソール2と、シューズ後足部分に配置され、その前側部分が前足側ソール2にオーバラップする後足側ソール3と、前足側ソール2および後足側ソール3の上に固着されたアッパー(甲被)4とから主として構成されている。
前足側ソール2の後側部分には、アッパー4の外面に沿って上方に立ち上がる巻上げ部2aが形成されている。巻上げ部2aは、前足側ソール2および後足側ソール3のオーバラップ部分を被うように配置されている。前足側ソール2および後足側ソール3の下面には、複数のクリーツ(スパイク)20、30がそれぞれ設けられている。また、アッパー4の踵部分には、当該踵部分の保形性を維持するためのヒールカウンター部5が装着されている。
アッパー4は、着用者の足の足甲上部の内甲側に配置された内甲側領域40と、その前側の足甲前部に配置された前側領域45とを有している。内甲側領域40は、後述するように、無回転シュートを蹴るための領域であり、前側領域45は、カーブキックおよびインステップキック等のスピンキックを蹴るための領域である。内甲側領域40は、実質的にシューズ前後方向に長い例えば略平行四辺形状等の略四角形状に形成された領域であって、実質的にシューズ前後方向に配設され、相対的に硬度の低い軟質ポリウレタンから構成されている。別の言い方をすれば、軟質ポリウレタンは、アッパー材の一部として、内甲側領域40を被っている。軟質ポリウレタンとしては、例えばPU40Aが好ましい。なお、軟質ポリウレタンの代わりに、低硬度ラバーを用いるようにしてもよい。
アッパー4の内甲側領域40は、図3のIV-IV線断面である図4に示すように、シューズ1の外側に配置された表材4Aと、シューズ1の内側に配置された裏材4Bとを有しており、表材4Aは、内甲側領域40の外周縁部に沿って窓孔状に刳り貫かれた窓孔状刳り貫き部分4aを有している。内甲側領域40の軟質ポリウレタンは、窓孔状刳り貫き部分4aにおいて、裏材4Bの上に配置された内装材4Cの上に設けられている。
また、内甲側領域40の軟質ポリウレタンは、実質的にシューズ前後方向に断続的に延びる複数の溝部41と、シューズ前後方向に隣り合う各溝部41の間に形成された長孔状の貫通d孔42とを有しており、溝部41および貫通孔42の組合せからなるシューズ前後方向の列が、シューズ前後方向と交差する方向に間隔を隔てて複数本(この例では5本)配置されている(図1参照)。また、これらの列において、溝部41および貫通孔42は、シューズ前後方向と交差する方向に整列することなく、互い違いに配置されている。軟質ポリウレタン41の上面(パネルトップ面)40Aは、その周囲の表材4Aから上方に突出して設けられている。別の言い方をすれば、内甲側領域40の軟質ポリウレタンのパネルトップ面40Aは、実質的にシューズ前後方向に延びかつ周囲のアッパー領域から上方に突出する複数本の突条部から構成されている。
内甲側領域40の軟質ポリウレタンのパネルトップ面40Aの幅(つまり、図4において溝部41と貫通孔42で挟まれたパネルトップ面40Aの長さ)である意匠幅は、好ましくは2mm以上に設定されている(その理由については後述する)。また、軟質ポリウレタンに複数の溝部41や貫通孔42を形成することにより、内甲側領域40を軽量化できるばかりでなく、内甲側領域40を着用者の足甲上部の形状に容易に沿わせることができるようになる。
前側領域45には、アイランド状に複数個設けられた、内甲側領域40の軟質ポリウレタンよりも相対的に硬度が高い硬質ポリウレタン46から構成されている。別の言い方をすれば、硬質ポリウレタン46は、アッパー材の一部として、前側領域45を実質的に被っている。硬質ポリウレタン46としては、例えばPU80Aが好ましい。なお、硬質ポリウレタンの代わりに、高硬度ラバーを用いるようにしてもよい。
前側領域45には、各硬質ポリウレタン46の領域の外周縁部に沿ってアッパー4の表材4Aが窓孔状に刳り貫かれた複数の窓孔状刳り貫き部分4a’が形成されており、これらの窓孔状刳り貫き部分4a’においてアッパー4の裏材4Bの上に各硬質ポリウレタン46が設けられている。また、各硬質ポリウレタン46の上面は、内甲側領域40の軟質ポリウレタンの場合と同様に、その周囲の表材4Aから突出して設けられている(図示省略)。
内甲側領域40は、図5および図6に示す足の骨格図に重ね合わせると分かるように、足の舟状骨NBから内側楔状骨MCおよび中間楔状骨ICにかけての領域(無回転シュート領域)NRを被う領域である。また、前側領域45は、同様に、図5および図6に示す足の骨格図に重ね合わせると分かるように、足の第1趾末節骨DP骨底から第1趾基節骨PPおよび第1趾中足骨ME中央部分までを被う領域(インステップキック領域)IKと、インステップキック領域IKを含みつつ、さらに第1中足骨ME骨底直前部分まで被う領域(カーブキック領域)CKとを有している。なお、図5および図6中、LCは外側楔状骨を、CAは踵骨を、TAは距骨をそれぞれ示している。
無回転シュート領域NR、カーブキック領域CKおよびインステップキック領域IKをこのような位置に定めたのは、一流のプレーヤー10名に実際に無回転シュート、カーブキックおよびインステップキックを蹴ってもらった際の足の足圧分布結果に基づいている。
図7は無回転シュートの足圧分布を、図8はカーブキックの足圧分布を、図9はインステップキックの足圧分布をそれぞれ示している。これらはいずれも測定結果の平均値のデータを示しており、各図(a)は左足の内甲側の足圧分布を、各図(b)は左足の足甲部分の足圧分布をそれぞれ示している。また、この足圧測定においては、足の表面の内甲側部および第1趾から第5趾の各足趾に沿ってセンサを貼り付け、その上から靴下を履いた状態で各プレーヤーにボールを蹴ってもらい、キックの際、足のどの位置にどれだけの圧力が作用しているかを測定した。
図7に示すように、無回転シュートは、主に足の足甲上部の内甲側領域で蹴っていることが分かった。この内甲側領域を図5および図6に示す左足の骨格図と重ねてみると分かるように、無回転シュートを蹴った際に比較的足圧の高い領域である無回転シュート領域NRは、足の舟状骨NB、内側楔状骨MCおよび中間楔状骨ICを被う領域である。図8および図5、図6から分かるように、カーブキックの際に比較的足圧の高い領域であるカーブキック領域CKは、足の第1趾末節骨DP骨底から第1趾基節骨PPおよび第1趾中足骨ME骨底直前部分まで被う領域である。同様に、図9および図5、図6から分かるように、インステップキックの際に比較的足圧の高い領域であるインステップキック領域IKは、足の第1趾末節骨DP骨底から第1趾基節骨PPおよび第1趾中足骨ME中央部分までを被う領域である。カーブキック領域CKは、インステップキックIKよりも内甲側後方部分まで延在している。
また、無回転シュート領域NRのアッパー材として、相対的に低硬度の軟質ポリウレタンを用い、カーブキック領域CKおよびインステップキック領域IKのアッパー材として、相対的に高硬度の硬質ポリウレタン46を用いたのは、硬度の違いによりキック後のボール回転数が異なる点に着目したためである。
まず、本願発明者らは、どのような条件下で無回転シュートが発生するのかについて検証するために、一流のサッカープレーヤーに実際に無回転シュートを蹴ってもらい、ボールが置かれたキック地点と、そこから50m離れた到達目標地点との双方の地点で、それぞれ観測者に目視でキック後のボールの軌道を観察させた。そして、双方の観測者が無回転シュートと判断したもののみを無回転シュートと判定した。なお、無回転シュートか否かの判定は、蹴り出されたボールが一方向への曲がりがなくかつうねりながら揺れる(ブレる)ような軌道を描いた場合、別の言い方をすれば、ボールの飛翔中にブレるような動きをすることにより予測不能の軌道を描いた場合を「無回転」とした。
上述したように、図10Aは、プレーヤーが無回転シュートを11回試行した場合のそれぞれについて、無回転シュートか否かの判定結果を示している。この判定結果から見ると、無回転シュートが得られるボールインパクト直後のボール回転数は最大で111rpmであるが、測定誤差や観測者のばらつき等を考慮して、測定値の有効数字上位二桁を採用することにした。したがって、無回転シュートが得られるボール回転数は110rpm以下であると判断される。
なお、図10A中の各種データおよびこれらのデータに関連する図10(a)、(b)についての説明は、上記[課題を解決するため手段]の項ですでに行っているので、ここでの詳細な説明は省略する。
次に、本願発明者らは、プレーヤーがボールを蹴った現象と相関関係の高い斜め衝突試験におけるボール衝突後のボール回転数と、実際に無回転シュートを行った際のボール回転数の上限値である110rpmとの対応関係を検証した。
斜め衝突試験は、図11に示すように、アッパー材となる素材シートMを人体硬度板HBに張り付けたものを鉄板IBに固定した状態で、サッカーボール発射装置(図示せず)から発射したサッカーボールBを素材シートMに衝突させることにより行う。ここで、人体硬度板とは、人体に相当する硬さを有する厚み10mmの塩化ビニル製の板であって、アスカーのAスケールで60度の硬度を有している。素材シートMと鉄板IBとの間にこのような人体硬度板HBを挿入したのは、実際のキックの際には、アッパーに作用する衝撃力は人体が受けることになるからである。
なお、図11中、角度αは、サッカーボール発射装置から発射したサッカーボールBが素材シートMに衝突する際に素材シートMの面となす進入角度であり、角度βは衝突後に素材シートMから跳ね返るサッカーボールBが素材シートMの面となす跳ね返り角度であり、V、VはそれぞれボールBの衝突速度および跳ね返り速度である。サッカーボールBを素材シートMの面に対して鋭角の角度αの進入角度をもって斜めに衝突させるようにしたのは、進入角度の小さい方が衝突後のボールに回転が生じやすくなるため、素材間の違いが顕著になるようにするためであるが、その一方、進入角度が小さすぎると、衝突時の力の鉛直成分が小さくなって各素材が反発特性を発揮できなくなるため、これら双方を勘案して、αの値を下記のように設定している。
この斜め衝突試験における試験条件は以下のとおりである。
=23.0〜25.0m/s
α=29〜33.0°
衝突前のボール回転数=0〜25rpm
ボールの空気圧=0.81kg/cm
また、使用したサッカーボールは、アディダス製の2006年ワールドカップモデル・プラス・チームガイストである。
ここで、Vを上記範囲に設定したのは、プロと上級のアマチュア選手のインパクト前の足の平均的な速度に対応させたためである。
なお、斜め衝突試験においては、静止した素材シートMに向かってボールBを発射させているが、ボールBの衝突速度Vが実際のキック時のボールと足の相対速度に一致していれば、このような斜め衝突試験により、実際のキック時の衝突現象を再現できるものと考えられる。
素材シートMとして、硬度38Aの軟質ポリウレタンであるPU40Aおよび天然皮革を用意し、上記斜め衝突試験を行った。なお、V=24.1m/sのとき、素材シートMに平行な速度成分が20.7m/sで、素材シートMに垂直な速度成分が12.4m/sであった。このとき、ボール衝突後のボール回転数は、それぞれ911.5rpm、1045.5rpmであった。その一方、これらと同じ素材をアッパーの上記無回転シュート領域に有するシューズを用いて一般のプレーヤーがサッカーボールを実際にキックした際のキック後のボール回転数は、それぞれ103.1rpm、128.6rpmであった。
同じ素材同士であれば、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数と実際のキック後のボール回転数は、一対一に対応していると考えられる。そこで、図12に示すように、横軸にキック後のボール回転数(rpm)を、縦軸にボール衝突後のボール回転数(rpm)をそれぞれとり、点(103.1,911.5)および点(128.6,1045.5)を図中にプロットした。そして、これら2つの点を直線状に結んで、直線L’が得られる。この直線L’は、一般のプレーヤーが実際にボールをキックした後のボール回転数(rpm)と、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数(rpm)との関係を表すグラフである。
ここで、直線L’上において、無回転シュート時のボール回転数の上限値である110rpm(横座標)に対応する縦座標を求めると、947.8rpmになる。ここでも、有効数字上位二桁を採用することにすると、横座標の110rpmに対応する斜め衝突試験によるボール回転数の換算値は、950rpmになる。したがって、実際のキック後に無回転シュートとなるアッパー材の斜め衝突試験後におけるボール回転数の上限値は950rpmであることが分かった。
このことから、着用者の足甲上部の内甲側領域40、とくに足の舟状骨NBから内側楔状骨MCおよび中間楔状骨ICにかけての領域(無回転シュート領域)NRを被うアッパー材としては、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpm以下になっていることが必要である。
このようなアッパー材を無回転シュート領域NRに有するシューズを履き、無回転シュート領域NRでボールを蹴ると、一般のプレーヤーでもキック後のボールのスピン特性をコントロールできるようになって、容易に無回転シュートを蹴ることができるようになる。
また、図12より、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が950rpmを超えるようなアッパー材によりボールをキックすると、カーブキックやインステップキック等の回転系のボールになるということが分かる。このことから、足甲上部の内甲側領域40の前側領域45、とくに足の第1趾末節骨DP骨底から第1趾基節骨PPおよび第1趾中足骨MEにかけての領域(スピンキック領域)を被うアッパー材としては、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpmより高くなっていることが必要である。
なお、図12中、直線Lは、一流のプレーヤーが実際にボールをキックした後のボール回転数(rpm)と、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数(rpm)との関係を表すグラフである。グラフ上の点(100,1044)は、素材シートMとして用意した天然皮革をアッパーの上記無回転シュート領域に有するシューズを用いて一流のプレーヤーが無回転シュートを蹴った際のキック後のボール回転数、および当該天然皮革を用いた斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数との対応を示している。
ここで、直線Lの傾きを直線L’の傾きよりも大きくしたのは、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が同じアッパー材であっても、一般のプレーヤーがボールを蹴ればキック後のボール回転数は高くなるが、一流のプレーヤーがボールを蹴ればキック後のボール回転数は低くなる傾向があり、この傾向は、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が高いアッパー材ほど顕著になるためである。
さらに、図12から分かるように、一般のプレーヤーが、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数1045.5rpmのアッパー材を有するシューズでボールを蹴った場合には、キック後のボール回転数は128.6rpm(>110rpm)となって、無回転シュートにはならないが、一般のプレーヤーが、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpmのアッパー材を有するシューズでボールを蹴った場合には、キック後のボール回転数は110rpmとなって、無回転シュートになる。
次に、各種素材シートMのアスカーAスケールでの硬度(A硬度)と、これらの素材シートMを用いた斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数との関係が上述の表1に示されている。また、横軸にA硬度、縦軸にボール回転数をとり、表1中のデータをプロットするとともに、これらのデータの相関関係を1次関数のグラフにしたものを図13に示す。
図13中のグラフの方程式は、横座標をx、縦座標をyとするとき、
y=5.359x+697.2
と表すことができる。ここで、y=950を代入すると、
x=47.17≒47
を得る。
これにより、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpmに対応するA硬度は、47度であることが分かった。なお、測定誤差のばらつき等を考慮した結果、A硬度の上限値として50度を採用することにした。また、アッパー材としての耐摩耗性を考慮すると、A硬度の下限値としては30度が好ましい。したがって、アッパー4の無回転シュート領域NRに用いるアッパー材の硬度としては、アスカーAスケールで30〜50Aが好ましいと判断される。
また、図13のグラフより、硬度の低いものほど斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が低く、逆に、硬度の高いものほど斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数が高くなることが分かる。
このような事象が生じるのは、低硬度の方が斜め衝突の際にボールとの接触時間が長くなり、その際にボールのスピンを減らす力が長く作用するためであると考えられる。
そこで、アッパー4において、キック後のボール回転数が低いことが要求される無回転シュート領域NRに低硬度の軟質ポリウレタン(好ましくはPU40A:硬度38A)41を採用するとともに、キック後に或る程度のボール回転数が要求されるインステップキック領域IRおよびカーブキック領域CKに相対的に高硬度の硬質ポリウレタン(好ましくはPU80A:硬度80A)46を採用したのである。
また、無回転シュート領域NRには、貯蔵弾性率の低い材料を配設するとともに、インステップキック領域IRおよびカーブキック領域CKには、相対的に貯蔵弾性率の高い材料を配設するようにしてもよい。その理由は以下のとおりである。
図14は、材料の違いによる貯蔵弾性率E’の違いを示しており、同図中、PU80AはA硬度(アスカーのAスケール)80のポリウレタンを、従来品はA硬度64のポリウレタンを、PU40AはA硬度38のポリウレタンをそれぞれ示している。横軸は材料に加える振動の周波数(Hz)を、縦軸は貯蔵弾性率E’(Pa)を示している。なお、貯蔵弾性率の測定は、JIS K 7244−4 に規定する非共振強制振動法による引張振動に準拠して行った。
図14から分かるように、硬度が低いほど、貯蔵弾性率も低くなっている。このような点に鑑みて、低硬度材料を配置すべき足甲上部の内甲側領域である無回転シュート領域NRに、貯蔵弾性率の低い材料を配置するとともに、足甲上部の内甲側領域よりも高硬度を要求される、当該内甲側領域の前側領域に、貯蔵弾性率の高い材料を配置するようにしたのである。
ここで、貯蔵弾性率とボール回転数との関係について検証してみる。
いま、硬度の異なる3種類のポリウレタンとして、従来品(硬度64A)、PU40A(硬度38A)、PU80A(硬度80A)を用意し、これらを用いて上述の斜め衝突試験を行って、衝突後のボール回転数を測定するとともに、上述のJIS K 7244−4 に準拠した引張振動試験を行って、周波数35Hzでの貯蔵弾性率E’(pa)を測定した。これらの測定結果は表2に示したとおりである。ここで、「35Hz」は、サッカーボールの固有振動数から割り出した周波数である。
次に、横軸にE’(Pa)をとり、縦軸にボール回転数(rpm)をとって、表2中の各測定値をプロットするとともに、これらの測定値の相関関係を1次関数のグラフにしたものを図15に示す。
図15中のグラフの方程式は、横座標をx、縦座標をyとするとき、
y=2.211E−05x+727.9
と表すことができる。ここで、y=950を代入すると、
x≒1.0E+07
を得る。
このことから、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpmに対応する貯蔵弾性率E’は、1.0E+07(Pa)つまり1.0×10(Pa)であることが分かった。したがって、斜め衝突試験によるボール衝突後のボール回転数950rpm以下に対応する貯蔵弾性率E’は1.0×10(Pa)以下である。この基準に適合する材料の一つは、図15よりPU40Aである。また、これは、図14において、周波数35Hzにおける貯蔵弾性率E’が1.0×10(Pa)以下つまり1.0E+07(Pa)以下である材料がPU40Aであることとも一致している。
なお、貯蔵弾性率が低いということは、動的に柔らかいことを意味している。したがって、貯蔵弾性率の低い材料を用いて斜め衝突試験を行うと、材料との衝突の際にボールとの接触時間が長くなり、その結果、ボールの跳ね返りの後半で材料がボールの回転を抑えようとする方向にせん断力を作用させるようになると推測される。これとは逆に、貯蔵弾性率が高い材料においては、材料との斜め衝突の際にボールとの接触時間が短くなり、その結果、ボールの跳ね返りの後半でボールの回転を抑えるせん断力の作用も弱くなって、衝突後のボール回転数も低くならないと考えられる。
このような観点から、本実施例においては、足甲上部の内甲側領域40の貯蔵弾性率が、35Hzの振動を与えたときに1.0×10(Pa)以下の値となり、かつ内甲側領域40の前方の前側領域45の貯蔵弾性率が、35Hzの振動を与えたときに1.0×10(Pa)より大きな値となるようにしたのである。
次に、貯蔵弾性率とボール接触時間との関係について検証した。
上述した3種類のポリウレタン(従来品、PU40A、PU80A)を用いて斜め衝突試験を行った際に、ボールが各素材シートと接触する接触時間(つまり接触開始直後から離れる直前までの時間)を測定した。試験は、各素材シートについて8回ずつ行い、測定された接触時間の平均値を求めた。測定結果を表3に示す。
表3には、従来品の接触時間を100としたときのPU40AおよびPU80Aの相対的接触時間の値が示されている。さらに、それぞれの素材の貯蔵弾性率E’についても同様に記載されている。
次に、横軸に接触時間(%)をとり、縦軸にE’(Pa)をとって、表3中の各測定値をプロットするとともに、これらの測定値の相関関係を1次関数のグラフにしたものを図16に示す。同図より、貯蔵弾性率が低いほど、ボールの接触時間も短いことが検証された。
次に、内甲側領域40の軟質ポリウレタンのパネルトップ面40Aの幅(つまり、図4においてスリット41と貫通孔42で挟まれたパネルトップ面40Aの長さ)である意匠幅を2mm以上に設定したのは、以下の理由による。
いま、図17に示すように、意匠幅t(mm)の突条部を1.0(mm)間隔で複数個配置してなるポリウレタンPU40A製のパネルPと直径220(mm)のボールBのモデルを作成し、ボールBを実際にパネルPに衝突させる場合と同じ条件でミュレーション実験を行って、FEM解析により衝突後のボール回転数を求めた。
このシミュレーション実験においては、意匠幅tを1.0(mm)〜5.0(mm)まで1(mm)きざみで変化させ、それぞれについて衝突後のボール回転数を算出した。その結果を表4に示す。同表には、意匠幅が1.0(mm)のときのボール回転数の値を100としたときの他の意匠幅におけるボール回転数の相対値が併せて記載されている。
横軸に意匠幅t(mm)をとり、縦軸にボール回転数(%)をとって、表4の結果をグラフ化したものが図18に示されている。同図から分かるように、意匠幅が1(mm)のものと2(mm)以上のものとでは、ボール回転数の値が大きく異なっており、意匠幅が2(mm)以上になると、ボール回転数が大幅に減少している。このことから、本実施例の内甲側領域40の軟質ポリウレタンのパネルトップ面40Aの幅を2(mm)以上としたのである。
なお、上述のシミュレーション実験においては、使用したパネルPの総厚みDは1〜2(mm)であるが、ベースPbの厚みに関しては、これを変えても、図18に示した各意匠幅における各ボール回転数の値は増減するものの、各ボール回転数の相関関係(つまり大小関係)は変わらないことが確認された。
このように本実施例によれば、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材を、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpm以下になるような材料から構成するようにしたので、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになる。
また、本実施例によれば、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材を、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)以下の値となるような材料から構成するようにしたので、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになる。
しかも、本実施例によれば、着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材を、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpmより高くなるような材料から構成するようにしたので、または、着用者の足甲上部の内甲側領域の前側領域を被うアッパー材を、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)より大きな値となるような材料から構成するようにしたので、一般のプレーヤーでもカーブキックやインステップキック等のスピンシュートと無回転シュートとを簡単に蹴り分けることができるようになる。
さらに、本実施例によれば、足甲上部の内甲側領域40を被うアッパー材としての軟質ポリウレタン41の下面41aが当該窓孔状刳り貫き部分4aにおいて表材4Aの内部に沈み込んでいることで(図4参照)、当該アッパー材が表材4Aから外側に過度に突出するのを抑制しつつ、当該アッパー材として或る程度の厚みを確保できるとともに、当該アッパー材の剥離を防止できる。また、アッパー材が、足甲上部の内甲側領域40の周囲の表材4Aから突出して設けられていることで、当該アッパー材の表材4Aからの突出量を調整することにより、無回転シュート時の足に対する衝撃を緩和できる。
同様に、足甲上部の内甲側領域40の前側領域45を被うアッパー材としての硬質ポリウレタン46の下面が表材4Aの窓孔状刳り貫き部分4a’において表材4Aの内部に沈み込んでいることで、当該アッパー材が表材4Aから外側に過度に突出するのを抑制しつつ、当該アッパー材として或る程度の厚みを確保できるとともに、当該アッパー材の剥離を防止できる。また、アッパー材が、その周囲の表材4Aから突出して設けられていることで、当該アッパー材の表材4Aからの突出量を調整することにより、カーブキックやインステップキックの際の足に対する衝撃を緩和できる。
次に、図19ないし図23は、本発明の他の実施例によるサッカーシューズを示している。なお、これらの図において、前記実施例の図1ないし図4と同一符号は同一または相当部分を示している。
図19ないし図21に示すように、このサッカーシューズ1’は、アッパー4の足甲上部の内甲側に配置された内甲側領域40’と、その前方に配置された前側領域45とを有している。内甲側領域40’は、前記実施例の内甲側領域40と同様に、無回転シュートを蹴るための領域であって、実質的にシューズ前後方向に延びているが、この例では、扇状の領域である。内甲側領域40’は、前記実施例の内甲側領域40と同様に、着用者の足の舟状骨NBから内側楔状骨MCおよび中間楔状骨ICにかけての領域に延在している(図5、図6の骨格図参照)。
内甲側領域40’は、上述した斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950(rpm)以下になるような材料から構成されている。あるいは、内甲側領域40’は、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)以下の値になるような材料から構成されている。このような材料としては、アスカーのAスケールで硬度50度以下、好ましくは30〜50度の例えば軟質ポリウレタンが用いられている。
内甲側領域40’の軟質ポリウレタンは、パネルパーツ拡大図である図22およびそのXXIII-XXIII線断面である図23に示すように、アッパー表材4Aを窓孔状に刳り貫いて形成された刳り貫き部分4a内において、アッパー裏材4Bの上に配置された内装材4Cの上に設けられている。内甲側領域40’の軟質ポリウレタンは、内甲側領域40’の扇形状に沿って内部に断続的に延びる長孔状の複数の貫通孔42’と、内甲側領域40’の中央から十字方向に延びる溝部41’とを有している。
内甲側領域40’の軟質ポリウレタンの上面(パネルトップ面)40A’は、その周囲の表材4Aから上方に突出して設けられている。別の言い方をすれば、内甲側領域40’の軟質ポリウレタンのパネルトップ面40Aは、実質的にシューズ前後方向に延びかつ周囲のアッパー領域から上方に突出する複数本の突条部を有している。
内甲側領域40’の軟質ポリウレタンのパネルトップ面40A’の幅(つまり、図23において隣り合う各貫通孔42’で挟まれた、または貫通孔42’と溝部41’との間で挟まれたパネルトップ面40Aの長さ)である意匠幅は、前記実施例と同様に、好ましくは2mm以上に設定されている。また、軟質ポリウレタンに複数の溝部41’や貫通孔42’を形成することにより、内甲側領域40’を軽量化できるばかりでなく、内甲側領域40’を着用者の足甲上部の形状に容易に沿わせることができるようになる。
一方、足甲上部の内甲側領域40’の前方の前側領域45は、カーブキックやインステップキック等のスピンキックを蹴るための領域であって、前記実施例と同様に、着用者の足の第1趾中足骨MEから第1趾基節骨PPにかけての領域である。
前側領域45は、上述した斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950(rpm)より高くなるような材料から構成されている。あるいは、前側領域45は、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)より大きな値になるような材料から構成されている。このような材料としては、アスカーのAスケールで硬度50度よりも大きな例えば硬質ポリウレタンが用いられている。
前側領域45は、図19ないし図21に示すように、アイランド状に配置された複数個の硬質ポリウレタン46から構成されている。各硬質ポリウレタン46は、アッパーの表材を刳り貫いた複数の窓孔状刳り貫き部分4a’に設けられており、各硬質ポリウレタン46の上面は、その周囲の表材から突出している。
この場合においても、前記実施例と同様に、キック後のボールのスピン特性をコントロールでき、一般のプレーヤーでも簡単に無回転シュートを蹴ることができるようになるばかりでなく、一般のプレーヤーでもカーブキックやインステップキック等のスピンシュートと無回転シュートとを簡単に蹴り分けることができるようになる。
以上のように、本発明は、フットボールシューズに有用であり、とくにサッカーシューズのアッパー構造に適している。
1: サッカーシューズ

4: アッパー
4A: 表材
4B: 裏材
4a、4a’: 窓孔状刳り貫き部分
40、40’: 内甲側領域
40A、40A’: パネルトップ面
45: 前側領域
46: 硬質ポリウレタン(アッパー材)

NB: 舟状骨
MC: 内側楔状骨
IC: 中間楔状骨
PP: 第1趾基節骨
ME: 第1趾中足骨
特開平8−332101号公報(図1、図4、図7等参照) 特開平9−28412号公報(図1、図4〜図6参照)。 特表2004−520113号公報(図2、図7参照)。 特表平10−501725号公報(図1、図2参照)。 特表2007−509655号公報(明細書の段落[0001]、[0010]参照) 特表2001−523499号公報(図1、図3、図4〜図10参照)。

Claims (19)

  1. フットボールシューズ用アッパー構造において、
    着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材は、当該アッパー材に対してサッカーボールを斜め方向から衝突させる斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpm以下になるような材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  2. 請求項1において、
    前記内甲側領域が、着用者の足の舟状骨から内側楔状骨および中間楔状骨にかけての領域である、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  3. 請求項2において、
    前記内甲側領域が実質的にシューズ前後方向に延びる領域である、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  4. 請求項1において、
    前記内甲側領域の前記アッパー材が、実質的にシューズ前後方向に延びる複数本の突条部を有しており、前記各突条部がその周囲のアッパー領域から上方に突出している、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  5. 請求項1において、
    前記斜め衝突試験が、
    前記アッパー材をプレートに貼り付けた状態で、当該プレートの面に対して29〜33度をなす方向から0〜25rpmの回転数のサッカーボールを速度23.0〜25.0m/sで前記アッパー材に衝突させることにより、実施されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  6. 請求項1において、
    足甲上部の前記内甲側領域を被う前記アッパー材が、硬度の低い低硬度材料から構成されており、前記低硬度材料の硬度が、アスカーのAスケールで50度以下である、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  7. 請求項6において、
    前記低硬度材料の硬度が、アスカーのAスケールで30〜50度である、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  8. 請求項6または7において、
    前記低硬度材料が軟質ポリウレタンである、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  9. 請求項1において、
    前記内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材は、前記斜め衝突試験を行った際に、反射直後のボール回転数が950rpmより高くなるような材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  10. 請求項9において、
    前記前側領域が、着用者の足の第1趾中足骨から第1趾基節骨にかけての領域である、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  11. 請求項9において、
    前記前側領域を被う前記アッパー材が、前記内甲側領域を被う前記アッパー材よりも相対的に硬度の高い高硬度材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  12. 請求項11において、
    前記高硬度材料が硬質ポリウレタンである、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  13. 請求項1において、
    足甲上部の前記内甲側領域を被う前記アッパー材が、貯蔵弾性率の低い材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  14. 請求項13において、
    前記内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材が、前記内甲側領域を被う前記アッパー材よりも相対的に貯蔵弾性率の高い材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  15. 請求項1において、
    当該アッパー構造のアッパーが、シューズの外側に配置される表材と、シューズの内側に配置される裏材とを有するとともに、前記内甲側領域に沿って前記表材が窓孔状に刳り貫かれており、前記内甲側領域を被う前記アッパー材は、当該窓孔状刳り貫き部分において前記裏材の上に設けられている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  16. 請求項15において、
    前記アッパー材は、前記内甲側領域の周囲の前記表材から上方に突出して設けられている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  17. フットボールシューズ用アッパー構造において、
    着用者の足甲上部の内甲側領域を被うアッパー材は、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)以下の値になるような材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  18. 請求項17において、
    前記内甲側領域の前方の前側領域を被うアッパー材は、35Hzの振動を与えたときに貯蔵弾性率が1.0×10(Pa)より大きな値になるような材料から構成されている、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
  19. 請求項17において、
    足甲上部の前記内甲側領域を被う前記アッパー材が、硬度の低い低硬度材料から構成されており、前記低硬度
    材料の硬度が、アスカーのAスケールで30〜50度である、
    ことを特徴とするフットボールシューズ用アッパー構造。
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