JP2010500537A - 非特異的結合を軽減するための変異抗原を含む改良型免疫アッセイ - Google Patents

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Abstract

本発明は、一般的には、抗原−抗体−相互作用に基づく分析方法およびそのためのキットの分野に関する。特には、本発明は、分析対象被験体からの抗A抗体を含むことが疑われる試料を未変性および変異抗原Aと接触させることを含む、ある状態を診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターするための定量的インビトロ分析のための方法であって、変異抗原Aへの結合が抗原Aへの非特異的結合を排除するのに役立ち、さらに各患者に基づく人為的影響を排除するのにも役立ち、その結果抗A抗体および抗原Aの複合体形成について偏りのないデータが得られる方法に関する。本発明はまた、このような方法を実施するためのキットにも関する。例えば、抗原は、MOGタンパク質であり、それは多発性硬化症のマーカーとして用いられる。

Description

本発明は、一般的には、抗原−抗体−相互作用に基づく分析方法およびそのためのキットの分野に関する。特には、本発明は、請求項1の記載の、ある状態を診断、分類、予測、および/または該状態の進行のモニタリングを行う、定量的なインビトロ分析のための方法、ならびに請求項26に記載のこのような方法を実施するためのキットに関する。
抗原は、生物にとって異物である巨大分子、通常はタンパク質、ウイルス、真菌、細菌であり、また毒素、化学物質、薬物のような物質、およびその他微粒子でもある。免疫系は、抗原を認識して、液性免疫反応の一部として抗体を産生する。
抗体は、免疫系に用いられるタンパク質であり、抗原を識別および中和する。特異的抗原に対する免疫反応の間にこれら抗原に特異的に結合する抗体が増加する。
抗体は免疫細胞の細胞膜に固着するか、または血液中および組織液中、ならびに多くの分泌物中に遊離状態で存在することができる。遊離抗体には、二つの主要な機能がある:
−特異的免疫グロブリン受容体に結合し、エフェクター機能を発揮すること、および
−抗原に結合して、それらを架橋すること。
抗原への結合では、抗体は、抗体−抗原産物を凝集および沈殿させてマクロファージおよび他細胞による食作用を誘発し、ウイルス性受容体を遮断し、補体経路のような他の免疫反応を刺激する。
抗体は、抗原の存在を検知するとほぼ即時的に体の液性免疫系によって作られることから、抗体は通常、状態発生の極めて早い段階に出現する。
この早期の出現は、理論的には、抗体検出を状態の早期診断にとって魅力的な手段にしている。
抗体の抗原特異性により、特異的抗体の検出は医学診断に利用されている。
血清学は、これらの方法に依存している。自己免疫疾患は、ときには体部そのもののタンパク質に結合する抗体に原因を求めることもできる;少数は、血液検査によっても検出できる。免疫介在性の溶血性貧血では、クームス試験によってRBC表面抗原に対する抗体が検出できる。クームス試験は輸血準備時の抗体スクリーニングにも、また出生前女性の抗体スクリーニングにも用いられる。
しかしながらこれら方法のすべてについて、一般的に、二つの個体の免疫系に存在する抗体の種類および量が一致することはほとんど無いという問題がある。
このような早期診断の手段が強く望まれている一つの分野は、癌および自己免疫疾患の診断である。
癌は、細胞がその増殖制御経路への反応を失い、異常に増殖した結果である。この無制御の増殖は遺伝子産物の増加および異常な発現パターンと結びついており、多くの場合、特定の腫瘍に特異的な(腫瘍マーカー)構造に対する体部の免疫認識および抗体産生を起こす。確かに、腫瘍マーカーに対する抗体の出現の測定は、癌の早期診断または癌の進行および予後の決定につながるだろう。
自己免疫疾患は、体組織自体に対する免疫反応が原因となって起こる状態である。これは、アレルギーに類似する過敏反応によって引き起こされ、免疫系は、正常であれば無視する物質に反応する。アレルギーでは、免疫系は、通常は無害である外部物質に反応する。自己免疫疾患では、免疫系は正常な「自己」の体部構成要素に反応する。
通常免疫系は「非自己」組織と「自己」を識別できる。一部の免疫系細胞(リンパ細胞)は「自己」組織細胞に対し感作するようになるが、これらの欠陥リンパ細胞は、通常は、他のリンパ細胞によって除去または制御(抑制)される。自己免疫疾患は、正常な制御方法が崩壊した時に起こる。自己免疫疾患は、正常な体組織が変化し、もはや「自己」と認識されなくなった場合にも起こることがある。
自己免疫疾患は、ただ1つの器官または組織型だけに起こることも、複数の器官および組織を冒すこともある。自己免疫疾患によく冒される器官および組織としては、赤血球、血管、結合組織のような血液の構成要素、甲状腺または膵臓のような内分泌腺、筋肉、関節、および皮膚が挙げられる。
自己免疫疾患の一例は、多発性硬化症(MS)である。MSは、保護的なミエリン神経皮膜の炎症に始まり、時に瘢痕化を伴う神経機能の低下を特徴とする中枢神経疾患である。症状および症状の重症度は多様であり、多くは発症状態と寛解状態を繰り返しながら進行する。
中枢神経系(CNS)に独占的に発現するミエリン乏突起膠細胞タンパク質(MOG)は、MSの動物モデルである実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)のモルモットモデルにおいて脱ミエリン化自己抗体の免疫優性標的であることが発見された(非特許文献1、2)。
EAEにおけるMOGを標的にする抗体の病因としての役割、およびMOGがCNSミエリンの最外層に露出していることは、MS患者のCNS組織中にMOG特異的抗体の検出により証明されるように、MOGはMSにおいて重要な自己抗原としても働く可能性を示す(非特許文献3)。
しかしながら、MS患者の血清中または脳脊髄液(CSF)中のMOG−特異的抗体の存在に関しては明瞭な証拠は存在しない。複数の研究室が、これらの抗MOG抗体の検出を試みているが、極めて異なる結果が得られている。
幾つかの研究室は、有意に高い抗MOG抗体レベルを検出しているが(非特許文献4、5、6、7)、一方で他の研究室は別の炎症性神経疾患を有する患者、または健康対照者についても同様の濃度を測定している(非特許文献8、9、10)。これらの結果は、一般的にはELISAまたはRIA技術のいずれかを用いて得られたものである。
Lebar,R.,et al.,1986,Clinical and Experimental Immunology(臨床・実験免疫学),66:423−34。 Linnington,C., et al.,1984,Journal of Neuroimmunology(神経免疫学雑誌),6:387−96。 O’Connor,et al.,2001,Journal of Clinical Immunology(臨床免疫学雑誌),21:81−92。 De March,A.K.et al.,2003,Journal of Neuroimmunology(神経免疫学雑誌),135:117−125。 Gaertner,S.et al.,2004.Neurology(神経学),63:2381−2383。 Iglesias et al.,2001,Glia(グリア),36:220−234。 Berger,et al., 2003, New England Journal of Medicine(ニューイングランドジャーナルオブメディスン), 349:139−145。 Haase,et al.,2001,Journal of Neuroimmunology(神経免疫学雑誌),114:220−225。 Lampasona et al.,2004, Neurology(神経学), 62:2092−2094。 Lim,et al.,1986,Journal of Biological Chemistry(生物化学雑誌),261:5140−5146。
この不一致は、患者の選択およびアッセイの性能の差によるものであった。
分析対象被験体の免疫系に存在する抗体の量および種類は、人種、性別、居住域、ライフスタイル、年齢、以前遭遇した抗原、遺伝、他の既往症、または栄養といった数多くの要素に基づいて大きく変動する。これらの個体変動は、これらの抗体のレベルが低い、および/または非特異的バックグランドが高い場合に、特異的抗体の検出を不可能にすることがある。
それにもかかわらず自己抗体は、状態の最初の症状が顕在化するかなり以前に出現していることが多く、最適な治療を保証するために自己免疫疾患の早期診断が強く望まれている。今日でも、例えば自己免疫疾患、特にMSなどの状態の早期診断は極めて難しく、このようなある状態の進行を予測することはほとんど不可能である。
この早期の出現を分析手段として用いることは、これら状態の治療の成功率を劇的に上げるのに役立ち、ある場合には、症状が出現することさえをも防止するのに役立つ可能性もあるだろう。
これに加えて、自己抗体の早期検出は、疾患のサブタイプの決定にも役立つだろう。MS患者は、主たる免疫反応のタイプに応じて4つのグループに分類される。タイプIIのMSでは、疾患の進行はミエリン鞘構成要素に対する自己抗体に依存する。これらの患者には通常、IVIG、Rituxan、または血漿交換のような特殊な治療が有効であることから、これら患者のサブグループを早期に診断し、彼らにそれぞれ有効な治療を施すことが強く望まれる。
分析手段として抗体の出現および特異性を利用して、現在の当該技術分野の上記および他の不利益および問題を克服するために、本発明者らは以下の発明を完成させた。
本発明の目的は、抗体−抗原相互作用に基づいて、ある状態を診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターするための、迅速、簡便、かつ使用が簡便な定量的なインビトロ分析のための方法であって、従来技術の方法に関係する問題を克服または少なくとも軽減する、特には分析対象となる各被験体の個性、特にはその免疫系に存在する抗体の量および種類、および他の被験体との不適合性に関係する問題を克服または少なくとも軽減する方法を提供することである。この目的は、請求項1〜25に記載する方法によって解決される。
本発明の更なる目的は、本発明の方法を実施するのに必要な全ての構成要素を含むキットを当該技術分野に提供することである。この目的は、請求項26〜33に記載するキットによって解決される。
当業者は、本明細書に開示した本発明の任意の特徴を、自由に組み合わせることが可能であることを了解するだろう。これは本発明の更なる態様を生むこととなり、本発明の範囲内に含まれるものと見なされる。
さらに本明細書に引用する全ての参照にも当てはまる。それらに関係する内容は、本発明の開示の一部と見なすものとする。
本発明の方法は、ある状態を診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターするための、定量的なインビトロ分析のための方法である。
多様な異なる状態の診断、好ましくは早期診断は、本発明の方法の応用分野の一つである。生物のほとんどの障害は、該当する被験体の液性免疫系における極めて早期の状況に反映される。それ故に、ある状態を確実に引き起こす、抗原に対する特異的抗体の存在を検出することは、ある状態を診断する、好ましくはその状態の症状が現れる前に診断する強力な手段である。このことは公知であることから、ある状態を早期に診断できることは医学において高い価値を有する。本発明の方法は、状態の症状が現れた後に適用され、その状態を問題なく診断するための追加の証拠を提供することもできるが、例えば定期的および/または不定期な健康診断の枠組みの中で、見かけ上健康な個体に、症状が現れるはるか前にも等しく適用することができる。本発明の方法は、被験体の死後に適用して、例えば死因を決定すること、または死亡した被験体が被っていた可能性のある別の障害を決定することもできる。
ある状態、特に障害の分類は、本発明の方法にとっての別の重要な応用分野である。症状のある単一の障害が、生化学的または生理学的な原因を基礎とする異なる結果でありうることは多い。従って、正しい治療を助言することができるためには、その障害の原因を正確に決定することが重要である。本発明の方法は、障害の全てのタイプについて症状が同一であったとしても、タイプが異なる障害を識別することができる。
本発明の方法は、ある状態、特に障害の進行を正しく予測するのにも応用できる。このような正確な予測によって、適切な治療の選択が可能となる。このことによって、医療従事者と患者間に信頼関係が築かれ、今後予想されることを患者が知らないという事態は回避される。時間内に適切な準備ができる。
最後に、ある状態のモニタリングが本発明の主題の別の応用例である。この応用によって、例えば、投薬後比較的短い間の後に、治癒の徴候の出現が期待できる時よりもはるか前に投薬の有効性を確認することができる。これにより、無効な投薬を早期に中止することが可能となると同時に、時間の無駄、および不注意による、不必要な副作用を回避することが可能となり、また投薬の有効性を早期に検出でき、これらは患者の快適性を高めるだろう。
本発明の主題は、
a)分析対象被験体から、抗A抗体を含むことが疑われる試料を得る段階、
b)未変性および変異抗原Aを提供する段階、
c)抗A抗体を含むことが疑われる試料を変異抗原Aおよび未変性抗原Aと接触させる段階、
d)未変性抗原Aに結合した抗A抗体の量を段階c)後に検出する段階
を含む、ある状態を診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターするための定量的なインビトロ分析のための方法であって、
未変性抗原Aに結合した抗A抗体の存在が、ある状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行のモニタリングを可能にする方法である。
任意選択的に、抗A抗体を含むことが疑われる分析対象被験体からの試料を変異抗原Aと最初に接触させることもできる。更には、任意選択的に、試料を未変性抗原Aと接触させる前に、変異抗原Aと形成した複合体を、当業者公知の技術によって試料から取り除くこともできる。これは、このアッセイ(essay)から非特異的な結合を排除するのに役立つだろう。
本発明の一つの態様では、方法は:
a)分析対象被験体から、抗A抗体を含むことが疑われる第1試料を得る段階、
b)未変性抗原Aを提供する段階、
c)抗A抗体を含むことが疑われる第1試料を未変性抗原Aと接触させる段階、
d)結合した抗A抗体の量を段階c)後に検出する段階、
e)変異抗原Aを提供する段階、
f)段階a)と同一の分析対象被験体から、抗A抗体を含むことが疑われる第2試料を得る段階、
g)段階a)と同一の分析対象被験体からの抗A抗体を含むことが疑われる第2試料を変異抗原Aと接触させる段階、
h)結合した抗A抗体の量を段階g)後に検出する段階、
i)段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体に対する段階d)の抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を決定する段階を含み、
変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差から、ある状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターすることができる。
本発明の目的では、抗A抗体を含むことが疑われる試料は、抗A抗体に対する試料を調べるために得られる任意の試料である。従って抗A抗体を含むことが疑われる試料については、試料は抗A抗体を含む可能性があると信じる根拠が存在する必要はなく、特に抗A抗体に関係する状態に関する兆候が既に現れている必要はない。
抗A抗体を含むことが疑われる試料は、原則として抗体を含む生物から得た任意の試料でよい。第1および第2試料は、分析対象被験体の同じ起源に由来する、例えば共に血液試料であることが好ましい。試料の同質性を確保するためには、分析対象被験体からは一つの試料だけを得て、除去後に二分し、一方を第1試料として用い、他方を第2試料として用いることがより好ましい。
本発明の方法を実施するための試料サイズとしては、1〜5μl、好ましくは1〜25μl、より好ましくは1〜1000μlで十分であるが、より量の多い試料も用いることができる。第1試料および第2試料については同一の試料容積を使用することが好ましく、両試料の量が等しいことは、抗原Aに結合した抗A抗体と変異抗原Aに結合した抗A抗体の比較を簡便にする。第1試料および第2試料として使用する試料の抗A抗体濃度は約1μg/mlから0.001μg/mlであることが好ましく、0.5μg/ml〜0.01μg/mlであることが特に好ましい。
分析対象被験体、例えばヒトから得た場合のような未希釈の試料は、少なくとも1μg/ml、より好ましくは10〜100μg/ml、さらにより好ましくは10μg/ml〜1mg/ml、または入手可能であればより高い総抗体A濃度であるべきである。
本発明の方法を用いた分析の前に、試料は所望する総抗体A濃度、例えば1μg/ml〜0.1μg/mlに希釈することが好ましい。
抗原Aおよび変異抗原Aは、等モル量で提供されるのが好ましい。各実験に用いられる抗原Aおよび変異抗原Aの総量は0.1〜100μg、好ましくは0.2〜50μg、より好ましくは0.3〜25μg、最も好ましくは0.5〜10μgである。より多量の抗原も提供できるが、しかしながらこれにはより大量のタンパク質が必要となる。
本発明の方法の一つの利点は、必要な試料量が極めて少量でありながら、従来技術の分析方法の正確性を驚くほど改善できることである。
抗A抗体を含むことが疑われる第1試料を未変性抗原Aに接触させるには、抗原−抗体−相互作用を起こすことができる任意の方法が好適である。同様に、段階a)と同一の被験体からの抗A抗体を含むことが疑われる第2試料を変異抗原Aに接触させるには、抗原−抗体−相互作用を起こすことができる任意の方法が好適である。必須ではないが、抗A抗体を含むことが疑われる試料は、第2試料を変異抗原Aと接触させるのと同一の方法により抗原Aに接触させるのが好ましい。
抗原−抗体相互作用形成後、形成された抗原−抗体−複合体は、抗原−抗体−複合体を試料の残りの構成要素から区別できる任意の方法を用いて検出および定量化できる。ゲルクロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、特にサイズ排除クロマトグラフィー、イオン相互作用に基づくクロマトグラフィー、またはアフィニティークロマトグラフィーのような定量的クロマトグラフィー、密度遠心分離、あるいは単純濾過は、適用可能な方法の幾つかの例に過ぎない。別の代替法は、電子顕微鏡または光散乱のような光学的方法である。当業者は、これらの方法がどのように実施され、またそれらをどのように用いて試料の構成要素を定量化できるか周知している。
当業者は、抗原−抗体−複合体を定量化する、当技術分野で公知の代替法を用いることもできるだろう。
本発明の一つの態様では、段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した段階d)の抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差の決定は、手計算で簡単に実施できる。
本発明の好ましい態様では、段階d)の抗原Aに結合した抗A抗体の量および段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体の量は、任意の検出手段によって測定され、次に対応するシグナルを計算ユニットに送る。次に計算ユニットは、段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した段階d)の抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を計算し、対応するシグナルを表示ユニットに伝送し、表示ユニットは得られた比率および/または差を表示する。
本発明の一つの態様では、本発明の方法は、抗原Aおよび/または変異抗原Aを少なくとも一つの検出可能成分と一緒に提供する段階を更に含む。
検出可能成分は、単独で、または活性化後に、可能であれば他の試薬と組み合わせた後に、シグナルを放射する任意の原子または原子群である。このシグナルは、永久的に、または抗体に結合した後にのみ、または検出可能な成分が提供された抗原が対応する抗体と結合するまで発することができる。検出可能成分が活性化後にのみシグナルを放射する場合は、最初にすべての未結合の、検出可能成分を有する抗原を試料から除去し、次に検出可能成分を活性化することができる。
抗原Aおよび変異抗原Aが検出可能成分と一緒に提供される場合、両抗原は同一の検出可能成分と一緒、または異なる検出可能成分と一緒に提供できる。
両抗原を同一の検出可能成分と一緒に提供することには、定量化の段階で得られたシグナルを容易に比較でき、シグナルが異なることによる検出システムの違いによる誤りを回避する利点がある。
両抗原を異なる検出可能成分と一緒に提供することには、この場合に発明をワンポットアッセイで実施できる利点がある。この場合、第1検出可能成分と一緒に提供された抗原Aおよび第1検出可能成分とは異なる検出可能成分と一緒に提供された変異抗原Aを、抗A抗体を含むことが疑われる試料に同時に接触させる。次に、段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した段階d)の抗原Aと結合した抗A抗体の比率および/または差を、変異抗原Aの検出可能成分のシグナルと比較した抗原Aの検出可能成分のシグナルの比率および/または差として得る。
抗原Aまたは変異抗原Aのどちらか一方だけが検出可能成分とともに提供される場合でも、本発明の方法はワンポット反応として実施できる。抗原Aが検出可能成分とともに提供され、変異抗原Aが検出可能成分とともに提供されない場合は、等量の抗原Aおよび変異抗原Aを、抗A抗体を含むことが疑われる試料に同時に接触させる。参照試料として、等量の、抗A抗体を含むことが疑われる試料を、抗原Aおよび変異抗原Aの混合物中に存在するのと同様の量の検出可能成分で標識した抗原Aと同時に接触させる。次に段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体に対する段階d)の抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を、混合試料と参照試料のシグナルの差から得る。
検出可能成分は、放射活性マーカー、または、例えばアルカリホスファターゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイド、ウレアーゼ、フルオレセイン、ローダミン、およびビオチン−ストレプトアビジンから成る群より選択されるのが好ましい。
本発明の一つの態様によれば、記載の方法の個々の段階は、免疫−吸収アッセイ(essay)、特に酵素連結免疫吸収アッセイ(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、BIACORE、または酵素免疫アッセイ(EIA)の枠組みのなかで、好ましくは自動化形式で実施される。
これらアッセイは従来技術であり、当業者は、これら分析方法において本発明の方法およびキットをどのように使用するかについて分かるだろう。
RIAは、バイオアッセイの使用を必要とせずに抗原を試験するのに用いられる方法である。RIAは、チロシンに結合したヨードの放射活性同位元素で標識されることが多く、既知量の放射活性標識抗原をその抗原に特異的な抗体と混合すること、次に未標識または「コールド」抗原を加えること、および置き換わった標識抗原の量を測定することを含む。バイアコア(Biacore)技術は、自然現象である表面プラズモン共鳴に基づくものである。リガンド、例えば特異的抗体が表面に沿って流れる移動相の一部である一方で、タンパク質、例えば抗原は、センサー表面に取り付けられる。光はセンサー表面の裏側で反射するが、その強度は移動相からのリガンドが固定されたタンパク質に結合すると変化する。
EIAは、酵素が結合した抗体を用いて抗原を検出するか、または酵素が結合した抗原を用いて抗体を検出するアッセイである。酵素は、基質に触れると検出可能な産物との反応を触媒する。
本発明の方法は、自動化形式での実施に最適である。例えば、抗原Aおよび変異抗原Aは、共に検出可能成分で標識して、マルチウエル−プレートに加えることができる。こうすると、抗A抗体を含むことが疑われる多数の試料をこれに加えることができ、その後、形成された抗体−抗原複合体は自動的に検出でき、コンピュータによって所望の比率および差を計算することができる。これによって、多数の患者について、特定の状態および/または障害を同時に選別できる。
同様に、試験対象となる被験体の単一試料を複数の抗原および対応する変異抗原と接触させることができる。このようにすることで一個体を複数の状態について、例えば研究目的または医学検査の一部として、同時に試験することができる。
本発明に係る、これら自動化された方法の変形は、当業者の技術によって作ることができ、かつその範囲内であり、本発明の一部である。
本発明では、診断、分類されるべき状態、および/またはモニターされるべき該状態の進行は、生理学的または臨床的状態であることが好ましい。
特に、本発明の主題は、癌、特に癌腫、リンパ腫、白血病、肉腫、中皮腫、神経膠腫、胚細胞腫、および絨毛上皮腫を診断および/または分類すること、および/またはそれらの進行を予測および/またはモニターすることに用いることができる。
本発明の主題は、感染症を診断および/または分類することにも用いることができる。この点での感染症は、例えばウイルス、細菌、真菌、および原生動物のような生物因子、あるいは寄生虫が引き起こす疾患である。診断、分類、予測、および/またはそれらの進行をモニターすることが可能な感染症の例は、下気道感染症、HIV/AIDS、下痢性疾患、結核(TB)、マラリア、麻疹、百日咳、破傷風、髄膜炎、梅毒、B型肝炎、ポリオ、ジフテリア、ならびにシャーガス病、デング熱、リンパ管フィラリア症、リーシュマニア症、オンコセルカ症、充血吸虫、およびトリパノゾーマ症のような熱帯病である。
本発明の主題の一つの重要な応用は、ワクチン接種の成功を調べること、およびワクチン接種状態をモニターすることである。特に疾患管理プログラムでは、本発明の主題を応用することで集団全体のワクチン接種状態を調べることができる。特に本発明の主題が自動化分析法、特に大量処理スクリーニングに応用できることは、この点に関して極めて有用である。
一つの更なる態様では、本発明の主題は、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、糖尿病、特にI型糖尿病、リウマチ関節炎、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、シューグレン症候群、エリテマトーデス、重症筋無力症、ライター症候群、およびグレーブス病のような自己免疫疾患を診断、分類、予測、および/または該疾患の進行をモニターすることに用いられる。
特には、本発明の主題は、EAEおよび/またはMSを診断、分類、予測、および/または該疾患の進行をモニターすることに用いることができる。
変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した抗原Aに結合した抗A抗体の比率または差は、状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行のモニタリングを可能にし、は特別な状態を示す個体から得た参照試料から得ることができる。
驚くべき事に本発明の主題は、従来技術の診断法とは異なり、人種、性別、居住域、ライフスタイル、年齢、以前遭遇した抗原、遺伝、他の既往症、または栄養といった要因から、異なる個体の試料の、全般的に比較できないことから生ずる問題を克服する。
これによって、ある状態に陥った一個体について測定された差および/または比率を参照例として用いることができ、別の個体の同一状態を診断可能にする例示像を提供することができる。
これに基づいて、異なる状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行のモニタリングを可能にする参考像を有する有意義なデータバンクを確立することができる。
一般的には、医療従事者は、どのような比率および/またはどのような差が特定の状態を示すかを知るだろう。
通常は、1より大きい、好ましくは1.5より大きい、特に好ましくは2より大きい、変異抗原Aに結合した抗A抗体に対する抗原Aに結合した抗A抗体の比率で特定の状態の診断が可能となる。
本発明の一つの態様では、ある被験体からの抗A抗体を含むことが疑われる試料は、抗原Aおよび/または変異抗原Aと接触させる前に、マトリックス上に不動化される。これには、抗原Aおよび変異抗原Aと接触させた後、形成された抗原−抗体複合体はマトリックス上に結合して残るのに対し、未結合の抗原Aまたは変異抗原Aはマトリックスから洗い流すことができるという利点がある。その後、検出可能なシグナルの測定値は、その上に抗原−抗体複合体を結合しているマトリックスから直接得ることができる。
更に未変性抗原Aおよび/または変異抗原Aを、被験体からの、抗A抗体を含むことが疑われる試料と接触させる前に、マトリックス上に不動化することもできる。これには、抗A抗体と接触させた後、抗原−抗A抗体−複合体のみがマトリックス上に結合して残るが、試料の残りの構成要素はマトリックスから洗い流すことができることから、測定シグナルを前記の残りの構成要素が妨害する可能性がなくなるという利点がある。
最後に、抗原および抗体が相互作用可能であるかぎり、抗原および抗体の両方をマトリックス上に不動化することもできる。このやり方も、シグナルを測定する前に試料の他の構成要素を容易に除去できるという利点がある。
洗浄は、本発明の主題では、抗原Aまたは変異抗原Aを抗A抗体と接触させた後の任意選択的な段階である。洗浄は、検出可能シグナルの発生または検出に干渉する可能性がある試料からの構成要素を除去するのに役立ちうる。
これに関係する洗浄は、極性溶媒、特に、例えば1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性溶媒、または例えば酢酸、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、ギ酸、水、もしくはそれらの混合物のようなプロトン性溶媒を用いて実施できる。
溶媒は抗体−抗原−複合体が許容できるpH、例えばpH2〜11、3〜10、4〜9、5〜8、特に好ましくはpH6.5〜7.5、最も好ましくはpH7.3のように緩衝化されることが好ましい。
好適な緩衝液は、これらpH域で緩衝作用を示す任意の緩衝液である。好ましい緩衝液は、例えばTAPS(トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、ビシン(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン)、トリシン(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)、HEPES(4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、TES(2−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸))、カコジラート(ヒ酸ジメチル)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、および/または酢酸塩、PBS(リン酸塩緩衝化食塩水)である。
本発明の一つの態様では、方法は、二次抗体結合抗体に、段階c)後に抗A抗体−抗原A複合体を接触させる段階および/または段階g)後に抗A抗体−変異抗原A複合体を接触させる段階を更に含む。
別の態様では、本発明の方法は、二次抗原A結合抗体に、段階c)後に抗A抗体−抗原A複合体を接触させる段階および/または段階g)後に抗A抗体−変異抗原A複合体を接触させる段階をさらに含む。
本発明の更なる態様によれば、二次抗体結合抗体および/または二次抗原A結合抗体は、検出可能成分を含む。抗原に提供可能な検出可能成分に関しては、二次抗体向けの検出可能成分も、単独または活性化後、可能であれば別の試薬と組み合わせた後にシグナルを発する任意の原子または原子群でもよく、放射活性マーカー、例えばアルカリホスファターゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイド、ウレアーゼ、フルオレセイン、ローダミン、およびビオチン−ストレプトアビジンから成る群より選択されるのが好ましい。
この点および上記に関係して、本発明の主題はELISAアッセイの枠組みの中で使用するのに最適である。
ELISAは、抗原に特異的である少なくとも一種類の抗体および、例えばアルカリホスファターゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼといった酵素のような検出可能成分と一緒に提供できる、別の、いわゆる二次抗体を使用する。
この二次抗体、例えば検出可能成分としてアルカリホスファターゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼとともに提供された二次抗体は、例えば発色および/または蛍光発色基質にシグナルを発生させることができる。
ELISAは、実施して試料中の抗A抗体の存在を評価することができることから、一つまたは複数の調査対象の状態について、血清抗体濃度を決定するための有用な手段である。
抗A抗体の存在および/または(and or)それらの濃度を決定するためのELISAの手順は、例えば次の通りである:
−抗原Aの試料を表面、多くの場合マイクロタイタープレートのウエルに作用させる。抗原は前記表面に固定でき、不動化される。
−前記プレートを洗浄して、未結合の抗原を除去する。
−大量の、抗体(例えばウシ血清アルブミン)に結合しないか、またはほとんど結合しない、大量の非反応剤(ブロッキング剤)を前記表面に作用させ、抗原Aに占有されていない空きスペースに結合させる。
−前記プレートを洗浄して、未結合のブロッキング剤を除去する。
−抗体濃度が分からない、抗A抗体を含むことが疑われる試料を、通常は希釈した形で前記プレートに作用させる。更にウシ血清アルブミンのような試薬を溶液に加えて抗体を安定化し、非特異的結合を下げることもできる。
−前記プレートを洗浄し、未結合の抗体を除去する。この洗浄後は、抗A抗体−抗原A複合体だけがウエルに結合して残る。
−前記ウエルに、任意の抗原−抗体複合体に結合する二次抗体を加える。これら二次抗体は、例えば、基質と相互作用できればシグナルを発生することができる酵素と一緒に提供される。
−前記プレートを洗浄し、過剰の未結合の二次抗体を除去する。
−酵素によって変換される基質を加え、検出可能なシグナルを誘発する。
−シグナルを検出する。
−抗原Aに代わって変異抗原Aを用いて前記の手順を繰り返す。
−検出されたシグナルから、変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を決定する。
この方法では、酵素は増幅子の役割を果たすことができる:結合して残った酵素連結抗体がごく僅かであっても、酵素分子は多くのシグナル分子を生成する。得られた、試料の光学密度または蛍光ユニットを評価するには、酵素および/または基質が提供された二次抗体を段階希釈する一連の実験から得ることができる標準曲線を有利に用いて補間することができる。
適用可能なELISA法の一つの代替法は、「二重抗体サンドイッチELISA」技術である。その手順は、例えば次の通りである:
−プレートのウエルに、抗A抗体を得た種の抗体に特異的に結合する抗体を結合させる。
−前記プレートを洗浄し、未結合の抗体を除去する。
−抗体(例えばウシ血清アルブミン)を結合していないか、または殆ど結合していない表面に、大量の非反応剤(ブロッキング剤)を作用させ、前記抗体が占有していない空きスペースに結合させる。
−前記プレートを洗浄して未結合のブロッキング剤を除去する。
−抗体濃度が分からない、抗A抗体を含むことが疑われる試料を、通常は希釈した形で前記プレートに作用させる。
−前記プレートを洗浄し、未結合の構成要素を除去する。
−前記プレートに、抗A抗体が特異的に結合する抗原Aを作用させる。
−前記プレートを洗浄し、未結合の抗原Aを除去する。
−前記プレートに、同様に抗原Aに特異的であるが、抗A抗体が結合する位置とは異なる位置に結合する二次酵素連結抗体を作用させる。
−前記プレートを洗浄し、未結合の酵素連結抗体を除去する。
−酵素によって検出可能なシグナルに変換される基質を作用させる。
−シグナルを検出して定量化する。
−変異抗原Aを用いて前記手順を繰り返す。
−検出されたシグナルから、変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を決定する。
適用可能なELISA法の、可能な第三の代替法は「競合ELISA」技術の変形である。このELISA法の手順は、例えば次のようなものであろう:
−抗A抗体を含むことが疑われる試料を抗原Aの存在下でインキュベーションし、抗体−抗原複合体を形成させる。
−結合した抗体/抗原複合体を含む前記試料を次に抗原Aをコーティングしたウエルに加える。
−前記プレートを洗浄し、未結合の抗体を除去する。試料中に存在する抗A抗体が多いほど、ウエル中に不動化された抗原Aに結合できる抗A抗体は多くなり、結果「競合」が強くなるだろう。
−一次の抗A抗体に特異的な二次抗体を加える。該二次抗体には酵素が結合している。
−洗浄段階を実施して、未結合の二次抗体を全て除去する。
−酵素によって検出可能なシグナル、好ましくは発色または蛍光シグナルに変換される酵素基質を作用させる。
−シグナルを検出し定量化する。
−変異抗原Aを用いて前記手順を繰り返す。
−検出されたシグナルから、変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を決定する。
本発明において、抗原Aおよび/または変異抗原Aおよび/または抗A抗体を不動化するのに使用できるマトリックスは、抗体の抗原結合能力または抗原の抗体結合能力を無力化することなく抗原Aおよび/または変異抗原Aおよび/または抗A抗体を結合させることができる任意の材料でよい。マトリックスは膜、細胞膜、チップ、ディッシュ、ELISAウエル、チューブ、特にプラスチック製もしくはガラス製チューブ、キュベット、ポリマー粒子、ビーズ、ペレット、またはクロマトグラフィーカラム用樹脂であることが好ましい。
本発明の枠組みの中で使用される試料は、抗原、特に抗原Aを含む可能性のある任意の試料でよい。しかしながら、試料は患者の血液試料、脳脊髄液試料、CNS試料、または血清試料が好ましい。
結合した抗体の量は、存在するのであれば、使用した検出可能成分の種類に依存して検出できる。検出可能成分を使用する場合は、好適な検出方法を選択することは当業者の技術水準の範囲内である。生成されたシグナルは、目視または自動化検出によって、例えば分光分析、好ましくは沈殿もしくは色変化の分光分析によって、光学もしくは電子顕微鏡によって、放射分析測定によって、または蛍光顕微鏡によって検出されるのが好ましい。
それが適切ならば、検出方法および/または使用する検出手段を、例えば検出可能成分として酵素が付与された抗体の段階希釈および対応する基質を用いることによるなどして較正することが好ましい。このような検出方法の較正は、当業者の技術水準の範囲内である。
本発明の主題は、抗原の性質と無関係に適用できる。例えば外来タンパク質、ウイルス、真菌、細菌のような抗原、および毒素、化学物質、薬物、および他の生物にとって異物である微粒子といった物質も未変性抗原Aとして使用できる。未変性抗原Aは、Ro、La、Jo−1、SM、Scl70、SS−A、SS−B、Pr3、MPO、サイログロブリン、TPO、甲状腺刺激ホルモン受容体、インスリン、インスリン受容体、GAD、DNAトポイソメラーゼII、IA−2、IA−2ベータ、TSH受容体、PM/Scl100、アセチルコリン受容体、BP180、NC1、ヒストン、U1 RNP、組織トランスグルタミナーゼ、IV型コラーゲン、MOGおよびMBPから成る群より選択されるのが好ましい。これら抗原は全て当技術分野で公知である( Mahler,M.,Bluthner,M.&Pollard,K.M.(2003)Clinical Immunology(臨床免疫学)107,65−79、Scofield,R.H.(2004)Lancet(ランセット)363,1544−1546、D’Cruz,D.(2002)Toxicology Letters(トキシコロジーレター)127,93−100、およびこれら文献中の引用文献)。これに加えて使用される抗原Aは、抗原の抗原ドメインのみを含むことも、または完全に未変性の抗原配列と、少なくとも10%が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25%が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50%が同一アミノ酸、および特に好ましくは少なくとも75%が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有するこれら抗原の抗原性部分を含むものでもよい。
一般的には、未変性抗原Aは、当技術分野で公知である任意の方法によって得ることができる。しかしながら、抗原Aおよび/または変異抗原Aは、組換え体発現系由来であることが好ましい。抗原の配列が既知であるならば、好適な発現系を選択すること、特にタンパク質発現にとって適切である増殖条件と共に適切なベクターおよび適切な生物を選択することは、当業者の技術水準の範囲内である。組換え体タンパク質発現を使用することには、比較的安価な装置を使って、低コストで、短時間に大量のタンパク質を生成できるという利点がある。多くの場合は、発現系はうまく機能してタンパク質は大量に生成されるが、タンパク質はもはや正しく折り畳まれないが、代わりに封入体中に発現される。封入体は、変性されたタンパク質を含む。変性タンパク質は、一般的には本来の形に折り畳まれたタンパク質に比べると取り扱い、および保存がはるかに容易である。変性抗原Aは、「折り畳み直し(refolding:リフォールディング)」と呼ばれる手順によってその未変性状態に変形させることができる。具体的な変性抗原にとって適切な折り畳み直しの条件を選択することは、当業者の技術水準の範囲内である。
本発明の一つの態様によれば、未変性抗原Aおよび/または変異抗原Aは、折り畳み直された形で用いられる。
本発明の主題に用いられる変異抗原Aは、未変性抗原Aのエピトープ内に位置する、未変性抗原A配列に対し変更されたアミノ酸を少なくとも一個含む。
特には、本発明の主題に用いられる変異抗原Aは、未変性抗原Aのエピトープ内に存在する、未変性抗原A配列に関する変更されたアミノ酸を1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個含む。
エピトープは、免疫系により認識される分子部分であり、具体的にはB細胞エピトープは抗体またはB細胞によって認識され、T細胞エピトープは一種類または複数種類のT細胞によって認識される。以下の「エピトープ」は、B細胞エピトープを表す。このようなエピトープを決定することは、当業者の技術水準の範囲内である;特にエピトープは、タンパク質マイクロアレイ、ELISPOT、またはELISAを用いるような技術によってマッピングできる。
抗体およびB細胞によって認識される大部分のエピトープは、抗原分子の三次元表面構造と考えることができる;抗A抗体、特にそのパラトープに正確に適合して結合する。例外は、タンパク質の三次元構造によるよりむしろアミノ酸配列、一次構造によって決定される直鎖状エピトープである。
本発明の一つの態様では、未変性抗原Aは、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)であるか、または未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸、特に好ましくは少なくとも75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有するMOGの抗原性部分を含む。
本発明者らは、MOGの三次元のタンパク質構造を解明することができた(Breithaup et al.,2003,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要),100:9446−51)。この構造を用いて、MOGの表面に局在し、従ってエピトープ形成に寄与できるアミノ酸を特定することができた。
従って変異抗原Aは、未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸、特に好ましくは少なくとも75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有し、少なくとも1個のアミノ酸は未変性MOG配列に対して変更されており、好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、エピトープ、より好ましくは免疫優性エピトープの一部であるMOG配列内に局在し、更により好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、未変性MOG配列のアミノ酸28〜35、42〜55、72〜80、86〜93、および/または101〜108内、より更に好ましくは未変性MOGのFG−ループ内、即ちアミノ酸101〜108内に局在し、好ましくは変異MOG配列1、2、3、4、5、6、7、または8個の変異を含むMOGの抗原性部分またはMOGであり、特に好ましくは一重変異体Ser104Glu、二重変異体His103Gly、Ser104Glu、および二重変異体His103Ala、Ser104Gluから成る群より選択される変異抗原Aである。
本発明は、変異抗原A(例えば変異MOG)を用いて、関心対象試料中に存在し、かつ特定の抗原A(例えばMOG)に対する特異的抗体の量を決定する際に使用する時にアッセイのバックグランドに寄与する全ての分子(例えば非特異的抗体)を結合(吸収)するアッセイも包含する。二つの変形方法が利用できる:
1.変異抗原A(例えばMOG−変異)は、測定対象試料に直接加えられる。例えば、前記抗原に非特異的に結合してアッセイのバックグランドに寄与する物質(例えば非特異的抗体)も、添加されるが、溶解性の変異抗原(または変異抗原の人工ポリマー)に結合する、事前に結合させた抗原(例えばMOG)を含むELISAアッセイに好都合である。以下の洗浄段階で、これらの非特異的結合物は検出段階より前に洗い落とされうる。
2.あるいは、試料を変異抗原A(例えば変異MOG)が結合する材料(例えばクロマトグラフィー樹脂)とインキュベーションすることによって、試料を抗原A(例えばMOG)と非特異的に反応する物質から分離できる。この場合、非特異的結合物は樹脂に結合したままであり、関心対象試料から取り除かれる。
試料を抗原Aに対する特異的抗体について試験した時、両手順の結果によりシグナル対ノイズ比が上昇する。
本発明の主題は、免疫系を有する任意の生物に一般的に適用できる。しかしながら本発明者らは、本発明の主題を、主に哺乳類被験体、特にヒトに使用することを予定している。
また本発明の主題には、未変性抗原Aおよび変異抗原Aを含む本発明の方法を実施するためのキットも含まれる。
本発明のキットは、
a)未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸である、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸である、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸である、特に好ましくは少なくとも75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有するMOGの抗原性部分または未変性MOG;
b)未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸、特に好ましくは75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有するMOGの抗原性部分または変異MOGであって;
少なくとも1個のアミノ酸が未変性MOG配列に対して変更されており、好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、エピトープ、より好ましくは免疫優性エピトープの一部であるMOG配列内に局在し、更により好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、未変性MOG配列のアミノ酸28〜35、42〜55、72〜80、86〜93、および/または101〜108内、より更に好ましくは未変性MOGのFG−ループ内、即ちアミノ酸101〜108内に局在し、好ましくは変異MOG配列1、2、3、4、5、6、7、または8個の変異を含み、特に好ましくは一重変異体Ser104Glu、二重変異体His103Gly、Ser104Glu、および二重変異体His103Ala、Ser104Gluから成る群から選択される変異抗原Aである、
EAEおよび/またはMSを、診断、分類、予測、および/または該疾患の進行をモニターするためのキットである。
一つの態様では、本発明のキットは二次抗体結合抗体および/または二次MOG結合抗体も含むことができる。
更に、本発明のキットは、未変性MOGおよび/または変異MOGに結合するまたは結合される検出可能ユニット、および/または二次抗体結合抗体、および/または二次MOG結合抗体、好ましくは放射活性マーカー、例えばアルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイド、ウレアーゼ、フルオレセイン、ローダミン、ビオチン−ストレプトアビジンを含むことができる。
本発明の一つの態様によれば、キットは抗原および/または抗体を不動化するマトリックスも含み、マトリックスは膜、細胞膜、ポリマー粒子、チップ、ディッシュ、ELISAウエル、チューブ、特にはプラスチック製チューブもしくはガラス製チューブ、キュベット、ビーズ、ペレット、またはクロマトグラフィーカラム用樹脂であることが好ましい。
本発明の一つの態様は、その上に不動化された各種抗原および変異抗原の列で提供されるチップまたはELISAウエルを含む。このようなチップまたはELISAウエルは、複数の状態を同時にスクリーニングするのに用いることができ、自動化アプリケーションに最適であろう。
本発明のキットでは、少なくとも一種類の抗原または抗体を凍結乾燥または変性した形で提供できる。これにより、キットの取り扱いが簡単となり、保存時間が長くなり、よりキットの寿命を長くできる。この場合、キットは、抗原または抗体を、使用前に折り畳み直すことができる対応する折り畳み直し液(refolding solution)を更に含むことが好ましい。
最後に、本発明のキットは、洗浄液、好ましくは極性洗浄液、特に好ましくは緩衝水を更に含むことができる。洗浄液は、任意の極性溶媒、特に、例えば1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性溶媒、または、例えば酢酸、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、ギ酸、水、もしくはそれらの混合物のようなプロトン性溶媒でよい。好ましい洗浄液は、緩衝水である。溶媒は、抗体−抗原−複合体が許容可能であるpH、例えばpH2〜11、3〜10、4〜9、5〜8、特に好ましくはpH6.5〜7.5に緩衝化されるのが好ましい。好適な緩衝液は、これらのpH領域で緩衝作用を示す任意の緩衝液である。好ましい緩衝液は、例えばTAPS(トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、ビシン(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン)、トリシン(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)、HEPES(4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、TES(2−{(トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸))、カコジル酸(ジメチルアルセナート)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、および/または酢酸塩、PBS(リン酸塩緩衝化食塩水)である。
本発明の主題の更なる特徴および利点は、以下の実施例および図面から明らかになるだろう。
図1は、マウス抗MOGモノクローナル抗体の、ラットMOG(WT)、ラットMOG変異体(SM、S42P、DM1、DM2)、ヒトMOG(hMOG)、およびコントロールとしてのBSAへの結合の強さを示す図である。データは、実施例1に記載した手順に従って得た。図1より、抗原性FGループ内に変異を含むMOG変異体SM、DM1、およびDM2への抗体結合は、全てのモノクローナル抗体について非常に低いことは明らかである。二重変異体DM1およびDM2は、ELISAのシグナルを、変異していないMOG(WT)に比べ0〜25%発した。一重変異体SMは、47〜79%の範囲のELISAシグナルを発した。 図2は、実施例2に詳しく記載した実験の結果を示す図である。血清は、健康体とMS患者から得た。これら血清試料をヒトMOG(WT)および二種類の変異ラットMOGの変異体、およびコントロールとしてのBSAに接触させた。示した抗原に結合した抗体量を示す。
実施例1:
複数のマウスモノクローナル抗体のMOGおよびその変異体への結合
変異MOGおよび部位指定変異誘導のデザイン
MOGの細胞外ドメイン(MOGex)のタンパク質結晶構造は、最近明らかにされた(Breithaup et al.,2003,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要),100:9446−51)。この構造に基づいて、抗原としてのMOGと対応する抗体の間に起こりえる分子間接触を、プログラムパッケージCCP4のプログラム(Collaborative Computational Project(共同評価プロジェクト),1994,Acta Crystallographica Section D−Biological Crystallography(アクタクリスタログラフィカ、セクションD−生物結晶学),50:760−763)およびモデル構築プログラムO(Jones et al.,1991, Acta Crystallographica Section a(アクタクリスタログラフィカ、セクションa),47:110−119)を用いて分析した。静電気電位はWeinerと共同研究者ら(Weiner et al.,1984,Journal of the American Chemical Society(米国化学学会雑誌),106(3),765−784)による原子電荷を用い、GRASP(Nicholls et al.,1991,Protein−Structure Function and Genetics(タンパク質−構造機能と遺伝学),11:281−296)で計算した。MOGexの溶媒接近可能表面は、CCP4プログラムパッケージのユーティリティー、SURFACEを使って計算した。変異誘導は、Stratagene(LaJolla、USA)の「QuikChange Site−Directed Mutagenesis」の方法に従って、His−タグ発現ベクターpQE−12にサブクローニングしたラットMOGの細胞外ドメイン(MOGex)を用いて実施した。使用したオリゴヌクレオチドは:5’−CTTCAGAGA CCACGAATA CCAAGAAGA AGCCGCCG−3’(SM1、Ser104Glu)、5’−CACATGCTT CTTCAGAGA CGGCGAATA CCAAG−3’(DM1、His103Gly、Ser104Glu)、5’−CACATGCTT CTTCAGAGA CGCTGAATA CCAAG−3’(DM2、His103Ala、Ser104Glu)および対応する逆向き相補性オリゴヌクレオチドである。変異の同一性は、精製したプラスミドのDNA配列を決定して確認した。
組換え体MOGのタンパク質発現および折り畳み直し(refolding)
ヒトMOGおよび「ヒト化」ラットMOG変異Ser42Proの細胞外ドメインを含むプラスミドは、Nancy Puddleから好意により贈られた(Oliver et al.,2003, Journal of Immunology(免疫学雑誌)171(1),462−468)。ラットおよびヒトMOGの細胞外ドメイン、および変異タンパク質をEscherichia coli内の封入体内で過剰発現させた。細胞を超音波処理による破壊後、封入体は遠心分離と50mMのTirs/HCl(pH8.0)、0.3MのNaCl、0.5%LDAO中への再懸濁化の工程を繰り返して精製した。封入体は、可溶化緩衝液(100mM NaH2PO4、10mM Tris、6M塩酸グアニジン、40mMメルカプトエタノール、pH8.0)で可溶化した。メルカプトエタノールを含まない可溶化緩衝液で希釈した後、変性MOGをNi−NTA Superfolw(Qiagen、Hilden、Germany)材料に結合させ、二段階でカラム上で再折り畳みした。まず10時間、カラム容積80倍の、可溶化緩衝液(1mMメルカプトエタノール)から100mM NaH2PO4、10mM Tris、3mMグルタチオン、pH8.0までの直線勾配にかけ、続いて短い直線勾配(2時間、カラムの2倍容積)にかけグルタチオンを除去し、折り畳み直されたMOGを完全に酸化した。溶出後、折り畳まれていない凝集したMOGを、最終のゲル濾過クロマトグラフィー段階によって除去した。タンパク質の同一性および完全性は、質量分析装置および一次元1H−NMRによって確認した。タンパク質の濃度は、UV/可視光分光計によって決定し、相対濃度はBrafordタンパク質アッセイ(BioRad、Hercules、USA)によって決定した。
ELISA
MOGおよび変異タンパク質への抗体結合を、ELISAによって測定した。マウスモノクローナル抗体(mAb)8−18C5(非特許文献2)、Y1、Y8、Y9、Y10、Z2、Z4、Z8、およびZ12(Piddlesden et al.,1993,American Journal of Pathology(米国病理学会雑誌),143:555−564)を、プロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィーによりハイブリドーマ培養上清から精製した。それらの濃度を、UV/可視光分光計により、およびBraford法により比色定量的に評価した。96ウエルプレート(Maxisorb、Nunc、Rosklide、Denmark)を、10μg/mlの抗原PBS溶液100μlを用いてコーティングし(1時間、30℃)、0.2% Tween20を含むPBSで3回洗浄し、BSAを1% w/v含むPBSでブロッキングした(2時間、30℃)。洗浄後、プレートをモノクローナル抗体(〜0.5μg/mlのPBS溶液)または1:250に希釈した、MOGワクチン接種したマウスの血漿試料と30℃で1時間インキュベーションした。洗浄の手順を繰り返し、PBSで1:10000に希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)でコンジュゲートした抗マウスIgG(Fab’)2を加え、プレートを30℃で1時間インキュベーションした。抗体結合をo−フェニレンジアミンの酸化によって検出し、H2SO4を用いて反応を停止させた後に490nmの吸光度を測定することによって定量化した。図1に示した数値は、代表的な実験の、三回(血漿試料)および四回(ハイブリドーマ培養上清)測定の平均値である。
実施例2:
MSに罹患した患者および健康人コントロールから得たヒト抗体の未変性MOGおよび二種類のMOG変異体への結合
MSに罹患している二名の患者I.M.およびN.K.から得たヒト血清の試料、ならびに健康人コントロールのT.K.から得た1つの血清試料を、以下のプロトコールを用いて野性型のヒトMOGおよび二重変異体ラットMOG(二重変異体1、His103Gly、Ser104Glu;および二重変異体2、His103Ala、Ser104Glu)と接触させた:
(1)96ウエルELISAプレートを10μg/mlのMOG、MOG変異体、およびBSA(コントロール)100μlを用いてコーティングする。
(2)未結合の抗原を、PBS/0.2% Tween20の240μlで3回洗浄して除去する。
(3)PBS/0.02% アジ化ナトリウムにBSAを2%溶解したもの240μlでプレートをブロッキングする。
(4)未結合のBSAを、PBS/0.2% Tween20の240μlで3回洗浄して除去する。
(5)プレートを、BSAを補足したPBSで段階希釈(1:250〜1:2000)した患者および健康人コントロールの血清100μlとインキュベーションする。
(6)未結合の抗体を、PBS/0.2% Tween20の240μlで3回洗浄して除去する。
(7)西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させた、希釈したヒトIgG特異的二次抗体、100μlを結合させる。
(8)未結合抗体を、PBS/0.2% Tween20の240μlで3回洗浄して除去する。
(9)オルト−フェニレンジアミン(1mg/ml)のPBS溶液100μlを加え、4モルの硫酸50μlを加えて酵素反応を停止する。
(10)490nmの吸光度を測定する。
結果は表2に示す。
これらのデータより、未変性MOGへの血清抗体の結合の分析だけでは、いかなる意味のある診断はできないことは明瞭である。
I.M.の血清からの抗体は、MOGに対しごく僅かな結合しか示さない。このことは、I.M.が健康であることを示唆する。しかしながら、この診断は、I.M.がMSに罹患していることから間違っているだろう。N.K.の血清からの抗体も、I.M.からの抗体と同様の挙動を示す。これらの抗体が、I.M.からの抗体に比べ2倍の濃度で使用されていることに注意せよ。ここでもN.K.は誤って健康であるとされるだろう。T.K.の血清からの抗体は、MOGへの月並みの結合を示し、I.M.の血清に比べ約50%高い結合を示す。I.M.がMSに罹患していることを知っていれば、T.K.もMSに罹患していると予想するだろう。T.K.は健康であることから、この診断も誤っているだろう。
しかしながらこれに対し、もし変異MOGに結合した抗MOG抗体と比較した未変性MOGに結合した抗MOG抗体の比を検討したならば、MSに罹患した両患者については、この比が>1であり、健康人コントロールについては<1であることを明瞭に知ることができるだろう。この結果は、使用した変異MOGのタイプに関係なく得られ、試験した個体の生活環境とも無関係である。故に、従来の方法とは対照的に、本発明の方法は安全かつ正確な診断を可能にする。
更には、二重変異体1に結合した抗MOG抗体と比較した未変性MOGに結合した抗MOG抗体の比は、両MS患者の免疫系に対する個体の影響に関係なく、両MS患者とも約1.2である。同様に、二重変異体1に結合した抗MOG抗体と比較した未変性MOGに結合した抗MOG抗体の比は、MOGに結合した絶対量とは大きく異なるにも関わらず、両MS患者で約1.4である。即ち、二重変異体1に関しては、二重変異体1に結合した抗MOG抗体に比べた未変性MOGに結合した抗MOG抗体の比が約1.2であり、MSを診断することを可能にする。同様に、二重変異体2についても、二重変異体2に結合した抗MOG抗体と比較した未変性MOGに結合した抗MOG抗体の比が約1.4であり、MSを診断することを可能にする。
これらの図式が、使用した特異的変異抗体にのみ依存していること、およびそれらが試験した個体の特定の生活環境とは無関係であることを指摘しておくことは重要である。
これらの実施例は、本発明者らが、抗体−抗原相互作用に基づく、ある状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターするための定量的なインビトロ分析のための、迅速、簡便、かつ使い易い方法を提供できたこと、従来の方法に関連した問題を克服もしくは少なくとも軽減すること、特に分析対象の被験体それぞれの個体特性、特に免疫系に存在する抗体の量および種類、ならびに他の被験体と比較できないことに関連した問題を克服もしくは少なくとも軽減すること、即ち本発明の課題を解決していることを証明している。

Claims (33)

  1. a)分析対象被験体から、抗A抗体を含むことが疑われる試料を得る段階、
    b)未変性および変異抗原Aを提供する段階、
    c)抗A抗体を含むことが疑われる試料を変異抗原Aおよび未変性抗原Aと接触させる段階、
    d)未変性抗原Aに結合した抗A抗体の量を段階c)後に検出する段階を含む、
    ある状態を診断、分類、予測、および/または該状態の進行をモニターするための定量的なインビトロ分析のための方法であって、
    未変性抗原Aに結合した抗A抗体の存在が、ある状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行のモニタリングを可能にする方法。
  2. a)分析対象被験体から、抗A抗体を含むことが疑われる第1試料を得る段階、
    b)未変性抗原Aを提供する段階、
    c)抗A抗体を含むことが疑われる第1試料を未変性抗原Aと接触させる段階、
    d)結合した抗A抗体の量を段階c)後に検出する段階、
    e)変異抗原Aを提供する段階、
    f)段階a)と同一の分析対象被験体から、抗A抗体を含むことが疑われる第2試料を得る段階、
    g)段階a)と同一の分析対象被験体からの抗A抗体を含むことが疑われる第2試料を変異抗原Aと接触させる段階、
    h)結合した抗A抗体の量を段階g)後に検出する段階、
    i)段階h)の変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した段階d)の抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差を決定する段階を含み、
    変異抗原Aに結合した抗A抗体と比較した抗原Aに結合した抗A抗体の比率および/または差は、ある状態の診断、分類、予測、および/または該状態の進行のモニタリングを可能にする、請求項1に記載の方法。
  3. 少なくとも一種類の検出可能成分と一緒に抗原Aおよび/または変異抗原Aを提供する段階を更に含む、請求項1〜2に記載の方法。
  4. 検出可能成分は、放射活性マーカー、例えばアルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイド、ウレアーゼ、フルオレセイン、ローダミン、およびビオチン−ストレプトアビジンから成る群より選択される、請求項3に記載の方法。
  5. 個々の段階は、免疫−吸収アッセイ(essay)、特にELISA、RIA、BIACORE、またはEIAアッセイにより、好ましくは自動化形式で実施される、請求項1から4に記載の方法。
  6. 診断、分類対象状態、および/または予測および/またはモニター対象の該状態の進行は、生理学的状態または臨床的状態である、特に癌、感染症、ワクチン接種状態、または自己免疫疾患である、請求項1〜5に記載の方法。
  7. 診断、分類対象状態、および/または予測および/またはモニター対象の該状態の進行は、EAEおよび/またはMSである、請求項1〜6に記載の方法。
  8. 1より大きい、好ましくは1.5より大きい、特に好ましくは2より大きい、変異抗原Aに結合した抗A抗体に対する抗原Aに結合した抗A抗体の比率が状態の診断を可能にする、請求項1〜7に記載の方法。
  9. 被験体由来の、抗A抗体を含むことが疑われる試料は、抗原Aおよび/または変異抗原Aとの接触前に、マトリックス上に不動化される、請求項1〜8に記載の方法。
  10. 未変性抗原Aおよび/または変異抗原Aは、被験体由来の、抗A抗体を含むことが疑われる試料との接触前に、マトリックス上に不動化される、請求項1〜8に記載の方法。
  11. 段階c)後に抗A抗体−抗原A複合体を二次抗体結合抗体と接触させる段階、および/または段階g)後に抗A抗体−変異抗原A複合体を二次抗体結合抗体と接触させる段階を更に含む、請求項1〜10に記載の方法。
  12. 段階c)後に抗A抗体−抗原A複合体を二次抗原A結合抗体と接触させる段階、および/または段階g)後に抗A抗体−変異抗原A複合体を二次抗原A結合抗体と接触させる段階を更に含む、請求項1〜10に記載の方法。
  13. 二次抗体結合抗体および/または二次抗原A結合抗体は検出可能成分を含む、請求項11〜12に記載の方法。
  14. マトリックスは膜、細胞膜、チップ、ディッシュ、ELISAウェル、チューブ、特にプラスチック製もしくはガラス製チューブ、キュベット、ポリマー粒子、ビーズ、ペレット、またはクロマトグラフィーカラム用樹脂である、請求項8〜13に記載の方法。
  15. 試料は、患者の血液試料、脳脊髄液試料、血清試料、またはCNS試料である、請求項1〜14に記載の方法。
  16. 結合抗体の量は、分光分析、好ましくは沈殿もしくは色変化の分光分析によって、光学もしくは電子顕微鏡によって、放射分析測定によって、目視もしくは自動化検出によって、または蛍光顕微鏡によって検出される、請求項1〜15に記載の方法。
  17. 抗原Aおよび/または変異抗原Aは、組換え体発現系から提供される、請求項1〜16に記載の方法。
  18. 未変性抗原Aおよび/または変異抗原Aは、折り畳み直された形で用いられる、請求項1〜17に記載の方法。
  19. 未変性抗原Aは、Ro、La、Jo−1、SM、Scl70、SS−A、SS−B、Pr3、MPO、サイログロブリン、TPO、甲状腺刺激ホルモン受容体、インスリン、インスリン受容体、GAD、DNAトポイソメラーゼII、IA−2、IA−2ベータ、TSH受容体、PM/Scl100、アセチルコリン受容体、BP180、NC1、ヒストン、U1 RNP、組織トランスグルタミナーゼ、IV型コラーゲンであるか、またはこれら抗原の抗原性ドメインを含むか、または完全な未変性抗原の配列と、少なくとも10%が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25%が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50%が同一アミノ酸、特に好ましくは少なくとも75%が同一アミノ酸のアミノ酸配列相同性を共有するこれら抗原の抗原性部分を含む、請求項1〜18に記載の方法。
  20. 変異抗原Aは、未変性抗原Aのエピトープ内に局在する、未変性抗原Aの配列に対して変化したアミノ酸を少なくとも一個含む、請求項1〜19に記載の方法。
  21. 未変性抗原Aはミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)であるか、または未変性MOG配列と、少なくとも10個が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸、特に好ましくは少なくとも75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有するMOGの抗原性部分を含む、請求項1〜10に記載の方法。
  22. 変異抗原Aは、未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸、特に好ましくは少なくとも75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有し、少なくとも1個のアミノ酸が未変性MOG配列に対して変更されており、好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、エピトープ、より好ましくは免疫優性エピトープの一部であるMOG配列内に局在し、更により好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、未変性MOG配列のアミノ酸28〜35、42〜55、72〜80、86〜93、および/または101〜108内、より更に好ましくは未変性MOGのFG−ループ内、即ちアミノ酸101〜108内に局在し、好ましくは変異MOG配列1、2、3、4、5、6、7、または8個の変異を含むMOGの抗原性部分またはMOGであり、特に好ましくは一重変異体Ser104Glu、二重変異体His103Gly、Ser104Glu、および二重変異体His103Ala、Ser104Gluから成る群より選択される変異抗原Aである、請求項1〜21に記載の方法。
  23. 分析対象被験体は哺乳動物である、特にヒトである、請求項1〜22に記載の方法。
  24. 変異抗原A、好ましくは変異したMOGを、未変性抗原A、好ましくは未変性MOGと接触させる試料に加える段階を含む、請求項2〜23に記載の方法。
  25. 試料に加えられる変異抗原Aはマトリックスに結合し、前記マトリックスは膜、細胞膜、ポリマー粒子、ビーズ、ペレット、または樹脂であることが好ましい、請求項24に記載の方法。
  26. a)未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸である、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸である、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸である、特に好ましくは少なくとも75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有するMOGの抗原性部分または未変性MOG;
    b)未変性MOG配列と少なくとも10個が同一アミノ酸、好ましくは少なくとも25個が同一アミノ酸、より好ましくは少なくとも50個が同一アミノ酸、特に好ましくは75個が同一アミノ酸であるアミノ酸配列相同性を共有し、少なくとも1個のアミノ酸が未変性MOG配列に対し変更されており、好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、エピトープ、より好ましくは免疫優性エピトープの一部であるMOG配列内に局在し、更により好ましくは変更されたアミノ酸の少なくとも1個は、未変性MOG配列のアミノ酸28〜35、42〜55、72〜80、86〜93、および/または101〜108内、より更に好ましくは未変性MOGのFG−ループ内、即ちアミノ酸101〜108内に局在し、好ましくは変異MOG配列1、2、3、4、5、6、7、または8個の変異を含むMOGの抗原性部分または変異MOGであり、特に好ましくは一重変異体Ser104Glu、二重変異体His103Gly、Ser104Glu、および二重変異体His103Ala、Ser104Gluから成る群から選択される変異抗原AであるMOGの抗原性部分または変異MOGを含む、EAEおよび/またはMSを診断、分類、予測、および/または該疾患の進行をモニターする請求項1〜25の方法を実施するためのキット。
  27. 二次抗体結合抗体を更に含む、請求項26に記載のキット。
  28. 二次MOG結合抗体を更に含む、請求項26〜27に記載のキット。
  29. 未変性MOGおよび/または変異MOGおよび/または二次抗体結合抗体および/または二次MOG結合抗体を連結するか、あるいはこれらへ連結される検出可能なユニット、好ましくは放射活性マーカー、例えばアルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイド、ウレアーゼ、フルオレセイン、ローダミン、ビオチン−ストレプトアビジンを更に含む、請求項26〜28に記載のキット。
  30. 抗原または抗体を不動化するためのマトリックスを更に含み、前記マトリックスは膜、細胞膜、チップ、ディッシュ、ELISAウエル、チューブ、特にプラスチック製もしくはガラス製チューブ、キュベット、ポリマー粒子、ビーズ、ペレット、またはクロマトグラフィーカラム用樹脂であることが好ましい、請求項26〜29に記載のキット。
  31. 少なくとも一種類の抗原または抗体が、凍結乾燥または変性された形で提供される、請求項26〜30に記載のキット。
  32. 少なくとも一種類の変性抗体または抗原を折り畳み直すための、折り畳み直し液(refolding solution)を更に含む、請求項31に記載のキット。
  33. 洗浄液、好ましくは極性洗浄液、特に好ましくは緩衝水を更に含む、請求項26〜34に記載のキット。
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