JP2010210217A - 衝撃吸収部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】高速飛翔体が衝突した場合に、高速飛翔体を破壊すると同時に、衝撃吸収部材の背後に小片や衝撃波が抜けてしまうことを確実に阻止することができ、しかも、経済的に製造することが可能な保護具の形成部材として有用な板形状の衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】少なくとも第1の板状のシート1と第2の板状のシート2とが積層されている衝撃吸収部材であって、第1の板状のシート1が部分安定化ジルコニア製であり、かつ、第2の板状のシート2が、炭化ホウ素、ムライト又はアルミナのいずれかの材料製であり、さらに、最表面に上記第1の板状のシート1が配置され、その裏面に第2の板状のシート2が配置されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【選択図】図1

Description

本発明は、セラミックスを主な構成材料とする衝撃吸収部材に関し、より詳しくは、軽量でありながら、極めて高硬度、高強度な特徴を具備し、かつ、高速飛翔体等の有する高エネルギーを高効率で吸収する機能を示す、保護具の構成材料として極めて有用な衝撃吸収部材に関する。
従来より、セラミックスを主な構成材料とした、衝撃エネルギーの吸収性等に優れた部材についての提案は種々なされている。例えば、特許文献1には、セラミックスからなる長尺状の芯材を、該芯材とは異なるセラミックス材料で被覆してなる複合繊維体を複数本シート状に集束し、該シートをさらに複数枚積層した衝撃吸収部材が記載されている。この衝撃吸収部材は、軽量、高硬度、高強度なセラミックスを特有の形状とすることによって、その破壊靭性を大幅に改善し、高速飛翔体等の衝撃吸収性を向上したとしている。また、特許文献2には、高密度セラミック材料からなる複数のペレットを用いた複合吸収部材が提案されている。具体的には、高速飛翔体からの運動エネルギーを吸収して散逸させるために、弾性材料内に複数のペレットが埋め込まれて形成してなるペレットの単一の内部層を、複合吸収部材の中に配置させることが記載されている。特許文献3には、複数個の多角形の開口部を有するセル状構造物と、その開口部に、炭化ホウ素等のセラミックス材料等のインサートを収容させ、開口部を封止する一対のシートによって構成された複合吸収部材が記載されている。そして、該インサートは、衝撃時に投射物の運動エネルギーを変換させるためのものであり、衝撃によって発生する破砕片くずを封じ込め、また、構造的に補強するためにセル状構造物内に収容させるとしている。特許文献4には、ヘルメットの重量を増加することなく耐衝撃性を向上させるために、ヘルメットの前頭部と後頭部にセラミックを主たる素材とした耐衝撃補強体を内包させることが記載されている。特許文献5では、異なる特性のセラミックスを複層させることによって耐衝撃性を向上させた防護部材が提案されている。具体的には、受衝面を含む受衝部に、比重が小さく、高硬度の炭化物セラミックスを使用し、受衝部の裏面側に位置する基部に、高い破壊靭性を有するセラミックスを使用することで、変形、小片化した投射物の運動エネルギーを吸収又は散逸させることができるとしている。
特開2004−284874号公報 特開2005−114340号公報 特開2005−520116号公報 特開2002−294512号公報 特開2008−275208号公報
上記した従来技術では、耐衝撃材料として各種のセラミックス材料が使用されている。特許文献1では、芯材と被覆層の材料の組み合わせとして、窒化ケイ素−窒化ホウ素、窒化ケイ素−炭化ケイ素、窒化ケイ素−アルミナ、(アルミナ、ジルコニア)−窒化ケイ素、窒化ケイ素−サーメット、(アルミナ、炭窒化チタン)−(アルミナ、ジルコニア)等が記載されている。そして、比強度(重量に対する強度)の点から、窒化ケイ素−窒化ホウ素の組み合わせが好ましいとしている。さらに、芯材のセラミックス材料として、炭化ホウ素、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ化チタン、ダイヤモンドが挙げられている。
また、特許文献2では、ペレットの形成材料として、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、チタン、シリコンの、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物等を挙げている。
特許文献3では、インサート材料として、アルミナ、炭化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素が記載されている。さらに、特許文献4では、セラミックスの主成分として、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、アルミナを挙げている。また、特許文献5では、受衝部を、炭化ホウ素を主成分としたセラミックスで構成すること、さらにグラファイト及び炭化ケイ素を含有させたセラミックスとすること、基部を、窒化ケイ素を主成分としたセラミックスで構成することが記載されている。
衝撃エネルギー吸収性等に優れた部材に関する上記した従来技術のいずれにおいても、該部材によって飛翔体を破壊する目的から、その形成材料にするセラミックスを、軽量化、高強度、高硬度の観点で選択している。換言すれば、これまで、部材内部に飛翔体の衝撃を与えることを軽減するために飛翔体の運動エネルギーを吸収する、といった観点からセラミックス材料を選択することは行われていなかった。例えば、前記した特許文献1では、長尺状の複合繊維体を異なるセラミックス材料からなる芯材と被覆材とで形成しているものの、この複合繊維体を集束させてシート状部材として特有形状にすることで該部材に衝突した飛翔体を偏向させ、その衝撃の吸収を可能にしている。このため、この技術は、その製造工程が極めて煩雑であり、製造コストがかかるという問題があった。これに対し、板形状で、高速飛翔体の衝撃を吸収させることができれば、最も製造を簡便に行うことができ、製造コストを下げることができると考えられる。
また、従来技術では、実際の使用条件下で最も重視されている、飛翔体が衝撃吸収部材に衝突した場合に、衝撃吸収部材の背後に、破壊或いは破砕によって生じた小片や衝撃応力波が抜けてしまうことを完全に阻止できるようにするためには、部材の厚みを極端に厚くする必要があった。しかし、衝撃吸収部材を厚くすることは重量の増加を招き、このことは、実際の使用時における移動や搬送の際のエネルギー消費が多くなることを意味し、人体や車両等への過剰な負担をかけることになる。特許文献5では、機能性の異なるセラミックスを複層させており、受衝部に低比重、高硬度で耐衝撃性が高い炭化物セラミックスを用いることで、耐衝撃抵抗性を高めつつ、従来のものよりも軽量化しているが、本発明者らの検討によれば、炭化物セラミックスは低破壊靭性であるため、受衝面が割れやすいという欠点がある。
したがって、本発明の目的は、高速飛翔体が衝突した場合に、高速飛翔体を破壊すると同時に、衝撃吸収部材の背後に、破砕した小片や衝撃応力波が抜けてしまうことを確実に阻止でき、しかも、軽量で、簡便に製造することが可能な、保護具の構成材料として極めて有用な板形状の衝撃吸収部材を提供することにある。
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも第1の板状のシートと第2の板状のシートとが積層されている衝撃吸収部材であって、第1の板状のシートが部分安定化ジルコニア製であり、かつ、第2の板状のシートが、炭化ホウ素、ムライト又はアルミナのいずれかの材料製であり、さらに、最表面に上記第1の板状のシートが配置され、その裏面に第2の板状のシートが配置されていることを特徴とする衝撃吸収部材である。
より好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記部分安定化ジルコニアが、70〜99%の範囲で正方晶を含む上記の衝撃吸収部材。前記第1の板状のシートと第2の板状のシートとが繰り返し積層されている上記の衝撃吸収部材。前記第1の板状のシートと第2の板状のシートとが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂又はポリカーボネイト樹脂のいずれかを介して積層されている上記の衝撃吸収部材。さらに、最表面とは逆側に、高強度繊維からなる第3の板状のシートと、金属からなる第4の板状のシートとを有する上記の衝撃吸収部材。
本発明によれば、厚みが比較的薄くて軽量の板状の衝撃吸収部材でありながら、高速飛翔体からの運動エネルギーを十分に吸収することができる衝撃吸収部材が提供される。さらに、高速飛翔体が衝撃吸収部材に衝突した際に、高速飛翔体を破壊でき、衝撃吸収部材の背後に、破砕した小片や衝撃波が抜けてしまうことを確実に阻止することができ、しかも、簡便に製造することができる経済的にも優れる衝撃吸収部材が提供される。特に、最表面に部分安定化ジルコニア製の第1の板状のシートを配置し、その裏面に、炭化ホウ素、ムライト及びアルミナから選ばれる材料からなる第2の板状のシートを組み合わせることで、前記した特許文献5に記載の発明で提案されているセラミックスの組み合わせよりも高速飛翔体の運動エネルギー吸収能が高く、かつ、高速飛翔体が衝突した際に最表面が割れにくい構造を有する、より機能性に優れた衝撃吸収部材が提供される。
本発明の衝撃吸収部材の一例を示す模式図である。 本発明の衝撃吸収部材の別の一例を示す模式図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、種類(機能)の異なる板状のセラミックスを積層することで、高速飛翔体を破壊でき、高速飛翔体からの運動エネルギーを十分に吸収し、衝撃吸収部材の背後に、破砕した小片や衝撃波が抜けてしまうことを確実に阻止することができる衝撃吸収部材の提供が可能となることを見出して本発明に至った。
本発明者らの検討によれば、従来から用いられている金属をセラミックスに置換して衝撃吸収部材とする場合、従来技術では、単に、軽量化、高強度、高硬度の観点から、セラミックス材料を選択することを行っていた。これに対し、本発明者らは、軽量性を維持しながら保護具としての優れた機能を発揮することができる部材とするためには、高速飛翔体からの運動エネルギーを衝撃吸収部材で効率よく吸収でき、かつ、高速飛翔体の衝突時に発生する破砕片によって生じることが懸念される衝撃吸収部材の内側に存在する人や車両等への損傷を確実に軽減できるようにすることが重要であるとの認識をもつに至った。そして、かかる観点から、衝撃吸収部材を構成するセラミックス材料について種々の検討を行った。
その結果、最表面に位置する板状のシートの形成材料として、部分安定化ジルコニアが有効であることを見出した。かかる材料は、従来から知られているように、高強度のセラミックス材料であるが、本発明者らの検討によれば、これを高速飛翔体に対峙することとなる最表面の材料として用いると、衝突時に高速飛翔体を破壊できると同時に、その応力誘起相転移と弾性変形を利用して、高速飛翔体の有する運動エネルギーを高効率に吸収させることができる。また、その最表面が、高靭性で割れにくくなる。さらに、本発明者らは、本発明の目的を達成するためには、部分安定化ジルコニア製の第1の板状のセラミックスシートの裏面側に積層させるもう一つのシート材料として、高速飛翔体の衝突時に発生する破砕片を小さくすることができ、高速飛翔体の有する運動エネルギーを表面エネルギーに変換させることができる材料を用いることが有効であることを見出した。すなわち、本発明の衝撃吸収部材では、第2の板状のシートとして、炭化ホウ素、ムライト及びアルミナから選ばれるいずれかの材料(以下、炭化ホウ素等の材料とも呼ぶ)からなるシートを組み合わせて用いる。
本発明の衝撃吸収部材の少なくとも最表面に位置させる第1の板状のシートの形成材料である部分安定化ジルコニアは、高強度セラミックスの代表的な材料であるが、これまで、比重が大きいことで製品にした場合に重くなるという点で使用が敬遠されてきた。本発明の衝撃吸収部材では、部分安定化ジルコニアを板状に(すなわち、薄く)することで、軽量化を図る。本発明者らの検討によれば、本発明の衝撃吸収部材は、部分安定化ジルコニア製の板状のシートを最表面に設けたことで、高速飛翔体の衝突時に、該飛翔体を破壊できると同時に、衝突の際に生じるマルテンサイト転移及び弾性変形により、飛翔体の有するエネルギーを高効率に吸収することができる。本発明の衝撃吸収部材は、上記したような機能を有する第1の板状のシートに、炭化ホウ素、ムライト及びアルミナから選ばれる比重の小さいセラミックスからなる第2の板状シートを組み合わせた構造とすることで、さらに下記の機能が付与されたものとなる。本発明者らの検討によれば、炭化ホウ素等の材料からなる板状シートは、高速飛翔体の衝突時に、破壊されるが、その際の破砕片は極めて小さくなる。破砕片を小さくするためには大きなエネルギーが必要であるので、高速飛翔体の有する運動エネルギーは、この破壊の際に表面エネルギーに変換される。そして、このような異なる機能を有する2種類のセラミックス製の板状シートを積層することで、本発明の衝撃吸収部材は、極めて高い衝撃吸収性が実現されると同時に、比重が大きい部分安定化ジルコニアの使用量を低減できる。この結果、軽量化と衝撃吸収部材全体としての厚みを薄くすることが達成される。軽量化の結果、本発明の衝撃吸収部材は、実際の使用時における移動や搬送の際のエネルギー消費を低減することができ、人体や車両等への負担を低減できる。さらに、上記構成を有する本発明の衝撃吸収部材は、単純な形状構造のものであるので、従来のものに比べてその製造コストの低減も期待でき、その実用価値は極めて高い。
本発明の衝撃吸収部材のより好ましい形態として、上記の第1と第2の2種類のセラミックス製の板状シートに加えて、衝撃吸収部材の最表面と逆側(すなわち、衝撃吸収部材の内側に存在する人や車両と対峙する側)に、下記のような材料からなる第3と第4の板状のシートを、さらに積層してなるものが挙げられる。例えば、アラミド系繊維のような高強度繊維からなる第3の板状のシートと、例えば、アルミニウムやマグネシウムのような比重の小さい金属からなる第4の板状のシートを、さらに積層した構造とすることが好ましい。この場合は、金属からなる第4の板状のシートを、人や車両に対峙する側の、最表面から最も離れた層とするとよい。これらの材料は、通常、板形状で提供されているものであり、本発明の衝撃吸収部材は、この点からも低コストでの製造が可能である。
本発明の衝撃吸収部材を構成する各シートの形成材料について、さらに詳細に説明する。第1の板状シートの形成材料の部分安定化ジルコニアは、高強度、低弾性率、さらに応力誘起相転移を生じる。このため、高速飛翔体が衝突する最表面に採用された部分安定化ジルコニア製の板状シートは、その高強度である特性によって飛翔体を破壊することができる。その一方で、その結晶相中において生じる正方晶と単斜晶との間の応力誘起相転移を利用し、衝突の際の飛翔体の運動エネルギーを吸収する。さらに、その弾性率が小さいことから、弾性変形することによって飛翔体の運動エネルギーを吸収する。これらの結果、本発明の衝撃吸収部材は、極めて高い衝撃吸収性を示すものとなる。さらに、本発明の衝撃吸収部材は、上記の第1のシートに、炭化ホウ素、ムライト又はアルミナのいずれかの材料からなる第2の板状のシートを組み合わせることで、第2の板状シートの内側(人体や車両等)への衝撃をより緩和し、保護具の構成部材としてより有用なものとなっている。前記したように、第2の板状シートを構成するこれらの材料は、細かい破砕片になることで、飛翔体の運動エネルギーを表面エネルギーに変換する能力が高い。
本発明で使用する部分安定化ジルコニアとしては、下記の特性を有するものが好ましい。すなわち、強度が500MPa以上、結晶相に主に正方晶を含んでいるものが好ましい。具体的には、応力誘起相転移に重要な正方晶が70〜99%、特には85〜99%であるものを用いるとよい。また、その弾性率は、250GPa以下であるものを用いることが好ましい。さらに、部分安定化ジルコニア製の板状のシートの厚みは特に限定されないが、2〜20mm程度、より好ましくは、5〜10mm程度の厚みとすることが好ましい。さらに好ましい形態としては、2〜3mm程度の厚みの薄い部分安定化ジルコニア製の板状シートを、複数枚、積層した構成とすることも有効である。この点については後述する。
本発明の衝撃吸収部材を構成する、炭化ホウ素、ムライト及びアルミナから選ばれる、いずれかの材料からなる第2の板状のシート(以下、炭化ホウ素等の板状シートと呼ぶ)について説明する。先に述べたように、本発明者らの検討によれば、炭化ホウ素等の板状シートを設けることで、本発明の衝撃吸収部材は、高速飛翔体が、最表面の部分安定化ジルコニア製の板状シートに衝突し、これを破壊した際に、飛翔体の有する大きな運動エネルギーを表面エネルギーに変換させることができる。すなわち、炭化ホウ素等の板状シートは、このエネルギーによって、部分安定化ジルコニア製の板状のシートを貫通した、破壊によって生じた高速飛翔体の破砕片や衝撃波によって微細に砕け散る。このことによって、本発明の衝撃吸収部材に高速飛翔体が衝突した際における衝撃吸収部材の内側への衝撃は、格段に緩和される。したがって、上記機能を有するものであればいずれの材料であっても用いることは可能である。本発明の衝撃吸収部材では、その強度や比重及び破壊靭性等を勘案して、炭化ホウ素、ムライト又はアルミナのいずれかを選択して使用することとした。これらの中でも特に、細かい破砕片に確実にするために、その破壊靭性値が5MPa・m0.5以下の材料を使用することが好ましい。なお、破壊靭性とは、亀裂状欠陥を有する部材の一方向負荷に対する抵抗値を示し、セラミックス材料においては脆さの尺度を表している。
特に、炭化ホウ素は、軽量であると同時に、低い破壊靭性値を示し、衝撃が加わるとより微細に砕け散るので、本発明の用途に好適である。なお、本発明者らは、炭化ホウ素の常圧で経済的に焼成する方法を開発しており(WO/2008/153177参照)、この技術を利用すれば炭化ホウ素の板状シートがより安価に提供されることが期待できるので、この点でも有利である。炭化ホウ素等の板状シートの厚みは特に限定されないが、2〜20mm程度、より好ましくは、5〜10mm程度の厚みとする。さらに好ましい形態としては、2〜3mm程度の厚みの薄い炭化ホウ素等の板状のシートを、複数、例えば、部分安定化ジルコニア製の板状のシートと交互に繰り返して積層させた構成とすることも有効である。
本発明の衝撃吸収部材は、部分安定化ジルコニア製の第1の板状シートと、炭化ホウ素等の第2の板状シートとを有し、かつ、その最表面が第1の板状シートからなるものであればよいが、これらを直接或いは緩衝材を介して順次積層させたものであることが好ましい。具体的には、部分安定化ジルコニア製の板状シートと、炭化ホウ素等の板状シートの組み合わせが少なくとも1組あればよく、また、部分安定化ジルコニア製の板状シートと、炭化ホウ素等の板状シートを順次積層させた組み合わせを、さらに繰り返すことも好ましい形態である。繰り返し数としては、個々のシートの厚みや、その用途によって異なり特に限定されないが、例えば、3〜30程度とすることができる。
部分安定化ジルコニア製の板状シートと、炭化ホウ素等の板状シートとを組み合わせて順次積層させる方法としては、下記のような方法が挙げられる。例えば、型枠内に入れるといった手段で、これらの板状シートのみを順次積層させることもできるし、これらの板状シート間に、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネイト樹脂等の樹脂からなる緩衝材を挟む形態としてもよい。このような緩衝材を挟むことにより、部分安定化ジルコニア製の板状シートによってなされる弾性変形による飛翔体の運動エネルギー吸収を、より効果的にすることができる。また、これらの緩衝材が接着能を有する材料であれば、部分安定化ジルコニア製の板状シートと、炭化ホウ素等の板状シートとを緩衝材を介して一体化することも可能である。接着する場合、両シートの機能をより良好に発揮させるためには、全面にわたって接着するのではなく、点接着することが好ましい。
本発明の衝撃吸収部材のより好ましい形態としては、部分安定化ジルコニア製の板状シートと、炭化ホウ素等の板状シートとを順次積層させ、さらに、最表面のある表面側とは逆側に、下記に挙げるようなバックアップ材からなる板状のシートを配置したものが挙げられる。例えば、アラミド系繊維のような高強度繊維からなる第3の板状のシートと、金属からなる第4の板状のシートを積層させる構造とすることが好ましい。金属としては、本発明の衝撃吸収部材の総重量を軽くする観点から、アルミニウムやマグネシウムのような比重の小さいものを用いることが好ましい。また、金属からなる板状のシートを最表面から最も離れた層とするとよい。これらの材料からなる板状のシートを、バックアップ層としてさらに設けることで、破壊された高速飛翔体の残骸や、微細に砕け散った炭化ホウ素等の板状シートの破砕片や、部分安定化ジルコニア製の板状シートの破砕片が、炭化ホウ素等の板状シートの背面側に貫通しないようにすることができる。図1に、本発明の衝撃吸収部材の一例として、部分安定化ジルコニア製の第1の板状シートと、炭化ホウ素等の第2の板状シートと、アラミド系繊維からなる第3の板状のシートと、アルミニウムからなる第4の板状のシートとを積層してなる形態のものの模式図を示した。このように構成することで、それぞれのシートが、その材料が有する各機能によって下記の役割を果たし、結果として、優れた衝撃吸収を示す。最表面に配置された第1の板状のシートは、衝突時に高速飛翔体を破壊し、それとともに、相転移による高速飛翔体のエネルギー吸収及び弾性変形によるエネルギー吸収能を有する。また、これに積層されている第2の板状のシートは、第1の板状のシートを貫通した高速飛翔体の残骸や衝撃波により微細に砕け散ることで、飛翔体の運動エネルギーを表面エネルギーに変換させる機能を有する。さらに、これらの層のバックアップ材である第3の板状のシートと、第4の板状のシートは、砕け散った第1及び第2の板状シートの破砕片を、背後に貫通しない機能を有する。さらに、上記構成とすることで、本発明の衝撃吸収部材は、従来の同等の機能を有するものに比して、格段に軽量化したものとなる。
本発明の衝撃吸収部材は、上記した材料からなる各シート以外に、下記に挙げるような、高速飛翔体の有するエネルギーを効率よく吸収する事例が報告されている材料或いは構造のシートを、さらに積層させたものであってもよい。例えば、レオロジー(ダイラタンシー)特性を活用した流動性を示すゴムからなるシートや、ハニカム構造を有する金属やセラミックスからなるシートを、積層材料として用いることもできる。
本発明の衝撃吸収部材の別の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。図1に示した例では、4種の特性の異なる材料からなるシートを1層ずつ組合せ、高効率でエネルギーを吸収する構造とした。ここで、高速飛翔体の有するエネルギーは、その速度や材質や形状によって大きく異なる。本発明の衝撃吸収部材を構成している各シートの厚みによっても異なるが、例えば、音速の数倍以上の高速飛翔体や、細長い形状の高速飛翔体や、鉛や超硬材料からなる高速飛翔体では、図1に示した構造では背後に破砕片が抜ける可能性がないとはいえない。本発明者らの検討によれば、衝撃吸収部材の軽量性を維持しながら、より高効率のエネルギー吸収体とするためには、図2に示したように、部分安定化ジルコニア製の第1の板状シートと、炭化ホウ素等の第2の板状シートとを複数用いて、これらのシートを繰り返し積層する構造とすることで、より優れた特性の衝撃吸収部材を提供することが可能になる。例えば、2mm程度の厚みの第1の板状シートと、4mm程度の厚みの第2の板状シートとの組み合わせを、例えば、5〜10繰り返す構造とすることで、各種機器類から発射される極めて高速の飛翔体に対応できるものとなる。これに加えて、その能力の観点から従来のものと比べた場合に、より軽量で経済性にも優れた衝撃吸収部材となる。また、高速飛翔体に耐えることを目的とした従来の耐衝撃製品では、局所的にはやわらかい部材を使用する必要があったり、極めて重い部材を使用しなければならなかったりしたが、これらの部位に対して本発明の衝撃吸収部材を適用することができる。
本発明の実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
(第1の板状シートの調製)
3%イットリアを含んだ高純度部分安定化ジルコニア粉末を、9cm角の金型に充填し、600kg/cm2で加圧後、1トン/cm2で静水圧プレス成形を行って、厚み6mmの成形体を作製した。次に、得られた成形体を、大気雰囲気下、1550℃で2時間保持して焼成した。その後、得られた焼成体をダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、厚み4mm、7cm角の板状シートを得た。得られたシートは、ほぼ理論密度の極めて緻密なものであった。得られた部分安定化ジルコニアに対してXRD及びラマン分光法により、結晶相の定量分析を行ったところ、ほぼ(少なくとも80%)正方晶からなる焼結体であった。
(第2の板状シートの調製)
市販の炭化ホウ素粉末を9cm角の金型に充填し、200kg/cm2で加圧後、1トン/cm2で静水圧プレスを行い、厚み6mmの成形体を作製した。炭化ホウ素粉末には、平均粒度が0.8μmの、純度99.5%の(酸素含有量1.2%、窒素含有量0.2%を除く)ものを使用した。上記で得た炭化ホウ素成形体を、焼成炉内に、アルミニウムとシリコンを配置し、アルゴンガスを流しながら、常圧下、2,200℃で4時間保持して焼成した。得られ焼成体を、ダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、厚み4mm、7cm角の板状シートを得た。得られた炭化ホウ素からなる板状のシートは、相対密度が96.8%の極めて緻密なものであった。
市販のムライト粉末を炭化ホウ素と同様の方法で成形後、大気雰囲気下、1650℃で2時間焼成した。得られ焼成体を炭化ホウ素と同様の方法で加工し、同様の形状の板状シートを得た。また、アルミナの板状シートは、市販の99%グレードのアルミナ粉末を使用し、焼成温度を1630℃とした以外はムライトと同様の方法で作製した。
(バックアップ材の調製)
市販の芳香族アラミド系樹脂からなるアラミド系繊維のケブラー(Kevlar:登録商標、デュポン社製)からなる、厚み1mmのシートを複数重ねて、3mmの厚みの7cm角の第3の板状のシートを用意した。また、第4の板状のシートとして、厚み4mm、7cm角のアルミニウムの金属板を用意した。
(衝撃吸収部材を構成する各シートの評価方法及び評価結果)
ガス加速装置を用いて衝撃試験を行った。当該装置は、圧縮空気の圧力を所定の媒体を介して飛翔体に伝達し、飛翔体が発射管内を通過して試料に衝突させる方式のものである。実験は、4mmφのベアリング鋼の飛翔体を用いてほぼ音速で行った。上記で得た部分安定化ジルコニア、炭化ホウ素、アルミナ、ムライトの各板状のシートについて、それぞれ個々に衝撃破壊試験を行った。
その結果、部分安定化ジルコニアについては、飛翔体は粉々に破壊され、一方、部分安定化ジルコニアにはラテラル亀裂が発生した。試験後の部分安定化ジルコニア試料について、飛翔体が衝突した箇所の一部とそうでない箇所を、顕微ラマン分光装置を用いて結晶相を同定したところ、飛翔体が衝突した箇所には単斜晶のピークが認められ、応力誘起相転移が起こっていることが確認された。また、飛翔体が衝突する前後を高速ビデオカメラで撮影したところ、飛翔体が衝突してからラテラル亀裂が発生するまでの時間は他のセラミックスよりも長いことがわかった。このことから、部分安定化ジルコニアは、高速飛翔体の衝突時における弾性変形量及び亀裂の進展を妨げる挙動を示すことがわかった。以上の結果より、部分安定化ジルコニアは飛翔体を破壊し、更に応力誘起相転移と弾性変形により飛翔体の運動エネルギーを吸収する能力があることが確認された。
炭化ホウ素、ムライト、アルミナの各板状のシートについての結果では、高速飛翔体及び板状のシートは共に粉々に破壊された。また、各試料は、ラテラル亀裂とコーン亀裂が発生し、コーン亀裂により除去された体積は、ムライト、炭化ホウ素、アルミナの順に大きかった。
(実施例1の衝撃吸収部材の調製と、その評価)
先に調製した部分安定化ジルコニアからなる第1の板状のシートを最表面とし、その下層に炭化ホウ素からなる第2の板状のシートを積層し、さらに、その下層にアラミド系繊維からなる第3の板状シートと、第4の板状のシートとしてアルミニウムの金属板とを順次積層させて、本実施例の衝撃吸収部材を得た(図1参照)。このようにして得られた本実施例の衝撃吸収部材に対して、上記と同様の衝撃試験を行った。その結果、高速飛翔体は、第1の板状のシートによって破壊された。また、その下層の第2の板状シートは、約0.1〜数mm角程度の大きさの小片に砕けていた。さらに、高速飛翔体の破砕片や炭化ホウ素板の小片が、金属板よりも外側に達することがないことを確認した。
[比較例1]
(比較例に使用する各板状のシートについての評価結果)
比較例に使用するために、実施例で使用したと同様の形状を有する安定化ジルコニアと窒化ケイ素とからなる各板状のシートを調製し、これらの板状のシートについて上記と同様の衝撃試験を行った。その結果、安定化ジルコニアの板状のシートにおいても飛翔体は破壊され、ラテラル亀裂とコーン亀裂が発生した。しかし、飛翔体が衝突した部分とそうでない部分の顕微ラマン分光にて分析した結果、応力誘起相転移は見られなかった。このことから、安定化ジルコニアには相転移による飛翔体の運動エネルギー吸収能はないことがわかった。また、窒化ケイ素の板状のシートでも飛翔体は破壊され、ラテラル亀裂とコーン亀裂が発生した。しかし、コーン亀裂の大きさは、炭化ホウ素、ムライト、アルミナの各板状のシートのいずれと比較しても小さかった。このことから、窒化ケイ素の板状のシートでは、炭化ホウ素等の板状のシートと比べて高速飛翔体のエネルギー吸収能は小さいことがわかった。
(比較例の部材の調製と、その評価)
先に調製した安定化ジルコニアからなる板状シートを最表面とし、その下層に窒化ケイ素からなる板状シートを積層し、さらに、その下層に実施例1と同様にアラミド系繊維とアルミニウムの金属板とをバックアップ層として積層させて、本比較例の部材を得た。得られた部材で、先に述べたと同様の衝撃試験を行ったところ、高速飛翔体は、安定化ジルコニアからなる板状シートと窒化ケイ素からなる板状シートによって破壊されたが、金属板にも損傷が見られた。金属板の損傷は、窒化ケイ素と思われる数十mmの破砕片が貫通したと思われる形骸が認められ、衝突時の応力波により窒化ケイ素が破断し、高速で移動したことで金属板を貫通したと考えられる。
[実施例2]
実施例1で調製したと同様の部分安定化ジルコニアからなる板状シートと、炭化ホウ素からなる板状シートとをそれぞれ用いた。そして、これらの組み合わせを5回繰り返して積層させた以外は実施例1と同様にして、本実施例の衝撃吸収部材を得た(図2参照)。得られた衝撃吸収部材に対して、前記したと同様の衝撃試験を実施したところ、高速飛翔体は、破壊され、炭化ホウ素からなる5枚の板状シートのいずれもが、約0.1〜数mm角程度の大きさの小片に砕けていた。特に、1〜3枚目の砕け方が著しかった。さらに、本実施例でも、高速飛翔体の破砕片や炭化ホウ素板の小片が、金属板よりも外側に到達することがないことを確認した。
本発明の衝撃吸収部材は、従来のものと同等の高い衝撃吸収性を示すと同時に、従来のものに比べて軽量であり、また、その厚みを薄くすることができ、保護具の形成材料として好適である。本発明の活用例としては、種々の高速飛翔体から人体や車両等へ及ぼすことのある衝撃を、確実に、かつ、人体や車両等への負担を抑制した形で緩和することのできる種々の製品を経済的に提供することが考えられる。
1:第1の板状シート
2:第2の板状シート
3:第3の板状シート
4:第4の板状シート

Claims (5)

  1. 少なくとも第1の板状のシートと第2の板状のシートとが積層されている衝撃吸収部材であって、第1の板状のシートが部分安定化ジルコニア製であり、かつ、第2の板状のシートが、炭化ホウ素、ムライト又はアルミナのいずれかの材料製であり、さらに、最表面に上記第1の板状のシートが配置され、その裏面に第2の板状のシートが配置されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
  2. 前記部分安定化ジルコニアが、70〜99%の範囲で正方晶を含む請求項1に記載の衝撃吸収部材。
  3. 前記第1の板状のシートと第2の板状のシートとが繰り返し積層されている請求項1又は2に記載の衝撃吸収部材。
  4. 前記第1の板状のシートと第2の板状のシートとが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂又はポリカーボネイト樹脂のいずれかを介して積層されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
  5. さらに、最表面と逆側に、高強度繊維からなる第3の板状のシートと、金属からなる第4の板状のシートとを有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
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