(好ましい態様の詳細な説明)
本発明は、二次代謝物の製造方法、およびある態様において本発明の方法により製造した二次代謝物に関する。非リボソームペプチド合成酵素またはポリケチドシンターゼ遺伝子のいずれかを天然にはコードせず、ヌル(null)背景を有するにも関わらず、CyanobacteriaのSynechocystis sp.は、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子で形質転換すると二次代謝物を産生することができる。したがって、Synechocystis sp.は、二次代謝物を製造するヘテロローガスな宿主として優れた可能性を提供する。
ある局面において、二次代謝物の製造方法であって、Synechocystis sp.菌を、二次代謝物の製造に必要なペプチド合成酵素遺伝子、ポリケチドシンターゼ遺伝子、または脂肪酸シンターゼ遺伝子の1またはそれ以上で形質転換し、該Synechocystis sp.菌を、二次代謝物の製造に必要な1またはそれ以上の遺伝子を発現させるのに適した条件下で培養し、該細菌から二次代謝物を精製することを含む、製造方法を提供する。
Synechocystis sp.菌は、あらゆる適切な種もしくは菌株、またはその誘導体から選ばれ得る。例えば、Synechocystis sp.菌は、PCC6301、6307、6701、6906、7008、または9632株であってよい(Archives of Microbiology、Christiansen et al. 2001参照)。特定の態様において、Synechocystis sp.はPCC6803 (Pasteur Culture Collection、Paris)である。該方法は、二次代謝物、例えばペプチドもしくはポリケチド、脂肪酸、またはその誘導体の製造に適しているかもしれないと考えられる。該ペプチドは、非リボソームペプチドでありうる。該二次代謝物は、さらに抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗癌剤、免疫抑制剤、麻酔薬もしくは鎮痛薬、抗腫瘍生成物、抗生物質、抗コレステロール剤、抗寄生虫剤、獣医用治療薬、および農薬、ならびに化粧品を含みうる。そのような薬剤の具体例には、限定されるものではないが、バンコマイシン、ミクロシスチン、ノデュラリン、サキシトキシン、シクロスポリン、およびペニシリンが含まれる。Synechocystis sp.菌は、あらゆる適切な種または株、またはその誘導体から選ばれ得る。例えば、Synechocystis sp.菌は、PCC6301、6307、6701、6906、7008、または9632株であってよい(Archives of Microbiology、Christiansen et al. 2001参照)。特定の態様において、Synechocystis sp.はPCC6803 (Pasteur Culture Collection、Paris)である。該方法は、あらゆる二次代謝物、例えばペプチド、ポリケチド、脂肪酸、もしくはそれらの誘導体、またはそれらの混合物の製造に適しているかもしれないと考えられる。該ペプチドは、非リボソームペプチドでありうる。該二次代謝物は、さらに抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗癌剤、免疫抑制剤、麻酔薬もしくは鎮痛薬、抗腫瘍生成物、抗生物質、抗コレステロール剤、抗寄生虫剤、獣医用治療薬、および農薬、ならびに化粧品を含みうる。そのような薬剤の具体例には、限定されるものではないが、バンコマイシン、ミクロシスチン、ノデュラリン、サキシトキシン、シクロスポリン、およびペニシリンが含まれる。
Synechocystis sp.菌を形質転換するのに用いるペプチド合成酵素遺伝子、ポリケチドシンターゼ遺伝子、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子は、あらゆる適切な供給源由来であってよい。例えば、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および脂肪酸シンターゼ遺伝子は、種々の他の細菌および/または真菌由来でありうる。該遺伝子が由来する考えられる生物の例には、限定されるものではないが、微細藻類、例えば紅藻植物(rhodophytes)、緑藻植物(chlorphytes)、黄色植物(chromophytes)、およびシアノバクテリア(Cyanobacteria) (例えばChroocales、Chamaesiphonales、Nostcales、Nostocacaea、Rivulariaceae、Scytonemataceae、Stigonematales)、ストレプトマイセス、バチルス、および種々の海洋細菌、および動物および植物の微生物共生生物が含まれる。
非限定的例のみとして、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子の適切なヌクレオチド配列、ならびにその対応タンパク質の配列は、Cyanobacteria供給源、例えば、Sorangium cellulosum (GenBank受託番号NC_010162で得ることができる)、Acaryochloris marina MBIC11017 (GenBank受託番号CP000843で得ることができる)、Synechoccus sp. PCC 7002 (GenBank受託番号CP000951で得ることができる)、Nodularia spumigena CCY 9414 (GenBank受託番号NZ_AAVW00000000で得ることができる)、Fulvimarina pelagi HTCC2506 (GenBank受託番号AATP01000000で得ることができる)、およびSynechococcus sp. WH 5701 (GenBank受託番号NZ_AANO00000000で得ることができる)から得ることができる。
さらなる非限定的例として、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子の適切なヌクレオチド配列、およびその対応タンパク質の配列は、ストレプトマイセス科(Streptomycetaceae)、例えば、Mycobacterium ulcerans Agy99 (GenBank受託番号NC_008611で得ることができる)、Streptomyces avermitilis MA-4680 (GenBank受託番号NC_003155で得ることができる)、Mycobacterium ulcerans Agy99 4680 (GenBank受託番号CP000325で得ることができる)、Mycobacterium tuberculosis H3Rv (GenBank受託番号NC_000962で得ることができる)、およびStreptomyces coelicolor A3 (2) (GenBank受託番号NC_003888で得ることができる)から得ることができる。
さらなる非限定的例として、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子の適切なヌクレオチド配列、およびその対応タンパク質の配列は、Bacillus sp.、例えば、Bacillus weihenstephanensis KBAB4 (GenBank受託番号NC_010184で得ることができる)、Bacillus amyloliquefaciens FZB42 (GenBank受託番号NC_009725で得ることができる)、およびCorynebacterium glutamicum ATCC 13032(GenBank受託番号NC_003450で得ることができる)から得ることができる。
さらなる非限定的例として、適切なポリケチドシンターゼ遺伝子またはタンパク質の配列は、Aspergillus nigerおよび/またはAspergillus nidulans (wA遺伝子、Mayorga et. al.、Genetics 126 (1990) 73-79 (GenBank受託番号X65866で得ることができる)から得ることができよう。
当業者は、本明細書に記載の各受託番号は、記載した番号により得ることができる配列および受託番号、例えば、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子の具体的に同定されたヌクレオチドおよびタンパク質の配列を参照して包含することを理解するだろう。
Synechocystis sp.菌を、あらゆる適切な方法を用いて、ペプチド合成酵素遺伝子、ポリケチドシンターゼ遺伝子、または脂肪酸シンターゼ遺伝子の1またはそれ以上で形質転換またはトランスフェクションすることができよう。そのような方法は、当該分野で一般に知られている(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual (Joseph Sambrook、David W Russell、3rd. Edition、Cold Spring Harbour Press 2001)、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubel F. M. et al.編、John Wiley and Sons、Inc 2007)、Molecular Cloning (Maniatis et al.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1982)、およびCurrent Protocols in Microbiology (Coico et al編、John Wiley and Sons、Inc、2007)(これらの内容は本明細書の一部を構成する。)。
特定の態様において、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、または脂肪酸シンターゼ遺伝子は、ベクター内にクローンすることができる。ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ホスミド、コスミド、もしくは外来配列の挿入、その細胞内への導入、および導入した配列の発現のためのあらゆる他の適切なビークル構築物でありうる。ベクターは、発現制御およびプロセッシング配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、および転写終止配列を含む発現ベクターであってよい。
構築物には、選択可能なマーカー、例えば、抗生物質(例えばクロラムフェニコールまたはテトラサイクリン)耐性遺伝子も含まれうる。該構築物中に挿入する遺伝子物質は、例えば、標的DNAを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを行うことにより作出することができる。次いで、得られる核酸は、例えば制限-連結反応またはTAクローニング法により構築物に挿入することができよう。
ベクター構築物および他の外来核酸物質をSynechocystis sp.菌内に導入するのに適した方法は一般的に当該分野で知られており、例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel et al.編、New York:John Wiley & Sons、2007)、およびMolecular Cloning:A Laboratory Manual、(Sambrook et al. 第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、2001)に記載されている。例として、Synechocystis sp.は、「熱ショック」法により形質転換することができる。この方法では、細胞壁の透過性を生じる二価カチオン、例えばCa2+の存在下で冷蔵する。細胞を構築物と氷上でインキュベーションし、次いで一時的に熱ショックを与え(例えば42℃で0.5〜2分間)、ベクター構築物を細胞内に入れる。あるいはまた、Synechocystis sp.をエレクトロポーレーションによりベクター構築物で形質転換することができる。この方法は、細胞に電場で一時的にショックを与え、構築物が細胞に入ることができる穴を作ることを含む。天然の膜修復メカニズムは、ショック後この穴を急速に閉じる。
ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、または脂肪酸シンターゼ遺伝子は、トランスポゾンまたは他の移動要素の1またはそれ以上によりSynechocystis sp. ゲノム内に挿入することができる。これらは、59kbまでのサイズで大きなDNA断片を移動させることが示された。トランスポゾンの移動は、通常、ゲノム中の標的配列内へのDNAの挿入をもたらすトランスポーゼースにより仲介される。推定トランスポーゼースは、種々の生合成遺伝子クラスター、例えばミクロシスチンおよびノデュラリン生合成遺伝子クラスターと結合していることがわかった。大きな遺伝子クラスターを移動させるトランスポゾンの能力は、二次代謝物を発現させるための生合成遺伝子クラスターのヌル宿主内への操作伝達に適したDNA伝達系を提供する。
構築物が細胞内に入った後、複製を促すのに適した条件下でSynechocystis sp.菌を培養することができる。菌の培養方法は当該分野でよく知られており、例えばCurrent Protocols in Microbiology、(Coico、et al.編、John Wiley & Sons、Inc.、2007)に記載されている。培養は、形質転換株の同定を促す物質、例えばクロラムフェニコール、カナマイシン、またはテトラマイシンのような抗生物質、を含む培地で行うことができよう。
形質転換Synechocystis sp.株を選択し、増殖させることができよう。例えば、標的ベクターが1またはそれ以上の選択可能なマーカーを含む場合は、形質転換Synechocystis sp.菌細胞をマーカー(単数または複数)の発現により同定することができよう。クロラムフェニコール耐性遺伝子のような薬剤耐性遺伝子の例を用いて、クロラムフェニコールを含む選択培地中で増殖するSynechocystis sp.形質転換体を形質転換体として同定することができる。2以上の選択可能なマーカーを発現するSynechocystis sp.形質転換体の場合は、二重形質転換体を複数の選択決定因子を含む選択培地中で増殖する能力により同定することができよう。
例示のみのために、Synechocystis sp.菌を形質転換するのに用いることができる具体的方法は以下の通りである。Synechocystis sp.菌は、目的とするペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、または脂肪酸シンターゼ遺伝子と隣り合ったSynechocystis DNA配列とホモローガスな配列を含む遺伝子欠失構築物で形質転換することができよう。DNAを、0.1〜0.5 ml容量の濃縮Synechocystis培養に加え、次いで1〜6時間インキュベーションし、プレートに播く。20〜24時間後、選択条件を適用することができる。形質転換体のコロニーは約1週間で出現し、次いで、増加するより高い濃度の、耐性マーカーを導入した抗生物質を含むプレート上に再度画線することができよう。純粋な突然変異表現型が必要であれば、全ての野生型ゲノムコピーを交換する必要がある。速やかな分離を得るには2つの因子が重要である:(1)抗生物質選択圧力の徐々の増加、および(2)突然変異体表現型が野生型に比べて競合的利点を持つかまたは余り機能が損なわれない増殖条件の選択。野生型と突然変異体遺伝子型を分離するための便利で急速なスクリーニング方法は、増殖したSynechocystis形質転換体由来のDNAを調製し、突然変異領域をPCRにより増幅することである。
本明細書に記載の方法に従って、Synechocystis sp.菌を複数のペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子で形質転換し、形質転換Synechocystis sp.菌宿主中の生合成遺伝子クラスターの領域の生成を可能にすることができると認識されよう。該生合成クラスターは、1またはそれ以上のペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子のハイブリッドを含みうる。該クラスターまたはハイブリッドのポリケチドシンターゼ遺伝子は、非リボソームポリケチドシンターゼ遺伝子でありうる。
ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子配列の発現の制御は、調節配列の使用により達成することができよう。例えば、発現調節およびプロセシング配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、および転写終止配列を含む発現ベクターを用いることができる。プロモーターには、誘導可能なプロモーター(該プロモーターと作動可能に連結したポリヌクレオチド配列の発現が、検体、補助因子、調節タンパク質などにより誘導される)、抑制可能なプロモーター(該プロモーターと作動可能に連結したポリヌクレオチド配列の発現が、検体、補助因子、調節タンパク質などにより抑制される)、および構成的プロモーターを含みうる。調節配列は、外部刺激により調節することができよう。例えば、光誘導可能なプロモーターは、Synechocystis sp.菌の光合成の性質により特に有用である。本発明は、この点で限定されず、種々の誘導可能なプロモーターは当業者に知られた様に用いることができよう。そのようなプロモーターには低温度により誘導されるプロモーター、および化合物の作用により誘導されるプロモーター、例えばトリプトファン誘導可能プロモーター、塩誘導可能プロモーター、亜硝酸塩誘導可能プロモーター、チロシン誘導可能プロモーター、およびアラビノース誘導可能プロモーターが含まれる。
ペプチド合成酵素遺伝子、ポリケチドシンターゼ遺伝子、または脂肪酸シンターゼ遺伝子の1またはそれ以上で形質転換したSynechocystis sp.菌を二次代謝物を製造するためにスクリーニングすることができる。次に、二次代謝物を精製することができる。目的とする二次代謝物の構造的、酵素的、機能的、および大きさ的特徴といった種々の要因を考慮して、あらゆる適切なスクリーニングまたは精製方法を用いることができる。形質転換Synechocystis sp.菌をスクリーニングし、二次代謝物を精製するための適切な方法およびアッセイは、例えば、Current Protocols in Protein Science、Coligan et al.,編 John Wiley and Sons、Inc. 2007に記載されている。該スクリーニングおよび精製工程には、例えばクロマトグラフィー法、加速溶媒抽出法、または質量分析法、またはそれらの組み合わせを含みうる。クロマトグラフィー法には、例えば、逆相クロマトグラフィー、正常相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、向流クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および逆相クロマトグラフィーが含まれよう。他の方法の例には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などとの沈殿、または熱変性、次いで遠心分離、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、選択的沈殿技術、およびそれらおよび他の技術との組み合わせが含まれる。
本明細書に記載の方法に従って製造される二次代謝物は、精製を助ける種々の親和性タグまたは担体タンパク質を含むように遺伝子操作することもできる。例えば、ペプチド合成酵素遺伝子、ポリケチドシンターゼ遺伝子、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子を含む発現ベクター内に操作されたヒスチジンおよびタンパク質タグの使用は、例えば天然および変性条件下の金属-キレートクロマトグラフィー(MCAC)により精製を促進しうる。二次代謝物の精製は、大規模製造のために「スケールアップ」することもできよう。
例示のみのために、ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子の1またはそれ以上で形質転換したSynechocystis sp.菌に試料を、UV光ダイオードアレイ検出法と組み合わせたLC/MSを用いる分析により化学的にスクリーニングすることができよう。分離を行い、UVスペクトルを記録し、分子量情報を、サーモスプレー、連続流高速原子衝撃法、大気圧化学イオン化法、またはエレクトロスプレーイオン化法を用いるMSにより得る。断片情報をタンデムMS/MSまたは多段MSn試験により得、また、LC/NMRを用いて化合物の同定を確認する。精製は、固相抽出法のような当該分野で知られた他の方法により行ってもよい。当業者は、本明細書に記載の方法は上記スクリーニング法や精製法に限定されず、あらゆる他の方法を用いて形質転換Synechocystis sp.菌由来の二次代謝物を同定および/または単離することができることを理解するだろう。
本明細書に開示した方法によれば、二次代謝物は、Synechocystis sp.細菌宿主の形質転換に用いた1またはそれ以上のペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、または脂肪酸シンターゼ遺伝子発現に由来するあらゆる化合物であってよい。該遺伝子は、単独でまたは組み合わせて発現しうる。ペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、または脂肪酸シンターゼ遺伝子の1またはそれ以上の発現を組み合わせて、ハイブリッド生成物を製造することができよう。本明細書に記載の方法に従って製造することができる二次代謝物の非限定的例は、Dictionary of Natural Products (Chapman & Hall、John Buckingham、Chapman & Hall/CRC、England CRC Press 1994)に記載されている(この内容は本明細書の一部を構成する)。
ある態様において、該二次代謝物は生理活性化合物である。したがって、本明細書に記載の方法は、生理活性化合物である、ペプチド、ポリケチド、脂肪酸、およびそのハイブリッドもしくは誘導体を含む二次代謝物の製造を含む。一般的に、生理活性化合物は、生存生物の細胞または組織の生物学的構造、機能、または活性に影響を及ぼす化合物である。本発明者は、Synechocystis sp.のある種、例えばPCC6803において、二次代謝物の生成を、外因性/ヘテロローガスPPTの使用によりさらに改善することができることをみいだした。好ましくは、該外因性PPTは、Synechocystis sp.菌ゲノム内に安定して統合される。例えば、本明細書に示すように、Nodularia spumigena PPTを、脂肪酸合成、異質細胞糖脂質合成、および二次代謝物の生合成のそれぞれに作用するよう操作することができる。本発明者らは、M. aeruginosa PCC7806中のミクロシスチン合成酵素遺伝子クラスターおよびN. punctiforme中のノストペプトリド生合成遺伝子クラスター由来のN. spumigena PPTホスホパンテテイニレート担体タンパク質をみいだした。他のPPTは、Synechocystis sp.細菌宿主内に形質転換されるのに適しているかもしれない。その例を、限定されるものではないが、本願の図面に記載のPPTに示す。
本明細書に記載の方法により製造することができる二次代謝物の例には、限定されるものではないが、アミノ酸、脂肪酸、マクロライド、アミン、およびリポペプチド、またはそのハイブリッドもしくは誘導体が含まれる。
製造することができる脂肪酸には、限定されるものではないが、オメガ3-ポリ不飽和脂肪酸、例えばエイコサペンタン酸(EPA)が含まれる。
一般的に、本明細書に記載の方法により製造されるリポペプチドは、1またはそれ以上の脂肪酸由来部分と結合した1またはそれ以上のアミノ酸由来断片を含む。該リポペプチドは環状または線状であってよい。製造することができるリポペプチドの例には、P-糖タンパク質由来の多剤耐性を逆転させることが知られている化合物であるハパロシンがある。該リポペプチドは、細胞毒性、抗腫瘍性、抗ウイルス性、抗生性、抗マラリア性、抗真菌性、多剤耐性逆転性、摂食阻害剤、除草剤、免疫抑制剤、代謝改善性、コレステロール低下効果、抗酸化剤特性であってよい。
本明細書に開示した方法に従って得られる代謝物の他の非限定的例には、抗生剤のエリスロマイシン、免疫抑制剤のFK50、および抗腫瘍化合物のエポチロンが含まれる。PCT公開公報No. 93/13663 (エリスロマイシン);米国特許No.6,303,342 B1 (エポチロン);米国特許No.6,251,636 B1 (オレアンドリド);PCT公開公報WO 01/27284 A2 (メガロマイシン);米国特許No.5,098,837 (タイロシン);米国特許No.5,272,474 (アベルメクチン);米国特許No.5,744,350 (トリオールポリケチド);および欧州特許公開公報No. 791,656 (プラテノリド)も参照のこと(これらの内容は本明細書の一部を構成する。)。
本明細書に開示した方法に従って製造することができる代謝物の非検定的例には、 シアノビリン-N、ノボフィシン、クリプトフィシン、ドコサヘキサエン酸、β-カロテン、フィコビリタンパク質、フィコシアニン、多糖類、およびプロテアーゼ阻害剤(例えば、ミクロペプチド、アエルギノシン(aerugenosin)、ミクロギニン、アナバエノペプチン、およびミクロベルジン)が含まれる。
本明細書に開示した方法に従って製造される二次代謝物は相乗作用を有しうる。
本明細書に開示したPPTには、限定されるものではないが、配列番号1または配列番号2に記載のポリペプチド、またはその変異体もしくは断片を含むものが含まれる。当業者は、天然の変異体および操作した変異体の両方を含む配列変化をPPTをコードするポリペプチドにもたらすことができることを認識するだろう。したがって、例えば、配列番号1および2に記載のPPT配列を含む本明細書に開示した配列は変異体および/またはその断片を含むと認識されよう。
本明細書で用いている用語「変異体」は、実質的に類似の配列を表す。ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列変異体は、参考配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を共有しうる。一般的には、ポリペプチド配列変異体は、共通の定性的生物活性を有する。一般的に、ポリヌクレオチド配列変異体は、一般的に共通の定性的生物活性を有するポリペプチドをコードする。用語「変異体」の意味には、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの相同体も含まれる。ポリヌクレオチド相同体は、典型的には異なる細菌種由来であるが、本明細書に開示した対応するポリヌクレオチドと本質的に同じ機能または生物活性を共有する。ポリペプチド相同体は、典型的には異なる種由来であるが、本明細書に開示した対応するポリペプチドと本質的に同じ機能または生物活性を共有する。例えば、本明細書に開示したポリヌクレオチドおよびポリペプチドの相同体には、限定されるものではないが、Cyanobacteriaの異なる種由来のものが含まれる。
さらに、用語「変異体」は、本明細書に開示したポリペプチドの類似体も含む。ポリペプチド「類似体」は、該ポリペプチドが実質的に同じ機能を保持するような1またはそれ以上のアミノ酸の付加、欠失、置換を含む、本明細書に開示したポリペプチドの誘導体であるポリペプチドである。用語「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸を、ポリペプチド鎖(タンパク質の一次配列)内で同様の特性を有する別のアミノ酸で置換または交換することをいう。例えば、荷電アミノ酸のグルタミン酸(Glu)の同様の荷電アミノ酸アスパラギン酸(Asp)での置換は保存的アミノ酸置換である。
一般的には、本発明の配列と「変異体」の配列相同性の程度は、限定されるものではないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL (Intelligenetics、Mountain View、Californiaから利用可能);ALIGNプログラム(Version 2.0)、およびGCG Wisconsin Genetics Software Package、Version 10のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、およびTFASTA(Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、California、USAから利用可能)を含む既知のコンピュータープログラムを用いて常套的に決定することができる。これらのプログラムを用いるアラインメントはデフォルトパラメーターを用いて行うことができる。
BESTFITプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package、Version 8 for Unix、Genetics Computer Group、University Research Park、575 Science Drive、Madison、Wis. 53711)。BESTFITは、SmithおよびWatermanの部分的相同性アルゴリズムを用いて2配列間の相同性の最も良い部分をみつける(Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981))。BESTFITまたは他のあらゆる配列アラインメントプログラムを用いて配列間の相同性の程度を決定するときには、同一性の割合が参照ヌクレオチド配列の全長に対して計算され、相同性中のギャップが参照配列中のヌクレオチドの総数の5%以下であるようにパラメーターを設定することができる。
GAPは、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453に記載のアルゴリズムを用い、マッチ数を最大にし、ギャップ数を最小する2つの完全な配列のアラインメントをみいだす。GAPは、すべての可能なアラインメントとギャップ位置を考慮し、一致する塩基数が最も長く、ギャップが最も少ないアラインメントを作成する。ギャップ作成ペナルティとギャップ伸張ペナルティ(一致塩基単位)の提供を可能にする。GAPは最も良いアラインメントのファミリーの1メンバーを示す。
クエリー配列と対象配列間の最も良い全体的一致を検出する別の方法(全体的配列アラインメントともいう)は、Brutlagとその同僚(Comp. App. Biosci. 6:237-245 (1990))のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータープログラムを用いて検出することができる。配列アラインメントにおいて、クエリー配列と対象配列は共にDNA配列である。RNA配列は、UをTに変換して比較することができる。該全体的配列アラインメントの結果は同一性パーセントである。
本明細書に開示したポリペプチドの断片も本発明の範囲内である。ポリペプチド「断片」は、本明細書に開示したポリペプチドまたはその変異体の構成要素を含むかまたは構成要素である。典型的には、ポリペプチド断片は、それが構成要素であるポリペプチドに共通の定性的生物活性を有する。ポリペプチド断片は、長さ約5〜約1000アミノ酸、長さ約5〜約750アミノ酸、長さ約5〜約500アミノ酸、長さ約5〜約270アミノ酸、長さ約5〜約250、長さ約5〜約200アミノ酸、長さ約5〜約150アミノ酸、長さ約5〜約100アミノ酸、長さ約5〜約50アミノ酸、または長さ約5〜約10アミノ酸であってよい。該断片は、完全長PPT由来であり得るか、またはある種の他の手段、例えば化学合成により合成することができる。
本明細書に記載のポリヌクレオチド配列の断片も本発明の範囲内に含まれる。ポリヌクレオチド「断片」は、本発明のポリヌクレオチドまたはその変異体の構成成分をコードするかまたは該構成成分であるポリヌクレオチド分子である。ポリヌクレオチドの断片は、必ずしも生物活性を保持するポリペプチドをコードしている必要はない。該断片は、例えばハイブリダイゼーションプローブまたはPCRプライマーとして有用でありうる。本明細書で用いている用語「プライマー」は、鋳型指示DNA合成の開始点として作用することができる一本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。「オリゴヌクレオチド」は、典型的には長さ2〜約100塩基の一本鎖核酸である。プライマーの正確な長さは、特定の適用に応じて変化するであろうが、典型的には15〜30ヌクレオチドの範囲である。プライマーは鋳型の正確な配列を反映する必要はないが、鋳型とハイブリダイズするように十分相補的でなくてはならない。ポリヌクレオチド断片は本発明のポリヌクレオチド由来であってよい。あるいはまた、ポリヌクレオチド断片、プライマー、およびオリゴヌクレオチドプローブは、ある種の他の方法、例えば化学合成法により合成することができよう(例えば、Narang S. A. et al. (1979) Meth. Enzymol. 68:90;Brown、E. L. et al. (1979) Meth. Enzymol. 68:109;および米国特許No. 4356270)、Beaucage S.L et al. (1981) Tetrahedron Letters、22:1859-1862)。
当業者は、本明細書に開示した配列および変異体、ならびにその断片を用いて有用なPPTの存在について他の生物または核酸試料をスクリーニングすることができることを理解するだろう。
広範な重要で基本的な生合成経路においてPPTは絶対的に必要であるにもかかわらず、これら酵素は、配列同一性が低く、それらの各生合成クラスターとの近似性を欠くため定義が難しいままである。これは、主として固有のE. coli PPTが外来基質を不活性化することができないことにより、ヘテロローガスな宿主系におけるポリケチドおよび非リボソームペプチド産物を発現させる多くの努力を妨げてきた。この困難さは、Cyanobacteria 生合成遺伝子クラスターが大部分、同時に局在するPPTをコードしないという知見によりさらに複雑になる。例えば、バルバミド、リングビアトキシン、およびクラシンAをコードするLyngbya majuscula遺伝子クラスターは、それらの合成に必要な必須のPPTをコードしない。
二次代謝物遺伝子クラスターを活性化するためのプロトタイプPPTはBacillus subtilis、Sfp由来である。このPPTは、スルファクチンの生成を担う生合成経路内に取り込まれた担体タンパク質を活性化するのに必要である。このファミリーのメンバーは、長さが約230アミノ酸であり、しばしばそれが作用する生合成経路と関連することがわかる。それは、広範な特異性を示し、このファミリーの穏やかな特異性は、種々の適用、例えばSfp触媒ファージミッドディスプレイおよび担体タンパク質のSfp標識において利用され、操作されてきた。
配列アラインメントおよび系統発生学的分析は、Synechocystis sp. PCC6803由来のPPTが広範なPPT Sfpと密接に関連することを示し、Synechocystis sp PCC6803中で複雑な二次代謝物を生成しないにも関わらず、固有のPPTは、そのような代謝経路の担体タンパク質を活性化することができると予想された。今回、ヘテロローガスに発現したSynechocystis sp. PPT Slr0495の活性は、アシル担体タンパク質に導入するとCoAのホスホパンテテイニル腕に対応する355 Daの質量をさらに含むナノスプレー質量分析により示された。予備実験は、Slr0495が非リボソームペプチド合成酵素由来のBacillus subtilisペプチジル担体タンパク質およびポリケチドシンターゼ由来のNostoc punctiforme PCC73102アシル担体タンパク質を活性化することを示した。
ペプチド合成酵素中のモジュールは長さ数百のアミノ酸であり、対応する遺伝子は既知の最長オープンリーディングフレームを含む。ペプチド合成酵素内の各モジュールは、アミノ酸認識、修飾、および鎖の伸張に関与するコア配列を含む。このコア配列は、ペプチド合成酵素起源の非常に多様な分子を生じる。考えられる修飾には、ここのアミノ酸前駆体の活性化、アシルアデニル化、チオエステル化、メチル化、およびラセミ化が含まれる。さらに、最終ペプチドは、線状、分枝状、環状であるか、ポリケチド側鎖と結合していてよい。今までに、チオテンプレートペプチド形成から生じるL型およびD型を含む300以上の修飾アミノ酸が特徴づけられてきた。これら大きな酵素複合体の生成に関与する遺伝子もモジュラーであり、基質の認識と修飾に関与するドメインを含むことが示された。これらのペプチド合成酵素をコードするオペロンを操作して、ポリケチドの遺伝子操作について示しているように新規ペプチドを生成することができよう。
ペプチド合成酵素遺伝子は、特に高発現用に調整したベクターにおいて強いプロモーター、例えばPpsbAプロモーターと結合する。本発明者らは、そのようなベクターを繊毛(pili)遺伝子のヘテロローガスな発現用に開発し、使用してきた。構築物は、発現が光強度のような特定の外部刺激により調節することもできるように設計する。Synechocystis sp. PCC6803の天然DNA取り込み特性(形質転換能)を用いて、これら遺伝子構築物は、ホモローガスな組み換えによりゲノム内に導入される。この方法の効率はDNAの挿入サイズに依存するので、最適化試験を行って、約10 kb〜約40 kbの範囲でありうる、異なる化合物をコードする種々のサイズの遺伝子クラスターを統合することができるプロトコールを開発する。挿入部位は、このCyanobacteriaの形質転換能と運動性の両方に関与する繊毛遺伝子を標的とする。これら部位内への遺伝子構築物の挿入は、株を非運動性および/または非形質転換性にし、抗生物質選択に加えて固有の「レポーター表現系」として役立つ。PCRおよびノーザンハイブリダイゼーションを用いて安定な統合物を確認する。下流試験は、新たに統合された遺伝子の発現を最適化する。別の戦略には、ホスミドベースの発現ベクターとトランスポゾンベースの遺伝子導入の利用が含まれる。
トランスポゾンおよび他の可動化エレメントは、サイズが59kb以下の大きなDNA断片を可動化させることを示した。トランスポゾンの可動化はトランスポーゼースにより仲介され、通常、ゲノム中の標的配列内へのDNAの挿入をもたらす。推定トランスポーゼースは、種々の生合成遺伝子クラスター、例えばミクロシスチンおよびノデュラリン生合成遺伝子クラスターと結合することがわかった。大きな遺伝子クラスターを可動化させるトランスポゾンの能力を利用するDNA導入システムは、ヌル宿主中に生合成遺伝子クラスターを導入操作し、新規化合物を発現させるのに適している。遺伝子クラスターを可動化するトランスポーゼースの能力は、メイティングアウト結合法(mating-out conjugation)のような活性アッセイにより決定する。活性であることがわかったCyanobacteriaトランスポーゼースは、ヘテロローガスなDNAをSynechocystis宿主内に導入するDNA導入システムを最適化するのに用いることができる。
本発明は、Synechocystis sp.を、二次代謝物の生成に必要なペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、または脂肪酸シンターゼ遺伝子の1またはそれ以上で形質転換し、二次代謝物を生成するのに必要な1またはそれ以上の遺伝子を発現させるのに適した条件下で培養する、二次代謝物を生成するためのSynechocystis sp.菌の使用も提供する。
Synechocystis sp.菌を複数のペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子で形質転換し、形質転換Synechocystis sp.細菌宿主中の生合成遺伝子クラスターの生成をもたらすことができよう。生合成クラスターは、1またはそれ以上のペプチド合成酵素、ポリケチドシンターゼ、および/または脂肪酸シンターゼ遺伝子ハイブリッドを含みうる。該クラスターまたはハイブリッドのポリケチドシンターゼ遺伝子は、非リボソームポリケチドシンターゼ遺伝子であり得る。
Synechocystis sp.菌は、Synechocystis sp. PCC6803であり得る。Synechocystis sp.菌は、Synechocystis sp. ゲノム中に安定に統合される外因性PPTも発現し得る。外因性PPTは、Cyanobacteria PPTであってよく、Nodularia spumigena由来であり得る。ある態様において、該PPTはNodularia spumigena NSOR10由来であり得る。
本明細書に記載の形質転換Synechocystis sp.菌による二次代謝物の製造方法に関する説明は、二次代謝物を製造するためのSynechocystis sp.菌の使用に同様に適用できると理解されよう。
本発明は、本発明に従って製造された少なくとも1の二次代謝物を、医薬的に許容される担体、賦形剤、ビークルのアジュバントと共に含む医薬組成物も含む。
一般的には、適切な組成物は、当業者に知られた方法に従って製造することができ、従って、医薬的に許容される担体、希釈剤、および/またはアジュバントを含むことができよう。
これら組成物は標準的経路で投与することができる。一般的には、該組成物は非経口(例えば、静脈内、髄腔内、皮下、または筋肉内)、経口、または局所経路により投与することができよう。より好ましい投与は非経口経路による。
担体、希釈剤、およびアジュバントは、該組成物の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに有害でないという点で「許容される」ものでなければならない。
医薬的に許容される担体または希釈剤の例には、脱塩水または蒸留水;生理食塩水溶液;植物油、例えばピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、落花生油、もしくはココナッツ油;シリコン油(ポリシロキサン、例えばメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン、およびメチルフェニルポリソルポキサン(polysolpoxane);揮発性シリコン;鉱油、例えば液体パラフィン、軟パラフィン、もしくはスクアラン;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース;低級アルカノール、例えばエタノールもしくはイソプロパノール;低級アルアルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、1,3-ブチレングリコールまたはグリセリン;脂肪酸エステル、例えばイソプロピルパルミテート、イソプロピルミリステート、またはエチルオレエート;ポリビニルピロリドン;寒天;ガムトラガカントもしくはガムアカシア、ならびにワセリンがある。典型的には、該担体(単数または複数)は組成物の10%〜99.9%(重量)を形成する。
本発明の組成物は、注射で投与するのに適した形、経口摂取に適した製剤の形(例えば、カプセル剤、錠剤、カプレット剤、エリキシル剤など)、局所投与に適した軟膏、クリーム、もしくはローションの形、点眼薬として送達するのに適した形、吸入、例えば鼻内吸入もしくは経口吸入により投与するのに適したエアロゾルの形、非経口投与、すなわち、皮下、筋肉内、もしくは静脈内注射に適した形であり得る。
本発明をより明確に理解できるように、好ましい形を以下の実施例を参照して説明する。これら実施例は例示であって本発明を限定するものではないことは理解されよう。
(実施例)
系統発生学的分析
(1) sfp様データベースの作成
配列を、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ、例えば、アシル担体タンパク質合成酵素、Sfp、パンテテインに関連する用語のあらゆる組み合わせを用いて用語ベースENTREZ検索により収集した。BLAST (Basic Local Alignment Search Tool(ベイシックローカルアラインメント検索ツール)PSIタンパク質検索のアウトプットデータを利用して、配列セットを伸張し、用語ベース検索では認識されなかった配列を同定した。National Centre for Biotechnology Information (NCBI)、Joint Genome Institute (JGI)、およびCyanobase (www.kazusa.or.jp/cyano/cyano.html)から利用可能な(完全および部分)ゲノムを、種々の細菌属由来の種々の既知のPPT配列を用いる多重BLASTスクリーニングにかけた。
(2) 多重アラインメントおよび系統発生学
配列を、GCGからのプログラム集積およびCLUSTAL Xからの多重配列アラインメントツールを用いてアラインメントする。SaitouおよびNeiの近隣結合(N-J)法を用いて、CLUSTAL Xに(系統)樹を作成した。データセットをブートストラップし(1000再サンプリング)、得られた樹をNJプロットおよびTreeview Xを用いて可視化した。ボックスシェードを用いて公開するためアラインメントを作成した。
(3) 抽出、増幅、および配列決定
Cyanobacteria菌株(図2)をUNSW Cyanobacterial Culture Collectionから得た。ゲノムDNAを以前の記載に従ってCyanobacteria培養から抽出した(Neilan et al.、Applied and Environmental Microbiology (1995) 「Genetic diversity and phylogeny of toxic Cyanobacteria determined by DNA polymorphisms within the phycocyanin locus」 61:3875-83)。Cyanobacteria PPT断片の増幅は、それぞれモチーフ3および4に対応するよう特に設計したプライマー [5'-CAGGAGTAYGGNAARCC-3'] (配列番号3)およびPPTR [5'-TTCTCGATRTCDATNCC-3' (配列番号4)を用いて行った。異質細胞PPT配列は、PPT2F [5'-GCCCGTGGTAAACAAATATTAG-3'] (配列番号5)およびPPT2R [5-'GCCTCTTTACAAGTCCA-3'] (配列番号6)を用いて増幅した。熱サイクリングは、先に公表されたようにGeneAmp PCR 2400熱サイクラー(Perkin Elmer、Norwalk、CT)を用いて行い(Neilan et al.、Applied and Environmental Microbiology (1995)、Genetic diversity and phylogeny of toxic Cyanobacteria determined by DNA polymorphisms within the phycocyanin locus. 61:3875-83)、使用するプライマーに応じて45〜55℃の温度でアニーリングした。自動配列決定は、PRISM Big Dyeサイクル配列決定システムおよびモデル373シーケンサー(Applied Biosystems Inc.、USA)を用いて行った。配列分析はApplied Biosystems Autoassemblerソフトウエアを用いて行った。
(4) Sfp様ファミリー内の配列保存性
得られたアラインメントは、PPT機能に重要と考えられるアミノ酸から外れた配列のさらなる例を示す。例えば、CoAの3'-リン酸との結合に関連するモチーフ2由来のH90が、すべてのMethanosarcina、ある種のStaphylococcus sp.、およびStreptomyces sp.を含む種々の配列に欠損していることがわかる。Sfp様PPTの代表例のアラインメントを図3に示す。2つの異なるサブファミリーが観察された。第1サブファミリーのモチーフ4を、F(S/C)KESで示す (以後、「F/KESサブファミリー」という)。第2サブファミリーには、B. subtilis由来のSfp配列が含まれた。この群はモチーフ4としてペプチド配列 W(T/C)KEAを示す(以後、「W/KEAサブファミリー」という)。
(5) 系統発生学的分析
示した系統発生樹は、異なる新規の分岐群(クレード)を示し、アラインメント分析で観察されたサブファミリーを裏付ける。Sfp様PPTサブファミリーを分離し、ブートストラップデータにより裏付けた(図4)。AcpS PPTを用い、異常値として役立てた。
複数のSfp様PPTを保持する代表例は、Streptomyces、Escherichia、Microba cterium、Pseudomonas、Xanthomonas、およびSalmonellaを含む、系統発生のF/KESおよびW/KEA両枝内に入るPPTを有することが示された(図4)。AcpS様PPTを含まない生物由来のSfp様PPTも両枝中に存在する。例えば、Pseudomonas aeruginosaおよびHaemophilus influenzae (AAC21831)は、それぞれF/KESおよびW/KEAサブファミリー中にみられた。ハイブリッド(PKS-NRPS)生合成クラスター中にみられたPPTも両サブファミリー中に存在する。
F/KESサブファミリーは、すべてのエンテロバクチンEntD酵素、およびWeissman et al.、(2004) 「Identification of a phosphpantetheinyl transferase for erythromycin biosynthesis in Saccharopolyspora erythraea」、ChemBioChem 5:116-25に記載のStreptomyces PPTのサブセットを含む、ペプチド合成酵素およびシデロフォア合成と関連する大多数のPPTを含んでいた。
W/KEAサブグループの第2サブファミリーには、B. subtilis PPT Sfpが含まれた。この系統型には、広範な異質細胞糖脂質生合成PPT、リジン生合成PPT、および無脊椎動物および真核生物のPPT配列が含まれた。ポリケチド生合成に関与するPPT酵素は、W/KEA群、例えばPseudomonas fluorescensにおけるムピロシン生成に関連するMupN (AAM12928)に顕著である。
Synechocystis PPT (Sppt)の遺伝子破壊
Spptを挿入的に不活化し、SpptがSynechocystis sp. PCC6803におけるホスホパンテテイニル化を可能にする唯一の酵素であるか否かを決定した。PCR増幅用のゲノムDNAを先に記載のごとく抽出した (Moffitt、M. C. and B. A. Neilan. 2004. 「Characterization of the nodularin synthetase gene cluster and proposed theory of the evolution of Cyanobacterial hepatotoxins.」Appl Environ Microbiol 70:6353 -62)。すべての制限酵素はNew England Biolabs (Ipswich、MA)またはPromega (Madison、WI)から供給された。
Sppt (slr0495、Swissprot受託番号Q55185)を含む2.5kb断片をプライマーslrup (5'-GTAAACTCCATTAACGCTGGC-3') (配列番号7)およびslrdn (5'-GGTGCAAATCCGTTACATGGA-3') (配列番号8)で増幅した。この断片をpGEM-T-Easy (Promega)内にクローンし、制限酵素AvaIで消化した。クロラムフェニコール(ChlR)耐性カセットをこの部位に連結し、得られたプラスミド、pGCSlrを、Eaton-Rye、J.、2004 「The construction of gene knockouts in the cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803」、Methods Mol Biol.;274:309-24に記載の方法を用いてSynechocystis sp. PCC6803内に天然に形質転換し、Spptを挿入的に不活化した。Synechocystis sp. PCC6803野生型(WT)も、菌株生存性の陽性コントロールとしてクロラムフェニコール耐性ノックアウトプラスミドで形質転換した。簡単には、約2mlのSynechocystis sp. PCC6803細胞を遠心し、BG-11培地で洗浄した。300μl BG 11に再浮遊した後、3μg/mlプラスミドを加え、細胞を30μmol/m2/sec一定光中、25℃で6時間インキュベーションした。細胞を非選択的BGTSプレート(BG-11、10mM TES、0.3%チオ硫酸ナトリウム、1%寒天)上の無菌ニトロセルロースフィルター (0.45μm、Millipore、Billerica MA)に塗布した。36時間後、フィルターを、10μg/mlクロラムフェニコールを含む選択的BGTSプレートに移した。
最初の形質転換体が選択的クロラムフェニコールプレート上にみられ、増大する選択条件下で繰り返し二次培養した(図5A)。しかしながら、これら形質転換体のPCRスクリーニングは、挿入的に不活化したSppt遺伝子が複数のゲノムコピー全体にわたり完全に分離しているわけではないことを示した(図6、レーン4)。反対に、Spptは、NsPPT補完株(ΔNsPPT+)中で効果的に破壊された(図6、レーン 8)。ΔNsPPT+株のddH2Oによる形質転換は、この株がpGCSlrで遺伝子を破壊する前はクロラムフェニコールに耐性ではないことを示した(図5D)。
複数の染色体全体にわたりSpptの完全な分離がないことは、Spptが脂肪酸合成におけるホスホパンテテイニル化に必須であることを示唆する。広範囲の活性を有するNodularia spumigena NSOR10由来NsPPTによる補完は、Spptを破壊することができた。これはSpptがSynechocystis sp. PCC6803における一次代謝に必要であることを裏付ける。また、これは、非同族担体タンパク質をin vivoで活性化するNsPPTの能力も初めて示す。
SpptおよびSACPの発現と精製
SpptおよびSACPを発現させ、精製して、ホスホパンテテイニル化アッセイによりSpptの活性を測定した。Spptを、プライマー対SynPpF (5'-TGTTTAAACTCACCTG-3') (配列番号9)およびSynPpR (5'-CCCAAGGTTACGAAAC-3') (配列番号10)により増幅した。得られたPCR産物をpGEM-T (Promega)にクローンし、制限酵素SacIおよびEcoRVで消化し、次いでpET30 (Novagen、San Diego、CA)中に結合させた。Synechocystis sp. PCC6803 脂肪酸合成(FAS)ACP(SACP (AcpP BA000022)で示される)を、プライマー対ssl2084Efw (5'-GGAATTCTGAATCAGGAAATTT-3') (配列番号11)およびssl2084Hrv (5'-CTCGGCTCCAAAAAGCTTTGGG-3') (配列番号12)で増幅し、制限酵素EcoRIおよびHindIIIで消化し、次いでpET30中にクローンした。トランケートSACP、SACP3をクローンし、次いで、プライマー2084NdeF (5'-GCATATGAATCAGGAAATTT-3') (配列番号13)および2083XhoR (5'-CCTCGAGTAATTTACTTTCGATATGCTCAAC-3') (配列番号14)を用いてHPLC動力学的分析用に発現させた。
構築物をBL21(DE3) Rosetta (Novagen)中に形質転換し、発現させた。Spptは、37℃で誘導濃度の1mM イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)で3時間発現させた。SACPおよびSACP3を37℃で1mM IPTGで20〜40分間発現させた。培養を5,000 x gで回収し、細胞ペレットを-80℃に保存した。細胞ペレットをHepes緩衝液(Hepes 50 mM、NaCl 150 mM pH 7.4)に再浮遊し、冷却したフレンチプレスのセルに200 psiで3回通した (Paton Scientific、Victor Harbor、South Australia)。
20,000 x gで30分間遠心した後、タンパク質を、HiTrapアフィニティーカラム(Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)を用い、Copp J. N.、Roberts A. A.、Marahiel M. A.、Neilan B. A.、2007、「Characterization of PPTNs、a cyanobacterial phosphopantetheinyl transferase from Nodularia spumigena NSOR10.」 J Bacteriol. :189(8):3133-9に記載のごとく300mMイミダゾール勾配を用いて精製した。精製タンパク質を含む分画を、Amicon遠心カラム(Millipore)で脱塩し、次いで8%グリセロールで即座に凍結し、-80℃で保存した。
タンパク質濃度を理論吸光係数:SACP 6,970/cm/M、Sppt 53,110/cm/Mに基づき決定した。SACP3中に芳香族アミノ酸が欠損していることにより、このタンパク質の濃度は、分子画像化(FUJIFILM LAS-3000)を用い、既知のBSA濃度の標準曲線と比較して求めた。
SACPを発現させ、SDS-PAGEにより約17kDaのタンパク質として精製した。しかしながら、質量分析は、このタンパク質が理論質量に一致する14.7 kDaであることを示した。SDS-PAGEにより可視化されるACPの独特な移動がStreptomyces sp. PKS ACPの発現において先に記載されている (Crosby et al. (9995) 「Polyketide synthase acyl carrier proteins from Streptomyces:expression in Escherichia coli、purification and partial characterisation」、Biochim Biophys Acta. 16:32-42)。精製SACP3の質量分析は、アポ-、ホロ-、およびダイマー化ホロ-型で存在する種を示した(データ示さず)。ホスホパンテテイニル化SACPの出現は、E.coli宿主内に内在するPPTによるアポ-SACPからホロ-SACPへの部分的変換から生じる。Spptのホスホパンテテイニル化活性は、10分間アッセイにおけるアポ-SACPからホロ-SACPへのさらなる変換により確認された(図8B)。
SACPのSppt in vitro ホスホパンテテイニル化
SACPに対するSppt活性は、Copp J. N.、Roberts A. A.、Marahiel M. A.、Neilan B. A.、2007、「Characterization of PPTNs、a Cyanobacterial phosphopantetheinyl transferase from Nodularia spumigena NSOR10. J Bacteriol.」 189(8):3133-9に記載のごとく、37℃で10分間のホスホパンテテイニル化アッセイにより決定した。簡単には、100〜200μlの反応物は、50mM Tris-HCl pH 7.4、12.5mM MgCl2、0.5mM CoA、2μM DTT、100μM担体タンパク質、および300nM Spptからなった。反応物を37℃で10分間インキュベーションし、-20℃で一夜沈殿させ、次いで18,000 x gで15分間遠心した。試料を水:アセトニトリル:ギ酸(50:49:1)に溶解した。ホスホパンテテイニル化は、電子スプレーイオン化質量分析 (ESI-MS)により可視化し、340Daの質量の増加により観察された。スペクトルは、API Qstar Pulsar i ハイブリッドタンデム質量分析器(Applied Biosystems)を用い、Copp J. N.、Roberts A. A.、Marahiel M. A.、Neilan B. A.、2007、「Characterization of PPTNs、a Cyanobacterial phosphopantetheinyl transferase from Nodularia spumigena NSOR10.」 J Bacteriol.:189(8):3133-9に記載のごとく得た。
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)分析は、観察された分子量17kDaで精製されたSACPを示すが(図7)、質量分析は、精製タンパク質が14.594 kDa (図8A)であることを示し、これは14.73 kDaの理論質量に比べてN末端のメチオニン残基の損失に対応する。E.coliにおけるヘテロローガスな発現後のホロ-担体/アポ-担体比を質量分析により分析した。SACPを、E. coli中でヘテロローガスに発現させた後に、部分的にホスホパンテテイニル化した(ホロ:アポ比70:30)。Spptとin vitroでインキュベーションした後、SACPはホスホパンテテイニル化担体タンパク質の存在量の増加を示し、このことはSpptが同族SACPを活性化することができることを示した(図8B)。
Sppt活性の動力学的分析
SpptのCoA阻害およびpH活性範囲は、トランケートSACP3を用いるin vitro ホスホパンテテイニル化アッセイを用いて決定した。アッセイは、75mM MES (pH 5.5-6.5)、Tris (pH 7-8.5)、またはCAPSO (pH 9-10)、および1〜3mM CoAを含む200μLの反応物中で上記のごとく行った。沈殿後、ペレットを30μlの55%溶媒B(アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)に再浮遊させた。Alltech 5μm Nucleosil C18カラム(250 x 4.6 mm)を45℃で55%溶媒Bで平衡化し、次いで試料を注射した。試料を、55%〜68%溶媒Bの直線勾配で流速0.9ml/minで15分間かけて溶出した。200nmの吸光度を常にモニターした。形成されたホロ-SACP3の量を、PPTを含まないコントロールアッセイのホロ-ACPピーク面積の比較分析により決定した。E. coli中のヘテロローガスな発現後に存在するホロ-SACP3をホスホパンテテイニル化した総量から引いた。
ホスホパンテテイニル化アッセイ、次いでHPLC分析を行い、Spptのその同族SACP3担体タンパク質に対するpHおよびCoA活性範囲を決定した。Spptの最適活性は、約pH7.7であり、活性の約25%がpH5.5および9.8で保持される比較的広いpH活性範囲を示した(図9)。Sppt活性はCoA濃度の増加と共に増加し、濃度1500μM以上の最大活性に達した。実験データをMichaelis-Mentenに適合させると、CoAに対するSpptのKm値は169.17±37.48μMであり、kcat値は28.41±2.12/minであった。CoAに対するSpptの触媒効率は0.168μM-1min-1であった。
SpptはAcpS様PPTと同様に作用し、CoAに対して特異的な担体タンパク質活性化、高いpH最適効率および低い触媒効率を示した。最も特徴づけられたPPTは、有意に高い触媒効率を示すが、Spptは、Km値50または150μMおよびkcat値約10/minと報告されたE.coli由来AcpSと同様の値を有する(21、40)。Sfp様PPT、例えばB. subtilis SfpおよびP. aeruginosa PcpSは、pH最適値6〜7であるが、Spptの最適値はB. subtilisおよびE. coli AcpS PPTに類似し、pH最適値8〜9である。この高いpH要求性は、Spptと酸性SACPの適切な静電気的相互作用を可能にし、天然MPCPの低い活性化を説明するかもしれない。より高いpHでの最適Sppt活性は、植物プランクトンの成長中のCyanobacteriaのブルーム形成を助ける環境条件(pH7〜9)を反映しているかもしれない。SpptのpH範囲は、他の特徴づけられたPPTより広く、これは富栄養化、次いでブルーム周期時におけるCyanobacteria環境の動的pHを反映しているかもしれない。
非同族担体タンパク質のSppt in vitroホスホパンテテイニル化
Spptの、ある範囲の二次代謝経路由来の担体タンパク質(単細胞およびフィラメント状の異質細胞形成Cyanobacteria由来のものを含む)を活性化する能力を試験した。試験した担体タンパク質は、糖脂質合成のHetM由来のN. punctiforme ATCC29133 PKS アリール担体タンパク質(ArCP)(NpArCP)およびノストペプトリド生合成のPKS ACP(NpACP);およびミクロシスチン合成のローディングモジュール(McyG)由来のM. aeruginosa PCC7806 NRPS PCP(MPCP)であった。また、チロシジン生合成に関与するBacillus brevis ATCC8185 NRPS PCP(TycPCP)を用いて、別の細菌界由来のホスホパンテテイニレート担体タンパク質に対するSpptの能力を試験した。
M. aeruginosa PCC7806、ペプチジル担体タンパク質、MPCP;およびN. punctiforme ATCC29133アリール担体タンパク質、NpArCP、およびアシル担体タンパク質、NpACPを、Copp J. N.、Roberts A. A.、Marahiel M. A.、Neilan B. A.、2007、「Characterization of PPTNs、a Cyanobacterial phosphopantetheinyl transferase from Nodularia spumigena NSOR10.」J Bacteriol.:189(8):3133-9に記載のごとく発現させ、精製した。Bacillus brevis ATCC8185 TycPCPを、Reuter et al. (1999)、「Crystal structure of the surfactin synthetase-activating enzyme sfp:a prototype of the 4'-phosphopantetheinyl transferase superfamily」EMBO J. 18:6823-6831の方法に従って発現させ、精製した。タンパク質濃度を理論吸光係数:NpArCP 8,250/cm/M、NpACP 13,940/cm/M、MPCP 6,970/cm/M、およびTycPCP 9,530/cm/Mに基づいて決定した。ホスホパンテテイニル化アッセイは、30分間反応で行い、上記実施例4に記載のESI-質量分析により分析した。
E. coli PPTによるNpACP、MPCP、NpArCP、およびTycPCPのホスホパンテテイニル化は、ヘテロローガス発現後には検出されなかった。
Spptは、質量分析が示すようにN. punctiforme ATCC29133 NpArCPをホスホパンテテイニル化できなかった(図10B)。Spptと共にインキュベーションした後のM. aeruginosa PCC7806 MPCPのスペクトルは、340Daホスホパンテテイニル部分の付加に対応する小さな質量ピークを示した(22,319 Da)(図10D)。この低強度ピークは、反復試験で常にみられた。ホスホパンテテイニル化NpACPは、Spptとインキュベーションした後に再現性よく検出されず(図11B)、20,153Daの質量ピークは、スペクトル背景よりわずかに高いだけであった。反対に、P. aeruginosa PAO1 NRPS TycPCPの約54%がSpptによりホスホパンテテイニル化された(図11D、図12)。
Spptが他の種由来の非同族担体タンパク質を活性化できないことが、N. punctiforme ATCC29133糖脂質合成NpArCPにより示された。この結果は、Synechocystis sp. PPC6803は異質細胞を形成できないか、窒素を固定できないため、驚くべきことではない。NRPSおよびPKS経路内のホスホパンテテイニレート担体タンパク質に対するSpptの能力も、M. aeruginosa PCC7806におけるミクロシスチン合成由来のMPCP、およびN. punctiforme ATCC29133におけるノストペプトリド合成由来のNpACPを用いて分析した。MPCPおよびNpACPのホスホパンテテイニル化が検出されたが、スペクトル背景よりわずかに高いだけであった。NpACPホスホパンテテイニル化は、反復アッセイにおいて常には再現されなかった。Spptが二次代謝物経路由来の担体タンパク質を活性化できないことは、Synechocystis sp. PCC6803により合成される天然生成物を欠くことと一致する。しかしながら、FASに対する担体タンパク質のみをコードする種内のSfp様PPTの存在は、CyanobacteriaにおけるPPTおよび二次代謝物合成の進化に関する興味深い疑問を生じる。
Bacillus brevis ATCC8185担体タンパク質TycPCPをホスホパンテテイニル化するSpptの能力は、他のCyanobacteria担体タンパク質に対する活性の欠如と一致しなかった。これは、発現したTycPCPのサイズがNpACPおよびMPCPのサイズの半分以下であることにより説明しうる。従って、大きなMPCPおよびNpACP担体タンパク質をホスホパンテテイニル化することができないのは、これらより大きな組み換えタンパク質における活性部位の静電気的問題および接近しにくさによるかもしれない。
HetMNI遺伝子クラスター
Cyanobacteria PPTは、ポリケチド、ペプチド合成酵素、ハイブリッドポリケチド/ペプチド合成酵素生合成、窒素固定の専門細胞(異質細胞)の発現に関連するPPT、AcpS様PPTの著しい欠損を伴うSfp様PPT、およびポリケチドクラスター内の統合されたSfp様PPTを含む複数の二次代謝物の存在によりPPTの興味深い群である。大部分の配列決定したCyanobacteriaゲノムは単一のSfp様PPTを含む。しかしながら、Nostoc punctiforme ATCC 2913およびGloeobacter violaceus PCC 7421は、いずれも各ゲノム配列内に3つの異なるPPTを表現する。
Cyanobacteria内のPPTの範囲が異なるので、より厳密な配列分析が必要であった。PPT酵素に関するCyanobacteriaのスクリーニングを、公表されたゲノムから利用可能な配列データを用いて行った。Sfp様PPT由来の保存モチーフアラインメント(モチーフ3および4)を変性PCRプライマーの設計の標的とした。新規Cyanobacteria PPT遺伝子を毒性、無毒性、単細胞、およびフィラメント状の異質細胞形成Cyanobacteria種から単離した。公表された部分的Cyanobacteria PPT配列(図13)から構築された系統発生樹は、AおよびBと呼ばれる新規な系統型を示した。すべてのCyanobacteria PPTはSfp様PPTのW/KEAサブファミリーに属する。
ブートストラップデータに裏付けられた異なるクレードを形成する既知の異質細胞形成Cyanobacteria由来のPPTをhet-型PPTで表した(図13中のA)。異質細胞形成Nostoc punctiforme PCC73102種は、そのゲノム内にW/KEAサブファミリー由来の3つのPPTを有する。異質細胞 HETMNI遺伝子遺伝子座と関連するN. punctiforme PPTは、Het型クレード内にあるが、他の2つのPPTは別のクレード内にある。
第2クレード(図13中のB)は、Prochlorococcus、Synechococcus、Gloeobacter、およびN. punctiforme種由来のPPTを含む。この群内の種々の配列は、ATPアーゼ遺伝子に隣接して位置した。あるいはまた、この群内のG. violaceusおよびN. punctiforme PPTは共に、ポリケチド生合成クラスターと関連していた。
N. spumigena HetMNI遺伝子座の配列決定
次に、異質細胞合成と潜在的に関連するhet型PPTとして系統発生学的分析により同定したN. spumigena PPT断片を特徴付けるために選択した。3450 bpのフランキング領域を周囲ゲノム領域を分析するために配列決定し、異質細胞関連HetMNI遺伝子クラスターを明らかにした(Genbank受託番号AY836561)。
機能的分類は、以前にPPT系統発生学では検討されていない。Cyanobacteria PPTの分岐範囲の分析は、異質細胞形成と関連するPPTの表示を可能にした。遺伝子アラインメントを用いるPPT配列のスクリーニングは、Cyanobacteria ゲノム内の異質細胞関連PPTの検出およびN. spumigena NSOR10中の異質細胞生合成遺伝子座の特徴付けを可能にした。
N. Spumigena PPTの単離
(1) 培地/培養
N. spumigena NSOR10を、ASM培地中、室温で24時間明/暗周期で培養した(Provasoli、L.、et al. 1957. The development of artificial media for marine algae. Arch Mikrobiol 25:392-428参照)。DNAは、Moffitt、M. C. and B. A. Neilan. 2004. 「Characterization of the nodularin synthetase gene cluster and proposed theory of the evolution of Cyanobacterial hepatotoxins.」 Appl Environ Microbiol 70:6353 -62に記載のごとく抽出した。
(2) DNA増幅、配列決定、および分析
PCRおよび配列決定反応は、Neilan、B. A. et al. 1994、「16S ribosomal RNA gene sequence and phylogeny of toxic Microcystis sp. (Cyanobacteria).」DNA Seq 4:333-7に記載のごとく行った。アダプターベースの特異的プライマーによるパンハンドルベースの遺伝子歩行(walking)(Moffitt、M. C. and B. A. Neilan. 2004. 「Characterization of the nodularin synthetase gene cluster and proposed theory of the evolution of Cyanobacterial hepatotoxins.」 Appl Environ Microbiol 70:6353-62)を、45〜55℃のアニーリング温度で用い、N. spumigena PPT断片(配列番号1)と隣接する未知ゲノム領域を増幅した。BLAST (Basic Local Alignment Search Tool)からのアウトプット、GCGからのパイルアップ、CLUSTAL Xからの複数配列アラインメントツールを配列の分析とアラインメントに用いた。自動化配列決定は、PRISM Big Dyeサイクルシーケンシングシステム、およびモデル373シーケンサー(Applied Biosystems Inc.、USA)を用いて行った。配列分析は、Applied Biosystems Autoassemblerソフトウエアを用いて行った。
(3) サザンハイブリダイゼーション法
Nodularia spumigena NSOR10由来の純粋ゲノムDNA試料(〜10μg)は、製造業者の推奨(Promega、Australia)に従ってXba IまたはXmn Iで一夜消化した。消化物および陽性コントロール(0.5〜1.0ngの線状化プラスミドpGEM-T-Easy (Promega))は、0.8%アガロースゲル上、60mVで約2.5時間分離し、ナイロン膜(Amersham)に真空ブロットした。DIG-High Prime DNA標識キット(Roche、Australia)をサザンハイブリダイゼーションに用いた。PPTプローブを以下のごとく特定のプライマーを用いて増幅した。プライマー対slrup (5’−TGTTTAAACTCACCTGTG-3’) (配列番号15)およびslrdn (5’−CCCAAGGTAACGAAACGA−3’) (配列番号16)を用いてSynechocystis sp. PCC 6803由来のSlr0495を増幅した。プライマー対Npunfw (GGATCCGCGATCGCCAGTCTGAGTTC) (配列番号17)およびNpunrv (GAGCTCTTTGTGTAGTAGCGAATTATC) (配列番号18)を用いてNostoc punctiforme ATCC 29133由来のPPTを増幅した。プライマー対NpptF (5'-CATGAAAGATATCACGGCGCTT-3') (配列番号19)およびNpptR (5'-GAAGATAACAAGCTTGTATTGCC-3') (配列番号20)を用いてNodularia. spumigena由来のnchSを増幅した。プローブを使用説明書(Roche)に従ってジゴキシゲニン(DIG)でPCRにより標識し、100fg〜10ngの効率で試験した。ハイブリダイゼーションは40℃で一夜行い、ストリンジェントな洗浄を65℃で0.1% SDS含有0.5% SSCを用いて行い、シグナルをFUJIFILM Luminescent Image Analyzer LAS-3000によるCPSDを用いる化学ルミネッセント検出により分析した。
(4) 発現プラスミドの作製
N. spumigena NSOR10 (AY836561)由来のN. sp. 異質細胞担体タンパク質シンターゼ (以後、nhcSという)をプライマー対NpptFおよびNpptRにより(上記「(3)サザンハイブリダイゼーション法」に記載のごとく)増幅した。720bp PCR増幅生成物をpGEM-T (Promega)内にクローンし、次いでこのプラスミドを消化し、適切な断片をpET30 (Novagen)中に連結し、発現プラスミドpNhcSを得た。
N. punctiforme PCC73102 HetMをArCP/ケト還元酵素 HetM (ZP_00107100)をコードする異質細胞hetMNI遺伝子座から増幅した。プライマー対HetMF (5'-GCCATGGCTATAAAACAGTCTTTC-3') (配列番号21)およびHetMR (5'-GGGATCCGAGATTCAAGAAACC-3') (配列番号22)を用いて1.7Kb断片を増幅し、これをpGEMステージングベクター中にクローンした。次に、制限およびpET30発現ベクター内へのクローニングによりpHetMを作製した。pArCP発現ベクターをプライマーHetMF (上記)およびArCPR (5'-TAGCTCGAGAACCATCTTGCAC-3') (配列番号23)を用いて同様に構築し、増幅し、次いでhetMの260bp ArCPドメインをクローンし、pArCPを作製した。
N. spumigena NSOR10 ペプチジル担体タンパク質(以降、PCPという)およびアシル担体タンパク質(以降、ACPという)(NpcpおよびNacpという)を、肝毒素ノデュラリンの生成に関与するndaS遺伝子クラスター内のハイブリッドNRPS-PKS ndaC (AAO64404)から増幅した (Moffitt、M. C. and B. A. Neilan. 2004. 「Characterization of the nodularin synthetase gene cluster and proposed theory of the evolution of Cyanobacterial hepatotoxins.」 Appl Environ Microbiol 70:6353 -62)。プライマー対NpcpF (5'-CTCGAGCAGCCTCTACAACTGCA-3') (配列番号24)およびNpcpR (5'-GGATCCGCCAGGAGAACGGCGG-3') (配列番号25)、ならびにNacpF (GGAGCTCTTTTCCAAACATTCT) (配列番号26)およびNacpR (5'-GGGATCCTCTAAGCATTCCATCAGTC-3') (配列番号27)を利用した。得られた断片を上記のごとく操作し、それぞれpNACPおよびpNPCPを得た。
Synechocystis sp. 脂肪酸合成アシル担体タンパク質(以後、FAS ACPという)(Sacp (BA000022)という)をプライマー対2084NdeF (5'-GCATATGAATCAGGAAATTT-3') (配列番号28)および2084XhoR (5'-CCTCGAGTAATTTACTTTCGATATGCTCAAC-3') (配列番号29)から構築し、上記のごとくクローンし、pSACPを得た。
Microcystis aeruginosa PCPを、肝毒素ミクロシスチンの生成に関与するmcyS遺伝子クラスター由来のハイブリッドNRPS-PKS mcyG (AAX73195)から増幅した (Tittett、D.、et al. 2000. 「Structural organization of microcystin biosynthesis in Microcystits aeruginosa PCC7806:an integrated peptide-polyketide synthetase system.」 Chem. Biol 7:753-64)。PCPプライマーMpcpF (5'-GGATCCTGAACAGGGA-3') (配列番号30)およびMpcpR (5'-CTCGAGATGGCGACGGCTCC-3') (配列番号31)を用いて上記のごとく発現ベクターを構築し、pMPCPを作製した。
Nostoc punctiforme NSOR10 NRPS PCP(ここからNppcpと呼ぶ)(ZP_00110897)を特徴付けされていない遺伝子クラスターから増幅した。この遺伝子座をNostoc sp. GSV224中の特徴づけられた遺伝子クラスターとの類似性によりN. punctiforme ATCC29133におけるノストペプトリド産生に関与すると仮定される(Hoffmann、D.、et al. 2003. 「Sequence analysis and biochemical characterization of the nostopeptolide A biosynthetic gene cluster from Nostoc sp. GSV224.」 Gene 311:171-80参照)。このクラスター内の大きなNRPS遺伝子であるNosAは、4つのNRPSモジュールを含む。C末端NosA PCPを、プライマー対NppcpBF (5'-GGATCCTAAAATCTAGGCTAG-3') (配列番号32)、NppcpSR (5'-GAGCTCAAATTGTTATTTCTT-3') (配列番号33)を用いる推定ノストペプトリド生合成クラスターから増幅し、次いで上記のごとくクローンしてpNpPCPを得た。
(5) タンパク質発現、精製、および酵素活性分析
発現プラスミドを分離し、宿主細胞としてE.coli内にトランスフェクトし、次いで以下のごとく発現分析を行った。Sacpを、37℃で2時間1mM IPTG (イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)を用いて発現させた。NhcS、Arcp、およびMpcpは、30℃で4時間0.2mM IPTGを用いて発現させた。Nppcpを22〜24℃で6時間、0.1mM IPTGを用いて発現させた。HetMを18℃で一夜0.1mM IPTGを用いて発現させ、可溶性63.3kDaタンパク質として可視化し、製造業者の使用説明書(Qiagen)に従ってウエスタンブロットで確認した。しかしながら、ナノスプレーイオントラップ質量分析の分析は、収量が不適当で実施できなかった。したがって、hetMのArCPドメインをコードするプラスミドを構築し、次いで15.6 kDa Arcpを適切な収量で発現させた。NacpおよびNpcp担体タンパク質の低溶解性を解決する試みには、発現時間(2-24時間)、温度(18-37℃)、およびIPTG濃度(0.1〜1mM)の変化が含まれた。発現後、細胞を4,000rpmでペレットにし、-80℃で一夜凍結した。次に、ペレットを氷上で解凍し、5ml 50mM Hepes (Sigma) pH 7.4に再懸濁し、冷却したフレンチプレスに1000 psiで3回通すか、または4℃、30%の振幅(amplitude)で0.5秒パルスで25秒間超音波処理した。4℃、20,000gで30分間遠心して可溶性分画を回収した。Amersham HighTrap Niキレーティングカラムを組み換えタンパク質の精製に用いた。目的とするタンパク質を含む分画(SDS-PAGEにより決定)をプールし、脱塩し、液体窒素中で急速凍結(8%グリセロール)し、−80℃で保存した。精製タンパク質の濃度を、OD280の吸光度、および組み換えタンパク質の各吸光係数 (NhcS 37650、HetM 67430、ArCP 8250、Sacp 6970、Mpcp 6970、およびNppcp 13940)を用いて計算した。
PPTアッセイを、Finking、R.、et al.、(2002)、「Characterization of a new type of phosphopantetheinyl transferase for fatty acid and siderophore synthesis in Pseudomonas aeruginosa.」、J Biol Chem 277:50293-302)に記載のごとく行った。簡単には、50mM Tris-HCl pH 7.4、12.5mM MgCl、0.5mM CoA、2μM DTT、30μgの各担体タンパク質(CP)、および300nMのPPTを含む100〜400μL反応液を、37℃で30分間インキュベーションした。1mLの10% TCAを加えて反応を終わらせた。アッセイ物を-20℃で一夜沈殿させ、次いで4℃で16,000g、15分間遠心した。タンパク質ペレットをエレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS)により分析した。スペクトルを、API QStar Pulsar i ハイブリッドタンデム質量分析器(Applied Biosystems、Foster City CA)を用いて得た。試料(〜200〜400fmol)を水:アセトニトリル:ギ酸(50:49:1)に溶解し、ナノスプレーニードル(Proxeon、Denmark)にロードし(1μl)、チップを開口部から〜10mmにセットした。窒素を仕切り用ガスとして用い、900Vの電位を該ニードルに適用した。Tof MSスキャンを得(m/z 550-2000、1秒)、単一ファイル中に〜1分間蓄積させた。スペクトルを、Analyst QSソフトウエア中に含まれるBayesian再構築法を用いてデコンボルートした。
(6) E.coli中でのNPPTとの共発現によるNpACPの活性化。
Nodularia spumigena PPT、NPPTは、プライマーNpptF (5'-TGCATATGACGGCGCTTAATCATT-3') (配列番号34)およびNpptR (5'TCTCGAGTCAGTATTGCCAACAC-3') (配列番号35)を用いてPCRにより増幅し、次いでpGEM-T-Easy (Promega)内にクローンした。次に、NPPTを、NcoIおよびXhoI (New England Biolabs)で消化して発現ベクターpET30a (Novagen)中にサブクローンし、pNPPT2を得た。T7プロモーターおよびpET30a由来の転写ターミネーターを備えたNPPTを、DraIIIおよびSphI (New England Biolabs)を用いてpNPPT2から放出させ、Klenow(クレノー)酵素(Promega)を用いて平滑末端にした。次に、断片をAval線状化、平滑末端化、およびリン酸化pRARE (Novagen)にクローンし、pNPPT3を得た。
構築物pNPPT3およびpNpACPを順次BL21(DE3) (Novagen)内に形質転換し、NPPTおよびNpACPタンパク質を共発現させた。コントロール実験において、NpACPをpRAREのみと発現させた。pNPPT3またはpRAREと共発現させたNpACPタンパク質をHi-Trapニッケルカラムで精製し、次いで10%トリクロロ酢酸で沈殿させた。分子量をナノスプレー-MS分析で測定した。
nhcSの活性
(1) HetMNI遺伝子座の配列決定および分析
部分PPT遺伝子分画の隣接領域を増幅し、3450bpのN. spumigena NSOR10 hetMNI遺伝子座(AY836561)の配列決定を可能にした。配列分析により、等電点(pI) 6.1の27,555 Daのタンパク質、240aa nhcS PPTがみいだされた。NhcSは、Nostoc sp. PCC 7120のHetIとの81%の類似性、Synechocystis sp. PCC 6803 Slr0495との58%類似性、およびB. subtilis由来のSfpとの55%類似性を示した(図14)。このPPTは、異質細胞を形成するCyanobacteria Nostoc sp. PCC 7120、A. variabilis ATCC 29413、およびN. punctiforme ATCC 29133のhetMNI遺伝子座中に観察されるようにhetMおよびhetN遺伝子と逆方向にコードされる(図14)。
hetMNI遺伝子座中のnhcSの下流遺伝子の推定タンパク質産物も分析し、ホモローガスなタンパク質と比較した。N. spumigena反復PKS遺伝子hetMの部分断片を配列決定し、N. punctiforme hetM (hglBとも呼ぶ)の対応断片との90%類似性を示した。N. spumigena HetNは、A. variabilis HetN (263残基のタンパク質)のC末端半分との83%類似性を示した126残基のタンパク質である。このドメインは、HetR阻害を介して異質細胞の抑制に役割を有する独特な還元酵素タンパク質をコードする (Li et al.、2002 「Expression of hetN during heterocyst differentiation and its inhibition of hetR up-regulation in the cyanobacterium Anabaena sp. PCC7120」 FEBS Letters 517:87-91)。ORFは、nhcS.の上流900 bpまで延長して配列決定した領域には検出されなかった。
(2) サザンハイブリダイゼーション
サザンプローブを用いてN. spumigena NS0R10 ゲノム内にコードされたPPTの数を確認した。プローブを、Synechocystis sp. PCC 6803 (BAA10326)由来のnhcS、slr0495、およびNostoc punctiforme ATCC 29133 (ZP_00110892)由来のPPTを含む広範囲のCyanobacteria PPTから構築した。これらPPTは、異なるCyanobacteria系統発生学的クレードに入る。プローブ効率および特異性は、コントロールにより検証され、10pgまで検出された(示さず)。nhcSプローブを用いて行ったハイブリダイゼーションは、N. spumigena NSOR10由来の単一バンドを示し(図16)、slr0495またはnpptプローブとのハイブリダイゼーションは検出されなかった。これらの実験は、同時にnhcSがN. spumigena NSOR10によりコードされる単一のPPTであることを示唆する。
(3) 組み換えタンパク質の発現および精製
nhcSのパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を確認するため、本酵素を27.6kDa His標識可溶性タンパク質として発現した。N. punctiforme ATCC29133中のhetMNI遺伝子座由来のArcpを、N. spumigena NSOR10に対するhetMNI遺伝子の類似性により選択した。ArCP パンテテイニル化は、E. coliにおけるヘテロローガスな発現後にはみられなかった。Sacpは、14.8kDaタンパク質として発現した。E. coli中でACPの発現後、該タンパク質の40%はホロ型であった。N. spumigena NSOR10由来の可溶性NacpおよびNpcpの生成は、発現パラメーターの多様な変動にも関わらず、ウエスタンブロットにより推定されるように分析用の可溶性タンパク質を生じなかった(示さず)。MpcpおよびNppcpは、それぞれ22.0kDaおよび20.8kDaタンパク質として発現し、E.coliでの発現後にパンテテイニル化はみられなかった。
(4) nhcS活性の分析
活性は、PPTにより導入されたCoAのパンテテイニル腕のCPへの組み込みに関連する350daの質量の付加を通してイオン化質量分析により検出された(図17)。
NhcS活性は、関連hetMNI遺伝子クラスター由来の同族HetM ArCP (N. punctiforme ATCC29133中)を利用して最初に確認された。アポArCP (15.75kDa)のホロArCP (16.05kDa)への変換が図17Bでみられ、異質細胞糖脂質の合成におけるこの酵素の役割を示す。
NRPS由来の二次代謝物PCPに関するNhcS活性の酵素分析は、NppcpおよびMpcpを用いて試験した。質量分析は、試験した各CPのそれぞれにCoA由来のパンテテイニル部分の350Daの付加を示す。ノストペプトリド(nosA)およびミクロシスチン(mcyG)生合成遺伝子クラスター由来のPCPの発現の成功は、二次代謝におけるnhcSホスホパンテテイニル化の検出と分析を可能にした。Mpcpの完全なパンテテイニル化は30分間のアッセイにおいて達成された。Nppcpはパンテテイニル化され、nhcSがN spumigena NSOR10に存在しない生合成経路由来の担体タンパク質を活性化することができることを示した。
コントロール反応はnhcSなしで行った。E.coliにおけるヘテロローガスな発現後にPCPの検出可能なパンテテイニル化はみられなかった。
したがって、NhcSは、FAS、異質細胞糖脂質合成、およびハイブリッドポリケチド/非リボソームペプチドノデュラリンのような二次代謝物の生合成のそれぞれで作用することができる。nhcSの非同族二次代謝物CPを活性化する能力は、生命工学の分野への応用に大きな可能性を有する。別の宿主由来の非同族担体タンパク質のパンテテイニル化は、広範囲の種由来の生合成クラスターの活発な合成に対するこのPPTの応用性を示す。
Synechocystis sp. PCC6803のNsPPTによる補完
Nodularia spumigena NSOR10 PPT、NsPPT (Genbank受託番号AY646183)を、Synechococcus sp. PCC7942株由来の硝酸塩誘導プロモーター、PnirAの制御化で発現させ、in vivoでのSppt活性を補完させた(34)。PnirAを、プライマーnirAF (5'-TTCTAGATCCCTCTCAGATCAAAAAG-3') (配列番号36)およびnirAR (5'-TGCATATGGGATTCATCTGCCTAC-3') (配列番号37)で増幅させ、該断片をXbaIおよびNdeIを用いてpET30a中にクローンし、pPnirA (Novagen)を得た。NsPPTを、プライマーNpptF (5'-TGCATATGACGGCGCTTAATCATT-3') (配列番号34)およびNpptR (5'-TCTCGAGTCAGTATTGCCAACAC-3') (配列番号35)を用いて増幅し、次いでNdeIおよびXhoIを用いてpPnirA中にクローンした。PnirAプロモーターおよびT7転写ターミネーターを備えたNsPPTを、DraIIIおよびSphIを用いてこの構築物から放出させ、次いでクレノー酵素(Promega)を用いて平滑末端化し、slr0168光化学系II遺伝子隣接領域およびカナマイシン耐性カセットを有するPstI線状化pKW1188中に連結した。得られたプラスミドをSynechocystis sp. PCC6803中に天然に形質転換し、slr0168内にホモローガスに組み換えした。
形質転換体を10μg/mlカナマイシン添加BGTSプレート上で選択した。NsPPT補完株をSynechocystis sp. PCC6803 ΔNsPPT+(ΔNsPPT+)と名付けた。Spptノックアウトプラスミド、pGCSlrをこの株に天然に形質転換し、Sppt遺伝子を破壊した。ddH2Oも、陰性コントロールとしてΔNsPPT+中に形質転換した。プライマーslrupおよびslrdownを用いてSppt遺伝子破壊を完全に分離するため、NsPPT補完コロニーをPCRでスクリーニングした。補完およびノックアウト実験は3回デュプリケートで行った。
本発明を上記したように詳細に説明したが、特定の態様に示した本発明に対して、広く述べた本発明の精神や範囲から逸脱することなく形式および詳細の種々の省略、置換、および/または修飾を行ってよいことを当業者は理解するだろう。したがって、本発明の態様は、あらゆる点で例示であって制限的ではないと考えるべきである。
本明細書中の先行文献のあらゆる説明またはそれら文献に由来するかそれらに基づく本明細書中の記述は、該文献またはそれに由来する記述がオーストラリアや他の国における関連分野の一般的常識の一部であると承認するものではない。