JP2011042862A - 耐食耐摩耗部材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の耐食耐摩耗部材は、TiまたはNbの少なくとも1種を合計で0.1〜5質量%含み、オーステナイト相を常温域の主相とする金属組織により構成されたオーステナイト系ステンレス鋼からなる基部と、この基部を窒化処理することにより基部の表面近傍に形成された窒化層とこの窒化層の最表面近傍に形成され少なくともCrおよびOで構成されたクロム酸化物層とからなる表面部と、を有している。窒化層により耐摩耗性が確保されると共に、クロム酸化物層によりその窒化層の腐食が抑止され、耐食性および耐摩耗性に優れた耐食耐摩耗部材が容易に低コストで得られた。
【選択図】図8
Description
そこで、耐食性と共に耐摩耗性に優れたステンレス鋼部材を得るために、その表面を窒化処理して硬化させることが提案されており、これに関連する記載が下記の特許文献にある。
《耐食耐摩耗部材》
(1)本発明の耐食耐摩耗部材は、チタン(Ti)またはニオブ(Nb)の少なくとも1種を合計で0.1〜5質量%(以下単に「%」という)含み、オーステナイト相を常温域の主相とする金属組織により構成されたオーステナイト系ステンレス鋼からなる基部と、
該基部を窒化処理することにより該基部の表面近傍に形成された窒化層と、該窒化層の最表面を被覆する少なくともクロム(Cr)および酸素(O)で構成されたクロム酸化物層とからなる表面部とを有してなり、耐食性および耐摩耗性に優れることを特徴とする。
先ず本発明に係る窒化層も、窒化鉄(γ−Fe4N)さらには窒化クロム(CrN)などが析出して形成された非常に硬質な化合物層と、この化合物層の内層側に形成され、基部のオーステナイト系ステンレス鋼(金属組織が面心立方格子構造(FCC)であるステンレス鋼)中へNが過飽和に固溶した拡散層とによって構成されていると考えられる。これらの化合物層と拡散層が協調することにより、硬質な窒化層が形成され、本発明の部材の耐摩耗性が大きく向上したと考えられる。
本発明は、単に耐食耐摩耗部材としてのみならず、その製造方法としても把握できる。すなわち、本発明は、TiまたはNbの少なくとも1種を合計で0.1〜5%含み、オーステナイト相を常温域の主相とする金属組織により構成されたオーステナイト系ステンレス鋼からなる基部にプラズマ窒化処理を施す窒化工程を備え、上述した本発明の耐食耐摩耗部材が得られることを特徴とする耐食耐摩耗部材の製造方法としてもよい。
(1)本発明でいう「オーステナイト系ステンレス鋼」とは、常温域の主相がオーステナイト相(FCC構造からなる相)であるステンレス鋼である。ここで「主相」とは、オーステナイト単相(100%オーステナイト相)の場合の他、一部にフェライト相やマルテンサイト相を含む場合でもよい。強いていえばオーステナイト相が全体の50体積%超であればオーステナイト相が主相であるといい得る。「常温域」とは室温域であって、強いていえば15〜25℃ぐらいである。この温度域でオーステナイト相が存在するものは本発明のオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる。
例えば、窒化層は、窒化鉄や窒化クロム等からなる化合物層とNが過飽和に固溶した拡散層からなると考えられるが、本発明の窒化層は、このような従来のものと異なっていてもよく、特に限定されない。
もっとも、部材の耐摩耗性を確保する上で、窒化層の厚さ(窒化深さ)は2μm以上、3μm以上さらには5μm以上あると好ましい。窒化深さが過小では十分な耐摩耗性の確保が困難となる。窒化深さの上限は特に限定されないが15μm以下さらには10μm以下であると好ましい。窒化深さの増大に応じて窒化処理時間が延び、生産コスト高となる。
このクロム酸化物層は、部材の耐食性が確保されれば足るから、クロム酸化物層の厚さは1nm以上あれば足ると考えられるが、2nm以上さらには3nm以上でもよい。上限は限定されないが、実質的に50nm以下さらには20nm以下と考えられる。
また、本発明でいう「耐食耐摩耗部材」は、素材としてのステンレス鋼も含み、その素材形状は棒状、管状、板状等のいずれもでも良い。
さらに、本発明の耐食耐摩耗部材は基部と表面部とを有するが、これら基部および表面部のみによって部材全体が構成される必要はない。例えば、異種材を組み合わせた複合部材の場合、耐摩耗性および耐食性が要求される部分にのみ、本発明の基部および表面部が存在すれば足る。但しこの場合でも、その複合部材全体が本発明の耐食耐摩耗部材となる。
耐摩耗性の評価は、実機による摩耗量などを測定した直接的な評価の他、部材の表面硬さや一般的な摩耗試験による摩耗深さなどを測定した間接的な評価でもよい。表面硬さによる評価であれば、部材の窒化処理後の表面硬さが350HV(ビッカース硬さ)以上、380HV以上、450HV以上さらには550HV以上であると、通常、部材は十分な耐摩耗性があると評価され得る。
(1)本発明の耐食耐摩耗部材の基部(または基材)となるオーステナイト系ステンレス鋼(以下適宜、単に「ステンレス鋼」という。)は、FeおよびCrと、前述したTiまたはNbとを必須元素とする。
本発明に係るステンレス鋼は、Tiおよび/またはNbを合計で0.1〜5%含む。これらの元素が過少では前述したクロム酸化物層による耐食性の向上を図ることが困難となり、過多ではコスト高になると共にオーステナイトマトリックスに多量に偏析することとなり好ましくない。
Cr量は限定されないが、通常は12〜30%であり、15〜25%さらには16〜20%であると好ましい。Crが過少では耐食性を発現するクロム酸化物層の形成が困難となり、Crが過多ではコスト高となる。
本発明に係る窒化層は、基部を窒化処理することにより形成される。耐食性および耐摩耗性が両立され得る窒化層が形成される限り、窒化処理の方法は問わない。従って、本発明の窒化処理は、プラズマ窒化の他、ガス窒化でも塩浴窒化でもよい。
もっとも、本発明の窒化工程をプラズマ窒化処理で行えば、不動態皮膜で覆われたステンレス鋼へも容易に窒化処理を行うことが可能となる。この場合、処理炉内へ導入されるガスは、アンモニアガスの他、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスでもよく、他の窒化方法と比べてクリーンで環境負荷を小さくできる。さらに、プラズマ窒化処理によれば、オーステナイト相に形成され窒化処理の障害となる不動態皮膜を、イオン衝撃により除去することが可能となり、低温で、かつN2ガスとH2ガスとのみで処理可能である。また使用するガス量も低減でき、窒化時間の短縮も図れる。
本発明の耐食耐摩耗部材の用途は限定されないが、優れた耐食性と耐摩耗性とを併有するので、腐食環境下で他材と接触しつつ使用されるような部材に好適である。例えば、腐食環境中で使用される摺動部材(軸、軸受等)、キャビテーションなどにより攻撃される部材(ポンプのインペラやプロペラ等)、腐食環境中で粒体を攪拌する攪拌子等である。
《試料の製造》
(1)供試材
基材(本発明の基部に相当)として、市販されている次の4種類のオーステナイト系ステンレス鋼(JIS)を用意した。すなわち、表1に示す供試材A:SUS321(Fe−18%Cr−9%Ni−0.2%Ti)、供試材B:SUS347(Fe−18%Cr−9%Ni−0.4%Nb)、供試材C:SUS304(Fe−18%Cr−8%Ni)および供試材D:SUS310S(Fe−25%Cr−20%Ni)を用意した。なお、不可避不純物であるCは、いずれの供試材も0.04%以下であった。組成単位は全て質量%である(以下同様に単に「%」で示す)。
これら各供試材からなる試料に、プラズマ窒化処理装置を用いて次のような条件下で窒化処理を行った。
直径350mmx高さ400mmのステンレス製の真空炉へ各試料を入れた。この真空炉内をロータリーポンプおよび拡散ポンプで排気した。また真空炉の内壁を陽極、窒化処理する各試料を陰極とした。
プラズマ窒化処理の前処理として、その両極間に直流電圧を印加してグロー放電を生じさせ、各試料を加熱保持した。
その後、両極間の電圧(280〜480V)および電流を増加させ、各試料の基材表面を200℃まで昇温した後、真空炉へ窒素ガス(N2):100sccmと水素ガス(H2):50sccmを導入し、真空炉内を400Paとした。この状態で両極間にグロー放電を生じさせて、試料を所定の窒化温度まで昇温後、その状態を所定の時間保持した。
こうして、陰極である各試料の基材表面を種々の条件下でプラズマ窒化処理した。
なお、表1および図5〜8には、上述した各々の窒化温度でプラズマ窒化処理した種々の試料中から、代表的なものを抽出して示した。ちなみに、本実施例でいう窒化温度は、放射温度計を用いて各試料の表面温度を測定したものである。
(1)窒化深さの測定
窒化(層)深さは、窒化層の表面から、窒化層と基材(基層)とが特性的に区別できない点に至るまでの距離であり、最表面側にできる窒化物からなる化合物層の深さと、それより内部側でNが過飽和に基材中へ固溶した拡散層の深さとの和である(JIS B 6905)。具体的には、窒化処理した各試料の表層部分(本発明の表面部に相当)を光学顕微鏡を用いて観察すると共に、EPMAを用いた窒素(N)の線分析結果から本実施例でいう窒化深さを求めた。
この表面硬さは窒化層の表面硬さであり、窒化処理した各試料の表層部分の硬さを、マイクロビッカース硬度計(明石製作所、MVK−E)を用いて、圧痕表面積で試験荷重を割って算出した。
各試料の耐摩耗性を、ボールオンディスク型試験機を用いて評価した。
窒化処理前の表面粗さがRa:0.05μmであるφ30x3mmのディスクを各供試材から切り出し、これに前述した窒化処理を施して、耐摩耗性の評価用試料とした。こうして得た各試料上を摺動させる相手材として、φ6.35mm、ビッカース硬さHV800、表面粗さはRa:0.01μmの軸受け鋼(JIS SUJ2ボール)を用意した。これらを用いて、荷重:2N(最大ヘルツ圧814MPa)、すべり速度:0.2m/s、すべり距離:600mとし、大気雰囲気中の無潤滑状態(相対湿度:30〜50%)の下でボールオンディスク試験を行った。
JIS H0530の規定に沿って、各試料の自然浸漬電位を測定した。すなわち、25℃の5%NaCl水溶液中に、塩化銀からなる参照極および各種試料からなる試料極を配置して、参照極と試料極との間に生じる電位差ΔE0を電位計で測定することにより自然浸漬電位を求めた。
JIS H0530に規定されている分極抵抗法により、各試料の腐食速度を測定した。すなわち、25℃の5%NaCl水溶液中に、白金からなる対極、塩化銀からなる参照極および各種試料からなる試料極を配置して、対極から試料極へ微小電流ΔIを供給する。これにより、参照極と試料極との間の電位がその電流値ΔIに応答して自然浸漬電位から変化する。この分極により生じる電位変化量ΔEを、参照極と試料極との間に設けた電位計により検出する。こうして得られた電位変化量ΔEと供給電流値ΔIから、分極抵抗R(=ΔE/ΔI)が求まる。この分極抵抗Rは、耐食性を指標し、腐食速度の逆数と比例関係にあることが知られている。つまり相対腐食速度は1/R=ΔI/ΔEに比例し、1/Rで指標されることになる。
以上の測定により得られた結果を表1にまとめて示した。
(1)窒化層
本発明者は、各供試材に対して、前述した以外に窒化温度:320℃、窒化時間:4時間のプラズマ窒化処理も行った。これにより得られた試料の表面硬さは、窒化処理前後で殆ど変化がなかった。このことから、窒化温度が320℃では実質的に窒化されないことがわかった。
一方、表1からもわかるように、窒化温度が350℃になると、いずれの供試材に対しても、表面硬さが明確に向上している。このことから、窒化温度が少なくとも350℃以上になると、確実に窒化層が形成されることがわかった。
そして400℃以上で窒化処理を施すと、いずれの供試材も表面硬さが350HV以上となることもわかった。
供試材Aおよび供試材Bと供試材Cとは、CrおよびNiの含有量がほぼ同等であるが、窒化処理前も窒化処理後も、供試材Aおよび供試材Bは供試材Cよりも硬かった。この原因として、微量ながら含まれるTiやNbの炭化物の影響が考えられる。
表1から明らかなように、窒化処理によって窒化層が形成され、その窒化深さや表面硬さが大きくなるほど、摩耗深さが確実に減少した。特に、400℃以上で窒化処理した試料はいずれも、摩耗が実質的にゼロとなった。従って、本実施例に係る窒化処理により、ステンレス鋼を基材とする部材へ、十分な耐摩耗性を付与できることがわかった。
上記の試料No.A3の表層部分の断面を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で観察した様子を図4に示した。この図4から、試料No.A3の最表面にはCrおよびOが連続的に濃化した厚さ数十nm(1〜50nm程度)の層が存在することがわかった。この層の組成や構造は明らかではないが、少なくともCrとOとから構成されるクロム酸化物層であることは確かと考えられる。
ちなみに、図示はしていないが、本発明者が分析したところ、530℃で窒化処理した試料No.A5でも、CrやOの濃化部分が最表面に観られた。しかし、その濃化部分は、断続的であって連続的な膜状にはなっていないようであった。また試料No.A5の最表面近傍では、Ti濃度が若干低下する傾向であった。
表1に記載した各試料の自然浸漬電位を図5に棒グラフで示した。
この図5より、供試材Aおよび供試材Bに400℃の窒化処理を施した試料No.A3および試料No.B3の自然浸漬電位は、いずれも貴(正値)であり、しかも、窒化処理前の一般的なステンレス鋼(試料No.C1)よりも十分に高かった。また、試料No.A3および試料No.B3の自然浸漬電位は、窒化処理前の試料No.A1および試料No.B1の自然浸漬電位よりも低下するが、その低下幅は僅かであった。
これらの事情は、図5に示した各試料について、相対腐食速度を示す図6および相対腐食速度の逆数である分極抵抗を示す図7にも現れている。すなわち、供試材Aおよび供試材Bを400℃で窒化処理した試料No.A3および試料No.B3は、窒化処理していない試料No.A1および試料No.B1とほぼ同等な耐食性を示した。
表1に示した各試料について、自然浸漬電位と摩耗深さとの相関を図8に示した。
この図8から明らかなように、高温で窒化処理を行う程、摩耗深さが0に近づいて耐摩耗性は向上するが、自然浸漬電位が低下(卑側へ移行)して耐食性が低下する。
もっともいずれの供試材についても、窒化温度が350℃から400℃へ変化する際、自然浸漬電位があまり変化せず、摩耗深さだけが急減(つまり、耐摩耗性が著しく改善)することがわかる。逆に、窒化温度が400℃から530℃へ変化する際、摩耗深さがほとんど変化せずに、自然浸漬電位だけが急減(つまり、耐食性が著しく悪化)することがわかる。
Claims (8)
- チタン(Ti)またはニオブ(Nb)の少なくとも1種を合計で0.1〜5質量%(以下単に「%」という)含み、オーステナイト相を常温域の主相とする金属組織により構成されたオーステナイト系ステンレス鋼からなる基部と、
該基部を窒化処理することにより該基部の表面近傍に形成された窒化層と、該窒化層の最表面を被覆する少なくともクロム(Cr)および酸素(O)で構成されたクロム酸化物層とからなる表面部とを有してなり、
耐食性および耐摩耗性に優れることを特徴とする耐食耐摩耗部材。 - 前記窒化層は2μm以上であり、
前記表面部のビッカース硬さは350HV以上である請求項1に記載の耐食耐摩耗部材。 - 前記クロム酸化物層の厚さは、1nm以上である請求項1または2に記載の耐食耐摩耗部材。
- 前記表面部は、5%の塩化ナトリウム(NaCl)の水溶液中で塩化銀(AgCl)からなる参照極を用いて測定した自然浸漬電位が貴である請求項1または3に記載の耐食耐摩耗部材。
- 前記表面部は、前記水溶液中で前記参照極に対する電位差から求めた分極抵抗が4500Ωcm2以上である請求項6に記載の耐食耐摩耗部材。
- 前記基部のオーステナイト系ステンレス鋼は、ニッケル(Ni)を4〜30%含む請求項1または5に記載の耐食耐摩耗部材。
- TiまたはNbの少なくとも1種を合計で0.1〜5%含み、オーステナイト相を常温域の主相とする金属組織により構成されたオーステナイト系ステンレス鋼からなる基部にプラズマ窒化処理を施す窒化工程を備え、
請求項1〜6のいずれかに記載の耐食耐摩耗部材が得られることを特徴とする耐食耐摩耗部材の製造方法。 - 前記窒化工程は、窒化温度が330〜480℃の低温窒化工程である請求項7に記載の耐食耐摩耗部材の製造方法。
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