以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現する物質として具体的な化合物を例示する場合があるが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
[本発明の成形体(成形体(II))]
本発明の成形体(以下、「成形体(II)」という場合がある)は、成形された基材と、基材に積層された少なくとも1つのガスバリア性を有する特定の層とを含む。成形された基材を、以下、「成形体(I)」という場合がある。また、ガスバリア性を有する特定の層を、以下、「ガスバリア層」という場合がある。本発明の成形体は、基材である成形体(I)の外面および/または内面に、ガスバリア層を形成することによって製造できる。ガスバリア層の形成方法については、後述する。
成形体(II)の形態(成形体(I)の形態)の例には、ボトル、カップおよびトレーなどの容器の形態、チューブやホースなどの中空状の形態、タンクなどの形態が含まれる。成形体(I)の製造方法としては、公知の成形方法を適用できる。
[基材(成形体(I))]
成形体(I)の材料および構成は特に限定されない。成形体(I)は、単層体および多層体のいずれであってもよい。
単層体の材料の具体例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・66、ナイロンMXD6(メタキシリレンジアミンとアジピン酸の重縮合体)などのポリアミド;低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリメチルメタクリレートなどのポリアクリル;ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイドなどのポリエーテル;エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)などが含まれる。
多層体の具体例には、ポリオレフィン層/エチレン−ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層、ポリエステル層/エチレン−ビニルアルコール共重合体層/ポリエステル層、ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、ポリエステル層/ポリアミド層/ポリエステル層といった構成を有する多層体、およびこれらを含む多層体が含まれる。必要に応じて、層と層の間には接着層が配置されてもよい。ポリオレフィン、ポリエステル、およびポリアミドの具体例には、単層体の材料として挙げた具体例と同一のものが含まれる。ガスバリア性および機械的物性などの観点から、好ましい多層体の例には、ポリオレフィン層/エチレン−ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層、および、ポリエステル層/エチレン−ビニルアルコール共重合体層/ポリエステル層、という構成を有する多層体が含まれる。基材の好ましい一例は、エチレン−ビニルアルコール共重合体層を含む多層体である。
[ガスバリア層]
ガスバリア層は、特定の組成物からなる。その組成物は、加水分解性を有する特性基を含有する少なくとも1種の化合物(L)の加水分解縮合物と、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1つの官能基を含有する重合体(X)の中和物とを含む。化合物(L)は、加水分解性を有する特性基を含有する少なくとも1種の化合物であり、典型的には、加水分解性を有する特性基が結合した金属原子を含む少なくとも1種の化合物である。化合物(L)は、化合物(A)と、加水分解性を有する特性基が結合したSiを含有する化合物(B)とを含む。以下、重合体(X)に含まれる、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1つの官能基を「官能基(F)」という場合がある。官能基(F)に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されている。別の観点では、官能基(F)に含まれる−COO−基が、2価以上の金属イオンと塩を構成している。
ガスバリア層は、基材の少なくとも一方の面に積層されている。ガスバリア層は、基材の片面のみに積層されてもよいし、基材の両面に積層されてもよい。基材には、ガスバリア層以外の層が積層されていてもよい。
化合物(L)の加水分解縮合物および重合体(X)の中和物が組成物に占める割合は、たとえば50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、または98重量%以上である。
[加水分解縮合物]
ガスバリア層を構成する組成物は、化合物(L)の加水分解縮合物を含む。化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)の特性基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子が酸素を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物となる。ここで、この加水分解・縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解性を有する特性基(官能基)を含有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解・縮合反応が起こらないか極めて緩慢になるため、本発明の効果を得ることは困難である。なお、Siは、半金属元素に分類される場合があるが、この明細書では、Siを金属として説明する。
該加水分解縮合物は、たとえば、公知のゾルゲル法で用いられる手法を用いて特定の原料から製造できる。該原料には、化合物(L)、化合物(L)が部分的に加水分解したもの、化合物(L)が完全に加水分解したもの、化合物(L)が部分的に加水分解・縮合したもの、化合物(L)が完全に加水分解しその一部が縮合したもの、あるいはこれらを組み合わせたものが用いられる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、たとえば2〜10個程度の分子が加水分解・縮合することによって得られる縮合物を、原料として用いることができる。具体的には、たとえば、テトラメトキシシランを加水分解・縮合させて、2〜10量体の線状縮合物としたものを原料として用いることができる。
化合物(A)は、以下の式(I)で表される少なくとも1種の化合物である。
M1X1 mY1 n-m・・・(I)
[式(I)中、M1はAl、Ti、およびZrから選ばれるいずれか1つを表す。X1は、F、Cl、Br、I、OR1、R2COO、R3COCHCOR4、およびNO3から選ばれるいずれか1つを表す。Y1は、F、Cl、Br、I、OR5、R6COO、R7COCHCOR8、NO3およびR9から選ばれるいずれか1つを表す。R1、R2、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。R3、R4、R7、R8およびR9は、それぞれ独立にアルキル基を表す。nはM1の原子価と等しい。mは1〜nの整数を表す。]
X1とY1とは、同じであってもよいし異なってもよい。M1は、得られる成形体(II)の酸素バリア性、ガソリンバリア性が良好となる観点から、Alであることが好ましい。X1は、加水分解性を有する基である。X1は、好ましくはCl、OR1、およびNO3から選ばれるいずれか1つであり、より好ましくはOR1である。Y1は、好ましくはCl、OR5、およびNO3から選ばれるいずれか1つであり、より好ましくはOR5である。
R1、R2、R5およびR6に用いられるアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上20以下であり、より好ましくは1以上10以下であり、たとえば1以上4以下である。R1およびR5は、好ましくはメチル基、エチル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基であり、特に好ましくはiso−プロピル基またはn−ブチル基である。R3、R4、R7、R8およびR9に用いられるアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上4以下であり、より好ましくは1以上2以下である。R3、R4、R7およびR8は、好ましくはメチル基、エチル基である。R3COCHCOR4およびR7COCHCOR8は、そのカルボニル基の部分で原子M1に配位結合することができる。R9は、好ましくはメチル基、エチル基である。なお、R9は通常、官能基を有さない。式(I)において、[n−m]は、たとえば0または1であってもよい。
化合物(A)の具体例には、塩化アルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリノルマルプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリノルマルブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムアセチルアセトネート、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)、チタンテトラメトキシド、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート等のチタン化合物;ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、等のジルコニウム化合物が含まれる。化合物(A)の好ましい例には、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリノルマルブトキシドが含まれる。
化合物(B)は、加水分解性を有する特性基が結合したSiを含有する少なくとも1種のSi化合物である。化合物(B)は、以下の式(II)で表される少なくとも1種の化合物を含む。
Si(OR10)pR11 4-p-qX2 q・・・(II)
[式(II)中、R10はアルキル基を表す。R11はアルキル基、アラルキル基、アリール基またはアルケニル基を表す。X2はハロゲン原子を表す。pおよびqは、それぞれ独立に0〜4の整数を表す。1≦p+q≦4である。]
R10が表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基またはエチル基である。X2が表すハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、塩素原子が好ましい。R11が表すアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−オクチル基などが挙げられ、アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、トリチル基などが挙げられる。また、R11が表すアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基などが挙げられ、アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基などが挙げられる。
式(II)で表される化合物(B)の具体例には、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、およびビニルトリクロロシランが含まれる。式(II)で表される化合物(B)の好ましい例には、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランが含まれる。
化合物(B)は、式(II)で表される化合物に加えて、以下の式(III)で表される少なくとも1種の化合物を更に含んでもよい。式(III)で表される化合物を含有させることによって、得られる成形体(II)の酸素バリア性および/またはガソリンバリア性が更に良好となる。
Si(OR12)rX3 sZ3 4-r-s・・・(III)
[式(III)中、R12はアルキル基を表す。X3はハロゲン原子を表す。Z3は、カルボキシル基との反応性を有する官能基で置換されたアルキル基を表す。rおよびsは、それぞれ独立に0〜3の整数を表す。1≦r+s≦3である。]
R12が表すアルキル基としては例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基またはエチル基である。X3が表すハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、塩素原子が好ましい。Z3が有する、カルボキシル基との反応性を有する官能基としては、エポキシ基、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、オキサゾリン基またはカルボジイミド基などが挙げられる。これらの中でも、得られる成形体(II)の酸素バリア性および/またはガソリンバリア性が良好となる観点から、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ウレイド基またはハロゲン原子が好ましく、例えばエポキシ基、アミノ基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも1種を用いてもよい。このような官能基で置換されるアルキル基としては、R12について例示したものが挙げられる。
式(III)で表される化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリクロロシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリクロロシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリクロロシラン、γ−ブロモプロピルトリメトキシシラン、γ−ブロモプロピルトリエトキシシラン、γ−ブロモプロピルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリクロロシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリクロロシランが含まれる。式(III)で表される化合物の好ましい例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが含まれる。
本発明者らは、化合物(A)と化合物(B)とを含む化合物(L)の加水分解縮合物を用いることによって、得られる成形体(II)が優れたガスバリア性を示すことを見出した。上述したように、成形体のガスバリア層を薄くすると従来はガスバリア性が指数関数的に低下して優れたガスバリア性を維持することができない場合があった。これに対し、化合物(L)の加水分解縮合物を用いることによって、ガスバリア層を薄くしても高いガスバリア性を維持できる。
化合物(B)が式(II)の化合物のみからなる場合、および化合物(B)が式(III)の化合物を含む場合のいずれの場合においても、[化合物(A)に由来するM1原子のモル数]/[化合物(B)に由来するSi原子のモル数]の比は、0.1/99.9〜35.0/65.0(たとえば0.1/99.9〜30.0/70.0、さらには0.1/99.9〜29.9/70.1)の範囲にある必要がある。上記モル比がこの範囲にある場合に、優れたガスバリア性を示す成形体(II)が得られる。M1とSiとの合計に占めるM1の比が35モル%より高いとガスバリア性が低下し、0.1モル%より低いと過酷な取り扱いをした後のガスバリア性が低下するという問題がある。ガスバリア性がより良好となる観点から、[化合物(A)に由来するM1原子のモル数]/[化合物(B)に由来するSi原子のモル数]の比は、好ましくは1.2/98.8〜30.0/70.0の範囲にあり、より好ましくは1.9/98.1〜30.0/70.0の範囲にあり、さらに好ましくは2.8/97.2〜30.0/70.0の範囲にある。上記比は、0.5/99.5〜30.0/70.0の範囲、1.5/98.5〜20.0/80.0の範囲、または2.5/97.5〜10.0/90.0の範囲にあってもよい。
本発明者らは、化合物(A)および式(II)で表される化合物に加えて、式(III)で表される化合物を更に含む化合物(L)の加水分解縮合物を用いることによって、得られる成形体(II)が更に優れたガスバリア性を示すことを見出した。
化合物(B)が式(III)で表される化合物を含む場合は更に以下の条件を満たすことが好ましい。すなわち[式(II)で表される化合物に由来するSiのモル数]/[式(III)で表される化合物に由来するSiのモル数]の比が、99.5/0.5〜80.0/20.0の範囲にあることが好ましい。この比が、99.5/0.5よりも大きい場合、および、この比が80.0/20.0よりも小さい場合には、得られる成形体(II)のガスバリア性が低下することがある。また、この比は、成形体(II)のガスバリア性がより良好となる観点から、98.0/2.0〜89.9/10.1の範囲にあることがより好ましい。
化合物(L)に占める、化合物(A)および化合物(B)の割合の合計は、たとえば80モル%以上100モル%以下であり、90モル%以上、95モル%以上、98モル%以上、99モル%以上、または100モル%であってもよい。
化合物(B)(化合物(L)であるSi化合物)に占める式(II)で表される化合物の割合は、80モル%以上100モル%以下であり、たとえば90モル%以上、95モル%以上、98モル%以上、または100モル%であってもよい。一例では、化合物(B)は、式(II)で表される化合物のみからなり、他の一例では、化合物(B)は、式(II)で表される化合物および式(III)で表される化合物のみからなる。
化合物(L)の加水分解縮合物において縮合される分子の数は、加水分解・縮合を行う際の条件によって制御できる。たとえば、縮合される分子の数は、水の量、触媒の種類や濃度、加水分解縮合を行う温度などによって制御できる。
ガスバリア層を構成する組成物は、成形体(II)のガスバリア性がより良好となるため、[化合物(L)に由来する無機成分の重量]/[化合物(L)に由来する有機成分の重量と重合体(X)に由来する有機成分の重量との合計]の比が20.0/80.0〜80.0/20.0の範囲にあることが好ましく、30.5/69.5〜70/30の範囲にあることがより好ましい。
化合物(L)に由来する無機成分の重量は、該組成物を調製する際に使用する原料の重量から算出することができる。すなわち、化合物(L)、化合物(L)が部分的に加水分解したもの、化合物(L)が完全に加水分解したもの、化合物(L)が部分的に加水分解縮合したもの、化合物(L)が完全に加水分解しその一部が縮合したもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどが完全に加水分解・縮合して金属酸化物になったと仮定し、その金属酸化物の重量を化合物(L)に由来する無機成分の重量とみなす。
金属酸化物の重量の算出をより具体的に説明すると、式(I)で表される化合物(A)がR9を含まない場合、それが完全に加水分解・縮合したときには、組成式が、M1On/2で表される化合物となる。また、式(I)で表される化合物(A)がR9を含む場合、それが完全に加水分解・縮合したときには、組成式が、M1Om/2R9 n-mで表される化合物となる。この化合物のうちM1Om/2の部分が金属酸化物である。R9については、化合物(L)に由来する有機成分とする。また、化合物(B)についても同様に算出する。このとき、R11、Z3については、化合物(L)に由来する有機成分とする。上記金属酸化物の重量を、後述する工程(i)の終了までに加えた有効成分の重量で割り、その値を100倍した値が、この明細書における加水分解縮合物の含有率(%)である。ここで、有効成分の重量とは、後述する工程(i)の終了までに加えた全ての成分の重量から、上述した化合物(L)が金属酸化物に変化する過程で発生する化合物や溶剤といった揮発成分の重量を除いた重量である。
なお、金属イオンを含まないイオン(たとえばアンモニウムイオン)によって重合体(X)が中和されている場合、そのイオン(たとえばアンモニウムイオン)の重量も、重合体(X)に由来する有機成分の重量に加えられる。
[カルボン酸含有重合体(重合体(X))]
ガスバリア層を構成する組成物は、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1つの官能基を含有する重合体の中和物を含む。その重合体を、以下、「カルボン酸含有重合体」という場合がある。カルボン酸含有重合体の中和物は、カルボン酸含有重合体の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部を2価以上の金属イオンで中和することによって得られる。カルボン酸含有重合体は、重合体1分子中に、2個以上のカルボキシル基または1個以上のカルボン酸無水物基を有する。具体的には、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、マレイン酸単位、イタコン酸単位などの、カルボキシル基を1個以上有する構成単位を重合体1分子中に2個以上含有する重合体を用いることができる。また、無水マレイン酸単位や無水フタル酸単位などのカルボン酸無水物の構造を有する構成単位を含有する重合体を用いることもできる。カルボキシル基を1個以上有する構成単位および/またはカルボン酸無水物の構造を有する構成単位(以下、両者をまとめて「カルボン酸含有単位(G)」という場合がある)は、1種類または2種類以上がカルボン酸含有重合体に含まれていてもよい。
また、カルボン酸含有重合体の全構成単位に占めるカルボン酸含有単位(G)の含有率を10モル%以上とすることによって、ガスバリア性が良好な成形体(II)が得られる。この含有率は、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましい。なお、カルボン酸含有重合体が、カルボキシル基を1個以上含有する構成単位と、カルボン酸無水物の構造を有する構成単位の両方を含む場合、両者の合計が上記の範囲であればよい。
カルボン酸含有重合体が含有していてもよい、カルボン酸含有単位(G)以外の他の構成単位は、特に限定されないが、アクリル酸メチル単位、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位、メタクリル酸ブチル単位等の(メタ)アクリル酸エステル類から誘導される構成単位;ギ酸ビニル単位、酢酸ビニル単位などのビニルエステル類から誘導される構成単位;スチレン単位、p−スチレンスルホン酸単位;エチレン単位、プロピレン単位、イソブチレン単位などのオレフィン類から誘導される構成単位などから選ばれる1種類以上の構成単位を挙げることができる。カルボン酸含有重合体が、2種以上の構成単位を含有する場合、該カルボン酸含有重合体は、交互共重合体の形態、ランダム共重合体の形態、ブロック共重合体の形態、さらにはテーパー型の共重合体の形態のいずれであってもよい。
カルボン酸含有重合体の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸/メタクリル酸)を挙げることができる。カルボン酸含有重合体は、ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種の重合体であってもよい。また、上記したカルボン酸含有単位(G)以外の他の構成単位を含有する場合の具体例としては、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体のケン化物などが挙げられる。
カルボン酸含有重合体の分子量は特に制限されないが、得られる成形体(II)のガスバリア性が優れる点、および落下衝撃強さなどの力学的物性が優れる点から、数平均分子量が5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。カルボン酸含有重合体の数平均分子量の上限は特に制限がないが、一般的には1,500,000以下である。
また、カルボン酸含有重合体の分子量分布も特に制限されるものではないが、成形体(II)のヘイズなどの表面外観、および後述する溶液(U)の貯蔵安定性などが良好となる観点から、カルボン酸含有重合体の重量平均分子量/数平均分子量の比で表される分子量分布は1〜6の範囲であることが好ましく、1〜5の範囲であることがより好ましく、1〜4の範囲であることがさらに好ましい。
[中和(イオン化)]
カルボン酸含有重合体の中和物は、カルボン酸含有重合体のカルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1つの官能基(官能基(F))の少なくとも一部を2価以上の金属イオンで中和することによって得られる。換言すれば、この重合体は、2価以上の金属イオンで中和されたカルボキシル基を含む。
官能基(F)を中和する金属イオンは2価以上であることが重要である。官能基(F)が未中和または1価のイオンのみによって中和されている場合には、良好なガスバリア性を有する積層体が得られない。2価以上の金属イオンの具体例としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、2価の鉄イオン、3価の鉄イオン、亜鉛イオン、2価の銅イオン、鉛イオン、2価の水銀イオン、バリウムイオン、ニッケルイオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオンなどを挙げることができる。たとえば、2価以上の金属イオンとして、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオンおよびアルミニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1つのイオンであってもよい。
カルボン酸含有重合体の官能基(F)に含まれる−COO−基は、たとえば10モル%以上(たとえば15モル%以上)が2価以上の金属イオンで中和されている。カルボン酸含有重合体中のカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基が2価以上の金属イオンで中和されることによって、成形体(II)が良好なガスバリア性を示す。
なお、カルボン酸無水物基は、−COO−基を2つ含んでいるとみなす。すなわち、aモルのカルボキシル基とbモルのカルボン酸無水物基とが存在する場合、それに含まれる−COO−基は、全体で(a+2b)モルである。官能基(F)に含まれる−COO−基のうち、2価以上の金属イオンで中和されている割合は、好ましくは60モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上である。中和されている割合を高めることによって、より高いガスバリア性を実現できる。
官能基(F)の中和度(イオン化度)は、成形体(II)の赤外吸収スペクトルをATR法(全反射測定法)で測定するか、または、成形体(II)からガスバリア層をかきとり、その赤外吸収スペクトルをKBr法で測定することによって求めることができる。また、蛍光X線測定によるイオン化に用いた金属元素の蛍光X線強度の値によっても求めることが出来る。
赤外吸収スペクトルでは中和前(イオン化前)のカルボキシル基またはカルボン酸無水物基のC=O伸縮振動に帰属されるピークは1600cm-1〜1850cm-1の範囲に観察され、中和(イオン化)された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動は1500cm-1〜1600cm-1の範囲に観察されるため、赤外吸収スペクトルにおいて両者を分離して評価することができる。具体的には、それぞれの範囲における最大の吸光度からその比を求め、予め作成した検量線を用いて成形体(II)におけるガスバリア層を構成する重合体のイオン化度を算出することができる。なお、検量線は、中和度が異なる複数の標準サンプルについて赤外吸収スペクトルを測定することによって作成できる。
ガスバリア層の膜厚が1μm以下であり、かつ基材がエステル結合を含む場合、ATR法による赤外吸収スペクトルでは基材のエステル結合のピークが検出され、ガスバリア層を構成するカルボン酸含有重合体(=重合体(X))の−COO−のピークと重なるため、イオン化度を正確に求めることができない。そこで、膜厚1μm以下のガスバリア層を構成する重合体(X)のイオン化度は、蛍光X線測定の結果に基づいて算出する。
具体的には、エステル結合を含まない基材上に積層したガスバリア層を構成する重合体(X)のイオン化度を、赤外吸収スペクトルによって測定する。次に、イオン化度が測定された積層体について、蛍光X線測定によって、イオン化に用いた金属元素の蛍光X線強度を求める。続いて、イオン化度のみが異なる積層体について同様の測定を実施する。イオン化度と、イオン化に用いた金属元素の蛍光X線強度との相関を求め、検量線を作成する。そして、エステル結合を含む基材を用いた成形体(II)について蛍光X線測定を行い、イオン化に用いた金属元素の蛍光X線強度から、上記検量線に基づいてイオン化度を求める。
[化合物(P)]
ガスバリア層を構成する組成物は、2つ以上のアミノ基を含有する化合物(P)を含んでもよい。化合物(P)は、化合物(L)および重合体(X)とは異なる化合物である。化合物(P)をさらに含む場合、前記重合体(X)の官能基(F)に含まれる−COO−基の少なくとも一部が、化合物(P)によって中和および/または反応されている状態となる。化合物(P)として、アルキレンジアミン類、ポリアルキレンポリアミン類、脂環族ポリアミン類、芳香族ポリアミン類、ポリビニルアミン類等を用いることができるが、成形体(II)のガスバリア性がより良好となる観点から、アルキレンジアミンが好ましい。
化合物(P)の具体例としては、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、キシリレンジアミン、キトサン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン等が挙げられる。成形体(II)のガスバリア性がより良好となる観点から、好ましくはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、キトサンである。
[化合物(P)に含まれるアミノ基]/[カルボン酸含有重合体の官能基に含まれる−COO−基]のモル比は、成形体(II)のガスバリア性がより良好となる観点から、0.2/100〜20/100の範囲にあることが好ましく、0.5/100〜15/100の範囲にあることがより好ましく、1/100〜10/100の範囲にあることが特に好ましい。
化合物(P)をカルボン酸含有重合体に添加する際に、化合物(P)を予め酸で中和しておいてもよい。中和に用いられる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、炭酸などが挙げられる。得られる成形体(II)のガスバリア性がより良好となる観点から、塩酸、酢酸、炭酸を用いることが好ましい。
[化合物Q]
ガスバリア層を構成する組成物は、2つ以上の水酸基を含有する化合物(Q)を含んでもよい。化合物(Q)をさらに含む場合、前記重合体(X)の官能基(F)に含まれる−COO−基の少なくとも一部が、化合物(Q)によって反応してエステル結合を形成している状態となる。この構成によれば、ガスバリア層の、屈曲後のガスバリア性がより向上する。より具体的には、化合物(Q)を添加することによって、成形体(II)が屈曲してもガスバリア層がダメージを受けにくくなる。その結果、屈曲された後でも高いガスバリア性が保持される。
化合物(Q)は、化合物(L)および重合体(X)とは異なる化合物である。化合物(Q)には、低分子量の化合物および高分子量の化合物が含まれる。化合物(Q)の好ましい例には、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分けん化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、でんぷんなどの多糖類、でんぷんなどの多糖類から誘導される多糖類誘導体、といった高分子化合物が含まれる。
また、ガスバリア層を構成する組成物は、所望により、本発明の効果を損なわない範囲内において、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩のような無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩のような有機酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナートのようなアセチルアセトナート金属錯体、チタノセンなどのシクロペンタジエニル金属錯体、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物、架橋剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等を含有していてもよい。また、ガスバリア層を構成する組成物は、金属酸化物の微粉末やシリカ微粉末などを含有していてもよい。
ガスバリア層の微細構造は特に限定されるものではないが、ガスバリア層が以下に記載する微細構造を有する場合には、成形体(II)を伸長した際におけるガスバリア性の低下などが抑えられるため好ましい。好ましい微細構造としては、海相(α)および島相(β)からなる海島構造である。島相(β)は、海相(α)に比べて、化合物(L)の加水分解縮合物の割合が高い領域である。
海相(α)と島相(β)とは、それぞれ、さらに微細構造を有することが好ましい。たとえば、海相(α)は、主にカルボン酸含有重合体の中和物からなる海相(α1)と、主に化合物(L)の加水分解縮合物からなる島相(α2)とによって構成される海島構造をさらに形成していてもよい。また、島相(β)は、主にカルボン酸含有重合体の中和物からなる海相(β1)と、主に化合物(L)の加水分解縮合物からなる島相(β2)とによって構成される海島構造をさらに形成していてもよい。島相(β)中における[島相(β2)/海相(β1)]の比率(体積比)は、海相(α)中における[島相(α2)/海相(α1)]の比率よりも大きいことが好ましい。島相(β)の径は、好ましくは30nm〜1200nmの範囲であり、より好ましくは50〜500nmの範囲であり、さらに好ましくは50nm〜400nmの範囲である。島相(α2)および島相(β2)の径は、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下である。
上記のような構造を得るためには、化合物(L)とカルボン酸含有重合体との架橋反応に優先して、化合物(L)の適切な加水分解縮合が起こる必要がある。そのために、特定の化合物(L)をカルボン酸含有重合体と適切な比率で使用する、化合物(L)をカルボン酸含有重合体と混合する前に予め加水分解縮合させておく、適切な加水分解縮合触媒を使用する、などの方法を取るなどの方法が採用できる。
また、特定の製造条件を選択すると、化合物(L)の加水分解縮合物の割合が高い領域がガスバリア層の表面に層状に形成されることが見出された。以下、ガスバリア層表面に形成された化合物(L)の加水分解縮合物の層を「スキン層」ということがある。スキン層が形成されることによって、ガスバリア層表面の耐水性が向上する。化合物(L)の加水分解縮合物からなるスキン層は、疎水的な特性をガスバリア層表面に付与し、水に濡れた状態のガスバリア層同士を重ねてもそれらが膠着しない特性を成形体(II)に付与する。さらに驚くことに、疎水的な特性を有するスキン層がガスバリア層の表面に形成されても、その表面に対する印刷用インクなどの濡れ性は良好である。製造条件によって、ガスバリア層のスキン層の有無、あるいは形成されるスキン層の状態が異なる。鋭意検討した結果、本発明者らは、ガスバリア層と水との接触角と、好ましいスキン層との間に相関があり、その接触角が以下の条件を満たすときに、好ましいスキン層が形成されることを見出した。ガスバリア層と水との接触角が20°未満のときはスキン層の形成が不十分なことがある。この場合、ガスバリア層の表面が水によって膨潤しやすくなり、水に濡れた状態で成形体(II)同士を重ねておくと、まれにそれらが膠着する場合がある。また、接触角が20°以上のときはスキン層形成が十分であり、ガスバリア層の表面は水によって膨潤しないため、膠着は起きない。ガスバリア層と水との接触角は好ましくは、24°以上であり、さらに好ましくは26°以上である。また、接触角が65゜より大きいとスキン層が厚くなりすぎ、成形体(II)の透明性が低下する。したがって、接触角は65゜以下であることが好ましく、60゜以下であることがより好ましく、58゜以下であることがさらに好ましい。
本発明の成形体(II)では、成形体(II)に含まれるガスバリア層の厚さの合計が、1.0μm以下(たとえば0.9μm以下)であってもよい。ガスバリア層を薄くすることによって、屈曲や衝撃に対するガスバリア層の耐久性を高めることができる。ガスバリア層の1層の厚さは、成形体(II)のガスバリア性が良好となる観点から、0.05μm以上(たとえば0.15μm以上)であってもよい。また、ガスバリア層の合計の厚さは0.1μm以上(たとえば0.2μm以上)であってもよい。ガスバリア層の厚さは、ガスバリア層の形成に用いられる溶液の濃度や、塗工方法によって制御できる。
[成形体(II)の製造方法]
以下、本発明の成形体(II)を製造するための方法について説明する。この方法によれば、成形体(II)を容易に製造できる。本発明の製造方法に用いられる材料、および積層体の構成は、上述したものと同様であるので、重複する部分については説明を省略する場合がある。
この製造方法は、工程(i)および(ii)を含む。
工程(i)は、加水分解性を有する特性基を含有する化合物(L)の加水分解縮合物と、重合体(X)とを含む組成物からなる層を基材上に形成する工程である。その層は、基材上に直接形成されるか、または他の層を介して基材上に形成される。化合物(L)は、化合物(A)と化合物(B)とを含む。なお、化合物(L)に、カルボキシル基を含有する分子量が100以下の化合物(D)を添加することによって、化合物(L)の加水分解、縮合の反応性を制御でき、最終的に得られる成形体(II)のガスバリア性および耐熱水性が良好となる。化合物(D)の詳細は後述する。
化合物(A)および化合物(B)、およびそれらの化合物の割合については、ガスバリア層を構成する組成物について説明したものと同様である。
基材には、成形された基材(上述した成形体(I))を用いることができる。成形体(I)の表面には、上記組成物を含む溶液が塗工される。成形体(I)の表面の濡れ性を向上させるために、工程(i)の前に、成形体(I)に対して表面処理を行なうことが好ましい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等を挙げることができる。必要に応じて、前記の表面処理を施した成形体(I)の表面、または表面処理を施さない成形体(I)の表面に、アンカー剤を塗工してもよい。アンカー剤を用いることによって、成形体(I)の表面とその上に形成される層との接着が充分に行なわれ、成形体(II)の強度が高まる。アンカー剤の例には、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが含まれる。
次の工程(ii)は、2価以上の金属イオンを含む溶液に、工程(i)で形成された層を接触させる工程である(以下、この工程をイオン化工程という場合がある)。たとえば、形成した層に2価以上の金属イオンを含む溶液を吹きつけたり、基材と基材上の層とをともに2価以上の金属イオンを含む溶液に浸漬したりすることによって行うことができる。工程(ii)によって、重合体(X)の官能基(F)に含まれる−COO−基の少なくとも一部が中和される。
以下、工程(i)について詳細に説明する。なお、加水分解縮合していない化合物(L)とカルボン酸含有重合体とを混合すると、両者が反応してしまって溶液(U)の塗布が困難になることがある。そのため、工程(i)は、
(i−a)化合物(A)および化合物(A)の部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、カルボキシル基を含有し分子量が100以下である化合物(D)と、を含む溶液(S)を調製する工程と、
(i−b)化合物(B)および化合物(B)の部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と溶液(S)とを混合することによって溶液(T)を調製する工程と、
(i−c)溶液(T)中において、化合物(A)と化合物(B)とを含む複数の化合物(L)の加水分解縮合物(オリゴマー(V))を形成する工程と、
(i−d)上記(i−c)の工程を経た溶液(T)と重合体(X)とを混合することによって溶液(U)を調製する工程と、
(i−e)溶液(U)を基材に塗工して乾燥させることによって層を形成する工程と、を含むことが極めて好ましい。
化合物(L)を加水分解縮合させたオリゴマー(V)は、より具体的には、化合物(L)が部分的に加水分解したもの、化合物(L)が完全に加水分解したもの、化合物(L)が部分的に加水分解縮合したもの、および化合物(L)が完全に加水分解しその一部が縮合したものから選ばれる少なくとも1つの金属元素含有化合物である。以下、そのような金属元素含有化合物を、「化合物(L)系成分」という場合がある。以下、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(i−c)、工程(i−d)および工程(i−e)について、より具体的に説明する。
工程(i−a)は、化合物(L)を構成する化合物(A)を特定の条件下で加水分解、縮合させる工程である。化合物(A)、酸触媒、水および必要に応じて有機溶媒を含む反応系中において、化合物(A)を加水分解、縮合させることが好ましい。具体的には、公知のゾルゲル法で用いられている手法を適用できる。加水分解、縮合をさせる際には反応を制御するためにカルボキシル基を含有し分子量が100以下である化合物(D)(以下、単に化合物(D)と称する場合がある)を添加することが極めて好ましく、かかる化合物(D)を添加することによって、化合物(A)を加水分解、縮合させる工程でゲル化を抑制することができる。
化合物(D)は、化合物(A)、化合物(A)が部分的に加水分解したもの、化合物(A)が完全に加水分解したもの、化合物(A)が部分的に加水分解縮合したもの、および化合物(A)が完全に加水分解しその一部が縮合したものから選ばれる少なくとも1つが含まれる金属元素含有化合物(以下、この金属元素含有化合物を、「化合物(A)系成分」という場合がある。)に添加し、化合物(D)が化合物(A)系成分に作用することで、前記効果が発現する。化合物(D)の添加方法としては、化合物(A)系成分が加水分解縮合反応によってゲル化する前に添加する方法であれば特に制限されるものではないが、好ましい方法として以下の方法を挙げることができる。まず、化合物(D)と水、必要に応じて有機溶媒を混合し化合物(D)の水溶液を調製し、続いて前記化合物(D)の水溶液を化合物(A)系成分に添加することによって、化合物(A)系成分に化合物(D)が作用した溶液(S)を得ることができる。化合物(D)と混合する水の使用量には制限はないが、高濃度で均一な溶液(S)を得る観点から、[水のモル数]/[化合物(D)のモル数]の比は、25/1〜300/1の範囲にあることが好ましく、50/1〜200/1の範囲にあることがより好ましく、75/1〜150/1の範囲にあることがさらに好ましい。
化合物(D)の使用量に関して、化合物(A)の反応制御および成形体(II)のガスバリア性がより良好となる観点から、[化合物(D)のモル数]/[化合物(A)のモル数]の比は、0.25/1〜30/1の範囲にあることが好ましく、0.5/1〜20/1の範囲にあることがより好ましく、0.75/1〜10/1の範囲にあることがさらに好ましい。
化合物(D)は、カルボキシル基を含有し分子量が100以下である化合物であれば特に制限されない。化合物(A)と重合体(X)の官能基(F)との反応率が高まり、成形体(II)のガスバリア性が良好となる観点から、化合物(D)として、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸などを挙げることができ、酢酸が最も好ましい。
工程(i−b)では、溶液(T)を調製する。具体的には、例えば、化合物(L)の構成成分である化合物(B)に、溶液(S)および必要に応じて有機溶媒を加え、その後、酸触媒、水および必要に応じて有機溶媒を添加する方法により溶液(T)を調製することができる。
工程(i−c)では、たとえば、化合物(A)系成分、化合物(B)、酸触媒、水、および必要に応じて有機溶媒を含む反応系中において、加水分解、縮合反応を行なわせる。この手法には、公知のゾルゲル法で用いられている手法を適用できる。これにより、化合物(A)系成分、化合物(B)、化合物(B)が部分的に加水分解したもの、化合物(B)が完全に加水分解したもの、化合物(B)が部分的に加水分解縮合したもの、および化合物(B)が完全に加水分解しその一部が縮合したものから選ばれる少なくとも1つが含まれる金属元素含有化合物の溶液を得ることができる。
このような工程で反応を行うことによって、オリゴマー(V)調製時のゲルの発生を防止でき、更に、オリゴマー(V)の反応性を制御できる。そのため、オリゴマー(V)と重合体(X)とを混合した際のゲル化を防ぐことができる。
工程(i−a)および工程(i−b)で用いる酸触媒としては、公知の酸を用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。その中でも塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が特に好ましい。酸触媒の好ましい使用量は、使用する酸の種類によって異なるが、化合物(L)の金属原子1モルに対して、1×10-5〜10モルの範囲にあることが好ましく、1×10-4〜5モルの範囲にあることがより好ましく、5×10-4〜1モルの範囲にあることがさらに好ましい。酸触媒の使用量がこの範囲にある場合、ガスバリア性が高い成形体(II)が得られる。
また、工程(i−a)および工程(i−b)で用いる水の使用量は、化合物(L)の種類によって異なるが、化合物(L)の加水分解性を有する特性基1当量に対して、0.05〜10当量の範囲であることが好ましく、0.1〜5当量の範囲であることがより好ましく、0.2〜3当量の範囲であることがさらに好ましい。水の使用量がこの範囲にある場合、得られる成形体(II)のガスバリア性が特に優れる。なお、工程(i−a)および工程(i−b)において、塩酸のように水を含有する成分を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
さらに、工程(i−a)および工程(i−b)においては、必要に応じて有機溶媒を使用してもよい。使用される有機溶媒は化合物(L)が溶解する溶媒であれば特に限定されない。たとえば、有機溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコール類が好適に用いられ、化合物(L)が含有するアルコキシ基と同種の分子構造(アルコキシ成分)を有するアルコールがより好適に用いられる。具体的には、テトラメトキシシランに対してはメタノールが好ましく、テトラエトキシシランに対してはエタノールが好ましい。有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、化合物(L)の濃度が1〜90重量%、より好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは10〜60重量%となる量であることが好ましい。
工程(i−a)、工程(i−b)および工程(i−c)において、反応系中において化合物(L)の加水分解、縮合を行う際に、反応系の温度は必ずしも限定されるものではないが、通常2〜100℃の範囲であり、好ましくは4〜60℃の範囲であり、さらに好ましくは6〜50℃の範囲である。反応時間は酸触媒の量、種類等の反応条件に応じて相違するが、通常0.01〜60時間の範囲であり、好ましくは0.1〜12時間の範囲であり、より好ましくは0.1〜6時間の範囲である。また、反応は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの各種気体の雰囲気下で行なうことができる。
工程(i−d)は、工程(i−c)で得られたオリゴマー(V)を含む溶液(T)と、カルボン酸含有重合体(=重合体(X))と混合して溶液(U)を調製する工程である。溶液(U)は、溶液(T)、カルボン酸含有重合体、ならびに必要に応じて水および有機溶剤を用いて調製することができる。たとえば、カルボン酸含有重合体を溶解させた溶液に、溶液(T)を添加して混合する方法を採用できる。また、溶液(T)に、カルボン酸含有重合体を水または有機溶媒に溶解させた溶液を添加して混合する方法も採用できる。いずれの方法においても、添加する溶液(T)またはカルボン酸含有重合体を溶解させた溶液は、一度に添加しても良いし、分割して添加しても良い。
工程(i−d)におけるカルボン酸含有重合体を溶解させた溶液は以下の方法により調整できる。使用する溶媒は、カルボン酸含有重合体の種類に応じて選択すればよい。たとえば、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などの水溶性の重合体の場合には、水が好適である。イソブチレン−無水マレイン酸共重合体やスチレン−無水マレイン酸共重合体などの重合体の場合には、アンモニア、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ性物質を含有する水が好適である。また、カルボン酸含有重合体の溶解の妨げにならない限り、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメトキシエタンなどを併用することも可能である。
溶液(U)に含まれるカルボン酸含有重合体においては、官能基(F)に含まれる−COO−基の一部(たとえば0.1〜10モル%)が1価のイオンによって中和されていてもよい。1価イオンによる官能基(F)の中和度は、得られる成形体(II)の透明性が良好となる観点から、0.5〜5モル%の範囲にあることがより好ましく、0.7〜3モル%の範囲にあることがさらに好ましい。1価のイオンとしては、たとえば、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどが挙げられ、アンモニウムイオンが好ましい。
溶液(U)の固形分濃度は、溶液(U)の保存安定性、および溶液(U)の基材に対する塗工性の観点から、3重量%〜20重量%の範囲にあることが好ましく、4重量%〜15重量%の範囲にあることがより好ましく、5重量%〜12重量%の範囲にあることがさらに好ましい。
溶液(U)の保存安定性、および得られる成形体(II)のガスバリア性の観点から、溶液(U)のpHは1.0〜7.0の範囲にあることが好ましく、1.0〜6.0の範囲にあることがより好ましく、1.5〜4.0の範囲にあることがさらに好ましい。
溶液(U)のpHは、公知の方法で調整でき、たとえば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、酪酸、硫酸アンモニウム等の酸性化合物や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、ピリジン、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物を添加することによって調整できる。このとき、溶液中に1価の陽イオンをもたらす塩基性化合物を用いると、カルボン酸含有重合体のカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基の一部を1価のイオンで中和することができるという効果が得られる。
工程(i−e)について説明する。工程(i−d)で調製される溶液(U)は、時間の経過とともに状態が変化し、最終的にはゲル状の組成物となる。溶液(U)がゲル状になるまでの時間は、溶液(U)の組成に依存する。基材に溶液(U)を安定的に塗工するためには、溶液(U)は、長時間にわたってその粘度が安定し、その後、徐々に粘度上昇するようなものであることが好ましい。溶液(U)は、化合物(L)系成分の全量を添加した時を基準として、25℃で2日間静置した後においても、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計:60rpm)で測定した粘度が1N・s/m2以下(より好ましくは0.5N・s/m2以下で、特に好ましくは0.2N・s/m2以下)となるように組成を調整することが好ましい。また、溶液(U)は、25℃で10日間静置した後においても、その粘度が1N・s/m2以下(より好ましくは0.1N・s/m2以下で、特に好ましくは0.05N・s/m2以下)となるように組成を調整することがより好ましい。また、溶液(U)は、50℃で10日間静置した後においても、その粘度が1N・s/m2以下(より好ましくは0.1N・s/m2以下で、特に好ましくは0.05N・s/m2以下)となるように組成を調整することがさらに好ましい。溶液(U)の粘度が上記の範囲にある場合、貯蔵安定性に優れるとともに、得られる成形体(II)のガスバリア性がより良好になることが多い。
溶液(U)の粘度が上記範囲内になるように調整するには、例えば、固形分の濃度を調整する、pHを調整する、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、ベントナイト、トラガカントゴム、ステアリン酸塩、アルギン酸塩、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの粘度調節剤を添加するといった方法を用いることができる。
また、基材への溶液(U)の塗工を容易にするために、溶液(U)の安定性が阻害されない範囲で、溶液(U)に均一に混合することができる有機溶剤を添加してもよい。添加可能な有機溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメトキシエタンなどが挙げられる。
また、溶液(U)は、所望により、本発明の効果を損なわない範囲内において、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩のような無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩のような有機酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナートのようなアセチルアセトナート金属錯体、チタノセンなどのシクロペンタジエニル金属錯体、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物、架橋剤、上述したアミノ基を二つ以上含む化合物(P)、上述した水酸基を二つ以上含む化合物(Q)、及びそれ以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等を含んでいてもよい。また、溶液(U)は、金属酸化物の微粉末やシリカ微粉末などを含んでいてもよい。
工程(i−d)で調製された溶液(U)は、工程(i−e)において基材の少なくとも一方の面に塗工される。溶液(U)を塗工する前に、基材の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材の表面に公知の接着剤を塗布してもよい。溶液(U)を基材に塗工する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。好ましい方法としては、たとえば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
工程(i−e)で溶液(U)を基材上に塗工した後、溶液(U)に含まれる溶媒を除去することによって、イオン化工程前の成形体(以下、「成形体(A)」という場合がある)が得られる。溶媒の除去の方法は特に制限がなく、公知の方法を適用できる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法などの方法を単独で、または組み合わせて適用できる。乾燥温度は、基材の流動開始温度よりも15〜20℃以上低く、かつカルボン酸含有重合体の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低い温度であれば特に制限されない。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。
本発明の成形体(II)では、ガスバリア層の表面に、化合物(L)の加水分解性縮合物からなるスキン層が形成されていることが好ましい。また、前記したように、スキン層が厚くなりすぎることは、成形体(II)の透明性が低下するために好ましくない。適度の厚さを有するスキン層を形成する方法について、以下に記載する。本発明者らが鋭意検討した結果によれば、スキン層の形成の有無、およびスキン層の形成の状態は、化合物(L)の加水分解性縮合物の反応度、化合物(L)の組成、溶液(U)に使用されている溶媒、溶液(U)を基材に塗工した後の溶液(U)の乾燥される速度などに依存する。例えば、ガスバリア層表面に対する水の接触角を測定し、接触角が前記した所定の範囲より小さい場合には、工程(i−a)、工程(i−c)の反応時間を長くすることで、接触角を大きくすること(すなわち適切なスキン層を形成すること)が可能である。逆に接触角が前記した所定の範囲より大きい場合には、工程(i−a)、工程(i−c)の反応時間を短くすることによって、接触角を小さくすることが可能である。
工程(ii)によって、上記の工程によって得られる成形体(A)を2価以上の金属イオンを含む溶液(以下、「溶液(IW)」という場合がある)に接触させること(イオン化工程)によって、イオン化後の成形体(以下、「成形体(B)」という場合がある)が得られる。なお、イオン化工程は、本発明の効果を損なわない限り、どのような段階で行ってもよい。たとえば、イオン化工程は、包装材料の形態に加工する前あるいは加工した後に行ってもよいし、さらに包装材料中に内容物を充填して密封した後に行ってもよい。
溶液(IW)は、溶解によって2価以上の金属イオンを放出する化合物(多価金属化合物)を、溶媒に溶解させることによって調製できる。溶液(IW)を調製する際に使用する溶媒としては、水を使用することが望ましいが、水と混和しうる有機溶媒と水との混合物であってもよい。そのような有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメトキシエタン等の有機溶媒を挙げることができる。
多価金属化合物としては、本発明の成形体(II)に関して例示した金属イオン(すなわち2価以上の金属イオン)を放出する化合物を用いることができる。たとえば、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシム、酢酸鉄(II)、塩化鉄(II)、酢酸鉄(III)、塩化鉄(III)、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸銅(II)、酢酸銅(III)、酢酸鉛、酢酸水銀(II)、酢酸バリウム、酢酸ジルコニウム、塩化バリウム、硫酸バリウム、硫酸ニッケル、硫酸鉛、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン(KAl(SO4)2)、硫酸チタン(IV)などを用いることができる。多価金属化合物は、1種類のみを用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。好ましい多価金属化合物としては、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛が挙げられる。なお、これらの多価金属化合物は、水和物の形態で用いてもよい。
溶液(IW)における多価金属化合物の濃度は、特に制限されないが、好ましくは5×10-4重量%〜50重量%の範囲にあり、より好ましくは1×10-2重量%〜30重量%の範囲にあり、さらに好ましくは1重量%〜20重量%の範囲にある。
溶液(IW)に成形体(A)を接触させる際において、溶液(IW)の温度は、特に制限されないが、温度が高いほどカルボキシル基含有重合体のイオン化速度が速い。その温度は、たとえば30〜100℃の範囲にあり、好ましくは40℃〜90℃の範囲にあり、さらに好ましくは50℃〜85℃の範囲にある。
溶液(IW)に成形体(A)を接触させた後、その成形体に残留した溶媒を除去することが望ましい。溶媒の除去の方法は、特に制限がなく、公知の方法を適用できる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法といった乾燥法を単独で、または2種以上を組み合わせて適用できる。溶媒の除去を行う温度は、基材の流動開始温度よりも15〜20℃以上低く、かつカルボン酸含有重合体の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低い温度であれば特に制限されない。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。
また、成形体(II)の表面の外観を損なわないためには、溶媒の除去を行う前または後に、成形体の表面に付着した過剰の多価金属化合物を除去することが好ましい。多価金属化合物を除去する方法としては、多価金属化合物が溶解していく溶剤を用いた洗浄が好ましい。多価金属化合物が溶解していく溶剤としては、溶液(IW)に用いることができる溶媒を用いることができ、溶液(IW)の溶媒と同一のものを用いることが好ましい。
本発明の製造方法では、工程(i)ののちであって工程(ii)の前および/または後に、工程(i)で形成された層を50〜240℃の温度で熱処理する工程をさらに含んでもよい。すなわち、成形体(A)または(B)に対して熱処理を施してもよい。熱処理は、塗工された溶液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後であれば、どの段階で行ってもよいが、イオン化工程を行う前の成形体(すなわち成形体(A))を熱処理することによって、表面の外観が良好な成形体(II)が得られる。熱処理の温度は、基材の流動開始温度よりも15〜20℃以上低く、かつカルボン酸含有重合体の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低い温度であれば特に制限されない。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下などで実施することができる。
また、本発明の製造方法では、成形体(A)または(B)に、紫外線を照射してもよい。紫外線照射は、塗工された溶液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後であれば、いつ行ってもよい。その方法は、特に限定されず、公知の方法を適用できる。照射する紫外線の波長は、170〜250nmの範囲にあることが好ましく、170〜190nmの範囲及び/又は230〜250nmの範囲にあることがより好ましい。また、紫外線照射に代えて、電子線やγ線などの放射線の照射を行ってもよい。
熱処理と紫外線照射は、どちらか一方のみを行ってもよいし、両者を併用してもよい。熱処理及び/又は紫外線照射を行うことによって、積層体のガスバリア性能がより高度に発現する場合がある。
基材とガスバリア層との間に接着層(H)を配置するために、溶液(U)の塗工前に、基材の表面に処理(アンカーコーティング剤による処理、または接着剤の塗布)を施してもよい。その場合、工程(i)(溶液(U)の塗工)の後であって上記熱処理および工程(ii)(イオン化工程)の前に、溶液(U)が塗工された基材を、比較的低温下に長時間放置する熟成処理を行うことが好ましい。熟成処理の温度は、30〜100℃の範囲にあることが好ましく、30〜80℃の範囲にあることがより好ましく、30〜60℃の範囲にあることがさらに好ましい。熟成処理の時間は、0.5〜10日の範囲にあることが好ましく、1〜7日の範囲にあることがより好ましく、1〜5日の範囲にあることがさらに好ましい。このような熟成処理を行うことによって、基材とガスバリア層との間の接着力がより強固となる。この熟成処理ののちに、さらに上記熱処理を行うことが好ましい。
本発明の成形体は、ガスバリア性およびガソリンバリア性などのバリア性に優れる。本発明の成形体は、飲料、調味料、洗剤、医療用液状物、自動車用液状物、工業用液状物などの液状物が接触する成形体に好ましく用いられる。本発明の成形体は、飲料や調味料などの食品用のボトル、自動車用のガソリンタンク、ガソリンタンク周辺の部材として特に好ましく用いられる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。なお、以下の実施例において成形体の層構成を表記する際に、物質名のみを表記し、「層」の表記を省略することがある。
[成形体の作製および評価]
以下で述べる成形体を作製して評価した。評価は、以下の(1)〜(6)の方法で行った。
(1)酸素透過度の測定
実施例1〜16および比較例1〜7のPETボトル(容積500mL、表面積0.041m2、重量35g)に水を充填した後、キャップを閉め、20℃で相対湿度が65%RHの雰囲気下で1ヶ月間保管し、ボトルの調湿を行った。1ヶ月後、ボトルから水を抜き取り、以下の方法で酸素透過度を測定した。
まず、キャリアガス用の金属パイプ2本が接続された金属治具をボトルの口部にセットし、エポキシ接着剤を使用して、金属治具とボトルとの隙間からガスが漏れないように金属治具をボトル口部に固定した。次に、金属パイプの反対の末端を酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)に接続した。つまり、キャリアガスは、金属パイプの一方からPETボトル内に放出された後、ボトル内を通り、その後、もう一方の金属パイプから酸素透過量測定装置の酸素ガスセンサーに流れ込む。
続いて、金属パイプが取り付けられたボトルの周囲を袋で覆い、その袋を2本の金属パイプに紐で固定した。袋は、ポリエステル層/接着層/EVOH層/接着層/PO層という積層構造を有するラミネートフィルムをヒートシールすることによって作製した。次に、袋と金属パイプとの隙間をエポキシ樹脂で埋めることによって気密性を高めた。次に、袋の1ヶ所に穴を開け、ガスを供給するためのパイプをその穴に入れ、袋とパイプとの間から外気が流入しないように粘着テープを使用して袋とパイプとを固定した。
続いて、2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを、キャリアガスとして、上記の袋およびボトル内にパイプおよび金属パイプを通して流した。袋の中に流入したガスのうち、一部はボトルを透過してボトルの内部に流入し、他の一部は袋を透過して外部へ流出し、他の一部は2ヶ所の接続部分から外部へ流出した。キャリアガス中に含まれる酸素ガスはキャリアガスによってセンサー部に運ばれ、その酸素濃度が測定された。酸素濃度が一定値になるまで、上記の袋内およびPETボトル内にキャリアガスを流しつづけた。そして、酸素濃度が一定となった時点の酸素濃度を、酸素透過度のゼロ点として設定した。
その後、上記袋内に流していたキャリアガスを調湿した酸素ガスに切り替えた。つまりPETボトルの内側には窒素ガスが流れ、PETボトルの外側には酸素ガスが流れている状態にした。PETボトルの外側から内側へ透過した酸素ガスは、パウチの内部を流れているキャリアガスによって酸素ガスセンサーに運ばれ、酸素濃度が測定された。この時に測定された酸素濃度から、酸素透過度(単位:cm3/(ボトル・day・atm))を算出した。
測定は、温度20℃、湿度65%RH、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件で行った。キャリアガスとしては、2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
(2)屈曲試験後の酸素透過度
実施例1〜16および比較例1〜7のPETボトル(容積500mL、表面積0.041m2、重量35g)に水を充填した後、1.5mの高さから5回落下させた。このようにして、PETボトルを屈曲させる屈曲試験を行った。続いて、屈曲試験後のボトルから水を抜き出した。このようにして得られた屈曲試験後のボトルの酸素透過度について、上述の測定と同様の方法および条件によって酸素透過度を測定した。
(3)ガソリンバリア性
実施例17〜32および比較例8〜14の多層容器の底部を切り抜き、その底部を、モデルガソリン20mLを入れたアルミ製カップ(直径6cm、深さ2.5cm)の口に取り付けることによって測定用のサンプルを得た。モデルガソリンには、トルエン(45重量%)、イソオクタン(45重量%)、およびエタノール(10重量%)の混合液を用いた。
サンプルについて、初期の重量測定を行なった後、防爆型恒温恒湿槽(40℃/65%RH)に14日間保管した後に再度重量測定を行った。実施例および比較例のそれぞれについて6つのサンプルを測定し、重量減少の平均値を求めた。得られた重量減少の平均値を、ガソリンの透過量とした。
(4)屈曲試験後のガソリンバリア性
実施例17〜32および比較例8〜14の多層容器を1.5mの高さから5回落下させて屈曲させる屈曲試験を行った。このようにして得られた屈曲後の多層容器について、上述の測定と同様の方法および条件によってガソリンの透過量を求めた。
(5)金属イオンによるカルボキシル基の中和度(イオン化度)
[FT−IRによる検量線(I)の作成]
数平均分子量150,000のポリアクリル酸を蒸留水に溶解し、所定量の水酸化ナトリウムでカルボキシル基を中和した。得られたポリアクリル酸の中和物の水溶液を、基材上に、イオン化度の測定の対象となる成形体のガスバリア層と同じ厚さになるようにコートし、乾燥させた。基材には、2液型のアンカーコート剤(三井武田ケミカル株式会社製、タケラック626(商品名)およびタケネートA50(商品名)、以下「AC」と略記することがある)を表面にコートした延伸ポリアミドフィルム(ユニチカ株式会社製、エンブレム ON−BC(商品名)、厚さ15μm、以下「OPA」と略記することがある)を用いた。このようにして、カルボキシル基の中和度が、0、25、50、75、80、90モル%の標準サンプル[積層体(ポリアクリル酸の中和物からなる層/AC/OPA)]を作製した。これらのサンプルについて、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer製、Spectrum One)を用いて、ATR(全反射測定)のモードで、赤外吸収スペクトルを測定した。そして、ポリアクリル酸の中和物からなる層に含まれるC=O伸縮振動に対応する2つのピーク、すなわち、1600cm-1〜1850cm-1の範囲に観察されるピークと1500cm-1〜1600cm-1の範囲に観察されるピークとについて、吸光度の最大値の比を算出した。そして、算出した比と、各標準サンプルのイオン化度とを用いて検量線(I)を作成した。
基材として延伸ポリアミドフィルム(OPA)を用いた積層体について、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer製、Spectrum One)を用いて、ATR(全反射測定)のモードで、ガスバリア層に含まれるC=O伸縮振動のピークを観察した。イオン化前のカルボン酸含有重合体のカルボキシル基のC=O伸縮振動に帰属されるピークは、1600cm-1〜1850cm-1の範囲に観察された。また、イオン化された後のカルボキシル基のC=O伸縮振動は1500cm-1〜1600cm-1の範囲に観察された。そして、それぞれの範囲における最大の吸光度からその比を算出し、その比と上記検量線1とを用いてイオン化度を求めた。
[蛍光X線による検量線2の作成]
前述したOPAを基材として用いた積層体について、FT−IRの測定よりイオン化度の異なる標準サンプルを作製した。具体的には、イオン化度(イオン:カルシウムイオン)が0〜100モル%間で約10モル%ずつ異なる11種類の標準サンプルを作製した。各々のサンプルについて、波長分散型蛍光X線装置(株式会社リガク製、ZSXminiII)を用いて、カルシウム元素の蛍光X線強度を測定し、予めFT−IRで測定したイオン化度から検量線2を作成した。
[蛍光X線によるイオン化度の測定]
得られた検量線2を用いて、ガスバリア層中のカルボキシル基の、カルシウムイオンによるイオン度を算出した。
(6)加水分解縮合物および重合体(X)の重量
上述した方法によって、化合物(L)に由来する無機成分の重量、および、化合物(L)に由来する有機成分の重量と重合体(X)に由来する有機成分の重量との合計を算出した。
以下に、実施例および比較例の成形体の作製に用いた混合液(U)の調製方法について示す。
<混合液(U1)>
数平均分子量150,000のポリアクリル酸(PAA)を蒸留水で溶解し、水溶液中の固形分濃度が13重量%であるPAA水溶液を得た。続いて、このPAA水溶液に、13%アンモニア水溶液を加え、PAAのカルボキシル基の1モル%を中和して、PAAの部分中和水溶液を得た。
また、酢酸60重量部と蒸留水1800重量部を混合し、この酢酸水溶液にアルミニウムイソプロポキシド(AIP)204重量部(AIP/酢酸/蒸留水=1/1/100(モル比))を撹拌しながら加え、その後80℃で1時間加熱することで濃度が9.88重量%のAIP水溶液(S1)を得た。
続いて、Al/Siのモル比が1.2/98.8、[テトラメトキシシラン(TMOS)およびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が30.2/69.8となるように混合液(U1)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%のAIP水溶液(S1)を8.5重量部加えた。続いて、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部を加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T1)を得た。この混合液(T1)を、蒸留水567重量部およびメタノール283重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)354重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U1)を得た。
<混合液(U2)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が1.9/98.1となるようにした以外は混合液(U1)と同様の仕込み比で混合液(U2)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S2)を13.2重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T2)を得た。次に、混合液(T1)の代わりに混合液(T2)を用いたことを除いて、混合液(U1)の調製時と同様の方法によって、固形分濃度が5重量%の混合液(U2)を得た。
<混合液(U3)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が2.8/97.2となるようにした以外は混合液(U1)と同様の仕込み比で混合液(U3)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S3)を19.8重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T3)を得た。次に、混合液(T1)の代わりに混合液(T3)を用いたことを除いて、混合液(U1)の調製時と同様の方法によって、固形分濃度が5重量%の混合液(U3)を得た。
<混合液(U4)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が30.1/69.9、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が25.5/74.5となるように混合液(U4)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S4)を293重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T4)を得た。続いて、得られた混合液(T4)を蒸留水850重量部、メタノール405重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)607重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U4)を得た。
<混合液(U5)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が0.1/99.9、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が80.0/20.0となるように混合液(U5)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S5)を0.7重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T5)を得た。続いて、混合液(T5)を、蒸留水212重量部およびメタノール131重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物の水溶液(濃度13重量%)38重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U5)を得た。
<混合液(U6)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が3.0/97.0、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が20.0/80.0となるように混合液(U6)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S6)を20.8重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T6)を得た。続いて、混合液(T6)を、蒸留水868重量部およびメタノール412重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)623重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U6)を得た。
<混合液(U7)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が3.0/97.0、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が80.0/20.0となるように混合液(U7)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S7)を21.0重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T7)を得た。続いて、混合液(T7)を、蒸留水214重量部およびメタノール132重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)39重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U7)を得た。
<混合液(U8)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が3.0/97.0、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が70.0/30.0となるように混合液(U8)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S8)を21.1重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T8)を得た。続いて、混合液(T8)を、蒸留水245重量部およびメタノール145重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)67重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U8)を得た。
<混合液(U9)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が2.9/97.1、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が10.2/89.8となるように混合液(U9)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S9)を20.3重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T9)を得た。続いて、混合液(T9)を、蒸留水1700重量部およびメタノール769重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)1366重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U9)を得た。
<混合液(U10)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。そして、Al/Siのモル比が3.0/97.0、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が90.2/9.8となるように混合液(U10)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S10)を21.3重量部加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T10)を得た。続いて、混合液(T10)を、蒸留水189重量部およびメタノール121重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)17重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U10)を得た。
<混合液(U11)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOS/γ−グリシドキシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMOS)のモル比が99.5/0.5、Al/Siのモル比が2.8/97.2、[TMOS、AIPおよびGPTMOSに由来する無機成分]/[GPTMOSの有機成分とPAAの部分中和物]の重量比が30.5/69.5となるように混合液(U11)を調製した。具体的には、まず、TMOS49.6重量部、GPTMOS0.4重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S11)を19.6重量部加えた。さらに、TMOSおよびGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T11)を得た。続いて、混合液(T11)を、蒸留水566重量部およびメタノール283重量部で希釈した後、攪拌しながら、PAAの部分中和物の水溶液(濃度13重量%)352重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U11)を得た。
<混合液(U12)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOS/GPTMOSのモル比が80.0/20.0、Al/Siのモル比が3.1/96.9となるようにした以外は混合液(U11)と同様の仕込み比で混合液(U12)を得た。具体的には、まず、TMOS36.0重量部、GPTMOS14.0重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S12)を19.8重量部加えた。さらに、TMOSおよびGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.0重量部と0.1Nの塩酸7.4重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T12)を得た。続いて、混合液(T12)を、蒸留水520重量部およびメタノール302重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)267重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U12)を得た。
<混合液(U13)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOS/GPTMOSのモル比が89.9/10.1、Al/Siのモル比が3.1/96.9、[TMOS、AIPおよびGPTMOSに由来する無機成分]/[GPTMOSの有機成分とPAAの部分中和物]の重量比が31.5/68.5となるように混合液(U13)を調製した。具体的には、まず、TMOS42.6重量部、GPTMOS7.4重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S13)を20.6重量部加えた。さらに、TMOSおよびGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.2重量部と0.1Nの塩酸7.8重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T13)を得た。続いて、混合液(T13)を、蒸留水542重量部およびメタノール302重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物の水溶液(濃度13重量%)293重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U13)を得た。
<混合液(U14)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOSとGPTMOSのモル比が98.0/2.0となるようにした以外は混合液(U11)と同様の仕込み比で混合液(U14)を得た。具体的には、まず、TMOS48.5重量部、GPTMOS1.5重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S14)を19.2重量部加えた。さらに、TMOSおよびGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.1重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T14)を得た。続いて、続いて、混合液(T14)を、蒸留水562重量部およびメタノール285重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)345重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U14)を得た。
<混合液(U15)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOS/GPTMOSのモル比が99.9/0.1となるようにした以外は混合液(U11)と同様の仕込み比で混合液(U15)を得た。具体的には、まず、TMOS49.9重量部、GPTMOS0.1重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S15)を21.0重量部加えた。さらに、TMOSおよびGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.1重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T15)を得た。続いて、混合液(T15)を、蒸留水567重量部およびメタノール283重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物の水溶液(濃度13重量%)354重量部を速やかに添加し、固形分濃度が5重量%の混合液(U22)を得た。
<混合液(U16)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOS/GPTMOSのモル比が70.0/30.0となるようにした以外は混合液(U11)と同様の仕込み比で混合液(U16)を得た。具体的には、まず、TMOS30.0重量部、GPTMOS20.0重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S16)を17.9重量部加えた。さらにTMOSおよびGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を2.9重量部と0.1Nの塩酸7.0重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T16)を得た。続いて、混合液(T16)を、蒸留水500重量部およびメタノール310重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)229重量部を速やかに添加し、固形分濃度5重量%の混合液(U16)を得た。
<混合液(U17)>
TMOS/GPTMOSのモル比が89.9/10.1、[TMOSとGPTMOSに由来する無機成分]/[GPTMOSの有機成分とPAAの部分中和物]の重量比が31.5/68.5となるように、混合液(T17)を調製した。具体的には、まず、TMOS46重量部およびGPTMOS8重量部を、メタノール50重量部に溶解した。これにTMOSとGPTMOSの合計に対する水の割合が1.95モル当量でpHが2以下となるよう、蒸留水3.2重量部と0.1Nの塩酸7.8重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T17)を得た。
続いて、PAAの部分中和物水溶液を混合液(U1)調製時と同様に調製した。次に、混合液(T17)を蒸留水61重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)308重量部を速やかに添加し、固形分濃度13重量%の混合液(U17)を得た。
<混合液(U18)>
固形分濃度を5重量%にした以外は、混合液(U17)と同様に混合液(U18)を得た。まず、混合液(T17)と同様の組成および方法で調製した混合液(T18)を蒸留水542重量部、メタノール293重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物の水溶液(濃度13重量%)308重量部を速やかに添加し、固形分濃度5重量%の混合液(U18)を得た。
<混合液(U19)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、TMOS、GPTMOSは加えずに[AIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が1.0/99.0となるように、混合液(U19)を調製した。具体的には、9.88重量%AIP水溶液(S19)2.1重量部に、PAAの部分中和物水溶液(濃度5重量%)100重量部を速やかに添加し、混合液(U19)を得た。
<混合液(U20)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、Al/Siのモル比が40.4/59.6、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が40.3/59.7となるように混合液(U20)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S20)461重量部を加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T20)を得た。続いて、混合液(T20)を、蒸留水567重量部およびメタノール283重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)354重量部を速やかに添加し、固形分濃度5重量%の混合液(U20)を得た。
<混合液(U21)>
PAAの部分中和物水溶液およびAIP水溶液は、混合液(U1)の調製時と同様に調製した。続いて、Al/Siのモル比が0.06/99.94、[TMOSおよびAIPに由来する無機成分]/[PAAの部分中和物]の重量比が70.0/30.0となるように混合液(U21)を調製した。具体的には、まず、TMOS50重量部をメタノール50重量部に溶解し、これに9.88重量%AIP水溶液(S21)0.4重量部を加えた。さらに、TMOSに対する水の割合が1.95モル当量となるよう蒸留水を3.3重量部と0.1Nの塩酸8.2重量部とを加え、10℃で5時間、加水分解および縮合反応を行い、混合液(T21)を得た。続いて、混合液(T21)を蒸留水243重量部、メタノール144重量部で希釈した後、攪拌しながらPAAの部分中和物水溶液(濃度13重量%)65重量部を速やかに添加し、固形分濃度5重量%の混合液(U21)を得た。
[成形体の作製方法]
実施例の成形体(成形体(II))および比較例の成形体の作製方法を、以下に示す。
<実施例1〜16>
成形体(I)として、PETボトル(容積500mL、表面積0.041m2、重量35g)を用意した。そのPETボトルの表面にプラズマ処理を行なった。次に、プラズマ処理後の表面に、2液型のアンカーコート剤(AC:三井武田ケミカル株式会社製:タケラックA−626(商品名)1重量部およびタケネートA−50(商品名)2重量部の酢酸エチル溶液)を浸漬法によって塗工した。次に、50℃で3分間乾燥することによって、厚さが約0.1μmのアンカーコート層(AC層)を設けた。
次に、アンカーコート層の表面に浸漬法によって混合液(U1)を塗工し、塗工面が均一になるまで余分に付いた液を落とした後、60℃で10分間乾燥することによって成形体(A)を得た。得られた成形体(A)を40℃で3日間エージングした。その後、成形体(A)に対し、乾燥機を用いて60℃で7日間熱処理を施した。次に、成形体(A)を、2重量%の酢酸カルシウム水溶液(60℃)に30秒浸漬し、その後、50℃で5分間乾燥を行った。このようにして、ガスバリア層(0.4μm)/AC層(0.1μm)/PETボトル/AC層(0.1μm)/ガスバリア層(0.4μm)、という構造を有する実施例1の成形体を得た。
混合液(U1)の代わりに混合液(U2)〜(U16)を用いることを除いて実施例1と同様にして、ガスバリア層(厚さ0.4μm)/AC層(厚さ0.1μm)/PETボトル/AC層(厚さ0.1μm)/ガスバリア層(厚さ0.4μm)、という構造を有する実施例2〜16の成形体を得た。
ガスバリア層の厚さが目的の厚さとならなかった場合には、メタノール/水の比が3/7である混合溶媒を用いて混合液(U)の濃度を調整し、再び塗工を行なった。
<比較例1>
実施例1〜16で成形体(I)として用いたPETボトルを、比較例1の成形体として評価を行った。
<比較例2〜6>
混合液(U1)の代わりに混合液(U17)を用いることを除いて実施例1と同様にして、ガスバリア層(1.0μm)/AC層(0.1μm)/PETボトル/AC層(0.1μm)/ガスバリア層(1.0μm)、という構造を有する比較例2の成形体を得た。混合液(U17)は濃度が高いため、実施例に比べてガスバリア層が厚くなった。
混合液(U1)の代わりに混合液(U18)〜(U21)を用いることを除いて実施例1と同様にして、ガスバリア層(0.4μm)/AC層(0.1μm)/PETボトル/AC層(0.1μm)/ガスバリア層(0.4μm)、という構造を有する比較例3〜6の成形体を得た。
ガスバリア層の厚さが目的の厚さとならなかった場合には、メタノール/水の比が3/7である混合溶媒を用いて混合液(U)の濃度を調整し、再び塗工を行なった。
<比較例7>
実施例1と同様の方法で、混合液(U14)をPETボトル表面に塗工した。しかし、その後の熱処理およびイオン化は行なわなかった。このようにして、ガスバリア層(0.4μm)/AC層(0.1μm)/PETボトル/AC層(0.1μm)/ガスバリア層(0.4μm)、という構造を有する比較例7の成形体を得た。
実施例1〜16の成形体および比較例1〜7の成形体の作製条件を表1に示す。また、それらの成形体の、中和度および屈曲試験前後の酸素透過度を表1に示す。
表1に示されるように、実施例の成形体は、屈曲試験前後において良好な酸素バリア性を示した。
実施例および比較例に示されるように、[化合物(A)に由来するM1原子のモル数]/[化合物(B)に由来するSi原子のモル数]の比が0.1/99.9〜35.0/65.0の範囲にあるときには、屈曲試験前後で酸素バリア性に優れる成形体が得られた。また、この比は、1.2/98.8〜30.0/70.0の範囲にあることが好ましく、1.9/98.1〜30.0/70.0の範囲にあることがより好ましく、2.8/97.2〜30.0/70.0の範囲にあることが更に好ましい。
また、実施例および比較例に示されるように、重合体(X)の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されていることによって、良好な酸素バリア性を示す成形体が得られた。
実施例に示されるように、[化合物(L)に由来する無機成分の重量]/[化合物(L)に由来する有機成分の重量と重合体(X)に由来する有機成分の重量との合計]の比は、20.0/80.0〜80.0/20.0の範囲にあることが好ましく、30.5/69.5〜70/30の範囲にあることがより好ましい。
実施例に示されるように、優れた酸素バリア性を得るためには、[式(II)で表される化合物に由来するSi原子のモル数]/[式(III)で表される化合物に由来するSi原子のモル数]の比が、99.5/0.5〜80/20の範囲にあることが好ましく、98.0/2.0〜89.9/10.1の範囲にあることがより好ましい。
比較例2の成形体は、酸素バリア性が比較的良好であった。しかし、これは、比較例2のガスバリア層の合計が2μmと厚いためである。ガスバリア層が厚い比較例2では屈曲に対するガスバリア層の耐久性が低く、屈曲試験によって酸素バリア性が大きく低下した。一方、ガスバリア層の厚さが実施例と同じである比較例3〜7では、酸素バリア性が低かった。
<実施例17〜32>
まず、成形体(I)として多層容器を作製した。具体的には、内側HDPE層(厚さ435μm)/AD層(厚さ50μm)/EVOH層(厚さ50μm)/AD層(厚さ50μm)/外側HDPE層(厚さ1890μm)、という5層構造を有する多層容器(内容積50cm3)を、共押出しブロー成形によって作製した。EVOHには、エチレン含量32モル%、けん化度99.6%、MI=3.0g/10分(190℃、2169g加重)のものを用いた。高密度ポリエチレン(HDPE)には、三井石油化学製の「HZ8200B」(MI=0.01g/10分(190℃、2160g加重)、密度0.96g/cm3)を用いた。接着性樹脂層(AD層)には、三井石油化学製「アドマーGT4」(無水マレイン酸変性ポリエチレン、MI=0.2g/10分(190℃、2160g加重))を用いた。
次に、多層容器の表面にプラズマ処理を行なった。次に、プラズマ処理後の表面に、2液型のアンカーコート剤(AC:三井武田ケミカル株式会社製:タケラックA−626(商品名)1重量部およびタケネートA−50(商品名)2重量部の酢酸エチル溶液)を浸漬法によって塗工した。次に、多層容器を50℃で3分間乾燥することによって、厚さが約0.1μmのアンカーコート層(AC層)を設けた。次に、浸漬法によって混合液(U1)をAC層の表面に塗工した後、60℃で10分間乾燥することによって成形体(A)を得た。次に、成形体(A)を40℃で3日間エージングした。次に、成形体(A)に対して、乾燥機を用いて60℃で7日間熱処理を施した。次に、成形体(A)を、2重量%の酢酸カルシウム水溶液(60℃)に30秒浸漬し、その後、50℃で5分間乾燥を行った。このようにして、ガスバリア層(厚さ0.4μm)/AC層(厚さ0.1μm)/多層容器/AC層(厚さ0.1μm)/ガスバリア層(厚さ0.4μm)、という構造を有する実施例17の成形体を得た。
混合液(U1)の代わりに混合液(U2)〜(U16)を用いることを除いて実施例17と同様にして、ガスバリア層(厚さ0.4μm)/AC層(厚さ0.1μm)/多層容器/AC層(厚さ0.1μm)/ガスバリア層(厚さ0.4μm)、という構造を有する実施例18〜32の成形体を得た。
ガスバリア層の厚さが目的の厚さとならなかった場合には、メタノール/水の比が3/7である混合溶媒を用いて混合液(U)の濃度を調整し、再び塗工を行なった。
<比較例8>
実施例17〜32で成形体(I)として用いた多層容器を、比較例8の成形体として評価した。
<比較例9〜13>
混合液(U1)の代わりに混合液(U17)を用いることを除いて実施例17と同様にして、ガスバリア層(厚さ1.0μm)/AC層(厚さ0.1μm)/多層容器/AC層(厚さ0.1μm)/ガスバリア層(厚さ1.0μm)、という構造を有する比較例9の成形体を得た。混合液(U17)は濃度が高いため、実施例に比べてガスバリア層が厚くなった。
混合液(U1)の代わりに混合液(U18)〜(U21)を用いることを除いて実施例17と同様にして、ガスバリア層(厚さ0.4μm)/AC層(厚さ0.1μm)/多層容器/AC層(厚さ0.1μm)/ガスバリア層(厚さ0.4μm)、という構造を有する比較例10〜13の成形体を得た。
ガスバリア層の厚さが目的の厚さとならなかった場合には、メタノール/水の比が3/7である混合溶媒を用いて混合液(U)の濃度を調整し、再び塗工を行なった。
<比較例14>
実施例17と同様の方法で、混合液(U14)をHDPE(厚さ1000μm)の表面に塗工した。しかし、その後の熱処理およびイオン化は行なわなかった。このようにして、ガスバリア層(厚さ0.4μm)/AC層(厚さ0.1μm)/多層容器/AC層(厚さ0.1μm)/ガスバリア層(厚さ0.4μm)、という構造を有する比較例14の成形体を得た。
ガスバリア層の厚さが目的の厚さとならなかった場合には、メタノール/水の比が3/7である混合溶媒を用いて混合液(U)の濃度を調整し、再び塗工を行なった。
実施例17〜32の成形体および比較例8〜14の成形体の作製条件を表1に示す。また、それらの成形体の、中和度および屈曲試験前後のガソリン透過量を表2に示す。
表2に示されるように、実施例の成形体は、屈曲試験前後において良好なガソリンバリア性を示した。
実施例および比較例に示されるように、[化合物(A)に由来するM1原子のモル数]/[化合物(B)に由来するSi原子のモル数]の比が0.1/99.9〜35.0/65.0の範囲にあるときには、屈曲試験前後でガソリンバリア性が優れる成形体(II)が得られた。また、この比は、1.2/98.8〜30.0/70.0の範囲にあることが好ましく、1.9/98.1〜30.0/70.0の範囲にあることがより好ましく、2.8/97.2〜30.0/70.0の範囲にあることが更に好ましい。
また、実施例および比較例に示されるように、重合体(X)の官能基に含まれる−COO−基の少なくとも一部が2価以上の金属イオンで中和されていることによって、良好なガソリンバリア性を示す成形体が得られた。
実施例に示されるように、[化合物(L)に由来する無機成分の重量]/[化合物(L)に由来する有機成分の重量と重合体(X)に由来する有機成分の重量との合計]の比は、20.0/80.0〜80.0/20.0の範囲にあることが好ましく、30.5/69.5〜70/30の範囲にあることがより好ましい。
実施例に示されるように、優れガソリンバリア性を得るためには、[式(II)で表される化合物に由来するSi原子のモル数]/[式(III)で表される化合物に由来するSi原子のモル数]の比が、99.5/0.5〜80/20の範囲にあることが好ましく、98.0/2.0〜89.9/10.1の範囲にあることがより好ましい。
比較例9の成形体は、ガソリンバリア性が比較的良好であった。しかし、これは、比較例9のガスバリア層の合計が2μmと厚いためである。ガスバリア層が厚い比較例9では屈曲に対するガスバリア層の耐久性が低く、屈曲試験によってガソリンバリア性が大きく低下した。一方、ガスバリア層の厚さが実施例と同じである比較例10〜14では、ガソリンバリア性が低かった。
以上のように、所定のガスバリア層を用いた本発明の成形体(II)は、優れた特性を示した。