JP2010522334A - 嫌気性環境における微生物の区画化された培養のためのシステムおよび方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、密閉された細胞選別デバイスおよびこのデバイスの使用方法に関する。このデバイスは、細胞選別の前、間、および後の嫌気性細胞の生存を維持するために、細胞選別の全てのプロセスを十分に嫌気性の条件下で行うことが可能であるように構築される。これは、高速セルソーターおよびその構成要素すべてに対して嫌気性雰囲気を創出することにより、ならびに試料の入ったチャンバー中への嫌気性容器の導入を可能にするエアロックを使用することにより達成される。

Description

関連出願の相互参照
本出願は、2007年3月22日に提出された米国特許仮出願第60/919,632号による優先権を主張する。この書類の内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
技術分野
例示的なシステムおよび方法は、概して環境微生物学、より具体的には嫌気性環境における微生物区画化培養(本明細書では「EMCC」と呼ぶ)のためのシステムおよび方法に関連する。
地球における微生物多様性は、実験室条件下での増殖に適合していない未培養の種によって主に表される。偏性嫌気性生物は、これらの細胞が酸素への曝露に対して完全にまたはほぼ完全に不耐性であるため、標準的な実験室技術を用いた培養に適さない微生物の特殊な例である。偏性嫌気性微生物は、エネルギーを得るため発酵性経路を含みうる嫌気性呼吸を利用している。これらの経路のいくつかは、プロピオン酸発酵、ブチル酸発酵、混合酸発酵、ブタンジオール発酵、スティックランド発酵、酢酸産生またはメタン生成を含む。一部がワインのような発酵製品をもたらしうる嫌気性微生物により示される、多大な代謝的多様性が存在する。より最近になって、乗り物燃料などの石油化学製品に由来する可燃性物質に代わるバイオ燃料を製造するための、植物材料に由来するエタノールおよびブタノールなどのアルコール製造に対して関心が増加している。
これらの以前は培養されていなかった嫌気性生物の一部は、炭素源からのメタン、バイオディーゼル、水素、およびアルコールの製造を含む世界的な炭素およびエネルギーの流れに関連した環境におけるプロセスを左右すると考えられている。商業的なメタンガスが製造される、炭層メタンとして知られる石炭堆積物から抽出したメタンは、そのような嫌気性生物の産物(全てまたは一部)であると考えられている。新規な嫌気性微生物には様々な有用な用途があるため、このような生物を単離および培養するための新たな方法が望まれている。例えば、炭層部位でのメタン製造に関与する新規な嫌気性種を培養する能力は、メタン製造の増大を可能にすると考えられる。
嫌気性微生物の単離および培養は、酸素感受性細胞が分裂して培養物が確立され得る無酸素雰囲気を提供する利用可能な設備および培養容器の不足から、今日まで制限されてきた。フローサイトメーターなどの高速セルソーターが、好気性微生物の選択および下流培養のために使用されてきており、一部の状況では、嫌気性気体混合物を含む管理された雰囲気下での細胞選別を可能にするために、機器の改良が行われてきた。しかしながら、中に収められている環境内での細胞選別デバイスの全ての操作は、いまだ実証されていない。これは、それらの比較的大きな寸法、ならびに水冷却システム、圧縮空気、および非常に感度の高い3Dレーザーアライメントなどの、典型的な細胞選別デバイスの運転に必要とされる複雑な付属の基礎構造に主に起因すると考えられている。
従来のゲル微小滴(または「GMD」)封入およびフローサイトメトリーは、好気性細菌の研究に使用されてきた(Nir et al. 1990 Appl. Environ. Microbiol. 56:2870-2875(非特許文献1); Katsuragi et a1. ,2000 J. Microbiol. Meth. 42:81-86(非特許文献2); Manome et al. 2001 FEMS Microbiol. Lett. 197: 29-33(非特許文献3))。Zenglerら(2002 PNAS, 99:15681-15686(非特許文献4))は、環境由来の新規な好気性細菌の増殖にGMDを使用し、以前は培養されていなかった微生物を培養するためにフローサイトメトリーと組み合わせたGMD技術の能力を実証した。この著者はまた、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)から入手した絶対嫌気性微生物(strict anaerobe)であるメタノコッカス-サーモリソトロフィカス(Methanococcus thermolithotrophicus)の一つの菌株をGMD中に増殖させたが、これを嫌気的に選別する能力は実証しなかった。
細胞の嫌気的な選別に対する一つの制限は、無酸素条件下で細胞選別を実施することが不可能であることである。流体中かつ試料注入中に存在する溶存酸素は、嫌気性増殖に許容されない酸素レベルに細胞を曝露する。既存の高速細胞選別に見られるような、好気的手順を使用する嫌気性培養物の確立は、短時間の曝露時に酸素により生じる細胞の損傷により妨げられる。したがって、大部分の絶対嫌気性の細胞は、既存の技術を使用して選別することが不可能である。結果として、嫌気性細胞の好気的または部分的に嫌気的な細胞選別を行う今日までの研究は、固有集団の不完全な培養をもたらした。
部分的に中に収められたデバイスおよび細胞を処理する方法の例は、米国特許第6,780,377号(特許文献1)(本明細書においては以降「‘377特許」)に記載されている。この‘377特許は、絶対嫌気性微生物の培養に適したシステムを含む、特定の雰囲気下で細胞を選別するためのDAKOのセルソーターに適した環境封じ込めシステムを提供する。この環境封じ込めシステムの主な制限は、処理中、試料細胞が酸素に複数のポイントで曝露されることである。第一に、偏性嫌気性生物を選別するために、嫌気性条件下で試料を調製および取り扱う必要がある。これは、試料の調製のために使用される嫌気性チャンバーと細胞選別システムとの間の試料の移動が酸素を含まない環境で実施される必要があることを少なくとも暗示する。このポイントは‘377特許においては検討されていない。第二に、試料の細胞選別デバイスへの導入も、酸素を含まない環境で行わなければならない。このように、セルソーターの試料出入り口は酸素を含まない必要がある。‘377特許は、試料注入口を嫌気性環境部分として考慮していない。結果として、この特許において説明される発明を使用して処理される試料は、サイトメトリーおよび選別の前に空気からの酸素に曝露される。第三に、層流を押し流して包囲を生じる流体および細胞選別中に使用される液滴は、酸素を含まない必要がある。維持の必要性は嫌気性気体のみではなく、嫌気性流体の使用でもあり、換言すれば、処理の一部としての、嫌気性気体の適切な気体不透過性容器中への散布は取り組まれておらず、「流体の流れの発生、液滴形成、液滴分離、および液滴収集のプロセスを取り巻く環境を調節可能に制御する」可能性が述べられているのみである。実際の問題として、低量(数ppm)の酸素を含む流体の使用が嫌気性微生物にとって毒性である可能性があり、試料を押し流すため、および液滴を形成するために使用される流体は完全に酸素を含まない必要がある。これらの体系的な限界を鑑みて、‘377特許が完全に無酸素のシステムを教示していないことは明らかである。
必要なことは、細胞選別プロセスの前、間、および後に生物が酸素に曝露されることを防ぐ、その構成要素が完全に自身に収められた細胞選別システムである。
米国特許第6,780,377号
Nir et al. 1990 Appl. Environ. Microbiol. 56:2870-2875 Katsuragi et a1. ,2000 J. Microbiol. Meth. 42:81-86 Manome et al. 2001 FEMS Microbiol. Lett. 197: 29-33 Zengler et al. 2002 PNAS, 99:15681-15686
本発明の方法は、有用な嫌気性微生物のハイスループットな単離および培養を可能にする。この方法は無酸素条件下で実施され、絶対嫌気性細胞の単離および増殖を可能にする。ある一つの態様において、高速セルソーターが嫌気性チャンバーに入れられることにより、絶対嫌気性細胞が選別され、その後、記載の条件下で増殖することが可能となる。環境試料に対する、記載の発明の嫌気性環境での微生物の区画化培養(EMCC)の使用は、石炭鉱脈におけるメタン生成等の価値のある商業上プロセスを左右しうるメタン生成微生物であるメタノカルクラス-プミラス(Methanocalculus pumilus)などの、絶対嫌気性生物の培養をもたらす。
例示的なシステムおよび方法は、有用な嫌気性微生物のハイスループットな単離および培養を可能にする。ある方法は無酸素条件下で実施されて、絶対嫌気性細胞の単離および増殖を可能にする。ある一つの態様において、高速セルソーターが嫌気性チャンバーに入れられて、絶対嫌気性細胞が選別されその後記載の条件下で増殖することを可能にする。環境試料に対する嫌気性EMCCの使用は、石炭層鉱脈におけるメタン生成等の価値のある商業上プロセスを左右しうる、以前は培養されていない嫌気性系統の培養物をもたらす。
本技術の追加的な使用は、中に収められた気流システムを備える部屋全体を構築する経費を必要とせずに、完全に中に収められている環境内でのバイオハザード試料の取り扱いに対して提供される。
様々な例示的方法に従うプロセスは、細胞選別後の嫌気性細胞の生存度を維持するために、十分に嫌気性の条件下で実施される。これは、フローサイトメーター等の高速セルソーターに対して嫌気性環境を創出することにより達成される。嫌気性細胞選別の改良は、嫌気性チャンバーに適合し得るBecton Dickinson FACSAria等のソーターのコンパクトな設計および携帯性を可能にする新規な細胞選別技術により、ごく最近発展した。これ以前、DAKOのモデルMoFlo等の高速セルソーターは、フード内部に入れることおよびそこでの操作に適用可能でなかった(例えば、適当な機器の設定および操作のために接近するために、多量の手動ダイヤルおよびノブが必要とされた)。さらに、比較的大きな機器設置面積および水冷式レーザーの必要性が、密封された細胞選別システム内に入れることを魅力の無いものとした。本明細書に提供されるシステムおよび方法は、これらの課題を解決し、以前は培養されなかった絶対嫌気性細胞をインビトロで培養する能力を向上させる新規な技術を提供する。
固有の嫌気性微生物の培養のために、様々な例示的方法が提供される。一つの方法は、一つまたは複数の封入された細胞に由来する二つまたはそれ以上の細胞からなる微生物コロニーの確立を助ける区画を使用する。元の試料は、地上、空気中、および水中ビオトープから収集される。これらの試料は、脊椎動物および無脊椎動物の消化管等の内部臓器または皮膚もしくは外皮等の外部表面に生存する、これらの動物の片利共生生物または共生生物であり得るいくつかの種を含む、古細菌、細菌、および真核生物を含む微生物を含有する。根、葉、および茎等の植物組織もまた、固有の細胞の供給源となりうることから試料として使用される。開示された環境微生物区画化培養(EMCC)プロセスは、これらの試料に適用することが可能であり、絶対的または条件的な嫌気性種の単離のために最適化することが可能である。このプロセスの工程は、寒天平板等の従来の培養方法の使用と比較して、主に新規な菌株および群集の回収を可能にする十分に嫌気性の条件下で最適に行われる。
細胞選別装置の模式図を示す。 細胞選別区画の模式図を示す。 流体区画と細胞選別区画との結合部の模式図を示す。 図4Aは、メタン生成微生物の混合された集団の散乱プロットを示す。図4Bは、同定されていない桿菌および球菌の図を示し、後者はメタン生成微生物であるメタノカルクラス-プミラスに対応する。 メタン生成微生物の混合された集団の散乱プロット、およびこれらの青紫色の自己蛍光を示す。
発明の詳細な説明
以下に記載される本発明は、密閉された細胞選別デバイスおよび該デバイスの使用方法に関する。このデバイスは、細胞選別の前、間、および後の嫌気性細胞の生存を維持するために、細胞選別の全プロセスが十分に嫌気性の条件下で行われることが可能であるように構築される。これは、高速セルソーターおよび全てのその構成要素のために嫌気性雰囲気を創出することにより、ならびに試料を中に含むチャンバー中への嫌気性容器の導入を可能にするエアロックおよび前室(vestibule)を使用することにより達成される。これらのエアロックおよび前室は、寒天平板および濃縮による嫌気性微生物の単離に典型的に使用される。
デバイス
例示的なデバイスが、図1〜3に示されている。図1は、細胞選別区画(11)および流体区画(14)を含む、無酸素細胞選別チャンバー(10)を示す。細胞選別区画は、細胞選別区画内の雰囲気条件を損なうこと無く操作者が試料を扱うことおよび細胞選別機器を調整することを可能にする、一つまたは複数のチャンバーグローブ(13)を含む。細胞選別区画はさらに、細胞選別区画の外部壁にエアロックを介して結合されている、試料取り扱い前室(12)含む。試料容器は、外部エアロックを通して試料取り扱い前室内に配置される。この試料取り扱い前室には、前室内の雰囲気を調節および制御することを可能にする、様々なポンプ、気体供給源、および検出機器が結合されている。これらの特徴は、細胞取り扱い前室内の無酸素雰囲気の創出を可能にする。
流体区画(14)は、コンプレッサーを使用してセルソーターを稼働させることが可能な流体ポンプ(15)を中に含む。あるいは、セルソーターにより使用される流体は、適切な気体を必要な圧力で使用して押し流すこと、およびレギュレータにより制御することが可能である。この流体区画は好ましくは、適切な嫌気性シース液(PBS緩衝液、生理食塩水、人工海水)、汚染除去用エタノール等の、細胞選別手順の間に使用される様々な溶液を含む貯蔵器を中に含む。区画はまた、使用したシースおよび試料ならびに適切な汚染除去溶液も回収するように設計された廃棄タンクを中に含むことが可能である。機能において試料取り扱い前室に類似している流体前室(16)はまた、システムを空気からの酸素に曝露することなく、または機器の操作を中断することなく流体区画から材料を導入または抜き取るために、この流体区画の部分を形成することも可能である。デバイスの流体部分の細胞選別機器からの隔離は、複数の実施上の理由のために好ましい。例えば操作中、細胞選別に適した環境の維持のために対処が必要である過剰な熱を、流体ポンプは生成しうる。この熱は、もし放散させない場合は、細胞選別手順中に使用される流体に移る可能性があり、これは、選別中の細胞に損傷を与えうる。ポンプシステムからの振動および騒音も、細胞選別システムの機能に有害である可能性がある。このように、適切な減衰システムを流体区画中に用いる必要があり得る。あるいは、好ましくは流体区画外部にある嫌気性気体源を、細胞選別手順中に使用される溶液をシステムを通して押し流すために使用することができる。
好ましい態様において、流体区画は、内部の気圧を含む2つの区画の雰囲気が平衡状態となることを可能にする様式で、細胞選別区画に連結される。この好ましい態様は、2つの区画が流体チューブ(17)および一つまたは複数のチャンバー同等化チューブ(18)を介して連結されていることを示す図1に示されている。温度制御ユニット(19)は、必要に応じて区画間の温度を調節するために、一方または両方の区画に接続可能である。
図2は、細胞選別区画(11)のより詳細な図を提供する。試料取り扱い前室(12)は、試料の取り扱いを可能にするエアロックと一緒に明確に示されている。チャンバーグローブ(13)もまた示されている。セルソーター(20)は、操作者が容易に試料取り扱い前室から試料を入手すること、これらを適切に扱うこと、および試料をセルソーターの試料注入器(21)に導入することを可能にするために、区画内に位置している。この図面にはさらに、細胞選別区画の正面部分を形成する取り外し可能なパネル(22)が示されている。同様のパネルは、流体区画部分としても存在する。
図3は、細胞選別区画(11)と流体区画(14)との間の結合のより詳細な図を提供する。流体チューブ(17)およびチャンバー同等化チューブ(18)が示されている。
上述の、関係する機器を収納するために使用される区画は、機材を安全に中に収めるのに十分な強度のある任意の材料から製造されうる。好ましい態様において、このような材料はアルミニウムであるが、説明される発明における使用には、十分な引っ張り強さを有する任意の材料が意図される。細胞選別および流体区画の両方におけるパネルは、機器の保守および流体の補充のために取り外しが可能である。予想に反して、無酸素環境内の典型的なセルソーターが、このように区画化されていないかのように同一の方法で機能することが示されており、説明する発明の有用性を実証している。例えば、レーザーおよび機械的部分により生じた熱は、チャンバー内部の温度を著しく上昇させない。
環境微生物区画化培養(EMCC)
環境微生物区画化培養(EMCC)は、その後の培養のために調製において微生物が選別され得る所望の環境を創出するために様々な細胞選別システム構成要素の区画化を用いるプロセスである。好ましい態様において、微生物が選別される環境は嫌気性の環境である。嫌気性EMCCは、増殖、増殖の不足、薬物感受性、分子もしくはタンパク質の分泌、特定の酵素活性、低分子代謝産物の生成を含む嫌気性生物の機能の判定、ならびに/または表面マーカー、内部タンパク質、および/もしくは核酸配列を含む嫌気性生物の組成の決定に使用され得る。この方法は、例えば石炭層鉱脈におけるメタン生成に関与する微生物の単離に有用である。この方法は、インビトロ培養の利用、およびセルロース分解性、発酵性、酢酸産生、およびメタン生成種から構成される微生物群集の最適化を提供する。これらの微生物グループに属するメンバーは石炭鉱脈において増殖し、天然ガスとして商業的な使用に活用されうるメタンを生成するよう相乗的に相互作用する。
開示したシステムは、好気性環境での使用に容易に適合させることが可能であるが、これは、それを囲む部屋から完全に隔離された環境である。この、内部に含まれた雰囲気は、例えばレベル3の感染性物質用のバイオセーフティーフードを使用することにより、このような実験に通常関係する巨大な実験室付属設備を構築する経費を必要とせずに、バイオハザード試料の取り扱いおよび選別を可能にする。
嫌気性EMCCの方法は、いくつかの工程で実施されうる。例えば、原料試料の収集の後に、細胞の区画化、細胞のインキュベーション、および細胞の選別を行ってもよい。同定および培養した生物は、様々な用途に使用されうる。全ての工程のうちの一つまたは複数が、水素、二酸化炭素、および/または窒素から構成される雰囲気などの嫌気性雰囲気下で実施される。
試料収集
一つの例示的な態様において、存在する酸素を、減少した試料への空気の拡散を防止するためのブチルストッパーを備えたボトルまたは培養容器中で最終濃度0.5g/Lで硫化ナトリウムおよび/またはシステインを用いて減少させることにより、嫌気性条件下で試料収集が実施される。環境試料の種類は、水中試料、土壌、堆積物、数ある中でも特に昆虫および他の無脊椎動物の消化管に関連する微生物群集を含む。硫化ナトリウムの使用の代わりに、試料を、溶存酸素を減少させるため窒素を用いて気体で処理すること、または実際の使用の場で嫌気性チャンバー内で処理すること、および存在する酸素を消滅させるための化学溶媒と共に嫌気性ジャー内に置くことが可能である。様々な酸素検出デバイスが当業者に周知であり、試料収集チャンバーなどの特定の空間を有する嫌気性環境の存在または不在をモニタリングするために使用することが可能である。
試料の区画化
もう一つの態様において、区画化は、ゲル微小滴などの材料の使用による細胞封入を使用して実施されうる。ゲル微小滴(GMD)は、直径約10〜300マイクロメートルであり、各ゲル微小滴中の特定のまたはありふれた物質の量を迅速に分析するため、ピグメントが天然に存在する細胞において観察されるような自己蛍光細胞特性か、または蛍光色素の追加のいずれかを使用しうる。ゲル微小滴は一般に、数ある中でも特にアガロース、寒天、アルギン酸ナトリウム、およびGELRITE(温度が70℃を超える場合)などの生体適合性マトリックスを含有する水性の微小滴であり、非水性培地(閉鎖性のGMD)の中で、または水性培地(開放性のGMD)の中で使用されうる。GMDなどのマイクロカプセル化法は、大量に並行培養する状態の提供を容易にするための、一つまたは複数の細胞の環境の区画化に役立つ。嫌気性子孫を培養して、嫌気性極微操作システムを用いた操作および手動による選別を可能にする一つのGMD内に互いに隣同士に維持してもよく、および、非封入細胞懸濁液とほぼ同様に取り扱ってもよい(例えば、懸濁、ピペット操作、遠心分離)。GMSは、拡散によって外の培地との間で迅速に分子を交換することが可能であり、これはGMD内の個々の嫌気性細胞および細胞群集の曝露において、全体が本明細書に組み込まれる異なる条件への迅速な変更を可能にする。
他の種類の区画化には、核形成物質の使用が含まれる。これらは、表面での微生物のコロニー形成および微生物培養物の群集または単一の単離物としての確立を促進する増殖培地でコーティングされた、直径5pmの蛍光性ポリスチレンビーズでありうる。
インキュベーション
一つの例示的態様において、アッセイ法は、培地中のゲル微小滴中に封入した細胞を細胞分裂またはタンパク質分泌が起こることが可能なある期間の間培養することにより、多くのゲル微小滴において同時に実施してもよい。この期間は典型的に、細胞分裂について30分〜24時間、アッセイ進展について30分〜3時間である。インキュベーションは、複数の環境細胞をマイクロビーズごとに閉じ込めた結果としての、単一の細胞または微生物集団に由来するクローン集団の確立を目的として、マイクロビーズまたはGMD中に区画化された単一の細胞で開始される。インキュベーションは、酸素が培養容器中に拡散することを防止するブチルストッパーが装着された広口ガラスボトル、フンゲート(Hungate)型管として公知のブチルストッパーを備えるガラス管、および/またはゴム隔壁を備えるバルチ(Balch)管などの閉鎖システムにおいて行われる。閉鎖的インキュベーションは、より高いまたはより低い周囲温度で温度の調節が必要であることから温度制御を有するインキュベーターの使用が必要である場合に好ましい。閉じ込められた細胞は、0〜200 RPMのスピードでロータリーシェイカー中で増殖させてもよい。あるいは、細胞による栄養の取り込みおよび老廃物の除去を可能にするために培地がシステムを通って流れる開放システムを使用することが可能である。これらの開放インキュベーションシステムには、嫌気的に開放インキュベーションを行うために、マイクロビーズの保持に適しているが細胞は閉じ込められずに培養容器から洗い流される孔サイズのフィルターが装着されており、全てまたは一部の機材は酸素曝露を防ぐために嫌気性チャンバー中に包含されてもよい。
様々な例示的システムおよび方法に従い、区画化技術を利用する他のアッセイ方法を用いてもよい。例えば、嫌気性生物を含有する微小滴は、インキュベーション期間の前および/またはその最中に候補薬物である薬物または剤により処理され、嫌気性生物を含有する未処理微小滴の対照集団と比較される。処置した嫌気性生物と対照嫌気性生物との比較が関心対象のタンパク質分泌の異なるレベルを示す場合、薬物または候補薬物がこのタンパク質の分泌レベルに影響を与えると結論づけることができる。情報は、候補剤の活性の立証、または有効であることが既知である薬物の機序の決定において有用でありうる。
もう一つの態様において、分泌を可能にするインキュベーションの後、検出すべき分泌されたタンパク質または嫌気性生物表面マーカーそれぞれのための一種または複数種の検出試薬を加えてもよい。検出試薬は、網(web)に捕捉されている特異的な親和性を有するタンパク質に結合する。検出試薬の結合およびシグナルの発生後、このシグナルは様々なアプローチにより検出されうる。一つのアプローチにおいて、ゲル微小滴は顕微鏡スライドガラスまたはペトリ皿などのガラス表面またはプラスチック表面上に置かれる。この微小滴は支持体に付着し、分析を容易にするよう任意の様式に整えられる。この微小滴はその後、一つまたは複数の異なる標識について顕微鏡下で個々に検査される。検出は蛍光、化学発光、または分泌された分子の色を用いてもよい。デジタルイメージングシステムは、向上したより高い解像度での嫌気性生物の活動の検査を可能にする。
付加価値ソフトウェアにより駆動される、顕微鏡に基づく自動化システムは、現在一般的な研究ツールである。これらのシステムは、蛍光画像を取得して保存する能力、画像の向上、較正、およびしきい値処理(区別)オプション、ならびにシステムの自動化およびデバイス制御を含む複数の一般的な特徴を共有する。顕微鏡画像は、ピクセルのピクチャーエレメントを呼ばれる小さい領域のマトリックスにデジタル化される。各ピクセルの輝度の測定は保存され、その後向上した画像を生成するように処理される。画像分析システムは、画像向上のために使用される処理の種類および利用可能な解像度レベルにおいて独特である。
嫌気性細胞の選別
ある態様において、増殖した関心対象の封入細胞を含有する微小滴の単離を含む培養物または細胞は、管理された環境内でセルソーター(20)を使用して実施してもよい。一つの例示的な方法によると、細胞選別は、ベンチトップ(bench top)高速セルソーターなどの分離しているデバイスを、嫌気性条件を提供するために窒素ガス、または水素、二酸化炭素、および窒素で構成された嫌気性気体混合物などの気体を流した嫌気性チャンバー内に配置することにより嫌気的に実施されうる。以前は、細胞の効果的な選別に必要とされる全ての機材が密閉された区画内へ入れることに適さなかったため、このプロセスは完全に無酸素の条件下(例えば、試料注入前、注入後、および細胞選別プロセス全体を通して、無酸素環境中に維持された試料を提供する。)で行っていなかった。
隔離された環境内に完全に密閉された細胞選別機械はこれまで作製されていなかった。全セルソーターのうち一部のみが、DAKOの環境封じ込めシステムなどの管理された気体雰囲気下での実施に適合していたが、上述のように、嫌気性微生物の生存を保つために全てが無酸素であるシステムに対する必要性が存在する。Becton DickinsonのFACSAriaなどの卓上高速ソーターの世代は、その寸法、構成、ならびに滴下遅延、流体安定化、試料の充填、および毎日の整列化を必要としない固定したレーザーのためのコンピュータ化された機器の制御などの特徴から、プロセスを容易にし、専用のフード内に入れることによって高速の細胞選別にこの機器を適合させる。任意の他のこのような機器もこの方法において機能するであろうことが理解される。
嫌気性試料または混合された培養物を、試料取り扱い前室(12)を通して嫌気性セルソーター区画(11)内に導入する。実施において、管理された環境内にある試料を含む容器は試料取り扱い前室内に置かれ、これはその後外部エアロックを閉鎖することにより密封される。この前室にその後、雰囲気中の酸素を前室から除去する一種または複数種の適切な気体を流す。前室および試料取り扱い区画の雰囲気が適合したならば、操作者は前室とセルソーター区画とを分けているエアロックを開ける。操作者は、試料を酸素に曝露することなくセルソーターへの導入のために試料を調製するために、区画の無酸素環境内で試料容器を開けることができる。典型的には液体である試料は、その後注入口に置かれ、セルソーター内を通される。セルソーターは赤、青、または紫色のレーザーにより、発達したコロニーまたは蛍光色素もしくは他の分子を含む標識されたマイクロドロップを含む微小滴の合計、および細胞を欠くマイクロドロップまたは標識されていない細胞の数の応答指令信号を送る。さらに、高速セルソーターは、空のマイクロビーズ、閉じ込められていない細胞(GMDまたは区画の外で増殖した細胞)、およびマイクロビーズ中にコロニーを形成した細胞のプールを、光散乱特性のみに基づいて分析しうる。マイクロビーズまたは単一細胞による光散乱の検出は、Becton Dickinson社により開発された前方散乱光電子増倍管などのデバイスにより向上する。光散乱のみに基づいている細菌または古細菌細胞のこの検出は、標準的な光散乱ダイオード検出を用いていた従来では不可能であった。また、微小滴のプールは、一般に使用される異なって標識する検出試薬を用いることにより見られるような蛍光特性に基づいて検出されうる。フローサイトメーターは、第1の標識のみを保持するマイクロドロップ、第2の標識のみを保持するマイクロドロップ、両方の標識を保持するマイクロドロップ、およびどちらの標識も保持していないマイクロドロップを計数しうる。多数の標識を用いる方法においては、さらなるカテゴリーのマイクロドロップが識別されうる。存在する標識の種類は、存在する検出試薬の種類およびレベルを示す。色補正は、色補正キットを使用して、スペクトルのオーバーラップについて調整してもよい。
顕微鏡検査などのさらなる分析に利用可能な封入された嫌気性生物の異なる集団を作製するために、および嫌気性生物細胞培養株の作製、DNAの単離、または培養のために、任意で、嫌気性生物が天然または人工的に蛍光により標識される場合にフローサイトメトリー分析の後に選別を行ってもよい。高速セルソーターは、一種もしくは複数種の特定の分泌されたタンパク質の存在、または一種もしくは複数種の特定の分泌されたタンパク質の分泌レベルの程度などの規定の特性を有する個々の嫌気性生物を分離する。このような嫌気性生物はその後、さらなる分析(例えば、嫌気性生物由来のDNA調製物の分析)のために、または一種または複数種の嫌気性生物株の作製のために、さらに増殖させてもよい。いくつかの方法において、所望の嫌気性生物集団を含有するマイクロドロップの亜集団に検出装置の焦点を当てるために、ゲーティングストラテジーが使用される。例えば、前方散乱または側方散乱を使用して非占有マイクロドロップから占有マイクロドロップを識別してもよい。占有マイクロドロップにその後、蛍光標識した検出試薬と結合した特定の表面マーカーを有する嫌気性生物の亜集団を検出するためにさらにゲーティングを行ってもよい。嫌気性生物のゲーティングされた亜集団はその後、表面マーカーと異なって標識された特定の分泌されたタンパク質の存在について分析されうる。
さらに、嫌気性細胞は、前方および/もしくは側方散乱、ならびに/または天然ピグメントもしくは蛍光分子、もしくは人工的蛍光色素の添加に由来し得る細胞のいくつかの自己蛍光特性に基づいて、FACSAriaなどの細胞選別装置による検出後に、96ウェルプレートまたはフンゲート管などの二次培養容器に直接選別される。
いくつかの方法は、シグナル増幅のための検出試薬の間接的な検出を使用する。例えば、検出試薬が抗体である場合、これは関心対象のIgアイソタイプに対する標識された抗体を使用して検出されうる。他の方法において、増幅カスケードが用いられる。検出のためにこのアプローチが用いられる場合、捕捉された散乱分子に結合する一次検出試薬は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いて通常標識された抗体である分子である。HRPは、HRP標識された検出試薬に結合する、マイクロドロップ中の標識されたチラミドの沈着および結合を触媒するために使用される。続いて、チラミドに対する標識は、典型的に蛍光標識されておりチラミドに対する標識に対して親和性を有する二次検出試薬のための結合部位として機能する。あるいは、光散乱特性は、標的集団の選択のために使用してもよい。
新規な嫌気性微生物の単離および培養の後、個々の生物または生物集団を、石炭鉱脈における向上したメタン生成などの様々な産業的用途に使用してもよい。このような用途は“limitations and Benefits of Microbially Enhanced Coal bed Methane” , A.R. Scott, Integras '95, May 15-19,1995, The University of Alabama, Tuscaloosa, Alabamaなどに詳細に記載されている。
一つの態様において、試料収集工程の後に、区画化する、インキュベートする、および選別する工程(任意の順番)を行ってもよく、全てのプロセスは嫌気的に行われうる。別の態様において、選別する工程は、嫌気的に実施してもよく、または残りの工程を好気的に実施する一方でインキュベートおよび選別する工程を嫌気的に実施してもよい。さらに、インキュベートする工程は任意でもよく、例えば細胞の分離および培養を必要としない状況では削除してもよい。
本明細書において様々な態様および方法を説明してきたが、これらが説明のみの目的で示されており、限定の目的で示されているわけではないことが理解されるべきである。さらに、好ましい態様の広さおよび範囲は上述の例示的な態様によって限定されるべきではない。
以下の実施例は例示のために提供されるが、発明を限定するものではない。
実施例1
メタン生成微生物の培養
メタン生成微生物の培養物の濃縮は、人工的な培地(表1)ならびに炭素および電子ドナー源としてH2:CO2を用いて確立した。炭層メタン鉱泉水からの細胞を人工培地に入れた。4週間のインキュベーション後、様々な細胞形態が懸濁液中に現れた。この試料を、培養物精製の標準的な方法に従って寒天培地にプレーティングした。4週間後にコロニーが現れた。これを、純粋な培養物の単離を目的として再度液体培地中に移し、その後別の回のプレーティングを行った。この培養物は、わずか2種類の細胞形態を含むようであり、推定では、前方散乱および側方散乱に基づくFACSAriaならびにF420発色団からの青紫色の自己蛍光において別個の集団と見なされる可能性のある桿菌および球菌に対応するメタン生成古細菌である(図4参照)。細胞をその後冷却した培地において好気的に選別し、インキュベーションのために嫌気性チャンバーに直ちに移し、6週間後の増殖を細胞増殖の可視的な徴候を用いずに調べた(図5参照)。
嫌気性フードのセットアップ時に、桿菌および球菌を含む同一の混合培養物を、絶対嫌気性条件下で、1、10、100、および1000個の細胞を分離したチューブに沈積させてブチルストッパーにより密封することにより、無菌培地に選別した。5週間後、密集した細胞増殖物が10個の細胞のチューブにおいて観察され、古細菌および細菌プライマーを用いたPCR増殖により、単一の培養物であるメタノカルクラス-プミラスが明らかになり、細菌プライマーセットではシグナルは無かった。
(表1)メタン生成濃縮物および純粋な培養物の培地組成
Figure 2010522334

Claims (7)

  1. セルソーターを含む細胞選別区画にエアロックを介して連結された試料取り扱い前室(vestibule)と、
    セルソーターおよび流体区画が管理された環境中に完全に密閉されている、一つまたは複数の流体チューブおよびチャンバー同等化チューブによって細胞選別区画に連結された流体区画と
    を備える、管理された環境で細胞を選別するための装置。
  2. 管理された環境が無酸素環境である、請求項1記載の装置。
  3. 除湿器をさらに含む、請求項1記載の装置。
  4. 温度調節デバイスをさらに含む、請求項1記載の装置。
  5. 酸素センサーをさらに含む、請求項1記載の装置。
  6. 無酸素雰囲気を包含している容器中に存在する細胞試料を提供する工程と、
    前記試料を、実質的に混入酸素を含まない細胞選別区画に導入する工程と、
    前記試料を関心対象の単離細胞に選別する工程と
    を含む、無酸素条件下で細胞を選別するための方法。
  7. 無酸素雰囲気を包含している容器中に存在する細胞試料を提供する工程と、
    前記試料を、実質的に混入酸素を含まない細胞選別区画に導入する工程と、
    前記試料を関心対象の単離細胞に選別する工程と、
    単離した細胞を無酸素条件下で培養する工程と
    を含む、嫌気性細胞を培養する方法。
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