JP2010236092A - 硬質皮膜を備えた耐摩耗性部材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルミニウム酸化物を基とする硬質皮膜を基材に被覆した硬質皮膜形成部材であって、硬質皮膜は、Al1-xMx(O1-yNy)z(0≦x≦0.5、0<y≦0.4、z>0)で表される組成を有し、この組成におけるMは、Ti,Zr,V,Nb,Mo,W,Y,Mg,Si,Bから選択される少なくとも1種の元素であることを特微とする。このような硬質皮膜は、基材の温度を400〜600℃として形成できる。
【選択図】図1
Description
Al1-xMx (O1-yNy)z ・・・式(1)
(0≦x≦0.5、0<y≦0.4、z>0)
前記式(1)におけるMが、Ti,Zr,V,Nb,Mo,W,Y,Mg,Si,Bから選択される少なくとも1種の元素であることを特微とする。
Al1-xMx (O1-yNy)z ・・・式(2)
(0<x≦0.3、0<y≦0.4、z>0)
前記式(2)におけるMが、Yを除く希土類元素から選択される少なくとも1種の元素であることを特微とする。
本発明に係る硬質皮膜形成部材は、切削工具、摺動部材、および成型用金型等であり、その表面にγ−アルミナを基とする硬質皮膜が形成されてなる。また、硬質皮膜で被覆される基材は超硬合金、高速度工具鋼、サーメット、立体ホウ素焼結体等の公知の材料からなる。そして、これらの基材に下地層を介して前記硬質皮膜が形成される。下地層としては、基材表面との密着性および耐酸化性に優れた、Al,Siの少なくとも1種を含有する窒化物が推奨される。
以下、本発明に係る皮膜を構成する各要素(元素ならびに含有量)について説明する。
第1の実施形態に係る皮膜は、組成式Al1-xMx (O1-yNy)z(0≦x≦0.5、0<y≦0.4、z>0)で示され、γ−アルミナを基とし、酸素元素(O)より少ない数の窒素元素(N)を含有する。さらに、金属元素または半金属元素(組成式におけるM)として、Ti,Zr,V,Nb,Mo,W,Y,Mg,Si,Bから選択される少なくとも1種の元素を、アルミニウム(Al)と同数以下含有することが好ましい。なお、前記組成式におけるz、すなわちAl,Mの原子数の合計に対するO,Nの原子数の合計の比は、x,yの値およびMの価数に伴い変化する値である。
N(窒素)は、γ型の結晶構造を安定化するため、本実施形態に係る皮膜における必須元素である。その効果を十分なものとするために、Oの原子数との合計を1としたときの原子比yは、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上である。しかしながら、Nの原子数がO(酸素)を超えると窒化物(AlN)の結晶構造に転移することから、Nは酸素元素(O)と同数以下、すなわちyは0.5以下とし、好ましくは0.4以下である。したがって、本実施形態に係る皮膜の組成において、Nの原子比yは0<y≦0.4である。
本実施形態に係る皮膜にさらに添加される元素としては、第4族、第5族、およびCrを除く第6族、そして、Y,Mgの金属元素、ならびにSi,Bの半金属元素が挙げられる。これらの元素は、γ型の結晶構造を安定化すると共に、N(窒素)と共存することで皮膜を高硬質化する作用を有する。Nを添加されたアルミニウム酸化物(窒酸化物)はγ相の安定性が高くなり、他に元素を添加しなくても十分な安定性が得られるが、安定性をより十分なものとし、さらに皮膜を高硬質化するために、これらの元素を添加することが好ましい。具体的には、第4族としてはTi,Zr、第5族としてはV,Nb、第6族としてはMo,Wが好ましい。すなわち、本発明の第1の実施形態に係る皮膜に添加される元素Mは、Ti,Zr,V,Nb,Mo,W,Y,Mg,Si,Bから少なくとも1種が選択される。特に、Ti,Zr,Mgが好ましい。一方、V,Mo,Wは形成される酸化物の融点が低いため、非高温域での使用に推奨される。
第2の実施形態に係る皮膜は、組成式Al1-xMx (O1-yNy)z(0<x≦0.3、0<y≦0.4、z>0)で示され、γ−アルミナを基とし、Alに対して組成式に示すような所定数以下の希土類元素(Yを除く)Mを含有する。さらに、酸素元素(O)より少ない数の窒素元素(N)を含有する。このように、第1の実施形態の金属元素等に代えて希土類元素を添加しても、γ相の安定性を高くすることができる。また、前記組成式におけるzは、第1の実施形態と同様に、x,yの値およびMの価数に伴い変化する値である。
希土類元素はγ型の結晶構造を安定化するため、必須元素である。また、皮膜を高硬質化する作用も有する。特に、Nd,Ce,Laが好ましい。それらの効果を十分なものとするために、Alの原子数との合計を1としたときの原子比xは、0.05以上が好ましい。しかしながら、xが0.3を超えると皮膜の硬さが低下することから、xは0.3以下とし、好ましくは0.2以下である。したがって、本実施形態に係る皮膜の組成において、希土類元素Mの原子比xは0<x≦0.3とし、好ましくは0.05≦x≦0.2である。なお、Mを2種以上の元素とする場合、これら複数種の元素の合計原子数の原子比をxとする。また、このとき、各元素(M)間の原子比は特に限定されない。
前記したように、N(窒素)はγ型の結晶構造を安定化するが、Yを除く希土類元素を添加されたアルミニウム酸化物はγ相の安定性が高くなるので、Nを添加しなくても十分な安定性が得られる。しかし、安定性をより十分なものとするために、Nを添加することとし、Oの原子数との合計を1としたときの原子比yは、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.1以上である。一方、第1の実施形態と同様に、過剰にNを添加すると窒化物の結晶構造に転移することから、yは0.5以下とし、好ましくは0.4以下である。したがって、本実施形態に係る皮膜の組成において、Nの原子比yは0<y≦0.4とする。
本発明に係る硬質皮膜形成部材は、窒化物からなる下地層を基材上に形成した後、基材の温度を400〜600℃として、前記第1、第2の実施形態に係る皮膜を形成することにより製造される。下地層とする窒化物は、前記した通りAl,Siの少なくとも1種を含有し、酸化開始温度が800℃以上であるものを適用する。
(皮膜の形成時の基材の温度:400〜600℃)
本発明に係る皮膜はCVD法およびPVD法により形成することができる。しかしながら、約1000℃以上となる高温下でのCVD法による成膜は、基材に変形を生じる虞があるので好ましくない。したがって、低温で処理可能なPVD法による成膜が好ましく、酸素(O2)を含有する雰囲気(例えばAr−O2雰囲気)中で処理する反応性スパッタリングや、同じく酸素含有雰囲気中で処理するイオンプレーティングが推奨される。また、窒素を含有する皮膜を形成する場合には、窒素(N2)を、形成する皮膜における所望の窒素含有量となるように添加する。処理温度は、形成される皮膜の温度すなわち基材の温度であり、400℃未満では、非晶質となり、一方、約1000℃以上になると基材に変形を生じる虞がある。また、本発明に係る組成の皮膜であっても、このような高温下での皮膜形成ではα型の結晶構造となる場合がある。さらに、処理室内で最も温度が高い部分はヒータ表面であるが、このヒータ温度が800℃を超えると、後記の下地層が酸化されることで窒素を生成して好ましくない。このとき、基材の温度は600℃を超える。したがって、本実施形態に係る皮膜の形成時の基材の温度は400〜600℃が好ましい。
本発明に係る皮膜は化学的に安定であることから、基材とも結合し難い。すなわち、皮膜は基材表面との高い密着性が得られない特性を有しているため、基材との間に下地層を設ける必要がある。下地層としては、基材表面との密着性に優れた窒化物が推奨される。ここで、本発明に係る皮膜すなわち酸化物、窒酸化物の成膜においては、ヒータ温度を800℃程度とし、基材の温度を400〜600℃の範囲に保って成膜を実施する。このとき、下地層として基材表面に形成された窒化物MN(Mは金属元素または半金属元素)が導入した酸素O2により酸化されると、MN+O2→MO+N2の反応で窒素ガスN2が発生するため、処理室内の窒素分圧をコントロールすることが困難となる。また、下地層の一部が酸化物となって基材表面との密着性が低下する。そのため、下地層として形成する窒化物は、その酸化開始温度が十分に高く、皮膜の形成時に酸化しないことが条件となる。したがって、酸化開始温度が800℃以上となるAl,Siの少なくとも1種を含有する窒化物を、下地層とすることが好ましい。このような窒化物において、金属および半金属元素中に占めるAlまたはSiの分率(原子比)は、Alでは0.5以上、Siでは0.03以上が推奨され、例えば、(Ti0.5Al0.5)N,(Ti0.1Cr0.2Al0.7)N,(Ti0.9Si0.1)N,(Ti0.2Cr0.2Al0.55Si0.05)N等が挙げられる。なお、これらの下地層も上記の皮膜と同様に、反応性スパッタリングやイオンプレーティングで形成できる。
基材は、硬さ測定および密着性の評価には鏡面研磨した超硬合金を、熱安定性の評価には白金基板を、切削試験には超硬合金製のインサート(SNGA120408)をそれぞれ使用し、その表面に後記の下地層を形成して、さらにその表面に皮膜を形成した。
(下地層)
基材の表面に、アーク式イオンプレーティングにより、(Ti0.5Al0.5)N(酸化開始温度820℃)を膜厚1μmで形成した。
(皮膜)
図1に示すスパッタリング(SP)およびアーク式イオンプレーティング(AIP)を有する複合型成膜装置で、Al含有ターゲットを使用して、表1に示す方法により、各種元素を添加したアルミニウム酸化物からなる皮膜を膜厚3μmで形成した。形成した皮膜をX線マイクロアナライザ(EPMA)で定量分析を行って求めた組成を表1に示す。
下地層を形成された基材を装置に導入後、装置内を1×10-3Pa以下に排気し、基材を約600℃(ヒータ温度800℃)に加熱後、Arイオンを用いてスパッタクリーニングを実施した。φ100mmのターゲットを用い、アーク電流150Aとし、全圧2Paの純酸素雰囲気中で成膜を実施した。窒素を含有する皮膜を形成する時には窒素(N2)を酸素分圧に対して1/10〜1/5の範囲で添加した。基板へ印加するバイアスはパルスを用い、周波数30kHzでDuty77%のユニポーラバイアスを−50〜−100Vの範囲で印加した。
アーク式イオンプレーティングによる成膜と同様に、下地層を形成された基材を装置に導入後、装置内を1×10-3Pa以下に排気し、基材を約600℃(ヒータ温度800℃)に加熱後、Arイオンを用いてスパッタクリーニングを実施した。全圧0.6PaのAr−O2雰囲気中で成膜を実施し、酸素分圧は0.1〜0.3Paとした。窒素を含有する皮膜を形成する時には、アーク式イオンプレーティングによる成膜と同じく、窒素を酸素分圧に対し1/10〜1/5の範囲で添加した。
(下地層)
基材の表面に、アーク式イオンプレーティングにより表2に示す窒化物を膜厚1μmで形成した。
(皮膜)
図1に示す複合型成膜装置で、Al含有ターゲットを使用して、アーク式イオンプレーティングにより、ZrおよびNを添加したアルミニウム酸化物(組成:Al1-xZrx (O1-yNy)z)からなる皮膜を膜厚3μmで形成した。なお、N(窒素)の原子比yが0.1となる分圧の窒素を添加した。形成した皮膜をEPMAで定量分析を行って求めた組成を表2に示す。
(硬さ測定)
硬さ測定は、成膜した鏡面超硬合金基板のビッカース硬さ(マイクロビッカース硬度計、荷重0.25N)を測定した。測定結果を表1に示す。硬さの合格基準は、HV2400以上とした。
熱安定性の評価は、成膜した白金基板に、1×10-3Pa以下の真空中で1000℃のアニールを3時間行い、アニール前後における皮膜の結晶構造の変化により評価した。結晶構造は、X線回折(Cukα線使用、θ−2θ走査)により調査した。γ相の確認は、回折角度45°近傍の(400)面からのピークで行い、α相の生成は回折角25°近傍の(012)ピークで確認した。結晶構造を表1に示す。熱安定性の合格基準は、アニール前後共にγ相が存在することとした。
成膜したインサートを使用して切削試験を実施し、切削試験後のインサートのクレータ摩耗深さで耐摩耗性を評価した。切削試験は、被削材としてFCD400を使用し、切削速度200m/分、深さ切込3mm、送り0.2mm/rev、ドライ切削、エアブロー無しで、2分間切削した。クレータ摩耗深さを表1および表2に示す。耐摩耗性の合格基準は、クレータ摩耗深さが3μm以下とした。
密着性の評価は、成膜した鏡面超硬合金基板で、スクラッチ試験(ダイヤモンド圧子:200μmR、荷重増加速度100N/分、走査速度10mm/分)を行い、皮膜が下地層から剥離した荷重を臨界荷重と定義した。臨界荷重を表2に示す。密着性の合格基準は、臨界荷重が80N以上とした。
(硬質皮膜の組成による評価)
本発明の範囲の実施例である供試材No.1は、N含有量が原子比0.03と少ないため、熱安定性にやや劣り、アニール後に結晶の一部がα転移した。実施例である供試材No.2〜4は、N含有量が好ましい範囲であるため、熱安定性、硬さ、耐磨耗性すべてにおいて、優れた硬質皮膜となった。さらにNをOの同数まで添加した参考例である供試材No.5も、供試材No.4には少し劣るものの、優れた硬質皮膜となった。さらに、Nと共に、本発明の第1の実施形態に係る金属元素または半金属元素を添加した実施例の供試材No.6〜18も、熱安定性、硬さ、耐磨耗性すべてにおいて、優れた硬質皮膜となった。特に、これらの元素添加量が好ましいとされる供試材No.7,8,10,11,14〜16,18は、Nのみを同量添加した供試材No.2より、硬さおよび耐磨耗性にいっそう優れた硬質皮膜となった。
供試材No.44は、下地層とした窒化物の酸化開始温度が皮膜を形成する温度に近く、皮膜の形成時に下地層の一部が酸化されたため、皮膜のN含有量が狙いの量よりも僅かに多くなった。供試材No.45〜47は、窒化物の酸化開始温度が皮膜を形成する温度より十分に高いので、皮膜のN含有量が狙い通りとなった。一方、供試材No.48,49は、酸化開始温度が低い窒化物を下地層に使用した比較例であるため、皮膜の形成時に下地層が酸化されて窒素が処理室内に放出された。その結果、皮膜のN含有量が狙いの量よりも多くなり、本発明の範囲を超えたため、耐磨耗性が低下した。また、下地層が酸化されたため、皮膜の密着性が低下した。
Claims (3)
- アルミニウム酸化物を基とする硬質皮膜を備えた硬質皮膜形成部材であって、
前記硬質皮膜は、次式(1)で表される組成を有し、
Al1-xMx (O1-yNy)z ・・・式(1)
(0≦x≦0.5、0<y≦0.4、z>0)
前記式(1)におけるMが、Ti,Zr,V,Nb,Mo,W,Y,Mg,Si,Bから選択される少なくとも1種の元素であることを特微とする硬質皮膜形成部材。 - アルミニウム酸化物を基とする硬質皮膜を備えた硬質皮膜形成部材であって、
前記硬質皮膜は、次式(2)で表される組成を有し、
Al1-xMx (O1-yNy)z ・・・式(2)
(0<x≦0.3、0<y≦0.4、z>0)
前記式(2)におけるMが、Yを除く希土類元素から選択される少なくとも1種の元素であることを特微とする硬質皮膜形成部材。 - 請求項1または請求項2に記載の硬質皮膜形成部材の製造方法であって、
Al,Siの少なくとも1種を含有し、酸化開始温度が800℃以上である窒化物からなる下地層を基材上に形成した後、前記基材の温度を400〜600℃として前記硬質皮膜を形成することを特徴とする硬質皮膜形成部材の製造方法。
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