JP2010241655A - 導電性微細繊維合成用基板及びその製造方法 - Google Patents

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裕典 熊谷
Takuma Asari
琢磨 浅利
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直毅 吉川
Yasuhiro Hashimoto
泰宏 橋本
Shigeo Hayashi
茂生 林
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Abstract

【課題】導電性微細繊維を高合成レートかつ高密度で合成することを可能にする基板を提供すること。
【解決手段】導電性微細繊維を基板表面に立設させて合成するために用いられる導電性微細繊維合成用基板において、前記基板が浸炭されている。前記基板と、前記基板表面に立設している複数本の導電性微細繊維と、前記基板表面又は前記導電性微細繊維の先端に保持された触媒とを含む、構造体も提供する。
【選択図】図3

Description

本発明は、カーボンナノチューブ等の導電性微細繊維を合成するのに適した基板、及び、その製造方法に関する。
カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:以下、CNTと略すことがある)は、炭素原子が六角網目状に配列したグラフェンシートを筒状に丸めた構造を持つ物質であり、高い熱伝導率、極めて強靭な機械的特性などの優れた電子物性を有していることから、様々な分野における応用が期待されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、基板上に垂直配向したブラシ状CNTの研究・開発も盛んに行われている。基板に垂直配向したブラシ状CNTは、基板単位面積におけるCNTの表面積を大きくすることが可能であるため、ガスやイオンなどを吸着させる効率を高くすることが可能である。ブラシ状CNTの中でも、金属基板上に直接形成されたものは、電極などに用いることができ、例えばエネルギーデバイスの特性向上等に有用である。
ブラシ状CNTの合成方法としては、基板上にCNTを直接合成することが可能である化学気相堆積(CVD)法を用いることが一般的である。CVD法による合成では、触媒金属粒子を基板上に形成した後に、600℃以上の高温でCVDプロセスを行う。
CVD法によるCNT合成では、一般的に、CVDプロセスでの温度が高温になるほど、CNTの合成レートが速くなる。CNTの合成レートが早くなると、エネルギーデバイスの作製コストを低減できるため望ましい。
CNTの合成レートを早くするにはCVDプロセスでの温度をより高くすればよいが、その温度下で基板が溶融しないよう、融点が高い基板を用いる必要がある。そのような高融点基板としては、PtやAu等の貴金属や、TiやNi等の遷移金属から構成されるものが挙げられる。
ところで、特許文献1に記載されているように、チタン等の金属に浸炭処理を施すことにより、表面を硬化させ、機械部品の耐摩耗性や摺動性を向上させる技術が知られている。
特許文献2では、カーボンナノチューブ製造に使用する触媒として、FeとAlの組合せ触媒、及び、CoとTiの組合せ触媒が開示され、これらの組合せ触媒を炭化することで、550℃以下という低温でCNT合成を効率的に実現できると記載されている。しかしながら、カーボンナノチューブ製造用触媒はナノメートルのオーダーでサイズを制御する必要があり、特許文献2記載の方法では、このように微小な触媒を制御して炭化することがプロセス上困難であるという問題があった。
特開2003−129215号公報 特開2005−279624号公報
斉藤理一郎及び篠原久典著、「カーボンナノチューブの基礎と応用」、株式会社培風館、2004年3月
本発明者らの検討により、CNT等の導電性微細繊維の合成レートや密度は、その合成に使用する基板の構成元素により大きく影響され、基板の構成元素の種類によっては、充分な合成レート及び密度を達成できない場合があることが判明した。
本発明は、上記現状に鑑み、導電性微細繊維を合成する基板の構成元素に関わりなく、導電性微細繊維を高合成レートかつ高密度で合成することを可能にする基板を提供することを課題とする。
本発明者らが上記課題に鑑み鋭意検討した結果、導電性微細繊維を合成するのに使用する基板に予め浸炭処理を施しておくと、導電性微細繊維の合成レート及び密度が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち第一の本発明は、導電性微細繊維を基板表面に立設させて合成するために用いられる導電性微細繊維合成用基板であって、前記基板が浸炭されている、導電性微細繊維合成用基板である。
第二の本発明は、前記導電性微細繊維合成用基板と、前記基板表面に立設している複数本の導電性微細繊維と、前記基板表面又は前記導電性微細繊維の先端に保持された触媒とを含む、構造体である。
第三の本発明は、導電性微細繊維を基板表面に立設させて合成するために用いられる導電性微細繊維合成用基板を製造する方法であって、基板を準備する基板準備工程と、準備した基板に浸炭処理を施すことで、前記導電性微細繊維合成用基板を得る浸炭工程とを含む、製造方法である。
第四の本発明は、基板と、前記基板表面に立設している複数本の導電性微細繊維とを含む構造体を製造する方法であって、基板を準備する基板準備工程と、準備した基板に浸炭処理を施す浸炭工程と、浸炭処理が施された基板表面に触媒を形成する触媒形成工程と、前記触媒が形成された基板表面から導電性微細繊維が立設するように導電性微細繊維を合成する繊維合成工程と、を含む、製造方法である。
基板に浸炭処理を施すことによりCNT等の導電性微細繊維の合成レート及び密度が著しく向上するメカニズムについては詳細が現在不明であるが、以下の2つの理由が推定される。
(1)浸炭により基板表面近傍に含まれることになった炭素が、後工程で基板表面に配置された触媒に向けて効率よく拡散することで、触媒が炭化され、この炭化された触媒により微細繊維の合成が促進される。
(2)基板表面近傍に炭素が含まれていることから、微細繊維の合成に使用する炭素源が基板に侵入して浪費されるのが防止される。そのため、前記炭素源が効率良く基板表面の触媒に到達することが可能になり、結果、微細繊維の合成が促進される。
本発明により、導電性微細繊維を合成するにあたって充分な合成レート及び密度を達成できない構成元素からなる基板を使用しても、充分な合成レート及び密度を達成することが可能になる。
参考例においてTi基板上にCNTを合成した際のSEM写真図 参考例においてSiO/Si基板上にCNTを合成した際のSEM写真図 本発明の製造方法の工程図 実施例1〜8及び比較例1で基板上に合成したCNTのSEM写真図 実施例1〜8及び比較例1で基板上に合成したCNTの合成レートと処理時間の関係を示すグラフ 浸炭処理を行っていないチタン基板における炭素濃度に対する実施例1、2及び4−6で作製した浸炭チタン基板における炭素濃度の比と、基板深さとの関係を表すグラフ
まず本発明の基板について説明する。
本発明の基板は浸炭されていることを特徴とする。基板が浸炭されているとは、少なくとも、導電性微細繊維を立設させて合成する側の基板表面が、浸炭されていることを意味する。しかしながら、基板の全表面が浸炭されていてもよい。
基板表面が浸炭されているとは、基板の表面近傍(特に基板の表面から深さ3μmまでの領域)における炭素濃度が、基板の内部(特に基板の表面から深さ3μmよりも内部の領域)における炭素濃度よりも高くなっていることで確認できる。炭素濃度は、基板表面及び内部の炭素濃度を相対的に比較できる測定機器、例えばSIMS、XPS、RBSなどを用いて測定することができる。
本発明では、基板の深さ方向における炭素濃度の変化が制御されていることが好ましい。具体的には、基板表面から所定の深さdにおける浸炭前の炭素濃度をCA(d)とし、基板表面から所定の深さdにおける浸炭後の炭素濃度をCB(d)としたとき、0≦d≦1μmの範囲において、1<CB(d)/CA(d)を満たす(すなわち、浸炭により炭素濃度が向上している)ことが好ましい。この際、表面から深さ1μmまでの全範囲において、上記式が満たされていればよく、1μmを超える深さでは、上記式を満たしていてもよいし、満たしていなくてもよい。より好ましくは、0≦d≦1μmの範囲において、1<CB(d)/CA(d)<4を満たす(すなわち、浸炭により炭素濃度が向上しているが、その向上比は、浸炭前と比較して4倍未満である)ことが好ましい。以上の範囲では、後の実施例及び比較例で証明するとおり、より高い合成レート及び合成密度を達成することができる。
本発明において、基板は、浸炭可能な材料から構成される単一構成の基板であってもよいし、芯材にバッファ層を設けてなる複合構成の基板であってもよい。複合構成の基板では、芯材を構成する材料は特に限定されず、製造される構造体の用途に応じて適切なものを選択すればよい。一方、バッファ層を構成する材料は、浸炭可能な材料からなる。
浸炭可能な材料としては特に限定されないが、金属が好ましい。すなわち、基板において浸炭されている領域(単一構成の基板の場合には、当該基板。複合構成の基板の場合には、バッファ層)が金属から構成されることが好ましい。金属の導電性を利用することで、製造される構造体をエネルギーデバイスの電極等として使用することができる。これによりデバイスへの用途展開が容易となる。
さらに金属のなかでも、遷移金属がより好ましい。遷移金属は浸炭されやすい性質を有するため、本発明の効果を顕著に発揮することができる。また、遷移金属は一般に融点が高いため、CNT合成を高温で実施することが可能になる。さらに、遷移金属は貴金属と比較して安価であるため、エネルギーデバイスの作製コストを低減することができる。
遷移金属としては、例えばチタン、鉄、ニッケル等が挙げられるが、なかでもチタンが好ましい。チタンは軽さと強さを兼ね備えており、さらに、比較的融点が高いためCNT合成を高温で行うことができるという利点があるが、浸炭されていないチタン基板上では後の参考例で示すようにCNTの合成レートが極めて低い。浸炭処理を施すことによりCNTの合成レートが顕著に向上するため、本発明を適用する意義が特に大きい。
本発明の基板は、導電性微細繊維を合成するために使用されるものである。導電性微細繊維には、カーボンナノチューブのほか、炭素繊維、カーボンナノファイバー等、基板上に立設して合成することが可能な微細繊維が含まれる。
第二の本発明は、第一の本発明の導電性微細繊維合成用基板を利用して製造された構造体である。具体的には、本発明の構造体は、浸炭されている基板と、浸炭されている基板表面に立設している複数本の導電性微細繊維と、前記基板表面又は前記導電性微細繊維の先端に保持された触媒とを含む。
この構造体において、複数本の導電性微細繊維は、浸炭されている基板表面に立設している。微細繊維が立設しているとは、微細繊維の一端が、基板と直接的又は間接的に接触して固定されており、他端は、基板に対して固定されていないことをいう。微細繊維と基板が間接的に接触している時には、両者の間に触媒が介在している。触媒とは、導電性微細繊維合成の際に基板上に形成される粒子のことをいう。本発明の構造体において、触媒は、基板表面に保持されているか、又は、導電性微細繊維の他端に保持されている。
本発明で提供される構造体に含まれる導電性微細繊維のバンドルは、高密度であり、それ自体が高収量であるという利点がある。また、この構造体を電極として用いる場合は、導電性微細繊維が高密度に形成されていることから、電極の表面積が増大するといった効果も得られる。これによって、例えば電気二重層キャパシタや電池の電極などとして、その表面積を利用して動作するエネルギーデバイスデバイス等で利用する際に有利となる。
第三の本発明は上記導電性微細繊維合成用基板の製造方法であり、第四の本発明は、上記構造体の製造方法である。以下、各工程を図3に沿って説明する。
図3は、構造体の製造方法における各工程を示すフローチャートであり、微細繊維の合成までを通して示している。導電性微細繊維合成用基板の製造方法は、基板準備工程301と浸炭工程302とからなる。
301は基板準備工程である。準備する基板は浸炭可能な基板であればよい。上述のように、浸炭可能な材料から構成される単一構成の基板であってもよいし、芯材の表面に、浸炭可能な材料からなるバッファ層を設けた複合構成の基板であってもよい。浸炭可能な材料としては、チタン、鉄、ニッケル等の遷移金属が好ましい。
基板準備工程においては、基板のへき開、洗浄などを行う。いずれも任意の工程であるが、洗浄は行うほうが好ましい。基板を洗浄するには、有機洗浄、酸洗浄など、適切な洗浄方法を選択することができる。バッファ層を形成する場合は、蒸着やスパッタなどの方法によって、芯材の表面にバッファ層を形成すればよい。
302は浸炭工程である。本工程が本発明において特徴的な工程である。
本工程では、基板準備工程において準備した基板に対して浸炭処理を行う。浸炭の具体的な方法としては、炭素含有雰囲気下で熱処理を行う方法、プラズマ浸炭を行う方法、イオンビームで浸炭する方法等が挙げられるが、基板表面近傍における炭素濃度が高くなる方法であればよく、具体的方法は特に限定されない。効率よく浸炭が行われ、より高い合成レート及び合成密度を達成することができるので、プラズマ浸炭法により浸炭処理を施すことが好ましい。プラズマ浸炭法では、プラズマによって形成されるラジカル等が、浸炭効率の向上に寄与しているものと推定される。
本発明では、ブラシ状CNTの合成に必要不可欠である触媒形成前に、基板の浸炭を行う。基板の浸炭は、特許文献2に記載のような触媒の浸炭よりも制御が容易であるので、その後のプロセスの簡略化を図ることができる。
本工程においては、基板の深さ方向における炭素濃度の変化を制御して浸炭することが好ましい。具体的には、前記基板を浸炭する工程は、基板表面から所定の深さdにおける浸炭前の炭素濃度をCA(d)とし、基板表面から所定の深さdにおける浸炭後の炭素濃度をCB(d)としたとき、0≦d≦1μmの範囲において、1<CB(d)/CA(d)を満たすように実施することが好ましい。この式を満足するには、プラズマ浸炭を用いることが好ましい。
さらには、1<CB(d)/CA(d)<4を満たすように浸炭工程を実施することがより好ましい。このためには、プラズマ浸炭法における炭素源の使用量や処理温度、処理時間等を調整して、基板表面近傍における炭素濃度が高くなりすぎないように調整することが好ましい。
以上の工程によって、CNTの合成に適した基板を作製することができる。
303は触媒形成工程である。この工程では、浸炭処理が施された基板表面において、ブラシ状CNTの合成に必要な触媒を形成する。触媒にはCNT合成における触媒活性を有するものであれば何を用いてもよい。代表的な触媒材料としては、Fe、Ni、Co、Cu、Mo、Mn、Zn、Pd、Pt、V、Siのいずれか、あるいはこれらの複合物を挙げることができる。触媒の形成方法としては、真空スパッタリング法、化学蒸着法、物理蒸着法、スクリーンプリント法、電気めっきなどを用いることができるが、これらに制限されるものではない。触媒形成工程後に適宜熱処理を加えてもよい。熱処理によって、任意の触媒粒子径、粒子密度などを実現することが容易になる。
304は繊維合成工程である。この工程では、浸炭処理が施されその後触媒が形成された基板表面から、導電性微細繊維が立設するように導電性微細繊維を合成する。基板上に導電性微細繊維としてブラシ状CNTを合成するにはCVD法を用いることが好ましいが、目的を達成することができれば方法は限定されない。具体的には、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。CNT合成に使用される炭素源としては、メタン、エチレン、アセチレンなどの炭化水素系ガス;メタノール、エタノールなどのアルコール;一酸化炭素などを用いることができる。炭素源に加えて、アルゴンや水素などをキャリアガスとして用いることが一般的である。CNT合成は加熱下で行われるが、基板がチタン等の遷移金属からなる場合、遷移金属は融点が高いので、CNT合成を600℃以上、あるいは、700℃以上という高温で実施することができる。CNTの合成後において、前記触媒は、基板表面に位置してCNTの一端と基板との間に介在している場合と、CNTの他端(基板に固定されていないほうの端部)に保持されている場合とがあり得る。
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(参考例)
浸炭処理を施していない基板についてCNT合成を行った結果を示す。図1には、Ti基板上に合成したCNTのSEM写真を示す。撮影倍率は5000倍である。図2には、一般的に広く用いられるSiO/Si基板上に合成したCNTのSEM写真を示す。撮影倍率は500倍である。図1及び図2に示すCNTの合成においては、それぞれの基板上に触媒としてFeを1nm形成し、プラズマCVD法でCNTを形成した。図1及び図2のCNTの合成条件は同一である。
図1及び図2を比較検討した結果、Ti基板上におけるCNTの合成レート(CNTの高さ)は、一般的な基板であるSiO/Si基板上におけるCNTの合成レートと比較して格段に低く、また合成したCNTの密度も低いことがわかる。
(実施例1〜5)
基板にはTi基板を用いた。浸炭は、真空装置内でプラズマ浸炭により行った。プラズマ源にはマイクロ波を用いた。基板を真空装置内に設置した後、一旦5E−6Torr以下まで排気し、その後、浸炭用のガスを導入した。炭素源のガスとしてCHを用い、キャリアガスとしてHを用いた。それぞれのガス比は、CH/H=3/8で行った。浸炭時の圧力は20Torrとした。プラズマ出力は80Wとした。浸炭時の加熱温度は620℃に設定した。実施例1〜5について、それぞれ表1に示すような処理時間でプラズマ浸炭を行った。
次に、浸炭後の基板に触媒としてFeをEB蒸着で1nm形成した。
その後、触媒が形成された基板をプラズマCVD装置内に設置し、CNTの合成を行った。CNTの合成はプラズマCVD法で行った。実ガスとしてCHを用い、キャリアガスとしてHを用いた。それぞれのガス比は、CH/H=3/8で行った。合成時の圧力は20Torrとした。プラズマ出力は80Wとした。CNT合成時の加熱温度は620℃に設定した。CNTの合成時間は10分とした。
実施例1〜5では、処理時間以外はすべて同一の条件を使用した。
(実施例6〜8)
実施例6〜8では、プラズマ源を使用しなかったこと以外は、実施例1〜5と同じ条件下で炭素源ガス及びキャリアガスを流した状態で熱処理のみによって浸炭を行った。実施例6〜8のそれぞれについて、表1に示す処理時間で浸炭を行った。
浸炭後、触媒形成及びCNT合成を行った。これらの条件についても実施例1〜5と同一であった。
(比較例1)
比較例1では、実施例1におけるプラズマ浸炭の工程を省略してCNT合成を行った。すなわち、従来技術と同様に、チタン基板上にそのまま触媒を形成してCNT合成を行った。触媒形成及びCNT合成の条件については、実施例1〜5と同一であった。
(結果)
実施例1〜8及び比較例1において各基板上に合成したCNTのSEM写真を図4に示す。それぞれの撮影倍率は、実施例1〜8においては2000倍、比較例1においては5000倍である。また、実施例1〜8及び比較例1の合成レートをまとめたものを図5に示す。ここで、合成レートとは、CNTの合成時間(min)あたりでCNTが成長した長さ(μm)で表す。
比較例1では、CNTの合成レートはおよそ0.3μm/minと低く、また、図4のSEM写真より、CNTの合成密度も低いことがわかる。
一方、実施例1〜8においては、比較例1と比較してCNTの合成レートが速く、また、図4のSEM写真より、それぞれのCNTの合成密度も高いことがわかる。
また、実施例1〜5と実施例6〜8を比較すると、明らかに実施例1〜5のほうが高合成レートかつ高密度であることがわかる。
図6に、浸炭処理を行っていないチタン基板における炭素濃度に対する実施例1、2及び4−6で作製した浸炭チタン基板における炭素濃度の比(CB(d)/CA(d))と、基板深さとの関係を表すグラフを示す。上の図は深さ10μmまでの関係を示し、下の図は深さ2μmまでの関係を示す。なお、この測定は、SIMSを用いて行った。
図6より、いずれの実施例においても、浸炭処理前と比較して表面付近において浸炭されている(炭素濃度の比が1以上となっている)ことがわかる。つまり、基板表面の炭素濃度の向上がCNTの合成レートおよび密度の向上につながったものと推定される。
特に、プラズマ浸炭を施した基板(実施例1、2、4及び5)と、熱処理のみで浸炭した基板(実施例6)では、炭素濃度の変化に顕著な違いがある。すなわち、プラズマ浸炭を施した基板においては、表面から1μm以上の深さに至るまで炭素濃度比が1を超えているのに対して、熱処理のみで浸炭した基板については、表面の直近では炭素濃度比が高いものの、表面から深さ400nmから4μm程度に至るまでの範囲における炭素濃度は、浸炭前の基板の炭素濃度以下の値となっている。この炭素濃度の違いが、CNTの合成レート及び合成密度の違いにつながるものと考えられる。
また、図5より、実施例5では、実施例1〜4と比較して合成レートが格段に低いことがわかる。図6において表面近傍の炭素濃度を比較すると、実施例1〜4では基板内部から表面に向けて緩やかに炭素濃度が上昇しており、少なくとも、表面からの深さが1μm以下の範囲において1<CB(d)/CA(d)<4を満たしている。一方、実施例5においては、表面からの深さが0.4μm以下の範囲で炭素濃度が急激に増大し、CB(d)/CA(d)が4を超えているので、上記の式を満足していない。以上から、表面近傍の炭素濃度が高すぎると、合成レート向上の効果が低減するものと推測される。
本発明によって、CNTの合成レートを向上することができる。これにより、CNTを利用したデバイスの作製コストを低減することができる。また、CNTの密度を向上することができる。得られたCNTは、例えば、水素吸蔵材料、Li電池の電極材料、電気二重層キャパシタ材料、電子放出素子材料などに利用することができる。
301 基板準備工程
302 浸炭工程
303 触媒形成工程
304 繊維合成工程

Claims (12)

  1. 導電性微細繊維を基板表面に立設させて合成するために用いられる導電性微細繊維合成用基板であって、
    前記基板が浸炭されている、導電性微細繊維合成用基板。
  2. 前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭前の炭素濃度をCA(d)とし、
    前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭後の炭素濃度をCB(d)としたとき、
    0≦d≦1μmの範囲において、
    1<CB(d)/CA(d)
    を満たす請求項1に記載の導電性微細繊維合成用基板。
  3. 前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭前の炭素濃度をCA(d)とし、
    前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭後の炭素濃度をCB(d)としたとき、
    0≦d≦1μmの範囲において、
    1<CB(d)/CA(d)<4
    を満たす請求項2に記載の導電性微細繊維合成用基板。
  4. 導電性微細繊維がカーボンナノチューブである請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性微細繊維合成用基板。
  5. 前記基板において浸炭されている領域が金属から構成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性微細繊維合成用基板。
  6. 前記金属がチタンである請求項5に記載の導電性微細繊維合成用基板。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性微細繊維合成用基板と、
    前記基板表面に立設している複数本の導電性微細繊維と、
    前記基板表面又は前記導電性微細繊維の先端に保持された触媒とを含む、構造体。
  8. 導電性微細繊維を基板表面に立設させて合成するために用いられる導電性微細繊維合成用基板を製造する方法であって、
    基板を準備する基板準備工程と、
    準備した基板に浸炭処理を施すことで、前記導電性微細繊維合成用基板を得る浸炭工程とを含む、製造方法。
  9. 前記浸炭工程は、
    前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭前の炭素濃度をCA(d)とし、
    前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭後の炭素濃度をCB(d)としたとき、
    0≦d≦1μmの範囲において、
    1<CB(d)/CA(d)
    を満たすように行う、請求項8に記載の製造方法。
  10. 前記浸炭工程は、
    前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭前の炭素濃度をCA(d)とし、
    前記基板表面から所定の深さdにおける浸炭後の炭素濃度をCB(d)としたとき、
    0≦d≦1μmの範囲において、
    1<CB(d)/CA(d)<4
    を満たすように行う、請求項9に記載の製造方法。
  11. 前記浸炭工程は、プラズマ浸炭処理により行う請求項8〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
  12. 基板と、前記基板表面に立設している複数本の導電性微細繊維とを含む構造体を製造する方法であって、
    基板を準備する基板準備工程と、
    準備した基板に浸炭処理を施す浸炭工程と、
    浸炭処理が施された基板表面に触媒を形成する触媒形成工程と、
    前記触媒が形成された基板表面から導電性微細繊維が立設するように導電性微細繊維を合成する繊維合成工程と、を含む、製造方法。
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WO2012172809A1 (ja) * 2011-06-17 2012-12-20 アイシン精機株式会社 カーボンナノチューブ並走集合体、炭素系電極、蓄電デバイスおよびカーボンナノチューブ並走集合体の製造方法
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