JP2011067218A - グラム陰性菌のリピドaに対する特異的抗体産生を誘導する組成物。 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ヒトを含む哺乳類の生体内において、グラム陰性菌の異なる株や血清型のLPSに対しても免疫応答誘導作用を有し、かつ、長い食経験により安全性の保証された新たな栄養組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 ラクトフェリンを経口投与すると、血清中にリピドAに対する特異的IgG抗体の産生を誘導することを見出した。
【選択図】図1
【解決手段】 ラクトフェリンを経口投与すると、血清中にリピドAに対する特異的IgG抗体の産生を誘導することを見出した。
【選択図】図1
Description
本発明は、生体内でグラム陰性菌のエンドトキシンに対する特異的免疫応答を誘導する食品成分に関する。また本発明は、該食品成分の有効量を含有させたグラム陰性菌のエンドトキシンに対する特異的免疫応答を誘導する栄養組成物食品に関する。
内毒素は、グラム陰性細菌の菌体に存在する耐熱性の毒素である。菌体内毒素(エンドトキシンともいう)の本体は、菌の外膜に存在するリポ多糖である。グラム陰性桿菌感染症の病原因子は、このエンドトキシンであるが、腸管内には1012/gの細菌が存在し、その大部分はグラム陰性菌が占めており、大量のエンドトキシンを含んでいる。腸管は栄養を吸収する一方、これらの細菌や毒素を腸管内に留め生体内に侵入させないための生理作用を有している。粘液中の分泌型IgAや粘膜層はバリアーの役割を果たしており、マクロファージや腸管関連リンパ系組織(GALT)も細菌の処理を行う。しかしながら、腸管は侵襲により機能の失調を生じ、細菌、エンドトキシンの供給源としてのみでなく、サイトカインや活性化好中球の産生臓器として、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)から多臓器不全(MOF)への進展に関与する。また、大腸菌を含むグラム陰性の好気性細菌群は、母乳を摂取できない入院患児に検出頻度が高いことが知られている。
これまでに、多くの抗エンドトキシン抗体療法の臨床治験が行われたが、成功しなかった。また、エンドトキシンや敗血症における症状または臓器障害が、サイトカインを介して起こることが明らかとなり、抗IL-1や抗TNF-αの臨床治験が数多く実施された。しかしながら、現在、これら抗-サイトカイン抗体が有効とされた例は存在しない。問題点は、サイトカインの多様な作用や、サイトカイン同士の相互作用によるサイトカインネットワーク形成にある。あるサイトカインの産生を他動的に強めたり、反対に弱めたりすることにより、いくつかのサイトカインが働き、思わぬ作用がでてきたり、個体の状態を著しく左右する原因となると考えられる。
一方、哺乳類の主として乳汁中に存在する鉄結合性の糖タンパク質、ラクトフェリン(以下「LF」とも称する)の酵素分化物である分子量10,000のペプチドが、in vitroでエドトキシン誘導性のIL-6放出を阻害する作用を示すことが明らかにされ、このことから、該ペプチドはエンドトキシンによる炎症を抑制する、といった文献(特開平8-165248)や、金属イオンと結合したLFを経腸投与すると、血漿中のエンドトキシン活性が有意に低下した、といった文献(特表平5-501416)が存在する。しかしながら、経口投与により、生体内で、エンドトキシンの保存領域に対する免疫応答を誘導する食品成分については、本発明者らが知る限り、これまで報告がない。
本発明は、生体内において、所定の種のグラム陰性菌に対する免疫応答だけでなく、所定の属に属するグラム陰性菌の異なる株または血清型や、さらには、異なる属に属するグラム陰性菌に対する交差反応免疫応答を誘発するする食品成分を提供することを課題とする。また、本発明は、該食品成分の有効量を含有させた上記グラム陰性菌に対する免疫応答を誘発するする食品組成物を提供することを課題とする。
消化管内には大腸菌群をはじめとする多種のグラム陰性菌が常在細菌として存在している。LPSは、タンパクやリン脂質とともに外膜を形成し、その脂質部分を膜中にうずめ、糖部分を菌の外側に伸長させて存在する。通常、エンドトキシンは、菌の自己融解により菌体外に出ると考えられるが、条件によっては一部、生菌からも放出される。これは、LPSの外膜内での存在状態が一様ではなく、一部は強く、一部は弱く結合しているためと思われる。LPS分子の様々なドメインに対して産生された抗体は、それぞれ特異性が異なる。すなわち、リピドAおよび内部コアに対する抗体は、グラム陰性細菌のいくつかの異なった種由来のLPSと交差反応するのに対し、O-ポリサッカライドに対する抗体は、特定の血清型のLPSとのみ反応する。エンドトキシンとしての活性中心はリピドAにあり、そして、リピドAの構造は菌種に関係なく普遍的であり、LPSの共通抗原となり得る。
そこで、本発明者らは、長い間の食経験から安全性が確認されており、かつ望ましい様々な生物活性をもつLFに着目し、LFを連日経口投与して、LFが消化管内のグラム陰性菌のLPS中のリピドAに対する特異的抗体誘導に及ぼす影響を調べた。
その結果、LFの経口投与が、血清中にリピドAに対する特異的IgG抗体の産生を誘導することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は
(1) ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を含有させたことを特徴とするグラム陰性菌のリピドAに対する特異的抗体産生を誘導する栄養組成物、(2) 栄養組成物が、育児用調製乳である(1)記載の栄養組成物、(3) グラム陰性菌のリピドAに対する特異的抗体産生を誘導する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用、(4) 栄養組成物が、育児用調製乳である(3)記載の使用、(5) ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を有効成分として含有する、グラム陰性菌感染症に対する抵抗性付与の作用を有する栄養組成物、(6) 栄養組成物が、育児用調製乳である(5)記載の栄養組成物、(7) グラム陰性菌感染症に対する抵抗性付与の作用を有する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用、(8) 栄養組成物が、育児用調製乳である(7)記載の使用、(9) ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を有効成分として含有する、bacterial translocation(BT)及び/又はendotoxic translocation(ET)の予防または改善作用を有する栄養組成物、(10) 栄養組成物が、経口・経腸栄養組成物である(9)記載の栄養組成物、(11) bacterial translocation(BT)及び/又はendotoxic translocation(ET)の予防または改善作用を有する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用、(12) 栄養組成物が、経口・経腸栄養組成物である(11)記載の使用、からなる。
(1) ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を含有させたことを特徴とするグラム陰性菌のリピドAに対する特異的抗体産生を誘導する栄養組成物、(2) 栄養組成物が、育児用調製乳である(1)記載の栄養組成物、(3) グラム陰性菌のリピドAに対する特異的抗体産生を誘導する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用、(4) 栄養組成物が、育児用調製乳である(3)記載の使用、(5) ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を有効成分として含有する、グラム陰性菌感染症に対する抵抗性付与の作用を有する栄養組成物、(6) 栄養組成物が、育児用調製乳である(5)記載の栄養組成物、(7) グラム陰性菌感染症に対する抵抗性付与の作用を有する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用、(8) 栄養組成物が、育児用調製乳である(7)記載の使用、(9) ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を有効成分として含有する、bacterial translocation(BT)及び/又はendotoxic translocation(ET)の予防または改善作用を有する栄養組成物、(10) 栄養組成物が、経口・経腸栄養組成物である(9)記載の栄養組成物、(11) bacterial translocation(BT)及び/又はendotoxic translocation(ET)の予防または改善作用を有する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用、(12) 栄養組成物が、経口・経腸栄養組成物である(11)記載の使用、からなる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明により、LFあるいはLFの加水分解物を経口投与すると、生体内にグラム陰性菌のエンドトキシンの共通保存抗原領域であるリピドAに対する特異的抗体産生が誘導されることが明らかにされた。その結果、LFあるいはLFの加水分解物を育児用調製乳に添加配合することにより、人工栄養児のグラム陰性菌感染症に対する抵抗性を付与することが期待される。また、経口・経腸栄養食品に添加配合することにより、BTあるいはETの予防または改善が期待できる。
本発明者らは、LF、あるいはウシ血清アルブミン(BSA)をマウスに経口投与すると、LF経口投与群には血清中にLPSの共通抗原であるリピドAに対する特異的IgG抗体産生が誘導されるのに対し、比較対照のBSA経口投与群にはそれが全く誘導されないことを見出した(図1)。この結果、経口投与されたLFは、マウスの消化管内に存在するあらゆるグラム陰性菌のLPSに対する中和抗体産生を誘導する作用を有することが示された。すなわち、リピドA部分の構造はグラム陰性菌で普遍的であり、種々のエンドトキシン活性を担うので、LFの経口投与により、非常に数多くの異なる属の腸内グラム陰性菌と反応し、それにより、グラム陰性菌の様々な株に対する反応性かつ機能的な抗体産生を誘導することが期待できる。これらの免疫応答は、特定の属に属する異なる株に対してだけでなく、異なる属のグラム陰性菌に対しても示されることが期待できる。
本発明者らは、LFを経口投与することにより、血中にLPS特異的なIgG抗体の産生が誘導されることを確認した。このように消化管を介した抗原特異的免疫応答を誘導する場合、IgG抗体に代表される全身性免疫の応答誘導と共に、分泌型IgAに代表される粘膜免疫応答が誘導されることが広く知られている(標準免疫学.1997.医学書院.374-387)。また、グラム陰性菌を経口免疫した場合に、全身性免疫および粘膜免疫応答が誘導されることが示されている(E. Jirillo. et.al. ,1984.J.Immunol.132,1702-1711.)。したがって、本発明にはLFの経口摂取により誘導される免疫応答として、全身性免疫応答および粘膜免疫応答の誘導をも含む。
さらに、本発明は、グラム陰性菌のLPSの共通構造部分、すなわち、リピドA部分に対する抗体応答を誘発する栄養組成物に関する。ここで用いられる「LPS」という用語は、スムーズ(smooth:S)型LPSおよびラフ(rough:R)型LPSの両方を含む。上記のように、グラム陰性菌のLPSは、膜側から順にリピドA、Rコア、およびO抗原多糖からなり、リピドAとRコアは菌種に関係なくほぼ共通である。O抗原多糖は、3個の糖または側鎖にもう1個の糖をもったユニットの繰り返しからなり、糖の種類や配列が多様である。S型の菌はO抗原の末端までほぼ完全にもっているが、R型の菌はその変異の種類によっていろいろな程度にLPSの末端を失っている。
リピドAの基本構造は、共有結合した2個のグルコサミン残基(GlcN)とリン酸および脂肪酸からなっている。脂肪酸は、β-ヒドロキシ酸か、これにさらに脂肪酸の結合したアシロキシ酸で、2,2'位にアミド結合、3,3'位にエステル結合している。脂肪酸組成は、菌種によって異なり、また、菌種により1,4'位に結合したリン酸には、さらに、リン酸、ホスホエタノールアミン(phosphoethnolamine)、4-アミノ-4-デオキシアラビノース(4-amino-4-deoxy-L-arabinose)などを結合したものがある。
非還元末端のGlcN残基の6位(6'位)には、KDO(3-deoxy-D-manno-octuosonic acid, 別名2-keto-3-deoxyoctonic acid)が結合し、さらに、ヘプトースの部分、ヘキソースの部分が続く。この部分をRコアと呼んでいる。この部分はKDO-リピドAを基本として各糖が順次転位されて生合成されるので、各段階での変異株が得られており、それに対応したLPSが分離可能である。KDO-リピドAからなるLPSは最小単位のLPSでRe型と呼ばれる。この物質は通常のLPSと同様強い内毒素活性を示す。本発明におけるリピドAはこのようなものを含む。
LFの経口投与により、腸管粘膜免疫システムを介して、血清中にリピドAに対する全身性特異的抗体が誘発されたことから、LFの経口投与は、粘膜にLPS特異的免疫応答を誘導・成立させ、さらに、同時に全身系免疫にもLPS特異的免疫応答を誘導することが期待される。
本発明の免疫応答に適応するLPSを担う病原性グラム陰性菌を以下に列記する。これらのグラム陰性菌は、本発明に包含される。
グラム陰性桿菌感染症の起因菌として、1)腸内細菌科に属する大腸菌群、シトロバクター属(Citrobacter)、クレプシェラ属(Klebsiela)、エンテロバクター属(Enterobacter)、セラチア属(Serratia)、エドワージェラ属(Edwardsiella)、プロテウス属(Proteus)、赤痢菌属、サルモネラ属(Salmonella)、エルシニア属(Yersinia)、その他の腸内細菌として、ハフニア属(Hafnia)、エルウイニア属(Erwinia)、オベッサムバクテリウム属(Obesumbacterium)、ゼノラブサス属(Xenorhabdus)、クライベラ属(Kluyvera)、ラーネラ属(Rahnela)、セデセア属(Cedecea)、テイタメラ属(Tatumella)、2)好気性菌科に属する緑膿菌(Pseudomononas aeruginosa)、その他のブドウ糖非発酵菌、レジオネラ属(Legionella)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ボルデテラ属(Bordetella)、フランシセラ属(Francisella)、ブルセラ属(Burucella)、ビブリオ科に属するコレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemmolyticus)、その他のビブリオ(Vibrio vulnificus)、3)パスツレラ科に属するパスツレラ属(Pasteurella)のP. multocida、P. hemolytica、P. pneumotropica、P. ureae、ヘモフィルス属(Haemophilus)のインフルエンザ菌(H. influenzae)、軟性下疳菌(Haemophilus duc reyi)、その他のヘモフィルス属の溶血性インフルエンザ菌(H.haemolyticus)、H. aphrophilus、パラインフルエンザ菌(H. parainfluenzae)、アクチノバシラス属のA. actinomycetemcomitans、4)その他の通性嫌気性グラム陰性桿菌に属するカルジオバクテリウム属(Cardiobacterium)、カリマトバクテリウム属(Calymatobacterium)、エイケネラ属(Eikenella)、ストレプトバチルス属(Streptbacillus)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、バルトネラ属(Bartonella)、5)偏成嫌気性グラム陰性桿菌に属するバクテロイデス属(Bacteroides)、プレボテラ属(Prevotella)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、6)らせん菌に属するカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、スピリルム・ミヌス(Spirillum minus)、を含む。
また、本発明は、グラム陰性球菌および球桿菌感染症の起因菌として、ナイセリア属(Neisseria)、モラキセラ属(Moraxella)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、を含む。
さらに、本発明は、今後の研究により、新たに病原性グラム陰性菌の存在が明らかにされた場合、そのような病原菌の担うLPSに対する免疫応答をも含む。
本発明に用いるLFは、哺乳動物の乳汁、特にウシ由来のLFが経済的でよい。LFはこれらの乳汁から、タンパク質を分離精製する一般的手段、すなわち、限外濾過、イオン交換クロマトグラフイー、ゲル濾過クロマトグラフイー、および硫安による分画沈澱などの方法により分離精製することができる。しかし、タンパク質は精製を重ねるごとに不安定になる傾向があるので、本発明に用いるLFは、部分精製しただけの粗製品であっても差し支えない。本発明において使用するLFは、精製度とは無関係に、ある一定の量を投与すれば、所望の効果を得ることができる。また、複数のメーカーからウシLFが販売されており、入手できる。ただし、製造メーカーにより、生物活性に大きな違いがあることに留意する必要がある。
また、LFは遺伝子組み換え技術により得ることも可能となっている(例えば、米国特許5,571,697)。あるいは、ヒトLFを実用的レベルでミルク中に分泌するトランスジェニックウシも開発されている(Pharming社)。本発明は、これらのLFを使用の対象とすることもできる。
牛乳からイオン交換クロマトグラフイーとゲル濾過クロマトグラフイーを繰り返して分離精製したLFの鉄イオン飽和度は、通常15〜20%程度である。本発明においては、鉄イオンを含まないアポ型から、完全に鉄イオンが飽和されたホロ型に至るまで使用の対象となる。さらにまた、LFをペプシンあるいはトリプシンなどの酵素で加水分解したペプチドも使用の対象となる。
本発明で用いる好ましいLFの選択は、エンドトキシンに特異的に結合して、その活性を消失または減退させうる抗体(中和抗体)産生誘導を指標とする。具体的には、リピドAに対するアビディテイー(avidity)の高い抗体である。
本発明により、LFを経口投与すると、生体内でリピドAに対する特異的抗体の産生が誘導されることが、初めて明らかにされたので、当業者であれば、多くのLFの生物活性をもつタンパク質あるいはその加水分解物から、本発明に好ましいLFを選択することは、例えば、後述する市販の抗体アッセイ系を用いて容易に実施できる。したがってそのようにして得られた好適なLFあるいはその加水分解物、あるいはこれらの変異体(例えばアミノ酸の置換、欠失、など)は、すべて本発明に含まれる。
生体内でエンドトキシンに対する免疫応答を高める目的でLFを添加する対象の好ましい栄養組成物としては、まず育児用調製乳が挙げられる。母乳栄養児は、人工栄養の乳児よりも血清中の抗体が多いことが知られており、母乳には免疫能を高めることが示唆されている。そこで、人工栄養の乳児の感染症に対する抵抗性を高めるために、育児用調製乳にLFあるいはその加水分解物を添加することが考えられる。添加対象の育児用調製乳は、一般にいう成熟児用調製乳、低出生体重児用調製乳、アレルギー疾患児用調製乳、アレルギー予防用調製乳、フォローアップミルク、あるいはグローイングアップミルクなどが対象となる。添加量は母乳のLF含量が一応の目安となるが、この目安を越えて添加することも考えられる。
また、腸管粘膜の物理的バリア機構の破綻、腸管内での細菌の異常繁殖、あるいは免疫系の抑制などにより、腸管内の細菌やエンドトキシンが腸管粘膜を通過し腸管壁をも通過して、リンパ行性に、あるいは血行性に全身に広がる病態、すなわち、bacterial translocation(BT)やendotoxic translocation(ET)に対して、LFあるいはその加水分解物の有効量を含有させた経口・経腸栄養組成物や流動食が考えられる。また、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品、治療食等も対象としてもよいと考えられる。これらの場合のLFあるいはその加水分解物の有効添加量は、LF関連の文献などを参考に、動物実験を経て臨床試験で決定すべき性質のものである。
また、LPSに特異的でかつ効果的な粘膜免疫応答を誘導する経口性ワクチン製造のためのLFあるいはその加水分解物の使用も考えられる。この場合、LFあるいはその加水分解物と抗原特異的免疫応答を誘導・賦活する粘膜免疫調節因子、粘膜アジュバントに代表される免疫活性化物質との併用が必要である。粘膜アジュバントとしては、例えば、現在効果が確認さてているものとして、IL-12(Marinaro,M. et al.: J. Exp. Med., 185: 415-427, 1997; Marinaro,M. et al.: J.Immunol., 162: 114-121, 1999; Boyaka,P.N. et al.: J.Immunol., 162: 122-128, 1999)、コレラ毒素変異株(mutant CT:mCT)(Yamamoto,S. et al.: J. Exp. Med., 185: 1203-1210, 1997)、シアリダーゼ(sialidase)、などが挙げられる。粘膜アジュバントを含む経口性の粘膜ワクチンはLPSに対する特異的粘膜免疫応答および全身性免疫応答の誘導・成立を可能とすることが期待される。
さらに、胃炎および胃潰瘍の発症に関与することが指摘されているグラム陰性菌のひとつであるヘリコバクター・ピロリに対する抗体産生誘導を促進するためのLFあるいはその加水分解物の使用が考えられる。
さらに、LFを動物の消化管内に存在しない任意のグラム陰性菌の菌体成分と共に投与することにより、任意のグラム陰性菌の菌体成分に対する抗体を誘導することができる。
LFは長い食経験から安全であるとの認識があるが、特定の生理作用を目的として食品に配合する場合は、新たな安全性を確認する必要があるが、ラットを用いたウシLFの急性毒性試験および亜急性毒性試験では、最大用量である2,000mg/kg体重/日のLF投与でも異常は認められていない。また、サルモネラ変異原性試験(エイムス試験:Ames test)で、LFの変異原性は認められていない(Milk Science vol.48,No.3, 1999)。
以下、試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの試験例に限定されるものではない。
[試験例1] LF経口投与によるLPSに対する特異的抗体産生誘導
BALB/c雌性マウスを3週齢で購入した(日本クレア(株))。固型飼料(AIN-93G)および水道水を自由に摂取させた。購入後5日目に、体重の平均値が等しくなるように、マウスを、対照群、BSA投与群、およびウシLF投与群の3群1群7匹)に分けた。ウシLF(DMV社製)、あるいはBSA(Intergen社製)をリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、マウス体重1グラム当たりウシLF1mgとなるように、胃ゾンデにより経口投与した(1日2回、週5日、20日間)。対照群には、PBSのみ同様の条件で与えた。試験溶液投与20日目に、マウスから血液を採取し、室温で1時間静置後、遠心分離により血清を得た。血清は-80℃で保存した。対照群、BSA投与群、およびウシLF投与群からえた血清中の、リピドAに対する特異IgGレベルをELISA法により測定した。ELISAの抗原としてSalmonella Typhimurium (SL684変異株)由来のLPSから酢酸分解処理により調製したリピドAを用いた(Sigma社製)。結果を図1に示す。
[試験例1] LF経口投与によるLPSに対する特異的抗体産生誘導
BALB/c雌性マウスを3週齢で購入した(日本クレア(株))。固型飼料(AIN-93G)および水道水を自由に摂取させた。購入後5日目に、体重の平均値が等しくなるように、マウスを、対照群、BSA投与群、およびウシLF投与群の3群1群7匹)に分けた。ウシLF(DMV社製)、あるいはBSA(Intergen社製)をリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、マウス体重1グラム当たりウシLF1mgとなるように、胃ゾンデにより経口投与した(1日2回、週5日、20日間)。対照群には、PBSのみ同様の条件で与えた。試験溶液投与20日目に、マウスから血液を採取し、室温で1時間静置後、遠心分離により血清を得た。血清は-80℃で保存した。対照群、BSA投与群、およびウシLF投与群からえた血清中の、リピドAに対する特異IgGレベルをELISA法により測定した。ELISAの抗原としてSalmonella Typhimurium (SL684変異株)由来のLPSから酢酸分解処理により調製したリピドAを用いた(Sigma社製)。結果を図1に示す。
リピドAに対する特異IgGレベルは、対照群とBSA投与群の間においては有意な差は見られなかったが、ウシLF投与群においては、対照群、およびBSA投与群に比べ有意(p<0.01;FisherのPLSD)に高い値を示した。すなわち、ウシLFを経口投与すると、グラム陰性菌外膜の構成因子であるLPSの保存領域リピドAに対して特異的なIgG抗体産生が誘導されたのに対し、対照タンパク質であるBSAにはこのような効果は認められなかったことから、この誘導効果はウシLFに特異的なものであることが示された。
Claims (12)
- ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を含有させたことを特徴とするグラム陰性菌のリピドAに対する特異的抗体産生を誘導する栄養組成物。
- 栄養組成物が、育児用調製乳である請求項1記載の栄養組成物。
- グラム陰性菌のリピドAに対する特異的抗体産生を誘導する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用。
- 栄養組成物が、育児用調製乳である請求項3記載の使用。
- ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を有効成分として含有する、グラム陰性菌感染症に対する抵抗性付与の作用を有する栄養組成物。
- 栄養組成物が、育児用調製乳である請求項5記載の栄養組成物。
- グラム陰性菌感染症に対する抵抗性付与の作用を有する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用。
- 栄養組成物が、育児用調製乳である請求項7記載の使用。
- ラクトフェリン及び/又はその加水分解物を有効成分として含有する、bacterial translocation(BT)及び/又はendotoxic translocation(ET)の予防または改善作用を有する栄養組成物。
- 栄養組成物が、経口・経腸栄養組成物である請求項9記載の栄養組成物。
- bacterial translocation(BT)及び/又はendotoxic translocation(ET)の予防または改善作用を有する栄養組成物を製造するためのラクトフェリン及び/又はその加水分解物の使用。
- 栄養組成物が、経口・経腸栄養組成物である請求項11記載の使用。
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2010
- 2010-12-21 JP JP2010283936A patent/JP2011067218A/ja active Pending
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