JP2010263845A - 核酸分析方法及び核酸分析装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヌクレオチド非添加条件下でポリメラーゼの機能を保持したままプライマーとテンプレートとポリメラーゼとの安定な複合体を形成し、基板に当該複合体を固定化した核酸分析デバイス並びにその核酸分析デバイスを利用した核酸分析方法及び核酸分析装置を提供する。
【解決手段】基板に固定化したプライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及び一本鎖結合タンパク質を含む複合体を核酸分析に供する工程を含む、核酸分析方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば核酸分析方法及び核酸分析装置に関する。
従来、DNAシーケンス方法(塩基配列決定方法)として、サンガー法と呼ばれるDNA断片調製法と電気泳動法とを組合せたキャピラリーシーケンス法が用いられている。当該DNAシーケンス方法は、ヒトゲノム解析等に用いられており、大きな成果をあげている。しかしながら、テーラーメイド医療等の観点から個人のゲノム解析を考えた場合には、従来のDNAシーケンス方法で一度に解析できるDNA断片の長さよりもはるかに長いDNA断片を、迅速に、簡便に、且つ安価に解析できる技術が強く求められている。また、ヒトゲノム解析では一人のヒトゲノムを解読するのに約1000万ドルが必要であったが、将来においては10000分の1の1000ドルでヒトゲノム解析を行うことが期待されている。
従来のキャピラリーシーケンス法の改良のみでは、上述の要求に応えることは不可能であり、新たな方式に基づく単一分子DNAシーケンス法が待望されている。新たなシーケンス法として、走査型電子顕微鏡を用いてDNAを直接シーケンスする方法、一本鎖DNAがナノメートルサイズの孔(ポア)を通過する際の電圧値が塩基の種類により異なることを利用し、シーケンスを行うナノポアを用いた方法等が提案されているが、技術的課題が多く実用化は難しいと考えられている。
一方、近年、有望なシーケンス法として光技術を用いた超並列解析法が考案されており、既に数社から化学発光や蛍光の原理に基づく超並列解析法に使用する装置が市販されている。当該方法の特長は、マイクロビーズや微細加工技術を用いて反応場を区分けすることで、超並列解析を可能にしたことである。従来のキャピラリーシーケンス法では、多チャンネル化(〜384本)によって解析効率の向上が図られているが、当該光技術を用いた超並列解析法では1億個以上の超並列解析も可能である。従って、読み取り塩基長では100塩基以下とキャピラリーシーケンス法に劣るものの、1日当たり数十ギガ塩基とキャピラリーシーケンス法と比較して1000倍以上のスループットが達成できている。また、解析コストは、一人のヒトゲノム当たり約10万ドルであり、キャピラリーシーケンス法と比較して約100分の1となっている。
超並列解析法の中でも、「単分子シーケンス方式」がゲノム解析や遺伝子診断の更なる迅速化や低価格化の点で有望視されている。当該方式では、標的試料核酸をPCR等により増幅することなく、分析すべき標的試料核酸を基板表面にランダムに1分子ずつ捕捉し、1塩基ずつ伸長させ、その結果を蛍光計測により検出し、塩基配列を決定する。
PCRによる増幅効率が初期鋳型量に必ずしも比例しない為、従来のマイクロアレイによる発現解析では平均化された情報しか得られなかった。一方、上述の単分子シーケンス方式では、非増幅で標的試料核酸のシーケンスを行うため、細胞中に発現しているmRNAの個数を数えて比較するデジタルカウンティングも可能である。
標的試料核酸を基板表面に捕捉する方法としては、基板に固定化したプローブを介して標的試料核酸を捕捉する方法や酵素(具体的にはポリメラーゼ)を基板に固定化し、当該酵素に標的試料核酸を捕捉させる方法が挙げられる。
現在、単分子シーケンサーが実用化されつつあり、当該装置ではTATの短縮及び消費試薬の削減のため、未反応基質の洗浄を省略した「リアルタイム」計測系を採用している。そこで、非特許文献1に記載されるように、近接場を形成し、プローブ核酸に取り込まれた蛍光分子修飾ヌクレオチド由来の蛍光のみを増強し、その近傍に浮遊している未反応の蛍光分子修飾ヌクレオチド由来の蛍光が無視できる程微弱となる条件を作り出している。
Jonas Korlachら, 「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」, 2008年, 第105巻, p. 1176-1181 Michael E. O'Donnellら, 「The Journal of Biological Chemistry」, 1987年, 第262巻, p. 4260-4266 Siyang Sun及びYousif Shamoo, 「The Journal of Biological Chemistry」, 2003年, 第278巻, p. 3876-3881 Gregor Witteら, 「Nucleic Acids Research」, 2003年, 第31巻, p. 4434-4440
単分子シーケンスを行うためには、基板に標的核酸を捕捉する際に、蛍光増強場1箇所につき1分子の標的核酸のみを捕捉する必要がある。従って、プローブを介して標的核酸を捕捉する場合、プローブ自体を1プローブ/蛍光増強場の状態で固定化しなければならない。しかしながら、蛍光増強場が20〜30nmの領域を有する場合には、複数個のプローブが同一の蛍光増強場へ固定されてしまう可能性がある。
一方、ポリメラーゼを蛍光増強場へ固定化し、当該ポリメラーゼに標的核酸を捕捉させる方式では、ポリメラーゼ自体が20〜30nmのサイズを有するため、複数個のポリメラーゼが同一の蛍光増強場に固定化されることは無い。更に、ポリメラーゼは、一度にプライマーと標的核酸(テンプレート)との二本鎖1セットのみとしか複合体を形成しないため、当該方法では、蛍光増強場1箇所につき1分子以上の標的核酸が捕捉されることは無いと考えられる。
しかしながら、基板に固定化したポリメラーゼは、溶液中のものと比較し、自由度が大きく低下するため、プライマーとテンプレートとの二本鎖(以下、「プライマー/テンプレートの二本鎖」と称する場合がある)と複合体を形成するポリメラーゼは、固定化された全ポリメラーゼの10%程度となってしまう。この結果、基板上の全反応場(蛍光増強場)のうち核酸分析のアクティブサイトとなるのはプライマー/テンプレートの二本鎖と複合体を形成したポリメラーゼが存在するごく僅かの反応場となってしまう。この状況では、細胞内に微量しか存在しないmRNA等の標的核酸のデジタルカウンティングは極めて困難である。また、撹拌機構が無い場合には、基板上に複合体の形成に要する時間はプライマー/テンプレートの自由拡散によるポリメラーゼとの会合に大きく依存するため、多量の試料が必要となる上、反応時間も24時間以上要する。
蛍光増強場に固定化された全ポリメラーゼのほぼ100%がプライマー/テンプレートの二本鎖との複合体を形成した状態を用意するには、溶液中でポリメラーゼとプライマー/テンプレートの二本鎖との複合体を事前に形成させておき、当該複合体を基板上の蛍光増強場に固定化することが有効であると考えられる。
ここで大きな問題は、溶液中でポリメラーゼと、プライマー/テンプレートの二本鎖との複合体を事前に形成させる場合、その反応条件として伸長が起こらない(すなわち、基質となるヌクレオチドを添加していない)条件下で当該複合体を形成しなければならないことである。ポリメラーゼは、プライマー/テンプレートの二本鎖を認識して複合体を形成するが、伸長反応中であっても常にテンプレートへの結合と乖離とを繰り返しながらヌクレオチドを連結させている。ヌクレオチドが不足すると、ポリメラーゼはテンプレートから乖離していく。すなわち、ヌクレオチド非添加条件では、事前にポリメラーゼとプライマー/テンプレートの二本鎖との複合体を形成させようとしても、一旦プライマー/テンプレートに結合したポリメラーゼは即座に乖離してしまうため、単に溶液中でプライマー/テンプレートとポリメラーゼとを混合させるだけでは安定な複合体を作製することは不可能である。
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、プライマー/テンプレートの二本鎖とポリメラーゼとの安定した複合体を事前に形成させ、当該複合体を用いた核酸分析方法を提供することを目的とする。
上述した目的を達成するため鋭意検討した結果、プライマー、テンプレート及びポリメラーゼに加えて、一本鎖結合タンパク質をテンプレートに結合させることで、基質であるヌクレオチド非添加条件下でプライマーとテンプレートとポリメラーゼとの安定な複合体を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、基板に固定化したプライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体を核酸分析に供する工程を含む、核酸分析方法である。また、本発明は、基板と基板に固定化したプライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体とを含む核酸分析デバイス、及び当該核酸分析デバイスを備える核酸分析装置である。固定化すべき複合体は、さらに一本鎖結合タンパク質を含むことができる。
本発明は、核酸分析において、基板上に構築された反応場を無駄なく利用できるという効果を奏する。
プライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及び一本鎖結合タンパク質を含む複合体の形成ステップの概略図である。 プライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及び一本鎖結合タンパク質を含む複合体の固定化後の基板及び反応場の概略図(ポリメラーゼ上に基板固定用分子が存在する場合)である。 本発明に係る核酸分析デバイスを用いたシーケンス反応の概略図である。 基板へのプライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及び一本鎖結合タンパク質を含む複合体の固定化の概略図(プライマー末端に基板固定用分子が存在する場合)である。 テンプレートがmRNAである場合の、本発明に係る核酸分析デバイスの使用の一例を説明するための概略図である。
本発明に係る核酸分析方法(以下、「本方法」という)は、基板に固定化したプライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体を核酸分析に供する工程を含む方法である。本方法では、プライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体を安定に固定化すべく、一本鎖結合タンパク質を利用することができる。本方法によれば、事前に溶液中でポリメラーゼとプライマー/テンプレートの二本鎖とを含む複合体を形成させておき、当該複合体を基板上の反応場(蛍光増強場)に固定化することで、固定化された全ポリメラーゼのほぼ100%がプライマー/テンプレートの二本鎖との安定した複合体を形成した状態を作り出すことが可能である。
ここで「一本鎖結合タンパク質(Single-Strand Binding Protein;以下、「SSB」という)」とは、DNA、RNA等の一本鎖核酸に特異的に結合するタンパク質を意味する。SSBは、一本鎖DNA又はRNAが高次構造を形成することを防ぐ機能を有し、この機能を利用して、これまでにPCR法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等の核酸増幅反応に利用することで増幅特異性や増幅可能な鎖長の向上等が図られている。
近年、上記機能に加えて、SSBにはプライマー/テンプレートの二本鎖のプライマー3'末端にポリメラーゼを引き寄せる機能及び、形成した当該二本鎖とポリメラーゼとから成る複合体を安定化させ、ポリメラーゼの乖離を抑制する機能を有することが明らかになってきた。非特許文献2及び3によれば、テンプレートにSSBが結合している状態では、SSBが存在しない場合と比較してポリメラーゼのプライマー3'末端への結合速度が4倍に上昇する。さらに非特許文献4によれば、SSBの存在によりポリメラーゼの乖離については1/30に抑制される。
下記の式:
Figure 2010263845
[式中、Aはプライマー/テンプレートの二本鎖を表し、Bはポリメラーゼを表し、X(AB)はプライマー/テンプレート/ポリメラーゼの複合体を表す]
によれば、平衡定数は、下記の式:
Figure 2010263845
で表される。従って、非特許文献2〜4に記載の上述の教示によれば、SSBの存在により、結合速度(KON)が4倍であり、解離速度(KOFF)が1/30となるため、平衡定数は120倍に上昇する。また、結合速度(KON)が上昇するため、プライマー/テンプレート/ポリメラーゼの複合体の形成に要する時間を大幅に短縮できる。
本発明では、当該SSBの機能を利用し、プライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体を安定なものとするために、更にSSBを当該複合体に含めることができる。
本発明において使用するSSBとしては、例えばgp32、gp2.5、rim-1、rpa-1、p5、ICP8等のタンパク質が挙げられる。これらタンパク質を含めたSSBは広く知られており、容易に入手可能である。例えば、Thomas Hollisら, 「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」, 2001年, 第98巻, p. 9557-9562やDDBJデータベース等に記載する上述のタンパク質のアミノ酸配列又は当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に基づき、遺伝子工学的に生産したものを使用することができる。また、これらSSBはポリメラーゼ活性を上昇させる利点も有する。
本発明において使用するポリメラーゼとしては、例えばDNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、RNAポリメラーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼ等が挙げられる。ポリメラーゼは、他の成分(プライマー、テンプレート及び基質(使用する塩基))の種類に応じて適宜選択される。
また、ポリメラーゼとして二本鎖DNA結合ドメイン融合ポリメラーゼを使用することにより、上記式における解離速度(KOFF)を更に1桁低下させることが可能である。二本鎖DNA結合ドメイン融合ポリメラーゼとは、二本鎖DNA結合ドメインをポリメラーゼに融合させた融合タンパク質である。例えば、二本鎖結合ドメインポリメラーゼであるPfuUltraTM High Fidelity DNA Polymerase(ストラタジーン社)は、野生型のPfu Polymeraseと比較して12倍のDNA鎖伸長能(Processivity)を有する。
本発明において使用するプライマーは、他の成分(テンプレート、ポリメラーゼ及び基質(使用する塩基))の種類に応じて適宜選択され、例えばDNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)-DNAハイブリッド等が挙げられる。特に、プライマーとしてPNA-DNAハイブリッドを使用することにより、テンプレートとの間に強固な二本鎖を形成させることが可能であり、プライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体の更なる安定化が期待できる。プライマーは、例えば常法の化学合成法により合成することができる。
本発明において使用するテンプレート(標的核酸)は、分析対象の核酸(DNA、RNA等)である。テンプレートは、例えば細胞、組織等の生物学的サンプルに由来する天然の塩基配列であることができる。
本方法では、先ずプライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体を、ポリメラーゼの基質であるヌクレオチド非添加条件下で形成する。複合体の形成順序としては、例えばプライマー、テンプレート及びSSBを会合させた後、ポリメラーゼを添加し、複合体を形成させる。上述のように、テンプレートの一本鎖部分にSSBを会合させることにより、ポリメラーゼが二本鎖部分(すなわち、プライマー/テンプレートの二本鎖)に結合する際の反応速度(結合速度)を4倍に上昇させることが可能である。さらにSSBの存在により、ポリメラーゼの解離速度を1/30に抑制することが可能である。
複合体合成は、基板外の溶液において、反応速度を高めるため撹拌しながら行うことが望ましい。複合体合成反応におけるプライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及びSSBの濃度は、例えばそれぞれプライマー:0.5〜10μM(好ましくは1〜5μM)、テンプレート:0.5〜10μM(好ましくは1〜5μM)、ポリメラーゼ:10〜50μM(好ましくは10〜20μM)、SSB:10〜50μM(好ましくは10〜20μM)とする。なお、本例では、ポリメラーゼ及びSSB濃度をプライマー及びテンプレート濃度よりも大きく示すが、本方法では平衡定数が上昇するため、ポリメラーゼ及びSSB濃度とプライマー及びテンプレート濃度とは、同程度の濃度でも十分な複合体を形成できると期待できる。反応時間は、例えば0.5〜1時間である。例えば、60℃〜70℃で30分間撹拌し、その後25℃〜30℃に15分間以上冷却し、静置することにより反応が行われる。
次いで、平滑基板等の基板上に構築した反応場に事前に形成した上記複合体を特異的に固定化する。このようにして、核酸分析デバイスを作製できる。単分子計測(例えば、単分子シーケンス反応)を行う場合には、反応場のサイズは20〜30nmが望ましいが、これに限定されるものではない。
反応場への複合体の固定化方法として種々の方法が挙げられるが、例えば、ポリメラーゼに基板固定用分子を連結することで、基板上の当該基板固定用分子結合部位に複合体を結合させる方法が挙げられる。基板固定用分子/基板固定用分子結合部位(又は基板固定用分子結合部位/基板固定用分子)としては、例えばHis-Tag(ヒスチジンタグ)/ニトリロトリ酢酸(NTA)又はイミノジ酢酸(IDA)、GST-Tag(グルタチオンSトランスフェラーゼタグ)/グルタチオン、Si-Tag(シリカ結合タグ)/シリカ等のタグと当該タグに結合する物質が挙げられる。これらタグは特異性及び結合強度が強く、活性の低下を極力抑えた固定化が可能であるため、広く使用されており、技術も確立している。また、基板固定用分子(又は基板固定用分子結合部位)として抗原ペプチドを用い、基板固定用分子結合部位(又は基板固定用分子)として当該抗原ペプチドに対する抗体を使用することもできる。さらに、基板固定用分子/基板固定用分子結合部位(又は基板固定用分子結合部位/基板固定用分子)としては、例えばアビジン/ビオチンが挙げられる。
基板固定用分子がペプチド又はタンパク質である場合には、ポリメラーゼと基板固定用分子とを融合タンパク質として合成し、当該融合タンパク質を、基板固定用分子を連結したポリメラーゼとして使用することができる。
また、反応場への複合体の固定化方法として、テンプレート又はプライマーの末端に基板固定用分子を連結させる方法が挙げられる。当該方法によれば、ポリメラーゼを固定化せず、テンプレート又はプライマーを介して複合体を基板に固定化することにより、ポリメラーゼの酵素活性を低下させる虞を回避できる。テンプレート又はプライマーに連結する基板固定用分子としては、例えば上記のポリメラーゼに連結する基板固定用分子が挙げられる。
さらに、基板にシランカップリング剤等を用いた表面修飾により官能基を付加し、複合体を固定化してもよい。例えば、基板上の反応場の表面がTiO2やSiO2等で作製されている場合には、シランカップリング剤の1種であるアミノシラン処理等により表面にアミノ基等の官能基を付加させる。次いで、当該官能基を利用し、予めポリメラーゼ、テンプレート又はプライマーに連結した固基板定用分子と特異的に結合する分子(基板固定用分子結合部位)を基板表面に付加する。当該方法によれば、基板上の反応場に特異的に複合体を固定化することが可能である。
このようにして基板上に構築された反応場が無駄なくアクティブサイトとして機能する核酸分析デバイスを作製できる。
本方法では、作製した核酸分析デバイス上の複合体を核酸分析に供する。例えば、複合体を固定化させた基板(核酸分析デバイス)上に蛍光標識したヌクレオチドを添加することにより、シーケンス反応を行う。該デバイス上では、核酸伸長反応が生じ、伸長反応中にプライマー上に取り込まれたヌクレオチドの蛍光測定をリアルタイムで行うことでテンプレートの塩基配列情報を取得することができる。
特に、本方法では、核酸分析として単分子シーケンス反応を行う。当該単分子シーケンス反応は、増幅反応を行わず単分子の情報を検出するため、超並列解析及び微量核酸のデジタルカウンティングへ応用することもできる。
一方、本発明に係る核酸分析装置は、上記のように作製した核酸分析デバイスを備えるものである。当該装置は、核酸分析デバイスの他に、例えば核酸分析デバイスに対して、蛍光標識したヌクレオチド等の基質ヌクレオチドを供給する手段、核酸分析デバイスに光を照射する手段、核酸分析デバイス上における核酸伸長反応によりプライマー上に取り込まれた基質ヌクレオチド由来の蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段等を備えることができる。本発明に係る核酸分析装置によれば、テンプレート上の塩基配列情報を取得できる。
あるいは、本発明に係る核酸分析装置は、プライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体を事前に形成するための調製部位を備えていることを特徴とする核酸分析装置である。当該複合体形成は溶液中で撹拌しながら行うことが望ましく、且つ基板の構造を可能な限り簡易にするため、基板上で複合体を調製するのではなく、複合体の調製部位を装置内に備えておくことが好ましい。
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態は、本発明に関わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
〔実施形態1〕
本実施形態では、プライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体をポリメラーゼに連結した基板固定用分子を介して基板に固定化させる方法を、図1〜3を参照して説明する。
図1において、101はプライマー、102はテンプレートを表す。プライマー及びテンプレートとしては、DNA及びRNAに加えてPNA-DNAハイブリッドも使用可能である。
等量のプライマー及びテンプレートをバッファー(10mM Tris-HCl(pH7.5)、7mM MgCl2、50mM NaCl)中に添加する。次いで、当該反応混合物を良く撹拌した後、75℃で10分間加熱し、冷却を行ってハイブリダイズさせる。
その後、105〜107に示したSSBを上記反応混合物に添加し、良く撹拌しながらテンプレートの一本鎖部分に結合させる。SSBとして、例えばgp32、gp2.5、rim-1、rpa-1、p5、ICP8等が利用可能である。
さらに、103で示したポリメラーゼを上記反応混合物に添加する。ここで、該ポリメラーゼとして、後の工程で基板への固定に必要となる基板固定用分子104(His-Tag、GST-Tag、Si-Tag、アビジン等)を連結させたポリメラーゼを使用する。本実施形態では、アビジンを基板固定用分子104として説明する。上記反応混合物を良く撹拌し、プライマー/テンプレートの二本鎖、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体108を形成させる。ポリメラーゼの添加量は、プライマー/テンプレートの二本鎖全てを取り込むのに十分な量であることが望ましい。しかしながら、大過剰に添加すると、プライマー/テンプレートの二本鎖との複合体を形成しないポリメラーゼの割合が増加してしまい、複合体と複合体に含まれないポリメラーゼとの分別工程が必要となってくるため、好ましくない。本発明では、平衡定数を103倍以上に向上させることが可能であるため、プライマー/テンプレートの二本鎖と等量のポリメラーゼを添加することにより、ほぼ全ての当該二本鎖がポリメラーゼに取り込まれる。これにより、分別工程という困難且つ時間を要する工程を省くことが可能である。
次いで、このようにして形成した複合体を基板上に構築された反応場(例えば、蛍光増強場)に特異的に固定化する。図2において、201が基板、202〜204が反応場を表している。基板にはSiO2のような光透過性の材質を使用し、反応場を等間隔で格子状に並べることができる。また、反応場として、近接した2つの金属構造体の間に挟まれた領域が1例として挙げられる。
上記のように形成した複合体を反応場に特異的に固定するためには、反応場の表面を修飾し、官能基を付加させる方法が考えられる。当該修飾の際には、反応場以外の基板表面部分と反応場の表面部分とを識別して官能基を付加しなければならない。そこで、反応場の表面部分は、基板とは異なる材質の膜(例えばTiO2等)でコーティングされる。TiO2に選択的に官能基を付加し、複合体を固定化する方法としては、APP(アミノプロピルリン酸)を用いる方法が挙げられるが、当該方法に限定されるものではない。
先ず、90℃に加熱した5mMのAPP水溶液中に基板を48時間浸漬し、TiO2膜表面(すなわち、反応場)にアミノ基を導入する。その後、NHS-Biotin(ビオチン-スクシンイミド)を反応させ、反応場にビオチンを導入する。当該ビオチンが基板固定用分子結合部位となり、ポリメラーゼに連結した基板固定用分子であるアビジンと結合することとなる。
次に、既にアビジン分子が付いている複合体を基板上に添加することにより、ビオチン-アビジンの強固な結合により、反応場に特異的に複合体が固定化した基板(核酸分析デバイス)を作製することができる。
このようにして作製した基板に核酸伸長反応の基質となるヌクレオチドを添加することにより、テンプレートのシーケンス反応を行う。図3に示す遊離の基質ヌクレオチド301〜304には、それぞれに4種類の各蛍光分子が修飾されている。これらの蛍光分子はアリル基のように光照射で切断可能な官能基を介して基質ヌクレオチドに連結している。リアルタイムの単分子シーケンスを行う場合には、プライマーに取り込まれたヌクレオチド由来の蛍光と未反応のヌクレオチド由来の蛍光とを識別する必要があり、反応場として蛍光増強場が望ましい。例えば、金ナノ微粒子が20〜30nmオーダーで近接しているとその間隙に局在表面プラズモンが発生し、強力な電場が形成されることが計算シミュレーションにより知られている。例えば、基板上にこのような構造体を構築することにより、各構造体の間隙部分を反応場として利用できる。この領域に存在する蛍光分子から発せられる蛍光は何十倍にも増強される。反応場(蛍光増強場)に特異的に複合体が固定化した基板を用いると、プライマーに取り込まれた基質ヌクレオチドは蛍光増強場に存在することから蛍光が増強され、一方、未反応の基質ヌクレオチドは蛍光増強場から外れていることから、蛍光の増強が起こらず無視できる。
核酸伸長反応において、基質ヌクレオチドが蛍光修飾されたままでは次の伸長反応が阻害されるため、UV光照射等により蛍光修飾分子を切断しながら反応を継続させていく。この方式では図3に示すように複合体が固定化された反応場の数に応じ、異なるテンプレートの配列情報を並列で取得可能である。309はプライマーに取り込まれた後、UV光照射により基質ヌクレオチドから切断された蛍光修飾分子を表す。
〔実施形態2〕
本実施形態では、プライマー、テンプレート、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体をプライマー又はテンプレートに連結した基板固定用分子を介して基板に固定化させる方法を、図4を参照して説明する。
実施形態1と同様の方法でプライマー/テンプレートの二本鎖、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体を形成した後、当該複合体を基板上に固定化する方法として、プライマー又はテンプレートの末端にビオチン等の基板固定用分子を予め修飾しておき、これを用いて図4に示すように複合体を基板に固定化する方法が挙げられる。なお、図4には、プライマーの5'末端にビオチン等の基板固定用分子を連結した場合を示す。
基板への官能基の導入は実施形態1の方法と同様の方法で行うことができる。
本実施形態では、ポリメラーゼを介した固定化を行わないため、実施形態1と比較してポリメラーゼ酵素活性を低下させる虞が少ない。
〔実施形態3〕
本実施形態では、テンプレートが特にポリAテール(polyA tail)を有するmRNAである場合に有効な方法を、図5を参照して説明する。
mRNAの3'末端には、Aが数十〜数百塩基連続して存在する、いわゆる「ポリAテール」部位が存在する。当該部分はmRNAの配列決定においては有用な情報とならず、単分子計測では、ポリAテール部分を除いた部分から行うことが好ましい。
図5に示すように、プライマーとしてオリゴdTプライマー(プライマー501)を使用し、実施形態1と同様にプライマー501とmRNA(テンプレート502)とのハイブリダイズ、及びSSBのmRNAへの結合を行う。
次いで、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)及びdTTPを添加し、良く撹拌し、プライマー/テンプレートの二本鎖、SSB及び当該RNA依存性DNAポリメラーゼを含む複合体を形成させると共に、mRNAのポリAテール部位に相当する部分の伸長反応を行う。当該方法により、複合体の形成と同時にポリAテール部位を埋めることができ、シーケンス反応時に無用な情報を除くことが可能となる。また、プライマー/テンプレートの二本鎖部分が長鎖となり、安定化する。
このようにして得られた複合体を基板上の反応場に特異的に固定化する。固定化方法としては、実施形態1と同様に逆転写酵素(ポリメラーゼ)に予め基板固定用分子を連結させておき、これを介して固定化する方法、あるいは実施形態2と同様にプライマー又はテンプレートの末端に予め基板固定用分子を修飾しておき、これを介して複合体を固定化する方法が挙げられる。
101及び501:プライマー
102及び502:テンプレート
103:ポリメラーゼ
104:基板固定用分子
105〜107:SSB
108及び505:プライマー/テンプレートの二本鎖、ポリメラーゼ及びSSBを含む複合体
201及び401:基板
202〜204及び402〜404:近接した微細な金属構造体に挟まれた反応場(蛍光増強場)
205〜207及び405〜407:基板固定用分子結合部位
301〜304:遊離の蛍光修飾基質ヌクレオチド
305〜307:プローブ上に取り込まれた基質ヌクレオチド(蛍光修飾分子切断前)
308:プローブ上に取り込まれた基質ヌクレオチド(蛍光修飾分子切断後)
309:基質ヌクレオチドから切断された蛍光修飾分子
503:プライマー/テンプレートの二本鎖
504:プライマー/テンプレートの二本鎖とSSBとの複合体
506:逆転写酵素と同時に添加したdTTPにより埋められたテンプレートのポリAテール部分

Claims (21)

  1. 基板に固定化したプライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体を核酸分析に供する工程を含む、核酸分析方法。
  2. 前記複合体がさらに一本鎖結合タンパク質を含む、請求項1記載の方法。
  3. ヌクレオチド非添加条件下で前記複合体を形成し、基板に固定化する工程を含む、請求項1又は2記載の方法。
  4. プライマー、テンプレート及び一本鎖結合タンパク質を会合させた後、ポリメラーゼを添加することで、前記複合体を形成させる、請求項3記載の方法。
  5. 前記プライマーがPNA-DNAハイブリッドである、請求項1記載の方法。
  6. 前記一本鎖結合タンパク質がgp32、gp2.5、rim-1、rpa-1、p5及びICP8から成る群より選択される、請求項2記載の方法。
  7. 前記ポリメラーゼが基板固定用分子を有する、請求項1記載の方法。
  8. 前記プライマー又はテンプレートが基板固定用分子を有する、請求項1記載の方法。
  9. 前記基板固定用分子がHis-Tag、GST-Tag、Si-Tag及びアビジンから成る群より選択される、請求項7又は8記載の方法。
  10. 前記基板上に官能基が付加されている、請求項1記載の方法。
  11. 前記複合体を固定化した基板上に蛍光標識したヌクレオチドを添加し、シーケンス反応を行う、請求項1記載の方法。
  12. 前記シーケンス反応が単分子シーケンス反応である、請求項11記載の方法。
  13. 基板と、基板に固定化したプライマー、テンプレート及びポリメラーゼを含む複合体とを含む、核酸分析デバイス。
  14. 前記複合体がさらに一本鎖結合タンパク質を含む、請求項13記載の核酸分析デバイス。
  15. 前記プライマーがPNA-DNAハイブリッドである、請求項13記載の核酸分析デバイス。
  16. 前記一本鎖結合タンパク質がgp32、gp2.5、rim-1、rpa-1、p5及びICP8から成る群より選択される、請求項14記載の核酸分析デバイス。
  17. 前記ポリメラーゼが基板固定用分子を有する、請求項13記載の核酸分析デバイス。
  18. 前記プライマー又はテンプレートが基板固定用分子を有する、請求項13記載の核酸分析デバイス。
  19. 前記基板固定用分子がHis-Tag、GST-Tag、Si-Tag及びアビジンから成る群より選択される、請求項17又は18記載の核酸分析デバイス。
  20. 前記基板上に官能基が付加されている、請求項13記載の核酸分析デバイス。
  21. 請求項13又は14記載の核酸分析デバイスを備える核酸分析装置。
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