JP2010252679A - 新規微生物及びそれを用いた汚泥処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生活排水等の汚水を処理した際に産出される汚泥を効果的に可溶化せしめ、以て余剰汚泥の減容化に寄与し得る微生物を提供すること。
【解決手段】本発明に係る微生物は、受託番号:FERM P−21752として寄託されているChromobacterium sp. TK1 菌株である。
【選択図】図1

Description

本発明は、新規微生物及びそれを用いた汚泥処理方法に関するものであり、特に、活性汚泥法を用いた処理を行っている下水処理場や浄化槽等において、排出される余剰汚泥を効果的に処理することが出来る微生物に関するものである。
生活排水等の汚水は、そのまま(未処理のまま)排出すると周辺環境に悪影響を与える恐れがあるところから、多くの場合、下水処理場や浄化槽等の各種処理施設において適切な処理が施された後、周辺環境へ排出される。そのような汚水の処理過程において生じる、有機質の最終生成物が凝集してなる汚泥(本明細書においては、適宜「余剰汚泥」ともいう)について、近年、その取扱いが問題となっている。
具体的には、下水処理場において活性汚泥法により産出される下水余剰汚泥の排出量は、下水道の普及に伴い、年々増加し続けており、現在、下水余剰汚泥は、わが国の産業廃棄物において第一位の割合を占めている。日本下水道協会の調査によれば、2004年度に下水処理場で発生した汚泥の量は4.1億m3 以上に上り、その有効利用率は67%となっている(非特許文献1参照)。一方、有効利用に供されていない残りの約33%は焼却して埋め立て処分されているが、埋立処分地の確保が年々困難になっており、その残余年数は全国平均で6年程度とされている。その一方で、余剰汚泥、動物の糞尿や瓦礫類等の廃棄物は、資源循環としてリサイクル枠の拡大を図ることが勿論ではあるものの、汚泥の発生を効果的に抑制し得る手法も、方策として重要であると認識されている。
このような状況の下、従来より、様々な微生物を用いた廃液の処理方法等が提案されている(特許文献1乃至特許文献3参照)。しかしながら、それら特許文献においては、汚泥の発生を効果的に抑制し得る微生物、換言すれば、汚泥の減容化に寄与し得る微生物については、何ら特定されるには至っていないのである。
特開昭63-221894号公報 特許第2935619号明細書 特開2002−153897号公報
国土交通省 資源のみち委員会、"資源のみちの実現に向けて(報告書案)"、http://www.mlit,go.jp/crd/city/sewerage/gyosei/sigen7th.html
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、生活排水や工場廃液等の汚水を処理した際に産出される汚泥を効果的に可溶化せしめ、以て、余剰汚泥の減容化に寄与し得る微生物を提供することにある。
そして、本発明者等が、無菌豚の糞尿から作製した活性汚泥(活性汚泥A)と、本願出願人の施設内にある浄化槽から採取した余剰汚泥とを混合し、建浴してなる活性汚泥(活性汚泥B)について検討したところ、かかる活性汚泥Bと前述の余剰汚泥とを、11:1(重量比)の割合にて活性汚泥槽(容量:62m3 )に投入すると、一日当たり所定量の余剰汚泥を分解し得ることを見出したのである。
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、タンパク質分解酵素を産生し、汚泥の分解能を有する、クロモバクテリウム(Chromobacterium )属細菌に属するグラム陰性の菌株である。
なお、そのような本発明に従う菌株は、有利には、汚泥の濃度が25(w/v)%である浮遊性固形分に対して、37℃、3日間の培養で、10%以上減量化させる溶解能を有するものである。
また、本発明に係る菌株は、更に有利には、Chromobacterium sp. TK1 菌株(受託番号:FERM P−21752)である。
一方、本発明は、上述の如き菌株を用いることを特徴とする汚泥処理方法をも、その要旨とするものである。
このような本発明に従う菌株にあっては、タンパク質分解酵素を産生し、汚泥の分解能を有するものであるところから、例えば、従来の活性汚泥法を利用した下水処理システムに分解槽を組み込み、かかる分解槽内において、本発明の菌株を用いて余剰汚泥を分解することにより、最終的な余剰汚泥の発生量をほぼゼロにすることが可能ならしめられるのである。
本発明に係る菌株を用いた合併浄化槽の一例を示すフロー図である。 実施例において、本発明に係る菌株の接種後の経過時間と汚泥溶解率との関係を表すグラフである。 実施例において、本発明に係る菌株の接種後の経過時間とタンパク質分解酵素活性との関係を表すグラフである。 実施例において、本発明に係る菌株の接種後の経過時間と脂肪分解酵素活性との関係を表すグラフである。 実施例において、本発明に係る菌株の上清にプロテアーゼ阻害剤を添加した際のかかる阻害剤の濃度と乾燥汚泥重量比との関係を表すグラフである。
ところで、かかる本発明に従う菌株(微生物)は、無菌豚の糞尿から作製した活性汚泥(活性汚泥A)と、本願出願人の施設内にある浄化槽から採取した余剰汚泥とを混合し、建浴してなる活性汚泥(活性汚泥B)から、余剰汚泥を溶解する微生物をスクリーニングすることにより得られたものである。具体的に、本発明の菌株は、以下のようにして分離され、同定されたものである。
先ず、上述の活性汚泥B[無菌豚の糞尿から作製した活性汚泥Aと、本願出願人の施設内にある浄化槽から採取した余剰汚泥(以下、本段落においては単に余剰汚泥という)とを混合し、建浴して作製された活性汚泥]:120gと、余剰汚泥:120gとを500mL三角フラスコに採り、かかるフラスコを37℃、60rpmで1週間、振とうすることにより、振とう培養を実施した。次いで、三角フラスコ内の培養液に対して1:2(重量比)となるような量的割合の余剰汚泥を更に投入して、連続的に培養した。この操作(フラスコ内への余剰汚泥の追加投入)を1週間に1回、合計3回、繰り返した(3回連続培養)。
そのようにして得られた培養液を希釈した後、かかる希釈した培養液を、滅菌した余剰汚泥を懸濁した平面寒天培地に塗布して、培地上に37℃で培養し、コロニーの周囲にハローの確認が出来るものを分離した。そのコロニーは紫色をしており、汚泥培地上に約10%の割合で分離された為、優占菌種と考えられる。また、無菌豚の活性汚泥からは、この紫色コロニーの細菌は分離できなかった。
分離した菌株について、形態学的および生化学的/生理学的性質を調べたところ、この細菌は、20℃〜40℃の温度範囲、pHは5.0〜9.0(好ましくは7.0〜8.0)の範囲内において増殖することが出来、グラム染色、OF試験やAPI20NE試験(Biomerieux, France )等を行った結果、通性好気性で、グラム陰性桿菌:Chromobacterium violaceum との相同性が高い菌であることが判明した。分離した菌株の生化学的/生理学的性質を、下記表1に示す。
Figure 2010252679
次いで、分離した菌株について、微生物の進化系統の研究に最も有効な分子マーカーとして利用されている、16S リボソームRNA遺伝子のDNA相同性解析を行った。先ず、本菌株の16S リボソームRNA遺伝子を、PCR(Polymerase Chain Reaction )によって増幅させた。なお、かかるPCRはforward primerとして63f primer(5'-caggcctaacacatgcaagtc-3' )、reverse primerとして1387r reverse primer(5'-gggcggtgtgtacaaggc-3')、r2L primer(5'-catcgtttacggcgtggac-3' )、及びr3L primer (5'-ttgcgctcgttgcgggact-3')を用い、更に反応条件(PCRサイクル)としては、(1)96℃まで加熱し、5分間、96℃を保った後、(2)[96℃を30秒間]→[52℃を30秒間]→[68℃を1分30秒間]の加熱・冷却サイクルを30回繰り返し、更に(3)68℃を5分間という条件を採用した。このようにして得られたPCR産物を、TOPO XL PCR Cloning Kit (商品名、米国Invitrogen社製)を用いて、プラスミドベクターに連結させた。この16S リボソームRNA遺伝子を含むプラスミドを、大腸菌へ挿入し、培養したその大腸菌からプラスミドを回収した。その後、M13 forward primer、M13 reverse primerによってシーケンス反応させ、DNAシーケンサーCEQ8000 (商品名、米国Beckman Coulter 社製)にて塩基配列決定し、汚泥可溶化菌の16S リボソームRNA遺伝子のDNA塩基配列を得た。得られた塩基配列を、下記配列表において配列番号1として示す。得られた1350塩基の塩基配列をもとに、代表的なDNA相同性検索エンジンであるBLAST及びFASTA(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にてシーケンスマッチを行ったところ、下記表2に示すように、Chromobacterium violaceum strain 52 及びATCC12472 との相同性が最も高かった。更に、本菌株のDNA塩基組成を、YMC pack AQ-312 カラム(商品名、株式会社ワイエムシィ製)を用いて、HPLC法(Mesbah M., Premachandran U. and Whitman W. B.,“ Precise measurement of the G+C content of deoxyribonucleic acid by high-performance liquid chromatography.”,Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 159-167(1989) 参照)で定量したところ、G+C含量は55.9%であった。
Figure 2010252679
上述した生化学的/生理学的試験による同定、及び16S リボソームRNA遺伝子のDNA相同性が97%以下であること、更には、実施例において後述するように下水汚泥の分解能(溶解能)を有することから、分離された菌株は、Chromobacterium 属細菌(Chromobacterium violaceum 近縁)の新菌種と判断される(Brazilian National Genome Project Consortium,“The complete genome sequence of Chromobacterium violaceum reveals remarkable and exploitable bacterial adaptability”Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,100, 11660-11665 (2003)参照)。そこで、本願出願人は、この菌株をChromobacterium sp. TK1 菌株と名付けたのである。かかるChromobacterium sp. TK1 菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号:FERM P−21752として寄託されている。なお、Chromobacterium violaceum は、培養液中に紫色の色素を放出し、その色素が顔料(染料)として用いられていることが知られているが(Strong F. M.“Isolation of violacein ”Science 100, 287 (1944))(3)参照)、Chromobacterium属細菌が下水汚泥を可溶化するという報告はない。
ところで、本発明に係る菌株(Chromobacterium sp. TK1 菌株)は、優れた汚泥分解能を有するところから、汚泥処理において有利に用いられ得るものである。本発明の菌株を用いた汚泥処理方法としては、例えば図1に示すものを挙げることが出来る。
すなわち、図1は、本発明に係る菌株を用いた合併浄化槽の一例を示すフロー図であって、そこにおいて、先ず、生活排水や工場廃液等の原水(被処理水)は、調整槽に流入せしめられる。次いで、この調整槽内で平準化された原水は、曝気槽に移され、原水に含まれる有機物等は、好気性の微生物によって分解され、微生物は増殖する。次に、その微生物や未分解有機物等を含む原水は沈殿槽へと移され、底に堆積する。これを汚泥と称す。かかる堆積した汚泥は、貯留槽に移される。尚、沈殿槽に堆積した汚泥の一部は、活性汚泥として曝気槽に戻される。
そして、貯留槽に貯えられた汚泥(余剰汚泥)は、本発明に係る菌株が生存する分解槽に移され、そこにおいて、本発明の菌株の作用によって、汚泥(余剰汚泥)が効果的に分解(可溶化)せしめられるのである。本発明者等が知得したところによれば、分解槽への汚泥の搬入量を調整することによって、分解槽に搬入された全ての汚泥が分解(可溶化)された。また、本発明の菌株(Chromobacterium sp. TK1 菌株)は、20〜40℃の温度領域で効果的に増殖するものであり、上述の如き分解槽の維持は安価に、且つ容易に実践することが出来るところから、余剰汚泥の減容化や標準活性汚泥法の改良等の点において、本発明の菌株及びそれを用いた汚泥処理方法は産業上の利用が期待できるものである。
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
−汚泥溶解率の測定−
本発明に係る菌株(Chromobacterium sp. TK1 菌株)の汚泥溶解性を評価すべく、以下の実験を行った。
先ず、滅菌汚泥を準備した。具体的には、下水処理場より採取した余剰汚泥:200gを、500mL三角フラスコに採り、121℃で20分間、蒸気滅菌し、かかる滅菌後の汚泥を滅菌済みの遠沈管に移して、4℃、8000×gで遠心した。その後、上清を捨て、残った沈殿を滅菌精製水で3回洗浄した後、その重量濃度が25(w/v)%となるように調整することにより、滅菌汚泥を得た。なお、通常の下水汚泥の重量濃度は、20〜30(w/v)%である。
上述の如くして得られた滅菌汚泥に対して、LB液体培地(Tryptone:10g/L、Yeast extract :5g/L、NaCl:5g/L、pH:7.0)を用いて37℃、120rpmで16時間前培養したChromobacterium sp. TK1 菌株を接種し(最終菌量:約106 cfu/mL)、恒温振とう培養機にて37℃、60rpmで培養した。Chromobacterium sp. TK1 菌株が接種された滅菌汚泥の一部を、接種直後及び経時的に採取し、採取した滅菌汚泥中の浮遊性固形分(suspended solid :SS)の乾燥重量(以下、SS乾燥重量という)を測定した。具体的には、採取した滅菌汚泥を18000×gで10分間、遠心した後、上清を取り除いて得られた沈殿を、105℃で2日間、乾燥させ、得られた乾燥物の質量を測定して、SS乾燥重量とした。
そして、Chromobacterium sp. TK1 菌株を接種した直後の滅菌汚泥におけるSS乾燥重量[SS(0)]を基準として、下記式より汚泥溶解率(%)を算出した。汚泥溶解率と接種後の経過時間(日)との関係を示すグラフを図2として示す。
[汚泥溶解率]={[SS(0)−SS(x)]/SS(0)}×100(%)
但し、SS(x):接種からx日経過後の滅菌汚泥のSS乾燥重量である。
図2からも明らかなように、本発明に係るChromobacterium sp. TK1 菌株は、37℃での培養5日間目で約25%の汚泥溶解率を示した。また、同時に本菌株の増殖も認められたところから、Chromobacterium sp. TK1 菌株は、汚泥を溶解して、その溶解産物を炭素源及び窒素源として増殖するものと考えられる。
−Chromobacterium sp. TK1 菌株が産生する汚泥可溶化因子の検討−
Chromobacterium sp. TK1 菌株を、汚泥を懸濁した平面寒天培地に塗布して培養すると、形成したコロニーの周囲に汚泥を溶解したハローが形成される。即ち、本菌株は、菌体外に汚泥に対する可溶化因子を放出することで汚泥を溶解していると考えられる。また、本菌株をカゼイン又はスキムミルク寒天培地に塗布した場合、コロニーの周辺にハローが形成されることから、この可溶化因子はタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)であることが示唆される。
そこで、Chromobacterium sp. TK1 菌株が産生するタンパク質分解酵素の活性を、カゼインを基質とした酵素反応で生成するアミノ酸を定量する方法(Okamura Y., Inoue N. and Nikai T.,“Isolation and characterization of a novel acid proteinase, tropiase from Candida tropicalis IFO 0589”J.Med.Mycol., 48, 19-25(2007)参照)で検討したところ、図3に示すように、37℃で4日間培養した時に、最も高いタンパク質分解酵素活性を示すことが判明した。なお、図3において、酵素活性の単位(unit)は、酵素反応時間(15分)において、660nmでの吸光度を1分当たりに0.001上昇させる時の酵素活性を1unitと定義したものである。この4日間培養した上清をポリアクリルアミド電気泳動で調べた結果、明瞭なバンドが確認された。
また、Chromobacterium sp. TK1 菌株は、図4に示すように、脂肪分解酵素(リバーゼ)も産生しており、その活性は37℃で3日間培養した時に、最も高い酵素活性を示すことが判明した。なお、脂肪分解酵素活性は、リパーゼキットS(商品名、DSファーマバイオメディカル株式会社製)によって測定されたものであり、また、図4において、酵素活性の単位(unit)は、酵素反応時間(30分)において、412nmでの吸光度を1分当たりに0.001上昇させる時の酵素活性を1unitと定義したものである。
さらに、余剰汚泥を溶解する可溶化因子を調べるため、タンパク質分解酵素又は脂肪分解酵素の阻害剤を、酵素活性が最も高いChromobacterium sp. TK1 菌株の培養液上清(粗酵素液)に添加して、上述した「SS乾燥重量の測定」に従って乾燥汚泥重量比を測定した。その結果を、図5にグラフとして示す。かかる図5のグラフからも明らかなように、タンパク質分解酵素の阻害剤であるプロテアーゼインヒビターカクテル(品番:P2714 、米国Sigma 社製)(原液1mM×6種類)を0.6mMから1.2mMまで加えた汚泥のみが、段階的に汚泥重量が回復している。即ち、タンパク質分解酵素がプロテアーゼインヒビターによって阻害を受け、余剰汚泥を溶解できなかったことを示しているのである。その一方、脂肪分解酵素の阻害剤ではその現象が認められなかった。これらの結果から、汚泥可溶化因子はタンパク質分解酵素であることが判明したのである。
FERM P−21752

Claims (4)

  1. タンパク質分解酵素を産生し、汚泥の分解能を有する、クロモバクテリウム(Chromobacterium )属細菌に属するグラム陰性の菌株。
  2. 汚泥の濃度が25(w/v)%である浮遊性固形分に対して、37℃、3日間の培養で、10%以上減量化させる溶解能を有する請求項1に記載の菌株。
  3. Chromobacterium sp. TK1 菌株(受託番号:FERM P−21752)である請求項1又は請求項2に記載の菌株。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の菌株を用いることを特徴とする汚泥処理方法。
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