JP2011069681A - 転がり軸受の余寿命推定方法および推定装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 転がり軸受の寿命理論に基づいていて、かつ任意の条件に対して余寿命推定が可能な転がり軸受の余寿命推定方法を提案する。
【解決手段】 転がり軸受の寿命はルンドベルグとパルムグレンの寿命理論に基づいて決まると仮定する。動等価荷重から10%寿命を求め、寿命の分布はワイブル分布に従うと仮定する。形状母数は寿命理論値を用い、位置母数は経験式から求め、10%寿命、形状母数、位置母数から尺度母数を求めて寿命が従うワイブル分布を決定する。その寿命分布と軸受の回転回数から残存確率、すなわち余寿命を推定する。
【選択図】 図1
【解決手段】 転がり軸受の寿命はルンドベルグとパルムグレンの寿命理論に基づいて決まると仮定する。動等価荷重から10%寿命を求め、寿命の分布はワイブル分布に従うと仮定する。形状母数は寿命理論値を用い、位置母数は経験式から求め、10%寿命、形状母数、位置母数から尺度母数を求めて寿命が従うワイブル分布を決定する。その寿命分布と軸受の回転回数から残存確率、すなわち余寿命を推定する。
【選択図】 図1
Description
この発明は、ラジアル軸受やスラスト軸受等の転がり軸受の余寿命を推定する転がり軸受の余寿命推定方法および推定装置に関する。
転がり軸受の寿命は、使用荷重、潤滑条件、材料等に依存することが知られている。従来より、軸受の寿命予測は、使用荷重、潤滑条件、材料等を考慮して作成された寿命計算式を使って行われている(非特許文献1)。この計算式は、転がり軸受をある条件で使用する際にどのくらいの期間使用できるかを見積もるため、あるいは、要求される使用期間で軸受が破損しないためにどのような条件で転がり軸受を使用すればよいかを見積もるために使用されている。一般に、軸受はその寿命計算式に基づいて設定した使用条件で使用される。したがって、通常の条件で軸受が使用されるかぎりは、軸受の寿命が問題になることはないはずである。
しかしながら、軸受の寿命が市場で問題となる状況がしばしば生じる。これは、実際の軸受の使用条件が設計した条件と異なっていることが一因であると考えられる。このため、転がり軸受では、実際に使用されている軸受の余寿命を推定する方法がいくつか提案されている。余寿命推定方法としては、使用途中の代表軸受の材質の変化を抜き取りで調査し、軸受全体の交換時期について検討するオフラインの方法(非特許文献2)と、個々の軸受の使用状況をその場で調査し、個々の軸受の交換時期について検討するオンラインの方法がある(特許文献1〜3)。
岡本純三著, ころがり軸受・ころ軸受の動的負荷容量−ルンドベルグ−パルムグレン(Lundberg-Palmgren)理論の詳解−,千葉大学工学部機械工学科機械要素講座,(1988)
対馬全之, 前田喜久男共著, ベアリングエンジニア, 48 (1984) 1-17.
ISO, ISO/TS16281, (2006).
NTN社発行,NTN転がり軸受総合カタログ, CAT. No202- ・/J, (2002).
T.A.ハリス等著(T. A. Harris et. al.), 転がり軸受解析(Rolling Bearing Analysis) 5th ed., CPC Press, (2006), 106p.
K.L.ジョンソン著(K. L. Johnson), 接触理論(Contact Mechanics), (1989), 102p.
上記の各提案例は、いずれも、転がり軸受の寿命理論に基づいた方法ではない。また、任意の使用条件に拡張して適用できるものではない。
この発明の目的は、転がり軸受の寿命理論に基づいていて、かつ任意の条件に対して余寿命推定が可能な転がり軸受の余寿命推定方法および推定装置を提案することである。
この発明の転がり軸受の余寿命推定方法は、実施形態に対応する図1に示すように、
転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手順(S1)と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手順(S2)と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手順(S3)と、
上記各手順(S1)〜(S3)で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数
によって尺度母数αを求める手順(S4)と、
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手順(S5)と、
この決定されたワイブル分布から、上記軸受の使用された回転回数に対応する残存確率で定まる余寿命を推定する手順(S6)とを含む。
このワイブル分布から余寿命を推定する手順(S6)は、具体的には、例えば、ワイブル分布から、軸受の寿命とその寿命である確率との関係を示す関係式またはグラフを導き、求めようとする確率の寿命(例えばL10寿命であるかL 50 であるか等)に応じて、上記関係式またはグラフから該当する確率の寿命を読み取る手順を採る。このように読み取った寿命から、使用した回転回数に対応する時間を差し引くことで、余寿命を求める。
転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手順(S1)と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手順(S2)と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手順(S3)と、
上記各手順(S1)〜(S3)で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手順(S5)と、
このワイブル分布から余寿命を推定する手順(S6)は、具体的には、例えば、ワイブル分布から、軸受の寿命とその寿命である確率との関係を示す関係式またはグラフを導き、求めようとする確率の寿命(例えばL10寿命であるかL 50 であるか等)に応じて、上記関係式またはグラフから該当する確率の寿命を読み取る手順を採る。このように読み取った寿命から、使用した回転回数に対応する時間を差し引くことで、余寿命を求める。
コンピュータを用いてこの発明方法を実施する場合、上記各手順(S1)〜(S6)を、コンピュータによって実行する。なお、この場合に、上記の形状母数eを定める手順(S2)は、必ずしも独立した手順である必要はなく、例えば、上記尺度母数αを求める手順(S4)で用いるワイブル分布関数(式(12))や、上記のワイブル分布を決定する手順(S5)で用いる式(1)に、上記形状母数eとして10/9または9/8の値を設定しておいても良い。すなわち、上記手順(S2)は、コンピュータで実行されるプログラム中において、上記の手順(S4),(S5)で用いる計算式に設定しておく場合を含む。
この構成の発明方法は、転がり軸受の寿命はルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の寿命理論に基づいて決まると仮定し、動等価荷重から10%寿命を求め、寿命の分布はワイブル分布に従うと仮定して、形状母数は寿命理論値を用い、位置母数は経験式から求め、10%寿命、形状母数、位置母数から尺度母数を求めて寿命が従うワイブル分布を決定し、その寿命分布と軸受の回転回数から残存確率、すなわち余寿命を推定する方法である。
このため、この発明方法は、転がり軸受の寿命理論に基づいており、任意の条件に対して余寿命推定が可能である。転がり軸受の寿命理論は膨大なデータベースを基に構築されているので、それに基づいたこの発明方法は、他の余寿命推定方法に比べ、合理的な結果を与える。また、従来の余寿命推定は特定の使用条件でのみ実施可能なものであったが、この発明は任意の使用条件に対して適用できる。
このため、この発明方法は、転がり軸受の寿命理論に基づいており、任意の条件に対して余寿命推定が可能である。転がり軸受の寿命理論は膨大なデータベースを基に構築されているので、それに基づいたこの発明方法は、他の余寿命推定方法に比べ、合理的な結果を与える。また、従来の余寿命推定は特定の使用条件でのみ実施可能なものであったが、この発明は任意の使用条件に対して適用できる。
この発明方法は、余寿命を推定する転がり軸受が、ラジアル軸受である転がり軸受であっても良い。この場合に、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重、および上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数は、いずれも実測値であっても、また推定値であっても良い。動等価荷重および回転回数の両方を実測値としても、両方を推定値としても、またいずれか片方を実測値とし、もう片方を推定値としても良い。なお、上記動等価荷重の実測値は、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求めた値である。
上記の動等価荷重の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記動等価荷重の推定値を求めても良い。
また、上記の回転回数の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
また、上記の回転回数の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
上記の回転回数の推定値を求める場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を求めておき、この求められた関係を用いて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
この場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を、次式に当て嵌めて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
ただし、W0 は未疲労での半価幅、σY は降伏応力、a 、b 、c 、d は正の定数である。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この発明において、余寿命を推定する転がり軸受が、スラスト軸受であっても良い。この場合にも、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重、および上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数は、いずれも実測値であっても、また推定値であっても良い。動等価荷重および回転回数の両方を実測値としても、両方を推定値としても、またいずれか片方を実測値とし、もう片方を推定値としても良い。なお、上記動等価荷重の実測値は、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求めた値である。
スラスト軸受である場合にも、上記動等価荷重の推定値を求めるときに、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記動等価荷重の推定値を求めても良い。
また、上記回転回数の推定値を求めるときにも、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
また、上記回転回数の推定値を求めるときにも、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
スラスト軸受である場合に、上記回転回数の推定値を求めるときにも、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を求めておき、この求められた関係を用いて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
この場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を、次式に当て嵌めて上記回転回数の推定値を求めても良い。
ただし、W0 は未疲労での半価幅、σY は降伏応力、a 、b 、c 、d は正の定数である。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この発明における転がり軸受の余寿命推定装置は、転がり軸受の余寿命推定する装置であって、実施形態に対応する図3に示すように、
転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手段10と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手段11と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手段12と、
上記各手順で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数、
によって尺度母数αを求める手段13と、
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手段14と、
この決定されたワイブル分布から、上記軸受の使用された回転回数に対応する残存確率で定まる余寿命を推定する手段15とを含む。
転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手段10と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手段11と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手段12と、
上記各手順で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数、
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手段14と、
この構成の余寿命推定装置によると、この発明の余寿命推定方法について前述したように、転がり軸受の寿命理論に基づいた方法で推定でき、また任意の条件に対して拡張して余寿命の推定を行うことができる。
この発明の転がり軸受の余寿命推定方法および推定装置は、転がり軸受の寿命はルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の寿命理論に基づいて決まると仮定し、動等価荷重から10%寿命を求め、寿命の分布はワイブル分布に従うと仮定して、形状母数は寿命理論値を用い、位置母数は経験式から求め、10%寿命、形状母数、位置母数から尺度母数を求めて寿命が従うワイブル分布を決定し、その寿命分布と軸受の回転回数から残存確率、すなわち余寿命を推定する方法,装置であるため、転がり軸受の寿命理論に基づいた方法で推定でき、また任意の条件に対して拡張して余寿命の推定を行うことができる。
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。この転がり軸受の余寿命推定方法は、図1(A)に示すように、準備過程(R1)と、計算処理過程(R2)とでなる。計算処理過程(R2)は、コンピュータにより余寿命推定の主な計算を行う過程であり、準備過程(R1)は、その計算に必要な実測値や推定値等の情報を得る過程である。計算処理過程(R2)は、同図(B)に示すように、入力過程(T1)、主計算過程(T2)、および出力過程(T3)からなる。主計算過程(T2)は、同図(C)に示す手順(S1)〜(S6)からなる。
主計算過程(T2)は、図2に示すコンピュータ1に余寿命推定プログラム6を実行させて行う処理過程である。コンピュータ1は、パーソナルコンピュータ等からなり、中央処理装置4およびメモリ5を有し、オペレーションシステムによって動作するものである。コンピュータ1には、液晶表示装置等の画面によっで表示可能な表示装置2と、キーボードやマウス等の装置3とが接続され、あるいは一体の筐体に設けられている。コンピュータ1、表示装置2、入力装置3、および余寿命推定プログラム6により、図3に概念構成を示す転がり軸受の余寿命推定装置が構成される。同図の装置の構成は、後に説明する。図2の余寿命推定プログラム6は、図1(C)の各手順(S1)〜(S6)で構成される。
図1(C)に示すように、この転がり軸受の余寿命推定方法の主計算過程(T2)は、10%寿命計算手順(S1)と、形状母数設定手順(S2)と、位置母数計算手順(S3)と、尺度母数計算手順(S4)と、ワイブル分布決定手順(S5)と、余寿命推定手順(S6)とでなる。なお、これらの手順(S1)〜(S6)により余寿命が求まる具体的な理由は後に説明することとし、まずこれらの手順(S1)〜(S6)の内容を説明する。
10%寿命計算手順(S1)は、転がり軸受の動等価荷重から軸受の10%寿命L10を求める手順である。
形状母数設定手順(S2)は、ワイブル分布の形状母数eを寿命理論値に定める手順であり、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8とする。この寿命理論は、ルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の理論である。形状母数設定手順(S2)では、例えば、主計算過程T2の前に入力過程T1で入力された軸受種類として、玉軸受またはころ軸受が選択されていると、その軸受種類情報に応じて、玉軸受では10/9の値を、ころ軸受では9/8の値を、形状母数eとして定める。
位置母数計算手順(S3)は、位置母数γを次の経験式、
γ=0.05・L10
により定める手順である。
形状母数設定手順(S2)は、ワイブル分布の形状母数eを寿命理論値に定める手順であり、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8とする。この寿命理論は、ルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の理論である。形状母数設定手順(S2)では、例えば、主計算過程T2の前に入力過程T1で入力された軸受種類として、玉軸受またはころ軸受が選択されていると、その軸受種類情報に応じて、玉軸受では10/9の値を、ころ軸受では9/8の値を、形状母数eとして定める。
位置母数計算手順(S3)は、位置母数γを次の経験式、
γ=0.05・L10
により定める手順である。
尺度母数計算手順(S4)は、上記各手順(S1)〜(S3)で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数、
によって尺度母数αを求める手順である。
なお、軸受種類が玉軸受またはころ軸受等に定まった軸受のみに適用する余寿命推定方法とする場合は、形状母数設定手順(S2)は、形状母数eに値を代入するという処理を行わずに、尺度母数計算手順(S4)で用いるワイブル分布関数(式(12))や、ワイブル分布決定手順(S5)で用いる式(1)に、上記形状母数eとして10/9または9/8の値を設定した式を用いるようにしても良い。
余寿命推定手順(S6)は、上記手順(S5)で決定されたワイブル分布から、上記軸受の使用された回転回数に対応する残存確率で定まる余寿命を推定する手順である。
このワイブル分布から余寿命を推定する手順は、具体的には、例えば、図4(A)に例示するように、横軸を寿命、縦軸受を頻度として表されるワイブル分布から、同図(B)に示すように、横軸を寿命、縦軸受をその寿命である累積確率との関係を示す関係式またはグラフを導き、求めようとする確率の寿命(例えばL10寿命であるかL 50 であるか等)に応じて、上記関係式またはグラフから該当する確率の寿命を読み取る。信頼度が90%の寿命である10%寿命L10は、その起こる最大の確率が10%であり、図4(B)の縦軸が10%に対応する部分の横軸で示される寿命が、L10寿命として求められる寿命である。信頼度が50%の寿命である50%寿命L50であれば、図4(B)の縦軸が50%に対応する部分の横軸で示される寿命が、L50寿命として求められる寿命である。このように読み取った寿命から、使用した回転回数に対応する時間を差し引いた値を余寿命とする。なお、軸受の使用形態はある程度定まっていて、その軸受の回転回数と使用時間との間には、比例関係またはある程度強い正の相関関係があるものとする。
このワイブル分布から余寿命を推定する手順は、具体的には、例えば、図4(A)に例示するように、横軸を寿命、縦軸受を頻度として表されるワイブル分布から、同図(B)に示すように、横軸を寿命、縦軸受をその寿命である累積確率との関係を示す関係式またはグラフを導き、求めようとする確率の寿命(例えばL10寿命であるかL 50 であるか等)に応じて、上記関係式またはグラフから該当する確率の寿命を読み取る。信頼度が90%の寿命である10%寿命L10は、その起こる最大の確率が10%であり、図4(B)の縦軸が10%に対応する部分の横軸で示される寿命が、L10寿命として求められる寿命である。信頼度が50%の寿命である50%寿命L50であれば、図4(B)の縦軸が50%に対応する部分の横軸で示される寿命が、L50寿命として求められる寿命である。このように読み取った寿命から、使用した回転回数に対応する時間を差し引いた値を余寿命とする。なお、軸受の使用形態はある程度定まっていて、その軸受の回転回数と使用時間との間には、比例関係またはある程度強い正の相関関係があるものとする。
図3において、この転がり軸受の余寿命推定装置は、10%寿命計算手順10と、形状母数設定手段11と、位置母数計算手段12と、尺度母数計算手段13と、ワイブル分布決定手段14と、余寿命推定手順15とでなる。これらの各手段10〜15は、それぞれ図1(C)の各手順S1〜S6で説明した処理を行う手段である。すなわち、10%寿命計算手順10は10%寿命計算手順(S1)で説明した処理、形状母数設定手段11は形状母数設定手順(S2)で説明した処理、位置母数計算手段12は位置母数計算手順(S3)で説明した処理、尺度母数計算手段13は尺度母数計算手順(S4)で説明した処理、ワイブル分布決定手段14はワイブル分布決定手順(S5)で説明した処理、余寿命推定手順15は余寿命推定手順(S6)で説明した処理をそれぞれ行う機能を持った手段である。
この実施形態の余寿命推定方法および余寿命推定装置は、転がり軸受の寿命はルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の寿命理論に基づいて決まると仮定し、動等価荷重から10%寿命を求め、寿命の分布はワイブル分布に従うと仮定して、形状母数eは寿命理論値を用い、位置母数γは経験式から求め、10%寿命L10、形状母数e、位置母数γから尺度母数αを求めて寿命が従うワイブル分布を決定し、その寿命分布と軸受の回転回数から残存確率、すなわち余寿命を推定する方法である。
このように転がり軸受の寿命理論に基づいており、また任意の条件に対して余寿命推定が可能である。転がり軸受の寿命理論は膨大なデータベースを基に構築されているので、それに基づいたこの実施形態の方法は、他の余寿命推定方法に比べ、合理的な結果を与える。また、従来の余寿命推定は特定の使用条件でのみ実施可能なものであったが、この実施形態は任意の使用条件に拡張して余寿命の推定が行える。
このように転がり軸受の寿命理論に基づいており、また任意の条件に対して余寿命推定が可能である。転がり軸受の寿命理論は膨大なデータベースを基に構築されているので、それに基づいたこの実施形態の方法は、他の余寿命推定方法に比べ、合理的な結果を与える。また、従来の余寿命推定は特定の使用条件でのみ実施可能なものであったが、この実施形態は任意の使用条件に拡張して余寿命の推定が行える。
この実施形態において、余寿命を推定する転がり軸受がラジアル軸受である場合に、上記10%寿命L10を求める手順(S1)で用いる動等価荷重、および上記余寿命推定手順(S6)に用いる軸受の使用された回転回数は、いずれも実測値であっても、また推定値であっても良い。動等価荷重および回転回数の両方を実測値としても、両方を推定値としても、またいずれか片方を実測値とし、もう片方を推定値としても良い。なお、上記動等価荷重の実測値は、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求めた値である。
例えば、上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、かつ上記回転回数に実測値を用いても良い。
また、上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、上記回転回数には推定値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、上記回転回数に実測値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、かつ上記回転回数にも推定値を用いても良い。
例えば、上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、かつ上記回転回数に実測値を用いても良い。
また、上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、上記回転回数には推定値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、上記回転回数に実測値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、かつ上記回転回数にも推定値を用いても良い。
上記の動等価荷重の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記動等価荷重の推定値を求めても良い。
また、上記の回転回数の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
また、上記の回転回数の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
上記の回転回数の推定値を求める場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を求めておき、この求められた関係を用いて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
この場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を、次式に当て嵌めて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
ただし、W0 は未疲労での半価幅、σY は降伏応力、a 、b 、c 、d は正の定数である。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この実施形態において、余寿命を推定する転がり軸受がスラスト軸受である場合にも、上記10%寿命L10を求める手順(S1)で用いる動等価荷重、および上記余寿命推定手順(S6)に用いる軸受の使用された回転回数は、いずれも実測値であっても、また推定値であっても良い。動等価荷重および回転回数の両方を実測値としても、両方を推定値としても、またいずれか片方を実測値とし、もう片方を推定値としても良い。この場合も、上記動等価荷重の実測値は、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求めた値である。
例えば、上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、かつ上記回転回数にも実測値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、上記回転回数に推定値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、上記回転回数には実測値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、かつ上記回転回数にも推定値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、上記回転回数に推定値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、上記回転回数には実測値を用いても良い。
上記動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、かつ上記回転回数にも推定値を用いても良い。
余寿命を推定する転がり軸受がスラスト軸受である場合にも、上記の動等価荷重の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記動等価荷重の推定値を求めても良い。
また、上記の回転回数の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
また、上記の回転回数の推定値を求める場合に、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求めても良い。
上記の回転回数の推定値を求める場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を求めておき、この求められた関係を用いて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
この場合に、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を、次式に当て嵌めて、上記回転回数の推定値を求めても良い。
ただし、W0 は未疲労での半価幅、σY は降伏応力、a 、b 、c 、d は正の定数である。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
この場合に、繰り返し応力Sは相当応力σe であっても良い。
なお、上記の動等価荷重や回転回数を実測値や推定値から求める各処理は、図1(A)の準備過程R1で行う処理である。図1(B)の入力過程(T1)では、上記のように準備過程R1で求めた動等価荷重や回転回数、および軸受の種類を入力装置2から入力する。出力過程(T3)では、主計算過程(T2)で計算された残寿命を表示装置3等に出力する。
以下に、この実施形態の上記各手順の理由等を説明し、その後にX線分析を使った余寿命推定方法の具体例について説明していく。
余寿命推定を実施するためには、使用している軸受の寿命分布の推定し、その寿命分布のどの破損確率まで、軸受が使用されたかを明らかにする必要がある。まずはじめに、この発明の骨子である軸受の寿命分布を決定する手順を説明する。一般に、軸受の転動疲労寿命はワイブル分布に従うとされている。式(1) はワイブル分布の確率密度関数である。
余寿命推定を実施するためには、使用している軸受の寿命分布の推定し、その寿命分布のどの破損確率まで、軸受が使用されたかを明らかにする必要がある。まずはじめに、この発明の骨子である軸受の寿命分布を決定する手順を説明する。一般に、軸受の転動疲労寿命はワイブル分布に従うとされている。式(1) はワイブル分布の確率密度関数である。
ここで、は形状母数、は尺度母数、は位置母数である。
このように、ワイブル分布には3つの母数が存在する。したがって、軸受の寿命が従うワイブル分布を決定するには3つの母数を求める必要がある。形状母数は玉軸受ところ軸受においてそれぞれ10/9、9/8 と求められている。この形状母数の寿命理論値は、上記ルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の寿命理論(非特許文献1)による。また、軸受の使用条件と10%寿命(L10)の関係は式(2)で示される。
このように、ワイブル分布には3つの母数が存在する。したがって、軸受の寿命が従うワイブル分布を決定するには3つの母数を求める必要がある。形状母数は玉軸受ところ軸受においてそれぞれ10/9、9/8 と求められている。この形状母数の寿命理論値は、上記ルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)の寿命理論(非特許文献1)による。また、軸受の使用条件と10%寿命(L10)の関係は式(2)で示される。
ここで、Cは静定格荷重で軸受によって決まる値(kgf) 、pは玉軸受で3、ころ軸受で10/3、Pは動等価荷重である。
さらに、位置母数γは、過去の膨大な実験結果から求められた10%寿命L10と位置母数γとの関係式(3)から求められる(非特許文献3:ISO規格)。
γ=0.05・L10 ・・・(3)
以上から、軸受の使用条件(動等価荷重)さえ分かれば、軸受の寿命が従うワイブル分布が決定できる。一方、ラジアル軸受とスラスト軸受の動等価荷重Pr ,Pa (kgf)は、以下の式で与えられる。なお、この式は非特許文献5に記載されている。
ラジアル軸受の場合の動等価荷重:Pr =XFr +YFa ・・・(4)
スラスト軸受の場合の動等価荷重:Pa =Fa +1.2Fr ・・・(5)
ここで、ラジアル荷重はFr (kgf)、スラスト荷重はFa (kgf)、Xはラジアル荷重係数で軸受の型番等で決まる既知の値、Yはアキシアル荷重係数で軸受の型番等で決まる既知の値である。
γ=0.05・L10 ・・・(3)
以上から、軸受の使用条件(動等価荷重)さえ分かれば、軸受の寿命が従うワイブル分布が決定できる。一方、ラジアル軸受とスラスト軸受の動等価荷重Pr ,Pa (kgf)は、以下の式で与えられる。なお、この式は非特許文献5に記載されている。
ラジアル軸受の場合の動等価荷重:Pr =XFr +YFa ・・・(4)
スラスト軸受の場合の動等価荷重:Pa =Fa +1.2Fr ・・・(5)
ここで、ラジアル荷重はFr (kgf)、スラスト荷重はFa (kgf)、Xはラジアル荷重係数で軸受の型番等で決まる既知の値、Yはアキシアル荷重係数で軸受の型番等で決まる既知の値である。
動等価荷重Pr ,Pa (kgf)を求めるためには、軸受に作用しているラジアル荷重Fr とアキシアル荷重Fa の値が必要になる。もし、ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)が測定などにより既知であるならば、L10が求まり、式(1)から式(3)を使って軸受のワイブル分布が求められる。さらに、軸受の使用した回転回数が測定などにより既知であるならば、軸受の破損確率も求められる。
本来、寿命は確率的な概念であるから、軸受の余寿命を寿命理論に基づいて推定するためには、使用している軸受のワイブル分布を推定し、その分布のどの破損確率まで軸受が使用されたかを明らかにする必要がある。しかし、従来の余寿命推定方法には、確率的な概念が取り入れられているものがない。
以下では上記の基本的な考え方に基づいた余寿命推定方法の例について説明していく。この実施形態は、X線分析による余寿命推定方法であるが、上述の基本的な考え方に基づいていれば、余寿命推定の手段はどのようなものでもよい。
今、ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)が未知の場合にも適用できるX線分析による余寿命推定方法について説明する。ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)は、それぞれ式(6)と式(7)で表される(上記非特許文献1より)。
今、ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)が未知の場合にも適用できるX線分析による余寿命推定方法について説明する。ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)は、それぞれ式(6)と式(7)で表される(上記非特許文献1より)。
ここで、Jr は負荷率εできまる定数でラジアル積分値、Ja はεできまる定数でアキシアル積分値、Zは転動体個数、Qmax (kgf)は最大転動体荷重、αは接触角(rad) である。
この式の中で、Zの値は軸受の諸元から、接触角αも軸受の転走面の観察あるいは軸受の設計から明らかなので、ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)を求めるためにはεとQmax の値が必要になる。そこで、これらの値をX線分析で推定する手順を説明する。
まず、従来のX線分析による負荷推定(非特許文献2)を軸受の回転輪で実施し、その軸受の最大接触面圧Pmax(kgf/mm2)を推定する。その後、そのPmax から最大転動体荷重Qmax (kgf) を従来の方法で求める(非特許文献6)。
次に、εを求める手順を説明する。一般に、ラジアル軸受にラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)の合成荷重が加わると、転動体に加わる荷重は均一ではなくなる。ルンドベルグとパルムグレン(LundbergとPalmgren)は、この問題について検討し、任意の角度ψ (rad)(ラジアル荷重Fr (kgf)が作用する方向の角度を0°とする)ごとに転動体荷重の関係である式(8)を求めた(非特許文献1)。
ここで、Qmax は最大転動体荷重(kgf) 、αは接触角(rad) 、tはヘルツの接触理論から点接触では1.1、線接触では1.5である。
今、回転輪の負荷推定の結果からQmax (kgf) は既知であるから、εを求めるためには、固定輪のある角度に作用していた転動体荷重Q(kgf) を求める必要がある。一般には、固定輪の正確な負荷位置を求めることは難しいので、固定輪2点で負荷推定を実施することになる。具体的には、固定輪の負荷域中の任意の2点ψ1 (rad)、ψ2 (rad)に作用していた荷重を負荷推定で求め、以下の連立方程式を解けばεを求めることができる。ここで、ψ1 (rad)からずらした角度φは記録しておく必要がある。
この式であれば、1変数非線形方程式であるので容易に解くことができる。この式が解ければ、ψ1 (rad)は求められるから、その結果を式(9)か式(10)に代入すれば、εも求めることができる。その後、式(6)と(7)から、ラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)を求め、式(4)と式(5)から動等価荷重を計算する。
今回、動等価荷重の推定はオフライン分析であるX線分析により行ったが、軸受に作用しているラジアル荷重Fr (kgf)とアキシアル荷重Fa (kgf)は、荷重センサー等を用いればオンラインで測定可能であるから、その結果から動等価荷重は計算してもよい。以上より、その軸受のL10は上記の式(2)から見積もれることになる。
今、L10、位置母数γ、形状母数eがそれぞれ分かっているので、これらをワイブル分布の累積分布関数(12)に代入すると、尺度因子αも求めることができる。
以上のように、軸受の負荷推定の結果から、ワイブル分布の3母数がすべて決定できる。もし、軸受の回転回数が軸受の運転時間から求められる場合は、このワイブル分布から残存確率(=余寿命)を求めることができる。
以下では、軸受の回転回数が測定されていない場合でも適用できるX線分析による回転回数の推定方法について説明していく。この方法は2段階である。まず、負荷推定で得た結果から最大転動体荷重を求め、その値と軸受の諸元から、回転輪が回転したときに固定輪に作用する内部応力を転動体が通過するごとに求める。次に、内部応力が作用したときの半価幅の低下量を実験で求めた半価幅、応力、負荷回数の関係から見積もり、負荷を受ける前の半価幅から引く。この計算を転動体が通過するごとに繰り返し、内外輪で起こる半価幅の低下をシミュレートする。この半価幅の低下が測定値と一致したときの軸受の回転回数を求め、その回転回数から軸受の残存確率を求める。
まず初めに、回転輪( 内輪) が回転したときに固定輪(外輪)に作用する内部応力を転動体が通過するごとに求める方法について説明する。図5に、ラジアル軸受にラジアル荷重Fr (kgf)のみが作用しており、軸受の使用すきまが0であった場合の負荷帯を示す。ε=0.5である。
このとき図 の角度ψ (rad)ごとの荷重分布Q(ψ)(kgf) は式(6)で表される。負荷率εと最大転動体荷重Qmax (kgf) は既に分析によって分かっている。したがって、式(6)より転動体荷重 Q(ψ)(kgf) は分かるので、それぞれの角度での最大接触面圧Pmax(kgf/mm2)と接触楕円の長・短軸半径a,b (mm) は従来の方法で推定できる(非特許文献6)。一方、内外輪に作用する内部応力は、平面ひずみ状態と仮定することができるので、接触中心直下の深さz(mm)に対する各種応力成分σx ,σy ,σz ,τxt,τyz,τzx(kgf/mm2) は以下の式から計算できる(非特許文献7)。
したがって、接触中心直下の深さz(mm)における相当応力は次式(19)から計算できる。
以上から、深さごとの相当応力は軸受内外輪の各位置 (rad)で計算することができる。しかし、この応力が軸受の回転時にどのような状況で繰り返されるかについては不明である。そこで、軸受内の負荷がどのような状況で繰り返されるかについて考える。
今、軸受の内輪がni ( min -1)の速度で回転する場合を考える。また、時刻t (min)の時、転動体は、最大の転走体荷重Qmax (kgf)が生じる位置にあるとする。その状況を図6に示す。
図中の内輪のA点は、時刻t=0においてQmax (kgf)の負荷を受けている。この状態から、内輪を回転させていくと、内輪の回転速度ni ( min -1)は式(20)で与えられる転動体の公転速度ne ( min -1)よりも速いので、内輪のA点は次の転動体に追いつき、負荷を受けることになる。次の転動体にA点が負荷を受ける時刻t1 (min)は、内輪の回転位置と転動体の公転位置+位相差が一致する点であるから、時刻t1 は式(21)で求めることができる。
ここで、Zは転動体個数、Da は転動体直径(mm)、dp は転動体ピッチ円径(mm)、αは接触角(rad) 、n0 は外輪の回転速度( min -1)である。
以上より、内輪A点がa個目の転動体から負荷を受ける角度ψa (rad)が計算でき、そのときの荷重Q(ψa )が計算できるので、最終的に、角度ψa (rad)での内部応力を求めることができる。ここで、以上の計算は内輪の1点のみに着目しているが、軸受の回転回数が多くなれば、負荷がランダムになり、どの位置においても同じ負荷を受けると考えることができる。したがって、位相の異なる他の領域について負荷の状況を別途考える必要は無い(非特許文献1)。また、この計算は内輪回転での計算であるが、外輪回転でも同様な計算ができる。
次に、内部応力から半価幅w( °) の変化がどのように起こっていくかを計算する手順を説明する。鋼の疲労の程度は、繰返し応力(kgf/mm2) の大きさと負荷回数Nによって決まる。また、半価幅w( °) の変化は鋼の疲労の程度を表す。したがって、半価幅w( °) 、繰返し応力σe (kgf/mm2)、負荷回数Nの関係が既知であれば、繰返し応力σe (kgf/mm2)と半価幅w( °) から負荷回数Nを見積もることができる。今、半価幅w( °) 、繰返し応力σe (kgf/mm2)、負荷回数Nの関係は式(27)で表せると仮定する。
この式は、全く物理的な意味を持たないが、半価幅w( °) が負荷回数と応力の増加に対して単純減少する形で、負荷回数Nと繰返し応力σe (kgf/mm2)の増加に対しては線形、非線形どちらの変化であっても実験結果を適合させることができる。また、繰返し応力σe (kgf/mm2)には塑性変形の程度を表す相当応力σe (kgf/mm2)を適用することとし、降伏応力σY (kgf/mm2)以下では、半価幅w( °) の低下は起こらないので、式の形はそれを考慮した形になっている。ここで、降伏応力σY (kgf/mm2)としては、600 ×√3 ≒106kgf/mm2を採用した。f,g,h,kの定数は、実験結果( 実験で得た半価幅w( °) 、繰返し応力σe (kgf/mm2)、負荷回数Nの関係) を式(27)で非線形重回帰分析することによって決定する。これより、負荷回数Nは任意の繰返し応力σe (kgf/mm2)と半価幅w( °) に対して求めることができるようになる。
次に、半価幅w( °) の低下を計算していく手順を具体例で説明していく。今、6206玉軸受にラジアル荷重700kgfが作用しており、時間t=0min において、軸受が図6の状態から、内輪が1 min-1で回転し始めるとする。まず、t=0 minにおける内輪A点直下の最大転動体荷重Qmax(kgf)を計算する。今、時間t=0 min、荷重Fr =700kgf 、転動体数Z、接触角α=0 (rad)、転動体ピッチ直径dp =45.5mm、転動体直径Dp =9.525 mm 、玉軸受のラジアル積分値Jr =0.2288(ε=0.5)、内輪回転数ni ( min -1) であるから、A点の転動体荷重は以下のように求められる。
次に、得られた転動体荷重から、接触楕円の長軸半径a (mm) と短軸半径b (mm) 及び最大接触面圧Pmax (kgf/mm2)を計算する。今、各曲率半径は、6206玉軸受の諸元から、Rx1−4.858 mm 、Rx2=4.7625 mm 、Ry1= mm 、Ry2d mm であるから、a (mm) 、b (mm) 、Pmax (kgf/mm2)は以下になる。
a=2.705352mm
b=0.193283mm
Pmax =304.048kgf/mm2
a=2.705352mm
b=0.193283mm
Pmax =304.048kgf/mm2
次に、得られたa (mm) 、b (mm) 、Pmax (kgf/mm2) から、内部応力を計算する。今、例として、Z=0.2mmの深さにおける内部応力を計算する。
これは、700kgfで荷重を受けた内輪のA点が時刻t=0min において、1回の負荷を受けたとき、深さz=0.2mmにおける半価幅w( °) が1.44E−07°低下することを示している。式(29)の形から分かるように、2回目以降の負荷に対しては、半価幅w( °) の変化は非線形性が出てくるので、負荷が2回目以降の半価幅w( °) の低下量を見積もる式は、この式を負荷回数Nに対して偏微分した式(30)になる。
以上のように、半価幅w( °) の低下の挙動は、軸受が回転するときの変化を1回の負荷ごとに計算して求めることができる。この計算を繰り返すと、半価幅w( °) は次第に低下し、最終的には、実験で得た半価幅(この例では深さ位置Z=0.2mm で測定した値)と一致するときがくる。このとき、軸受の回転角度ψa (rad)は同時に計算しているから、この角度を2πで割れば、軸受の回転回数が計算できる。以上のように軸受の回転回数は、X線分析により求められる。この具体例では、軸受の回転回数をオフライン分析であるX線分析で行ったが、インラインで軸受の回転回数を調べてもよい。最後に、この回転回数から、既に求めた寿命分布を用いて、残存確率を計算することになる。
1…コンピュータ
4…中央処理装置
5…メモリ
6…余寿命推定プログラム
4…中央処理装置
5…メモリ
6…余寿命推定プログラム
Claims (23)
- 転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手順と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手順と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手順と、
上記各手順で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手順と、
転がり軸受の余寿命推定方法。 - コンピュータにより、次の各手順を実行して転がり軸受の余寿命を推定する方法であって、
転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手順と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手順と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手順と、
上記各手順で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手順と、
転がり軸受の余寿命推定方法。 - 請求項1または請求項2において、余寿命を推定する転がり軸受がラジアル軸受である転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項3において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、かつ上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数に実測値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項3において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数には推定値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項3において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数には実測値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項3において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、かつ上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数にも推定値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項6または請求項7において、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記動等価荷重の推定値を求める転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項5または請求項7において、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求める転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項5または請求項7において、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を求めておき、この求められた関係を用いて、上記回転回数の推定値を求める転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項11において、繰り返し応力Sは相当応力σe である転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項1または請求項2において、余寿命を推定する転がり軸受がスラスト軸受である転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項12において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、かつ上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数にも実測値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項12において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の実測値から求め、上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数には推定値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項12において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数には実測値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項12において、上記軸受の10%寿命L10を求める手順で用いる動等価荷重を、ラジアル荷重、アキシアル荷重、および接触角の推定値から求め、かつ上記余寿命推定手順に用いる軸受の使用された回転回数にも推定値を用いる転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項16または請求項17において、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記動等価荷重の推定値を求める転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項15または請求項17において、X線分析によって上記転がり軸受の固定輪と回転輪から負荷率を推定することで、上記回転回数の推定値を求める転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項15または請求項17において、負荷回数N、繰り返し応力S、X線分析で求まる半価幅Wの関係を求めておき、この求められた関係を用いて、上記回転回数の推定値を求める転がり軸受の余寿命推定方法。
- 請求項21において、繰り返し応力Sは相当応力σe である転がり軸受の余寿命推定方法。
- 転がり軸受の余寿命を推定する装置であって、
転がり軸受の動等価荷重から上記軸受の10%寿命L10を求める手段と、
ワイブル分布の形状母数eを、玉軸受では10/9、ころ軸受では9/8である寿命理論値に定める手段と、
位置母数γを次の経験式
γ=0.05・L10
により定める手段と、
上記各手順で求められまたは定められた10%寿命L10、形状母数e、および位置母数γから、次式(12)のワイブル分布関数
これらの求められた形状母数e,位置母数γ,尺度母数αを次式(1)に用いてワイブル分布を決定する手段と、
転がり軸受の余寿命推定装置。
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