JP2010246440A - 硫化水素生産能が低下した酵母 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明により、硫化水素生産能が低下したアルコール飲料製造用酵母、特に硫化水素生産能が低下したビール酵母が提供される。特に、本発明により、硫化水素生産能が低下した下面ビール酵母が提供される。また、本発明により、アルコール飲料製造用酵母、特にビール酵母の硫化水素生産能を低下させる方法が提供される。特に、本発明により、下面ビール酵母の硫化水素生産能を低下させる方法が提供される。
【解決手段】ゲノム中のGLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母、特にビール酵母。特に、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母、特に前記遺伝子が破壊されたビール酵母。
【選択図】なし

Description

本発明は酵母の硫化水素生産能を低下させることに関する。特に本発明はアルコール飲料製造用酵母の硫化水素生産能を低下させることに関する。より具体的には、本発明はワイン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、シャンパン酵母、ビール酵母の硫化水素生産能を低下させることに関する。
酵母は様々な分野で利用されており、特にワイン、清酒、焼酎、ビール、発泡酒、酒税法上「ビール」または「発泡酒」に属さない、いわゆる第三のビール等のアルコール飲料の製造に有用である。アルコール飲料は一般にぶどう、麦芽、麹醗酵させた米等の種々の原料を酵母によって発酵させて製造される。アルコール飲料製造用の酵母として、例えば、ワイン製造用のワイン酵母、清酒製造用の清酒酵母、焼酎製造用の焼酎酵母、発泡性ワイン製造用のシャンパン酵母、ビール製造用のビール酵母(上面ビール酵母および下面ビール酵母を含む)等が知られている。生物学的に分類すれば、アルコール飲料製造用の酵母には、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae;S.セレビシアエ)、サッカロミセス・バヤヌス(Saccaromyces bayanus;S.バヤヌス)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus;S.パストリアヌス)が含まれる。特にビール製造に使用されるビール酵母にはS.セレビシアエおよびS.パストリアヌスが含まれる。また、ビール酵母は歴史的にビール醸造過程で発酵後に見られるビール酵母の動態により、発酵後表面付近に浮き上がる「上面ビール酵母」と発酵後凝集して沈む「下面ビール酵母」とに区別されてきたが、現在では下面ビール酵母と上面ビール酵母とは生物学的分類において異なる種であり、上面ビール酵母は主としてS.セレビシアエに分類され、下面ビール酵母はS.セレビシアエとS.バヤヌスとの交雑体であると一般に認識されており、分類学上はS.パストリアヌスに分類されている。ビール醸造においては、発酵が終了して沈降した酵母を回収して次回の発酵に使用するため、下面ビール酵母がよく利用されており実用上特に有用である。
一般に酵母を用いたアルコール飲料製造の際に含硫化合物が生成されることがある。含硫化合物の中には、醸造酒等のアルコール飲料の品質を低下させるものがある。例えば、日光臭の原因物質MBT(3-メチル-2-ブテン-1-チオール)やネギ臭の原因物質2M3MB(2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール)がそれに該当する。これらがアルコール飲料の品質を低下させることがあるが、これらの含硫化合物は発酵中に酵母により生成される硫化水素が原因で生成されると考えられている。発酵中に発生する硫化水素は、酵母が硫酸イオンを利用してメチオニンを合成する過程で副次的に生成されると考えられている。また、このとき発生する硫化水素自体も硫黄臭の原因となり、アルコール飲料の品質に好ましくない影響を与える。例えば酵母を用いてビール、発泡酒、いわゆる第三のビール等のアルコール飲料を製造する場合に、3-メチル-2-ブテン-1-チオール(MBT)や2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール(2M3MB)等の含硫化合物が製品であるアルコール飲料の品質を低下させることがしばしば問題となっている。
このような問題を解決するために、硫化物代謝に関与する酵素の遺伝子の発現を強化する方法(特許文献1〜3)、含硫アミノ酸アナログ耐性株から硫化水素生産能の低い酵母株を選抜する方法(特許文献4)、硫化水素生産能の低い酵母株を選抜するためのプライマーセット(特許文献5)等が報告されている。これらの技術は用いる酵母菌株や培地によって効果が異なり、普遍的に硫化水素産生を抑制するものとはいえない。例えば、特許文献3では、硫化水素を代謝するMET25(MET17)遺伝子を強発現させることにより産生する硫化水素量を低減できることを報告しているが、酵母菌株によってはその効果が全くでないことが報告されている(非特許文献1)。
アルコール飲料を製造する際の発酵液中の窒素源量と硫化水素産生量との関係については、発酵液中の窒素源量が少ないほど発酵中に産生される硫化水素量が多いことが報告されている(非特許文献2、3)。窒素成分量が減少すると認められると、酵母では次のような生体反応が生じると考えられている。酵母はアミノ酸(プロリン除く)やアンモニウム塩といった資化しやすい窒素源が欠乏すると、資化しにくい窒素源であるプロリン、アラントイン、尿素といった窒素源を資化するための酵素、および、これらの透過蛋白質等をコードする遺伝子群(NCR(Nitrogen Catabolite Repression)遺伝子群)の転写が活性化される。この遺伝子群の転写活性化に関与している転写活性化因子がGLN3である。この遺伝子産物の126から138のアミノ酸残基はα−へリックスモチーフであり、転写活性化に関与していると考えられている。また、この遺伝子産物の306から330のアミノ酸残基は多くの転写活性化因子に見られるジンクフィンガー(zinc finger;Znフィンガー)モチーフを有しており、NCR遺伝子群のプロモーター領域のGATAシークエンスへの結合に関与していると考えられている。さらに、510から720のアミノ酸残基は、栄養源シグナルに関与するタンパク質であるTorタンパク質との結合に関与すると考えられている(非特許文献4、5)。
実験室酵母S.セレビシアエについてはゲノム解読が完了しており、データベースも完備している(http://www.yeastgenome.org/)。GLN3遺伝子を破壊した実験室酵母株は既に報告されている(非特許文献6、7)。このデータベースからの情報に基づいて、下面ビール酵母のS.セレビシアエ型GLN3遺伝子(SC-GLN3)のヌクレオチド配列は配列番号1に記載された配列であり、GLN3タンパク質をコーディングするORF領域は配列番号1のヌクレオチド番号796から2986までであると考えられている。非特許文献6に記載されている実験室酵母のGLN3遺伝子破壊は、配列番号1のヌクレオチド番号1238から4398の領域を選択マーカー遺伝子と置換する、配列番号1のヌクレオチド番号770から4398の領域を選択マーカー遺伝子と置換する、または、配列番号1のヌクレオチド番号1238から1998を選択マーカー遺伝子と置換することによって行われている。そのような酵母ではNCR遺伝子群であるDAL1,DAL2,DAL7等の窒素源飢餓時(あるいは、資化しにくい窒素源のみである場合)の遺伝子発現誘導が生じないことが報告されている(非特許文献7)。
一方、上述したアルコール飲料製造用酵母の硫化水素産生とGLN3遺伝子との関連性についての報告はこれまでになされていない。
特開平5-192155号公報 特開平5-244955号公報 特開平7-303475号公報 特開平8-214869号公報 特開2007-319095
Applied Environmental Microbiology Vol.66, p4421-4426 (2000) American Journal of Enology and Viticulture Vol.45, p107-112 (1994) American Journal of Enology and Viticulture Vol.51, p233-248 (2000) FEMS Microbiology Reviews Vol.26, p223-238 (2002) The Journal of Biological Chemistry Vol.276, p32136-32144 (2001) Molecular and Cellular Biology Vol.11, p6216-6228 (1991) Journal of Bacteriology Vol.175, p64-73 (1993) 細胞工学 別冊 バイオ実験イラストレイテッド (7)使おう酵母 できるTwo Hybrid 秀潤社 (2003) The Journal of General and Applied Microbiology Vol.39, p289-294 (1993) Yeast Vol.19, p17-28 (2002)
本発明により、硫化水素生産能が低下した酵母、特に硫化水素生産能が低下したアルコール飲料製造用酵母が提供される。特に、本発明により、硫化水素生産能が低下したビール酵母、特に硫化水素生産能が低下した下面ビール酵母が提供される。
本発明により、酵母、特にアルコール飲料製造用酵母ビールの硫化水素生産能を低下させる方法が提供される。また本発明により、ビール酵母、特に下面ビール酵母の硫化水素生産能を低下させる方法が提供される。
本発明はゲノム中のGLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母である。本発明は、ゲノム中のGLN3遺伝子が破壊されたビール酵母、特にゲノム中のGLN3遺伝子が破壊された下面ビール酵母でもある。
さらに、本発明はゲノム中のGLN3遺伝子にGLN3遺伝子中へDNA断片が挿入された結果GLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母である。本発明は、ゲノム中のGLN3遺伝子にDNA断片が挿入された結果GLN3遺伝子が破壊されたビール酵母、特に下面ビール酵母でもある。
本発明は、アルコール飲料製造用酵母ゲノム中のGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較してアルコール飲料製造用酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。特に、本発明は、ビール酵母、特に下面ビール酵母ゲノム中のGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較してビール酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。
また本発明はアルコール飲料製造用酵母のゲノム中のGLN3遺伝子にDNA断片を挿入することによってGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較して酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。特に、本発明は、ビール酵母、特に下面ビール酵母のゲノム中のGLN3遺伝子にDNA断片を挿入することによってGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較して酵母の硫化水素生産能を低下させる方法でもある。
特に、GLN3遺伝子に挿入されるDNA断片は好ましくはGLN3の機能と無関係のDNA断片である。
また、本発明は本発明のアルコール飲料製造用酵母による醗酵工程を含む、アルコール飲料の製造方法でもある。
本発明によれば、用いる酵母菌株、培養温度、培地組成等による影響を低く抑えつつ、効果的にアルコール飲料製造用酵母の硫化水素生成能、特にビール酵母の硫化水素生成能を抑制することができる。本発明の酵母(特に下面ビール酵母)および方法は、窒素源が比較的少ない条件で酵母による醗酵を行なう場合に酵母による硫化水素生成を抑制するために特に有用である。本発明の酵母および方法は、ワイン、清酒、焼酎、発泡性ワイン、ビール、発泡酒、いわゆる第三のビール等の製造において酵母による硫化水素生成を抑制するのに有用である。
図1はS.セレビシアエ型GLN3遺伝子破壊用プラスミドpCR2-SCGLN3Δapt2の構築手順を示す。 図2はS.バヤヌス型GLN3遺伝子破壊用プラスミドpCR2-SBGLN3ΔYAP1の構築手順を示す。 図3はGLN3遺伝子破壊株および未改変株の硫化水素産生能を示す。縦軸は親株(B-1B)に対する各GLN3遺伝子破壊株の硫化水素産生量(ppb)を示し、横軸は発酵時間(時間単位)を示す。菱形(◆)はB-1Bに、黒四角(■)はΔSC-GLN3(SC-GLN3破壊株)に、黒い三角(▲)はΔSB-GLN3(SB-GLN3破壊株)に、×はΔSB-GLN3/ΔSC-GLN3(SB-GLN3,SC-GLN3二重破壊株)に対応する。
本発明により、硫化水素生成能が抑制されたアルコール飲料製造用酵母、特に硫化水素生成能が抑制されたビール酵母が提供される。特に好ましい態様において、ビール酵母は下面ビール酵母である。本明細書において「アルコール飲料製造用酵母」とは工業的または商業的にアルコール飲料製造に用いられる酵母を意味し、例えば、ワイン製造用のワイン酵母、清酒製造用の清酒酵母、焼酎製造用の焼酎酵母、発泡性ワイン製造用のシャンパン酵母、ビール製造用のビール酵母(上面ビール酵母および下面ビール酵母を含む)等が含まれる。これらのアルコール飲料製造用酵母は、実験室酵母株に比較してそれぞれのアルコール飲料製造に特に適した種々の特性を有している一方、実験室酵母株に比較して硫化水素産生能が高い酵母も存在し、その硫化水素産生能がアルコール飲料製造過程において問題となることもある。
特に、本明細書において「ビール酵母」とは、ビール、発泡酒および第三のビール等の製造に使用されることのある酵母を意味し、特に「下面ビール酵母」とは、ビールおよび発泡酒等の製造に使用されることのあるS.セレビシアエ(SC)とS.バヤヌス(SB)の自然交雑体であって、S.パストリアヌスに分類される酵母を意味する。
本発明の硫化水素生成能が抑制されたアルコール飲料製造用酵母、特にビール酵母は、酵母ゲノム中のGLN3遺伝子の機能を抑制することによって作成することができる。
上述のように、下面ビール酵母のSC-GLN3遺伝子のヌクレオチド配列が明らかになっており(配列番号1)、SC-Gln3タンパク質をコードするORF領域は配列番号1のヌクレオチド番号794からヌクレオチド番号2986までであると考えられている。ORFから翻訳されるSC-Gln3のアミノ酸配列を配列番号2に示す。さらに、下面ビール酵母のゲノム解読の結果(特許文献5)およびSC-GLN3遺伝子とのヌクレオチド配列の相同性に基づいてSB型GLN3遺伝子(SB-GLN3)のヌクレオチド配列も推定することができる。推定されたSB-GLN3のヌクレオチド配列を配列番号3に示す。SB-Gln3タンパク質をコードするORF領域は配列番号3のヌクレオチド番号582からヌクレオチド番号2771までであると考えられる。SB-Gln3の予想されたアミノ酸配列を配列番号4に示す。SB-Gln3のアミノ酸数は729であり、SC-Gln3のアミノ酸数730とほぼ同じである。実験室酵母S.セレビシアエ、他のアルコール飲料製造用酵母のGLN3遺伝子もこれらの配列情報に基づいて作製した適切なプローブを用いて得ることができる。
実験室酵母のゲノムデータベース(SGD: Saccharomyces Genome Database)によると、SC-GLN3のプロモーター領域の制御領域として、配列番号1のヌクレオチド番号595-601がDNA結合タンパク質REB1の結合領域であると考えられており、配列番号1のヌクレオチド番号652-658が転写活性化因子GCN4の結合領域と考えられている。SB-GLN3のプロモーター領域においてもGCN4の結合領域の配列はよく保存されている(配列番号3の445-451)。
GLN3遺伝子のヌクレオチド配列およびそれによってコードされるGln3タンパク質のアミノ酸配列の情報に基づいて酵母ゲノム中のGLN3遺伝子の機能を抑制することができる。そのような抑制は例えばGLN3遺伝子を破壊すること、より具体的には、例えばGLN3遺伝子の発現を転写または翻訳レベルで阻害することまたはGln3の機能を失わせることによって行なうことができる。本明細書において、GLN3遺伝子の破壊とは、GLN3遺伝子の機能をGLN3遺伝子非破壊親株のGLN3遺伝子の機能に比較して少なくとも80%以下、好ましくは60%以下、特に好ましくは40%以下まで低下させることをいう。たとえば、Gln3の標的遺伝子のプロモーターにレポーター遺伝子を接続した構築物を作製して酵母細胞に導入し、その構築物の転写量を測定することによりGLN3遺伝子が破壊されたか否かを測定することができる。
そのような遺伝子破壊は、例えば、GLN3遺伝子の全体または一部を欠失させること、GLN3遺伝子中にDNA断片を挿入すること、特にGLN3遺伝子中へGLN3の機能と無関係の核酸断片を挿入すること、GLN3遺伝子の制御領域に該領域の機能を失わせる核酸断片、たとえば遺伝子の発現制御機能を有しない核酸断片を挿入すること、発現されるタンパク質が野生型Gln3の機能を有しないようにGLN3遺伝子を改変することによって行なうことができる。遺伝子の改変は、Gln3タンパク質におけるアミノ酸の付加、欠失、置換等を生じさせるように行うことができるが、これらに限定されない。そのような改変は、例えばEMSなどの変異原処理による変異の導入などによっても行なうことができる。DNA断片のGLN3遺伝子への挿入は、ある実施態様においてはGLN3のリーディングフレームを破壊するような態様で挿入され、その結果、コードされ得るタンパク質のアミノ酸配列がGln3と著しく異なるものとなり、このタンパク質はGln3の転写因子としての活性を有しない。別の実施態様においては、DNA断片のGLN3遺伝子への挿入は、GLN3によってコードされるGln3中に天然のGln3の対応する領域とは異なるアミノ酸配列が挿入または付加され、その結果Gln3の転写因子としての活性が失われる。また、アンチセンスオリゴヌクレオチド、コサプレッション、RNAiによってGLN3遺伝子の機能を転写後抑制することによってもGLN3の機能を抑制することができる。
GLN3遺伝子の機能と無関係のDNA断片には、例えば、Gln3タンパク質が標的とする遺伝子群に対して転写因子としての機能を発現しないDNA断片が含まれ、特に、いかなるタンパク質もコードしないDNA断片および選択マーカー遺伝子DNA断片等が含まれる。GLN3遺伝子の全体または一部の欠失はGln3タンパク質が発現しない、または発現されたタンパク質がGln3タンパク質と同じ転写因子活性を有しないように行われる。実験室酵母では宿主の栄養要求性変異を相補する遺伝子、例えば、URA3遺伝子等が選択マーカー遺伝子として用いられることが多く、本発明のアルコール飲料製造用酵母においてもそのようなマーカー遺伝子を利用することができる。しかしながら、下面ビール酵母の場合のように一般に栄養要求性変異株がない場合は、薬剤に耐性を酵母に付与する遺伝子が選択マーカー遺伝子として好ましい。具体的には、酵母細胞において機能するプロモーター、たとえば酵母のアルコール脱水素酵素(ADH1)またはホスホグリセレートキナーゼ(PGK)のプロモーターの下流に接続したアミノグリコシド系抗生物質耐性遺伝子(例えばG418耐性を与える大腸菌apt2(非特許文献9)等が利用できる。選択マーカー遺伝子断片をGLN3遺伝子領域に挿入した場合は、そのマーカーを標識にしてGLN3遺伝子が破壊された酵母細胞を簡便に選択することができる。
Gln3はα-ヘリックス構造を有するZnフィンガー型の転写因子であり、α-ヘリックス領域(SC-Gln3およびSB-Gln3のアミノ酸残基番号126-138)およびZnフィンガーモチーフ領域(SC-Gln3のアミノ酸残基番号306-330、SB-Gln3のアミノ酸残基番号305-329)はGln3の転写因子としての活性に極めて重要であると考えられる。従って、GLN3遺伝子の欠失には、例えば、α−へリックスモチーフを構成する領域(SC-Gln3およびSB-Gln3のアミノ酸残基番号126-138)、Znフィンガーモチーフを構成する領域(SC-Gln3のアミノ酸残基番号306-330、SB-Gln3のアミノ酸残基番号305-329)、特にZnフィンガーモチーフ中に存在するCys残基の少なくとも一つ、栄養源シグナルに関与するTorタンパク質との結合に関与すると考えられる領域(SC−Gln3のアミノ酸残基番号510-720、SB-Gln3のアミノ酸残基番号509-719)における欠失が含まれる。GLN3遺伝子の改変には、例えば、上記α−へリックスモチーフ、Znフィンガーモチーフおよび栄養源シグナルに関与するTorタンパク質との結合に関与すると考えられる領域中のアミノ酸を非保存的に改変する改変が含まれる。特にZnフィンガーモチーフ領域内に存在するCysがCysまたはHis以外のアミノ酸へ置換されるような改変はGln3の転写因子としての活性を失わせるであろう。
非保存的改変には、例えば、一つのアミノ酸を異なる分類の別のアミノ酸に対して置換することが含まれる(例えば、グリシン、セリン、スレオニン、シシテイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンのような極性アミノ酸とアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリンのような非極性アミノ酸との置換、グリシン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミオンのような非電荷親水性アミノ酸とアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリンのような疎水性アミノ酸との置換、又は、アルギニン、リジン、ヒスチジンのような塩基性アミノ酸とグルタミン酸またはアスパラギン酸のような酸性アミノ酸との置換、等)。このような遺伝子の改変技術は当業者にはよく知られたものである。例えば、酵母の遺伝子破壊株はゲノム挿入型形質転換の一形態として報告されており(非特許文献8)、形質転換に用いたDNAがゲノムの相同領域で相同的に組み換えを生じてゲノムへ挿入される際、挿入されたゲノム側にコードされた遺伝子が破壊される。
本発明においてはGLN3遺伝子の機能を十分に低下させることが好ましいため、ゲノム中にGLN3遺伝子のコピーが複数存在する場合、または相同遺伝子が存在する場合は、それらの少なくとも1コピー、好ましくは2コピー以上を破壊するのが好ましく、GLN3遺伝子の全コピーを破壊することが最も好ましい。GLN3遺伝子の1以上のコピーを破壊するためには、胞子分離体に対して遺伝子破壊を行なうのが有利である。例えば、下面ビール酵母においては少なくともゲノム中のSC型GLN3遺伝子の少なくとも1コピーを破壊することが好ましく、ゲノム中のSC型GLN3遺伝子およびSB型GLN3遺伝子の両方をそれぞれ1コピー以上破壊することがより好ましい。
本発明において、GLN3遺伝子を破壊することにより、同一の方法で測定した場合に、遺伝的操作をした酵母における硫化水素生産能が遺伝子破壊操作を行なわない同じ株の酵母と比較して少なくとも80%以下、好ましくは60%以下、特に好ましくは40%以下まで低下した場合にGLN3遺伝子が破壊されたと認識される。従って、本発明の、GLN3遺伝子が破壊された酵母は、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較して少なくとも80%以下、好ましくは60%以下、特に好ましくは40%以下まで硫化水素生産能が抑制されている。ある実施態様において、本発明の酵母は、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較して硫化水素生産能が10%以下にまで低下し、また別の実施態様では5%以下まで低下している。硫化水素生産能は、例えば酵母をSD培地(2%グルコース、0.67% Yeast nitrogenbase アミノ酸不含有、窒素源はアンモニウム塩)で培養し、対数増殖期の酵母菌体(細胞濃度約2〜5×107細胞/ml)を、一部は窒素源飢餓培地(2%グルコース、0.17% Yeast nitrogenbase アミノ酸不含有、硫酸アンモニウム無し)に移し、一部はSD培地に移し、更に25℃で1時間培養する。それぞれの培地を採取して炎光光度検出器を備えたガスクロマトグラフィー(GC-FPD)等で培地中に溶存している硫化水素量を測定することによって決定することが出来る。
さらに、必要であれば、ビール等のアルコール飲料醸造条件下における酵母の硫化水素産生能を測定することもできる。たとえば、ビール製造に用いられる一般的な麦汁に、初期のビール酵母濃度を2×107細胞/mlになるようにして、15℃で発酵を開始する。各時間に醗酵液を採取し、GC-FPD等で培養液中に溶存している硫化水素量を測定することができる。また、醗酵期間中及び発酵試験終了後の発酵液中におけるMBTおよび2M3MBの量をGC-FPD等により測定してもよい。ワイン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、シャンパン酵母等の他のアルコール飲料製造用酵母についても同様に硫化水素産生能を測定することができる。
下面ビール酵母の場合、例えば以下のような方法で下面ビール酵母のゲノムにおいて、SC型およびSB型GLN3遺伝子を破壊することができる。
上述のようにSC-GLN3のヌクレオチド配列は配列番号1に、SC-Gln3のアミノ酸配列は配列番号2に示され、SB-GLN3のヌクレオチド配列は配列番号3に、SB-Gln3のアミノ酸配列は配列番号4に示された通りである。これらの配列情報から分かるように、SC-GLN3遺伝子とSB-GLN3遺伝子のORF中、少なくともα−へリックスモチーフのアミノ酸配列(SC-GLN3 アミノ酸残基126-138, SB-GLN3アミノ酸残基126-138)、Znフィンガーモチーフのアミノ酸配列(SC-Gln3のアミノ酸残基306-330, SB-Gln3のアミノ酸残基305-329)は両者で完全に保存されている。これらの配列情報に基づいて適切なPCRプライマーを設計して、いずれのGLN3遺伝子もTAクローニングすることができる。たとえば、SC-GLN3のTAクローニングのためのPCRにはプライマー1(配列番号5)とプライマー2(配列番号6)を、SB-GLN3のTAクローニングのためのPCRにはプライマー3(配列番号7)および4(配列番号8)を用いることができる。
次に、クローニングされたSC-GLN3およびSB-GLN3遺伝子のORF(タンパク質のコーディング領域)にある制限酵素部位を利用して、たとえば、インビトロジェン社のゲートウェイ・ベクター変換システム(Gateway Vector Conversion System)のリーディング・フレーム・カセット(Reading Frame Cassette)を組み込んで同システムでいうデスティネーション(Destination)ベクターを作製することが出来る。次に、適切なマーカー遺伝子、例えば、上述のapt2にADH1遺伝子のプロモーターを接続したDNA断片(配列番号9)あるいは、酵母(S.セレビシアエ)の転写因子YAP1にPGK(ホスホグリレセレートキナーゼ)のプロモーターを接続したDNA断片(PPGK-YAP1、配列番号10)を挿入して同システムでいうエントリー(Entry)ベクターを作製することができる。このEntryベクターと前述のDestinationベクターとの間で前述のGatewayシステムを用いて組換えを起こさせることにより、GLN3遺伝子破壊用のプラスミドを得ることができる。PADH1-apt2 DNA断片は例えばプラスミドpYcDE-ΔG11(非特許文献9)を鋳型としたPCRを用いて得ることができ、PPGK-YAP1 DNA断片は例えばプラスミドYEp-PGKp-YAP1(非特許文献10)を鋳型としてPCR用いて得ることができる。
作製したGLN3破壊用プラスミドを鋳型として、適切なプライマー例えば上記プライマー1および2、またはプライマー3および4を用いてPCRによって増幅して得ることができる。増幅された断片で常法に従って酵母を形質転換することが出来る。酵母の形質転換は、プロトプラスト法、リチウム法、電気パルス法等の公知の方法によって行なうことができる。形質転換体の選択は導入した選択マーカー遺伝子の性質に依存して選択することができる。たとえば、選択マーカー遺伝子がapt2の場合は抗生物質G-418耐性を指標とし、YAP1の場合はセルレニン耐性を指標として形質転換体を選択することができる。
用いた遺伝子破壊用プラスミドと同じ配列を有している筈であるので、サザンハイブリダイゼーション、または、適切なプライマー、例えばSC-GLN3あるいは、SB-GLN3のDNA配列(配列番号1あるいは、配列番号3)と選択マーカーとした遺伝子の配列(配列番号9あるいは、配列番号10)を含むプライマーを用いたPCRによって増幅産物が得られることにより、所望の形質転換体が得られたことを確認することができる。
下面ビール酵母以外のアルコール飲料製造用酵母についても同様な手順でGLN3遺伝子破壊酵母を作成することができる。
このようにして作製した形質転換酵母の硫化水素生産能を測定することができる。また、MBTおよび2M3MBのような、アルコール飲料製造において発生し得る望ましくない含硫化合物についても上述したように測定することができ、本発明の酵母が好ましい特性を有することを確認することができる。例えば、本発明のある実施態様においては、SC型GLN3遺伝子、または、SC型およびSB型の両GLN3遺伝子を破壊したビール酵母株はGLN3非破壊親株に比較して硫化水素生産能が10%以下まで低下する。この実施態様においては含硫化合物であるMBTは親株の60%以下にまで低下し、2M3MBは親株の15%以下にまで低下している。本発明の硫化水素生成能が抑制されたアルコール飲料製造用酵母は、硫化水素生産能の低下が温度および培地組成等の外部環境による影響を受けにくく、安定して硫化水素産生が抑制される。
本発明の硫化水素生産能の抑制が確認された酵母はGLN3遺伝子非破壊親株と同程度またはそれ以上に良好な醸造特性を有しており、酵母の一般的な利用法に従って親株と同様に使用することができる。例えば、ワイン、清酒、焼酎、発泡性ワイン、ビール、発泡酒、および、いわゆる第三のビール等のアルコール飲料の製造において、これらに使用される一般的な原料を用いて通常の方法に従って本発明の酵母による醗酵を行い、醗酵物を常法に従って処理してこれらのアルコール飲料を製造することができる。
以下の実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例の範囲に限られないことは言うまでもない。
下面ビール酵母GLN3遺伝子破壊株の作製
1)SC-GLN3およびSB-GLN3のクローニング
タカラバイオ社製のPerfectshotを用いて増幅されたPCR断片をTAクローニングすることにより、SC型GLN3遺伝子(SC-GLN3)及びSB型GLN3遺伝子(SB-GLN3)のそれぞれの断片を得た。
下面ビール酵母ヴァイヘンシュテファン(Weihenstephan)34/70のゲノムDNAを鋳型として、SC-GLN3増幅用プライマー1(TGACTTTTCCGCCAAAGAAGAGGACCTCG:配列番号5)および2(TATTATACGATTGGCTGTTCATGAGGACC:配列番号6)、またはSB-GLN3増幅用プライマー3(TGGCGAGACAGTGGAAGGTTAAAGAGAGG:配列番号7)および4(TTGGAGAAGGTTTTGGTAAAATCGGGACC:配列番号8)を用いて、Applied Biosytems社製サーマルサイクラーを用いてPCRを行った。
PCR条件は以下の通り
Figure 2010246440
PCR終了後、直ちに、インビトロジェン社製のTOPO-TAクローニングキットを用いて、PCR産物4μL、塩溶液1μL、TOPOイソメラーゼが結合したプラスミドpCR2.1溶液1μLを室温で5分間反応させライゲーションを行った。当該反応液2μLで大腸菌のコンピテントセルを形質転換し、プラスミドを抽出し、挿入DNAの末端ヌクレオチド配列を決定し、目的産物が挿入されていることを確認した。SC-GLN3またはSB-GLN3がクローニングされたプラスミドpCR2-SCGLN3及びpCR2-SBGLN3がそれぞれ得られた(図1、図2)。
2)Destination ベクターの構築
構築したプラスミドpCR2-SCGLN3及び、pCR2-SBGLN3のORF内にある制限酵素部位を利用し、インビトロジェン社のGateway TechnologyでのDestinationベクターを構築した。すなわち、プラスミドpCR2-SCGLN3あるいは、pCR2-SBGLN3、それぞれ約10μgを、制限酵素Nde I(認識部位:配列番号1のヌクレオチド番号1097-1102)あるいは、Cla I(認識部位:配列番号3のヌクレオチド番号936-941)、それぞれ約50ユニット、37℃、約1時間で切断し、タカラバイオ社製Blunting kitを用いて平滑化した。その後、平滑化した各プラスミド約100ngをインビトロジェン社製Gateway Vector Conversion Systemでの、Reading Frame Cassette (配列番号15) 10ngと、タカラバイオ社製T4 DNAリガーゼ350ユニットとを室温で1時間反応させ、ccdB耐性の大腸菌コンピテントセル、インビトロジェン社製One Shot ccdB Survival T1 Phage-Resistant細胞を形質転換し、DestinationベクターであるプラスミドpCR2-SCGLN3ccdBとpCR2-SBGLN3ccdBを構築した(図1、図2)。
3)Entryベクターの構築
下面ビール酵母SC-GLN3及びSB-GLN3遺伝子破壊の際の形質転換マーカーとして、アミノグリコシド系抗生物質をリン酸化する酵素をコードする大腸菌の遺伝子(apt2)に酵母(S.セレビシアエ)ADH1(アルコール脱水素酵素)遺伝子のプロモーターを接続したDNA断片(PADH1-apt2、配列番号9)、あるいは、酵母(S.セレビシアエ)の転写因子YAP1にPGK(ホスホグリレセレートキナーゼ)のプロモーターを接続したDNA断片(PPGK-YAP1、配列番号10)を用いた。apt2遺伝子は、形質転換酵母に抗生物質G-418に耐性をもたらし、YAP1遺伝子は、形質転換酵母に薬剤セルレニンに対する耐性を付与する。PADH1-apt2を有するプラスミドpYcDE-ΔG11を鋳型として、プライマー5(GGATCCGGGATCGAAGAAATGATGGTAAA:配列番号11)とプライマー6(AAGCTTGCAAATTAAAGCCTTCGAGCGTC:配列番号12)を用いてPCRでPADH1-apt2のDNA断片を増幅し、増幅された断片をインビトロジェン社製プラスミドpCR8にTAクローニングしてインビトロジェン社のGateway TechnologyでいうEntryベクターであるpCR8-apt2を得た(図1)。PCRの条件は前述したものと同じである。PPGK-YAP1についても同様に、同DNA断片を有するプラスミドYEp-PGKp-YAP1を鋳型として、プライマー7(CGATTTGGGCGCGAATCCTTTATTTTGGC:配列番号13)とプライマー8(AGTTACCCAGTTTTCCATAAAGTTCCCGC:配列番号14)を用いてPCRで増幅し、pCR8にTAクローニングしてインビトロジェン社のGateway TechnologyでいうEntryベクターであるpCR8-YAP1を得た(図2)。
4)GLN3遺伝子破壊用プラスミドの構築
前述したインビトロジェン社のGateway TechnologyでいうDestinationベクターであるプラスミドpCR2-SCGLN3またはpCR2-SBGLN3と、インビトロジェン社のGateway TechnologyでいうEntryベクターであるpCR8-apt2またはpCR8-YAP1をそれぞれ300ng混合し、インビトロジェン社製LRクロナーゼを反応させ、SC-GLN3遺伝子破壊用プラスミドであるpCR2-SCGLN3Δapt2、および、SB-GLN3遺伝子破壊用プラスミドであるpCR2-SBGLN3ΔYAP1を得た(図1、図2)。
5)下面ビール酵母GLN3遺伝子破壊株の作製
作製したSC-GLN3遺伝子破壊用プラスミドpCR2-SCGLN3Δapt2を鋳型に用い、プライマー1(配列番号5)とプライマー2(配列番号6)を用い、あるいは、作製したSB-GLN3遺伝子破壊用プラスミドpCR2-SBGLN3ΔYAP1を鋳型に用い、プライマー3(配列番号7)とプライマー4(配列番号8)を用いてPCRを行なった。PCRの条件は前述したものと同じである。次に、増幅したDNA断片を用いて下面ビール酵母の形質転換を行った。
形質転換に用いた下面ビール酵母は、Weihenstephan34/70の胞子分離体W-1Bである。対数増殖期の酵母菌体を集菌洗浄した後、109細胞/mlになるように懸濁した酵母細胞液0.1mLに、0.2M酢酸リチウム溶液0.1mLを加え、室温で1時間反応させた後、反応液0.1mLに、70%ポリエチレングリコール4000溶液0.1mLを加え、懸濁し、PCRで増幅したDNA断片を約20μg加え、室温で1時間反応させた。その後、42℃の水槽で、5分間処理した後、集菌洗浄し、SC-GLN3遺伝子破壊の場合は、YPD培地(1% 酵母エキストラクト, 2%ペプトン, 2%グルコース)、SB-GLN3遺伝子破壊の場合は、SD培地(2% グルコース、0.67% Yeast Nitrogenbaseアミノ酸不含有)に懸濁し、室温で1時間から1昼夜培養し、選択培地(SC-GLN3遺伝子破壊の場合は抗生物質G-418 200μg/mL含有したYPD培地(1% 酵母エキストラクト, 2% ペプトン, 2% グルコース、2%寒天)、SB-GLN3遺伝子破壊の場合は、セルレニン2μg/mL含有したSD培地(2% グルコース 0.67% Yeast Nitrogenbase アミノ酸不含有、2%寒天)に塗布し、形成されたコロニーから形質転換株を選択した。得られた形質転換体のゲノム挿入状態を調べた。
形質転換株は、用いたプラスミドpCR2-SCGLN3Δapt2あるいはpCR2-SBGLN3ΔYAP1と同じDNA配列を有しているので、SC-GLN3遺伝子破壊の場合は、プライマー1(配列番号5)とプライマー9(TAAACTCGTTTTTTCGGCGCCGCAAAGCC:配列番号16)を、あるいは、プライマー2(配列番号6)とプライマー10(GGAGTTAGACAACCTGAAGTCTAGGTCCC:配列番号17)を、SB-GLN3遺伝子破壊の場合は、プライマー3(配列番号7)とプライマー11(TCGATAAGAGGCCACGTGCTTTATGAGGG:配列番号18)を、あるいは、プライマー4(配列番号8)とプライマー12(TAAGGAAGGCTCTTTACTAAGGTGTTCGG:配列番号19)を、用いたPCRによって増幅産物が得られる。これらのプライマーの組み合わせでは、親株ではPCRの増幅産物は得られないことから、形質転換株であるかを判断することができる。さらに、PCRの増幅産物のDNA配列を決定し、形質転換に用いたプラスミドpCR2-SCGLN3Δapt2あるいはpCR2-SBGLN3ΔYAP1と同じDNA配列であるかを調べることで、形質転換株であること、および、想定した領域に用いたDNAが下面ビール酵母ゲノムに挿入されていることを確認した。
下面ビール酵母GLN3遺伝子破壊株の硫化水素生産能および含硫化合物生成量
1)窒素飢餓条件下での硫化水素産生抑制
以上のような方法で造成したSC-GLN3遺伝子破壊ビール酵母、SB-GLN3遺伝子破壊酵母、SC-GLN3/SB-GLN3二重遺伝子破壊ビール酵母と親株であるビール酵母の胞子分離体B-1Bを、25℃のSD培地(2% グルコース, 0.67% Yeast Nitrogenbase アミノ酸不含有、(内、0.5%硫酸アンモニウム))の培養で、対数増殖期(酵母細胞濃度2〜5×107 cells/mL)に、集菌洗浄し、一方を、25℃のSD培地で続けて培養を継続し、もう一方を、25℃の窒素源飢餓培地(2% グルコース, 0.17% Yeast Nitrogenbase、アミノ酸不含有、硫酸アンモニウム不含有)で培養し、1時間後の硫化水素濃度を測定した。硫化水素の測定は、培養液を約7mL採取し、3000rpm 10分間の遠心分離によって、酵母を分離した培養液5mLをスターラーバーの入ったバイアル瓶に入れ、塩化ナトリウム1.0gを加え、3N塩酸100μL、内部標準液(硫化エチルメチル10 mg/mL) 50μLを加え、アルミキャップで密栓し、室温10分間でスターラーバーを回転させて、塩化ナトリウムを溶解させる。ヘッドスペースGC-FPDによって、内部標準比から培養液中の溶存硫化水素濃度を定量した。その結果を表1に示す。
表1.GLN3遺伝子破壊酵母の硫化水素産生量
Figure 2010246440
ND:検出限界以下
GLN3遺伝子破壊酵母の産生硫化水素量が抑制されていることが確認された。特に、SC-GLN3遺伝子破壊株、及び、SC-GLN3/SB-GLN3遺伝子二重破壊酵母において硫化水素産生抑制効果は大きかった。
2)ビール発酵条件における硫化水素産生抑制効果
麦汁で馴らしの培養が終了した、SC-GLN3遺伝子破壊ビール酵母、SB-GLN3遺伝子破壊酵母、SC-GLN3/SB-GLN3二重遺伝子破壊ビール酵母と親株であるビール酵母の胞子分離体B-1Bをそれぞれ2Lの麦汁に移し、初期細胞濃度を2×107細胞/mLとなるようにして、15℃にて醗酵を開始し、ビール発酵条件下での硫化水素産生を調べた。各時間に醗酵液を採取し、醗酵液中に溶存している硫化水素を1)と同様にしてGC-PFDで測定した。その結果を図3に示す。GLN3遺伝子破壊体酵母の産生硫化水素量は抑制され、特に、SC-GLN3破壊体酵母及びSC-GLN3/SB-GLN3遺伝子二重破壊体において産生硫化水素の抑制効果は大きかった。
さらに、日光臭の原因物質MBTやネギ臭の原因物質2M3MBも測定した。試料500mLに、0.1M Trisに溶解させた2mM p-HMB(p-ヒドロキシ水銀安息香酸)25mLと20mM tert-ブチル-4-メトキシフェノール(BHA)エタノール溶液 500μL、内部標準液である500ng/mL 4-メトキシ-2-メチル-2-メルカプトブタン(4M4M2MB)エタノール溶液100mLを添加し、密栓して、スターラーバーで室温10分間、強く攪拌した。含硫化合物は水銀化合物であるp-HMBに吸着する。この反応物をDowex-1(強陰イオン交換樹脂)カラムに吸着させた後、0.2mM tert-ブチル-4-メトキシフェノールを含んだ0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH6)100mLでカラムを洗浄した後、10mg/ml L-システイン塩酸塩一水和物を含んだ0.1M 酢酸ナトリム緩衝液(pH6) 100mLで含硫化合物をカラムから溶出させる。溶出液を、酢酸エチル0.5mL、ジクロロメタン 5mLで2回抽出し、有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、窒素ガスにて100μLまで濃縮し、質量分析計を搭載したGC分析に供した。日光臭の原因物質MBT(3-メチル-2-ブテン-1-チオール)やネギ臭の原因物質2M3MB(2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール)の量を内部標準比から定量した。その結果を表2に示す。
表2.ビール醸造条件下における、GLN3遺伝子破壊酵母の含硫化合物生産量
Figure 2010246440
GLN3遺伝子破壊酵母、特に、SC-GLN3破壊酵母及びSC-GLN3/SB-GLN3遺伝子二重破壊酵母において含硫化合物量が減少することが確認された。

Claims (15)

  1. ゲノム中のGLN3遺伝子が破壊されたアルコール飲料製造用酵母。
  2. ビール酵母である、請求項1記載の酵母。
  3. GLN3遺伝子が配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする、請求項1または2記載の酵母。
  4. 配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号1のヌクレオチド番号796〜2986の配列であり、配列番号4のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号3のヌクレオチド番号582〜2771の配列である、請求項3記載の酵母。
  5. 破壊がGLN3遺伝子中へのDNA断片の挿入による、請求項1〜4のいずれか1項記載の酵母。
  6. 下面ビール酵母である、請求項2〜5のいずれか1項記載の酵母。
  7. アルコール飲料製造用酵母のゲノム中のGLN3遺伝子を破壊することを含む、対応するGLN3遺伝子非破壊株に比較してアルコール飲料製造用酵母の硫化水素生産能を抑制する方法。
  8. アルコール飲料製造用酵母がビール酵母である、請求項7記載の方法。
  9. GLN3遺伝子が配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、請求項7または8記載の方法。
  10. 配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号1のヌクレオチド番号796〜2986の配列であり、配列番号4のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が配列番号3のヌクレオチド番号582〜2771の配列である、請求項9記載の方法。
  11. 破壊がGLN3遺伝子中へのDNA断片の挿入による、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
  12. 酵母が下面ビール酵母である、請求項8〜11のいずれか1項記載の方法。
  13. 請求項1〜6のいずれか1項記載のアルコール飲料製造用酵母による醗酵工程を含む、アルコール飲料の製造方法。
  14. 請求項1〜6のいずれか1項記載のアルコール飲料製造用酵母のアルコール飲料製造における使用。
  15. アルコール飲料がビール、発泡酒または第三のビールである請求項13記載の方法。
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