JP2011027029A - 窒素酸化物浄化触媒およびそれを用いた排気ガス浄化装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】排気ガス中のSOxの存在有無に関わらず、排気ガス中のCOを還元剤とし、該COを酸化するのに要する化学量論量より過剰のO2を含有する環境下においてもNOxを効率よく還元することが可能であり、かつ従来よりもコスト低減が可能なNOx浄化触媒およびそれを用いた排気ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る排気ガス浄化装置は、排気ガスの流路中に設置され前記排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元する浄化触媒を用いた排気ガス浄化装置であって、前記浄化触媒は活性成分と多孔質担体とから成り、前記多孔質担体がケイ酸塩から成り、前記活性成分がイリジウム元素(Ir)と、更にリン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)のうちの少なくとも1種以上の元素とから成ることを特徴とする。
【選択図】図9

Description

本発明は、熱機関等から排出されるガス(排気ガス)の浄化技術に関し、特に排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元浄化する触媒およびそれを用いた排気ガス浄化装置に関する。
燃焼器や内燃機関などの熱機関から排出されるガス(排気ガス)には、一酸化炭素(CO)や炭化水素類(HC)や窒素酸化物(NOx)などが含まれている。また、該排気ガスには、通常、数%の酸素(O2)が残存している。NOxは光化学スモッグや酸性雨などの環境汚染の要因となることから、該要因を除去すべくNOxを還元浄化するための様々な技術(触媒)が開発されてきた。
NOxを還元浄化する技術の1つとして、アンモニアを還元剤とした触媒が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。アンモニア自体はコストの低い還元剤であるが、アンモニアを貯留・供給するための装置や定期的なアンモニアの補給が必要となるなど、該技術は運用上のコスト的なデメリットもある。
一方、排気ガス中に共存するCOやHCを還元剤としたNOx浄化触媒の開発も進められている。ただし、COやHCを還元剤として利用しようとした場合、排気ガス中に残存するO2がCOやHCと優先的に反応(COやHCを酸化)しやすく、NOxの還元反応を高められないという問題があった。
これに対し、特許文献2には、酸化チタンを担体として用い、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素と、ジルコニウムと、リンとを該担体に担時させてなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。特許文献2によると、COやHCを酸化するのに要する化学量論量より過剰のO2を含有する排気ガス中のNOxを高い転化率で還元除去できるとされている。また、水蒸気および硫黄酸化物(SOx)を更に含む排気ガスに対してNOx除去活性がより向上するとされている。
また、特許文献3には、SO2と1%以上の酸素が存在する酸化雰囲気中で窒素酸化物を選択的に還元除去する触媒として、担体としてシリカを用い、IrまたはRh金属を0.05〜30 wt%、および第二成分としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、Znの少なくとも1種を0.05〜5 wt%で担体に担持させた触媒が開示されている。特許文献3によると、酸素が過剰に存在する酸化雰囲気下でかつSO2が共存することにより、効率的に排気ガス中のNOxを還元除去することができるとされている。
また、特許文献4には、酸素存在下で一酸化炭素により窒素酸化物を選択的に還元する還元用触媒として、酸化タングステン及びシリカからなる担体を用い、周期律表第1,2,3,9,11及び12族金属から選ばれる1種以上の金属とイリジウムとを該担体に担持させた還元触媒が開示されている。特許文献4によると、排気ガス中にSO2が存在するあるいは存在しないに関わらず、幅広い温度範囲と空間速度条件で、NOxを酸素過剰雰囲気下でもCOによって効率よく選択的に長期間にわたり還元できるとされている。
特開平5−146634号公報 特開平10−174867号公報 特開2004−73921号公報 特開2007−175654号公報
しかしながら、上記特許文献2および特許文献3に記載の触媒は、基本的に排気ガス中にSOxが共存することを想定しており、SOxが存在しない場合にNOxの還元除去能が低下する課題が残されている。一方、特許文献4に記載の触媒は、SOxの存在の有無に関わらず排気ガス中のNOxを効率よく還元できるとされているが、実施例で開示されている触媒において、材料コストの高いイリジウムやタングステンの使用量が担体重量に対してそれぞれ0.5〜5重量%や10重量%と多く、コスト的な課題が残されている。
従って、本発明の目的は、上述した課題を解決すべく、排気ガス中のSOxの存在有無に関わらず、排気ガス中のCOを還元剤とし、該COを酸化するのに要する化学量論量より過剰のO2を含有する環境下においてもNOxを効率よく還元することが可能であり、かつ従来よりもコスト低減が可能なNOx浄化触媒およびそれを用いた排気ガス浄化装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するため、排気ガスの流路中に設置され前記排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元する浄化触媒を用いた排気ガス浄化装置であって、前記浄化触媒は活性成分と多孔質担体とから成り、前記多孔質担体がケイ酸塩から成り、前記活性成分がイリジウム元素(Ir)と、更にリン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)のうちの少なくとも1種以上の元素とから成ることを特徴とする排気ガス浄化装置を提供する。
また、本発明は、上記目的を達成するため、排気ガス中の窒素酸化物を還元する浄化触媒であって、前記浄化触媒は活性成分と多孔質担体とから成り、前記多孔質担体がケイ酸塩から成り、前記活性成分がイリジウム元素と、更にリン、硫黄、塩素のうちの少なくとも1種以上の元素とから成ることを特徴とする窒素酸化物浄化触媒を提供する。
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係る排気ガス浄化装置または窒素酸化物浄化触媒に対して、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記活性成分中の前記イリジウムの量が前記多孔質担体中のケイ素(Si)の量に対する原子比(Ir/Si)で1/32000以上1/64以下である。
(2)前記活性成分中の前記リンの量、前記硫黄の量、および/または前記塩素の量が前記活性成分中の前記イリジウムの量に対して、それぞれ原子比(P/Ir、S/Ir、および/またはCl/Ir)で0.1/1以上1000/1以下である。
(3)前記浄化触媒は、粉末X線回折測定により得られる結果で、前記活性成分に起因する結晶相の回折ピークが認められない。なお、前記「回折ピークが認められない」とは、他の結晶相(例えば、担体)に起因する回折ピークに埋没して、活性成分に起因する独立した回折ピークと認識できない場合を包含するものとする。
(4)前記活性成分が金(Au)元素を更に含む。
(5)前記活性成分がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種以上の元素を更に含む。
(6)排気ガス浄化装置において、前記排気ガスは、熱機関から排出されたものであり、少なくとも一酸化炭素(CO)と窒素酸化物とを含み、前記一酸化炭素を二酸化炭素(CO2)へ酸化するのに要する化学量論量よりも過剰の酸素(O2)を更に含み、硫黄酸化物(SOx)を実質的に含まない。なお、本発明において「硫黄酸化物(SOx)を実質的に含まない」とは、無視できるほど少ない量(触媒反応に寄与しない程度の量)を含んでいる場合を包含するものとする。
(7)排気ガス浄化装置において、前記排気ガスは、熱機関から排出されたものであり、少なくとも一酸化炭素と窒素酸化物とを含み、前記一酸化炭素を二酸化炭素へ酸化するのに要する化学量論量よりも過剰の酸素を更に含み、硫黄酸化物および/またはリン化合物を更に含む。
(8)排気ガス浄化装置において、前記浄化触媒の前段に前記排気ガスの温度を調節するガス温度調節機構を具備する。
(9)排気ガス浄化装置において、前記浄化触媒の前段または後段にアンモニアを還元剤とする窒素酸化物浄化機構を更に具備する。
本発明によれば、排気ガス中のSOxの存在有無に関わらず、排気ガス中のCOを還元剤とし、該COを酸化するのに要する化学量論量より過剰のO2を含有する環境下においてもNOxを効率よく還元することが可能であり、かつ従来よりもコスト低減が可能なNOx浄化触媒およびそれを用いた排気ガス浄化装置を提供することができる。
第一原理計算に用いたイリジウムの表面構造を示すモデル図である。 図1のイリジウム表面に二酸化硫黄分子が存在する構造を示すモデル図である。 図1のイリジウム表面に三酸化硫黄分子が存在する構造を示すモデル図である。 図1のイリジウム表面に十酸化四リン分子が存在する構造を示すモデル図である。 図1のイリジウム表面に三硫化四リン分子が存在する構造を示すモデル図である。 CO分子が吸着する場合における時間に対する系のエネルギー遷移の計算結果を示すグラフである。 NO分子が吸着する場合における時間に対する系のエネルギー遷移の計算結果を示すグラフである。 O2分子が吸着する場合における時間に対する系のエネルギー遷移の計算結果を示すグラフである。 本発明に係る排気ガス浄化装置の構成の1例を示す模式図である。 本発明に係る排気ガス浄化装置の構成の他の1例を示す模式図である。 本発明に係る排気ガス浄化装置の構成の他の1例を示す模式図である。 NOx還元浄化性能の評価に用いた固定床反応装置の概略模式図である。 排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒1および比較触媒1を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。 排気ガス中にSOxが存在する環境において実施触媒1および比較触媒1を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。 活性成分中におけるPとIrの原子比(P/Ir)とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。 比較触媒2におけるX線回折測定結果(XRDチャート)と結晶相解析結果である。 実施触媒2におけるX線回折測定結果(XRDチャート)と結晶相解析結果である。 実施触媒7におけるX線回折測定結果(XRDチャート)と結晶相解析結果である。 排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒8〜9を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。 排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒10〜11を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。 排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒15〜16および比較触媒3を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。
はじめに、COを還元剤としたNOxの還元反応について簡単に説明する。酸素共存環境下におけるNOxの還元反応は、主に次の反応式(1)および反応式(2)で表わされると考えられる。
2NO + 2CO → N2 + 2CO2 …反応式(1)
2CO + O2 → 2CO2 …反応式(2)
上記反応式(1)は、NOxの代表として一酸化窒素(NO)の場合を示した。
熱機関等からの排気ガスでは、通常、CO濃度やNO濃度よりもO2濃度の方がはるかに高いため(数倍〜数百倍)、COがNOを還元する反応式(1)の化学反応よりも、COが燃焼する(COが酸化される)反応式(2)の化学反応の方が進行しやすい。そして、そのままではCOが消費されてしまい、NOxを還元するのが困難になる。そのため、高濃度で存在するO2よりも低濃度で存在するNOとCOが選択的に化学反応するための(言い換えると、反応式(2)の酸化反応を選択的に阻害する)触媒機能が必要とされる。
前述したように、従来技術の触媒反応では、排気ガス中にSOxが共存することで効率的にNOxを還元除去することができるとされている。そこで、本発明者らは、従来技術の触媒反応メカニズムを解明するためにSOxの役割を第一原理計算により解析・検討したところ、Irの表面にSOx分子が吸着した場合、その付近においてO2分子の吸着のみが抑制されることを解明した(詳細は後述する)。
本発明者らは、該解析結果を基に鋭意研究した結果、本発明に係る触媒構成がその表面へのO2分子の吸着を選択的に阻害して反応式(2)の化学反応の進行を抑制することを可能とし、NOxを効率よく還元浄化できることを見出した。それにより、本発明が完成された。以下、図を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。
(窒素酸化物浄化触媒および排気ガス浄化装置の構成)
本発明に係る排気ガス浄化装置は、排気ガスの流路中に設置され前記排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元する浄化触媒を用いた排気ガス浄化装置であって、前記浄化触媒は活性成分と多孔質担体とから成り、前記多孔質担体がケイ酸塩から成り、前記活性成分がイリジウム元素(Ir)と、更にリン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)のうちの少なくとも1種以上の元素とから成ることを特徴とする。また、前記排気ガスは、少なくとも一酸化炭素(CO)と窒素酸化物とを含み、前記一酸化炭素を二酸化炭素(CO2)へ酸化するのに要する化学量論量よりも過剰の酸素(O2)を更に含み、硫黄酸化物(SOx)を実質的に含まないものであり、熱機関から排出されたものであることが好ましい。なお、本発明において「硫黄酸化物(SOx)を実質的に含まない」とは、無視できるほど少ない量(触媒反応に寄与しない程度の量)を含んでいる場合を包含するものとする。一方、前記排気ガスが硫黄酸化物および/またはリン化合物を更に含んでいても特段の問題は無い。
前記多孔質担体としては、材料コストの観点からケイ酸塩(例えば、シリカ:SiO2)が望ましいが、コストが低く比表面積が大きなものの表面にケイ酸塩を被覆したものでもよい。前記活性成分中の前記イリジウムの量は、前記多孔質担体中のケイ素(Si)の量に対する原子比(Ir/Si)で1/32000以上であることが望ましく、1/6400以上であることがより望ましい。Ir/Siが1/32000未満であるとNOxの還元浄化性能が大きく劣化する。一方、材料コストの観点からIr/Siは1/64以下であることが望ましく、1/640以下であることがより望ましい。
前記活性成分中の前記リンの量、前記硫黄の量、および/または前記塩素の量は、前記活性成分中の前記イリジウムの量に対して、それぞれ原子比(P/Ir、S/Ir、および/またはCl/Ir)で0.1/1以上1000/1以下であることが望ましく、1/1以上500/1以下であることがより望ましい。P/Ir、S/Ir、および/またはCl/Irが0.1/1未満であるとCO酸化の抑制効果(前述した反応式(2)の抑制効果)が見られず、NOxの還元浄化性能が大きく劣化する。一方、P/Ir、S/Ir、および/またはCl/Irが1000/1より大きいと、担体であるケイ酸塩(例えば、シリカ:SiO2)と化学反応を起こしたり、触媒作用を抑制(例えば、触媒表面へのCOやNOxの吸着を抑制)したりして、NOxの還元浄化性能が大きく劣化する。
前記浄化触媒は、粉末X線回折測定により得られる結果で、前記活性成分に起因する結晶相の回折ピークが認められないことが望ましい。浄化触媒に対する粉末X線回折測定において、活性成分に起因する結晶相の回折ピークが観察されるということは、該活性成分が担体等と化合したことを強く示唆する。また、活性成分に起因する結晶相の回折ピークが観察されないということは、該活性成分が均等に分散していることを示唆する。すなわち、前記浄化触媒に対して粉末X線回折測定を行った場合、担体に起因する回折ピークのみが観察され、活性成分に起因する独立した回折ピークは認識できないことが望ましい。
前記活性成分は、金(Au)元素を更に含むことが好ましい。Auを添加することによりIrの活性をわずかだけ抑えることが可能となり、高いNOx還元浄化性能を示す温度領域を拡大することができる。
前記活性成分は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種以上の元素を更に含むことが好ましい。アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種以上の元素を添加することにより触媒作用を促進する(例えば、触媒表面へのNOxの吸着を促進)ことが可能となり、NOx還元浄化性能を向上させることができる。
(第一原理計算による解析と考察)
前述したように、従来技術におけるSOxの役割を解明するために周期境界条件を利用した第一原理計算を用いて解析を行った。その結果、Irの表面にSOx分子が吸着した場合、その付近においてO2分子の吸着のみが抑制されることが判明した。これは、二酸化硫黄(SO2)や三酸化硫黄(SO3)の不対電子とO2の不対電子とが反発し合うためと考えられた。この結果から、S原子が予め触媒中に含有されかつ触媒表面に存在している場合、SOx分子の吸着と同様の効果が得られると考えた。
また、本発明者らは、S以外の元素でO2分子の吸着を阻害する成分となりうる元素を検討した。その結果、電気陰性度や電子物性がSに近くO2分子との反発力が働くと考えられる元素としてPやClをIrと共に活性成分に用い、担体であるケイ酸塩へ担持させることでNOxを効率よく還元浄化できることを見出した。
次に、第一原理計算の解析例について説明する。
計算対象のセルサイズは8.14460Å × 9.40457Å × 16.0Åの直方体とし、該計算セル内にはIr表面(具体的には(111)Ir面)として、各層が12個のIr原子で3層から成る(すなわち合計36個のIr原子から成る)Irの表面構造を模擬した(図1参照)。図1は、第一原理計算に用いたイリジウムの表面構造を示すモデル図である。
図1に示したIr清浄表面の場合、および該Ir表面に対してSO2分子、SO3分子、十酸化四リン(P4O10)分子、または三硫化四リン(P4S3)分子が存在する場合において、その付近にCO分子、NO分子、O2分子がそれぞれ吸着するのに要する時間とエネルギー遷移を構造最適化法により計算した。図2は、図1のイリジウム表面に二酸化硫黄分子が存在する構造を示すモデル図である。図3は、図1のイリジウム表面に三酸化硫黄分子が存在する構造を示すモデル図である。図4は、図1のイリジウム表面に十酸化四リン分子が存在する構造を示すモデル図である。図5は、図1のイリジウム表面に三硫化四リン分子が存在する構造を示すモデル図である。
また、計算にあたり境界条件としては、局所密度近似を用い、カットオフエネルギーを408 eVとし、k点は計算時間短縮のため1 × 1 × 1とした。構造最適化法には、Quenched Molecular Dynamicsの方法を用いた。
CO、NO、O2の各分子の初期位置は、いずれの場合もIr表面に対して垂直となるように配置し、それぞれC原子、N原子、O原子をIr原子に最近接としてその原子間距離が2.3Åとなるように設定した。また、エネルギーは吸着する前の系全体のエネルギーをゼロとして、系が安定化に向かうとエネルギーがマイナスになるように定めた。分子の吸着は、系のエネルギー変化がほぼ無くなった(ほぼ安定した)状態をもって判定した。
図6は、CO分子が吸着する場合における時間に対する系のエネルギー遷移の計算結果を示すグラフである。図6に示したように、CO分子の吸着は、最も時間の掛かっているP4S3分子が存在する場合においても、100〜120 fs(フェムト秒)程度で安定していることが判る。また、いずれの場合においても、系のエネルギーは-60〜-65 kcal/molの安定を示していることが判る。すなわち、CO分子の吸着に関しては、図1〜図5に示した5つの場合において、ほとんど差異がないと考えられた。
図7は、NO分子が吸着する場合における時間に対する系のエネルギー遷移の計算結果を示すグラフである。図7に示したように、NO分子の吸着においてもCO分子の吸着と同様に、少なくとも100〜120 fs程度で安定していることが判る。また、いずれの場合においても、系のエネルギーは-50〜-55 kcal/molの安定を示していることが判る。すなわち、NO分子の吸着に関しても、図1〜図5に示した5つの場合において、ほとんど差異がないと考えられた。
図8は、O2分子が吸着する場合における時間に対する系のエネルギー遷移の計算結果を示すグラフである。図8に示したように、O2分子の吸着においては大きな差異が生じた。最も早くO2分子が吸着したのはIr清浄表面の場合であり、吸着までに要する時間は400 fs程度であった。また、系のエネルギーも最も安定しており、約-58 kcal/molであった。次に早く吸着したのはP4S3分子が存在する場合で450 fs程度で吸着しているが、系のエネルギーが約-49 kcal/molとIr清浄表面の場合に比してエネルギーの絶対値が小さく、不安定であることが判る。
次に早く吸着したのはSO2分子が存在する場合であり、600 fs程度で吸着した。SO3分子が存在する場合は吸着するのに1200 fs程度を要していた。系のエネルギーは、SO2分子が存在する場合とSO3分子が存在する場合とで-53〜-55 kcal/molの安定を示した。これらに対し、P4O10分子が存在する場合は、1500 fsが経過しても安定した吸着状態を示さず、系のエネルギーも極めて不安定であった。
以上、図6〜図8の結果から明らかなように、P4S3分子、SO2分子、SO3分子、P4O10分子が存在するIr表面は、Ir清浄表面と比して「吸着に要する時間」および/または「系のエネルギー」においてO2分子の吸着を選択的に阻害していると言える。
(排気ガス浄化装置の他の構成)
図9は、本発明に係る排気ガス浄化装置の構成の1例を示す模式図である。図9に示すように、本発明に係る排気ガス浄化装置は、熱機関(例えば、燃焼器や内燃機関など)から排出される排気ガスの流路中に設置されており、前記排気ガスの温度をNOx浄化触媒の最適運転温度に調整(昇温または降温)するためのガス温度調節機構がNOx浄化触媒の前段に具備されている。例えば、後述する実施触媒1は250℃付近で高いNOx還元浄化性能を示すので、熱機関からの排気ガスの温度をガス温度調節機構で250℃に調整することで、効率のよいNOx還元浄化が期待できる。
図10および図11は、本発明に係る排気ガス浄化装置の構成の他の例を示す模式図である。図10に示した排気ガス浄化装置は、図9に示した排気ガス浄化装置に加えてNOx浄化触媒の後段にアンモニア(NH3)を還元剤とする窒素酸化物浄化機構(NH3供給ラインとNH3脱硝触媒)を具備した構成となっている。また、図11に示した排気ガス浄化装置は、図9に示した排気ガス浄化装置に加えてガス温度調節機構の前段にNH3供給ラインとNH3脱硝触媒を具備した構成となっている。本発明に係るNOx浄化触媒と従来のNH3脱硝触媒とを組み合わせて利用することで、「NH3脱硝触媒での負荷を軽減してNH3利用量を減らす」および/または「NOx還元浄化性能を更に向上させる」ことができる。
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で組み合わせや改良が適宜可能である。
[排気ガス中にSOxが存在しない場合におけるNOx還元浄化性能の評価]
本発明に係るNOx浄化触媒が、排気ガス中にSOxが存在しない場合において、排気ガス中のCOを還元剤としてNOxを効率よく還元浄化できることを確認するための検証実験を行った。
(実施触媒1の作製)
担体としてシリカ粉末(富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G-3)と、Ir原料として硝酸イリジウム溶液(株式会社フルヤ金属製、Ir:5.01質量%含有)と、P原料としてリン酸(和光純薬工業株式会社製、85%H3PO4水溶液)とを用意した。PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が216/1/6400となるように、前記硝酸イリジウム溶液と前記リン酸とを蒸留水で希釈した混合水溶液に前記シリカを浸し、湿式混練法によってシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、120℃で1時間の乾燥処理と、空気中400℃で1時間の焼成処理と、水素気流中400℃で1時間の還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒1)を作製した。
(比較触媒1の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、IrとSiとの原子比(Ir/Si)が1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrを担持させた。次に、実施触媒1と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(比較触媒1)を作製した。
(試験・評価)
上記のように作製した実施触媒1と比較触媒1に対して、O2過剰存在下におけるCOを還元剤としたNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。評価装置としては、常圧流通式の固定床反応装置(図12参照)を使用した。図12は、NOx還元浄化性能の評価に用いた固定床反応装置の概略模式図である。
反応管には石英ガラス製反応管を用い、これを縦型電気炉中に垂直に固定し、その中央部に粒状触媒を4 cm3充填した触媒層を形成した。触媒層の温度はヒータと温度調節器により制御した。反応管下部より熱電対を挿入して触媒層の入口温度を測定した。排気ガスを模擬したモデルガスの組成は、NOx:150 ppm、CO:1600 ppm、O2:3%、H2O:3%、バランスガス:N2とした。すなわち、排気ガス中にSOxが存在しない環境である。また、空間速度(SV)は30000 h-1とした。触媒層を通過したガス中のNOxをガス分析計(株式会社堀場製作所製、化学発光式分析計CLA-510SS)を用いて測定した。
触媒層を通過したガス中のNOx濃度が安定するまでガスを流通させた後、NOx還元浄化性能として下記の式(3)からNOx還元浄化率を算出した。
NOx還元浄化率(%) = [{(モデルガスNOx濃度) − (触媒層通過後NOx濃度)}
÷ (モデルガスNOx濃度)] × 100 …式(3)
実施触媒1および比較触媒1を用いた場合のNOx還元浄化率の結果を図13に示す。図13は、排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒1および比較触媒1を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。図13に示したように、実施触媒1は比較触媒1に比してはるかに高いNOx還元浄化性能を有することが確認された。特に、250℃近辺で顕著に差が生じている。この結果から、活性成分にIrとPとを用いることで、排気ガス中にSOxが存在しない環境において高いNOx還元浄化率を有する触媒を得られることが実証された。
[排気ガス中にSOxが存在する場合におけるNOx還元浄化性能の評価]
本発明に係るNOx浄化触媒が、排気ガス中にSOxが存在する場合において、排気ガス中のCOを還元剤として従来よりも効率よくNOxを還元浄化できることを確認するための検証実験を行った。
(試験・評価)
実施触媒1と比較触媒1に対して、排気ガス中にSOxが存在する環境において実施例1と同様の手順でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。排気ガスを模擬したモデルガスの組成は、NOx:150 ppm、CO:1600 ppm、O2:3%、H2O:3%、SO2:3.5 ppm、バランスガス:N2とした。
NOx還元浄化率の測定結果を図14に示す。図14は、排気ガス中にSOxが存在する環境において実施触媒1および比較触媒1を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。図14に示したように、実施触媒1のNOx還元浄化性能は、比較触媒1のそれと比べて250℃ではほぼ同じであったが、260〜300℃において高いNOx還元浄化率が得られた。この結果から、活性成分にIrとPとを用いることで、排気ガス中にSOxが存在する環境において従来よりも高いNOx還元浄化率を有する触媒を得られることが実証された。すなわち、図13の結果と合わせて、本発明に係る触媒は、排気ガス中のSOxの存在有無に関わらず高いNOx還元浄化性能を有していると言える。
[活性成分中におけるPとIrの原子比(P/Ir)に関する検討]
本発明に係るNOx浄化触媒において、活性成分中におけるPとIrの原子比(P/Ir)の好適な範囲を調査するための実験を行った。
(比較触媒2の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が5000/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、120℃で1時間の乾燥処理と、空気中600℃で1時間の焼成処理と、水素気流中600℃で1時間の還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(比較触媒2)を作製した。
(実施触媒2の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が500/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒2)を作製した。
(実施触媒3の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が100/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒3)を作製した。
(実施触媒4の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が50/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒4)を作製した。
(実施触媒5の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が25/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒5)を作製した。
(実施触媒6の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が10/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒6)を作製した。
(実施触媒7の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が1/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒7)を作製した。
(試験・評価)
実施触媒1〜7および比較触媒1〜2に対して、排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施例1と同様の手順でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。排気ガスを模擬したモデルガスの組成も実施例1と同様に、NOx:150 ppm、CO:1600 ppm、O2:3%、H2O:3%、バランスガス:N2とした。ただし、触媒層の粒状触媒量を0.6 cm3とし、空間速度(SV)を200000 h-1とした。すなわち、触媒の単位体積当たりの処理量を実施例1の場合の6.7倍とした。
また、作製した実施触媒1〜7および比較触媒1〜2に対して、粉末X線回折装置を用いて触媒の結晶相解析(広角ゴニオメータを用いた2θ/θ測定)を行った。なお、粉末X線回折装置としては、株式会社リガク製(型式:RINT2500VB3K/PC)を用い、銅の対陰極(ターゲット)で管電圧および管電流をそれぞれ40 kV、300 mAとした。また、スリット条件は、発散スリットが1°、散乱スリットが1°、受光スリットが0.15 mmとした。
NOx還元浄化率の測定結果を図15に示す。図15は、活性成分中におけるPとIrの原子比(P/Ir)とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。図15から明らかなように、実施触媒1〜7(原子比P/Irが1/1〜500/1)のいずれにおいても、比較触媒1(P/Ir = 0/1)および比較触媒2(P/Ir=5000/1)に比してはるかに高いNOx還元浄化性能を有することが確認された。また、P/Irが216/1である実施触媒1に対して、P/Irが100/1〜10/1である実施触媒3〜6は、260〜300℃におけるNOx還元浄化率がより良好な結果を示した。また、P/Irが1/1である実施触媒7では、特に240℃付近において非常に高いNOx還元浄化率が得られた。この結果から、活性成分中におけるPとIrの原子比(P/Ir)は、広い範囲にわたって良好なNOx還元浄化性能を示すことが確認された。
触媒の結晶構造解析の代表的な結果を図16〜図18に示す。図16は、比較触媒2におけるX線回折測定結果(XRDチャート)と結晶相解析結果である。図17は、実施触媒2におけるX線回折測定結果(XRDチャート)と結晶相解析結果である。図18は、実施触媒7におけるX線回折測定結果(XRDチャート)と結晶相解析結果である。図16〜図18から明らかなように、実施触媒2(P/Ir = 500/1)と実施触媒7(P/Ir = 1/1)が多孔質なシリカ粉末に起因するSiO2の幅広いピークのみが観察されているのに対し、比較触媒2(P/Ir = 5000/1)はSi5P6O25やSi3(PO4)4に起因すると考えられる鋭いピークが観察されている。
比較触媒2は、Irに対するPの量が多いことから、過剰のP成分が担体のSiO2成分と化合し複合酸化物結晶を形成したものと考えられる。また、該複合酸化物結晶が触媒表面に多く存在することから、Irの触媒作用を阻害しNOx還元浄化率の大きな劣化につながったものと考えられる。一方、実施触媒2や実施触媒7は、SiO2の幅広いピークのみが観察されていることから、P成分が均等に分散しており適度な量でIr粒子の表面に存在していたものと考えられる。そのため、前述した第一原理計算による解析結果などの要因により、良好なNOx還元浄化性能が得られたものと考えられる。
[活性成分としてのS、Clの添加]
本発明に係るNOx浄化触媒において、活性成分としてIrと共に担持しP以外の元素で高いNOx還元浄化性能を可能とする成分を探索した。O2分子と反発しCO分子の酸化反応を阻害するような成分として、電気陰性度が大きいSおよびClを選定した。
(実施触媒8の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、SとIrとSiとの原子比(S/Ir/Si)が1/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとSを担持させた。なお、S原料としては硫酸(和光純薬工業株式会社製、97%H2SO4水溶液)を用いた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒8)を作製した。
(実施触媒9の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、ClとIrとSiとの原子比(Cl/Ir/Si)が1/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとClを担持させた。なお、Cl原料としては塩酸(関東化学株式会社製、35%HCl水溶液)を用いた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒9)を作製した。
(試験・評価)
実施例3と同じ試験方法および条件でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。測定結果を図19に示す。図19は、排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒8〜9を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。なお、図19には実施触媒7および比較触媒1の結果も併記した。
図19に示したように、比較触媒1に比して実施触媒8および9は、いずれもNOx還元浄化性能が向上した。実施触媒9のNOx還元浄化率は、約220℃〜約290℃の温度領域全般で実施触媒7のそれよりも向上が見られた。また、実施触媒8では、約270℃〜330℃の高温領域でNOx還元浄化率の著しい向上が見られた。この結果から、活性成分にIrとS、Clを組み合わせることで、NOx還元浄化率が向上することが実証された。
[活性成分の組み合わせの検討]
本発明に係るNOx浄化触媒において、活性成分としてIrに加えてP、S、Clのうちの2種以上を用いた場合におけるNOx還元浄化性能の向上を確認するための検証実験を行った。
(実施触媒10の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、SとPとIrとSiとの原子比(S/P/Ir/Si)が12.5/25/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPとSを担持させた。なお、P原料としてはリン酸(和光純薬工業株式会社製、85%H3PO4水溶液)を用い、S原料としては硫酸(和光純薬工業株式会社製、97%H2SO4水溶液)を用いた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒10)を作製した。
(実施触媒11の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、ClとPとIrとSiとの原子比(Cl/P/Ir/Si)が12.5/25/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPとClを担持させた。なお、P原料としてはリン酸(和光純薬工業株式会社製、85%H3PO4水溶液)を用い、Cl原料としては塩酸(関東化学株式会社製、35%HCl水溶液)を用いた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒11)を作製した。
(試験・評価)
実施例3と同じ試験方法および条件でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。測定結果を図20に示す。図20は、排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒10〜11を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。なお、図20には比較触媒1の結果も併記した。
図20に示したように、比較触媒1に比して実施触媒10および11は、いずれもNOx還元浄化性能が向上し、特に260〜300℃において良好なNOx還元浄化率が得られた。この結果から、活性成分にIrに加えてP、S、Clのうちの2種以上を用いた場合においても、NOx還元浄化率が向上することが実証された。
[活性成分へのAu添加の検討]
本発明に係るNOx浄化触媒において、活性成分へAuを添加することによる高いNOx還元浄化性能を示す温度領域の拡大を確認するための検証実験を行った。
(実施触媒12の作製)
担体としてシリカ粉末(富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G-3)と、Ir原料として硝酸イリジウム溶液(株式会社フルヤ金属製、Ir:5.01質量%含有)と、P原料としてリン酸(和光純薬工業株式会社製、85%H3PO4水溶液)と、Au原料として塩化金酸(田中貴金属工業株式会社製、Au:30.660質量%含有)を用意した。AuとPとIrとSiとの原子比(Au/P/Ir/Si)が0.25/25/1/6400となるように、前記硝酸イリジウム溶液と前記リン酸と前記塩化金酸とを蒸留水で希釈した混合水溶液に前記シリカを浸し、蒸発乾固法によってシリカ(SiO2)粉末にIrとPとAuを担持させた。次に、空気中600℃で1時間の焼成処理と、水素気流中600℃で1時間の還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒12)を作製した。
(試験・評価)
実施例3と同じ試験方法および条件でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。300℃および320℃でのNOx還元浄化率の結果を表1に示す。なお、表1には比較触媒1とAuを含まない実施触媒5(P/Ir/Si = 25/1/6400)の結果も併記した。
Figure 2011027029
表1に示したように、比較触媒1および実施触媒5と比較すると、300℃や320℃の高温領域において実施触媒12のNOx還元浄化率が高くなっていることが判る。この結果から、活性成分へAuを添加することによって、高いNOx還元浄化性能を示す温度領域を高温側へ拡大できることが実証された。
[活性成分へのアルカリ金属元素・アルカリ土類金属元素の添加の検討]
本発明に係るNOx浄化触媒において、活性成分へアルカリ金属元素・アルカリ土類金属元素を添加することにより触媒作用促進の効果を確認するための検証実験を行った。
(実施触媒13の作製)
実施触媒12と同様の手順によって、バリウム(Ba)とPとIrとSiとの原子比(Ba/P/Ir/Si)が1/25/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPとBaを担持させた。なお、Ba原料としては硝酸バリウム(和光純薬工業株式会社製、Ba2(NO3)2)を用いた。次に、実施触媒12と同様に焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒13)を作製した。
(実施触媒14の作製)
実施触媒12と同様の手順によって、カリウム(K)とPとIrとSiとの原子比(K/P/Ir/Si)が1/25/1/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPとKを担持させた。なお、K原料としては硝酸カリウム(和光純薬工業株式会社製、KNO3)を用いた。次に、実施触媒12と同様に焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒14)を作製した。
(試験・評価)
実施例3と同じ試験方法および条件でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。280℃でのNOx還元浄化率の結果を表2に示す。表2には比較触媒1とBaやKを含まない実施触媒5(P/Ir/Si = 25/1/6400)の結果も併記した。
Figure 2011027029
表2に示したように、比較触媒1および実施触媒5と比較して、Baを含む実施触媒13およびKを含む実施触媒14のNOx還元浄化率が高くなっていることが判る。この結果から、活性成分へアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素を添加することによって、触媒作用を促進できる(より高いNOx還元浄化性能を示す)ことが実証された。
[活性成分Ir量の検討]
本発明に係るNOx浄化触媒において、活性成分の適切な添加量を確認するための検証実験を行った。
(実施触媒15の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が216/5/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒15)を作製した。
(実施触媒16の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が216/0.2/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(実施触媒16)を作製した。
(比較触媒3の作製)
実施触媒1と同様の手順によって、PとIrとSiとの原子比(P/Ir/Si)が216/0.04/6400となるようにシリカ(SiO2)粉末にIrとPを担持させた。次に、比較触媒2と同様に乾燥処理と焼成処理と還元処理とを順次行い、その後、粉砕して粒状触媒(比較触媒3)を作製した。
(試験・評価)
実施例3と同じ試験方法および条件でNOx還元浄化性能の測定試験を実施した。また、本実施例で試験評価したNOx浄化触媒における構成原子比(P/Ir/Si)を表3に示す。NOx還元浄化率の測定結果を図21に示す。図21は、排気ガス中にSOxが存在しない環境において実施触媒15〜16および比較触媒3を用いた場合における触媒層の温度とNOx還元浄化率との関係を示したグラフである。なお、図21には実施触媒1の結果も併記した。
Figure 2011027029
図21から明らかなように、実施触媒1、15、16(原子比Ir/Siが5/6400〜0.2/6400)のいずれにおいても、比較触媒3(Ir/Si = 0.04/6400)に比してはるかに高いNOx還元浄化性能を有することが確認された。ただし、Irの材料コストの観点からIrとSiの原子比(Ir/Si)が100/6400を超えることは望ましくない。従って、活性成分中におけるIrとSiの原子比(Ir/Si)は、100/6400〜0.2/6400すなわち1/64〜1/32000の範囲が望ましいと言える。

Claims (16)

  1. 排気ガスの流路中に設置され前記排気ガス中の窒素酸化物を還元する浄化触媒を用いた排気ガス浄化装置であって、
    前記浄化触媒は活性成分と多孔質担体とから成り、
    前記多孔質担体がケイ酸塩から成り、
    前記活性成分がイリジウム元素と、更にリン、硫黄、塩素のうちの少なくとも1種以上の元素とから成ることを特徴とする排気ガス浄化装置。
  2. 請求項1に記載の排気ガス浄化装置において、
    前記活性成分中の前記イリジウムの量が前記多孔質担体中のケイ素の量に対する原子比で1/32000以上1/64以下であることを特徴とする排気ガス浄化装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載の排気ガス浄化装置において、
    前記活性成分中の前記リンの量、前記硫黄の量、および/または前記塩素の量が前記活性成分中の前記イリジウムの量に対して、それぞれ原子比で0.1/1以上1000/1以下であることを特徴とする排気ガス浄化装置。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記浄化触媒は、粉末X線回折測定により得られる結果で、前記活性成分に起因する結晶相の回折ピークが認められないことを特徴とする排気ガス浄化装置。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記活性成分が金元素を更に含むことを特徴とする排気ガス浄化装置。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記活性成分がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種以上の元素を更に含むことを特徴とする排気ガス浄化装置。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記排気ガスは、熱機関から排出されたものであり、少なくとも一酸化炭素と窒素酸化物とを含み、前記一酸化炭素を二酸化炭素へ酸化するのに要する化学量論量よりも過剰の酸素を更に含み、硫黄酸化物を実質的に含まないことを特徴とする排気ガス浄化装置。
  8. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記排気ガスは、熱機関から排出されたものであり、少なくとも一酸化炭素と窒素酸化物とを含み、前記一酸化炭素を二酸化炭素へ酸化するのに要する化学量論量よりも過剰の酸素を更に含み、硫黄酸化物および/またはリン化合物を更に含むことを特徴とする排気ガス浄化装置。
  9. 請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記浄化触媒の前段に前記排気ガスの温度を調節するガス温度調節機構を具備することを特徴とする排気ガス浄化装置。
  10. 請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の排気ガス浄化装置において、
    前記浄化触媒の前段または後段にアンモニアを還元剤とする窒素酸化物浄化機構を更に具備することを特徴とする排気ガス浄化装置。
  11. 排気ガス中の窒素酸化物を還元する浄化触媒であって、
    前記浄化触媒は活性成分と多孔質担体とから成り、
    前記多孔質担体がケイ酸塩から成り、
    前記活性成分がイリジウム元素と、更にリン、硫黄、塩素のうちの少なくとも1種以上の元素とから成ることを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
  12. 請求項11に記載の窒素酸化物浄化触媒において、
    前記活性成分中の前記イリジウムの量が前記多孔質担体中のケイ素の量に対する原子比で1/32000以上1/64以下であることを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
  13. 請求項11または請求項12に記載の窒素酸化物浄化触媒において、
    前記活性成分中の前記リンの量、前記硫黄の量、および/または前記塩素の量が前記活性成分中の前記イリジウムの量に対して、それぞれ原子比で0.1/1以上1000/1以下であることを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
  14. 請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒において、
    前記浄化触媒は、粉末X線回折測定により得られる結果で、前記活性成分に起因する結晶相の回折ピークが認められないことを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
  15. 請求項11乃至請求項14のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒において、
    前記活性成分が金元素を更に含むことを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
  16. 請求項11乃至請求項15のいずれかに記載の窒素酸化物浄化触媒において、
    前記活性成分がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種以上を更に含むことを特徴とする窒素酸化物浄化触媒。
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