JP2010508083A - 鬱血性心不全の治療およびぺーシング/センシングのための心臓ハーネス組立体 - Google Patents

鬱血性心不全の治療およびぺーシング/センシングのための心臓ハーネス組立体 Download PDF

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Abstract

ペーシング/センシング電極が心臓を治療するための心臓ハーネスに関連付けられている。このペーシング/センシング電極は、好ましくは心臓ハーネスの下側で心臓の心外膜表面上に配置されて、心臓にペーシングおよびセンシング療法を提供する。心臓ハーネスの圧縮力は、ペーシング/センシング電極を所定の場所に保持するとともに電極を心臓の心外膜表面と直接接触するように押圧する役割を果たす。最小限に侵襲性の手技において心臓ハーネスの下側にペーシング/センシング電極を配置するために、移動可能な電極スパインが提供される。

Description

関連出願の相互参照
この出願は、2003年11月7日に出願された米国特許出願第10/704,376号の一部継続出願である2006年9月1日に出願された米国特許出願第1 1/515,226号の一部継続出願である。なお、その内容の全てがこの参照によって本願明細書に組み込まれたものとする。本出願は、米国特許出願第10/793,549号、第10/777,451号、第11/097,405号、第10/931,449号、第11/158,913号、第10/795,574号、第11/051,823号、第10/858,995号、第10/964,420号、第11/002,609号、第11/304,077号、および第11/193,043号に関連している。なお、これらの内容の全てがこの参照によって本願明細書に組み込まれたものとする。
本発明は心不全を治療する装置に関する。より詳しくは、本発明は、患者の心臓の少なくとも一部の周りにフィットするように構成された心臓ハーネスに関する。この心臓ハーネスは、除細動あるいはペーシング/センシングのために電源に取り付けられた電極を備える。
鬱血性心不全(CHF)は、組織の代謝要求、特に酸素の要求を満たす充分な流量で血液をポンプ送りする心臓の不全によって特徴付けられる。CHFの1つの特徴は、患者の心臓の少なくとも一部のリモデリングである。リモデリングには心臓壁の寸法、形状および厚みの物理的な変化が含まれる。例えば損傷を受けた左心室は、心筋の一部の限局性の菲薄化および伸長を伴うことがある。心筋が薄くなった部分は多くの場合に機能が損なわれ、心筋の他の部分がそれを補償しようとする。その結果、心筋に障害がある領域にも関わらず心室の拍出量を保持するために、心筋の他の部分が膨張することになる。そのような膨張は、左心室にいくらか球形の形状を生じさせることになる。
心臓のリモデリングは、多くの場合に心臓壁が高まった張力あるいは応力を受けるようにし、心臓の機能的な能力をさらに損なう。多くの場合、心臓壁は、そのような増加した応力によって生じる障害を補償するためにさらに膨張する。したがって、膨張がさらなる膨張およびより大きな機能障害につながるサイクルが生じる。
歴史的に、鬱血性心不全は様々な薬物によって治療されてきた。心送血量を改良するための装置もまた用いられてきた。例えば、左心室補助ポンプは、心臓による血液のポンプ送りを補助する。心室の鼓動を最適に同期させて心送血量を改良するマルチチャンバペーシングもまた利用されてきた。広背筋のような様々な骨格筋が、心室のポンプ送りを補助するために用いられてきた。研究者および心臓外科医はまた、心臓の周りに配設される人工「ガードル」を試験してきた。そのような設計の1つが、心臓に巻きつけられる人工「ソックス」あるいは「ジャケット」である。
鬱血性心不全に苦しんでいる患者は、多くの場合、心臓の不整脈を含むさらなる心不全のリスクにさらされている。そのような不整脈が生じたとき、心臓には、典型的に除細動器を用いることにより正常なサイクルに戻るためのショックを与えなければならない。植
込型除細動器(ICD)は周知の技術であり、かつ典型的に、右心室に植設された電極に接続されているICDから延びる導線を有している。そのような電極は、除細動処置のための電気的ショックをICDから心臓へと供給することができる。
他の従来技術の装置は、心臓の右側および左側の心外膜表面上あるいはその近傍を含む様々な場所において、心外膜上に電極を配置してきた。これらの装置はまた、心室の除細動あるいは血行力学的に安定あるいは不安定な心室の頻拍性型不整脈を治療するために、移植可能な電気除細動器/除細動器から電流を供給することができる。
鬱血性心不全に苦しんでいる患者はまた、徐脈および頻脈を含む心不全に苦しむことがある。そのような疾患は、典型的に、ペースメーカーおよび移植可能な電気除細動器/除細動器によって治療される。このペースメーカーは、心室拍動数が低速すぎる徐脈を治療するための、あるいは速すぎる心臓リズムを治療する、すなわち反頻脈ペーシングのための、調節されたペーシングパルスによって心臓のペースを整える装置である。本明細書において用いる「ペースメーカー」という用語は、心房あるいは心室の細動を終わらせるために電気的除細動あるいは除細動ショックを与えるといった、それが実行し得る他の機能に関わらず、ペーシング機能を有した任意の心臓リズム管理装置のことである。ペーシング/センシングのための特定の形態および使用は、米国特許第6,574、506号(Kramer他)、第6,223,079号(Balcels他)、米国特許公開第2003/0130702号(Kramer他)、および米国特許公開第2003/0195575号(Kramer他)に見出すことができる。なお、これらの公報の内容のすべてがこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
本発明は、鬱血性心不全を治療するためのハーネス、および除細動あるいはペーシングに用いる電極の配置において、従来技術装置に付随する諸問題を解決するものである。
本発明は、小規模な開胸術によりデリバリー装置を用いて送達(デリバリー)される、ワイヤ形状の心臓ハーネスから成る受動的な拘束装置に関する。一つの実施形態において、除細動電極/導線は、心臓ハーネス上に直接取り付けられる。心室間および心室内収縮同期不全の患者に最適な心臓再同期療法(CRT)を提供するために、心外膜ペーシング/センシング電極と組み合わせた心臓ハーネスへのニーズがある。このペーシング/センシング電極はハーネスの所定位置に組み込まれるが、このペーシング/センシング電極の位置を心臓上のハーネスに対して調整できることは有利である。一体型のペーシング/センシング電極と共に構成されたハーネスは、電極の位置を最適化しようとしたときにある程度は動かすことはできるものの、ハーネスは受動的な拘束のために最適な位置に配備されているので、その位置を変更することは望ましくない。ペーシング/センシング電極の位置調整の利点は、主に、ハーネスを配備した後に電極がどこに配置されるかという点に関連する。ペーシング/センシング電極は、センシングあるいはペーシング機能が不十分なところ(例えば、厚過ぎる、虚血性である、線維症である、壊死している組織)、あるいは再同期効果が最適ではない組織領域上に配置されることがある。CRT用途のセンシングおよびペーシングの他に、徐脈性ペーシング(例えば、バックアップVVIペーシング、あるいは心不全の症状を悪化させると考えられる、右室心尖部以外の場所における長期間にわたるペーシング)のために、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極の配置をハーネスに対して変更する利点がある。1つ若しくは複数の除細動電極を(1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極を組合せてあるいは個別に)ハーネスに対して移動させて、除細動ベクトル、局部的な電圧勾配および/またはインピーダンスを変更し、心臓に除細動処置を施す機能を改良することには他の利点がある。本願明細書に開示する実施形態は、心臓ハーネスに関連しつつハーネスに対して移動可能なペーシング/センシングおよび/または除細動電極を提供するための様々な手段に関連している。典型的に「電極」および「導線」という用語は、概ね装置の特定部分を言及するために用いられる(「電極」はペーシング/センシング電極または除細動電極を意味し、かつ「導線」はその他の全て(導体、絶縁体、コネクタ、他)を含む装置の本体である)。しかしながら、時には、いずれの用語も、導線/電極装置を言及するために一般的に用いられる。この導線/電極装置は、ペーシング/センシング電極あるいは除細動電極またはその両方を備えることができる。
開示されている心臓ハーネスのような受動的拘束装置と共に移動可能なペーシング/センシング電極を用いることの利点の1つは、ペーシングおよび除細動の治療ばかりでなく鬱血性心不全の治療のために、2つの異なる方法を同時に行えることにある。鬱血性心不全は心臓ハーネスによる壁応力の低減によって治療するが、鬱血性心不全はまた心臓のポンプ効率を高める両室ペーシングによって治療することもできる。実際に、これらの効果は付加的なものではなく、それらの治療の個々の貢献よりも良好な相乗的なものになることは予想し得る。心臓ハーネスから独立させて移動可能なペーシング/センシング導線を提供することの更なる利点は、ペーシング/センシング機能の最適化が可能となることにある。また心臓ハーネスがそれに取り付けられた除細動電極を備える場合は、ペーシング/センシング機能を除細動機能から切り離すことができ、したがって最適な除細動治療およびペーシング/センシング治療のために両方の装置を最適に配置することができる。一体化された静脈内導線システムは、それらが一体化されていて電極の位置が互いに固定されているため、ペーシング/センシング機能を除細動機能から分離することができない。したがって、本発明の重要な利点は、ペーシング/センシング機能の除細動機能からの切り離しにある。ペーシング/センシング電極を送達の間に心臓上における最適な位置に移動させることができるからである。
一つの実施形態においては、単一のペーシング/センシング電極を(選択的に除細動電極と共に)送達部材に取り付けて、既に送達されている心臓ハーネスの下側で滑らせることができる。この実施形態において、ハーネスの張力は、ペーシング/センシング電極を心臓組織に確実に接触させるために必要な圧縮を提供する。ペーシング/センシング電極には、より均一な圧縮力の分配を確実にするために、少なくとも心臓ハーネス上のセルと同程度に大きい表面領域を持たせる必要がある。好ましくは、送達部材は、小さな輪郭を持つとともに前進の間における側方への変位に抵抗する平坦な「パドル状(puddle-like)」部材である。送達部材は、その幅を広げることによって利益を得ることができるが、心臓ハーネスを配備するために用いる現行のプッシュアームに似ており、端部の「突起(mub)」はより少なく、かつより堅固にあるいはより柔軟なものとすることができる。送達部材内の開口は、糸のような材料(リリースライン)によってペーシング/センシング電極をこの部材に固定するとともに、心臓ハーネスの下側の所望位置にきたときにそれを解放する機能を提供する。後述する他の実施形態と同様に、ペーシング/センシング電極を送達部材から解放する前に、ペーシング/センシング電極の近位端をペーシング/センシングアナライザに接続することは有益である。これは、ユーザが必要に応じて位置調整を行って、再同期療法における所望の電気的な性能および/または効果を最適化できるようにする。
ペーシング/センシング電極および送達部材を一緒に製造して包装することもできるが、ユーザが、手術の時に別個の無菌なペーシング/センシング電極を無菌の送達部材(無菌の領域内)に装てんできるようにすることが望ましい。一実施形態において、ペーシング/センシング電極は、送達部材上の緩いリリースライン機構の下側に挿入されるとともに、送達の前にユーザによって固く縛り付けられる。
まさに説明した実施形態においては、ハーネスを送達した後にペーシング/センシング電極がハーネスの下側に配置される。心臓ハーネスと同時に別個のペーシング/センシング電極を心臓上に配備することには利点がある。ペーシング/センシング電極は、心臓ハーネスの場合と同じ任意のプッシュアームにひもで縛り付けるとともに、心臓ハーネスと同時に心臓上に解放することができる。他の実施形態においては、ペーシング/センシング電極は、心臓ハーネスに(プッシュアームの独立した支持の有無にかかわらず)直接ひもで縛り付けることができる。この場合、ペーシング/センシング電極および送達部材に取り付けられているリリースラインは、プッシュアームをハーネスに取り付けているリリースラインとは別個に取り除くことができる。このことは、ハーネスを配備して第1のデリバリー装置を取り除いた後に、ユーザがハーネスおよび電極を一緒に調整できるようにする。他の実施形態において、ペーシング/センシング電極は、心臓ハーネスの下側に配置されるがハーネスには取り付けられない送達部材にひもで縛り付けることができる。この構成の追加の利点は、送達部材がハーネスに支持を与え、ハーネスを心臓上へと前進させるときに列が反転してセルが噛み合うことの防止を助けることにある。他の実施形態においては、送達部材は、心臓ハーネスにひもで縛り付けられたプッシュアームの場合と同じスライダに取り付けられ、かつ全てのリリースラインは同じ引張りリングに接続される。他の実施形態においては、送達部材は、好ましくはプッシュアームが接続されているスライダの前方で、別のスライド機構に取り付けられる。あるいは、1つのスライド機構を設けることができるが、送達部材は心臓上への配備の後にそれから切り離される。この点については、送達部材の使用は、別のスライド機構を備える実施形態と同様である。いずれの方法でも、ペーシング/センシング電極および心臓ハーネスからのリリースラインは別の取出機構に接続される。ペーシング/センシング電極は、他の電極からそれぞれ個別に解放することができる。これらの送達部材はまた、スライダから互いに独立して除去することができる。これは、心臓ハーネスより前にあるいは一緒にペーシング/センシング電極を前進させることができるようにする。これはまた、ペーシング/センシング電極に取り付けられている送達部材を残したまま、第1の心臓ハーネスデリバリー装置の取出を可能とする。各ペーシング/センシング電極は、ペーシング/センシング治療のための心臓上の最適位置を見い出すために、送達部材から解放する前に、必要に応じてハーネスの下側で操作することができる。
ここで留意されるべきことは、右側あるいは左側の心房を含む心臓の表面上の任意の位置へとペーシング/センシング電極を配備するために、上述したものと同じあるいは類似のペーシング/センシング電極送達技術を用い得ることである。左房心外膜表面上にペーシング/センシング電極を配置できることには特別の利点がある。CRT手技において典型的に推奨されているように、心房のセンシングおよび選択的なペーシングは(心室にペーシング/センシング電極がある場合に)心房および心室の間の収縮の間における改良された同期を可能にする。心房心外膜表面上へのペーシング/センシング電極の設置は、右心房への静脈を介したアクセスの必要をなくし、したがって心胸外科医が手技の全体を実行できるようにする。それはまた、静脈を介したアプローチでは実行できない左心房への電極配置を可能とする。左心房のセンシングおよび選択的なペーシングは、特に左心房および左心室の収縮タイミングを最適化する。
記載した実施形態について、所定の場所に電極を保持するためにハーネスの張力に依存する、心臓ハーネスとペーシング/センシング電極の相互作用について考察した。ハーネスおよびペーシング/センシング電極が繊維組織を形成すると、相対運動はほとんど存在しない。しかしながら、そうでない場合、ペーシング/センシング電極および/または心臓ハーネスには、装置間の相対運動を最小化する特性、あるいは相対運動が存在する場合には長期間にわたる環境下における摩擦または材料摩耗の傾向を最小化する特性が求められる。変質なしに硬化した状態のシリコーンゴムが、それ自体に対してかつ他の材料に対して摩滅するので、それに対向して配置される心臓ハーネス、および/またはペーシング/センシング電極により耐摩耗性の高い表面を有した移植可能材料を用いることは重要である。耐摩耗性材料の実施例には、以下のものが含まれるが、これらには限定されない。導線の本体表面への潤滑性シリコーン油あるいは親水性被覆の塗布;プラズマにより改質された表面を有するシリコーン押出管材料(例えば、プラチナ硬化Nusil 4755);シリコーン表面のシリコン亜酸化物への酸化還元;シリコン亜酸化物のプラズマ化学気相成長(これらの方法は、表面の粘着性を減少させて耐久性を増加させる);表面上に蒸着したテフロン(登録商標)またはパリレンを含むシリコーン押出管材料;ペーシング/センシング電極の表面上のテフロンあるいはePTFEのスリーブ(この材料もまたシリコーンの代わりに用いることができる);シリコーンまたは他の移植可能な弾性材料を含浸させた編組あるいは巻回繊維(例えばテフロン、ポリプロピレンまたはポリエステル)のマトリックスあるいは多孔性材料(例えばePTFE)のマトリックス;表面上にポリウレタンの層(表面上でスライドさせたスリーブ、表面上に溶融させたスリーブ、あるいは表面上への共押出成形のいずれか)を有したシリコン押出管材料(例えば55Dポリウレタン、より潤滑性で耐摩耗性の移植可能材料);シリコーンの代わりに用いるポリウレタン;およびAortech Biomaterials社によって製造されるElast-Eon 2Aのようなシリコーンとポリウレタンの化学的な混合物。ePTFEシートで覆われたペーシング/センシング電極は接触力(および摩擦力)を減少させるばかりでなく、ワイヤ形状のハーネスがePTFEの上面と面一となるまで沈み込むことができ、接触力(および摩擦力)がゼロまで減少し得るので、拍動している心臓に接触している2つの装置間の摩擦および摩耗の心配がなくなる。
ペーシング/センシング電極の機械的な特徴は、心臓ハーネスに隣接して配置されたペーシング/センシング電極の移動の最小化、および/または材料摩耗が生じ得る材料との間の相対移動の最小化を助ける。機械的な特徴についての一実施形態には、心臓ハーネスのワイヤ形状に引っかかってハーネスに対してペーシング/センシング電極を安定させるように設計された、ペーシング/センシング電極上の突起が含まれる。これらの突起は、丸みが付けられているが、ワイヤ形状への固定を助けるあらゆる特定形状とすることができる。送達の間、最終的な位置が決定するまで、突起を保護しあるいは覆うこともできる。これは、突起を材料で覆うとともに、リリースラインによってこの材料を解放することによって実行することができる。突起上に格納式スリーブを用いることもできる。他の実施形態は、送達の間にハーネスの反対側に対向する突起を有しており、ペーシング/センシング電極の最終的なあるいはほぼ最終的な位置に到達したときに、ペーシング/センシング電極にトルクを与えてハーネスに向けて突起を反転させる。
ペーシング/センシング電極の他の実施形態は、導線の残りの部分より幅の広い、好ましくは心臓ハーネスのワイヤ形状のヒンジと同じ程度に幅の広い幾何学的形状を電極領域に備えていて、ペーシング/センシング電極に対するハーネスの接触力の分配を助ける。接触力の減少は、材料が摩滅する傾向の減少を助ける。また、導線のうちハーネスのワイヤ形状の側の材料は、好ましくは上述したものと同様の耐摩耗性材料であるが、この場合は好ましくはePTFEシートから製作される。柔軟かつ潤滑性の移植可能材料である他に、ePTFEは、導線部品の周辺にモールド成形されるシリコーンをマトリックスに含浸させて堅固な結合を形成するようにする。ePTFEシートの代替物は、ポリエステルのような繊維の「織物(fabric)」あるいは「網(mesh)」である。本発明の一態様においては、ペーシング/センシング電極および心臓ハーネスの両方における使用のために、それらの2つの間の摩耗に耐える様々な材料を選択することができる。加えて、複合材料もまた摩耗に耐えることができる。金属(例えばステンレス鋼、ニチノール、プラチナ、MP35N)のコイル、編組及び/又は織物、あるいは耐摩耗性の高分子材(例えばポリエステル、ポリイミド、テフロン、ケブラー)は、導電体および導電体絶縁の保護を可能とし得る。上述した材料は、ペーシング/センシング電極内部の高分子材料(例えばシリコーン)のマトリックス内に組み込むことができる。高分子材の外側層は、耐摩耗性の材料がさらなる材料の損失を止めあるいは大幅に遅らせるより前に、犠牲層として摩滅することができる。摩耗回避の鍵は、材料間の接触力および相対運動を制限することである。摩滅が予想されるペーシング/センシング電極および/またはハーネスに材料層を付加することにより、嵌合する材料が互いに「沈み込む」ようにする。これにより、湾曲した面の間の最初の点接触からより広範囲な接触面へと、材料間の接触面積が増加する。その利点は、材料間の局部的な接触力が減少して、摩擦(摩耗)力が減少することにある。材料間の相対運動を減少させると、さらに摩耗の可能性が減少する。他の態様には、ペーシング/センシング電極および心臓ハーネス上での柔らかい材料の使用が含まれる。柔らかい材料は、互いに「沈む込み」、摩耗を生じさせる接触力および相対運動を減少させる。前述した構造と同様に、材料の実施例には、低デュロメータ値の高分子材料、多孔性高分子材、またはブラシ/カーペット類似の材料が含まれる。別の態様においては、ペーシング/センシング電極を心臓ハーネスに対して固定し、それによって相対運動を防止して実質的に摩擦を除去する。上述したように、ハーネスおよびペーシング/センシング電極の一体に固定しかつ相対運動を防止するあらゆる特徴が、摩耗を防止する。
多孔性材料(例えば繊維メッシュ、ePTFE、他の開放素子ポリマーマトリクス)をペーシング/センシング電極上に用いる場合に、最終的な開孔サイズは、ペーシング/センシング電極のある種の特徴を獲得するために、ペーシング/センシング電極をどこでかつどのように用いるかに応じて最適化することができる。孔のサイズを制限することは、組織の成長を最小化して、必要になった場合にペーシング/センシング電極あるいはペーシング/センシング電極の一部の後日の取り出しを容易にする点で好ましい。しかしながら、心臓ハーネスのワイヤ形状に隣接する領域においては、ペーシング/センシング電極および/またはハーネスの安定に役立つとともにそれらの2つの間の相対運動を最小化する組織の成長を促進するという利点がある。
また、ハーネスのワイヤ形状が押圧されたときに圧縮されあるいは窪む柔らかい材料から成るハーネスおよび/またはハーネス自体の材料に、ペーシング/センシング電極の外側層を接触させることには利点がある。これは、特に適切に繊維化したときに、材料の互いの係合を助けるばかりでなく、ペーシング/センシング電極とハーネスの間の接触圧の減少を助ける。本発明の他の態様においては、心臓ハーネスとペーシング/センシング電極の界面の材料は、ハーネスの導線材料への定着を助ける柔らかい材料から作ることができる。これは、そこにハーネスが定着するブラシ状あるいはカーペット状の表面を生成するために、多孔性あるいはフォーム状の材料、あるいは表面上に細い突起があるマトリックスとすることができる。他の態様においては、界面の材料は、ゲルあるいは低デュロメータ値のシリコーンのような、材料が互いにくっつくことを助ける粘着性の材料とすることができる。他の態様においては、ペーシング/センシング電極および/または心臓ハーネス上の材料は、組織がペーシング/センシング電極およびハーネスの内側およびその周りで成長してそれらを互いに連結することが確かなものとなるように設計することができる。そのような材料の実施例には、ePTFE、ダクロン(DACRON)、および多孔性シリコーンが含まれる。孔サイズは、10〜100ミクロン、好ましくは20〜30ミクロンとすることができる。上述した「ブラシ」あるいは「カーペット状」の特徴もまた組織の成長を促進する。また、材料には、強化された急激な効果のために、フィブリン沈着を促進する薬剤を選択的にコーティングしあるいは含浸させることができる。別の態様においては、ペーシング/センシング電極と心臓ハーネスの間に接着剤が付加される。接着剤は、心臓上に配備する直前あるいはその直後に、ハーネスおよびペーシング/センシング電極の表面に外部から付加することができる。
また、(ハーネスの下側にツールを配置するとともに、それを心臓から持ち上げあるいはその端部を回転させることによって)すでに配備されているハーネスを持ち上げ、かつツールの下側にペーシング/センシング電極あるいは除細動導線を挿入するために、柔軟なリトラクタ(あるいは同様の鈍く、平坦なツール)を用いる。このツールは、ハーネスに引っかかることなしに電極を挿入するための明瞭な経路の提供に役立つ。ペーシング/センシング電極がハーネスの下側に来ると、このツールは取り除くことができる。
ペーシング、センシング、および除細動電極に焦点を当てているが、この概念はまた、心臓上に配置される他のいかなる種類(例えば、磁気、超音波、pH、インピーダンス、その他)のセンサにも適用することができる。
ペーシング/センシング電極を心臓ハーネスに取り付けないことの一つの利点は、医師がペーシング/センシング電極の位置を探索できるようになることである。これは、ハーネスを配備する前、ハーネスを配備した後であるが移植可能な電極を配備する前、あるいはハーネスおよび移植可能な電極の両方を配備した後に、より良好な目標部位を得るために移植可能な電極を動かす意図で実行することができる。上述した技術の組合せもまた可能である。例えば、ある位置に目標を定めるために探索電極を最初に用いるとともに、移植可能なペーシング/センシング電極を配備した後でペーシング/センシング電極の適切な位置の確認あるいは調整を助けるために再び用いることもできる。探索には、移植可能なペーシング/センシング電極を配置するための目標位置を見いだすべく、心臓の表面の周りで電極を動かすことが含まれる。この場所は、電極の所望の解剖学的な位置、エレクトログラムの品質、およびその部位をペーシングする機能の組み合わせによって決定される。重要なことは、恒久的な移植が意図されているものと同一のペーシング/センシング電極を用い得ることである。しかしながら、電極がステロイド溶出プラグあるいはカラーを含んでいるときには、再吸収可能なコーティングを電極上に設けることは、最終的な移植位置となる前にステロイドの初期損失を防止するために重要である。そのようなコーティングは、マンニトールあるいはポリエチレングリコール(PEG)とすることができる。他の実施形態においては、所望の場所を見い出すために、移植しない電極プローブを用いることができる。恒久的に移植しないことにより、このプローブは、以下の特徴をより容易に取り入れることができる。製作および使用が安価である;場合によって再使用可能である;より使いやすい;組織との接触を改善するために特定の特徴(予め形作られた湾曲、操縦可能なハンドルの使用、あるいは他の堅くする/操作するための機構)を持たせて製作することができる;近位側で容易に電極を切り替える機能を可能にするマルチピンコネクタによる多電極機能(これはまた、理想的な場所の迅速な評価のための、例えばBard EP, Pruka, Biosenseといった多電極マッピングシステムに接続する機能を可能にする);心臓に対するおよび十分に導電性の組織に対する電極の位置を確認するためのセンサの組込により、解剖学的な位置決めを改良することができる。そのようなセンサの実施例には、(例えばJ&J/Biosenseカテーテルに用いられている)磁気ホールセンサや、(例えばBoston Scientific/Cardiac Pathwaysカテーテルに用いられている)超音波センサが含まれる。
送達方法の一態様において、本願明細書に開示したいくつかの実施形態については、心臓ハーネスおよびペーシング/センシング電極を配備する順序を変更することができ、ペーシング/センシング電極の後にハーネスを配備し、ハーネスとペーシング/センシング電極を同時に配備し、あるいはまたハーネスを配備してからペーシング/センシング電極を配備することができる。
開示した実施形態においては、移植可能なペーシング/センシング電極を心尖の開口から心膜の下側に配備することが好ましい。しかしながら、電極を心膜の外側に配備することは可能である。このことを達成するために、心尖以外の部位に心膜の切開を形成し、この切開を介してペーシング/センシング電極を心外膜上に前進させる。この方法の潜在的な利点は、ペーシング/センシング電極の本体とハーネスの間の(材料摩耗を生じさせ得る)直接接触を防止する手段として心膜が作用することにある。
以下にリストされているデリバリー装置については、移植可能なペーシング/センシング電極に力点が置かれているが、移植しない探索プローブにも同様に適用することができる。本発明の一態様において、ペーシング/センシング電極は、ガイドワイヤを受け入れる管腔を有する。このペーシング/センシング電極は、非外傷性で正確な操縦性を有するガイドワイヤ上で前進する。このガイドワイヤは、房室溝を超えて非外傷的に前進することができる。別の態様において、ペーシング/センシング電極は、リリースラインによって送達部材に取り付けられる。ペーシング/センシング電極の(柔らかい「翼(wings)」または「フラップ(flaps)」のような電極位置を越えて延びる)外側形状を導線の本体部分に対してタイトに(例えば、リード本体に巻き付けて)保持するためにリリースラインを用いることには付加的な利点がある。外側形状の固定は、外側形状のハーネスとの干渉を防止してより簡単な配備を可能とする。次いで、送達部材に取り付けられているものと同じリリースライン、あるいは別のリリースラインのいずれかにより、外側形状が解放される(あるいは場合によっては「広がる(unfurled)」)と、心臓および/またはハーネスに対して意図された形状となることができる。別の態様においては、押進力およびトルク負荷性のためにペーシング/センシング電極の管腔内に針状体が配置される。この着脱自在な針状体は、真っ直ぐ、円形、あるいは平坦とすることができる。針状体は、ペーシング/センシング電極を前進させ、それを横方向に動かす機能を提供し、あるいはペーシング/センシング電極を反転させる。針状体は、ペーシング/センシング電極の内部に挿入しあるいそこから取り除くことができて、心臓ハーネスの下側でペーシング/センシング電極を前進させる間に充分なコラム支持をもたらす。他の態様において、ハーネスの下側にスペースを生み出すツールの使用は、心臓ハーネス上に引っかかることなくペーシング/センシング電極を前進させることができるようにする。そのようなツールは、柔軟な開創器、あるいは所望のスペースを生み出すためにカスタマイズされた平坦で、堅く、小型なツールとすることができる。
ペーシング/センシング電極と心筋の間の確実な接触は、最適なセンシングおよびペーシングにとって重要である。以下の特徴は、ペーシング/センシング電極を心臓の心外膜表面に確実に取り付けられるようにする。心外膜表面に対してペーシング/センシング電極を保持するための心膜の使用ペーシング/センシング電極および/またはペーシング/センシング電極の本体を心臓に対して押圧するための心臓ハーネスの使用。(心外膜と心膜の間のスペース内に配置されている)ペーシング/センシング電極のうち心嚢側への拡大可能な部材の配置。ペーシング/センシング電極がハーネスの外側にある場合には、膨張可能部材は、心膜に対して拡大して電極を心外膜に押圧する。ペーシング/センシング電極がハーネスの下側にある場合には、膨張可能部材はハーネスおよびできる限り心膜に対して拡大し、電極を心外膜に押圧する。膨張可能部材の実施例には、膨張可能なブラダ(空気または流体を用いる)、または拡大可能なケージ(例えばニチノールのワイヤ形状)が含まれる。この部材は、自己拡大し、あるいはユーザが拡大させる。ペーシング/センシング電極を固定するために用いる他の特徴には以下のものが含まれる。生体組織用の接着剤(電極の近傍部位を含むペーシング/センシング電極上の1つ若しくは複数の部位に遠位ポートを有するペーシング/センシング電極内の管腔は、導線を心外膜および/または心嚢の組織に取り付けるシアノアクリレートのような生体組織用接着剤を移動させるために用いることができる);接着剤を予め充填したブラダもまた、接着剤を吐出するために孔を開けることができる;ゴムバンド(その弾力性は、ハーネス内のニチノールのような金属ワイヤ形状の歪みによってあるいは弾力的なゴム状ポリマーによって達成され、導線に取り付けられると心臓あるいは心臓に固定された位置/装置の周りで引き伸ばされる);摩擦パッド(ペーシング/センシング電極の摩擦の特性が、心臓の表面に対するペーシング/センシング電極および/または電極の保持を助ける)。
本発明によると、心臓ハーネスおよび組立体は、患者の心臓の少なくとも一部にフィットするように構成されるとともに、細動除去を提供できる1つ若しくは複数の電極とペーシングおよび/またはセンシング機能のために用いる電極と組み合わされている。一つの実施形態において、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極を保持するために、キャビティを有したアダプタが用いられる。アダプタは、電極が心臓の心外膜表面に直接的に接触しあるいは心臓の心外膜表面の近傍に配置されるように、ペーシング/センシング電極を保持するように構成されている。このアダプタは、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極を受け入れるためのキャビティを有しており、このキャビティは、一実施形態において、ペーシング/センシング電極を締まり嵌めで受け入れるようにその寸法が設定されかつ形作られている。言い換えると、ペーシング/センシング電極は、さらなる固定手段を必要としない締まり嵌めとなるように、アダプタのキャビティ内にぱちんと嵌る(スナップフィット)状態に押し込まれる。他の実施形態においては、ペーシング/センシング電極をキャビティ内に確実に保持するために締着具を用いる。他の実施形態においては、ペーシング/センシング電極をキャビティ内に押し込んだ後、これらの電極をキャビティ内にさらに固定するために、シリコーンゴムあるいは他の誘電材料をペーシング/センシング電極上にモールド成形する。
一実施形態において、このアダプタは、開いた状態および閉じた状態を有する二枚貝の殻の構造に似ている。開いた状態においてペーシング/センシング電極がキャビティに押し込まれ、二枚貝の殻の形状の2つの半片が閉じた状態となったときに電極はアダプタ内に保持される。他の実施形態において、アダプタは2つの部分に形成され、第1の部分および第2の部分にキャビティが形成される。ペーシング/センシング電極は、第1の部分若しくは第2の部分のキャビティに押し込まれ、次いで第1の部分が第2の部分に嵌合するとキャビティはペーシング/センシング電極の周りを囲む。
アダプタの二枚貝の殻および2つの部分の実施形態において、キャビティがペーシング/センシング電極上の電極を受け入れる開口を有することが好ましい。電極は、典型的に小さな金属の突起あるいはボタン形であり、このボタンあるいは突起はキャビティの開口を通って延びて、突起あるいはボタンの金属製の表面が心臓の表面と直接接触し、あるいは心臓の表面とほぼ直接接触するようになっている。
一つの実施形態において、アダプタは、ペーシング/センシング電極を受け入れるためのキャビティを有する。ペーシング/センシング電極をキャビティ内に押し込んだ後、ペーシング/センシング電極をアダプタ内に保持するためにペーシング/センシング電極上に誘電材料をモールド成形する。好ましくは、アダプタは、キャビティ内にペーシング/センシング電極を保持するモールド成形されたレイヤとしてシリコーンゴム材料から形成される。ペーシング/センシング電極の電極部分は、直接心臓に直接接触できるように誘電物質によって覆われない。
本発明はまた、心臓ハーネスと共にアダプタおよび関連するペーシング/センシング電極を送達する方法およびその使用方法を含んでいる。一実施形態において、ペーシング/センシング電極をアダプタに取り付けた後、アダプタ組立体はすでに移植されている心臓ハーネスの下側に配置される。好ましくは、アダプタ組立体は、心臓ハーネスの下側の所望の位置に最小限に侵襲的に送達される。一つの実施形態において、アダプタ組立体は、非外傷性の遠位端を有したプッシュアームの遠位端に係脱自在に取り付けられて、プッシュアームが、それに取り付けられたアダプタ組立体と共に、心臓ハーネスを掴まえあるいは動かすことなく移植された心臓ハーネスの下側を前進できるようになっている。アダプタ組立体(およびそれに取り付けられたペーシング/センシング電極)を配置するためにプッシュアームを用いた後、アダプタ組立体はプッシュアームから解放され、次いでプッシュアームが身体から引き抜かれる。選択的に、柔軟な開創器を用いて心臓ハーネスの一部を持ち上げて、プッシュアームおよびアダプタ組立体が心臓の上で前進するときの自由で開放した空間をハーネスの下側に作り出す。心臓ハーネスが、心臓の周囲を囲むとともに心臓上へのわずかな圧縮力を生じさせる波形ヒンジの多くの列を備えているので、アダプタ組立体は、さらなる他の固定手段なしに心臓上の所定位置に保持される。あるいは、アダプタ組立体を心臓の心外膜表面により確実に固定するために、縫合若しくは他の締着具を用いることができる。アダプタ組立体は、ペーシング/センシング電極上の電極が心臓の心外膜表面に対向するとともに好ましくは心臓と直接接触するように、心臓ハーネスの下側に配置される。アダプタは、心臓ハーネスの材料と共存できる誘電材料から形成することが好ましい。一つの実施形態において、心臓ハーネスは、シリコーンゴムで被覆されたニチノール合金ワイヤーから形成される。この実施形態においては、アダプタと心臓ハーネスとの間の摩擦係合を減少させるために、アダプタもまたシリコーンゴムから形成される。さらに、ペーシング/センシング電極の部分も、心臓ハーネス上のシリコーンゴムの被覆と共存できる誘電材料で覆うことができる。好ましくは、ペーシング/センシング電極もまた、摩擦係合を減少させるとともに摩耗が進展する可能性を減少させるためにシリコーンゴムまたは同様の材料でコーティングされ、それによって心臓ハーネスのベアメタルあるいはペーシング/センシング導線と関連するあらゆる金属を露出させる。他の実施形態において、心臓ハーネスおよびアダプタは、摩擦の係合を減少させるために異なる材料でコーティングされる。
アダプタおよびそれに関連するペーシング/センシング電極は、本願明細書に開示した任意の実施形態と共に用いることができる。例えば、一実施形態にいて、除細動電極は心臓に除細動ショックを与えるべく心臓ハーネスに取り付けられる。この実施形態においては、電極を有した心臓ハーネスを心臓上に取り付けた後、アダプタ組立体を心臓ハーネスの下側で心臓上に配置してペーシング/センシング機能をもたらす。他の実施形態においては、心臓ハーネスを除細動電極なしに心臓上に取り付けるとともに、ペーシング/センシング治療のためのペーシング/センシング電極を有したアダプタ組立体を心臓ハーネスの下側に配置する。
アダプタおよび関連するペーシング/センシング電極を心臓ハーネスと共に使用する方法の一実施形態は、既存のペーシング/センシング電極をアダプタに取り付けることを含む。既存のペーシング/センシング電極の実施例は、ミネソタ州ミネアポリスのMedtronic社によって製造されるCapsure Epi Leadである。
冠状静脈洞導線のような他のタイプの既存の電極は、心臓の表面に対して心臓ハーネスの下側に配置するために、アダプタによって保持することができる。既存の冠静脈洞導線の実施例は、St. Jude Medical社により製造されるQuicksiteである。
他の実施形態において、移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパイン(spine)または構造は、スパイン本体の前側表面上に露出するボタンタイプの電極の双極対(バイポーラペア)を保持する、「パドル状(paddle-like)」形状のスパイン本体を有している。この移動可能な電極スパインはまた、心臓ハーネスと共に用いることができる。移動可能な電極スパインが1つの電極だけを保持することもまた検討されてきたが、使用の際には、多数の移動可能な電極を心臓ハーネスの下に配置することができる。
移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパインまたは構造の他の実施形態には、輪郭が小さくて概ね円形であり、かつその前側表面上に露出した1対の双極性のボタン電極を保持しているスパイン本体が含まれる。一対の電極は水平に並べて、縦方向に直線的に、あるいは斜めに配置することができる。
移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパインまたは構造のさらに他の実施形態には、全方向性双極電極対(omni directional bipolar electrode pair)を有する小さな輪郭で円形のスパイン本体が含まれる。移動可能な電極スパインの全ての実施形態はスパイン本体の前側表面上に配置されたグリップパッドを含み、かつこのグリップパッドは矩形、正方形、あるいは円形といった任意の形状とすることができる。
移動可能あるいはモジュール式の除細動電極は、拍動している心臓上に配置された心臓ハーネスと共に用いることができる。この実施形態において、リード本体を有する除細動導線は、心臓に除細動ショックを与えるための除細動電極コイルを保持する。細動除去の閾値を低下させるのに追加の電流ベクトルが有益であるときに、細動除去のために他の電極を加える点において、移動可能な除細動電極を用いることは有益である。
本発明によると、心臓ハーネスおよび組立体は、患者の心臓の少なくとも一部にフィットするように構成されるとともに、細動除去あるいはペーシング機能を提供できる1つ若しくは複数の電極と関連付けられる。一つの実施形態において、波形の列あるいは素線は、コイルあるいは除細動および/またはペーシング/センシング電極と相互に接続されて関連付けられる。他の実施形態において、心臓ハーネスはコイルあるいは電極によって切り離された多くのパネルを備え、これらのパネルは相互に接続された波形の列あるいは素線を有していて、たわむことができるとともに円周方向に拡大しかつ収縮することができるようになっている。心臓ハーネスのパネルは、誘電性コーティングでコーティングされ、電極を介して供給される電気的なショックからパネルを電気的に絶縁する。さらに、心臓ハーネスから電極を絶縁するために、電極は少なくともその一部が誘電物質でコーティングされる。一実施形態において、波形の素線あるいは列はニチノール(Nitinol)から形成されるとともに、シリコーンゴムのような誘電物質でコーティングされる。この実施形態において、電極は、少なくとも部分的にシリコーンゴムと同じ誘電物質でコーティングされる。電極が電気的ショックを心臓の心外膜表面に供給するときに、コーティングされたパネルおよび電極のうちコーティングされた部分がシリコーンゴムによって絶縁されるように、導線の電極部分は誘電物質によって覆わない。言い換えると、心臓は、電極のベアメタルが心臓の心外膜表面に接触しあるいは隣接している箇所だけにおいて、電気的なショックを受ける。誘電体コーティングはまた、パネルの電極への取り付けに役立つ。
他の実施形態において、電極は第1の表面および第2の表面を有し、第1の表面は心外膜のような心臓の外側表面に接触し、第2の表面は心臓とは反対側を向いている。第1の表面および第2の表面の両方が誘電体でコーティングされておらず、除細動あるいはペーシングのために心臓の外側表面に電気的な負荷を供給することができるようになっている。この実施形態においては、電極の少なくとも一部が、シリコーンゴム、パリレン(商標)またはポリウレタンといった誘電体コーティングでコーティングされる。誘電体コーティングは、心臓ハーネスから電極の裸の金属部分を絶縁する役割を果たすとともに、電極を心臓ハーネスのパネルに取り付けるための取付手段を提供する。
電極の数および心臓ハーネスを形成するパネルの数は、選択の問題である。例えば、一実施形態において、心臓ハーネスは2つの電極で切り離された2つのパネルを有することができる。電極は、心臓の心外膜表面に最適な電気ショックを提供するべく、好ましくは右心室または左心室に隣接して配置することができるように、180度離れてあるいはいくつかの他の方向付けで配置される。他の実施形態においては、電気的なショックが右心室に隣接する心筋層を通って移動し、それによって除細動のためにあるいは周期的なペーシングのために最適の電気的ショックを提供するように、電極は180度離れて配置される。他の実施形態においては、3本の電極で切り離された3枚のパネルがあるように、3つの導線が心臓ハーネスに関連付けられている。
さらに別の実施形態では、心臓ハーネス上の4枚のパネルが4本の電極によって切り離されている。この実施形態においては、2つの電極が左心室に隣接して心臓の心外膜表面上あるいはその近傍に配置され、他の2つの電極が右心室に隣接して心臓の心外膜表面上にあるいはその近傍に配置されている。電気的なショックが供給されると、それは2組の電極の間で心筋層を通過して心室の全体にショックを与える。
他の実施形態においては、心臓ハーネスを形成する4枚以上のパネルおよび4つ以上の電極がある。電極およびパネルの配置は選択の問題である。さらに、1つ若しくは複数の電極の作動を停止することができる。
他の実施形態において、心臓ハーネスは、多数のパネルを切り離している多数の電極を備える。この実施形態はまた、心臓機能をセンシングするとともに、両室ペーシングおよび左心室ペーシングあるいは右心室ペーシングを含む再同期のためのペーシング刺激を供給するために使用する、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極(マルチサイト)を備える。
各実施形態において、除細動のための電気的なショック、あるいは同期またはペーシングのための電気ペーシング刺激はパルスジェネレータによって供給されるが、それらには植込型除細動器(ICD)、心臓再同期療法除細動器(CRT−D)、および/またはペースメーカーを含めることができる。さらに、前述した各実施形態において、心臓ハーネスは、心機能を制御するためのマルチサイトペーシングを提供するために、多数のペーシング/センシング電極と関連付けることができる。心臓ハーネスとマルチサイトペーシングを結びつけることにより、このシステムは、徐脈および頻脈を同時に治療しつつ、収縮機能不全を治療するために用いることができる。これは、ポンピング速度およびリズムを維持しつつ、心臓の室収縮シーケンスを変更することによってポンピング機能を改善する。一つの実施形態において、ペーシング/センシング電極は、心臓ハーネスの下側でかつ心臓の心外膜表面上に、左心室および右心室の両方をペーシングするために左右の心室に隣接させて配置される。
他の実施形態において、心臓ハーネスは、多数のパネルを切り離す多数の電極を備える。この実施形態においては、除細動のための電気的なショックを提供するために電極のうち少なくともいくつかが心臓の心外膜表面上にあるいはその近傍に配設され、かつ左右の心室の同期、心臓再同期療法、両室ペーシング、左室ペーシングあるいは右心室ペーシングに有益なペーシング刺激を提供するために他の電極は心臓の心外膜表面上に配置される。
他の実施形態において、心臓ハーネスは、多数のパネルを切り離す多数の電極を備える。少なくともいくつかの電極が除細動のための電気的ショックを提供し、かつ電極のうちの一つ、単一の電極が、単一の心室のペーシングおよびセンシングのために用いられる。例えば、単一サイト電極が、左室ペーシングあるいは右心室ペーシングのために用いられる。単一サイト電極はまた、両室ペーシングを提供するために隔壁の近傍に配置することができる。
さらに他の実施形態において、心臓ハーネスは、ペーシング/センシング機能を提供するために心臓ハーネスに関連付けられた1つ若しくは複数の電極を備える。この実施形態において、単一サイト電極は、左室ペーシングのために左心室に隣接させて心臓の心外膜表面上に配置される。あるいは、単一サイト電極は、右心室ペーシングを提供するために右心室に隣接させて心臓の表面上に配置される。あるいは、複数のペーシング/センシング電極は、両室ペーシングを含む両方の心室の同期性を治療するために心臓の心外膜表面上に配置される。
他の実施例形態おいて、心臓ハーネスは、多数のパネルを切り離すコイルを有する。このコイルは高い柔軟性を有しているが、最小限に侵襲性のアクセスによって心臓ハーネスを供給できるように、コラム強度を提供することができる。
心臓ハーネスの全ての実施形態は、電極を有するものを含め、例えば剣状突起下、肋骨下、あるいは肋間の切開を介した、かつカテーテルを用いた経皮的な送達による皮膚を介した、心臓へのアクセスを伴う最小限に侵襲性のアプローチを用いて心臓上に送達して移植するべく構成されている。
その上に配置された従来技術の心臓ハーネスと共に示す心臓の模式図。 図2Aおよび図2Bは、従来技術心臓ハーネスのばねヒンジを弛緩した状態および緊張した状態で示す図。 平板状の材料から切り出された従来技術の心臓ハーネスを示す図。 心臓の周りにフィットする形状に成形された、図3の従来技術の心臓ハーネスを示す図。 2つの電極に接続された2つのパネルを示している、本発明の心臓ハーネスの一実施形態を平らにした状態の図。 電極の断面図。 電極の断面図。 電極の断面図。 波形の素線あるいはリングの断面図。 波形の素線あるいはリングの断面図。 波形の素線あるいはリングの断面図。 明瞭さのために向こう側のパネルを示すことなく、3枚のパネルを分離している3つの電極を示している、心臓ハーネスの拡大平面図。 パネルを電極に取り付ける役割も果たす誘電体によって部分的に覆われた電極を示す、図7Aの心臓ハーネスの要部拡大平面図。 除細動あるいはまたペーシング/センシング機能のための電極の位置を示す、心臓の横断面図。 図8Bは、除細動あるいはまたペーシング/センシング機能のための電極の位置を示す、心臓の横断面図。 除細動あるいはまたペーシング/センシング機能のための電極の位置を示す、心臓の横断面図。 除細動あるいはまたペーシング/センシング機能のための電極の位置を示す、心臓の横断面図。 柔軟なコイルによって分離されかつそこに取り付けられているパネルを有した、心臓ハーネスの一実施形態の平面図。 パネルおよびコイルがより少ない、図9と同様な心臓ハーネスを平らにした平面図。 柔軟なコイルによって分離されかつそこに取り付けられているパネルを有した、心臓ハーネスの一実施形態の平面図。 心臓の心外膜表面に取り付けられた、図11に示したものと同様な心臓ハーネスの平面図。 最小限に侵襲性の送達のためにその輪郭を小さくするべくハーネスが折り重ねられている、図9に示したものと同様な心臓ハーネスの斜視図。 最小限に侵襲性の送達のためにその輪郭を小さくするべく部分的に湾曲しかつ折り重ねられた図13の心臓ハーネスを示す図。 その上に重なっている電極を有した連続する波形の素線を示す心臓ハーネスの拡大平面図。 その上に重なっている電極を有した連続する波形の素線を示す心臓ハーネスの要部拡大平面図。 電極および波形の素線を示している、破断線線15C−15Cに沿った部分断面図。 電極の切り込み内にある波形の素線を示す、破断線15D−15Dに沿った部分断面図。 心臓ハーネスを製作するためにワイヤを巻き付ける治具の上面図。 電極によって分離されたパネルを示す心臓ハーネスの要部平面図。 心臓ハーネスおよび電極の周りに誘電体を射出するために用いる金型を様々に示す図。 心臓ハーネスおよび電極の周りに誘電体を射出するために用いる金型を様々に示す図。 金属製のコイル巻線を有した電極要部の上面図。 図20に示した電極要部の側面図。 電極を貫通して延びる管腔を示す、破断線22−22に沿った断面図。 電極を貫通して延びる管腔の他の実施形態を示す、破断線23−23に沿った断面図。 多数のコイル巻線を有した電極要部の上面図。 ペーシング/センシング電極に組み合わされた細動除去電極の要部の側面図。 図25Aの電極要部の上面図。 ペーシング/センシング電極に組み合わされた細動除去電極を様々に示す図。 最小限に侵襲性の手技によって心臓ハーネスを送達するための導入器の側面図。 その内部に着脱自在に配置される心臓ハーネスを有する拡張器の端面図。 その内部に着脱自在に配置された心臓ハーネスと共に示す導入器の端面図。 肋間腔を介して挿入されて心臓に接触している、デリバリー装置によって送達された心臓ハーネスシステムと共に示す、人間の胸部を模式的に示す断面図。 心尖に着脱自在に取り付けられた吸引装置と共に示す心臓の平面図。 心尖に取り付けられた吸引装置および心臓上に心臓ハーネスを送達するべく配置された導入器と共に示す心臓の平面図。 導入器から心臓の心外膜表面上へと展開された心臓ハーネスの平面図。 導入器から心臓の心外膜表面上へと展開された心臓ハーネスの平面図。 心臓の一部を取り囲んでいる、それに取り付けられた電極を有する心臓ハーネスと共に示す心臓の平面図。 人間の心臓に取り付けられた心臓ハーネス組立体を、導線および除細動あるいはペーシングのためのICDと共に模式的に示す図。 導入チューブ、拡張チューブ、および突出しチューブを組み立てる前の状態で示すデリバリー装置の分解側面図。 破断線線38−38に沿った導入チューブの横断面図。 拡張チューブの横断面を示す、破断線39−39に沿った断面図。 突出しチューブのプレートを通って延びる破断線40−40に沿った、プレート内の様々な管腔を示す断面図。 突出しチューブの近位端における破断線41−41に沿った断面図。 プレート内の管腔を通って電極から延びる導線およびプレート内の管腔を通って吸着カップから延びるチューブと共に突き出しチューブを模式的に示す縦断面図。 ペーシング/センシング電極を受け入れるキャビティを有したアダプタを示す平面図。 破断線43B−43Bに沿った図43Aのアダプタを示す断面図。 破断線43C−43Cに沿った図43Aのアダプタを示す断面図。 心臓の心外膜表面とは反対側を向いているアダプタの外側表面を示すアダプタの平面図。 ペーシング/センシング電極を受け入れるキャビティを示すアダプタの平面図。 心臓の心外膜表面の反対側を向いている表面を示すアダプタの平面図。 ペーシング/センシング電極を受け入れるキャビティを有した二枚貝の殻の構造を示すアダプタの平面図。 第1および第2の嵌合部を示すアダプタの平面図。 キャビティおよびキャビティへに挿入する一対のペーシング/センシング電極を示すアダプタの平面図。 一対のペーシング/センシング電極がアダプタのキャビティ内に挿入されたアダプタを示す平面図。 プッシャロッドに着脱自在に取り付けられたアダプタを示す平面図。 図50Aのプッシュアームおよびアダプタと共に用いる柔軟な開創器を示す前側平面図。 図50Bの柔軟な開創器を示す横方向平面図。 図50のアダプタの遠位端およびプッシュアーム示す要部拡大平面図。 心臓ハーネスの下側にアダプタ組立体を送達するプッシュアームと共に心臓上に取り付けられた心臓ハーネス組立体を示す要部平面図。 心臓の心外膜表面上で心臓ハーネス組立体の下側に取り付けられたアダプタを示す要部拡大平面図。 心臓ハーネスと心臓ハーネス組立体の下側に取り付けられたアダプタ示す要部拡大平面図。 肋間腔を介した挿入によって送達されたアダプタと人間の胸部を示す断面図。 心臓の心外膜表面上で心臓ハーネス組立体の下側に取り付けられたアダプタ組立体と共に人の心臓上に取り付けられた心臓ハーネス組立体を示す平面図。 心臓ハーネスの下側に取り付けられたアダプタおよびペーシング/センシングのためにICDに接続された導線と共に人の心臓上に取り付けられた心臓ハーネス組立体を示す平面図。 針状体を有するペーシング/センシング電極を示す要部平面図。 ペーシング/センシング電極の一方の側の突起を示す、図58Aのペーシング/センシング電極を示す側面図。 針状体管腔を示す破断線59−59に沿った断面図。 送達部材上に設けられてリリースラインで取り付けられたペーシング/センシング電極を示す要部平面図。 図60Aのペーシング/センシング電極および送達部材を示す側面図。 送達部材上のループ内に挿入するペーシング/センシング電極を示す要部破断平面図。 ペーシング/センシング電極の周りのループが締め付けられている、図61Aのペーシング/センシング電極および送達部材を示す平面図。 ガイドワイヤを受け入れる管腔を有したペーシング/センシング電極を示す要部平面図。 ペーシング/センシング電極を受け入れるためのキャビティを有したアダプタの他の実施形態を示す平面図。 双極性の冠状静脈洞導線を保持している洞導線アダプタを示す斜視図。 モジュール式のペーシング/センシング電極スパインの要部平面図。 移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパインの他の実施形態の要部平面図。 移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパインの他の実施形態の要部平面図。 モジュール式のペーシング/センシング電極スパインのさらに他の実施形態の要部平面図。 モジュール式の除細動電極スパインの要部平面図。 除細動コイルおよび2つの双極性電極対を保持しているスパインによって切り離されたパネルを有する心臓ハーネスを平坦にした状態で示す平面図。 除細動コイルおよび2つの双極性電極対を保持しているスパインによって切り離されたパネルを有する他の実施形態の心臓ハーネスを平坦にした状態で示す平面図。 シリコーンゴムをモールド成形するプロセスの間におけるラバーカップの内部の電極チップを示す断面図。
本発明は心臓病を治療するための方法および装置に関する。病んでいる心臓のリモデリングは、そのような心臓の壁応力を緩和することによって阻止することができ、あるいは逆転させることすらできることが期待される。本発明は、同一のシステムを用いつつ、心臓壁を支援するとともに除細動あるいはまたペーシングの機能を提供するための実施形態および方法を開示する。さらなる実施形態および態様は、出願人の係属中の出願である、2003年3月28日出願の米国出願第60/458,991号「マルチパネル心臓ハーネス」において議論されている。なお、その全ての内容がこの参照によって明白に組み込まれたものとする。
先行技術の装置
図1は、それに適用されたハーネスの形態である従来技術の心臓壁応力減少装置を有した、哺乳類の心臓10を示している。このハーネスは、心臓の一部を取り囲んで右心室11、左心室12および尖端13を覆っている。参照の便宜上、軸線15は尖端および房室溝14を通過するものとする。この心臓ハーネスは、心臓に外接するとともに、壁体応力を緩和するために集合的に心臓上に緩やかな圧縮力を負荷する、一連のヒンジあるいはばね要素を有している。
本願明細書において用いる「心臓ハーネス」という用語は、患者の心臓上にフィットして心臓周期の少なくとも一部の間に心臓上に圧縮力を負荷する装置を指す、幅の広い用語である。
図1に示した心臓ハーネスは、心臓が充填の間に膨張するに連れて変形するように構成された、ヒンジあるいはばねヒンジと呼ばれる一連のばね要素を具備した、少なくとも一つの波形の素線を有している。各ヒンジは、一方向に作用するとともにその方向に対して垂直な方向には同じ程度の弾力性を提供しない、実質的に一方向の弾力性をもたらす。例えば、図2Aは弛緩した状態の従来技術のヒンジ部材を示している。このヒンジ部材は、中央部分および一対のアームを有している。図2Bに示したように、このアームが引っ張られると、曲げモーメントが中央部分に負荷される。この曲げモーメントは、弛緩した状態へとヒンジ部材を付勢する。一つの典型的な素線が一連のそのようなヒンジから構成されるとともに、これらのヒンジが素線の方向に弾性的に伸張しかつ収縮するように構成されていることに注目されたい。
図1に示したハーネスにおいては、ばね要素の素線が、変形してばね要素を形成する押出加工されたワイヤから製作されている。
図3および図4は、そのようなハーネスを製造する間における2つの時点において示された、他の従来技術の心臓ハーネスを示している。このハーネスは、最初に、材料の比較的薄い、平坦なシート材料から成形される。平板からハーネスを成形するために、任意の方法を用いることができる。例えば、一つの実施形態においては、このハーネスは材料から光化学的にエッチングされ、他の実施形態においては、このハーネスは材料の薄板からレーザーカットされる。図3および図4に示したハーネスは、形状記憶特性を示す超弾性材料であるニチノールの薄板からエッチングしたものである。平坦なシート材料はひな型、金型等においてひだを付けられ、少なくとも心臓の一部の形を取るように成形される。
さらに図1および図4を参照すると、この心臓ハーネスは、患者の心臓の底部領域に係合しかつフィットするように寸法決めされかつ構成された底部と、患者の心臓の尖端領域に係合しかつフィットするように寸法決めされかつ形付けられた尖端と、底部と尖端との間の中間部分とを有している。
図3および図4に示したハーネスにおいて、このハーネスは波形ワイヤーの素線あるいは列を有している。上述したように、この波形は、所望の方向において弾性的に屈曲可能なヒンジ/ばね要素を有している。いくつかの素線は、相互接続要素によって互いに接続されている。この相互接続要素は、素線の位置を互いに維持することを助けている。好ましくは、この相互接続要素は、隣接する素線の間においていくらかの相対運動を許容する。
波形のばね要素は、心臓の膨張に対して抵抗する力を作用させる。集合的にばね要素が発揮する力は心臓を圧縮する役割を果たし、心臓が膨張するときに心臓壁の応力を緩和する。したがって、このハーネスは心臓の作業負荷の減少を助けて、心臓がより効果的に血液をポンプ送りして患者の身体に行き渡らせることを可能にし、かつ心臓それ自体が回復する機会を与える。ここで理解されるべきことは、壁体応力を減少させるべく心臓上に穏やかな圧縮力を生み出すために、ばね部材のいくつかの配置および構造を用い得ることである。例えば、心臓の外周の一部分のみの上にばね部材を配設することもできるし、ばね部材は心臓のかなりの部分を覆うこともできる。
心臓は拡張期と収縮期の間に膨張しかつ収縮するに連れて、心筋の収縮細胞が膨張し収縮する。病んでいる心臓において、心筋は、細胞が弱って少なくともいくらか収縮性を失うように膨張し得る。弱った細胞は、膨張および収縮の応力を処理する能力が小さい。このようにして、心臓のポンプ送りの効率が減少する。上記の心臓ハーネスの実施形態におけるばねヒンジの各列は、心臓が拡張期の間に膨張するに連れてばねヒンジが対応して伸張し、それによってばねの曲げエネルギーとして膨張力を貯えるように構成されている。このように、心筋上の応力負荷はハーネスによって部分的に取り除かれる。応力のこのような減少は、心筋細胞が健康なままであること、および/または健康を取り戻すことを助ける。心臓が収縮期の間に収縮すると、開示した従来技術の心臓ハーネスは、膨張の間に生じた曲げエネルギーをヒンジあるいはばね要素が放出して適度な圧縮力を負荷するので、心臓が収縮するときに心臓ハーネスが心臓に追従するようにしつつ、収縮力を負荷する。
心臓ハーネスのための他の構造的な配置が存在するが、それらの全てが欠点を有しており、かつCHFおよび他の関連する疾患あるいは不全を治療するべく最適には機能しない。本発明の心臓ハーネスは、CHFを治療するための斬新な方法を提供するとともに、除細動のため、あるいは再同期のためのペーシング刺激のため、または両方の心室のペーシング/センシングのための、ハーネスに関連付けられて電気的なショックを与える電極を提供する。
本発明の実施形態
本発明は、心臓を治療するための心臓ハーネスシステムに向けられている。本発明の心臓ハーネスシステムは、心臓を治療するための心臓ハーネスを心臓リズム管理装置に結びつける。より詳しくは、この心臓ハーネスは、心臓の壁体応力圧力を軽減するために拡張期および収縮期の間に心臓上に圧縮力を与える、ばね要素の列あるいは波形の素線を有している。心臓ハーネスに関連付けられているものは、様々な理由のうち特に鬱血性心不全による心拍動の多くの不規則さを治療するための心臓リズム管理装置である。これにより、心臓ハーネスに関連付けられている心臓リズム管理装置は、1つ若しくは複数の、付随する導線および電極を有した移植可能な電気除細動器/除細動器と、心機能をセンシングするとともに両方の心室の同期性を治療するペーシング刺激を与えるために用いられる、導線および電極を含む心臓ペースメーカと、除細動ショックあるいはまたペーシング/センシング機能をもたらすための、付随する導線および電極を有する、統合された移植可能な電気除細動器/除細動器およびペースメーカーと、を備える。
この心臓ハーネスシステムは、少なくとも部分的に心臓を取り囲むとともに拡張期および収縮期の間に心臓を援助するために互いに接続されるパネルの、様々な配置を有している。この心臓ハーネスシステムはまた、心臓ハーネスおよび除細動ショックあるいはペーシング刺激を供給するべく電極に供給される電力の供給源に関連付けられた、電極を具備する1つ若しくは複数の導線を有している。
本発明の一実施形態においては、図5に平坦な状態で示すように、心臓ハーネス20は、概ね連続している波形の素線22の2つのパネル21を有している。パネルは、互いに接続されるとともに一対の電極の間の配置された、ヒンジ若しくはばね要素の列あるいは波形の素線を有しており、この列あるいは波形は円周方向には非常に弾性的であるが、長手方向においてはその程度は小さい。この実施形態においては、波形の素線は、方向線24に沿って円周方向に伸張しかつ収縮できるU字形のヒンジあるいはばね要素23を有している。この心臓ハーネスは、ベース部あるいは上端部25、および先端部あるいは下端部26を有している。波形の素線は、心臓10の周りに配置されたときに、円周方向には非常に弾力的であるが、心臓の軸線15と平行な方向においてはその程度は小さい。同様のヒンジあるいはばね要素は、同時係属中かつ同一譲受人の2003年3月28日出願の米国出願第60/458,991号に開示されている。なお、その内容の全ては、この参照によって本願明細書に組み込まれたものとする。図5の実施形態は、参照を容易にするために平坦に見えるが、使用の際には心臓に従うために実質的に円筒状(あるいはテーパ状)であり、かつ右側および左側のサイドパネルは実際には単一のパネルであって、波形の素線には不連続性はない。
波形の素線22は心臓の心外膜表面上に圧縮力をもたらし、それによって壁体応力を軽減する。特に、ばね要素23は、拡張および収縮の機能の間に心臓が膨張しかつ収縮するに連れて、円周方向に伸張しかつ収縮する。心臓が膨張すると、ばね要素は、拡がって膨張力を貯え続けるので、伸張しつつ膨張を妨げる。収縮期の間に、心臓10が収縮すると、ばね要素は貯えた曲げ力を放出することにより円周方向に収縮し、それによって拡張および収縮の両方の機能を助ける。
まさに議論したように、曲げ応力は拡張期の間にばね要素23によって吸収され、かつ曲げエネルギーとしてばね要素に貯えられる。収縮期の間に、心臓がポンプ送りすると、心筋が収縮して心臓はより小さくなる。同時に、ばね要素23に貯えられた曲げエネルギーは少なくとも部分的に放出され、それによって収縮期の間の心臓に支援をもたらす。好ましい実施形態においては、ハーネスのばね要素によって心臓に負荷される圧縮力は、収縮期の間に心臓が収縮する際に実行される機械的な仕事量の約10%〜15%である。このハーネスは、心室のポンピングに取って代わることは意図されていないが、収縮期の間に実質的に心臓を援助する。
波形の素線22は、ばね要素の振幅およびピッチに応じて、異なる数のばね要素23を有することができる。例えば、ばね要素の振幅あるいはピッチを変更することにより、パネル1枚あたりの波形の数もまた同様に変化する。心臓ハーネス20が心臓の心外膜表面に与える圧縮力の量を増大することが望まれる場合に、本発明は、より小さい振幅およびより短いピッチを具備したばね要素を有するパネルを提供し、それによってばね要素が作用させる伸張力を増大させる。言い換えると、他の全ての要素が一定であると、相対的により小さい振幅を具備する要素はより堅いものとなって拡がりに抵抗し、それによって拡張期の間により多くの曲げ力を貯える。さらに、ピッチがより小さいと、波形の素線に沿った単位長さあたりのばね要素がより多くなるので、それによって拡張期の間に貯えられて収縮期の間に放出される全体的な曲げ力が増大する。心臓ハーネスによって心臓の心外膜表面上に与えられる圧縮力に影響を及ぼす他の要素には、ばね要素の形状、波形の素線を成形しているワイヤの直径と形状、および素線を構成する材料が含まれる。
図5に示したように、波形の素線22は、グリップパッド27によって互いに接続されている。図5に示した実施形態においては、隣接する波形の素線は、ばね要素23の頂端28に取り付けられた1つ若しくは複数のグリップパッドによって接続されている。隣接する波形の素線の間のグリップパッドの数は選択の問題であり、隣接する波形の素線の間にグリップパッドが一つの状態と、波形の素線の全ての尖端にグリップパッドがある状態との間で変更することができる。重要なことは、グリップパッドが、重なりを防止してグリップパッドと心臓の心外膜表面との間の摩擦係合を高めるべく、隣接する波形の素線の間の隙間を維持するという目的を犠牲にすることなしに心臓ハーネス20の柔軟性を維持するために配置されるべきであるということである。さらに、ばね要素の尖端にグリップパッドを取り付けることが望ましいが、本発明はそれには限定されない。グリップパッド27は、側部29を含む、ばね要素の長手方向に沿った任意の箇所に取り付けることができる。さらに、グリップパッド27の形状は、図5に示したように、特定の目的に合わせて変化させることができる。例えば、グリップパッド27は、一つの波形の素線22の尖端28に取り付けるとともに、隣接する波形の素線の2つの尖端に取り付けることができる(図7を参照)。図5に示したように、全ての頂点が互いに対向していると、それらは「位相がずれている」と呼ばれる。波動の尖端が位置合わせされていると、それらは「位相が合っている」と呼ばれる。各波形の素線のばね要素の数が同じであるから、全ての尖端は位相がずれている。しかしながら、その上部の近傍のベース部から底部におけるその尖端13へと心臓がテーパ状であるから、各波形の素線のばね要素の数が異なり得ることは、本発明が意図するところである。したがって、心臓ハーネスの上部あるいはベースにおいては、心臓の尖端近傍にある心臓ハーネスの底部におけるよりも、より多くのばね要素およびパネル一枚につきより長い波形の素線がある。したがって、心臓ハーネスは、相対的に広いベースから相対的に細い底部へと、心臓の尖端に向かってテーパ状である。このことは、ばね要素の頂点の配列、したがってグリップパッド27の完全に位置合わせする機能、およびばね要素の隣接する頂点に取り付く機能に影響を及ぼす。波形の素線およびグリップパッドの形態のアタッチメント手段に関する更なる開示および実施形態は、係属中でありかつ同時に譲渡された、2003年7月10日に出願の米国特許出願第60/486,062号に見出される。なお、その内容の全ては、この参照によって本願明細書に組み込まれたものとする。隣接する波形の素線22の間の接続は好ましくはグリップパッド27であるが、他の実施形態(図示せず)においては、波形の素線が素線と同じ材料から製造された相互接続要素によって接続される。これらの相互接続要素は、共通に所有されている米国特許第6,612,979B2の図8A〜図8Bに示すように、真直あるいは曲線とすることができる。なお、その内容の全ては、この参照によって本願明細書に組み込まれたものとする。
波形の素線22が、図5に示したように連続していることが好ましい。例えば、隣接する波形の素線のすべての対が棒状アーム30によって接続される。棒アームは、湾曲して波形の素線を形成するとともにこの棒アームに沿ってその終端が溶接される連続したワイヤの一部を形成するが好ましい。この溶接は、図5には示されていないが、レーザ溶接、溶着、あるいは従来通りの溶接といった、任意の従来技術によってなすことができる。波形の素線を形成するために用いるワイヤの種類は、波形の素線を形成するために用いるワイヤの終端を取り付ける方法に関連している。例えば、波形の素線は、従来の溶接の間に高い熱にさらされるとその超弾性あるいは形状記憶特性のいくらかを失い得るニチノールのような、ニッケル−チタン合金から作ることが好ましい。
本発明の心臓ハーネスに関連付けられているものは、先に開示したような心臓リズム管理装置である。これにより、図5に示した心臓ハーネスに関連付けられているものは、細動ショックを与えるために用いられる1つ若しくは複数の電極である。以下において直ぐに判るように、鬱血性心不全に関連する多くの要因は、患者の生命を救うために即時の処置を必要とする細動につながり得る。
病んでいる心臓は、多くの場合いくつかの疾病を有している。珍しくない一つの疾病は、心臓の電気的刺激システムの不規則性によって生じる心拍動の不規則さである。例えば、心筋梗塞によるダメージは、心臓の電気信号を中断させることができる。いくつかの場合には、ペースメーカのような移植可能な装置が、心臓リズムの制御を助け心臓のポンプ送りを刺激する。心臓の電気系統の問題は、時には心臓に細動を生じさせ得る。細動の間、心臓は正常に鼓動せず、時には十分なポンプ送りを実行しない。除細動器は、心臓を正常な鼓動に復帰させるために用いることができる。体外式除細動器は、典型的に、患者の胸部に付加される一対の電極パドルを有している。この除細動器は、電極の間に電界を発生させる。電流が患者の心臓を通過して心臓の電気系統を刺激し、心臓が規則正しいポンピングに回復することを助ける。
時には、患者の心臓は、心臓手術あるいは他の胸部開放手術の間に細動し始める。このような場合には、特別なタイプの除細動装置が用いられる。胸部開放除細動器は、心臓の両側において心臓に付加できるように構成された、特別な電極パドルを有している。強い電界がパドルの間に作り出され、電流が心臓を通過して心臓に除細動処置を施し、心臓を規則正しいポンピングに回復させる。
特に細動に敏感ないくらかの患者においては、移植可能な心臓除細動装置を用いることができる。典型的に、移植可能な心臓除細動装置には、移植可能な心臓除細動器(ICD)、あるいは通常は右心室に置かれる一つの電極だけを有してリターン電極が除細動器ハウジングそれ自身である、典型的に胸部に植設される心臓再同期治療装置(CRT−D)が含まれる。あるいは、移植可能な装置は、心臓壁に直接、内側あるいはその近傍に取り付けられる二個以上の電極を有している。患者の心臓が細動し始めると、これらの電極は、上述した他の除細動器と同様にそれらの間に電界を発生させる。
試験が示したところでは、導電性材料から製造された装置によって取り囲まれている心臓の外側に除細動処置を施す電極が取り付けられると、この電極によって分配された電流の少なくともいくらかが、心臓を通るのではなくて、導電材料によって心臓の周り導かれる。これにより、除細動の有効性が減少することになる。したがって、本発明は心臓の除細動を可能にするいくつかの心臓ハーネスの実施形態を含み、かつ他の実施形態は除細動処置、再同期、左心室ペーシング、右心室ペーシング、および両室ペーシング/センシングのための手段を開示する。
さらに本発明によると、心臓ハーネス20は、間隔を開けて配置されるとともにパネル21を分離している導電性の電極部分32を有した、一対の導線31を有している。図5に示したように、電極は、非導電性部材34で包まれた導電性のコイルワイヤ33から、好ましくは螺旋形に形成されている。導電性ワイヤ35は、このコイルワイヤにおよび電力源36に取り付けられている。本明細書において用いる、電力源36は、電極の特定な用途に応じて、パルス発生器、移植可能な電気的除細動器/除細動器、ペースメーカー、およびペースメーカに接続された移植可能な電気的除細動器/除細動器を含むことができる。図5に示した実施形態において、電極は、電気的なショックが心筋を通過するように、導電性ワイヤおよび電力供給源を介して心臓の心外膜表面に電気的なショックを供給するように構成されている。図示した実施形態においては、それらが心臓の外周の周りに約180度間隔を開けるように、電極が間隔を開けて配置されているが、それには限定されない。言い換えると、電極は、それらが45度、60度、90度、120度、あるいは任意の円弧長さだけ離れて、または、その点に関しては、適切な電気的なショックを供給するために心臓の外周の周りにおいて本質的に任意の円弧長さだけ間隔を開けて配置することができる。前述したように、心臓に除細動処置を施すことが必要になり得るし、心臓に除細動処置を施すために適した電気的ショックを供給するように電極32が構成される。
なおも図5を参照すると、電極32は心臓ハーネス20、より詳しくは誘電体37によって波形の素線22に取り付けられている。誘電体は、電流が電極からハーネスへと通過し、それによって除細動のための電流が望ましくなく心臓からそれることがないように、心臓ハーネスから電極を絶縁している。好ましくは、誘電体は、波形の素線22を覆うとともに電極32の少なくとも一部を覆っている。図5の実施形態においては、中央のパネルの波形の素線が誘電体によって覆われているが、右側および左側のパネルは裸の金属部分である。パネルの波形の素線の全てが誘電体で被覆され、それによって電極によって供給される電気的なショックからハーネスを絶縁することが好ましいが、波形の素線の一部あるいは全てを、除細動のためにあるいはペーシングのために心臓の心外膜表面への電気的なショックの供給に用いられる、裸の金属部分とすることができる。
より詳しく後述するように、電極32は、心臓の心外膜表面の近傍にあるいは直接的に接触することが意図されている導電性の第1の放電表面38と、第1の表面の反対側で心臓表面から離れて対向する導電性の第2の放電表面39とを有している。本明細書において用いる「近傍に」という用語は、電極が心臓の心外膜表面のような外側表面の近傍にあるい直接的に接触して配置されることを意味することが意図されている。第1の表面および第2の表面は、典型的に、裸の金属製導電コイルが移植可能な電気除細動器/除細動器(ICDあるいはCRT−D)36のような電力供給源(パルス発生器)から心臓の心外膜表面へと電流を導電することができるように、誘電体37によって覆われない。他の実施形態においては、一つの表面だけを介して選択的に電流を導くために、第1あるいは第2の表面のいずれかを誘電体によって覆うことができる。構造の更なる細部および本発明の導線31および電極33の使用は、心臓ハーネスと共に、本願明細書においてより充分に説明する。
重要なことは、電極32を波形の素線22に取り付けるために用いられているこの誘電体37が、電極の導電性金属コイル33を介して放電されるいかなる電流からも波形の素線を絶縁することである。さらに、本実施形態における誘電体は柔軟であり、最小限に侵襲性な送達のためにより小さな輪郭へと心臓ハーネス20を折り重ねるときに、電極が継目あるいはヒンジの役割を果たすことができるようになっている。したがって、さらに詳細に説明するように(図13および図14を参照)、この心臓ハーネスは、肋間を介した送達、例えば肋骨郭、あるいは心臓にアクセスするために最小限に侵襲性の手術において典型的に用いられる他の領域を介した送達のために、その輪郭を縮小させるべく、電極の長手方向に沿って、その全長方向に折り重ねることができる。典型的に心臓を含む最小限に侵襲性のアプローチは、剣状突起下、肋骨下、あるいは肋間を切開することによってなされる。心臓ハーネスは、折り重ねられると、円形あるいは概ね楕円形の形状に縮小するが、その両方が最小限に侵襲性な手技を助長する。
さらに本発明によると、導線31および電極部分32の断面が図5B、図5Cおよび図5Dに示されている。図5Bに示したように、電極32は、非電導性部材34の周りに螺旋形のパターンで巻き付けられた、コイルワイヤ33を有している。誘電体37は、波形の素線22の端部において電極と棒状アーム30との間に、隙間を開けた接続をもたらしている。電極は、棒アームあるいは波形の素線のいかなる部分にも、接触しあるいは重なることがない。その代わりに、誘電体は、電極と波形の素線の棒状アームとの間に取付手段を提供している。これにより、この誘電体37は、絶縁性の非導電性材料として作用するばかりでなく、波形の素線と電極との間に取付け手段を提供する。誘電体37は、取付箇所において比較的薄いので、非常に柔軟であるとともに電極が心臓ハーネスパネル21と共に柔軟であるようにし、前述したように心臓が鼓動するに連れて膨張しかつ収縮する。
図5Cを参照すると、非導電性部材34は、コイルワイヤ33を越えて距離を開けて延びている。非導電性部材は、好ましくは誘電体37と同じ材料、典型的にシリコンゴムあるいは類似した材料から作られる。誘電体は、シリコンゴムあるいは類似の材料から作られることが好ましいが、パリレン(登録商標)(Union Carbide社)、ポリウレタン、ポリテトラフルオルエチレン、テトラフルオロエチレンおよびePTFEから作ることもできる。明らかなように、この非導電性部材は、素線を電極32に接続するべく、波形の素線22の棒アーム30に誘電体を取り付けるため支持をもたらしている。導電性ワイヤ35を介して電力源36から電流が供給されたときに電極コイル33が通電されるように、導電性ワイヤ35は非導電性部材を通って延びてコイルワイヤ33の近位端に取り付けられている。この導電性ワイヤ35もまた非導電性材料34によって覆われている。図5Dを参照すると、非導電性部材34が心臓ハーネスの底部(尖端)を越えて延び続けるとともに、導電性ワイヤ35が非導電性部材から延び出て電力源36へと延びていることがわかる。図5B〜図5Dに図示されている実施形態においては、心臓ハーネスは、除細動あるいはペーシング機能の間に電極によって供給される電気ショックの電流が心臓ハーネス20によって短絡しないように、誘電体37によって電極から絶縁されている。
心臓ハーネス20は、ニチノールのような超弾性あるいは形状記憶材料である固体ワイヤ部材で作られた波形の素線22から構成されるとともに、電極32から絶縁されることが好ましいが、心臓の心外膜表面に電気ショックを供給するために波形の素線のいくつかあるいはその全てを用いることも可能である。例えば、図6Aに示したように、波形の素線22を形成するために、かつ重要なことには心臓の心外膜表面に電気ショックを供給するために効果的に電流を伝達するために、複合ワイヤ45を用いることができる。この複合ワイヤ45は、例えば銀(Ag)から形成されてニチノール製のチューブ46によって覆われた、導電性のワイヤ47を含んでいる。外側のニチノール製チューブ46の表面導電度を高めるために、きわめて導電性の高いコーティングがニチノール製チューブ上に配設される。例えば、ニチノールチューブは、プラチナ(Pt)、あるいはプラチナイリジウム(Pt−Ir)、または酸化イリジウム(IROX)を含む同等な材料の蒸着層によって覆うことができる。このように製作された複合ワイヤは、ニチノールチューブに起因して伸張し収縮する優れた機械的な性能を有するとともに、電流を導くワイヤ47から生じる高められた電気的な性質、およびプラチナイリジウムの表面層を介して高められた電解/電気化学的な特性を有する。したがって、波形の素線22のいくらかの部分あるいはその全てを複合ワイヤ45から製作すると、心臓ハーネス20は、波形の素線を介して心臓の選択した部分上に除細動ショックを供給することができるとともに、前述したように圧縮力を与えるべく機能する。
図6Aにおける導電性の波形の素線とは対照的に、断面図6Bに示したような非導電性の絶縁された波形の素線22が存在する。前述したように、心臓の心外膜表面上の電気ショックを供給するときに電極を介して供給される電流から素線を絶縁するために、波形の素線22の一部あるいは全てを誘電体37によって覆うことができる。したがって、図6Bに示したように、電極32によって供給される電気ショックに対する絶縁をもたらすために、波形の素線22は誘電体37によって覆われているが、柔軟性および波形の素線の伸張的な特性は維持している。
本発明の重要な観点は、最小限に侵襲的に植設することができるとともに、縫合糸、クリップ、ネジ、接着剤あるいは他の取付手段を必要とすることなしに心臓の心外膜表面に取り付ることができる、心臓ハーネス20を提供することにある。重要なことは、波形の素線22が、その断面形状に応じて、心外膜表面に対し比較的高い摩擦係合を与え得ることである。例えば、図6Cに開示した実施形態において、波形の素線22の断面形状は、円形、矩形、三角形、あるいはその事を言うなら波形の素線と心臓の心外膜表面との間の摩擦係合を増大させる任意の形状とすることができる。図6Cに示したように、(高いのではなく)平らな矩形表面を有している中間の断面形状は、心臓ハーネスの最小限に侵襲性な送達のための小さな輪郭を有しているばかりでなく、心外膜に係合しかつ突き刺さる傾向を有して心臓の心外膜表面に対する摩擦係合を増大させる矩形の縁部を有している。高い摩擦係合性を有したグリップパッド27に接続されている、波形の素線の適切な断面形状により、心臓ハーネスを心臓の心外膜表面に取り付けるための縫合、クリップ止めあるいは他の取付手段は不要となる。
図7Aおよび図7Bに示した他の実施形態においては、図5の実施形態に比較すると、心臓ハーネス20のための異なる構造および電極32が示されている。図7Aおよび図7Bにおいては、3つの電極が、電極の間で延びている波形の素線22を有した3枚のパネル21を分離していることが示されている。前述した実施形態と同様に、拡張および収縮の機能の間に波形の素線が伸張しかつ収縮し、かつ両方の機能の間に圧縮力を負荷することができるように、ばね23は波形の素線から形成されている。図7Aの向こう側は、明快さのために示されていない。心臓の外周における電極の位置は選択の問題であり、図7Aの実施形態においては、電極は120度で等しい間隔を開けることができる。それとは別に、右心室を通してより多くの電気ショックを供給することが重要であり、左心室よりも右心室に接近させて電極を位置決めすることが必要である。同様に、右心室とは反対に左心室に電気ショックを供給することがさらに重要である。従つて、電極の位置ぎめは、他の実施形態と同様に選択の問題である。
さらに図7Aおよび図7Bを参照すると、この実施形態においては、電極によって供給される電気ショックが、心尖13により近い心臓の下側部分を含めて心臓の心外膜表面に供給されることを確実なものとするために、電極32は心臓ハーネス20の底部あるいは尖端部を越えて延びている。したがって、電極22は遠位端50および近位端51を有しており、その近位端が心尖13により接近し配置され、かつその遠位端が心臓のベースあるいは上側部分により接近して配置されている。本明細書において、遠位側とは人体に入り込むとともに担当医から離れることを意味し、かつ近位側とは人体の外側により接近しかつ担当医により接近することを意味することが意図されている。電極の近位端は心尖により接近して配置され、心尖により接近させて電気ショックを供給する能力を含むいくつかの機能を提供する。電極の近位端はまた、心臓ハーネス20およびパネル21のための支持を提供するべく機能し、(本願明細書において後に説明するような)送達の間だけではなく、滑ることなしに心臓上にハーネスを保持するべくパネルを分離して心臓の心外膜表面を握持する際にも、支持を与える。
図7Aおよび図7Bの実施形態は、心臓ハーネス20の3枚のパネル21を分離する電極32を示しているが、個々の適用に合わせてより多くあるいはより少ない電極およびパネルを設けることができる。例えば、好ましい一実施形態においては、4つの電極32が4枚のパネル21を分離し、2つの電極を左心室と対向する側に配置し、2つの電極を右心室と対向する側に配置することができる。この実施形態においては、好ましくは4つの電極のすべてが用いられ、右心室と対向する側の2つの電極の第1の組が1つの(共通する)電極として作動し、左心室に対向する側の2つの電極の第2の組が反対側の(共通する)電極として作動する。あるいは、2つの電極が作動し、他の2つの電極は必要とされない限り作動しないダミー電極としてすることができる。
現在、商業的に入手できる、移植可能な電気的除細動器/除細動器(ICD)は、心臓に除細動処置を施すために約30〜40ジュールを供給することができる。本発明については、本発明の心臓ハーネス20の電極22が30〜40ジュール未満の除細動ショックを供給することが好ましい。商業的に入手可能なICDは、30〜40ジュール未満の電力を供給する電極を有した本発明の心臓ハーネスシステムに合わせて、より低いパワーレべルを提供するように改良することができる。一般に、電極構造の1つの目的は、心筋の全体にわたって一様な電流密度分布を生み出すことにある。したがって、使用する電極の数に加えて、サイズ、形状および相対位置のすべてが誘起される電流の密度分布に影響を与える。したがって、1〜4つの電極が本発明の好ましい実施形態であるが、5〜8つの電極もまた想像し得る。
本発明によれば、心臓ハーネスおよび関連する心臓リズム管理装置は、除細動ショックを提供するためだけに用いるのではなく、両方の心室の同期性の治療、再同期療法、両室ペーシング、および左心室のペーシングあるいは右心室ペーシングのためのペーシング/センシング器として用いることができる。図8A〜図8Dに示したように、心臓10は、右心室11および左心室12を露出するために断面図として示されている。心臓ハーネス20は、心臓の外側表面のまわりに、好ましくは心臓の心外膜表面上に取り付けられており、かつ多数の電極がこの心臓ハーネスに関連付けられている。より詳しくは、電極32は心臓ハーネスに取り付けられ、かつ右心室および左心室と対向する側において心臓の外周に配置されている。万一細動が生じたときに、この電極は、心臓に除細動処置を施すために、心筋および左右の心室を介して電気ショックを与える。さらに心臓ハーネス上に取り付けられているものは、心臓をモニタしてペースメーカーにデータを提供するように機能する、ぺーシング/センシング用の導線40である。必要とされる場合、このペースメーカーは、心室を同期させるためにペーシング刺激を与え、あるいはまた左心室ペーシング、右心室ペーシング、または両室ペーシングを与える。したがって、例えば図8Cにおいては、ぺーシング/センシング用の導線40の対が左右の心室の自由な壁に隣接して配置され、かつ心室を同期させるべくペーシング刺激を与えるために、または左心室ペーシング、右心室ペーシング、あるいは両室ペーシングを与えるために用いることができる。近位側のYコネクタを使用することは、Oscor社のiLink-B15-10のようなポストジェネレータ(postgenerator)への移行を簡単なものとする。このiLink-B15-10は、図8Dに示したように、右心室および左心室の自由な壁のぺーシング/センシング用導線40を接続するために用いることができる。
本発明の他の実施形態においては、図9〜図14に示したように、心臓ハーネス60は前述した心臓ハーネス20に類似している。心臓ハーネス60もまた、波形の素線62からなるパネル61を有している。開示された実施形態において、波形の素線は連続していて後述するようにコイルを通って延びている。この波形の素線は、先の実施形態と同様にばね要素63として作動し、方向指示線64に沿って伸張しかつ収縮する。心臓ハーネス60は、ベース部あるいは上端部65と、尖部あるいは下端部66とを有している。この心臓ハーネス60に安定性を付加するとともに波形の素線62の間の隙間の維持を助けるために、グリップパッド67は、好ましくはばねの頂点68において、隣接する素線に接続されている。あるいは、グリップパッド67は1つのばね要素の頂点から1つのばね要素の側部69へと取り付けることができ、またはこのグリップパッドは1つのばねの側部から隣接する波形の素線において隣接するばねの側部へと取り付けることができる。さらに本発明によれば、図9〜図14に示したように、心臓ハーネス60に安定性およびいくらかの機械的な剛性を付加するために、コイル62は波形の素線と織り交ぜられ、それらが共にパネル61を画成する。コイルは、ニチノールあるいは類似の材料(ステンレス鋼、MP35N)といったワイヤのコイルから典型的に形成され、かつその軸線方向の長さに沿って非常に柔軟である。コイル72は、コイル頂端73およびコイルベース74を有していて、ハーネスベース65およびハーネス頂端66に一致している。コイルは、波形の素線がコイルの隙間を通ってかつ非導電性材料を通って延びるように、非導電性材料と共に射出成形することができる。非導電性材料はまた隙間を埋めて波形の素線がコイルと接触することを防止しており、これにより波形の素線とコイルとの間に金属同士の接触はない好ましくは、この非導電性材料は、前述したようなシリコンゴムあるいは同等の材料から形成された誘電体77である。さらに、誘電体78はまた、(例えば、胸郭を経由する)体外除細動器あるいは他の手段を介して除細動ショックあるいはペーシング刺激が心臓に供給されるときに波形の素線を覆う。
重要なことは、コイル72が、非常に柔軟であるという機能を実行してコイルと波形の素線との間に取付け手段を提供するばかりでなく、心臓の心外膜表面上へのハーネス60の配置を助ける構造的な柱あるいは脊骨を提供するということである。したがって、図12の例のために示すごとく、心臓ハーネス60は、本願明細書において後に詳述するように、心臓上に配置されるとともに最小限に侵襲性の手段によって送達されてきた。コイル72は、その軸線方向の長さに沿って非常に柔軟であるが、実質的に図12に示したように心臓ハーネス60が心臓上に配置されるまで、コイルおよびハーネス65のベース部74が心尖上で心臓の心外膜表面に沿ってスライドするようにコイルの頂端73を押せるように、充分な柱強度を有している。
図9および図11に示した実施形態を参照すると、心臓ハーネス60は、複数のパネル61および複数のコイル72を有している。所望の結果を達成するために、より多くあるいはより少ないパネルおよびコイルを用いることができる。例えば、図9および図11においては8つのコイルが示されているが、各コイルの間のスペースにおいて波形の素線62がより長くなるので、より少ないコイルがより高い柔軟性をハーネスにもたらすこともあり得る。さらに、コイルの直径は、心臓上へのハーネスの送達を助けるべく、柔軟性および/または柱強度を増減させるために変更することができる。コイルは、好ましくは、その断面が円形であるように密に巻かれたうず巻形あるいは螺旋形の、円形断面のワイヤである。しかしながら、コイルの断面形状は円形である必要はなく、それが楕円形、矩形、あるいは他の形状である場合にはより有利となり得る。したがって、コイル72が楕円形であり、その楕円形の長軸が心臓の外周と平行である場合には、このコイルはその軸線に沿って撓曲しながらも、心臓ハーネス60の送達を助けるために実質的なコラム強度をもたらす。さらに、楕円形のコイルは最小限に侵襲性の送達のための、より小さな輪郭をもらたす。ワイヤの断面形状もまた丸く/円形である必要はなく、小さな輪郭での送達のために矩形の平らなリボンから構成することができる。コイルもまた異なる形状とすることができ、例えば、それらは閉じたコイル、開いたコイル、レーザ切断したコイル、ワイヤを巻いたコイル、複数の糸状のコイル、またはコイル状の素線自体をコイル状に巻く(すなわち、多重コイル)こともできる。電極はワイヤ製のコイルである必要はなく、むしろ電極に沿って延びるジグザグ形状のワイヤ(図示せず)によって電極を形成することができる。そのような設計は、柔軟で疲労に対する耐久性が高く、それにもかかわらず除細動ショックを与えることができる。
図9〜図12に示した実施形態の心臓ハーネス60は、図13および図14に示したように折り曲げることができるが、最小限に侵襲性の送達のために非常に柔軟なままである。コイル72は、心臓ハーネスをコイルの軸線に沿って折り曲げることができるように、ヒンジあるいは脊骨として作用する。隣接する波形の素線62を典型的に接続するグリップパッドは、これらの実施形態においては明快さのために省略されているが、前述したようにそれらを用いることができる。
他の実施形態においては、図9〜図12に示した実施形態と同様に、心臓ハーネス60がコイル72および電極32を有している。この実施形態においては、前述した実施形態と同様に、一連の波形の素線22がコイルと電極との間で延びてパネル21を形成している。この実施形態においては、例えば、コイルおよび電極がヒンジ領域を形成し、最小限に侵襲性の送達のためにコイルおよび電極の軸線に沿ってパネルを折り曲げることができるようになっている。さらに、この実施形態においては、2つのコイルおよび4つ電極があり、そのうちの2つの電極が右心室に隣接して配置され、残りの2つの電極が左心室に隣接して配置されている。コイルは、ヒンジとして作用するばかりでなく前述したように柱強度をもたらし、例えば肋骨の間の肋間腔を介して心臓ハーネスを最小限に侵襲的に送達し、次いで心臓上へとハーネスを押すことができるようにする。同様に、電極も同様に柱強度をもたらすが、それにもかかわらずコイルのように、その軸線に沿って柔軟なままである。
図15A〜図15Dを参照すると、電極32あるいはコイル72は、心臓ハーネスの内側表面(心臓に接触する)または外側表面(心臓と間隔を開けて配置される)に取り付けることができる。したがって、心臓ハーネス20は、何の中断もなしに心臓の周りで円周方向に延びる連続した波形の素線22を有する。波形の素線は、前述したように、グリップパッド27を含む何らかの相互接続手段によって相互に接続される。この実施形態においては、電極32あるいはコイル72、またはその両方が、心臓ハーネス20の内側表面80あるいは外側表面81に取り付けられる。電極およびコイルを心臓ハーネスに接続するために、誘電体82が電極あるいはコイルの周りにかつ波形の素線の周りにモールド成形されている。あるいは、図15Dに示したように、電極32あるいはコイル72は、波形の素線22の部分を受け入れるように構成された切欠き83を電極(またはコイル)に形成することにより、固定手段に形成することができる波形の素線22は、金属の重なり/接触がないように、コイルあるいは電極から間隔を開けて配置される。切欠き83は、誘電体、好ましくはシリコンゴム、または心臓ハーネスの波形の素線を電極から絶縁する類似の材料で満たされるが、電極あるいはコイルが心臓ハーネスの波形の素線にしっかりと取り付けられたままとなるように確実な取付け手段を提供する。重要なことは、電極32が、除細動ショックを供給するために心臓の心外膜表面に接触している必要はないということである。したがって、電極32は、心臓ハーネスの外側表面81に取り付けられることができ、心臓の心外膜表面と物理的に接触しないが、それにもかかわらず前述したように除細動ショックを与えることができる。
ここで理解されるべきことは、心臓ハーネスのいくつかの実施形態を製作することができるとともに、そのような実施形態が様々な構造、サイズ、柔軟性等を有することができることである。そのような心臓ハーネスは、様々な金属、織物、プラスチックおよび編まれた繊維を含む多くの適切な材料から製作することができる。適切な材料には、超弾性材料、および形状記憶特性を示す材料が含まれる。例えば、好ましい実施形態の心臓ハーネスはニチノールから製作される。形状記憶製の誘電体もまた用いることができる。そのような形状記憶誘電体には、mnemoScienceから入手可能な、オリゴ(eカプロラクトン)ジメタクリレート及び/又はポリ(eカプロラクトン)を含んでいる、形状記憶ポリウレタンあるいは他の誘電体を含めることができる。
本発明によると、図16に示したように、波形の素線22および62は、締付具90によることを含む様々な方法で形成することができる。この締付具90は、波形の素線22および62の形状を定める予め選択されたパターンに配置された、多くの心棒91を有している。心棒の位置が波形の素線の形状を定め、かつ前に開示したばねの頂端が同じ位相であるか位相がずれるかを決定する。心棒91の形状は、曲率半径に関するばねの形状、または鍵穴形状、U字形、および類似の他の形状を定める。心棒の間の隙間は、波形の素線のピッチおよび振幅を決定するが、それは選択の問題である。好ましくは、1つの例示的な実施形態においては、0.012インチの直径を有したニチノールワイヤ92、あるいは他の超弾性あるいは形状記憶ワイヤが、波形の素線を形成するために心棒91の間に織り上げられる。個々の必要性に合わせて他のワイヤー直径を用いることができるが、それは約0.007インチ〜約0.020インチの範囲とすることができる。他の断面形状のワイヤ、特に平らな矩形に形付けられたワイヤおよび楕円形に形付けられたワイヤを締付具90と共に用いることは想像できる。次いで、ニチノールワイヤは、形状記憶特性をもたらすために熱処理される。どの自由端もレーザ溶着、レーザー溶接、あるいはニチノールの使用に整合する他のタイプの類似の接続によって一体に接続することができるし、設計に応じて、自由端として残存させつつそれらを非外傷性に保つために誘電体によって密封することもできる。
再び図16を参照すると、形状記憶特徴を与えるためにニチノールワイヤを熱処理した後、このワイヤは、外径が0.029インチで内径が0.012インチのNuSilシリコンチューブ(Helix Medical社)で被覆される。その後、この被覆されたニチノールワイヤーは、この心臓ハーネスに関連付けられた電極または心臓に除細動ショックを提供する他の任意の装置からの、あらゆる電気ショックからニチノールワイヤーを絶縁する液体シリコンゴムを移入するために、成形型の内部に配置される。このシリコンチューブの寸法は、ワイヤの寸法に合わせて変化する。
図17に示されている本発明の別の実施形態においては、心臓ハーネス100は、前述したものと同様に複数のパネル101を有している。さらに、他の実施形態のために前述したように、波形の素線102は、パネルを形成するとともに方向線104に沿って伸張しかつ収縮する複数のばね要素103を有している。図17に示した心臓ハーネス100においては、ばね要素の振幅は他の実施形態におけるそれよりも相対的に小さく、ピッチはより大きくなっており、単位長さ当たりでは他の実施形態に対しより多くのばね要素が存在することを意味している。したがって、この心臓ハーネス100は、拡張で収縮サイクルの間に心臓が膨張しかつ収縮するにつれて、より高い曲げ力を発生させる。言い換えると、心臓ハーネス100のばね要素103は伸張に抵抗し、それによって拡張作用の間に心臓の壁により高い圧縮力を与えるとともに、心臓が収縮するにつれて収縮作用の間にこれらのより高い曲げ力を放出する。ここで重要なことは、ハーネスのベース部から始まって頂端に向かって延びるように、パネルの範囲内において振幅およびピッチが変動する波形の素線102を提供することである。例えば、ベース部あるいはハーネスにより近い波形の素線のピッチおよび振幅は、頂端あるいはハーネスの下部により近い波形の素線よりも、心臓の心外膜表面上に高い圧縮力を与えるように構成することができる。1つの波形の素線から次へと、ばね要素の振幅およびピッチを変動させることもまた望ましい。さらに、複数のパネルを設けるときに、1つのパネルの波形の素線のばね要素に1つの振幅およびピッチを与えるとともに、隣接するパネルの波形の素線のばね要素に異なる振幅およびピッチを与えることが有利である。図17の実施形態は、他の実施形態において前述したような電極またはコイルから構成することができるが、その両方がハーネスに柱による支持を与えることによって心臓ハーネスの送達を助ける。
本発明の心臓ハーネスは、電極あるいはコイルのいずれかを有するが、図18A〜図18Cおよび図19A〜図19Cに示したように、射出成形技術を用いて形成することができる。図18A〜図18Cにおける成形型は、前述した波形の素線を受け入れるための波形パターンの溝を除いて、図19A〜図19Cに示した成形型と実質的と同じである。図18Aを参照すると、底部モールド110は、心臓ハーネスおよびコイルあるいは電極を受け入れるためのパターンを有している。図示のために、図18Bが尖端モールド111を示し、図18Cは成形型112の端面図を示している。尖端モールドは底部モールドに嵌合する。明らかなように、心臓ハーネスの波形の素線は波形の素線溝113に嵌入するが、、それはコイル溝114内へと延びている。前述した電極あるいはコイルは、コイル溝114に嵌入する。注入ポート115は成形型の締付具に沿った中ほどに配置されているが、ポリマーの流れが一様でむらのないことを確実にするために複数の注入ポートを用いることができる。好ましくは、シリコンゴムが波形の素線および電極あるいはコイルの上に流れるように、シリコンゴムは成形型の内部に射出される。心臓ハーネスの組立体を成形型から取り出すときに、波形の素線は、図示したパターンのシリコンゴムによって電極あるいはコイルに取り付けられる。他のパターンが望しいこともあり得るが、波形の素線と電極あるいはコイルとの間の堅固な取り付けを確実にする任意のパターンを提供するために、成形型は容易に変更される。重要なことは、コイルと波形の素線が互いに絶縁されることを確実にするべく、コイルの内部、および必要に応じてコイル内の隙間に誘電体あるいはシリコンゴムを射出するために、図18および図19の成形型を用いることができることである。シリコンゴムは、コイルの内側に充満し、コイル内の隙間から押し出され、コイルの内側および外側の表面上に皮膜を形成する。この皮膜は、説明したようにそれらが電流を伝えることができるように電極コイルの部分を露出させるべく、(後述するように)選択的に取り除かれる。さらに、望ましいことは、金属製のコイルと金属製の波形の素線との間のいかなる摩擦性の係合をも減少させるために、コイルおよび波形の素線が重ならずあるいは接触しないことである。心臓ハーネスと心臓の心外膜表面との間の摩擦性の係合を増大させるために、心外膜の表面に接触する小さい突起(図示せず)をコイルの表面に沿ってモールド成形することができる。グリップパッドに関して前述したように、これらの小さい突起は、好ましくはシリコンゴムから形成されるが、縫合糸、クリップ、あるいは他の機械的な取付け手段を用いることなしにハーネスを心臓に取り付けるために、心臓の心外膜表面に係合して、コイルと心臓の表面との間の摩擦性の係合を増大させる。
さらに本発明によると、図20〜図23に示したように、電極120を有している導線の一部が導電コイル121の形態で示されている。このコイルは、電気ショックが電極を通って、かつ心臓の心筋を通って伝達されるように、導電性の任意の適したワイヤから形成することができる。この実施形態においては、このコイルワイヤは、誘電体122によってらせん構造に包まれているが、コイルが優れた耐疲労性および軸線方向の柔軟性を有する限りにおいて、うず巻形あるいは他の構造もまた可能である。重要なことは、導電コイル121が、コイルが鼓動している心臓の表面上にまたはその近傍にあることによって必要とされる、高い耐疲労性を有することであり、その結果としてコイルは心臓の膨張および収縮に応じ、その軸線方向の長さに沿って絶えず湾曲する。ワイヤの断面形状は、好ましくは丸くあるいは円形であるが、最小限に侵襲性な送達のために電極の輪郭を減少させるべく、楕円形あるいは平ら(矩形)とすることもできる。円形、楕円形、あるいは平らなワイヤは、送達を目的とした相対的に小さい輪郭に加えて、相対的に高い耐疲労性を有する。また、平らなワイヤコイルは、軸線に沿って非常に柔軟であるとともに、電気ショックを供給するための比較的大きい表面領域を有する。電極120は、第1の表面123および第2の表面124を有している。第1の表面123は心臓の心外膜表面あるいは心臓の他の部分の近傍にあるが、第2の表面は第1の表面の反対側で心臓の心外膜表面に対して間隔を開けて配置される。導電性ワイヤ(図示せず)は、誘電体122を通って延びるとともにコイルに沿った1つ若しくは複数の場所においてコイルワイヤ121に取り付けられ、かつその他端は電力源(例えばICD)に接続される。図22に示したように、電極120の断面形状は円形とすることができるし、あるいは図23に示したように、最小限に侵襲性な送達のための減少させた輪郭のために楕円形とすることができる。電極120のための他の断面形状は、個々の必要性に応じて利用可能である。これらの断面形状の全てが比較的高い耐疲労性を有する。図22および図23に示したように、電極から電力源(パルス発生器、ICD、CRT−D、ペースメーカー、その他)へと1つ若しくは複数の導電性のワイヤを支持するために、複数の管腔125はを設けることができる。これらの管腔はまた、心臓をモニタすることができるように、心臓上あるいは心臓内のセンサからペースメーカへとデータを送信するセンシング用ワイヤーを支持することもできる。さらに、これらの管腔125は、薬剤(治療薬、ステロイド、その他)の送達、蛍光X線透視検査下における可視性のための染料射出、電極およびハーネスの送達を容易にするためのガイドワイヤ(図示せず)あるいは針状体の支持、またはその他の目的といった、他の目的のために用いることができる。管腔125は、コイルのコラム剛性がガイドワイヤあるいは針状体によって増大するような方法で、あるいは必要に応じて柱剛性を変更するやり方で、ガイドワイヤ(図示せず)あるいは針状体を支持するために用いることができる。管腔125内のガイドワイヤあるいは針状体でコイルの柱剛性を変更することにより、心臓ハーネスを(後述するように)心臓上へと押す性能が向上する。ガイドワイヤあるいは針状体は、ある程度、心臓上への送達および移植の間にコイル、したがって心臓ハーネスを操縦するために用いることができる。管腔125内のガイドワイヤあるいは針状体は、コイル(電極)がより柔軟かつ非外傷性となるように、心臓ハーネスを植設した後に取り除くことができる。
本発明によると、図20〜図23に示したように、電極120は、除細動に用いる電気導管を提供するばかりでなく、心臓ハーネスに取り付けられたときに最小限に侵襲性の手段によるハーネスの送達を助ける充分な柱強度を有している。さらに記載するように、コイル121は、その軸線方向の長さに沿って非常に柔軟な電極をもたらすとともに、心臓ハーネスに接続されたときにハーネスの送達を助ける相当量のコラム強度をもたらす。
さらに図20〜図23の本発明によると、電極120を被覆するためにシリコンゴム126のような誘電体を用いることができる。電極120が心臓ハーネスに取り付けられていると、(前述した)成形工程の間に、シリコンゴム126は電極120の全体を被覆する。裸の金属コイルが心臓の心外膜表面に露出するように、第1の表面123および第2の表面124(あるいはこれらの表面の部分)を露出させるべく、コイル121からシリコンゴム皮膜の部分を取り除くために、ソーダブラスチング(または他の公知の材料除去プロセス)を用いることができる。好ましくは、シリコンゴムは第1の表面および第2の表面から取り除かれるが、心臓の心外膜表面にの近傍にあるいは接触している第1の表面のみからシリコンゴムを取り除くことも有利である。電極120は、露出していてショックを送達するベアメタル表面領域のすべてを本質的に含む、表面領域128を有している。電極1つ当たりの表面領域の量は、個々の適用に応じて大きく変化させることができるが、約50mmから約600mmの範囲の表面領域が典型的である。(心臓とは反対向きの)第2の表面のみからシリコンゴムを取り除き、第1の表面をシリコンゴムで被覆したまま残すことも可能であるが、裸の金属である第2の表面からなお電気ショックを供給することができる、しかしながら、この電気ショックは、他の実施形態と同様に効率的に供給されるわけではない。電極の寸法は、治療する心臓のサイズの変化により、心臓ハーネスのサイズとともに大きく変化させることができるが、一般的には電極の長さは概ね2cm〜16cmの範囲である。コイル121は、約1cm〜約12cmの範囲の全長を有する。1つ若しくは複数の電極を有した商業的に入手可能な導線は、いくつかの供給元から入手可能であり、本発明の心臓ハーネスと共に用いることができる。1つ若しくは複数の電極を有した商業的に入手可能な導線は、Guidant Corporation(セントポール、ミネソタ州)、St. Jude Medical(ミネアポリス、ミネソタ州)およびMedtronic Corporation(ミネアポリス、ミネソタ州)から入手することができる。本発明の心臓ハーネスと組合せた(おそらくはいくつかの変更を伴う)使用のために入手可能な除細動およびペーシングシステムを含めた、商業的に入手可能な心臓リズム管理装置の更なる実例には、Guidant Corporation(セントポール、ミネソタ州)から入手可能なCONTAK CD(登録商標)、INSIGNIA(登録商標)Plusペースメーカ、FLEXTREND(登録商標)導線、VITALITY(商標)AVT (登録商標)ICD、ENDOTAK RELIANCE(登録商標)除細動導線、およびMedtronic社(ミネアポリス、ミネソタ州)から入手可能なInSync Systemが含まれる。
他の実施形態においては、図24に示したように、導電コイル121は電極120の長手方向に沿って連続している必要はなく、空間的に分離しあるいは電極に沿って互い違いにすることができる。例えば、複数のコイル部分127は、図20に示したコイル121と同様に、各コイル部分が電力源から電流を受け入れるように導電性ワイヤに取り付けつつ、電極に沿って間隔を開けて配置することができる。各コイル部分は、その長さを約0.5cm〜約2.0cmとし、かつ電極に沿って約0.5cm〜約4cmの間隔を開けて配置することができる。本願明細書において用いる寸法は単なる例示であり、個々の適用に合わせて変更することができる。
ソーダブラスチングあるいは同様の技術を用いて電極120からシリコンゴムの一部を取り除くときには、マスクした部分が非導電性となるように、電極の一部をマスクしたままあるいは保護したままにしておくことが望ましい。例えば、左心室の反対側に配置された2つの電極のマスキングした部分により、望ましい角度でショックが心筋および心室を通るように特定の方向に向けることが可能である。ショックは、電極上のマスキングの位置によって決定される特定の角度において、一方の電極の裸の(マスクされていない)金属部分から、心筋および心室通って反対側の電極の裸の(マスクされていない)金属部分へと移動する。
本発明に関連する心臓リズム管理装置は、心臓リズムの障害を治療するために心臓の選択された室に電気刺激を与える移植可能なデバイスであり、そして、ペースメーカーおよび移植可能な電気的除細動器/除細動器あるいはまた心臓再同期治療装置(CRT−D)を含むことができる。ペースメーカーは、時間を合わせたペーシングパルスで心臓をぺーシングする心臓リズム管理装置である。前述したように、ペースメーカーを用いる一般的な状態は、徐脈(心室拍動数があまりに低い)および頻脈(心臓リズムがあまりに速い)の治療である。本明細書において用いるように、ペースメーカーは、心房あるいは心室の細動を停止させるために電気的除細動あるいは除細動ショックを供給するといったそれが実行し得る他の機能とは関係なしに、ペーシングの機能を有する任意の心臓リズム管理装置である。本発明の重要な特徴は、両方の心室の同期性を治療するためにペーシング機能を提供する能力を有した心臓ハーネスを提供することである。この目的を達成するために、関連付けられた導線および電極を有するペースメーカーは、本発明の心臓ハーネスに関連付けられかつ組み込まれる。ペーシング/センシング電極は、単独であるいは除細動処置を施す電極と組み合わされ、心室を同期させて心機能を高めるための治療を提供する。
本発明によると、ペースメーカーおよびペーシング/センシング電極は、心臓ハーネスの設計に組み込まれる。図25Aおよび図25Bに示したように、その遠位端に除細動電極130を有した導線(図示せず)は、その一部が示されているが、除細動電気ショックを心臓の心外膜表面に供給するために用いるワイヤコイル131が組み込まれているだけでなく、ペーシング/センシング電極132も組み込まれている。除細動電極130は、本願明細書において前述したあらゆる心臓ハーネスの実施形態に取り付けることができる。この実施形態においては、心臓機能に関するデータを提供するために、非貫通性のペーシング/センシング電極132が除細動電極130に組み合わせられている。より詳しくは、本実施形態におけるペーシング/センシング電極132は心筋を貫通していないが、他の実施形態においてはペーシングあるいはセンシング電極が心筋を貫通することが有利であり得る。非貫通性のペーシング/センシング電極の1つの利点は、冠状動脈を穿刺しまたは心外膜あるいは心筋に更なる損傷を生じさせる危険がないことである。また、ペーシング/センシング電極上に貫通機構(とげあるいはネジ)を設ける必要がないので、設計が容易である。ペーシング/センシング電極132は心臓の心外膜表面と直接接触しており、導線線133を介してパルス発生器(ペースメーカー)にデータを供給すると、このパルス発生器はデータを解釈し、心室の再同期療法治療、左心室ペーシング、右心室ペーシング、両方の心室の同期性、あるいはまた両室ペーシングを達成するためにに必要なあらゆるぺーシング機能を提供する。図25Bに示したように、このペーシング/センシング電極132は心臓ハーネス134の一部に組み込まれ、より詳しくは、波形の素線135は誘電体136によってペーシング/センシング電極に取り付けられる。図25Aおよび図25Bから判るように、除細動電極130のワイヤコイル131は誘電体136に巻き付けられており、そしてこの誘電体は両方のワイヤコイル131および心臓ハーネスの波形の素線135からペーシング/センシング電極132を絶縁している。複数のペーシング/センシング電極132は除細動電極130に沿って組み込むことができ、かつ複数のペーシングおよびセンシング電極は心臓ハーネスに組み合わされている他の電極上に組み込むことができる。
好ましい実施形態の1つにおいて、これらのペーシング/センシング電極132を用いる(図8A〜図8Dに示したような)多部位ペーシングは、両方の心室の同期性を治療するために再同期療法による治療を可能とする。多部位ペーシングは、患者の必要性に応じて両室ペーシング、右心室ペーシング、左心室ペーシングを提供するために、ペーシング/センシング電極の位置ぎめを可能とする。
他の実施形態においては、図26A〜図26Cに示したように、本願明細書に開示した心臓ハーネスのあらゆる実施形態への取り付けのために、除細動電極はペーシング/センシング電極と組み合わせられる。この実施形態において、この除細動電極130は、らせん状に巻き付けられたワイヤコイル131から形成される。このらせん状のワイヤは、単一の素線、あるいはコイルを形成するために一緒に束ねられた4本のワイヤからなる4糸状ワイヤから成る、巻かれたワイヤとすることができる。ワイヤコイル131は、図25Aおよび図25Bの実施形態のために説明したのと同様な方法で、誘電体136に巻き付けられている。この実施形態においては、ペーシング/センシング電極132は、単極式動作のための単一のリング、および双極式動作のための2つのリングの形態となっている。ペーシング/センシング電極リング132は除細動電極ワイヤコイル131と同軸に取り付けられており、ワイヤコイルからの導線およびペーシング/センシング用環状電極は誘電体136を通って延びるようにかつ互いに絶縁されて示されている。除細動電極130およびペーシング/センシング用電極リング132からの導線は、パルス発生器(ICD、CRT−D及び/又はペースメーカー)に延びる一般的な導線133に束ねることができる。図26A〜図26Cより分かるように、ペーシング/センシング電極リング132は、心臓の心外膜表面への電極リングによる選択的な接触を確実にするために、除細動電極コイル131よりいくらか大きい直径を有している。好ましくは、ペーシング/センシング電極リング(双極式)のいくつかの対が、心臓ハーネス上に配置され、例えば左心室の自由な壁にと接触するように配置される。多部位ペーシングは、ペーシング/センシング電極リング132が、ペーシングおよび再同期療法の両方を並行させるために用いることを可能にする。さらに、ペーシング/センシング電極リング132は、除細動電極130がない場合にも用いることができる。細動除去電極に対する心臓ハーネスの成型に関する先の開示は、ペーシング/センシング電極リングに等しく同様にあてはまる。ワイヤコイル131およびペーシング/センシング電極リング32は、ステンレス鋼チューブのレーザ切断、あるいは生体適合性の白金線のようなワイヤの形態の導電性の高い材料を用いることを含む、いくつか方法で製作することができる。先に開示したように、ワイヤコイル131は、高められた柔軟性および心臓の心外膜表面に対する順応性のために、かつ生体適合性のために、4本糸のワイヤ(プラチナ)とすることができる。ペーシング/センシング電極の表面は、適用に応じて大きく変更することができる。一例として、一つの実施形態においては、ペーシング/センシング電極の表面領域は約2平方ミリメートル〜約12平方ミリメートルの範囲であるが、この範囲は実質的に変更することができる。開示した実施形態は除細動電極と組み合わせられたペーシング/センシング電極を示しているが、ペーシング/センシング電極は、別々に形成し、除細動処置を施す電極の有無にかかわらず心臓ハーネスに取り付けることができる。
本願明細書に開示される除細動電極130は、商業的に入手可能なペーシング/センシング電極および導線と用いることができる。例えば、Oscor(Model HT 52PB)心内膜/受動固定導線は、本願明細書において先に開示したものと同じ成形型を用いて除細動電極に導線をモールド成形することにより、除細動電極130と一体化することができる。
心臓リズム管理装置を心臓ハーネスに組み込む、先に開示した本発明は、特に鬱血性心不全に苦しんでいる患者に有利ないくつかの治療様式を組み合わせる。この心臓ハーネスは心臓上に圧縮力を与え、それによって壁応力を軽減し、心機能を高める。心臓ハーネスに組み合わされている除細動およびペーシング/センシング電極は、ICDおよびペースメーカーと共に、鬱血性心不全に関連する多くの疾病を修正するために数多くの治療オプションを提供する。前述した除細動機能に加えて、この心臓リズム装置は、心房または心室の収縮の共調を改善するために、1つ若しくは複数の心室に電気的なペーシング刺激を提供することができるが、それは再同期療法と呼ばれている。心臓再同期療法は、1つ若しくは複数の心臓の部屋、典型的に心室に付加されるペーシング刺激であり、心房あるいはまた心室の同期した両方向の収縮を回復させあるいは維持し、それによってポンプ送りの効率を改善する。再同期ペーシングは、同期されたペーシングモードによって両方の心室をペーシングすることを含む。例えば、心室の収縮シーケンスの同期をずらすための、心臓の心外膜表面上の様々な部位における2箇所以上の部位のペーシング(多部位ペーシング)は、肥大型閉塞性心筋症の患者の治療となり得るが、多部位ペーシングによって非同期の収縮を作り出すことは心室の異常な収縮機能を減少させる。さらに、再同期治療は、徐脈ペーシングモードに同期したペーシングを付け加えることによって実施することができるが、1つ若しくは複数のセンシングおよびペーシングイベントに対する定められた時間の関係において、1つ若しくは複数の同期ペーシング部位にぺーシングが供給される。同期される室のみのペーシングの実例は、左心室のみの同期ペーシングであり、同期される室における速度は左右の心室において個別である。左心室のみのペーシングが有利であるが、心室内の伝導速度は、左心室のみにおけるぺーシングが、通常の右心室ペーシングまたは心室ペーシングよりもこの心室によるものの方が、より調整された収縮となるようなものである。さらに、同期ペーシングは、左心室、右心室、あるいは両方の心室といった、単一の室の多くの部位に適用することもできる。本発明に関連するペースメーカーは、典型的に患者の胸部の皮下に挿入されるとともに、センシングおよびペーシングの電極にペースメーカーを接続するために、前述したようなペーシング電極に螺合する導線を有している。このペースメーカーは、心臓の表面上に配設された電極を介して、内在的な心臓の電気活性をセンシングする。ペースメーカーは周知の技術であり、任意の商業的に入手可能なペースメーカー、あるいは組み合わされた除細動器/ペースメーカーを、本発明に基づいて用いることができる。
本発明の心臓ハーネスおよび関連する心臓リズム管理装置システムは、左心室ペーシングを提供するために設計することができる。左心室ペーシングにおいては、左右の心室の機械的な収縮を検知すると、自然発生的な信号を初期的に検知する。正常な右心機能を有した心臓においては、(P波として公知の)右側の心房活動の初期の検知と右心室の機械的な収縮との間のタイミングを提供するために、右側の機械的な房室の遅れがモニタされる。左心室はペーシングを提供するために制御されるが、それは、例えば右側の機械的な収縮と同時あるいはまさに先行するといった、右側の機械的な収縮に対する望ましい時間関係における左心室の機械的な収縮に帰着する。心送血量がインピーダンスの測定によってモニタされ、心送血量を最大化するために左心室のペーシングが調節される。本願明細書において開示されるペーシング/センシング電極の適切な位置ぎめは、必要とされるセンシング機能および左心室のペーシングに関連して生じるペーシング治療をもたらす。
本発明の重要な特徴は、心臓ハーネスおよび心臓リズム管理装置システムの最小限に侵襲性の送達であり、それは以下に説明する。
心臓ハーネス20、60、100、および関連する電極および導線の送達は、正中胸骨切開術といった通常の心胸郭外科的技術を介して達成することができる。そのような手技においては、心膜に切り口を形成し、単純に手で押すことにより、心臓ハーネスを心尖上においてかつ心臓の心外膜表面に沿って前進させる。無傷の心膜はハーネス上にあり、所定の場所への保持を助ける。前述したグリップパッドおよび心臓上への心臓ハーネスの圧縮力は、心臓ハーネスの心外膜表面への充分な取付け手段を提供し、その結果として縫合糸、クリップあるいはステープルは不要である。心臓の心外膜表面にアクセスするための他の手技には、心膜にスリットを作ってそれを開いたままにしておくこと、スリットを作って後でそれを閉じること、あるいは心膜に小さい切り口を作ることが含まれる。
しかしながら、好ましくは、心臓ハーネスや関連する電極および導線は、図27〜図36に示したような、かつ図30により具体的に示したような、胸腔への最小限に侵襲性の外科的なアクセスを介して送達することができる。デリバリー装置140は、心臓10に対して直接的にアクセスするために、患者の肋骨の間の胸腔141にもたらされる。好ましくは、そのような最小限に侵襲性の手技は、人工心肺を用いることなしに、拍動している心臓上において達成される。心臓へのアクセスは、通常の外科的方法によって作り出すことができる。例えば、心膜を完全に開き、あるいは小さな切り口を心膜に形成(心膜切開術)して、デリバリー装置140を心臓に接近させることができるようにする。開示された実施形態のデリバリー装置は、図27〜図36に示したように、いくつかの構成要素から成る。図27に示すように、導入チューブ142は、患者の肋骨を介した小さな輪郭でのアクセスのために構成されている。多数のフィンガー143は、柔軟であり、かつ図27に示したような送達直径144と、図29に示したような拡大されたときの直径145とを有する。送達直径は拡大されたときの直径よりも小さい。ゴムバンド146は、フィンガーの遠位端147の周りに拡がり、心臓ハーネスを送達する間にフィンガーが過度に拡がることを防止している。フィンガーの遠位端は、心臓に直接アクセスするために患者の肋骨を介して挿入されるデリバリー装置140の一部である。
デリバリー装置140はまた、遠位端151および近位端152を有した拡張チューブ150を有している。心臓ハーネス20、60、100は、小さい輪郭形状につぶされて、図28に示したように拡張チューブの遠位端に挿入される。この拡張チューブは、導入チューブ142の内径よりわずかに小さい外径を有している。本願明細書においてより十分に議論するように、拡張チューブの遠位端151は、密接したスライド係合およびわずかな摩擦係合において、導入チューブの近位端147に挿入される。拡張チューブと導入チューブとの間のスライド自在な係合にはいくらかの緩やかな抵抗があるべきであるが、2つのチューブの間には無制限のスライド自在な運動があるべきである。図29に示したように導入チューブの遠位側に拡張チューブが押し込まれると、拡張チューブの遠位端151は導入チューブ142のフィンガー143を拡げる。、図27〜図36に示した実施形態においては、心臓ハーネス20、60、100は、除細動あるいはペーシング機能のために用いる電極を有した(前述の)導線を備えている。
図31に示したように、デリバリー装置140はまた、その遠位端に吸着カップ156のような着脱自在な吸引装置を備えている。心臓10を保持するために、負圧吸着カップ156が用いられる。負圧は、注射器またはこの分野において一般に公知の他の負圧装置を用いて、吸着カップに付加することができる。負圧のロックは、この分野において公知の、一方向弁止めコックまたはチューブクランプによって達成することができる。吸着カップ156は、生体適合材料から形成されるとともに、好ましくは、心臓を操作して心臓ハーネス20、60、100を心臓上でスライドさせる間に心臓を介したいかなる負圧の損失をも防止できるように十分に硬い。さらに、吸着カップ156は、ハーネスの前進を容易にし、または心臓の後側部の視覚化および外科的操作を可能とするべく、心臓10を上げて操作するために用いることができる。吸着カップは十分な負圧を有しており、送達の間に心臓の頂端の上方およびベース部の上への心臓ハーネスの前進を容易にするために、(例えば、弾丸形状へと)心臓をいくらか引き延ばすべく、心尖から離れる近位側への方向におけるわずかな引張りを可能にしている。吸着カップ156を心尖に取り付けて負圧を吸引した後、拡張チューブ150の遠位端151に着脱自在に取り付けられている心臓ハーネスは、本願明細書においてより十分に記載するように、心臓の上で遠位側に前進させることができる。
図30に示したように、デリバリー装置140、より詳しくは導入チューブ142は、その挿入の間に患者の肋骨の間の肋間腔を介して前進するが、フィンガー143はその送達直径144にあり、患者の肋骨を通って形成された小さなポートを介してのアクセスを容易にするために小さな輪郭となっている。その後、拡張チューブ150は、その内部に取り付けられた心臓ハーネス20、60、100と共に、フィンガー143がその拡大直径145を達成するまで拡げられるように、導入チューブを通って遠位側に前進する。吸着カップ156は、導入チューブ142のフィンガー143を広げるために拡張チューブを前進させる前あるいは前進させた後に、心臓10の頂端13に取り付けることができる。好ましくは、吸着カップが拡張チューブの内側を通って前進するときに吸着カップのためのより大きな開口があるように、拡張チューブが導入チューブ上のフィンガーをすでに拡げており、導入チューブの遠位端から出ると、心尖に接触するように配置される。その後、負圧が吸引され、吸着カップがしっかりと心尖に取り付くことができるようにする。従来技術において一般的に周知な視覚化装置は、頂端への吸着カップの位置決めを助けるために用いることができる。例えば、蛍光X線透視検査、磁気共鳴映像法(MRI)、蛍光X線透視検査を改良するための染料射出、心エコー検査、および食道を通したまたは胸腔を通した心臓内エコー検査の全てを、そして、吸着カップの位置決めおよび心尖へのに取り付けを改良するために用いることができる。負圧が吸引されて、吸着カップが心尖に(着脱自在に)しっかりと取り付けられた後、吸着カップに取り付けられたチューブ157を引張ることによって、あるいは導入チューブ142、拡張チューブ150、吸着カップと連動させてその両方を操作することによって、心臓はいくらか操作することができる。前述したように、心外膜の上へのハーネスのスライドを容易にするために、吸着カップが心尖を引っ張り心臓をいくらか引き延ばすことができるようにチューブ157を引っ張ることは有利である。
図32〜図36により明瞭に示されているように、心臓ハーネス20、60、100は、拡張チューブから遠位側に進出して吸着カップ156を越える。吸着カップは、ハーネスの遠位端がその細い部分(吸着カップ158の近位端)を越えてスライドするようにテーパ状となっている。吸着カップは、心尖に取り付けられるその遠位端がより広くなっており、心臓ハーネスは、遠位側に前進するときにスライドし続け吸着カップを越えて拡がる。心臓ハーネスは遠位側に前進し続け、拡張チューブから押し出されると、心臓の心外膜表面に沿って心尖を越えてスライドして拡がり続ける。ハーネスおよび電極32、120、130が前述した誘電体、好ましくはシリコンゴムで被覆されているので、心臓ハーネスは心臓の心外膜表面の上で容易にスライドするべきである。シリコンゴムによる抵抗は少しであり、かつ心臓の心外膜表面が充分な流体を有しているので、ハーネスが心臓のウェット表面の上で容易にスライドできるようにしている。心臓ハーネスが心臓の心外膜表面の上をスライドし、心膜が心臓ハーネスの上にあって心臓の表面上への保持を助けるように、心膜は予め切開されている。図35および図36に示したように、心臓ハーネス20、60、100は、ハーネスが少なくとも心臓10の一部を覆うように拡張チューブから完全に進出する。吸着カップ156はすでに引き出されており、導入チューブ142および拡張チューブ150もまた患者から近位側に引き出される。導入チューブを取り除く前に、(ICD、CRT−D及び/又はペースメーカーのような)電力源170は、従来の手段によって植設することができる。電極は、前述したように、除細動ショックあるいはペーシング機能を提供するためにパルス発生器に取り付けられる。
図27〜図36に示した実施形態においては、電極32、120、130の近位端、リード線31、133、そして心臓ハーネスの近位端(頂端26)を押すことにより、心臓ハーネス20、60、100は拡張チューブを通って前進する。電極が外傷性でありかつ長手方向に柔軟に設計されている場合であっても、電極の近位端を押すことが拡張チューブを出て心臓の心外膜表面の上へと心臓ハーネスを押すことを助けるように、電極は充分な柱強度を有する。一つの実施形態においては、心臓ハーネスの前進は、手によって、心臓ハーネスが拡張チューブから出て心臓の心外膜表面上へとスライドするように医師が単純に電極および導線を押すことによって達成される。
図27〜図36の実施形態に示したように、デリバリー装置140、より詳しくは導入チューブ142および拡張チューブ150は、円形の断面形状を有している。しかしながら、デリバリー装置のために楕円形の断面形状のような他の横断面形状を選択することが好ましい場合があり得る。楕円形のデリバリー装置は、小さな輪郭の送達のために、患者の肋骨の間の肋間腔を介してより容易に挿入することができる。さらに、心臓ハーネス20、60、100が楕円形の断面形状を有しているデリバリー装置140から進出するので、心臓上へと遠位側に前進するに連れて心臓の心外膜表面の形状を取るために、ハーネスの遠位端はすばやくより円形の形状となる。
図35および図36に示した実施形態においては、心臓ハーネス20、60、100は、縫合糸、クリップ、接着剤、あるいはステープルといった何らかの更なる取付手段を必要とすることなく、心臓の心外膜表面に堅固に取り付けられたままとなる。さらに、心膜はハーネスを囲むことを助け、それが心臓の心外膜表面上において移動しあるいはスライドすることを防止する。
重要なことは、心臓ハーネス20、60、100を送達する間に、ハーネスそれ自身、電極32、120、130、同じく導線31および132が、拡張チューブ150に通して遠位側に前進させるべくハーネスの近位端を押す医師のために充分な柱強度を有していることである。心臓ハーネス組立体の全体が柔軟であるのに、心臓の心外膜表面の上へと心臓ハーネスを記載した方法で容易にスライドさせるために、特に電極において、充分な柱強度がある。
他の実施形態において、心臓ハーネス20、60、100が電極および導線とは対照的にコイル72を含む場合には、ハーネスは図27〜図36に関して前述したのと同様に送達することができる。このコイルは、医師がコイルの近位端を押して心臓ハーネスを遠位側に前進させ、心尖を越えて心外膜表面上にスライドさせることができるようにするために、充分な柱強度を有している。
他の実施形態においては、心臓ハーネス20、60、100の送達は、前述した手による送達とは対照的に機械的な手段によるものとすることができる。図37〜図42に示したように、デリバリー装置180は、導入チューブ142と同様に機能する導入チューブ181を有している。また、拡張チューブ182は、導入チューブでのスライド自在な運動のために寸法決めされており、前述した拡張チューブ150と同様に機能する。突出チューブ183は、拡張チューブ内でのスライド自在な運動のために寸法決めされており、突出チューブの外径は拡張チューブの内径よりわずかに小さい。図40および図41に示したように、この突出チューブは遠位端184および近位端185を有しており、突出チューブの遠位端は、突出チューブの内径の全体を充満状態にするプレートを有している。このプレートは、導線31、132を受け入れるための、および吸着カップ156および関連するチューブ157を受け入れるための、多くの管腔187を有している。したがって、管腔188はそれを通して導線31,132を受け入れるべく寸法決めされているが、管腔189は吸着カップ156および関連するチューブ157を受け入れるべく寸法決めされている。プレート186における管腔188の数は、心臓ハーネス20、60、100に関連している導線31、132の数によって定められる。したがって、図40に示したように、それを通して4本の導線を受け入れるための4つの管腔188が有り、かつそれを通して吸着カップ156およびチューブ157を受け入れるための1つの管腔189が有る。導線およびチューブ157は、突出チューブの近位端185から近位側に延びている。図42に示したように、吸着カップおよび心臓ハーネスは模式図の左側にあり、かつ突出チューブ183は模式図の右側にある。明瞭さのために拡張チューブおよび導入チューブは省略されているが、実際には、心臓ハーネスは拡張チューブ内に取り付けられ、拡張チューブは導入チューブ内に延び、突出チューブは拡張チューブに延びる。図42から分かるように、導線31、132が管腔188を通って延びており、吸着カップと関連するチューブ157が管腔189を通って延びている。チューブおよび導線は、突出チューブの近位端から近位側に延び、ハーネスを送達する間に患者から延び出ている。前述したように、導入器が胸郭を通って配置された後、心尖は吸着カップによって捕捉され、突出チューブ183を心尖に向けて遠位方向に前進させることにより、ハーネスは拡張器から進出させることができる。導線、心臓ハーネス、および電極の全てが充分な柱強度をもたらし、プレート186が心臓ハーネスに対して押力を与え、前述したようにそれを心臓の上へと遠位側に前進させることができるようにしている。心臓ハーネスが心臓の心外膜表面の上に押された後、チューブ157および導線31、132がそれぞれ管腔189、188通ってスライドするように、突出チューブを近位側に引き出すことができる。突出チューブ183が近位側に引き出され続けると、導線の近位端およびチューブ157の近位端は突出チューブの遠位端184を通って引っ張られ、導線およびチューブは突出チューブからなくなる。
前述した実施形態と同様に、デリバリー装置140、180のための適切な材料には、身体内における生体適合性の使用のために典型的に用いられかつ承認された種類のポリマーを含めることができる。好ましくは、デリバリー装置140と関連するチューブおよび180は堅固であるが、それらはより柔軟な材料から形成することができる。さらに、デリバリー装置140、180は、真っ直ぐではなくむしろ曲線状とすることができるし、送達の間に心臓の心外膜表面上において心臓ハーネス20、60、100をより適切に操作するためにたわみ継手を有することもできる。さらに、デリバリー装置140、180に関連するチューブは、それらの間の相対運動を容易にするために、潤滑性の材料で被覆することができる。チューブの間のスライド自在な運動を強化するために、従来技術において一般的に知られているテフロンのような潤滑性材料を用いることができる。
本発明は、小規模な開胸術によりデリバリー装置を用いて送達される、ワイヤ形状の心臓ハーネスから成る受動的な拘束装置に関する。前述したように、除細動電極/導線は心臓ハーネス上に直接取り付けられる。心室間および心室内収縮同期不全の患者に最適な心臓再同期療法治療(CRT)を提供するために、心外膜ペーシング/センシング電極と組み合わせた心臓ハーネスのニーズがある。このペーシング/センシング電極はハーネスの所定位置に組み込まれるが、このペーシング/センシング電極の位置を心臓上のハーネスに対して調整できることは有利である。一体型のペーシング/センシング電極と共に構成されたハーネスは電極の位置を最適化しようとしたときにある程度は動かすことはできるものの、ハーネスは受動的な拘束のために最適な位置に配備されているので、その位置を変更することは望ましくない。ペーシング/センシング電極の位置調整の利点は、主に、ハーネスを配備した後に電極がどこに配置されるかという点に関連する。ペーシング/センシング電極は、センシングあるいはペーシング機能が不十分なところ(例えば、厚過ぎる、虚血性である、線維症である、壊死している組織)、あるいは再同期効果が最適ではない組織領域上に配置されることがある。CRT用途のセンシングおよびペーシングの他に、徐脈性ペーシング(例えば、バックアップVVIペーシング、あるいは心不全の症状を悪化させると考えられる、右室心尖部以外の場所における長期間にわたるペーシング)のために、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極の配置をハーネスに対して変更する利点がある。1つ若しくは複数の除細動電極を(1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極を組合せてあるいは個別に)ハーネスに対して移動させて、除細動ベクトル、局部的な電圧勾配および/またはインピーダンスを変更し、心臓に除細動処置を施す機能を改良することには他の利点がある。本願明細書に開示する実施形態は、心臓ハーネスに組み合わされつつハーネスに対して移動可能なペーシング/センシングおよび/または除細動電極を提供するための様々な手段に関連している。典型的に、電極」および「導線」という用語は概ね装置の特定部分を言及するために用いる(「電極」はペーシング/センシング電極または除細動電極を意味し、かつ「導線」はその他の全て(導体、絶縁体、コネクタ、他)を含む装置の本体である)。しかしながら、時には、いずれの用語も、導線/電極装置を言及するために一般的に使用する。この導線/電極装置は、ペーシング/センシング電極あるいは除細動電極またはその両方を備えることができる。
本発明に即して、心臓ハーネスおよび組立体は、患者の心臓の少なくとも一部にフィットするように構成されるとともに、細動除去を提供できる1つ若しくは複数の電極とペーシングおよび/またはセンシング機能のために用いる電極と組み合わされている。図43A〜49に示されている一実施形態においては、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極204を保持するために、ハウジング202を有したアダプタ200が用いられている。アダプタは、電極が心臓の心外膜表面に直接的に接触しあるいは心臓の心外膜表面の近傍に配置されるように、ペーシング/センシング電極を保持するように構成されている。このアダプタは、1つ若しくは複数のペーシング/センシング電極を受け入れるためのキャビティー206を有している。このキャビティは、一実施形態において、ペーシング/センシング電極を締まりばめで受け入れるようにその寸法が設定されかつ形作られている。言い換えると、ペーシング/センシング電極は、他の固定手段を必要としない締まりばめとなるように、アダプタのキャビティ内にぱちんと嵌る状態に押し込まれる。他の実施形態においては、ペーシング/センシング電極をキャビティ内に確実に保持するために締着具208を用いる。締着具には縫合、ステープル、クリップ、接着剤、あるいは電極上のポリマー被覆が含まれるが、これらには限定されない。締着具208は、ペーシング/センシング電極204をより確実にキャビティ206に取り付けるために、第1の開口216を介してアダプタ200内に挿入することができる。他の実施形態においては、ペーシング/センシング電極をキャビティ内に押し込んだ後、電極をキャビティ内にさらに固定するために、シリコーンゴムあるいは他の誘電材料をペーシング/センシング電極上にモールド成形する。
ここまで開示したアダプタ200の全ての実施形態において、キャビティ206は、ペーシング/センシング電極上の電極218がキャビティとは反対側を向くようにペーシング/センシング電極204を受け入れるべく構成することが好ましい。電極218は、典型的に小さな金属の突起あるいはボタン形であり、このボタンあるいは突起はペーシング/センシング電極から外側に延びて、その金属製の表面が心臓の表面と直接接触し、あるいは心臓の表面とほぼ直接接触するようになっている。電極218は、電源(図54を参照)と電気的に接続されている。アダプタ200はまた、以下に説明するリリースラインを受け入れるための第2の開口217を有している。
一つの実施例において、アダプタ200は、ペーシング/センシング電極204を受け入れるためのキャビティ206を有する。ペーシング/センシング電極をキャビティ内に押し込んだ後、ペーシング/センシング電極をアダプタ内に保持するために、ペーシング/センシング電極上に誘電材料がモールド成形される。ペーシング/センシング電極204上に誘電材料をモールド成形するときには、電極218が露出した(すなわち、覆われない)ままであることが確実になるように注意しなければならない。好ましくは、キャビティ内にペーシング/センシング電極を保持するモールド成形層としてアダプタは、シリコーンゴム材料から形成される。
図47Aに示した一実施形態において、アダプタ200は、開いた状態および閉じた状態を有した二枚貝の殻の構造210に似ている。開いた状態(図47Aに示す)において、ペーシング/センシング電極204はキャビティ206に押し込まれ、二枚貝の殻の形状の2つの半片が閉じた状態(図示せず)になったときに電極はアダプタ内に保持される。図47Bに示した他の実施形態においては、アダプタ200は2つの部分に形成され、第1の部分212および第2の部分214にキャビティ206が形成されている。ペーシング/センシング電極204は、第1の部分212若しくは第2の部分214のキャビティ206に押し込まれ次いで第1の部分を第2の部分(図示せず)に嵌合させるとキャビティはペーシング/センシング電極の周りを囲む。これらの実施形態(図47Aおよび図47B)においては、キャビティ内の開口が電極218に一致しており、電極が開口を通って延びて心臓の表面に直接接触するようになっている。
本発明はまた、心臓ハーネスと共にアダプタおよび関連するペーシング/センシング電極を送達する方法およびその使用方法を含んでいる。好ましくは、心臓ハーネスの取り付けおよびこのハーネスの下側へのペーシング/センシング電極の設置は、拍動している心臓上において実行される。図50〜図57に示した一実施形態においては、ペーシング/センシング電極204をアダプタ200に取り付けた後、アダプタ組立体220(取り付けたペーシング/センシング電極を具備するアダプタを含む)が、すでに移植されている心臓ハーネス222の下側に配置される。好ましくは、アダプタ組立体は、心臓ハーネスの下側の所望の位置に最小限に侵襲的に送達される。一つの実施形態において、アダプタ組立体220は、非外傷性の遠位端228を有したプッシュアーム226の遠位端224に係脱自在に取り付けられて、プッシュアームが、それに取り付けられたアダプタ組立体と共に、導入チューブ229を通って、かつ心臓ハーネスを掴まえあるいは動かすことなく移植された心臓ハーネスの下側を前進できるようになっている。この実施形態において、アダプタ組立体220は、リリースライン230によってプッシュアーム226に係脱自在に取り付けられる。アダプタ組立体をプッシュアームに係脱自在に取り付けるために、リリースライン230は、プッシュアーム226の第3の開口232を通って巻回されてアダプタの第2開口217に糸通しされる。リリースライン230は、2003年11月17日に出願された米国特許出願第10/715,150号に開示されているものと同様な方法で、糸通しされて結ばれる。心臓ハーネス222の下側にアダプタ組立体を配置するためにプッシュアーム226を用いた後、アダプタ組立体は、リリースライン230を引っ張ることによってプッシュアームから解放され、次いでプッシュアームが身体から引き抜かれる。図52および図53から判るように、心臓ハーネス222は波形のヒンジ234の列を備えている。アダプタ組立体220は、どのヒンジからも突出しないように、1つ若しくは複数のヒンジ234にわたる大きさに設定されることが好ましい。アダプタ200の寸法は選択の問題であって特定のニーズに合わせて変更することができるがこのアダプタのおおよその寸法は、長さが約1インチ、幅が1インチ、厚みが1/8インチ(25.4mm×25.4mm×3.2mm)である。これらの寸法は、例示的なものであり、かつ前述したように特定の目的に合わせて変更することができる。心臓ハーネス222が、心臓の周囲を囲むとともに心臓上へのわずかな圧縮力を生じさせる波形ヒンジ234の多くの列を備えているので、アダプタ組立体220は、いかなる他の固定手段もなしに心臓上の位置に保持される。さらに、心膜が無傷の場合、それはハーネスおよびアダプタ組立体上にわずかな圧縮力をもたらすことができる。あるいは、アダプタ組立体220を心臓の心外膜表面により確実に固定するために、縫合若しくは他の締着具(図示せず)を用いることができる。アダプタ組立体は、ペーシング/センシング電極204上の電極218が心臓の心外膜表面に対向するとともに好ましくは心臓と直接接触するように、心臓ハーネスの下側に配置される。
アダプタ組立体220上における心臓ハーネス222の圧縮力は、心臓の心外膜表面上にアダプタ組立体およびペーシング/センシング電極204を確実に保持するために充分であると考えられるが、さらなる安全対策のために、アダプタ組立体の表面のうち心臓ハーネス222に対向する側に突起235を形成することができる。この突起235は、例えば、心臓ハーネスのワイヤ形状に係合する、アダプタ組立体の表面上の球形突起あるいは持ち上げられた瘤とすることができるが、それによってアダプタ組立体(およびペーシング/センシング電極)と心臓ハーネスとの間の相対移動を防止する。アダプタ組立体を送達する間、ePTFEあるいは類似の材料の1枚のシートでアダプタ組立体220を覆うことにより、心臓の心外膜表面上へとプッシュアーム226がアダプタ組立体を前進させるときに、突起235が心臓ハーネス222に引っかからないようにすることができる。このカバーは、アダプタ組立体およびペーシング/センシング電極を配置した後に除去することができ、それによって突起235を心臓ハーネスのワイヤ形状に係合させることができる。
図50Bおよび図50Cに示した他の実施形態においては、心臓ハーネスの下側におけるプッシュアームおよびアダプタ組立体220の前進を助けるために、柔軟な開創器237をプッシュアーム226(図50A)と共に用いることができる。この実施形態においては、柔軟な開創器は、非外傷性であり、かつこの開創器237を心臓ハーネスの下側で前進させるときに心臓ハーネスに引っかからないように湾曲した部分239を有している。この柔軟な開創器は、プッシュアーム226およびアダプタ組立体220が、送達の間に心臓ハーネスに引っかからないように、前進の際にハーネスの下側にスペースを生み出すために用いる。この開創器237は、心臓ハーネスの下側での操作のために、その一部を他の部分より柔軟なものとすることができる。開創器237は、心臓ハーネスの一部を持ち上げて、プッシュアームおよびアダプタ組立体の前進のための自由空間を作り出すために用いる。開創器237は、プッシュアーム226およびアダプタ組立体220から独立してあるいは別々に用いることができるし、あるいはプッシュアームおよびアダプタ組立体が心臓ハーネスの下側で前進するときに、ハーネスを持ち上げて自由空間を作り出すことを助けるために、プッシュアーム226に係脱自在に取り付けることもできる。
アダプタ200は、心臓ハーネス222の材料と共存できる誘電材料から形成することが好ましい。図54に示した一つの実施形態において、心臓ハーネス222は、シリコーンゴム238で被覆されたニチノール合金ワイヤー236から形成される。この実施形態においては、アダプタと心臓ハーネスとの間の摩擦係合を減少させるために、アダプタも同様にシリコーンゴム240から形成される。さらに、ペーシング/センシング電極の部分も、心臓ハーネス上のシリコーンゴムの被覆と共存できる誘電材料で覆うことができる。好ましくは、摩擦係合を減少させるとともに摩耗の進展の可能性を低減するために、ペーシング/センシング電極もまたシリコーンゴムあるいは類似の材料で覆い、それによって心臓ハーネスのむきだしの金属あるいはペーシング/センシング電極に関連するいかなる金属をも露出させる。より詳しく説明するように、ペーシング/センシング電極、アダプタおよび心臓ハーネス上のコーティングとして有益な、計画的に摩滅するように設計された他の耐摩耗性材料も予想される。
アダプタ200および関連するペーシング/センシング電極204は、本願明細書に開示した任意の実施形態とと共に用いることができる。例えば、図54〜図57に示した実施形態において、除細動電極242は、心臓に除細動ショックを与えるべく心臓ハーネス222に取り付けられる。この実施形態においては、心臓ハーネス222を電極242と共に心臓上に取り付けた後、ペーシング/センシング機能をもたらすためにアダプタ組立体220を心臓ハーネスの下側で心臓上に配置される。ペーシング/センシング電極204および除細動電極242からの導線244は、電源246(前述したようなICD)に接続される。他の実施形態においては、心臓ハーネスを除細動電極なしに心臓上に取り付けるとともに、ペーシング/センシング治療のためのペーシング/センシング電極を有したアダプタ組立体を心臓ハーネスの下側に配置する。
図58A〜図59に示した一実施形態においては、単一のペーシング/センシング電極250が(選択的に細動除去電極と共に)送達部材に取り付けられて、予め送達されている(図52〜図53に示した実施形態と同様な)心臓ハーネスの下側でスリップさせることができるようになっている。この実施形態において、心臓ハーネスの圧縮力は、ペーシング/センシング電極を心臓組織に確実に接触させるとともに、ペーシング/センシング電極を心臓の心外膜表面上に確実に保持するために必要な圧縮をもたらす。ペーシング/センシング電極には、圧縮のより均一な分布を確実にするために、心臓ハーネス上の素子(いくつかのヒンジ)と少なくとも同程度に幅の広い表面領域を設ける必要がある。心臓ハーネスの下側におけるペーシング/センシング電極の前進の間に充分なコラム支持をもたらすために、ペーシング/センシング電極の内部管腔256に針状体254を挿入しかつ取り除くことができる。この針状体254は、押進力およびトルク負荷性のためにペーシング/センシング電極内に配置される。針状体は、真っ直ぐあるいは円形若しくは平坦とすることができる。針状体は、ペーシング/センシング電極を前進させ、横方向に動かし、あるいはペーシング/センシング電極を反転させる能力をもたらす。
ペーシング/センシング電極の機械的な特徴は、心臓ハーネスの下側に配置されるペーシング/センシング電極の移動の最小化、および/または材料摩耗が生じ得る材料との間の相対移動の最小化を助ける。図58Bに示したように、機械的な特徴についての一実施形態は、心臓ハーネスのワイヤ形状に引っかかってハーネスに対してペーシング/センシング電極を安定させるように設計された、ペーシング/センシング電極250上の突起270を有している。これらの突起は、丸みが付けられているが、ワイヤ形状への固定を助けるあらゆる特定形状とすることができる。送達の間、最終的な位置が決定するまで、突起を保護しあるいは覆うこともできる。これは、突起を材料で覆うとともに、リリースラインを用いて材料を解放することによって実行することができる。突起上に格納式スリーブを用いることもできる。他の実施形態は、送達の間にハーネスの反対側に対向する突起を有しており、ペーシング/センシング電極の最終的なあるいはほぼ最終的な位置に到達したときに、ペーシング/センシング電極にトルクを与えてハーネスに向けて突起を反転させる。
図60Aおよび図60Bに示した他の実施形態においては、心臓ハーネスの下側にペーシング/センシング電極250を前進させるために、プッシュアーム226と同様な送達部材260を用いる。好ましくは、この送達部材は、輪郭が小さくて、前進の間に側方から側方への移動に抵抗する平坦な「パドル状(paddle-like)」の部材である(この送達部材260は、柔軟な開創器237に似ている)。この送達部材は、より幅が広いこと、端部における「突起(nub)」がより少いこと、およびより堅くあるいはより柔軟とすることによる利益を得ることもできるが、心臓ハーネスを配備するために用いている現行のプッシュアームと同様なものとすることができる。この送達部材260はまた、柔軟な開創器237(図50Bおよび図50C)と同様に形付けることができ、かつペーシング/センシング電極をハーネスの下側で心臓上へと前進させるときに心臓ハーネスの下側にスペースを作り出すために同様に作動する。送達部材の開口262は、ペーシング/センシング電極をリリースライン264と共にこの部材上に固定するとともに心臓ハーネスの下側の所望の位置にあるときにそれを解放する能力をもたらす。リリースラインは、米国特許出願第10/715,150号に図示されかつ記載されているように縛り付けられる。他の実施形態と同様に、所望の電気的な性能および/または再同期療法上の効果を最適化するために必要な位置調整をユーザができるようにするべく、送達部材からペーシング/センシング電極を解放する前に、ペーシング/センシング電極の近位端をペーシング/センシングアナライザ(図示せず)に接続することは有益である。
ペーシング/センシング電極250および送達部材260を一緒に製造して包装することもできるが、ユーザが、手術の時に別個の無菌なペーシング/センシング電極を無菌の送達部材(無菌の領域内)に装てんできるようにすることは望ましい。図61Aおよび図61Bに示す一実施形態において、ペーシング/センシング電極250は、送達部材260上の緩いリリースライン機構264の下に挿入されるとともに、送達の前に医師によって固く縛り付けられる。ループ266は、ペーシング/センシング電極を緩いリリースライン264の下側に挿入した後に、このリリースラインを締め付けるための張力を加えるために設けられている。リリースライン264の近位端268は、ペーシング/センシング電極および送達部材が心臓ハーネスの下側で前進したときにペーシング/センシング電極を送達部材上に保持しているループを解放するために、引っ張ることができる。
まさに説明した実施形態においては、ハーネスを送達した後にペーシング/センシング電極をハーネスの下側に配置する。心臓ハーネスと同時に別個のペーシング/センシング電極を心臓上に配備することには利点がある。ペーシング/センシング電極は、(例えば図7Aに見られる)心臓ハーネスと同じ任意のプッシュアームにひもで縛り付けることができるとともに、心臓ハーネスと同時に心臓上で解放される。ペーシング/センシング電極250は、例えば図52に示されている心臓ハーネス222に(プッシュアームの独立した組による支持の有無にかかわらず)、直接ひもで縛り付けることができる。この場合、ペーシング/センシング電極250および送達部材252に取り付けられているリリースライン264は、プッシュアームをハーネスに取り付けているリリースラインとは別個に取り除くことができる。このことは、ハーネスを配備するための第1のデリバリー装置を取り除いた後に、ユーザが心臓ハーネスおよびペーシング/センシング電極を一緒に調整できるようにする。
他の実施形態において、ペーシング/センシング電極250は、(心臓への送達前に)心臓ハーネスの下側に配置されているがハーネスには取り付けられていない送達部材252に、ひもで縛り付けることができる。この形状の追加の利点は、送達部材がハーネスに支持を与え、ハーネスを心臓上へと前進させるときに列が反転してセルが噛み合うことの防止を助けることである。
他の実施形態において、送達部材252は、心臓ハーネス(図27〜図35に類似の)にひもで縛り付けられたプッシュアームの場合と同じスライダに取り付けられ、かつ全てのリリースラインは同じ引張りリングに接続される。他の実施形態(図示せず)において、送達部材は、好ましくは心臓ハーネスを支持しているプッシュアームが接続されているスライダの前方で、別のスライド機構に取り付けられる。あるいは、一つのスライド機構を設けるとともに、心臓上への配備の後に送達部材をそれから分離できるようにする。この点については、送達部材の使用は、別のスライド機構を備える実施形態と同様である。いずれの方法でも、ペーシング/センシング電極および心臓ハーネスのリリースラインは別の取出機構に接続される。ペーシング/センシング電極は、除細動電極とは別個に解放することができる。これらの送達部材はまた、スライダから互いに独立して除去することができる。これは、心臓ハーネスより前にあるいは一緒にペーシング/センシング電極を前進させることができるようにする。これはまた、ペーシング/センシング電極に取り付けられている送達部材を残したまま、第1の心臓ハーネスデリバリー装置の取出を可能とする。各ペーシング/センシング電極は、送達部材から解放する前に、必要に応じてハーネスの下側で操作することができる。
ここで留意されるべきことは、右側あるいは左側の心房を含む心臓の表面上の任意の位置へとペーシング/センシング電極250を配備するために、上述したものと同じあるいは同様なペーシング/センシング電極送達技術を用い得ることである。左房心外膜表面上にペーシング/センシング電極を配置できることには特別の利点がある。CRT手技において典型的に推奨されているように、心房のセンシングおよび選択的なペーシングは、(心室にペーシング/センシング電極がある場合に)心房および心室の間の収縮の間における改良された同期を可能にする。心房心外膜表面上へのペーシング/センシング電極の設置は、右心房への静脈を介したアクセスの必要をなくし、したがって心胸外科医が手技の全体を実行できるようにする。それはまた、静脈を介したアプローチでは実行できない左心房への電極配置を可能とする。左心房センシングおよび選択的なペーシングは、特に左心房および左心室の収縮タイミングを最適化する。
図63に示した他の実施形態においては、1つのペーシング/センシング電極204を保持するために、ハウジング202aを有した単一のアダプタ200aを用いる。このアダプタは、電極が心臓の心外膜表面と直接接触しあるいは心臓の心外膜表面の近傍に配置されるように、ペーシング/センシング電極を保持するように構成されている。アダプタは、単一のペーシング/センシング電極を受け入れるキャビティ206aを有しており、一つの実施形態において、このキャビティは、ペーシング/センシング電極を締まり嵌めで受け入れるようにその大きさおよび形状が設定される。言い換えると、ペーシング/センシング電極は、他の固定手段を必要としない締まり嵌めとなるように、ぱちんと嵌まる関係でアダプタのキャビティ内に押し込まれる。この単一のアダプタ200aは、図43aに示したアダプタ200と同じ特徴を有することができる。この特徴には、材料が同一であること、および心臓ハーネスのワイヤ形状を通ってスリップすることなしに心臓ハーネスが単一のアダプタ200aに接触して保持するのに十分な表面領域を備えるように、同程度の寸法とすることが含まれる。
アダプタ200に関して上述したように、単一のアダプタ200aのキャビティ206aにペーシング/センシング電極204を確実に保持するために、締着具を用いることもできる。締着具には縫合、ステープル、クリップ、接着剤、または電極上のポリマー被覆が含まれるが、これらに限定されるものではない。締着具は、ペーシング/センシング電極204をより確実にキャビティ206に取り付けるために、第1の開口216aを介してアダプタ200aに挿入することができる。他の実施形態においては、ペーシング/センシング電極をキャビティに押し込んだ後、電極をキャビティ内でさらに固定するためにシリコーンゴムあるいは他の誘電材料をペーシング/センシング電極上にモールド成形する。
ここまで開示した単一アダプタ200aの全ての実施形態において、ペーシング/センシング電極上の電極218がキャビティとは反対を向くように、キャビティ206aがペーシング/センシング電極204を受け入れるように構成することが好ましい。使用の際には、既存のペーシング/センシング電極を単一のアダプタ200aのキャビティ206aに嵌め込んで、単一のアダプタ組立体220aを形成することができる。既存のペーシング/センシング電極もまた、上述したアダプタ200と共に用いることができる。既存のペーシング/センシング電極の実施例は、ミネソタ州ミネアポリスのMedtronic社によって製造されるCapsure Epi Leadである。単一のアダプタ200aはまた、アダプタ200に関して説明したように、リリース線を受け入れるための第2の開口217aを有している。
単一のアダプタ組立体220a上における心臓ハーネス222の圧縮力は、単一のアダプタ組立体およびペーシング/センシング電極204を心臓の心外膜表面上に確実に保持するために充分であると思われるが、より一層の安全対策のために、アダプタ組立体の表面のうち心臓ハーネス222を向く部分に突起(図示せず)を形成することができる。これらの突起は、図51に示したアダプタ200上の突起235と同様である。上述したように、単一のアダプタ組立体220aを送達する間、プッシュアームが心臓の心外膜表面上へアダプタ組立体を前進させるときに突起が心臓ハーネス222に引っかからないように、ePTFEまたは類似の材料の1枚のシートで単一のアダプタ組立体を覆うことができる。単一のアダプタ組立体または多数の単一のアダプタ組立体を配置した後、それによって心臓ハーネスのワイヤ形状に突起を係合させるために、このカバーを取り除くことができる。
使用の際には、1つ若しくは複数の単一アダプタ組立体220aは、アダプタ200およびアダプタ組立体220に関して上述したものと同じ方法を用いて心臓に送達し、心臓ハーネス222の下側に配置することができる。他の実施形態において、単一のアダプタ組立体220aは、ペーシング/センシング電極250に関して上述したものと同じ方法を用いて心臓に送達することができる。心臓ハーネスの下に2つの単一アダプタ組立体220aを配置することは、上述したように2つのペーシング/センシング電極250を配置するのと同じ利点を有する。
図63Aに示した他の実施形態においては、冠静脈洞導線364を保持するために、ハウジング362を有した静脈洞導線アダプタ360用いる。このアダプタは、導線の電極366が心臓の心外膜表面と直接接触しあるいは心臓の心外膜表面の近傍に配置されるように冠静脈洞導線を保持するべく構成されている。冠静脈洞導線上の電極は環状電極であり、かつこの導線はその遠位側の端部に1つ、2つ、3つあるいはより多くの電極を具備することができる。このアダプタは、冠静脈洞導線のためのキャビティ368を有している。一つの実施形態において、このキャビティは、ペーシング/センシング電極を締まり嵌めで受け入れるようにその寸法および形状が設定される。言い換えると、導線は、ぱちんと嵌る関係でアダプタのキャビティ内に押し込まれ、他の固定手段を必要としていない締まり嵌めとなる。この静脈洞導線アダプタは、シリコーンゴムのような誘電材料から形成することができる。使用の際に、このアダプタは、電極リングの部分が心臓の表面に接触しないように都合良く絶縁することができる。アダプタによってもたらされる絶縁は、電流損失を制限して横隔神経の刺激を防止する。さらに、アダプタ内における導線の位置ぎめによって、ステロイド環から放出されるステロイドが心外膜表面上により集中することになる。静脈洞導線アダプタの寸法は、このアダプタが心臓ハーネスのワイヤ形状を抜けてスリップすることなしに心臓ハーネスの圧縮力が心臓の表面上にこのアダプタを保持できるようなものである。
静脈洞導線アダプタ360のキャビティ368内に冠静脈洞導線364を確実に保持するために、締着具を用いることもできる。締着具には縫合、ステープル、クリップ、接着剤、あるいは電極上のポリマー被覆が含まれるが、これらには限定されない。締着具は、冠静脈洞導線をより確実にキャビティに取り付けるために、開口370を介してアダプタに挿入することができる。他の実施形態においては、キャビティ内に電極をさらに固定するために、冠静脈洞導線をキャビティに押し込んだ後に、シリコーンゴムまたは他の誘電材料を導線上にモールド成形する。この実施形態においては、誘電材料が環状電極366の表面を覆わないように注意しなければならない。
既存の冠静脈洞導線を、静脈洞導線アダプタ360と共に用いることができる。既存の冠静脈洞導線の実施例は、St. Jude Medical社により製造されるQuicksiteである。図63Aに示した冠静脈洞導線は双極性の環状電極を有しているが、単極性の冠静脈洞導線をアダプタに嵌合させることも検討されてきた。アダプタ200に関して上述したように、このアダプタもまた、リリースラインを受け入れるための開口(図示せず)を有することができる。
使用の際には、アダプタ200およびアダプタ組立体220に関して上述したものと同じ方法を用いて、冠静脈洞導線364を保持している1つ若しくは複数の静脈洞導線アダプタ360を心臓に送達し、心臓ハーネスの下側に配置することができる。アダプタ360を用いることなしに冠静脈洞導線を送達して、心臓ハーネスと心臓の表面の間に配置することも検討されてきた。一つの実施形態において、冠静脈洞導線は、アダプタの有無にかかわらず、プッシュアームのような送達部材を用いることなしに、単独で心臓に送達して心臓ハーネスの下側に配置することができる。
心臓の心外膜表面上に静脈洞導線アダプタ360を確実に保持するために、心臓ハーネスの圧縮力は十分なものではあるが、一層の安全対策のために、アダプタのうち心臓ハーネスに対向する裏面上に突起(図示せず)を形成することができる。これらの突起は、図51に示されているアダプタ200上の突起235と同様なものである。上述したように、アダプタを送達する間、プッシュアームが心臓の心外膜表面上にアダプタを前進させるときに突起が心臓ハーネスに引っかからないように、ePTFEあるいは類似の材料の1枚のシートでアダプタを覆うことができる。このカバーは、1つ若しくは複数の静脈洞導線アダプタを配置した後に取り除き、それによって心臓ハーネスのワイヤ形状に突起を係合させることができる。
図64に示した他の実施形態において、移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパイン280は、スパイン本体の前側表面286上に露出する1対の双極性でボタン型の電極284を保持する「パドル状」の形状を具備したスパイン本体282を有している。モジュール式電極スパインの「パドル状」の形状は、小さな輪郭となっている。また、このスパイン本体上に、単一の電極を有した単極性電極を配置することも検討されてきた。これらの電極は、瘢痕組織の進展を低下させるとともに進出ブロックの形成を防止するステロイド溶出要素と共に構成することができる。この実施形態において、モジュール式のペーシング/センシング電極スパインは、標準的なIS―1タイプコネクタと共に構成される。電極284は電源とつながっており、図示の実施形態においては付随する導線288が電源に接続される。モジュール式のスパインには、アダプタ200に関して上述したものと同様にリリースラインを受け入れる貫通した開口290が配設されている。
スパイン本体282は、一対のペーシング/センシング電極284上にモールド成形される誘電材料から形成することができるが、心臓の心外膜表面上に配置することができるように、電極の表面が露出したままとなるように注意しなければならない。スパイン本体は、シリコーンゴム材料から形成することが好ましい。モジュール式のスパイン280と心臓ハーネスとの間の摩擦係合を減少させるとともに摩耗の進展の可能性を低下させるために、以下に詳述するように、このモジュール式のスパインをePTFEで裏打ちしあるいはプラズマ処理することができる。モジュール式のスパインはまた、自ら係合する特性をこのモジュール式のスパインに追加するため、スパイン本体282の前側の表面286に取り付けられたグリップパッド292を有することができる。このスパイン本体は、心臓ハーネスに接触して心臓上に配置されたままとなるために必要な大きい表面領域を提供する。本実施形態のスパイン本体は、長さが約3cm〜約10cm、幅が約0.5cm〜約4cmとすることが考えられる。
図65は、移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパイン294の他の実施形態を示している。この実施形態のスパイン本体296は、輪郭が小さい概ね円形であり、スパイン本体の前側表面300上に露出した1対の双極性でボタン型の電極298を保持している。この実施形態においては、一対の電極が水平方向に横並びに配置されているが、それらは縦方向あるいは斜め方向に直線的に配置することもできる。単一の電極をスパイン本体上に配設し、かつスパイン本体を正方形、長方形、あるいは星形といった任意の幾何学的形状とすることも検討されてきた。電極は電源とつながっており、図示した実施形態においては、付随する導線302が電源(図示せず)に接続されている。
また、スパイン本体296には、モジュール式スパインを送達するためのアダプタ200に関して上述したものと同様に、リリースラインを受け入れる貫通して配設されたレリーズ開口304がある。このスパイン本体は、一対のペーシング/センシング電極298上にモールド成形される誘電材料から形成することができる。スパイン本体はシリコーンゴム材料から形成することが好ましい。モジュール式スパイン294と心臓ハーネスとの間の摩擦係合を低減し、かつ摩耗の進展の可能性を低下させるために、モジュール式スパインはePTFEで裏打しあるいはプラズマ処理することができる。モジュール式スパインはまた、モジュール式のスパインが心臓上にかつ心臓ハーネスの下側に配置されてからのスライドあるいは他の動きの防止を助ける、スパイン本体の前側の表面に取り付けられたグリップパッド(図示せず)を有することができる。スパイン本体は、心臓ハーネスに接触して心臓上に配置されたままとする大きな表面領域をもたらしている。本実施形態のスパイン本体は、約2cm〜約8cmの直径を有することが考えられる。
移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパイン306の図66に示されている他の実施形態は、スパイン本体の前側表面312上に露出している1対のボタン電極310を保持する針状体として形作られた小さな輪郭のスパイン本体308を備えている。単一の電極をスパイン本体上に配設することもまた検討されてきた。これらの電極は電源につながっており、図示の実施形態においては、付随する導線314が電源に接続されている。リリースラインを受け入れるために、アダプタ200に関して上述したものと同様に、スパイン本体を貫通する開孔を設けることができる。この実施形態のモジュール式スパインを送達するときには、プッシュアームまたは針状体に付随するリリースラインをスパイン本体308に結び付けることができる。
スパイン本体308は、一対のペーシング/センシング電極310上にモールド成形される誘電材料から形成することができるが、心臓の心外膜表面上に配置することができるように電極の表面が露出したままとなるように注意しなければならない。スパイン本体はシリコーンゴム材料から形成することが好ましい。モジュール式スパインと心臓ハーネスとの間の摩擦係合を減少させるとともに、摩耗の進展の可能性を低下させるために、モジュール式スパインをePTFEで裏打しあるいはプラズマ処理することができる。モジュール式スパインはまた、モジュール式スパイン306が心臓上にかつ心臓ハーネスの下側に配置されてからのスライドあるいは他の動きの防止を助けるために、スパイン本体に取り付けられたグリップパッドあるいは突起(図示せず)を有することができる。本実施形態のスパイン本体は、幅を約0.5cmとし、かつ長さを約2cm〜約10cmの間で変更することが考えられる。
図67は、移動可能あるいはモジュール式のペーシング/センシング電極スパイン316の電極形状が異なる他の実施形態を示している。この実施形態は、輪郭が小さく、かつ全方向性双極電極対(omini directional bipolar electrode pair)320を有した円形のスパイン本体318を備えている。この実施形態と他の実施形態の相違点は、電極と心臓の心外膜表面との間の機能的な係合を維持しかつ増加させるために、任意の幾何学的形状とすることができるとともに任意の構造で配置することができるディスク状に形付けられたグリップパッド322を有していることである。スパイン本体は、全方向性双極電極対上にモールド成形される誘電材料から形成することができる。このスパイン本体は、シリコーンゴム材料から形成することが好ましい。
本発明によると、移動可能あるいはモジュール式の細動除去電極は、拍動している心臓上に配置された心臓ハーネスの下側に取り付けることができる。図68は、細動除去電極コイル328を保持しているスパイン本体326を有した細動除去スパイン324を示している。細動除去電極は電源につながれており、かつ図示の実施形態においては付随する導線329が電源に接続されている。図示していないが、アダプタ200に関して上述したものと同様にプッシュアームに関連するリリースラインを受け入れるために、スパイン本体を貫通する開口を設けることができる。このスパイン本体は、細動除去電極上にモールド成形される誘電材料から形成することができるが、それを心臓の心外膜表面上に配置することができるように、コイルの一部が露出したままであることを確かなものとするべく注意しなければならない。スパイン本体は、シリコーンゴム材料から形成することが好ましい。細動除去導線と心臓ハーネスとの間の摩擦係合を減少させるとともに摩耗の進展の可能性を低下させるために、細動除去導線は、ePTFEで裏打しあるいはプラズマ処理することができる。細動除去導線はまた、細動除去導線自らの固定を助けるためにスパイン本体に取り付けられたグリップパッド330を有することができる。スパイン本体は、心臓ハーネスと接触して心臓の表面上に配置されたままとなるために、大きい表面領域をもたらしている。
細動除去の閾値を低下させるのに追加の電流ベクトルが有益であるときに、細動除去のために他の電極を加える点において、細動除去スパイン324を用いることは有益である。細動除去スパインは、筋層下に配置されるパッチ電極の代わりに用いることができるとともにより効果的である。エネルギー損失が最小な心外膜表面上に配置されるからである。加えて、心外膜配置は、治療の最適化に必要な正確なベクトルを得るためのより簡単な操作を可能にする。図68に示した細動除去スパインはまた、細動除去電極コイルの代わりのパッチ、配列、あるいは他のタイプの細動除去電極構造とすることも考えられてきた。
本願明細書に記載されている実施形態について、所定の場所に電極を保持するためにハーネスの張力に依存する、心臓ハーネスとペーシング/センシング電極の相互作用について考察した。ハーネスおよびペーシング/センシング電極が繊維組織を形成すると、相対運動はほとんど存在しない。しかしながら、そうでない場合、ペーシング/センシング電極および/または心臓ハーネスには、装置間の相対運動を最小化する特性、あるいは相対運動が存在する場合には長期間にわたる環境下における摩擦または材料摩耗の傾向を最小化する特性が求められる。変質なしに硬化した状態のシリコーンゴムが、それ自体に対してかつ他の材料に対して摩滅するので、それに対向して配置される心臓ハーネス222、アダプタ200、ペーシング/センシング電極204、250、280、294、306、316、および/または細動除去スパイン328に、より耐摩耗性の高い表面を有する移植可能材料を用いることは重要である。耐摩耗性材料の例には以下が含まれるが、これらには限定されない。ペーシング/センシング電極の本体表面への潤滑性シリコーン油あるいは親水性被覆の塗布;プラズマにより改質された表面を有するシリコーン押出管材料(例えば、プラチナ硬化Nusil 4755);シリコーン表面のシリコン亜酸化物への酸化還元;シリコン亜酸化物のプラズマ化学気相成長法(これらの方法は、表面の粘着性を減少させて耐久性を増加させる);表面上に蒸着したテフロンまたはパリレンを含むシリコーン押出管材料;アダプタ200、ペーシング/センシング電極204、250、280、294、306、316あるいは細動除去スパイン328の表面上のテフロンあるいはePTFEのスリーブ(この材料はまたシリコーンの代わりに用いることができる);シリコーンまたは他の移植可能な弾性材料を含浸させた編組あるいは巻回繊維(例えばテフロン、ポリプロピレンまたはポリエステル)のマトリックスあるいは多孔性材料(例えばePTFE)のマトリックス;表面上にポリウレタンの層(表面上でスライドさせたスリーブ、表面上に溶融させたスリーブ、あるいは表面上への共押出成形のいずれか)を有したシリコン押出管材料(例えば55Dポリウレタン、より潤滑性で耐摩耗性の移植可能材料);シリコーンの代わりに用いるポリウレタン;およびAortech Biomaterials社によって製造されるElast-Eon 2Aのようなシリコーンとポリウレタンの化学的な混合物。一つの実施形態において、心臓ハーネス222は、ニチノールのワイヤ形状の上にシリコーンゴムのコーティングを有する。アダプタ200、ペーシング/センシング電極204、250、280、294、306、316、および/または細動除去スパイン328は、接触力(および摩擦力)を減少させるばかりでなく、心臓ハーネスのワイヤ形状がePTFEの上面と面一となるまで沈み込み、それによって接触力(および摩擦力)をゼロにまで減少させる、装置上の1枚のePTFEと共に構成される。接触力および摩擦力が実質的に減少すると、2つの装置間の摩擦および摩耗は効果的に取り除かれる。
ペーシング/センシング電極250の他の実施形態は、電極領域に残りの導線の残りの部分より幅の広い、好ましくは心臓ハーネスのワイヤ形状の1つ若しくは複数のヒンジと同じ程度に幅の広い、幾何学的形状を備えていて、ペーシング/センシング電極に対するハーネスの接触力の分配を助ける。接触力の減少は、材料が摩滅する傾向の減少を助ける。また、電極のうちハーネスのワイヤ形状の側の材料は、好ましくは上述したものと同様の耐摩耗性材料であるが、この場合は好ましくはePTFEシートから製作される。柔軟かつ潤滑性の移植可能材料である他に、ePTFEは、導線部品の周辺にモールド成形されるシリコーンをマトリックスに含浸させて堅固な結合を形成するようにする。ePTFEシートの代替物は、ポリエステルのような繊維の「織物(fabric)」あるいは「網(mesh)」である。
また、柔軟な開創器(あるいは同様の鈍く、平坦なツール)を用いて、(ハーネスの下側にツールを配置するとともに、それを心臓から持ち上げあるいはその端部を回転させることによって)すでに配備されているハーネスを持ち上げ、かつツールの下側にペーシング/センシング電極あるいは除細動導線を挿入することには利点がある。そのようなツールは、柔軟な開創器、あるいは所望のスペースを生み出すためにカスタマイズされた平坦で、固く、薄型(low-profile)なツールとすることができる。このツールは、ハーネスに引っかかることなしに導線を挿入するための明瞭な経路の提供に役立つ。ペーシング/センシング電極がハーネスの下側に来ると、このツールは取り除くことができる。
ペーシング、検出、および除細動電極に焦点を当てているが、この概念はまた、心臓上に配置される他のいかなる種類(例えば、磁気、超音波、pH、インピーダンス、その他)のセンサにも適用することができる。。
ペーシング/センシング電極を心臓ハーネスに取り付けないことの一つの利点は、医師がペーシング/センシング電極の位置を探索できるようになることである。これは、ハーネスを配備する前、ハーネスを配備した後であるがペーシング/センシング電極を配備する前、あるいはハーネスおよび移植可能なペーシング/センシング電極の両方を配備した後に、より良好な目標部位を得るために移植可能な電極を動かす意図で実行することができる。上述した技術の組合せもまた達成することができる。例えば、ある位置に目標を定めるために探索電極を最初に用いるとともに、移植可能なペーシング/センシング電極を配備した後でペーシング/センシング電極の適切な位置の確認あるいは調整を助けるために再び用いることもできる。探索には、移植可能なペーシング/センシング電極を配置するための目標部位を見いだすべく、心臓の表面の周りで電極を動かすことが含まれる。この場所は、電極の所望の解剖学的な位置、エレクトログラムの品質、およびその部位をペーシングする機能の組み合わせによって決定される。重要なことは、恒久的な移植が意図されている同一のペーシング/センシング電極を、探索のために用い得ることである。そのような電極を探索のために用いるとともに、それがステロイドを溶出プラグあるいはカラーを有しているときには、再吸収可能なコーティングを電極上に設けることは、最終的な移植位置となる前にステロイドの初期損失を防止するために重要である。そのようなコーティングは、マンニトールあるいはポリエチレングリコール(PEG)とすることができる。他の実施形態においては、所望の場所を捜すために、移植しない電極プローブを用いることができる。恒久的に移植しないことにより、このプローブは、以下の特徴をより容易に取り入れることができる。製作および使用が安価である;場合によって再使用可能である;より使いやすい;組織との接触を改善するために特定の特徴を持たせて製作することができる(予め形作られた湾曲、操縦可能なハンドルの使用、あるいは他の堅くする/操作するための機構);近位端で容易に電極間のスイッチに機能を可能にするために、マルチピンコネクタと多電極能力を持つ近位側で容易に電極を切り替える機能を可能にする(これはまた、理想的な場所の迅速な評価のための、例えばBard EP, Pruka, Biosenseといった多電極マッピングシステムに接続する機能を可能にする);心臓に対するおよび十分に導電性の組織に対する電極の位置を確認するためのセンサの組込により、解剖学的な位置決めを改良することができる。そのようなセンサの実施例には、(例えばJ&J/Biosenseカテーテルに用いられている)磁気ホールセンサや、(例えばBoston Scientific/Cardiac Pathwaysカテーテルに用いられている)超音波センサが含まれる。
本願明細書に開示したいくつかの実施形態においては、心臓ハーネスおよびペーシング/センシング電極あるいは除細動導線を配備する順序を変更することができ、ペーシング/センシング電極および/または除細動導線の後にハーネスを配備し、ハーネスとペーシング/センシング電極および/または除細動導線を同時に配備し、あるいはまたハーネスを配備してからペーシング/センシング電極および/または電気的除細動導線を配備することができる。
開示された実施形態においては移植可能なペーシング/センシング電極250を心尖の開口から心膜の下側に配備することが好ましい。しかしながら、電極を心膜の外側に配備することは可能である。このことを達成するために、心膜のスリットを心尖以外の部位に形成し、ペーシング/センシング電極はこのスリットを介して心外膜上へ前進させる。この方法の潜在的な利点は、ペーシング/センシング電極の本体と心臓ハーネスの間の(材料摩耗を生じさせ得る)直接接触を防止する手段として心膜が作用することにある。このスリットは、約0.25インチ〜約1.00インチ(1.016mm〜25.4mm)の範囲の小さな切開とすることができる。また、この切開は、縫合(あるいはステープルのような他の締着具)によって導線の周りを閉じることができる。
以下にリストされているデリバリー機構に力点が置かれているが、移植しない探索プローブにも同様に適用することができる。図62に示した本発明の一態様において、ペーシング/センシング電極250は、非外傷性で正確な操縦性を有したるガイドワイヤ274上で前進する。このガイドワイヤはペーシング/センシング電極内の管腔276を通って延びて、このガイドワイヤを心膜の下側に配置した後に、ペーシング/センシング電極がガイドワイヤ上で前進して心臓の心外膜表面に接触するようになっている。ペーシング/センシング電極が所定の位置に来ると、ガイドワイヤを患者から引き抜く。管腔276は、ペーシング/センシング電極250上の任意の場所あるいは貫通させて配置することができる。例えば、この管腔は、ペーシング/センシング電極および付随する導線の全体を通って延びるように、導線を貫通してあるいは導線と同軸にまたペーシング/センシング電極を貫通して延びることができる。このガイドワイヤは、前述したように、好ましくは心膜の小さな切開を介して挿入される。ガイドワイヤは、房室溝を超えて非外傷的に前進させることができる。
ペーシング/センシング電極と心筋の間の確実な接触は、最適なセンシングおよびペーシングにとって重要である。以下の特徴は、ペーシング/センシング電極を心臓の心外膜表面に確実に取り付ける能力を可能とする。心膜は、心外膜表面に対してペーシング/センシング電極を保持するために用いることができる。心臓ハーネスは、ペーシング/センシング電極および/またはペーシング/センシング電極の本体を心臓に対して押圧するために用いることができる。(拡大可能なバルーンのような、図示しない)膨張可能部材は、(心外膜と心膜の間のスペース内に配置されている)ペーシング/センシング電極のうち心嚢側に配置される。ペーシング/センシング電極がハーネスの外側にある場合には、膨張可能部材は、心膜に対して拡大して電極を心外膜に押圧する。ペーシング/センシング電極がハーネスの下側にある場合には、膨張可能部材はハーネスおよび心膜に対して拡大し、電極の心外膜との接触を強制する。膨張可能部材の実施例には、膨張可能なブラダ(空気または流体を用いる)、または拡大可能なケージ(例えばニチノールのワイヤ形状)が含まれる。この部材は、自ら拡大し、あるいはユーザが拡大させる。ペーシング/センシング電極を心臓の心外膜表面に取り付けるために用いる他の特徴には、以下が含まれる。生体組織用の接着剤(電極の近傍部位を含むペーシング/センシング電極上の1つ若しくは複数の部位に遠位ポートを有するペーシング/センシング電極内の管腔は、導線を心外膜および/または心嚢の組織に取り付けるシアノアクリレートのような生体組織用接着剤を移動させるために用いることができる);接着剤を予め充填したブラダもまた、接着剤を吐出するために孔を開けることができる;ゴムバンド(その弾力性は、ハーネス内のニチノールのような金属ワイヤ形状の歪みによってあるいは弾力的なゴム状ポリマーによって達成され、電極に取り付けられると心臓あるいは心臓に固定された位置/装置の周りで引き伸ばされる);または摩擦パッド(ペーシング/センシング電極の摩擦の特性が、心臓の表面に対するペーシング/センシング電極および/または電極の保持を助ける)。
他の態様において、心臓ハーネスとペーシング/センシング電極の界面の材料は、ハーネスの導線材料への定着を助ける柔らかい材料から作ることができる。これは、そこにハーネスが定着するブラシ状あるいはカーペット状の表面を生成するために、多孔性あるいはフォーム状の材料、あるいは表面上に細い突起があるマトリックスとすることができる。また、ハーネスのワイヤ形状が押圧されたときに圧縮されあるいは窪む柔らかい材料から成る、心臓ハーネスおよび/またはハーネスそれ自身の材料に、ペーシング/センシング電極の外側層を接触させることには利点がある。これは、特に適切に繊維化したときに、材料の互いの係合を助けるばかりでなく、ペーシング/センシング電極とハーネスの間の接触圧の減少を助ける。他の態様においては、心臓ハーネスとペーシング/センシング電極の界面における材料は、ゲルあるいは低デュロメータ値のシリコーンのような、材料が互いにくっつくことを助ける、粘着性の材料とすることができる。他の態様においては、ペーシング/センシング電極および/または心臓ハーネス上の材料は、組織がペーシング/センシング電極およびハーネスの内側およびその周りで成長してそれらを互いに連結することが確かなものとなるように設計することができる。そのような材料の実施例には、ePTFE、ダクロン、および多孔性シリコーンが含まれる。孔サイズは、10〜100ミクロン(好ましくは20〜30ミクロン)とすることができる。多孔性材料(例えば繊維メッシュ、ePTFE、他の開放セルポリマーマトリクス)をペーシング/センシング電極上に用いる場合に、最終的な開孔サイズは、ペーシング/センシング電極のある種の特徴を獲得するために、ペーシング/センシング電極をどこでかつどのように用いるかに応じて最適化することができる。孔のサイズを制限することは、組織の成長を最小化して、必要になった場合にペーシング/センシング電極あるいはペーシング/センシング電極の一部の後日の取り出しを容易にする点で好ましい。しかしながら、心臓ハーネスのワイヤ形状に隣接する領域においては、ペーシング/センシング電極および/または心臓ハーネスの安定に役立つとともにそれらの2つの間相対運動を最小化する組織の成長を促進するという利点がある。また、上述したブラシ状あるいはカーペット状の機能は、組織の成長を改善する。また、材料には、強化された急激な効果のためのフィブリン沈着を促進する薬剤を選択的にコーティングしあるいは含浸させることができる。
本発明の一態様においては、ペーシング/センシング電極および心臓ハーネスの両方における使用のために、それらの2つの間の摩耗に耐える様々な材料を選択することができる。加えて、複合材料設計もまた摩耗に耐えることができる。金属(例えばステンレス鋼、ニチノール、プラチナ、MP35N)のコイル、編組および/または織物、あるいは耐摩耗性の高分子材(例えばポリエステル、ポリイミド、テフロン、ケブラー)は、導電体および導電体絶縁の保護を可能とし得る。上述した材料は、ペーシング/センシング電極内部の高分子材(例えばシリコーンゴム)のマトリックスに組み込むことができる。高分子材の外側層は、耐摩耗性の材料がさらなる材料の損失を止めあるいは大幅に遅らせるより前に、犠牲層として摩滅することができる。摩耗回避の鍵は、材料間の接触力および相対運動を制限することである。摩滅が予想されるペーシング/センシング電極および/またはハーネスに材料層を付加することにより、嵌合する材料が互いに「沈み込む」ようにする。これにより、湾曲した面の間の最初の点接触からより広範囲な接触面へと、材料間の接触面積が増加する。その利点は、材料間の局部的な接触力が減少して、摩擦(摩耗)力が減少することにある。材料間の相対運動もまた減少し、摩耗の可能性をさらに減少させる。他の態様には、ペーシング/センシング電極および心臓ハーネス上での柔らかい材料の使用が含まれる。柔らかい材料は、互いに「沈む込み」、摩耗を生じさせる接触力および相対運動を減少させる。前述した構造と同様に、材料の実施例には、低デュロメータ値の高分子材料、多孔性高分子材、またはブラシ/カーペット類似の材料が含まれる。上述したように、ハーネスおよびペーシング/センシング電極の一体に固定しかつ相対運動を防止するあらゆる特徴が、摩耗を防止する。
ICD/CRT−D/ペースメーカー、導線、および心臓リズム管理装置と関連する他のいかなる装置のの送達および植設は、周知の技術である手段によって行うことができる。好ましくは、ICD/CRT−D/ペースメーカーは、心臓ハーネス、電極、および導線と同じ最小限に侵襲性のアクセス部位を通して供給される。それから導線は、公知の方法でICD/CRT−D/ペースメーカに接続される。本発明の一実施形態においては、ICD、CRT−Dあるいはペースメーカー(または組合せ装置)は公知の方法で腹部領域に植設され、次いで導線が接続される。導線が(心臓ハーネス上の)電極の先端から延びているので、導線は腹部領域にある電力源への取り付けのために良好に配置される。
ハーネスの弾性が損なわれないように、心臓ハーネス上への線維性組織の成長の可能性を減少させることが望ましい。また、線維性組織が時間とともに心臓ハーネスおよび電極の上に形成されるので、ペーシング刺激の電力を増大させる必要になることもあり得る。線維性組織が増大すると、右側で左心室の閾値は増大し、一般に「進出ブロック(exit block)」と呼ばれる。進出ブロックが検知されるときに、ペーシング治療は調整されなければならない。ステロイドのようなある薬物が、瘢痕組織あるいは線維性組織成長に至る細胞増殖を妨げることが見い出された。心臓ハーネス上あるいはハーネス上のポリマーコーティング内に、ポリマーのスリーブ上に、ハーネスの個々の波形の素線上に装填し得る、あるいは電極の管腔を通して注入されて心臓の心外膜表面に供給される、治療薬あるいは薬理学的化合物の実例には、ステロイド、タキソール、アスピリン、プロスタグランジンが含まれる。抗血せん性あるいは抗増殖性の薬物のような様々な治療薬が、瘢痕組織の形成の制御に用いられる。本発明による使用のために適切な治療薬あるいは薬物の実例には17−βエストラジオール、シロリムス、エベロリムス、アクチノマイシンD(ActD)、タキソール、パクリタキセル、またはその誘導剤および類似体が含まれる。薬剤の実例には、抗悪性腫瘍剤と同様な他の抗増殖性物質、抗炎症剤、抗血小板物質、血液凝固阻止薬、抗フィブリン剤(抗トロンビン物質)抗有糸分裂性、抗生物質、および酸化防止物質が含まれる。抗悪性腫瘍薬の実例には、タキソール(パクリタキセルおよびドセタキセル)が含まれる。治療薬あるいは薬剤の更なる実例には、抗血小板物質を含む、抗血小板物質、抗凝血剤、抗フィブリン剤、抗炎症剤、抗トロンビン物質、および抗増殖性剤が含まれる。抗血小板物質、抗凝血剤、抗フィブリン剤、および抗トロンビン物質の実例には、ナトリウムヘパリン、低分子量のヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D-phe-pro-arg-クロロメチルケトン(合成抗トロンビン剤)、ジピリダモール、糖蛋白質IIb/IIIa血小板膜受容体アンタゴニスト、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制物質(マサチューセッツ州、CambridgeのBiogen社から入手可能)、および7E-3B(登録商標)(ペンシルバニア州、MalvernのCentocor社からの抗血小板薬)が含まれるが、これらには限定されない。抗有糸分裂薬の実例には、メトトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、アドリアマイシン、およびマイトマイシンが含まれる。細胞分裂停止または抗増殖性薬剤の実例には、アンジオペプチン(英国のIbsen社からの成長ホルモン分泌抑制ホルモン類似体)、カプトプリル(登録商標)(ニューヨーク州、ニューヨークのSquibb社から入手可能)のようなアンギオテンシン変換酵素阻害剤、シラザプリル(登録商標)(スイス、バーゼルのHoffman-LaRoche社から入手可能)、またはリシノプリル(登録商標)(ニュージャージー州、WhitehouseStationのMerck社から入手可能);(ニフェジピンのような)カルシウムチャンネル遮断薬、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)拮抗剤、魚油(ω3-脂肪酸)、ヒスタミンきっ抗薬(Lovastatint))ロバスタチン(登録商標)(HMG―CoAレダクターゼ阻害剤、Merk社からのコレステロール血症治療薬)、メトトレキセート、(PDGF受容体のような)単クローン性抗体、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤(英国のGlaxoSmithKline社から入手可能)、セラミン(血小板由来成長因子拮抗剤)、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼインヒビター、トリアゾロビリミジン(血小板由来成長因子拮抗剤)、および酸化窒素が含まれる。他の適切な治療薬あるいは薬剤には、αインターフェロン、遺伝子工学による上皮性細胞、およびデキサメタゾンが含まれる。
前述したように、電極はまた、図25A〜図26Bに示した心臓ハーネス上に配置することができる。図69は、心臓ハーネスのスパイン346と一体化された除細動電極342およびペーシング/センシング電極344を有する心臓ハーネス340の他の実施形態を示している。この実施形態は、スパインによって保持されている二対のペーシング/センシング電極を有している。1つの電極、図70に示した1対の電極、あるいは3対の電極を含む、任意の数のペーシング/センシング電極をスパインによって保持することができる。心臓ハーネス上の電極対の数が多くなるほど、ペーシング/センシング特性が最適となるより多くの位置がもたらされる。
スパインにペーシング/センシング電極344をモールド成形するときには、上部カップ部350および底部カップ部352を有したラバーカップ348を用いる。図71に示したように、ペーシング/センシング電極344は、上部カップ部および底部カップ部の間に捕捉されてシリコーンゴム成形型354の内側に置かれる。成形プロセスの間、ラバーカップの半片は成形型によって互いに押圧され、電極の多孔性の先端部分をシールする。ラバーカップは、シリコーンゴムのモールドが電極チップの周りを自由に流れるようにする。成型の後、電極チップを囲んでいるモールドを切り離し、ラバーカップの上部カップ部を取り除くとペーシング/センシング電極が露出する。底部カップ部は、シリコーンゴムの成形型と一体化することができる。ペーシング/センシング電極は接合されていないので、電極が、周知のシリコーンマトリックスを介してデキサメタゾンリン酸ナトリウムのようなステロイドを放出することは可能である。
2006年2月に、ペーシング/センシング電極と共に用いる心臓ハーネスのある実施形態を評価するために、犬を用いた研究を実施した。この研究の間に、4つの基礎的な心臓ハーネスおよびペーシング/センシング電極スパインにつて試験を行った。配置#1は、心臓ハーネスと、それぞれ1つの双極電極対を有している図66に示した4つのモジュール式ペーシング/センシングスパイン306とから構成されている。スパイン306は、デリバリシステムに一緒にひもで結んで、心臓ハーネスと共に同時に送達した。スパイン「MA(1)」は、右心室の前外側壁の底部に配置し、スパイン「MA(2)」は左後外側上の中央に配置した。スパイン「MB」は、右心室の後外側の壁上に配置した。第3のスパイン「MC(1)」は、左心室の後外側の壁上の底部に配置し、スパイン「MC(2)」は左後外側上の中央に配置した。スパイン「MD」は、左心室の前外側の壁上に配置した。各スパイン上の電極バイポールのペーシングおよびセンシング性能は、CRT−Dパルスジェネレータの診断用機能を用いて評価した。これらの結果の概要は、以下の表にまとめられている。
Figure 2010508083
全体的に、試験を行った上述の4つのバイポールのペーシング/センシング性能は優れていた。全てのセンス振幅およびペースインピーダンスは最低許容量をかなり上回っており、かつ検出したエレクトログラムの信号品質はノイズがなくて強いものであった。鋭いペース捕捉閾値は、望ましい値(すなわち、>2V)よりわずかに高かったが、これらのプロトタイプのペーシング/センシング電極および付随する構造(例えば、ミニクリップアダプタを有したステンレス鋼の電極)の最高の性能は予想されなかった。
配置#2は、心臓ハーネスと、図64に示したそれぞれ一つのバイポール電極を有している4つのモジュール式ペーシング/センシングスパイン280とから構成されている。スパイン280は、プッシュアームにそれらをひもで縛り付けることにより、拍動している犬の心臓上に既に配置されている心臓ハーネスと心外膜との間にそれぞれ配備した。「PA」で表したスパインは左後外側上の底部に配置し、スパイン「PB」は右後外側上の底部に配置した。第3のスパイン「PD」は、左後外側上の底部に配置した。スパイン「PE(1)」は、右心室自由壁の中壁に配置し、かつスパイン「PE(2)」は、右室自由壁の底部に配置した。ペーシングおよび各スパイン上の電極バイポールのペーシング/センシング性能をは、CRT-Dパルスジェネレータの診断用機能を用いて評価した。これらの結果の概要は、以下の表にまとめられている。
Figure 2010508083
全体的に、上述した4つのバイポールのペーシング/センシング性能は極めて良好であった。全てのセンス振幅およびペースインピーダンスは、最小許容量をかなり上回っており、かつ検出されたエレクトログラムの信号品質はノイズがなく強いものであった。しかしながら、評価#7は変化しかつ断続的な信号振幅および品質に遭遇し、かつその理由は肯定的には確定しなかった。鋭いペース捕捉閾値は望ましい値(すなわち、>2V)よりわずかに高く、1つの場所(評価#8)で捉えることができなかった。これらのペース捕捉結果の有望な説明は、上述した配置#1におけるそれを反映している。
配備#3は、図69に示されている心臓ハーネス340のような、一体型の除細動およびペーシング/センシング電極を有した心臓ハーネスから構成されている。しかしながら、この研究に用いた心臓ハーネスは、各スパインにつき3対のバイポール電極を有しており、各電極は心臓ハーネスの底部あるいは底部の端部から始まる1から6の数字で表されている。以下の表において、「RA」は右の前外側、「RP」は右の後外側、「LA」は左の前外側、および「LP」は左の後外側を表している。各心臓ハーネススパインに沿った電極バイポールのペーシング/センシング性能は、CRT-Dパルスジェネレータの診断機能を用いて評価した。これらの結果の概要は、以下に表にまとめられている。
Figure 2010508083
許容できないおよびほとんど余裕のない全ての値は、底部および尖端のバイポール位置に由来している。これとは対照的に、中壁バイポール位置4つの全てが、絶えず力強い信号品質の優れたペーシング/センシング性能をもたらしている。底部および尖端のバイポールのうちのいくつかの相対的により低い性能の理由は確定しなかったが、1つの仮説は、介在している脂肪/血管の影響を受けたバイポールが心筋層と良好に接触していなかったというものである。
配置#4は、20%のバリウムが充填された後方列コネクタを心臓ハーネスが有している点を除いて配備#3と同様である。さらに心臓ハーネスを心臓上に配置した後、図64に示されているようなモジュール式のペーシング/センシングスパイン280を心臓ハーネスおよび心外膜と2つの左室ハーネス電極スパインとの間に配備し、明らかに左心房の心外膜上に配置されるまで前進させた。モジュール式のスパインは、以下のテーブルに「PC」で表されている。さらに「RA」は右の前外側、「RP」は右の後外側、「LA」は左の前外側、および「LP」は左の後外側を表している。各心臓ハーネスのスパインに沿った電極バイポールのペーシング/センシング性能は、CRT-Dパルスジェネレータの診断機能を用いて評価した。これらの結果の概要は、以下の表にまとめられている。
Figure 2010508083
全体的に、試験したバイポールのペーシング/センシング性能は極めて良好であった。センス振幅およびペースインピーダンスは最小許容量をかなり上回っており、かつ検出されたエレクトログラムの信号品質は、全般的にノイズがなくて強いものであった。全てのペース捕捉閾値もまた許容範囲であった。
本発明のある好ましい実施形態に関して説明してきたが、当業者にとって明らかな他の実施形態もまた本発明の範囲内である。したがって、本発明の範囲は、添付の請求の範囲の参照のみによって定義される。本願明細書に記載した寸法、材料およびコーティングの種類は本発明のパラメータを定めることを意図したものであり、それらは決して限定的なものではなく例示的な実施形態である。

Claims (25)

  1. 移動可能な電極スパインであって、
    第1の表面および第2の表面を有した小さな輪郭のスパイン本体と、
    前記スパイン本体によって保持された少なくとも一つのペーシング/センシング電極とを備え、
    前記スパイン本体が誘電材料から形成されている電極スパイン。
  2. 前記スパイン本体の第2の表面がePTFEの層を有していることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  3. 前記少なくとも一つのペーシング/センシング電極が、1つの双極電極対であることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  4. 前記双極電極対が、前記スパイン本体の内部で長手方向に配置されることを特徴とする請求項3に記載したスパイン。
  5. 前記双極電極対が、前記スパイン本体の内側に水平に配置されることを特徴とする請求項3に記載したスパイン。
  6. 前記スパイン本体がパドル状に形作られていることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  7. 前記スパイン本体が円形に形作られていることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  8. 前記少なくとも一つのペーシング/センシング電極が、全方向性の双極電極対であることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  9. 前記スパイン本体がシリコーンゴムから形成されていることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  10. 前記スパイン本体の第1の表面上に配設されたグリップパッドをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載したスパイン。
  11. 心臓を治療するめのシステムであって、
    心臓の少なくとも一部分に合致するように構成された心臓ハーネスと、
    前記心臓ハーネスと心臓の表面との間に配置されるように構成された電極を保持するための本体を有する第1の移動可能な構造と、
    を備えることを特徴とするシステム。
  12. 前記第1の移動可能な構造が、心臓にぺーシング/センシング機能をもたらす一対の双極電極を保持していることを特徴とする請求項11に記載したシステム。
  13. 前記心臓ハーネスと心臓の表面との間に配置されるように構成された電極を保持するための本体を有する第2の移動可能な構造をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載したシステム。
  14. 前記第1の移動可能な構造および前記第2移動可能な構造は、心臓にぺーシング/センシング機能を提供するための1本の電極をそれぞれ保持していることを特徴とする請求項13に記載したシステム。
  15. 前記第1の移動可能な構造および前記第2移動可能な構造は、心臓にぺーシング/センシング機能を提供するための2つの電極をそれぞれ保持していることを特徴とする請求項13に記載したシステム。
  16. 前記第1の移動可能な構造の本体は、心臓に除細動ショックを提供するための細動除去電極を保持していることを特徴とする請求項11に記載したシステム。
  17. 拍動している心臓をぺーシング/センシングする方法であって、
    最小限に侵襲性のアクセス部位を介して心臓の少なくとも一部分の周りに心臓ハーネスを挿入し、
    電極を保持している本体を有した移動可能な構造を前記最小限に侵襲性のアクセス部位を介して挿入して、前記心臓ハーネスと心臓の心外膜の間に前記移動可能な構造を配置し、前記心臓ハーネスの圧縮力が前記移動可能な構造を心臓上の所定位置に保持する
    ことを特徴とする方法。
  18. 前記心臓ハーネスの挿入および前記移動可能な構造の挿入を、前記心臓ハーネスおよび前記移動可能な構造を運ぶデリバリー装置上において同時に行うことを特徴とする請求項17に記載した方法。
  19. 前記心臓ハーネスを運ぶためのデリバリー装置上の心臓ハーネスを挿入し、前記心臓ハーネスを心臓上に配置した後にプッシュアーム上の前記移動可能な構造を挿入することを特徴とする請求項17に記載した方法。
  20. 心臓の表面上における前記移動可能な構造の位置を探索することをさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
  21. 前記心臓ハーネスおよび前記移動可能な構造を心臓の心外膜表面上でかつ心膜の下側に取り付けるべく心膜に切開を形成することをさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
  22. 心臓にぺーシング/センシング機能を提供する一対の双極電極を前記本体が保持している前記移動可能な構造を挿入することを特徴とする請求項17に記載の方法。
  23. 心臓に除細動ショックを提供する細動除去電極を保持前記本体が保持している前記移動可能な構造を挿入することを特徴とする請求項17に記載の方法。
  24. 電極をそれぞれ保持している本体を有した多数の移動可能な構造を最小限に侵襲性のアクセス部位を介して挿入する段階と、
    前記移動可能な構造を心臓ハーネスと心臓の心外膜との間にそれぞれ配置する段階と、
    前記心臓ハーネスの圧縮力が心臓上の所定位置に前記移動可能な構造を保持する段階と、
    をさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
  25. 最小限に侵襲性のアクセス部位を介して前記移動可能な構造を挿入する前に、前記電極を前記移動可能な構造の本体の無菌領域に取り付ける段階をさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
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