近年、遺伝子や蛋白質等の生体分子や化合物(以下、単に導入物質とする)を細胞内に注入する際、マイクロインジェクション装置が使用されている。マイクロインジェクション装置には、導入物質と導入される細胞の組合せが自由という長所がある。
このマイクロインジェクション装置の長所に鑑みて、例えば、遺伝子を導入物質とする
人工多能性幹細胞(IPS細胞)の作成や、蛋白質を導入物質とする機能解析や、化合物を導入物質とする薬物開発などへの応用が期待されている。
マイクロインジェクション装置は、微細な中空のガラス針(以下、キャピラリ針とする)を有し、このキャピラリ針の中に導入物質を充填した後、細胞に突き刺し、細胞内に導入物質を吐出することにより細胞内に注入する。
そして、マイクロインジェクション装置には、上述した使用目的から導入物質を定量的に吐出することが求められ、この要望に関し、以下に示すような技術が知られている。
まず、マイクロインジェクション装置が細胞内に吐出する量をサブピコリットル単位で定量制御する技術として、導入物質が充填されたキャピラリ針に、調整した空気圧を印加し、所定量の導入物質を細胞内に吐出するという技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、導入物質を細胞内に吐出させるための圧力と、キャピラリ針への導入物質の逆流を防止する圧力を用いて、所定量の導入物質を細胞内に吐出する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、蛍光試薬を導入物質に混合して、蛍光試薬が示す輝度値のデータに基づいて、導入物質を吐出する体積を調整し、調整した体積を吐出することで定量的な吐出を実現するという技術が知られている(特許文献3参照)。この技術に関して、以下詳細に説明する。
この場合、導入物質が吐出される体積Vは、キャピラリ針先端部内径をD、導入物質の粘度をμ、キャピラリ針に印加される吐出圧力をPi、吐出圧力の持続時間をTiとして、以下に示す式(1)で表される。
式(1)より、体積Vは、使用するキャピラリ針先端部内径と導入物質の粘度をパラメータとして、吐出圧力と吐出時間の積(以下、吐出パラメータとする)に比例することになり、比例定数をηとすると、式(2)と表される。なお、ηを吐出係数とする。
したがって、吐出係数ηが分かれば、各吐出パラメータに対応する体積Vを求めることができ、導入物質を定量的に吐出することが可能となる。以下、蛍光試薬を用い、上述した式(2)のηを決定する過程、すなわち、「吐出較正」について説明する。
吐出較正の事前ステップとして、蛍光試薬の体積Vと、蛍光試薬が示す蛍光強度Iの関係を以下の図19に示すマイクロインジェクション装置50を使用して求める。ただし、吐出較正の事前ステップでは、シャーレには培地の代わりに表面張力の小さなパラフィンオイルまたはシリコンオイルを満たして使用する。このマイクロインジェクション装置50について説明した後、体積Vと蛍光強度Iの関係について説明する。
なお、体積Vの単位は「pl:ピコリットル」で表され、蛍光画像全画素の輝度値の総和として定義される蛍光強度Iの単位は画素輝度値として以下説明する。
図19は、従来のマイクロインジェクション装置を用いて行う吐出較正の事前ステップを説明するための図である。図19に示したマイクロインジェクション装置50は、キャピラリ針50aから蛍光試薬をパラフィンオイル中に吐出する。パラフィンオイル中に吐出された蛍光試薬は、表面張力の関係から球形の蛍光液滴50bを形成する。
次に、蛍光フィルタ50fにより、蛍光試薬から発せられる波長以外の波長の光を除去し、高感度CCDカメラ50gにより、蛍光液滴50bの蛍光画像を取得し、液滴の直径を計測することで蛍光液滴50bの体積Vを求める。
そして、上述の蛍光画像から蛍光強度Iを求め、蛍光試薬の体積Vとの相関関係が、以下の図20に示すグラフ5から求まる。図20は、蛍光強度と体積との関係を示す図である。
図20に示したX軸を蛍光強度I、Y軸を体積Vとするグラフ5より、蛍光強度Iと体積Vの式(3)における比例定数α(試薬定数とする)が求まり、吐出較正のための事前ステップが完了する。なお、本ステップは、蛍光試薬毎に1回実施すればよい。
次に、細胞に所望の物質を導入するインジェクション作業の直前に、使用するキャピラリ針と導入物質の組合せで実施する吐出較正について説明する。図21は、キャピラリ針と導入物質の組合せ毎に実施する吐出較正を説明するための図である。
図21に示すように、キャピラリ針50aから、吐出パラメータの値を変えて、蛍光試薬50hの吐出を複数回行う。
このように、吐出較正を行う際に、導入物質を複数回吐出することを「テスト吐出」とする。このテスト吐出時には、蛍光試薬50hに関する蛍光試薬データを入力する。
蛍光試薬データは、事前ステップで求められている試薬定数α、試薬定数を求めたときの蛍光試薬の濃度ρ0、高感度CCDカメラ50gの露光時間Te0などである。なお、ρ0を基準濃度、Te0を基準露光時間とする。
続いて、図21にて吐出した蛍光試薬50hが示す蛍光強度の測定について説明する。この蛍光強度は吐出ごとに取得される蛍光画像に基づいて測定される。具体的に図を用いて以下説明する。
図22は、蛍光強度の取得について説明するための図である。図22に示した背景画像20は、キャピラリ針50aから蛍光試薬50hが吐出される前の画像を示し、キャピラリ針50aから蛍光試薬50hが吐出されると蛍光画像21が取得される。
そして、背景画像20と蛍光画像21から差分画像22を取得し、取得した差分画像22における画素輝度J
xyの総和から蛍光強度Iを求める。この蛍光強度Iを算出する式を以下の式(4)に定める。
そして、式(4)から求めた蛍光強度Iを使用して、吐出パラメータと蛍光強度の関係を求める。図23は、吐出パラメータと蛍光強度の関係を説明するための図である。図23のグラフのX軸は吐出パラメータPi・Ti、Y軸は蛍光強度Iである。
図23に示されたグラフ11より、蛍光強度Iと吐出パラメータPi・Tiの関係は、式(5)で表され、比例定数γが求まる。
そして、式(3)と式(5)を組合せることで、上述した式(2)の吐出係数η=αγが導かれ、吐出パラメータに対する体積Vが算出される。この吐出パラメータと体積Vの関係について説明する。図24は吐出較正結果を示す図である。
図24に示す吐出パラメータPi・TiをX軸、体積VをY軸にしたグラフ12より、任意の吐出パラメータごとに体積Vが算出され、較正された吐出が可能となる。その結果、キャピラリ針50aから吐出される体積Vを任意に設定することができる。
なお、基準濃度ρ0と基準露光時間Te0と式(2)の関係であるが、任意の濃度ρ、任意の露光時間Teの場合には、ρ0/ρと、Te0/Teが示す各値に体積Vが比例することが一般的であるので、これらを右辺に乗じて計算すればよい。
続いて、これまで説明してきた吐出較正の流れについて説明する。図25は、従来の吐出較正を示すフローチャートである。まず、実際に使用する蛍光試薬の濃度ρをマイクロインジェクション装置50に入力する(ステップS50)。
次に、あらかじめ求められ記憶されている蛍光試薬データをマイクロインジェクション装置50が読込みを行う(ステップS51)。そして、露光時間を所定のTeに設定する(ステップS52)。
そして、吐出較正用の蛍光画像を取得し(ステップS53)、取得した蛍光画像から各吐出パラメータに対応する体積Vを求める(ステップS54)。そして、図24に示したグラフ12を一例とする吐出較正の結果を取得する(ステップS55)。
次に、上述したステップS53にて取得する蛍光画像と、取得した蛍光画像に含まれる輝度プロファイルについて説明する。図26は、蛍光画像と輝度プロファイルを説明するための図である。
図26に示した蛍光画像23は、キャピラリ針50aと導入物質の組合せにより吐出体積Vが異なる場合に得られる蛍光画像の一例を示し、所定の露光時間Teで、撮影されたものとする。そして、蛍光画像23から取得される輝度プロファイルが図示した輝度プロファイル30〜32になる。
輝度プロファイルとは、蛍光画像のX方向輝度分布(Y座標は画面中央)で、図26に示した例では、輝度プロファイル30が最も大きな画素輝度を有し、輝度プロファイル31、32の順に画素輝度の最大値が小さくなる。
そして、図26に示した輝度プロファイル30〜32が示す最大画素輝度は、図19に示した高感度CCDカメラ50gが示す上限Js以下の値であり、蛍光画像23から取得される最大画素輝度に基づいて、吐出較正が行われる。
なお、上限Jsとは、高感度CCDカメラ50gが撮影できる最大画素輝度を示し、上限Jsを超えた画素輝度は、飽和領域となり、飽和領域内に示される最大画素輝度は計測することができず、この場合、吐出較正に必要な蛍光強度を取得することが困難になる。
なお、図26に示した輝度プロファイル30〜32に示したように、蛍光画像の輝度分布は、蛍光試薬の培地中への拡散より、基本的には、ほぼ2次元正規分布となる。
以下に、本願の開示するマイクロインジェクション装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
まず、実施例1に示すマイクロインジェクション装置の概要について説明する。本実施例1に示すマイクロインジェクション装置は、吐出較正時に、露光時間の調整を行う。
そして、露光時間を調整することで、蛍光画像から取得される輝度プロファイルの最大画素輝度の値に対し、上限Jsを超えない所定値(以下、JHIGHとする)から背景ノイズの影響を受けない所定値(以下、JLOWとする)の範囲に調整する。
具体的に図を用いて説明する。図1は実施例1の概要を説明するための図である。図1に示したマイクロインジェクション装置100は、蛍光画像から取得される輝度プロファイル90の最大画素輝度の値(単に、JMAXとする)が上限Jsに飽和している場合は、取得したJMAXを上限Js未満の値(例えば、JAとする)に調整し、調整したJAが蛍光画像から取得されるように露光時間を調整する。
一方、JMAXが、背景ノイズの影響を受ける値である場合は、JMAXをJHIGHとJLOWが示す範囲内の値を有するようにJMAXを調整する。そして、調整したJMAX(例えば、「JA」とする)が、蛍光画像から取得されるように露光時間を調整する。
このように、マイクロインジェクション装置が、露光時間を調整することで、輝度プロファイルが示す最大画素輝度をJHIGHとJLowによって規定される範囲内の値に調整することで、吐出較正の許容範囲を実用上問題のない程度まで拡大することができる。
なお、図1に示した最大画素輝度JAが取得される露光時間を「最適な露光時間」として以下説明する。
次に、図1に示したマイクロインジェクション装置について説明する、図2は、実施例1に係るマイクロインジェクション装置を示す図である。図2に示したマイクロインジェクション装置100は、吐出較正時に、露光時間を適切に調整することで、吐出較正用のデータを正確に取得し、取得したデータに基づいて導入物質を細胞内に吐出する。
そして、マイクロインジェクション装置100は、制御部101と、キャピラリ針操作部102と、キャピラリ針103と、シャーレ104と、顕微鏡105と、高感度CCDカメラ106と、蛍光フィルタ107と、反射鏡108と、励起フィルタ109と、励起光源110とを有する。
制御部101は、従来技術にて説明した式(2)に基づいて、所望の吐出体積Vより吐出パラメータPi・Tiを計算し、所望の体積Vの導入物質を吐出するようにキャピラリ針操作部102に命令する処理部である。
さらに、本実施例に密接に関連する機能として、制御部101は、吐出する導入物質とキャピラリ針103に対して吐出較正する際に、蛍光画像を取得する。そして、取得した蛍光画像から最大画素輝度JMAXを算出し、算出したJMAXに基づいて、露光時間を調整する。
そして、制御部101は、記憶部101aと、吐出制御部101bと、画像取得部101cと、露光時間制御部101dとを有する。
記憶部101aは、蛍光試薬に関する固有のデータ(蛍光試薬の種類、試薬定数α、基準濃度ρ0、基準露光時間Te0)、吐出圧力Piと吐出圧力持続時間Tiを組み合わせたデータや、吐出圧力の最大値PiMAX、吐出圧力の持続時間の最大値TiMAXを有している。
さらに、記憶部101aは、上述した各種データに加えて定数テーブル111を有する。図3は、定数テーブルのデータ構造の一例を示す図である。
図3に示した定数テーブル111には、調整目標の上限JHIGH、および、下限JLOWが記憶されている。また、露光時間の上限TeHIGH、および、TeLOWが記憶されている。
また、上述したように、JHIGHは上限Jsを超えない所定値とし、JLOWは背景ノイズの影響を受けない所定値とする。
図2の説明に戻り、吐出制御部101bについて説明する。吐出制御部101bは、記憶部101aに記憶されている各種データに基づき、吐出する体積を制御する処理部である。
また、吐出較正時に、吐出制御部101bは、高感度CCDカメラ106の露光時間Teを初期露光時間Te1に設定し、記憶部101aから吐出圧力PiMAXと吐出時間TiMAXを取得し、取得したPiMAXとTiMAXにより吐出命令を出力する。なお、吐出圧力と吐出時間の積を吐出パラメータとして以下説明する。
画像取得部101cは、吐出較正時に蛍光画像を取得し、取得した画像を露光時間制御部101dに出力する手段である。この蛍光画像とは、高感度CCDカメラ106が撮影する画像である。一例として、図26に示した蛍光画像23が挙げられる。
露光時間制御部101dは、画像取得部101cから取得した蛍光画像から最大画素輝度JMAXを算出し、算出したJMAXが、JHIGHとJLOWの範囲にある場合には、JMAXを撮影した時間を最適な露光時間TeBとして決定する。
具体的には、図3に示した定数テーブル111を用いて説明する。まず、露光時間制御部101dは、画像取得部101cから蛍光画像を取得する。そして、取得した蛍光画像から従来の技術を用いてJMAXを算出する。
そして、露光時間制御部101dは、定数テーブル111に記憶されているJHIGHとJLOWを取得し、算出したJMAXと比較する。露光時間制御部101dは、JMAXがJHIGHを超えていないと判定した場合(JMAX<JHIGH)は、JMAXとJLOWの値の比較を行う。
この場合、露光時間制御部101dは、取得したJMAXとJLOWを比較して、JMAXがJLOW未満でない場合(JMAX>JLOW)、初期露光時間Te1を最適な露光時間TeBとして決定する。
一方、露光時間制御部101dは、定数テーブル111から取得したJHIGHと算出したJMAXを比較した結果より、JMAXがJHIGHを超えていると判定した場合(JMAX>JHIGH)、初期露光時間Te1に一定倍率(例えば、0.65倍)を乗算し、乗算した値Te2を吐出制御部101bに出力する。
その後、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dにより入力されたTe2が、露光時間の下限TeLOW未満か否かを判定する。Te2がTeLOW未満でない場合(Te2>TeLOW)、吐出制御部101bは、露光時間TeをTe2に更新し、吐出命令をキャピラリ針操作部102に対して再び行う。
一方、Te2がTeLOW未満である場合(Te2<TeLOW)、吐出制御部101bは、初期露光時間Te1をTe2に更新しないで、吐出体積が較正許容範囲を上回っているとして吐出較正を中断する。
また、露光時間制御部101dは、取得したJMAXとJLOWを比較して、JMAXがJLOW未満である場合(JMAX<JLOW)、初期露光時間Te1に、C1=(JHIGH+JLOW)/2とJMAXの比率(C1/JMAX)を乗算し、乗算した値Te2を吐出制御部101bに出力する。
例えば、JMAX=「5」、JLOW=「10」、JHIGH=「20」、において、C1は「15」となり、JMAXとの比率から、初期露光時間Te1を3倍した値がTe2となる。この場合、露光時間Te2にて撮影した場合、JMAXは、「15」となり、JHIGHとJLOWの範囲の値を有することになる。
そして、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dにより入力されたTe2が、露光時間の上限TeHIGHを越えているか否かを判定する。Te2がTeHIGHを超えている場合(Te2>TeHIGH)、吐出制御部101bは、初期露光時間Te1をTe2に更新しないで、吐出体積Vが較正許容範囲を下回っているとして吐出較正を中断する。
一方、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dにより入力されたTe2がTeHIGH未満である場合(Te2<TeHIGH)、露光時間TeをTe2に更新し、吐出命令をキャピラリ針操作部102に対して再び行う。
このように、露光時間制御部101dは、算出したJMAXがJHIGHを超えている場合には、JMAXに対応する露光時間を0.65倍し、JLOW未満である場合には、JMAXに対応する露光時間にC1=(JHIGH+JLOW)/2とJMAXの比率(C1/JMAX)を乗算する。
また、算出したJMAXが、JHIGH未満で、かつJLOWを超えている場合には、上述した処理は行わず、露光時間Te1にて吐出を行う。このように、JHIGH未満で、かつJLOWを超えているようなJMAXが取得できる蛍光画像を撮影する露光時間を最適な露光時間TeBとして以下説明する。
キャピラリ針操作部102は、吐出較正時には、制御部101から吐出較正の命令を受けて導入物質を吐出し、吐出較正後は、制御部101から出力されるデータに基づき、導入物質を吐出する。
キャピラリ針103は、キャピラリ針操作部102に取り付けられ、内部に充填されている導入物質を制御部101から出力されるデータに基づいて吐出される。
シャーレ104は、図21に示した培地50dを満たす容器を示し、顕微鏡105は、シャーレ上に拡散する導入物質を観察する装置である。
高感度CCDカメラ106は、映像素子を用いて光学的な画像を電子的な画像データに変換する装置であり、蛍光画像を撮影する。また、撮影時における露光時間は、制御部101によって制御される。
蛍光フィルタ107は、高感度CCDカメラ106により得られた蛍光画像から蛍光波長以外の波長の光を除去し、蛍光画像の映像素子上に結像させるフィルタである。
反射鏡108は、顕微鏡105が観察した状態を高感度CCDカメラ106へ向けて反射するための鏡であり、また、励起光源110から発せられる励起光をキャピラリ針103から吐出される導入物質に向けて反射する。
励起光源110は、蛍光物質を含む導入物質がキャピラリ針103の先端から吐出された際に、この導入物質に対して励起光を照射するための光源である。
次に、実施例1に示したマイクロインジェクション装置100の処理について説明する。図4は、実施例1に示すマイクロインジェクション装置の処理を示すフローチャートである。まず、実際に使用する蛍光試薬の濃度ρをマイクロインジェクション装置100に入力する(ステップS90)。
次に、あらかじめ求められ記憶されている蛍光試薬のデータをマイクロインジェクション装置100が読込みを行う(ステップS91)。そして、露光時間制御部101dが露光時間の調整を行う(ステップS92)。
そして、ステップS102にて調整された露光時間が設定された後(ステップS93)、吐出較正用のデータを取得する(ステップS94)。その後、取得したデータに基づいて体積Vを計算する(ステップS95)。そして、吐出較正の結果を取得する(ステップS96)。
次に、実施例1で示した露光時間調整部101dの処理について説明する。図5は、実施例1に示す露光時間制御部の処理を示すフローチャートである。
マイクロインジェクション装置100に吐出圧力Piと吐出圧力の持続時間Tiを組み合わせたデータや、吐出圧力の最大値PiMAX、吐出圧力の持続時間の最大値TiMAX等のデータが入力される(ステップS100)。
そして、ステップS100にて入力された各種データが記憶部101aに記憶される(ステップS101)。吐出制御部101bは、高感度CCDカメラ106の初期露光時間Te1を設定する(ステップS102)。
そして、吐出制御部101bは、記憶部101aから吐出圧力PiMAXと吐出時間TiMAXを取得し、取得したPiMAXとTiMAXによる吐出命令を出力する(ステップS103)。
その後、画像取得部101cが、蛍光画像を取得し(ステップS104)、露光時間制御部101dは、取得した蛍光画像から最大画素輝度JMAXを取得する(ステップS105)。
そして、露光時間制御部101dは、ステップS105にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJHIGHを比較し、JMAXがJHIGHを超えている場合(ステップS106、Yes)、ステップS102にて設定した初期露光時間に一定倍率(例えば、0.65倍)を乗算する(ステップS107)。
そして、吐出制御部101bが、ステップS107にて算出された露光時間Te2が、露光時間の下限TeLOW未満か否かを判定し、Te2がTeLOW未満でない場合(ステップS108、No)、ステップS103に移行する。
一方、Te2がTeLOW未満である場合(ステップS108、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を上回っているとして、エラー中断する(ステップS109)。
また、ステップS106に示した比較結果より、JMAXがJHIGHを超えていない場合(ステップS106、No)、ステップS110に移行し、ステップS105にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJLOWを比較する。
そして、比較結果より、JMAXがJLOWを超えている場合(ステップS110、No)吐出制御部101bは、ステップS102にて設定した露光時間を最適な露光時間TeBに決定する(ステップS114)。
一方、JMAXがJLOWを超えていない場合(ステップS110、Yes)、露光時間制御部101dは、ステップS102にて設定した露光時間にC1=(JHIGH+JLOW)/2とJMAXの比率(C1/JMAX)を乗算する(ステップS111)。
そして、吐出制御部101bが、ステップS111にて算出された露光時間Te2と、露光時間の上限TeHIGHを比較して、Te2がTeHIGHを超えていない場合(ステップS112、No)、ステップS103に移行する。
一方、Te2がTeHIGHを超えている場合(ステップS112、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を下回っているとして、エラー中断する(ステップS113)。
このフローチャートによれば、露光時間制御部101dが、露光時間を調整することで、最大画素輝度JMAXをJHIGHとJLOWによって規定される範囲の値に調整し、吐出較正の許容範囲を実用上問題のない程度まで拡大することができる。
以上により、実施例1に示したマイクロインジェクション装置によれば、露光時間を調整することで、最大画素輝度をJHIGHとJLOWによって規定される範囲の値に調整することができる。具体的に図を用いて以下説明する。
図6は、実施例1の効果を説明するための図である。図6の左側に示した例は、輝度プロファイルの最大値J0が上限Jsを超えている場合で、最大画素輝度JMAXは上限Jsに等しくなっている。この場合、2回目のテスト吐出で、最大画素輝度JMAXをJHIGHとJLOWの範囲の値に調整している。
一方、図6の右側に示した例は、輝度プロファイルの最大画素輝度JMAXが小さすぎて背景ノイズの影響を受けている。この場合も左側に示した場合と同様に2回目のテスト吐出で、最大画素輝度JMAXをJHIGHとJLOWの範囲の値に調整している。
ところで、実施例1に示したマイクロインジェクション装置100は、算出した最大画素輝度JMAXが上限Jsに等しくなる場合、1回のテスト吐出につき、0.65倍の露光時間の引き下げを行っている。
そのため、吐出体積が平均的なものより極端(例えば、10倍以上)に大きいキャピラリ針の場合、1回のテスト吐出で0.65倍の露光時間の引き下げしか行われない。
このような場合、調整目標範囲内に最大画素輝度を調整するまでに5回以上のテスト吐出が必要となる。以下、具体的に図を用いて説明する。図7は、吐出体積が極端に大きい場合を説明するための図である。
図7に示すように、1回目の輝度プロファイル91の最大値J0が上限Jsよりも極端に大きい場合において、2回目の吐出較正において0.65倍しても、調整目標範囲内に最大画素輝度を有すことはない。
結果として、調整目標の範囲内に到達するまでに5回以上のテスト吐出が必要となる。通常、吐出された導入物質が拡散して、蛍光画像全体にほぼ一様に分布するまでに待ち時間(約10秒程度)が必要となることを考慮すると、テスト吐出を連続して5回行った場合、5回のテスト吐出には最低でも40秒程度が必要となり、操作性や作業性を著しく損なってしまう。
そこで、実施例2に示すマイクロインジェクション装置200は、蛍光画像から図7に示した「飽和画素輝度J0」を算出する処理部を実施例1に示したマイクロインジェクション装置100に設けるものとする。
なお、上述した「飽和画素輝度」とは、輝度プロファイルが示す最大値が、飽和領域に含まれている場合の真の最大画素輝度を示すものとし、これを「J0」として以下説明する。
実施例2に示すマイクロインジェクション装置200は、図2に示したマイクロインジェクション装置100とほぼ同等の機能を有し、このマイクロインジェクション装置100と同等の機能を有する機能部についての詳細な説明は省略する。
図8は、実施例2に係るマイクロインジェクション装置を示す図である。図8に示したマイクロインジェクション装置200は、制御部101と、キャピラリ針操作部102と、キャピラリ針103と、シャーレ104と、顕微鏡105と、高感度CCDカメラ106と、蛍光フィルタ107と、反射鏡108と、励起フィルタ109と、励起光源110とを有する。
そして、制御部101は、記憶部101aと、吐出制御部101bと、画像取得部101cと、露光時間制御部101d、飽和画素輝度算出部101eとを有する。
したがって、マイクロインジェクション装置100との違いは、制御部101に、飽和画素輝度の算出機能を有していることである。以下、飽和画素輝度算出部101eが行う処理について説明する。
飽和画素輝度算出部101eは、蛍光画像から飽和している領域の画素数の画像全体の画素数に対する割合(飽和画素数比)を取得し、取得した画素数比に基づいて飽和画素輝度J0を算出する処理部である。
まず、飽和画素輝度算出部101eが飽和画素輝度J0を算出する際に使用する関数について説明する。一般に、蛍光画像が示す輝度の分布は2次元正規分布で表されることから、この関数を使用して、J0を算出するものとする。なお、蛍光画像が示す輝度の分布を単に「輝度分布」とする。
図9は、蛍光画像と2次元正規分布をなす輝度分布を説明するための図である。図9には、2次元正規分布をとる輝度分布500および対応する蛍光画像24を示す。図の横軸はxy座標、縦軸は画素輝度であり、輝度分布は、蛍光画像24の縦と横のサイズを「1」とし、これを単位とした2次元正規分布:J0exp(−(x2+y2)/σ2)として示している。σは分布の標準偏差であり、マイクロインジェクション装置200の実験によれば、σ=0.1程度である。
図10は、飽和画素数比と飽和画素輝度の関係について説明するための図である。図10では、図9に示す2次元正規分布を極座標形式:J0exp(−r2/σ2)で示している。
ここで、Jsは上限を示し、ns=πrs 2は、画像全体の画素数に対する飽和した領域の画素数の割合(以下、飽和画素数比とする)を示し、J0は上述したように飽和画素輝度を示す。なお、画素輝度は上限Jsを1として規格化して示している。
まず、図10に示した2次元正規分布500にて、導入物質に含まれる蛍光試薬の輝度分布が示される。そして、上限Js以下の輝度分布(図10の実線部)については計測できるが、上限Jsを超える輝度分布(図9の点線部)については計測することができない。
この場合、蛍光画像より、飽和画素数比nsを算出すれば、以下に示す式(8)により、飽和画素輝度J0を求めることができる。
まず、2次元正規分布500が示す関数から、上限Jsの輝度となる動径座標をr
sとすると、以下の式(6)が得られる。
r≦r
sの領域が飽和領域であるから、飽和画素数比n
sをr
sで表すと、以下の式(7)になる。
式(6)と式(7)より、飽和画素数比n
sと飽和画素輝度J
0の関係が求められ、以下の式(8)が得られる。
例えば、Js=1、σ=0.1とした場合、πσ2≒0.03となり、式(8)に示した「C」の値は、C=0.03となる。この場合の計算結果を、X軸に飽和画素数比ns、Y軸に飽和画素輝度J0をとり、図11に示す。
図11に示したグラフ14より、飽和画素輝度J0の対数の値は、飽和画素数比nsに比例することが分かる。
次に、図11に示した関係を踏まえ、初期露光時間Te1で蛍光画像を撮影し、蛍光画像から取得された最大画素輝度の値が上限Jsであった場合を例に挙げ、飽和画素輝度算出部101eが行う処理について説明する。
まず、飽和画素輝度算出部101eは、画像取得部101cから蛍光画像を取得し、取得した蛍光画像から飽和領域の画素数比nsを算出する。そして、算出したnsを式(8)に代入することで、飽和画素輝度J0を算出する。
そして、初期露光時間Te1に対して、C1/J0(ここで、C1=(JHIGH+JLOW)/2とする)を乗ずることにより、飽和画素輝度J0を調整目標範囲の中央レベルに調整する露光時間Te2を算出し、露光時間制御部101dに出力する。
その後、吐出制御部101bが、取得した露光時間Te2が、露光時間の下限TeLOW未満か否かを判定し、Te2がTeLOW未満でない場合に、初期露光時間Te1をTe2に更新し、吐出を行う。
この実施例2によれば、極端に大きな吐出体積の場合でも、2〜3回のテスト吐出により、最適な露光時間TeBを決定することができ、約2〜3倍の露光時間の調整時間の短縮が可能となる。
次に、実施例2で示したマイクロインジェクション装置200の処理について説明する。図12は、実施例2で示したマイクロインジェクション装置200の処理を説明するためのフローチャートである。
まず、マイクロインジェクション装置200に吐出圧力Piと吐出圧力の持続時間Tiを組み合わせたデータや、吐出圧力の最大値PiMAX、吐出圧力の持続時間の最大値TiMAX等のデータが入力される(ステップS200)。
そして、ステップS200にて入力された各種データが記憶部101aに記憶される(ステップS201)。その後、吐出制御部101bは、高感度CCDカメラ106の初期露光時間Te1を設定する(ステップS202)。
そして、吐出制御部101bは、記憶部101aから吐出圧力PiMAXと吐出時間TiMAXを取得し、取得したPiMAXとTiMAXによる吐出命令を出力する(ステップS203)。
その後、画像取得部101cが、蛍光画像を取得し(ステップS204)、露光時間制御部101dは、取得した画像から最大画素輝度JMAXを取得する(ステップS205)。
そして、露光時間制御部101dは、ステップS205にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJHIGHを比較し、JMAXがJHIGHを超えている場合(ステップS206、Yes)、飽和画素輝度算出部101eが飽和画素数比nsを計算する(ステップS207)。
その後、飽和画素輝度算出部101eは、式(7)を用いて、飽和画素輝度J0を算出し、露光時間制御部101bに出力する(ステップS208)。
そして、露光時間制御部101dが、初期露光時間Te1にC1/J0を乗算した値Te2を吐出制御部101bに出力する(ステップS209)。
そして、吐出制御部101bが、ステップS209にて算出された露光時間Te2が、露光時間の下限TeLOW未満か否かを判定し、Te2がTeLOW未満でない場合(ステップS210、No)、ステップS203に移行する。
一方、Te2がTeLOW未満である場合(ステップS210、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を上回っているとして、エラー中断する(ステップS211)。
ステップS206に示した比較結果より、JMAXがJHIGHを超えていない場合(ステップS206、No)、ステップS212に移行し、ステップS205にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJLOWを比較する。
比較結果より、JMAXがJLOWを超えている場合(ステップS212、No)、吐出較正は、ステップS202にて設定した露光時間Te2を最適な露光時間TeBに決定する(ステップS216)。
一方、JMAXがJLOWを超えていない場合(ステップS212、Yes)、露光時間制御部101dは、ステップS202にて設定した露光時間にC1=(JHIGH+JLOW)/2とJMAXの比率(C1/JMAX)を乗算する(ステップS213)。
そして、吐出制御部101bが、ステップS213にて算出された露光時間Te2が、露光時間の上限TeHIGH未満か否かを判定し、Te2がTeHIGHを超えていない場合(ステップS214、No)、ステップS203に移行する。
一方、Te2がTeHIGHを超えている場合(ステップS214、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を下回っているとして、エラー中断する(ステップS215)。
このフローチャートによれば、飽和画素輝度算出部101eが、飽和画素輝度J0を算出することで、吐出体積が極端に大きい場合でも、最小限の回数の露光時間の調整で、最大画素輝度JMAXをJHIGHとJLOWによって規定される範囲の値に調整し、吐出較正の許容範囲を実用上問題のない程度まで拡大することができる。
ところで、実施例2に示したマイクロインジェクション装置200は、蛍光画像の輝度分布の標準偏差σをあらかじめ調査して求めた一定値(例えば、0.1)としたが、蛍光試薬と混合する導入物質の種類によっては、σの値が異なる場合があり、この場合、飽和画素輝度算出部101eが算出する飽和画素輝度J0の算出精度が低下する。
そこで、以下に示す実施例3では、飽和画素数比nsに加えて、上限Jsから一定割合だけ輝度を下げたレベルに閾値Jtを設け、この閾値Jtを超える輝度の画像全体の画素に対する比率ntを算出する手段を設ける。なお、ntを閾値画素数比とする。
そして、実施例3に示すマイクロインジェクション装置300は、蛍光画像から飽和画素数比nsと上述した閾値画素数比ntを算出し、算出したnsとntとから飽和画素輝度J0を算出する処理部を実施例2に示したマイクロインジェクション装置200に設けるものとする。
なお、実施例2と同様に、「飽和画素輝度J0」とは、輝度プロファイルの最大値が、飽和領域に含まれている場合の真の最大画素輝度を示すものとし、これを「J0」として以下説明する。
実施例3に示すマイクロインジェクション装置300は、図2に示したマイクロインジェクション装置100とほぼ同等の機能を有し、このマイクロインジェクション装置100と同等の機能を有する機能部についての詳細な説明は省略する。
図13は、実施例3に係るマイクロインジェクション装置を示す図である。図13に示したマイクロインジェクション装置300は、制御部101と、キャピラリ針操作部102と、キャピラリ針103と、シャーレ104と、顕微鏡105と、高感度CCDカメラ106と、蛍光フィルタ107と、反射鏡108と、励起フィルタ109と、励起光源110とを有する。
そして、制御部101は、記憶部101aと、吐出制御部101bと、画像取得部101cと、露光時間制御部101d、飽和画素輝度算出部101eと、閾値画素数比算出部101fを有する。
したがって、マイクロインジェクション装置100との違いは、制御部101に、飽和画素輝度算出部101eと閾値画素数比算出部101fを有していることである。以下、飽和画素輝度算出部101eと閾値画素数比算出部101fが行う処理について説明する。
閾値画素数比算出部101fは、蛍光画像より上述した閾値Jtを超える輝度の画素数比ntを算出し、飽和画素輝度算出部101eに出力する。飽和輝度算出部は、蛍光画像より飽和画素数比nsを算出し、飽和画素数比nsと閾値画素数比ntとより、飽和画素輝度J0を算出する処理部である。
まず、上述したJtと、画素数比ntの関係について説明し、その後、閾値画素数比算出部101fと飽和画素輝度算出部101eが行う処理について説明する。
図14は、閾値画素数比と輝度分布の関係について説明するための図である。ここで、図9と同様に、2次元正規分布をなす輝度分布600を極座標形式で示す。図において、Jsは撮像系の上限を示し、nsは飽和画素数比を示し、J0は上述したように飽和画素輝度J0を示す。なお、画素輝度は上限Jsを1として規格化して示している。
Js・Jtは上限Jsから所定割合(Jt)だけ画素輝度を下げた閾値を示し、ntは画像全体の画素数に対するJs・Jtを超える領域の画素数の割合(以下、閾値画素数比とする)を示している。
まず、図14に示した2次元正規分布600にて、導入物質に含まれる蛍光試薬の輝度分布が示される。そして、上限Js以下の輝度分布(図14の実線部)については計測できるが、上限Jsを超える輝度分布(図14の点線部)については計測することができない。
この場合、蛍光画像より飽和画素数比nsと閾値画素数比ntを求めれば、以下の式(9)により、分布の標準偏差σが未知でも、飽和画素輝度J0を求めることができる。
飽和画素数比nsと飽和画素輝度J0の関係は、実施例2の場合と同様、式(8)で与えられる。
次に、2次元正規分布600が示す関数から、輝度が閾値Jt・Jsを超える領域の画素数の画像全体の画素数に対する割合(閾値画素数比n
t)を、同様な方法で求めると、以下の式(9)が得られる。
そして、式(8)と式(9)より、σを消去すると、最終的に、n
s、n
t、Jt、JsよりJ
0が算出される式(10)が得られる。
Jt=0.5とした場合を例に挙げて説明する。図15は、σを任意に設定したときの飽和画素輝度について説明するための図である。
図15において、X軸は飽和画素数比ns、Y軸は式(10)により計算された飽和画素輝度J0である。このグラフ15〜グラフ17より、任意のσに対し、飽和画素輝度J0が求められることを示している。
続いて、飽和画素輝度算出部101eおよび閾値画素数比算出部101fが行う処理を上述した計算式を踏まえて説明する。なお、初期露光時間はTe1で蛍光画像を撮影し、蛍光画像から取得された最大画素輝度の値が上限Jsであった場合を例にあげ説明する。また、記憶部101aには、実施例1で示した各種データに加えて、Jt:0.5が記憶されているものとする。
まず、閾値画素数比算出部101fは、画像取得部101cから蛍光画像を取得し、取得した蛍光画像から閾値画素数比ntを算出し、飽和画素輝度算出部101eに出力する。次に、飽和画素輝度算出部101eは、同じ蛍光画像から飽和画素数比nsを算出し、nsとntとを用い式(10)から飽和画素輝度J0を求める。
そして、初期露光時間Te1に対して、C1/J0(ここで、C1=(JHIGH+JLOW)/2とする)を乗ずることより。飽和画素輝度J0を調整目標範囲の中央レベルに調整する露光時間Te2を取得する。
その後、吐出制御部101bが取得した露光時間Te2が、露光時間の下限TeLOW未満か否かを判定し、Te2がTeLOW未満でない場合に、初期露光時間Te1をTe2に更新し、再度、吐出を行う。
この実施例によれば、飽和画素数比nsと閾値画素数比ntの値を求めることで、輝度分布の標準偏差σが未知の場合でも、飽和画素輝度J0を算出することが可能となる。
なお、実施例2、実施例3では、輝度分布における、飽和画素数比や、閾値画素数比が示す値で飽和画素輝度を求めたが、代わりに、飽和領域の半径rs、閾値超過領域の半径rt、あるいは直径を指標として用いてもよい。
例えば、半径r
s、r
tを用いる場合、実施例2における飽和画素輝度J
0は、以下の式(11)を用いれば算出される。
そして、半径r
s、r
tを用いて、実施例3における飽和画素輝度J
0を算出する場合、以下の式(12)を用いれば算出される。
この実施例3によれば、σの値が不明でも、最適な露光時間TeBを決定することがで、さらに、約2〜3倍の露光時間の調整時間の短縮が可能となる。
次に、実施例3で示したマイクロインジェクション装置300の処理について説明する。図16は、実施例3で示すマイクロインジェクション装置の処理を示すフローチャートある。
まず、マイクロインジェクション装置300に吐出圧力Piと吐出圧力の持続時間Tiを組み合わせたデータや、吐出圧力の最大値PiMAX、吐出圧力の持続時間の最大値TiMAX等のデータが入力される(ステップS300)。
そして、ステップS300にて入力された各種データが記憶部101aに記憶される(ステップS301)。吐出制御部101bは、高感度CCDカメラ106の初期露光時間Te1を設定する(ステップS302)。
そして、吐出制御部101bは、記憶部101aから吐出圧力PiMAXと吐出時間TiMAXを取得し、取得したPiMAXとTiMAXによる吐出命令を出力する(ステップS303)。
その後、画像取得部101cが、蛍光画像を取得し(ステップS304)、露光時間制御部101dは、取得した画像から最大画素輝度JMAXを取得する(ステップS305)。
そして、露光時間制御部101dは、ステップS305にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJHIGHを比較し、JMAXがJHIGHを超えている場合(ステップS306、Yes)、閾値画素数比算出部101fが閾値画素数比ntを算出し、飽和画素輝度算出部101eに出力される。また、飽和画素輝度算出部101eが飽和画素数比nsを計算する(ステップS307)。
その後、飽和画素輝度算出部101eは、式(10)を用いて、飽和画素輝度J0を算出する(ステップS308)。そして、初期露光時間Te1にC1/J0を乗算する(ステップS309)。
そして、吐出制御部101bが、ステップS309にて算出された露光時間Te2が、露光時間の下限TeLOW未満か否かを判定し、Te2がTeLOW未満でない場合(ステップS310、No)、ステップS303に移行する。
一方、Te2がTeLOW未満である場合(ステップS310、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を上回っているとして、エラー中断する(ステップS311)。
また、ステップS306に示した比較結果より、JMAXがJHIGHを超えていない場合(ステップS306、No)、ステップS312に移行し、ステップS305にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJLOWを比較する。
比較結果より、JMAXがJLOWを超えている場合(ステップS312、No)、吐出較正は、ステップS302にて設定した露光時間Te1を最適な露光時間TeBに決定する(ステップS316)。
一方、JMAXがJLOWを超えていない場合(ステップS312、Yes)、露光時間制御部101dは、ステップS302にて設定した露光時間にC1=(JH1+JL1)/2とJMAXの比率(C1/JMAX)を乗算する(ステップS313)。
そして、吐出制御部101bが、ステップS313にて算出された露光時間(例えば、Te2が、露光時間の上限TeHIGH未満か否かを判定し、Te2がTeHIGHを超えていない場合(ステップS314、No)、ステップS303に移行する。
一方、Te2がTeHIGH未満である場合(ステップS314、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を下回っているとして、エラー中断する(ステップS315)。
このフローチャートによれば、任意のσの値に対して、飽和画素輝度J0を算出することができ、最大画素輝度JMAXをJHIGHとJLOWによって規定される範囲の値に調整し、吐出較正の許容範囲を実用上問題のない程度まで拡大することができる。
ところで、実施例1に示したマイクロインジェクション装置100は、複数の蛍光画像の撮影を0.5秒以内に行う。このことから、導入物質の吐出直後の状況を複数撮影すると、導入物質が広く拡散しないうちに複数の蛍光画像を取得することができる。
そこで、以下の実施例4に示すマイクロインジェクション装置400は、導入物質の吐出直後に、露光時間を変えながら複数の蛍光画像を取得し、取得した複数の蛍光画像から各最大画素輝度JMAXを取得し、取得した各JMAXの中から、JHIGHとJLOWによって規定される範囲の値を有するJMAXを選択し、選択したJMAXに対応する露光時間を最適な露光時間TeBとする。
実施例4に示すマイクロインジェクション装置400は、実施例1に示したマイクロインジェクション装置100とほぼ同等の機能を有し、このマイクロインジェクション装置100と同等の機能を有する機能部についての詳細な説明は省略する。
図17は、実施例4に係るマイクロインジェクション装置を示す図である。図17に示すマイクロインジェクション装置400は、制御部101と、キャピラリ針操作部102と、キャピラリ針103と、シャーレ104と、顕微鏡105と、高感度CCDカメラ106と、蛍光フィルタ107と、反射鏡108と、励起フィルタ109と、励起光源110とを有する。
そして、制御部101は、記憶部101aと、吐出制御部101bと、画像取得部101cと、露光時間制御部101d、蛍光画像選択部101gとを有する。
したがって、マイクロインジェクション装置100との違いは、制御部101に、蛍光画像選択部101gを有していることである。以下、蛍光画像選択部101gが行う処理について説明する。
まず、吐出制御部101bが、高感度CCDカメラ106の初期露光時間をTe40、Te41、Te42に設定する。そして、最も長い初期露光時間をTe42、最も短い初期露光時間をTe40、Te40とTe42の間の初期露光時間をTe41とする。
また、Te40、Te41、Te42の間は、10倍以上の差分を設けるものとし、例えば、Te40を「0.001秒」とした場合、Te41、Te42はそれぞれ、0.01秒、0.1秒とする。
そして、蛍光画像選択部101gは、Te40、Te41、Te42で撮影された各蛍光画像を画像取得部101cから取得し、取得された3枚の蛍光画像の最大画素輝度をそれぞれ、JMAX40、JMAX41、JMAX42とする。
そして、蛍光画像選択部101gは、上述した各JMAXの中から調整目標の上限JHIGHを超えないもので最大の最大画素輝度JMAXを選択し、選択したJMAXをJMAX4Aとし、JMAX4Aを露光時間制御部101dに出力する。
そして、露光時間制御部101dは、取得したJMAX4AがJLOWを超えている場合は、JMAX4Aに対応する初期露光時間Te4Aを最適な露光時間TeBに決定する。
例えば、JMAX4Aに対応する最大画素輝度がJMAX40であれば、Te4A=Te40を最適な露光時間TeBとし、JMAX4Aに対応する最大画素輝度がJMAX41であれば、Te4A=Te41を最適な露光時間TeBとし、JMAX4Aに対応する最大画素輝度がJMAX42であれば、Te4A=Te42を最適な露光時間TeBとする。
続いて、取得したJMAX4AがJLOWを超えていない場合(JMAX4A<JLow)、露光時間制御部101dの処理ついて説明する。まず、露光時間制御部101dは、JMAX4Aに対応する初期露光時間Te4AにC1=(JHIGH+JLOW)/2とJMAX4Aの比率(C1/JMAX4A)を乗算し、乗算した値「Te4AA」を吐出制御部101bに出力する。
例えば、JMAX4A=「5」、JLOW=「10」、JHIGH=「20」、において、C1は「15」となり、JMAX4Aとの比率から、初期露光時間Te4Aを3倍した値が「Te4AA」となる。
その結果、露光時間「Te4AA」で撮影した場合、JMAX4Aは、「15」となり、JHIGHとJLOWの範囲の値を有することになる。
したがって、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dにより入力されたTe4AAが露光時間の上限TeHIGH未満である場合(Te40A<TeH1)、初期露光時間Te4AをTe4AAに更新し、吐出命令をキャピラリ針操作部102に対して再び行う。
一方、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dにより入力されたTe4AAが、上述した場合とは異なり、露光時間の上限TeHIGHを越えている場合(Te40A>TeHIGH)、吐出制御部101bは、基準露光時間Te4AをTe4AAに更新しないで、吐出体積が較正許容範囲を下回っているとして吐出較正を中断する。
次に、実施例4に示したマイクロインジェクション装置400の処理について説明する。図18は、実施例4に示すマイクロインジェクション装置の処理を説明するためのフローチャートである。
まず、マイクロインジェクション装置400に吐出圧力Piと吐出圧力の持続時間Tiを組み合わせたデータや、吐出圧力の最大値PiMAX、吐出圧力の持続時間の最大値TiMAX等のデータが入力される(ステップS400)。
そして、ステップS400にて入力された各種データが記憶部101aに記憶される(ステップS401)。吐出制御部101bは、高感度CCDカメラ106に順次設定する初期露光時間Te40、Te41、Te42を準備する(ステップS402)。
そして、吐出制御部101bは、記憶部101aから吐出圧力PiMAXと吐出時間TiMAXを取得し、取得したPiMAXとTiMAXにより吐出命令を出力する(ステップS403)。
その後、画像取得部101cが、初期露光時間Te40〜Te42まで、順次、高感度CCDカメラ106に設定しては、蛍光画像の取得を繰り返し(ステップS404)、取得した3枚の画像を蛍光画像選択部101gに出力する。そして、蛍光画像選択部101gは、取得した各蛍光画像から最大画素輝度JMAXを取得する(ステップS405)。
次に、蛍光画像選択部101gは、各JMAXの中から調整目標の上限JHIGHを超えないもので最大の画素輝度のJMAXを選択する(ステップS406、No)(ステップS407)。
ここで、蛍光画像選択部101gが、ステップS405で、3枚の蛍光画像を取得し、各JMAXの中から調整目標の上限JHIGHを超えないもので最大の画素輝度のJMAXを選択できなかった場合(ステップS406、Yes)、吐出体積が較正許容範囲を上回っているとして吐出較正を中断する(ステップS408)。
次に、蛍光画像選択部101gにより選択されたJMAXは、露光時間制御部101dに出力され、露光時間制御部101dは、取得したJMAXがJLOWを超えている場合(ステップS409、No)は、JMAXに対応する初期露光時間Te4Aを最適な露光時間TeBに決定する(ステップS410)。
一方、蛍光画像選択部101gにより選択されたJMAXが、JLOWを超えていない場合(ステップS409、Yes)は、JMAXに対応する初期露光時間にC1=(JHIGH+JLOW)/2とJMAXの比率(C1/JMAX)を乗算する(ステップS411)。
そして、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dより入力された露光時間(例えば、Te4AA)が露光時間の上限TeHIGH未満である場合(ステップS412、No)、露光時間をTe4AAに更新し、吐出命令をキャピラリ針操作部102に対して再び行う(ステップS413)。
一方、吐出制御部101bは、露光時間制御部101dにより入力されたTe4AAが、上述した場合とは異なり、露光時間の上限TeHIGHを越えている場合(ステップS412、Yes)、吐出制御部101bは、露光時間Te4AをTe4AAに更新しないで、吐出体積Vが較正許容範囲を下回っているとして吐出較正を中断する(ステップS418)。
ステップS413後、画像取得部101cが、蛍光画像を取得し(ステップS414)、露光時間制御部101dは、取得した画像から最大画素輝度JMAXを取得する(ステップS415)。
そして、露光時間制御部101dは、ステップS415にて取得したJMAXと記憶部101aに記憶しているJHIGHを比較し、JMAXがJHIGHを超えている場合(ステップS416、Yes)、ステップS413にて設定した露光時間Te4AAに一定倍率(例えば、0.8倍)を乗算する(ステップS417)。その後、ステップS413に移行する。
一方、JMAXがJHIGHを超えていない場合(ステップS416、No)、ステップS409に移行する。
このフローチャートによれば、3種類の露光時間には100倍の範囲があることから、最初のテスト吐出時に、吐出体積が極端に大きい場合でも、飽和せず、かつ、適度な大きさの最大画素輝度を有する蛍光画像を取得することができ、吐出較正の許容範囲を実用上問題のない程度まで拡大することができる。